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日録2003年8月
31 augustus 2003(日)
・朝からぐずついて小雨まじり.
・『系図が語る世界史』の書評をやっとこさ書き上げる.論文集の書評ってのは,単著の評よりもはるかに大仕事だと思う.「系図」は歴史学の中でも継子扱いだったことを実感する.イスラムの系譜は命よりも重かったんだろうね.
EVOLVEBIOMETRYのページをそろそろ作る必要があるだろうか――思い立ったが吉日,ということで簡単きわまりないトップページだけでも配置してみました.
・だらだらと読み進んでいた『蒐書日誌・三』をようやく読了.半年くらいかかったかな(もっとかな).2段組み550ページの本を読むのは肉体労働だと思う.それにしても,この本,(著者にとっては)日常の〈蒐書ライフ〉を淡々と書き綴っている「だけ」なので,読む側の距離の取り方が難しいな.ぼくは俳句や遺稿集マニアではないのでそれ関連では遠くにいたいし,目をつむってえいやっと買い込む姿勢には共感を覚えるし.全3巻を合わせて1250ページが本また本.たいへんな人生ね.努力する者には幸運が訪れるという格言は蒐書ライフには当てはまっているみたい.『蒐書日誌・三』は2000〜1年分の日誌なので,来年あたり『蒐書日誌・四』が期待できるかな(待ち望んでどーするって?)
・都立大学集中講義の受講者メーリングリストを開設完了.
・本日の総歩数=3465歩.
30 augustus 2003(土)
・昼間はともかく,朝夕の気温の下がり方は季節の移り変りを感じさせる.何たって未明がいちばんっす.
・じっくりと『世界の一流ビール500』舐めてます.おお,こんなくだりが――

世界中のビールを探索し,分類して,ビール博物学の体系を樹ち立てたのである・・・たとえて言えば,マイケル・ジャクソンは植物学におけるリンネのような存在かもしれない.そして,かつてヨーロッパからプラント・ハンターと呼ばれる人たちが世界中に飛び出し,道の植物を尋ね歩いたように,彼はビア・ハンターとして,旅の空でビールを飲み続け・・・ (p.543:渡辺純)

――そのビア・ハンター氏の「採集品目録」は〈Michel Jackson's Beer Hunter〉に載ってます.こんなサイトがあるとは! レポートを読みはじめたらキリがない.
・そうそう,忘れないうちに書き留めておかないと――

【甲子園】
今年の高校野球の覇者・常総学院のO先生が甲子園のスタンドで炎天下応援していたとき,茨城の留守宅にいる母親から携帯メールが届いた:「いま,お前が家に入ってきて,〈お母さん,あの番組,ビデオに撮らないと〉とビデオのスイッチを入れて出ていったよ」.

――こういう現代民話は日々生まれるものだと聞いていたが,確かにその通りだと実感する.
・新ジャーナル『Phyloinformatics』の創刊――系統学・分類学に関わる情報科学のオンラインジャーナル.〈Bioinformatics〉という言葉が無制限にその裾野を広げ過ぎて「正体不明」になりつつあることを考えれば,〈Phyloinformatics〉という限定は歓迎されるだろう.それにしても,編集スタッフを募集するとともに,原稿も集めようとは「チカラわざ」というべきか,それとも「拙速」というべきか.
・買い物に出かけたら,たまたま〈Chimay Rouge〉のずんぐりした小瓶と並んで,〈Corsendonk〉の「Agnus Dei」を発見.即ゲット.ごくシンプルなステーキを焼いて,ビールをば賞味.ありゃ,酔っぱらいましたわ.アルコールが7〜8%とはねえ〜.民の小執事のていたらく(あちゃ,やはら並みぃ〜).
・尾本恵市さんからメールをいただく.故太田邦昌さんの寄稿が載っている国際日本文化研究センター&総合研究大学院大学のプロジェクト「生命科学と生命観:20世紀における発展と変遷」(1995-8)の成果集2冊をお送りいただけるとのこと.そろそろ太田書誌目録を何とかしないと.
・今週は怠りなく新刊チェック→TRC 1338号.※『崩壊の予兆』をしょいこみましょーかね(またも登攀か).予言書みたいなタイトルは逆効果だと思うが.
・月が変わらないうちにやるべきいくつかのことがそのまま積み残されそう.
・本日の総歩数=6237歩.
29 augustus 2003(金)
***** N部クン,お疲れさまでした! *****
・『アナロジーの罠』関連――8月17日付で,はまださんの〈Hamada's Boat 掲示板 (0004)〉に引用していただいた.ありがたいことです.書評を出して以来,心してアンテナを張っているのですが,ずいぶん反響のある本であることを実感しています.
・都立大から集中講義の受講者名簿が届く.さて,また新しいMLを開設しないとね.農水省統計研修のテキストもそろそろ用意しましょ.今回は【】のソースプログラムを付加する必要あり.都立大の講義資料とシンクロさせてつくろうと思う.
・都立大学セミナー「さりげなく数理系統学」の参考文献としては,Semple and Steel『Phylogenetics』を挙げておきますね.※「さりげなく大量死」だよなあ,このタイトルじゃ....
・農水省統計研修の事務官氏から連絡――「クラスター分析」の担当講師が海外出張のためピンチヒッターを依頼したいとのこと.へいへい,やりましょう.数量表形学の講義をするのは久しぶりだ.
・本日は,監事をしているDGC総研のシンポジウムと総会に出かける予定.アカデミーヒルズ六本木フォーラムなる場所に出向きます.
・涼しかったのは朝のうちだけ.日中の最高気温は35度の予想.気まぐれに暑くなったり涼しくなったりするなって!
・やってきました〈六本木ヒルズ〉――うわー,この虚飾のエリアはいったい....来る人ことごとくカメラをぶら下げてるぞ.物見遊山という古いことばを連想した.六本木駅から直結通路ですか.なになに「六本木ヒルズツアー」まである? そりゃ「はとバス」並みですなあ.くそ暑いのに,オープンテラスでお茶するとは元気なカップルさんたち(ガマン大会か).レストラン街はすでに長蛇の列(これまたガマン大会).さぞお値段も高いのでしょうな(やはりガマン大会).
・驚くべき忍耐力ある人たちを横目に〈森タワー〉の49階の「アカデミーヒルズ六本木」に登る.このご時世に何ともバブリーな建物ですこと.不必要な数の液晶案内板がそこかしこの壁に埋めこまれ(「2,3年すりゃ焼き付いてゴミですよ」とは黒川顕さんの弁),フロア・スタッフもゴージャスな配置.たまに来るだけなら新鮮でいいのかな.
・DGC基礎研究所(DGCbase)〈食と農〉シンポ――遅れて到着.十勝産のトウモロコシとソバをもらいました.招待客を含め百数十名の参加者.DGCbase初のイベントとしては成功だったでしょう.控え室で元締・横山和成氏をはじめ主催者の面々とお弁当(ごち).午後2時半からDGCbase総会.事業報告・会計報告・役員交代など.夕方に帰宅.
・アカデミーヒルズ六本木にあるブックストアは,通路に面して片側に長く延びているので,最初,開架式の図書貸出しコーナーかとまちがえた.出版社ごとに新刊が展示販売されていて,ざっと見たところいいセレクションがされていると思う.通路の反対側には椅子とテーブルが置かれているので,ゆっくり選ぶことができるのだろう.ついついマイケル・ジャクソン著『世界の一流ビール500』(2003年5月25日刊行,ネコ・パブリッシング,ISBN: 4-87366-332-6)というフルカラーのビール・カタログを掴んでいたりする.何といってもベルギー・ビール再発見の立役者だしね.それぞれの銘柄ごとの専用グラスに注がれたビールは魅力的.黒っぽいビールがことにおいしそう.〈Chimay〉が飲みたい〜.〈Orval〉もね.
・つくば←→東京往復での読了本――小山幸子著『ヤマガラの芸:文化史と行動学の視点から』(1999年9月25日刊行,法政大学出版局,ISBN: 4-588-30203-5→書評)および瀬川千秋著『闘蟋:中国のコオロギ文化』(2002年10月10日刊行,大修館書店,ISBN: 4-469-23185-1→書評).いずれも「民俗生物学」の本.著者ののめりこみ方,こりゃ尋常ではない.
・ついでに,昨日,都内某秘密機関から極秘に届けられたメッセージを読む――「開かれた中世研究を求めて:『中世思想原点集成』の意義」(ソフィア,51巻4号,通巻204号,2003年6月30日発行,pp.10-43).攻め込む中世思想陣営.リーゼンフーバー総帥,この風貌は現世をはるかに超越しているぞ.※N部クン,ダンケ!
・伊勢田哲治さん〈Daily Life〉からお返事(8月28日)――「発想のタネ」として利用するだけでしたら,何も問題はないと思います.何でもありですから.
・本日の総歩数=9876歩.
28 augustus 2003(木)
・早朝のこの涼気はいったい何ごとか.夏の終わりのツクツクボウシも急に弱々しくなってきた――これだけ気温の乱高下があれば体調の一つや二つ?崩れたところでだれも文句を言わないでしょ.
・進化学会大会メーリングリスト(Qshinka)の設定変更であたふたする――来年度の東京大会に向けて再利用するので,この際できるだけ改良しておくのが望ましいのだが,FMLの「config.ph」を書き換えるのは久しぶりなので,まごつく.あれ〜,「Reply-to先」が変更されてへんやん(汗).シマダの殿からは「来年の大会に,暗雲が〜」と突っつかれる始末(大汗).しばらくジタバタしていたら,香しい瑞雲とともに,天上よりありがたいお導きがあり,無事に設定変更完了(神さまホトケさまT川さまぁ!).これでもう個人メールをML誤送信しないですみますね >動物行動学会札幌大会委員長さま.
北九州市立自然史・歴史博物館の上田恭一郎さんから別刷が届く.長らく「準備室」だったが,昨年暮れにようやく正式な博物館として開館したとのことだ.トンボの系統分類を精力的に手がけているドイツのGuenter Bechlyさんとの共著論文などを送ってもらった.BechlyさんとはゲッティンゲンのHennig XVIIIで会ったことがあります.そのときにも感じたのだけど,ドイツ圏での Hennigian phylogenetics と英語圏での cladistics とを隔てるは高くなりつつあるのかな(直海俊一郎著『生物体系学』でも繰り返し言及されているように).Bechly (2000), 「Mainstream cladistics versus Hennigian phylogenetic systematics」 Stuttgarter Beitraege zur Naturkunde, Ser. A. (613): 1-11 なんていうタイトルの論文をここ数年散見する.分岐学の系譜を考えれば,末端の「枝」と「枝」の間での競り合いは不思議なことでもなんでもない.どっちがいい悪いという立論自体がまちがっていて,ある学問的環境の中でどの「枝」がよりプログレッシヴな研究伝統を形成できるかどうかが重要.ヘニックの系統体系学と英語圏の分岐学では,それがたどってきた環境がすでに異なっているので,そこに育ったリネージとしての研究伝統にも自ずからちがいがあって当然のこと.
・都立大学の非常勤集中講義(生物統計学:9月11〜12日&25〜26日)とシンクロさせて,理学部生態の教室セミナーをすることになる.タイトルと要旨を送信――

【題名】さりげなく数理系統学――進化学・統計学・数学の交わりとしての系統推定論
【噺役】三中信宏(農業環境技術研究所)
【日時】2003年9月12日(金)16:30〜18:00
【場所】東京都立大学理学研究科(詳細未定)
【要旨】生物の系統類縁関係を図示する系統樹は,数学的に見ればある条件を満たすグラフであり,統計学的に見ればきわめて複雑な構造をもつ推定値である.系統樹を共通のキーワードとする学際的な研究領域――「数理系統学」がいま新たに立ち上がりつつある.その学問的ルーツは少なくとも半世紀前にまでさかのぼることができる.系統推定がグラフ最適化問題のひとつであると認識されたことが数理系統学のバックボーンをなす動機付けとなったことは疑いないことだろう.今回のセミナーでは,生物学者にとってなじみ深い系統樹を数理の観点から新たに切り込み,そこに見えてくる将来ビジョンについて話題提供をしたい.生物学者が想像する以上に数理系統学は裾野の広い研究領域であることがわかっていただけると思う.

