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日録2003年9月
30 september 2003(火)
・「これではいかん」と一念発起?して午前3時起き(いつものことやんという陰の声あり)――本屋をちょこっと徘徊してから,研究所に出動.
・ふと思い立って,オルフの〈トリオンフィ〉のCDを聴いてみたりする.ヴァーツラフ・スメターチェク&チェコ・フィルの録音.ちょっと前だったら,〈カルミナ・ブラーナ〉ばっかり突出していて,他の2曲の録音がほとんどなかったけど,最近はいくつか入手可能ね.確かに「Sprach」の「Gesang」ですなあ――〈♪E〜go,E〜go,E〜go sum abbas Cucaniensis♪〉とか.いかんいかん,お仕事お仕事.
・お,そーですか,新しい進化学のシリーズ本の企画ね.
・さくさくと新刊チェックとか→TRC1342号
・太田邦昌書誌作成のため,一度,東大に情報収集に行く必要がある.生物測定学教室には太田氏の卒論以降のdissertationsが残っているはずだから.
・アマゾンから連絡あり――〈PAUP*〉のユーザーズ・マニュアルは出版のめどが立っていないとのこと.(...)
・久しぶりに〈アンティゴネーの勝利〉を通して聴いたが,このオスティナートはサブリミナルに刷り込まれそう.音量はもちろん〈カルミナ・ブラーナ〉の方が上まわるが,浸透圧は〈アンティゴネー〉に軍配.打楽器,たいへんだぞ.
・今日は快晴で湿度も低いというウォーキング日和.3kmほど歩いてみる.ほほー,快適.
・なーるほど,〈Mesquite〉の基本的な入出力系がなんとなくわかる――
  • 「NEXUS」形式のデータファイルを用意し,〈Mesquite〉で読みこむ.
  • 〈Mesquite〉自身にも系統樹探索能力はあるが,遅い(「Taxa & Trees」→「Make New Trees Block From」→「Tree Search」と進むと発見的探索が可能.ただし,NNIとSPRのみでTBR branch-swappingはなし).
  • したがって,あらかじめ〈PAUP*〉など別のソフトで系統樹探索を前もってすませておき,計算結果をツリーファイルとして保存する.「Taxa & Trees」→「Get Files with Trees」により,外部のツリーファイルを参照する.
  • このとき,「Link」と「Include」という2種類の参照方法がある.「Link」を用いると,外部のツリーが参照されるだけで,データファイルは改変されない.一方,「Include」を指定すると,ツリーファイルに含まれているツリーを新しい「Tree Block」としてデータファイルに付加する.
  • いずれの場合も,〈Mesquite〉終了時には「ファイル保存」の問合わせウィンドウが現われる.同意すると,「Mesquite」ブロックを含む形式のデータファイルに改変される.このスタイルは〈MacClade〉とほぼ同じ.
以上を〈Mesquite〉コマンドで示すと――

Mesquite > openFile
Opening file
at Tue Sep 30 10:09:43 GMT+09:00 2003
Location: C:\paup95NT\Sample NEXUS files\test.nex
Reading NEXUS file test.nex
Reading block: taxa
Reading block: characters
Reading block: assumptions
Reading block: Mesquite
File reading complete (file test.nex)

Manage TREES blocks > linkTreeFile
Reading NEXUS file test1.tre
Reading block: trees
File reading complete (file test1.tre)

Manage TREES blocks > includeTreeFile
Reading NEXUS file test2.tre
Reading block: trees
File reading complete (file test2.tre)

――上の場合,データファイル(test.nex)から計算したふたつの外部ツリーファイルのうち,リンクされた「test1.tre」とインクルードされた「test2.tre」では扱いが異なっている.リンクは毎回張り直される必要があるが,インクルードしてしまえばツリーファイルはもう不要になるから.
・とりあえず,これで〈Mesquite〉へのデータとツリーの出し入れの問題は解決した.
・東京大学出版会から献本2冊――小池裕子・松井正文(編)『保全遺伝学』(2003年5月30日刊行,ISBN: 4-13-060213-6)と石橋信義(編)『線虫の生物学』(2003年6月16日刊行,ISBN: 4-13-060214-4).※ありがとうございます.『保全遺伝学』よく売れてるようですね.タイムリーな出版だと思います.
・『ルネサンス哲学』の書評をやっと書き始める.※午後に書き終わる.
・「ルネサンス」というと一般的なイメージとして,自然科学には関係ないものと考えてしまいがちだが,それは美学者ブルクハルトのルネサンス観,あるいはもっとさかのぼって古代文芸を再発見したペトラルカの人文主義観のバイアスを受けた先入観だったことを上記『ルネサンス哲学』を読んで強く感じる.確かに,人文系・自然系という区分がなかったのが当時の哲学思想の特徴だとすれば,自然に関わる思想(自然哲学)もまた思想としての系譜を持ち続けていただろうから.
・そういえば,数年前に出た「自然哲学史」の本をついでに読み返してみたのだが,いい人選してるじゃないと納得する――『われわれは「自然」をどう考えてきたか』.宣伝がイマイチだったようですけど,この『Klassiker〜』シリーズにはなかなかいい巻が入っている.もともと『Klassiker der Biologie』というタイトルで出版される予定だった同じ出版社の『Darwin & Co.』は2巻で1100ページを越える大著.
・都立大からOHPやら本やら,講義資料が返送されてきた.アンケートを集計したり,レポート課題を受講者に出したりしないと.
・夕方になって『ルネサンス哲学』の書評が〈bk1〉に掲載された→オンライン書評
・夜,筑波大の学生さんから〈PAUP*〉と〈ModelTest〉に関する質問メールあり.〈ModelTest〉で出力される最尤法のオプション設定「Lset」の指定センテンスをそのまま距離法のオプション設定「Dset」にペーストすれば,近隣結合法でも大丈夫ですよ.
・明日は急遽,故・太田邦昌氏の足跡をたどるべく,東大農学部の生物測定学教室と国分寺の東京都立大学を探査に行く.「秋のプチ遠出」ということで.※夜,東経大の総務にお願いメールを打つ.ついでに同大学図書館で英文紀要のバックナンバーを調べて,太田論文をピックアップする予定.故人のご親族にもメールして,いくつか問い合わせをした.昆虫学会での若手懇談会〈太田邦昌追悼シンポジウム〉が近づいているので,その準備をしないと.
・本日の総歩数=16962歩.※なんでだろー,こんなに歩いた記憶なし.???
29 september 2003(月)
・快晴の秋晴れ――小学校では,先日の台風のときに決行して挫折した運動会の「積み残し競技」を消化しました.リレーとか綱引きね.ご苦労さん>子どもたち.※やっぱり10月に運動会は実施してほしいね.天候を考えれば.
・集中講義が終った解放感を満喫したいところだが――そーも言っていられないという現実は「身から出た錆」か,はたまた「馬の耳に念仏」だからか.※1992年に京都で開催された万国地質学会議(IGC)の参加者には,日本語の諺がプリントされた和手拭が配られた.ぼくのは【身から出た錆】,となりの堀寛さんのは【馬の耳に念仏】.笑っていい? それとも,苦笑を噛み殺す?
・お,〈浅草十二階計画〉のThe Beachが数週間ぶりに復活している.なんと,細馬さん,アルルからマルセイユを経てフィレンツェ,ヴェネチアを制覇,フランスに戻り,さらにロンドンとは.ああ,うらやましい1ヶ月のご旅行.
・このご時世,アメリカからの船便は2ヶ月もかかるのねー――はいはい,7月末にニューヨークで大量の本を買ってしまったストランド書店からの船便が今日になってやっと到着.ブリューゲル画伯もボッス画伯もお疲れさまでした.リーフェンシュタール監督にいたっては写真集が届く前にご本人が亡くなってしもたもんな.今日届いたのは,ダーウィン関連本も含め,しめて11冊.重量にして25kg.
・思いがけずに本がたくさん届くとなんとなくウキウキとして,着便本のリストをつくったりして――
  • Philippe and Francoise Robert-Jones (2002), Pieter Bruegel. Harry N. Abrams, ISBN: 0-810-93531-7. $37.46.※Bruegel the Elderの画集.飛び交う寓意,ブラックなイメージ.
  • Nadin M. Orenstein ed. (2001), Pieter Bruegel: Drawings and Prints. Yale Univ. Pr., ISBN: 0-300-09014-5. $44.95. ※メトロポリタン美術館の展示カタログ.これまた味わいある画集.有名な「食物連鎖の圖」あり.
  • Wilhelm Fraenger (1999), Bosch. G+B Arts International, ISBN: 976-6410-40-2. $39.95. ※これが入手できただけでもストランドに行った価値あり.アヤシすぎる絵の連続.〈快楽の園〉の詳細極まりない分析.500ページあまりの別世界.
  • Angelika Taschen (2000), Leni Riefenstahl: Five Lives. Taschen Verlag, ISBN: 3-8228-6216-9. $19.95. ※つい,手が....
  • Thomas Barbour (1946), A Naturalist's Scrapbook. Harvard Univ. Pr., $9.00. ※掘り出し本.ハーバードの比較動物学博物館に勤務していた著者は,エドワード・S・モースと親友だったそうな.
  • G.G. Simpson (1953), The Major Features of Evolution. Columbia Univ. Pr., $15.00. ※誰もが知っている古典.ハードカバーで入手.同じ著者の『Principles of Animal Taxonomy』と同種の装丁.
  • E.J. Larson (2001), Evolution's Workshop: God and Science on the Galapagos Islands. Basic Books, ISBN: 0-465-03810-7. $8.95. ※勢いで買ってしまう.過去3世紀に及ぶガラパゴス諸島史.この著者,過去にアメリカでの進化と宗教の関わり合いをテーマに何冊か本を書いている科学史家とのこと.
  • H.E. Gruber (1974), Darwin on Man: A Psychological Study of Scientific Creativity. Wildwood House, ISBN: 0-7045-0094-9. $15.00. ※これまた目に入ったので買い物かごに入れたダーウィン史の古典.
  • Alan Moorehead (1969), Darwin and the Beagle. Harper & Row, $15.00. ※絵本をば1冊.
  • Richard Leakey (1979), The Illustrated Origin of Species. Hill and Wang, ISBN: 0-8090-5735-2. $12.50. ※すかさずもう1冊(笑).
  • Rebecca Stott (2003), Darwin and the Barnacle. W.W. Norton, ISBN: 0-393-05745-3. $18.71. ※ダーウィンの「フジツボ類」に関する分類研究をテーマとする新刊.
――うーむ,もう満腹でございますぅ.しばらくは動けませんなー.ストランド書店の絶壁のごとき本棚の隙間を縫うように探し歩いた日を思い出した.
・あららー,Thomas Barbour って,比較動物学博物館(MCZ)の館長だった人じゃない! MCZ史をたどった Mary P. Winsorの『Reading the Shape of Nature』(1991年,Univ. Chicago Pr., ISBN: 0-226-90215-3)にも詳しく載っていた.お見逸れしましたー.
・明日は月末.いろいろと“始末”しないといけないことがたくさんあるのだけれど....八王子にとんずらしたり,本の海に溺れたりしたし.
・本日の総歩数=9352歩.
28 september 2003(日)
・またも,多摩センターの朝を迎える.今日は帰るだけなので,気がラクさ.ゆっくりと朝ご飯を食べ,ウェブサイトがやっぱりつながらないことを確認して(もう...),チェックアウト.
・上り方向の調布駅での特急乗換えで,「たいへん混み合って〜」というフシギなアナウンスが流される.何ごとかと思えば,中央線の工事ミスでJRが三鷹と立川の間で不通になったままとのこと.新宿に着いても中央線快速が不自由な状態だったので,山の手線で遠まわりして常磐線にたどり着くことに.昼過ぎにひたち野うしく駅に到着.
・車中で,『アーレント=ハイデガー往復書簡』を半分以上読む.ハンナさんがマルティン氏に〈つれない〉というのは当たっていないような気がしますよ.単に,ハンナ発マルティン宛の手紙が「より多く現存していない」というバイアスがそう思わせているだけではないかなあ.もちろん,ストレートなマルティン氏は傍目も何も関係なしの〈べた惚れ〉のようですがね.
・マルティン・ハイデガーとハンナ・アーレントは,ともにカール・オルフの音楽に傾倒していたとのこと(書簡65,72).とくに,ハイデガーはオルフと個人的面識があったとか.オルフの「勝利3部作(トリオンフィ)」を成す〈カルミナ・ブラーナ〉(1936),〈カトゥリ・カルミナ〉(1941)そして,〈アンティゴネーの勝利〉(1951)のうち,ハイデガーは〈アンティゴネー〜〉の初演を聴いているようだ.そういうつながりがあったのか――

