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日録2004年3月


31 maart 2004(水)※桜は散らず

◇夜半に通り過ぎた前線が南の空気をもってきて,今朝の最低気温は12度.晴れ上がる.今日は絶好の花見日和だろう.農林団地,混むぞー(きっと).

◇へこんでる間もなく原稿書きます.いっぱい書きます.

―― 午前中はちょい会議.ほほー,明日までに今年度の「業績一覧」を出すわけね.ほほー.来年度の「設計会議」が8日(木)なのね.ほほー.外部資金獲得のためのアプライをどんどん出せと.ほほー.

―― 明日で定年退官する人,異動する人,などなどで研究所内のそこかしこがばたばたしている.明日はもっと人の出入りが多いだろう.毎年恒例のことだが.

◇土壇場になって青葉山から最節約的な電話がかかってくる ―― はいはい,アレね.ゴメンね.すぐ用意するからね.ほー,〈箱崎師〉はGW前に降誕されるわけですか.で,ワタシの高座の予定は? え,〈蹴球師〉にお伺いを立てよと.ほー.でも,なんだか今週は「さまざまな別れ」でシンミリされているようなので(ベガルタ仙台もイマイチみたいだし),打合せは4月に入ってからにしましょ.

外気温20度の昼休み ―― 案の定,花見客で千客万来の満員御礼.ま,この日和だもんねー.人ごみと渋滞する車列を避けるようにウォーキング.久々の公園読書(ウィンチェスター本続き):OEDの基本路線を敷いて早逝したコールリッジの後任がとんでもねえヤツで(浮き名流しまくり),OEDプロジェクトはほとんどつぶれかける.しかし,その負の遺産を引き継いだのがジェームズ・マレー.やっと本書の主役が表舞台に出てきた.復活OED計画はマレーとともに再開する.

―― 今日の桜の開き具合だとまだ6〜7割くらいだろう.明後日に予報されている雨にもきっともちこたえるだろう.とすると,農林団地にバスを連ねて花見団体さんがやってくるのは満開になるはずの今週末と予想しておこう.桜の下の宴会シートも満開になるだろう.圃場一面の菜の花の強い香りにくらくらする.この季節ならではの体験.今年の農林団地一般公開日にはどこに〈菜の花迷路〉を切るのかな.

◇「NetSky_Q」のせいで〈EVOLVE〉にウィルス残滓メールが飛び交う.メール総量が極度に肥大している.ほとんどが添付ファイル付きのゴミ.くそー.

◇科研費報告仕上げ(&送信),Panmixia原稿進め,もう一つはすでに気が萎えている…….

◇夜,松宮秀治『ミュージアムの思想』(2003年12月24日刊行,白水社,ISBN: 4-560-03898-8)を読み進む.

◇本日の総歩数=12501歩[うち「しっかり歩数」=5889歩/51分].


30 maart 2004(火)※〈魔王〉がやってくる……

◇春の目覚め ―― 気がつけばすぐ後ろから〈魔王〉が3人(いや4人,ん,もっとか...)ほど追いかけてきている.魔王だ,魔王だぁ〜.逃げないと,逃げないと.

◇当たる天気予報 ―― 午前中は陽光が燦々と降り注ぐものの,昼休み頃から雲が厚くなってきた.午後は雨になるか.桜は順調に開花し,農林団地の見物客も相関して増えている.でも,今日は花見はちょっとお休みですね.降って散るような段階ではないので,ご心配なく.

◇昨夕からのメールサーバーの緊急停止は今日も続いている ―― 〈Netsky.Q〉が迎撃される直前にMAFFIN内に入り込んでしまったらしい.おかげで,毎日届くうざうざメールにケリを入れることもなし,魔王メールやテポドンに悩まされることもなし.もちろん人生に必要なメールも届かず.「凪」状態.

◇朝イチで地下書庫の「勝手にキャレル」に逃げ込み,アレは書く,コレを書く,ソレも書く ―― まずは Panmixia 原稿をば.続いて科研費レポート,そして某リジェクト原稿のリライト,そして変成岩化している投稿論文の査読レポート.

―― Panmixia 原稿は,今日中にまあなんとかなりそうかな.科研費ぃ〜っ.ゴメン,すぐ書くっ.

◇先日,駒場下の河野書店で入手したゴッホ書簡集『Brieven van aan zijn broeder. I & II』には〈III〉があったのか.1886〜1889年の書簡を所収しているとか.

―― ついでにメモ.大江健三郎の訳によって一躍有名になったゴッホの手紙の1節:

死者を死せりと思うなかれ.
生者のあらん限り
死者は生きん.死者は生きん.

は,ゴッホがアルルにいた頃に,知人の画家アントン・マウフェの訃報を聞いて,弟テオ宛に書いた書簡[472番,1888年3月30日※今日じゃないか!]にある詩だ.

ゴッホはオランダにいた頃はオランダ語,フランスに移り住んでからはフランス語で手紙を書いたので,上の1節も原文ではこんなフランス語――

Ne crois pas que les morts soient morts;
Tant qu'il y aura des vivants,
Les morts vivront, les morts vivront.

―― になる.(“vivront”という音が魅惑的.)

1990年のオランダ語全集では,この詩も蘭訳されていて[新番号592]――

Denk niet dat de doden dood zijn;
Zolang er levenden zijn,
Zullen de doden leven, zullen de doden leven.

