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日録2003年6月
●30 juni 2003(月)
・やり上がったりやり残したりしたもろもろの事どもをかかえつつ,もう月末.連日蒸し暑い.でも,職場の集中管理空調が今日から試運転を始めたので,居室内の気温が急速に下がっている.午後3時で摂氏23度なり.
・いま手を伸ばすのは禁物かな――小坂井敏晶『異邦人のまなざし:在パリ社会心理学者の遊学記』.前著『民族という虚構』(2002年,東京大学出版会)を読んで,その視点に共感するところがあった.著者はぼくと世代がほぼ同じなので,その半生記は魅力的かもしれない.著者自身も言うように,ぼくらの世代で〈自伝〉を書く機会というのはまだ少数派だろうからね.
・夜中に東大の倉本さんから科学論原稿の改訂についてのメールあり.『生物科学』の初校がもうすぐ出るので,それに加筆修正してほしいと返事.単行本にもなった毎日新聞の連載〈理系白書〉の「私の提言」に記事が載るのだそうな(近日中).
・うー,月末のドロナワ.リミットぎりぎりに進化学会大会の参加費を振り込む.
・午後は〈Bogen〉の公開打合せ――1000-OTUで3分,3000-OTUで30分ほどの計算時間.すっぴんの〈Bogen ohne branch-swapping〉でさえ,平均的に言えば,TBR-swappingをともなうPAUP*よりもいい最節約スコアがより短時間に出るようだ.このあたりをアピールすることで一致.Hennig XXIIの発表に合わせて,デモするデータのサイズとか期待計算時間について話し合う.あとは,時間をすごく喰うbranch-swappingのアルゴリズムをどこまで改良できるか?→〈Bogen mit branch-swapping〉の完成はまだ先か.あと,国内外での販売戦略について討議.
・Hennig XXIIまであと3週間.進化学会福岡大会まであと1ヶ月.
・うう,原稿が不良債権と化しているぅ〜.へこむ.眠たい.
・本日の総歩数=7883歩.
●29 juni 2003(日)
・ばたばたしていて,うっかり忘れていたブックポータルの新刊チェック→TRC週間新刊リストからのセレクション1330号
・「科学論」原稿――そろそろマジにならへんとまずいぞ.農環研英文広報の原稿も30日締切――ますますよくない.各地を徘徊しすぎたか.月末になると締めつけを感じる今日このごろ(月が変わったら即リラックスするのん?とかいうツッコミはなしね).
・近所の書店での収穫――東子・カウフマン『虫取り網をたずさえて:昆虫学者東子・カウフマン自伝』(2003年4月10日刊,ミネルヴァ書房,ISBN:4-623-03816-5※このメルヘンちっくなイラストはいったい...)/エリック・ジッリ『洞窟探検入門』(2003年3月10日刊,白水社,文庫クセジュ,ISBN:4-560-05860-1※洞窟学の本は久しぶり)/小坂井敏晶『異邦人のまなざし:在パリ社会心理学者の遊学記』(2003年5月15日刊,現代書館,ISBN:4-7684-6854-3).
・『洞窟探検入門』はいわゆるケーヴィングの技法についての入門書なので,ぼくの関心からは少しズレる.本当は〈洞窟生物学〉が読みたいのだが,最近とんとないですねえ.生物系の洞窟学の本――上野俊一・鹿島愛彦『洞窟学入門』(1978年,ブルーバックス)とか吉井良三『洞窟ことはじめ』(1968年,岩波新書)をわくわくしつつ読んだのはもう四半世紀も前のことだ.いずれも現在では絶版になっていて,古書でも入手困難だと聞く.
・洞窟生物学(biospeleology)――この言葉を耳にして最初に想起するのは,Vandelの教科書(A. VANDEL 1965. Biospeleology: The Biology of Cavernicolous Animals).500ページもある古い本だが,テーマが魅力的なのでそのうち実物を手に取ってみたい本.松田隆一の『腹』本(1976)と同じく,Pergamon Pressの叢書International Series in Pure and Applied Biologyの1冊.洞窟生物学といえばフランスが直結する.そういう伝統があるのかな?
・洞窟関連サイト――日本洞窟学会.上記新刊『洞窟探検入門』には,世界中の洞窟サイトが載っている.自分で洞窟にもぐりこもうとは思わないが,そこに何がいるのかは興味津々.深海底のチムニーやギアナ高地のテーブル・マウンテンと同様に,隔離された環境にいる生物相には好奇心が湧く.
・そういう〈裏〉〈隅〉〈奥〉〈暗〉というキーワードに惹かれるワタシは何者?
・本日の総歩数=6985歩.※最近1万歩を越えない....
●28 juni 2003(土)
・起きてもまだ肩の打ったところがしくしくと痛い.寝返りをうつとずぎずきする.ラジオ体操のマネをすると胸の筋肉が「くいーっ」と痛い.くしゃみした日にゃ七転八倒(まじ).やばいかもしれない.天罰覿面であるという天の声もどこかから聞こえたりして....
・ウンベルト・エーコの『カントとカモノハシ』の下巻がようやく新刊宣伝に載りはじめた(〈これから出る本・7月下期号〉).そろそろ買わないとね.ISBN:4-00-022431-X.1行コメントは「分類学のカテゴリーに含まれる過程」――買おう買おうすぐ買おう.>N部くん.
・他にも食指が伸びそうなのは――1)David Wigginsの元妻である石黒ひでの『ライプニッツの哲学(増補改訂版)』(岩波書店,7,300円,ISBN:4-00-002420-5)かな.でも,値段があ〜.2)スティーヴン・ピンカー『心の仕組み:人間関係にどう関わるか(下)』(NHKブックス972,870円,ISBN:4-14-001972-7).上巻(ISBN:4-14-001970-0)と中巻(ISBN:4-14-001971-9)は既刊(各1,160円).下巻だけ値段がちがうのはどーして? 出版に時差があるのはどーして?
・本日の総歩数=5815歩.
●27 juni 2003(金)
・未明から〈sub-SET〉を読み進む――去年のうちに読んでいた部分の復習.全体のレジュメだけで90ページ(第1章)はやっぱり多過ぎ.鉄の胃袋がないと,このアンティパストだけでもう満腹するはず.すでに日本にもかなりの〈SET〉が方々の本棚に並んでいるはずだが,はたしてどれくらい読み進まれているのかちょっと気になる.ノリとしては,ウィルソンの『社会生物学』みたいなもんかな(ちがうか?).いずれにせよ,日本(あるいは世界)での〈SET〉の受容のされ方は,だれかが跡づけておく価値があるだろう.
・第2章で,グールドは歴史科学の方法論の確立者としてダーウィン(の『種の起源』)を描いている.グールドは,3層のレイヤーをかぶせることにより『種の起源』の意義を説いている(pp.103ff.).第1層は博物誌としての記録という意義;第2層は進化学の方法論のマニフェストとしての意義;第3層は一般の歴史科学における推論様式を確立したという意義である.第1層から第3層にむかって普遍性のレベルは高まるわけだが,それとともに読みこみの深さは増すことになる.
・「第1層」についてはもうすでに周知のこととして,グールドは「第2層」を明示した先人としてマイケル・ギセリンの『ダーウィン的方法の勝利』(1969)を挙げている.この本はダーウィンの推論がポパーの仮説演繹的方法に準拠していることを示そうとした古典(こういう本こそ邦訳されるべきなのだが――ジョージ・ウィリアムズの『適応と自然淘汰』(1966)と並んで>訳師さま,よろしくっ).
・グールドはポパーがきらいなので,ギセリンの立論に対しても方々で批判している.しかし,ダーウィンの著作が一貫した【方法論】をもっていることを指摘した点でギセリンには間違いはなかったのではないか.グールドだってその点は認めているから.
・焦点となるのは「第3層」――歴史科学の方法論を確立し,その実践的手法を定式化した点でダーウィンを高く評価するグールドは正論を言っていると思う.この部分は,もともと1986年に発表された論文(American Scientist, 74: 60-69, 1986)の中での主張をカット&ペーストしたものだ(膨らんではいるが).歴史推論のための4原理(uniformity / sequencing / consilience / discordance)は,グールドの考えをうまくまとめている表現.歴史科学は決して2級科学ではないということ――同意.
・〈SET〉を読み進むにつれて,過去のパッチワーク既視感が次々に現れては消えていくのだろう.
・昨夜,とあるシンポジウムの全演者が急転直下で決定したので,すかさず琵琶湖博物館を急襲し,担当者と今後の打ち合わせをする――JR草津から路線バスで20分あまり.こんな畦道みたいな細い道にバスが入り込んでええのか?という心配も対向車がぜんぜんなかったので杞憂に終った.琵琶湖博物館,ウツワが大きいっすね.湖岸に張りつくようなロケーション.水族展示――楽しませていただきました.ビワコオオナマズは「VIP待遇」でした.「鯰さま」の御利益にあやかって,「なまずの天丼」なるものを館内のレストランで賞味したり...(ん?バチが当たるか).
・でもって,本論の「とあるシンポジウム」――昆虫分類学若手懇談会主催【太田邦昌追悼シンポジウム】は,このように決まりました.日時だけがまだ不確定ですが,演者・演題はこれで確定.昆虫学会大会に行くのは何年ぶりかな.会場となる東京農大・厚木キャンパスは治安が悪いそうですが,なにかケダモンでも出るのん? シンポの要旨締切とか,シンポ後のこととか打合せをして,仕事はおしまい.
・せっかくここまで来たんやけど――隣接する水生植物園のハスはまだ咲いていないとのことで,ショップで淡海文庫をば2冊ゲット:『ふなずしの謎』と『鯰――魚と文化の多様性』.「ふなずし」本の方は1時間で読了.ふなずしって,朝鮮半島→小浜経由で大陸(雲南省)からはいってきた「なれずし」の日本における祖先だと書いてある.ミュージアム・ショップにはふなずしのパックがちゃんと売ってました(えらいっ).ふなずし,喰いたい.でも,高い(涙).
・帰りの新幹線の中で「なまず」本も読了.水田漁撈についてのユニークな論議が展開されている.個人的には「鯰絵」の読み解きの方が印象的でした.返す刀でKyoto Mosaic 002『京都大衆酒場』(2003年4月10日刊,青幻舎)も読み終わる.スタイルとしては,東京版の『下町酒場巡礼(正・続)』(今は亡き四谷ラウンド)に近いかな(この2冊はモノクロ写真だもんで,リアルさバツグンだけどね).それにしても裏寺町のスゴサを実感.おそるべし〈〉.昔,大学院にいた頃,父親に連れられて裏寺町のある大衆酒場の暖簾をくぐったことがある(店の名前を失念).当時,会社勤めだった父親にはなじみの店だったらしい.どういう心境だったのか訊いてみたい気もするが,ずるずると年月ばかりが過ぎてしまった.
