太田邦昌氏の系統分類学理論――体系学史における位置づけと限界


三中信宏(農業環境技術研究所)

太田氏が体系学(systematics)に関して活発な意見表明をした1980年代後半は,方法論のレベルでの学派間論争(分岐学・表形学・進化分類学)がほぼ収束した時期に重なる.太田氏自身の【真正分類系統学】は,分岐学に対して反対の立場を取り,むしろ進化分類学に近いスタンスであったと理解する.特異的なことは,太田氏が分類学・系統学に関するいくつかの基本概念――「ミッチェルの原理」や「情報量」など――を踏まえて,独自の定式化を目論んでいたという点にある.とくに,形質進化の定量的モデルを導入して系統関係の推定をしようという方針は,今日のモデルベースの系統推定法に連なる試みであったといえよう.今回の講演では,当時の体系学界での論議を振り返りつつ,太田氏が自らの体系学理論をどのように展開していったのかを跡づけ,あわせて,今日に残された問題点をも指摘したい.