【書名】ヒエロニムス・ボスの『快楽の園』を読む
【著者】神原正明
【刊行】2000年12月25日
【出版】河出書房新社,東京
【頁数】32 plates+192+vii pp.
【定価】3,400円(本体価格)
【ISBN】4-309-26446-8

【書評】※Copyright 2003 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

踊る裸体,ひしめく怪物,充満する寓意

現在,スペインのプラド美術館に所蔵されている初期ネーデルラント絵画の逸品『快楽の園』を解読する本である.著者が,たった1枚の三連画に秘められたさまざまな寓意や比喩そして語呂合わせをひとつひとつ読み解いていくさまは,有能な探偵を髣髴とさせる.それにしても,著者は,何十年もの間この絵を見続けてきて,なお新たな発見があると言う.驚きだ.まだ解釈されていない図像(イコン)がこの絵にはきっと潜んでいるのだろう.寓意画の奥深さと冥さを体感させてくれる.

ヒエロニムス・ボスのこの絵には多くの裸体人物が描かれていて,著者の主たる関心はそれらの人間図像のもつ意味解きに向けられている.しかし,それ以上に多くの〈怪物〉がこの絵には登場する.それらがもつ博物学的な意味づけはどうなるのだろうか.興味は尽きない.絵は「眺める対象」としてだけではなく「読みこむ対象」でもあるのだということをあらためて認識させてくれる.

『快楽の園』の実物をこの目で見て...いや読んでみたくなった.


【目次】
はじめに

序章:『快楽の園』の全体像
 プラド美術館に入るまでの経過
 作品の構成
 解釈をめぐって

第1章:外翼パネル
 天地創造
 ノアの日々のように

第2章:左翼パネル
 主なる神とアダムとイヴ
 生命の木と知恵の木
 生命の泉とフクロウ
 後景の動物たち
 背景の山
 エデンの園

第3章:中央パネル
 前景
  穴の入り口
  前景と語呂合わせ
  人物群の特徴
  黒人とリンゴ
  果実
  イチゴ
  手足
  果実の皮
  Y字型
  貝を運ぶ男
  魚
  フクロウ
  鳥の群
  テント
  身ごもった女
 中景
  池
  円環
  卵
  騎馬行列
 背景
  泉
  岩
  空中

第4章:右翼パネル
 地獄の特徴
 木男
 僧院
 切り裂かれた耳
 音楽地獄
 便器に座るサタン
 虚栄と鏡
 賭博の罪
 豚の口づけ

結びにかえて


参考文献
あとがき
索引