・そんなこんなでぐでぐでになりつつも,つくばに生還.疲れた〜.
・本日の総歩数=11006歩.
●26 juni 2003(木)
・いずこかよりやってきた『ケルズの書』にしばしハマる.この写本の細密画は目眩いがしそう――活字がいつの間にか図像になって,また再び活字に戻る.はたしてこの本,読むためにあるのか,見るためにあるのか.訳者である鶴岡真弓の『ケルト/装飾的思考』(1993年,ちくま学芸文庫)をかつて読んだときも,ケルト美術の組紐模様の緻密さにくらくらしたことを覚えている.しかし,『ケルズの書』の原色図版を見入ったときの色彩感覚はさらに強烈.この特徴あるケルト書体(マジェスキュル)に絡みつく動植物や人間や天使たちはあまりに異様過ぎる.でも,「絵文字」ならぬ「文字絵」をひとつひとつ丹念に眺めるのは愉しい.
・段落冒頭のドロップキャップにさまざまな装飾が施されているのを見ると,かのスパンドレルの装飾との対応を想起してしまうのだけれど,これってグールドの主張に対するconfirmなのかそれともdisconfirmなのか.
・そういえば,ケルト風フォントをフリーで配布しているサイトがどこかにあったなあ....
・『生物科学』誌の次号から新しくオープンされる予定の「みなか書評コーナー」のゲラをチェック.げ,まじでイラストを入れるんですかあ? うまく描け過ぎているという一部の評ですけど(ちがうポーズがあってもいいとか).
・グールドの〈sub-SET〉を何束か抜き取ってひたすら西へ出奔〜.
・揺られつつ読了――Kyoto Mosaic 004『京の古本屋』(2003年6月1日刊,青幻舎).うわあ〜,ものすご奥深いやん.アスタルテ書房とかキクオ書店とか.
・ケルトづいた今日のフィナーレは,もちろん〈The Hill of Tara〉にて.うむ,キルケニーもギネスもおいしいやんか.ミートパイもなかなか.ムール貝のワイン蒸しはいまいちでしたぞ.ブレッドOK.あがりのアップルパイがとっても美味でした.お〜い,酔っぱらうなよお.なんとも,アイリッシュな夜.それにしてもこのボリュームはいったい...(満腹).
・ざあっと降ったかと思うと,晴れ間がのぞく変な1日.
・本日の総歩数=7405歩.
●25 juni 2003(水)
まさに「グッドタイミング」――『Harper's Magazine』の今月号に翻訳もされている『ドードーの歌』の著者David Quammenによるグールドの『進化理論の構造[SET]』の書評が載っているそうだ.オンラインではすでに更新されていて,キャッシュでしかこの書評のさわりの部分を読めないのだが.なるほど「知り過ぎた男」とな.
・考えさせられるなあ――「この本は,グールドにとっての『フィネガンズ・ウェイク』である.崇拝はされても読まれることを拒む運命を負った本」とは.確かにね,内容もだけど,1433ページというボリュームはあまりに威圧的.でも,だからといって読まない理由にはならない! ベゴン他著『生態学』だって1304ページあるし,いま人文系で話題になっている5月新刊のトムソン著『イングランドの労働者階級の形成』だって1360ページもある.だから「1300〜1400ページ」の本なんてちっともめずらしくないぞー.(ほんまかぁ?)
・ただし,こういう【凶器本】あるいは【神棚本】に共通するのは,持ち歩きにとても難儀するということ.ノートパソコンでさえ1kgそこそこのご時世に,3kgもの本を持ち歩くのは理不尽だと個人的には思う.おまけにブロックみたいにかさばるし.でも,大きいだけならバラせばいいのですよ.
・というわけで――さっそく『SET』の解体作業にとりかかる.幸い『SET』はハードカバーを2冊買ってあるので,そのうち1冊をバラバラにしても,どうということはない.デズモンド&ムーア『ダーウィン』の原書(ペーパーバック)も章ごとにばらばらに解体して読み歩いた経験があり,その快適さは体験済み.うふふ,いまバラバラにしてあげるからねー.
・まずはハードカバーをはがして,のどの部分で切開し,本体を分離する.はなぎれをめくって,束ごとに分離して――奮闘30分の末,元SETは,みごと「31冊のsub-SETs」に分割されたのであった....各〈sub-SET〉は平均90グラムほど.こりゃ持ち歩きがラクちん!
・『生態学』を踏破し,『磁力と重力の発見』を征服したいまとなっては,『SET』が残された最後の未踏峰かっ! 「なぜ登るのですか?」「そこにがあるから」(爆)
・今日は筑波事務所で献血――さあて,400ccほどワルイ血ぃでもヌいてもらおか....いえ,いい血だけ取っていいのよ.でも,いつものことながらブスっと刺されてから満量になるまでの時間が「常人」よりも有意に短いのだそうです.「まあ,もういっぱいだわ」という看護士さんの軽い驚きを聞くたびに,「ほれ,やっぱし‘体積’が常人とちがいますやん」とツッコミたくなる.
・体重がちょっとだけ軽くなり,いきなりのどしゃぶりの中,ぬかるみでふら〜っとしてこけたりして.あたたた,ガードレールで胸打ってしもたあ.痛.
・クリスティーズでゴッホの作品が高額落札されたそうな.とくに,長らく行方知れずだったというこの絵は,あのアルルの〈黄色い家〉(1888年)のスケッチにあたるペン画ですね.ゴッホの書簡集(オランダ語版日本語抄訳版)にも載っている絵.
・午後になって,急速に晴れてきた.明日は天気回復か.
・裳華房から『生物の形の多様性と進化:遺伝子から生態まで』の見本刷が2冊届く――一般書店では今月下旬から配本するので,店頭に並ぶのは来月はじめとのこと.各章のページ数をチェックしたところ,ブライアン・グッドウィン御大の次にたくさん書いてしまったのはワタシ.ひぇー.
・毎日新聞科学環境部編『理系白書:この国を静かに支える人たち』(2003年6月20日新刊,講談社)も届いた.bk1の7月書評本.〈理系〉の世界を裾野にいたるまで調べ上げたレポート.情報量は多そうだが,まとまりとか深まりはどうかなあ.サミュエル・コールマンの『検証・なぜ日本の科学者は報われないのか』(2002年,文一総合出版)は,単一著者の視点が安定したいい本だった.つい,これと比較してしまいそう.
・本日の総歩数=9481歩.
●24 juni 2003(火)
・雲が厚くなってきたと思ったら,ざーざーと本降り.西の方は明け方から大雨だったそうな.
・〈Hennig XXII〉事務局から,講演申込受領のメールが届く.あとは講演内容だけさ(汗).
・うむむ,月末が近づくとともに,また堆積仕事が.少し弱りはじめた.パーフェクト忘却の辞書は番外として,科学論の原稿,農環研の欧文年報原稿,etc.――ますます弱ってきた....
・前に買っておいた高宮利行『西洋書体の歴史』(2001年,慶應義塾大学出版会)なんて本を舐めてみる.いいっすね,こういう大版の本というのは.原寸大という魅力.人間の手になる文字は原寸サイズで観察しないと,よく味わえない.レイデンの古代史博物館(Rijksmuseum van Oudheden)で楔形文字の刻まれた石板の現物を見たとき,その文字の細かさに驚いたことがあった.つい,日頃から「拡大図」に慣らされてしまうと,こういうギャップにどぎまぎする.いっしょに『ケルズの書』も見たい見たい見たい.
・原稿書きます書きます書きます.(おい,壊れるなよっ)
・本日の総歩数=5715歩.
●23 juni 2003(月)
・未明の最低気温が18度! まあ,さわやかなこと.
かりりと書き上げるはずの『磁力と重力の発見』書評は意外と大仕事でした.やっと書いてアップしたら,「書評者クレジットが入っていないぞ」というご指摘が.さっそく「Copyright 2003 by MINAKA Nobuhiro」なる御札をぺたぺた貼り付けることに.
・自分としては読了にずいぶん時間をかけてしまったと思ったが(8〜22/Juneの2週間),客観的にはそうでもないのかな.ま,いずれにせよ,いい本は読まれる権利があるし,読む義務がある.もってる人は遠隔操作されないうちにさくさく読みましょう/もっていない人は延髄反射で買いましょう.
・それにしても,この涼しさはいったい何なんだ! 夏至を過ぎたというのに.といっても,快適で個人的にはウレシイのだけれど.快適な一因には,きのう髪を切ったこともあるのかな(あくまでも散髪であって,断髪とか剃髪ではないので,誤解なきよう).
三月書房のサイトを眺めたりする.微妙にタイムスリップした感覚がいいですね.寺町二条の店自体もすこしズレていて,ポイント高し.〈冨山房百科文庫〉ね.こういうタイプの新書はもう出てこないかな.薄田泣菫『完本・茶話』とか,ゲーテ『自然と象徴』,マクスウェル『カワウソと暮らす』――大学に入ってすぐに買ったものばかり.そうか53まで出たのか.うーむ,〈最近消えた出版社の本〉か....タイトルは「消えた」だけど,htmlの方は「つぶれた」になっている(哀)――ペヨトル工房,京都書院,博品社etc.※ペヨトル工房は「つぶれた」とはいいがたいが....
・ほとんど「現実逃避」のまま,午前零時を迎える.(ゲンコーという空耳が聞こえ....ゲンコー,ゲンコー...)
・日が変わって通り雨.
・本日の総歩数=5414歩.※うう,歩いていない....
●22 juni 2003(日)
・気温が高くても,湿度さえ低ければ,なんとかしのげる.今朝の室内は湿度58%.ま,不快ではないな.
・でもって,怠りなく新刊チェッ〜ク→TRCブックポータル新刊チェック(1329).
・今日は,自宅カンヅメとなって原稿書き...と言いたいところだが,実は読書専念デー――はいはい,読了しましたよ,山本義隆『磁力と重力の発見』全3巻1000ページ登攀成就! もちろん,瀬川裕司『美の魔力:レーニ・リーフェンシュタールの真実』340ページも読了.充実の1日――今日だけで600ページ読めましたわ.
・『磁力と重力〜』の書評文()をかりりと書いてと.
・重力や磁力という遠隔力がどのように理解されてきたのかを綿密にたどった本である点がユニーク.その執拗さは比類なし.ただ,本のタイトルで損をしていると思う.『磁力と重力の〜』と書けば,物理学に関心をもつ読者以外は素通りすると思う.しかし,内容からいえば,ごく一般的な〈自然思想史〉の通史であり,機械論・還元論・存在論・形而上学など,本書全体の通奏低音となっているキーワード群は,他の科学分野の読者をも引きこむはずのものだと推測する.せめて,サブタイトルで「機械論は実は死んでいたのだ」とか「自然魔術が科学に残した聖痕」なんていう煽情的な題名をつければよかったのに.デカルト機械論が使い物にならなかったという著者の見解にはうなずけること多し.
