三中信宏(農環研/「形態測定学・夏の学校」校長)です.

九州大学で開催される日本進化学会福岡大会での企画【形態測定学・夏の学校】については,すでにアナウンスを流しましたが,その後の追加情報があります.そこで,再度アナウンスして,多くの方々の参加を呼びかけたいと思います.

今回の「夏の学校」は,多くの生物学者にとっての【涙なしの形態測定学】をモットーにしたいと思います.たとえ数学の知識がなかったとしても,この「夏の学校」に参加する上でのハードルにはなりません.講師の側は生物学者の大多数にとって「1数式=1死者」であることをよく理解していますので,心配や懸念は無用です.笑顔で生き残りましょうね.

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形態測定学・夏の学校――見ればわかる!「かたち」の数理
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【期日】2003年08月02日(土)8:50〜20:00(2時間×4)
【場所】九州大学六本松キャンパス(日本進化学会大会会場)

【講師】三中信宏(農業環境技術研究所)――校長
岩田洋佳(中央農業研究センター)
田辺 力(徳島県立博物館)
生形貴男(静岡大学理学部)

【趣旨】生物の「かたち」は長年にわたって数値化と定量化をはばんできた。ひとつには,「かたち」の幾何学的特徴を記述するための数学理論が従来の枠組では対応しきれなかったからである.さらに,「かたち」の変量をあつかう統計学は伝統的な線形統計学だけでは足りないからである.もうひとつ,多くの生物学者が「かたち」の数理を論じるだけの数学的素養を育んでこなかったからである.
 1980年代以降の形態測定学(morphometrics)の方法論の長足の進歩は、生物の「かたち」がようやく数学的・統計学的に扱える見通しを与えた。形態測定理論は多くの研究事例の蓄積により比較形態学・発生生物学・系統学・生態学に用いられるツールとしてその威力を示しつつある。しかし、今も進展し続けるこの分野に入ることは多くの生物学者にとってハードルが高いようだ。
 今回の「形態測定学・夏の学校」では、できるだけヴィジュアルに――数式ではなく図表により――形態測定学の基本である幾何学と統計学の枠組を与え、そこで用いられるさまざまな数学的方法(アフィン変形のテンソル解析、非アフィン変形の薄板スプライン解析、フーリエ記述子による輪郭曲線解析、形態成長の数理モデリングなど)とその応用についてハンズオン講義をする。ヴィジュアル性を重視するためにコンピュータ・デモンストレーションを中心に講義を進める。
 受講生は各自ノートパソコン(Windows)を持参し、事前にダウンロードした形態測定ソフトウェア(フリー)を用いて講義中に実習することが望ましい。もちろん、聞くだけでも得るものはあるだろうが、手を動かすことによりはじめて体得できることはきっとある。必要な数学的知識はミニマムにするので心配することはないが、高校までの初等幾何学,線形代数(ベクトルと行列)そして初等統計学の知識(ないし関心)があれば言うことなし。「形をはかる数学」が,天上から降臨するのではなく,生物学の「現場」で生まれ出てくるありさまを追体験してほしいと思います.

【内容】
●講義1(「形態測定学――その歴史と概論」):
 日時:8月2日(土)8:50〜
 講師:三中信宏(農業環境技術研究所)
生物形態学の歴史の中で,比較形態における形状比較の定量化の試みを振り返る.まずはじめに,かたちの構成要素としてのサイズとシェイプの定義とその幾何学的性質を論じ,かたちの数理への導入とする.かたちのもつさまざまな情報ソース(座標・輪郭・色彩・テクスチュアなど)を概観した上で,座標データに基づく幾何学的形態測定学(geometric morphometrics)の理論を解説する.とくに,D'Arcy Thompson以来の形状数学の理論が,統計学としての生物測定学の知的系譜の中でどのような位置づけを与えられるかがポイントとなる.かたちの定量化をめぐる過去の試行錯誤を振り返ることにより、今日の形態測定学を生み出した動機がはじめて理解できる。形態測定学に必要となる統計学的な「ものの考え方」についてもすこし触れたい。