・講談社現代新書編集部から『だから系統樹!』の原稿進捗の伺いメール.ひー,だから進んでませんってば.かんにん,K治さん.原稿300枚を書く時間を魔法のようにヒネリださないと...と言いつつ,「日録」のエネルギーを転用すればちょちょいと書けるだろうとかツッこまれたり.※それはそれ,これはこれ.(すたこら)
・グールド訃報記事(今頃?)――Frank H. T. Rhodes, 「Eloge: Stephen Jay Gould, 1942-2002」 Isis Volume 94 Number 2 pp,315-316, June 2003.
・『蒐書日誌・三』を読んでいて,ずっと探していた書名に遭遇――『世界古本探しの旅』(1998年5月10日刊行,朝日新聞社).新刊価格が3,200円と高かったので,買いそびれた(いまは絶版).古書価格の相場は2,000円前後だが,著者は2001年の某月某日,神保町の〈日本特価書籍〉で700円というゾッキ本価格で買ったという(p.386:上段).うらやましー.カラー写真いっぱいの古書店グラフィティなので,機会があったらぜひ買っておきたい.※著者も不思議そうに書いていたが,この書店,どういうルートで安価本を入手しているのか,倒産出版社本やゾッキ本はほとんど価格破壊ともいえる安価で入手できる.
・『蒐書日誌・三』から――

まるで私の内にもうひとりのだだっ子の私がいて,それの力で本を購ってしまったかのようだ.こういう購い方をしては預貯金の残高は減ることはあっても増えることはまずない.妻子の顔が目に浮かばないことはないのだが,内なる私は目をつぶってしまう.しかし,店主に本を包んで貰い鞄に入れてしまうと,家に帰ってその包をとき,本に目を通す自分を想像すると,よろこびこれに勝るものはない.精神衛生上にはすこぶるよい薬なのだ.(p.412:上段)

――不治の病ですな,こりゃ.自ら思い当たる節が多々あるだけに耳が痛い.思い返してみても,こういう〈本憑き〉状態に陥ることは頻繁にあるからね.※『蒐書日誌』を舐める愉しみは,著者がふと洩らす独白を拾い集めることにある.単なる「蒐書カタログ」では,きっと何のおもしろみもなかっただろう.はたしてこの長大な「日誌」を舐めている紙魚たちがいったいどれくらいいるのか推測できないが,まだ手に取っていない人はきっと後悔すると思う.たとえ日本文学(第3巻は俳句ばっかし)に関心がなくても〈心意気〉は感じ取れるはずだ.
・『A Rum Affair』の書評を書くべく,スコットランドの地図を引っ張り出す.舞台となった「ラム島」――スコットランド西部のヘブリディーズ諸島のひとつ.このロケーションは,かの〈アラン島〉よりもさらにさらに遠い「地の果て」ではないか.シングルモルトの銘柄でいえば,スカイ島の〈Talisker〉蒸留所とマル島の〈Tobermory〉蒸留所を結ぶ線分のほぼ2:3内分点にラム島は位置する.イギリスの進化学に関係する多くの著名研究者が,J.W. Heslop Harrison による「でっち上げ事件」のことを知っていて,本書の思わぬところに登場する.Judith Hooperの『Of Moths and Men』の参考文献リストからその存在を知ったのだが,読んでみて印象深い本だったと思う.→書評を公開しました.
・本日の総歩数=9540歩.
27 augustus 2003(水)
・未明から本降り.久しぶりに潤いました.残暑もこれでオシマイになりなさいね.お願いね.
・「R伝道師・激闘ツクバ編」の続き――草木も眠るウシミツ時,農水省統計研修の担当事務官に下記のよーなメールを送る:「拝啓,ゑくせるは呪われしソフトウェアです.かような極悪ソフトをいたいけな研修生のやわらかな頭脳に刷り込むがごとき犯罪行為は,国としてけっしてやってはいけない行為です.一刻も早くゑくせる実習を廃止していただきたい.ゑくせるめ,まだ地上をさまよっておるのか.このご印篭が目に入らぬかあっ.安らかに棺に戻るのだ・・・」
・というのはウソで,明け方にさりげなくこんなメールを担当官にしたためたのでした――

もし受講生全員がノートパソコンを持参するという条件を付けられるのであれば,実習がエクセル/Rの区別を問わず「全員」にRのインストールを義務づけていただけないでしょうか? 実習だけでなく,講義の中でもRを使う講師が少なくありませんので(エクセルを使わない講師はたくさんいます),受講生にとっても有意義だと思います.私個人としてはエクセル演習を「統計研修」の一環として含めることには賛成できないのです.といいますのは,エクセルの統計計算機能がでたらめであることはずいぶん前から指摘されていまして[→ここにリンク],そういう欠陥をもつソフトウェアを農水省統計研修で使い続けることは,結果として「悪い統計ソフト」を「国」が推賞していることになります.のちのちに禍根を残すおそれがあります.今年度はもう変更できないかもしれませんが,次年度以降の「エクセル」演習は完全廃止した方が教育的ではないかと考える次第です.

・ポイントは,受講生に有無を言わせず「R」に触れさせるという点.しのごの言ったところで,統計とぬかるみはできれば避けて通りたいと思っている受講生にとって,見ず知らずの統計ソフトは心理的ハードルが高過ぎる.だから,とにかく手元のパソコンに「R」を入れてしまうことが先決だろうと考えます.※事務連絡が入り,「R」ダウンロード必修は周知するとのこと.まずは第1段階クリア.
・あとは1週間なり2週間の集合研修期間に,じわじわと「R」洗脳していけばいいのさ.ここは機動的に複数の講師が,さりげなく執拗に「R」を使い続けることで効果を高めることにする.とくに,基礎編の最初の数日間が勝負かな.※つわもの研修講師のひとりから,エクセルの餌食となって「メニュータペストリー依存症/コマンドライン恐怖症」患者をどのように社会更生させるかが悩ましいとのメール.しばらく断食させて,禁断症状をおこさせてみるか――ぐわおぅ,壁にピンクの xls がぁ〜っ,とか.
・いずれにせよ,「伝道者的使命感をもって布教する」という〈巖佐ドクトリン〉はこういうときに有効だと思います.
・午後のGセミナーの準備をしたり,都立大セミナーの要旨を準備したり,〈Bogen〉がらみの資料を集めたり,分会役員の信任投票用紙をつくったり,カード会社に二重引落としクレームの連絡をしたり,ああ,また【砂粒】が....
・昼が近づき,ようやく晴れ間が覗く.よく降りました.
・午後3時からのGセミナー――所内でセミナーをするのは,ホント久しぶりのこと.巨大系統樹の推定に絡む話題提供を,というか〈紙芝居〉をしよう.Hennig XXII と進化学会福岡大会の発表がベースになる.それと,マンハッタンあたふた行状の報告もちらっとね(デジカメ写真をかき集める).会場ではDELLちゃんとPowerBookG4君を2台並べる予定(プロジェクタも2台).※1時間の高座を終えた.系統樹とは無縁の研究をしている人がほとんどなので,巨大データを扱う最適化問題という一般性をもたせて話を進めた.ソフトウェアの「特許」が注目されたか.
・雨が上がったら,こりゃ「秋空」ですな.最高気温は25度にも達せず.夕暮れになると,アオマツムシとウマオイが鳴いていた.クサキリも混じっているようだ.セスジツユムシもよく見かける.直翅目の和名の確認のため,久しぶりに竹内吉蔵著『原色日本昆虫図鑑(下)』(今は亡き保育社)を引っ張り出す.小学生のときからお世話になっている.※いま思い出したが小学校の自由勉強か何かで,この図鑑の漢語タクソン名を全部筆写した記憶がある.「蟋蟀」「蜻蛉」「蜉蝣」とか〈虫ヘン〉のマイナーな漢字たちを当時はちゃんと読み書きできたはず.鱗翅目は断じてチョウ目なんぞではないぞお.
・自宅からのダイヤルアップ接続がうまくいかないな.
・本日の総歩数=8240歩.
26 augustus 2003(火)
・朝から曇り気味.はるか西の方では明け方にカミナリが轟いたとか.前線がやってくるのか.
DGC基礎研究所の監査報告を速達で返送.今週の金曜には,六本木でDGC総研のシンポジウムと総会が開催される.
・分会次期役員選考は終了間近.信任投票を残すのみ.内規およびランク表の配信をさっさとやるべし.(ぶつぶつ)
・ワルい科研費がらみのワルい書類を事務に出さないと.ワルいキン太が年数をまちがえたもんだから...(ぶつぶつ)
・学会参加費の立替払請求書の書き直し.金額をまちがえただけやん.(ぶつぶつ)
・わわ,Hennig XXII で投宿した Grand Hyatt New York のカード引落としが「二重払い」になってるう.アバウトやなあ(おおよそな).さっそく,ファックスとメールでクレームを送らないと.カード会社にもか.(ぶつぶつ)
・今日はぶつぶつ文句を垂れるきっかけが多過ぎる.
・午後に入って雨粒がぽつぽつと.
伊勢田哲治さんの〈Daily Life〉――8月19日の項で釣り上げられてしまった.うん,ま,確かに経験的テストを踏まえた「科学論」がすでにあることはわかっているのですが.そういうのがスタンダードだとしたら,ポストモダン科学論っていったい何ですねん,アレ,と問いかけたくなるのです.いろんな科学論があってもOKということかな.それとも科学論の「内部」でもそういう論議が深まっているのか,とかフラスコの中から見ていたりして.テストの方法にどのような差異や特徴があるのかが重要というのは,御意.ただし,自然科学の中でも実験科学分野と歴史科学分野ではテストにもおのずとちがいがあるので,科学論のテストも実はその振幅の幅におさまってしまうのではないかと推測しています.『Social Study of Science』誌ですか?――まだ,その機会がないですねえ.※そのうち「Daily Life」も名古屋にお引っ越しですか?
・目次登録した Salsburg 『The Lady Tasting Tea』をブラウズする.名だたる統計学者たちが生きて動き回っているみたい.統計学史の本ではあるのだが,章ごとに歴史的なエピソードが詰まっていて,飽きさせない.確率論のコルモゴロフのご尊顔を初めて見た(実直なおじさんという印象[失礼]).北大・久保拓弥さんの「登攀」(2003.8.26「ぎょーむ日誌」)の成就を支援しよう.※「りあるたいむ,なのかねえ」――ぎょーむ日誌読者が手に汗握る?擬似読書体験ができるように,ふぁいとぉイッパーツ!な素読をお願いできればなーということでして.たはは.
・本日の総歩数=11427歩.