―― となるそうだ.(音の響きがイマイチかな)

◇夕方近くなって,本降りになってきた ―― メールサーバーはまだ死んだまま.そうとう処置に手間取っているようだけど,これだけ時間がかかるのは珍しいな.ほれ,死者は生きん.

―― 夜遅くなって,なんとか蘇生してくれたようだ.と思ったら,堆積メールがどどっと吐き出されてきて,げー,アノ原稿,もうダメっすか.不完全燃焼やな.まいったな.へこむ.

◇一晩中,雨が降り続くようだ.

◇本日の総歩数=5703歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


29 maart 2004(月)※桜五分咲きか

◇早朝出勤 ―― この1週間に積もっていたメーリングリスト管理作業を少しばかり.※そういえば,最近とんと投稿をしていないことに気がついた.あれま.

◇きちきちと,かつかつと,ぐりぐりと…….ふっ.

ほっこりな昼休み ―― 辛夷と桜と菜の花が同時に開いている.農林団地の桜並木は月が変わる今週末あたりが満開かな.昼休みにはもう道路が渋滞している.実験圃場はほとんど花見客の「お散歩コース」と化しつつある.シートを広げてのランチ集団も.こうなると研究所の敷地も外も見境なしですな(黙認状態).ライトアップされた夜桜もあれば,早朝花見という手もありますよ.※あ,これこれ,アブラナを毟ってはいけませぬぞ.ほれ,そこの人,圃場を踏み荒らしたら,コワーイ研究員が飛んで来て,噛まれますぞ.(ケダモンかいっ.)

―― 南風はやや強いものの,日射しも暖かく春めき,外歩きには実にいい日和だった.この季節の点景ということで,辛夷と菜の花をばパシャッと.桜はまたあとで,満開になったらね.

◇おお,確かに〈縮小専用。〉は便利だ! こりゃラクちんだ.画像ファイルのダイエットがやっとできるようになった.日録の「体重」もこれでずいぶん軽くなるにちがいない.※こういうフリーソフトの開発者にはもっともっと感謝しないとね.

◇ん,午後4時以降メールサーバーが止まっている.また新【種】のウィルスが出現したらしい.

◇わ,別件の督促も ―― フェイントでっせ,それって.

◇なんのかんのと言っても,原稿は【とにかく書き出す】のが肝心.まずは1字を書いてみよーねー.ぼくの〈おまじない〉は「文献リスト」を最初につくってしまうこと.原稿全体のイメージは最初からできているので,あとはそれを「結晶化」させるだけ.文献リストはそのための「核」みたいなものか.いったん文献リストができてしまうと,あとは自動筆記のように字が凝着していく.

―― 最初の1字,最初の1字,自己催眠.※おい,寝てどーするっ.>ぼく

◇本日の総歩数=12175歩[うち「しっかり歩数」=4726歩/39分].


28 maart 2004(日)※桜ほころぶ

◇辛夷でもたもたしていたここ数日だったが,20度近い陽気で桜の方が足取りが早くなっているようだ.農林団地も二分咲き程度に彩りが目につく.今週から4月はじめにかけては,大挙して花見客が集まるだろう.毎年恒例の“花見渋滞”をいかにして回避するかで通勤者たちは頭を悩ます.今日も朝早くから見物客がちらほらと.

◇〈長谷川フォーラム〉大団円 ―― 報告書原稿は金曜に出してしまったので,実行委員長としての公的な仕事はオシマイ.肥大したpdfをコッソリばらまくだけではよろしくないので,html文書もついでに出力しておく(こりゃ軽量).これもヒミツ某サイトにアップして,共犯者たちに広報しておく.以上をもって,かの〈パシフィコ横浜・魔宮の伝説〉に次ぐ,〈湯けむり上州・妙義の春(←TV東京の旅番組みたい)は大団円を迎えた.関係者のみなさん,しばしご休息を.

◇コメントをまとめているうちに,松本直子・中園聡・時津裕子編『認知考古学とは何か』の書評ができあがってしまいましたとさ.考古学での〈分類〉対〈系統〉の問題を考える上で,いい足がかりになると思う.とくに,生物分類学者がまだ直視していない「分類認知」の心理的側面を論じた第4〜5章は必読.

◇明日からは1日1原稿をモットーにしないと.

◇本日の総歩数=1730歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


27 maart 2004(土)※不健康な快晴

◇朝からからっと雲一つなく晴れ渡る――久しぶりの快晴の空.しか〜し,この1週間の疲労が「ミルフィーユの皮」のように積み重なっていたためか,だらだらと不健康な寝方をしてしまい,午前7時まで起きられない.世界が明るくなってしまうまで目が覚めないとは実に不覚であった.

――何となく慣性がつかないまま,ぐでぐでと午前中を過ごしてしまう(デッドライン原稿が三つもあるのだ...が....).

◇ゲン直しに,TRC週刊新刊案内をチェック:1367号 ―― 今月は〈タイトル賞〉ものの新刊が目立つ.まずは『骨単』,「ほねたん」と聞いて,ギリシャ語・ラテン語の解剖学用語集を連想できる人はいないだろう.〈死の舞踏〉の寓意を連想させる.次に,『はかってなんぼ』,この“ナニワ金融道”あるいは“カバチタレ!”ちっくなネーミング,なかなかよろし.編者の日本分析化学会近畿支部,えらいっ.おまけの『あなたは古本がやめられる』,クスリやめますかそれとも人間やめますかのノリか.ワタシ,やめられませーん.