オルフの音楽もやはりわれわれの言う意味での音楽ではないし,今日言う現代という意味での現代音楽でもない.きみが正しく推測しているとおり,ことばの歌(Sprachgesang)だ,そして完全にリズム的なものから生まれている.(ハイデガー発→アーレント宛,1951年4月1日[書簡73])

――これって,〈アンティゴネー〜〉の初演を聴いてからの感想だと思われる.
・確かに,シェーンベルクの〈グレの歌〉に出てくるような【Sprachgesang】を純粋抽出すれば,オルフの音楽が出てくるのかもしれない.〈カルミナ・ブラーナ〉の“酒場にて(In Taberna)”の曲なんかそれに当たるかな.
・去年の今頃だったか,〈カトゥリ・カルミナ〉の打楽器エキストラ出演の話が舞い込んできたのだが,東京に出るのがつらいので断った.今になってちょい惜しかったな.
・つくばに帰還して「灰」と化す.再生するまで,しばしお待ちを.
・本日の総歩数=5098歩.
27 september 2003(土)
・京王多摩センターの朝の目覚め.今日も湿度が低く日射しの強い1日となるか.
・農水省のウェブサーバーがこの週末はメンテのため停止しているようで,週明けまでページの更新ができない(ナミダ).
・昨日,明け方につくばで〈ゆら〜っ〉と揺れたのは,はるか遠くの十勝沖地震の余波だったのね.出発前でばたばたしていたので気にもとめなかったが(茨城では地震は日常的のことなので).
・9時半頃にホテルを出発――日なたはやっぱり暑く感じる.午前の講義は,多変量データの統計解析の門前噺.主成分分析を例にとって,多変量の「次元を減少させる」意図について話をする.人間なんてね,しょせん2次元とか3次元の世界しか理解できないんだよー.4次元以上の世界なんか,そのままだと「わかったふり」しかできないのさ.
・あれれ,〈R〉で主成分分析(princomp)したときの主成分散布図の表示はどーすりゃいいんだろ?? 〈S-plus〉なら使えるコマンドが入ってないのねー.とりあえず,主成分の累積寄与率と各変量の因子負荷量を説明したので,当面の目的は達せられたのですが.
・お昼休みをはさんで,午後は大講義室に場所を移して,クラスター分析の講義.同じ多変量解析の手法であっても,手法ごとに「切り口」が違っていることを説明.数量表形学のデータ(〈MacClade〉のサンプルデータを借用)を例にとって,類似度指数とクラスタリングの手順を説明.そのあと,〈R〉のクラスター分析コマンド(hclustagnes)を用いて,デンドログラムを出力させる演習を行なう.
・最後に少し時間が残ったので,〈PAUP*〉による系統推定と関連するブーツストラップ解析を説明し,結果を〈Mesquite〉で表示しようとしたのだが,ありゃまー,〈Mesquite〉って外部のツリーファイルを参照できないのね.てっきり,〈MacClade〉のように〈PAUP*〉から出力した最節約系統樹を読みこめるものと思っていたので慌てる.今度〈Mesquite〉をデモするときには注意しよう.
・〈Mesquite〉はNEXUS形式のデータファイルを使うという点では〈MacClade〉や〈PAUP*〉とちがいはないのだが,ファイル内に《Mesquite block》というパーツがあって,そこに必要な情報をペーストしておく必要があるみたい.デモ・ファイルは確かにインプレッシヴだが,データ解析のツールとして使いまわすには慣れが必要だということを「教壇の上で」認識する.
――ということで,午後4時に全課程を終了.最後に,受講生からアンケートを集め,お開きということになった.ほぼ,白く燃え尽きたので,そのまま京王プラザホテル多摩に帰還.欲も得もなしとはこのことか.
・京大の堀道雄さんからメール――初版2500部が完売となったベゴン『生態学』は,いま第2刷が印刷中で,10月始めに店頭に並ぶそうだ.また,砂粒のごときミスを報告するページを京大出版会のサイトに開設する予定とのこと.
・本日の総歩数=21330歩.※こりゃ疲れるはずだわー.
26 september 2003(金)
朝6時前の常磐線二番列車に飛び乗り,つくばから逃走.接続がよくて,ほぼ2時間で京王線南大沢駅に到着.駅前のスターバックスにて「日録」を執筆中なり――
・車中では,『アーレント=ハイデガー往復書簡』を読み進む.こりゃ,まるでハイデガーの独演場じゃないか! 愛人ハンナさんはいったいどこに行ったんだ.鬼瓦みたいなマルティン君の顔ばっかり思い浮かんでしまうぞ――と言ってもしかたないか.少なくとも前半生については,ハンナ発→マルティン宛の書簡のほとんどが消滅しているわけだからね.マルティン発→ハンナ宛の手紙から推定するしかないというのは,かなり厳しいものがあるはず.※ハンナさんの小首を傾げる定番ポーズは昔からそうだったことをこの本で知った.
・この手の書簡集の編纂では〈編集者〉の果たす役割はとても大きいと思う.書簡が書かれた時代的背景とか当事者の心情まで踏み込んだ注釈があってはじめて読者はオリジナルな書簡の占める「位置」がわかる.その意味で,書簡集編集者は黒衣ながら伝記作家に近いスタンスをとる必要があるだろう.本書の編集者はいい仕事をしていると思う(これがスタンダードなのかもしれない).とりわけ,現存する書簡が断片的という制約の中で,半世紀にわたる往復書簡のスレッドをつないでいくという仕事の苦労が忍ばれる.
・『エルンスト・ヘッケル書簡集』を前に読んだときにも,書簡編集者の果たす役割の大きさを感じた.エルンストと若い愛人フリダさんのケースでは,元の書簡そのものは処分されたわけでは必ずしもなかったが,最初にそれを手にした編集者が文字どおり【ずたずたに切り裂いた】という経緯があって,まるでシュレッダーの破片から元の書簡群を復元するという作業を後の編集者はしなければならなかったようだ.その作業がいかに消耗的であるかは想像に難くない.よくやったと思う.
・基本的にプライベートな「往復書簡」とか「往復メール」って好きですよ,ワタシ.私的なやり取りならではの情報は貴重だと思います.ですから,ちゃんと読ませていただきましたよ>リリカさん,ダンケ.
・前夜は,「線形モデル(lm)」と「一般化線形モデル(glm)」の説明のためのOHPをかしかしとつくる(やっぱしOHPですかあ?).幾何学的説明が通りがいいのでしょうねえ.ただし,いまの生物系の学生さん,線形代数の基礎知識があやういということなので,ベクトルとか行列を見せるとばたばたと死ぬにちがいない.悩ましい.そーか,絵に描けばいいのか(と易きに流れる).図像の威力は絶大なり.※都立大の学生さん,待っててねー.ラクに成仏させてあげるしねー(\こらっ).
・中世からルネサンスへと続く思想史を生物学の点からとらえるには,分類学の思潮の系譜をたどるのがいいように思う.読了した書評本『ルネサンス哲学』の背景を探るため,しばらく放置してあった『La scala, la mappa, l'albero』を持参してきた.ライムンドゥス・ルルスからダーウィンまでの分類学思想をたどったこの本はたいへん役に立つ.本書の特徴は,分類学における【図像】(階梯・マップ・樹)のイコノロジーを踏まえて,その背後にある「体系化」の観念史に迫ろうという姿勢.まさにバッチリの本ですな.
――さてと,カプチーノもなくなってしまったし,そろそろ新大学の講義室に向かいましょうかね.「日録」読んでる学生さん,講義は10時半からやでぇ.遅れたら,逆さハリツケ!
・ぐふ〜〜,疲れましたわ....今日は,[一般化]線形モデルについて話しはじめ,分散分析の応用例として分割区法(split-plot)の実験計画を話題提供と〈R〉を用いた演習.午後は,引き続き回帰分析の演習.線形モデルについてはこれでよしとしよう(話題が広すぎてなかなか焦点が絞れない).休憩後に「〈R〉でブーツ」に入る.ブーツストラップ,ジャックナイフ,経験的確率分布などの話をしつつ,〈R〉でデモ.午後4時前に今日の講義はきりよくおしまい.明日は最終日(やっと!).
・午後4時半から,隣接する大講義室で昨日まで同じく非常勤に来ていた樋口広芳さんによる鳥のセミナー(「鳥の渡りと地球環境の保全」).その後,懇親会になだれ込むか?
――案の定,動物行動の凶悪な面々とともに駅前の中華料理屋に乱入.ずいぶんと摂取しました(ワタシは).樋口さん,相変わらず飲めないのねー(変わるものではないねんけど...).海外調査に行っても「飲めない・食べられない」だと確かにツライかも.
・午後10時半過ぎに京王プラザホテル多摩に転がり込む.今日はこのまま寝させてもらいまっさー.
・本日の総歩数=17491歩.※都立大サバイバルで歩き回り.
25 september 2003(木)
・昨夜から小雨がしとしとと,未明からごそごそと出勤.明日からの講義の準備など少々.予定していた講義内容は前回前倒し気味だったので,もう少し付け加えた方がいいのかもしれない.多変量解析のうちのいくつか(クラスター分析とか)は教材もすでにあるので,付け加えようか.
・こういうフリーソフトが出るとはねえ――〈Mesquite〉の「version 1.0」が22日にリリースされた.フリーでオープンソースの系統解析ソフト.開発者であるWayne and David Maddison は,かの〈MacClade〉の著者.さっそく,Mac G4とDell Latitudeにインストールしたが,なかなか惹きつけるデザインだと思う.何よりも〈MacClade〉のウリだった,ツリーエディターやチャート,グラフィックの機能がそのままWindowsやLinux環境で使えるというのが福音.もう〈TreeView〉は不要になるかな.
・〈Mesquite〉とモジュール構造をもっていて,特定の機能をもつパッケージをインストールしていくことで,どんどん拡張できるという長所をもつらしい.実際,すでに,いくつかのパッケージ(比較法とかブーツストラップあるいは分子進化解析)が組み込まれている.〈R〉に相通じる精神を感じる.
・まだ〈Mesquite〉の全容を掴みきれていないのだが,最節約法と最尤法による祖先形質の復元,系統樹の2D/3D表示,祖先形態の薄板スプライン復元など魅力的な(=講義に使えそうな)トピックが含まれている.多変量統計学の手法(主成分分析,正準変量分析,クラスター分析など)も含まれているので,明日からの都立大の講義でもひょっとして利用できるかもしれない.Javaベースのソフトウェアなので,MacOSXだとそのままダウンロードしてすぐ使えるが,WindowsだとJavaのインストールをまずはじめにする必要がある.
・業績評価に関する意見聴取があったり/腹減ってドイツパンを齧ってみたり/明日からの講義用OHPをばさばさと用意してみたり(早く電子化しなさいという声が聞こえたりとかぁ)/なんとなくこまごまと動いてみたり/筑波事務所に立ち寄ってみたり/〈Mesquite〉にハマってみたり(すげぇソフト.愉し過ぎ〜)/ちまっと本を読んでみたり/かくして,時間がない〜とアセってみたり....
・いまだに〈PowerPoint〉を使ったことがないので,講義や講演でのプレゼンといえば,〈T-Time〉かさもなければ〈Acrobat〉と決めている.それ以上に多いのが過去に貯えた数百枚のOHPシート.だいたいプレゼンの直前は時間に追われているのが常態なので,過去の資産運用につい頼ってしまう.時間があれば電子化できるのにという弁解は,いつまでも電子化しないとほぼ同義.
・それにしても,〈Mesquite〉のプレゼンソフトとしての利用価値はきわめて高そうだと実感する.まだ,デモ用データをいじっているだけだが,いくつかの点では〈MacClade〉を上まわっている.外部パッケージについてもこれからチェックしようと思う.〈PAUP*〉や〈MacClade〉と同じく「NEXUS」形式のデータファイルがそのまま〈Mesquite〉にも読みこめるので,これまた便利.
・〈R〉にも分子系統解析のためのパッケージ〈APE〉が用意されているけど.
・ふと思う――今月は【積み残し】がきわめて多くなるような気がする...(大汗).ひー.※早く京王多摩センターに出奔してしまおう.そーしよう.
・本日の総歩数=9964歩.
24 september 2003(水)
・今日は曇り空.気温は低い.
・明後日から都立大学の集中講義(後半戦)が始まるので,その準備もしないといけないのだが――それに到達するまでには,いくつかの雑用をかき分けての障害走.
・遅れていた『生物科学』の第55巻1号科学論特集」がやっと届いた.長らく肩の上に憑いていたものがやっと降りてくれたという感覚.お待たせした諸方面に報告しないと.
・それにしても,この号,登場し過ぎたかもしれない――出る前からすでにブーイングも聞こえている〈“みなか”の書評ワールド〉もスタートしたことだし,出る前から横槍の入った平嶋義宏『生物学名概論』なんてけちょんけちょんに書評したし(極悪共犯者あり),もうワタシは火刑になるかしらねー.(ぜんぜん懲りないヒト)
・本日の総歩数=9105歩.
23 september 2003(火)
・朝から秋晴れの快晴.勤労に感謝してほしい日(←主語あえて特定せず).
・ストーリーが錯綜する『ルネサンス哲学』――要するに,これまで【15世紀ルネサンス】の【人文主義】と一括りに呼ばれてきた思潮は一枚岩ではけっしてなく,場所と時間を異にする複数の思潮が併走しつつ,しかも系譜として連なっていたと言いたいわけか.点々と配置された思想家どうしがどのように接続していたか(いなかったか)を再構成する必要がある.連続した系譜としてとらえるかぎり,「中世はない」.
・行きつ戻りつする――

