images/image1.jpg

Home
oude dagboek

日録2005年2月


28 februari 2005(月) ※ どて,ポキ,ぐしゃ……

◇午前3時半に起床.即,研究所に出勤.気温0.6度.会計入力システムをせわしく立ち上げ,いよいよせっぱ詰った予算残額の執行にとりかかる.会計締切日の未明に執行するとはドロナワだ.

数十万円クラスの大物本(『生物統計学百科』全8巻で44万円という医学系書籍ならではのバブリーさ)の入力をまずすませて,あとは“相対的小物”の入力をびしびしとこなしていく.午前7時には予算残額がやっと20万円ほどまで消化された.ここでいったん中休み.

◇午前中は筑波大学の構内をうろうろと徘徊し,中央図書館や体芸図書館でいくつか古い資料を借り出す.※やっぱり大学の方が「にぎやか」でいいなあ.有象無象(失礼)の学生たちが行き来するのをたまに見るのはいいものだ.

中央図書館からてくてくと南下してせっかく体芸図書館までたどりついたのに,目指す本は〈館外貸出禁止物件〉とは……(がっくり).でも天気がよかったので許してあげよう.

◇昼前に研究所にもどる ―― Panmixia〈太田邦昌特集〉(第16号,2005年3月発行?)のゲラが届いていた./とあるヒミツ契約書とか./いきなり尻を叩かれる.※くぅ〜.

◇午後は,予算残金の執行が続く.ソフトウェアのアップグレードとかコンピュータ消耗品とかいろいろと注文しまくる./さらに,書類の紙吹雪が舞う:出張届・年休届・復命書などなど.年度末にあちこち飛び回るということだ.

なんのかんので午後6時過ぎまでこういう作業が続く.すり減るぞー.眠たいぞー.

◇本日の総歩数=15913歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.2kg/−2.8%.


27 februari 2005(日) ※ Gefeliciteerd met mijn verjaardag!

◇ぐずぐずと6時半起床(だれまくり).快晴イッパツ,歩きもせず.※まったく,もう.

◇読了したウリカ・セーゲルストローレ『社会生物学論争史:誰もが真理を擁護していた』の第1巻(2005年2月23日刊行,みすず書房,ISBN:4-622-07131-2)にこんな一節があった.不遇な時代のウィリアム・ハミルトンが,なぜ人[とその才能]を見抜くことに関してはするどいはずのジョン・メイナード・スミスによって見落とされてしまったかという疑念に対して:

「メイナード・スミスの妻シェイラは遺伝学者として,同じ研究棟のハミルトンの指導教官の部屋よりも「廊下の下手」にある部屋で研究していたのだが,彼女によれば,その周辺でハミルトンを見かけたことはなかったという(シェイラ・メイナード・スミスの個人的情報).(このことは,私が「廊下人生」―― 人々がただ単に近くにいてばったり顔を合わせるというだけで互いに知り合い,ものを教えてもらうようになるやり方 ―― と呼ぶものへの信頼を補強する.ハミルトンは,研究室にいなかったために,この廊下人生の一員となることがなかった).」(p. 104:太字は三中).

確かに,著者の言う〈廊下人生〉という微環境のもたらす帰結は小さくないと思う.しかもそれは[空気と同じく]失われて初めて実感できるものであって,身の回りにあるときにはそのありがたみはきっとわからないのだろう.大学と国研(いまの独法研究所)の研究環境でもっとも異なるのはこの点かな.学生や院生・ポスドクなど人の出入りの激しい大学では,つねに変化する〈廊下人生〉がありえるわけで,それに比べればはるかに人が動かない国研とのちがいは歴然としているとぼくは思う.だからこそ〈外〉に出ないとダメなんですね.〈内〉にいるだけではどうしようもない.

◇気分的にぴったりの1冊かも:杉田敦『アソーレス,孤独の群島:ポルトガルの最果てへの旅』(2005年1月5日刊行,彩流社,ISBN:4-88202-925-1).1836年8月19日,ビーグル号航海を終えて故国に向かう途中のダーウィンはアソーレス諸島のひとつに寄港し,上陸したものの,その景色の貧困さにがっかりしたという.

◇実に渋い誕生日ダイアリーであった.うんうん.

◇本日の総歩数=4968歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝△|昼○|夜△.前回比=+0.6kg/+0.1%.


26 februari 2005(土) ※ プラス1まであと1日か

◇5時半起床.さほど冷え込まない早朝にウォーキング.今日はよく晴れそうだ.歩き読み本:ジャック・ブーヴレス『合理性とシニシズム:現代理性批判の迷宮』(2004年3月15日刊行,法政大学出版局,ISBN:4-588-00785-8).読了.ただし,歩行しつつ読むにはちと不適なだったかもしれない.第2章のファイヤアーベント批判,第3章のリオタール/ローティ批判はところどころ記憶にとどめるべき箇所あり.全体として,原書で15年後の1999年に出た同じ著者による『アナロジーの罠:フランス現代思想批判』(2003年7月20日刊行,新書館,ISBN:4-403-23096-2)の方がよりピンと感じるのは,取り上げられている「標的」たちの賞味期限ないし鮮度の問題でしょうかね.

◇日中は北風が強く,日射しがある割には寒い.

◇昨日届いたもの―― 『生物の科学 遺伝』2005年3月号(Vol. 59, no. 2,2005年3月1日刊行,裳華房).※三中信宏.「[書評]倉谷滋『動物進化形態学』東京大学出版会」,p. 108. /日本動物分類学会和文誌『TAXA』No. 18(2005年2月20日刊行).※次号の Ernst Mayr 特集号寄稿のための見本として送ってもらった./『Trends in Ecology and Evolution』Vol. 20, no. 2(2005年2月号).※次の3月号に R. Mace & C. J. Holden「A phylogenetic approach to cultural evolution」という記事が載るらしい.いわゆる系統学的考古学のレヴューだろう.近刊予告が出ている Stephen Shennan, Ruth Mace, and Clare Holden (eds.) 『The Evolution of Cultural Diversity: A Phylogenetic Approach』. (2005年2月15日刊行予定,UCL Press,ISBN:1844720659)の要約と宣伝もきっと兼ねているのでしょう.

◇新刊情報 ―― C. B. Cox & P. D. Moore『Biogeography: An Ecological and Evolutionary Approach, 7th edition』(2005年4月刊行予定,Blackwell, ISBN:1-4501-1898-9).※改訂のたびにどんどん肥大化してついに500頁を突破./D. Depew & M. Grene『The Philosophy of Biology: An Episodic History』(2004年8月31日刊行,Cambridge University Press,ISBN:0521-64371-6 [hbk] / ISBN:0521-64380-5 [pbk]).※生物学の哲学それ自体の“歴史”を論じる段階になりました./Jan Sapp『Microbial Phylogeny and Evolution: Concepts and Controversies』(2005年2月28日刊行,Oxford University Press,ISBN:0-19516877-1).※共進化研究の概念史に関する前著があるので,今回の新刊も期待しています.

◇タイトルに惹かれて ―― 竹沢泰子(編)『人種概念の普遍性を問う:西洋的パラダイムを越えて』(2005年2月20日刊行,人文書院,ISBN:4-409-53030-5).550頁もある論文集がたった「3,800円」というのは,このご時世では,相当な出版費助成が背後にないと不可能だっただろう.所収されている論文タイトルをブラウズするかぎり,とても楽しめそうですなあ.斎藤成也「人種よさらば」(pp. 468-486)とか.

◇この歳になれば,ひとつ増えようが減ろうが,とくに劇的な感慨はないですねえ.無慈悲な歯車が明日カチッと一歯を刻むというだけのことでして.※十分気にしてるやん >ぼく.

◇本日の総歩数=23361歩[うち「しっかり歩数」=17996歩/151分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=−0.2kg/+1.6%.


25 februari 2005(金) ※ 斑雪を踏みしめて

◇午前5時起床.昨夜から一晩中降り続いた雪は5センチほど積もっていた.しかし,冷え込みはなく(気温1.5度),路面は早くもシャーベット状になっている.これから日が昇るとどんどん融けるのだろう.

◇昨年末から滞っていたJST長谷川フォーラムの報告書づくりを再開.まだ届いていない原稿がいくつかあるのだが,すでに手元にある分から InDesign に貼り込んでいくことにする.

◇年度末の予算関係の事務処理に没頭する ―― 科研費がらみはやっと終わったか(金額ぴったし).業者に請求書一式の依頼を出す.あとは研究所の運営費交付金の方ね.今月末がデッドエンドだというので,それまでに見積もりやら何やらかにやらを出しておかないと.実験系・アウトドア系の研究室とはちがって,うちの研究室のような引きこもりオタク系の研究室の場合,もっぱら備品としてのコンピュータと消耗品としての図書で予算の半分ほどが使われていく.残り半分は方々への巡業(「出張」と呼ぶことにしている)のための旅費とパートさんの給料だ.独法になって以来,研究室の予算(運営費交付金での)をどのように「研究費/旅費」に配分するかを研究室ごとに決められるようになってからずいぶんラクになった.それまでは,研究費と旅費の仕分けが最初から固定されていて,とくに年度末には,研究費はまだまだ余っているのに,旅費が足りなくて出張できないというような困ったことが頻繁にあったので.

結局,書籍関係では計120万円ほどの購入図書決済をすることになりそう.中でも〈Encyclopedia of Biostatistics〉という超高い生物統計学のシリーズを研究室で購入することになったので(来月始めに届く予定),それが総額を押し上げましたな.単行本だけではなく,和洋雑誌類もあるけど,その購入費用は別途ね(和雑誌の次年度購入継続手続きがまだ回ってこないな).今週末に予算残額を計算して,さらに買うべき事務用品と年度末の出張届などなどをそろえて,来週月曜の締め切りに間に合わせたい.※毎年のことながら,早めに予算消化をしておけばいいものを,この期に及んでいつもじたばたする.ほんまに賢いなあ,ワタシって.

◇昼休み,日を浴びてどんどん融けていく雪を踏んでの歩き読み:ウリカ・セーゲルストローレ『社会生物学論争史:誰もが真理を擁護していた』の第1巻(2005年2月23日刊行,みすず書房,ISBN:4-622-07131-2)の第9章「道徳的/政治的対立はつづく」を読了.1970年代の“嵐”の時代が過ぎ,続く1980年代に論議の構造がどのように変貌していったかをたどる.ウィルソンは〈社会生物学〉の最前線から身を引いて,今度は新たな時代を画することになる〈生物多様性〉の大波を作り出すべく尽力することになる(p. 305).社会生物学がらみの論議の舞台は,グールドとウィルソンとの論争に場面を移す.彼らの「長々しいデュエット」の歌詞は本筋から少しずつ的を外しつつも,一般からの注目を集めることになった.

論争が生産的?な山場を越して,退廃期に向かうにつれて,一見「周縁的」な挿話的現象が眼につくようになる.たとえば,当時ぼくもそのウワサを聞いたことがある【Isadore Nabi】の話(pp. 318 ff.).1981年の Nature 誌に載った,ある社会生物学批判レターを書いたとされる【Isadore Nabi】なる人物はいったい誰だったのかという「事件」.書いたとされる本人(Isidore Nabi)からの反論が載ったり,ウィルソンが糾弾したり,偽名を使ったと疑われた[実際には真犯人だった]ルウォンティンの否定発言が掲載されたりという一悶着があった.結局,セーゲルストローレがルウォンティンから「真相」を聞き出し,「事件」の全容は解明された.ここで,注目されるのは【Isadore Nabi】という名称が,現代数学の【ブルバキ】と同じ役割を果たした生物学者の匿名集団だったという事実だ(pp. 321-322).1960年代はじめに結成されたこの“地下集団”には,ルウォンティン,レヴィンズ,レイ・ヴァン・ヴァーレン,L・B・スロボドキンとともに,ロバート・マッカーサー,そして他ならないエドワード・O・ウィルソンが含まれていたという.このエピソードは,ぼくにとってのいくつかの積年の疑問を解決するのに役立った.先立つ第3章で,ウィルソンは著者のインタヴューに答えて,こう語っている:

「六〇年代の初め,私たちは,ヴァーモントの〔ロバート・〕マッカーサーのところへ集まった.メンバーはほとんど同い年で,六人ほどだった.私たちは小さなグループ,六〇年代初めの自意識過剰な小グループを形成した.…… 私たちは,モデルづくりに基づいた新しい集団生物学をどうすれば生み出せるか …… について深く考えながら語り合った」(pp. 70-71).

このグループが【Isadore Nabi】だったのか! ウィルソンは,後に『The Theory of Island Biogeography』(1967年,マッカーサーと共著)という有名な本を書き,その後もジョージ・オスターとの共著で昆虫の社会制進化の理論書,そしてラムズデンとの共著で文化進化に関するモデル本というように,数理生物学者とタッグを組んで本を何冊か書いたわけだが,その基本スタイルの発祥は【Isadore Nabi】にあったと考えていいのだろう.なあるほどねー.

―― 第9章をもって上巻は終わる.この巻を構成する第1部「社会生物学論争で何があったのか」は要するに historiography だ.30年に及ぶ社会生物学論争の経緯を上巻でまずたどったのちに,下巻での「解読作業」に入ろうということだろう.読者によっては,上巻に描かれた historiography さえ読めばそれで十分かもしれないが.

◇〈関西語〉のお勉強とお作法 ―― まずは「外」から:山下好孝『うちかて20分でマスターできるわぁ基礎関西語』(2005年3月1日刊行,日本放送出版協会,NHK日本語なるほど塾2005年3月号).読了.名著・山下好孝『関西弁講義』(2004年2月10日刊行,講談社選書メチエ292,ISBN:4-06-258292-9)に続く実践編.NHK教育テレビで4週にわたって放映されるそうな.とにもかくにも音調とアクセントの練習あるのみ./次は「内」から:入江敦彦『イケズの構造』(2005年2月20日刊行,新潮社,ISBN:4-10-467502-4).読了.ネイティヴ京男・京女たちがヒソカに座右の書としている[らしい]入江バイブルの最新刊.う〜〜,今回もなかなか効きますなあ.こんなん書かれたら,ますます“イケズ軍拡競争”がパワーアップしてしまうやん,なあ.いらんこと書きなや.ホンマにぃ.

◇本日の総歩数=20395歩[うち「しっかり歩数」=11771歩/94分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=0.0kg/−1.7%.


24 februari 2005(木) ※ また冬に逆戻り

◇午前4時半に起床.気温は零度ちょうど.西の空に冬の満月が輝く.今日は再び寒くなるらしい.

―― 確定申告の書類などの束をそろえる.この時期の恒例行事みたいなもの.あとは速達で某所に発送するだけ.※申告の手間をもっと簡略化できればねえ.

◇午前10時から,組合の中央オルグ.少し遅れて参加.非公務員になると労働条件がらみでいろいろとありそう.もちろん,農環研がこれからどーなるのかという根本的問題もあるわけですが.

◇朝イチで400ccの献血をしてくる.筑波事務所に献血車がときどきやってくる機会を逃さないようにして.※ちょっとだけ“軽く”なった気がする.[気のせいだろうが]

◇こまごまアゲイン ―― 非常勤職員の雇用書類の提出.※完了./確定申告書類一式郵送.※完了./予算執行の締め切りが迫っている.※ああ,ごめんなさいごめんなさい.

