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日録2003年10月
31 oktober 2003(金)

◇今日も晴天が続く.統計研修の最終日――質疑の時間があるので,また大農研機構への侵入を試みる.コンピュータの用意に手間取り,予定時刻を数分過ぎて会場に着いたら,すでに執行[しぎょう]さんと竹澤さんがすでに講義をしていた.ノンパラ回帰師の竹澤さんは「ノンパラメトリック(nonparametric)回帰」と「分布によらない(distribution-free)回帰」のちがいについてレクチャーしていた.なーるほど,モデルの要因部分をノンパラ化すると「ノンパラメトリック回帰」,誤差部分をノンパラ化すると「分布によらない回帰」ということになるわけね.竹澤師の研修テキストには「〈R〉によるノンパラメトリック回帰」という章が入っていて,たいへん教育的だ.あとでpdfを送ってもらって租界〈R〉に壁新聞することにしよう.

◇ぼくは,質問票全体にわたるコメントを返しつつ(まちがった意味で役不足であることは承知しているのだが),とくにブーツストラップなど今回の統計研修にはなかった計算機統計学の原理について追加レクチャー.〈PHYLIP〉をご存じの研修生もいたりしたので,あやうく「ウラの仕事」に深入りしそうになった.クラスター分析と主成分分析のコンビネーションについて話をし,ちょうど正午に質疑はおしまい.研修生のみなさんはほんとーにお疲れさまでした.今年の統計研修もこれにて一件落着となりました.

◇研修終了後,神奈川県の水産研究所の方から「来年度の高座をお願いしたい」というお座敷の声がかかってきた.もちろん,二つ返事でOK.※お呼ばれされるうちがなのよ(ほんま).

◇11月14日発売予定――小川眞理子著『甦るダーウィン:進化という物語り』(岩波書店,ISBN: 4-00-002396-9).ン? どこぞで似たような書名を見たよーな記憶が...(笑).※生物学史にウェイトが置かれた本であることは明らかだが,まだ岩波のサイトには掲載されていない.

◇別のまりまりからも召集令状が――はいはい,6日っすね.はいはい,逢魔が時に都内某所ということで,はいはい,承りましたっす.コッソリ参上いたしますです.

◇これまた11月に出版される紀伊國屋書店の近刊本『数量化革命:ヨ−ロッパ覇権をもたらした世界観の誕生』に〈ぴく度〉上昇.※生物学のことはあんまり載っていないかなー.体系学史を振り返ると,ときどき「数量化」の精神が分類学で開花したような実例に出くわすことがある.Peter Stevensの大著『The Development of Biological Systematics』(1994)とかTore Frngsmyr他編『The Quantifying Spirit in the Eighteenth Century』(1990)にある体系学の章John E. Lesch「Systematics and the Geometrical Spirit」に描かれているように.

◇『確率論革命(The Probabilistic Revolution)』という2冊本の論文集が出たのは1987年のことだった.〈〜革命〉と銘打たれるとその中身はともかく,まず延髄反射で身体が反応してしまうというのはどーいうことか.『系統樹革命』という言葉もそのうち定着するだろう.

◇ブリッグズ他『バージェス頁岩化石図譜』のbk1書評がオンライン掲載される.毎月のお仕事ながら,掲載ページをクリックするときはちょいどきどきしたりする.

◇夜はずっとデータ解析――そのまま霜月に突入するか.

◇本日の総歩数=11826歩.


30 oktober 2003(木)

◇雲一つない秋晴れが朝から広がっている.

◇朝からデータ解析が進展中.このサイズのデータだと〈Bogen〉の計算結果の解析を〈PAUP*〉と比較でき,しかも〈MacClade〉に取り込めるので,使いまわしが便利.祖先塩基配列の ACCTRAN / DELTRAN 復元は完了しました.最節約復元のオプションは,〈PAUP*〉の「parsimony settings[PSET]」の中にある.〈MacClade〉ではツリーウィンドウの「Trace」内「Resolving Options」で設定できる.祖先配列全体は〈PAUP*〉で計算させ,デモは〈MacClade〉で実行する予定.〈Mesquite〉を用いた最尤復元も可能かも(ノートパソコンではダメかな).

◇え゛,英文年報のネイティヴ・チェックの形式を正反対に取り違えてました? わざわざ直してくれたところを,元の表現に戻してしまったと.あちゃー(汗).ということで,再び英文の書き直し→NIAES Annual Report 改訂原稿.※時間取られる〜.

進化学研究会もついに「大団円」を迎えるのかな.1989年にオープンされてからもう15年が経ったとは.でも,日本進化学会の創立によって代替されたと考えれば,大いなる発展的解消といえるのかもしれない.進化学研究会の掲示板もほぼ活動停止しているようだし.※月日は流れるのだ.

◇――と追憶に浸る間もなく,『生物科学』から〈“みなか”の書評ワールド(2)〉のゲラが届く――『病原体進化論』『知の挑戦』『ポパーとウィトゲンシュタイン〜』『知のツールとしての科学』『生命40億年全史』『生態学』.刷上りで6ページの分量.いつの間にこんなに書き溜めたんだか....

ブリッグズ他『バージェス頁岩化石図譜』の書評を書き上げる.勢いで,荒俣宏『平田篤胤が解く稲生物怪録』も読了してしまう.本間るみ子『チーズの悦楽十二ヶ月』(2003年10月22日刊行,集英社新書0212,ISBN: 4-08-720212-7)はヨダレが垂れそうでーす.7月のニューヨークでクロタン・ド・シャヴィニョールを食したのは(→「ニューヨークあたふた日録(7月21日)」),タイミングとしてバッチリ!だったようですね.

◇本日の総歩数=9900歩.


29 oktober 2003(水)

◇雨の翌朝は今年初の〈霧筑波〉――日本酒の銘柄とちゃいまっせー.最低気温高し.

◇〈MacClade〉のアップデート(version 4.06)をしようと思ったら,ありゃま,成功しませんのよ.ときどきアップデーターの不具合があるようなので,後日また挑戦しましょ.

昨夜,bk1から〈電話帳〉こと新刊『変異するダーウィニズム:進化論と社会』が献本で届いた.来月の書評担当本.ははー,650ページね.こりゃまた新たな登攀の始まりだ.目次を入力するのも一仕事.なるほど,京大人文研の研究報告という位置づけの出版物なのね.ダーウィニズムの人文・社会科学への影響を振り返ろうという趣旨で編まれている.5200円という価格破壊な安値の理由は出版助成があったからと推測されます.読者にとってはとってもありがたいこと.

山形浩生さんのコメント――以前,山形さんの朝日新聞書評〈山本義隆『磁力と重力の発見』〉への感想を日録に書いたが,それに対するコメントが載っている.でもねー,やっぱりねー,違和感があるんですよ.山本義隆の伝説的経歴を知らないわけではないし,ぼく自身もオーバードクター(いまや死語ですな)で予備校業界に身を置いていたときに,年上の同僚たちから彼の名前をたびたび聞いていました.しかし,彼の一連の著作(大部の物理学史,カッシラーの翻訳まで含めて)の価値というか内容を読み取る上で,著者が「東大全共闘議長だった」とか「アカデミズムの外に身を置いた」という経歴をことさらに言いたてるのは,よけいな〈色〉をつけることにならないかとぼくは考えます.なぜそういう著作を書くにいたったのかという動機づけのレベルでは,確かに過去の個人的経験や経歴が動因だったのかもしれない.でもそういう個人的背景についてまで限られた字数の書評枠の中で言及しようと思ったら,どうしても他の部分にしわ寄せがいくだろうと思います.エッセイならまだしも,書評はまず「その本の内容」について触れてほしいというのは,〈偏狭なストイシズム〉ではなく,むしろ〈書評の軸足の置き方〉についての基本姿勢のちがいです.もちろん,朝日のこの書評が載ってから,『磁力と重力の発見』は増刷がかかったと聞いています.山形さんの書評は「当たった」ということですね.一方で,山形さんがパラレルに書かれたもうひとつの書評はたいへんおもしろい.こういうのがぼくの好みです.※えッ,まだ『磁力と重力の発見』を読んでいない? そりゃ,いけませんなあ,たいへんよろしくない.読め読め,読む読む.

◇統計研修〈クラスター分析〉の巻――雨上がりで晴れたと思ったら,気温高過ぎー.20度越えてるんちゃう? 当然,半袖Tシャツに大変身.季節感皆無のまま講義会場へ.大農研機構の建物に潜入.応用編の研修生は基礎編のほぼ1/3の人数なのでコンパクトにまとまる(完全連結クラスターのように).例によって,分類/系統のワルい話から始まって,類似度指数とクラスタリングの手順をざっと説明.〈Mesquite〉で形質データの例示とクラスター分析,デンドログラムの表示までのプロセスを説明.その後,〈R〉の「hclust」を用いたデモ.90分はあっという間に終わりました.〈Mesquite〉には単連結法と群平均法(UPGMA)の2種類のクラスタリング・アルゴリズムしか入っていないが,ディスプレイ出力の品質を考えれば十分にプレゼンに使える.

◇おお,そーか,働かない働きアリでも巣にとって何かの役には立っているのか――朝日新聞記事〈「働きアリ」、2割が働かず 北大・助手らが研究〉.燃えよ,デビルマン! ※そーかあ,働かなくても役に立ってるのかぁ(おいッ,勝手に拡大解釈するなよっ>ぼく

◇あ,なーるほど,新手の同報送信スパムだったのねー――昨日夕刻,EVOLVE宛に投稿された怪しげなメール2通(Subjectは[掲示板見ました。]と[ごめんなさい])がエラーで弾き返されてきた.(どれくらい「怪しい」かは,ほぼ同時刻に同じメールを受け取ったらしい鈴木クニエさんの【てくてく】レポート「余計なメール」をご覧あれ.わはは,全文掲載するもんねー.すげー) よりにもよって,魑魅魍魎...ちゃう...聖人君子の巣窟であるEVOLVE宛によくも「つきあってほしいの」だの「写真送るの」ってメールを出せたものだ.女子高生を名乗る結衣ちゃんは今後深く深く反省するように(ムリか).※ワタシんとこには発信元アドレスが入っていましたよ.
あれあれ,「結衣さん」からEVOLVE宛にもう1通メールが届いていた.ではワタクシも姉御に倣って,全文掲載で〜す(発信元アドレスは念のため隠しました)――


Date: Tue, 28 Oct 2003 17:57:38 +0900
From: *******@docomo.ne.jp
Subject: サブアドレスだよ。
To: evolve@affrc.go.jp
Message-id: <1028103175738.2895@oem010>
X-Mailer: IM2001 Version 2.01

おそくなっちゃってごめんね。なんか前に使ってたアドレスのパスワード忘れちゃってもう一回取り直したの。http://210.157.14.42/mail/message.cgi?id=047312
最近、迷惑メールっていうか変な写メを何枚も送ってくる人がいて本当にしつこいから指定受信にしてるんだけど。。見たかったら後でみせてあげるけど本当にたすけてって感じだよ(×_×)by結衣

――「見たかったら後でみせてあげる」だってー.(爆)

◇ほんと,最近はスパムメールが多過ぎるけど,Apple Mail君が獅子奮迅?の働きをして,ほとんど切り捨てて(たま〜に必要なメールまで)くれるので助かる.でも,上の〈結衣ちゃんメール〉は出色?のお笑いかと.

◇日本計量生物学会への投稿原稿が査読者から返ってきたので,コメントを付けて著者に返送.ほっと一息ついたら,間髪入れず講談社「現代新書」編集部から電話「お原稿の進捗は〜」(ひー).培風館『植物育種学辞典』編集主幹からも「もう9割近く原稿が集まっておりますので,そろそろ〜」(きゃー).依頼されたデータ解析も今週中にレポート出さないと(げー).

◇うう,神田では〈古本まつり〉が始まったというのに,行く時間もお金もありまへん.※「これ以上,まだ本買いたいのかあ?」というご質問はこっちに置いといてえ....

◇夜,『バージェス頁岩化石図譜』読了.実物写真は復元図とはまた一味ちがう迫力あり.書評?書きます書きます.

◇本日の総歩数=12928歩.


28 oktober 2003(火)

◇久しぶりに未明からぽつぽつと降り始め,午前のうちに本降り.思うのですが,雨が少しでも降ってくると大慌てで「傘〜,傘〜」と捜し回る人が多いように感じるのですけど,濡れてもええやん,滴ってもええやん,と開き直れる御仁はごく少数派なんでしょうかねー.※「ケダモノみたい」と言われればそれまでなんですけど.

◇うーんと,細々とした仕事をこなしつつ――その1:「形態データから系統解析するためのソフトウェアは?」という駒場の留学生さんからの質問メール.扱っている形質が離散的・質的データだったら〈PAUP*〉でキマリでしょう.形質コード化や変換系列(ステップ行列)でいろいろと操作できますから.一方,連続的・量的な形質データの場合はどうするか.幾何学的形態測定学のソフトウェア(→Morphometrics at SUNY Stony Brook)を使って共有派生形質をコード化して〈PAUP*〉で系統推定,その後は〈MacClade〉あるいは〈Mesquite〉でさらに調べるというコースかな――というような返事を書く.

◇久保さんの〈ぎょーむ日誌〉の10月27日分について――Dirichlet分布のもとになっているGamma変量が共通のλパラメータをもつという制約はどの程度「緩和」できるのでしょうね.多変量化という方向での「一般化Dirichlet分布」はすぐに思いつきますが.

◇農環研の『Annual Report』なる英文出版物に書いた原稿のネイティヴ・チェックが返却されてくる.うわ,ふたりも査読者を付けてるんですかあ?(げ) はいはい,すぐに訂正した原稿を返却しますです,はい.うへ,極悪わーどファイルに査読者コメントがびっしり書き込まれてる〜.なんだかもう,すごく盛り下がる.せめてpdf注釈にしてよー.いきなりハングったりするんだもんね.※結局,ひーひー言いつつも,原稿の改訂を完了→NIAES Annual Report 原稿

◇雨々降れ降れ状態.お散歩できまっしぇん――なのに,傘をさしもって4kmあまりも歩いたのでした.

◇本日の総歩数=13440歩.


27 oktober 2003(月)

◇書評本『バージェス頁岩化石図譜』を快調に読み進む.それにしても,微細な突起(毛?)やひだにいたるまで,これほどきれいに保存されているとは.カンブリアの【一反木綿】こと〈オドントグリフス〉の化石写真(図47)なんか,笑ったような口の部分だけが明瞭で,あとは〈魍魎〉のごとく輪郭がはっきりしない.この怪しさは「チェシャ猫」並み.海綿動物が多いのは,さすがですな.

◇23日の日録に関して,久保さんから統計メール――Gamma分布からのDirichlet分布の導出について.Kendall本の§5.31の解説と演習5.33をご覧ください.また,Reymentさんの講演でのタネ本となっていたJ. Aitchisonの教科書『The Statistical Analysis of Compositional Data』(1986)も探してみてね.知らなかったけど,この本は今年4月にリプリントされたようです(Amazon.comで発見).※確かに,Gamma変量の和の分布は,パラメータλが共通であることを前提にしていますね.