25 augustus 2003(月)
・毎年恒例の農水省統計研修の講師依頼が届いている.例年通り,〈統計学概論〉と〈実験計画法〉の講義をするが,今年(から)はそれに加えて,統計言語【R】の実習が上乗せされる.昨年まで実習に使ってきた【SAS】をお払い箱にして,全面的に【R】に切り替えようということ.パソコン実習は【R】と【Excel】の二本立てとなる.実習担当事務の予想では「エクセルの方が希望者が多いのでは...」ということなのだが,彼の予想を大きく裏切るために何か「秘策」はないでしょうか?(>K保クンの叡智を.ヘルプ・ミー)
・いずれにせよ,今年から統計研修の受講生は自分用のノートパソコンを持参して,つくばに出家修業することになる.1週間あるいは2週間の修業を終えて帰ったあとも,在家で修業し続けられるようにしたい.そのためには『応用統計ハンドブック』ではなく,同じ重さのノートパソコンの方がきっと役に立つ.【R】のダウンロードに関する情報を研修担当事務に連絡した.実習は半日だが,それ以外の講義でも【R】を用いたデモを含める予定なので,洗脳効果はきっと大きいと思う.以前,【S-Plus】の単発講義が研修科目にあった年もあったが,今回はもっと広範に導入されることになる.
・〈Alibris〉から,William Marden著『Marden's Guide to Manhattan Booksellers』(1994年,Marden Books,ISBN: 0-9636646-0-3)着便.先日届いたS. P. Barile 『The Bookworm's Big Apple: A Guide to Manhattan's Booksellers』と同年の出版.また,マンハッタン蒐書旅行したいな.
・Amazon.co.jpからも着便――数理統計学史の本 David Salsburg 『The Lady Tasting Tea: How Statistics Revolutionized Science in the Twentieth Century』.今月の「ぎょーむ日誌」につい釣られてしまいました(参ったあ).こういうエピソード集は楽しめます.うふふ.数理統計の先駆者たちにはトンデモ変人さんがたくさんいるのでね.
・――でも,なんでこんなデッカイ箱に入って送られてきたのか,と思ったら,別の人の注文本(カワイイ絵本たち)が同梱されてきてるやん....アマゾンはん,しっかりしてやー.bk1はこういう配達ヘボはあらへんでえ.返送の手間がかかるし(参ったあ).
・〈砂粒〉のような雑用が吹きつけて,どんどん浸蝕されている心地ぞする.
DGC基礎研究所の監査作業に入る.領収書のチェックと監査報告書の作成.などなど.ああ,またがりがりと削られていく....
・夜になっても蒸し暑い.ガマン大会みたい.
・本日の総歩数=8321歩.
24 augustus 2003(日)
・***【N部くん,頑張ってねー.♪ふれ〜,ふれ〜,*んぶ!♪】***
・ここにきて残暑のリベンジとは....ひたすら子守り ちゃう 籠り,活字に溺れる.ひたすら深みへ,冥い世界へ.
・夕方からは,近くのスーパー駐車場で「納涼祭り」.暑くてバテる.
・夜,しばらく放置してあった大屋幸世著『蒐書日誌・三』を読み進む.前著2冊もそうだが,「息をするように本を買う」「ムダや重複を厭わず買い集める」というシンプルきわまりない指針だ.買った本に落胆したり舞い上がったりしつつ,次の日にはまた新たな本漁り.同調しようとは思わないが,だからといって他人事でもない.来る日も来る日も黒い本やら白い本やら.あきれるばかり.うらやましい.
・実にシンプルな1日だったと思う.
・本日の総歩数=3779歩.
23 augustus 2003(土)
・そーか,こういうつながりがあるのか,という話――細馬宏通さんの日記〈The Beach〉の8月21日の項で,1888年の磐梯山噴火に関する田中智学ルポについての文がリンクされている(「田中智学と磐梯山噴火の幻燈大会」).
・山体の大部分が吹き飛んだ磐梯山噴火では大きな被害が出たが,日蓮宗の得度を受けていた田中智学はいちはやく現地に到着し,被害状況や混乱のありさまを生々しいレポートとして当時の『読売新聞』に30回にわたって「磐梯紀行」のタイトルで連載した.田中智学のこのレポートは,現在では小桧山六郎編著『新磐梯紀行』(2000年12月25日刊行,歴史春秋社,ISBN: 4-897575-420-X)に写真入りですべて復刻されている(p.160).
・田中レポートは「報道写真つきの新聞記事」としては日本初のものだったそうだ(→読売新聞の明治DB).ただし,細馬さんも示唆しているように,撮影写真をそのまま製版したものではなく,写真に基づいて絵をおこし,それを銅版にエッチングして印刷するという手間のかかる作業だったとか(p.16).
・この事件の新聞「以外」の報道スタイルは特筆すべきだろう.そのひとつは〈幻燈〉による報道.田中智学は〈幻燈〉を駆使して,方々で磐梯山噴火のありさまを一般に周知し,救援活動をしたということだ(pp.162-5).田中に同行した写真師が〈幻燈〉を製作したという.パノラマやジオラマに関心のある細馬さんは,この〈幻燈〉の使用に興味をもっているようだ.
・もうひとつは〈錦絵〉による報道.土屋礼子著『大阪の錦絵新聞』を読了したばかりだったのはタイムリー.明治初期,知識層向けの〈大新聞(おおしんぶん)〉から大衆向けの〈小新聞(こしんぶん)〉への移行過程で,〈錦絵新聞〉というメディアが短期間(1870年代)だけ流行した.江戸時代の瓦版のような媒体に,どぎつい多色刷りの錦絵,そして殺人やゴシップなど三面記事的なニュース素材――俗受け要素を継ぎ合わせたキメラのような〈錦絵新聞〉は,磐梯山噴火の報道でも活躍したようだ.
・新聞史の上では西南戦争を最後として〈錦絵新聞〉というメディアは,〈小新聞〉にそのニッチを譲って,終焉したとのことだ.しかし,その「終焉」は東京や大阪などの大都市圏だけに限られていて,地方では1880年代末にもまだ命脈を保っていたのではないか.実際,磐梯山噴火のときには「絵入自由新聞」が噴火直後の錦絵新聞号外を発行している(p.15).
・明治初期の錦絵新聞に筆を揮った絵師は,歌川国芳門下に連なる系図が主流派で,彼らは共通して〈〉を号にもつようだ.Elliott Sober の言う〈Smith / Quackdoodle定理〉(→『過去を復元する』)によれば,頻度の低い名字の共有性は近縁性の仮説をサポートする.歌川派(他の流派もきっとそうだろうが)にもあてはまるだろう.東京朝日新聞の特派員として現地入りした山本芳翠(p.35)もまた歌川派に連なる絵師と推測される.山本は,爆破時を髣髴させるリアルな【磐梯山破裂図】を描き,それは天皇家に奉納されるとともに,噴火を伝える朝日新聞号外にも載った.
・以上,磐梯山噴火・錦絵系図・明治期新聞史の三題噺でした.数年前,たまたまクロスカントリー・スキーで泊った裏磐梯の国民宿舎で買い求めた『新磐梯紀行』が,今になってオモテに浮上してくるとは思わなかった.
・今日も極度に暑かった.組合の次期役員選出にからむあほらしい雑用も重なって,「不快指数」はきわめて高かった.時間泥棒め.
・久しぶりにブックポータルの〈週間新刊案内〉が更新されていたので,チェック→「1337号」※『最後の九龍城砦』,『災害文化史の研究』,『辞書学辞典』あたりに食指がぴくぴく.おお,『ウミウシガイドブック3』なんてのも!『ナマコガイドブック』はイマイチか(海鼠が鑑賞対象になるとはとても思えへん).
・研究室の書棚はすでに〈九龍城〉と化しつつあるなと個人的には思う.生きては出られませんよ,とか.むしろ〈青木ヶ原樹海〉と言うべきか.脅かしてどーするって?
・本日の総歩数=4151歩.※「樹海」を彷徨いつつ.
22 augustus 2003(金)
・もう忘れていたのに,昨日からまた暑さが戻ってきた.堪えます.
・博物館/美術館の図録(カタログ)の話題続き――『UP』の2003年8月号に掲載された記事「座談会・視ることの快楽:自画像の魅力・カタログの世界」(三浦篤・五味文彦・木下直之)を読む.前半部分は「自画像」の美術史がテーマだが,後半(pp.12ff.)がカタログ批評に当てられている.「モノ」としてのミュージアム展示と「資料」としてのカタログをどのように擦り合わせていくかという点で必ずしも同意に達してるようには見えない.それだけ難しい問題か.
・カタログが「本」であるべきか否かという点でも見解は分かれる.ただし,〈文化資源〉としてのカタログの価値(pp.18ff.)を考えたとき,カタログを体系的に蒐集し保存する機関が日本にはまだないとのこと.さらに,商業ベースに乗っている「書籍」ではないというだけで,国会図書館への納本義務からも外れているそうだ.展示期間に合わせてローカルに少部数だけ発行され,そのまま埋もれていく図録(カタログ)はきっと多いのだろう.そのミュージアムに出向けば入手できるというのは解決策にはならない.
・日本でも,商業的に売れそうなケースでは,カタログが書籍として売られることもある.レンブラントやフェルメールの展覧会がしばらく前に各地であったが,そのカタログのいくつかは「本」として売られている.→『フェルメールとその時代』(2000年4月10日刊行,河出書房新社,ISBN: 4-309-90389-4)※いったいどこのミュージアムのいつの展示だったのか,どこにも明記されていないフシギな図録.
京都文化博物館での今回の展示『阿倍晴明と陰陽道展』も「モノ」を実際に見ることができたら,さらに感銘を受けたのかもしれない.現地に行くことができなかったとしても,せめて図録で疑似体験をしたいと思う人は少なくないだろう.図録も170もあるカラー図版たっぷりの豪華版.
・夕方,東京にお上りさん.久しぶりに駒場へ――午後6時半から【日本進化学会第6回大会実行委員会】.福岡大会が終ってから,まだ3週間も経っていないのだが,箱崎の殿の江戸参府に合わせて,目黒の殿ならびに城代家老が配下のものどもに招集をかける.ひー.粗相があると切腹ですもん.ひー.
・ということで(笑),来年度の進化学会大会の大枠は以下のように決定されました――日本進化学会第6回大会[場所]東京大学教養学部(目黒区駒場)/[期間]2004年8月1日(日)〜4日(水)/[行事]8月1日:進化生物学・夏の学校(矢原徹一校長);8月2日:評議委員会,総会,学会賞受賞式&講演,国際シンポジウム(「心・ことば・進化」organized by 優秀中心元締・長谷川寿一),懇親会;8月3〜4日:一般講演(ポスター)・シンポジウム・ワークショップ/[実行委員長]嶋田正和.
・来年の大会は,参加者数が1,000名を越えると予想されるので,いろいろと段取りについて話し合う.ぼくは「要旨集」作成担当を拝命.プログラム委員会は近いうちに立ち上がる.
・ガラパゴスから帰ってきたばかりの長谷川眞理子さんから,ガラパゴスリクガメをあしらったTシャツをいただきました(感謝).イグアナやらペンギンやらの写真も多数あり.早く本にしてねー>まりまり&集英社さん.
・午後8時過ぎまで会議があって,その後は例によって〈やきとり学園〉へとなだれこむ.安くてうまい.それにしても久しぶり.つい飲んでしまって,常磐線下りに乗り込むのが遅くなってしもた.当然のごとく午前様.
・Matthew Battles『Library: An Unquiet History』(2003年,W.W. Norton,ISBN: 0-393-02029-0).なかなか博識な著者.ライブラリアンというのはおもしろい仕事なのかもね(きっと).お,アルチンボルドの〈The Librarian〉が載ってる.
・本日の総歩数=10860歩.
21 augustus 2003(木)
・この時期恒例の「JICA筑波国際センター」での統計学講義の日.春に総論を話したので,今日は研修生の進捗を聞き取りながら,個別カウンセリングみたいな進め方をする.ぼくが担当している野菜栽培技術コースは毎年10名程度の研修生が世界中から集まってくるが,今年は中南米からの研修生は少なく,東南アジアとアフリカが主体(年によってばらつく).研修生は,グループ実験テーマとともに個別実験テーマを担当し,つくばで1年間のコースを受ける.その中の「実験計画・統計分析」の講義がぼくの仕事.