◇日経サイエンス最新号の着便(2005年4月号):ブックレビュー欄にカール・ジンマー『「進化」大全 ―― ダーウィン思想:史上最大の科学革命』(2004年11月25日刊行,光文社,ISBN:4-334-96173-8)の書評を載せた(三中信宏「縦書きで読む現代進化学の大パノラマ」p. 119).対面ページには,ディヴィッド・クリスタル『消滅する言語:人類の知的遺産をいかに守るか』(2004年11月25日刊行,中公新書1774,ISBN:4-12-101774-9)の書評が.この新書を読み終えたら,もっと informative なダニエル・ネトル&スザンヌ・ロメイン『消えゆく言語たち:失われることば,失われる世界』(2001年05月29日刊行,新曜社,ISBN:4-7885-0763-3)とかクロード・アジェージュ『絶滅していく言語を救うために:ことばの死とその再生』(2004年3月10日刊行,白水社,ISBN:4-560-02443-X)に進みましょうね.ぜひ.

◇昼休みの歩き読み.下り坂ではあるもののまだ大丈夫か.ウリカ・セーゲルストローレ『社会生物学論争史:誰もが真理を擁護していた』の第1巻(2005年2月23日刊行,みすず書房,ISBN:4-622-07131-2).第7章「淘汰の単位と,文化との関連」および第8章「批判に適応する社会生物学:『遺伝子・心・文化』」を読了.第7章の中心テーマである〈unit of selection〉論争に関連して,著者はアメリカの[とくにハーヴァードの]全体論(holistic)的な思潮の影響が大きかったという点に注目する.確か,半世紀前のシカゴ大学の生態学派も全体論的という特徴を共有していたそうだが,それと関係があるのかしら.淘汰単位は遺伝子だけではなくもっと階層的に複数の単位があり得るという multi-level selection の話題は,現代ではシンプルに自然淘汰の対立モデル間の選択に関わる論議(model selection)として表面化している.しかし,社会生物学論争が沸き立っていた頃は,もっと哲学的・政治的な文脈のもとで階層的淘汰理論が論じられていたわけで,ルウォンティンやグールドそしてレヴィンスの立論基盤もそこにあったのだろう.エルンスト・マイアのいう「unity of genotype」(「遺伝子型の単一性」[p. 231]と訳されているが,「遺伝子型の統一性」の方がいいかも)もまたこの全体論的思潮に沿っているという指摘は新鮮だ(確かにそうだったのかも).グールドがアンチ社会生物学の文脈で,さらには彼とエルドリッジが断続平衡理論を提唱するときに,繰り返しマイアの「unity」概念を引き合いに出してきたことを思い起こせば,納得できる指摘だ.

続く第8章は,けっきょく和訳されなかったラムズデン&ウィルソン『Genes, Mind, and Culture : The Coevolutionary Approach』(1981年,Harvard University Press, ISBN:0-674-34475-8)をめぐる話.いくつかの書評では徹底的に叩かれたが,文化遺伝子(「カルチャージェン」[p. 272]ではなくって,「クルトゥルジェン」ですね)が提唱された本だった.文化進化モデルをめぐるウィルソンとルウォンティンの「科学的知識」観のちがいが鮮明にあらわれ,モデルを立てることが重要なのだとみなすウィルソンに対して,「科学は証明ずみの知識に基づくものだ」(p. 286)と信じるルウォンティンは徹底的に反論する.それはけっして解消され得ないことが明白な〈メタ〉な信念対立であるだけに,当事者にしてみれば消耗戦だったのだろう.

◇“兇器本”M. V. Lomolino et al. (eds.)『Foundations of Biogeography: Classic Papers with Commentaries』(2004年,The University of Chicago Press, ISBN:0-226-49236-2 [hbk] / ISBN:0-226-49237-0 [pbk] )の目次入力完了→公開.歴史的生物地理学,生態的生物地理学,島嶼生物地理学,地理的多様化,群集生物地理学などに大きく括られている.生物地理学(biogeography)の分野の歴史的論文ばかりを集めた論文集.Leon Croizat の自費出版本とか Wulff の本とか,今では入手困難なものも含まれているので役に立つかもしれない.それにしても,1300ページもの厚さにはたじろぐなあ.

◇今年の〈東京国際ブックフェア〉(2005年7月7日〜10日,東京ビッグサイト)の案内が届く.無料招待券を送ってくれるそうだ.※どーもです.

◇午後になってしだいに雲が厚くなり,夕闇が迫るとともに雨がぽつぽつと.夜になって本格的に降り始めたと思ったら,いきなり大粒の牡丹雪に変わる.積もるぞ,これは.

◇本日の総歩数=18520歩[うち「しっかり歩数」=6986歩/62分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.4kg/+0.9%.


23 februari 2005(水) ※ 春一番が吹いて

◇午前5時起き.気温0.2度.霜が降りていた.しかし,日中は気温が上がるとの予報.

◇こまごまとした事ども(人事関係) ―― 農環研展示パネルの修正原稿にOKの返事を出す.PowerPoint ファイルで提出せよとの御下命だったので,適当につくって投げたら,きれいに修正されてしまった.※お手数おかけしました./次年度の駒場でのスポット非常勤出講について日程調整が必要とのこと.非常勤出講の期間が重複するとたいへんまずいので,出講が決まっている月のみの辞令にしてもらわないと.※連絡メールを出す./同じく,4月から始まる某大学の客員教員人事に関連して.昨秋からいろいろと書類をつくってきたのだが,ここ数ヶ月何の音沙汰もなかった.今日になって「動き出したわよ」との連絡を受ける.はいはい,この年度末のせわしない時期にねえ.ま,あとは頭越しに機関どうしの折衝で事務的なことは詰めていただきたいと思う.※机と椅子とスペースはもう用意してあるからね./依頼されたとある書類の作成を引き受ける.※近日中に指定先に返信します.

◇こまごまとした事ども(書籍関係) ―― 借出し依頼していた古い資料が全国から届いていた.『大阪府立聾口話学校・春秋八年』とか『改訂増補・盲教育の建設』とか『東京市社会局調査報告書17(大正15年[2])』とか『東京市内に於ける棄児の調査(昭和十二年)』とか.※こういう古資料ってあるところにはあるんですねえ(びっくり)./筑波大に借出し依頼していた数件の文書は手数料を浮かせるために直接借りに行かないといけない.※中央と体芸ね./Simon Conway Morris の翻訳原稿が出そろったとのこと.※ほほー.[ついでにハッパかけられたりする(汗)].

◇こまごまとした事ども(事務関係) ―― ぜんぜんあきまへんわあ…….進捗なし.

◇昼休みに読み歩き.気温17.6度!(うららかな春先ですなあ).ウリカ・セーゲルストローレ『社会生物学論争史:誰もが真理を擁護していた』の第1巻(2005年2月23日刊行,みすず書房,ISBN:4-622-07131-2).第6章を読了.社会生物学にバクダンを投げた Gould & Lewontin (1979)の有名な〈スパンドレル論文〉をめぐる大騒ぎを鑑賞する.そのバクダン:

S. J. Gould & R. C. Lewontin 1979. The spandrels of San Marco and the Panglossian paradigm. Proceedings of the Royal Society of London, Series B, 205: 581-598.

は,ダイレクトには当時の the adaptationist program に対する攻撃だったわけだが,それに重なるように,公的なインパクトを狙っての演技からごく私的なレスポンスを含意する主張まで,幾層もの衝撃波が伝播していったと本書の著者は指摘する.この〈スパンドレル論文〉のもつ種々のレトリック的要素については,400ページの論文集:

Jack Selzer (ed.) 1993. Understanding Scientific Prose. A Badger Reprint, The University of Wisconsin Press, Madison, xvi+388 pp., ISBN:0-299-13904-2.

まるまる1冊がその分析に当てられているほどだ(こんな事例は他に聞いたことがない).しかし,本書の著者は〈スパンドレル論文〉のテクストがもつ修辞テクニックそのものよりは,むしろその論文が同僚科学者たちによってどのような科学的内容をもつペーパーとして読まれたのかという点に注目する.個人的には,著者は健全なスタンスを堅持していると感じた.

Gould & Lewontin がレトリックとして存分に駆使した,王立協会のモットーたる〈Nullius in verba〉の解釈をめぐる弁舌,そして〈パングロス〉を戯画的に演技させるその脚本は,それに先立って Gareth Nelson が使った手でもあったと以前 Systematic Zoology 誌の誰かの論文で見た記憶がある(詳細は失念してしまった).確かに,1996年に自費出版した three-item analysis に関する小冊子はまさしく『Nullius in Verba』というタイトルが付けられていたのだが(G. Nelson 1996. Nullius in verba. Published be the author, 24 pp.).

◇今年の生物地理学会大会シンポジウム〈種内動物系統地理学の新展開:分子データを用いてわかること/わからないこと〉(4月10日.13:00〜15:00,立教大学)は演者がすべて確定した.演題を確定した上で,今月中に講演要旨を集めること.

◇動物分類学会の和文誌〈タクサ〉誌上で,Ernst Mayr 追悼特集を組むことになったとのこと.寄稿させていただきます.体系学の哲学と方法論をめぐる Willi Hennig と Mayr との1970年代の論争の総括ということでいいでしょうか.

―― そういえば,Mayr たちがそのむかし標榜した〈進化分類学〉派はいまどうなっているのかと気になって調べてみた.1990年代以降に限定していえば,生き残った founder たちがときどき大きな声を発しているという印象をもってしまったのだが……(年代順):

  1. F. S. Szalay & W. J. Bock 1990. Evolutionary theory and systematics : Relationships between process and patterns. Zeitschrift für zoologische Systematik und Evolutionsforschung, 29: 1-39.
  2. E. Mayr and W. J. Bock 2002. Classifications and other ordering systems. Journal of Zoological Systematics and Evolutionary Research, 40: 169-194.
  3. W. J. Bock 2004. Explanations in systematics. Pp. 49-56 in: D. M. Williams & P. L. Forey (eds.), Milestones in Systematics. CRC Press, Boca Raton, ISBN: 0-415-28032-X.

―― うーん,でも cladistics vs. evolutionary taxonomy 論争の経緯を振り返るだけだったら,1974年に相次いで出た「両巨頭」の2論文だけ見ておけば十分なのかもしれないが:

  • E. Mayr 1974. Cladistic analysis or cladistic classification? Zeitschrift für zoologische Systematik und Evolutionsforschung, 12: 94-128.
  • W. Hennig 1974. Kritische Bemerkungen zur Frage „Classifications and other ordering systems“. Zeitschrift für zoologische Systematik und Evolutionsforschung, 12: 279-294.

◇本日の総歩数=15510歩[うち「しっかり歩数」=7402歩/63分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.3kg/+0.3%.


22 februari 2005(火) ※ 社会復帰と口述筆記

◇午前3時半にいったん目が覚めたものの,再び深い睡眠に陥る.次に目が覚めたのは6時前のこと.今日はじわじわと社会復帰の日.

◇東京駅八重洲地下街の古書店〈R. S. Books〉にてゲット ―― ジョン・ラッセル・テイラー『英国アール・ヌーヴォー・ブック:その書物デザインとイラストレーション』(1993年4月5日刊行,国文社,ISBN:4-7720-0375-4).19世紀末イギリスの〈アール・ヌーヴォー〉が単純と簡潔を旨としたのに対し,同時代のヨーロッパ流の〈アール・ヌーヴォー〉はギマールに代表されるような錯綜する曲線の複雑さを特徴とすると著者は言う(序文,p. 12).本書では 1890年代から世紀が変わる1900年代初頭という時代背景に焦点を当て,当時の〈アール・ヌーヴォー〉的な本の装幀のあり方を論じる.図版多数.

◇午後1時から,約2時間ほど『理戦』編集部のインタビューを受ける.これで口述原稿は何とかなるでしょうか? 板書を交えて進化生物学の基本的な生物観・人間観について話をした.共有派生形質の普遍性のレベルについて触れる.ある生物がもっている形質(遺伝子・形態・生態・心理・文化など)の起源は,進化的な“深さ”によってその説明のされ方が異なってくるだろう.単に,ヒトのリネージの中でのみ説明しようともがいても限界があるだろう.ヒトに近縁な(系統樹の階層の中で)生物との比較のもとではじめてベストな進化的説明が得られるはずだ.それは,従来的な人文系・社会科学系の学問や主義が暗黙のうちに前提としていた文化決定論的あるいは相対主義的な人間観とは根本的に相容れないだろう.もちろん,ヒトに直結する生物学的な発言は,かつての社会生物学をめぐる論議やさらにさかのぼってはIQ論争や優生学論争にも見られたように,学問としての生物学の帰結へのさまざまな社会的・文化的「読み込み」が行なわれてきた.そして,そこにはさまざまな程度の誤読や曲解あるいは深読みがあった.他の生き物だったらきっと問題にならないようなことでも,こと人間となると議論がとたんにもつれる傾向があるのは「人間」に対する想いがそれだけ深いからだろう.同じ現象を見ていたとしてもそれをどのように説明するかは視点によって異なる.進化学的・系統学的な視点をここでは強調したい ―― というようなことをしゃべった./今回の特集に寄稿する他の執筆予定者の陣容を把握する.♂さんか♀さんのいずれかは引き込んだ方がいいと思いますです./思わぬところで府川充男さんの名前が出てきて驚く(彼の経歴を考えれば宜なるかな).組版とか活字に対する要求度がとても高いそうだ.さもありなん(深く納得).

◇4月10日(日)に立教大学で開催される生物地理学会シンポジウム〈種内系統地理学の新展開:分子データを用いてわかること/わからないこと〉の全体構成がほぼ固まりつつある.今週中に演題の確定とできれば要旨も.

◇もう逃げ場のない用務がいくつかある.※逃げていたんかいっというツッコミはなしね.ごめんね.

◇本日の総歩数=9466歩[うち「しっかり歩数」=1482歩/14分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.2kg/−1.8%.


21 februari 2005(月) ※ 非日常的な仕事日(底冷え)

◇またまた不覚にも午前6時近くまで寝込んでしまう.最近たるんでいるな.よくないよくない.ぱたぱたと仕事の準備をする.

◇せっかくの非日常なので,懸案の原稿(アレのことです)を再起動する.こういうときにやらないとね.長い原稿(400字詰で数百枚の長さ)を書くときには,理想的にはイッキ書きがいいのだろうけれども,なかなかそうはいかず,ときどきフリーズして止まったり,気がつけば息していなかったりする.たいていの場合,「ほかにやることがあったので書けない」という自己弁解を小声でつぶやいている自分に気がつくのだが,深く考えるまでもなく,「ほかにやること」は永遠に湧いて出てくるので,潔く「ほかにやることがあってもなお書く」という覚悟を決めないといけないのでしょうね…….※時間的にムリでもえいやあと書いてしまえというトンデモな決意でして.

◇その後,某所に出向く(これが本務).さらにその後とあるキャレルで〈アラビアの真珠〉を味わいつつ,原稿を書いたり,メールしたり.やはり新館よりは旧館の方が落ち着いて仕事に没入できる.ここは以前から学会発表の準備をしたり,原稿をものしたりする隠れ家として勝手に指定しているところ.今日もよくはかどりました.※つくばにもこういう場所があれば言うことなしなのだけれど.

