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日録2003年12月
31 december 2003(水)

◇明け方に雨滴が少々.曇っているので,寒くはない.バッハ『ヨハネ受難曲』とともに大晦日の明け方.

◇今年最後の書評はランドル・ケインズ『ダーウィンと家族の絆』になる気配.文を打ち込む前に,ダーウィン家の〈身内〉で,チャールズ・ダーウィンの伝記作家あるいは史料編纂に携わった人たちをダーウィン書誌学者 R.B. Freeman 編の『Darwin Pedigrees』でチェックしてみた.1984年に出版されたこの「系図」は商業出版された本ではなく“Printed for the Author”という性格のもの.内容は1888年に60部だけ“Privately printed”された系図学者 H. Farnahm Burke によるダーウィン家系図のファクシミリ復刻に Freeman による補足情報を付加したもの.イギリスで盛んな系図研究の現われといえるだろう(Burke の復刻部分には効果的に Textur 書体が用いられているのが印象に残る).この本の中でダーウィン家の出自は16世紀の William Darwin of Marton, Lincolnshire にまでたどられている.チャールズ・ダーウィンは数えて11代目ということ.

◇きわめてイギリス的な音楽家 Ralph Vaughan Williams もダーウィン-ウェッジウッド家系に連なる.ヴォーン-ウィリアムズの母親はチャールズ・ダーウィンの姉キャロラインの娘だった.〈ロンドン交響曲〉や〈南極交響曲〉を書いた作曲家の系譜を再確認.ただし,『ダーウィンと家族の絆』では1ヶ所しか登場しないし,グウェン・ラヴェラのダーウィン家伝記『思い出のケンブリッジ』でも「音楽の才能がない男」のように描かれているが.

◇そういう脇道はさておき,いま必要な情報は「身内のbiographers」について.チャールズ・ダーウィンを始祖とする“クレード”では――

  • 次男 ジョージ――
  • 三男 フランシス=ダーウィンの研究助手,伝記作家,書簡編集者
  • 四男 ホラス――
    • ・次女 エマ・ノラ・バーロウ=ダーウィン資料の編纂

――という多くの「親族伝記作家たち」が輩出している.ランダル・ケインズはその中でももっとも若い世代に当たる.身内の強みは身内にしかアクセスできないプライベートな資料を自由に使えるということ.実際,『ダーウィンと家族の絆』の中でも,初めて明らかにされた「家庭内のこと」が書き込まれている.プロの科学史研究者とは味わいが異なる文体になるのは,〈研究対象〉に対する親近感なり一体感が反映されているということだろうか.この本がグウェン・ラヴェラやマーガレット・ケインズの本と同じような体温をもっているのもうなずける.もう少し読みこんでおこう.

◇年の瀬のどん詰まりにメーリングリストへの登録を数件――今年最後になるかな.お,〈EVOLVE〉の参加者数が1600名を越えた.ここんとこ〈TAXA〉にかかりきりだったのでうっかり見過ごしていた.〈TAXA〉の参加者名簿(404名)を登録会員に配信する.

◇最近,これまでにもまして,「メーリングリストに入りたい」メールがたくさん届くのですが,どのMLかを明記していない連絡があって困ってます.今まではいちいちウラを取った上で登録していたのですが,これからも続くようだったら「EVOLVE / TAXA / BIOMETRY」すべてのメーリングリストに一挙登録するというのをデフォルトにしてしまいましょうかねー(笑).

◇メーリングリストを管理する上でもうひとつやっかいなのは「転送メール」がらみのトラブル.もともと登録アドレスではないアドレスに転送されるときのエラーがすべて管理者に弾き返されてくる.調査しようもないので,基本的にすべてのエラーメッセージはフィルターでゴミ箱直行にしています.ある期間をおいてエラー返送が続くようなら,黙って削除することもあるしね(転送アドレスの場合この措置ができない).

◇さて,そろそろ今年ともおさらばして,華麗なる? 2004年を迎え入れようではないか! 

◇本日の総歩数=5274歩.※ローストビーフを焼くくらいではほとんど歩いたことになりませんな.


30 december 2003(火)

◇朝からいい天気.風が少し強いが,年の瀬としてはこんなもんではないですかね――と言いつつも,今年があと30時間あまりしかないというのは冷厳なる事実だ.※やば,と少しアセってみる.

◇昨日の〈Yahoo! JAPAN〉からの連絡は自分自身まったく予想していなかったのだが(かといってこの〈日録〉がどこかに登録されるとも思えないが),もともとぼくのサイトには【カウンター】なるものがないので,誰がどれくらい訪問しているのかについてなにも情報がない.ぼくのサイトが置かれている農林水産研究計算センターのサーバーは,個々のユーザーが「cgiプログラム」を置くことを一律に許可していないので,サイト訪問回数をカウントする【カウンター】すら置くことができないということだ.同じようなサイトの置き方ではあっても,外部のカウンター・サイトと連携してうまくチェックしている人も農水の中に入るので,そういう方策を来年は考えた方がいいのかもしれない.

◇読書マルチタスキング中――まずは,組版工学研究会編『欧文書体百花事典』の「イタリック体」と「ギャラモン活字」の章を読了.イタリック体はもともとローマン体とは別個のフォントだったのだが,後にローマン体と融合するという経緯をたどったそうだ.ギャラモン活字の系譜は実に華麗ですなあ.オリジナル系とは別クレードとしてギャノン系のギャラモン活字があるとのこと.古いフォントほど存続期間が長いだけでなく地理的分布も広いので,分岐の機会も多くなるということだろう.

◇続いて,『アーレント=ハイデガー往復書簡:1925-1975』を読了.若い頃の情熱が内面化した1970年代の書簡になると,相手を見ている以上に,自分に残された時間を静かに見据えているような気配が濃くなっている――

老齢であること,老化してゆくことは,それなりの要求をわれわれに課してきます.世界が別の顔を見せてくるし,心の平静さが必要になります.(ハイデガーからアーレントへの手紙159,1974年6月20日付)

――この往復書簡集にかぎらず,みすず書房から出されている書簡集の多くは充実した読後感を保証してくれる.ハズレがないという安心感は大切だと思う.※話題になっている『丸山眞男書簡集 1: 1940-1973』(2003年11月20日第1刷|2004年1月9日第2刷,みすず書房,ISBN: 4-622-08101-6)はさっそく買いました.こんなに短期間で増刷がかかるとはね.

◇さらに,今月のbk1書評本(新春ズレ込みになってしまうか)のランドル・ケインズ『ダーウィンと家族の絆:長女アニーとその早すぎる死が進化論を生んだ』を読了――ダーウィン家の〈家族史〉と言うべきか.外の人間にはうかがい知れない内面の葛藤や苦悩がダーウィンの自然淘汰説に発現しているというのが著者の推測だ.妻であるエマ・ダーウィンをはじめ,子どもたちや親類縁者が次々に登場する.グウェン・ラヴェラによるダーウィン家の回顧録『思い出のケンブリッジ(Period Piece)』によく似た雰囲気の本.本書が献呈されている祖母マーガレット・ケインズの回想録『A House by the River』にも通じるものがあるか.ダーウィン=ウェッジウッド家の家系図栞がはさみ込まれているのは大正解.早く書評文を用意します.

◇故・太田邦昌追悼特集(『生物科学』誌)の原稿締切が今月末なんですけど――や,やばいっす.

◇いつの間にか日が変わり,もう大晦日.今年もあと23時間か.

◇本日の総歩数=8071歩.※年末のいろいろ買い出しでちょい歩いたかな.


29 december 2003(月)

◇〈Yahoo! JAPAN〉から通知――〈租界「R」〉をディレクトリ・サービスに登録して公開したいとのこと.【Yahoo! JAPAN サーファーチーム】からの連絡だが,このチームってこういうサイト探索を専門にしているところなのでしょうか? ちょいと確認してみると,おお,確かに「12月29日新着情報」の中にR〉カテゴリーができていて,そこに登録されていました.なるほど,分野別の階層を降りて行っても,ダイレクトにR〉カテゴリーに到達できる.〈Yahoo! JAPAN〉では,こういうサイト推薦指針に沿って登録URLを決めているのか.ということは,〈租界「R」〉を推薦していただいた方がおられるということですね.ありがたいことで.

◇夜,〈TAXA〉参加者が400名に達した.※キリよく年越しできるかと思ったら,間髪入れずに401名目の登録.なんだかちょっともったいないよーな(などとゼイタクなことを言っていてはいかんのだ.入会感謝です).

◇岡本真さん編集のメルマガ〈Academic Resource Guide〉の178号(27/Dec/2003発行)の「編集日誌」に,津村ゆかりさんのサイト〈個人ページの公開法〉が引用されている.確かに「組織の中の研究者・技術者がウェブで語るとき」には人によって動機付けが異なるだろう.ぼくにとって?――それは「自分のため」です.少なくとも他人のためではありえない.そういう利己的なモチーフがあって初めて持続するパワーが生まれるのだと思います.津村さんは「自己研鑽の動機付け」と言っていますが,「研鑽」ということばはあえて外してもかまわないのではないですか? 「自分のため」だけで十分.

◇本日の総歩数=8027歩.


28 december 2003(日)

◇最低気温マイナス4.2度――凍える朝.カチカチでした.マーラーの交響曲〈大地の歌〉をBGMとして.東大オケのとある打属猛者は「〈大地の歌〉を聴くと,竹林の中で酒を呑みながら麻雀卓を囲んでいるイメージが浮かんでくる」と言っていた.確かに!

◇どーせ今年も年賀状はぜんぜん書かないし,年越しの紙魚になりきろう.ぜひそーしよう.年賀状と無縁になってから数年経つが,かつてそれに注いでいたエネルギーはいったい何だったのでしょ.文字を手書きしなければならないというのは難行苦行なのでね.だからといって全面印刷の年賀状だったら出さない方がマシだし.

◇さて,今年ももう残り少なくなってきたので,ここいらで【2003年・勝手に選ぶこの10冊】ってぇのをリストアップしてみました(ランク降順配列)――

――2003年にぼくが読んだ和書の中から〈ベスト10〉を勝手に選ぼうという趣向です.分野はぼくの個人的趣味を反映して理系・文系にまたがっていますが,小節や漫画は最初から埒外です.まだ全部読み切っていないのもあるのですが,ま,大きく順位が変わることはないでしょう.必ずしも2003年に出版された本だけではありません(『闘蟋』のように2002年後半に出版された本もあるので).あくまでも今年読んだ本からのセレクションです.

◇宣伝コピーみたいな「3行」をそれぞれの推薦本につけてみました.

◇本日の総歩数=4792歩.


27 december 2003(土)

◇明け方,外がいやに静かだと思ったら今年初の積雪.宿舎の駐車場では5cmほど車の屋根に積もっている.朝日が射して,天気は回復しつつあるので,夜半に降り積もったのだろう.いったんはごそごそ起きたものの,もういちど寝てみる(ぐでぐで).

◇今年最後のTRC週間新刊案内のチェック――1355号からのセレクション.狙ったように,冬休み本がぞろぞろと:『アメリカの反知性主義』の著者リチャード・ホーフスタッターって,社会ダーウィニズムの古典的名著『Social Darwinism in American Thought』(1944)を書いた人でしょ.五味文彦『書物の中世史』は和書の歴史か.おお,松本直子編『認知考古学とは何か』なんていう本も(何を認知するのか?).秋庭俊『帝都東京・隠された地下網の秘密2』は,昨年の今頃に出た同タイトルの本の続刊(非常勤講義に行った信州大学の旭会館で読んだ).今度はいったいどこに潜入するのだろう.他にも,松宮秀治『ミュージアムの思想』とか加賀美雅弘『病気の地域差を読む』とか食指が伸びそうな本が.※今週はアタリでしたな.よし.

◇日が上るにつれ,雪がどんどん融けている.さすがにこれだけ気温が高いと,あっという間になくなるだろう.※雪がとってもまぶしいっす.

◇来年度の進化学会の評議員選挙結果が送られてきた.ちょこちょこと入れ替わりがあった.

◇〈TAXA〉の会員はさらに10名増えて385名となった.年内には400名突破は確実だろう.ただし,予想としては「ROM人口」が多そうなので,フリで発言してくれる人が多いとたいへん助かる.〈EVOLVE〉の場合はそういうキャラがすでに育っているので心配ないわけだが,〈TAXA〉はまだ手探り&模様眺めという会員が多いだろうから,これからのリードの仕方によるか.

◇明朝は凍りつくぞー.未明にうろつくのはヤメにしよう.つるん,ゴン!は,いややー.

◇本日の総歩数=3763歩.


26 december 2003(金)“御用納め”――ぜんぜん納まってない....

◇マイナス気温にならない.ユルんだ朝方.とりあえず積み残し日録は消化できそう.が――まだまだ納まらない.どーしましょ.

◇年明け早々に所内の成績検討会議があるのだが,その準備は年明けでいいかな(年内にやってもいいんだけど).書くことは決まっているし,例年ほとんどエネルギーを割かない「年中行事」なので切迫感はまるでなし.それよりも,いくつかの論文や原稿の進捗の方が気がかり.※年越しのものもあるしねえ.(ごめんごめんごめん)

◇雲は多いものの風は弱い――羽成公園までプチお散歩.Hans Carossa ってナチス党のつくった文学者団体の会長をしたそうな.手に入れた詩集は1950年刊なのに,まだ Fraktur 書体で組まれている.年末年始に読了しようと思っている組版工学研究会編『欧文書体百花事典』の中では Fraktur 書体をそのひとつとして含むブラック・レター書体群(いわゆる「亀の甲文字」)について,こう書かれている(p.58)――

ブラック・レター体の森に足を踏み入れてそれを理解するためには,どうやら私たち東洋人にとっては,なにかが決定的に不足しているように思われます.ヨーロッパの人びとの視覚の文化に潜む,共通した美意識のかすかな琴線を共有しないかぎり,ブラック・レター体の本質に迫ることは困難でしょう.それは宗教の内蔵するものが発散する,神秘への憧憬とその体験でもあります.