魔術に対する見方は大きく変わった.磁力や重力のような〈隠れた力(virtus occulta)〉を研究するのが「自然魔術」であり,実験的・経験的手法を駆使するその研究スタイルは,現在の「自然科学」そのもの.
・欲張り過ぎかもしれないが,物理学のでの「力」概念の波及についても知りたいと思う.たとえば,生物学でも「力」は多用される――自然淘汰はもともとが「力」の理論だし,発生生物学でもかつての【発生工学】のような「力」(Bildungskraft)をアナロジーとしてもちだした例もある.前成説・後成説の対立に絡む機械論のヘボさかげんは,本書を読むとはじめて理解できる.この点は大きな収穫.
・それにしても――原理的に実験できない「科学」についてはどういう位置づけになるのかな? 物理学は形而上学(存在論)を棚上げにしたからこそ,現代への道を歩んだわけですが,生物学の場合は「存在論」そのものが論議の対象であり続けるわけだもんね.デカルト機械論と対立しつづけたヴィーコのような歴史学者も関わってくるし.
・本日の総歩数=2819歩.※ほとんど固着生物並み.
●21 juni 2003(土)
げ,そ,そんな〜――培風館から刊行予定の『植物育種学辞典』の原稿提出をすっかり失念していた!提出だけじゃなくって,書くこともコロッと忘れていた.きえ〜.過去の書類を発掘すると....【2003年3月末日までにお送りください】(絶句)――今日って6月後半でしたな〜(冷や汗).ほほー.で,項目数は...【32項目】(鳥肌).終ったね(ふ...).ま,できる項目からさくさくと仕上げていきますです.
・ほんと,ここ2,3年の間に,いったい何冊の辞書づくりに関わってきたことか――『複雑系の事典』(2001年,朝倉書店),『医学大辞典』(2003年,医学書院),『生態学事典』(2003年,共立出版),これから出るのは『鳥類学辞典』(昭和堂),『新農学大辞典』(養賢堂),そしてパーフェクトに失念していた『植物育種学辞典』.
・同一執筆者がほとんど同時的に複数の辞書に関わってしまうと(しかも執筆項目にもかなりの重複があるし),テクスト間の近縁性が生じるのは必然の理だろう.もちろん,これらの辞書はすべて記名執筆なので,記述内容の類似性があったならば,それは三中信宏という共通要因に帰すのがもちろん最節約的な説明であり,歴史的な真実でもある.
・しかし,辞書の項目執筆では「無記名」というのがかつてのデフォルトであり(いまでもそうかな?),そのような場合,記述の類縁関係をたどるのは簡単ではないかもしれない.10年ほど前に,静岡大学理学部の阿部勝巳さん(故人)といっしょに,「恐竜解説文のテキスト系譜の系統学」という企画を進めようとしていたときがあった.阿部さん,ぼく,そして筑波大学に移った遠藤一佳さんの3人のグループ.やろうとしたことは,百科事典や辞書に載っている恐竜の解説文を網羅的に蒐集し,テキスト間の近縁性を分岐分析して,特定の記述内容の系譜をたどろうとしたこと.阿部さんが亡くなって企画は立ち消えになってしまったが,阿部さん自身は恐竜関連の資料をすでにかなり集めていたはず.阿部さんの話では,辞書などに載っている恐竜の解説を比較すると,類似する記述がよく見られるとのこと.
・分岐学的に考えるなら,ふたつの異なる辞書における記述の類似性は,1)執筆者が同一(synapomorphy);2)異なる執筆者による偶然の一致(homoplasy);3)借用あるいは剽窃(lateral transfer)のいずれかとなるだろう.辞書項目のテキスト系統の解析とともに,辞書そのものの出版時期(というか,製作プロセス),想定される執筆者の個人史(辞書を書きそうな年代はきっとあるだろう),そして執筆者への依頼のプロセス(人間関係のソシオグラム)についても調べるときっとおもしろいはず.
フォントの系譜についても同じような考察ができるはず.つい最近,「渡邊フォント盗用事件」というのが発覚した.子孫フォントはある祖先フォントをモデルにして製作するそうだが,そこには写本テクストの系統発生と同一のプロセス(共有派生形質の発生)が働くので,その結果としてフォントの分岐分析ができると思われる.いわゆる「フォント・ファミリー」はクレードとしては信頼度が高いが(当然か),ファミリーの異なるフォント間の系統関係の推定は容易ではないだろう.今回の盗用事件では,たまたまビットマップレベルでの「同一性」が指摘されたために盗用が発覚したということらしい.
・鈴木一誌の論集『ページと力』(2002年,青土社)を見ると,「文字は実在するか」という発言がある.系譜をもつ文字は【変化を伴う由来】をするクレードとしてのみ実在すると考えればいいだろう.また,印刷史研究会(編)『本と活字の歴史事典』(2000年,柏書房)には,明朝体活字の系譜をたどった長文の論考(小宮山博史「明朝体,日本への伝播と改刻」pp.233-384)がある.明朝体クレードのなかの祖先子孫関係を精密にたどったレポート.
・うむむ,こういうおもしろい横道にばっかり逸れてしまうと,原稿を書く時間がなくなってしまうやんか.
・今日は,連日の炎天下にもかかわらず,自治会の草刈り清掃日.焦げてきますです.ひー./はいはい,焦げ焦げでーす.植物力――たいしたもんですな.たった一月でぼーぼー.大枝を落とし,植え込みを剪定し,芝を刈り込む.次回は来月――でも,ぼくは日本にいないのさ(マンハッタンで焦げ焦げ).人差し指に名誉の負傷1ヶ所.
・真夏日の昼下がりは活字づくし――山本義隆『磁力と重力の発見・第2巻』読了(そろそろ書評を書かないと).返す刀?で,瀬川裕司『美の魔力:レーニ・リーフェンシュタールの真実』(2001年,パンドラ)を読み進む.おお,なんという映画オタクの本であることか.随所に,リーフェンシュタール映画のシーンがはめ込まれていて,たいへん参考になる.なるほどね,プロパガンダ映画の【技法】ってとっても参考になるなあ.
・本日の総歩数=5907歩.※炎天下作業に免じて許す!
●20 juni 2003(金)
・強風による落枝をかき分けつつ,早朝に研究所へ.朝の最低気温が27度ねえ,今日がとってもユウウツ.
・運営している貸し会議室メーリングリストのいくつかを閉鎖する.これだけたくさん抱え込んでいると,不要になったMLはどんどんカタつけないとね.少しすっきりした――とはいえ,なお15もあったりして.
・David Hullの『Science and Selection』のいくつかの章を再読する――Chapter 10〈That Just Don't Sound Right: A Plea for Real Examples〉.科学にとってだけでなく,科学哲学にとっても,現実の事例(real examples)の方が思考実験(虚構の事例)よりも役に立つのだという本章は説得力がある.なぜ重要なのか――それは現実の事例だけが証拠(evidence)として機能するから.科学論の言説どももまた空論ではなく実例に照らしてテストされる必要があるということ.可能世界に逃避する前に,現実世界にこだわろうという主義.ぼくの原稿の柱でもある.
・一念発起――炎天下をものともせずに,プチ・ウォーキングを3kmほど.それにしても暑い.ぐうぅ,暑い.
・同じくHullの続く章を読む――Chapter 11〈Studing the Study of Science Scientifically〉.科学にとってだけでなく,科学哲学にとっても,仮説のテストは必要だと彼は主張する.もちろん,そのテストは容易ではないとHullは何度も強調するが,それにもかかわらず「やってみるべきだ」という.言明のテストという点では,科学と科学論は同じ土俵に乗っている.これを【科学主義】と誹ることは不可能である.科学はテストと同義語ではないから.彼が言わんとするのは,科学論もまたテスト可能であれというしごく当然の主張だ.
・気温は快調に上昇し続け,西日の射し込む午後3時,居室の気温は摂氏32度に.否も応もなく,荷物をまとめ,さくさくと退散→即帰宅.夏場はつねにこういうライフスタイルとなる→暑い=逃れる
・その一方で,暑い=辛いなので,ヒヨコ豆のタイ風グリーンカレーを即席でつくる.厚手鍋にグレープシード油を熱し,タマネギとピーマンざくざく炒め,ニンニクそのままぶちこみ,完熟バナナを手ちぎりで鍋へ.炒め終ったら,ヒヨコ豆(缶),グリーンカレーソース(瓶),ココナッツミルク(粉)の水溶きを用意し,すべて上の鍋に投入.3分とはいわないが,以上の工程は10分ですむ.あとは弱火でことことと.※なんだか某「ぎょーむ日誌」のパクリのような食材記録になってしまった....
・『生物科学』科学論特集の原稿書き――文献リストはだいたい仕上がり.原稿を書くときのいつもの習慣で,文献リストが真っ先に完成する.土俵が用意されたという安心感が得られるので.タイトル→文献リスト→本文という作業工程は今回も遵守された.
・科学を自然類(natural kind)とみなす伝統的な考えと,知的活動の雑多な集積(heterogeneous collection)とみなす考えを両極端とするとき,Hullは知的系譜をもつ〈歴史的実体(historical entity)〉として科学を性格づけようとする.体系学の歴史研究を踏まえた認識であることは明らか.ぼくの理解では,科学はグローバルに定義できない(すなわち「自然類」ではない)が,単に知的活動が「雑多な集積」として砂のようにばらまかれているわけでもない.むしろ,科学を,ある系譜で体系化される知的行為の系統(lineage)とみなそうという姿勢――Hull/Ghiselinのいう「個物(individual)」あるいは「種(species)」としての科学というスタンスが明示される.しかし,このラインに沿って進むかぎり,個物や種という科学観は最終的には一掃されて,クレードとしての科学というローカルな進化体だけが残るとぼくは推測する.
太田邦昌・追悼企画さらなる進展?――研究者が一個人としてたどる研究史は,クレードとしての科学を構成する個々の科学者系譜ということになるか.たとえて言えば,host-tree/parasite-treeの関係,あるいはspecies-tree/gene-treeみたいなもの.時空的に限定された個人の研究史には,歴史的にユニークな事象が絡んでくる.その解き明かしができればおもしろいかもしれない.
・本日の総歩数=11253歩.