◇ウリカ・セーゲルストローレ『社会生物学論争史:誰もが真理を擁護していた』の第1巻(2005年2月23日刊行,みすず書房,ISBN:4-622-07131-2).第5章まで読了.William Hamilton のJTB論文(1964)は,その独特の数式の「表記に用いられる白丸と黒丸の区別がはっきりつかないタイプライターを使っていた」(p. 106)ので,査読した John Maynard Smith は放り出しそうになったそうな.Hamilton 論文を一度でも見たことのある読者ならば,著者が言わんとしていることがよく理解できるだろう.あの論文を第1部と第2部に分割するように指示したのは Maynard Smith らしいが,そのあたりの事情はすこし微妙なものを含んでいるようだ.Hamilton のケースは確かに不遇ではあったのだが結果的にはハッピーエンドだったのかもしれない.それに比べると共分散公式で知られる George Price の場合はもっと天才的かつ悲劇的なケースだったのだろう.木村資生の中立説本の出版にあたっては Maynard Smith がケンブリッジ出版局に対して強力にプッシュした話とか(p. 103),Karl Popper は社会生物学のテスト可能性に関してほとんどボケたような返事しかよこさなかった話とか(p. 125),第4章はエピソードにこと欠かない.

―― 続く第5章「社会生物学の秘められた背景」は,E. O. Wilson と同時代に活動を始めた Robert Trivers が主役を演じる.Maynard Smith の血縁淘汰理論とTrivers の互恵的利他主義が当時の動物行動学の研究者コミュニティーの中で「雪崩」のごとく思想的転向を押し進め,結果として「集合的過程」(p. 145)とも呼べる現象が社会生物学を一気に前面に押し出したと著者は言う.この章では,1970年代の『Sociobiology』出版前後におけるアメリカとイギリスにまたがる進化学の流れの趨勢を総括する.とくに,結果として『Sociobiology』の起こした衝撃波に消し飛んでしまった同時代の近縁著作(たとえば,Michael T. Ghiselin『Economy of Nature and the Evolution of Sex』1974 など)にも言及されていて,Wilson ただひとりが「総合」を成し遂げたわけではないという点が強調されている.

―― 本書が描き出そうとしてる「学問の流れ」のオモテとウラを論じることは,何よりもまず情報源にアクセスできるということがもっとも重要なことなのだろう.著者は,社会生物学が立ち上がりつつあった(そして論議がもっとも沸騰していた)1980年代はじめから,関係者に対する個人的な接触を通じて,この学問分野の系譜をずっと「観察」してきた.そのスタンスのもちようは,体系学の現代史と体系学者の抗争を記述した David L. Hull の『Science as a Process』に通じるものがある.もちろん,実際に「身をもって体系学してしまった」Hull に比べれば,あくまでも観察者としての身分を堅持した本書の著者は体温差があるのかもしれない.しかし,ここまで読んだ範囲では社会生物学の三十年に及ぶ歴史が生き生きと描かれていて,この分野の成り立ちに少しでも関心をもつ読者にとっては必須文献のひとつと言わなければならないだろう.

―― Lewontin や Gould らによる猛反撃は次章以降のテーマだ.

◇本日の総歩数=14867歩[うち「しっかり歩数」=7582歩/69分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=未計測/未計測.


20 februari 2005(日) ※ 雨上がりのお出かけ

◇午前4時起床.前日からの雨はやっと上がった.空気は湿っているが,日が昇るにつれて回復していくだろう.研究所にていくつかの準備をする.IOSEB Council Meeting への出席を返事する.メキシコ入国に際してのビザはいらないようなことを事務局が書いているが,確認する必要あり./『理戦』進化特集号の執筆予定者間での連絡あり./M. L. Zelditch 他 『Geometric Morphometrics for Biologists: A Primer』(2004年,Elsevier Academic Press, ISBN:0-12-778460-8)はやっぱり選択の余地なくイチ押しでしょ./ちょっとやっかいそうな頼まれごと....

◇さて,と ―― 出発でーす.

◇車中本:ウリカ・セーゲルストローレ『社会生物学論争史:誰もが真理を擁護していた』の第1巻(2005年2月23日刊行,みすず書房,ISBN:4-622-07131-2).第1章〜第3章まで読む.第1章「真理をめぐる闘いとしての社会生物学論争」では,全3幕構成“オペラ”に見立てた論争の経緯の脚本とキャスティングが示される.音楽はどうします? やっぱりワーグナーですか? 個人的には,シェーンベルクの〈グレの歌〉が意外に合っているような気がする(ワルデマールの亡霊が地を駆けめぐり,民が震え上がるところとか).あるいは,リヒアルト・シュトラウスの交響詩〈英雄の生涯〉か(とってもオペラ的だし).「背景でバスーンの音が響いている」(p. 15)―― とすると,カール・ニールセンの第6交響曲か(外したかも).

―― 第2章「社会生物学をめぐる嵐」と第3章「衝突に突き進む同僚」は,E. O. Wilson が大著『Sociobiology』を出版した1975年直後に勃発した闘いを記述する.とくに,著作のもつ政治的意味合いに関して極度に鈍感だった Wilson と,対照的にそういうことに関して極度に敏感だった〈人民のための科学(SftP)〉グループ(とくに中心的役割を果たした Richard Lewontin)との間の緩衝なき正面衝突について詳しく書かれている.例の「水掛け事件」も登場する.30年前のこの論争が始まった頃は,ぼくはまだ大学入学直後で,農学部に進学してから初めて『Sociobiology』輪読会に参加した.あの敷石のように四角くて重い本を抱え歩く光景が日本のいたるところで見られたと聞いている(思索社からいささか時期遅れの翻訳が出る前のこと).もちろん,SftPの活動も聞き知っていて,『Biology as a Social Weapon』という本のコピーをもっていた(セーゲルストローレ本でも言及されている初期のアンチ社会生物学文献).SftPの実質的指導者が Lewontin だったことを本書で再認識した.

◇昼過ぎに着.時間を喰う所用をすませる.>みなさん,どーもです.

◇1日の最後に,洛中某キャレルにて生ギネスを飲みつつ,セーゲルストローレ本の第4章「英国派とのつながり」を読み進む.William Hamilton が包括適応度の論文を Journal of theoretical Biology 誌に載せるまでの悪戦苦闘ぶりが描かれている.彼は,群淘汰説礼讃の当時のイギリス生物学界の中で,徹底的に冷遇され続けたとか.生物系であるにもかかわらず,なぜLSE(London School of Economics)の社会科学研究室に在籍しなければならなかった理由とか,その後に移籍した University College の Francis Galton Laboratory(あのJTB論文はここの所属から書かれたと記憶している)でも机ひとつもらえなかったこととか.E. O. Wilson の『Sociobiology』の最大の功績のひとつは,埋もれた Hamilton をよみがえらせたことにあると著者は書いている.

―― ここまでのところ,よく訳してあると感じるが,雑誌誌名まで翻訳してしまうのはやり過ぎだろう.〈理論生物学雑誌〉(p. 90)はすぐ同定できるからいいとして,たとえば〈季刊生物学評論〉(p. 92)とか〈行動科学と脳科学〉(p. 46)という誌名が,それぞれ〈The Quarterly Review of Biology〉と〈Behavioural and Brain Sciences〉に対応していることが即座にわかる人はあまりいないんじゃないか.そういう翻訳方針で徹底するなら,〈Science〉と〈Nature〉も,同様に,〈科学〉とか〈自然〉と訳してあるのかといえば,これはカタカナ誌名のままだし(不徹底).本書の想定される読者層は決して一般読者ではなく,むしろそれなりの背景知識をもった読者だろうということを考えると,誌名(そして書名)を悩ましく訳されるくらいだったら原語のままの方がむしろよかったと思う.

◇タラの丘を下って,さらに奥まった別キャレルに移動.Murray McDavid のシングルモルトを勧められて少しばかり.加水して46度に整えてある.驚くほど香りが高い,風味よし.>柳野さん,さんきゅー.

◇とても充実した1日のエンディングだった.

◇本日の総歩数=18249歩[うち「しっかり歩数」=1852歩/18分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=−0.1kg/+0.5%.


19 februari 2005(土) ※ 雨のウィークエンド

◇不覚にも午前6時まで寝てしまった.夜中から降り出したと思われる雨は,朝方いったん止んでいた.即ウォーキングに出発.キム・ステルレルニー『ドーキンス vs. グールド』(2004年10月10日刊行,ちくま学芸文庫,ISBN:4-480-08878-4)をあっさり読了.まあ,なんちゅうか〈あらすじ本〉みたいなもんかな.ドーキンスやグールドの著作を少しでも知っている読者にとっては,四半世紀にも及んだ連続ドラマの〈総集編〉みたいな味わいがあって,記憶や感情の断片があちこちで励起される心地がするのではないか.もちろん,何も知らない読者にとっては味わいなど感じられるはずがない.ジグゾーパズルの1ピースから絵の図柄全体を想像するのはしょせんムリだから.それにしても,たった200頁の文庫本が本体価格1000円というのはまったくもって驚愕ですな.あり得ない.

◇次第に雨脚が強くなる.気温はまったく上がらず.日頃の悪行の禊として断髪しに行く.

◇4月の生物地理学会シンポジウムの演者が2名確定した.演者をあとひとりかふたり集めたい.関係諸方面にメールにて連絡する.

◇林哲夫『喫茶店の時代:あのときこんな店があった』(2002年2月22日刊行,編集工房ノア,ISBNなし)読了.神戸のパン屋〈Freundliebe〉をめぐるエピソードがおもしろい.あとは,団子坂下にあった喫茶〈りりおむ〉と百万遍の〈進々堂〉のこととか.

◇昨日届いた舟尾暢男『The R Tips:データ解析環境 R の基本技・グラフィックス活用集』(2005年3月1日刊行,九天社,ISBN:4-86167-039-X)をまずは開封 ―― ほほー.さっそく3月上旬にある埼玉県農試での統計研修素材として使わせてもらいましょ.

◇予報通り,日中はずっと雨だった.明日は晴れてほしいです.急なお出かけ用事が入ったものでね.

◇本日の総歩数=10049歩[うち「しっかり歩数」=6052歩/48分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=+0.2kg/+0.7%.


18 februari 2005(金) ※ あわわ,あわわわ……

◇4時半起床.気温3.3度.冷え込み,まるでなし.明け方の事務書類づくり.何でこんなことをと思いつつも,堆積し続ける「紙層」をなんとかしないとどーにもこーにも.

◇おお,献本感謝ですぅ ―― ウリカ・セーゲルストローレ『社会生物学論争史:誰もが真理を擁護していた』(全2巻,2005年2月23日刊行,みすず書房,ISBN:4-622-07131-2 / ISBN:4-622-07132-0)届く.※本のタイトルが予告されたものとは微妙にちがっていたな.

しかし,いまこの本をじっくりと味わっているヒマはどこにもない[はずな]のだ.でも,ちょびっとだけ目次を嘗めてみる.おお,これは読まずにはいられないではないか! E. O. Wilson の『Sociobiology』が出版されて今年でちょうど30年.科学史が醸成されるにはちょうど頃合いのタイムスパンなのかな.

うう,でも,これ以上,没入するわけにはいかんのだ.快感だけれどもいかんのだ.それは遺憾.※ああ,やはら並み.[いわさ以下かも]

◇国際生物地理学会〈Foundations of Biogeography〉プロジェクトについて ―― 昨年,シカゴ大学出版局から出された極めつけの“兇器本”M. V. Lomolino et al. (eds.)『Foundations of Biogeography: Classic Papers with Commentaries』(2004年,The University of Chicago Press, ISBN:0-226-49236-2 [hbk] / ISBN:0-226-49237-0 [pbk] )は国際生物地理学会のプロジェクトの産物だったんですね.生物地理学の過去の「有名論文」をファクシミリで束ねたアンソロジーなので(とはいえ計1300ページもある!),原本をすでにもっている人にとっては旨味はあまりないかもしれない.しかし,これからこの分野に関わっていこうという人にとっては概観・鳥瞰できるという点できっと役に立つだろう.こういうアンソロジーの持ち味は,過去の論文を束ねるコンパイラーたちの選択眼と注釈力にあると思う.

◇北アメリカ分類学会(CSNA)の今年の年次大会(Washington University, St. Louis)は,〈Clustering and Classification〉というテーマでセッションが組まれるそうだ.

◇IOSEB Council Meeting の返事を書いたり,準備をしたりしないといけない.

◇舟尾暢男『The R Tips:データ解析環境 R の基本技・グラフィックス活用集』(2005年3月1日刊行,九天社,ISBN:4-86167-039-X)がbk1から届いたのだが,宅急便を開封している時間もないとは.とほほ.

◇天気はしだいに下り坂.夜半には雪になるという予報.明日は一日中雨らしい.日が変わる前に寝てしまう.

◇本日の総歩数=11126歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=−0.4kg/+0.6%.


17 februari 2005(木) ※ たまには突然変異してみるか……

◇5時起床.気温2度くらい.ここのところ冬型の気圧配置がゆるんできている.

◇午前中……どこかに蒸発したみたい(汗).

◇昼休みに予約しておいた歯医者に行って,そのまま筑波大へ ―― 古澤満(ネオ・モルガン研究所)セミナー〈不均衡進化理論による生物の進化的改良〉(14:00〜16:00).Disparity mutator を用いた実験進化学.実際の「生物」の進化に関わる意味はもちろんだが,ぼくとしてむしろ disparity を込み込んだ遺伝的アルゴリズム(GA)が最適化問題の解決ツールとして有能であることにとても印象づけられた.かなりめんどうな rugged adaptive landscape のもとでも,disparity mutator はパフォーマンスがよさそうな気がする.

―― セミナー後,別室にてさらに論議.古澤さんは系統推定の結果が「正しいこと」を実験進化学の知見をもとにテストできるのではないかと言う.確かに,系統推定論の世界でも,少なくとも1992年までは実験室内での大腸菌などの既知系統樹を用いた〈実験系統学(experimental phylogenetics)〉によって,系統推定の手法がどの程度いい結果を得るのかを検証した研究があった(たとえば,David M. Hillis et al. Science, 255: 589-592, 1992).ところが,翌年に出た J. P. Huelsenbeck & D. M. Hillis (1993), Success of phylogenetic methods in the four-taxon case. Systematic Biology, 42: 247-264 以降,コンピュータ・シミュレーションを用いて系統推定法のパフォーマンスを相互比較するという研究スタイルが一気に広まってしまった.その煽りをくらって,〈実験系統学〉的な研究の系譜はほとんど絶えてしまったのではないかと推測される.

―― しかし,今日の古澤さんの意見は,以前,進化学会大会で四方哲也さんからサジェストされたことと同様に,known phylogeny を用いた系統推定法の相互比較の可能性を考えてみる契機となる.少なくとも「4-taxon」とか「10-taxon」という少数のOTUのもとで得られたシミュレーション結果(パフォーマンス評価)が,もっと多くのOTUのもとでのそれらの系統推定法の“ふるまい”を近似的にせよ記述しているだろうとは誰も信じていないでしょ.※言い過ぎかっ!?

―― 進化プロセスのパラメータに関する Felsenstein zone や Farris zone のような「危険領域(レッド・ゾーン)」は,もっと多くの端点数をもつ multi-taxon case ではいたるところにあったりするのではないか.とすると,そのような危険領域が存在することそのものは系統推定法が共通して抱える(場合によっては特定の推定法だけが苦しむ)病状であって,相互差別化にはつながらないような気がする.もちろん,対外的な宣伝材料として使うという別の用途はあるのだろうけど.しかし,実質的な話としては,(たとえば)long branch attraction を回避するための〈large tree 化〉のような共通的回避策によって,共有のドツボを避ける(というか,それを踏んでも致命的ではない)英知はすでに手の届くところにあるのではと思う.