◇午後はちょいお散歩するも,イマイチ盛り上がらず ―― 燃え尽き症候群かっ.大量の〈灰〉が舞い上がる中,Skrjabin〈法悦の詩〉に逃避する.オルガン付き4管編成の大オーケストラがひたすら〈dolce〉で咆哮する交響曲は,総譜を片手に聴きましょう.が,Eulenburgの総譜はところどころ印刷の方向がタテ/ヨコ混じるので(弱奏ではヨコ,トゥッティはタテ),ちょっと目を離すとすぐ彷徨の憂き目にあう.登場するたびに必ず〈f ma dolce(強くしかし甘美に)〉と指定される独奏トランペットは甘く燃え尽きなさい.交響曲と銘打った曲で,これほど〈dolcissimo〉だの〈dolce espressivo〉が頻繁に登場する作品は他にはないだろう.〈dolce〉は〈密やか〉とか〈静謐〉とは必ずしもリンクしないということか.〈甘い生活〉は? ※好き嫌いはきっとあるでしょうが,ぼくにとってはストコフスキー/チェコ・フィルの〈法悦の詩〉がいまだに印象に残っています.1960年代録音のLPでした.

◇今日はダメダメなので,明日に賭けよう.そーしよう.

◇本日の総歩数=6402歩[うち「しっかり歩数」=4100歩/38分].


26 maart 2004(金)※ダーウィン・デー(2/2)

◇夜があんなに遅かったのに,また明け方に目覚めてしまう.まだ外は濡れているようだ.

長谷川フォーラムの最後の原稿たちが未明に届いていた.これでやっと報告の素材がすべて出そろい,最終幕に駒を進められる.報告の各セッションに通しのページ番号を付け,再度 InDesign から pdf に出力する.やはり PowerPoint 側の画像問題か――演者から送られてきたpptファイルによっては同じpdf化してInDesignに貼り付けてあっても,再度pdf出力するときの所要時間がまったくちがう.瞬時にpdf化できて,ファイルサイズが1MBに満たない場合もあれば,G4で抽出に1時間ほどかかり,できたpdfが15MBにも達するときもある(出力pdfサイズが含まれているスライドの枚数とはまったく相関しないのがフシギ).

―― いろいろ律速段階はあったものの,すべてのセッション報告のpdf版下(計60MB)を無事に出力し終えたのが午後1時過ぎ.ヒミツのサイトにアップするとともに,USBメモリーにどかっとコピーして東京に出発する.雨はもうあがっているが,北風が強い.やや寒し.

―― 今回のフォーラムのロジスティクスを担当した JAREC にたどり着いたのが午後3時過ぎ.桜が咲きはじめた不忍池を見下ろすビルの6階で,担当者に報告書の原稿ファイルをすべて手渡し,プリントアウトする.表紙やプログラム,参加者名簿などの前書き部分は別途用意してもらったので,それらを積み重ねて,内容確認をする.問題なし.

―― 「報告書」本文の目次は下記の通り.各セッションは「座長総括+報告(+資料)+質疑」という構成になっている:

2003年度JST異分野研究者交流フォーラム報告書
進化生物学は人間観を変えるか?:人文社会系諸学と進化生物学との対話
2004年2月9日〜11日[妙義グリーンホテル,群馬]
コーディネーター:長谷川眞理子(早稲田大学)
実行委員長:三中信宏(農業環境技術研究所)
    趣旨
  • 長谷川眞理子(早稲田大学/コーディネーター)
    総括
  • 長谷川眞理子(早稲田大学/コーディネーター)
    法学
  • 和田幹彦(法政大学):法と進化生物学・進化心理学――手段,方法論と「自然科学」――
  • 太田勝造(東京大学):法と進化
    経済学
  • 清水和巳(早稲田大学):進化生物学と経済学――「合理的経済人 Homo Economicus」を超えて
  • 荒木一法(早稲田大学):進化生物学と経済学
    哲学・倫理学
  • 高橋久一郎(千葉大学):倫理学は進化生物学から何を学べるか?
  • 田中泉吏(京都大学):ダーウィンとサルの倫理学
    文化人類学
  • 関雄二(国立民族学博物館):文化人類学における進化論の受容と消化
    考古学
  • 松本直子(岡山大学):考古学における人間観と進化論
    フェミニズム社会学
  • 大沢真理(東京大学):男女共同参画社会とジェンダー
    行動遺伝学・発達心理学
  • 安藤寿康(慶應義塾大学):「仲良しこうもりのお誘い」――人間行動遺伝学からの提言
  • 柏木恵子(文京学院大学):発達心理学における進化生物学――進化の視点の意味/役割
    社会心理学
  • 渡部幹(京都大学):社会心理学における進化的アプローチ
    認知心理学
  • 平石界(東京大学):人間行動進化学における認知心理学的アプローチ
    総合討論

――【これにて一件落着〜】……と思いきや,帰りがけに担当者から,「それでは来年度前半に予定されているフォローアップのフォーラムもよろしくお願いします」とのこと.また,こういうことになるんでしょーか(>まりまり).冷汗.