ルネサンス期と中世とを結びつける連続性や推移を曖昧にしてはならない.この点に注意し,ペトラルカや彼に続く人文主義者たちが「再発見」した学識をゆたかにするのに貢献した中世の学者たちの必要不可欠な活動を認識したうえで,われわれはルネサンス哲学の特質を,それまで未知だったか部分的にしか知られていなかった,またはほとんど読まれることがなかったギリシャ・ローマ思想の一次典拠への関心が,新たに入手可能になった文献によって急速に増大し拡大したことと特定できるだろう.(p.4)

――ペトラルカはルネサンス人文主義の「祖」.彼は地上の人間たちの運命を支配する【遇運】に振り回されることがあったとしても絶望してはいけないと説いたとか(p.268).古代ローマの〈遇運の女神=Fortuna〉のルネサンス期を通じてその位置づけがさまざまに変わる.リプシウスは〈Fortuna〉そのものを神の意思の現われと解釈したし(p.268),マキアヴェッリは力づくで〈Fortuna〉を屈伏させようとした(p.288).
・作曲家カール・オルフを一躍有名にした〈Carmina Burana〉は,その歌詞を13世紀のベネディクト会修道院に伝わる写本の詩から採った.曲の冒頭を飾る“Fortuna Imperatrix Mundi”(「世界の支配者たるFortuna」)は,トゥッティのオスティナートで「O Fortuna〜」と讃歌を絶唱する.まさに中世的な【遇運】のイメージを連想させる.これまたローマ時代から中世を通じてルネサンスにまで続く系譜といえる.
・午後は,松見公園を起点に筑波大学構内を一ノ矢まで往復ウォーキング.計7kmあまり.
・「中世」をネット逍遥していたら,〈Bibliotheca Hermetica〉というお城に到達してしまった〜.ああっ,引き摺り込まないでー.(ずるずる...)
・本日の総歩数=15794歩.※筑波大学,とにかく広過ぎ〜.(松見←→一ノ矢を往復するのが非常識って?)
22 september 2003(月)
・台風は未明に関東の南岸を通過.とくに風雨が強まることもなく,肩すかしのように天気は回復へ.午前5時の気温は「14度」――こりゃ,衣更えか(ウソ).
・飛び石連休に挟まれたエアポケットのような勤務日だが,こなすべき雑用がいくつか置かれる.(盛り下がる...)
・おお,こういう質問があると,ちょっと盛り上がれるか――

系統解析などで使われる“patristic distance”という用語ですが、日本語訳として定着しているものはあるのでしょうか? 適当な訳語がないとした場合の話ですが、新たに作るとすれば、どんなものがいいでしょうか? なぜこんな変な原語が使われるようになったのかについて、私は不勉強にして知りませんので、適当な訳語を思い付きません。今流に片仮名にする手もありますが、およそ意味不明で、気持ちが悪いですし。

――確かに,体系学の用語には過去の遺産(というか「廃品庫入り物品」扱い)ともいうべきものがかぎりなくあって,思い出したように復活して使われることが少なくないです.〈Patristic〉――原義はキリスト教の「教父」を指すこの形容詞がなぜ系統推定の文脈に登場するかといえば,それが「系図」を意味する言葉だったからでしょう.したがって〈patristic distance〉の訳語は【系図的距離】でキマリです.定訳はもちろんありません.ですから,言い出しっぺの私の勝ちということで,この訳語を広めましょう(なんという厚かましさか....しかし,今までもこんなやり方でどんどん訳語を造ってきた前科から言えば大したことではない).
・しかし,話はこれだけでは終わらない――〈patristic〉という言葉は,もともと数量表形学の類似度概念を規定する用語のひとつとして登場したという出自があるから.〈Patristic similarity〉という表現は Cain and Harrison (1960), Phyletic weighting. Proc. Zool. Soc. London, 135; 1-31 に初出する.共通祖先に由来する〈patristic〉類似度と個別に獲得された〈homoplastic〉類似度の和として表形的類似度を定義することにより,全体的類似度という概念が成立する.ここでの〈patristic〉は共通祖先から由来するという語義をもち,進化的な意味での〈homologous〉とほぼ一致する使われ方をしている.なぜ数量表形学者は通りのよい〈homologous〉を捨てて,〈patristic〉なる不自然な言葉にこだわったか? それは,数量表形学にとっての〈homology〉とは操作主義的な概念(Niko Jardineの“operational homology”1969年)であり,進化的な意味を含意しなかったから.※この点は,そういう操作主義が貫徹される前のSokal and Sneath (1963)『Principles of Numerical Taxonomy』を見ればわかる.表形的関係を構成するものとして「Homologous (patristic) relationship」と併記されている(p.222).〈patristic=homologous〉とみなしてかまわないという証拠だ.
・しかし,〈patristic distance〉という言葉は,今では〈patristic similarity〉とは異なる系統学的な意味をもたされている.それは,経路距離〈path-length distance〉あるいは樹距離〈tree distance〉という,より通りのよい名称で知られている概念と一致するように思われる.上で提案した「系図的距離」という訳語は,この認識を踏まえて造ったものです.
・現代的な〈patristic distance〉の用法をたどると,36年前の Steve Farrisの論文に到達する:J.S. Farris (1967), The meaning of relationship and taxonomic procedure. Systematic Zoology, 16: 44-51.彼の定義は下記の通り:

個体群間の patristic difference とは,集団を結ぶ系図線(phyletic line)に沿う,生物の単位形質の変化の関数である.(p.46)

全体としての patristic difference は,単位形質の patristic difference の総和である.(p.47)