◇教えられたこと――確かに,ぼくの〈日録〉を日付付きで引用するときには〈http://cse.niaes.affrc.go.jp/minaka/diary2003-10.html#23〉ではなく,〈http://cse.niaes.affrc.go.jp/minaka/diary2003-10.html##23〉のように「#」の重ね打ちが必要ですね.IEならちゃんとジャンプするのに,Safariだとどうして指定日に飛んでいかなかったのか,前からフシギに思っていたのです.ということで,久保さん,感謝.

◇人名「発音」のこと――

  • Willi Hennig:「ヘニッヒ」ではなく「ヘニック」の方がより近いそうです.南独の出自の現われとのこと.酒井清六さんが国際昆虫学会議でご本人に会ったとき,確かに“ヘニック”と発音していたそうな.ゲッティンゲンでHennig年会があったとき(1999年)はドイツ人たちも“ヘニック”と発音していたし,翌2000年にライデンのHennig年会に招待された子息Wolfgang Hennig(分子遺伝学者)も「ヘニック」と.そういえば『種の起源』にも「ヘニック」というドイツ人(もちろん別人ね)が脚注で登場していた記憶があります.少なくとも「ヘニッヒ」ではない.
  • Leon Croizat:「クロイツァ」と発音するそうです(“クロワザ”ではなく).植物学者・原寛さんがかつてハーバードに留学していた頃,Croizatさんと同じ職場?で,ご本人が“クロイツァ”と言っていたそうです(大場秀章さんの話).生まれからしてイタリアですから,きっとフランス語読みはしないでしょう.
  • Joseph Felsenstein:英語読みの「フェルゼンスタイン」でいいですよね.〈ヨーゼフ・フェルゼンシュタイン〉なんだかカッコいい.
  • Peter H.A. Sneath:「スニーズ」じゃなくって「スニース」かな(やや心許なし).カタカナで表記するのはムリ?
――こんなところでいかがでしょ?>南部さん.※クロイツァのあるスペイン語論文のタイトルは「カルロス・ダーウィンと彼の理論(Carlos Darwin y sus Teorias)」.“カルロス”なんて呼ばれると違和感あるなあ.

◇これまた,遅まきながら,メーリングリストのトップページをつくってみました(→〈EVOLVE〉ならびに〈BIOMETRY〉).すでに会員となっている方にはまったく不要ですが,初めて来られる方には多少ともinformativeかと思います.まだ「表紙」のみですのであしからず.

◇中澤さんの〈メモ〉に,京都での公衆衛生学会の「最大の収穫」として,佐藤俊哉さんの『宇宙怪人しまりす,生物統計を学ぶ(1)〜(6)』が挙げられている.この連載が載った雑誌『Estrela』は,統計情報研究開発センター(Sinfonica)から販売されている月刊誌です.サーキュレーションが悪いですかね.ずいぶん前に,ぼくも寄稿したことがあります.あれま,去年の「分類特集」では緒方一夫さんが生物分類について書いてるじゃん.※佐藤さんにはあとでおねだしてみましょ.

◇送られてきたデータの解析を進める.祖先塩基配列を出力するように.今週中に結果をまとめること.でも,ずいぶん時間がかかりますね,リアル・データになると.1本だけとんでもなく長い配列が混じっているので,アラインメントするとギャップが入りすぎる.〈MacClade〉か〈Mesquite〉を用いて「鳥瞰」して,影響のないところで両端部分を切ってしまおう.

◇イタリアでの形態測定学ワークショップの論集が,来年出版されるという――

Proceedings of the Rome Geometric Morphometrics Workshop: Homage to Leslie F. Marcus Editors: Loy A., Corti M., Adams, D. C., Slice D. E., Rohlf F. J. Italian Journal of Zoology, Special Issue, Feb/2004

――さっそく,編者のひとりであるAnna Loyさんにメールして,1冊確保する.

◇夜,明後日の統計研修講義「クラスター分析」のための準備をする.基本的には都立大学での講義をベースにするが,〈Mesquite〉のデモをもう少しうまく組込みたい.〈MacClade〉と同様に,〈Mesquite〉もデータ・エディターのスタイルが秀逸(というかデモ向き)なので使わない手はない.形態・DNA・タンパク質のそれぞれについて,サンプルデータを表示させたい.明らかに,〈MacClade〉に付随するサンプルデータはいまのところすべて〈Mesquite〉にそのまま読みこめる(〈PAUP*〉だと読みこみに失敗することがある).いくつか適当なサイズのファイルを選んだ.Javaだと遅くなってしまうのはやはりしかたないか.データ行列のカラー表示,ツリーの出力スタイル,デモ順序をある程度決めておく.本当は〈Mesquite block〉をスクリプトで書いておけばスマートにデモンストレーションできるのだろうが,まだその境地までには達していない.※Wayne Maddisonて,アリゾナからBritish Columbia大学に移ったんですね.

◇本日の総歩数=6601歩.


26 oktober 2003(日)

◇昨日,書評本のアーカイヴをつくってみて初めて気がついたのだが,今までオンライン書評あるいは「紙」での書評を含めて書いてきた約400件(推定)のかなりの部分は,まだアーカイヴに入っていない.今回アーカイヴに入れたのは90冊弱で,そのうち半数には書評が付いている.しかし,少なくともbk1だけでも,190件近くのオンライン書評を過去に(2000年以降)書いている.また,ぼくの〈全出力〉をチェックしたら,200件以上の書評記事がヒットする.これらは早めにアップしておきたい.※ちょっといじり出すと,あれもこれもとつい欲張ってしまう.

◇すでに溺れつつあるのに,さらにまた新刊チェックなんぞしたりする→ブックポータル週刊新刊リスト:1346号.※本間るみ子『チーズの悦楽十二カ月』とっても愉しんでます.10月はフルム・ダンベール.あとは『変異するダーウィニズム』の標高を目算することか(来月あたり「登攀」することになりそう).

◇こまごまとした私用をいくつもこなす.またも睡魔の到来.

◇そうそう,Conway Morrisの新刊が9月に出たとか――Simon Conway Morris, (2003) Life's Solution: Inevitable Humans in a Lonely Universe. Cambridge University Press, 486pp., ISBN: 0521827043. 遠藤さん,情報感謝.頑張ってください.※〈Inevitable Humans〉というあたりに著者の思いがこめられていますな.人間は偶然の産物ではない/進化をリプレイしても結果は変わらないのだという主張.

◇本日の総歩数=7691歩.


25 oktober 2003(土)

◇え,12万冊/3300万ページの“全文”検索? マジっすか?――Amazon.comが23日に公開した全文検索データペースシステム〈Search Inside the Book〉のこと.キーワード検索のターゲットが,単に“タイトル”だけでなく,“全文”というところがミソ.たとえば,「cladistics synapomorphy homoplasy parsimony」などという奇矯なキーワードで検索してみても,ちゃんと61冊がヒットし,それぞれの本のどのページにそれらのキーワードが載っているかがわかってしまう.該当ページのスキャン画像も見られるけど,これって[その気になれば]その本の全ページが読めてしまうということだろう.検索モードはまだシンプルなもので,いわゆる複合検索はできないようだ.それにしてもクラクラしてしまうなあ.その本の現物がたとえ手元になくても,キーワード単位で,あるいはページ単位で「読める」ということだから.これはもう書店じゃないですね.図書館.

◇ほっと息抜いて,荒俣宏編著『平田篤胤が解く稲生物怪録』を読み進む.かなり詳細な写本系統学の本であることを実感する.いくつかの秘匿された祖本群から人知れず書き写された子孫写本の〈変異〉が本書でたどられている.「槌」のような固有派生形質が出現することもある.冒頭に掲げられた〈ステマ(写本系図)〉はアピール性高い.〈稲生物怪録〉の物語そのものについては,倉本四郎『妖怪の肖像:稲生武太夫冒険絵巻』のような詳しい解説書が出ているが,荒俣本は複数の異本(variants)の間の異同をチェックしているところがポイント.

◇思い立って,トップページを少し変更.以前の〈書評〉ページを三分割する――【書評】は書評や目次などのアーカイヴ,【探書】は新刊書全書籍からの私的セレクション集,そして【資料】には講義資料などを置く.これでいままで半年の間に溜まっていたものがある程度は整理されたと思う.

◇本日の総歩数=6052歩.


24 oktober 2003(金)

◇日の出前の最低気温は7.9度.秋は深まる.今日は統計研修(基礎編)の最終日で,午前いっぱい〈R〉演習,午後は質疑と総合討論.ひたすら統計な1日.

◇午前9時から講義開始――研修生のパソコンは「XP」なのに教える側のパソコンは「Me」というズレが原因で,さらにOSそのものの阿呆さが原因で,門前にたどり着くことさえできない研修生がちらほら出現.ごめんねー.「My Documents」フォルダーの場所がちがうんやったねー.え,データファイルが〈R〉に読みこめない?――それはきっとくされゐんどうずの初期設定で拡張子を表示させていないから見えなかったんでしょう.フォルダー設定「表示」の,そこそこ,そこんとこのチェックをオフにしてくださいな.ぐー,ゐんどうずめ,逝ってよし

◇最初はぼくの講義――〈R〉に関する基本的なことがら(情報,文献.リンクなど)を話し,その後でデータの入力方式,基本統計量の計算,分散分析の演習をひとつ,そして〈R〉グラフィクスと進めた.こういう実習の場合は,研修生の進み具合を見ながらということになるので,どうしても時間がかかってしまう.2時間弱ほど話をしてバトンタッチ.

◇続いて,二宮正士さんから〈R〉を用いた重回帰分析についての講義.重回帰分析での線形モデルの設定から,適合の判定のためのクロスバリデーション関数の自作,そして〈R〉のニューラルネット・パッケージを用いた非線形回帰まで.この講義に用いたデータと教材は,二宮さんの暫定サイトに置かれている.ニューラルネットで非線形回帰をすると,回帰式の次数が上がって「overfitting」気味になるとのこと.

◇最後に,岩田洋佳さんによる〈R〉を用いたフーリエ形状解析の話題提供.福岡の進化学会での「形態測定学・夏の学校」での講演をすでに聴いていたので,ストーリーはすでにわかっている.詳細は,岩田さんの「Shape on〈R〉」を参照のこと.

◇定時の12:15に実習は終わる.すっきりと秋晴れ――でも研修はまだ終わらないのだ.15:00から質疑と総合討論の時間.午後イチの講義に来ていた大森宏くんと出会う.雑談あれこれ――

  • み:「なんだ,大森くんまでノンパラメトリック統計の講義で〈R〉のデモをしてるじゃない」
  • お:「だって,研修テキストを見たら,みんなみんな〈R〉使ってるんだもん」
  • み:「ふふふ,世界制覇を目指す〈クー・クラックス・クラン〉なんちゃって...」
  • お:「それにしても,今年の講師は生物測定出身者ばっかりじゃないですか.ほとんど独占」
  • み:「ま,いろいろ都合があってねー,この時期に筑波山にこもって学会やってるところもあったりとか.やりくりがたいへんなのさ」
  • お:「ほかにやることないんですかあ??」
  • み:「年に2週間の勤行だよ.教わる方も教える方も修業修業.」

――ということで,大森くんの講義ののちに質疑と総合討論が始まる.二宮さんがカイ二乗分布についての補足説明をする.
 続いて,ぼくが実験計画に関する質問票への解答をする.確かに,実際の圃場実験で実験区をどのように割り振るのかは理論だけでは解決できない個々の事情がある.実際の研究リソースが限られていることを考えれば,実験計画の段階で実験目的の設定をする際には,研究リソースと設定目標とのトレードオフで実際の実験の規模や様式が決定されてくると思う.
 最後に,回帰分析を担当した廉沢さんがわらわらと集まってきた質問票を次々にさばいて,質疑はおしまい.研修生は最後に修了証をもらい,アンケートを提出して解散.お,いろいろと「○」やら「×」がついてますねえ(汗).統計研修基礎編の受講生のみなさん,たいへんお疲れさまでした.

◇研修に明け暮れた今日は,日中のほとんどを「高座」で過ごした.今日だけで3コマ×90分.今週の合計は6コマ×90分.来週の応用編はクラスター分析1コマと質疑1コマだけなので,今週よりはマシか.

◇佐倉統さんから献本――田端到・佐倉統『科学書をめぐる100の冒険』(2003年10月25日刊行,本の雑誌社,ISBN: 4-86011-028-5).さまざまな科学書をネタにして,著者二人が対談していくというスタイル.いかにも『本の雑誌』らしい.科学書といっても生物学・進化学寄りのセレクション.どーもありがとう.

◇ぐーぐーぐー,おい寝るなよ,ぐーぐーぐー.

◇本日の総歩数=14593歩.


23 oktober 2003(木)

◇まだ地面は濡れているが,天気は回復に.明け方の冷え込みはなし.

◇午前中は,筑波事務所の農林水産研究計算センターの完成したばかりの新館(電農館)にあるセミナー室で,研修用パソコン20台あまりに〈R〉の最新バージョン(ver 1.8)をインストールする作業.明日の統計研修講義では,初の試みとして「〈R〉演習」がある.そのための下準備.インストラクター用のパソコンにもインストールをすませました.ぼくの担当するイントロ部分は,〈租界R〉の該当ページを参照しながら実習してもらうことにする予定.

◇会場となる〈電農館〉は,新しくできたウツワだけあって,セミナー室の設備はバッチリでした.巨大なディスプレイ装置がどかんと中央に置かれ,各テーブルにはインストラクター機画面を出力する液晶ディスプレイが二人に一台ずつ設置されている.

◇研修初日に,実習の統計ソフトを70数名の研修生に選択してもらったところ,〈R〉を選んだのは20名あまりで,残りの50名ほどは〈Excel〉を選択(しっかり負けてるやん...).これにめげずにひたすら布教するのだ! 分散分析実習のためのデータファイルも更新したし,〈中澤本〉も参考文献リストに追加したし,教材だけはもう十分にそろえてあるはず.あとは明日の高座の出来不出来が問題ねー.

◇午後3時からは,筑波大学に来日中のRichard Reymentさんのセミナーに参加.第1学群の地球科学系の建物に到達するのに手間取る.ホストの遠藤一佳さんからうかがったところ,Eva夫人は風邪気味とのこと.セミナーは「Compositional Data Analysis in the Natural Sciences」.化学物質の組成比率のような「組成データ(compositional data)」は,変量の総和が1になるという制約条件が科せられる.このような制約のもとでの統計解析がセミナーの主題.J. Aitchisonの教科書(1986, Chapman & Hallの統計学叢書)がいまでも唯一のテキストだ.

