紐育あたふた日録:2003年7月21日(月)

・8時間ほど寝て,午前4時に起床.もともと時差ボケはないので(行った先で陽に当たれば体内時計がリセットされる),絶対睡眠時間だけちゃんととれば,あとは問題なし.
・昨日の機中から食べたり飲んだりし続けた報いか,お腹がぜんぜんすかない.喰うもの喰わないとダメだもんね.元気な人だけがマンハッタンを歩き回っているというのはほんとか?(驚異的に大きな人たちが歩くのも目撃したが)
・夜が明けて雨がざーざー降り,午前中に晴れたと思ったら猛烈な湿気でくらくらし,午後はさらに暑い南風が吹き込んできた.天気予報では夜は嵐になるのだそうだ.いやはや目まぐるしい.



・メトロ・ノースのハーレム線は1時間に1本しか植物園に停まってくれない.朝8時前に乗り込んだが,やっぱり好きになれませんなあ.グランド・セントラル駅はすべて地下ホーム化されていて,洞窟のような階段を降りていく(だだっ広いが天井は低い).この感覚が気を滅入らせる.発車してもしばらくは照明もない地下線路をごとごとと進む.「日頃なにかワルイことでもした報い?」とさえ思う.
・おまけに,駅で買ったサンドイッチに負けた――てっきりスモークサーモンを挟んだセサミ・ベーグルのサンドイッチだと思って開けてみたら,はみ出したサーモンよりもさらに大量のクリームチーズが中に潜んでいたことを発見(だましやがった).「朝からこんな胸やけするよーなもんが食えるかァ」とぶつぶつ言いつつ完食してしまい,カプチーノ(ラージ)との相乗作用により,植物園駅に着く頃には満腹状態に.



・Hennig XXII開会――Kevin Nixon会長のあいさつの後,午前のシンポジウム〈Competing Methods for Phylogenetic Analysis〉がスタート.このシンポのターゲットは〈ベイズ法〉.
・Mark Simmonsと宮正樹――魚のミトコンドリア遺伝子データを用いてシミュレーションを行ない,最節約法とベイズ法によるクレード信頼度(ジャックナイフ値と事後確率値)の挙動をテスト.100taxa×7990bpのデータからタクソンと形質をサンプリングすることでシミュレーション用のデータ行列をつくった.その結果,基部クレードを解明するには形質数を増やしてベイズ法を用いるべきだが,まちがった系統推定をしないためにはタクソン数を増やして最節約法を用いる方がよいという結論を示した.
・Kurt Pickett他――クレードの支持尺度(support index)としてブーツストラップ値とベイズ事後確率値のどちらを用いるべきかをめぐっては論争が続いている.そこで,シミュレーションをすることで,両者のちがいを比較した(Simmons, Pickett, Miya, 2003).ウィルコクソンのランク検定によると,真値と比較してベイズ事後確率値は過大な値をとりやすいことがわかった.その原因として,ベイズ法ではふつう系統樹の事後確率(P[tree|data])は考慮しても,クレードごとの事後確率値(P[clade|data])を考えていないことに問題があるだろうと考えられた.クレード事前確率(clade prior)は端点数n(クレード・サイズ)によって影響を受け,nが大きいほど事前確率は小さくなる.このため,クレード事後確率(clade posterior)はクレード事前確率の影響をまともに受け,nが大きくなるにつれて小さい値を取るようになる.2次元コルモゴロフ・スミルノフ検定を用いたシミュレーションの結果,ブーツストラップとジャックナイフは問題がないのに,ベイズだけは成績が悪い.結論としてベイズ事後確率をクレード支持の尺度として用いるのは不適切である.
・Pablo Goloboff――ベイズ法が「positively misleading」な事例として,欠測値のみから成るタクソンを含む場合を指摘した.※無理があるような気がするが....ついでに,PAUP*も切り捨てられた(いつものように).ブーツストラップの計算にバイアスがある(等長分岐図の扱いに関すること)そうだ.
・Jan De Laet――配列のアラインメントの問題.ステップ行列を用いてアラインメントをする方法を示唆.
・Peter Hovenkamp――クレードの支持尺度にはさまざまなものが提案されてきたが,ベイズ確率に基づく尺度を支持する.系統推定に確率を持ちこむことに対しては反論が強いが,分岐図それ自身を「観察」と見なすことにより,反復が可能となり,確率論的支持を論じることが可能になるだろうと言う.※その仮定は強引ではないか....
・Susanne Schulmeister――個体発生形質のコード化と〈POY〉への組込み.※個体発生形質をそのままステップ行列コード化するという方針はこれまでにもあったが,〈POY〉に組み込まれるとなると,これまで計算できなかった規模の解析が可能になるだろう.
・P. Grandcolas他――枝ごとのステップ数の幾何平均をとるという新しい支持指数(GMS)を提案.
・Steve Farris――系統推定の頑健性に関する講話.さまざまな方法論を適用してみて結論の頑健性(robustness)を示すというのは,なぜその方法を選んだのかという事前選択を不問に付しているという問題がある.アラインメントもそうだ.そのような頑健性があるからといって,クレードが支持されるわけではない.
・ここでランチ.植物園の中には食べるところがあまりなく,かといって周辺のサウス・ブロンクス地域にはいりこんでいくのはリスクが大きい.ということで,ランチボックスを注文――こりゃまたでかいサンドイッチですなあ(汗).こんなにハムとチーズが挟んであったら顎がはずれるではないか....朝からサンドイッチ責めで,まったくもう....全部食べきれず持ち帰りということに(ちくしょー).