●19 juni 2003(木)
・『生態学事典』つくばに到着.うむ,立派に仕上がりましたなあ.あちゃー,「辞典」ではなく「事典」だったか.辞典や事典にはいくつも寄稿したことがあるが,どの項目を寄稿したか失念することがよくある.この事典も忘れないうちに,自分の執筆項目をチェックしておかないと――系統学(pp.140-1),系統樹作成法(pp.141-2),統計生態学(pp.419-420),ヘッケル(p.502),メンデル(p.535),そしてグールド(p.128).
太田邦昌・追悼企画の続き――晩年の逸脱につきあっても得るものはきっとないので,進化生物学に直接関わる〈自然淘汰の階層理論〉と〈系統分類学の理論化〉の二つを柱として,企画を組んでみよう.もちろん,昆虫分類学若手懇談会の創設に関わった人だから,その視点からの話題提供も必要.ということで,だいたいの骨格はほぼ決定.想定される演者候補にメールで講演の打診をする.日本昆虫学会の今年度の大会は,東京農大・厚木キャンパスで10月11日〜13日まで.小集会は12日か13日の予定.
・もうひとつ,『生物科学』科学論特集の続き――原稿としては,村上陽一郎・倉本由香利・伊藤正直(序)がすでに手元にあるので,あとはぼくが書けばいいって? プレッシャーですなー(汗).まりまりはどーしたんだっ! 今週中に決着つけたるでえっ.>ぼく.
科学論もまた科学たるべしという基本線にはいささかの揺るぎもないのだが,それをどうアピールするかだけの問題.たとえば,David Hullの論文集『Science and Selection』は格好の素材になるはず.あとはポパー哲学研究会でしゃべった内容をプラスして.
・台風くずれの低気圧に向かって南からの強風が一晩中吹き荒れる.
・5日ぶりに元気になりました.
・本日の総歩数=9400歩.
●18 juni 2003(水)
・またまた強い台風が接近中.当たり年.日本海に抜けるということは,強い南風が入るのかな.
・今日は私用で,朝から東京に出奔.常磐線→山の手線と乗継いで,大塚下車.癌研病院方面へ.蒸し暑い中を2時間の説明会.
・昼過ぎに解放されて,一駅乗って巣鴨下車.とげぬき地蔵のある〈地蔵通り商店街〉に向かったものの,この混雑はいったい....通行人の平均年齢はきわめて高い(当然か).目指す「すがも園」は,店の内外ごったがえし状態で中に入れず.せっかく豆カン食べよと思てたのにぃ.しかたなく,代償行為として塩大福(つぶし餡)を買ってしまう.もちろん豆入りねっ.
・巣鴨から都営三田線で神保町まで.時間があまりなかったので,まずは〈書肆アクセス〉にもぐりこむ.欲しい本は数々あれど,先立つもんが....他の書店ではぜったいに対面できない本たちがここにはあるので,いつも重宝しています.岩田書院の「かっぱ」と「ざしきわらし」の民話集――初版700刷か:すぐなくなるでしょう.知里真志保の書誌――思わず手ぇが.無明舎出版の温泉本とか,ミニコミ誌多数.眼福ですな.けっきょく,佐野眞一(2003)『宮本常一のまなざし』(みずのわ出版,神戸)を購入.(※帰宅後,サイトをチェックしたらsumus別冊として「別冊・まるごと一冊中公文庫」ってのが入荷していた――買い損ね,きー.)
・ここまでくれば,ランチは当然〈共栄堂〉でキマリ.いつものようにポークカレーの大盛りを注文.これでやっと読慾と食慾を満たす.らっきょうがおいしい.
・そうそう,書肆アクセスの場所を知らないという人がいるそうですね.まあ,いちおうすずらん通りに面してはいるものの,間口が狭いしねえ.→こういうお店ですよ.
・往復の電車の中では,伝記『Riefenstahl』を眺める.アドルフ・ヒトラーがにこにこと笑っているぞ.この本もまた昨年夏からの年越し本.やっと映画〈意志の勝利(1935)〉まで終わり.ナチスのプロパガンダ映画を監督したとされるこの女性.言動からして,演技なのかそれとも虚言癖があるのか.代表作〈オリンピア(1938)〉まであと少し.
・帰宅後,口直しに『磁力と重力の発見・第2巻』を2章読む.
・なんだか,1日が読む読むで終ったかのよう.
・本日の総歩数=11540歩.
●17 juni 2003(火)
・朝からしとしとと.
・昨日締切の集中講義レポートが集まったので集計して,解答とともにアナウンスする.かつて,東大入試の生物で分子系統樹(アミノ酸配列からの距離法)を描かせる問題というのがあったが,それよりはラクだったはず.
・今年の10月4〜10日につくばで開催される生物多様性情報に関わる合同国際フォーラムは,驚くべきことに参加費無料.だもんで,さっそくオンライン参加登録をすませ,そのついでにポスター発表もしてしまうことに.倒れてもタダでは起きまへんで(まだ倒れてへんて).ワルイ人たちもそそのかして,と.ん,要旨は7月31日締切とな.また仕事が積もった.
・なしのつぶての大学セミナー・ハウスに速達で督促を出して――と思ったら,入れ違いで,転載許可のメールがやっと届いた(あちゃ).これで村上陽一郎さんの原稿はゲット.『生物科学』編集部に送って,さて,ぼくもようやく書き始め...(\ポカ).まりまり,どーするの?
・こまごまとした事務書類をこまごまと書き続ける.ん,492件ではなく,501件? あれま,大台に乗ってしもたやん――だからといってどーということはないのだ.
・きのう読了した『虫こぶハンドブック』について――去年の進化学会東京大会で深津武馬くんが講演していたけど,アブラムシがつくるゴール(虫こぶ)は果たしてホスト植物のもの?それとも作成者たるアブラムシのもの? 延長表現型の立場からいえば,アブラムシのゴール形成に関わる遺伝子が植物体の上で発現したという意味では,ちょうど蜘蛛の巣と同様に,アブラムシのものということになるはず.アブラムシは植物の形態形成と分化に関わる遺伝子発現をコントロールしているわけだろうから.
・ただし,この話には形而上学(=存在の学)としての含意がありそう.植物体とゴールは確かに接触している――というか,明らかに植物体の一部である――から,mereology(部分-全体の関係学)の立場からすれば一体とみなすべきか.でも,部分性(parthood)はもともとデリケートな問題で,接触しているかどうかとある全体の部分をなしているかどうかは分けて考える必要があるということ.Peter van Inwagenの形而上学書『Material Beings』(1990年,Cornell University Press)はこういう論議をするときの格好の典拠(でも,生物学者はまちがいなく読まない).結論はラジカルだけど,よくわかる.あとで,目次をつけておかないと.
・共立出版『生態学辞典』の見本ができたそうだ.すでに発送したので,明日にはつくばに届くだろう.一般には6月25日発売の予定.
・ヒラリー・クリントン自伝のオランダ語訳がもう出ている(『Memoires van een First Lady』).日本は早川書房が翻訳権を取ったそうだが,もちろん速攻で訳すんでしょねえ.
・夕方からは,農環研所内で毎年恒例の〈さなぷり〉:飲むというよりはひたすら食べた.おにぎり・お餅・焼きそば etc.――田植えもしていないのに宴会だけでごめんねー.>稲のみなさん
進化学会福岡大会――ポスター発表をさらに募集しています.あとは,企業からの寄付金集めか....心当たりに打診してみましょ.
・本日の総歩数=12886歩.
●16 juni 2003(月)
・未明からムシムシして.先が思いやられる.
・とりあえず,年度末に届いていたカラープリンター(EPSON 9500C)を今頃になってつなぐ作業.WinとMacに.まあ!きれい〜.うれしがって,マップなんか印刷してどーするっ.
・そーかそーか,タクソン学の講演は科学基礎論学会でやったのですね.もー,奥ゆかしいんだから.え,お前がちゃらちゃらしてるだけだって,わはは,すんまっしぇん.
・東大・集中講義の課題レポートが集まりはじめた.みなさん,とってもマ・ジ・メ.
・「形態測定学・夏の学校」受講希望者はきょうの時点でなんと25名!にも.まだ増えるのかなー.
・大学セミナー・ハウスからの返事が遅いぞ.ン,そんなことより,自分の原稿はどーしたって? 書きます書きますー.
・新刊の薄葉重『虫こぶハンドブック』(文一総合出版)届きました(dank u !).うーむ,すべて〈瘤だらけ〉.なになに,ニガクサツボミフクレフシ,オノエヤナギハウラケタマフシ,ううむう,できれば「漢字表記」してほしかったな.お,ササウオフシも入ってる――民俗生物学ネタですな.
・夕方からある生物地理学会の幹事会のため,午後は東京に出奔〜.
・常磐高速バスに乗って東京駅まで――車中で『虫こぶハンドブック』読了.乗換えて新橋下車.時間があったので銀座〈ヤマハ〉店に直行.バッハの〈無伴奏バイオリン・ソナタとパルティータ〉の楽譜を買う.立ち読みするかぎり,パルティータ2番・シャコンヌ(Ciaccona)のアルペッジォは震えあがるなあ.とてもマリンバで演奏できるとは思えないのだが.
・その後,銀座1丁目の某店で生物地理学会の会合.「えぞ料理・ユック」――ふむふむ,エビやらイカをたくさん食べました,はい.美味.うん,喰っただけかあ?
・散会後,JR東京駅まで徒歩.再び,常磐高速バスでつくばセンターまで.雨が少し降りはじめ.車中,〈無伴奏〉を聴きづめ&譜読み.できるわけないやん....
・本日の総歩数=13010歩.
●15 juni 2003(日)
・からだがばきばきの日曜日.これからはチェーンソーをみだりに振り回さないように注意しよー.きのうの関東地方は今年初の真夏日だったとか.ヤな季節の到来.
・暑気払い?にTRCの新刊チェック→「1328号」セレクション.今週は収穫物多し.
・ハードカバーで以前に出た本が〈ソフトカバー〉や〈文庫〉で再デビューしたとき,さて買うべき買わざるべきか迷うことがよくある.心情的にはかなりフクザツで,「せっかく高い金だして買うたのにぃ,もう文庫オチしやがってー」という生活者ならではの(せこい)感覚があると同時に,〈文庫版あとがき〉だの〈文庫版増補〉だのという付加価値がくっついていたりすると無視するわけにもいかず...というナマゴロシ状態になる.洋書のように,同一本で同時刊行されるハードカバーとペーパーバックの間に歴然とした価格差があれば悩むまでもなくペーパーバックを買えばいいのだが,なまじ時差があるだけにあきらめがつかないことがある.もちろん,書く側にしてみれば,再デビューした方が印税が高かったりとか,初版でのミス訂正ができるという明白なメリットがあるのですがね.