◇線形の制約条件があるため,組成データは次元が一つ少ない〈simplex空間〉の中にある.n変量X1,X2,...,Xnに対し,その総和ΣXiで割った組成変量Zi=Xi/ΣXi(i=1,2,...,n)を定義する.このときΣZi=1という制約が生じる.Xiが正規分布に従うならば,総和ΣXiもまた正規変量となり,組成変量ZiCauchy分布に従う.一方,正値のみをとる変量を考えるとき,ポアソン過程を踏まえたGamma分布が便利である.XiがそれぞれGamma変量であるとき,ΣXiもまたGamma変量となる.このとき,組成変量ZiDirichlet分布をすることが証明される(Kendall's Advanced Theory of Statistics, Volume 1, 5th edition, §5.33).組成データの統計解析は,このDirichlet分布が基本となる.

◇セミナー後,遠藤さんの研究室でReymentさんを囲んで立食パーティ.常陸野ビールがうまかった.Eva夫人には電話であいさつさせていただきました.

◇講談社から献本――粂和彦『時間の生物学:時計と睡眠の遺伝子』(2003年10月20日刊行,講談社現代新書1689,ISBN: 4-06-149689-1).※ぐぐ,プレッシャーが....

◇読了――小田光雄『書店の近代:本が輝いていた時代』(2003年5月19日刊行,平凡社新書184,ISBN: 4-582-85184-3).明治時代から第二次大戦敗戦までの書店史.吉川弘文館,有斐閣,丸善の歴史の長さを再認識.改造社の円本は書店業界を揺るがした大事件であることを納得.何よりも〈日本特価書籍〉の成り立ちがわかったことが収穫.

◇本日の総歩数=13161歩.※筑波大学って広いねんもん....


22 oktober 2003(水)

◇明け方から雨.久しぶりにBrucknerのSym.6を聴いてみる(Eichhorn / Bruckner Linz).おお,第1楽章で跳ねてみよう! この二拍子と三拍子の絡みあいが何とも精緻.

◇午前中は,午後のプレゼン準備.なんせ長丁場の講義なので.OHPとかpdfなどの資料そろえが半端ではない.昼休み直前までかかってしまう.

◇午後いっぱい〈実験計画法〉の講義――分散の定義からはじまって,1要因無作為化法を題材とする平方和・自由度・平均平方・F値・F検定の噺.ついでに正規性と等分散性の検定.次いで,1要因乱塊法2要因乱塊法.線形モデルと一般化線形モデルにも触れたかったが時間切れ.〈R〉によるデモをしながら説明を進める.どーにも時間が足りなかったねー.

◇午後4時半に高座終了.もう疲れまくりで,寝ます〜.

◇本日の総歩数=23290歩.※まる二日分の歩数やね.ふ〜.


21 oktober 2003(火)

◇昨日,データが届いたので計算開始.タンパク質コード配列なので,設定をいくつか変えて最節約系統樹を計算してみよう.両端部分はばっさりと切り落としても問題ないだろう.Parsimony-informativeなサイトの数は十分にある.※〈PAUP*〉で計算するときは,「Random Addition」だと効率が悪いかもしれない.〈PAUPRat〉を使うか.→と思ってやってみたら,〈PAUPRat〉を200回程度反復させただけではダメであることが判明.1000回に増やしてやっと〈PAUP*〉の最適値に到達.もちろん,Random addition=1000回の〈PAUP*〉で30分ほどかかる計算を5分弱ですませるのが〈PAUPRat〉の威力なのだけど.いま〈Bogen〉の結果を待っているところ.

◇書評をひとつ仕上げる――竹内洋著『教養主義の没落』.実にうまいやり方を著者は採用したと思う.教養とは何かを定義せずに,教養主義のありさまを論じたというアプローチのことだ.確かに,時代ごとに「教養」の意味内容は変化するだろう.しかし,「教養」なるものを身につけねばという心理的な動機づけ(あるいは著者の言葉を借りれば〈ハビトゥス〉)は時代を越えてつい最近までは存続してきたといえるだろう.そういう「教養主義」のリネージそのものが1980年代以降は途絶えてしまったことをこの本は明らかにした.ぼくが大学時代を送った1970年代後半は,かろうじて「教養主義の時代」の末尾にかかっている.当時,同世代の学生がどんな本を読んでいたかはとくに気にもとめなかった.『世界』とか『中央公論』というような〈総合雑誌〉を彼らが抱えていたかどうかも覚えてはいない.少なくともぼくがそうではなかったことだけは確かだ.

◇たとえばドイツ語.ドイツ語の読み書きができる理系研究者はいったいいつごろ絶滅したのか? たとえば,高校の生物の教科書にも載っている門司・佐伯(1953)の植物群落の生産構造に関する論文はドイツ語で書かれている.これなどドイツ語で自然科学の論文が書かれたもっとも最後の部類に属するのではないか? 戦前にさかのぼれば,ドイツ語の理系論文はまれではない.青木淳一さんの土壌動物(ダニ)に関するもっとも初期の論文のいくつかはドイツ語で書かれていた(はずだ).ところが,ぼくが大学に入ったときにはすでに理系の「教養」としてのドイツ語はほぼ(完全に?)絶滅していたと思う.たまたま駒場にいたとき,畑中正一さんが主催していた生物学論文をドイツ語で読むセミナーに入っていたが,参加者は10名足らずだったと記憶している.当時の駒場の教養課程(←この言葉すら死語になったか?)では第3外国語まで履修することができた.もちろん,オランダ語なんていうのは選択肢になかったので,これは独学だったが.ポターポヴァ『ロシア語教本』を読んでいたのもこの時代.

◇言語に関する教訓はただひとつ――未知の言語で重要な論文が発表されたことはないという保証はない.これは,ウンベルト・エーコの『論文作法』(1991年2月25日刊行,而立書房,ISBN: 4-88059-145-9)に書かれてあった言葉だと思う.

◇午後,理科大の東さんが来室.アミノ酸配列からの系統樹推定に関する質問を受ける.〈MOLPHY〉を使って最尤系統樹を計算したいがまだ成就していないとのこと.Macintosh版だと計算環境がそれ向きじゃないと厳しいのではないでしょうか.いくつかアドバイスめいた返答.

◇今日もいろいろ届く――上毛新聞社編『上州風・16号』,思文閣出版から加藤僖重著『牧野標本館所蔵のシーボルトコレクション』(11月上旬刊行予定,ISBN: 4-7842-1165-9)の案内.

◇「教養」の続き――知的共通部分としての「教養」(知的公共圏)が削り取られると,パーソナライズされた個人知だけが跡に残されることになる.知的に「重なる」のではなく,せいぜい「接する」というイメージか.

◇明日の〈実験計画法〉の講義資料をかき集める.もちろん,内容的には都立大学の非常勤講義(やらそれに先立つ方々での集中講義)の素材がベースになる.ただし,おもしろいのは,OHPを並び替えたり差し替えたりしているうちに,新しい噺の構成がじわじわと生成してくるということ.これはフシギ.講演原稿をつくらないのが信条だが,素材をいじっているうちに,いつの間にかトークのあらすじはできてしまっている.明日の講義(13:15〜16:30)のストーリーはもうできてまっせえ>研修生諸氏.

◇〈R〉を用いた分散分析のデモンストレーションの準備をする.大教室でのデモの場合「GUI preferences」をうまく調整する必要がある(講義内容よりもまずは見てくれだ――これ真理).背景色は「SpringGreen4」で,フォントは18ポイントの太字「MintCream」文字.入力文字は「Gold」.タイトルは「LightPink」という設定.分散分析の演習問題を復讐しつつ,補足説明の付け方を練る.中澤さんの『Rによる統計解析の基礎』の第10章を読んで,講義中に必要になるかもしれない周辺知識を仕入れておく.まだ慣れていないコマンドがたくさんあって〈ars longa〉をまたまた痛感する.

◇何やら疲れたし,今日はもう寝るでえ.

◇本日の総歩数=10812歩.


20 oktober 2003(月)

◇下り坂の天気らしく,雲がかかっている.いつものように早朝からごそごそと――今日の統計研修「概論」講義のOHPをセレクトしたり.

◇毎年のことではあるのですが,統計研修は初日の顔合わせがいちばん緊張度が高いですな.はたして,ヒリヤード・アンサンブル並みの美しい合唱ができるものなのか.それとも風紀紊乱のアヤシイ重唱となるか....
――などと心配するまでもなく,研修会場である〈つくばリサーチギャラリー〉にて絶唱してまいりました.基礎編の研修生は70名あまり(北海道から沖縄まで).いささか小さめのオリエンテーション・ルームに詰め込まれて窮屈そうだったので,「こりゃ洗脳には最適サイズ」とばかりに〈薔薇の名前〉〈レンブラント〉〈普遍論争〉〈クラウド・コレクター〉〈大統計大曼荼羅〉〈アブダクション〉〈沖田プロ〉〈インド哲学〉〈相対主義〉〈オッカムの剃刀〉〈歌う生物学〉〈心理的本質主義〉など常連キャラクターたちが総出演.昼前の1時間半はあっという間に過ぎました.「終ったとき〈ブラボー!〉と声が出そうになりました」とのある研修生の言葉から,噺が不出来ではなかったことを実感.次のトークは水曜日の実験計画法.※研修期間をしたたかに生き延びるのだよ,みなさん.

◇曇っていた空は昼休みには快晴に復帰.

◇市立ラルトス大学・生物分類学部――うーむ,こりゃあ〈クラスター分析〉の講義マクラネタにきっと使えるぞ.「ポケモン」は統計研修での常連さんやし.※まさか「生物分類学部」でヒットするとは思わへんかったなあ.そんなキーワードでGoogle検索する方がどーかしてるって?(→gooの音もなし)

◇『Systematic Zoology』誌の初期の号にTB(=Thomas Barbour)の追悼記事が載っている(vol.13, no.4, pp.227-234, 1964:書いているのは古生物学者Alfred S. Romer).「Famous Zoologists」というコラムのひとつで,もともとの企画はWaldo LaSalle Schmittが起案したものだという.TBは「あらゆる意味でbig manだった」(p.234)だったそうな.

◇いろいろ届く――荒俣宏『平田篤胤が解く稲生物怪録』(2003年10月1日刊行,角川書店,ISBN: 4-04-883841-5),宮脇俊三『鉄道廃線跡を歩くX(完結編)』(2003年10月1日刊行,JTB,ISBN: 4-533-04908-7).そのほかに八木書店から古書目録(No.56:国語国文特輯)と出版図書目録(2004年度版).『稲生物怪録』の方は実物を書店で確認した上で購入.諸写本が活字化され,それらのmanuscript stemmaが描かれている.『鉄道廃線跡〜』――出るたびに購入してきたが,もう続刊は出ないのかと思うとさみしいねえ.著者も亡くなってしまったし.

科学の地理学――科学は,時間的に変遷するのと同じく,空間的にも変わる.グローバルな科学だとそれは目立たないが,ローカライズされた「学派」の系譜をたどるとより明瞭に見えてくる.Leon Croizatの〈汎生物地理学〉は,もともとCroizatがいたアメリカにルーツをもち,移住先のベネズエラで開花した.その後,1970〜80年代にかけてこの学派の支持者はニュージーランドに集中し,さらに1990年代以降の中心地はラテンアメリカに移動している.この地理的な推移を汎生物地理学史の新しいレビュー――

  • Jorge Llorente, Juan J. Morrone, Alfredo Bueno, Roger Perez-Hernandez, Angel Viloria and David Espinosa 2000. Historia del Desarrollo la Recepcion de las Ideas Panbiogeograficas de Leon Croizat. Revista de la Academia Colombiana de Ciencias Exactas, Fisicas y Naturales, 24, (93), pp.549-577.
――は論じている.汎生物地理学の理論とその歴史に関する解釈はさまざまだろうが,ベネズエラに〈Leon Croizat生物地理学研究センター〉が開設され(1999年),雑誌『Croizatia』が創刊された(2000年)ことは紛れもない事実だ.もちろん,最近の歴史生物地理学の論文集の多くがラテンアメリカ圏で出版されていることも.たとえば,『Introduccion a la Biogeografia en Latinoamerica』のように.

◇ううむ,電子文献の引用についてですか――ぼくの一貫した意見は,ウェブサイトのような〈電子文献〉といわゆる〈紙文献〉との間には情報源として本質的な優劣は何もないから,引用に関していっさいの区別はする必要がないということです.一定の形式の引用書式――具体的には【ISO 690-2: Citation format of electronic documents】に準拠すればすむ話だろうと思います.ずいぶん前にEVOLVE/BIOMETRYにこの話題を提供して以来,ときどきぼくのところに問合わせがあるのですが(つい先ほども!),電子文献を何らかの別枠に隔離したいという考えはいまも根強いのでしょうかね.アクセスしやすさという点では電子文献の方がはるかに勝ります.ページの安定性がないというのであれば,obscure journalsもその点では似たりよったりだろうし(紙だから安心と言われれば返す言葉は何もない).もちろん,媒体としてのちがいは「ある」だろうけど,情報源としてのちがいは「ない」と思います.

TaxaComからアナウンス――ハネカクシの新しいウェブサイトが開設されたそうな.→Staphyliniformia-PEET Database.このデータベースの中心になっているMargaret ThayerとAlfred Newtonという名前は前に直海俊一郎さんから聞いたことがある.

◇本日の総歩数=16713歩.※二日分ほども歩いた....


19 oktober 2003(日)

◇朝からからっと晴れ上がっている.日射しが強くて,くらくらする.

昔日の巨匠分類学者たちの自伝とか伝記は,たまに読むとたいへん参考になる.MCZのfounding fatherであるAgassizの『分類論(Essay on Classification)』も,生物分類に関する一篇の信仰告白として今でも心情的インパクトがあると思う.1859年に出版されたこの本は,分類群(タクソン)だけでなく分類カテゴリー(属や科など)さえも実在すると表明したウルトラ実念論の本だ.もちろん,分類学的な「本質主義(essentialism)」と解釈される表現がいくつも見られる.神による創造は不動の真理であり,当然の前提として論が構成されている.

◇最近,Mary Winsorは,分類学において本質主義が長らく覇権を握っていたというのは〈神話〉ではないかと主張して,David HullやErnst Mayrらによる〈定説〉の批判的再検討を求める論文を発表している――

  • Mary P. Winsor 2003. Non-essentialist methods in pre-Darwinian taxonomy. Biology and Philosophy, 18: 387-400.
――リンネの時代から連綿と「多標群」(polythetic group)が普遍的につくられてきたという事実に着目するWinsorは,本質主義が要求する「単標群」(monothetic group)の前提条件を満たしてはいないと指摘する.※【単標/多標】という訳語はここで初めて使うもの.今まで適当な訳語がなかったから.

◇理念的に保持される本質主義と実践的な妥協としての個例法(method of exemplars)とを両立させることは,もちろん可能だとは思う(Winsorの趣旨には反するが).しかし,重要な点は認知心理学的な意味でのプロトタイピングが生物分類の伝統的な方法論の中に含まれているという点だ.分類学的な【タイプ】は認知心理学的な【プロトタイプ】であるという彼女の指摘は,分類学史の中では厳密論理的な本質主義ではなく,むしろ認知心理的な本質主義が作用してきたという結論になるのかもしれない.