二一世紀の社会に住むわたしたちが,ブラック・レター体を用いる機会はほとんどないでしょう.しかし,万が一それを用いるときには,慎重に状況判断して使途をみきわめるべきでしょう.ブラック・レター体には特別な意味や意図,そして歴史が隠されているのですから

グーテンベルクの鋳造活字として初めて登場したブラック・レター体はその図像的特性として――

文字の本質を反転させるある種の誘惑,つまり読む前に眺めさせて,その呪縛に補足させてしまう,視覚の磁力のようなものが発散しているのでしょう.(p.55)

――確かに,Textur や Fraktur には見るものをくらくらさせる特殊な能力が備わっているという主張にはうなずけるものがある.

◇この『欧文書体百花事典』がスゴイと思うのは,書体一つ一つの系譜をしっかりたどっているという点.タイポグラフィーの深みや厚みを感じさせてくれる.書体の“解剖学的用語”がちゃんと定義されているというのも後々参考になる――スワッシュ,スパー,ケルン,スパイン,ブラケットなどなど特有の用語が書体のどの部分を指し示しているのかがよくわかる.

◇夕方になってぽつぽつと雨が降り出す.気温が高いが,前線が通過すると急激に寒くなるのか.所内では御用納めの打上げをしている部屋も多いようだが,そういうのとは無縁の〈日常〉が暗くなってもそのまま続く.

◇国研の中には,研究テーマの上で〈単系統的〉な部もあれば,他方でぼくのいる「生態システム研究グループ」のような明白に〈多系統的〉なセクションもある.研究の上で単系統的であれば,日常的な研究員どうしの接触の中で,仕事をする上での情報交換や知的刺激を受ける機会もたくさんあるだろう.しかし,関心もテーマも所属学会も人それぞれの多系統的な職場に身を置くとそうはいかない.近縁な仕事をしている人間あるいは刺激されそうな研究はほとんどすべて「外」に存在するからだ.こういう場合には「中」にいただけでは何も仕事ができないので,インターネットやら学会やら個人的接触やらとにかく考えられ得る手段を用いて積極的に機会を作って「外」に出かけていく姿勢が不可欠になる.「外」に出かければ,当然のことだが職場では【不在】(いろいろな意味で)となる.それは自然な流れだ.所内のグループとして何か研究テーマを見つけるという方がむしろ不自然だ.ホモプラジーで縫い合わせたような研究テーマは必ずほころびるだろう.むしろ,共有派生形質による研究者の実動グループをつくるのがより自然だろう.しかし,そういう研究者の自然群はひとつひとつの研究組織の壁とはまったく無縁に存在する――このように十数年過ごしてきたし,これからも(どうなるかわからないが)そういう自覚をもって農環研には確信犯的に【不在】し続けようと思う.

◇まりまり主催のJST異分野交流フォーラム〈進化生物学によって人間観は変わるか?〉は,2004年2月9日〜11日に,妙義グリーンホテルで開催されることが決定.スピーカーも確定しつつある.要旨が集まり始めたら動かないとね.クローズドな会議だがおもしろいものになりそう.

◇自宅に信州大学から郵便物――来年度の非常勤講義のシラバスをオンラインにて入力してほしいとの依頼.こういう出講にともなう事務手続は大学によって異なるのはもちろんのこと,同じ大学でも年度によって変更がある.信州大は今年からウェブからシラバスを取り込もうということか.ん,12月26日〜1月5日まではサーバー停止で,締切は1月13日.ということは,年明けにならないと入力できないわけね.担当する生物統計学の講義は,医学部の本多さんとのタッグマッチ(妙に現実感があるのはなぜ?)なので,どのように記入するかは相談しないとダメなのね.なんだかとってもめんどうそうですが....年が明けるとコロっと忘れてしまいそうだし.こういう事務作業ってまともにできたためしがないんです,実は(やば).

◇なおもしとしとと降り続く夜.

◇本日の総歩数=12746歩.


25 december 2003(木)クリスマス

◇バッハ〈マタイ受難曲〉とともに夜明け.続いて,アルヴォ・ペルトの〈ヨハネ受難曲〉か.※受難曲ばっかり....

◇空白日の「日録」をぽつぽつと埋めていく.まだ追いついていないが.

◇一晩の間に20人あまりの〈TAXA〉参加希望のメールが届いていた.またかしかしと登録作業.メーリングリストの登録を自動化すればいいのかもしれないが,その場合のリスク(SPAMに利用されるとか,ゴミ的メールが増えるとか)を考えると,登録作業だけはマニュアルのままにしておく方がいいと判断します.夕方までの会員登録数は350名に達する.メーリングリストの利用法について説明メールをいくつか流したり.

◇昼に車で外出したおり,小野崎の城跡(屋敷跡?)の池にカワセミを発見.農環研沿いの稲荷川にいつもカワセミがいることは見知っているが,人家近くで見るのは初めて.でも,ここの池はときどき干上がったり溜まったりを繰り返しているが,何か獲物がいるのか?

◇本日の総歩数=9552歩.


24 december 2003(水)クリスマス・イヴ

◇明け方はまた氷点下.寒い寒い.

◇昨日と一昨日の日録を書く間もなく〈TAXA〉の開設準備――Reply-to設定を発信者宛てに変更,ウェブでのログ検索のためのパスワード設定,参加者名簿の作成,ヘルプファイルの用意,その他運用開始時のメッセージなど.正午前に参加者総数は300名突破

◇bol.com オランダからグリーティング・メール――

Hoera, 2004 komt eraan!
Hele fijne kerstdagen en een gelukkig nieuwjaar!

――はいはい,ありがとさんです.年の瀬ですなあ.

◇午後いっぱい〈TAXA〉名簿の新規追加などをすませた上で,午後5時ちょうどに開店アナウンスを配信する.この時点での参加者数は「312名」.クリスマス・イヴ開店が達成できたので,今日の仕事はこれにておしまい.

◇夜はチキンづくしか――祟らないでね,ニワトリくん.

◇わわわ,「日録」が滞っている.でも,いまはムリなんですぅ.某君と同じ22日に駒場の河野書店に立ち寄ったのに Roland Barthes カレンダーをもらえなかった話とか,渋谷 YAMAHA の Andre Jolivet 悶絶ネタとか,いろいろあるんですけど....

◇お,なんと,そういう人脈なんですね――おそるべし,秋田大学附属中学校.いやはや,世の中狭すぎです.

◇久しぶりに『アーレント=ハイデガー往復書簡:1925-1975』を読み進む.晩年になるとこういう感じになるんですねえ.しみじみ.

◇ということで,開店の日は終わりに近づく.実に慌ただしいイヴでした.

◇本日の総歩数=8198歩.


23 december 2003(火)休日

◇練馬春日町での目覚め――う゛朝日がまぶしいっす.よろよろとつくばに帰るのだ.昼前にやっと帰還.

◇『図書新聞』への書評原稿はそのまま受理するとの編集部からのメールあり――みなか書評〈進化学は「物語り」ではない:ダーウィンをめぐる歴史学のスタンスを問う〉.※掲載は新春早々とのこと.

◇屋名池誠『横書き登場:日本語表記の近代』(2003年11月20日刊行,岩波新書[新赤版]863,ISBN: 4-00-430863-1)読了――縦書き・横書き・左書き・右書きという〈書字方向〉の系譜をたどった本.たいへんおもしろい.P.197に「書字スタイルの系統樹」が描かれている.もともと縦書きだったところに,どのように横書き(右書きあるいは左書き)という新しい書字スタイルが発生し,勢力を広げていったのかを豊富な史料を踏まえて論じた本.

◇植草甚一『コラージュ日記(2):ニューヨーク1974』(2003年11月25日刊行,平凡社,ISBN: 4-582-83187-7)もいつのまにか読了――とにかくニューヨークの古書店で本を買いまくる買いまくる.一度に数10冊はザラ.計1000冊というから,この買い方は常人ではない.資金力もタダモノではない.まったくもってうらやましい.ホンマ.「マンハッタンの雨は音がしない」と書かれていたが,確かにそうだった.引き続いて『コラージュ日記(1):東京1976』を読み進もう.

◇今年の職場宛郵便物もそろそろおしまい――『日本生物地理学会会報』(第58巻,2003年12月12日発行:「蜂須賀正氏特集」あり);『井上書店生物学関係古書目録』(第95号,2003年12月発行);東大出版会『UP』(第375号,2004年1月5日発行)が届いた.

◇本日の総歩数=9423歩.


22 december 2003(月)冬至

◇冬至の未明は氷点下1.8度――今日は今年最後の東京出張日.日中は比較的暖かくなるという予想らしいが.※朝7時には氷点下2.2度とさらに低下.

◇遅めの常磐線で東京に出る.昼頃に銀座到着.山野楽器でCDの探し物――う〜む,Andre Jolivet ぜんぜんないっすね.アレってぱきぱきの準現代曲なんだろうけど.う〜む.久しぶりの〈ナイル・レストラン〉で「ムルギー・ランチ」.カレーもチキンもポテトサラダもキャベツもすべてぐちゃぐちゃとかき混ぜて食べる.ほとんど“牛丼”化していると思う.学生の頃は,ここの〈ギー〉を買っては下宿で大量にカレーをつくっていた.

◇銀座線で渋谷に出る.まだ時間があるので〈タワーレコード〉渋谷店の5階にてさらに探索――おお,Jolivet のフルート曲集はあるね.ヒトラー/チャーチル講演CDなるものに惹かれたがさすがにヤメ.以前,細馬宏通さんから,ここで Paul K. Feyerabend の独唱CDを見つけたと聞いている.愛聴はしないまでも興味あるよねー.なんたってもともとは声楽家を目指した哲学者だから.

◇仕事(その1)でーす――新大久保で下車.科学博物館分館に到着し,友国さんの部屋で日本分類学会連合の会計監査をする.出納のチェック,レシートの照合など1時間ほどで終わり,監査報告書に捺印する.〈TAXA〉の開店をクリスマス・イヴとすることで合意.科博のお仕事はここまで.

◇再び渋谷に戻る――年の瀬の雑踏に翻弄されつつ道玄坂を上がって〈渋谷YAMAHA〉へ.ありましたねー.Jolivet のピアノ協奏曲(“赤道コンチェルト”)の総譜が.こりゃ,すごいわ! 冒頭から金管の咆哮と打楽器の乱舞.ピアノ・ソロの伴奏は打楽器バッテリーだけの箇所も(ほとんど打楽器アンサンブル――初演の聴衆は悶絶しただろう).Jolivet のティンパニーってほとんど「旋律楽器」と同じね.こういう総譜を手にしたとき,ステージの上で打楽器がどのように配置されるのかのイメージをまず浮かべるクセがある.ティンパニーの横に3人の打楽器奏者が並ぶのは当然だが,各奏者の周囲には複数の打楽器群が円周状に配置されるだろう.人数は3人でも打楽器の総数はおびただしいから.鍵盤楽器(シロフォン,ヴイブラフォン,グロッケンシュピールもあったかな)が登場するからには,相当なスペースを占有するだろうしね.組曲〈大洋横断〉よりもさらにパワーアップされた打族が求められている./ストラヴィンスキーの舞踊音楽(組曲版ではなく)『火の鳥』の原典版総譜も見つかる.機会があったらこの曲のシロフォンはやってみたかった.全曲版には有名な「カスチェイの踊り」の直前に長大なシロフォン独奏がある(組曲版にはない).シロフォン譜を見るとすぐにマレットの動きをイメージしようとするのもまた打族の性癖なり.オーケストラのシロフォンでやってみたいのは,この〈火の鳥・全曲版〉とガーシュインの『ポーギーとベス』のシロフォンかな.マリンバとはちがうきらびやかさがある.グロッケンシュピール――もちろん,メシアン『トゥーランガリラ交響曲』のね.知り合いが『トゥーランガリラ』の総譜を持っていたが,電話帳みたいで,当時の価格で2万円を超えていたと思う.概して総譜の国内価格は高く(暴利だ),上の Jolivet P協の総譜も9000円という値段が付いていた.〈火の鳥〉の6000円の方がまだ良心的じゃないか! ヤナーチェク『シンフォニェッタ』なんか3000円で買えるのに.※なんちゅう曲ばっかり探しているのか....

◇丸山町のラブホテル街に入りこみ,〈喫茶ライオン〉にてモーツァルト〈レクイエム〉を聴きつつ一休み.この店,周囲のケバい環境を考えるとほとんど relict なのではないか? よくもっていると感心する.コーヒーをすすりつつ,最近届いた――

  • Joel Hagen 2003. The statistical frame of mind in systematic biology from Quantitative Zoology to Biometry. Journal of the History of Biology, 36: 353-384.

を読み進む.古生物学者 G.G. Simpson が2度目の妻 Ann Roe とともに『Quantitative Zoology』を書いたのが1939年.この本はいわゆる生物統計学(biometrics)の系譜からは孤立しているとぼくは感じていたのだが,Hagenはそれこそが体系学者が統計学を自家薬篭のものとする試みだったのだと主張している.なるほど,Sokal & Rohlf の教科書『Biometry』との捻じれ関係もそのあたりにあるのか.この論文は体系学と生物統計学の絡みを論じていてとてもおもしろくまた重要だと感じる.読み終わってはいないのだが,まだ仕事が残っているのでライオンをあとにする.