◇午後4時過ぎにJARECを出て,上野広小路の〈うさぎ屋〉本店をまわり,湯島天神を貫通して,本郷・真砂の〈アカデミア・ミュージック〉に直行.Carl Nielsen〈不滅〉の新校訂版総譜が並んでいた.Scrjabin の交響曲も今なら全部そろうな.André Jolivet の〈トランペット協奏曲〉も(ソリストに絡みつく打族たち).※Nielsen - Scrjabin - Jolivet か……とてもハズレてるワタシ.

◇午後6時半から,文京学院大学スカイホールにて Jim Moore 講演会〈Wallace in Wonderland〉.講演原稿は訳師さまじきじきの翻訳により20名ほどの参加者に配布された.ウォレスがなぜ心霊術や骨相学にのめり込んでいったのかは,ウォレスにとっての「科学」観が,彼と同時代のダーウィンやハクスリーのそれとは異なっていたという観点から理解できるという話.ディテールにこだわりつつも,太い筋を描いていくというスタイル.午後8時過ぎに終了.今週は方々で Moore 講演を3回も聴いてしまった.

◇帰路,芝村良『R. A. フィッシャーの統計理論:推測統計学の形成とその社会的背景』を読了 ―― フィッシャー理論(と対立するネイマン/ピアソン理論)を,単に数理統計学の「理論」だけでなく,ユーザー現場(農事試験とか品質管理)の中でとらえなおそうという着眼点はいいと思う.数理統計学の近代史のビッグネームたち(ピアソン,フィッシャー,ネイマン/ピアソンら)の思想的なちがいが統計理論の適用現場でのユーザーたちとのコミュニケーションによってかたちづくられてきたという“社会派”の視点は,Jim Moore や Adrian Desmond がダーウィンやハクスリーを対象として進めてきた研究スタイルと相通じるものがあるように感じる.しかし,ぼくが読んだかぎり,この本は「中間報告」の域を越える出来であるとは思えなかった.せっかくいいテーマをもっているのに「語りが足りない」.記述統計学から推測統計学への流れとともに,確率分布主導型からデータ主導型への流れを著者は指摘している.フィッシャーをめぐる論争のいくつかは現代もなお解決されていないとのことだが,それはなぜなのか,もともと解決できない形而上学に関わることなのか,叙述の歯切れが悪い.少なくともオープンな問題が残されているということは理解できた.しかし,そこから先が模糊としている.統計理論家と対象ユーザーたちは一体となってそれぞれ disjunct な「世界」をつくってしまっていたということなのかな.フィッシャーが勤務していたロザムステッド農業試験場を中心とする,農事試験への統計技法の積極的普及活動のようすはたいへん参考になった.かくあるべきだ.

◇またも夜遅くにつくば帰還.北風が身に染みる.今週は細かく東京往復したのでたいへんお疲れでございます.>ぼく.

◇本日の総歩数=15170歩[うち「しっかり歩数」=3234歩/28分].※都内徘徊の成果.


25 maart 2004(木)※ダーウィン・デー(1/2)

◇昨日午後からのしとしと雨は夜いっぱい降り続き,明け方あがる.湿度とても高し.

◇今日は夕方から駒場で Jim Moore 講演会(→ここ)があるので,それまでにいくつかばたばたとカタをつけ[ようとす]る.長谷川フォーラム講演者に報告書内容のチェックを依頼.印刷所入稿は明日の予定だとか(滑り込みでんがな……).

◇東京プチ出張に出発しようと思ったら,またぽつぽつと雨滴.ここんとここういう天気が続いている――車中,『認知考古学とは何か』を読み進む.第2章「型式・技術・認知」では,考古学を伝統的に支配してきた〈型式論〉への批判的見解が展開される――

分類と認知
型式学というものをつきつめれば,考古資料,とりわけ人工物の分類学のことをさす(横山 1985).分類は人間にとって本質的な営みであるが,その基盤は生物としての普遍的認知能力にあるといっても過言ではない.虫,魚,鳥,哺乳類,そして人類――反応のレベルはさまざまであっても,形や光(色),音,臭いなどをもとに,食物,敵,異性を見分ける.いずれも外部世界を分類しながら生きているのである.文化の多様性が認識されるにつれ,民族によって分類のしかたもさまざまであるという見方が強まったこともあったが,生物を分類する際には民族を超えて属のレベルでかなりの普遍性がみられることがわかってきている.属のレベルは人間が自然環境を利用していくうえで,判断の基準となるもので,視覚的特徴のまとまりもよい.こうした分類は,人類の進化の過程で発達してきた基盤的認知構造であるといえよう.[pp.36-37]

――民俗分類学の適確な要約ですね.考古学もその埒外ではありえないということ――

型式学は,考古学的訓練によって獲得された型式同定能力に支えられ,新型式や細分型式を定義づけ,分類体系としてまとめあげ,考古学的現象を解釈・説明するための基本的な方法論として存在する.[p.37]

――これまた,ポイントを簡潔にまとめてある.〈分類〉に関する見解には基本的に同意できるが,気になるのは考古学での〈系統〉に関する著者たちの立場だ.明示的には書かれていないような気がする.間接的であれば――

型式系列として認識されるものについて,考古学者はしばしば「系統」や「系譜」などの言葉をもって,背後に文化的連続性を措定してきた.[p.38]

――という言及がある.著者たちは型式学ではなく認知考古学の中にそういう「連続性」を発見するツールの可能性を感じているようだ.でも,考古学的系統学の方法論は認知分類の〈外〉にあるべきだとぼくは思う(読みこみがまだ浅いのかもしれないが).