◇半ば備忘録として――ぼくがもっているAgassizの『分類論』のコピー原本は,院生の頃に当時の東大総合研究資料館にいた阿部宗明さんから貸していただいたもの.『分類論』(1859)は,Agassizの伝記作家であるEdward Lurieによって1962年に復刻されている.阿部さんに貸してもらったのは,この復刻版.その頃(1980年代),総合研究資料館では,速水格さんや大場秀章さんが中心となって〈生物地理研究会〉という会合をもっていた.私が発展分岐学や分断生物地理学についての最初のセミナーをしたのは,この研究会の場のこと(1984年).阿部さんはたまたまセミナーに参加されていて,終った後で声をかけてもらった.阿部さんの当時のポストは〈築地おさかな資料館〉の館長で,東大には嘱託として週に何回か来られているとのことだった.その後,資料館の阿部さんの部屋を何度か訪ね,話をうかがったり,本を借りたり,あるときはつくばにある自宅(別宅?)におじゃましたこともあった(いったいつくばのどこにあったのか今となっては記憶がすべて揮発しているのは悲しいことだ).

◇タイムラグなく新刊チェック――TRC週刊新刊リスト1345号.※今週は献本入手本が多かったです.ありがとうございます.

◇あ,明日からは〈統計研修(基礎編)〉でございます.全国からつくばに集まる百人の研修生のみなさん,息抜いて,生き抜いて.

◇本日の総歩数=2761歩.※ひさびさに非歩行な1日.元祖ペリパトス並み,それとも,クマムシなりきり?


18 oktober 2003(土)

◇未明に雨がぱらついたようだ.気温は10度を少し越えている.

◇昔のナチュラリスト=分類学者の本を引っ張り出したりしている.「昔」といってもたかだか半世紀ほど時代がさかのぼるだけだ.いずれも「わたしゃ,古いタイプの分類学者だぞ」と自認していたタクソノミストたちばかりである――

◇1)Thomas Barbour(1884-1946)――彼の『A Naturalist's Scrapbook』(1946年,Harvard University Press)は,この夏,ニューヨークのストランド書店を初めて探検したとき,博物学コーナーの棚の最上段でホコリをかぶっていたのにたまたま出会った.そのときは著者について何も知らなかった.手に取ってみると,ある章のタイトルにハーバード大学の比較動物学博物館(MCZ)という言葉が見えたので,何かの縁のある人か思い,深く考えずに買い上げた(「9ドル」というストランド価格にも惹かれて).帰国後に調べてみたら,なんと〈MCZ〉の館長を長年勤め上げ(1927-1946),同博物館の名声(ハードとソフトの両方で)を築き上げた立役者だったことを知る.専門分野は両生類・爬虫類で,西インド諸島や東南アジアにも探査の足を延ばし,そこでの島嶼生物地理に深い関心をもっていた.ほぼ同時代に,Barbourと同じハーバードの植物園にその頃在職していたLeon Croizatは,長距離分散移動に一貫して反対し続けたBarbourを高く評価していた.

◇『A Naturalist's Scrapbook』は,彼が死んだ年に出版された遺作エッセイ集ということになる.本書に先立って『Naturalist at Large』(1943年,未見)というエッセイ集も出しているので,一般向けの文章に慣れた著者だったのかもしれない.恰幅のいい著者が執務する館長室の壁には,〈MCZ〉の創立者であるLouis Agassiz,その息子のAlexander Agassiz,隣りにはダーウィンの仇敵と見なされたRichard Owenの写真が掲げられている(pp.182-3間の挿入図版).

◇確かに,MCZの歴史と分類学の発展史とを絡めて論じたMary Winsorが『Reading the Shape of Nature』(1991年)で詳しく述べたように,博物館という「隔離された場」での分類学は世間の動き(たとえば進化論の受容)とはまったく無関係でいられた(p.265).「蒐集しようとする本能および自然への愛」(p.268)から滲み出てきた想像上の博物館(imaginary museum)をイメージとしてつくられてきた現実の博物館は,制度として確立した時点で「硬直化」への道を歩み始めたとWinsorは指摘する.そのことが体系学が学問上の変革に対して鈍感になり,科学界の中での威信を結果として失うことにつながったのだとWinsorは結びのパラグラフで言う.

◇Thomas Barbourの自伝的エッセイには,さまざまなエピソードが盛り込まれている.Louis Agassizの弟子にあたるEdward Sylvester Morse(帝国大学教授として明治時代に来日し,大森貝塚を発見したモース)とは親友だったそうだ.MCZが発展するとともに,歴史のあるボストン博物学会がしだいに衰退していったこと.コレクション蒐集の手柄話や苦労話などなど.とくに印象に残ったのは,とうの昔にこの世にいないはずのAgassizが聖者ちゃう生者のように繰り返し登場すること.Ernst Mayrなんかちょい役でしか登場しないのと比べて,MCZの創立者たるAgassizの主役ぶりは突出しているように思える.やはり,1846年のAgassizの渡米は,アメリカの生物学にとって大きな【事件】だったのだろう.

◇2)Waldo LaSalle Schmitt(1887-1977)――Thomas Barbourとほぼ同世代の甲殻類分類学者.長らく盟友として行動をともにした甲虫分類学者Richard E. Blackwelderが書いた詳細な伝記『The Zest for Life or Waldo Had a Pretty Good Run: The Life of Waldo LaSalle Schmitt』(1979年,Allen Press)がぼくの手元にある.

◇Schmittの名前には,つねに「SSZ(The Society of Systematic Biology)の創設者」という肩書きが付いてまわる.すなわち,続く30年間にわたって体系学論議の発火点であり続けた雑誌『Systematic Zoology』(1952年創刊)は,Schmittがいなければ存在してはいなかっただろうということ.Barbourと同じく〈旧世代〉の分類学者の列に属していたSchmittではあったが,SSZの創立(1950年)だけでなく,SSE(The Society for the Study of Evolution)の創設発起人のひとりでもあった.BarbourにしろSchmittにしろ,社会的行動力のある分類学者の典型例といえるだろう.

◇Barbourは,予想される通り,進化とか系統については言及しない.一方,Schmittは〈外の動き〉にもう少し敏感で,分類と系統についての発言もしており,彼の伝記作家Blackwelderは次のように書いている――


Schmitt博士は,すぐれた分類学者の中にはちがう意見をもつ人もいるようだが,分類が系統に基礎づけられるというのはまちがっていると考えていた.分類学は進化によって生み出された多様性が遺伝的プロセスによって種として安定化されている様相を整理(order)するのに対し,実際の系統は分類学的研究が十分に進んだ後で初めて解明されるあるいは推測されるということを彼は知っていたのだ.(Blackwelder 1979: 148[ボールドは三中])

――同様の〈分離派〉的見解を表明した当時の分類学者はSchmittだけではなかった.少なくとも『Systematic Zoology』誌の1950年代初期の号をブラウズすると,後の体系学論争が同じジャーナルの誌上で闘わされたとはとても信じられないほどだ.Schmittが念頭に置いていたように,このジャーナルはもともとは「熟練した分類学者を練成する場」だった.

◇おそらく,今でもなお分類学者の中にはSchmittの上の見解に同調する人は少なくないのではないかと思う.もしそうであるとしたら,彼らの考えのルーツは相当に根深いということになるだろう.

◇本日の総歩数=10876歩.


17 oktober 2003(金)

◇明け方の最低気温は摂氏9.8度.ついに10度を下まわった.

◇いよいよ押し詰まらせてしまった仕事のいくつかにケリをつけます.ごめんごめんごめん.やりますやりますやります.→※堆積し変成しつつある仕事どもを〈不良債権〉と呼ぶそうだ.

◇Windowsの「FFFTP」がここんとこ調子がよくない.ファイル転送の失敗が頻発する.文中(の一部)の改行方式をWindows型ではなくMacintosh型に変更すると転送できたりする.で,安心してWindows型に戻すとまた失敗する.なんなんだろ,これ(前はそんなことなかったのに).めんどくさいからMacintoshの「RBrowserLite」で強制的にファイル転送してしまう(Macに移すのが手間かかるけど).※Tanabeさん,情報ありがとうございます.「SmartFTP」とか「RootFTP」とかいろいろあるんですね.いまのところ立ち直っているようなのですが,これからも恒常的にトラブるようであれば参考にさせていただきます.

◇昭和堂『鳥類学辞典』のゲラを後れ馳せで返送する.かなり手を入れたり査読者に反論したり(「形質」ではなく「形質状態」と書くべき箇所がたくさんある.対応して見出し語も変更した方がいいですね),参考文献を付け加えたり,索引語にマーカーをつけたり.今年はほんと「辞書づくり」の仕事が多い(辞書って売れるの? マジで?).『鳥類学辞典』が終っても,まだ〈地べた〉状態にある培風館『植物育種学辞典』の項目執筆(32項目!)が待ち構えている.ぎー.

◇いま評判になっている〈PLoS〉(=Public Library of Science)の生物学オンラインジャーナル〈PLoS Biology〉を見に行く――完璧にオープンな学術誌というスタンスなのね.創刊号にはBuchneraのアブラムシ共生論文も載ってるし.※サイエンス・ライターの手になる各論文の解説記事(Synopses)が,編集サイドが強調するように,この雑誌の「目玉」ということか.ブックマーク付けました.

◇午後,〈Bogen〉のブランチ・スワッピング法についての打合せ.とりあえず「NNI」は完了.BorlandのCコンパイラは絶悪という話をうかがう.確かに,テスト・プログラムを走らせると,最節約樹の計算時間がかかりすぎる(GCCと比較して百倍くらい遅い).もちろんVisual-Cはもっとダメとのことで,今後はGCCあるいは〈PAUP*〉や〈TNT〉が使っているWatcomでコンパイルするという方針.“G5”を早く買わないと.

◇【分類学に夢とロマンを】?――われわれ人間がそういう意識をもともと持っていたからこそ,分類学は現在まで連綿と続いてきたのだとぼくは思います.でも,「夢」や「ロマン」は個人的な動機づけとしては十分でも,それだけで他者と関わっていこうとすると必ずしも十分ではないでしょう.個人的・内面的な「場」と他者との論議の「場」は同じではないから.最近のハネカクシ掲示板を見ていて感じることですが,分類学をいまやっている研究者たちは何が問題であるのかをもうすでにわかっているのだろうと思う――〈+α〉こそほんとうに重要なのだということが.この〈+α〉が分類学を異なる「場」と結びつけるきっかけになる.〈+α〉と言ってしまうと「付け足し」のような響きがあるけど,それは分類学者の基本スタンスが内向きか外向きかを示す重要な形質であるとぼくは考えます.

◇Willi Hennig Societyの大会に毎年参加していて感触として伝わってくるのは,Hennig Societyは,一般に受けとめられているイメージとは正反対に,「まじめな分類学者」が多い.もちろん大会に来る大半の研究者はそれぞれ自分の“pet taxa”をもっていて,講演で登場する分類群はウィルスから脊椎動物まで多岐にわたる.にもかかわらず,たとえ専門外であってもそういうトークを楽しむことができるのは,それぞれの講演がきわめてinformativeな〈+α〉の要素をきちんと盛り込んでいるから.その〈+α〉は場合によっては進化・生態・生物地理というおとなしいテーマだったり,あるいは科学哲学・種概念・PhyloCodeなどという「取扱注意」の話題だったりする.学生・院生のstudent presentationでもその点にはなんらちがいはない.Hennig Societyなりの分類学研究のスタイルというのがすでにあるのだろう.同じことはSSB(Society for Systematic Biologists)にも当てはまると思う.個人あるいは分類群を同じくする研究者の集まりとは異なる「場」がそこにはあって,“pet taxa”の分類論議を越えた〈+α〉がヨコのつながりを保っているのではないでしょうか.

◇もし,分類学者の講演に対して質問がつかないとしたら,それは〈+α〉の要素があるかないかという小手先のテクニックなのではなく,分類学研究に対する基本姿勢ないし基本的問題設定が問われているのだとぼくは考えます.それは,年齢とともに研究傾向が自然に変わっていくというようなものではなく,最初から意図的にそういうスタンスを取るという意識が必要なのでしょう.

◇分類学の「夢」や「ロマン」は,分類学とか生物学が発祥するはるか以前から,人間にもともと備わっている認知的基盤として「そこにある」わけで,その点をいくら反芻しても基本姿勢が内向きであることにちがいはないわけ.生物多様性を知り尽くすというお題目は,時代を越えて繰り返し唱えられてきたスローガンであって,新鮮味は何もない.ダーウィンの進化論に執拗に反対し続けたルイ・アガシ(ハーバード比較動物学博物館の創立者)の『分類論(Essay on Classification)』をめくると,『種の起源』と同じ1859年に出版されたこの本がまさに〈粒子と反粒子〉であるように思えてなりません.アガシの『分類論』は,今なお生き続ける「分類学テーゼ」(自然分類,タクソンのカテゴリー,分類体系などに関する)を刻みこんだ〈碑〉ですね.もちろん,アガシはごりごりの創造説支持者.孤立した「正しい分類学者」であり続けることは今でも可能だし,そういう人は少なくないと思う.でも,〈+α〉が少しでも脳裏をかすめたなら,〈別の道〉がそこに拓かれていることがわかるでしょう――その道を進むかどうかはともかく.

◇本日の総歩数=11953歩.


16 oktober 2003(木)

◇今日は,連休中の学会参加の代休日.ゆっくりさせていただきたいのですがね,諸般の事情でそーもいかず.でも,それなりにゆったりした朝(暁)を過ごしたりして.

◇太田さんの著述情報が新たに寄せられる――『海洋と生物』にも書いていたのか(Vol.5,no.2:124-127,1983).※橋詰さん,ありがと.あとで目録に追加します.→追加完了(太田邦昌著述目録(15/Oct/03版)

◇え,ワタシ,日々逍遥してるって?――ギリシャ時代に「逍遥学派(ペリパトス派)」なる哲人の集まりがあったというの聞くたびに,カギムシ(有爪動物門:Onychophora:velvet worms)の(Peripatus)を思い浮かべてしまうのです(微笑).ま,ぼくの場合は,むしろクマムシ(緩歩動物門:Tardigrada:water bears)に近いかな.何たって「くま」だしぃ(“かわいいやん”という評あり.ネーミング,よし!).日々,うねうねと歩いたり,ゆるゆると歩んだり.おあとがよろしいようで.

◇ギリシャ時代の哲人たちの「遠〜いご先祖様」たちについては,系統樹ウェブ〈Tree-of-Life〉の該当ページを見るべし→カギムシクマムシ.近縁群との系統関係は上位クレードをたどること――有爪動物門と緩歩動物門は節足動物門と姉妹群関係にあるけど,その三分岐はまだ解決されていなかったっけ?

◇いまちょうど読み進んでいる『バージェス頁岩化石図譜』にももちろんカギムシが登場する.それは母音の多すぎる名前をもつアイシェアイアAysheaia).※遠くカンブリア紀に生まれ落ち,ギリシャのリュケイオンではアリストテレスに教えを受け,現在は南半球の湿った落葉の下で逍遥し続ける「ペリパトス」――実におそるべし.