◇ラブホテル街を抜けて神泉から駒場東大前に一駅移動.まだ時間があるかな〜――習慣のように駅下の〈河野書店〉に向かったのだが,げ,店がない! ここもつぶれたかぁ,とガックリしてシャッターの貼り紙をみたら「すぐ近くに移転しました」とのこと.胸をなで下ろしつつ,コンビニ横の新店舗に向かう(あとで店員さんに訊いたら10日ほど前に引っ越したばかりだとか).品揃えが英語だけではないのがこの店の魅力で,過去に何冊も掘り出し物を見つけている.オモテの平台で漁る―― Hans Carossa の詩集『Gesammelte Gedichte』(1950)を200円でゲット.いつもこの時期にここに来ると,来年のカレンダーをもらえたのだが,今年はくれない(涙).やっぱし,平台本1冊だけだとダメだったかしらね.※あとで別ルートから聞いた情報では Roland Barthes のカレンダーだったとか.くー.

◇仕事(その2)でーす――午後6時から来年の進化学会東京大会の実行委員会.駒場が会場.いろいろと実質的な話し合いをする.まずは日程から――

日本進化学会第6回大会(東京大学・駒場)日程
  • 2004年8月1日(日) 夏の学校,評議委員会
  • 2004年8月2日(月) シンポジウム,ワークショップ,ポスター(1)
  • 2004年8月3日(火) 国際シンポ,授賞式・授賞講演,総会,懇親会
  • 2004年8月4日(水) シンポジウム,ワークショップ,ポスター(2)

――国際シンポを〈間にはさむ〉というのが大会運営側からみた重要な戦略(理由はよく考えてください).

◇次いで,大会の本部企画シンポ案についての討議.各委員からのアイデアのもちよりを踏まえて,分野のばらつきやオーガナイザーの候補を絞りこむ.公募シンポは年明けてからの募集となる.夜間のコマは基本的に自由集会(if any)に当て,前回の九州大会のような「必修コマ」には当てない.パラレル・セッションとして会場を7〜8個確保する予定.本部企画シンポについては,1月下旬に講演者など詳細を確定すること.※分類学にからむいい企画ないですかね.〈PhyloCode〉のシンポはどうかと提案したのですが,話す人がいないのではという意見あり.でも,ここはひとつ戦略的に企画を出す価値はきっとあると思うけど.

◇来年の第6回大会は1000人を越える大会参加者が予想されるので,会場担当はたいへんだろうね.ぼくは要旨集作成担当なので,新年早々にも開設される大会サイトから送られてくる要旨テキストを〈InDesign〉にどんどん送り込み,要旨集印刷とウェブ用htmlファイルをつくることになる.

◇2時間ほどの実行委員会を終え,駒場東大前駅下の【学園】で忘年会らしきことを.うん,たいへん良く飲みました.年末で磨り減っている人が多く,【学園】にたどり着くまでに数人の落伍者あり.生存者のみでスタート.まあまあ,シマダさん,どーぞどーぞ.フカツくんも遠くからお疲れさんで(ぼくも遠いけど).再任なしの任期付任用は許せん!という殿の一喝やら,誰が〈EVOLVE〉の上位投稿者かというアヤシイ話まで話題は尽きず――ぶっちぎりイチバンは当然ぼくですが,問題は誰がNo.2かということ.シマダの殿は自分ではないかと内心思い当たるフシがあるようだが,デビルマンも対抗馬としては侮れないし,ここはひとつ過去ログの検索をやってみた方がいいかな,かつて三沢クンがgrep検索してくれたところによるとぼくが EVOLVE 全メール数の「1/3」を投稿したそうな.ほほほー.

◇気がつけば午後11時過ぎ.ワタシ,もうつくばに帰れないんですけど〜.慌てて練馬の義弟宅に連絡して「宿」を確保する.日が変わって数10分後に大江戸線・練馬春日町にたどりつく.※きょうは実に「てんこ盛り」な1日であった.

◇本日の総歩数=21163歩.※都内徘徊効果.


21 december 2003(日)

◇昨日よりは風速が弱まったものの,木枯らしはなお吹きつける.晴れて湿度低し.洗濯物はからからに乾く.

◇うれしい誤算――〈TAXA〉参加申込みが続々と.さすが連合経由でアナウンスするととても効力があるようで,今日だけで60名あまりの登録申請が届いた.これで150名を越える参加者がすでに集まったことになる.〈TAXA〉の実際のスタートをいつから開始するか模様眺めだったが,予定よりも早く営業開始ができそう.〈TAXA〉トップページを更新し,始業に備える.クリスマス・イヴ開店を予定する.※分類関係だけでなく,いろんなところに転載していただいたようだ.ダンケ!

◇〈TAXA〉に登録申請してくるのは,狭い意味でのタクソノミストだかりではなく,環境コンサルタント業の人がたいへん多いことに気付かされた.なるほど,実地的な「分類」の知識を必要としている層がこのへんにあるわけね.十数分おきに届く入会メールをさばきつつそう思う.来週には旧動物分類学会連合へのアナウンスが流されるので,さらに入会申請があるはずと友国さんは言っていた.

◇依頼されていた『図書新聞』への書評原稿(400字×7枚ほど)――ウェブ公開した『甦るダーウィン:進化論という物語り』書評文を再び打ち直したり焼き入れたり砥ぎ直したり.仕上げて編集部にメール返信完了.

習慣となったTRC週間新刊案内チェック――1354号からのセレクション.※水木しげるの『妖鬼化』がリプリントされるとは事件だ! 1999年に出た『妖鬼化』は〈水木しげる作画活動50周年記念原画集〉ということで,大版フルカラー全8巻(各巻6,600円)というとってもゴージャスな造りだった(この画像[→]は元版の第1巻).1600枚の彩色原画を集めたという点では空前絶後か.今回のリプリントはどのようになっているのか興味ある.とりあえず3巻が出たが,続刊も順次出されるのだろう.元版では今は亡き〈スキャントーク〉が刷り込まれていたが,当然それは削除されるものと思う./中公の「3800円シリーズ」ってどういう性格のリプリントか,不明.元の新書をこの値段で出すということは大活字化しかないと思うが.今どき「愛蔵版」もないもんだし――と思ったら,10冊セット分売不可の「中公新書ワイド版」だそうだ.いったい誰が買うのでしょ?

◇明日は,分類学会連合の会計監査のためにまず国立科学博物館分館(新宿区百人町)に午後出向き,その後は駒場で進化学会大会実行委員会がある.大会本部企画案を早く〈殿〉に送らないと御手打されてしまう〜.

◇本日の総歩数=0歩.※不動の男ここにあり!(屋内の歩数はカウントされないので,一歩も家の外に出ないとこうなる)


20 december 2003(土)

◇今朝はとても冷えた.冬型気圧配置が強まっているらしい.北風強し.京都は雪が降ったと実家の母親から電話あり.

◇ちょい時間がかかったが――

  • Mary P. Winsor 2003. Non-essentialist methods in pre-Darwinian taxonomy. Biology and Philosophy, 18: 387-400.

――を読了.視点の付けどころはなかなかいいとは思うが,生物分類学の〈本質主義物語(The Essentialism Story)〉を瓦解させるためには,さらに「もう一押し」する必要があるような気がする.Winsor が提出した反論点―― polythetic grouping が pre-Darwin 期の分類学者の間では「タイプ法」(“method of types”)として普及していた――は,少なくともアリストテレス的な意味での本質主義的方法(“method of definitions”)以外の非-本質主義的方法が生物分類学の中に存在していたという事実に光を当てた.その意味では新鮮.ただし,それが Cain-Mayr-Hull による〈本質主義物語〉を駆逐するほどの対立仮説として立てられるかと言われると疑念を抱かざるをえない.分類学史的な知見がもっとあればサポートの程度はこれから上昇するのかもしれないが.

◇本質的特徴に基づく論理分割によって分類するという「本質主義的方法」は,Peter H. A. Sneath(1962)のいう〈monothetic grouping〉による分類である.monothetic を支えているのはある分類群の要素すべてが共通してもつ本質的特徴である.一方,Sneath の〈polythetic grouping〉では,そういう共通の本質的特徴の存在はもはや仮定されない.Winsor は〈polythetic grouping〉を実行するための方法として,「連鎖(chaining)」と「典型(exemplars)」を挙げている(pp.392-393)――

  • 「連鎖」法:単連結(single-linkage)によるクラスタリングと同様の手順により,似ているものどうしを連鎖的につなげて群を形成する方法.AとB,BとCがそれぞれxとyという属性によって結ばれるとき{A, B, C}という polythetic group が形成される.このとき A, B, C のすべてに共通する属性がなくてもよい.
  • 「典型」法:ある群の代表となるもの(“タイプ”)を指定し,それに近いものを集めて群にする方法.Winsor はこの方法のルーツを William Whewell のタイプ法〈method of type〉に求め(p.394),さらに,認知心理学で言うプロトタイプ法〈prototyping〉にもつながっているという(p.393).Whewell は『帰納諸科学の哲学』(1847)の中で,タイプ法はアリストテレス流の定義法とは異なる分類の方法だと規定した(pp.395-396).

――ここで「〈タイプ(type)〉とは何か?」という別の問題が浮上してくる.Winsorはこの点については,下記の論文に依拠しているようだ――

  • Farber P. L. 1976. The type concept in zoology in the first half of the nineteenth century. Journal of the History of Biology, 9: 93-119.

――ぼくはまだ Farber 論文を見ていないが,Winsor によると Farber は三つの「タイプ」概念が併存していたと主張したそうだ(pp.396-397):

  • Collection Type」=最初の記載者が命名に用いた標本個体
  • Classification Type」=分類する上での典型となる代表的個体(exemplar)
  • Morphological Type」=超越論的観念論でいう〈原型(archetype)〉

――確かに〈タイプ〉ということばは Farber が指摘するようなさまざまな意味で用いられていることが今でも実感される.

◇体系学史はまだまだ解明されていない問題がたくさんあるらしい.分類学史もそうだし,系統学史も.Winsor が頻繁に引用している植物分類学者 Peter F. Stevens の本――

  • Stevens, P. F. 1994. The Development of Biological Systematics: Antoine-Laurent de Jussieu, Nature, and the Natural System. Columbia University Press, New York, xxvi+616pp.

――みたいな本がほかにもっとあってほしい.Winsor自身のもっとも初期の著作である

  • Winsor, M. P. 1976. Starfish, Jellyfish, and the Order of Life: Issues in Nineteenth-Century Science. Yale University Press, New Haven, x+228pp.

――は無脊椎動物分類学史をテーマとして当時としては(今も,か)稀有の研究書だった.前につくった『Evolution――その観念史を探る文献リスト(第3版)』も体系学史のセクションはなかなか項目数が増えない.

◇とてつもなく体感温度が低い.北風びゅうびゅう〜.静電気バチバチ.

◇補遺(p.391: note 2)――“polythetic”ということばの元は,てっきり Morton Beckner (1959), 『The Biological Way of Thought』(Columbia University Press)かと思っていたのだが,Beckner が創ったのは“polytypic”だった(Sneath は誤って加上してしまったみたい).Beckner 自身は Ludwig Wittgenstein のいう“family resemblance”に着想を得て“polytypic”という形容詞をつくったようだ.

◇The Systematics Association から今年出る予定だった論集『Milestones in Systematics』(Syst. Ass. Spec. Vol.68)はどうなったでしょう? 編者の David Williams さんに訊いてみよう.

◇午後7時前後に風花が舞う――今年のつくばでの初雪.

◇本日の総歩数=3233歩.※寒すぎて固まる.


19 december 2003(金)

◇冷え込みなし.今朝のBGMはニールセンの『アラジン(全曲版)』でキマリ(おお,複数リズムが混じり合う〜)――デンマーク語で唄われる〈Gulnare's Song〉と〈Fatime's Song〉がとりわけよろしい.

◇昨日分の滞貨メールが夜中のうちにドッと配送されてきた.スパムもいっぱい.〈TAXA〉参加申込みは10通あまり.これで参加者累計は80名を越える.数日のうちに100名を越すのは確実だろう.分類学会連合としてのメッセージも近日中に確定するだろうから,年末を待たずに公式オープンできる可能性もある.となると,ヘルプファイルとか,過去ログの検索方法のドキュメントをそろそろ用意しないとね.

◇週間『図書新聞』編集部から書評の依頼――書評本は小川眞里子『甦るダーウィン:進化論という物語り』.ウェブとメーリングリストに流した書評文を付けて返信したところ,それをベースにして2000〜2800字で原稿を用意してほしいとのこと.書評タイトルを〈進化論は物語りではない〉として近日中に送ることにする.

◇北風弱く日射しあり.昼休みに6kmほど歩いてみる.午後,健康診断の個別問診あり――ハイ,薬飲みま〜す();ハイ,節食しま〜す(さらに汗);ハイ,減量しま〜す(もっと汗).※ぐむぅ.

筑波昆虫科学研究会(TISA)は,2004年3月末をもって解散することが確定した.会の本体はなくなってもいいのかもしれないが,〈TISA〉メーリングリストがこれからどうなるかな? 管理者を誰かが引き受けるということであれば,研究会とは別個の“独立系メーリングリスト”として生き続けられるだろう.昆虫学のメーリングリストはあまりないので,存在意義はいまもあるはず.あるいは分類関連の会員層を〈TAXA〉に吸収してしまおうかな.いずれ,〈TAXA〉が公式オープンすれば,関連メーリングリストなどにはアナウンスを流すことになるので,当然〈TISA〉もその射程内にある.