◇―― 1時間ほどのディスカッション.共著論文の草稿をもらったり,今後の打合せをしたりして,午後5時過ぎに筑波大を出る.そのまま帰宅.

◇一日中,とても穏やかで,陽射しの暖かな日だったなあ.

◇本日の総歩数=6200歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼−|夜△.前回比=−0.3kg/−1.2%.


16 februari 2005(水) ※ 雨の明け方・震度5弱・プチ廃墟化

未明の4時46分にぐらっと揺れて震度5弱.震源は茨城県南部.つくば辺りがもっとも強く揺れたというニュース速報.報道では家屋内の被害は小さかったと言っていたが,少なくとも自宅では食器が棚から落ちてだいぶ割れたぞ.書棚からも南方熊楠『十二支考』やら『カンタベリー物語』やら『岩波講座・日本語』やら最上段に祭り上げていた本たちが“地上”に落ちてきた.研究所にただちに向かう.林のように屹立している本棚から『中世思想原典集成』が崩れ落ち,その上からダーウィン書簡集たちが深緑色に覆いかぶさり,さらにその上からSystematic Zoology誌のバックナンバーが死屍累々 ―― という惨状を想像したのだが,意外にも自宅ほどの被害はなく,『ケセン語大辞典』の空き箱が転がり,宮本常一本が落ちていたくらいのエントロピー増加ですんだのは幸いだった.出勤簿場所で出会った〈明け方仲間〉(実名は知らないのだが,いつも明け方に出会うので)に聞いた話では,農環研の全館で防火扉がすべて閉じたらしい.廊下の天上プレートも一部崩落していたので,それなりに被害はあったということか.居室に関してはプチ崩壊でした.[6:38記]

◇ずっと雨.ときどきミゾレになったり,雨に戻ったりしているので,外の気温は零度近辺をうろうろしているのだろう.

◇今朝の地震で自宅の書棚から降ってきた本 ―― Pierre Boulez の総譜『Le soleil des eaux[水の太陽]』.René Char のふたつの詩によるソプラノ独唱・混声合唱・オーケストラのための音楽.てっきり『Le marteau sans maitre』の総譜をもっていたとばかり思い込んでいたのだが,それはCDのことだったか.他に,ダーウィン家の係累であるRalph Vaughan Williams の第8交響曲の総譜とか,Maurice Ravel の『Alborada del Gracioso[道化師の朝の歌]』の総譜コピーとかも書棚のいずこからか降ってきた.『道化師〜』は東大オケで実際に演奏した曲.※地が揺れるといろんなものが湧き出てくる…….

◇打合せしたり片付けたり何やらかにやらであっという間に正午になる.※午前中の時間はどうやら揮発してしまったようだ.

◇昼休みに,千葉大から速達で届いた成績評価票の再記入.そして,筑波事務所の郵便局に速攻で返送に行く.これで昼休みはおしまいになる.※何やってんでしょー,ワタシ.

◇〈Society of Systematic Biologists〉サイトの全面リニューアル.

◇午後1時の気温がたった2度.絶え間なく雨とミゾレが交互に降り続く.

◇午後のこまごま ―― 日経サイエンス書評原稿の手直しと返信完了./組合のオンライン投票,完了./計量生物学会 email 理事会の投票完了./生物地理学会大会のシンポジウム企画を進める.演者候補者との連絡あれやこれや.もう夕方.

◇Amazon から届いていた本(其の壱) ―― M. L. Zelditch, D. L. Swiderski, H. D. Sheets, and W. L. Fink 『Geometric Morphometrics for Biologists: A Primer』(2004年,Elsevier Academic Press, ISBN:0-12-778460-8).※数学者や統計学者のためではなく,生物学者のための幾何学的形態測定学の〈教科書〉と呼べる本がやっと出た.「mathematically naïve」な学生のためのテキストブックだそうだ.450ページという分量だが,図表が多く使われていて,読者死亡率をできるだけ下げようという意図がうかがえる.とくに,Kendall's shape space のリーマン多様体論をどのように噛み砕いているのかが見物だ.

◇Amazon から届いていた本(其の弐) ―― M. L. Taper and S. R. Lele (eds.)『The Nature of Scientific Evidence: Statistical, Philosophical, and Empirical Considerations』(2004年,The University of Chicago Press, ISBN:0-226-78957-8).※個人的にはとても期待している論文集.というのも,生態学における仮説検定とモデル選択をケーススタディーとして,統計学のもつ意義についてさまざまな角度から論じているから.とくに,本書では従来的な意味での〈decision making〉としての統計ツールの利用ではなく,データを仮説にとっての〈evidence〉とみなす考え方が中核に置かれているようだ.これは,影響力の大きかった Richard Royall の『Statistical Evidence: A Likelihood Paradigm』(1997年,Chapman & Hall / CRC, ISBN:0-412-04411-0)の延長線上に展開された論議とみなすこともできる.編者 Mark L. Taper は生態学者であり,もうひとりの Subhash R. Lele は形態測定学者だ.ターゲット論文に対して,コメントが付けられ,それらに対する著者の返答が載るという,あちらではよくあるタイプの討論型論集.だから,論点の対比が際立ち,理解が深まる.こういう論文集を輪読会などの機会にきっちり勉強すると「もののことわり」が身につくように思う.

◇自宅に帰ったら,今朝の地震のせいで地下の埋設水道管にひびが入ってしまったらしく,全面断水していた.補修が夜遅くまで続く.水がちっとも使えず.どーしようもないな,ほんま.

午後9時半になってようやく復旧.とほほ.

◇本日の総歩数=13817歩[うち「しっかり歩数」=7520歩/62分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.5kg/+0.6%.


15 februari 2005(火) ※ シンクロしつつ溺れゆく

◇5時起き.気温−1.1度.乾いて寒い.

◇昨夜遅く,『観覧車物語:110年の歴史をめぐる』の著者・福井優子さんからメールをいただいた.カリフォルニアだかシカゴだかオアハカだかに出没している細馬宏通さんから聞いて,ぼくのオンライン書評の存在を知ったとのこと.世の中はとても狭いのだ.あらら,その細馬さんが産經新聞に同じ本の書評記事(「遊戯具をめぐる不思議な縁」)を出したのが,同じ2005年2月13日とは.シンクロしまくり.世の中ほんとに狭いのだ.

◇アマール・ナージ『トウガラシの文化誌』(1997年12月30日刊行,晶文社,ISBN:4-7949-6331-9)の書評を公開(→〈leeswijzer〉).みだりに齧ると耳が聞こえなくなるほどという中米マヤのトウガラシ“ハバネーロ”.辛さ度は実に30万スコヴィルだという(タバスコの5〜6倍).ほとんど拷問というか,感覚的に「痛い」というか.とても危険.

◇訳師さまからお告げ ―― ウリカ・セーゲルストローレ『誰もが真理を擁護していた:社会生物学論争』(全2巻,垂水雄二訳,みすず書房,ISBN:4-622-07131-2 / ISBN:4-622-07132-0)は“掌の上”だったのですね.そーかそーか.実物を見ないことには何とも言えないのですが,社会学者の手になる筋立てだそうで,期待と不安が半々です.

◇ショウジョウバエの〈bithorax〉変異体の発見者 Edward B. Lewis の伝記 ―― Genetics の最新号(Vol. 168, No. 4, December 2004)に,J.F. Crow & W. Bender の追悼記事(「Edward B. Lewis, 1918-2004」,pp. 1773-1783)が載っていた.単行本としては,H.D. Lipshitz 『Genes, Development, and Cancer: The Life and Work of Edward B. Lewis』(2004年1月31日刊行,Kluwer Academic,ISBN:140207591X)か.同じ著者による伝記記事:H.D. Lipshitz 2004. From fruit flies to fallout: Ed Lewis and his science. Journal of Genetics, 83: 199-216.

◇陽射し暖かめの昼休みに歩き読み:林哲夫『喫茶店の時代:あのときこんな店があった』(2002年2月22日刊行,編集工房ノア,ISBNなし)を150ページほど.明治前からの珈琲の歴史と喫茶店の文化誌.

◇もろもろ ―― 次年度パート職員雇用申告完了./ソーバー本の発送完了./筑波大などへの図書貸出依頼完了./次年度の首都大学東京への出講関連書類届く./日経サイエンスのジンマー本の書評ゲラ届く./進化学会評議員用のメーリングリスト開設完了./実践社『理戦』のインタビュー受諾(2月22日に).

◇いよいよ今年も花粉症の発症か.鼻がむずむずしてきた.くー.

◇本日の総歩数=18024歩[うち「しっかり歩数」=7697歩/65分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=−0.1kg/−0.6%.


14 februari 2005(月) ※ 代休日とは名ばかりで

◇5時過ぎ起床.気温−3.3度.凍りつくフロントガラス.※今日って,選択的に一部の♂だけが刹那的恩恵を享受する日だそうだが(RSが上昇するのかどうかは定かならず).

◇なんちゅうか「怒濤」のように押し寄せてくるという[やや不穏当な]表現の午前中で,時間が刻まれ,擦りおろされ,微塵となる心地.正午までにひとつケリをつける[つもり].

◇Amazon から本が届いているのだが,開封しているヒマがない.ひー.

◇昼休みも歩くこともなく,地下書庫キャレルに1時間余りのお籠りで,カール・ジンマー『「進化」大全 ―― ダーウィン思想:史上最大の科学革命』(2004年11月25日刊行,光文社,ISBN:4-334-96173-8)の書評原稿を「17字×86行=1462字」の上限にちょうどおさまる「1459字」に仕上げる.メールで日経サイエンス編集部に原稿送信.4月号に掲載予定.これでいっちょうあがり.※訳師さまにもご連絡っと.

―― これで気をよくしたのが敗因だったのか,千葉大理学部学務係から電話連絡.成績評定のやり方が根本的にまちがっているとのことで,再度の rewrite を求められる.げー.※こまったなー.参ったなー.

こういう事務書類って1回ですんなりパスすることがほとんどなく,何回も書き直しさせられることがよくある.きっと何も考えずに書類を書いているからだと思う.極意?は,事務所類の度重なる修正要求を“平常心”で受け入れることか……な.※要するに何ひとつ“染み込んで”いないということなんだけど.

ということで,稲毛から再度「成績報告書」が届き,それを書き直してまたまた郵送するということで.※しかも成績報告の期限が今週いっぱいだったりする……(汗).ツッコミ仕事ね,これって.

◇『蕎麦本』の注文がさらに2冊も.とてもありがたいことです.明日中に郵送します.>注文者のみなさん.

◇誘惑的新刊がいろいろと ―― 山下好孝『NHK日本語なるほど塾2005年3月号』(2005年2月18日刊行,NHK出版).※アノ山下せんせ,再登場.今号は〈うちかて20分でマスターできるわぁ 基礎関西語〉.名著・山下好孝『関西弁講義』(2004年2月10日刊行,講談社選書メチエ292,ISBN:4-06-258292-9)にとことんしびれた読者はもう買うしかないやん.なあ./松原洋子・小泉義之(編)『生命の臨界:争点としての生命』(2005年3月刊行予定,人文書院,ISBN:4-409-04072-3).※えっとねー,ぼくは基本的に“生命論”系の論議はいっさい信じていません.そんなん,どーでもええやん./ウリカ・セーゲルストローレ『誰もが真理を擁護していた:社会生物学論争1|2』(全2巻,垂水雄二訳,みすず書房).第1巻(ISBN:4-622-07131-2)と第2巻(ISBN:4-622-07132-0)のISBNを確認.※社会学者による社会生物学〈人形劇〉って?(爆笑) 800ページもあればさぞええ台本が書けたんとちゃう? /寺下勍・橋爪紳也『日本の博覧会:寺下勍コレクション』(2005年1月刊行,平凡社,別冊太陽[日本のこころ133],ISBN:4-582-92133-7).これまたISBN確認できました./ピエール・ブーレーズ,A. シェフネール『ブーレーズ書簡集:シェフネールとともに近現代の作品を語る』(2005年3月刊行予定,音楽之友社,ISBN:4-276-20373-2).※ブーレーズ作曲の音楽ってときどきふと聴きたいときがある.〈ル・マルトー・サン・メートル[打ち手のない槌]〉の総譜だけはもっているけど./雁部貞夫『岳書縦走』(2005年3月刊行予定,ナカニシヤ出版,ISBN:4-88848-945-9).※内外の「山岳書」130篇の書評集とのこと.それにしても「5,775円」という価格はなんとかなりません?

書評の「掟」―― いつも近刊情報源として重宝している『これから出る本』の最新号(2005−No.4[3月上期号])に〈書評の「掟」〉というエッセイが載っている(p.8).著者は田中弘という会計学の研究者.書評にも「掟」があるのだと彼は言う:1)決して貶さない;2)自分の意見を書かない.なるほど,業界によってはまだそういう「掟」があるんだなあ(それと同様の意見は,赤坂憲雄『書評はまったくむずかしい』にも書かれている).ぼくは〈掟破り〉なので,どちらの不文律も遵守するつもりはさらさらありません.献本してもらってぼこぼこに叩いたこともあったし,書いてある内容に関して異を唱えることもよくあった.研究者としての生い立ちの過程で,Systematic Zoology 誌の“書評論文”をさんざん読んできた経験があるので,書評というのは基本的に自分のスタンスをはっきり出して,書評読者にアピールする場であるという認識がある.ターゲット本に関して「ぜひとも読むべし/読んではいけない」という所見を書かずして,いったい何のための書評かということだ. 読む/読まないは最終的には書評読者の判断に委ねられているのだから,個人の意思決定にどれくらい関われるかどうかが書評の意義ということになるはずだ.

◇ほとんど現実逃避読書ですな ―― アマール・ナージ『トウガラシの文化誌』(1997年12月30日刊行,晶文社,ISBN:4-7949-6331-9)の最後の50ページほどを読了.指揮者ズビン・メータはとんでもないトウガラシ狂いで,どんな高級レストランに行くときも自前のトウガラシを持参するのだそうな.そういえば,麺類と言えば液面が真っ赤になるほど七味をかけてしまう御方がわが業界にもどこぞにいらっしゃったよーな…….本書全体を通して,よく調べあげ,よくまとめられたトウガラシ通史だと感じた.ああ,タバスコ辛い辛い.ハバネロおそろし(一時的難聴になるそうだ).

◇本日の総歩数=7971歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝△|昼−|夜△.前回比=+0.3kg/+0.5%.


13 februari 2005(日) ※ あくせく連休最終日

◇4時半起床.未明の読書タイム.『「進化」大全』あと少し.それから,ウォーキングに出発.学園中央郵便局までの往復コース.指先かじかむ歩き読み本:『トウガラシの文化誌』の5〜7章(100頁ほど).北米ルイジアナ発祥のタバスコ・ソースをめぐるごたごた.“タバスコ”という商標をめぐる「マキルヘニー」社の商売敵に対する半世紀にわたる法廷闘争がすさまじい.※個人的には,タバスコ・ソースよりも,リー・ペリンズ社のウスター・ソースの方が好みですけど.(ぜんぜん関係ないって?)