◇代休にもかかわらず,業績評価に関する朝の会議に出席し(最近こんな会議ばっかし),そそくさと退散.日頃の悪行ののため数ヶ月ぶりに断髪(剃髪ではなく),そのまま活字の原っぱを逍遥し,惰眠のひとときをば.

◇共立出版から献本――ウィリアム・R・クラーク著『生命はどのようにして死を獲得したか:老化と加齢のサイエンス』(2003年10月20日刊行,ISBN: 4-320-05600-0).ありがとうございます.ピラミッドの向こうに沈んでいく夕日を眺めていると,ライデンの解剖学劇場(ブールハーウェ博物館)に展示されていた骸骨たちが手にしていた「生は短し」とか「死を思え」というメッセージを思い出す.

◇本日の総歩数=8074歩.


15 oktober 2003(水)

◇未明になってもまだ雨が残っている.研究所の温度計は摂氏12度.秋も深まりつつあるようで.次第に雲が切れ,ふつーの人々の通勤時間帯には晴れ間がのぞくまでに天気は回復.

◇え,ワタシの日録に「はまっています」とおっしゃるのですか? ダメダメっすよ.ハネカクシのお仕事をどんどんなさらないと――思うのですが,分類学のおもしろさは,それがわれわれの感性にダイレクトに働きかけるからだと思います.楽しいことは楽しい.この点に関しては,他者に理解されようがされまいが何の関係もない.その意味で分類学は,独りの世界あるいは同学者のコミュニティの中で成立し得るのだと思います.一方で,「なぜそういうハネカクシが存在するのか?」,「どうしてこんな地理的分布をするのか?」,あるいは「こういう共生関係が生じた原因は?」というより一般受けする問題意識をもったとたん,〈議論の場〉は,もはや分類学ではなく,系統学なり進化学という領域にジャンプするわけ.その〈場〉では提出された仮説がデータによってどれほどサポートされるのか,その仮説は対立仮説に対抗してどれくらい相対的にすぐれているのかということが主たる関心になります.

◇昆虫学会大会の若手の会でも話しましたが,Joseph Felsensteinの言う【分類なんかどうだっていいじゃん派(The  It-Doesn't-Matter-Very-Much school)】(『Inferring Phylogenies』, p.145)は,分類学がもう不要であるという宣告ではなく,たとえ同じ生きものを扱う学問分野であっても,問題意識のあり方あるいは切り口によって〈議論の場〉がまったく異なるという認識を明示したものだとぼくは考えています.一般的に言えば,分類学はもっと盛り上がる必要があるし,分類学者はもっと声を上げる必要がある.ただし,議論の場はただ一つではないのだという認識はあってほしいですね.種や分類群のランクあるいは分類体系なんかどうだっていいわけで,系統樹さえあればそれで解決できる問題群がたくさんあるのだということ.

◇お昼過ぎから,からっと秋晴れ.これでウォーキングが久しぶりにできるか...な.
――ということで,4kmほどてくてくと歩いてきた.こういう日は歩くしかない.歩くといろいろ考えが浮かぶというのはウソではないな.

◇そーか,The Systematics Associationの論文集『Milestones in Systematics』は来年2月にTaylor & Francisから出版予定とのこと(ISBN: 041528032X).Dave Williamsがまた編者になっている.Gareth Nelsonの分岐学史の論文はこれに載るのかな.系統推定での並列計算システムについての別の本ももうすぐ出るはずだが(Ward Wheelerに訊いた方が早いか).

◇おっと忘れてた――TRC週刊新刊リスト1344号をチェック.今年の秋は意外に“不作”のような気がする.※でも,その割にはよくピックアップしてるやん.アラマタ『稲生物怪録』が出たー.

◇来週から始まる農水省統計研修のテキストが届いた.こりゃ重量級ですな.A4版サイズで576ページ(去年よりもさらに60ページほど厚くなっている),重さは2kgを越えているようだ.研修生のみなさん,テキストを持ち歩くだけで腕力がつきますよ〜(ベゴンの『生態学』みたいに※こらこら).

◇今年の統計研修は,例年通り,第1週目の基礎編と第2週目の応用編から構成されている.いつもの年は基礎編の「概論」と「実験計画法」だけだが,今年は応用編のピンチヒッターとして「クラスター分析」も担当する.もうひとつ,今年の統計研修からは〈R〉の演習が始まるので,その講義もしなければならない.今年は忙しくなりそう.〈R〉布教は,すでにいくつかの大学で教えた経験を踏まえましょうね.※お,そういえば,都立大学のレポート課題をまだ出していなかった(汗).やば.すぐ出してあげるからね.待っててね.

◇本日の総歩数=11763歩.


14 oktober 2003(火)

◇朝から天気がぐずついている――ときどきぽつっと降ってみたり.三連休の間にずいぶんと磨り減ったようなので,その部分の〈再生〉のための時間が必要かもしれない.今日はシズカに暮らそう.

◇〈太田著述目録〉を〈T-Time〉で読むための「ttz」ファイルをつくった→〈ttz版・太田邦昌(1944-2003)書誌〉.ファイルサイズは147KB.htmlやpdfよりは,はるかに読みやすくなっているはず.故人のポートレートも貼りこもうかと思ったが,サイズが巨大化するだけなので,目録のみにとどめた.

◇岩田洋佳さんから「〈R〉で【SHAPE】」の改訂版が届く.リンクの訂正がなされている.→すぐに〈租界R〉にアップ(〈R〉で【SHAPE】(改訂版)).サイズは前よりも小さくなって59KB.

◇巌佐庸さんから来年1月に岡崎で開催される〈第1回岡崎生物学コンファレンス「絶滅の生物学」〉のファースト・サーキュラーの転載を依頼される.昨年あたりから基礎生物学研究所で予算化をはかってきた企画で,かの〈ゴードン・コンファレンス〉の日本版となることを目指しているそうだ.1週間のカンヅメか....※EVOLVE / jeconet / BIOMETRYなどにアナウンスを転送した.

◇夜,鈴木さんに連絡し,太田追悼企画の今後の進め方について相談する.『Panmixia』については今回の演者が原稿を用意するとして,『生物科学』誌の方はどうしようかということ.他の執筆者をリクルートしてみようということになった.シンポでの青木重幸さんの質問にもあったように,同世代の集団遺伝学者たちと故人がどのような関係にあったかはおもしろいテーマだと思う.少なくとも遺伝研の人たちとのつながりはあったわけだし.あるいは,フォン・ベルタランフィの共訳者である長野敬さんに依頼してみようかという提案も.特集になるだけの原稿執筆者が果たして集められるのかな.

◇3月の生態学会で東大出版会の光明さんから「太田さんへの連絡が取れない」との情報に端を発し,その後4月になって生物学史研究会の廣野さんから「お亡くなりになったそうで」とのメール,そして5月になってようやくご遺族からの連絡が千葉県博に届き,逝去の報に接するという,確認までに実に時間のかかった今回の一件だが,このように追悼シンポを開催し,さらに雑誌での追悼特集を組むことで故人へのオマージュになるのではないかと思う.

◇ウミウシの文献を翻訳しているという方から質問メールをいただく.〈homeoplasy〉という言葉につまずいているとのこと.〈homoplasy〉のミススペルあるいは異体スペリングではないかと返事をしておく.オクスフォード英語辞典(OED)で調べると,〈homo-〉も〈homeo-〉も「同じ」という意味のギリシャ語〈ομοσあるいはομοιοσ〉にルーツをもつ.〈-plasy〉は,同じくギリシャ語の「形成〈πλασια〉」に発する.〈homeoplasy〉は,OEDにも,また Lincoln et al.の『A Dictionary of Ecology, Evolution and Systematics』(第2版,1999年)の見出しにも掲載されていないが,〈homoplasy〉と同義とみなして間違いないはず.※外見的に酷似する〈homeoplastic〉という言葉(形容詞)はあるが,これは生体組織の同所的促進形成(癌のような)を意味する別の言葉.

◇〈homoplasy〉の形容詞形は〈homoplasious〉だろう――といちおう確認してみたところ,またドロヌマに.最初に造語した19世紀の進化論者E. Rey Lankester自身は〈homoplastic〉という形容詞形を当てているのね.これじゃあ〈homeoplastic〉と混同されるのも無理ないか(連想ゲームないし伝言ゲームみたい).こんなちょっとしたことでも時間を取られてしまう.※〈♪どんな些細なことでも一生を埋めるには十分である♪〉――わー,ヴィトゲンシュタインめ,成敗してくれるわっ,と『稲生物怪録』のヒーローになりきってみる.

◇科学にしろ科学史にしろ【連続性】を強調するというスタンスは,必ずしも歴史法則とかホイッグ史観に結びつくわけではないです.そういう結びつきがあるとしたら,それはかなり古い意味でのunfolding的進化観(あるいは存在の連鎖)によって背後から操られているのでしょう.むしろ,「分岐的な連続性」を「離散的な断絶性」に対置させたいという考えです.その内容が系譜的に見てどのように変化しようとも(あるいは分岐しようとも)リネージとしてはつながっているということ.

◇夜になって,またざーざー降り出す.ここのところ気温の上下が激しい.傘が手放せない.

◇本日の総歩数=8841歩.


13 oktober 2003(月・休日)

◇なんだ,この蒸し暑さは,いったい――先日,長谷川眞理子さんからもらったガラパゴスのダーウィン研究所の半袖Tシャツを引っ張り出す.強い南風が入っているようで,雨が降り出すと本降りになるかも.

◇朝早く,練馬春日町を出て,お茶の水に出陣.長男は明治大学で試験.ぼくは,そのまま神保町に転戦.まだ早すぎて本屋が開いていないので,小川町のスターバックスにて,カプチーノとともに溜まった「日録」やらメールやらを書き続ける.結局,三連休というのに「休」はなし,ぱたぱたと働き続けた気がする.

◇11時過ぎになって古書店街に向かう.しかし,今日は休日なので主だった店が軒並み閉まっている.崇文荘書店もアウト,書肆アクセスもアウト.一気に萎えてしまったので,久しぶりの明倫館書店に.半年前は太田蔵書が大量に出ていたそうだが,もうそのオーラは薄れたかな――いやいや,とんでもないですねえ.ダーウィン関連の古書には軒並み【太田聖痕】が刻印されている.鉛筆書きでの「×」焼き印とか「あほう」あるいは「よし!」という判決文など,昔から見慣れた書体がそこにはある.「ああ,まだここにはいるんだ」と思い,何も買わずに店をあとにした.

◇正午を過ぎて雨がぽつぽつと.そのうち本降りになる.練馬にたどり着くと,雷鳴まで轟く集中豪雨に.なんやねん,いったいこれは〜.※太宰府に流された菅原道真の怨霊の故事をつい想起したりして....RIP.

◇ぼくも安らかに眠りたいものだが(夜の間だけ).

◇本日の総歩数=12564歩.


12 oktober 2003(日)

◇未明に雨がぽつぽつと降っていた.そのまま研究所に行く.今日のシンポでのプレゼン資料のうち,全体のイントロと太田著述目録は「ttx」化できたのだが,肝心の講演プレゼンがまだ完成していない.画像の貼りこみとかテキストの細かい配置があるので,〈InDesign〉から「pdf」出力することにする.〈T-Time〉にしろ〈Acrobat〉にしろ,全画面表示でプレゼンできれば,ぼくにはそれで十分.

◇資料をそろえながら,いくつか注目すべき事実を再確認する.すべて,太田さんの主著である論文集『進化学:新しい総合』(1989年,学会出版センター)に関わることである――

『進化学:新しい総合』(学会出版センター,1989年)
  編者 日本動物学会(「現代動物学の課題7」)
  担当 日高敏隆
  • 太田邦昌 第1章 自然選択と進化:その階層論的枠組みI(121pp.)
  • 太田邦昌 第2章 自然選択と進化:その階層論的枠組みII(126pp.)
  • 太田邦昌 第3章 社会性進化の素過程:その階層論的枠組み(117pp.)
  • 宮井俊一 第4章 地理的変異の解析(36pp.)
  • 鈴木邦雄 第5章 動物系統学の諸問題――生物系統学基礎論の試み(68pp.)

――この論文集は1970年代半ばに企画構想されるが,実際に出版されるまでに実に15年間もかかっている.しかもコンスタントに進捗がのろかったわけではない.1978〜80年の時点で数人の著者は原稿を完成していた.そのまますんなりと出版にこぎつけていればよかったのだろう.しかし,初校ゲラが各著者に回されたのは5年後の1984年のはじめだった――

  • 太田初校ゲラ:「自然淘汰の階層性とその枠組み」(78pp.)と「社会淘汰の素過程」(55pp.)
  • 宮井初校ゲラ:出版された章とほぼ同一内容(35pp.)
  • 鈴木初校ゲラ:出版された章とほぼ同一内容(62pp.)

――これらの初校ゲラ以外の著者(岸由二さん他)は,そのときまでに提出した原稿を取り下げたと聞いている.もともとは6〜7名の執筆者をそろえようとした本論文集は結果として3名による共著となった.1980年〜1989年の「10年間」の空白期間にいったい何があったのかというのが私の抱いた疑問だ.

◇上のゲラの分量を合計すると,1984年のまま出版されていたならば,本文がたかだか240ページ程度の「薄い本」になったはずだ.ところが,実際には500ページを越える「大著」が店頭に並ぶことになった.その事情は初校ゲラの〈どの部分〉が増大したかをチェックすれば一目瞭然である――太田原稿は1984〜1989年の5年間で「364pp./133pp.=2.74倍」に成長したという単純な事実が浮かび上がる.鈴木さんと宮井さんの章はほとんどゲラのまま出版されている.大幅に変更されたのは太田さんの章だけである.

◇太田さんは1980〜1989年にかけて,自分の原稿を約3倍に膨らませたということだ.ぼくはちょうどこの時期に太田さんと知り合い,初校ゲラのコピーをもらったり,出版の進捗状況をうかがったりしていた.太田さんからの原稿依頼を受けた際には,学会出版センターの編集担当である檜垣さんにも紹介してもらった.太田さん自身は早く出版に至らなかったことを焦りつつはがゆく思っていたようで,大学で会うたびにゲラや原稿を抱えていたことを記憶している.その一方で,すでに提出していた原稿の大幅増補をしていたという事実を考えると,出版が大幅に遅れた事情の背景が垣間見えてくる.※粕谷英一さんは,昆虫学会のシンポのあとで,「鈴木,宮井の章と太田の章では印刷フォントが同じではないでしょう.組版した時期がズレているからだと思う」と指摘してくれた.

◇初校ゲラと比較したとき,もっとも明瞭に目につくのは,「系統進化」の節(約70pp.)が新たに書き加えられたという点だ.もちろん,それ以外の節も増補されているのだが,完全に地べたから書き上げられたのは「系統」の節である(第2章の後半部分).もともとの予定では,太田さんの担当は「自然淘汰」と「社会進化」の2章だったが,系統学の部分が増えたために「自然淘汰」の章を2分割せざるをえなくなったようだ.太田さん自身は――

「本章[第2章]の前半はもともと第1章に入るべきものとして書かれたが,その後,事情が変わり,本章後半部の追加執筆分とともに第2章を構成することとなったものである」(太田, p.247:ボールドは三中)

――と弁解しているだけだが.