◇なぁるほど!――アレは〈魔宮の伝説・第2幕〉だったのですね.ぐわー(引く).

◇本日の総歩数=16633歩.


18 december 2003(木)

◇今朝も午前4時の気温が「0.4度」――とっても寒いっす.バッハの〈クリスマス・オラトリオ〉でも聴きながら,とある入門書の分担原稿を書いてます(遅れてすみませぬ).※午前7時には「氷点下0.4度」に低下.今期初のマイナスか.

◇昨夜来のメール不配状態はまだ続いている.いちおう,メールボックスを整理して,津波対策をしておく――午前10時以降は正常に戻ったようだが,この12時間の間に到達したはずのメールが行方不明になっている.おそらくどこかを回り回って,後日配送されるということになるのだろう.〈TAXA〉に不配通知アナウンスを追加.※どうやら上の時間帯にMAFFIN外部からのメール受信でシステムのトラブルがあったようだ.溜まった「約55,000通」のメールを各ユーザーのメールボックスに配送するのに今日いっぱいはかかるらしい.(このうちSPAMメールがいったいどれだけあるのかと思うとゲッソリする.)

◇山本義隆『磁力と重力の発見(全3巻)』が今年の大佛次郎賞を受賞した.毎日出版文化賞その他もすでにもらっているので,今年の出版界を通してみてもひときわ抜きんでている著作なのだろう.今朝の朝日新聞朝刊に5名の選考委員のコメントが載っていたが,養老孟司だけが選評拒否を明言する異様なコメントだった.別のフォーラムで聞いたところでは,山本が率いた全学連全共闘東大闘争と対峙した東大医学部助手の頃からの因縁があるらしい.

◇分類学会連合から〈TAXA〉の公式アナウンスのための文書が送られてくる.ホームページURLを追加すれば文面にはとくに問題ないと思う.現時点で「68名」の登録者数だが,昨夜から今朝にかけて参加申込みメールがきっとあったにちがいない(午後4時になってもまだ滞貨メールの中から配信されてこないが).※分類学会連合のホームページからの〈TAXA〉へのリンク完了.

◇『生物科学』の55巻2号が届く.今回の特集は分類学会連合がまとめた「日本の生物はどこまでわかっているか――既知の生物と未知の生物」.〈“みなか”の書評ワールド(2)〉も掲載:今回の俎上本は,ポール・W・イーワルド『病原体進化論』,エドワード・O・ウィルソン『知の挑戦』,デヴィッド・エドモンズ,ジョン・エーディナウ『ポパーとウィトゲンシュタインとのあいだで交わされた世上名高い一〇分間の大激論の謎』,ジョン・A・ムーア『知のツールとしての科学』,リチャード・フォーティ『生命40億年全史』,ベゴン他『生態学――個体・個体群・群集の科学(原著第三版)』の計6冊.

◇新しく『生物科学』誌の副編集長になった窪川かおるさんが,「不思議な『生物科学』」という巻頭言を寄せている.確かに,変な雑誌っすねー(編集委員がそんなこと言ってどーするって?).『生物科学』はもともと〈民主主義科学者協会(「民科」)〉に連なる〈日本生物科学者協会〉の出版物だった.岩波『科学』の〈今錦〉座談会で日高敏隆が言っているように――

戦後,科学者が集まった民主主義科学者協会(民科)という,まさにマルキシズムの会がありました.岩波ではその影響が非常に強かった.民科で非常に評価が高かったのが,今西さんの理論なんですね.[p.1364]

――というくだりからも推測されるように,岩波書店が『生物科学』のもともとの版元となっていたのは自然のなりゆきだったのだろう.その後の紆余曲折は知っている人は知っている.よく復活したものだ.

◇〈Bogen〉の打合せと報告.

◇わ,駒場の殿からお達し――来年の進化学会東京大会の大会企画シンポ案を提出せよとの御触れ.ぐー,考えますです.※年内に会議した方がいいんじゃないっすかなどと焚き付けなければよかったー.

◇“も,絶対ROMります.無理,ここに投稿すんのは”(とある日記から)――確かにねえ,殿さまやらデビルマンやらドラえもんが跋扈するメーリングリストだと「引く」会員は多いかもねえ.〈EVOLVE〉は来年9月で開設10年になるでしょう.創設当時のメンバーは着実に年を重ね,しかも学部学生が下からどんどん入ってくるわけね.当初は年齢や世代の差あるいは有職者と学生のちがいなんてほとんどないのに,10年も経てば自然にその「差」が広がる.二世代にわたってEVOLVEに参加しているなどというケースも出てくる.Founding members が感じる以上に newcomers は心理的な‘壁’を感じたりするのかな.ハンドル(←ご指摘感謝)なしの実名コミュニティだしね.オンだけではなく,オフで対面する機会だってあるだろうし.どないしょう?

◇〈Google USA〉が書籍のページ検索と閲覧のための〈Google Print〉を出すらしい.amazon.com の〈Look Inside the Book〉と同様の全文検索システムか!?→BBC記事「Google 'offering book excerpts'

◇本日の総歩数=8653歩.


17 december 2003(水)

◇ぐむー,明け方は「0.4度」まで冷えるようになったか.そこら中に霜がおりている.もうすぐ氷点下だ.でも,雲が多く,雨がぱらついたり,日が射したり.

◇〈TAXA〉の前宣伝アナウンスがじわっと拡散しつつあるようで,登録者数は早くも60名を突破.まことにありがたいこと.

◇岩波『科学』の12月号がやっと届く――特集〈今西錦司――その思想と学問への志向〉をざっと読む.なめてんのか,こらあっ,て感じ.伊藤嘉昭でさえ――

『科学』の編集部から執筆の依頼と一緒に送られてきた目次の案を見て,私は目を疑った.座談会のメンバーにも論文の筆者にも,現在の生態学と進化学を良く知っているとは思えぬ人が入っているように思える一方,今西への強い批判をしそうな人は私ぐらいかと思えたからである.[伊藤嘉昭,p.1336]

――と呻く.その伊藤にしても,河田雅圭の“バーチャル援軍”をかつぎ出さざるを得ないほど(粕谷英一はバンダ待機),この特集の人選にはバイアスがかかっている.

◇〈今錦〉といえば必ずこういう「定型句」たちが流れ出てくる――

  • 西洋に起こった科学は,自然に向かうときも「科学」に足場を起きすぎて,シゼン(nature)を研究しようとするが,今西は自然(ジネン)に足場を置き,それを研究しようとした,と考えてみてはいかがだろう.[河合隼雄,p.1267]
  • とくに全体自然に対面するとき,科学の視点による認識活動は制約されたものにならざるをえない.今西が問題にしたのは,まさにこの点である.そうした制約からの離脱は,精神のはたらきの自由を確保することにつながる.[松原正毅,p.1295]
  • 自然はすべてを要素に還元して究めることで理解されるものではなく,語るものではないかと考えている今,ここ[今西の著作]に示された自然観から学ぶものは学びたいと思っている.[中村桂子,p.1334]

――科学からの〈脱却〉がなぜそんなにうれしいことなのか? 即座にブーヴレスの『アナロジーの罠』を想起してしまった(フランス現代思想だけの話ではなかった).伊藤は〈今錦〉は「一部の人に反現代科学の思想を広める役を果たした」(p.1339)と言うが,現代科学だけでなくもっと根本的に「理性」そのものに対する軽視を〈今錦〉がもたらしたという弊害を指摘すべきだっただろう.

◇イコンとしての〈今錦〉が川勝のコメント――

なるほどやはり素晴らしい高僧に出会ったのだと思い直しました.[川勝平太,p.1363]

――にあるような「信仰の対象」となるのもむべなるかな.

◇この特集自体が明らかに〈今錦〉を神棚に上げようとする意図があるのだが,進化学説に関わる発言を見ていくとたいへん興味深いものがある.たとえば西田利貞の発言――

  • 今西進化論は,日本の霊長類学の発展を10年から20年も遅らせたという批判があるらしいが,あまり根拠のない言説である.まったく影響がなかったとはいえないと思うが,すでに1980年代の初期には,社会生物学の知識は日本の霊長類研究者に広まっていた.[p.1343]
  • 社会生物学に対し日本に抵抗があったとしても,それは今西さんのせいというより,日本の生物学界全体の責任であろう.そもそもダーウィンの自然淘汰説を心底から信じていた人は,1960〜70年代の日本には,あまりいなかったのではないだろうか?[p.1343]

――を見ると,今西進化論それ自体が京大系の霊長類学者に浸透していないのだから,〈今錦〉は責められる理由はないという「弁護」をしているように見受けられる.しかし,今西進化論が経験科学としての学説から脱却した時点で,それは「思考枠としての束縛」を周囲に及ぼし続けたのではないかという点を見ないわけにはいかないだろう.

◇ただし,西田が理解する「ダーウィンの自然淘汰説」なるものは,必ずしも一般的な理解とはいえない――

私自身も,恥ずかしながら,自然淘汰説が真に意味するところを理解したのは,ドーキンスの『利己的遺伝子』を読んでからだった.そして,欧米でも事情はたいして違わなかった.なぜなら,ウィン・エドワーズの集団淘汰説は,1970年代の終わりになるまで,つまりウィルソンの『社会生物学』やドーキンスの本が出て数年たつまでは,欧米でもっとも人気のあった本の1冊だったからである.[p.1343]

――ウソ書いちゃダメっすよ.1930〜40年代の「進化の総合学説」の成立とか,1960年代の古典 George C. Williams 著『Adaptation and Natural Selection』(1966)での group selection 批判など自然淘汰説のブレークスルーがすっぽりと欠落しているじゃない.いきなり,遺伝子淘汰説に直行するというのは,進化学説の日本的受容のあり方の一端を垣間見させてくれて,それはそれで興味深いのだけれど.

◇市野隆雄は,今西進化論は「科学的な理解を超えていたと言わざるをえない」(p.1321)と言いつつ,分子系統学を踏まえた「棲み分け理論」の復活をもくろんでいる.しかし,分子系統樹の上で生息域をマッピングするというのは,「欧米でも始まったばかり」(p.1325)という彼のまちがった認識をくつがえすように,1970年代以降(もっとさかのぼれるかな)の分岐学の進展の過程で繰り返し研究されてきた.そういう系統学の伝統に〈今錦〉を貼り付けるというのは牽強付会にほかならないだろう.そもそも,科学を超えたはずの今西進化論を再び科学の装束でくるもうというのは捻じれている.

◇思うのだが,今西の「進化論」が経験科学として受容されていたかどうかと,今西の「思考枠」がその磁力を及ぼし続けたかどうかは別問題だろう.前者については,今回の特集の随所で否定的な見解が見出せる.しかし,それはいわば後者のための【免罪符】として機能しているようだ.磁力としての〈今錦〉は生き続けているということか.この点については驚くほど言及がない.そういうギャップに若い世代はとまどうばかりだろう.たとえば,酒井章子は率直にこう言う――

曾孫弟子などと書いたが,生態学ではまったく今西の影響を受けていないといいきれる人の方が少ないかもしれない.生態学者の「系譜」を見ると,森下正明や岩田久二雄を始め,今西に連なった人々が日本の生態学の進展に重要な位置を占めていることにあらためて驚かされる.現在の生態学界で,今西の進化論や棲み分け理論が表だって議論されることはほとんどないことを考えると,そのギャップは戸惑いさえ感じさせる.[p.1328]

――こういう疑問に対してしっかり論議を尽くすというのが本特集の望ましいあり方ではなかったか? 想い出話やエピソードはもうけっこう.

◇午後10時からメールがいっさい届かなくなった.メールサーバーの不調かな.大津波の来る直前は海底が干上がると聞いたけど,ま・さ・か ねー(冷汗).

◇本日の総歩数=7073歩.


16 december 2003(火)

◇うう,最節約時間経路をたどった飲酒の報いか――ヱビスビール→久保田・万寿(呑む呑む)→マッカラン(ストレート)→銘柄失念の焼酎(ストレート)で完成で〜す.※午前中はじっとしてみる.

◇〈TAXA〉は順調に登録申しこみが増えている(40名突破).既登録者に宣伝を依頼したり,@ニフティーの〈昆虫フォーラム(FKONCHU)〉にアナウンスしたり(F昆に投稿するのはいったい何年ぶり?) ん,開設したその日に早々と〈2ちゃん〉の「分類/系統スレ」に登場してる!

◇そうですか,〈生物学教科書プロジェクト〉は再び動き出すわけですね.せっかくの企画なので,形になってほしいとは思うが,他の同様の試みがすでにいくつかあるので,どのようにこれから進んでいくのかが重要と思う.

◇青葉山の住民の方から連絡あり――来年“杜の都”を襲撃する計画があるのかという確認.はい,襲撃計画は確定です.私は「S井くん」というとてもワルイ人に犯行教唆されたのですが,「K田くん」というさらにワルイ人が箱崎から大物を召喚するとのことで,両人をどのように合体させるかだけが今後詰めるべき点です.合体したアカツキには,「〈R〉による統計」連続高座となるか,はたまた更なる統計謀略のためのフィージブル・スタディーか.それとも臥薪嘗胆ベガルタ仙台どん底からのJ1復活を祈願する道場となるか,はたまた将門の一念岩をも貫くか.乞うご期待ですな.※いったい何しに行くねんて?