・つまり,「樹(tree)の上で点と点とを結ぶ枝の長さの総和」として定義される距離概念がここで導かれる.数量表形学的な意味での類似度は操作的分類単位(OTU)の間の距離を示すのに対し,系統学的な意味での距離は樹の上で結びつく点(OTUとHTU)間の距離という意味合いがある.したがって,Bunemanの「4点条件」に示されるような距離の計量性に関する制約(相加性とか超計量性)が課せられる.グラフとしての樹の上で定義される距離が patristic distance ということ.
・〈Patristic〉という語に対して,Sneath and Sokal『数理分類学』(1994年,内田老鶴圃,ISBN: 4-7536-0117-X)は「父傾」(p.46)なる珍妙な訳語を与えている.そりゃないでしょう.というか,「父系」のマチガイではないのかな? いずれにしても,この言葉のもつ実質的な意味の理解に資する訳語ではない.だいたいこの訳本,トンデモな新造訳語のオンパレードで,ページを開くたびに原書と対応させては,「あほう!」「たわけっ」「ばーか」などと毒づく始末(故太田氏が憑依したみたいに).共表形相関係数だって「コーフェン相関係数」(p.321)などと訳されていて,もう話にならん.〈Cophenetic〉がどーして「コーフェン」になるの?? とりわけ悪質なのは,文中に原語を併記していないので,原本をもっていないかぎり相互チェックができないという点.出版後10年も経っているのでどーせ絶版になっているだろうけど,Sneath and Sokal の歴史的な本が泣くでー,ほんま.おおよそな訳語付けてもバレるねんでえ.見ていると腹立つので,用が済んだら即座に本を閉じる.
・「日録」をプリントアウトされているとは感激でございまするぅ.ぺこぺこ.祟ったりしません?
・あ〜あ,どこまで続く雑用ぞ.
・午後になって,やっと日射しが戻ってきてくれた――おだてたら,とたんに西日で居室は真夏日.もお,ええっちゅうねん!
・本日の総歩数=9817歩.
21 september 2003(日)
・台風15号接近中――未明は涼しい,というか寒い.今日は10月下旬〜11月上旬の最高気温だそうな.20度を切るということか.数日前の暑さはいずこへ.
・こういう閉塞な日は活字に溺れましょ――『ルネサンス哲学』を読了.いやあ,錯綜してるねえ,これは.ヨーロッパのいたるところで,追われたり捕まったり焼かれたりしながらも,絶えることなく〈異説〉が出現する.筋書きというよりはオムニバス形式がふさわしいのか.
・中世的な形而上学の崩壊を述べる最終章にはこんなくだりが見える:

デカルトが過去に背を向けることができる前に,過去は拒絶しても安全な状態にされる必要があったのであり,形而上学においては,この大きな哲学的勢力の馴致を概して無意識に行なったのはルネサンス期だったのである.道徳哲学の場合と同じように,形而上学的確信への最大の脅威は,懐疑主義者からの教条への正面攻撃ではなかった.もっとも,彼らの懐疑はそれ自体として十分破壊的だったのだが,よりいっそう手強く狡猾な敵は,複数の権威だった.ヴァッラ,フィチーノ,スアレス,カンパネッラが提唱したもののような,多様な形而上学的主張あるいは形而上学への態度のどれかを選択するという展望は,その信条においてあれほどよく統合されていた文化にとっては恐るべき自由だった.形而上学は,ルネサンス期には,遠くにある哲学的活動ではなかった.数世紀にわたるスコラ学者の争議が宇宙論,倫理学,神学の基盤としての形而上学の役割を堅固なものにしていたため,形而上学のために命を落とす人々もいた.三位一体の信仰のような不可侵の教説,聖体拝領のような神聖な儀式,宇宙の中心に置かれた惑星を人間が支配していることのような基本的な前提が,しっかりした形而上学的基礎を獲得していたのである.この基礎を捨てて新しい土台を築くこと,あるいは何の土台も得られないことは,まったく恐ろしいリスクだった.(pp.360-361)

すなわち,安心して捨てられるとみなされたから衰退したということ:

二千年生き永らえてきた後で,十七世紀にベイコン,ガリレオ,デカルト,ガッサンディ,ホッブズ,ボイル,ロック,ニュートンらがそれを反駁したり放棄したり単に無視したりしたとき,古い流儀の形而上学・自然哲学は衰退した.(p.360)