・何よりも,日に日に層が厚くなってしまう〈積読本〉の消化をどうするかが大問題――とくに,読みかけて放り出した本がサイアク.アレって気持ち(読書慾)が萎えるからねー.「新刊情報ゲット→すぐ本を買う→すぐ読み切る→すぐ書評を書く→新刊情報ゲット→...」という運転サイクルのいずれかの部分が滞るともうダメね.再起動するにはとんでもなく気力が必要.
・今日は,そのような積読本2冊を一気にカタつける――1冊は『中国飲食文化』.750頁もある中華料理の文化誌.それはそれは書きまくりの本.漢詩は出てくる,儒教もあり,老壮もちろん,トンポーローまで.奥が深いなんてもんやないですな.脱帽.訳した人も,出した出版社もごくろうさん.ささいなミスは笑って許そう.青土社は「げ」な本も多いけど,いい本もあるから見過ごせない.買ったまま半年ほど積んでおいて,読み始めは昨年夏のヘルシンキ行き機中.年越しの再起動はつらいねー.
・もう1冊は『コーヒーの歴史』.550頁ほどの本.今年はじめに読み始めて,ちょびちょび読み進んだものの,いつのまにかエンスト.正直いっておもしろくないのさ.これはつらい.おもしろい本の読み切りとはちがう忍耐力が要求される.トレーニングのひとつと思ってごりごり読み終えました.ただし,エモーショナル(あるいはノスタルジック)に過ぎるコーヒー本や喫茶店本に飽きたときには,この本に書かれているような「国・企業の駆け引き/政治的な力関係/国際的な交渉・折衝」のハナシはいいのかもね.それにしても,ブルーマウンテンをはじめとして,世界的な最高級レベルのコーヒー豆はことごとく日本が買い占めているというのは,予想されていたとはいえ,やっぱりなと思う.
・というわけで,おおもんを2冊仕上げて,肩の荷を少し降ろす.口直しに『磁力と重力の発見・第2巻』を読み進む.やっぱり『中世思想原典集成』があるとこういうときにたいへん便利.ほんと.
・う〜む,からだがバキバキしてきた.
・本日の総歩数=8342歩.※午後,野球なんかしたりして....うりゃー.
●14 juni 2003(土)
・やっぱり一晩中むしむしして,寝起きがどーも悪い
・Hennig XXII事務局にアブストラクトを送信して,いちおう登録内容をメールしておく.ただし,カードナンバーなどは別途郵送しないと.ホテルは,交通の便を考えて,中心部の Grand Central ステーションに近いところにしましょうかねえ――ということで,Grand Hyatt New York をオンライン予約.ほほ,りっち.これで Hennig XXII 関連の事前作業はほぼ完了.あとは内容(汗).
・日がかっと照りつける暑い最中,PTAの草刈り労働奉仕が朝からあります.今年はスズメバチが多い気がするので,注意しないと....
・まる2時間の勤労奉仕はたいへん重労働であった.チェーンソーを振り回していたら,上腕が棒のようになった.指先は震えるし.シャワーを浴びて,すぐにごろんと昼寝――寝転がっている間に巖谷國士『アジアの不思議な町』(1992年,筑摩書房)読了.韓国のぴりぴりと乾いた空気,バンコクのまとわりつく湿気,カトマンズの「眼」,いろいろと読む箇所あり.著者の反ユートピア論も見ようかな.〈不思議な〜〉という本書タイトルは,ルイス・キャロルの〈不思議の国のアリス〉から取ってきたもの.しかも,〈不思議の〜〉と〈鏡の〜〉はフランス語だと語根が同じだそうだ(p.230).
・昼寝しているうちに天気が悪くなって,夕方からは雨の本降り.
・気まぐれにそぞろ読み――マーク・ベンダーグラスト『コーヒーの歴史』(2002年,河出書房新社):宣伝の争いが印象的.読書進度=302pp./555pp.=54.4%.山本義隆『磁力と重力の発見・第2巻:ルネサンス』:ニコラウス・クザーヌス(1401-1464)の登場.数的思考の広まり.第9章まで読了.森銑三『随筆集・砧』(1986年,六興出版):三遊亭円朝の息子・朝太郎のエピソードと歴史家・幸田成友の回顧.むかし,幸田成友の著書『日欧通交史』という戦前の本を読んだ記憶がもどってきた.日欧といっても,旧蘭領印度における貿易史が中心.そういえば幸田露伴に連なる人だと確認したのは後のこと.他には,ニューヨーク関連の本など.
・夜になってさらにだるさが全身に.ただ寝るのみ.
・本日の総歩数=9642歩.※歩数以上に疲れた....
●13 juni 2003(金)
・うう,明け方から蒸し暑い....仕事にならん.
・ベゴン『生態学』の書評を evolve/jeconet に流す.bk1にも別途整形した書評原稿を送る.登攀顛末はこれにてケリ.
・ぐわあと不快指数が高いので,暑気飛ばしのウォーキングを昼休みに少しばかり.→暑過ぎた〜.4kmでバテバテ.
・げげっ,あの斎藤孝がデネット著『ダーウィンの危険な思想』の翻訳者? マジ? 手元の訳本を確認すると――ほんまやんか....ぐむー,たとえ〈質問力〉はあっても〈翻訳力〉に大いなる疑念が.だって,アレひっでえ訳だもん.
・細胞学者の佐藤七郎さん逝去とのこと.今日がお通夜で,明日が告別式(昭和セレモニー松戸儀式殿)――またまた,思い出話になってしまう.駒場の生物学の授業で初めて「佐藤細胞学」の手ほどきを受けたこと:いまはなきUPバイオロジー『細胞』(第3版,1984年),同じく東大出版会から出た大著『細胞進化論』(1988)そして,岩波の『細胞生物学』(1986)の細胞三部作は今も手元にある.もう一つ,ぼくが大学に入った年に出版された佐藤七郎(編)『現代生物学の構図』(1976年,大月書店)ももっているが,おそらく左翼系生物学論集の最後となった本ではないだろうか.いずれにせよ四半世紀も前のこと.
・佐藤さんとの個人的な接点はたった1回のみ――彼が当時まだ岩波書店から発行されていた『生物科学』誌の編集をしていたときのこと.ぼくが書いた原稿のゲラ直しが予定よりも遅れたために,農学部から理学部まで本郷キャンパスの端から端へ大移動して,佐藤さんの居室のあった理学部2号館に持参したことがあった.眼鏡越しに上目づかいでちろっと覗かれたことをうっすら覚えている.『生物科学』に投稿した最初の原稿だったから,1984年か85年のこと.
・そんなこんなで,またまた後れ馳せの〈Hennig XXII〉の登録と要旨送付に取りかかる.Hennig Societyは締切が直前1ヶ月なので,ついつい遅くなって....ひーひー言いつつも,アブストラクトをなんとか書き終えて,オンライン登録.あとはホテルの予約と参加費か....今回はパソコンでのソフト実演をしないといけませんな.毎年のことながら,1ヶ月前になってようやくジタバタし始める段取りの悪さ.ベンチマーク・テストが渡米までに間に合うかな.
・最新刊の〈Cladistics〉誌をブラウズ――Pablo Goloboff (2003), Parsimony, likelihood, and simplicity. Cladistics, 19(2): 91-103 に注目.最節約法と最尤法の対決もそろそろ哲学の方向に動き始めたか.統計学が哲学と無関係でありえるはずがないので,成り行きとしてはナチュラルな道筋.統計学者が哲学に対してナイーヴなだけだと思う.Pabloさん,せっかく統計学的な最節約法の擁護をしているのだから,AICにもっと踏み込めばいいのにな.
・夜になっても,やっぱり蒸し暑くて,もう....
・本日の総歩数=14134歩.※きょうはなんだかきつかった.
●12 juni 2003(木)
・未明から,しとしと雨.紫陽花が咲きはじめて,彼誰時の郭公で目が覚めた.
ワルイ原稿を読み終えたので,ワルイ人に郵送する.
《リキエスタ・プラス》企画――6月20日に,オンデマンド出版を進めている《リキエスタ》から新しい企画《リキエスタ・プラス》として3冊が出される.そのうちの1冊が佐倉統(編)『佐倉統が読む・進化論のエッセンス』(定価1,800円).新刊『本とコンピュータ・2003年夏号』でその出版予告を見ただけで,内容については何も知らないのですがね.今回の《リキエスタ・プラス》は,東京大学情報学環との共同企画のようです.
・その『本コ』特集のひとつ――『チェコ洪水から書物を救え!』.すごいなあ,この崩れ方.本は確かに「モノ」だ.大きな被害を受けたチェコ国立中央資料館の「洪水被害対策マニュアル」をちらちら見ると,水に浸かった本はとにかく凍結してカビ・雑菌の繁殖を食い止めた上で,乾燥処理にもちこむというのが基本なのだとか.それにしても凍らせるとはねー.濡れたまま放置しておくと,カビ・雑菌などの分解作用により2,3週間で影も形もなくなるそうな.ただし,電子レンジは均一乾燥できないのでダメだとか.確かに内部だけ異様に熱くなったら,困るだろーな.
・昨年,ヘルシンキに国外逃亡していたちょうどその時期に中欧水害.フランクフルトからの帰りの飛行機でプラハからのツアー旅行客が見るからに疲労困憊していたのが印象的だった.
・進化学会福岡大会の残りの講演要旨を書く書く書く.〈非生命体の進化理論〉の要旨をまず書いて,と.もひとつ〈生物学的実体とその階層構造〉も書き上げてと.〈進化する系統推定法の最前線はココ!〉はもう大丈夫やけど...,わ,〈形態測定学・夏の学校〉の要旨を確定させないと.各センセイへの連絡は完了.なんせ博多寄席では高座が多いもんで.
・あれれ,晴れてきたぞー.根性ないなあ.>梅雨前線.
・要旨の書き過ぎで目ぇが痛い....ちょっと休憩して,姿をくらます....ピーターパン吾妻店で予約しておいたシュロートブロート1.6kg1本をゲット.これで当分のあいだランチは食いはぐれない.ドイツ現地で粉が生産中止になったとかで,フォルコンブロートが手に入らなくなったのはとっても残念.
・すでに定評あるアリ類画像データベース2003年版が最新公開されてますね.おおっ,ここまで拡大できるとは.アリまたアリ.
・こまごまとした仕事をこまごまと.さすがにサダムの一撃がおそろしくなって(悪い予感がして),査読に励む.うん,なかなかクリアですなあ.レポートを書き,メールで北の編集部宛てに返信したとたん,大統領閣下から「遅い!」の一言.実に1分の時差.こういう間一髪ってあるんですねえ.