◇北千住で千代田線に乗換え渋谷下車――地下街にある〈フェルミエ渋谷店〉にて今年の誕生日プレゼントを引き換える(マインクネッケでした).つい食指が「ラングル・クール」を指してしまったり,「ミニ・ガプロン」やら「ピコドン・フェルミエ」などというシェーヴルの名が口をついて出てしまったり.ああ,至福.

◇その後,道玄坂の〈ライオン〉にコッソリたてこもって,「対テポドン迎撃原稿」を書き始める.バッハのトッカータとフーガで揺らされたり,ラフマニノフのピアノ協奏曲につい緊張したり.夕刻に丸山町を縦断し,神泉駅から一駅で今日の会場に到着……

――と思いきや,案の定,駅下の〈河野書店〉にトラップされてしまう(駒場キャンパスと方向が逆なのに「トラップ」されるとはこれいかになどという詮索は無用である).おお,ゴッホの最初の書簡集(2巻本)が出てるじゃないか! わお,デンマーク詩のアンソロジーまで! ううむ,また荷物を抱えてしまった.本日の収穫物は:

  • Poul P. M. Pedersen (ed.) 1963. Levende Dansk Lyrik fra Folkevisen til Stuckenberg. Jespersen og Pios Forlag, København, 604 pp.
  • Vincent van Gogh 1924. Brieven van aan zijn broeder. I & II. (tweede druk) Maatchappij voor Goede & Goedkoope Lectuur, Amsterdam, Deel I [1872-1882]: lxiv+564 pp. / Deel II [1882-1886]: 646 pp.

◇収穫物を小脇に抱えて,セミナー開始直前に3号館に飛び込む.開始時刻になってどやどやと人が増えた.20人くらいは集まったかな.

―― 本日のJim Moore セミナーは〈メイキング・オブ・『人間の進化』〉ということで,ダーウィンの『The Descent of Man』(1871)の背後関係と社会的文脈についての話.この本,つい最近,Penguin Classics の1冊としてペーパーバック版が出た( ISBN: 0-140-43631-6).この復刻版に J. Moore & A. Desmond による50ページにおよぶ序文解説がついていて,それを踏まえたトークどあるとの渡辺政隆さんの紹介があった.

―― Moore さんによると,ダーウィンが『人間の進化』を書く動機は,〈人種〉と〈奴隷制〉と〈性〉をキーワードとして読み解けるとのこと.とくにダーウィン/ウェッジウッド家の反奴隷制の主義について詳しく語っていた.それと,女性がどのように位置づけられていたのかというテーマも.この点についてのダーウィンとウォレスの比較に言及されていたのは,演者がウォレス伝をいま手がけているからだろう.

―― 質疑を含めて約1時間あまりの講演ののち,別室でパーティ.やはりワインですね.このパン,おいしいですねえ.我孫子誠也さんと初顔合わせ(我孫子さんといえば,クーン『本質的緊張』の訳者とすぐ連想してしまう).Elliott Sober さんのところに留学していたという方にも会う.『過去を復元する』の翻訳出版の件では,近いうちにまた Sober さんに連絡しなければならないかな(どーかな).翻訳といえば,廣野さんとも立ち話:げ,マジで全部訳してしまう?(KS書房,太っ腹だぜぇぃ).

―― 9時過ぎに散会.雨がしとしとと降り続く.苦界に身を沈めつつあるN部くんとともに帰路につく.車中で『認知考古学とは何か』を読了(第4章「考古学者の認知」――最高におもしろいっす.とっても参考になります.よくぞ書いてくれた!).

◇ほとんど日付が変わる直前に研究室到着.長谷川フォーラムのまりまりコメントを文書整形し,まだ原稿をよこさない強者たちに擬似テポドンをばんばんと発射し,やっと帰還.午前1時すぎ.

◇沈没でーす.※明日はまたも〈ダーウィン・デー(2/2)〉で,東京にこないといけないのだ.忙しいのだ.

◇本日の総歩数=11916歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


24 maart 2004(水)※浮き沈む

◇朝は日が射すほど.しかし下り坂らしい――ここ数日冷え込んでいるせいか,コブシのつぼみはかたまったまま.桜前線の北上も止まっているようだ.

やっぱりダメそうで――蒼樹本の運命がまた暗転しそうな気配.契約の問題.書き下ろし本の場合は著者が了承すればいいのだが(費用の問題は別にして),翻訳書が問題.翻訳権の絡みがあって,販売元を移すというのはめんどうな作業になるとのこと.〈半分は浮き,半分は沈む〉ということか.ただ,蒼樹書房の場合,進化学や生態学の著名なテキストはほとんどすべて翻訳書なので,ダメージはより大きいだろう.当面の指針――どうしても欲しい蒼樹「翻訳」本は今月中に買いましょう! ※あとはもう訳者個人の買い取りに頼るしかないかも.とりあえず「蒼樹書房翻訳書リスト」がいまつくられつつあるそうだ.

◇長谷川フォーラム報告書の「登攀成就」間近か ―― 座長報告を書き,素材の配置,pdf化,某ヒミツの部屋にアップロードという工程を繰り返す.悪代官のように督促メールを出しまくる.哲学・倫理学,社会心理学,認知心理学のセッション.進化のアナロジーで論議を進めるのがスタイルという分野もあれば,マジに「進化」化しつつある分野も.どうしようと戸惑っている分野も.こういうバラツキが感じ取れるのがおもしろい.