・植物園内は広過ぎるほどで,ちょっと散歩したくらいでは端に到達できない.リスやウサギが多いし(もちろん鳥も),また人間を見てぜんぜん逃げないのが印象に残る.写真をちょこちょこ撮りながら歩く歩く.今日は臨時の閉園日だったのか,人がいない.それにしても,暑い,うう.
・午後は姉妹シンポジウム〈Competing Methods for Sequence Alignment〉があった.アラインメントと系統推定を同時にしてしまおうという理念はずいぶん前からあったが,それを実行するための計算力が必要になる.〈DO〉すなわち〈Direct Optimization〉に関する講演がいくつか目についたのは,少なくともAMNHのPCクラスターを使えばそれができるようになったということ.いずれにせよ,このシンポで話題にのぼった〈POY〉や〈DIALIGN〉などのソフトウェアはまだ成長する可能性がある.
・夕方5時前のメトロ・ノースで帰還.まったく日本以上に蒸し暑い1日でした.
・グランド・セントラル駅にはたくさんの店(レストランを含む)が入っているのだが,隣接する〈グランド・セントラル・マーケット〉というデリカテッセンが実に魅力的.日本で言うと京橋の明治屋とか青山のKINOKUNIYAみたいなもんかな.この食材の豊富さは飽きない.サンドイッチに負けた雪辱を晴らすために,ぜひここはしっかりと征服する必要がある――
・チーズ専門店〈Murray's Cheese〉――この品数は圧巻ですなあ.ミモレットの塊があるし,とくにシェーヴル(山羊乳チーズ)のセレクションは日本ではとうてい期待できない.タワー,灰まぶし,ハーブ巻などいろいろあって迷ったのですが,結局クロタン・シャヴィニョール(Crottin Chavignol)に決定.このクロタンには〈若い〉のと〈熟成〉したのがあったのでふたつとも購入.ひとつ3.99ドルだから安い! あとで食べ比べましょ.店員のおばさん,売り方とってもうまいっす.
・コラド・ベーカリー――ニューヨークってベーグルばっかりじゃないのね.アイリッシュ・ソーダ・ブレッドを塊で買い,スライスしてもらう.ずっしりと重くても4.5ドル.
・オリーブのピクルス1カップ(2ドルほど),オムレツ(3ドル),カット・パパイヤ(4ドル),それとカプチーノ(ラージ)――以上で,今晩と明日の朝の食卓はOKさ.
・他にも,シーフードの店とか肉屋もとても美味そうだった.また来ましょう.



・本日の総歩数=11457歩.※デリの中をずいぶん歩きましたけど....
→ terug naar 翌日