◇そんなこんなと『進化学:新しい総合』の「捻じれた系譜」を思い起こしつつプレゼン資料を作っていたら,もう昼前に.慌ててpdf出力して.ひたち野うしく駅に向かう.昆虫学会会場である本厚木――とっても遠いっす.常磐線を1時過ぎに乗って小田急・本厚木駅に着いたのがもう午後4時近く.そのままタクシーに乗りこみ,丘の上にある農大・厚木キャンパスに.路線バスの便もよくないし,今回の大会参加者のみなさんは行き帰りがたいへんだったでしょうね.

◇受付けを通ってA会場に到着.モダンな校舎ですねえ(りっぱ過ぎて迷ってしまった...).まだ誰もいない.自分用のプロジェクタを持参したので,さっそく接続して試写.〈ttx〉も〈pdf〉もOKでした.

◇午後5時過ぎになって,若手懇談会事務局の八尋さんと桝永さんがくる.続いて,太田さんのご遺族(お母さんと二人の妹さん)が会場に来られたので挨拶.粕谷さんと鈴木さんが引き続いて登場.事務局とシンポの打合せを少しばかり.予定時刻の5時15分を過ぎてから参加者が続々と集まり始める.太田著述目録のコピーを配布.定刻を10分ほど遅れてシンポが始まる.※参加者は予想していたよりも多く,50名を越えたようだった.必ずしも高年齢層だけではなかったのが意外.

◇最初の鈴木邦雄さんの話は,太田さんと知り合った頃から始まって,若手の会の創立にいたるまでの経緯とエピソード,そして後年の太田さんとの個人的なつきあい(とその途切れ)について.若手の会の初期バックナンバーを読んでいたぼくにはその粗筋自体はすでに知っていたことだ.ざっと見回した限り,若手の会の創立当初のメンバーらしき会員も参加していた.創立期のこまかいスレッドの絡みはおそらく世代を共有していた彼らでないとわからないこともあっただろう.

◇続く粕谷英一さんは,日本の生態学・進化学が経験したいくつかの「黒船と開国」経験のもとで,太田さんが日本の学界の中に占めてきた位置を「幕末期の蘭学者」にたとえた.自然淘汰の階層理論に関する太田さんの論文は,1983年の日本計量生物学会会報(Bull. Biometric Soc. Japan)に発表されている.粕谷さんは引用分析により,このペーパーが当時の著名な海外の論文に4回引用されていると指摘する(このマイナーなジャーナルの全体としての引用回数が5回であることを考えれば異例).その上で,「蘭学者」たる太田さんの行動パターンの特性とその理由を当時の日本の科学者が置かれていた「鎖国」状況に照らして推察した.

◇もちろん,時代的・精神的状況とは別に,研究者として生きていくための戦略は無視できない.とりわけ,ひとりで生きているわけではなく,研究者コミュニティの中で生きていることを考えるなら.

◇太田さんのご遺族は途中で退席.事前に予想されていた事態ではあった.研究者といえども肉親も家族もいる.遺族の受け取り方がちがっているのは当然のことだと思う.

◇予定よりも時間がだいぶオーバーしていたが,最後にぼくのトーク.風体,講演ともに,いつものスタイルで話させてもらいました.

◇鈴木さんには「バクロ話だったね」と言われましたが,『進化学:新しい総合』の出版にいたるまでの経緯や証拠・証言はきちんとアーカイヴしておかないといけないとぼくは思う.原稿を取り下げた執筆予定者たちの証言もそのうち集めておきたい.

◇7時半近くにシンポ終了.路線バス待ちの行列ができていたので,タクシーで駅前に移動し,飲み屋で懇親会.鞘翅学会ご一行様が盛り上がる隣りの部屋で事務局と演者を含めて十数人が集まる.確かに,思い起せばさまざまなことがあったんでしょうね.10時近くまで根を生やし,粕谷さん,橋詰さんとともに小田急に乗り込む.半分眠りつつ練馬到着――いろいろと疲れましたな.ね?

◇粕谷さんとの話の中で,〈R〉に関する企画は来年実現しそうだとのこと.クローズドでの集会になる予定.

◇本日の総歩数=17675歩.


11 oktober 2003(土)

◇未明から,またちくちくと講演資料を作り続けている.

◇太田シンポのイントロに当たるプレゼン資料を〈T-Time〉でつくる.以前は〈T-Time〉をもっぱらテキストファイルのビューワーとしてのみ用いていたのだが,最近〈html〉ファイルをよく扱うとともに,〈T-Time〉が「htmlビューワー」としても秀逸であることを発見.通常のhtmlタグがそのまま解釈されるのはもちろん,〈T-Time〉固有のタグ(「ルビ付け」とか)を付加して可読性を向上できるから.太田氏の遺影を貼りこみ,講演タイトルと要旨を入れて〈ttx〉ファイルとして出力する.まずはひとつ完成.

◇もう一つ,太田さんの著述目録も〈ttx〉化しておく.すでに〈html〉と〈pdf〉では出力してあるが,プレゼンするには不向きなので〈T-Time〉のアウトライン機能を利用して,年ごとに著作をまとめておく.「タグ音痴」なので,しばしばミスをしてしまう.なんとか,これも完了.シンポのときはこの目録をプレゼンする機会はないだろうが,後日,T-Timeブック形式〈ttz〉としてウェブサイトにアップしようと思う.「T-Timeパブリッシャーズキット」が初の起動となるか.

◇さて,本題はぼくの講演.太田さんの体系学に関する主張をまとめる――

  • Mitchellの原理〉「われわれがいう〈Mitchellの原理(Mitchell's principle)〉とは,[系統]分岐学(cladistics)の創始者Mitchell(1901,1905)が最初に明確に定式化した原理で(第9節参照),形質の原始性と派生性を手掛かりに一群の種を系統分類する場合,原始形質や多重生起的な派生形質ではなく単一生起的な派生形質を探してその共有性を目印に分類すべきであるという原理である.ここで単一生起派生形質(uniquely derived character:言葉は Le Quesne, 1969)とは一つのクレード内で唯1回生じた特異的な派生形質のことである」(太田 1989: 184)
  • 真正分類系統学〉「近年,Hennig(1950,1966)を宗祖とする“分岐”主義(cladism)分類学者たちは,分類系統学の歴史を驚くばかりにねじ曲げて,この単一生起派生形質の共有を基準とした最近縁種群同定原理についても,その原理の提唱者を強引にHennigとするが,これはまったくまちがったことである.(中略)ここでは,そうした“分岐”主義」とは全然異なる真正分岐学(genuine cladistics)あるいは総合分岐学の立場,さらにはそれを一部として含む真正系統分類学(genuine phylogenetic systematics)である総合系統分類学(synthetic phylogenetic systematics)の立場から,Mitchellの原理をはじめとする系統推定の基本をきちんと理論化しておこう」(太田 1989: 184)

――「ミッチェルの原理」に基づく「真正分類系統学」が太田さんの主張の核心である.※粕谷さんは「“真正”とか“青年”という名を冠した集団が成功したことはない」と言う.とすると,“若手”いうのんもあきまへんか?

要するに,それは「形質進化の確率モデルとベイズ法に基づく形質整合性分析(クリーク法)」だ.系統推定にベイズを用いるという点が(当時としては)ユニークかと思う.ただし,プラクティカルな問題について太田さんはいっさい論じていないので,それがツールとして使えるものなのかどうかは未知数.好意的に解釈するならば,モデルベースの系統推定法をイメージしていたのではないかとも考えられる――

「かくして我々の分類系統学はヘニッヒ学派の“分岐”主義とは全然違って確率過程論その他のダイナミクスにしっかりとした基盤を持ち,初めから定量的かつ解析的な接近を許すものとなっている」(太田, 1993: 16)※ボールドは三中

◇うう,まだプレゼン資料づくりが終わらない〜.明日未明の決戦に賭けるか.

◇本日の総歩数=9395歩.


10 oktober 2003(金)

◇秋の学会関連イベントシーズンの真っ最中ということで,方々からシンポや集会の通知が届く.エポカル会議(not学会)は今日で終わり,明日からは昆虫学会大会が厚木で始まる.つくばから流れて行く人もいるようだ.今年はじめに厚木にある神奈川県央地域農業改良普及センターというところで「普及現場での統計処理方法」というレクチャーをしたことがあった(たまには役に立つこともしないといけないのだ――他のすべてが役に立たないとは言わないが,説得に時間がかかったり徒労だったり).会場となる東京農大は小田急・厚木駅からさらにバスで十数分らしい.大学が校外移転してしまうので,大きな規模の学会会場はどんどん遠ざかる.物理的距離は大したことなくても,到達するまでの時間がかかったり,さらに言えば〈心理的距離〉がとても「遠方」だったりする.

◇静かな未明に,太田邦昌著述目録の印刷出力用文書をつくる.ご遺族から送っていただいた遺影のjpegを貼りこんだり,すでにあるhtmlファイルからテキスト部分を抽出したりする.pdfファイル(280KB)として出力する.この著述目録のハードコピーは,明後日の追悼シンポで参加者全員に配布します.

統計曼荼羅,ついにhtml化!――苦節10年?タグ知らずの原作絵師とは無関係に染み渡った〈マンダラ〉は,竹中明夫画伯の手によって〈html版「大統計大曼荼羅」〉として本日公開されました.さあ,次なる課題は〈大統計曼荼羅〉かっ!? ※誰が描くねん,そんなもん....

◇〈Nipponia nippon〉が「絶滅」したその日がエポカル会議の最終日とは偶然にしてもできすぎ.ヒトの年齢にして「100歳」とは長命なトキ個体だった.

◇昆虫学会大会での講演準備をする.太田さんが「分類系統学」に関する公の場での発言のうち,メジャーなものは下記の三つだけだった――

  • 太田邦昌 1989. 自然選択と進化:その階層論的枠組み II.日本動物学会編『進化学:新しい総合』(現代動物学の課題7)(xii+504 pp.), pp.123-248. 学会出版センター.
  • 太田邦昌 1991. 私の系統分類学観. 第1回筑波昆虫科学ワークショップでの口頭発表.
  • 太田邦昌 1993. 私の系統分類学観. Panmixia(昆虫分類学若手懇談会会報),(9):1-25.

◇太田さんの主著となった『進化学:新しい総合』(1989)の初校ゲラを見るかぎり,1985年時点では,まだ「真正分類系統学」はその姿を見せていない.したがって,初校の時点から2〜3年の間にそれは成長したという推測が成り立つだろう.『進化学:新しい総合』の当初の目次構成では(「当初」とはいえ,1970年代半ばにスタートして実に15年をかけて出版に至ったという特異な本なのだが),太田さんは自然淘汰と社会性進化それぞれで1章ずつを担当するという予定だった.しかし,結果として自然淘汰の章がさらにふたつに分割されることになったのは,ほかならない「真正分類系統学」の節が100ページに達する分量になったからだ.

◇『進化学:新しい総合』の事例は,〈本〉そのものが「進化する系譜」であることを痛感する.1970年代に構想されたときの執筆者陣は,その最終出力されたものからは想像ができないほど多くの著者が含まれていたという.10年以上にも及ぶ「系譜」の中で,いったんは執筆したものの撤回した著者がいたり,あるいは後発のぼくのように生物地理学の章を書いたものの結局リジェクトされたりという紆余曲折が本書の「進化」を特徴づけている.これだけ執筆者や内容構成の入れ替わりが激しい本も珍しいのではないか.出版企画そのものがつぶれなかったことの方が不思議なほど.

◇1970年代にイメージされた『進化学:新しい総合』と1989年に出版された『進化学:新しい総合』とははたして〈同一の本〉とみなすべきなのか.認知的にはすでに「同じ本」ではないと関係者は思っていたにちがいないだろうが,系譜的には確かに「同じ本」だ.David Hullが描いた分岐学史とまったく同一の結論が導けるだろう――教義内容がたとえ正反対になったとしても系譜的には同じ学派である(Gouldが反論する点でもある).

◇ぼくがドクターで初めて太田さんに会ったとき,彼はすでに初校ゲラ(そのコピーをぼくはもっている)を抱えていて,「早く出したい」と口癖のように言っていた.なかば焦りすら感じられる中で,「真正分類系統学」は育っていったのだろう.もっとも,体系学に関する太田さんの考えは『進化学:新しい総合』が出るまではつかめなかったというのが正直なところ.それが出てみてはじめて,「ああ,ぼくの章がリジェクトされたのは無理ないか」と納得した.

◇太田さんの体系学に関して,ぼくが反論したのは――

  • 三中信宏 1991. 分岐図の科学と行動生態学との接点および真正分類系統学の誤謬――第1回筑波昆虫科学ワークショップ報告:《現代進化生物学への系統学のインパクト》――. 昆虫分類学若手懇談会ニュース, 60: 1-51 (1991.9)

――のただ1回だけで,ぼくの内面ではそれで「ケリ」がついてしまい,その後は何一つコメントすることはなかった.ぼくの『生物系統学』でもほとんど言及していない.太田さんの側も,1993年のPanmixia論文(1991年の口頭発表を踏まえての記事)を最後に,パブリックには体系学(アンチ分岐学)についての主張をしなくなったように記憶している.

◇講演準備の過程で昔の資料を引っぱり出していたら,上のような記憶が次々とひもとかれてきた(実にunfoldingですな).

◇本日の総歩数=11459歩.


9 oktober 2003(木)

◇うーむ,そこはかとなくダルな日が続いているような.メリハリがほろほろと剥がれ落ちたというべきか....いかんですな.これでは.エポカル会議もイマイチとらえどころなし.人口密度,連日低し.

驚愕の事実――げげー,「P」タグなんか今の今まで知らんかったでー(大汗).な,なんと,コワイ運転してましたなー.>たけなか導師,感謝.※勉強勉強また勉強.それはそうと〈html版・統計曼荼羅〉拝見しましたです.「色」がちゃんと着いてるではないですか! 欲を言えば「ジハード」の抗争図式が空を覆うように,その陰で新たな統計学が哺乳類の祖先のように根を伸ばし,多変量解析は涅槃に足を踏み入れるという「そこはかとない無常のオーラ」が漂えばいいなーと思ったりします.

◇連日,献本に次ぐ献本――読書の秋を実感させますです.これまた感謝:サイモン・レヴィン著『持続不可能性:環境保全のための複雑系理論入門』(重定南奈子・高須夫悟訳,2003年10月5日刊行,文一総合出版,ISBN: 4-8299-0069-5).

◇太田さんの写真がご遺族から送られてきた.スキャンして今後のために電子化しておく.そろそろ,若手の会シンポ当日のための確認事項を申し合わせておかないと.講演準備もあるのだけれど....