◇昨日届いた本のリスト――

  • 谷沢永一『日本近代書誌学細見』(2003年11月25日刊行,和泉書院,ISBN: 4-7576-0228-6)
  • 青幻舎〈Kyoto Mosaic〉6冊――
    • おいしい京都便』(2003年4月10日刊行,京都モザイク001,ISBN: 4-916094-74-3)
    • 京都ふだん使いのうつわや』(2003年6月1日刊行,京都モザイク003,ISBN: 4-916094-78-6)
    • 京都音楽空間』(2003年10月1日刊行,京都モザイク005,ISBN: 4-916094-87-5)
    • 京都ノスタルジック散歩』(2003年11月1日刊行,京都モザイク006,ISBN: 4-916094-88-3)
    • 言葉は京でつづられた』(2003年12月1日刊行,京都モザイク007,ISBN: 4-916094-91-3)
    • ベジタブル京都』(2003年12月1日刊行,京都モザイク008,ISBN: 4-916094-92-1)

――〈京都モザイク〉は,かつての保育社〈カラーブックス〉を髣髴とさせる.小学生の頃からいったい何冊の〈カラーブックス〉を買い集めてきたことか.牧野信司著『熱帯魚入門』もあれば,宝石の本もあり,新刊が出るたびに買いに行ったのを覚えている.こういう叢書モノは定向進化する傾向があるのか,末期になるほど「重箱のスミ」化してつまらなくなった(かの〈ブルーバックス〉だってそうでしょ).〈京都モザイク〉はいったい何冊まで続くかな?

◇『日本近代書誌学細見』――本の内容自体はおもしろそう.わ,『蒐書日誌』の著者がナマス切りされてるう(「つまりは道楽にすぎない」:p.81).紀田順一郎もけちょんけちょんのボコボコ(「書誌学界の溝鼠を晒し者にする」:p.100).※この著者,他者に対する罵り方がとても醜い.あるいはそれがウリなのかな.分野を問わず,こういう攻撃スタイルはホモプラジー的に生じるものなんだろうと思う.

◇大修館書店『月刊言語』(2004年1月号)の特集「島のことば:接触と孤立の言語モデル」がおもしろい.島嶼生物地理学(island biogeography)に相当するものが言語学にもあり得るということだろう.それとともに歴史性をこみにした系統と地理の論議に結びつく必要があるだろう――

特集「島のことば:接触と孤立の言語モデル」
  • 【対談】島の言語をめぐって(片山一道・崎山理)24
  • 島の言語の二つの顔:接触と孤立のはざまで(ダニエル・ロング)42
  • 島が残した古態:奄美方言の場合(木部暢子)56
  • 消えゆく小さな島のことば(かりまたしげひさ)66
  • 島ゆえに生き残った言語(永井佳代)74
  • 島が生み出す言語:島々のクレオール言語(三原幸久)81
    • 歌い踊られる海と空(塩谷亨)52
    • 歴史を語る島の言語:フェーロー島(森信嘉)64
    • 琵琶湖・沖島の山立て(崎山理)88

――こういう文脈で必ず登場する方言周圏論にも当然言及がなされているが,言語系統と言語生物地理との一体的な考察が不可欠だろう.※カール・ニールセンに『フェロー諸島への幻想旅行』という作品があるのを思い出した.

◇本日の総歩数=9952歩.


15 december 2003(月)

◇フロントガラスに霜が降りる最低気温は1.2度の明け方.

◇〈TAXA〉開設のアナウンスを流してから24時間が経過し,EVOLVE経由で「15名」の参加申しこみあり.まだ暫定的なアナウンスだが,もう少し広範囲にビラを撒くことにしよう.

◇ううむ,来年の仙台では,またもワルダクミが予期されるぞ.何といっても,かつての〈伊達騒動〉の土地柄だしねー(他人事のように言うなって?).今回は「けいとう」ではなく「とうけい」.はてさて〈ふみふみパワー〉は炸裂するか? よろしゅうに >K田さま.

◇おお,津波のように本が押し寄せてきた.怒濤のように新刊情報も――とてもとてもさばききれましぇーん.※また明日ね.ちょこっとだけメモすると,岸野洋久・浅井潔『生物配列の統計:核酸・タンパクから情報を読む』(2003年12月12日刊行,岩波書店,統計科学のフロンティア・第9巻);小林傳司『誰が科学技術について考えるのか:コンセンサス会議という実験』(2003年12月,名古屋大学出版会);倉谷滋『動物進化形態学』(2004年1月8日配本予定,東京大学出版会);などなど.

◇本日は農環研の生態システム研究グループ大忘年会ということで,そろそろトンズラして,つくば市内某所(東新井あたり)に潜伏することにします.

――〈いしだ屋〉→〈どやどや〉という「つくばエリア忘年会順当コース」を経て,リーズナブルこの上ない時間帯にご帰宅とあいなった.

◇本日の総歩数=12110歩.


14 december 2003(日)

◇朝から雲一つなくからっと晴れ上がる.乾燥度高し.方々がひび割れてきた.痛ッ!

◇昨夜遅くまで〈TAXA〉の開設準備をしていたので,朝寝坊しました.アドミン宛のメールアドレスがまちがっているとの指摘があり,あわてて訂正.※ついでにチェックしたら,〈EVOLVE〉と〈BIOMETRY〉もアドミン宛アドレスがまちがっていた.あちゃー,こういう“共有派生形質”(htmlファイルをコピーして使いまわしていたのでホモプラジーではない)はちっともうれしくな〜い.それにしても,MLトップページを見て,メールを出した人はこれまで全員弾き返されていたのかと思うと,ごめんなさい,ごめんなさい,ごめんなさい....

◇定例のTRC新刊案内チェック――1353号からのセレクション.※すでに読んでいるか,購入済みのもの多し.そろそろ,年末年始本の選定に入るか.例年,年越しは〈書評〉とともにという習慣ができつつあるけど,今年はどーしましょ.

◇昨日明け方に実は購入してあった新書たち――屋名池誠『横書き登場:日本語表記の近代』(2003年11月20日刊行,岩波新書[新赤版]863,ISBN: 4-00-430863-1),家島彦一『イヴン・バットゥータの世界大旅行:14世紀イスラームの時空を生きる』(2003年10月20日刊行,平凡社新書199,ISBN: 4-582-85199-1),フランツ・シュミット『ある首斬り役人の日記』(2003年12月10日刊行,白水uブックス1064,ISBN: 4-560-07364-3).ついふらふらと,平山夢明『東京伝説:狂える街の怖い話』(2003年12月05日刊行,竹書房文庫,ISBN: 4-8124-1415-6):〈個人としての人間嫌いっていうか,として嫌いになってくるんだよ〉(p.217)だって!(→コッソリ隠れ読みしたな〜)※『横書き登場』はたいへんおもしろそうな予感がする.『首切り役人』は,すべての文が「打ち首の刑に処した」とか「車裂きにした」という定型句で結ばれている(満腹っす).『イヴン・バットゥータ』は新書とは思えない詳細な内容.本来は単行本となるべきものを新書にしたという気配が濃厚.

◇とある原稿を読み,返信コメントを準備する――たいへんお疲れさまでした.※Nelson Goodman をめぐる4巻から成る論文集というのが手元にあります:

Catherine Z. Elgin (ed.) 1997. The Philosophy of Nelson Goodman: Selected Essays (4 volumes). Garland Publishing, New York.

何かの予算をだまくらかして(オフレコねっ)買い込んだと記憶しています(揃9万円ほど).Goodman の「the riddle of induction」や「the “grue” problem」に関するさまざまな反響がコンパイルされている[だけの]論文集で,これはこれで役に立つのかな.ただし,残念なのは,Goodman自身の元論文が所収されていないので,それは別途探さなければならないということ.勁草書房やみすず書房から出ていた訳本は今では手に入りづらそうだし.だいいち,表形分類学に引導を渡したとされる「Seven strictures on similarity」(1972)がまだ訳されていないのでは?

◇本日の総歩数=2700歩.


13 december 2003(土)

◇今日は朝から快晴の冬晴れで,北風が身に染みる.明朝は放射冷却できっと凍りつくぞー――この寒さの中,朝から自治会の清掃作業.働きます働きます.掃きます掃きます.※フィンランド製の〈斧〉のあまりの切れ味のよさに絶句.木っ端が砕け飛ぶさまは爽快ですらある.なんといっても斧のクセにかみそりのような刃先ですもん.マルッティーニをはじめ,フィンランドの有名刃物ブランドはそれだけの実力が伴っていることを実感.

◇ん? とある密告情報によると,西方海上のニライカナイにあるという某CDCあたりでは「頁数でミナカに勝った!」との〈勝利宣言〉が響き渡っているらしい――ふふふ,甘いぜ.来たるべき『生物系統学2』(まだその予定すら影も形もないんですけど...)では必ずや『動物進化形態学』を頁数で上まわってくれようぞ,ぐわははは.※重厚長大化するか,Natural History Series!(そんなに書くのは約2名しかいないというウワサも)

◇『ダーウィンと家族の絆』順調に読み進む――アニーちゃん,とってもかわいいです.※ほれ,そこの少女ファンのキミ年貢を納め終えたら,すぐ書店に走るべし.

◇ヤニス・クセナキスねー――去年だったか,渋谷のタワーレコードでクセナキス作品の2枚組廉価版が出ていたので購入.明け方の研究所でガンガンかけていたら,メロディー(そんなもんがどこにあるねんという見解はこっちに置いといてっと)が時ともなしに跳躍する.「こりゃ前衛だあ」としばし感じ入って,ふとCDデッキを見たら,CDのトラックがきちんとトレースされていなかったことにはじめて気付く.たはは(汗).※CD再生すら拒否するクセナキスのノイズばくだん.

◇クセナキスは,いわゆる“クラシック”なる認知分類群からはきっと排除されるだろう.武満徹の代表作〈ノヴェンバー・ステップス〉だって,ニューヨーク・フィルの最初の練習では尺八と琵琶の独奏に対してオケ団員の間から苦笑が洩れたそうだ.この曲のオランダ初演を評した記事では「聴衆はタケミツの洗礼を受けた」とまで書いてあった.なお,1968年の日本初演時には,武満・クセナキス・ペンデレツキ・一柳の作品が演奏されたそうだ.アンドレ・ジョリヴェのピアノ協奏曲〈赤道コンチェルト〉の初演のときは,ホール中の聴衆からの怒号でえらいことになったそうだ.同じくジョリヴェの組曲〈大洋横断〉の総譜が手元にあるが,最初っから〔どんどこ・どんどこ〜〕と始まるもんねー.打族狂喜,オケ唖然,聴衆卒倒.音楽でも「異文化の衝突」ってあるのかな.

◇いまオランダ語の古い辞書をめくっているところ,この辞書は神保町交差点角の信山社の階段下に隠れるようにあった「進海堂書店」という古辞書・言語学専門の古書店でむかし買ったもの.進海堂書店がなくなって,それに代わる辞書専門の店が思い当たらない.※辞書に特化した古書店と総譜(スコア)に特化した古書店があるとたいへん重宝する.とくに総譜は「本」であって「本」でない出版物なので,昔から見つけるのに苦労してきた.

◇竹園にある韓国食材店〈市場(シジャン)〉にて,新製品「ホタテのキムチ」を買う.

◇まずは,「TAXAトップページ」を暫定的につくってみた.使用法とかヘルプについてはあとでリンクをぼちぼちと張っていくことにしよう.会員募集は(例によって)各方面にどわーっとアナウンスを撒き散らせばいいか(はた迷惑ですかぁ?).

◇基本方針は,これまでと同様に,実名での会員登録高い心理的ハードル.匿名投稿とジャンクメールは連動しているとぼくは思うので,メーリングリスト加入に際してはハンドル名は許可しない.また,投稿に際しての心理的ハードルは高いままに維持するのは,〈EVOLVE〉や〈BIOMETRY〉と同じである.投稿者の心理的ハードルを低くすることに意義を認めようという人がいるが,ハードルを低くすることによってぼくが得られる利益は何もない.ぼくにとってメーリングリストの運営は個人的な利得の観点からのみ行われているから,自分にとって利益のないことはいっさいしない.この点ではきわめて利己主義者である.

◇『季刊・本とコンピュータ』(第2期10・2003年冬号)が店頭に並んでいたのでさっそく購入――『PLoS』のはなし,都立図書館の貸し渋り問題(東京都って,もう...),東洋文庫の変?などいつものように読む読む.西野嘉章氏へのインタビュー『古書、蔵書、そして造書』がおもしろい.本は「もの」だと言い切るこの人(清水徹かと思った)の『裝釘考』は,値段は張るものの,ときどき撫でているだけでシアワセになれる稀有の本.造本・紙・活字・図版などそこいらの本とはぜんぜんちがう.残念ながらいまは品切れのようだが,前に都立大前の南大沢駅近くの本屋で見つけたときに即座に買っておいてよかったー.このインタビュー記事でも触れられているが,『裝釘考』は考え抜かれて造られた本だそうだ.

◇本日の総歩数=10862歩.


12 december 2003(金)

◇一晩中,雨が降り続く――都立大学のごたごたの中ついに4教授の抗議辞職か.こういう顛末を耳にすると,〈ゲッティンゲン大学・7教授事件〉とか〈京都大学・滝川事件〉を連想する人はきっと少なくないだろう.