・農環研に入って以来,春と夏に毎年受け持っている講義なので,英語での講義とはいえ,とくに緊張するようなことはない.講義する相手は,母国ではエリートといえる国や大学の役職についている人たちのようで,むしろやりやすいといえるかな.ぼくに比べればはるかに英語が達者な研修生が多いので,「ごめんねー」と内心思いつつ,話しかつ書きまくる.
・OHPやプロジェクターでの講義よりは,むしろ板書した方がいいときもあるような気がする.今回も,研修生がもっているデータに基づいて,分割区法(Split-plot)の分散分析を手計算で板書するという荒技を2時間ほどかけてやってみた.〈〉を使えば数行のプログラムですむことはわかっていても,やはり手計算の腹持ちには代えられない.
・個別カウンセリングと分割区法の講義,最後に〈〉を用いた分散共分散行列と相関係数の計算について少し触れて,実質5時間の講義はオシマイ.午前9時半から午後4時過ぎまでの拘束はなかなかキツイものがあります.来月もまた1-day lectureが予定されているが,そのときは研修生それぞれのデータについてひとつひとつ相談を受けるという「肉弾戦」になるだろう.
・こういう講義では,講演とはちがって「原稿」を用意するわけにはいかないし(講演ですら用意したことないけど),途中にばしばしと質問が飛んでくるので,普段とは異なるコミュニケーションとボケ/ツッコミの能力をつけるのに役立っていると思う.面の皮の厚さ(「a thick skin」)は研究者には必須の素質だそうだが(Trends in Ecol. Evol., 18(8): 375-376, 2003),たとえトンデモな質問であっても慌てず騒がずさばいていくという技術も,また「面の皮の厚さ」を肥厚させるのだと思う.もちろん,うまくいかないときもあるわけだが,それでも負けずに【try try again】(同上,p.376)すること.
・炎天下,農環研←→JICAを歩いて往復し,夕方,農環研に帰ってきたら,『阿倍晴明と陰陽道展』(2003年7月12日刊行,京都文化博物館展示図録)が届いていました.おおきに,愉しんでます.小説や映画を通じてさらに一般受けするようになったということか.楽し.
・それにしても,このような博物館や美術館の展示に伴って出版される図録(カタログ)の多くが,「正規の書籍流通ルート」に乗らないというのは不思議でしかたがない(ISBNが付いていないのだから).東大出版会の広報誌『UP』の最新号(2003年8月号)に,座談会「視ることの快楽:自画像の魅力・カタログの世界」の大きな記事が載っている(pp.1-22).カタログのもつ価値を考えると,その流通が自家出版並みに限定されているのは実にもったいないと思う.そこに寄稿している学芸員の研究業績にもならないというのは不当でさえあると感じる.
・ふと思い立って,土屋礼子『大阪の錦絵新聞』(1995年12月20日刊行,三元社,ISBN: 4-88303-029-6)を読みはじめる.こういう明治初期の束の間だけ受け入れられたメディアを調べようと思い立った著者の動機に関心が向く.それにしても,どぎつい絵入り瓦版が林立した明治維新直後というのはどんな時代だったのか.※著者は「現代にも連なるものがある」というスタンスだ.本書に続く『大衆紙の源流:明治期小新聞の研究』(2002年12月10日刊行,世界思想社,ISBN: 4-7907-0962-0)と合わせて読んでみよう.
・本日の総歩数=15345歩.※たまに歩いたので疲れた〜.
20 augustus 2003(水)
・近くに,24時間営業の書店「Book-Ace」ができたので,夜明けに急襲.売場面積が広いので,意外な本も置かれている.お買い上げ――『ゲーテ全集14:自然科学論』(2003年6月5日刊行,潮出版社,ISBN: 4-267-01674-7)※目が悪くなるぅ,と言いつつも600ページの全集がたった2000円で買えてしまうというのは文句なしに拍手もの.大貫伸樹『装丁探索』(2003年8月6日刊行,平凡社,ISBN: 4-582-83166-4)※カラーではないけど,何百枚もの図についフラフラっとよろめいて....
・さて,とホコリの一掃処分だあっ.
・――ううっ,ホコリの掃除に思いのほか時間を取られてしまった....まだ終わらない.(ナミダ) ※そんなに溜めるなと言われましてもなあ.
・夜は次男の友だちが泊にきているので,巨大ハンバーグを焼いてふるまう.挽き肉1kgをこねるのはたいへん疲れます.
・「ホコリ」と「ハンバーグ」で暮れてゆく1日.
・にもかかわらず『ねじとねじ回し』読了.職人ことばが方々にちりばめられていて,訳すのたいへんだったでしょうね.ねじ頭部ソケットが「◆形」のロバートソンねじと,ソケットが「プラス(+)形」のフィリップスねじをめぐる勢力争いはなかなかおもしろい.完全な工具が必ずしも普及するわけではないというヒネリがあるとは.いわゆる「マイナス(−)形」のねじは祖先形だったのか.
・本日の総歩数=8331歩.
19 augustus 2003(火)
・未明から小糠雨――もういいってば!
・『生物科学』の科学論特集がらみのお仕事はこれにてオシマイ――初校ゲラも返送したし,しばらく半年あまり休眠していた科学論ML(SS)へのアナウンスもすませたし,ばらまくべき相手にはことごとくアジビラを撒いたし.
・と気がついたら,ホコリのように雑用が積もっている.やっかいなのは,ふッと吹いても消し飛んでくれないこと.そのまま積もっていく――進化学会出張復命書/同参加費立替払請求書/同「夏の学校」報告(含・アンケート集計)/同評議員会・総会報告/生態学教科書執筆(月末まで)/都立大非常勤の準備(含・受講者ML開設)/都立大セミナー要旨届出(28日まで)/Gセミナー当番(27日)/DGCbase監査報告(すぐ)/計量生物学会の仕事(ML開設など)/進化学会第6回大会準備委員会(22日・駒場)/組合員証検認(22日まで)/JICA統計学講義(21日実施→年休届)/分会次期執行委員選出(25日まで)/統計関連学会大会(9月始め・名城大)出張申請/統計研修/太田邦昌文献リスト・・・※ほとんど備忘録.
・しばし現実逃避.中野三敏『本道楽』(2003年7月14日刊行,講談社,ISBN: 4-06-211793-2)※和書の蒐書エッセイ.じわっと興趣あり.小田光雄『書店の近代』(2003年5月19日,平凡社新書184,ISBN: 4-582-85184-3)※読み忘れていましたです,ハイ.リプチンスキ『ねじとねじ回し』(2003年7月15日刊行,早川書房,ISBN: 4-15-208504-5)※読まずにはいられないって?
・書評をさくさく書くべき本――『系図が語る世界史』と『A Rum Affair』※読み終わってるんだから,記憶が揮発しないうちに書きつけないと.
・わ,カモノハシに咬まれたあ〜.
・夜,質問を受けた〈NONA〉の操作を確認する.この系統解析プログラムは1993年のもので,DOS-windowで動かすことになる.〈Hennig86〉と姉妹群関係があるので使い勝手はとても悪い.計算環境として〈WinClada〉をインストールしておくと,かなり使いやすくなる.
〈NONA〉のマニュアルはもう配布されていないのかな? オンライン・ドキュメントはいくつか見つかるが→たとえば,Lipscombさんの〈NONA〉ガイドとか,あるいはこれとか.〈Hennig86〉や〈WinClada〉のマニュアル本もきっと役に立つだろう.ぜんぜん知らなかったが,NONA / WinClada系の分岐分析ソフトウェアのメーリングリスト〈Cladsoft〉というのが2001年から運営されているようだ.過去ログを見てもほとんど投稿がないのがやや問題だが.
・でも,最終兵器?〈TNT〉が登場したもんなあ.〈BOGEN〉もあるしなあ...(ちょっと宣伝).WinClada/NONAユーザーはしだいに少なくなっていくと思う.
・本日の総歩数=9737歩.
18 augustus 2003(月)
・ふたつあるメールボックスの一つ(niaes.affrc.go.jp)がまだ死んでいるみたい.トップドメイン(affrc.go.jp)は大丈夫なんだけど.かんにんや〜.※午前中に完全復旧しました/午後またもやよろめいているぞー.
・『アナロジーの罠』関連情報の続き――村上陽一郎さんが八王子セミナーのときに言っていたみたいに,「科学者は科学論のことは知らなくていい」とか,「科学論を科学の立場で論じるのは科学主義である」というのは,まあ言ってみれば,周囲の〈防火扉〉をぱたぱたと締め切るのと同じで,たとえ「自分」の身は守れても,結果として〈閉じた世界=「快楽の園」〉がそこに現われるだけのこと.それでよしと言うのであれば,もはや何をか言わんやである.
・昼休みに,筑波事務所の農林水産研究情報センターに出向いて,『図書新聞』を複写する――2003年8月9日発行の第2641号,5面:金森修書評「これは、〈思想警察〉の調書なのか?:なかなか論争的な本」.前にも書いたけど,書評であるかぎりターゲット本の「中身」がどのようなものなのかについてまず書いてほしいな.ただのエッセイじゃないんだから.そう,この本は確かに〈論争〉の書であるわけ.だとしたら,〈何〉が論点だったのかをきちんと紹介すべきでしたね.
・書評者個人が私的体験としてポストモダン思想とどのように関わったかは本筋ではない.また,「フランスのことはいい.我が国の思想界に関連づけながら,本書を位置づけることの方が,おそらくは,より重要だろう」と言いつつ,「この本も,若干遅きに失したという感じはする」では,まるで本書がすでに過去のものとなったある思潮に対する批判の書であるかのような印象を与える.そうではなくて,むしろ,今なお生き続ける思考スタイルに対するリアルタイムな批判が本書の核心ではなかったか.
・なお続けて,「『知の欺瞞』の邦訳後,一部の科学者に見られたような反応にも,興ざめの思いはする.彼らとて,一歩専門を離れれば,ろくなことはいえないことの方が多いからだ」だって!――〈栄えあるハエの帝王〉たる科学論者に対してそんな失礼でイケナイことをした「一部の科学者」って,いったいだ〜れ?(爆笑) 「私の総括が気に入らなければ,私をどんどん批判すればいいだけの話なのである」――うわあ,かっこええやん.どこかで使わせてもらお(\ばきっ).
・自らを批判の及ばない場所にまず置いた上で,相手を叩くというのはフェアではない.ポストモダン思想家には批判という言葉が存在していないのだから,批判されるおそれはもともとないはず.だから,批判は受けて立つかのごとき書評者の発言は演技にすぎない.それよりも,自分もまたブーヴレスの論議とは無縁ではないのだという認識が欠けているのはどういうことか.「私個人は,その[ポストモダン思想の]全盛期にもあまりまじめにつき合わなかった方なので,実害は少ない」という判断は本当に正しいのか? そうは思えない.
・村上書評や金森書評を読むかぎり,科学論者による『アナロジーの罠』の紹介には意図的なはぐらかしあるいは論点のすりかえがあるようだ.このシステマティックなバイアスが意味するものを〈生え抜きのハエ〉たる科学者はきっと見抜くだろう.
・夜になってから,『アナロジーの罠』のbk1オンライン書評が公開された.字数を削った分,表現がトンがったかな.
・昨年1月の八王子での大学共同セミナーに端を発した『生物科学』の科学論特集(第55巻1号)が9月に発行されることが確定したので,この機会にセミナー参加呼びかけから特集号にいたるまでの足取りをまとめておくことにした.→大学共同セミナー187記録.その後,セミナー・ハウス側の家庭事情により,この形式での「大学共同セミナー」は廃止されている.いまはなんだか大学経営セミナーみたいになってるというウワサだけど.