●講義2(「見てわかる幾何学的形態測定学」):
 日時:8月2日(土)11:00〜
 講師:田辺力(徳島県立博物館)
幾何学的形態測定学では,標識点座標の組によって代表されるかたちの幾何学的変換に対する不変量(シェイプ)の性質を論じる.アフィン変換はかたちの大域的な線形変換(拡大・縮小・傾斜)をあらわす.そして,アフィン変換の結果は歪みテンソルとして数値化される.しかし,形状に関わる局所的な変形は非アフィン変換によってはじめて視覚化される.この非線形変形は薄板スプライン関数を用いて,形態間の仮想変形として近似される.この変形に伴う屈曲エネルギーは非アフィン変換によって生じ,その仮想屈曲を固有値分解することにより,非アフィン変形は互いに直交する変形成分(主歪み)に分割される.百聞は一見にしかず――この講義では,パソコンを用いたデモンストレーションといくつかの事例を通して、できるだけ視覚的かつ実習的に話を進める予定である.

●講義3(「輪郭曲線のフーリエ解析」):
 日時:8月2日(土)14:00〜
 講師:岩田洋佳(中央農研センター)
フーリエ解析は生物形態の輪郭形状の特徴を比較するのに適した方法である。輪郭曲線上の標識点のサンプリングとフーリエ級数による近似、係数ベクトルの統計的解析と多変量データの視覚化、QTLマッピングへの利用など、フーリエ解析の A to Zを知るための講義。演習用に、自作のフーリエ形状解析プログラム「SHAPE」を配布する予定。

●講義4(「モデルベースの理論形態学」/「総括」):
 日時:8月2日(土)18:00〜
 講師:生形貴男(静岡大学理学部)
1960年代に古生物学で生まれた理論形態学(theoretical morphology)は、明示的な数理モデルに基づく形態の記述と比較のための方法論として発展してきた。理論形態モデルは、単純な数学的規則性を有した形態の解析に有用で、実際に見られる形態のみならず、発見されていない形態変異をも解析の対象に含めることが出来る。講義では、まず、理論形態モデルの一般的性質と限界、パラメータの設定に関する諸問題、理論形態パラメータの統計的性質などを論じる。その上で、具体的なモデルを取り上げてその方法について解説し、パソコンを用いたデモンストレーションや実習を通じてパラメータの値とモデルの形状との関係を見る。最後に、計測からのパラメータ推定とその誤差評価について触れる。この講義では、モデルの定義の数学的厳密さには拘らず、むしろモデルを描く手続きを視覚的に示す。なお、デモ用のプログラムを当日配布する予定。
 最後に、「夏の学校」全体の締めくくりとして、ツールとしての形態測定学との付き合い方、今後の修業のあり方について総括したい。

【参加条件】
・事前申込制――開校前に参考情報を流したり質問を受け付けるメーリングリストを開設しますので、参加希望者は「氏名/所属/メールアドレス」を三中信宏(minaka@affrc.go.jp)まで事前にお知らせください。もちろん、大会当日の飛び入り参加も可能です。
・持参するもの――必須ではありませんが,できれば参加希望者は Windows ノートパソコンを持参してください。(ただし,講義ではビデオ・プロジェクタを利用しますので,パソコン持参でなくてもお楽しみいただけるでしょう.)
・事前にインストールしていただきたいフリーソフトウェアについては,あらためてお知らせいたします.



上記アナウンスは転載自由ですので,広く宣伝していただければ幸いです.


日本進化学会第5回大会(8月1日〜4日,九州大学)
・総合案内サイト
http://neco.biology.kyushu-u.ac.jp/~qshinka/index.html
・参加申込サイト
http://tophem.biology.kyushu-u.ac.jp/index.shtml

日本進化学会ホームページ
http://wwwsoc.nii.ac.jp/sesj2/index.html
http://www.kuba.co.jp/shinka/


## 三中信宏 / MINAKA Nobuhiro
## 独立行政法人・農業環境技術研究所
## 地球環境部・生態システム研究グループ・環境統計ユニット
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