生物分類学メーリングリストについては,1年以上前から日本分類学会連合の中で話だけは出ていたのだが,年内に連合としての態度を明文化して,新年早々にも一般向けの生物分類学メーリングリスト〈TAXA〉をオープンすることでさくさくと準備を進めることになった.〈EVOLVE〉や〈BIOMETRY〉とまったく同じ要領で,ぼくがリストオーナーをすることになる.とりあえず〈銘柄〉つまり〈TAXA〉というメーリングリスト名だけは早々と押さえておいたので,投稿アドレスなどのウツワ部分はすでに確定している(まだぼく以外の登録はなし).あとは中身だけ.ま,メーリングリストはつくり慣れているので,とくに神経質に気を配ることはないだろう.団体が母体という点だけが,これまでとはちがっているが,メーリングリストの運営に関しては何も影響はないと思う.オーナーとしてのコミットの程度はどーしようかな.

◇〈EVOLVE〉が発足するのに際して,Robert J. O'Haraがやっていた〈Darwin-L〉進化学メーリングリストを“モデル”としたのと同様に,〈TAXA〉のモデルとしては〈TaxaCom〉を念頭に置いている.あれくらいアクティヴな分類学メーリングリストに成長すればおもしろいのだが.とりあえずは1月10〜11日の分類連合シンポを足がかりにして〈TAXA〉をお披露目していこうと思う.ただし,希望的にことを言えば,年内中にある程度の“ひと”を集めておいて,年明けには「もう動いている」という状態にしておきたい.メーリングリストは〈離陸がすべてである〉という鉄則は,過去に繰り返し験証されているからね.

◇南大通沿いの産総研(金材研)外壁に,今年もまたクリスマス・イルミネーションが灯った.去年の図柄は「ハリーポッター」,ことしは「Sintaklaas」.※つくばもそういう季節になった.

◇本日の総歩数=10000歩.※万歩計で歩数を毎日確認しているけど,ピッタシ!は初の快挙.


11 december 2003(木)

◇明け方は1.7度.さらに寒くなってきた.バッハの教会カンタータを聴きつつ,シュトーレンを少し味わう――もう今年も終わりですな.

◇はいはい,〈卒論〉原稿を読ませていただきます.締切まであと少しなので頑張ってねー.類(kind)を幟に掲げるとはとってもダイタ〜ン!

◇ぽつぽつと降り始めていたが,午後からは本降りに.気温も上がらず.関東の山間では雪という予報も.

アニーちゃん,やっと日本に到着です――原書『Annie's Box: Charles Darwin, his Daughter and Human Evolution』も相当に厚い本だったが,翻訳『ダーウィンと家族の絆:長女アニーとその早すぎる死が進化論を生んだ』は実に600ページを越す大冊に.出版社(→白日社)の該当ページでは,本訳書の目次や訳者解題を読むことができる.また同社から同封されてきたビラによると,原著者ランドル・ケインズ氏は来年3月に来日予定で,3月22日に関係するシンポジウムが東京で開催されるとのこと.→詳しい情報を訊きだしておこう.※今月のbk1書評本なり.

◇この本のオビに書かれていることば――

「“壁”を超えていった人の話が,面白くないはずがない」
(養老孟司)

――だって! 自家製流行語“”を出すとは〈やらせ〉っぽいぞ(くふっ...)

◇白日社からの返事では,来春に企画されているシンポジウムは,ダーウィン伝記作家3名を招待して開催するものらしい(養老孟司氏も呼ぶとのこと).ランドル・ケインズ氏以外の2名はいったいだれかな.渡辺政隆さんが旗振りするとなると,『ダーウィン』の著者ジェイムズ・ムーアあるいはアドリアン・デズモンドか,それとも『Charles Darwin』の著者ジャネット・ブラウンか.

◇〈京都科学哲学コロキアム〉で予定されている戸田山和久レクチャー「認識論における自然主義を擁護する」は,趣旨としてはもっともですね.というか,ごく当然のことじゃん.※予想される「反論」なるものがどのように立てられるのか,そちらの方がおもしろいかも.

◇ええぃ,とどめだー――信州大学理学部から「生物統計学」非常勤講義の出講依頼.また,よろしく.来年度の非常勤出講はは「5大学」で打ち止めにしよう.※大学の非常勤講師の枠が予算減で減らされつつあるというのは確かに事実ですね.ぼくみたいな「パート非常勤」ではなく,「専任非常勤」で生活している人にとっては苦しい状況だろうと思う.

◇10月につくばで開催された生物多様性情報国際フォーラム〈Building Capacity in Asia and Oceania〉事務局から,フル・ペーパーの投稿依頼.来年1月末日が締切とのこと.〈Bogen〉の開発メンバーと投稿内容について打合せをする.

◇本日の総歩数=8082歩.※雨々で研究所内徘徊のみ.


10 december 2003(水)

◇今日も放射冷却.最低気温は2度.冷える冷える.

のけぞる(その1)――ひさしぶりにヒンデミットの『交響的変容』を早朝にじっくり聴いたので,手元にある総譜と突き合わせてみてのけぞる:

打楽器パートだけ【小節の切り方】が他パートとちがっている!

という驚愕の事実に気がついた.第2曲めの「Turandot」の中ほど,ティンパニーと打楽器が乱れ打ちをする箇所.〈ティンパニー(Pauken)〉は認知的には確かに「打楽器」なのだが,音楽社会的にはその他の〈打楽器(Schlagzeug)〉とは明確な一線を画する.だから,ティンパニーは他の“まとも”(\ぽか)な楽器と同じ小節構成であるのに,打楽器だけが別扱い.カール・ニールセンの第6交響曲のように,小節の切り分けは共通で,ある楽器だけ別の拍子を指定するというのは知っていたけど,ヒンデミットはその先を行っているのか.

◇のけぞる(その2)――音楽づいているときには誘い込み現象が起きるのか,久方ぶりに東大オケ同楽年の知人から年の瀬メール.ほほー,みなさんお元気そーで,何より.と読み進んでいくと,「今度の東大オケ定演では愚息がバストロを〜」・・・ちょっと待ったらんかいっ,何で子どもがオケに入ってるのかとのけぞったところを追い打ちをかけるように「△▽君のお子さんもバイオリンで出演するとのこと」・・・ははは,いやあ参りましたな.みなさん,親子二代で東大オケですか,ははは.こりゃあ参った参ったぁ.※時の流れは実に速いのだ.たまりまへんな.

◇すりへる――『植物育種学辞典』の単純作業で時間を食いつぶす:「テキストファイル→Word読みこみ→文書整形→プリントアウト→ハードコピー→追加コメント記入」を32回反復し,返送に必要なものは全部そろったかと安心したのがお昼前.ところが,「項目カード」なる邪悪な神が降臨してきて,「自宅住所,電話番号,使用OS,使用ソフト」などを32項目すべてについてそれぞれ肉筆で書けというさらなる単純作業を要求してきた.これじゃ午後もつぶれるなと思い,項目カードは何も見なかったことにしてそのまま封筒にぶちこんで速達返信してしまう.これでやっと〈辞書結界〉から解放される(とりあえず).

◇さて,次は〈新書結界〉に突入するか...(汗).あ,〈教科書結界〉というのもあった.関係者のみなさん,ごめんねごめんね.がんばりますぅ.

◇「地方巡業」依頼の〈嵐〉――国立大学ではこの時期に次年度の非常勤講義の依頼を横並びでしているのかな.午後,2ヶ所から出講依頼:東北大学理学部(大学院「生物統計学」8×90分)と富山大学理学部(大学院?「形態測定学」30時間).いずれも引き受けましょ.※別ルートの情報によると,東北大理学部では箱崎の導師にも同時期に学部生の統計折伏を依頼したそうだ.青葉山に君臨するワルモノ総帥は両高座を連動・合体させようなどという〈究極悪の構図〉を思い描いているらしい.おお,さすがワルモノは考えることがちがうわい./富山大学の方はもっと差し迫っていて,来年度前半にとのことらしい.国立大学はいま法人化でオーバーワークに陥っている教官が多々いるらしいが,中核戦力をカローシさせては元も子もないと思う.

◇夜,小川眞里子さんから返信あり.いきなり書評を送りつけたりしてたいへん失礼なことをしたのに,ていねいなご返事をいただいた.書評に書いたように,『甦るダーウィン:進化論という物語り』は,問題のある第1章を除けば,一般の読者にとって得るものの多い本だと思う.とくにダーウィン研究に関する最新の情報が得られるという点ではいいガイド役を果たすだろう.私信を引用することはできないが,ぼくからの返事を下記にペーストしておく――

Date: Wed, 10 Dec 2003 21:46:47 +0900
From: MINAKA Nobuhiro <minaka@affrc.go.jp>
Subject: Re: <Review>小川眞里子,『甦るダーウィン』,岩波書店

小川眞里子さま:

三中信宏です.はじめまして.

このたびは御高著への書評をいきなり送りつけたりして,さぞ驚かれたのではないかと恐縮しております.私が御高著の書評を送った〈EVOLVE〉とは私が運営している進化生物学のメーリングリストでして,進化学に関心をもつ約1500名の会員が参加しています.ときどき進化関連の書評が配信されることもあるのですが,著者の知らないところで評を回し読みするのではなく,できれば著者にも書評の存在を公開した方がいいだろうと考えて,三重大学のサイトでメールアドレスを調べさせていただきました.失礼の段はひらにご容赦を.

私の書評の底流には「科学史研究者もまた現代進化学についてもっと口を出すべきだ」との信念があります.科学史研究者は単に過去の歴史エピソードの探索だけにとどまらず,もっと現代へのつながりを前面に出すべきであるという立場です.

御高著のテーマである「ナラティヴとして進化論」はたいへん現代的なテーマ――進化をどのように叙述するかという問い――であり,これを中心に据えた今回の御高著はその視点の置きどころに関して,日本ではたいへん貴重な問題提起であると思います.最近出た京大人文研の論集『変異するダーウィニズム』がその厚さにもにもかかわらず,タコツボ的な論考の集積であることと比較したとき,御高著のヴィジョンは抜きんでていると私は正直に言います.

実は,私は『生物系統学』(1997年,東大出版会)の第1章で,系統学がどのような意味で〈historical narrative〉であり得るのかという点を論じたことがあります.御高著の第1章で言及されていたハル,オハラ,ダントなど歴史哲学と生物系統学との関わりにも触れました.ですから,今回の新刊の第1章に関していえば,私の抱いている問題意識に響くものがあり,それだけに反論したくなる点がより鮮明に浮かび上がったのだろうと自分では思っています.

おそらくナラティヴとして進化を論じるという点については好意的にとらえる読者が多いだろうとは私も感じます.ただ,私の書評の中でも述べましたように,歴史〈物語り〉論に対しては賛同の声だけでなく,当の歴史学者の中からさえ強力な反論の声があることもまた確かです.実験科学のような意味での実証が不可能である進化学の仮説や理論であっても,データに照らしたテストは可能であろうと私は考えます(昨年,未來社から出た『批判的合理主義・第2巻』の中で,私は生物系統学の歴史仮説のテストのあり方について論じました).〈物語り〉であることを強調することにより,データによる仮説の裏付けの重要性に対する基本認識が損なわれるのではないかという危惧を私はもっているのです.たとえばヘイドン・ホワイトを盾にすることは私が危惧するまさにその方向へ進もうとしているように感じられました.

思うのですが,小川さんはたまたま「まちがったもの」をよりどころとされたのだろうと思います.たとえば構造主義生物学は日本だけの特殊な文化現象であり,「標準的」な進化生物学の中で占めるべき場所をまったく有していません.標準的だから正しいといういみではありません.むしろ,「非標準的」な学説に依拠して持論を展開されても多くの読者には説得力を示せないと思います.

ですから,いまの進化学の the state of art を踏まえれば,きっと御高著の主張には新しい光が当たるだろうと私は思います.ダーウィン進化論史の書き手としてこれからも頑張ってください.

ダーウィンに関する諸章は私にとってはたいへん informative でした.現在,文一総合出版から出されている『ダーウィン著作集』の編集の仕事をしている関係で,ダーウィンに関する資料や文献を集めているところです.御高著にはアップデートな情報が載っていて勉強になりました.

長い返事で,失礼いたしました.今後ともよろしくお願いいたします.ダーウィン関連のことできっとまたご連絡を差し上げることになると思いますので.

追伸)ランダル・ケインズの『Annie's Box』は渡辺政隆訳で今月中旬に白日社から『ダーウィンの絆』というタイトルで翻訳が刊行されます.

◇今日は細々とやり取りしたり書いたりで〈ミクロ疲労〉が積み重なった.明日からは別の〈結界〉に沈みます.※どちらの結界かということは別にして(汗).

◇本日の総歩数=15771歩.


9 december 2003(火)

◇朝焼けつくば――未明の最低気温は1.8度.いよいよですな.

◇お,Steve Reich の〈Clapping Music(1972)〉ですか,いいですねえ.とある打族の結婚披露宴で新郎を交えて「実演」したことがあります.いやー,充実感ありましたな.新婦の“冷ややかな視線”がこれまた心地よかった(汗).打族冥利に尽きる.※え?【打楽器】の定義?――「叩いて音の出るすべてのもの」という本質主義的定義でいかがでしょ.ああ,なんて〈βαρβαροσ〉な.

◇夏の進化学会九州大会の評議員会と総会の議事録を送る.遅くなってごめんなさいです.>かとうさん.