◇返す刀で,福井優子『観覧車物語:110年の歴史をめぐる』(2005年1月17日刊行,平凡社,ISBN:4-582-83251-2)読了.書評を公開.とてもおもしろい.これだけ〈モノ〉に執着できれば言うことなし.うらやましい.

―― 同期するように,平凡社から“博覧会”本が出た:別冊太陽[日本のこころ133]『日本の博覧会:寺下勍コレクション』(2005年1月刊行,平凡社).監修は博覧会に詳しい橋爪紳也さん./ついでに気になる大崎滋生『シンフォニーの歴史I』(2005年1月刊行,平凡社).「II」も続いて出るわけね.

◇うう,さらなる書評が〜.※日経サイエンスさまぁ,御慈悲でごぜえますだー(涙).

◇きびしく追い込まれつつ3連休は蒸発した.

◇本日の総歩数=21007歩[うち「しっかり歩数」=18388歩/151分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=+0.3kg/−0.1%.


12 februari 2005(土) ※ 寒中トウガラシ本

◇5時半起床.よく晴れている.また寒気がもどってきたようだ.夜明け前の歩き読みに出発:アマール・ナージ『トウガラシの文化誌』(1997年12月30日刊行,晶文社,ISBN:4-7949-6331-9).かつて読み始めたものの中断したので,再開読書.寒中にホットなペパーをば.芥子色のダストジャケット.第4章まで読了.南米原産のトウガラシ類の系統推定と祖先探索(プラント・ハンティング)の話題が第4章「起源と祖先」で述べられている.

◇中尾佐助著作集の再校ゲラを北大刊行会に返送する.ほとんど修正する点はなかったが,他の引用文献とスタイルを一致させるために,J. G. R. Forlong の比較宗教学書『Rivers of Life』(1883年,Bernard Quaritch)の副題「, or Sources and Streams of the Faiths of Man in All Lands; Showing the Evolution of Faiths from the Rudest Symbolisms to the Latest Spiritual Developments」を追加した.比較宗教学の古典.「Privately printed for subscribers only」とのことなので,一般に売られた本ではなく,事前予約者にのみ頒布するというかたちでの出版物.本文2巻だけでも1200頁を越す大著だが,別添されている世界の“宗教系統樹”チャートが圧巻(サイズは7.5 feet × 2.25 feetもある).人間の宗教的思想の根源は,「太陽崇拝」「火炎崇拝」「樹木崇拝」「祖先崇拝」そして「性器崇拝」の五つにさかのぼれると仮定して,宗教のリネージがどのように分岐し,また融合してきたのかをたどろうとする.Forlong にとって「人間の宗教的信念」はどのように「進化」してきたと捉えられたのだろうか.中尾佐助が『分類の発想』の中で展開している“宗教分類”の体系は,Forlong のそれと比べるのが適当だと思うようになった.日本の公的機関では奈良女子大にしか蔵書されていないようだ.

◇Mayr 追悼の某企画に加わらないかという内々の誘いあり.

◇共著論文として昨年に投稿していた,ダイズ分子系統の論文が Theoretical and Applied Genetics 誌に受理されたという知らせを受ける.

◇ソーバー『過去を復元する』の注文がメールで届く.ありがたいことです.※購入を希望される方はぼくまでメールしてください.まだ20冊ほど在庫がありますので.

◇夕方,千葉大〈動物系統学II〉の成績評価報告をまとめ,理学部学務係に返送する.出講の回数が多いとその都度こういう成績処理の手間があるのがつらいのだが,ケリつけるためにはしかたなし.大学ごとに成績処理のしかたがびみょーに違っているので,細かくまごつく.

◇夜は半強制的悦楽読書の時間でーす.カール・ジンマー『「進化」大全 ―― ダーウィン思想:史上最大の科学革命』(2004年11月25日刊行,光文社,ISBN:4-334-96173-8)の書評を仕上げないと.

◇本日の総歩数=14966歩[うち「しっかり歩数」=11847歩/90分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.3kg/0.0%.


11 februari 2005(金) ※ 晴れ上がる休日の水銀と大全

◇5時半に目覚める.即ウォーキングに出発.夜明けが早くなってきたせいで,歩き読みできる程度の照度が得られる季節になってきた.しばらく前は同じ時刻でも真っ暗でどうしようもなかったから.

◇松田壽男『古代の朱』(2005年1月10日刊行,ちくま学芸文庫,ISBN:4-480-08900-4)を読了(280頁ほど).地味〜なタイトルからはまったく想像できないほど,とてもおもしろくて刺激的な内容の本.もっとも頁数の多い「古代の朱」に加えて論考「即身仏の秘密」と自伝的エッセイ「学問と私」から成る.全体を貫くテーマは日本における水銀の歴史学的・民俗技術史的な考察だ.しかし,あえて目立つサブタイトルをつけるとしたら,〈水銀・即身仏・紀州蜜柑〉となるだろうか.著者は,日本で水銀の製錬技術が発達した背景には,日本という国がもともと水銀鉱脈の上に位置していて,いたるところに水銀鉱があるという自然地理的特性を指摘する.そして,地名や神社名などの歴史地理的な情報源を手がかりに,水銀(のもとになる辰砂)という金属がいかに日本の社会や文化に浸透していったかをたどる.その際,著者の研究スタイルを際立たせているのが金属学の専門家との研究協力という点で,日本各地の水銀鉱山(「丹生」という地名が目印とのこと)を訪ね歩いて得た資料の水銀含量を測定しながら,歴史伝承の背後にある事実に肉薄しようとする.たとえば高温湿潤な日本の気候条件の下でなぜ〈即身仏〉という〈ミイラ〉が存在し得たのかという疑問に対して,水銀が隠れた要因として挙げられるだろうと推測する.即身仏が多く見られる紀州・高野山と出羽・湯殿山はともに水銀鉱脈の上にあり,辰砂を産出するだけでなく,高濃度の水銀が土壌中に存在していると言う.そして,即身仏の防腐技術として水銀塗布がなされると同時に,即身仏を志願した僧侶がその地でとれた水銀を多量に含む作物や穀物を入定前に摂取することにより積極的に体内の水銀濃度を高めたのではないかという仮説を,実際の即身仏の体内でミイラ化したネズミの体内水銀濃度を測定することにより検証した.こういう歴史学の研究もあり得るのかという新鮮な驚きを読者はもつだろう.さらにエピソード的ながら,「なぜ紀州蜜柑はおいしいのか」という疑問に対しては,紀州の土壌には水銀が多量に含まれているから甘みが増すのだという,現代の消費者が聞いたらどきっとするような指摘も書かれている(微量の水銀は甘くて薬としても用いられていたのだが).本書のもとになったのは『丹生の研究』という大著だそうだ.機会があったら,その本もぜひ見てみたい.

◇昨日と同じく,今日も日射しが暖かい.布団干し日和.しかし,気温はやや低めかな.

◇日経サイエンスから依頼された書評本カール・ジンマー『「進化」大全 ―― ダーウィン思想:史上最大の科学革命』(2004年11月25日刊行,光文社,ISBN:4-334-96173-8)を読み進む.タテ書きで書かれた生物進化教科書.なぜこれほど読みやすいのか.その理由の一端は組版のスタイルにあるだろう.タテ書きの生物進化本はこれまでにもたくさんあったが,それとは異なる〈読中感〉を味わわせてくれる.※早く読了しないと.

◇LALA Garden のくまざわ書店にて新刊2冊と近刊情報1件 ―― 下山晃『毛皮と皮革の文明史:世界フロンティアと掠奪のシステム』(2005年1月20日刊行,ミネルヴァ書房,ISBN:4-623-04130-1).※西村三郎の遺著『毛皮と人間の歴史』(2003年2月17日刊行,紀伊國屋書店,ISBN:4-314-00930-6)がまったく同じテーマを扱っていた.この本に関しては,資料の扱い方について,著者はやや批判的である./遠藤秀紀『パンダの死体はよみがえる』(2005年2月10日刊行,ちくま新書520,ISBN:4-480-06220-3).※京大霊長研に移って間もないのにもう単行本が〜(おそるべし,遠藤さん)./『宮本常一 写真・日記集成』(全2巻+別巻,2005年3月刊行予定,毎日新聞社,ISBN:4-620-60609-X).※定価6万円(税込)…….

◇ああ.もう夜でんがな〜.

◇Ernst Mayr 追悼企画 ―― 海外だけではなく日本でも早くも〈追悼企画〉の立ち上げが始まったようだ.某誌で特集が組まれるとの情報が入ってくる.Mayr は第10回(1994年度)の国際生物学賞受賞のおり来日している.そのときはインタビュー記事が出たりして,ひとしきり話題になった.今回はどのような扱いをされるのだろう?

―― ぼくが学部の4年生で研究室に配属になったとき,生態学勉強会では E. Mayr 『Populations, Species, and Evolution』(1969,Harvard University Press)が輪読テキストになっていた.ほどなく D. J. Futuyma 『Evolutionary Biology』(1979,Sinauer Associates, ISBN:0-87893-199-6)に移行したのだが,それ以降しばらくは Mayr の進化学関連の本を心して読んだ記憶はない.むしろ 1980 年代以降の生物学哲学との関わりの中で,Mayr のその手の論文を見ることが多かった.しかし,ぼくよりも上の世代では,Mayr との結びつきは別の点で強かったようで,とくに生物学的種概念とか進化的分類学という,より体系学寄りの著作からの影響を強く受けたと聞く(たとえば『Systematics and the Origin of Species』1942 とか『Principles of Systematic Zoology』1969).追悼特集の趣旨を見れば,ある世代の研究者コミュニティがどのような受容をしたのかがうかがえるだろう.

◇うう,また日が変わる.

◇本日の総歩数=17392歩[うち「しっかり歩数」=15555歩/126分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.7kg/−0.5%.


10 februari 2005(木) ※ また小雨降る明け方

◇5時起床.夜中に雨が降ったようで,地面が濡れている.気温3度ほどで寒くない.

◇『Theory in Biosciences』誌のバックナンバーをチェックする.形態学に関係する歴史・哲学の論文がかなり載っているようだ(ドイツの雑誌だし).evo-devoの歴史的成立にかかわる特集もある.たとえば,2002年の〈Ernst Haeckel 特集〉(Vol. 121, no. 3)とか,2003年の〈Carl Gegenbaur 特集〉(Vol. 122, nos. 2-3)とか.Gegenbaur 特集号には Shigeru Kuratani という著者名があったりする.Gegenbaur は Haeckel と公私ともに因縁浅からぬ関係があり,Haeckel の『Generelle Morphologie der Organismen』(1866)は Gegenbaur に捧げられている.しかし,後年,Haeckel が『Welträtsel』(1899)を出した頃からふたりは仲が悪くなったという.

―― この雑誌,日本国内にはほとんど所蔵されていないのね(東大・理・植物,阪大・生命科学,そして京都女子大の三つだけ).雑誌のもつイメージとしては『Acta Biotheoretica』誌に近いものがあるような気がする.※いずれも「理論生物学」のジャーナルで,ともにマイナー[のよう]だから.

◇日が昇るにつれて,久しぶりにぽかぽかと暖かくなる.しかし,気温上昇とともに大量の花粉がまき散らされつつあるのかと思うと憂鬱.

◇〈Elliott Sober と AIC〉―― 「Sober 教授は哲学テーゼとしての simplicity を AIC によるモデル選択の観点から擁護しようとしている」ということにぼくが最初に気づいたのは,彼の本『過去を復元する』に寄稿してもらった「日本語版への序文」でした.序文の原文が郵送されてきたのは,翻訳を進めていた1994年頃のことだったと記憶していますが,その最後のパラグラフでわざわざ“赤池弘次”の名を挙げ:

「赤池学派が行なってきた研究内容は、科学的推論において単純性と最節約性が果たす役割をさらに追究するための深い洞察を与えると私は信じています。」(p. 5)

と述べています.この「序文」に引用されていたのが

  • M. Forster and E. Sober 1994. How to tell when simpler, more unified, or less ad hoc theories will provide more accurate predictions. The British Journal for the Philosophy of Science, 45: 1-35.

でした.ですから,説明や理論の最節約性をモデル選択基準としての AIC と関係づけ,単に統計モデルの世界における選択基準ではなく,もっと一般化して,科学理論や哲学体系の選択基準として利用できるだろうと公的に主張したのは,上の BJPS 論文が最初だろうと推測されます.その後,彼はこの方向で多くの論文を書いています.その際,キーワードになるのが「predictive accuracy」という AIC の帰結であると彼が考えている概念です.

  • Christopher Hitchcock and Elliott Sober 2004. Prediction Versus Accommodation and the Risk of Overfitting. The British Journal for the Philosophy of Science, 55: 1-34.

という新しい論文があるのは知りませんでした(>N部くん,感謝).論文タイトルとその要旨を見ると,これまた延長線の上ですね.うしろの方に「9. The miracle argument and scientific realism」というセクションがありますが,これなどは戸田山和久『科学哲学の冒険』のテーマのひとつに関わってきますね.

―― 一般的な意味での「最節約性」を擁護する武器として AIC を用いるというのは有望かもしれません.あとはローカルな個別科学で,それがどれくらい使えるのかという点はさらに考える必要があると思います.Systematic Biology 誌に載った:

  • Ellioo Sober 2004. The contest between parsimony and likelihood. Systematic Biology, 53(4): 644-653.

での論議は体系学というローカル科学への「predictive accuracy」基準の適用可能性を論じています.

◇おお,さらなる〈R〉本ですか!(中澤メモ)―― 舟尾暢男『The R Tips:データ解析環境 R の基本技・グラフィックス活用集』(2005年3月刊行予定,九天社,ISBN:4-86167-039-X).著者によるサポートページあり.詳細目次もpdfで公開されています.同じ出版社から昨年出たヒット作『The R Book:データ解析環境Rの活用事例集』(2004年6月1日刊行,九天社,ISBN:4-901676-97-0)と似た感触の本なのかな.期待してます.

◇ぽかぽかと日射しの暖かな昼休みの読み歩き.気温13.6度 ―― 福井優子『観覧車物語:110年の歴史をめぐる』(2005年1月17日刊行,平凡社,ISBN:4-582-83251-2)を170ページほど読む.世界の観覧車の起源を論じた前半の章はもちろんだが,それ以上に,日本における観覧車の歴史をたどった第3章が印象に残る.古写真や絵葉書そして特許出願書まで調べ尽くした経緯が綴られている.数多くの写真に物語らせている.著者は,当時の遊園地・興行場にあった観覧車や廻転車のBGMには,三拍子のジンタ〈天然の美〉がとてもよくとけ込んでいたと指摘する.

◇埼玉県農林総合研究センターの生物統計学講義資料を〈租界R〉にアップした./生物体系学についても「窓口」となるページが必要かなと思い立ち,表紙ページ〈札所で一服〉だけとりあえず作ってみたのだが,いかんせん内容を詰め込むだけの時間がいまはありまっしぇん.

◇中尾佐助著作集V『分類の発想』月報の再校ゲラが届く.三中信宏「書かれなかった“最終章”のこと:中尾佐助の分類論と分類学」の分量はさらに増えて,4ページをまるまる使わせてもらうことになった.晩年の中尾の健康状態についての情報を得る.

◇明日からは3連休なのだが,天変地異的にレジャーに打ち込むようなこともなく,斉一的にずるずると仕事が続くにちがいない.

◇本日の総歩数=16229歩[うち「しっかり歩数」=9710歩/81分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=−0.3kg/+1.1%.