――とすると,学問分野によって「捨て去られやすさ」にちがいがあってもいいのかな.物理学と生物学での〈温度差〉みたいなものを念頭に置いています.
・中世から近世への中継点としてのルネサンスは,時間的にはもちろん内分点であるわけだけど,内容的には必ずしも「過渡的空疎」というわけではなく,それ自体としての中身をもっていたと考えるべきなのかもしれない.この本を読んだだけでは,その表面を引っかいたに過ぎないだろうが.
・いま目の前に『中世哲学史』とか『中世思想原典集成・別巻』があるのだけど,そこまで手を伸ばす?それとも引っ込める?思案してます.
・台風でもしっかり新刊チェック→TRC 1341号.※『バージェス頁岩化石図譜』が今週のイチオシか.
・読了――田村功『ベルギービールという芸術』(2002年9月20日刊行,光文社新書061)※飲みたい呑みたい喫みたい.とりわけ,後半140ページほどを占める〈ベルギービール名鑑〉がいいですわね.
・読中――小泉武夫『くさいはうまい』(2003年7月20日刊行,毎日新聞社,ISBN: 4-620-31635-0)※絶妙なタイトルですぅ(衝撃強し).それにしても,想像を絶する「発酵食品」があるなー.言っちゃあなんですが,〈発酵と腐敗は紙一重〉というよりも〈発酵と腐敗はおんなじ〉と理解した方が正しいんじゃないかな.食べる前から心理的抵抗に負けてしまう人は多いとは思うが.※読了!
・〈くさい〉といえばクサヤ――20年ほど前に神津島で教員をしていたジュネスのオケ仲間を訪ねて数日滞在し,島焼酎の【盛若】を飲みつつ,トビウオのクサヤをあぶってはかじるという夏休みを過ごした記憶がよみがえる.ムロアジよりもトビのクサヤの方がうまかったぞ.
・本日の総歩数=3663歩.※今日は一転「動かざること山の如し」.
20 september 2003(土)
・うー,台風の影響らしき風が未明から吹いている.さてさて,どーなることだろー.
***** 今日は9:00〜19:00という長期にわたって,計算センターがメンテに入るので,夜までは更新不能なんです.*****
――うぐぐ,風雨の中を小学校の運動会は強行.午前7時に打上げ花火が轟いたので,もう観念しました.保護者観客席にシートを敷いたり,テーブルを運んだりした.早朝から小学校との行き来(徒歩2分なんですが).その間にもすでにぽつぽつと雨が降りはじめて....おお,シートが風にぱたぱたと吹かれているではないか.
・運動会開始の時点ですでに雨脚はコンスタントに.シートはすでに水没して使用不能.テーブルもまた雨に叩かれて荷物を置くこともできず.カメラとビデオをもって駆け回る.ワタシ,いったい何してんでしょうねえ.
・雨雲はさらに厚く,そこら中の濡れ濡れ度アップ.予想通り運動会はお昼で打ち切りとなり,積み残し種目は木曜に実施ということでジ・エンド.むなしく水没していたシートをむなしく片づけ,さらに濡れ塗れ度を増しつつ撤収作業.気温も20度そこそこしか上がらず,疲労を重く引きずりつつ帰宅.※ま,延期したところで,この連休中は実施できないだろうし,しかたなかったんでしょうな.(「運動会なら10月にやれよっ」という声も)
・午前いっぱい雨に叩かれて弱ったので,午後は『ルネサンス哲学』にひたすら逃避.権威アリストテレス主義と新興プラトン主義との一騎討ち.マルシリオ・フィチーノ,行きますっ.本書で逆説的なのは「ルネサンスに哲学ははたしてあったのか?」という問題提起.中世の延長線上にルネサンス哲学は確かにあった;しかし,当時の人文主義者の果たした役割については否定的な見解が皮肉をこめて書かれている.この辺が本書のメッセージといえるか.
・アリストテレス派の学的伝統が中世を通じて覇権を握り,ルネサンスでは新興のプラトン学派の再発見によりその中世的権威が崩れた――という筋書きではとらえきれない物語をこの本は示している.個々の人物の伝記を方々に配して,当時の思索の多様性を具体的に示している点で魅力的といえる.
・個人的な関心としては,生物に関わる自然哲学や自然魔術に関する知的系譜についてもっと知りたいのだが.本書はあくまでも全方位的な教科書であって,個々の細目テーマについては『磁力と重力の発見』みたいな別の本が必要なのだろう.
・本日の総歩数=11205歩.※学校とのピストン往復の賜物さ.
19 september 2003(金)
・こ,これはあ...――〈週刊少年ジャンプ・アシスタント系統図〉.一子相伝という流派もあれば,コウモリガのごとく仔をばらまく親もいたり.いやいや,楽しめますです.ついpng画像を保存したりして.森山和道さん,感謝.※なあるほど,「本宮ひろ志→江川達也」という祖先子孫関係になるわけね.
・久しぶりに蜂須賀正氏関連――先ほど,蜂須賀正子さんからドードーの新刊が送られてきた.夏前に予告されていたオランダ人(国際ドードー学会会長)の手になる本:Jan den Hengst (2003) 『The Dodo: The Bird that Drew the Short Straw』(Art Revisited, ISBN: 90-72736-26-5).
・ざっとブラウズした感触では,全篇カラー図版満載の本で,絵を見ているだけでも十分におもしろい.よくこれだけドードーの絵を集めたという感想.この点では,ピント-コレイアの新刊ドードー本『Return of the Crazy Bird』よりはずっと視覚的かな(文章はどーでしょう?).
・日本生物地理学会の和文誌(今年末に出版予定)では,この4月の年次大会で行われた蜂須賀記念シンポをベースに特集を組む予定.ということは,ぼくもまた原稿を書かねばならないのだ.
・午後は組合の定期大会で数時間の拘束――ドードー君を連れていくかな.
・中澤港さんの『Rによる統計解析の基礎』(→pdf版)が,いよいよ来月上旬に出版の運びとなったそうだ.ちょうど農水省統計研修の時期と合うので,紹介させていただきますね.
・山本義隆著『磁力と重力の発見』(全3巻)はすでに4刷にかかったんだそうな.『アエラ』にも記事が載ったくらいだから,注目度高しとは思っていたが.※計1000ページ超のハードカバー本を持ち歩くのは,イマの学生さん? それとも往年の学生さん?
・台風15号がおいでになるそうで――明日は小学校の運動会なんですけど....
・本日の総歩数=9853歩.
18 september 2003(木)
・虚像と実像――『季刊・本とコンピュータ』の最新刊(2003年秋号)が発売された(9月10日刊行).な,なんだ,表紙を飾っている1970年代フォークソング世代を髣髴とさせるこの蓬髪痩せ男はっ! え,これがかの〈小熊英二〉さん? まじ? げげー.イメージと全然ちゃうやん....もっと筋肉質っぽくて,ヒゲがぼーぼー生えて,日焼けして...,ペンタゴンでもピョンヤンでも九龍城でもどこにでも潜入してきましたっ!て顔してるはず――などと勝手に「泣く子も黙る〈小熊英二〉」虚像を創り上げていたワタシがおばかだったのねえ.
・「活字」経由で(メール媒介でもいいけど)どのような個人イメージがかたちづくられていくのか,実像と虚像の乖離はどのように増減するのかは,社会心理学的におもしろいテーマです.
・ワタシの場合もつい昨日たまたまこんなページに遭遇しました→〈コミュニケ〉の「2003年2月12日:駒場の梅」の一節で,「スマートな身のこなしが鼻にかかるような三中は〜」などと描写されているのを目にして,思わず「だ,誰のことー,それ,ボクとちゃいまっせー」と悶絶モノローグしたのでした.
・いまは立命館大学の産社に移られた生物学史の松原洋子さんが東京におられた頃の話――生物学史研究会の集まりで初めてお会いしたとき,「三中さんて,痩せこけて銀縁眼鏡をかけて,神経質そうにこめかみをヒクヒクさせている人かと思ったら,山から降りてきたクマさんみたいだったのでもうビックリ〜」と言われましたな.
・ま(汗),それほど「構築されたイメージ」と実像とはちがってしまうのだということ.
・今号の『本とコンピュータ』はいろいろ拾い物あり.細馬宏通さんの〈親指記〉の記事が載っていたりする(p.12)――そういえば,最近「www.12kai.com」が閉まっているが,著者はこの時期またどこか外国を放浪しているのかな?
・ハングル文字のカリグラフィーはとても魅力的だと思う.
・インドネシア調査行(9月4日〜17日)から帰国されたばかりの中澤港さんが,さっそくレポート〈Sumba2003〉を公開されている.調査の内容よりも,かの地での日々の食事のようすに惹かれてしまう餓鬼,それはワタシ.いろんなもんが乗っかったごはんはとてもおいしそう.ごちそうさまでした(こら).
竹中明夫さんのページにリンクを張っていただきました(ども).ワタシの日録が【饒舌に展開】との評も(ほほー).大統計大曼荼羅の〈写経〉までしてしまったと言う在家修業中?の竹中さんですが(9月8日),ここでもまた【個性的な声色の人】という評が.――しか〜し,「個性的な声色」とか「饒舌」というのは,まさに巨象...とちごてぇ...虚像だったりするかもしれないのですよ.何を隠そうワタシは実はかつて口下手で無個性な子どもだったはず――母親の証言によると,その昔,深草に住んでいた頃は「知ったはるぅ,三中さんとこのボン,のぶちゃんなあ,3つになってもまだしゃべれへんねんてぇ/え〜,ほんまぁ,ちょっと遅れたはるのんやろかあ?」というのが近所の評判だったりしたのだ.※「それがどーした?」とかツッこまんといてね.
・思い立って〈紐育あたふた日録〉にデジカメ写真をぺたぺたと貼り付ける.もう2ヶ月が経ったのね.
・買ったばかりの『アーレント=ハイデガー往復書簡』の目次と書影も載せて,と.秋の夜長のには事欠きませんな.
・ふと疑問――【書影】ということばは「書物の外観」という意味でいいのでしょうか.ふつうの国語辞典には載っていないですね.それどころか,いま調べたら日本国語大辞典(第2版)にさえ載っていない.それほど新しい言葉ということですか? フシギだ.※【書影】の読みは【しょえい】でいいんでしょ?
・かの〈哨戒地点〉によれば,ぼくは「長身・細身・眼鏡でモードに身を包み、軽やかに街を闊歩する」(9月18日)というイメージだそうな! うひゃひゃ,イメージ壊して,ごめんねー.>もひかんウォーターボーイN部クン.(ちゃう?)
・お,上記〈コミュニケ〉著者さんからもメールをいただきましたです.わざわざすみません.結果的に誤解ではないと思うのですが.※そうですか,太田邦昌さんが私有していた志方守一著『生物学のための群論入門』を明倫館書店で入手されたのですか.一期一会でしたね.
・本日の総歩数=7278歩.
17 september 2003(水)
・未明に電気街の〈Book Ace〉を徘徊する――24時間営業の本屋がつくばにもやっと出現したので,未明派にとっては朗報.Tsutayaと合体した店舗なので,昼間は当然混み混み.でも,明け方は空いているので,ときどき覗きに行く.やはり雑誌・コミックと文庫・新書が中心だが,ハードカバーも新刊の入荷は早いように思う.ただし,入庫本の管理はやや荒れていて,同じ本がちがうコーナーに分断分布していたりとか.
・つい勢いで,出たばかりの郡司勇著『一湯入魂温泉』だの清水義範著『やっとかめ!大名古屋語辞典』だのを買ってしまう.
・「名古屋語辞典」はなかなかおもしろい.古いことばは京都語と重なっているようだ.たとえば,‘地味な’という意味の「こおと」は,京都語でもそう言う(「はんなり」の対語として).『京都府方言辞典』まで引っ張り出してしもたがな.こんな本まで買うて,いったい何しとりゃーす?>ぼく.
・「一湯入魂」――前著『日本全国マル秘湯112選』はややワイルド野湯にこだわり過ぎた気がしたが,今回の新刊はその意味ではリーズナブル.いい温泉がピックアップされている.やはり「土類系」の温泉はばけもんですなあ.この本にも出ている津軽湯の沢温泉の「湯の沢山荘」だが,長年にわたる土類の析出物で,浴室の洗い場に洗濯板みたいな波々凹凸が生じていた.足裏にデモーニッシュな力をじかに感じとった.浴槽の湯面がマグネシウムの皮膜に覆われるというのも実にアクマ的.これに比べれば,すぐ近所の「なりや温泉」や「秋元温泉」の硫黄泉ははるかに現世に近い.もちろん,後二者もそこいらの温泉では足元にも及ばないわけだけど.
・おお,つい現実逃避してしまったー.また「一湯入魂」したいものだ.
・午前中は,所内事務連絡のためのミーティング.研究員の成績評価のための新システム案が提示される.処遇への反映?――基本的に消耗戦だと思う.研究者の【出力】が評価されるのは当然のことで,そのことは利己的に見ても望ましい.でも,その評価によって「個人の活性が高まるか」という点を考えると,研究者が盛り下がる評価のあり方はいくらでもあり得る.というか,ほとんどの評価方法はこの意味ではマイナスで,プラスになる道を発見するのは本当に難しいことだ.しかも,評価方法の論議は「瑣末なこと」が多々あるので,費やされる時間とエネルギーはばかにならない.さらに,毎年のように評価方法が変更されるという現状では,年柄年中「新評価案」が所内を乱れ飛び,そのたびに研究者の活動リソースは削られていく.ある評価方法の評価は研究者の「顔」を見ればわかるとぼくは思う.
・〈資料伝承学の広場〉というサイトと出会う.古典文献学(ギリシャ語テクスト)を題材として,もっと広い意味での「資料」の伝承過程をたどろうという意図が見える.興味深いのは,サイト作者がソーバーの『過去を復元する』にも関心をもっているということ.「非生物」系統学を進めていく上でなかなかいい着眼だと思う.今後の展開を期待しましょ.
・夜遅くになってまりまりからメール.科学技術振興事業団(JST)がらみのとあるワルダクミの形式的委員長になれというヒミツ指令.ふふふ,またワルイことですな.ふふふ,やりましょう.と,また二つ返事でOKの返信メール.たいていの場合,こういう軽薄体ですべてのものごとは決まっていくのだ.まりまり,スイス&アメリカ外遊,お気を付けて〜.オミヤゲ,待ってまーす.
・本日の総歩数=8850歩.
16 september 2003(火)
・明け方が涼しくなって,ホンマ快適ですわあ.
・今日は1日中JICA国際センターでの統計学の講義――研修生もそろそろデータが出そろってきた時期なので,個別の統計カウンセリングと計算方法の確認が中心になる.農環研でちょい事務的にもめたので,10時前にJICAに入る.
・はいはい,出るわ出るわ,データも問題点も.今年の実験デザインはさほど複雑なものがなかったので,その点では安心していたのだが.欠測値(missing data)の処理方法について講義.そして,いくつかのグループ実験については分散分析表の作成と多重比較の演習をする.エクセルで計算する研修生が多いのだが,「それくらいなら電卓の方がマシだ」とつい口調がキビシクなってしまったりして.
・ランチはいつもの〈ムングダール〉です.これを食べないとJICAに来た気がしない.豆のカレーって美味だと思う.いつも感じることですが.
・午後もまた噺の続き――ランチタイムを越えると,データがさらにわらわらと湧いて出てくる.おお,この悪夢のような要因実験はイッタイナンデスカア? ま,大筋では致命的まちがいがなさそうなので,ここ1〜2週間のうちにレポートは書けるんじゃないかな.みなさん,頑張ってねー.最後に,多重比較に関する若干の補足をして,午後4時過ぎに高座はおしまい.今年のJICA講義はこれにて完了.
・年に数日,こういう形式の英語の講義をしていると,スイッチが「カチっ」と変わるポイントがある.たいていは教壇に立って,研修生の顔を見れば「スイッチ・オン」になる.ずっとちがう言語圏で暮らしていれば,きっとスイッチは入ったままになるのだろう.ぼくの場合は,毎回短時間だけのことなので,カチっと入って,ぱちんと元に戻る.いったんオンになれば,日本語も英語も〈流れ〉としては何もちがいがない.要するに,そうそうスタイルは変えられるものではないということ.
・強烈な西日に射られつつ,徒歩にて農環研に帰る.今週からもう冷房は切られているので,西向きの居室はすでに生存不可能空間と化していた.これからしばらくの間は,向かいの別室に避難しないと.
・北大図書刊行会から『雑穀の自然史』届く.この『〜の自然史』シリーズもすでに長く続いていて,独自の蓄積ができつつある.今回の新刊は民族植物学(ethnobotany)的な内容も含まれているので期待している.
・本日の総歩数=16834歩.
15 september 2003(月)
・半分ほど再生が進む.せっかくの休日なので,できるだけ「かたち」を戻しておかないと.もうちょい.
・箱崎の導師から〈R〉布教を十字軍するヒミツ工作の指令が飛んできた.ふふふ,来年のおよび夏の釧路ですね,ふふふ.
・日射しはしつこく強いが,湿度が低くなってきたぞ.朝晩は20度前後の涼しさになってきたし.これまた,もうちょい.
・週イチの新刊チェック→TRC 1340号.※『島崎こま子の「夜明け前」』が気になる(未発表資料をいろいろと掘り起こしてあるみたいだし――「アベラールとエロイーズ」なんていう見出しも).丸田〈廃墟〉本,どーするか.大修館書店の『日本語大シソーラス』にも関心ベクトルが向く.
・〈R〉関連――岩田洋佳さんから「〈R〉で【SHAPE】」のpdfファイルが送られてきた.〈R〉で行なう楕円フーリエ解析.感謝.租界Rの最後からリンクを張る.同時に,プリントアウトして,統計研修用テキストの原稿にする.これで統計研修の「〈R〉演習」はだいじょうぶ.明日,他のテキスト原稿とともに,農林水産技術会議事務局に郵送する予定.
・日がかげるとともに気温がするすると落ちていく.
・夜になって,『生物科学』誌の編集委員の間で同誌の「書評」システムについてのメールがやり取りされた.書評依頼してからの原稿の集まりがいまひとつふるわないとの上田恵介編集長の指摘がきっかけ.松田裕之さんは書評締切を設定して取り立てを厳しくしてはどうかという意見.ぼくは「Review Editor」の設置を提案.佐倉統さんは,ぼく自身が Review Editor になってはどうかと言う(個人的には元締めするよりは,書いている方がラクでいいのだけれど).松田さんは,「三中はreviewerを育てるべきだ」との意見.でもねー,今号からは【みなかコーナー】ができることだし,しばらくの間は息をするように書評を書く習慣を続ける必要があると思うけど.
・基本的に書評者は「育つもの」であって「育てるもの」ではないとは思う.しかし,そのような状況(書評する機会)が増えれば「育ちやすく」なる.ぼく自身,森山和道さんにbk1書評者としてピックアップされたという巡り合わせがあって,いろいろな本を書評する機会が増えたことは確か.そういう機会を他の人にもということなら,まあ考えてみないこともないが.旬のを手放す心理的ハードルをどう越える?>くまさん.
・サイエンス系の書評を載せるメディアが日本にはほとんどないので,『生物科学』誌がその役割を担うというのはたいへんいいことだと思う.できるなら,よくある紹介書評を越えた書評論文も許容されるようなシステムがあってもいい.系統学の『Systematic Zoology』や『Cladistcs』誌は刷上り10ページを越える「書評」が少なくなかった.進化学の『Evolution』誌にもときどき大きな書評記事が載る.生物学の総説誌である『The Quarterly Review of Biology』にいたっては,毎号その大半が長短取り混ぜた書評で埋まっている.科学史に目を向けると,これまた多くの専門誌が書評に数10ページを割くことは珍しくない.それくらいの位置づけとウェイトが書評にはもともと与えられているという事実を知ることがまずはじめ.
・本日の総歩数=4933歩.
14 september 2003(日)
・【灰】にも日曜日はやってくる.
・〈かえる研究日誌〉によると,広島市内の「稲生神社」には,“京極夏彦・荒俣宏・水木しげる”寄進による幟が奉納されているとか.彦坂さんが書かれているように三次の「稲生物怪録」に因むのは間違いないだろうし,最近立て続けに関連本が出ているので(荒俣宏『平田篤胤が解く稲生物怪録』角川書店),《怪》グループが寄進したのかもね.
・ん? Nelson Papavero たちのいう『直観集合論(Teoria Intuitiva dos Conjuntos)』の「直観」の意味ですか? ヒルベルト-コーンフォッセンの『直観幾何学』に近いのかな〜と直観的に感じるのですが.
・丸谷才一編著『ロンドンで本を読む』をつくばで読む.確かに,イギリスでこれだけの〈書評文化〉が成立しているのはうらやましいし,書評者としての自信のありようには彼我の差が歴然としている(書評に割かれる頁数の物量的な差は言うに及ばず).それに,単に新刊書籍だけが書評ターゲットになるだけではなく,旧本の復刊や全集,辞書( OED みたいな)にいたるまで守備範囲に入るという.中山書店の『動物系統分類学』(全26巻)だって,怖じ気づかずに書評されていいはず.『中世思想原点集成』は?
・編著者は,イギリスの新聞や雑誌の書評欄は,たとえ大衆向きであっても充実しているという.学術誌の書評ページの扱いだって同じことが言える.色づけとか装飾ではない,もっと重要な役割が書評コーナーには本来与えられているのだと思う.
・国立西洋美術館で〈レンブラントとレンブラント派:聖書・神話・物語〉という展示が9月13日から12月14日まで開催されている.機会を見つけて行ってみよう.
・本日の総歩数=4335歩.
13 september 2003(土)
・前夜のから復活した〈サンリオピューロみなか〉で〜す.さあ,今日も元気に〈サンリオピューロ大学〉...ちゃう...都立大学に行かないと.※早く「新大学」の名前を決めてねー(笑).
・朝10時半から午後4時までの連続高座――昨日みたいに暑いと,グレてやる....
・昨日のセミナーでも紹介した Peter Buneman の論文:

Peter Buneman 1971. The recovery of trees from masures of dissimilarity. Pp.387-395 in: F.R. Hodson et al. (eds.), Mathematics in the Archaeological and Historical Sciences. Edinburgh University Press.

は,先見の明のある論文だと思う.相加的樹計量(additive tree metric)を最初に導入した論文だけど,数量表形学のクラスター分析ではなく,グラフ理論的な意味での樹(tree)を距離から復元するために諸定理を与えたという慧眼ぶりを再認識.でも,この論文を直接目にしたことのある研究者はきっと少ないはず.ぼくは太田邦昌さんからこの本を譲っていただきました.
・午前中の講義は,正規分布の性質(正規変量の線形結合がやはり正規性をもつこと)を中心にして,分散分析における正規性と等分散性の仮定について話す.完全無作為化法の帰無仮説と対立仮説のもとでの偏差の分布を〈R〉を用いて説明.統計モデルについてじ〜わじ〜わと話す(季節はずれのアブラゼミのように).
・やっぱりグレてやるぅ.真夏日の昼下がり.この季節の33〜34度という最高気温は体感的につらいものがある.
・午後の講義も実験計画と分散分析の続き――乱塊法の1要因実験と2要因実験.ついでに,処理平均の差の検定に関わるt検定と多重比較における〈Holm補正〉と〈Bonferroni補正〉の話題.さらに,要因間の交互作用に関連して,「名づけ」が「もののけ」を打ち払い,不安を解消するという噺.きりよく,午後4時10分の定時に講義終了.みなさん,お疲れさまでした.
・〈R〉配布資料のマチガイをちょこちょこと発見.持続的とは言わないまでも,断続的にバージョンアップする必要あり.
・そうそう,〈R〉を講義のプレゼンで使うときは〈GUI〉設定をうまく設定してやると,プロジェクターで映したときの見え方がずいぶんちがいます.とりあえず,「font=18」&「bold」に設定したけど,背景色などをさらに調節するとベターかも.ぼくの場合〈R〉は何よりもまず「統計プレゼン用ソフト」なので,「見栄え」の調節はたいへん重要なのです.
・なかば【灰】になりつつ,帰路.つくばはとっても遠いのさ.集中講義後半戦の2週間後,再びここに来ることになる.そのときまでにはリーズナブルな気温になっていてほしいです.
・『ルネサンス哲学』を読みつつ,京王線→中央線快速→山の手線→常磐線と乗継いで,ほぼ【灰】化した状態でつくばに帰還.
・本日の総歩数=13976歩.
12 september 2003(金)
・午前5時起き――都立大は東京の西の果てなので,つくばからだと大旅行になる.午前6時には常磐線に乗っていないと心配. ――案の定,上野駅の人身事故で山の手線が止まって大混雑.神田までたどり着き中央線快速に乗換え.新宿で京王線にまた乗換え.南大沢駅に着いたのは午前9時.所要時間3時間なり(名古屋まで行ける時間やんか).駅前のスターバックスで遅い朝食&OHPの並べ替え.
・うぐ,この暑さはたまらん....
バクダン知事のおかげで東奔西走させられている可知直毅さん,チェコに外遊...じゃなかった...在外研究でもうすぐ43日間いなくなる鈴木準一郎さんに挨拶して,講義室へ.昨年,セミナーに使った国際交流会館の中会議室が会場.
・午前10時半からの講義は「概論」なので,いつも通り形而上学の話と統計学的認知についての高座.数式は何もなし.アブダクションによる推論と統計学的な「ものの考えかた」との関わりについても話す.
・午後1時過ぎからの講義は,データのばらつきをどのように定量化するかという話題.1要因完全無作為化法による実験計画と分散分析を〈R〉を用いてデモ&演習する.最後に,〈R〉による確率分布の演習.密度関数や確率分布関数の計算とグラフィクス.正規乱数のヒストグラムと標準正規分布への変換など.F分布についても少し触れる.午後4時に今日の講義は終わり.
・午後4時半から,同じ建物の大講義室でセミナー:「さりげなく数理系統学――進化学・統計学・数学との交わりとしての系統推定論」.50人あまりの参加者.
・セミナーの内容構成は,こんな感じで:

・プロローグ――数理分類学と数理系統学の系譜は異なる
・数理分類学(1):記号論理学派(1930〜1950年代)
・数理分類学(2):数量表形学派(1950〜1970年代)
・数理系統学のルーツ(1):離散数学からの影響(1950年代〜)
・数理系統学のルーツ(2):統計学からの影響(1960年代〜)
・数理系統学のルーツ(3):分岐学からの影響(1970年代〜)
・エピローグ――生物学・数学・統計学の交わりとしての数理系統学