◇お,今度は『生物科学』誌の「科学論特集」の別刷がドサッと届く.アヤシイ「‘みなか’ワールド」も.※そのうち「異界」になるぞー.

◇またまた,献本到着っ――中澤さん,届きましたよ.bk1からの献本:中澤港『Rによる統計解析の基礎』.やっと日本語の〈R〉の教科書が出たということですね.次は,『Introductory Statistics with R』の翻訳出版かな? おっと,その前に,来春「アナザーR本」が出るんでしたね.※目次紹介をbiometryに送信完了.

◇あ,〈R〉の新バージョンが昨日リリースされてる――〈CRAN〉から,MacOSX用の「ver 1.8」をさっそくダウンロード(RAqua.dmg, 13.1MB).ほお,こりゃ,スマートな.

◇今日はいろいろとせわしない.→※そのまま1日が終ってしもた.

◇本日の総歩数=10205歩.


8 oktober 2003(水)

◇車を換えたので,午前4時から試運転.おお,なかなか乗り心地ええやんか.気分よしよし――ということで,暁の〈Book-Ace〉でお買い上げ〜:佐藤賢一『オクシタニア』(2003年7月10日刊行,集英社,ISBN: 4-08-775307-7).なんだー,この『薔薇の名前』みたいなカバージャケットは〜.と言いつつ,半分はその図柄に惹かれて買ったのです.もう1冊は,中西秀彦『本は変わる!:印刷情報文化論』(2003年9月30日刊行,東京創元社,ISBN: 4-488-02377-0).また晶文社か,と思ったら東京創元社とは....立命館大学での講義録とのこと.

◇そういえば――エーコの『カントとカモノハシ(下)』を買ったまま読了していない! やば.

◇中澤港さんの『Rによる統計解析の基礎』がいよいよ店頭に並ぶそうだ.農水省統計研修が2週間後に迫っているので,それまでにブツを入手しないと!→中澤さんのサイトの「メモ」参照.※渡りに舟ということで,bk1から献本されることに.また書評本が積み重なる?(うふふ)

◇トップページのぼくの写真に関連して,「前景で頭のてっぺんのみ写っているあの人はいったい?」という質問が届いている.はいはい,あれは今年のJICAの統計学講義のひとコマです.ドミニカ農業局のバスケスさん,後頭部を写してごめん〜.研修レポートをしっかり書いてねー.
――などと軽く受け流していたら,竹中@国環研さんからWWWサイトでの画像ファイルの扱いについて教育的指導を受ける(汗).さっそく,くだんの画像のサイズを減量し(被写体はそのままですぅ),縦横比を修正.ありがとうございます.まだあかんかもしれませんが,ぼちぼちと向上しますので.

◇おお,ついに御大の登場だあっ!――Joseph Felsenstein著『Inferring Phylogenies』がたったいま着便.文字通りの〈系統樹大全〉か.「xx+664」ページは必殺的.これから系統樹について勉強しようという人には大きな登攀目標となるでしょうね.フシギなのは出版元のサイトでは「August 2003」となっているのに,本では出版年が「2004」となっていること.ま,向こうの本ではときどきあることなのだけど.でもねえ,まだ10月なのに来年の本を手にするとは,まるで「らくだこぶ書房」みたいではないか!

◇ん,今日って何かあったっけー(???)――ありゃ,エポカルでの会議がまだ続いていたのだった(ポカ).「学会に行く」のと「学会が来る」のでは心理的な緊張感の度合が大きく異なる気がする.非日常度の差か.

◇筑波大学に滞在しているRichard Reymentさんからメール.数日前に,奥さんとともに,来日中宿泊する〈二宮ハウス〉に到着したとのこと.設備がりっぱなのでビックリしたそうな.

◇太田追悼シンポでの講演内容を詰める――太田さんの〈真正分類系統学=genuine systematics〉は,分類学と系統学を込みにした土俵で論じられているが,今回の講演では〈分類学抜きの系統学〉の観点から,彼の言う【ミッチェルの原理】について検討する.系統推定法としてそれがどれほど妥当であるのかという問題設定を前面に出すということ.1990年当時と現在とでは,論議の舞台デザインは自ずと変遷する.

◇科学史が「連続」ではなく「断絶」を強調するようになったのは,過去のある時代に特徴的な科学史マインドをもった科学論者の〈共約不可能性〉への信念の産物でしょう.とくに,そういう論の黎明期には,これまた過去のある時代に特徴的だった科学哲学マインドをもった科学論(直線的連続性を前提とする論理的再構成派)に対する対決テーゼとして,「断絶」を旨とする教条は魅力的だったのでしょう.さらに穏健な深読みをするならば,科学思想の系譜は互いに断絶する〈species〉としての地位をもつ〈実体〉としてカテゴリー化されるのだという概念的本質主義がそこに感じ取れる.David Hullの系譜的科学論に対してS.J. Gouldが『SET』の冒頭で,あえて「本質主義的」な科学論を展開したのも,Gouldが明白な〈断絶派〉だから.1970年代はじめに〈断続平衡モデル〉を提唱したEldredge & Gouldの論文(1972)で執拗にFeyerabendの科学論やHansonの理論負荷性に言及していたのも,Gouldの一貫した科学論のスタイルを考えるなら十分に首肯できる.科学と科学論を問わず,離散的カテゴリーが実在するという〈断絶〉論はわれわれヒトの直感に訴えるアピール性が強すぎる(たとえば「時代精神(Zeitgeist)」という魔力的な思潮カテゴリーがそのいい例).だから,根絶することはもともとできない.むしろ,生物学における〈species〉概念と同じく,精神的・内面的にそれと共存していくしかない.科学に関する〈断絶派〉的主張は,それが何らかの意味で正しいからではなく,ヒトが心理的本質主義者であるから生き延びているにすぎないとぼくは思います.

◇本日の総歩数=7311歩.

◇――試しに段落アタマを「・」から「◇」に変更――


7 oktober 2003(火)
・夜が涼しく→寒くなるこの季節,ぬくぬくの毛布は手放せません.
・午前中はこまごまとした仕事をば.いくつかの大仕事にはまだ手がつかなかったりする.
・〈太田邦昌(1944-2003)著述目録〉は成長し続ける.太田さんの書誌情報がさらに集まる.情報提供者のみなさん,ありがたいことです.提供者リストを目録の末尾に付けました.同時に,未確認の項目も増えている.
・備忘――先日,東大に行ったとき,岸野洋久さんから聞いた話では,叢書〈統計科学のフロンティア〉のバイオインフォマティクスの巻(岸野さんともう一人の共著)は,今月中に出版される予定であるとのこと.このシリーズ,何かの予算でまとめて買うことにしよう.
・朝倉書店から献本――『バージェス頁岩化石図譜』.今月のbk1書評担当本.おお,やっぱりマジでこういう生きものがいたのね(疑ってたわけちゃうけど).いい標本のいい写真がよく撮れているので,重宝する(※古生物学会の〈Harry Whittington特集号〉とともに).カナディアの剛毛が1本1本まできっちり保存されているのは化石の妙ということか.クリアな復元図が印象に残る――バージェス動物相がよく知られて以来,こういう復元図にいたるところで出会うが,ちょっと前の古生物学の論文だと「復元」の図ってあんまりなかったのでは? 化石の写真だけだとイマイチよくわからない(というか眼力が備わっていないと見えない)からだろう.
・おっとまた忘れるところだった新刊チェックのリスト→TRC 1343.※フンボルトの旅行記が完結した(サイフが空っぽ〜).『中国食人記』を書いた〈太田竜〉って,その昔,柴谷篤弘と『自然観の革命』を共著で書いたあの「太田竜」???
・〈Bogen〉の共同研究者である陶村貴さんが,Windows環境に〈Mesquite〉をインストールする場合の仮想Javaマシン構築についてのガイダンスを送ってくれました.感謝.→陶村メモ
・本日の総歩数=7787歩.
6 oktober 2003(月)
・昨晩から毛布の登場.さむ....
・録画の話――ビデオカメラを向けられておたおたしているようではいけないそうだ.レンズの〈向こう側〉にいるであろう人々の顔を思い浮かべつつ「にっこり」とベスト笑顔を見せられるのが〈プロ〉というものなんだとか.ううむ,奥が深すぎて,道なお通し(あるす・ろんが).
・ポスター発表の翌日なので,朝ついぐでぐでしてしまい,エポカル参上が(極度に)遅くなってしまった.でも,やっぱり人はいない.プログラムを見ても今日は何もない(マジで).こういう会議は過去にあまり経験がない.やはりふつーの意味での「学会」ではないことを再認識.参加者のみなさん,いったいどこで何をしているのでしょう....
・ポスター会場の Multi-Purpose Hall で,コーヒーを飲みながらうだうだしていたら,背後の大型テレビからおもむろに昨日撮影分の録画が順に放映されているではないか.こういうときでもないかぎり「自分の話し方」を観察する機会はなかろうと見ていた.おお,カメラワーク,なかなかのもんですな.さすがプロ.タイトル接写からはじまり,要所要所でピンポイント拡大あり,パソコン画面の中継あり,と見るものを飽きさせない.
・《P-06》の番が来た.うわー,照明が天上から直下で落ちているので,バンダナだけに光が当たっているぞ.顔が黒く映っている(『新耳袋』か...).はっきり言って〈アヤシイおじさん〉がハチマキ巻いて何やらしゃべっているだけではないか.どーしてみなさんネクタイ&スーツ姿で講演されるの(ワタシゃいつもの「姿」)? 学会でネクタイしたことなんか記憶にない.
・お,出だしのピッチが少し高いな(やはり緊張度が有意に高まったか).カメラを意識してポスターを指示する回数が多過ぎる気がする.プレゼンの極意は「eye-contact」にあるので,もう少しレンズの〈向こう側〉を見るべきだったと反省.ことばの合間のスペーシングや喃語(というのかな?「あ〜」「ん〜」というアレ)は,改善の余地あり.後半になると,スピードが上がり気味(残り時間が気になってるようす).
・放映を見終わって,ポスター発表の録画というのは意外に役に立つことを発見.もちろんその場にいなかった参加者にも少しは貢献するだろうが,何よりも発表者本人にとって自分のトークを見直せるという利点あり.可能なら他の学会でもビデオ撮りをやってみる価値はあるかも.
・前にも書いたが(→応動昆ハンドアウト),口頭発表は「読む場」ではなく「話す場」なので,「その場で噺をする」ことを旨としている.これは事前に原稿を書いて練習して口頭発表の場に臨むという意味ではなく,「そこで噺をつくる」ということ.だから,ぼくの場合,口頭発表の原稿はもともと存在しない(日本語でも英語でも).日本の場合,「読む講演」から抜けていない学会発表がまだ少なくない.とくに,PowerPointのようなプレゼン支援機器が普及するとともに,かえって〈噺〉の質は落ちているような気がする.
・ニューヨークの〈Hennig XXII〉では「Student Prize」の評価基準が公表されていた.講演内容や質疑のさばき方あるいはビジュアル性(ビジュアル機器ではない!)についての評価とともに「Quality of Verbal Communications」という評価項目がある.その内訳はこんな具合――
  • Voice quality and volume
  • Enthusiasm
  • Eye contact with audience
  • Posture
  • Body language
  • Mannerisms
  • Ability to get concepts across to audience
  • Professionalism
――〈原稿〉ではなく〈噺〉そのものを評価しようという姿勢が垣間見える.学生の頃からこういう基準でばしばしと鍛えられていれば,口頭発表が上手になるのもうなずけるというもの.
・もちろん事前に時間があれば,発表練習するのはムダではない.ポイントは――

稽古にあくまで精を出して、さて舞台へ出てはやすらかにすべし.前日にアタフタと稽古し、夜をかけて物さわがしく、翌日を初日とすれば、わるい事もかなりがけにせねばならず。この箇条、大切の事なり

