第1刷(2006年7月20日刊行)
第2刷(2006年8月3日刊行)→正誤表
第3刷(2009年12月18日刊行)→正誤表
第4刷(2010年5月10日刊行)→正誤表
第5刷(2011年10月7日刊行)→正誤表
電子本(2013年6月28日刊行)→eBook版|Kindle版
第6刷(2015年4月14日刊行)
第7刷(2018年4月17日刊行)
第8刷(2021年8月31日刊行)*new*
→反響録(書評と言及など)
→講談社現代新書ページ
本書は「生物学が歴史学と融け合う場」を描こうとする.自然科学はいつの頃からか人文科学と袂を分かってしまった.生物学の過去を振り返ると,実験や観察に基づく「実証的」とされるアプローチが力を得て,ナチュラル・ヒストリー的なスタンスを軽視する風潮が強かった.しかし,生物の過去の歴史(系統発生)を復元し,その変遷(進化過程)を考察する進化学が進展するとともに,再び「歴史」が最前面に出てくるようになった.皮肉なことに,ゲノム科学に代表される分子生物学が時代の脚光を浴びている現在においても,生物の「歴史」が真の目標であることは必ずしも広く認識されているとはいえない.本書では,系統発生を表すイコンとしての「系統樹」をキーワードとして,生物学だけでなく神学・哲学・言語学・文献学・民俗学・認知科学・数学・コンピュータサイエンスなどに及ぶ分野横断的な視点に立って,系統樹が人間の思考のすみずみにまで浸透しているという事実を指摘し,「系統樹的思考法」がわれわれが思いこんでいる以上に広く深く浸透していることを示したい.そして,系統樹を通じて自然科学が本来もっている「歴史科学的視点」を復権させることを目論んでいる.この主張を自然科学と人文科学の異種融合と捉えるのは正しくない.歴史的に見るならば,もともと両者は一体だったのだから.
真実に到達するには,われわれは十分な資料に欠け,
そのような資料の解釈を徹底化する知的な手順にも欠けているのだ.
(フェルナンド・ペソア『不安の書』)