・その後も,大学セミナー・ハウスになんやかんやのおくれ馳せ連絡をしたりとかあ,ニューヨークのガイドブックを見たりとかあ(ニューヨーク植物園ってマンハッタンの北にあるんやねえ),『生態学』の登攀レポートを書きはじめたりとかあ,ま,いろいろして時間が過ぎていく....
・本棚をごそっとずらしたとたんに銀色に輝くものがちょろちょろと! 久々に紙魚くんの登場.本を喰って生きてるなんて,理想郷のバラ色ライフですな,まったく.Silver fishなんてシャレた名前を冠せられている割には,嫌がれてかわいそ.高校の頃,生物の俣野センセに毒ビンに入れた紙魚を持ちこんで,さりげなくイヤがられた記憶が蘇った.
・な,なんと,午後6時を過ぎて,いきなりざあざあと雨が降り出す.せっかく帰ろうというときにぃ.フレックス通り午後3時半にそそくさと退散すべきだったかと後悔――後悔先に立たず;後悔跡を絶たず.それにしても,まあ,ざあざあと.と思ったら,すぐ止んで....フェイントかけるなー.
・『磁力と重力の発見・第1巻』もうすぐ読了.おお,幻視の女性,ヒルデガルト・フォン・ビンゲンが出てきた.アルベルトゥス・マグヌスに,トマス・アクィナス,そしてロジャー・ベーコンも.中世の復権
・ベゴン他『生態学』の書評文を完成.勢いで,『磁力と重力の発見・第1巻』も読了→すかさず第2巻(ルネサンス編)に突入.
・本日の総歩数=7442歩.※雨降ってたし.
●11 juni 2003(水)
・夜半に雨が降ったみたいですが,寝てたもんねー.空の観相だけは梅雨なんですが,まだ宣言はないみたいだし.
・〈琥珀〉余話――OEDでチェックしてみたら,ギリシャ語の「琥珀=ηλεκτρον」の直系子孫は,ラテン語の「electrum」で,英語では琥珀あるいは金銀貴金属を意味する廃語「electron」に変化.手元にあるOEDの初版(1933年)に載ってるのはこれだけ.で,OED補遺巻(1972年)を見ると,現代の意味での「電子(electron)」が1891年のダブリン王立協会のジャーナルに初登場したことがわかる.語源的には「electr[ic]+on」だから,共有派生形質「-on」(ιον:ギリシャ語で「go」の意味;「イオン(ion)」の直系祖先)が付加されたことになるか.こういう調べものをするときにOEDってとっても便利.その昔,神保町で初版セット45,000円+補遺4巻30,000円で買ったときは清水の舞台から飛びましたが,モトはしっかり取っています.
・アーサー・O・ラヴジョイですか?――『存在の大いなる連鎖』(1936年:訳1975年)に続く論集『観念の歴史』が名古屋大学出版会から出ていますね(未見).進化という「観念」の歴史といえば,これはもうピーター・ボウラーの『Evolution』を挙げるしかないでしょうね.サブタイトルを見れば,ラヴジョイを意識していることはありありとわかるしね.こういう研究が出ていることを知れば,ラヴジョイ先生も草葉の蔭から喜んでる...かな? >いかがでしょう,T斗さん.
・久々に Keith Jarrett の〈ケルン・コンサート〉を聴いてしまった....
梅雨入り宣言したとたん,なんで晴れるのん?
ミズーリ植物園の〈デジタル稀覯本コーナー〉には,18〜19世紀の彩色図版入りの博物学書がすでに40冊近くデジタル化されて公開中.予想される通り,植物図鑑がほとんどだが,1冊だけ「植物&蝶」という図鑑があった――ニコラース・メールブルフ著(1775)『Afbeeldingen van zeldzaame gewassen(稀少植物図譜)』.この本は世界中で3冊しか残っていないそうだ.こういう本が間近に見られるのはほんとうにうれしい.手彩色図版にはそれぞれ花と蝶(アゲハチョウ)があしらわれている.著者はレイデン大学の薬草園(kruidtuin)――現在のHortus Botanicus Leiden――にいた植物学者.序文を眺めると,この本が出版された時代は,リンネのイメージが「まだ生きていた」ことがわかります(序文のオランダ語は正書法前の記法).
・きっちり晴天ですがなー.どこが梅雨やねん.
麗面人ご夫妻が10月からつくばに1ヶ月ほど滞在することに.またまた新たなエピソードがつくられるのか?
・あんなに遅れまくっていたはずの原稿がもう出版されるとは!? いやあ,たいへんでしたなあ(>関係者のみなさん).何はともあれ今月末の出版を待ちましょう――『生物の形の多様性と進化:遺伝子から生態まで』(裳華房).
・『形態測定学・夏の学校』のためのメーリングリストを立ち上げる.現在,受講希望者15名.講師もあわせると20名近くのサイズにやっと到達.もう少し宣伝して30名規模にはもっていきたいところ.いつもながら,農水省研究計算センターのML支援体制には感心する.このML支援システムがなかったら,evolve / biometry をはじめとして,進化生物学関連の学術系MLは制度的に成り立たなかったと思う.
某誌の「科学論」特集,まとめを急がねば――編集長,許して〜.まりまり,よろしく!
・本日の総歩数=15231歩.※順調順調.
●10 juni 2003(火)
・今日は年に一度の定期健康診断――はい,節制します;はい,健康管理します;はい,痩せます....気分  もうヘルシー.→でも,バリウムやら炭酸やら下剤やら,たんと盛られて,検査中からもう半病人.昨晩からぜんぜん食べてないのでふらふら.もう仕事になりまへんな,きょうは.(←免罪符)
・ということで,昼休みにパンをかじりつつ,『磁力と重力の発見』第1巻を読み進む.問題の立て方にいたく共感を覚える――大風呂敷な一般論ではなく,「特定の問題の解決や個別的な概念の形成」(p.1)に焦点を絞るという方針だ.この3巻本では,「力」概念の形成,とりわけ近接力と遠隔力の対比がどのように理解されるようになったのかをたどる.
・磁力や重力といった遠隔力は直感的には受け入れがたい.実際,ギリシャ時代にさかのぼって「力概念の形成と発展」(p.4)をふり返ると,「遠隔作用はありえないという常識」(p.6)が根強く,それが力概念の形成を千年以上にもわたって左右してきたことを知る.
・これから読み進むとともに,この対比が大きなウェイトを占めることになるのだろう――近接力-原子論-還元論:力は目に見えない物質の近接作用に還元される/遠隔力-物活論-全体論:力は不可知的かつ霊的・生命的な遠隔作用であるという立場の対立(p.54).まだ第4章までしか読んでいないので展開は予測できないが,「近接力 vs 遠隔力」の対決が基本構図となることは間違いないだろう.
・この著者の確信犯ぶりにも注目――「そもそも本書の執筆それ自体が,僭越をとおり越してほとんど無免許運転にも近い無謀であることは重々承知している」(p.15).呵々大笑がBGM.いいんじゃないですか,無免許運転だって.自分がやらなければ,どーせ誰もやらないんだし.それに「無免許運転」という割には,ラテン語講座に2年も通ったりして,根性の入れ方が尋常ではない.
・そーだったのかっ!――「電子(electron)」の語源が「琥珀(ηλεκτρον)」だったとはね.琥珀を擦ったときの静電気現象(「琥珀現象」)はギリシャ時代から有名だったそうな(p.18).
若懇シンポについては,もう少し再考と詰めが必要か――だいいち,ワタシ,「若手 sensu 若懇」(規約上は「42歳以下」)をすでに外れていますのよ(富山からの神託により気づく).事務局に連絡しないとねー.追悼も大切ですが,何よりもこれからどーするかの方が焦眉の課題.
駒場の殿から御下命あり――福岡大会での分子系統学のビギナー向け講師を斡旋せよと.ふむ〜,大学院生向けの講義はできても,ビギナー向けの高座をつとめられる人材がなかなかいないそうな.ふむ〜,意外な盲点ですな.38秒ほど考えた上で,〈〉君と〈のりピー〉君はいかがですかと返事しておく.入門進化学の話し手が必要なのと同程度に,入門系統学の噺家もきっとこれから必要になるはず.
・う゛,早くもリバウンドかっ!(汗)
・本日の総歩数=18809歩.※久しぶりの雪辱?
●9 juni 2003(月)
講談社現代新書の編集担当氏と打合せ――基本的に「この線で行きましょうか」ということで合意(→だから系統樹!』目次構成).すでに,各地での高座を通じて,噺の内容はおおかた固まっていたので章立ては最初から決まっていた.あとは節に何を詰め込むか.とくに,いつもの講義では,多少とも数式を出さないわけにはいかない箇所(グラフとか統計とか)をどのように切り抜けるかを協議.タテガキの本なので,数式をひとつ出すごとに犠牲者が累々と積み重なることは十分に予想される.編集部としては「たまには量子力学の本のようなのも出しますから」とは言っているが,ぼくの方針としては「数式ゼロ」であることを伝える.図表はたくさん入れましょうということなので,基本方針はこれで確定.あとは...「では,年末までにお原稿をよろしくお願いしますっ」――ひ〜〜(汗).300枚....
・この編集者K治さん,『ケセン語大辞典』と『ケセン語訳・マタイによる福音書』がいたくお気に入りのようで,撫で撫でしたあげく,傍らの『中世思想原典集成』を横目に,「ところで,三中先生はこの研究所ではどのようなお仕事を?」――ま,ふつー,そういう疑念をもつのは当然だわな(慣れてる).
・bk1から新刊『京の古本屋』(青幻舎)届く.最近,こういうビジュアルな古書店ガイドがたくさん出ているけど,そのほとんどが神田神保町のガイドブックで,西の雄・京都の古書店の類書はなかったもんね.ええ本屋がぎょうさんあるやん....ずいぶん前に脇村義太郎『東西書肆街考』(岩波書店)を読んで,東と西の古書店街の成り立ちについて関心をもったことあり.
・山本義隆『磁力と重力の発見』第1巻を読み進む――こりゃおもしろいですな.変なたとえですが,西村三郎とウンベルト・エーコを合体させたような本.世代によっては,著者の名前を耳にするだけで「東大全学連議長」という過去の経歴を思い起こすわけだが,そういう歴史とはまったく関係なく,この本はエンジョイできる.まだ買っていない人は後悔しないうちに決断しましょうね.
・ニューヨークでのホテルを物色する.
・本日の総歩数=7600歩.※身染みて歩けず....
●8 juni 2003(日)
・えー,毎度ばかばかしいお笑いを一席――ん?ちゃうって? えー,毎度ばかばかしい日録を一席――はいはい,それでよろしい.夜半から雷とともに雨が降り始め,いよいよ梅雨なのかもね.
