【書名】ポパーとウィトゲンシュタインとのあいだで
     交わされた世上名高い一〇分間の大激論の謎

【著者】デヴィッド・エドモンズ,ジョン・エーディナウ
【訳者】二木麻里
【刊行】2003年01月23日
【出版】筑摩書房,東京
【頁数】iv+392+vi pp
【定価】2,900円(本体価格)
【ISBN】4-480-84715-4
【原書】David Edmonds & John Eidinow 2001.
Wittgenstein's Poker: The Story of a Ten-minute Argument
between Two Great Philosophers.
Deutsche Verlags-Anstalts, Stuttgart.
【備考】訳者あとがき他 http://ariadne.ne.jp/poker.html



【感想】※Copyright 2003 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

ウィトゲンシュタインが暖炉の火掻き棒を振り回してポパーとやりあったという「事件」は,いしいひさいち著『現代思想の遭難者たち』(2002,講談社)にもパロディ化されているほど有名な「事件」である.しかし,その真相はどうだったのかはこれまで闇の中だった.

本書は,その「火掻き棒事件」があった1946年のケンブリッジ大学でのセミナーへの参加者のインタビュー,内部資料,書簡などを通じて,その実像に迫ったドキュメンタリーである.ジャーナリスティックな「煽り」が鼻につく箇所もあるが,全体としてたいへんおもしろい内容だと思う.

ウィーンのユダヤ系の出自をもつポパーとウィトゲンシュタインが,ともにナチスを逃れて母国をあとにし,第2次世界大戦の終戦間もないイギリスで出会うまでの経緯を詳細にたどっている.とりわけ,論理実証主義による統一科学を目指したウィーン学団においてウィトゲンシュタインとポパーが占めた位置のちがいが後々まで尾を引くことになる.

「火掻き棒事件」の勝者は誰だったのか?――著者はこの点に関して断定をしてはいない.むしろ,そのセミナーに同席した関係者たち――バートランド・ラッセルも重要な脇役としてそこにいた――がどのような思惑で寄り集まってきたかという背後関係の方がはるかにおもしろい.ポパーは自伝でウソをついたのか,ウィトゲンシュタインはポパーの何に対して激昂したのか,ラッセルはその事件をどのようにとりなそうとしたのか――本書を読むことで意外な背景が広がっていることに気づかされる.


【目次】
第一章  「火掻き棒事件」 5
第二章  くいちがう証言 12
第三章  ウィトゲンシュタインの魔力 34
第四章  魔法つかいの弟子たち 43
第五章  第三の男,バートランド・ラッセル 55
第六章  ケンブリッジ大学哲学科 79
第七章  ウィーンという都市 99
第八章  ウィトゲンシュタイン宮殿のコンサート 109
第九章  かつてユダヤ人として 124
第一〇章 ポパー,『わが闘争』を読む 141
第一一章 すこしだけユダヤ人 149
第一二章 ルキ坊やの活躍 159
第一三章 哲学者シュリック,ウィーンに死す 187
第一四章 ポパーとウィーン学団の関係 217
第一五章 燃えあがる松明のような男,ポパー 229
第一六章 裕福で哀れな少年,ウィトゲンシュタイン 244
第一七章 学問界でキャリアを築く 269
第一八章 哲学的パズルという「謎」 285
第一九章 H3号室で問題になったこと 311
第二〇章 「悪しき哲学者」対「大嫌いなテーマ」 322
第二一章 「火掻き棒事件」の夜を再現すると 326
第二二章 真相解明に挑む 347
第二三章 すべてのものに栄光を 365

訳者あとがき 373

日本語の文献 379
関係略年譜 384
人名索引 [i-vi]