・このセミナーと特集のタイトル〈科学論は科学の敵なのか?〉は,セミナー企画委員会の最初の会合でほかならない村上さんが提示したものだったことを思い出した.まともに疑問文として理解する? それとも,修辞疑問文? あるいはさらいウラを読む?
・『アナロジーの罠』にも明言されていますが,ポストモダン思想はある意味で「愛の対象」と化しています.リクツじゃないんですね.ですから,loversたちにとっては,ソーカルやブリクモンは「他人の恋路のジャマをする野暮天」ということかな.《♪ポ・モ is forever♪》〜
・本日の総歩数=11721歩.※ちょっとは改心したか?
17 augustus 2003(日)
・昨日からメールサーバーの調子がよくないようで,メールの送受信に支障をきたしている.メールが来ない/届かないという方,ごめんねー.怒らんといてねー.たいていすぐに復旧してるので.
・ブーヴレス『アナロジーの罠』関連情報――書評を昨日アップした反響がさっそくあった.「日録」読者であるボストン在住の高校生リリカさんからメールがあり,村上陽一郎さんの同書書評が毎日新聞に載っていると教えてもらった(→毎日新聞7月27日号の書評:「専門用語を専門外の人が口にすると」).確かに,村上書評は「的が外れている」のではなく,「的をわざわざ外している」と言うべきだろう.その背後にある動機をじっと推測する愉しみが残されている.
・村上書評に比べると,金森修さんによる「図書新聞」掲載の同書書評の方がシンプルでわかりやすいかもしれない(→『図書新聞』第2641号[8月9日号],「これは、〈思想警察〉の調書なのか?」).この金森書評自体もまた分析対象として興味深いと思われる.なんたって〈思想警察〉だもんね.ブーヴレスの末尾の皮肉が思い出される:「われらがフランスの急進的インテリゲンチャの精鋭は,‘理性の専制’だの,‘科学の帝国主義’だの,‘思想警察’だの,‘モラルの回帰’だの,あるいはそのほか似たような忌まわしいものの脅威を,最後の最後まで糾弾し続けているにちがいない」(『アナロジーの罠』,p.198).
・エーコ著『カントとカモノハシ(下)』の第4章:「カモノハシ――辞書と百科事典のあいだで」を読了.記号論的な表現に引っかかりを感じるものの,論旨はたどりやすいようだ.彼は生物分類学の記号論的基盤をつくろうとしているのかな.
・ヘッケルの愛人フリダが生まれ育ったのは,ゲッティンゲン近郊のGleichenにあるGelliehausen.ここはまた〈ほらふき男爵〉の作者ビュルガーゆかりの地でもある.ミュンヒハウゼン男爵はここを闊歩していた(ウソ).
・お盆休みのUターンラッシュは回避できたのか,比較的ラクにつくばにたどり着きました.
・本日の総歩数=4731歩.※明日からはマジで歩こう.
16 augustus 2003(土)
・ジャック・ブーヴレス著『アナロジーの罠』の書評を仕上げる.よく書けている本だと思う.ソーカル&ブリクモン著『「知」の欺瞞』が〈病状診断〉であるとしたら,本書はいわば〈病因解明〉を意図した本といえるだろう.流れとしては,続いて〈対症療法〉ないし〈根治療法〉があるはずだが,とくに「直る必要」や「直す必要」がないということであれば放置しておいてもいいかもしれない.ただし,周囲に害が及ぶようなことがあればそうも言っていられないか.当の病人が「ビョーキであること」を認識していないのだから,よけい始末が悪い.「世の中には,必要のない学問があるんですねえ」と呆れた口調で断罪したW谷さんは実に正しいと思う.
・この本,今月のbk1書評本なので,早く整形して投稿しないと.>S尾さん,待っててねー.※送信完了でーす.
・まだ雨はやまないな....と思ったら,朝のうちにあがって,久しぶりに道が乾いている.
・『欧文書体百花事典』をどんどん読み進む――歴史に名を残す活字中毒者たちの群像についつい惹きこまれる.そうか,20世紀のブラック・レター(亀の甲文字)興隆の背後にはナチのバックアップがあったわけね.19世紀までのドイツ語圏の本は Tekstur や Fraktur の亀の甲書体でかっちり組まれたものがほとんど(すべて?)だが,あの独特の威圧感は書体自身がもともともっていた「意図」(絵画性・神秘性・権威性・呪縛性などなど)の忠実な反映であることを知らされた.本革装釘の重厚な本がブラック・レターで埋め尽くされていたら,確かに読む以前に圧倒されるよねえ.
・雨で延期されていた前橋の花火大会が聞こえる(ちょっとも見えへんけど).そろそろクライマックスかな(午後9時半も過ぎているので).
・2年ほど前に,エルンスト・ヘッケルと彼の若い愛人だったフリダ・フォン・ウスラー-グライヒェンとの往復書簡集に目を通したことがある.この往復書簡集自体は2000年の出版なのでもちろんローマン書体なのだが,そのもとになった往復書簡は1927年に「ある著名人とある婦人とのラヴ・ロマンス」といういささかいかがわしい形で出版されたことがある.この本がフラクトゥール書体なのだ.ラヴ・レターをブラック・レターで読むというのはどうにも居心地が悪い.「愛している」の「逢いたい」のという文面が四角張った書体で真っ黒に綴られているのは,現代的に見ればやっぱり息苦しい.切羽詰まったものが行間に詰め込まれているみたいでね.
・本日の総歩数=1453歩.※停止状態と呼んで!
15 augustus 2003(金)
・こりゃ,まるで秋の長雨の到来.昨日からずっと雨が降り続いている.早朝の気温は摂氏15度あたりのようだ.
・エーコ『カントとカモノハシ(下)』がそこにいたことを思い出す.上巻も連れてきていたので,たまには世話してやらないとね.この時期は〈活字の誘惑〉が他に多いのでついつい面倒見が悪くなってしまう.とりあえず,カモノハシの【分類】の話(第4章)を読み進んでいる.
・『文房具を買いに』は好ましい体温をもった本.極私的「文房具フェチ」と言ってしまえばそれまでなのだが,見開きのカラー写真とエッセイを交互に配置してある体裁は,なかなか感じがいいように思う.そうか,ボールペンの「芯」を鉛筆の「芯ホルダー」にセットするという方法があるのか.試してみよう.写真の撮り方にこだわりがあるようで,「直射ではない光の中で」(p.18)とか「日没直後の光で」(p.31)とか,指定が細かい.さらに究極のこだわりを貫いていたら,クラフト・エヴィング商會の本に収束していくと思う.
・一時期,カリグラフィー・ペンを探していたことがある.ロットリング社の〈アートペン〉も何本か試してみたのだが,インクやペン先の管理がめんどうで挫折.結局,楽譜の写譜に用いる〈写譜ペン〉を渋谷ヤマハで発見.以後,愛用している.サインしたりするときにとても重宝する.
・OHPはすでに機材として消えゆく運命にあることを痛感している.もちろん,本体はまだあるしトランスペアレンシー・シートは売られているのだが,〈OHPマーカー〉がすでに日本の市場から消えつつある.あるとき,マーカーの何色かを補充するために探したことがあったのだが,どこの店にも置かれていない.銀座ITOYAまで行ったのだが,前は常設されていた〈OHPマーカー〉のコーナーが撤去されて,隅のほうに追いやられていた.しかも,マーカーの在庫がほとんどない.ドイツの〈スタビロ〉のOHPマーカーが以前ならばたくさんあったはずなのに.こういう〈消失〉はまず周辺機材から始まるという事実に気づかされる.かつての〈ガリ版〉もそうだったのか.
変人,閑居にして,活字に沈む――組版工学研究会編『欧文書体百花事典』はたしかにわくわくするエンサイクロペディアだ.お盆休みにはぴったり.1項目ずつじっくり味合わせていただきます.
・そうこうするうちに,『文房具を買いに』読了――著者は「ノートブック」と「押しピン」に対してとりわけ強い蒐集癖(思い入れ)があるように見える.ごちそうさまでした.
・〈ターミネーター3〉をば鑑賞――[近い将来ひょっとしてカリフォルニア州知事になるかもしれない]主人公の活躍ぶりを拝見してきました.前作と比較して破壊度はさらにアップしていますが,虚無度もパラレルに増幅している気がするなー.ストーリー構成がイマイチとも.
・本日の総歩数=4156歩.
14 augustus 2003(木)
・未明からずっと驟雨――最低気温は19度あまり.この時期にはまったく相応しくない.個人的には涼しくていいのだが,素直には喜べないな.
都立大学から9月の非常勤講義についての問合わせあり.昨年と同じく,〈〉を用いた生物統計学の講義を30時間.受講者メーリングリストの立ち上げと,〈〉のインストール手順などを通知する必要あり.それとは別に,ウラ講義もひとコマ.今年はどんなワルイ話をしましょーかねー.
・高崎に移動する.常磐高速バスとJR高崎線の乗継ぎ.常磐道の上り方向は空いていたが,首都高でちょっと渋滞.それでも1時間ほどで上野着.高崎線下りも全然混んでいなかったっす.2時間で高崎着.高崎の気温は20度.しとしと雨.涼し.
・車中で『陰摩羅鬼の瑕』を読了.意外にあっさり風味だったと思う.前半,ハイデッガーと林羅山でのたうつ箇所はあったが,存在/非存在および認知カテゴリーの線引きに関わる形而上学的問題が浮上してくる後半部分はたいへんわかりやすい.思うのですが,鳥類の博物学に没入した由良昂允伯爵の父は蜂須賀正氏がモデルではないかな.鳥屋敷の描写といい,ぶっとんだ行状といい.最後のところで【種】の話がチラッと.にくいねー.京極堂はコナン化あるいは水戸黄門化しているなと感じたりして.
・Alibrisから『The Canterbury Tales Project Occasional Papers I』が届く――〈カンタベリー物語〉の写本系統に関する論文集.本論文集では PAUP 3.0 を用いた写本系統推定が見られる(1993年の論文集なので).ただし,写本系統学では独自に系統推定のためのソフトウェアが開発されていて,それはネットワークを前提としているのがふつうのようだ.写本間の網状の系統関係が常態なので,それは合理的と思う.日本のテクストについても同様の写本系統の解析があればいいのだが,なかなか遭遇しませんねえ.
・JR上野駅の〈Book Garden〉で,たまたま片岡義男『文房具を買いに』(2003年8月13日刊行,東京書籍,ISBN: 4-487-79913-9)を入手.誰しも「こだわりの文房具」はあるものだが,そういう文房具を集めた本.モールスキン手帳――なかなか手ざわりよさそう.「ファン・ゴッホやマチス,ヘミングウェイやチャトウィンが手にした伝説的手帖」というのはホント? ブルース・チャトウィンの名前が出てきたので,ちょっとビックリする.
・いつの頃からか「手帳」の類いはもたなくなった.たいていは縦2cm×横3cmのPostItノート(銀座ITOYAで革製カバーをゲット)で事足りる.ノートブックはこれまたITOYAでのみ手に入る無罫の〈White Book〉を愛用している.シャープペンシルは0.9mmの太軸のもの(速記用).スケジュールノートには,〈Filofax〉の〈Vertical Year Planner〉を毎年欠かさず買い求める.かつてはファットなシステム手帳を持ち歩いたものだが,あまりに不便で投げ出した.薄いウェストポーチに全部入りきるのが理想ですな――なんや,ぼくもけっこうこだわってるやん.はい,ステーショナリー大好きです.話し出すとキリがありませんです.