9 februari 2005(水) ※ 霧筑波

◇5時過ぎ起床.とろりと深い霧が立ちこめる明け方.車に乗っても視界が数メートル先までしか届かない.この季節,雨があがって気温の下がる未明にはこういうことがときどきある.気温−2.1度.

―― 日が高くなってきても,なかなか霧が晴れない.気温は低いまま.農環研は年度末ならでは?の改修工事で,外壁まわりをがりがりやっていて居室の環境は一時的に劣悪化.どこかに逃避しないといけないかも.書類作成業務も積み上がったままだし.そこはかとなく停滞気味で.などと言っている間もなく,いろいろと督促があれやこれや,それやどれや.(……)

◇ベイズ統計学を“直感的”に会得するためのサイト:〈An Intuitive Explanation of Bayesian Reasoning〉.Java applet での確率計算プログラムがついている.なお,このサイトには,統計学総説誌『Statistical Sciences』のベイズ生誕300年記念特集号(Volume 19, number 1, February 2004)に掲載されたベイズ伝 D. R. Bellhouse「The Reverend Thomas Bayes, FRS: A biography to celebrate the tercentenary of his birth」(pp. 3-43)の電子版が公開されている.ベイズに関する新資料の発掘もあり,たいへんよくまとまった伝記記事だ.

◇樹形図の概念について ―― 現在用いられているほとんどの系統解析ソフトウェアは〈無根樹(unrootrd tree)〉を出力するが,系統学を教える場合には,まずは〈有根樹(rooted tree)〉から解説するのが直感的に理解しやすいかもしれない.根(root)からの半順序関係(祖先子孫関係)が設定できて,部分樹の単系統性とか形質の派生性/原始性が定義しやすいから.外群(outgroup)を込みにしてしまえば,結果として無根樹を出力しても,即座に根付け(rooting)が完了して,有根樹に変換される.系統学の場合は最適グラフといっても,推定されているのはあくまでもある半順序関係に基づく離散構造だから,現実の進化プロセスと関連づける上では,rooting が必須だろう.千葉大の講義では,そこのところの説明をはしょってしまった.反省.

◇飛ぶように時間が過ぎていき,もう昼休み.またまた歩き読みに出発〜.気温6度台.ページをめくる指先が冷たくなる.岩崎信也『蕎麦屋の系図』(2003年8月15日刊行,光文社新書111,ISBN:4-334-03211-7)読了.第3章以降は,東京の名店〈更科〉と〈薮〉,そして北海道の〈東屋〉,さらに足利の〈一茶庵〉の系譜を順にたどる.〈薮〉発祥の地が文京区千駄木の団子坂だったとはね.蕎麦名店の系図に沿って,蕎麦職人の技と味がどのように伝承されてきたかが語られる.高崎にいた頃によく行った,高前バイパスから入ったところにある問屋町の〈そばきり〉と中山峠の上にある〈一期一会〉がどちらも〈一茶庵〉の系譜に属する蕎麦屋とは知らなかった.ああ,蕎麦が喰いたい.

◇午後2時過ぎから1時間ほど,埼玉県農業総合研究センターのマーケティング担当の人と,来月9日〜10日の統計研修についての打合せ.9日(水)は10時〜17時,10日(木)は9時〜15時で,計15時間のコースになる.研修を受けようという意欲のある若手研究員は少なくないのだが,つくばで毎年開催されている「数理統計研修」は定員ワクがきつすぎて,なかなか応募に通らないという事情をうかがった.でも,いま以上に受講生を増やすと,研修回数を増やさざるを得ないしね.今回の出前高座はそれを埋め合わせするために企画されたのだと言う.受講生はすでに40名ほど集まっているらしい.

◇ほぼ同時に3カ所から「圧搾」される.ぎゅ〜っとね.※でも嵩が減らないのがミソ.

◇Molec. Phyl. Evol. 34(2), 2005届く.系統樹酔い,アゲイン.

◇原稿依頼 ―― 蕨市にある実践社が発行している『理戦』誌より.へえ,こういう左翼系雑誌が半世紀も生き残っているんですねえ.旧誌名は『理論戦線』.4月10日刊行予定の次号で〈進化論から考える人間行動と心〉という特集を組みたいとのこと.動機と趣旨はなかなかおもしろそう.他に寄稿を依頼した相手は何となく見えてくる.執筆ないし口述で記事をまとめたいらしい.口述からのテープ起こしでもOKならとってもラクなんだけどな.

◇農環研の会計システムにいろいろと入力する.※ため息〜.

◇骨休めに,安井金也・窪川かおる『ナメクジウオ:頭索動物の生物学』(2005年1月31日刊行,東京大学出版会,ISBN:4-13-066154-X)と戯れる.脊索はあっても骨のないアヤシイ生き物で,群れた生態写真なんぞこの上なくアヤシく見える.脊椎動物にとっての〈外群〉のひとつとしての役回りだけではなく,ちゃんと生きている生物としてのナメクジウオを論じた日本初のモノグラフであることはもちろん,世界的に見ても1894年以来実に110年ぶりのことだそうだ.飼育がとても難しく,市販の粉末餌などを与えると喉が詰まって窒息死してしまうとか(p. 119).※アヤシくかよわいわけね.

◇昨年届いていた論文:

David M. Williams and Malte C. Ebach 2004. The reform of palaeontology and the rise of biogeography &mdash 25 years after ‘ontogeny, phylogeny, paleontology and the biogenetic law’ (Nelson, 1978).Journal of Biogeography, 31(5): 685-712.

を読み進む.「[T]he ‘Cladistics’ revolution of the 1960s and 1970s is far from adequately understood」(p. 696)などという一節があったりする.分岐学のたどってきた歴史については,ある程度は知っていたつもりなのだが,まだ〈奥〉がありそうな気配が濃厚.※伏魔殿かいっ!

―― 比較形態学者 Adolf Remane の伝記記事がすでに出ていたことをこの論文で知った:

F. Zachos and U. Hoßfeld 2001. Adolf Remane: Biographie und ausgewählte evolutionsbiologische Aspekte in seinem Werk. Verhandlungen zur Geschichte und Theorie der Biologie, 6: 313-358.

◇果てしないって感じ.

◇本日の総歩数=17477歩[うち「しっかり歩数」=10139歩/83分].全コース×|×.朝△|昼○|夜△.前回比=+0.4kg/−1.1%.


8 februari 2005(火) ※ 小雨降る丑三つ時

◇3時過ぎに起床.なんだかなあ(もっと寝なはれ).昨夜からしとしとと小雨が降っている.気温2.6度.

◇統計数理研究所研究集会〈科学的根拠を支える生物統計学〉.3月4日(金)〜5日(土).疫学分野の発表がほとんどだが,個人的には芝村良「Fisher に見る統計的推論の社会的受容」は聞いてみたい気もする.ついでに,彼の著書『R. A. フィッシャーの統計理論:推測統計学の形成とその社会的背景』(2004年2月29日刊行,九州大学出版会,ISBN:4-87378-816-1)の書評を公開した.

◇〈凶器としての本〉(→ ZAKZAK「存在の耐えられない重さ…大量の雑誌で床抜け公務員重傷」)―― 確かになあ,アパートの2階の床がヌケるほど雑誌を積み上げたら,下の部屋はたまったもんとちがうでしょうねえ.それにしても,階下の住人の危機予測は実に的確でした:「買い物から帰ってきたら、(天井が)垂れ下がっていた。こりゃ落ちると思った」そうな(汗).雑誌に埋まった公務員氏は天罰か.※他人事ではないぞ.このケースは木造住宅だったけど,鉄筋住宅でも危ないかも(大汗).

◇献本感謝です ―― 安井金也・窪川かおる『ナメクジウオ:頭索動物の生物学』(2005年1月31日刊行,東京大学出版会,ISBN:4-13-066154-X).※見れば見るほど「ヘンな生き物」だと思う.なぜ「ヘンだ」と思ってしまうのかな.既存の認知分類カテゴリーに属さない“危険な香り”がするからでしょう.きっと.

◇『生物科学』誌からゲラ到着:「“みなか”の書評ワールド(7)」.すぐ返送されたし,とのこと(再汗).

◇〈leeswijzer〉10000アクセス越えました!―― 先月9日に開設したので,1ヶ月経過を待たずに大台に乗りましたね.応援していただける方,ぜひ上記サイトの【Blog Ranking】をクリックしてください.よろしく.

◇いい季節のパリで数理系統学の国際会議が ―― 〈Mathematics of Evolution and Phylogeny Conference〉.日程は,17-21 June 2005(しかも中日の「19日」は全面休日にするというニクい心遣い).場所はアンリ・ポアンカレ研究所(パリの中心部,リュクサンブールとパンテオンのすぐ近く)です.ロケーションは言うことなし.2003年に同じテーマのシンポジウムが開催されており,近刊の論文集『Mathematics of Evolution and Phylogeny』はそのときのプロシーディングズではないかと推測されます.いいなあ.

◇10時半から1時間ほどグループ会議.所議報告と次期中期計画策定に向けての話など.

◇地震あり ―― 11時半ころ.最初「ズシン」と地下から響いてきて,その直後にぐらッと揺れた.震度2〜3程度か.茨城県南部が震源の地震はよくある.

◇出入りの書店から,『種の起原』初版本(1859)が出ましたとの情報あり.価格はたった14万ドル(1500万円ほど)ですって! ※誰か買いません? ん?

◇小雨が降り続く昼休み,気温3.7度.とっても寒いっす.でも,傘さして歩き読み(変な人):岩崎信也『蕎麦屋の系図』(2003年8月15日刊行,光文社新書111,ISBN:4-334-03211-7).第2章まで読了130ページほど.第1章は蕎麦の文化史.第2章は,大阪にルーツをもつと推測される老舗〈砂場〉の系譜.各章ごとに「蕎麦屋の系統樹」が載っているのがよろし.

◇うっかり見過ごすところだった ―― ウォレス伝の書評「Alfred Russel Wallace: In a Court of His Own [Review] The Heretic in Darwin's Court: The Life of Alfred Russel Wallace (by Ross A. Slotten, 2004, Columbia University Press, ISBN:0-231-13010-4)」Evolution 58(12): 2840-2841. December 2004 を書いた評者 John van Wyhe は,かのダーウィン著作電子化プロジェクト〈The writings of Charles Darwin on the web〉を進めている人でした.

―― このサイトを久しぶりに眺めていたら,Project Gutenberg へのリンクがいくつか張られていて,そのひとつに Thomas Belt『The Naturalist in Nicaragua』が昨夏に電子化公開されていたことを知る.この本の翻訳は故・長澤純夫と大曽根静香の共訳で『ニカラグアの博物学者』(1993年10月刊行,平凡社,ISBN:458253709X)として出版されている.もちろん,今では絶版になっているようで,古書店を探すしか手はない.その原本がオンライン公開されているというのは収穫だ.

―― もうひとつ van Wyhe 氏はさらに大きな企画を進めているようだ:〈The Complete Work of Charles Darwin〉.全35巻を予定しているという.現在あるダーウィン全集は Pickering 版のがもっとも大部だが,それを上回るということか.交渉中の版元は,これまた頭角をあらわしつつある Thoemmes Press. ひょっとしたらドン!と出る可能性は高いかも.※価格もきっと卒倒するほど高いだろう(涙).

◇『生物科学』の書評ゲラをチェック完了.明日返送します.

◇本日の総歩数=16184歩[うち「しっかり歩数」=7476歩/59分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=−0.3kg/+0.1%.


7 februari 2005(月) ※ 復帰したふりをする代休日

◇のろのろと5時半に起床.節々がぐきぐきする.「高座」の翌朝によくある症状.今日は振替休日なので,出勤簿にハンコを押しに行かなくてもいい.何年も前のこと,研究所のとある酒席で,とある管理職から「国研の職員は出勤簿に押印したことに対して給料が払われているのだ」というようなことを耳にした(一般の公務員もそうなのか).とても“新鮮”な指摘だったので,いまでも記憶している.出勤簿への押印というのは,単に形式的なものではなく,もっと実質的な何かを表わす儀式なのだろう(うかがいしれないが).※大学では事務に出勤簿用のハンコを預けてしまっているというケースも少なくないようだが,それは出勤簿押印の儀式が当事者から隠蔽されたことを意味する.

◇午前中は天気がとてもよかったので,洞峰公園経由で昼日中の歩き読みをば:村上征勝『シェークスピアは誰ですか?:計量文献学の世界』(2004年10月20日刊行,文春新書406,ISBN:4-16-660406-6)読了.うーん,扱っているテーマはそれぞれおもしろいのだけれど,いかんせん1項目が短すぎて,欲求が不満しますね.また,ツールとして統計学について事前に知識がないと読んでもおもしろくないのでは? もうひとつ,使われているツールがとても“トラッド”で,こういうツールの使い回しでいつまで[どこまで]やっていけるのかなあという気がしたのですが.「計量文献学」についてちょっとでも知りたい読者にとっては読んで損はないと思いました.個人的には文献系図学の話題があってほしかったんだけど.せっかく『源氏物語』とか池田亀鑑という名前を出すのであれば.※計量文献学というと反射的に「安本美典」を想起してしまうワタシ.

◇さてと,千葉滞在中に得た新刊・近刊情報を総まとめ――

◆『月刊みすず』(2005年1〜2号)の〈読書アンケート特集〉から:『田辺元・唐木順三 往復書簡』(筑摩書房).※複数のアンケート回答者がこの本を挙げている.気になりますな.それにしても,田辺元の〈種の論理〉に関する論文集が封印されたまま(p. 7)とはどういうことなのか./ある回答者は「名古屋大学出版会の編集者の眼力にも,心から敬意を表したい」(pp. 29-30)と記している.ぼくも確かにそう思う.名大出版会の本にハズレはない./ウォレスやベイツなど19世紀に活躍した博物学者の書物を新思索社や築地書館から数多く翻訳してきた長澤純夫さんが昨年11月に亡くなっていたそうだ(p. 33).訳者紹介を見てご高齢であることは知っていたのだが./新妻昭夫情報:イギリスの王立園芸協会の歴史をたどった本が昨年出版されたらしい(p. 41):B. Elliot『The Royal Horticultural Society: A History 1804-2004』(2004年,Phillimore & Co., Chichester)./わ,大野克嗣さんも! S. J. Gouldの『The Structure of Evolutionary Theory』を出してる(p. 47)!(参ったー) /長野敬さんが,ワトソン-クリックによる二重螺旋モデル提唱のきっかけとなった DNA のX線回折を行なった Maurice Wilkins の自伝『第三の男』の翻訳をいま手がけているとのこと.青土社か?(不明) /おお,不二出版の復刻が取り上げられているぞ(p. 67)./そうそう,『バレンボイム/サイード 音楽と社会』(2004年,みすず書房)という本も何人かの回答者が挙げている./池田清彦訳でDavid S. Moore『遺伝子神話の崩壊』という本が徳間書店から春に出るらしい(p. 73)./みすず書房から今月新刊のウリカ・セーゲルストローレ『誰もが真理を擁護していた:社会生物学論争1|2』(全2巻,垂水雄二訳,みすず書房).※社会生物学の波及について歴史的回顧した著書かな? 2冊で800ページ超の大著.もちろん値段はとってもゴージャス.

