【書名】くさいはうまい
【著者】小泉武夫
【刊行】2003年7月20日
【出版】毎日出版社,東京
【頁数】253 pp.
【定価】1,500円(本体価格)
【ISBN】4-620-31635-0



【書評】※Copyright 2003 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

臭物(くせもの)求める臭者(くせもの)の臭い旅

確かに「臭う」,こりゃ臭い.クサヤ(p.45)や鮒ズシ(p.79)で尻込みするようでは,この本はとても読み通せない.

豆腐を発酵させた中国の‘臭豆腐’(p.41)――とてもそばに近寄れませんな.ニシンを発酵させたスウェーデンの‘シュール・ストレーミング’(p.191)――ほとんど「社会の迷惑」ですな.とある本で,シュール・ストレーミングを食しているスウェーデン人を取り巻く空気は色が変わっていたなどと書いてあったぞ.あまりのアンモニア臭に涙腺全開という韓国の発酵エイ‘ホンオ・フェ’.

きわめつけは,カナディアン・イヌイットの伝統食‘キビヤック’――アザラシの腹の中にウミツバメを羽根の付いたまま数十話詰め込んで,土の中で数年間発酵させるというもの.取り出された「アザラシは,グジャグジャの状態で,土と重石で潰されたかのようになって」(p.188)いるが,ウミツバメは原形を保っているのだそうな.で,どうやって食するかといえば,「尾羽根のところを引っぱると尾羽根はスポッと簡単に抜けます.次にその抜けた穴のところからすぐ近くにある肛門に口をつけ,チュウチュウと発酵した体液を吸い出して味わうのであります」(p.189)とのこと.もう満腹でございます...(引く).

本書は肩肘張らないエッセイ集だが,発酵食品の栄養学的な根拠にも言及されている.何よりも,よくぞこのような「恐るべき食い物」を発明したものだと感心する(初めて口にした先人に脱帽).そして,それらを貪欲に追い求めた著者のしてやったりと言わんばかりの高笑いが行間から聞こえてくる.上記キビヤックを食したセンセイは,おもむろに「実に複雑な濃い味が混在しており,極めて美味であります」(p.189)とのたまう.臭者センセイ,参りました.はなっから太刀打ちできませんな,こりゃ.

ほかにも,臭い果物とか臭い虫とか臭い漬け物とか,世界中からわらわらと集まっている.

「臭物」が好きなアナタは迷わず読むべし.タイトルの衝撃度は特筆される.

三中信宏(22/September/2003)


【目次】
滋養たっぷり物語 8
くさいはうまい 116
におい文化の復権 222
おわりに 251