・やっぱり山本義隆の新刊三部作『磁力と重力の発見』(2003年,みすず書房,全3巻)は買っておくべきなのかな.1000ページを越えるそうだが,現物チェックの必要あり.かつての熱学史力学史に続く著者のテーマか.ぼくらの世代では「やまもと・よしたか」の名を耳にしてももう実感が湧かないが,一つか二つ上の世代では〈時代のシンボル〉だったと聞く.
・この秋(10月11〜13日)に東京農大(厚木キャンパス)で開かれる日本昆虫学会大会の小集会企画の一つとして,昆虫分類学若手懇談会主催「太田邦昌追悼シンポ」のオーガナイザーをしてもらえないかという依頼がきている.太田さんに直結する世代は明らかにぼくよりも一つか二つ上の世代なので,ひとりで引き受けるのは適役ではないだろうと迷うところ.シンポの企画と趣旨そのものは首肯できるので,ぼくのほかに上の世代から一人オーガナイザーに引っ張り込むという案を思いつく.演者候補としては,ぼくを含めてすでに3人の名前がちらついている.若懇の事務局にはそう返事することにしよう.
・朝のうちに雨は上がり,晴れ間が.とっても暑いぞ.ありゃりゃ,梅雨は〜?
・東大の講義が終ったいまの時点で,記憶が薄れないうちに「話したこと/話さなかったこと」を箇条書きにした「項目リスト」をつくってみた.意外に思ったのは,全体像のおよそ半分のネタしか高座にかけられなかったこと.洩れ落ちた項目の多さには呆然とする.やはり30時間は必要だということか(通年講義に相当).この項目リストに沿うなら,系統学に関する教科書が1冊書けてしまうことになる.将来の課題としておこう.
欲しい本はためらってはいけない;悩む前にまず買おう.昼下がりの外出時に,つくば中心街の本屋に立ち寄り,みすず書房のコーナーから『磁力と重力の発見』全3巻を巻数もよく確認せず,3冊まとめてわしづかみ,そのままレジに直行.やはり買うべき本であったことを事後確認.まだためらって買っていない人は,目次内容を確認して,ふっきれましょうね.
・ギリシアから現代にいたる力の歴史を描いたこの本は,方々の時代で生物学と接触することになるでしょう.『イヴの卵』での前成説/後成説の背後にも17世紀当時の機械論をめぐる論議があったわけだし,自然淘汰が「力」の理論であるという主張に関しても,「力」という概念のもつイメージを理解しておく必要があるから.とりわけ「遠隔力」というものの考えかたね.
・まず「あとがき」を見ると,とりわけ中世のスコラ学や魔術に見られる物理学思想の跡づけに重点が置かれているようで,これまでの科学史の空白がどのように埋められているのかに関心が湧く.執筆する上で,『中世思想原典集成』がとりわけ役に立ったと書かれているよ(p.941)>N君よろこぶ.
・というわけで,せっかく登攀が終ったと思ったら,早くも新たな登攀が待ち受けているということに.身から出たなんちゃらというか,喉元過ぎればなんちゃらというか,懲りまへんな.成就した登攀のレポート,早く出しますからねー.>S尾さま.
・本日の総歩数=6176歩.
●7 juni 2003(土)
・明日から梅雨入りだそうな.うっとおしいなあ.
・うっとおしくても新刊本は若葉のごとくそこいらで――TRC新刊チェ〜ック→1327.ひさびさにわらわらとたくさん収穫が.柳田国男やらキプリングやら;第三帝国やらパリやら;UFOやら交感やら.
・桂米朝門下の桂米二さんとは京都府立城南高校で同学年だったのですが,今日の夕方からJR京都駅八条口のアバンティで「独演会」を開きます.高校のときから落研で活躍していたので,誰もが納得する道に進んだということですね.米二師匠,頑張ってやー.上手なを聞くたびに,話芸の大切さが身に染みる.野村雅昭『落語の言語学』(2002年,平凡社ライブラリー435)を開くと,「マエオキ」とか「オチ」のもつ意味,筋立てのアゲサゲのしくみがわかる.故・桂枝雀は大した落語家やってんなあ.
・集中講義のアンケートの追加が届く――ほほお,休憩の間隔が多いって.え,哲学系ではぶっちぎり120分一本勝負ですかあ(こわ〜,予備校みたいー).生身の人間が精神集中できる限度は「30分」と心得ているので,1時間ごとにきっちり休憩を入れるよう心掛けています.4時間の集中講義なら,3回の休憩が入るということ.こんど試しに「240分ノンストップ講義」ってのをやってみましょうかねー.次の回から誰も来なくなるよーな気が.
・まだ大学にいた頃に,哲学系のとある雑誌を学内で唯一所蔵している文学部・西洋史学研究室というところに初めて足を踏み入れたときのこと――城門のごとくがっしりした研究室のドアをぐぐっと押し開けたとたんに濃密なオーラが漂う.応対してくれた助手らしき人が声をひそめて「あ,雑誌の貸出しですね.いまセミナーをしておりますので,お静かに」と威圧的な言葉.薄暗い部屋の片隅を見やると,それほど大きくないテーブルを囲むように10人あまり.教授らしき人がドイツ語のテキストをぶつぶつと読み上げ,それを素材にして質疑をしている風.学生・院生,身じろぎもせず――こりゃ別世界だわあ!と場違いなところに来てしまったことを悟った農学部生はそそくさとことをすませて退出した次第.おそるべしテツガク系.
・『生態学』――!読了!.思えば長い道のりであったことよのう,と頂上で茶をすする(ずずー).※さて,書評を書かないと...(下り坂もきついやんかあ)
・本日の総歩数=2615歩.※おおっとぉ,三中選手,ついにウォーキング慾を喪失してしまったかあっ?!
●6 juni 2003(金)
・まとまった仕事が終わり,ちょっとだけ空っぽになったりして(気のせいなのだけど).ふらふらしてみる.
・連作旅行エッセイ,続きます――巖谷國士『アジアの不思議な町』(1992年,筑摩書房)に手を伸ばす.この著者,故・澁澤龍彦とごく懇意な仲で,やはり澁澤の親友だった四谷シモンとともに故人を偲びつつ中国旅行したことがこの本に書かれている.そういえば,四谷シモンの自伝『人形作家』(2002年,講談社現代新書1633)も,巖谷と澁澤に触れている(p.181).澁澤龍彦が埼玉・深谷の澁澤栄一(実業家)〜澁澤敬三(民俗学者・大蔵大臣)の家系に連なるという事実はリクツではわかっても,いまいちピンとこない.
・昨日の講義のおり,書評依頼されていた日本古生物学会誌『Paleontological Research』の特集号〈後生動物の起源と初期進化〉(Vol.7, No.1, 31/March/2003)を受け取る.第17回国際生物学賞(2001年)を受賞したHarry Whittington博士にちなむ記念シンポの論文集だ.もちろん,バージェス動物相をはじめとするカンブリア紀の古生物と進化に関する諸論文がまとめられている.とりあえず,目次情報をevolveに流しておくことにしよう.
・Amazon.ukから連絡――先月発売予定のJoe Felsensteinの新刊『Inferring Phylogenies』は,出版が数週間遅れているそうだ.待ちましょ.
・もういっちょ――ウンベルト・エーコの『とカモノハシ下巻は7月29日の発売予定.早く出してもらわないと,文献リストがチェックできひんやんかあ.>岩波書店さまあ.
・...などと,本三昧していたところ,筑波事務所の書店から電話:ゲオルク・フォルスター『世界周航記・下』(本体価格9,600円:またも!岩波書店)が入荷したとのこと.本書を含む〈17・18世紀大旅行記叢書(第II期)〉は全巻予約していたのですが,なんちゅうても高過ぎる.税込みだと1冊1万円を越えるもんね.
――油断していたら登攀の機会を逸してしまった....と言い訳してみる.
・本日の総歩数=7334歩.※連敗...(涙).
●5 juni 2003(木)
・朝から湿度が高くて,先が思いやられる.
・東京行きのJRの中で『歌声喫茶〈灯〉の青春』(集英社新書)読了.イマイチ.ルポルタージュを期待していたが,日記みたいなスタイルはテーマに相応しくなかったと感じる.隠された過去を見たいという著者の意気込みは伝わってくるが,近親者というしばりから解放されることは最後までなかったようだ.読者が期待するものとのズレは隠しようもないね.ところで,〈〉のヒロインは,もともと〈風月堂〉に勤めていたそうな.ご本人が何か書いた方がよっぽどいいような気がするが.
・進化学史研究者のV.B. SmocovitisがJournal of the History of Biologyに載せた論文「伝記対象者とともに生きること」(Vol.32,No.3,pp.421-438,1999)には,伝記対象となる相手(彼女の場合は進化学者G.L. Stebbins)と時空を共有することに由来する功罪が書かれている.とくに,パーソナルな関わりが深いほど,伝記作者としての悩みが深くなるということ.
・東大の集中講義の最終回――今日は盛り沢山.樹長分布の特性と崩壊指数の計算→MacCladeとPAUP*の連携/樹形差に関するKHテスト,SHテストなど/ステップ行列を用いた一般化最節約法/分子進化モデルの選択に関する説明(階層的尤度比検定とAIC基準)→ModelTestとPAUP*を用いた最尤系統樹の推定/ベイズ法(経験ベイズとマルコフ連鎖モンテカルロ)→MrBayesのデモ/大系統問題の実践的攻略→PAUPRatとPAUP*を用いた最節約系統樹の構築/複数の系統樹間の対応づけ(共進化シナリオの復元)→TreeMapを用いた「Jungle」の最節約的推定.フルコースやな,ほんま.受講者のみなさん,たいへんお疲れさまでした.
・講義の終わりに,例によって受講生からアンケートを取る(→集計結果).今回の集中講義ではいつもよりも多めにコンピュータを用いたデモを盛り込んだが,興味深かったのはそれに対する反応.多少とも系統推定に関心のある受講生は一様に「役に立った」と書いているのに対して,おそらくこういう講義は初めてと思われる受講生は「ついていけない」とこぼしていた.おそらく,デモを見ているだけではなく自ら参加して実習できるようにしていれば,そういう疎外感は薄れていただろうと思う.
・5時に講義が終わり,速攻で帰宅,速攻で爆睡...といいたいところだがこんなことをしているから,ずるずると遅くまで....
・『生態学』本日の登攀は1072ページまで;前日からの進捗は1072−1018=54ページ;完読まであと1154−1072=82ページ;本日までの読破率は1072/1154×100=92.9%.※いよいよ大団円近し!
・本日の総歩数=11604歩.
●4 juni 2003(水)
・台風5号くずれの低気圧の影響で,朝から雲が厚く,昼下がりにはとうとう雨に.でも,日本を逸れてくれたのでありがたい.明日は傘や足元の心配なしか.