◆次は,東大出版会の『UP』(2005年2月号)から:高山宏さんが「サイモン・シャーマの歴史形態学」(pp. 36-37)というエッセイを寄稿している.サイモン・シャーマは『Rembrandt's Eyes』(1999,A. A. Knopf,ISBN:0-679-40256-X)という電話帳みたいな厚い本をオランダの行き帰りに読んで以来,関心のある歴史家だ.帰国してから関連書を Amazon で注文したところ,“電話帳”ばかりどさどさと着便してのけぞったことがある.その“電話帳”の1冊:Simon Schama『Landscape and Memory』(1995,Vintage Books,ISBN:0-679-73512-7)が,河出書房新社から『風景と記憶』というタイトルで翻訳出版されるそうだ.訳されると“電話帳度”がさらにアップされるにちがいない./ありな書房の近刊予告:P・フィンドレン『自然の占有:ミュージアム,蒐集,そして初期近代イタリアの科学文化』.※「予価8,400円」(げ)/同じくありな書房から,幸福輝『ピーテル・ブリューゲル:ロマニズムとの共生』.※「予価5,250円」(ぐ).著者名は本名なのかな?

◆有隣社新刊カタログから統計本新刊近刊あれこれ:M. Crawley『Statistics: An Introduction Using R』(2005年5月刊行予定,Wiley,ISBN:0-470-02297-3 [hbk] / ISBN:0-470-02298-1 [pbk]).※またまた「R本」が./S. Wood『An Introduction to Generalized Additive Models with R』(2005年5月刊行予定,CRC Press,ISBN:1-58488-474-6).※うむむ,立て続けに「R」の襲来とは./R. Lehmann & J. Romano『Testing Statistical Hypotheses, Third Edition』(2005年4月刊行予定,Springer Verlag,ISBN:0-387-98864-5).※改訂されるたびに厚くなる「検定教科書」.もうすぐ800ページ! /O. Gascuel (ed.)『Mathematics of Evolution and Phylogeny』(2005年1月刊行,Oxford University Press,ISBN:0-19-856610-7).※要チェックです./Jotun Hein et al. (eds.)『Sequence Variation, Genealogies and Evolution: A Primer in Coalescent Theory』(2004年11月刊行,Oxford University Press,ISBN:0-19-852996-1).※これまた要チェック.Coalescent theory だけで1冊の本にしたというのは珍しいんじゃない?

―― そういえば,『Journal of Statistical Softwares』というオンライン雑誌があると仲岡さんからうかがった.確認しないと.

あ,これね:〈Journal of Statistical Software〉(※「Softwares」ではなく「SoftWare」).へー,創刊されてもう10年になるオンライン雑誌なんですね.知らなかったー.〈R〉がらみの論文が多いような気がする(「Bradley-Terry Models in R」とか).

◇夜,千葉大で集めたレポートのチェック ―― 課題は,「平方ユークリッド距離のもとでの祖先形質状態の最節約復元を動的計画法で求めること」と「塩基配列データを与えて最節約分岐図を計算すること」のふたつ.最初のは数理計画の本にあるような計算問題だが,二つ目のは Douglas Futuyma の教科書(1998)に載っているやつ.ま,相談しながらやっていたようだし,前期にK田さんがさんざん演習させたということなので,意外にも(失礼)成績いいですね.集中講義の感想を書いてもらったところ,「ハンドアウト」がほしかったという意見あり.そうだよねえ,本当は事前に配布できればベターだったのですが.※近いうちにウェブ公開したいと思います.

◇う゛,なんだか意識がなくなりそーな気配が.寝ましょ寝ましょ.

◇本日の総歩数=13856歩[うち「しっかり歩数」=10670歩/88分].全コース×|×.朝○|昼−|夜×.前回比=−0.1kg/−0.1%.


6 februari 2005(日) ※ 千葉寄席(二日目)

◇前夜,遅かったのに午前4時に携帯目覚ましが鳴る.今日の講義の準備進捗が[も]イマイチなので,これからがしがしとpdfをつくっていかないと.ドロナワが服を着ているみたいなもの.

◇大きな荷物を抱えて講義室に向かう(遠い).昨日と同じく,午前9時半から講義開始.素朴統計学的な直感をヒトが持ち合わせているという,いつもの「統計学概論」を前振りにして,系統推定のアブダクションとしての推論様式について説明し,統計的推論がそのためのツールになるというのが話の軸.ここで統計曼荼羅が登場し,系統推定の世界では「計算機統計学」が有力なツールとして使われていると述べた上で,ブーツストラップ/ジャックナイフ/無作為化/モンテカルロなどの考え方を一般論として示す.ここで〈R〉が立ち上がり,データからのリサンプリングについてのデモンストレーションをしばし.その後,尤度概念と最尤推定について説明する.系統推定におけるベスト系統樹の探索がモデル選択の観点から説明できるという話題にもっていって,ここで午前の部が終わる.

◇ゲストハウスはすでにチェックアウトしてしまったので,そのまま講義室にて午後の準備とレポート課題の作成.

◇午後1時過ぎから再開.分子系統学における塩基置換モデルの選択を例にとって,〈涙なしのAIC〉を試みる(きつかったかな).その延長線上に,ベイズ推定の話題を呈示し,ベイズの定理の直感的理解(「ベイジアン口裂け女」※受講生にとてもウケたみたい)について話をした.しかし,学部生にとってはこのあたりが限界だと思われたので,系統推定におけるMCMCベイズ法はさらっと「精神」だけ話すにとどめる.

◇最後に,さまざまな系統推定法の相互比較についての the-state-of-the-art を説明し,どんな状況でどの系統推定法を使うべきか(使わざるべきか)の指針を説明した時点でちょうど午後4時となりました.これで今回の高座はおしまい.

◇千葉大の集中講義では,統計学の手ほどきにウェイトを置いた分,体系学的な論議(単系統性と共有派生形質,分岐図の評価[ci / ri / rc])・応用的テーマ(生物地理・共進化・種間比較)・系統ネットワークなどなどのテーマが抜け落ちることになった.やっぱり15時間という枠だと,全部を盛り込むのはムリっぽいのかな.※30時間あれば,フルコースで話ができただろう.

◇午後4時半に講義室を引き払い,そのまま西千葉駅から乗車.成田線は敬遠して東京廻りにする.稲毛で総武線快速に乗り換え,錦糸町で中央線に乗り換え,秋葉原で山手線に,さらに上野で常磐線に,というつぎはぎによりひたち野うしく駅にたどり着いたのは,午後7時を過ぎていた.ん,成田線経由とあまり変わりがないなー.ということは,千葉はどうあがいても“陸の孤島”ということなのか,やっぱし.

◇車中,再度『月刊みすず』をチェック.新刊・近刊のタイトルを確認する.いろいろおもしろいのが出版されそうです.

◇へろへろと帰宅し,へろへろと沈没する.今年度5回の非常勤出講は今日ですべて終わりました.

◇本日の総歩数=13770歩[うち「しっかり歩数」=3040歩/27分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=未計測/未計測.


5 februari 2005(土) ※ 千葉寄席(一日目)

◇4時半に起きる.千葉大のゲストハウスはキャンパスの片隅にあって,前回宿泊した1階の部屋は,とても広かった[ワンルームマンションほどあった]のだが,湿気が多いのか,季節[夏]のせいか,さまざまな土壌動物たちが床[土間ではない]を這っていた.今回は2階部屋なので,節足動物はいないかわりにすきま風が身にしみる.

◇パンをかじって,作業開始.イントロ的な噺(科学哲学とか認知心理学とか)は方々ですでにやっているので,pdfスライドの素材はすでに十分にそろっている.このあたりはページの並べ替え程度ですむ.問題は系統学本来の内容の方だろう.今までは長年にわたってOHPを使ってきた.今回はじめて電子化してプロジェクターで映すことにしたので,jpg画像は大量にもってきたものの,時間切れでまだpdfにしていなかった.その作業が明け方やるべきこと.InDesignにぺたぺた貼り込んで,適宜コメントをつけていく.これもまた「単純作業」に見えるのだが,噺の筋立てをイメージしていく重要なステップなので,おろそかにはできない.というか,この段階がクリアできれば〈writing a talk〉は完了したも同然(あとは何もしなくていい).

◇さらにパンをかじり,コーヒーを飲み,サラダを食べる.“元”国立大学に出講するたびに,ゲストハウスでにわか下宿生活の再来だ.千葉大しかり,信州大しかり,東北大しかり.

◇今回の集中講義は学部生向けの〈動物系統学II〉という科目だ.〈動物系統学I〉がいったいいかなる内容だったのかは知る由もない(非常勤講義の場合,こういう点でつながりがないというのは学生にとって問題なのだろう).生物学科の学部生ということは1年生もいたりするということだ.こういうときには「高座からの目線」をどこに合わせるのが適当なのかと迷うこともあるが,もともと噺家は相手を選んではいけないのだ.

◇午前9時半の授業開始定刻少し前に理学部4号館講義室に入る.ゲストハウスも西千葉キャンパス内では十分に「果て」だと思ったが,理学部も別方向の「果て」にある.徒歩15分というところか.法人化と相前後して外装を改修した建物が目立つ敷地内で,4号館はひときわ歴史をかんじさせるようだ.実際に内装もとてもクラシックだし(以上,慎重に言葉を選んだ).ごく控えめな空調機器設備といい,そこはかとなくオーラを感じさせる雰囲気といい,「マルチメディア講義室」というフェイントっぽいネーミングといい,ウィークエンドの席亭としては申し分ないのではないか.

◇午前中は,系統推定の「現場」を幅広く連れ回す.もちろん,寿司の系統樹,写本系譜学,芸事の系譜学などなど,立て続けにぽんぽんと呈示していくのはいつものスタイル.今回はまだ“免疫”のついていない若者が多いようだったので,【種】の話題はすべて〈映倫カット〉した.午前の早い段階で,「系統樹思考」と「群思考」との対比,そして「系統学」と「分類学」の問題設定のちがいについて言及はした.しかし,その先には進まず(大学院の講義だったらもちろん入り込んだはず),系統学の本道を進むことに専念.15時間という枠の中では,話題の取捨選択がその都度必要になる.今回は,「系統学」と「統計学」という二本柱を予定しているので,脇道はできるだけ避けたいなー.

◇こういう系統学の集中講義では,系統樹のグラフとしての定義づけについて説明することはこれまではあまりなかった.しかし,今回はあえてそこのところにも言及した.とくに,分岐図・系統樹・進化樹のちがいは少しばかりの数学的背景があればきれいに区別できる.いまの系統推定論が相手にしているのは,あきらかに分岐図であって,それ以外の樹形図ではありえないというのがぼくの認識です.

◇昼休みはゲストハウスに直帰して,午後の講義準備.系統推定の手順とか祖先復元のアルゴリズムとか.進化生物学者 Ernst Mayr が百歳の天寿を全うしたという速報をメールで受ける.百歳まで生きただけでなく,著作をアウトプットし続けたというのは驚異的だと思う.見習おうにも,ただただ見上げるばかりなり.しばらくは「追悼特集」だの「追悼記事」だのがたくさん出てくるだろう.※まさに「Xデー」だったから.

◇午後1時過ぎから講義再開.とくに分子系統学まで含めた系統推定法全体について解説するというのが,今回の講義の中核だ.最適グラフの探索と祖先復元については最節約法を例にとって説明したが,実際に受講生の計算演習してもらったり,PAUP*やMacCladeのデモをいくつか見せているうちに,もう午後4時の終了時刻が来てしまった.さらに,最尤法やベイズ法に進むためには,あるいは,系統推定にともなう統計的誤差評価を示すには,確率モデルとか統計学の手ほどきが必要になる.しかし,千葉大の場合(ほかの大学でも似たり寄ったりだが),統計学の講義を学部で受けたことがないという学生が大半だ.とすると,二日目は,「統計学入門」を念頭に置いて話を始める必要があるな.※話題のセレクションにまた悩む.

◇西千葉の夜は日本料理〈遊菜亭・志摩家〉にて.かのY原センセを「人間,ここまで怒れるのか」というほど逆鱗接触が得意なW野さん(「買うた?」事件だけでなく,「ビ○本」事件もあったとはね),日本最“高”のボタニストの一人であるK田さん,ぼくと収斂しつつあるのではと目されるA川さん,わざわざ来られたN岡さん,そして学生さんたちお二人と.明日もあるのにこんなに呑んでいーんでしょーか? あら,また田酒が.久保田も.あらあら.

◇それでも,健康的に夜10時過ぎに散会となり,ゲストハウス直帰.月刊みすずを酔読.いろいろおもしろい情報が得られる.でもって明日の講義準備をしよーかと思う間もなく,爆睡.※学生さん,ごめんねー.

◇本日の総歩数=15667歩[うち「しっかり歩数」=6808歩/58分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=未計測/未計測.


4 februari 2005(金) ※ 千葉に吸い寄せられる

◇前夜は11時に就寝,でもって3時半起床.それほど寒くない氷点下0.1度.暗い研究所で,クラく作業し続ける.資料を電子化しても,そのあとpdfにするという次なる仕事が待っている(とほほ).

◇あ,そうだ,「電子化」で思い出したが,ウェブサイトや電子メールそしてBBS掲示板での発言などあらゆる電子ドキュメントを参照する際の国際規格が,すでに「原案」の段階を過ぎて「確定」にいたっていることを昨日初めて知った:

ISO 690-2: Information and documentation -- Bibliographic references --
Part 2: Electronic documents or parts thereof
http://www.collectionscanada.ca/iso/tc46sc9/standard/690-2e.htm

この国際規格〈ISO 690-2〉は,印刷されたドキュメント一般の参照形式に関する母体となるISO規格:

ISO 690: Information and documentation -- Bibliographic references --
http://www.collectionscanada.ca/iso/tc46sc9/standard/690-1e.htm

の附則のようなものなのかな.ぼくが『生物系統学』を書いたときの引用文献リストでは,電子ドキュメントを参照する標準形式として,この規格の原案(ISO/DIS 690-2: 1996年時点)を採用したが,その後に確定されたのだろう.ときどき,電子文献の引用形式に関する問い合わせがぼくのもとに寄せられることがあるのだが,これからは安心して上記のISO規格の存在を返答することができそうだ.

◇お昼を過ぎても延々と単純作業が続く.いったい何枚のOHPをスキャンしたことやら,150枚はとっくに越えている.200枚に達するか.いやんなってきたなー,と気がついたらもう午後4時に.さすがにやばいので,残る数十枚のOHPをわしづかみにして,機材などとともにご出発〜.

―― ひたち野うしく駅に4時半,我孫子で成田線に乗り換え,成田でまた千葉行きに乗り換え,さらに千葉から各駅停車に乗り継いで一駅目が西千葉.けっきょく3時間ほどの「ぷち長距離旅行」の末,午後7時過ぎに千葉大に到着.真っ暗なキャンパスを横切って,理学部3号館の綿野研究室にたどりつきました.※成田線を選んだのが敗因だったか…….

◇車中では,送られてきたばかりの『月刊みすず』(2005年1・2月合併号)の〈読者アンケート特集〉を読みふける.3段組100頁あまりというのはかなりの活字量だ.ぼくが12月8日に回答した5冊がはじめの方に載っている.126名の回答者が挙げたタイトルを眺めてみると,ぼくのセレクションはやや“まともすぎた”かもしれない.むしろ,12月10日の次点5冊の方がおもしろかったかも.

―― 読者アンケートにすべて眼を通すと,いろいろな「発見」があった.うーんと,それは明日まわしね.※書いてる時間がありまへんがな.