◇『生物科学』の「“みなか”の書評ワールド」のゲラ読み完了→返送(うえださん,よろしく).※季刊の雑誌なので,書評ネタには事欠かない...というか十分すぎるほど「溜まっている」よーだが.平均的に見て,日本の研究者がなかなか書評を書きたがらないというのは明らかな事実.「時間がない・読むヒマない・書く気もない」ってところかな.でも,日本風に言えば原稿用紙で100枚近い分量も内容もある書評が載るジャーナルは海外にはいろいろあるわけで,そういう〈書評文化〉が日本で根付かないというのはとってもフシギ.そういうのに意義を認めないから,育てようとしないのでしょう.読書(の行為と成果)はごくパーソナルだから,他者と共有するものあるいは他者に伝えるものなど何もないという意識があるのか.

◇いい天気なので,またまたウォーキングにいそしむ昼休み.〈J・J〉氏の『コラージュ日記』を持参して――と思ったのですが,おお北風が強いではないか...とアッサリ断念.ガソリン給油がてら石丸電気つくば店に立ち寄る.ヒンデミット『管弦楽集』(3枚組)ありました(DECCA 475-264-2):〈交響的変容〉,〈世界の調和〉,〈画家マティス〉などなど.指揮はヘルベルト・ブロムシュテット,もちろんサンフランシスコ響.歌劇『世界の調和』の新しい3枚組もあったが今日はパス.ヒンデミット『チェロ曲集』も(Arte Nova 74321-43307-2).あとは,BCJの『カンタータ集』の〈21〉と〈22〉の2枚(BIS-CD-1311/1321).たまにはCD棚を歩くのもいいかも.※石丸CDフロアは配置をずいぶん変えたなあ.

◇あらま,ぜんぜん知らなんだあ――〈E.O. Wileyセミナー〉.ワイリーさんがすでにポパーの科学哲学をオサラバしていたことをこのセミナーではっきり知りました.『Phylogenetics』の改訂版を出すことも考えているとのことだったが,まったく別の本になることは間違いないでしょうねえ.あれからもう3年半も経っていたとはねー.※今ごろ何を言うてるって?(こんなページがあったとは露知らず)

◇雑誌記事あれこれ――岩波『科学』誌の12月号の特集〈今西錦司――その思想と学問への志向〉はすでに批判が多いですね.〈アンチ特集〉を組みたくなるのも当然のことか./『Trends in Ecology and Evolution』誌の12月号が届く.魚類分子系統の解説記事は西田睦ラボの紹介だ.※この業績量産体制はいったい....〈交響的変容〉第2曲【Turandot】の前傾たたみかけを連想させる.

◇オランダのオンライン書店から〈Sintaklaas〉メールがよく届く季節になった.サンタさん「元祖」の国としてはせっせと宣伝に努めますということだろう.

進化学研究会は,解散せずに,会則をいくつか変更した上で存続させるということに決まった.会計の残金がまだかなりあるらしいので,それを消化しつつ活動を続けようということか.『SHINKA』の発行はムリとしても,例会を続けることは可能かも.あるいは,進化学会の中でこれからも続きそうな【夏の学校】と提携していくというプランもありえるだろう.

◇関村利朗他編『生物の形の多様性と進化:遺伝子から生態系まで』が年明けにも重版になるらしい.何はともあれ「売れる」のはハッピー.

◇夜,ついつい原武史『大正天皇』(2000年11月,朝日選書663,ISBN: 4-02-259763-1)を読み耽ってしまう.イメージの独り歩きって浸透力があるねえ.でも,結局,大正天皇の死因の詳細はよくわからないということか.

◇しばらく中断していた『植物育種学辞典』のMS-Wordファイルづくりを完成させる.1項目1ファイルで書式が指定されているので,単純作業なのですがね.※明朝,送ります.ゴメン.

◇本日の総歩数=10075歩.


8 december 2003(月)

◇寒く晴れ渡る.明け方は4度台の最低気温.これから冬至に向かって夜明けは遅くなり続け,暗闇出勤モードとなる.

◇朝のFM放送で,ずいぶん久しぶりにパウル・ヒンデミットの【交響的変容(Symfonische Metamorphosen)】が聞こえてきた.東大オケにいた頃,定演プロに乗りそうな気配があったので,渋谷ヤマハで総譜を買って,ティンパニの勝手練習までしたのに結局ボツになった記憶がある.ビートのはっきりした,楔が打ち込まれるような曲想.同じくヒンデミットの交響曲【世界の調和】も総譜が手元にあるが,CDがなかなか見当たらない.こういうときほど譜面が饒舌になるようだ.

◇〈Res:もの研究会〉の「Act in Real」から日録へのリンクが張られた(5/Dec/03)――ここでいろいろとコメントを書きつけたが,考古学における「タイプ」が生物学での「タイプ」とどのように呼応するのかという問題は,一方では両分野での〈systematics〉の過去の発展史に関わるが,他方ではこれからどのようにすればいいのかという将来の問題とも関係する.生物学では「タイプ」や「タイポロジー」という表現は〈負〉のイメージを担っていた.そこでの「タイプ(type)」ということばは,認知科学などでいま用いられているような「プロトタイプ(prototype)」で置換できるものではなく,むしろ18〜19世紀の観念論形態学でいう「アーキタイプ(archetype)」に近い思想的背景をもつものとぼくは理解しています.ただし,ダーウィン以前の分類学者たちが,理念的にも実践的にも本質主義者(=typologists)だったのかと言われるならば,そういう“本質主義神話”はいま揺さぶられつつあると言うのが正直なところかもしれない.

◇『生物科学』誌からゲラの返送――「“みなか”の書評ワールド(3)」.今回は『ヤマガラの芸』,『闘蟋』,『系図が語る世界史』など計7編.※先月「(2)」のゲラを送り返したばかりなのに,と思ったが,今年は発行ペースがいつもより遅れているのだった.ゴメン>うえだ編集長.

◇そろそろ忘年会シーズン――研究所で1回,東大オケ打属で1回(?),あとは東京に用事で出たときにきっと数回....

◇ほどよく晴れて,風もあまりなかったので,昼休みウォーキング.羽成公園で『コラージュ日記(2)』読み進む――〈J・J〉氏,本買い過ぎや〜./さらに,“神話”破壊論文に目を通す――

  • Mary P. Winsor 2003. Non-essentialist methods in pre-Darwinian taxonomy. Biology and Philosophy, 18: 387-400.

――A.J. Cain / Ernst Mayr / David Hullら「神話作家」の手になる“本質主義神話”を打破すべく書かれた論文.ダーウィンの分類学者たちが「ポパーの言う意味での本質主義者」であり,「アリストテレス/新プラトン主義の論理分割による分類」を目指し,「種(species)はプラトン的〈タイプ〉であるとみなした」という説はいずれも根拠がないと Winsor は論じている.Winsorは,ダーウィン以前の生物分類に見られるタイプ法(method of types)は,その実践に着目するかぎり,monothetic groupしか認めない本質主義ではなく,むしろpolythetic groupをも許容する個例法(method of exemplars)とみなすべきだという見解.Type species はこのとき認知心理学でいうプロトタイプ(高次分類群にとっての)に相当する機能を果たすという.なかなかいいんじゃないですか.ん? Richard Boydの“homeostatic cluster”説が登場してる.

◇小川眞里子『甦るダーウィン:進化論という物語り』の書評を改訂――正誤表をつけるとともに,書評本文に書き足す.工業暗化に関する著者の見解に対するコメント.

◇進化学会評議員会報告――あ,すぐ書きます書きます.

◇本日の総歩数=16492歩.


7 december 2003(日)

◇晴れて風が強い.冬型気圧配置を体感する.湿度が低いので,指先が敏感にカサカサしはじめる.

◇生物分類学の「タイプ」概念再訪――エルンスト・マイアの説明では,いつでも〈タイプ(type)〉を〈集団(population)〉と対置させる.その背景には〈類型学的思考(typological thinking)〉と〈集団的思考(population thinking)〉との対置がある.だから,生物分類学で〈タイプ〉と言えば,言外に「プラトン的な“イデア”観・“本質”観に裏打ちされたアンチ進化思考の時代の遺物」というニュアンスがある.〈類型学(typology)〉とかポパーに由来する〈本質主義(essentialism)〉という言い方も,マイア界ではいずれも進化に則る〈集団的思考〉に対置させられる――ぼくの理解はこんなところです,のぞみさん.

◇カサカサしているうちに,1日がなんだか「するっ」と終ってしまったよーな.

◇明日からはとても寒くなるという予報.

◇本日の総歩数=4693歩.


6 december 2003(土)

◇ときどき曇ったり,ときどき降ったりしている.

◇メーリングリストに投げた『甦るダーウィン:進化論という物語り』書評への反応が個人返信で何通か届く.「narrativeはもうダメ」――御意.「致命的」――第1章から読みはじめるとそう思えてしまうかもね.目についたミスを正誤表としてまとめる(→これまたメーリングリスト送りとする).

◇午後はノバホールにて,矢部達哉の「バッハ無伴奏」リサイタル――パルティータの2と3,間にソナタの1がはさまったプログラム.最初の調弦が危ういように聞こえた.バロック弓が軽やかに跳躍していた(転がりそうな箇所も).チャコーネ,いつ聴いてもいいもの.シギスヴァルト・クイケンの演奏(昔のと最近の)とつい比べてしまうのだけど.今年の第19回つくば国際音楽祭はこれにて終了.

リサイタルの休憩時間に,Matthew Battlesの図書館エッセイ集『Library: An Unquiet History』(2003年,W.W. Norton,ISBN: 0-393-02029-0)を読み進む(クマムシみたいな遅読ぶりだ).ニューヨークのグランド・セントラル駅地下にある〈Posman Books〉をぶらついていたとき,印象的な表紙デザインにトラップされてそのまま買った本.「もの」としての本についてウンチクを傾けまくる.まだ第3章あたりをうろうろしているが,話題には事欠かない本.著者はハーバード大学の Houghton Library に勤務するライブラリアンなので,図書館ネタや本のエピソードにはことかかない.古今東西の図書館とその成立史話(第1章),消滅する図書館と焚書坑儒の話(第2章),本という形態の出現(第3章)などなど.ちょこっとした部分に目が留まる.〈本(book)〉の語源はかつて字を書く板として用いられた〈ブナ(beech)〉から派生した〈boc〉だと推定されていること(p.57)とか.また,第2章に詳しい秦(Qin)の始皇帝(Shi Huangdi)による焚書坑儒(fengshu kengru)のエピソードについては,英語圏の図書館学でも研究テーマのひとつになっていることがうかがえる.司馬遷(Sima Qian)の『史記(Shiji)』も登場する.

TRC週刊新刊案内今週分(1352号)をチェック――1352号セレクション.※ポパー『量子論と物理学の分裂』が出た.これで『科学的発見の論理』の〈ポストスクリプト〉3部作(『開かれた宇宙』,『実在論と科学の目的』,そして『量子論と物理学の分裂』)はすべて岩波書店から翻訳されたことになる.小河原誠さんが前に言っていたことだが,「〈ポストスクリプト〉がすべて訳されないうちは『科学的発見の論理』は上陸したことにならない」そうだ.これで「上陸作戦」は完了した./ほかには谷沢永一『日本近代書誌学細見』とか,チャールズ・シミック『コーネルの箱』とか,要チェック本がぱらぱら./年末が近づき,「漁獲」が次第に減ってきている.

◇クリスマス・ツリーなど出して,飾ったりしてみる.

◇本日の総歩数=5139歩.


5 december 2003(金)

研究所に明け方来てみたら,Alibrisから着便していた――Purcell & Gould の第一作目の写真エッセイ集『Finders, Keepers: Eight Collectors』(1992年,W.W. Norton, ISBN: 0-393-03054-7).先日届いた『Crossing Over』とはちがって,こちらはハードカバー.レイデンの国立自然史博物館(naturalis)所蔵の逸品がたくさん見られる.Hennig XIX の報告でも触れたが,ここのコレクションはタダゴトではない.ごく一部だけ展示されているのだろうが,それでも圧倒される.レイデン大学の動物学教室にさりげなく置かれている標本たちでさえ(非公開か),十分すぎるほどの存在感だった.

◇書店から荷物が届くたびにワクワクしてしまう.※いつものことながら.

◇Nils Aberg 「型式学」の続き――

ラ・テーヌの留針は最古の鉄器時代の型式にさかのぼり、しかもこの鉄器時代の型式は最も新しい青銅器時代の型式へ、さらに、その最新の青銅器時代の型式は青銅器時代最古の型式へとさかのぼるのである。問題となっている考古学的資料群は、たった一本の大きな系統樹Stammbaum の中へと整理されるのである。生物学の系統樹が原生物体Ur-Organismen にまで続いているように、我々も先史時代の型式や分類群を、それぞれの生成の起源から始まって自然発生的な創造に至るまで、追いかけることができるのである。

――生物学でいう「typology」は,進化思想が登場する以前の生物分類観の反映であり,少なくとも上の引用にあるような,明らかにヘッケルの影響を受けたと思われる〈系統学〉的な視点を指すものではない.この点ひとつをとっても,生物学の“類型学”と考古学での“型式学”にはその定義にちがいがあると言うしかないだろう.考古学のそれは,むしろ「系統の学」に近い位置にあるようだ――

先史学的資料の型式組列と生命有機体の発展とのアナロジーは、確かに理論的関心事でしかないが、しかしそれでも型式学の特徴を明らかにしてくれる。型式学とは、このアナロジーに従うならば、資料を機械的に分類しラベルを付ける作業ではなく、生きた発展を確認することなのだ。

――考古学での「進化法則」をも認めようとする型式学は,生物学風にいえば「系統学プラス定向進化論」となるのだろう.