・19世紀のロシアの作曲家ボロディンがサンクト・ペテルブルク軍医学校の化学教授だとはまったく知らなかった.『ロリータ』を書いた作家ナボコフがハーバード大学比較動物学博物館の蝶類学者だったのと同じようなケースか.ただし,ナボコフの場合,公的には〈虫屋〉の足を洗ってから作家デビューしたのに対して,ボロディンは終生「作曲家」にして「化学者」という二足の草鞋を履き続けていたという点がちがうか.
・明日の集中講義のためのデモ用データファイルを調製する.使うのは PAUP* / MacClade / PAUPRat / ModelTest / MrBayes / TNT / TreeMap などなどいろいろブツを広げる予定.大系統解析にはPAUPRatにTNT,最尤法にはModelTest,MrBayes,CONSELあたりか,ついでに共進化のデモにTreeMapをば.
・TreeMapを開発したRod Pageのサイトを見たら,MrBayesのための入力フォームがあったりして.
・へえー,『Current Protocols in Bioinformatics』という本が出る(出た?)そうな.Pageさんも編者のひとり.第6章の「進化的関係の推定」がおもしろそう――導入/TreeViewを用いた系統樹の表示/手っ取り早く系統樹:近隣結合法と距離法/PAUP*による系統樹の推定/ModelTestとPAUP*を用いて塩基置換モデルを選ぶ/Tree-PUZZLEを使った最尤系統樹の計算/単一系統樹が出なかったら?:スプリット分割と関連手法.ありゃま,ぼくが集中講義でやったこと(明日やること)とずいぶん重複してるぞ.バイオインフォマティクスでもこういう「プロトコル」が必要とされているのか.Barry Hallの『Phylogenetic Trees Made Easy』を連想した.
・わ,TNTが暴発してる〜.テスト版だからしかたないとはいえ,100taxa×3000bp程度でキレられてもねえ.Pabloに連絡しないと.
・Kluwerから出版される予定の「形態測定学」論文集への寄稿依頼メールが届く.なあるほど麗面人さんがらみの企画ね.来年フィレンツェ(万国地質学会議)で形態測定学のシンポがあるそうですが(Savacci情報),なんとか公費出張できないかなー.次回のHennig XXIIIはパリだしぃ――〈ヨーロッパの不思議な学会〉とか....そう言えば,京都の万国地質学会議は1992年のことでした.6年ごとだっけ?
・ばたばたしつつも,『地中海の不思議な島』読了.おお,マジョルカ島,ライムンドゥス・ルルスの故郷ですな.地中海ってナイス.
・だもんで,またも登攀なし.※頂上直下で足踏みしているみたいなもんやな.
・夜半過ぎに雨上がり.
・本日の総歩数=11930歩.※ま,負けた....
●3 juni 2003(火)
・夜中に雨が降ったりやんだりして,朝方にはまたひんやりと.まだ気温が上がらないうちに,寝転がって読書タイムを確保するとたいへん気持ちがいい.巖谷國士『地中海の不思議な町』――なかなかいけます(『新耳袋8』の翌朝ゆえ,さらに).日経BPの旅名人ブックス39『ギリシャ・エーゲ海』(2002年)のきらきらした写真を見つつ,しばしワープ.
集中講義(最終回)は明後日――前回積み残しとなった崩壊指数(decay index)の計算.MacCladeの「崩壊指数計算機能」を使ってPAUP*へのコマンドファイルを出力させる.基本的にはクレード制約の有無による樹長の差を取るだけだが,分岐図のサイズが大きくなると,ひとつひとつマニュアルで制約を設定するのは煩雑だ.MacClade の新機能のひとつがそれを助けてくれる.あれやこれやをとりまとめて,最終日の講義素材をそろえる.
台風5号が発生したそうな――進路予想では5日に関東に接近することになっていて...,その日は講義日なんですけどぉ(やばい).日頃の所業の報いか.できるだけ大きく偏西風に流されてねー.
系統学問題集をつくるというのは,確かにいいアイデアかもしれない.
・東大の講義で使った資料をまとめてhtml化することに.→体系学講義資料.うわ,分量がとっても多いですう....数式部分が見づらいかな(かんにん).あ,分岐図もズレまくり....そのうち修正しますです.
・わ,登攀するヒマちっともなかった〜.
・本日の総歩数=13616歩.
●2 juni 2003(月)
・台風一過? この季節に平地でこれほど爽やかに晴れた朝を迎えられるとはねえ.しごく快適でございます.不快な梅雨がやってくる前に.
・ううむ,新耳袋の公式サイトが先週金曜にクローズされてしまっているではないか....おお,1990年の初版に復刊ドットコムのリクエストが集まっているやん――などと憑かれていたら,こわいことに最新刊『新耳袋・現代百物語・第八巻』(メディアファクトリー)が午前の郵便で憑きました...じゃなくって,着きました.
・日射しがもう初夏ですなあ.早朝にオオミズアオの初見.いつ見てもお行儀悪くじたばた飛ぶ蛾やねえ(大きいからしかたないか).昨日,草津温泉の公園でたまたまシリアゲムシがいたので,長男を呼びつけたところ「ぼくは外骨格よりも内骨格の生きものが好き」とか生意気なことを言うので,そういう考えがいかにまちがっているかをとうとうと言い聞かしたことを思い出した.単なる親の横暴かな?
・ということで,昼休みのお散歩をば.→4.5km完歩.
形態測定学・夏の学校の残り1名の講師は,静岡大学の生形貴男さんに決定.これで講師陣はすべてそろう.これからはさらに受講生を獲得すべく,宣伝宣伝また宣伝に務めないと.その前に要旨集めか....受講予定者のMLも開設しないと.
・amazon.comからCrisci他の教科書『Historical Biogeography: An Introduction』が届く.ざっとブラウズするかぎり,錯綜する歴史生物地理学の諸理論と諸方法を概観した教科書としてよく書けていると思う.少なくとも『Cladistic Biogeography』とか『Panbiogeography』という本が生まれ出る知的土壌について知るために,本書は格好の教材だろうと思う.こういうテキストならきっと翻訳する価値があるはず(憑くな〜).
・昨年の八王子・科学論セミナーの報告――書きますぅ(汗汗).
・昨年のPSA2002に関する伊勢田哲治さんのレポートをざっと読む.確かに,科学哲学がグローバルな論議ではなく個別科学に関するローカルな論議を進めてきたことは,1980年代以降の生物学哲学の進み方を見れば明白ですね.科学哲学もまた個別科学の世界に降りてきて論議を進めなければならないでしょう.仮説のテストとか実在論の問題も個別科学における文脈を抜きにしては語れないということ.体系学の近現代史をふり返れば,そういうことは身をもって実感できるはず.逆に,個別科学から科学哲学への作用なり貢献もあり得るはずだが,そういう逆方向のベクトルをも読み取る必要があるでしょうね.武器として役に立たない哲学は,科学には無用のものだから.
・系統学の数学的部分はそのまま歴史生物地理学にも適用できるわけだが,生物地理の場合,個々の系統樹の上位に地域分岐図やジャングルのようなメタ系統樹を構築する必要があるので,もっと複雑な離散数学になるのはきっと不可避でしょう.
・めでたく『新耳袋・現代百物語・第八巻』を読了.全部読んでも「九十九話」だし,安心安心また安心――なんていいつつ,過去のバックナンバー巻を読んだりしたらあきまへんでぇ(憑くな〜).
・『生態学』本日の登攀は1018ページまで;前日からの進捗は1018−987=31ページ;完読まであと1154−1018=136ページ;本日までの読破率は1018/1154×100=88.2%.※やっと1000頁を越えたか....
・本日の総歩数=12230歩.
●1 juni 2003(日)
・ログハウスの和室での目覚め.雨はやんでいないものの,さすがに環境がちがいますな.非日常にしばし浸る.中沢ヴィレッジのログハウス群は40棟あまりあって,根笹の生い茂る林の中にぽつぽつと点在している.この週末はほぼ満室とのこと.厨房設備は完備しているので,自炊ももちろん可能.内風呂あり,環境よし――カンヅメ論文書きにも使えるぞ.>いかが?ワルイ人たち.
・草津の湯はあいかわらず酸性泉でした.
・Semple and Steelの『Phylogenetics』――第1章はもろにグラフ理論の章.続く第2章は,それを踏まえたX樹X-trees)が中心テーマ.基本的なアイデアは,背景となる樹Tの頂点にラベルをつける関数φを規定するということ.「定義2.1.1:X樹(X-tree)は順序対(T;φ)である.ここに,Tとは頂点集合Vをもつ樹(tree)であり,φとは関数X→Vであって,度数がたかだか2である頂点ν∈Vに対してν∈φ(X)が成立する」(p.16).いま樹が分岐図(cladogram)である場合,度数1の頂点は端点で,度数2の頂点は定義として存在しないから,X樹とはその頂点が分岐図の端点に写像されるグラフということになる.樹Tに依存する頂点ラベリングを考えようということ.
・要するに,背景樹Tの端点以外の内点(仮想祖先)を含まずに,系統樹を規定するための定義がX樹ということになる.ただし,X樹の定義では写像φの性質が緩過ぎるので,そこに「one-to-one」かつ「onto」という性質を付加したのが次の定義――「定義2.1.2:系統X樹(phylogenetic X-tree)とは,X樹(T;φ)であって,φがXからTの葉(leaf=端点)への一対一かつ上への写像という性質を満たすものである」(p.17).これで,X樹はある樹形(tree shape)の端点ラベリングとして定義される.
・この章の残りの部分は,X樹に関する組合せ論的数え上げを論じている.関心を引くのは,樹の枝交換操作(branch-swapping)についての記述(pp.30-33).TBR/SPR/NNIについてきわめて明快に書かれていて参考になる.端点集合のサイズがnであるとき,NNI,SPR,TBRそれぞれの計算量のオーダーはnの1次,2次,3次式として求められるということ.
・午前10時すぎになって,やっと雨が上がり晴れる気配が.それとともにハルゼミの合唱.爽やかな山のひととき.
・TRCの新刊チェックをば――1326.わ,『新耳袋8』が出てしまった.ひー.また恐怖の夜が.
・そんなこんなで,つくばにたどり着いたのは,午後10時過ぎ.明日からは平常営業やのにぃ〜(灰).雨はもうあがったけど,風が強い.また暑くなるか.
・なもんで,またも登攀はなし――などという手をいつまでも使ってはいられないので,ちょっとだけ岩にしがみつく――『生態学』本日の登攀は987ページまで;前日からの進捗は987−979=8ページ;完読まであと1154−987=167ページ;本日までの読破率は987/1154×100=85.5%
・本日の総歩数=7523歩.

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