――という『役者論語』の格言.これまた〈あるす・ろんが〉なのだが.
・会議場で自分のポスター発表を眺めて,今日の仕事はオシマイ.※なんという優雅な1日であることか.
・さらにコーヒーを舐めつつ,『The  Dodo』を読了.ずんぐりむっくりというドードーの実態とはかけ離れたイメージがどのようにして形成されたかを当時の海路記録(logfile)やドードーを描いた絵画を手がかりにしてたどる.ピント=コレイアの『ドードー本』のポルトガル語初版(1994年)が引用されている.ドードーの語源に関する解説の典拠とされたのだろう.
・太田邦昌目録がさらに成長――ここ数日,方々から情報をいただき故人の著作目録はさらに中身が詰まってきました.とくに学生時代の同好会誌に10編あまりの記事があるとのこと.それらの情報を加えておきました→〈太田邦昌(1944-2003)著述目録〉改訂版.
・そういえば,Richard Reyment夫妻はもう来日してつくばに来ているんだよねえ.ご挨拶にうかがわないと.
・ヒマだったのか,それとも勉強になったのか,フシギな1日.
・本日の総歩数=6922歩.
5 oktober 2003(日)
・午前3時前に起床――今日のポスター発表に貼り出す【紙】をべろべろと出力.※当日の朝に何やってんだか....でもプリンターを会場にかついで行ったりはしてまへんでぇ.
・ふと思い立ってトップページの写真を換えてみたりしました.ちょっとは「せんせー」らしく見えるか? ん?
   ↑カンペキ,現実逃避.
・午前6時前に,まあこれでいいでしょう,ぱ〜っとやりましょう!とケリをつける.共同発表者である〈Bogen〉のみなさんにはすでに連絡してあるが,朝イチで会場にたどり着けるかな?
・「衣裳は大丈夫か,メイクはしたか,スカウトされたら...」という一部の心配をヨソに,サイエンティストは心シズカに学会会場に出撃するのだ.
・エポカルの「Multi-Purpose Hall」にて午前10時半からポスター発表のビデオ録画.共同発表者の山本さんと陶村さんの到着.デモ用のノートパソコンをセット.会議スタッフのカメラマンとアシスタントが数人でやってきて,あれこれ調整をする.とくにカメラマン氏,なかなか注文が細かいぞ.演者の立ち位置,会場照明のチェック,コンピュータ画面の映りこみ具合,トークの間合いなどなど,実際に録画に入る前の打合せに,意外に時間を取っている.だいたい学会のポスター発表で録画をするなどということ自体が初めての経験なのに,あまつさえレンズに向かって10分しゃべれとは,口頭発表とまったく同じやんか.
――ぐむぅ,いつもと勝手がちがう〜.「カメラの赤ランプが点灯したら,どーぞお話しを始めてください」と言われてもねー.(ビデオカメラのレンズに向かって笑顔をできる職業的アナウンサーは鍛錬のたまものだったか.脱帽) いつも通り原稿がないので,いつも通りのスタイルでしか話し始められないが...相手が「レンズ」だもんね.ウケを狙うわけにもいかず,かと言って時間はきっちり決まっているので,自分でも意外なほど「淡々とこなしていく」トークとなった.ほぼ時間通りにトーク終了.最後にノートパソコンをふたつ並べて〈Bogen〉と〈PAUP*〉を勝負させている場面を録画した.
・今日と明日の二日間ですべてのポスター発表を録画し終え,明後日からエンドレスで会場内放映し続けるそうだ.
・今回の生物多様性国際フォーラムは,一般参加者が多数参集する,通常の意味での国際会議とはちがって,あくまでも〈GBIF〉や〈GTI〉など国際的(国家的?)な分類学の活動状況をモニターする委員会が「主」,発表は「従」.だから,スケジュールも委員会を主体にして組まれている.参加費が無料というのも「太っ腹」というよりは,すでに運営資金があっての会合だから参加者からの現金収入をあてにする必要はないということらしい.会場の規模やスタッフの配置具合を見た感じは〈とってもバブリー〉だ.ふーむ.
・それにしても,会場での人口密度の「低さ」はどうしたことか.もともと会期が1週間という大国際会議並みの時間が取ってある割には,イベント(シンポなど)はすかすかに配置されているし,ポスター会場なんかほとんど閑散としている.静謐な時間がもてるので自分の仕事をするには最適の環境かもしれないなどと思ってしまう.明日の昼間は一日中ポスター発表の予定しか組まれていないのだが,いったい何人の参加者がここに来るのだろーか(不安)?
・ポスター会場で,Ytowさんから巨大系統樹の表示をするソフトウェア〈TreeJuxtaposer〉についての情報(ソース1ソース2)をいただく.確かに,端点が数千もあるような大きな系統樹をどのように「可視化」するかは高いハードルだと思う.〈TreeView〉とか〈MacClade〉ではもうやっていけないだろうし.
・本日の総歩数=14041歩.
4 oktober 2003(土)
・前日までは何ともなかった次男が,何を血迷ったか,39度の高熱.医者に連れていったりして,瞬間ばたばたする.「こんなに涼しくなったのに半袖半ズボンでふらふらしているからだ」とたしなめたら,「パパに言われたくはない」と半袖半ズボンの父親は小学4年生にあっさり論駁された(くそー).
・文句垂れてもいちおう病人みたいなので(へへ),クレオに買い出しに出かける――食品売り場でばったり上田恭一郎さんと遭遇,どーもご無沙汰です.え,昨日からつくばへ.そりゃ長旅お疲れさまでした.はいはい,ワタシもあとでエポカルに行きますので.はいはい,もちろんご講演は聞かせていただきます.ポスター発表もやるんですか? こりゃダブルでたいへんですねー.ではでは.
・午前中はそんなこんなで時間がなく,午後,やっとエポカルにたどり着いて会議の参加登録.おお,参加費タダの国際会議なのに,こんなにりっぱな要旨集が.太っ腹ー
・コングレスバッグには,要旨集のほかに,〈Catalogue of  Life 2003〉という2枚組のCD-ROMも入っていた「Year 2003 Annual Checklist」と銘打たれている.中身を見る時間はいまはないので,あとのお愉しみということで.
・ポスター発表するので要旨集をチェ〜ック.げげーっ,マジっすか?――ポスターを貼り出しゃ,それでおしまいかと思っていたのだが,なんとなんとポスターの前で10分のプレゼンをし,しかもそれをビデオ録画して,会期中常時流すのだそーだ.そんなん聞いてへんやん! 会場で会った Nozomi Ytow さんは「ミニマムの義務だけ果たして,あとは客の入りしだいですねえ」と言っていた.さすが,第1回ニールセン賞受賞者は余裕であった.
・さて,と,ポスターの印刷をするだけではすまなくなったかー(思案投げ首).
・でもってちょっと現実逃避して――『The Dodo』を半分ほど読む.この本,ドードーの描かれた絵画を手がかりにしようということか.ドードーの標本は少ないが,絵はたくさん残っているらしい.へー,ずんぐりしているのではなく,「痩せたドードー」も描かれていたとは.内容・資料ともに,ピント=コレイアの『Crazy Bird』とますます重なってくる.
・そろそろ〈執筆慾〉の昂進を感じている.やるか.
・夜中近くに,太田邦昌さんのご遺族からメールにて返信あり.今後やり取りをすることになる.
・こりゃ,未明の決戦に突入ですなー,と言いつつ,早々とご就寝.ぐーぐー.
・本日の総歩数=8741歩.
3 oktober 2003(金)
・早朝に〈太田リスト〉に関する問合わせをいくつかのメーリングリストに送信する.※さっそくコメントをいただいたり.次々といただいたり,どんどんいただいたり――感謝です>みなさん.〈リスト〉はどんどん更新されています.
・ううむ,なんという辛辣な...『珍説愚説辞典』.秋の夜長にピッタリかもね――
  • 【原子論】――化学者で原子を見たものはいない.
    (エルンスト・ヘッケル)
  • 【進化論】――あんまり笑ったので,おなかが痛くなったよ.
    (アダム・セジウィック)
  • 【ミチューリン説】――科学の偉大なる友にして立役者,我々の指導者にして教授,同志スターリンに栄光を[満場立ち上がって拍手鳴りやまず]!
    (ルイセンコ)
――いやー,すごいっす.おもしろいっす.よくぞ出してくれた.
・さらに〈太田リスト〉へのコメントが――太田さんが1960年代末に〈東京大学・自然の会〉の会誌『自然観察者』の編集をしていたとは.ナチュラリストとしての過去が徐々に掘り起こされる.バックナンバーを宮井俊一さんに借りに行かないと(隣の研究所まで).
・明日からは「外勤扱い」で,極度の【擬似裁量労働モード】に入ります.10日まではエポカルでの国際フォーラム,11日から13日は昆虫学会大会でのシンポという日々に突入.
・本日の総歩数=10967歩.
2 oktober 2003(木)
・10月に入って,湿度が目に見えて?下がってきた.良きかな良きかな.
太田邦昌関連情報――昨日の調査結果を踏まえて,鈴木邦雄さんとの共同作業により〈太田邦昌(1944-2003)著述目録〉をまとめ,ウェブ公開する.まだ確定できない箇所もあるが,必要に応じてバージョンアップしていくつもり.
・ぼくの持論だが,研究者は自分の吐き出した「すべての出力」(論文・著書・講演・記事などなど)を自分で記録する義務があると思う.過去の出力が急速に忘却の魔手にかかっている現実を考えるなら,「自分のことだから覚えているだろう」などというのが実に甘い考えであることを痛感させられる.過剰なほど〈自らを記録し続ける〉強い意志が必要である.
・自分のことでさえ急速に忘れてしまう.ましてや,他人の出力歴など,たとえ努力しても不完全にしか復元されないのはどうしようもないことだと感じる.他人の著述目録をまとめるというのは大それた仕事で,どれだけコミットしてもなお不十分さや不完全さは拭い去れない.
・理想的には,研究者が日記のように連綿と「日々の出力」を書きとめていて,研究者人生の終わりの日に「これがぼくの【全出力】だよ」とテキストファイルひとつをスマートに手渡せるようにしておきたいものだ.
・太田リストをつくっていて,いったいどれだけの未記載事項が残されているのかと暗然とする.故人は,その時々に応じて,〈自説発表の場〉をめいっぱい exploit するという性癖があったようだ.東京経済大学にいた頃は同大学の紀要がその「場」となっていた.退職後は『計量生物学会会報』,『生物科学』,『昆虫分類学若手懇談会会報』,『生物学史研究』など目まぐるしく「場」は変遷していった.書誌をつくる側からすれば,そういう主たる「場」を追っていれば大筋を誤ることにはならない.しかし,他のマイナーな「場」に散発的に発表されるケースもまた見落とせない.
・太田リストについては,関連するメーリングリストにアナウンスして,個別の情報収集をはかることにしよう.
・つくばでの生物多様性国際フォーラムが,今週末から1週間の会期で開催される.ポスター発表の準備をそろそろはじめよう.コンピュータのプレゼンがあるので,共同研究者の都合を確認する必要あり.
・つくばフォーラムのあとは,日本昆虫学会第63回大会(東京農大・厚木キャンパス)での太田邦昌追悼シンポジウムが待っている(10月12日).その準備の方がたいへんかもしれない.
・講談社現代新書から督促電話あり....ひー
・ん,そーいえば,あの仕事も,この原稿も,そのゲラも――着実に堆積しているなあ(なんとかせいっ).
・本日の総歩数=16044歩.※秋空のもとでのウォーキングは快適.
1 oktober 2003(水)
・朝晩が冷え込んできた――未明型生活者にとっては,ハードな季節の到来か.
・メーリングリスト〈EVOLVE〉と〈BIOMETRY〉への月例報告をすませて,っと.
・んとねー,〈Mesquite〉のスゴい点は,これまで「非マック」ユーザーが地団駄踏んでいた〈MacClade〉的インターフェースがさくさくと実現できてしまったという点.マニュアルの最初の部分を見ると,なぜ〈MacClade〉とは別に〈Mesquite〉が開発されたのかという動機が見える.要するに,〈MacClade〉ではモジュール化が実現できなかったということらしい.
・統計学ツールとして〈R〉が占めているのと同等のニッチを系統学では〈Mesquite〉が占めるようになるのではという推測が成り立つでしょう.教壇に立つ機会が多い現状を考えるとき,そういう使い方ができればぼく個人にとってはたいへんありがたい.もちろん,このソフトが目指している「イマジネーション」と「インスピレーション」のためのツールとしての役割は研究者にとっても重要だと思う.ツリーはもともとそういうイコンだから.
・本日は本郷と国分寺へのプチ遠出.情報いのち.
・常磐線→山の手線→中央線快速(まだダイヤが乱れていた)と乗継いで,久しぶりの国分寺駅下車.上野の「Book Garden」で買った新書2冊――篠田達明『モナ・リザは高脂血症だった』(2003年9月20日刊行,新潮新書035,ISBN: 4-10-610035-5)と川上紳一『全地球凍結』(2003年9月22日刊行,集英社新書0209G,ISBN: 4-08-720209-7).※『モナ・リザ〜』の方が〈ぴく度〉高し,〈へえ度〉はいかがか?
・中央線の線路沿いに10分ほど歩くと,東京経済大学キャンパスに到着.入って右手奥の図書館にまず行く.来訪の目的は,太田邦昌さんが在職していた頃に,論文を書きまくった大学紀要(『東京経済大学人文自然科学論集』[Journal of Humanities and Natural Sciences, Tokyo College of Economics])を調べ,太田さんの掲載記事をすべてピックアップすること.
・司書さんに1970年代末〜80年代前半の紀要バックナンバーを書庫から出していただき,チェック.1976〜83年の短期間に,英文20報と和文5報.この時期の紀要は,太田邦昌論文と志方守一(『生物学のための群論入門』著者)論文で毎号埋められていたようだ.群論的観点から生物学の問題(たとえば“A group representation of growth of plants and populations.”論集,No.42, pp.1-18, 1976)にアプローチした志方さんが情報科学を教え,そして集団遺伝学と数理生態学の英文論考を出し続けた太田さんが数理統計学を教えたということで,おそらく相互に作用し合ったのだろうと思われる.
・雑誌をブラウズすると「偶然の発見」がよくあるが,ここでも遭遇――広井敏男・富樫裕(1982)「生物教科書にみる‘進化論’(1)」論集,No.60, pp.51-78.
・ぼくが東京経済大学に足を運んだのはこれが2度目のこと.最初にここに来たのは東大の院生だった頃で,やはり太田さんが関わっていた.旧東独の哲学者Rolf Loetherの絶版本『Die Beherrschung der Mannigfaltigkeit: philosophische Grundlagen der Taxonomie』をずっと探していたぼくが,太田さんの「東経大の知人が持っているはず」という情報に救われて,貸借を願い出た相手が広井敏男さん.初めて行った東経大で,広井さんから(彼とは日本学術会議で同じ研連委員会に属していたのですでに面識があったのだが)黄色の表紙の本を受け取ったときのことは今でも忘れられない.太田さんからは「ぼくの名前は出さなくていいから」と念押しされていたのだが,広井さんの方から「太田くんに聞いたんでしょ」と――「彼は辞める必要なかったのにね」.1980年代中頃のエピソード.
・紀要バックナンバーを調べ終え,必要な書誌情報を持参のパソコンに入力完了.その後,大学の総務課に行き,太田さんの在職期間を確認する.1973年4月〜1983年3月に東京経済大学専任講師として在職していたことを確認.退職の経緯については記録が残されていないようで,確証は得られなかった.
・中央線を戻って,東大農学部へ.岸野洋久さんに事情を話して,生物測定学研究室に所蔵されている太田さんの卒論などの原稿を見せてもらおうとした.が――博士論文用の原稿の一部が見つかっただけ.太田さんと二つちがいの高野泰さんの話では,太田さんは修士まで[旧]害虫研にいたので,そちらに所蔵されているのではないかとのこと.応用昆虫学研究室への問合わせは後日となった.とりあえず,東京に出てきた用事はすんだのでよかった.
・それにしても,卒業して四半世紀になる元の研究室に入るのはタイムスリップ感満点.ぼくのかつて使った本棚とか本とか!がまだそのまま放置されてるもんなあ(早く片づけなさいって?).わー,タカオ・ゼミナールのチョウの論文集なんかが棚に入ったまま.この本たちいったいどーしましょうかねえ.
・ついでに研究室の所蔵雑誌をチェック――『Acta Biotheoretica』なんてオランダの生物学哲学雑誌をよく農学部の一研究室がずっと取り続けていたと感心する.こういう研究室でじっと育てば,ぼくみたいなのが出現するのさ.おお,ぴくぴくする記事がいろいろとあるやんか!
  • David Hull 2003. Recent philosophy of biology: a review.
    Acta Biotheoretica, 50: 117-128.
  • Rob Hengeveld 2003. [Book review] S.J. Gould (2002). The Structure of Evolutionary Theory. Harvard University Press, Cambridge.
    Acta Biotheoretica, 50: 67-72.
こんな本も近刊だそーで(まだ出版されていないみたい)――

T.A.C. Reyden and L. Hemerik (eds.) [in press] Current Themes in Dutch Theoretical Biology. Kluwer, Dordrecht.

・根津から湯島に出て,遅れまくりのランチをば.ここまで来たら〈デリー湯島店〉の結界にはまり込むのは必定.誘われるようにコルマ・カレーを注文し,導かれるようにマンゴ・ジュースを味わってしまう.おお,『スパイスのきいた人生:デリーのあゆみ』(2003年8月20日刊行,自家出版)という新刊が置かれているではないか! 500円(定価は1000円なのに)だったので,即購入・即読了.文章は甘ったるくてイマイチイマニだったが,創業当時の写真は楽しめる.この店に通い始めて,やはりもう四半世紀になる.
・カレーの勢いで『モナ・リザ〜』読了――こういう病跡学(pathography)の本は有名人が相手だけに〈へえ度〉が高いだろうね.立川昭二の一連の「病気本」が日本の作家や芸術家を相手にしていたのとよく似ていると思う.それにしても,レンブラントやダ・ヴィンチの観察眼の鋭さは大したものだ.
・本日の総歩数=17034歩.※それにしても歩きすぎー.

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