・分類学と系統学が別である以上,数学的な観点からの「数理分類学」と「数理系統学」もまた系譜が別だというのが基本的な論点.ここでいう数理分類学とはWoodger-Gregg流の「記号論理学派(公理論的生物学)」とSokal-Sneath流の「数量表形学派(クラスター分析)」を含む.一方の数理系統学のルーツとして挙げたのは,離散数学・統計学・分岐学の三つ.それぞれエポックメーキングな論文・著作を示しつつ話を進める.質疑ののち,午後6時前にセミナーは終る.
・ド・リベラの『中世哲学史』は相当なクセ者ですよとは南部くんの弁.おそるべし中世,侮るべからずイスラム.
・東奔西走してきた可知さんのアレンジでパーティ.駅前イトーヨーカドー5階の中華料理店にて.うまかったっす.感謝.田中嘉成さん,どーもご無沙汰ね.前日まで北海道でマトリックスに憑かれていた可知センセは,宴会を途中退場して再び東奔西走しに大学に戻った.
・今日は睡眠不足と暑さと重労働のトリプルパンチで死にました.ゾンビとなって京王プラザ多摩ホテルにチェックイン.欲も得もなくと化す.RIP
・本日の総歩数=15417歩.※講義室内をうろうろしたからにちがいない.(クマか,お前は...)
11 september 2003(木)
・連日,真夏日&熱帯夜では季節感などまるで湧かない.
・来年,読売新聞社などの主催による展覧会〈栄光のオランダ・フランドル絵画展〉が東京と神戸で開催されるそうだ.目玉は,ウィーン美術史美術館所蔵のフェルメール作【絵画芸術】がアジア初公開となること.
・この絵,新聞報道では「画家のアトリエ」と訳されているけど,ふつうは【De schilderkunst】(が英語だと【The Art of Painting】)の方をタイトルにつけるはず.「画家のアトリエ」はこの絵の通称【De kunstenaar in zijn studio】の訳に相当するのかな.
・いずれにせよ,絵の中のモデル女性が扮しているのは,ギリシャ神話に出てくる歴史の女神クリーオー(Clio).日本にいらっしゃったときには,ぜひご尊顔を拝見に行きます.
・明日からの都立大学の講義とセミナーの準備に追われる.統計学の講義の方はまあいいとして,セミナーの素材集めと筋立てがいまするべきこと.
・セミナーの話題が歴史的なことなので,過去の本やら論文やらをごそごそと引きずり出してはスキャンしてjpegに.結局,60枚あまりの画像ファイルが溜まる.これでほとんど昼間の労働時間を費やしてしまい,夜になってからInDesignで貼り付け作業.50MBのpdfファイルを出力し終えたのは午前2時でした.眠た〜.
・本日の総歩数=8671歩.
10 september 2003(水)
・筑波大のYtowさんからメール:〈R〉が「フリーであるにもかかわらず,信頼の置けるソフトウェア」であるという書き方は,フリーソフトが信頼できないという前提で書かれた表現だという指摘.御意.ワタシの誤りですので,さっそく修正しました→「Rへの入門」.該当箇所は「無料のフリーウェアであって,しかも信頼のおけるソフトウェア」と変更.
・今年の秋の新刊収穫は,米作と同じく,不作ではないかと嘆き合う.これで「秋の読書シーズン」を乗り切れるのか?
Ytowさんからは,さらに「NoCodeはいかがですか?」.キン太くん,どーしよー.また万座温泉に籠る? それとも,草津温泉の隠れ家に逃避する?いずれにせよ,ペーパーもシステムもそろそろ決着をつける必要あり.
・はいはい,つくばエポカルの「GTI国際フォーラム」はぼくも行きますよ――というかポスター発表すると言うべきか.Ytowさんもトークされることだし.※ツリー比較と視覚化のためのInfoVis2003,おもしろいテーマの会議があるんですね.
・富山のコワイおじさんから電話――はいはい,太田邦昌書誌つくりますつくります.ごめんなさい〜.
――と,忘却の縁にあったことどもがまた視野に入ってきた....ちょっくら逃亡してきます.すたこら〜.
・笑えます――新日本債権回収センターなるところから「貴方様が利用しました有料サイトの未納利用料金」を督促する「最終通告書」なるハガキが研究所に届きました.切手代もかかるだろうに,アホやねえ.あとで茨城県警に届出るために,このハガキ,ちゃんと保管しておきます.こういう新手の詐欺が最近広がっているということは聞いていたのですが,「やっとぼくのとこにもいらっしゃったか」と安心しました(笑).書かれてある連絡先に電話をかけると大声で脅迫してもらえるそうです(爆).※もちろん,電話するのは禁物.番号を知られてしまうので.
・ついに,リーフェンシュタール逝去か....101歳.彼女のサイトも追悼色.「Riefenstahl」と「gestorben」で検索すると,ドイツ語圏での訃報記事が山ほどヒットする.
・共立出版から献本――ジョンジョー・マクファデン『量子進化:脳と進化の謎を量子力学が解く!』.そんなバカな! 歴史物理学(historical physics[history of physicsではない])でも書かれていれば思わぬ収穫だが.
bk1から今月の書評本が届く――『ルネサンス哲学』.そんなバカな!...いえ,マジに【サイエンス・コーナー】で書評します.今月下旬でいいですかね?>S尾さん.
・〈ルネサンス哲学史〉なんてのに足を突っ込むと,ごくナチュラルにその直接祖先たる〈中世哲学史〉が,ほら,すぐ傍まですりよってきて,ほら,憑くよ,ほら,もう....→ド・リベラ『中世哲学史』が机の上にいつの間にか開かれていたりする:「〈中世〉など存在しない」(p.i)――ほらほら,またそういうそそるよーなことを言う.
・時代的にいえば,『ルネサンス哲学』が15〜16世紀,『中世哲学史』がそれ以前の時期をそれぞれターゲットにしているので,もし通読するとしたら,話はなめらかに連なるだろう.ニコラウス・クザーヌスがちょうど両書の【のりしろ】にあたるようだ.
・『中世哲学史』は700ページ,『ルネサンス哲学』は500ページなんですけど...(読みたいんだろ?>ぼく).※満月の夜,すでに2冊を抱え込んでいたりする.まったく〈lunaire〉なんだから,もう.
・本日の総歩数=11556歩.
9 september 2003(火)
・残暑の戻り――真夏日の再来.昼休みのお散歩でタマムシ(ヤマトタマムシ)をつかまえる.ひなたの道路で光っていた.何年ぶりのことか.何食べるんだっけ? そーか,サクラの葉を食するとは!(17へぇくらいか) つくばではごく普通に見られるそうだが,elytraの破片以外は目にしたことなかったな.
・「〈R〉でくらくらクラスター」がやっとpdf脱稿――スキャン画像やらがぼんぼん詰め込まれて肥大化,計4MB! だもんで,〈一のクラ/二のクラ/三のクラ〉に三分割して〈租界R〉にアップ.これで統計研修のテキストはすべて完成.やっと解放されました.
・気がつけば,都立大の集中講義は間近.講義はもちろん,12日(金)のセミナーの用意もしないと.
・年度末に買ってはあったものの,段ボール箱に入れたまま放置していたEPSONのスキャナー〈GT-9800F〉を今頃になってごそごそとセットアップする.ほー,なかなかきれいにスキャンしてくれるねえ.デジカメとの相乗作用で,jpeg画像がまたまた増えるぞ.
・〈Bogen〉関連――これまた放置していた共同研究の申請書の提出を急がないと.そろそろインフォーマルではすまなくなってきたので(お金の動きが見えてきたということ).
・ばたばたと追いまくられていると,視野が急激に狭くなっていく.忘れてしまったこと,忘れようとしたこと,などがたくさんある気がする――ということまで忘れかけている.だから,あなたも息抜いて.←こーゆーアホなことしてる場合かって?(しゅん
・忘れないうちにブックポータルの新刊チェックをしてみたものの――こりゃ,不作ですぜ,ダンナ.今年の米作みたい.→週間新刊リストから私的ピックアップ:TRC 1339号
・本日の総歩数=15857歩.※代償行動として歩き回っているのではないかという指摘も(ぎくぅ...).
8 september 2003(月)
・朝から固着生物と化す――食べず動かずキーボード.
・やっと「距離指数の原理」をアップ.距離尺度と計量性について,自分なりにまとめた.でも,まだクラスタリング・アルゴリズム編が残っていたりする.軽くあげましょかー.
・夕方6時近くに遅めのランチ代わりにシュロート・ブロートを齧ったりして....
・『Phylogenetics』をみしみし言わせて噛んでますが,やっぱりおもしろい本だと思う.どこかで輪読してないですかね.生物学と数学を完璧に二またかけている読者※そんなんいるんかあ?)が理想的なのだろうが.クラスター分析がらみで距離尺度の章(Chapter 7)を舐めましたが,きわめてクリアに書かれている.それにしても,この「X-tree」の概念は難物だと思う.グラフ理論でいう「頂点と辺のペア」としての〈tree〉と系統学的な意味での〈semi-labelled tree〉とを橋渡ししようとしているのだろうが.なかなか滑らかに染み込んでこない.
・形態測定学の楕円フーリエ解析のプログラム〈SHAPE〉の開発者である岩田洋佳さんが,統計研修の〈R〉のテキストとして「〈R〉で【SHAPE】」を準備してくれるとのこと.フーリエ解析用の関数をすべて〈R〉に移植したことは,8月の進化学会「形態測定学・夏の学校」で聞いていたが,今回はその公開となるのかな.いずれにせよ,解説原稿のpdfが公開可能ということであれば,〈租界R〉に掲載できるよう依頼してみよう.
・やっと完了――「クラスタリング・アルゴリズム」をアップ.これでとりあえず一段落.午前1時15分.働き過ぎね.
・そう,都合がつかへん? 一気にガックリして,ふとんにもぐる.
・本日の総歩数=5029歩.
7 september 2003(日)
・涼しい朝は快適.賑やかだったセミの季節はもう終わり.
・ころっと忘れていたが,理研CDCの倉谷滋さんが,今年の暮れに東大出版会のナチュラルヒストリーシリーズから,700ページを越える超弩級大冊を出版されるそうだ.福岡の進化学会のおりに本人からうかがった.題名は失念したが,進化形態学と発生遺伝学にまたがる本だろうと推測する.「三中さんの『生物系統学』を上まわるボリュームを目指しました」とのことだが.(ハイ,ワタシ負けましたわ) いったいどういう定価が付くのか,それも気になる.東大出版会,第二の工作舎となるか(笑).
・昭和堂から来年5月に出版される予定の『鳥類学辞典』のゲラが返ってきた.ううむ,ところどころにイマイチなコメントが付けられていて,思わず卓袱台をひっくり返しそうになる.たとえば――

三中本文:「系統解析の前に極性を決める必要はない」


査読者コメント:「化石や発生の証拠をまったく無視した一方的な考えかたではないか?」

何だかなあ〜,グッタリしてもい〜い?(『生物系統学』を読んでねー>anonymousさん) ま,いずれにせよ,来月始めまでに返却しないと.
・ゲンなおしに〈まつり・つくば〉を散策してこよう.「ねぶた」がごろごろ走り回って騒がしいねんけど.
・〈St. Louis Gueuze〉――フルーティでとてもおいしかったです.
・本日の総歩数=5530歩.
6 september 2003(土)
・午前3時起き――ガシガシと教材づくり.都立大学集中講義のための統計学関連資料(pdf)を公開.→「租界Rの門前にて」の最後にリンクしてあります.クラスター分析の資料にてこずる.リサンプリング法の資料を先に片づけるか.たいがい疲れますわ.ホンマ――ということで,「〈R〉でブーツ:リサンプリング統計学」をアップ.タイトルのネーミングは久保拓弥さんね.おおきに.
・朝晩と日中の温度差が大きい.昼間は日焼けしそうなほど.
・クラスター分析の非類似度指数の性質については,距離(distance)の計量性(metricity)の観点から整理しておく必要があるだろう――

端点x,yを定義域とするある関数φ(x,y)が計量(metric)であるための4条件:
A1) 非負性:φ(x,y)≧0
A2) 対称性:φ(x,y)=φ(y,x)
A3) 確定性:φ(x,y)=0 iff x=y
A4) 三角性:φ(x,z)≦φ(x,y)+φ(y,z)

A1A2は直感的に受け入れられる.A3でx=yとおけば「φ(x,x)=φ(y,y)=0」となる.この確定性A3の代わりに,より緩和された仮定

A3') 擬計量性:φ(x,x)=0

を置くと,擬計量(pseudometric)が得られる.このとき,φ(x,y)=0であってもx≠yであることが許される.擬計量の場合,三角性を満たすかどうかは取り合えず放っといていいのかな.
・距離法による系統分析では,この三角性A4の仮定を満たすかどうかが論議されることがあるが,それは単に物理的解釈が可能かどうかというだけのことで,実は大した論点ではない.むしろ,三角性A4よりもさらに厳しい次の条件群が必要に応じて要請される――

A4') 相加性:
φ(x,y)+φ(z,u)≦max{φ(x,z)+φ(y,u), φ(x,u)+φ(y,z)}

A4'') 超計量性:φ(x,z)≦max{φ(x,y), φ(y,z)}

相加性(additivity)の条件A4'は「4点条件(4-point condition)」と呼ばれてきたもの.また,さらに強い超計量性(ultrametricity)の条件A4''は,1970年代はじめの数量分類学では表形図(phenogram)における距離表現の条件式として登場していた(Jardine & Sibson, 1971, 『Mathematical Taxonomy』 John Wiley & Sons).
・表形図や系統樹の上での距離の計量性については,Semple & Steel の『Phylogenetics』の第7章で詳しく述べられている.非類似度指数の説明はこの本をベースにして書くのがいいように思う.とくに,相加性と超計量性との関係についてうまく書かれている(p.149):

Lemma 7.2.2: 点集合X上の非負の非類似度写像δが4点条件を満足するのは,Xの任意の点rに対する Gromov積δ[r]=(1/2){δ(x,y)−δ(r,x)−δ(r,y)}が超計量であるときそしてそのときに限られる.