・秋の夜長を(ちがうって?)こういう「こだわり本」とともに過ごすのもまた一興か.読む側にこだわりがあるからこそ「こだわり本」はおもしろい.
・本日の総歩数=4522歩.
13 augustus 2003(水)
・世の中捨てたものじゃない――一雨降って朝が来たら,もう〈〉が来ていた.こりゃ快適.残暑で死む〜と呻いていたのがウソみたい.
・またまた御本の到着で〜す――William Morris 『The Ideal Book』(1982年,University of California Press,ISBN: 0-520-05625-6)と S. P. Barile 『The Bookworm's Big Apple: A Guide to Manhattan's Booksellers』(1994年,Columbia University Press,ISBN: 0-231-08494-3).Morris の本は,おお,2色刷じゃん(Updike の『The Well-made Book』はこれに対抗したか).
・ブックワーム本は,10年前の本ではありますが,ニューヨークに行く前に読んでおくべきだったね.ちっ.それにしてもマンハッタンって本屋だらけではないか.本屋のカタログが230ページの本になるとはね.ストランド書店からの船便がまだ届きませんなあ.そろそろのはずなんだけど.
・本また本の生活.神崎正行『快楽の園』読了.まさに「吹き荒れる寓意の嵐」って感じ.この時期のネーデルラント絵画は「見る」というよりも「読む」と言うべきなんだろうね.疲れるー.もうすぐ,ストランド書店からヒエロニムス・ボッスの巨大画集が届くはず.ダスト・ジャケットには,かの〈木男〉が鎮座していた.(→TV東京の「美の巨人たち」サイトにこんなページがありました.)
・〈ミナカレー〉はことごとく喰い尽くされました.あとかたもなく.今度は肉を2kgにするかな――健啖と張り合ってどーするって.
・本日の総歩数=2952歩.
12 augustus 2003(火)
・岩崎信也『蕎麦屋の系図』(2003年8月15日刊行,光文社新書111,ISBN: 4-334-03211-7)入手.〈砂場〉〈更級〉〈藪〉など有名蕎麦屋の「暖簾系統樹」がそこかしこに.ほほほ,楽し.ついでに,須賀敦子『コルシア書店の仲間たち』(文春文庫版)も.書店をめぐるエッセイが基調としてほろ苦いのは共有形質か?
・読了した本が何冊もあって(読了していない本はさらに何冊もある),書評をどんどんこなしていかないといけないのだが,なかなか本調子にならない.その間にも,次々と本が届いたりして――
・Robert J. Richards 『The Romantic Conception of Life』(The University of Chicago Press, December 2002)到着.確かになあ,「ロマン主義が近代生物学の胚胎だった」なんて書きゃあ,マイケル・ルーズおじさんが血相変えて飛んでくるよなあ.でも,いいテーマだと思う.600ページはかなり重い.
・『生物科学』誌からゲラが届く――科学論特集の原稿はまあなんとかなるとして(ブーヴレスの本を引用しておくか),新設コーナーである【“みなか”の書評ワールド】は...,うほほ,このイラスト,なかなかですなあ.イラストレーターの「ののたんぽぽ」さんに感謝.ゲラのチェックを早くすまさないと.
・7月から断続的に続いていた組合の次期役員選考が暗礁に乗り上げている.選考委員としては言うべきことを言うしかないが,徒労感が漂う.まあ,今月中に決まれば御の字でしょうな.ヘタをすると9月にずれ込む可能性あり.それもしかたないでしょう.なるようにしかなりませんもん.
・進化学会大会の報告を依頼されている――評議員会,総会,そして「形態測定学・夏の学校」.印象が薄れないうちに書かないと.そうそう,アンケートの集計もしないと.
・なお続くカレー仕込み――【レシピ4】赤ワインを適宜足しつつ,肉がほろほろと煮崩れる程度まで煮込む.醤油や味噌などの和風調味料を少し加え(これがミソ),ヨーグルトを300ccほど混ぜこむ.この時点でほぼ完成.
・【レシピ5】今回はさらに,一昨日からつくりおいてあった夏野菜のラタトゥイユをとどめに加える.ガラムマサラを一振りして香りを整え,あとは食卓へ直行.今日もよく食べました.
・本日の総歩数=3038歩.※動かずに食べも食べたり盆休み.
11 augustus 2003(月)
・お盆休みの真っ只中――こういうとろけそうな暑さのときは一念発起!カレーを作るべきだ.私のレシピは下記の通り.
・【レシピ1】肉屋に行って牛モモ肉のブロックを1kg買ってくる.タマネギ&ニンニク&ショウガを大量にスライス.サラダオイルを熱した厚底鍋で2時間ほど炒める,カレー粉とガラムマサラなどいつもの香辛料たちを総動員して,ホールトマトを一缶混ぜ,カレー・ルーの完成.水で少しずつのばす.今回はあまり辛くないようにする.
・【レシピ2】ブロック肉を約20個に切り分ける(50グラム/個が基準).塩・胡椒をすりこみ,赤ワインとブランデーで下味.鉄のフライパンをよく熱して,肉に焦げ目をしっかり付ける.「1」のなべにごろごろと投入し,強火にする.
・【レシピ3】沸騰してきたら火を弱め,ひたすらアク取りに専念.その後は遠火の弱火にして,ひたすら煮込む(一昼夜).辛くしたいときは,この時点で〈鷹の爪〉を何本か放り込む.※今はこの段階です.
・關口巽〈獨弔〉から――「だから今日のあたしは/きのうのあたしぢやないンだらう/少ォし死んで,少ォし生まれてゐるからサ/そんなもの,幾日か経たうものなら/そつくり入れ替はつてるンぢやアないかねえ ... さうなら,あたしはあたしぢやないんだらうか/引ッ切りなしに入れ替はつてゐるのにさ/それなのに,あたしはいつまでもあたしだし/ずつとあたしだつたやうな気がするよゥ」(『陰摩羅鬼の瑕』,p.207).>これまた高座のオカズということで.
・本日の総歩数=2401歩.※ほとんど歩行停止状態.
10 augustus 2003(日)
・台風一過はいいのですがね.このカンカン照りはつらいですな.最高気温は35度の予想.終日「がまん大会」の様相.
・京極夏彦の『陰摩羅鬼の瑕』(2003年8月8日刊行,講談社,ISBN: 4-06-182293-4)がやっと出た.予告されてからいったい何年待ったことやら.
・お盆休みモードに入ったとたん,活字が攻め寄せてくる〜.身から出た錆というウワサも.馬の耳に念仏って?
・ペトロスキーの新刊『ゼムクリップから技術の世界が見える:アイデアが形になるまで』(朝日選書733)もチェックしないと.前著『フォークの歯はなぜ4本になったか』(平凡社)とともに,非生命体系統学の格好のケーススタディーになっている.そういえば,ヴィトルト・リプチンスキ『ねじとねじ回し:この千年で最高の発明をめぐる物語』(早川書房,ISBN: 4-15-208504-5)もきっと同系統の本だろう.技術文化史はそのかなり部分が「非生命体の系統学」に関わっていると思う.進化学会大会以降,この類いの本への関心が強まる.講談社現代新書への布石(伏線)ということか.
・【この人の論旨には瑕がある】(『陰摩羅鬼の瑕』,p.21)――うひゃひゃ,そのうち「高座」で使わせていただきます.>京極はん,おおきに.
どこが立秋やねんなとぶちぶち言いたくなるほどの暴力的な暑さ.たまりまへん.
・本日の総歩数=5739歩.
9 augustus 2003(土)
・朝から台風らしい空模様――午前中はまだときおりスコールがやってくるだけだったが,午後から夕方にかけて強風が吹く.今回の台風10号は,四国から近畿を抜けて,北陸に出たそうなので,その強風圏が関東にも引っかかった.
・荒れ模様の天気なので,家にこもって進化学会大会中の〈日録〉を仕上げる(→8月2日分8月3日分).ただただ駆け抜けたという記憶だけが残る.自分が関係しない企画にはまったく顔を出さなかったという学会大会も珍しいのではないか.
・出張続きでしばらく溜まっていた〈TRC新刊リスト〉のチェックをすませる.→1333号1334号1336号.真夏だからか,あまり収穫はなかった.※「1335号」チェックがうっかり抜けてしまったー.博多でばたばたしていて見落とし.
・強風で木の枝がばきばきと落下している.
・本日の総歩数=3034歩.※足がなまるう.
8 augustus 2003(金)
・台風が近づいているというが,午前中はカンカン照り.とても暑い.昨夜の夏祭りの撤収作業はたいへん厳しいだろう.
・浅見崇比呂さんから,日本生態学会(編)『生態学入門:高校からの生態学(仮)』の執筆依頼.分子系統学の項目.書かせてもらいましょ――とはいえ,ワタシ,生態学会会員ではないんですけど(毎年大会には顔出してるとはいえ).※その割には,今月末に増刷が決定した共立出版『生態学事典』にもたくさん書いたし.
・こういう〈検定外教科書〉の企画って続々と出てくるんですね.文一総合出版の3巻本だって,エンドレスに売れ続けているっていうし.
・浅見さんの話では,サハリン北端で調査中に亡くなった井上健さんは35,000ボルトの高圧電線に直接触れてしまったそうだ.鉄柱が傾いていて電線が地表近くまで垂れ下がっていたとのこと.日本だと,高層ビルほどもある送電鉄柱の上を,見上げるほどの高さで走っているあの電線に相当するだろう.そういうリスクがあるとは信じられない.
・本日の総歩数=7199歩.
7 augustus 2003(木)
・昨夜,矢原徹一大会委員長から進化学会大会に関わる総括報告が届く.参加者総数は「850名」とのこと.東京以外の開催地としては破格の多さだと思う.各企画(シンポ,ワークショップ)ごとに参加者数を集計したというのも慧眼.後々の参考になる.
・佐倉統さんとともにオーガナイズした〈非生命体の進化理論〉は,聴衆およそ100名で集客数トップ5にランクされている.企画段階では一部からうさんくさいと見られていたが,読みは当たった.とくに,眞岡哲夫さんが発表した「茶道所作の系統解析」はインパクトが大きかったようだ.距離法ではなく最節約法を用いて茶道家元の家系を復元して,所作行動形質の祖先復元をすれば,どの所作要素がホモロジーであるのかそれともホモプラジーであるのかが判明するだろう.所作形質のコード化の方法も再検討する必要があるかな(ステップ行列コーディングが必要になるはず).もっとも一子相伝の極意を明示的に推定したりしたら破門される?「公務員はたかだか60歳,茶道は一生」だそうですから.千家おそるべし.
・今日は農環研の毎年恒例の夏祭りなので,昨日あたりから所内が何やら慌ただしく,おでんの匂いがどこかから漂ってきたり,鍋をもって走り回っている人がいたりする.※まつりごとはイマイチだけど,まつりは大好きな農水省」とか...(バキっ/×_×\ドカっ)※ 夕方5時から始まりますです,ハイ.出店は約30店舗,参加者数は数百人規模.大きいねえ.
・神原正明『ヒエロニムス・ボスの〈快楽の園〉を読む』(2000年12月25日刊行,河出書房新社,ISBN: 4-309-26446-8)届く.なんとも意味深な....ストランド書店から発送したボッスの巨大画集がもうすぐ届くはずだが.
・「呑む,打つ,喰う」で,ああ〈快楽の園〉の夜は更けて....※今年はエスニック・カレーの出店が多かった.
・本日の総歩数=22744歩.
6 augustus 2003(水)
・いきなり日常に復帰せよと言われてもムリですな.午前5時前に習慣で起床.そのまま職場にぼうっと出勤して,福岡から郵送した荷物の整理,机に積み上がったチラシ類の廃棄,届いた新刊の撫で撫でなど.