◇そもそも,考古学での「型式(タイプ)」がどのように定義されているのか――Robert C. Dunnell の『Systematics in Prehistory』を参照すると――

[T]ype is defined as a paradigmatic class of discrete objects defined by modes. ... [T]ype is defined as an intuitive cultural class of discrete objects. (p.157)

――と書かれている(“modes”とは「形質」に相当する).生物で言えば〈形態学的種(morphological species)〉に相当するのだろう.考古学のキー概念を進化学の観点から再検討した『Darwin and Archaeology』の中でも――

The term “type” in archaeology is in many ways parallel to the term “species” in biology and paleobiology. (p.77)

――と説明されている.一方では生物,他方では無生物という対象のちがいはあっても考えることは同じということか.

◇もちろん,分類の基底に直感や認知があるのは当然のことであり,考古学者が生物分類学の「タイプ」概念に準拠して自らの「タイプ」概念をつくろうとしたのは自然な成り行きだったのだろう.ちがいが生じるのは〈進化〉に対するスタンス:生物学の類型学はアンチ進化であるのに対し,考古学の型式学はむしろ進化思想を取り込んだかたちで,タイプの発展系列を構築しようとしたようだ.

◇amazon.comからメール連絡――『PAUP User's Manual』の注文をキャンセルするとのこと.ずいぶんとフォローしてくれたようですが,堪忍ブクロの緒がキレましたかね.オモテの〈マニュアル〉はまだ出ないということで,あきらめましょう.というか,オンライン書店はリーズナブルな出版見込みのない〈新刊〉のオーダーは最初から受けつけないようにしてほしいものだ.

◇小学校の授業参観と懇談会.夕暮れ時に通り雨.今日は気温が上がらなかった.

◇日が変わる直前に小川眞里子『甦るダーウィン:進化論という物語り』の書評できあがり―― EVOLVE / Darwin 宛に放り投げる(著者にもccする).ついでに,カルロ・ギンズブルグ『歴史を逆なでに読む』とヘイドン・ホワイト他『物語と歴史』の書評も両メーリングリスト送り.

◇本日の総歩数=9571歩.


4 december 2003(木)※今日は年休(るんるん――とはいかない).

◇わ,いきなり海綿かよ〜.夜中だもんねー.でも,個人的イメージとしては〈コケムシ〉の方がぴったりかねえ.時ともなしに沼や休耕田で“ブロブ”のようにぶよぶよと大発生しては衆目を集めるというアレ.人畜無害なんだけど,なんだかうっとおしい点では共通か.当然のことながら完全無視.※ちなみにわたしゃ〈クマムシ〉さ.

◇朝イチの高速バスで東京に向かう.八重洲地下街のスターバックスにて,小川眞里子『甦るダーウィン:進化論という物語り』読了――第2章以降はとてもよい仕上がりであることが判明.こりゃ勉強になります.なんたって50ページあまりの「注」が圧巻.情報量バツグンで,知らなかった文献や資料について教えられること多し.ダーウィン関連の基礎資料はもっと集める必要があることを痛感する.雄松堂から『ダーウィン・進化論関係重要文献集成』というマイクロフィッシュ・コレクションが出ていたなんて全然知らなかった.進化論関連の著作319冊!をマイクロフィッシュ化したものらしい(価格がコワイが...).『英国人名辞典』(DNB: Dictionary of National Biography)もいよいよ買わないとダメか(CD-ROM版が出たらしい).最近,新刊案内で知ったThoemmes Pressの19世紀進化論復刻本シリーズも必須資料だそうだ(ん十万円もするんですけど).ピッカリング版ダーウィン全集(全29巻),ぐわおー.アップルトン版の全集しかもってないー.

◇というわけで,この本の書評は早めに書き上げます(――もうすぐ書き終わるゆうこと).これだけ内容の詰まった本なのに,人名索引・事項索引が付けられていないというのは不備だと思う.※「〈物語り〉だから索引はいらない」などという変な意地張ってるのとちがうやろねー.〈物語り〉というキーワードは本書にはまったく不要だっただろうという印象は確信に近づいた.

◇〈丸善〉日本橋本店にて,Filofax の2004年イヤープランナー(1年1枚版)を遅まきながら購入.かつてはファットな Filofax バインダーを持ち歩いていたのだが,あるとき「シンプルって美しい...」(TUKAの宣伝とちごて)という最節約主義ライフスタイルに開眼し,イヤープランナーのリフィル1枚だけを持ち歩くようになってもう10年あまり.1年の予定が1枚になっていつもポーチに入っていると安心できる.ついでに Faber Castell の太軸ボールペン,手帳用のミニ・シャープペンシル(“Walkie Pen”)を購入.待合わせ時間が迫っていたので,4階には立ち寄らず.

◇小田急ロマンス・カーにてプチ旅行――用務が上出来だったかどうかはようわからん.

◇夕刻,八重洲南口から常磐高速バス「つくばね号」にて帰還――昨日12月3日からここのバス乗り場の待ちレーンは大改造された(「つくばセンター行き」と「筑波山行き」とは乗り場が別になったりとか).スパゲッティみたいに錯綜した乗客行列がここの常態だったが,これからは多少緩和されるかな? ※車中爆睡.

◇本日の総歩数=11483歩.※初冬の多摩川は静かでした.


3 december 2003(水)

◇お,今日は雲が多いな.明け方の最低気温は3.9度.ちょっとばかし冷え始めてる.

◇お,くぼ師匠の〈番外高座〉が――一般線形混合モデル(GLMM)についての法話.資料ダウンロードさせていただきました.超パラメーターの事前分布をどんどん繰り込んでいくというのが〈ホムンクルス〉を見ているようで「目くるめく」.こういう超めんどうベイズ法がMCMCのような突破口から実際に使えるツールになったというのは確かに進歩だと思う.

◇ウォーキング日和だったので,つい6kmも歩いてしまう.いたるところイチョウの黄絨毯.

◇〈Res:もの研究会〉世話人の佐藤啓介さんから先日送っていただいた「型式学(typology)」の翻訳原稿ファイルを読んでみる――Nils Aberg (1929), “Typologie”Reallexikon der Vorgeschichite Bd. 13 (Hrsg. von Max Ebert),Berlin: Walter de Gruyter, pp.508-516.ドイツの考古学事典の1項目とのこと.一節だけ引用させてもらうと――

型式学は、ダーウィニズムを人間活動の産物へと応用したものである。そして型式学は、人間の意志が、生物界における進化に当てはまる法則に似たある種の法則に結びつけられているという前提から出発する。資料はあたかも生命ある生き物かの如く発展するのであって、個々の対象は[生物の]個体に該当し、型式組列は一つの種 Art の発展を示している。また、それら型式組列の集合体は、様々な種へと分岐して科 Familie を形成する一発展を示すのである。

――なるほどねえ.ここでいう「ダーウィニズム」っていうのは,自然淘汰による進化理論ではなく,むしろ19世紀末から20世紀初頭に大流行したネオ・ラマルク主義の匂い(内因進化論あるいは定向進化論)が漂ってくる.こういう資料は生物学者の目にとまりにくいので,教えてもらうとたいへん参考になる.

◇本日の総歩数=19594歩.※天気よかったし――歩く時間があったらもっと仕事せえって?(ごめん)


2 december 2003(火)

◇からっと晴れ上がる.いいねー.

いろいろ本が届く――大屋幸世『蒐書日誌・四』(2003年11月25日刊行,皓星社,ISBN: 4-7744-0356-3)と植草甚一『コラージュ日記(1):東京1976』(2003年10月22日刊行,平凡社,ISBN: 4-582-83186-9)と同『コラージュ日記(2):ニューヨーク1974』(2003年11月25日刊行,平凡社,ISBN: 4-582-83187-7).※『蒐書日誌・四』は予想通り2002年の1年分の日記.これからは毎年「年報」のように出されるのだろーか.『コラージュ日記』おもしろ過ぎます.この〈J・J〉爺さん,ぶっ飛んでる.なになに『一ぺんに五十冊くらい買わないと買った気がしない』やて.ほんま,ええ人やないかあ.

◇天気よしなので,近くの羽成公園までお散歩.『コラージュ日記(2)』をベンチで読む読む.ニューヨークで本の買いまくり.いったいこのおっちゃん....

◇岩波書店の予約出版アレクサンダー・フォン・フンボルト『新大陸赤道地方紀行・下』(2003年9月26日刊行,岩波書店,ISBN: 4-00-008851-3)も届く――というか,ずっと前に書店に届いていたのだが,〈10,000円〉という定価にビビって今日まで引き取りに行かなかった.結局,フンボルト本は全3巻でしめて「8,400(上)+10,000(中)+10,000(下)=28,400円」なりぃ(本体価格).

◇天気がいいと仕事もはかどる(よーな気がする)――『植物育種学辞典』の最後の項目〈進化論〉を書き上げる.これですべて終わり.あとは指定の書式で文書ファイルをつくるだけ.

――ところがところが,この「だけ」で一苦労.執筆要領を読み直してみると,「原稿は,MS-Wordもしくは一太郎を用いて〜」しかも「原稿用紙はA4(25字×12行)とし,上部と左右の余白をそれぞれ3cmほどとること」.盛り下がる.まさか組版を〈MS-Word〉や〈一太郎〉でするわけないだろうし,刷上りの書式を指定する必要はどこにもないはず.この点,共立出版『生態学事典』の執筆システム(投稿から査読,修正にいたるまですべてウェブで行なう)はとても洗練されていたとなつかしく思い出す――などと追憶に耽っていてもしかたがないので,全項目原稿を含むテキストファイルを各項目ごとに分割し,その後〈***.txt〉をワードに読みこませて指定の書式設定した上で〈***.doc〉に変換するという単純労働にいそしむ.で,編集部への返送に際しては,と:「フロッピーディスクにはオリジナルのファイル[Word/一太郎]とテキストファイルの二つの形式で保存したものを入れること」だって....げ,〈***.txt〉だけでええのんちゃう?(きっと) 徹底的に盛り下がる.※日常的に降ってくる「一太郎で提出せよ」という理不尽な事務通達にはすべてpdfファイルの返信で徹底抗戦してきたのにね(あるときなんぞは〈***.pdf〉というファイル名を〈***.jtd〉と書き換えただけのものを提出したりした).

◇小川眞里子『甦るダーウィン:進化論という物語り』さらに読み進む――第1章はダメだという結論に達する.現在の進化生物学に対する知識が著者には不足している.要所要所で〈構造主義生物学〉への言及や引用がなされているのはご愛敬としても(Brian Goodwinみたいな観念論者を引用してどーするの?とは思うが)――

「進化理論は系統発生の再構築において驚くほど小さな役割しか果たしていない」というのが,偽らざるところなのである.(p.22)

と書いてあるのには心底ビックリする.相当な〈pattern cladist〉であってもここまでは言わないだろう.もちろん,最尤法に基づく系統推定をしている人ならば,即座に〈レッドカード〉を飛び越えて〈退場処分〉を出しているはず.

◇著者は,「進化理論」にはさまざまなレベルのものがあって,それぞれに経験的テストのあり方が異なっているのだということがわかっていないのだろうか.進化(descent with modification)そのものも「進化理論」だし,遺伝子頻度変化という意味での自然淘汰も「進化理論」になりえる,もちろん塩基やアミノ酸の進化的置換の確率モデルだって「進化理論」,地理的分布の「進化理論」もある――そしてそれぞれの「進化理論」は程度の差は異なってもテストされ得る.自然淘汰ならば一般的な“力”の理論として〈general law〉に近い性格をもつだろう.著者は物理学など典型科学での「法則」が進化学には適用されないということから,一気に「進化理論」ではなく「物語り」だという結論にいたっているように見える.それはまちがいだとぼくは思う.

◇こういう「まちがい」だけであればまだいいのだけれど,より懸念されるのは,著者の専門であるはずの歴史学に関する「読み」にもヤバいところがあるようだ.詳細な注がついているので,原典をたどるとそのあたりのことも浮き上がってくる.〔to be continued

◇本日の総歩数=14800歩.※植草甚一ウォークが効きましたか.


1 december 2003(月)

◇昨日いったんはあがったはずの雨は,夜から朝にかけてまた本降りに.うっとおしいが,寒さが和らぐだけ朝型にとってはラク.5時起き.

◇昨日からの続き――生物学における〈超越論〉について:Philip F. Rehbock『The Philosophical Naturalists』の内容に沿って,イギリスでの事例をまとめておこう.

◇ざーざー降り続く中を傘さして4kmのお散歩.とうぜんのことながら,ずぶ濡れ.何やったはるのん? >ぼく.※圃場の端っこで真っ赤に熟れたカラスウリが雨に打たれていました.

◇東大生協書評誌『ほん』から督促――くらもとさん,ごめーん.今日中に4段分送りますぅ.グールドの初期の本3冊をとり上げる.わ,また電話,え? 書評タイトルをどーするか? はいはい,いま決めましょう――〈グールドのデビューは2回あった〉.ゆかりさん,これで今日の編集会議よろしくっ.
――ひ〜〜と言いつつ速攻で書き上げました→「グールドのデビューは2回あった」.※まずは一丁上がりっ.

◇〈超越〉する――はい,超越論(transcendentalism)ということばをRehbockは超越論的観念論(transcendental idealism)と同義で用いているようです.

◇夜になってやっと雨が上がった.これで寒くなるか.あ,EVOLVE / BIOMETRY への月例報告を忘れたぁ.

◇本日の総歩数=14084歩.※雨に歩けば.


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