X上で定義される「Gromov積」とは,分岐分析(Wagner樹計算)の過程で,ある枝と点との距離の計算式(Semple & Steelは「Farris変換」と名づける)として登場するものと同一の絶対値をもつ.
・相加性あるいは超計量性の条件式は,距離空間(metric space)こそ別々だが,その含意は明瞭である.いずれの条件も,任意の3実数P,Q,R(一般性を失うことなくP≦Q≦Rと仮定する)に対して「P≦Q=R」を要請する.幾何学的には,等辺が他の一辺よりも長い二等辺三角形をつくる.
・距離の計量性条件をクラスター分析の話とだけ絡めても発展性がないので,一般の樹形グラフ(系統樹も含めて)へとつながるように解説を書く必要があるだろう.同時に,死亡率を下げよという天の声が聞こえてくる.
――そんなことを考えつつ1日が終る.
・本日の総歩数=8856歩.
5 september 2003(金)
・爽やかな「秋の朝」という感じで,なかなかよろしい.
・またも〈R〉で,早朝からばたばたと.クラスター分析のためのテストデータは,〈MacClade〉のサンプルデータ(「Morphological」フォルダーにある甲虫のデータ)から借用した.〈hclust〉や〈agnes〉との比較のため,〈PAUP*〉の計算結果も出しておこうと考えた.NEXUS形式のデータファイルを調整して,〈PAUP*〉で最節約分岐図の計算.〈MacClade〉に戻してツリーの表示とPICT画像ファイルへの出力.ここまではよかったが,WWWに貼り付けるにはPICTじゃまずかろうというところで停滞.手はいろいろあるのでしょうが,手近の〈InDesign〉を起動してPICTの読みこみ,HTML書き出しで画像のJPEG形式の出力を指定してOK(→結末:「PAUP*による系統解析」).朝の一仕事の終わり.
・〈R〉との洒落合いの中で,長年の懸案?だった【大統計大曼荼羅】のアップロードを完了(→〈電子版・大統計大曼荼羅〉).スキャンした元のEPSファイルは15MBもあるので,どこまでJPEG圧縮していいものか,試行錯誤しましたです.初版の鉛筆書き素描が「1993年12月10日」付だったので,10年目にしてやっと公式にオンライン掲載されることになった.
・〈R〉とのつきあいはまだ1年足らずだ――昨年12月に都立大学で集中講義をするにあたって,それまでは使えた〈SAS〉が大学側の都合で使えなくなったことが直前になって発覚.慌てて代替策を探して行き着いたのが〈R〉.でも,実際に使ってみて,「こりゃアタリですな」と深く納得したしだい.統計ソフトの【転向】は瞬時に完了した.フリーソフトで,ノートパソコンにも入れられる.ライブラリーも豊富だし,マニュアルも信頼できる――となれば,〈SAS〉やその他の商用ソフトに拘泥する必要はどこにもない.
・統計研修用の〈R〉の入門テキストを書き上げ.ウェブの素材を適宜組み合わせて原稿とする.他の農水R師のみなさんにpdfで送りつけて,追加すべき原稿を督促.
・丸谷才一『ロンドンで本を読む』にちょっと寄り道.何でもかんでも訳しゃいいってものでもないな.『タイムズ文藝付録』(p.7)って〈Times Literary Supplement〉のことですかあ?(笑) ――『自然』『科学』『細胞』『アメリカの博物学者』とか,お笑いネタには事欠かず.‘まじめな’翻訳者はジャーナル名まで律義に訳してしまうので,マジ参ってしまう.
・本道に戻る.クラスター分析の非類似度指数とクラスタリングの節を書き上げようととりあえず努力してみる.
・本日の総歩数=12587歩.
4 september 2003(木)
・「クラスター分析」の教材づくりのため,Sokal & Sneath (1963) 『Principles of Numerical Taxonomy』とか Sneath & Sokal (1973)『Numerical Taxonomy』とか,昔の教科書を引っ張り出している.
・懐かしいねえ.M1のときに読了した『Numerical Taxonomy』の最後のページには「1980.10.30.完了」とメモされている.おそらく,この本が初めて通読した洋書じゃなかったかな.当時はすごく「構えて」読んでいた記憶があるが,今では想像もできない態度だったか.
・年数からいえば〈数量分類学30[40]年祭〉なんてのがあってもいいはずだが,そういう話はとんと聞かない.
・統数研の来年の公開講座で〈マルコフ連鎖モンテカルロ〉がテーマになっているそうだ.MCMCの裾野はどこまで広がっていくかな.
・クラスター分析の「非類似度指数」の節を書く――計量性(metricity)に関して,できるだけわかりやすく記述する必要がある.基本となる metric をベースにして,non-metric・ultrametric・pseudometric,ついでに additive metric もか.どんどんドロヌマに入りつつある自分を感じる.やば.
・クラスター分析の厄介なところは,「非類似度指数はいろいろ」&「クラスタリング法もいろいろ」で,それらの掛け算だけオプション設定の可能性が出てきてしまうところ.教えるときには全部出すわけにはいかないので,できるだけ絞って,あとは「以下同文」ですませたい.予定ではミンコフスキー計量(r=1のマンハッタン距離とr=2のユークリッド距離)と UPGMA の組合せをクラスター分析の講義の中心に据える.あとは〈R〉の〈agnes〉か〈hclust〉で実演することになるだろう.
・いま見ても『Numerical Taxonomy』はよく書けている教科書だ.のちの数量分類学の本で,Sneath & Sokal (1973) を越えているものはない.教材としてフルに使わせてもらお.
・アカデミア洋書が Joe Felsenstein の新刊『Inferring Phylogenies』(2003年8月刊行,Sinauer Associates,ISBN: 0-87893-177-5)の案内をもってきた.遅れていたがやっと出るのか.即,公費注文.ブツが届いたら EVOLVE に流さないと.※つまんないことだけど,「新刊」の意味で「近刊」と書くケースがあるけど違和感あり.近刊は「出版間近だがまだ出版されていない」ということで,いったん出版されてしまえば「新刊」と書くべきだと思う.広辞苑には出版直前&直後の本を込みにして「近刊」と書いているけど,おかしいと思う.
・朝方は通り雨がざあざあ降ったが,昼になって晴れ上がる.ウォーキングには適した天気.
・〈R〉のクラスター分析コマンドである〈hclust〉の実例集をアップした.さらに,〈agnes〉の事例もアップした.デンドログラムだらけ.
・日が暮れても快晴だったおかげで,火星の大接近がよく観察できました.今夜は,小学校PTA主催の‘星の観察会’.
・本日の総歩数=15262歩.
3 september 2003(水)
・引き続き残暑に苦しむ.もう終ったね.
・〈租界〉での生活はなお続く.本日の成就――総論「クラスター分析の光と闇」を書き上げる.できればこのまま農水省統計研修のテキストとして使いたい.でも...こりゃ先が長いぞ.続いてクラスター分析の非類似度指数の節とクラスタリングのオプションについての節がやってくるはず.Rライブラリーの説明はどーするの?
・夕方に雷雨.とはいえ,遠雷がごろごろしていただけで,実害はなし.都内は天罰のごとき落雷が国会議事堂に落ちたそうな.
・夜に予定されていた〈火星観察会〉が流れてしまったのが,実害といえば実害か.※「大接近」と騒がれているので,一度は見ておきたい,と思うのはみーはー.
・ここんとこ,ちっとも本を読んでいないような気がする.自分が自分でないような.一段落したら本来の生活に復帰しよう.
・夕方,吾妻の〈ピーターパン〉に立ち寄り,予約しておいたシュロートブロート1本(1.5kg)を受け取る.これで,しばらくお昼ご飯の心配なし.
・本日の総歩数=11327歩.※炎天下4kmのウォーキングが功を奏したか.
2 september 2003(火)
・残暑の揺り戻し.もういややー.
・朝から晩までず〜っとR漬け――〈租界Rの門前にて〉だいぶ中身を詰め込みました.正規分布やらF分布のグラフを描画したり,ブーツストラップの出力を出したり,分散分析表を出力させたりでおおわらわ.「日録」時間もつぎ込んで,てんてこ舞い.とにかく,いくつかの講義のための資料を一石二[三]鳥で用意しないといけないのでね.
・本日の成就――「前口上」に続いて,「Rを知る」,「Rを学ぶ」,「データを読む」のR門前三部作.続いて,確率分布お絵描き編「正規分布1」,「正規分布2」,「カイ二乗分布」,「t分布」,「F分布」まで.さらに,「実験計画と分散分析――総論」とそれに続く演習問題のRソースプログラム,果ては「計算機統計学」まで公開.トライアスロンのようなハードさ.
・あとは「クラスター分析」の部分を書けばとりあえず一段落かな.今日はもうおなかいっぱいですぅ.
・なんとモノトーンな1日か.統計学のみ.
・本日の総歩数=4268歩.
1 september 2003(月)
・今朝も未明から霧雨.涼しいというか肌寒い.にもかかわらず,Tシャツ&短パン&サンダルというタイムラグのある服装はいかがなものか.
・月初めなので,諸メーリングリストに月例アナウンス.都立大学受講生には「room50」の開設アナウンス.EVOLVE / BIOMETRYのトップページは手直し中.農水省統計研修のカリキュラムも載せようと思ったら,元ファイルが極悪〈一太郎〉だったりして萎える.罫線ナマス切りされた表をどうやってテキストに落とせいうねん(こらぁ).腹立ったので放置.
・都立大学でのぼくのセミナー(9月12日)のアナウンスは学内サイトに載せていただきました.→「2003年度第6回生物学教室セミナー.※要旨とリンクも張られています.なお,第7回セミナー(9月26日)は東大の樋口広芳さんが講師.
・統計言語「R」に関する素材・教材を集めた〈租界Rの門前にて〉のページをつくりはじめる.第一に,都立大学の集中講義のため.第二に,農水省統計研修に用いるため.html化すべきファイル数が多いのでかなり手間取る.※テキストファイルを機械的にhtml化してしまいました.
・日がな一日,霧雨が絡みつくように降り続き,気温は低いが湿度高し.
・丸谷才一編著『ロンドンで本を読む』(2001年6月21日刊行,マガジンハウス,ISBN: 4-8387-1241-3)をぱらぱらしてみる.イギリスの書評集だが,各書評の前に付けられた編著者のコメントがおもしろい.
・本日の総歩数=6519歩.

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