Alibrisから,『Bookstore』が届く,翻訳では削除されている資料や索引を見る.アーサー・ダントがリーディングしたりしていたのか.ジャネット・ワトソンのサイン入り本.〈ジャネット・ワトソン秘密の50冊〉のリストの中に谷崎潤一郎著『The Makioka Sisters』というタイトルあり.何のことかと思ったら『細雪』だったのね.
・忘れないうちに,進化学会会期中の日録を書き記しておかないと.メーリングリストへの登録作業とか,月例挨拶とかその他いろいろと.こういうのが「日常」か.
・秋の昆虫学会大会の小集会企画【太田邦昌追悼シンポジウム】の講演要旨が全員分そろった:鈴木邦雄粕谷英一,および三中信宏.そろそろメーリングリストに広報する必要あり.※EVOLVE / TISA / jeconet および科学史MLに広報完了.
・中央農研の藤岡正博さんから「洋書大処分セール」の連絡がくる.おお,Sol Taxの『Evolution after Darwin』(全3巻)を放出してくれるとは! 先日,ストランド書店でさんざん迷って断念した甲斐があったというもの.ありがたく申し出を受ける.ドブジャンスキーにシンプソン,マイヤもあり.多くはすでに持っているけどね.
・夜,エーコ『カントとカモノハシ(下)』を突っついてみる.
・本日の総歩数=8727歩.
5 augustus 2003(火)
・午前5時の大丸旅館――ほぼいつも通りの時間に目覚め.風呂に入る.隣接する内湯と露天では源泉が異なるそうだ.夜中に風呂に来た人がいないのか,内湯の湯面には析出物の「油膜」ができている.さすがに熱過ぎて入れないので露天風呂に直行.標高が高いせいか(700〜800mはあるかも),朝の気温は福岡市内とは比べものにならないくらい低くて快適.ヒグラシが合唱する山間の露天風呂の朝は,実にシアワセであることを実感する.
朝からキャビアをというような贅沢はできないものの,「朝からワインを」舐めつつ,溜まっていた日録を書いたりしている.御前湯のオープンは朝6時から.もう間もなく.男湯と女湯が入れ替わると聞いたので,ぜひ上階の風呂にも行ってみたい.昨日,ラムネ温泉→御前湯→長生湯とはしごをして旅館に帰ってきたら,女将さんに「ホントお風呂が好きなんですねえ」と言われた.
・夏休みとはいえ平日の温泉街は空いている.高校ラグビーの合宿をしているそうで,体格のいい連中がジョギングしている光景が見られる.朝の御前湯は昨日とはちがって男湯が3階の浴室になっている.芹川沿いにそびえ立つ洋館形式の建物で,露天から芹川のカーヴ越しに温泉街が見渡せる.入浴客もほとんどいないので,ほぼ独占状態.飲泉したり,入浴したり.
・飲泉してみてわかるのは,同じ長湯温泉の中でも炭酸含量と金気のバランスにばらつきがあるということ.御前湯は金気は強いが,炭酸ガスはさほど感じられない.この点は大丸旅館の内湯も同じ.町営の長生湯はマグネシウムなど土類イオンが極端に多いようで,舌に苦みが残るほど.長生湯から芹川への排水溝を取り巻くように大量の析出物が山をつくっているのはその証拠だろう.
飲泉場の多い温泉街だと思う.いたるところ源泉かけ流しだからこそ可能なのだろう.
・御前湯のあと,もう一度,ラムネ温泉に入り,旅館に帰ってきたらちょうど朝ご飯.よく食べました.はい.
・JR大分駅行きの路線バスは長湯温泉9:40発なので,それまでは,ゆったり&ゆっくり&ほっこり.学会会期中とは打って変わった精神状態ですな.あー,ゴクラク.
・行きと同じく2時間ほどバスに揺られて,大分駅前に降り立ったときの暑さはジゴク.駅のグレ電でメールを送受信し,日録を更新し,名物?アジ寿司を買って,ソニック号に乗り込む.博多駅に午後3時前に到着.そのまま地下鉄で空港へ.
・羽田空港は雷雨のようだった.湿度高いなー.常磐線が落雷で運休していることもあり,東京駅八重洲口の高速バス乗り場には人が溢れていた.つくばね号に乗り込んでようやく帰宅.帰路で疲弊した感あり.
・本日の総歩数=14394歩.
4 augustus 2003(月)
・遅めに起床――だってフリーだもんね.荷物をまとめたり,重いのはゆうパックで送ったりして,チェックアウトの準備.いつものことながらOHPとか講演要旨集など学会がらみのアイテムたちをすべて送り出してしまうと,憑き物が落ちた気がしてせいせいする.とくに今回は,おーとぽいえーしすだのしゅだのと祟りがある怨霊がたくさん登場したので,すべてを博多でお浄めした上で帰らないとね.塩が必要だったかな.
・ブーヴレス読了――こりゃ,相当に深刻な「病状」ですな.【痛覚】というものが鈍磨しているのか(もっと踏んであげましょうか).長谷川眞理子さんが『生物科学』の科学論特集に原稿を書いてくれたとのこと.これでメンツは全員そろいました.
・博多駅で,今日の温泉逃避行に必要のないものをさらにコインロッカーにぶちこみ,身軽になって〈ソニック21号〉に乗車.大分へ行くぞー.それにしても,この蒸し暑さはいったい何なんでしょ.
・ちょうど2時間で,ソニック号はJR大分駅に到着.駅前パルコのバス停から長湯温泉行き路線バスに乗る.1日に3便しかないので,逃すとたいへんつらいものがある.パルコのスターバックスでアイス・ラテなど飲みつつ,しばし時間つぶし.Updikeの本をちびちびと読み進む.内容よりもついほんの「造り」を撫で撫でしてしまう.途中,水の駅・おづるというところで休憩.たくさんの人がポリ容器を並べて湧水を汲んでいた.確かに美味い水.
・ほぼ定刻通り,午後5時前にバスは長湯温泉の玄関にあたる「長湯車庫」に到着(運賃1300円ちょうど).地元らしき人たちも含めて数名が下車した(バスの終点はここではなく,久住を目指す).日射しは強いが涼しく感じられるのは標高のせいかも.
・バス停に長湯温泉の車が迎えに来ていた.事前に頼んでいなかったのだが,気をきかせてくれたようだ(感謝).温泉街としては意外に大きいように感じられる.
大丸旅館にチェックイン――手入れの行き届いた和風の玄関を入ると正面にロビー,左手に帳場.ロビーにはこの旅館ゆかりの作家たち(開高健とか川端康成とか)の本が並んでいるそうだ.
・この旅館,間口は狭いが奥が深い.新館を通り過ぎ,風呂場の前を左におれて,旧館に続く階段を上がる.予約したのは旧館の一室.旅館の人の話では,来年始めにもこの旧館はいったん取り壊されて改築されるとのこと.芹川に面した部屋だ.
・夕食までまだ時間があるので,外湯を回ることにする.大丸旅館の外湯は〈ラムネ温泉〉という.旅館前の端を渡って右に折れ,300mほど川沿いに歩いたところにある.バスでいっしょだったおじさんに出会う.神戸からフェリーできたそうだ.長湯温泉の炭酸泉が高血圧に効くと聞いて,数日をここで過ごすつもりとか.
・ラムネ温泉には旅館でカギをもらって入る(日中は一般客も入湯できる).半月型の風呂が湯温「31度」のラムネ温泉.その手前に「43度」の風呂が三つある.まずは‘冷泉’の方から.気温が高いのでひんやり感じる.あ,こりゃ,すごいですねー.入ってすぐに体中にアワアワがびっしりと.ぬぐうと泡粒の弾力が感じられるほどたくさん付着する.湯の色は褐色の半透明.金気がそうとう濃いのだろうか,排水溝のまわりは赤褐色に染まっている.外に設けられている飲泉場で舐めてみると,金気の味をくるむように炭酸のシュワシュワ感がある.確かに「ラムネ」という呼び名は偽りではない.
・それにしても,この湯温――夏場だからいいようなものの,冬はいったいどーなるのだろう.この‘冷泉’と‘温泉’を往復しつつ湯治するのかな.炭酸泉だから温度以上に冷たく感じるのかもしれないが.
・いったん旅館に戻る.夕食は午後6時から.名物エノハの唐揚げをはじめ,モロヘイヤの豆腐とか,地鶏鍋とかいろいろといただきました.ものは試しに長湯温泉でしか味わえないという姉妹都市バート・クロツィンゲンの白ワインをグラスで飲んでみた.このワイン,世間の評判はどうなのか聞いたことがないのだが,ぼくは凡庸なドイツワインという以上の印象しか受けなかった.買って帰るほどのものではないようだ.それとも,〈Q.m.P.〉クラスのものならば味がちがうかな.
・夕食後,温泉街の外湯めぐりの続き.御前湯長生湯をまわる.いずれも芹川沿いにある.御前湯にはドイツの姉妹都市との交流資料も展示されている.2階が入り口になっていて,1階と3階の風呂を日ごとに男湯・女湯で交互に割当てるとか.今日は1階が男湯.飲泉場と露天風呂が併設されている.露天には蛇が寝そべっていた.土類の融け込んだ褐色の炭酸泉.長生湯は大丸旅館のすぐ近くで,湯温がとても熱く,長湯はできない.
・適度に湯疲れしつつ,なお大丸旅館の内湯に浸かったりしたので,相当にばてる.純和風旅館なので,もちろん室内ではモデム接続不能.グレ電もなさそうなので,つながらない.で,ワインを舐めつつ,本を読んだりしているうちに睡魔が.ぐーぐー.
・本日の総歩数=12261歩.
3 augustus 2003(日)
・進化学会3日目.今日もまた朝から夜までフルパワーで走りぬけることになる.朝ご飯をよく食べて,7時過ぎにホテルを出発.バスにて六本松へ.
・第1弾:「進化する系統推定法の最前線はココ!」(8:50〜9:50).ワルモノ長谷川英祐とともにプロデュースしたシンポ.下平英寿さん,スマート過ぎるぜ.マルチスケール・ブーツストラップ――たくさんの聴衆があえなく死んだようだ(だって数学だもん).系統樹の領域境界の曲率によって統計学的信頼性評価の善し悪しが大きく左右されるのか.Shimodaira-Hasegawa検定は保守的過ぎることもわかった.続くぼくの話は Hennig XXII と同じ.斎藤成也さんからアルゴリズムの詳細に関する質問が出たので,その場で回答.長谷川・吉澤講演は形質ごとに「深さ」によるウェイトをかけた最節約法(最高法)の講演.「みんなあっ,最高かいっ!」「いぇ〜い!」がなかったのでさみしい.最高法の場合,無作為系統樹法で事前に各形質の「深さ」を推定し,それによって逐次的に浅いクレードから順番に制約を付けながら推定を進めるという手順である.端点が増えた場合の計算量は適切なプログラミングで回避できるとしても,制約の付け方(順序,backbone-tree か否か,など)がどのような影響を及ぼすのかをチェックする必要があるだろう.
でびるまんに負けないようにケバ目のアロハを着てきたが,〈無責任Tシャツ〉に負けたかな....くそー.こういう軍拡競争を繰り返すので,untypical Japaneseになってしまうのだ.
・生協食堂で【九大ランチ】なる定食を食しつつ,しばし共同発表者とポスター発表でのデモンストレーションの打合せ.それにしても,外は暑いなあ〜.アロハでも暑い.サンダルでもダメか.