―― いずれにせよ,今週中に報告書は印刷にまわすことになる.でないと,「由々しき事態」(事務局弁)になるそうだ.こりゃたいへん.督促メールにもリキが入ろうというもの.

座長報告をまとめる過程で読み始めた本 ―― 松本直子他『認知考古学とは何か』(2003年12月22日刊行,青木書店,ISBN: 4-250-20335-2).新刊チェックしたときにも,確か「●」を付けていた記憶がある.著者の松本さんが今回たまたま長谷川フォーラムの演者だったので,いい機会と思い,読み始める.へぇ〜,この方向に進むとしたら,たいへんおもしろいことになるような気がする.遺物や遺跡の「分類」(型式学のこと)の背後にある過去の人間の認知構造を推論していこうという研究動機があるようだ.そう,考古学の世界で〈認知科学〉をやっていこうということらしい.モデルケースとして注目しましょう.

◇おお,さらなる〈R〉本が献呈されてきた(感謝です)―― 間瀬茂他『工学のためのデータサイエンス入門:フリーな統計環境Rを用いたデータ解析』(2004年3月25日刊行,数理工学社,ISBN: 4-901683-12-8).今年は「R年」なのか.

◇夜遅く〈テポドン〉着弾 ―― そのまま「ゴミ箱」に直行.※ゴメンねー.明日,東京の某キャレルで書きますです,ハイ.

◇さらに夜遅く ―― 長谷川フォーラム報告書のすべてのセッションをpdf出力し終える.pdfの総サイズは60MBあまり.ページ数にして120ページほど.まだ届いていない原稿が3つほどあるが,それは流し込めばいいだろう.

◇本日の総歩数=5232歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


23 maart 2004(火)※ふつーの日

◇何もイベントがない,ふつーの日 ―― 未明からまた湿り気味.気温も低い.

◇どーも,遠くからご心配していただきまして ―― 「お熱」なんとか下がりましたです.ついでに,ソーバー本までご注文いただけるとは感謝感激雨霰.サインでも手形でも何でもさせてもらいまっせー.廃業の波紋広がる蒼樹書房の在庫本ですが,少なくとも今月中は通常の流通ルートに乗っているはずです.

―― 蒼樹本の行く末の件ですが,先週日曜日に,埼玉県内の某会社が蒼樹書房の在庫を一手に引き受けて販売するという方向で,大筋の合意に達したとのことです.したがって,懸念されていた3ヶ月後の断裁処分という最悪のシナリオは回避されました.翻訳書に関する税法上の詰めが済んだ時点で,一般へのアナウンスが流される予定です.水面下での折衝が実を結んだということですね.

―― ソーバーの『過去を復元する』が顔を出したので付記します.日本語版序文(1996年2月)で原著者が言っていることは,要するに「単純性/最節約性」という基準に関する考察はまだ終っていないという見解の表明です.この本ではまったく言及すらされていませんが,1990年代以降の彼の研究では,赤池情報量基準(AIC)を武器にして,統計学的な意味でのモデル選択はすべて最節約基準の発現にほかならないという主張を展開しています.より単純な仮説はAICの点で期待値としての予測確度(predictive accuracy)を最大にするということです.

◇長谷川フォーラム報告,なお続く格闘 ―― 駆け込み文書バクダンがぱぱんと炸裂(あわわ).お,自称〈どじかす〉氏から長文の座長報告も.うむむ,負けずにワタシもたくさん書かないと(張り合うなって).フェミニズム社会論,行動遺伝学・発達心理学,文化人類学,そして考古学とセッションごとの報告がどんどん仕上がっていく.

◇『日本産蛾類大図鑑』の情報 ―― 今日,頒布元のバウアー&サトウ・ジャパン社からダイレクトメール届く.4月5日発売が決まったとのこと.予約定価95,000円(高いって? でも安いと思う人が多いのでは?).先月,予約締切だったはずが,まだ予約できるみたいですね,→詳細.※〈むし屋〉業界の本の売れ方パターンは特殊だもんね.サイフの紐がもともとないも同然.あー,ダメダメ,昆虫本のカタログに囚われるのは,ダメダメ.すぐ閉じる.

◇東大出版会『UP』の最新号(2004年4月号)―― 毎年恒例の〈東大教師が新入生にすすめる本〉.金子邦彦……『荘子』(当然のセレクションでしょうな).それにしても,「読め言われたら読んだらへんで」を宗としてきたワタシとしては,新入生が多少とも「抵抗」してくれればなと思ったりもするのだが,すすめられたらやっぱり読みます? ※この企画,文春新書から単行本化されたそうだが,まだ見てないねー.

◇手早くTRC週刊新刊案内からのセレクション:1366号 ―― 今週の目玉はもちろん佐々木冠『水海道方言における格と文法関係』(くろしお出版).どーして隣りの水海道市が「標準日本語と比べて格段に多様な格形式をもつこの方言」と呼ばれるのか興味津々.方言というとつい「遠隔地」を思い浮かべてしまうが,実はすぐ近くに〈島〉のようにあったとは.※ソルブ語みたいなもんか.

