応動昆小集会, 3/April/1997, 東大農学部
応動昆(自称)若手の会
実践プレゼンテーションテクニック−講演はショータイム!−
三中信宏
農林水産省農業環境技術研究所
minaka@affrc.go.jp
☆ こんなことを話します−
★1) 講演いのち!(義務と演技)
★2) 壇上の主役はアナタだ
★3) アナタの講演を買いたい
★4) 芸人として生きること
★5) 研究者業界での最適戦略とは?
★6) 興行主として暗躍する
★1) 講演いのち!(義務と演技)
○「学会に行く」という行為
「106.学会に出席せよ。そこで諸君は新しい知見を学び、尊敬すべき多くの先輩、てごわいライバルを見つけるであろう。」(白上謙一 1972. 「研究法雑則」から)
○なぜ人前で「話す」必要があるのかなぁ?
よく調べる
よく考える
よく書く
よく話す
○要するに、講演は「その時その場所で」どれほどインパクトを与えられるかということ
★2) 壇上の主役はアナタだ
○「講演」は「プレゼンテーション」ではない!−超極私的定義
・講演(talk):ある時ある場所でおこなわれる(そこそこに形式的な)話
・プレゼンテーション(presentation):講演を要素とする集合
○講演は「いきもの」である(Michael Ghiselin 1980)
○アナタも落ちている「プレゼン・テク地獄」
・いつから講演会場は「色情狂」になったの?
・ソフト会社の無給宣伝マン
・読めないカラースライド:笑ってしまう「本末転倒」
「モノクロ→ブルー→カラー」という定向進化の結末
・あるプロ写真屋は語る
「どうしてみなさんカラーにこだわるんでしょうねぇ..」
○私は「はなし」が聴きたいんだぁ!
スライドの「見物」に来たんじゃないぞぉ!
○「テク地獄」からの脱出→「芸人」への道を歩む
○「講演」とは「話す」ことなり
★3) アナタの講演をぜひ買いたい
○「講演」を「分給」に換算すると...
・アナウンサーの平均的会話速度=300字/分
・アナタの講演は1分いくらで買ってもらえる?
○お客様は神様です
・「聴衆死亡率」を確実に上げるには?
ぼそぼそ、ぐだぐだ、あのーえとー、で決まり!
・つかむ
・へその下を見る
・リピーターを獲得する
★4) 芸人として生きること
○「講演を書くこと」(Writing a talk)−Higham 1993
・話すことは書くこと、書くことは話すこと
・Matt Young 1989 より:
規則1) 「まず話すように書き、それから推敲せよ」
規則2) 「1つのセンテンスには1つの考えを書くようにせよ」
規則2a)「明快であれ」
規則3) 「何も知らない読者に向かって書け」
○「話す」=「噺す」
・「客」がいるからこそ「芸人」である
・「客」を何分間つかめるか?
○講演原稿という「麻薬」−原稿依存症候群への私見
・どうして壇上で原稿を「読む」の?
「朗読」を聴きにわざわざ来たんじゃないぞぉ!
・目は口ほどにものを言い−「目線」(アイ・コンタクト)が肝心
『役者論語』から:
「ふりは目にてつかふと申して、ふりは人間の体のごとし。目は魂のごとし。たましひなき時は、何の用にも立たず。」
・練習と本番
・講演原稿は「御守り」にして内ポケットへ直行
○講演を「準備」すること
『役者論語』から:
「精を出すといふは、ねても覚めても、仕内を工夫し稽古にあくまで、精を出して、さて舞台へ出ては、やすらかにすべし。..前日にアタフタと稽古し、夜をかけて物さわがしく、翌日を初日とすれば、わるい事もかなりがけにせねばならず。この箇条、大切の事なり。」
○講演を「学ぶ」こと
『役者論語』から:
「ある芸者のいわく、下手役者の芸を見ても、心あらん人には修行になる也。その故は、下手を見て、わろき所をよく覚えて、我はせぬ也。」
○「延長表現型」としての講演−一人芝居としての個性
『役者論語』から:
「癖といふものあしき事なれども、無理直しはならず、無理に直せば、いきおひのぬける事ありとぞ。」
★5) 研究者業界での最適戦略とは?
○ 根本原理:
・研究者は学界における包括適応度を最大化すべきである.
・研究者の包括適応度は,研究出力(講演・論文)で測られる.
・出力しない者は研究者ではない(「死人」).
○ 研究者の取るべき戦略
・つねに学問上の「出力」をし続けること.
・自らの出力の包括適応度を利己的に最大化すること
・包括適応度最大化への障害はめげずに克服すること.
○ 「研究をしない弁解はいくらでもできる」(Rene Thom)
★6) 興行主として暗躍する
○研究室系統と研究者系譜−「近縁」な研究をしているのは誰か? どこにいるか?
・新人あるいは研究者の卵−−もちろん十分に育った「プロ」の研究者も−−は、研究者として生きぬく生命力を持つべきです。自分にとって最も「近縁」な研究者たちとつねに接続すること、必要な情報を互いに提供しあうこと、互いに刺激しあうこと、その上で「出力」し続けること。ただし、自分にとって最も「近縁」な研究者(Carpenter 1987)が身近にいるという保証はどこにもありません。だから...
○攻めの講演、守りの講演−「15分」のワクを越えるには?
・「演じる」だけじゃ、つまらない..
・「お祭り会場」としての学会大会
・というわけで、企画、企画、また企画
○「研究者小集団」には破壊力がある(Hull 1988)
・興行主ライフのヒソカな悦楽
・あなたも「集団犯罪」にはしりませんか?
参考文献
- Carpenter, J.M. 1987. Cladistics of cladists. Cladistics, 3(4): 363-375.
- Ghiselin, M.T. 1980. Natural kinds and literary accomplishments. The Michigan Quarterly Review, 19: 73-88.
- 長谷川寿一 1994. 口頭発表の作法と技法. Pp.234-253: 小林康夫・船曳建夫(編)『知の技法』東京大学出版会, 東京.
- Higham, N.J. 1993. Handbook of writing for the mathematical sciences. SIAM, Philadelphia, xii+241pp. [日本語訳あり]
- Hull, D.L. 1988. Science as a process: an evolutionary account of the social and conceptual development of science. The University of Chicago Press, Chicago, xiv+586pp.
- 守随憲治(編)1939(1991). 役者論語(やくしゃばなし). 岩波文庫(黄266−1), 岩波書店, 東京, 99pp.
- 白上謙一 1972. 生物学と方法:発生生物学とはなにか. 河出書房新社, 東京, 220pp.
- Young, M. 1989. The technical writer's handbook: writing with style and clarity. University Science Books, California. [ 小笠原正明訳 1993. 『テクニカル・ライティング:話し言葉で書く科学英語』 丸善, 東京, x+240pp.]