・第2弾:「非生命体の進化理論」(14:00〜16:00).佐倉統くんとの共同プロデュースによるワークショップ.思うのですが,シンポジウムやワークショップの正しいオーガナイザーのあり方って,あまりじっくりと考えたことないなあ.気がつくと,すでにいろんな学会大会企画をプロデュースしていたから.でも,ノウハウはやはり残しておいた方がいいと思う.演者決定の段階から関わったオーガナイザーならば,どのような講演内容かはほぼ確実に予測できるし,当日の高座のプロデュースは安心できるだろう.一方,このワークショップのように,一般からの公募講演をも含む形式の場合は「出たとこ勝負」の気配が濃厚になる.佐倉くんはミーム論についての概論,ぼくは一般化された系統学についてのアジ.山下さんの言語進化の話は‘解剖学的’にハードな話題提供だったと思う.続く眞岡哲夫さんの「茶道所作の系統解析」は実にみごとな高座だった.千利休に始まる千家茶道の所作(ritualな行動形質)をコード化することで,所作要素がどのような系譜によって伝播してきたのかを明らかにした.距離法での系統解析は問題があるものの,着眼点はたいへんおもしろい.茶道の家元の出自や秘伝の奥義を系統解析によって推定してしまうのは【破門もの】かもしれないが,非生命体の系統解析が現実に可能なのだということを説得的に示した点でこの講演の意義は大きいと思う.形質のコード化や系統推定法についてもう少し詰めれば,りっぱな成果が出るだろう.
・佐倉くんから,日経サイエンスの最新号(8月号)に載った〈不孝の手紙〉の系統推定の記事を見せてもらう.この系統樹構築法(データの情報量の数値化に基づく)はいったい何なのだろう.
・第3弾:「巨大系統樹の推定のために:最節約法に基づくスタイナー樹の高速計算アルゴリズム[ポスター発表]」(16:00〜18:00).まったく,休む間もないやんか! ポスター会場に駆け上がり,他のポスター発表をブラウズして,自分の持ち場に直行.内容は朝イチの講演と同じなので,主眼をコンピュータ・デモに置く.関心を持ってくれそうな「客」をすかさず連れ込んで,デモ隊に引き渡すというピストン輸送を何度も繰り返す.近くで,大阪大学の時田恵一郎さんが発表していたので,ご挨拶.また芽室の和尚庵でご一緒しましょーねえ.
・第4弾:「生物学的実体とその階層構造」(18:00〜20:00).ポスターをがしがしと剥がして,その足で最後の講演会場に直行(今回の大会はひたすら直行に次ぐ直行あるのみ).愛媛大学の中島敏幸さんがオーガナイズしたワークショップで,【種(species)】についてアジる.オートポイエーシスの河本英夫さんは演者のひとり.タクソン学者・小野山敬一さんを客席でお見かけする.中島さんのトークは,生物学的実体とその階層性を示すために「モデル構築」による実体の定義とその同一性の論を展開した.これではダメです.構成素が入れ替わる状況での「実体の同一性」をナイーヴに論じるのでは,テセウスの船は木を登ってしまうでしょう.あるモデルのもとで「同一性を維持する実体とみなす」という仮定は形而上学的に通用しないと思います.河本英夫さん,オートポイエーシスは悪しき宗教ですな.この世の【】を目の当たりにした心地がしました.「オートポイエーシスを語る言葉はまだ完成していない.しかし,わかる者たちが先へ進むのだ.このメッセージは200年は残る」というような発言が通用すると信じているのかな.ぼくが「オートポイエーシスは理論なのでしょうか,それとも世界観なのでしょうか?」と質問したとき,河本さんは「テオリアとは,まったく別にポイエーシスを想定している」と応えた.ともに語ることを得ず.傍らにいた会場係の河野かつらさんに黙って【×】マークを合図したら,笑いを堪えつつ「オートポイエーシスを記述する数学言語がいまだにないというのは,そもそもその考え自体に問題があるからではないですか?」と適切なツッコミを入れてくれました(三上ご令室,さすが,えらいッ!).溜飲が下がりましたわ.これでようやく御役御免とあいなりました.
・終了後,矢原大会委員長,長谷川寿一・眞理子夫妻,菊地千尋さん&その他大勢とともに,舞鶴・親不孝通の〈晴れたり曇ったり〉に集結.どわーっと気勢を上げる.いささか大分焼酎を飲みすぎたか.魚がとっても美味かったです.さんきゅ.え,岩波書店から進化学のシリーズが出るんですか? ほほー.ふふーん.長谷川夫妻は来週からガラパゴス旅行ですって.まー,ゴージャスですこと.
・日が変わる寸前にホテルに滑り込み.即,ドロのように爆睡.終わったね.
・本日の総歩数=12544歩.
2 augustus 2003(土)
・進化学会2日目.〈形態測定学・夏の学校〉当日――2時間×4コマという予備校顔負けの詰め込み.8:50〜20:00というのはほとんどタコ部屋そのもの.話す方も聴く方も体力勝負となりそう.校長センセとしての仕事もあるしね.
・九大の六本松キャンパスに向かう道は出勤時間帯に混雑が予想されるとのことなので,バイキングの朝食もそこそこに午前7時代の路線バスに乗る.8時過ぎに到着.会場となる教室を下見.ん?暖房が入っている?――エアコンの入れ忘れ.会場担当の舘田センセが飛び回る.ごくふつうのつくりの教室だが,情報なんちゃら室という名前らしく,電源とLANのタップが各席に備えられている.
・第1講の授業開始時刻が近づき,続々と受講生が入ってくる.講師陣を含めるとおよそ60名.定員いっぱいまで部屋に詰め込まれる.みなさん,いいノートパソコンをお持ちのようで.PowerBook上でPCウィンドウを開いている人もちらほらと.
・第1講:三中信宏形態測定学――その歴史と概論」(8:50〜10:50).いつものように「かたち」の定量化をめぐる歴史を振り返り(ダーシー・トムプソン以降),サイズ/シェイプの数学的定義,幾何学&多様体論としての形態測定学の性格を明らかにする.後半はtpsSplinを用いた薄板スプラインによる形状変形解析のデモ.やはり2時間ではとても時間が足りなかったか....大学の非常勤講義だと15時間はかけてるもんね.
・第2講:田辺力見てわかる幾何学的形態測定学」(11:00〜12:30).薄板スプライン関数を用いた幾何学的形態測定学のケーススタディ.ヤスデの交尾器のデータを用いて説明.部分歪みと相対歪みの利用.薄板スプラインは万能ツールではないことを正しく指摘.後半30分は,会場の移動でばたばたする.この時期に追試とは,先生も学生もたいへんですな.
・生協食堂でのランチタイムを挟んで,第3講:岩田洋佳輪郭曲線のフーリエ解析」(14:00〜16:00).自作の楕円フーリエ解析ソフト〈SHAPE〉を用いた講義と演習.データ解析だけでなく,教育用にも使えそうな気がする.今度どこかの講義で試してみよう.SHAPEの〈〉への移植もほぼ完了しているそうだ.各地に散在する「R導師たち」もきっと歓迎するだろう.途中,3時に再びもとの会場に民族大移動.
・午後4時からはポスター・セッションだが,もうすでにへろへろな状態なので,じっと動かずフジツボ化(もしくはホヤ化)する.外は厳しい暑さで,疲弊度上昇.※九州人に言わせれば,モノホンの暑さとはいえないそうだが.
・第4講:生形貴男モデルベースの理論形態学」(18:00〜20:00).形態を記述する数理モデルの話.モデリング全般に通じる話題がありそう.記述モデルはいいとして,因果モデルとか説明モデルをどのように組み立てていくのかがポイントかな.デモ用に配布されたソフトウェア群Raup, sculptree)はいずれもデモに利用できる.パラメータ空間の中での形態の変異幅が視覚化できておもしろい.tree.exeは植物の成長分岐モデリングそのものですね.
・最後に,ぼくが総括コメントをして,午後8時過ぎにやっとお開き.受講生からアンケートを集めて,みなさんどーもお疲れさんでした.
・やっぱり疲れますな,長時間のスクーリングは.受付けでワルイ長谷川英祐くんたちに拉致され,薬院の〈餃子李〉に直行.最近ワルクなってきた(そうな)吉澤和徳くんによると「揚げ餃子」がお薦めとか.確かにうまいっすね.焼き餃子も水餃子もいけました.とてつもなく大量の餃子を食べた気がする....夜11過ぎに博多駅の前を松田裕之くんたちとてくてく(ずいぶん)歩いたぞ.たいへん疲れましたわ.もう,ダメっす.
・本日の総歩数=16645歩.
1 augustus 2003(金)
・さて,8月になってしもたし,進化学会は今日が初日やし.もうなるようになったれやあっ...――とグレてみたり.
・ホテルの部屋から外線でモデム接続できない――ロビーの公衆電話(グレ電)だとつながるので,メール送受信やアップロードはその都度行き来することになる.0発信だけの問題ではなさそう.でも原因究明するのもめんどうなので,低きに流れ,グレ電接続をします.(次回からはホテルを変えよっと)
・ブーヴレス『アナロジーの罠』から――「フランスの哲学者のあいだで広まっている信念の一つによると,哲学はいわゆる‘思考’とのいわく言いがたい密接な関係を活かしているのだから,ほかの分野から説明を求められてもはねつければよいらしい.とりわけ,論理によっても,またいかなる性質の経験的事実によっても制約されない.実際,一般にフランス哲学が論理というものを軽んじているのは周知の通りである.また経験的事実についても,まるでなきがごとしというか,そうでなければ,せいぜい経験論者の関心をそそるくらいなものである」(pp.53-54:太字みなか).うわ.「ソーカルとブリクモンに糾弾された著者たちが気まずさや何か罪悪感をあらわすかもしれないなどと期待してしまうのは,かなりのお人よしであったと言うべきだろう」(p.63:太字みなか).まだ,叩かれ足りなかったのか.
・朝食後に,若手の会シンポの要旨を事務局に送る.粕谷英一さんの要旨はすでに昨日送られてきたので,早くしないと.鈴木邦雄さんのは別途送られているのかな? ※速攻で書き上げてメール送信.
・福岡は今日も真夏日の予想.
・午前11時から進化学会評議員会――地下鉄で村上哲明くんに出会う.「みなかさん,海水浴に行くんですかぁ」.ふん! アロハ&短パン&サンダルはニッポンの正しい学会スタイルだと強く思う.
・いろいろとこまごまと会議する.生協のお弁当を食す.
・午後1時から,九州大学創立50周年記念講堂なるデカイウツワの中で,学会賞の表彰式と授賞講演.続いて,イマイチな公開講演会,さらに総会,と公式行事フルコースを終える.
・午後6時から階下の生協食堂で懇親会.始まる前に宮正樹さんと話をする.先日の Hennig XXII でのベイズ法のシンポのことなど.MrBayesがバージョンアップされて, version 3 の並列計算版が配布されるようになって,系統樹の計算が格段に早くなったとのこと.350タクサの系統樹計算が「60時間」ほどですむらしい.ただし,タクサの数が増えると,マルコフ連鎖モンテカルロでの収束判断が難しいので,100万回オーダーの世代数(反復数)が必要になるそうだ.
・いろいろな人たちと談笑.でびるまんとの会話:「長谷川くん,なんだその格好は.良識というものはないのか!?」(みなか)/「三中さんに言われたかないですよお」(はせがわ).浅見さんが佐倉さんとこの留学生に話していたことには,みなか&長谷川というのは服装に関して「untypical Japanese」なのだそうだ.両者がいかなるいでたちであったかは推して知るべし.
・2時間ほど飲食して,そのままホテルに直帰.明日からの「勤労の二日間」を考えると,中洲に沈みこむわけにはいかないのだ.
・本日の総歩数=10680歩.

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