【書名】大阪の錦絵新聞
【著者】土屋礼子
【刊行】1995年12月20日
【出版】三元社,ISBN:
【頁数】16 plates+231+xxiv pp.
【定価】3,600円(本体価格)
【ISBN】4-88303-029-6

【書評】※Copyright 2003 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

明治初期の出現し,たった10年という短命に終った「錦絵新聞」を新聞史の観点から掘り起こした本である.このように体系的に記録されなければ,資料は時間とともに散逸するままになってしまっただろうと思う.口絵に掲げられた十数葉の錦絵新聞は,いま目にしても好奇心を煽られてしまう.

当時の殺人・怪談・不倫・喧嘩など三面記事的なテーマが中心だった錦絵新聞は,現在であれば駅のキオスクで目にするようなケバ目の表紙のスポーツ紙あるいは写真週刊誌のような売られ方・読まれ方をしたのだろう.関係者の実名は載せる,ガセネタもおかまいなし,創刊と廃刊を繰り返す,という目まぐるしさは,このメディアがたとえ一時的にせよ広く社会に受け入れられ,しかも求められていた証しなのか.

知識層相手の〈大新聞(おおしんぶん)〉に対置される庶民向けの〈小新聞(こしんぶん)〉にやがて取って代わられることになる運命を背負った錦絵新聞――その文章を書いた記者や錦絵を描いた絵師のたどった系譜を振り返ると,時代的な危うい偶然の出会いがこのメディアを成立させていたといえるだろう.挿し絵が入ったという点では,たとえば同時代のイギリスの『パンチ』や『イラストレーティッド・ロンドン』が対応するのかもしれないが,内実や役割には大きなちがいがあるだろう.

新聞史を専攻する著者がたまたま注目してくれたおかげで,このような絶滅メディアが1世紀後に掘り起こされることになった.そのような著書に出会えた偶然にも感謝しなければならない.本書に続く『大衆紙の源流:明治期小新聞の研究』(2002年12月10日刊行,世界思想社,ISBN: 4-7907-0962-0)にも期待したい.

三中信宏(24/August/2003)


【目次】
視覚メディア史の基層を見直す(津金澤聡廣) 3
はじめに 5

第一部 明治開化期のヴィジュアルメディア――錦絵新聞のあらまし 11
 1.錦絵新聞とは何か――浮世絵,よみうり瓦版,そして新聞 12
 2.「錦絵新聞」か「新聞錦絵」か――小野秀雄と宮武外骨の研究 15
 3.東京における錦絵新聞 19
 4.大阪における錦絵新聞の誕生とその背景 36
 5.大阪における錦絵新聞の種類 40
 6.大阪における出版統制と錦絵新聞の版元 52
 7.錦絵新聞から小新聞へ 61
 8.西南戦争とその後の錦絵新聞 66

第二部 大阪の錦絵新聞 75
 其之一 夫婦喧嘩もの 76
 其之二 異人もの 86
 其之三 教育もの 98
 其之四 巡査もの 106
 其之五 妖怪もの 116
 其之六 残酷もの 126
 其之七 珍談もの 136
 其之八 経済もの 144
 其之九 役者もの 154
 其之十 孝行もの 162
 其之十一 奇談もの 170
 其之十二 心中もの 180
 其之十三 相撲・醜聞もの 190
 其之十四 遊女もの 200
 其之十五 老人もの 212
 其之十六 西南戦争もの 220

あとがき 229
参考文献 [xxiii-xxiv]
大阪で発行された錦絵新聞一覧 [xi-xxii]
東京で発行された錦絵新聞一覧 [vi-x]
索引 [iii-v]
英文要約 [i-ii]