◇本日の宿泊先は構内のゲストハウス.数年前の夏にやはり系統学の講義に来たときに利用したことがある.ここもまた,信州大学旭会館と同じく,自炊しなければならない施設だ.さっそく駅向こうのSEIYUに食料などの買い出し.※大学に教えに行くたびに“下宿自炊生活”をしているよーな気がするぞ.

◇明日の講義pdfをつくらないといけないんだけど,ちょっとなー,疲れたなー.※ちなみに,明日と明後日のぼくの講義は,午前9時半から理学部4号館2階のマルチメディア講義室で行なわれます.

◇まだ午後11時だけど,ちょっと寝ようかなー.※また未明起きか.

◇本日の総歩数=17412歩[うち「しっかり歩数」=4626歩/41分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=−0.4kg/+0.5%.


3 februari 2005(木) ※ ただただ黙々と……

◇午前4時起き.そのときの気温はマイナス2.9度だったが,午前6時にはさらに冷え込みマイナス4.1度にまで下がる.つくばの平野部でも,寒い冬はマイナス6〜7度に達することもあるので,まだまだか.

◇読了した戸田山和久『科学哲学の冒険:サイエンスの目的と方法をさぐる』の書評を朝のうちに公開する.

◇明日の夕方には千葉に入っていないといけないので,講義資料になる予定の過去OHPを黙々とスキャンしてjpeg画像に変身させる.何百枚もあるので単純作業には違いないのだが,文句言わずに黙々とやるしかない.ただ黙々と.

◇今日はさらに北風が強く,歩き読みにはきわめて不適な天気なのだが,昼休みに歩いてしまう:福井優子『観覧車物語:110年の歴史をめぐる』(2005年1月17日刊行,平凡社,ISBN: 4-582-83251-2)を120ページほど読み歩く.確かにこの本は著者の思い入れが随所にあふれているという感じがする.昔の観覧車ってスリルがあったのですね.つくりは小降りでもぴゅんぴゅん回っているというイメージが浮かぶ.歴史的写真がとても多いです.とても愉しいです.空高く上がって下界を見下ろすパノラマ的快感(と震え)は,現代人でも当時の人たちでもきっと変わりはなかったのだろう.いまカリフォルニアにいる細馬宏通さんの快著『浅草十二階:塔の眺めと〈近代〉のまなざし』(2001年6月8日刊行,青土社,ISBN: 4-7917-5893-5)と相通じるもの(対象物もそうだし,著者のスタンスも)を強く感じる.※あ,ちゃんと引用されてましたね.(類は友を呼ぶ? 朱に交われば〜?)

◇午後もただただ黙々と ―― とても終わりませんな,これは.

◇本日の総歩数=20113歩[うち「しっかり歩数」=9948歩/80分].全コース ×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.5kg/+0.1%.


2 februari 2005(水) ※ もう逃げ場なし

◇5時前起き.朝倉書店への改訂箇所を郵送完了.

理系白書ブログ(1月28日付)の〈PowerPoint症候群〉―― 個人レベルの〈依存性PPT中毒〉はまあ生活習慣病みたいなもんだからしかたない?としても,もっと厄介なのは〈感染性PPT痴呆〉かな.視覚言語のエキスパート Edward R. Tufte(→サイト)のパンフレット『The Cognitive Style of PowerPoint』(2003年刊行,Graphics Press, ISBN: 0-9613921-5-0)を読みつつ考える.Tufte 氏いわく,PowerPoint で満足しているのは「演者」だけであって,「聴衆」のことをちっとも考えられてはいない.なぜって,PowerPointスライドには「内容」がないから.そして,もっと根本的なことは,PowerPoint の「スライド形式」がもつ基本的な「認知スタイル」が,われわれ人間のもつ言語能力(視覚的・聴覚的)に適合していないから,とのこと.テンプレートだのアニメーションだのという“イロモノ”を付ければ付けるほど墓穴を掘ると言い切る.かのリンカーンの「ゲティスバーグ演説」を傑作な PowerPoint スライドにしてみせた Tufte さんに拍手.著者は,聴衆に手渡すハンドアウトをきっちりつくった上で,PowerPoint は最低限の画像を呈示するだけにとどめるべきだと言う.そして,PowerPoint スライドに特徴的な「弾丸[bullet]」が乱射される画面を読み上げるようなことだけはするなとアドバイスする.とくに,統計学的データの表示という点についてはPowerPointに対する評価が厳しい.※これだけ言い切ってくれると痛快です.でも,多かれ少なかれプレゼン用ソフトウェア(“SlideWare”)ならば商品名を問わず(Keynote2だってOpenOfficeだってT-Timeだって)いつでも「発症」し得ることなのかもしれない.学会の口頭発表会場などで,そこにいるみんなが「集団催眠」にかかってしまえば不幸な人はいなくなるのだろうけど.

◇ひょえ〜……いろいろと「大波小波」が押し寄せる ―― 今週末の千葉大集中講義の出張届[未→済]./次年度,首都大学東京非常勤講師の履歴書送付[未→済].※まだ他にもあるかあっ!

◇〈ICSEB VII: International Congress for Systematic and Evolutionary Biology〉:2008年にメキシコで開催される予定.母体となる「IOSEB」の Council Meeting がこの4月8〜9日にメキシコシティーにて開催されるというメール連絡がきた.ダブル・ブッキングなんだけど,優先順位からいえば結論はもう決まってるよね.>ごめんね,関係者のみなさん.

◇新着雑誌 ―― Molecular Phylogenetics and Evolution(Vol. 34, no.1, January 2005).※心地よき「系統樹酔い」./Trends in Ecology and Evolution(Vol. 20, no. 1, January 2005).※今号は分類学と博物学の記事が多いな.“Phylogenetics Series”の総説はこれからも続く? 

◇わ,ついに出たか!―― Meriam Zelditch et al. 『Geometric Morphometrics for Biologists: A Primer』(2004年6月刊行,Elsevier Academic Press, ISBN: 0127784608).※過去20年あまりにおよぶ幾何学的形態測定学(geometric morphometrics)の学問史の中では数多くの「専門書」が積み上げられてきた(→図書リスト).しかし,その一方で「入門書」と呼べる本がこれまで[ほとんど]なかったのがよほどフシギだったのだが,哀れな初学者の死亡率は劇的に低下する[かもしれない].期待しよう(と言いつつ即注文).450ページという分量だと勉強するのも体力が必要かも.F. James Rohlf による書評は,「Geometric morphometrics simplified」.Tr. Ecol. Evol., 20(1): 13-14 (2005).

◇わわ,狙いすましたような新刊 ―― ポール・コリンズ『古書の聖地』(2005年2月刊行,晶文社,ISBN: 4-7949-2665-0).原書(Paul Collins 2003. 『Sixpence House: Lost in a Town of Books』Bloomsbury, ISBN: 1-58234-284-9)は2003年の夏にマンハッタンですでに購入済み.レキシントン通り沿いのアッパー・イーストサイドにある〈The Lennox Hill Bookstore〉にて.ここの書店のオーナーは,元は Books & Co. をもっていた Jannette Watson(IBM創業者Thomas Watsonの娘)で,そのあたりの経緯は『ブックストア:ニューヨークで最も愛された書店』(2003年1月30日刊行,晶文社,ISBN: 4-7949-6558-3)に書かれてあるとおり.通りに面してはいるものの,間口が狭く奥行きのあるThe Lennox Hill Bookstoreを入ってすぐの棚にコリンズの本があり,そこには「Jannette recommends」という推薦タグが付いていました.晶文社,めざといぞ.

◇わわわ,アラマタ本の降臨 ―― 荒俣宏『世界大博物図鑑1:蟲類』(1991年8月23日刊行|2004年11月1日初版第7刷,平凡社,ISBN: 4-582-51821-4).重版を待ってやっと全巻揃った.実にめでたいことだ.※どーせ,あっという間に「蟲屋」のみなさんに買い尽くされるのは目に見えている.

◇そうこうするうちに昼飯喰う間もなく,午後に突入.書類また書類.紙吹雪.限りなく湧いて出てくるという感じ.

◇夕方,信州大学の成績報告書を仕上げて,松本にメール返送する.千里の道も一歩からというではないか.(ちゃうか)

◇夜7時過ぎにいったん帰還.※まだまだあるでー.夜は長いでー.

◇今週末の千葉大理学部での集中講義〈動物系統学II〉に使う講義資料をちくちくと用意しはじめる.大筋はすでにできているので,細部のバージョンアップと新しい素材の付加.15時間でまとめるというコースは,次年度に予定されている東大農学部での講義〈保全生態学特論〉とも共通する.生物系統学という科目は,もちろん生物をターゲットにしているのだが,ぼくの場合,イントロは形而上学で前振りし,ときどき数学が顔を出し,系統推定とモデル選択の話は科学哲学と統計学が合体するという中身になっている.それぞれの食材のブレンド配合率はその都度ちがっているのだが,レシピそのものはほとんど変わっていない.ぼくにとってはもっともナチュラルな話の筋立てに収束しつつあるのだろうと思う.今回の講義では,意識的に系統ネットワークとベイズ推定の話題を多めに盛り込もうかと考えている.

◇やり残し ―― 信州大学成績報告[未→済]./JSTワークショップ報告書督促[未]./生物地理学会大会企画[未]./日本鳥学会・比較法総説[未]./図書新聞『ダーウィン文化論』書評原稿[未]./筑波大学図書館への図書貸借依頼[未]./予算関係の決済書類[未].etc...

◇本日の総歩数=7890歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース ×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.9kg/−0.9%.※不動というか怠惰というか.


1 februari 2005(火) ※ 実は追い込まれていたりして……

◇今朝も5時前に起床する.気温マイナス2.1度.メーリングリスト宛にささっと月例挨拶を送ったりとか.※〈TAXA〉が会員数700名の大台に乗った.

◇〈これから出る本[2005-No.3:2月下期号]〉から近刊情報 ―― W・ハーディイング『ヘンリー・ソローの日々』(日本経済評論社,ISBN: 4-8188-1587-X).※「770頁/9,975円」というものすごい伝記らしい.森の生活者も肥満する? 遠目に見て,触るくらいだったらいいかな./ピエール・ラズロ『塩の博物誌』(東京書籍,ISBN: 4-487-80013-7).※「塩」のすべてということか.昨年出た写真集・片平孝『地球 塩の旅』(2004年10月20日刊行,日本経済新聞社,ISBN: 4-532-16487-7)を読んで以来,「塩」への関心が高まる./北海道大学総合博物館(編)『烈風一過・北大キャンパスの樹々:2004.9.8 台風18号被害』(北海道大学図書刊行会.ISBN: 4-8329-0327-6).※うーむ,「ポプラ並木や楡の大木の生々しい倒壊写真」だそうな.うーむ,要するに“倒木”の写真集っつうことですね.北大刊行会,商売ウマいぞ.転んでも只では起きない.大学出版会が〈廃墟本〉を出すようになるとはね./小檜山堅二『虫をめぐるデジタルな冒険』(岩波書店,ISBN: 4-00-006047-3).※昆虫の「細密デジタル写真」がウリらしい./橋本毅彦他(編)『科学大博物館:装置・器具の歴史事典』(朝倉書店,ISBN: 4-254-10186-4).※うわ,値段が〜〜.

◇出入りの書店からファクス通知 ―― 近刊情報:M. Fellows & J. Rolff (eds.)『Insect Evolutionary Ecology』(2005年6月刊行予定,CABI Publishing, ISBN: 0-85199-812-7).※2003年にReadingで開催されたシンポジウムの論文集.「The peppered moth: decline of a Darwinian disciple」なんていう論文が所収されていたりする.

◇朝食とともに,秋庭俊『帝都東京・地下の謎86』(2005年2月10日刊行,洋泉社,ISBN: 4-89691-888-6)をあっさり読了.※いたるところに「これは暗号だ」とか「あれは陰謀だ」という表現多し.しかし,文章そのものよりは,むしろ見開き左ページに載っている地図を読む方がはるかにタメになるかもしれない.とすると,この本ではなく,去年出た秋庭俊(編著)『写真と地図で読む!帝都東京・地下の謎』(2004年5月8日刊行,洋泉社MOOK,ISBN: 4-89691-811-8)の方がオススメでしょうか.

◇なんだか年度末になると,新刊本の情報が押し寄せてくるのは,予算残高執行のご参考にということかしら ―― などどヨソ見する暇もなく,うずたかく積み上がっている未決済本の伝票入力をしないといけない.すでに40冊あまり横積みされている(逃げたい).

◇今週末に千葉大での〈動物系統学II〉の集中講義がある ―― その講義資料もつくらないといけないのだけれど,またまた大量の昔OHPからスキャンする必要がある.昨年末の信州大での集中講義(あ,成績報告,まだやー)のアンケートを見てみると,「手書きの画面は見づらい」という意見がいくつかあった.それはすべてもともとOHP用に手書きしたものを,そのままスキャンして jpgにしたスライド.ぼくは,共同研究者が PowerPoint でプレゼン資料をつくってしまったという例外的な場合を除いては,すべて Acrobat か T-Time を講義で用いるようにしているのだが,ひょっとしてOHPプロジェクタとPCプロジェクタでは,観客の見方に根本的な違いがある? 単にぼくの字ぃが汚いだけちゃう?ということでしたら,みだりに一般化できないのですが,何か「見る側」にそう感じさせる要因があるのでしょうか?

◇朝倉〈形態測定学〉本の重版修正箇所を記入オワリ.こういうのってかぎりなく訂正したくなるので,自制心が必要だ./裳華房『遺伝』の倉谷本書評のゲラがファクスで届いた.ささっとチェックして,スキャン&メール送信で一件落着.

◇昼休みの歩き読み.今日は北風がことのほか強いが,めげずに戸田山本を読了(100頁あまり).〈leeswijzer〉に中澤さんからのコメントが入っていたので,こんな返事を返した:

イッキに読める科学哲学の本というのはあまりないですから,貴重ですよね.追って書評はアップしますが,第II部の科学的実在論に対抗する「社会構成主義」と「反実在論」の仕分けがクリアでたいへん勉強になりました.全体を通して気になる点は,ある科学理論が「真であるか否か」という点に関して著者がこだわっているところですね(とくに第III部).進化学とか系統学の世界での実践を考えたとき,ある仮説や理論が「真」かどうかっていうのは大した意味がないんですね.この点から考えると,著者のアブダクションの説明(pp.165-166)の第3項目「したがって・・・という仮説はおそらく正しい」というのは言い過ぎで,そんな余計な制約を科されると困ってしまいます.(みなか)

記憶が揮発しないうちに書評を書いてしまおう.

―― これまたついでに数年前にメーリングリストに流したブルーノ・ラトゥール『科学が作られているとき:人類学的考察』(1999月3月10月刊行,産業図書,ISBN: 4-7828-0121-1)を公開.

◇最近重版された,荒俣宏『世界大博物図鑑1:蟲類』(1991年8月刊行,平凡社,ISBN: 4-582-51821-4)が入荷したという書店からの連絡.ありがたい.これで『世界大博物図鑑』は全巻がそろったことになる.

◇「あうう」で「ぐわわ」で「げげげ」な月の始まり.

◇本日の総歩数=17587歩[うち「しっかり歩数」=9657歩/85分].全コース ×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.7kg/+0.5%.


--- het eind van dagboek ---