――ついでと言っては怒られますが,『新編農学大事典』という高〜い本が養賢堂から出ましたです.ワタシめも著者のひとり(生物統計学項目)ですので,おおいに宣伝に努めなければならぬのですが,42,000円という血圧が高くなる価格帯ですので,ごくひっそりと控えめに「公費で買ってね(できれば)」と言うにとどめませう.

◇ん,養老孟司さんは「ケーシー高峰」かとのことですが,舞台でのあのうろつき方は代償行為だとワタシは見ましたね.なぜってボードマーカーをしきりに弄んでいたでしょう.あれってきっと触るホネがなくって不安だったのでしょう.マーカーの代わりに頭蓋骨のひとつももたせてあげればもっと落ち着いて撫で撫でしていたにちがいないとワタシは想像しますよ.

◇本日の総歩数=7556歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


22 maart 2004(月)※〈ダーウィンで科学を楽しむ〉

◇朝から曇り,気温低く,そのうち小雨.午後からは雪に変わるという予報――こういうときに東京にプチ出張とはね.今日は,午後から日本科学未来館で〈ダーウィンで科学を楽しむ〉講演会とレセプションがある.

◇長谷川フォーラム報告のいくつかのセッションをpdfにして,見本として実行委員会に見てもらう.※MacG4を使ってもpdf化にはやはり半時間ほどかかってしまう(ノートパソコンと大差なし).pptの画像をダウンロードするのにとても時間がかかるみたい.

◇昼前に小雨の中をひたち野うしく駅から乗り込む.上野で乗換え,新橋でさらに乗換え,ゆりかもめの船の科学館駅に降り立つ.雨足やや強し.すでに講演会は始まっているぞ(やば).お台場は遠過ぎるぞ(都内だろ).

――最初の演者だったランドル・ケインズさん(『ダーウィンと家族の絆』著者→写真右)の同タイトルの講演は聞き逃す.養老孟司さんの「ダーウィンの壁」がもう始まっていた.養老さん,スケルトンのひとつもぶら下げてきたらよかったのに.「解剖学劇場」のごときホールは,ほぼ満席.一般向けの講演会ということもあり,同時通訳がつく.平日なのに中高生らしき姿もちらっと(すでに合格した受験生はおっけー).

――続くジェイムズ・ムーアさん(『ダーウィン』の著者→写真左)の講演は「ダーウィンとその時代」.北都エディンバラから始まるダーウィンの学究生活をたどる.ダーウィンを取り巻く人物たち(ロバート・グラントをはじめ,ハクスリー,セジウィック,オーウェンら)を配役することで,ダーウィン進化学を取り巻く当時の社会的・時代的背景をとらえようという姿勢.

――一見,場違いかと思ったのだが,実はグールド的にハマっていたのか,でもよくよく考えると大きくハズしていたのか,その割には本人ノリノリで客もウハウハだったのが,向井万起男(→写真右)さんのトーク「メジャーリーグの進化とダーウィン」.このボケかた,いいんじゃないっすか.グールドの最終ベースボール本(『Triumph and Tragedy in Mudville: A Lifelong Passion for Baseball』,2003年,W. W. Norton)はこの人にキマリ(とレセプション会場でご本人に言った).とにかく,自他ともに認める大リーグオタク(奥さん,たいへんだろうなあ).この人にかかると,あのグールドでさえ,「バッターばかり論じていて,ピッチャー軽視の片手落ち」とバッサリ(うーむ).1時間ほどもしゃべり続けたのでは?

――最後のオリヴィア・ジャドソンさんの講演は「雌の奔放な振る舞い」.さすが〈ドクター・タチアナ〉を演じるハマリ役ぶり.もったいないから写真は見せないもんねー.気になってしかたがない人は『ドクター・タチアナの男と女の生物学講座』のダスト・ジャケットをよく鑑賞すべし.

――午後5時半から同じフロアの別室で講演者をまじえたレセプションが開かれた.今回イギリスから招待された3名の演者を束ねる元締め訳師さまをはじめ30名ほどが参加.主催の科学技術政策研究所の今井所長の話では,こういう一般向けの企画を立てたのは政策研では初めてのことなのだそうだ.出版と科学ジャーナリズムからの参加者が多かったようだ.林衛さんとか,工作舎の方とか,今週金曜に別セミナーをホストする鵜浦裕さんとか(初対面).宗教&進化がらみの集会では思わぬ方向に議論が流れることがあるそうだ.「蒼樹の本はどーなりました?」という質問も(あした報告しますね.ご心配なく).※昼ご飯を食べる時間がなかったので,とってもうまかった(食慾旺盛).

◇午後7時前に帰路につく――結局,一日中しとしとと雨が降り続きました.帰りの車中で『ナボコフ伝』読む読む.1917年のロシア革命により,ナボコフ一家がクリミア半島を出港しアテネからマルセイユを経てイギリスへ亡命行を余儀なくされるまで.これで第1部がやっと読了.

◇雨の中をつくばに到着.

◇本日の総歩数=11292歩[うち「しっかり歩数」=1123歩/11分].


21 maart 2004(日)

◇天気は回復.昨日の湿った冷気に直射日光が当たり,そこら中の芝畑からもやもやと水蒸気が立ち上る.熱はないようだ(朝はね).

◇不健康にも自宅キャレルに閉じこもって,長谷川フォーラムの版下造り――〈法学〉に引き続き,〈経済学〉,〈哲学・倫理学〉,〈文化人類学〉と素材の割りつけを進める.ついでに各セッションの座長報告をてきとーにでっちあげる身を入れてまとめ上げる.ここまでで,刷上りにして50ページほどの分量になった.

