この本には,観覧車への著者の思い入れが随所にあふれているという感じがする.歴史的写真がとても多く,読んでいてとても愉しい.細馬宏通さんの快著『浅草十二階:塔の眺めと〈近代〉のまなざし』(2001年6月8日刊行,青土社,ISBN:4-7917-5893-5)と相通じるもの(対象物もそうだし,著者のスタンスも)を強く感じる.
昔の観覧車ってスリルがあったのですね.つくりは小降りでもぴゅんぴゅん回っているというイメージが浮かぶ.空高く上がって下界を見下ろすパノラマ的快感(と震え)は,現代人でも当時の人たちでもきっと変わりはなかったのだろう.観覧車のルーツをさかのぼる「旅」の途上で,さまざまな“祖先的”形態をもった観覧車の様式がかつてあったことを読者は知る.著者はそのような発明品としての観覧車がどのように時代的にまた地理的に伝えられてきたのかを推測しようとしている.日本に輸入された観覧車のルーツ探索や日本純国産観覧車の起源など,本書ならではの謎解きが随所に潜んでいる.
世界の観覧車の起源を論じた前半の章はもちろんだが,それ以上に,日本における観覧車の歴史をたどった第3章が印象に残る.博覧会や遊園地の古写真や絵葉書そして特許出願書まで調べ尽くした経緯が綴られている.著者は,当時の遊園地・興行場にあった観覧車や廻転車のBGMには,三拍子のジンタ〈天然の美〉がとてもよくとけ込んでいたと指摘する.観覧車のたどった足跡を通じて,観覧車が置かれた場−博覧会・遊園地・デパート屋上など−そのものの盛衰とともに,人々がどのような娯楽を求めてきたかの社会史にも連なっていく広がりを感じさせる.オブセッションを色濃く漂わせる力作だ.
三中信宏(13/February/2005)