――日頃接触のない分野のレクチャーは聴くというより聞こえるに近いものがある.鳥のさえずりあるいは虫の鳴き声みたいなものか(「ことば」として認識しているのだが).ごく基本的な言葉づかいやスタイルがちがうだけで,〈アタマを素通り〉状態に陥ってしまうのは避けられないことなのか.いくつかの“囮”を泳がせておいて,喰いつくのを待つというのがいつもの手だが,囮すら出しようがないとダルマですな.

――うーむ,それ以前に,早くしないと「火ダルマ」というつまんないオチも…….

◇いま二校が出ている『生物科学』では見送られる予定だった「“みなか”ワールド」が復活することになったそーだ――ワタシが復活折衝したわけではありませぬ.

◇『ナボコフ伝』への逃避しばし.1905年1月に起きた「血の日曜日」事件のくだり――

一月九日(新暦二十二日)の日曜日,二十万人にもおよぶ穏やかなデモ隊を率いたガボンは,ネフスキイ大通りを冬宮へと向かった.……デモ隊が解散しようしないので,軍隊が発砲し,百人以上が殺され,千人ほどが負傷した.ナボコフ家からたった四分の一マイルしか離れていないところで,騎馬憲兵がデモ隊の列に発砲し,マリインスカヤ広場の木立に隠れようと逃げ出した子どもたちも殺された./一九〇三年以来,ペテルブルグ市協議会委員だったV・D・ナボコフは,事件の三日後に開かれた市協議会で,「血の日曜日」の悲劇を弾劾し,殺されたひとたちの家族に二万五千ルーブリを支払うよう提案した.[p.62]

――ペテルブルグの「血の日曜日」事件は,作曲家のショスタコーヴィッチが交響曲11番〈1905年〉にも音楽描写されている.もともとショスタコーヴィッチの後期の交響曲はほとんど知られていないが,なかでも11番はその陰鬱さと長さ(7番〈レニングラード〉に匹敵する)で厭われていると思う.兵隊の発砲音を銅鑼を木の撥で叩くことで表現するというような社会主義的リアリズム(?)が目立つ曲だが,その第2楽章は「1月9日」と名づけられている.

――「血の日曜日」事件の翌年,長男ウラジーミル・ナボコフは〈蝶〉の世界に開眼する.

◇[つくばローカル]公式オープンされた〈LALAガーデンつくば〉のせいで,土浦学園線はたいへんなことになっている.開店イベントが続いたこの週末の昼下がりには,小野崎のDGXワンダー交差点を中心に,上下6車線がすべて渋滞しているらしい.〈香辛飯屋〉から斜めに入る抜け道も西大通りから詰まっているとか.国道408号も谷田部保健所から誘導員が立つありさま.休日のクレオ渋滞は前からのことだが,LALA渋滞は新たな現象.※当初から予想されたことではあるのだけどね.市街地中心部に向かうには幹線道路はもう使えないかなー.

◇動かず歩かずでは「トド化」してしまうので,万博記念公園でサッカー練習とウォーキング.咳が苦しいっす.1時間あまり.

◇夜は再び長谷川フォーラム報告集づくり――いちおうすべてのセッションの中身を詰める.報告部分だけで110ページほどになりそう.

◇「箱崎」師,ガンバル! ―― ううむ,やはりただものではなかったか.日が変わる直前,かの原稿が届いた.※これで越中テポドンの標的はすべてつくばに向けられることに…….逃げないと.

◇本日の総歩数=9166歩[うち「しっかり歩数」=2792歩/31分].


20 maart 2004(土)※春分の日

◇昨夜早く寝たので,午前3時にもう目が覚めてしまう.※なんて損な体質.メール書いてみたり,鼻かんでみたり,顔洗ってみたり.そして,論文査読の督促でへこんだり.

◇おお,蒼樹本の行く末に光が…….よかったですね.

◇夜明けとともにしとしとと雨が降り出す.気温低いねえ.いまのところ熱は小康状態.

◇長谷川フォーラムの報告原稿と資料がほぼそろった.さて,これからがもうひとふんばり.でも,病み最中でイマイチ気が乗らない.なもんで,逃走…….

――ブライアン・ボイド『ナボコフ伝・ロシア時代(上)』(2003年11月20日刊行,みすず書房,ISBN: 4-622-07071-5)を夢からうつつに読み進む.ウラジーミル・ナボコフは何重にも屈折した複雑な人格だったことがうかがわれる.第1章はナボコフ家系について.ナボコフの祖父は帝政ロシアの将軍であり,司法大臣を務めた法学者の父は君主主義者によって暗殺されたという.続く第2章は故郷サンクト・ペテルブルクについて.世紀の替わりめの街角で老トルストイと出会ったり,自宅ではシャリーアピン独唱会が催されたり,あるときは列車を連ねて地中海岸リヴィエラまでバカンスに出かけたりか.貴族.また,うつつから夢に…….

◇午後になっても冷たい雨がしとしとと降り続いている.今日の最高気温は10度に達しないだろう.微熱が続いているありさまでは,本日は外出禁止ですな.

◇仕方がないので(...),長谷川フォーラムの報告書の版下を造りはじめる.ほとんどの演者がすでに出し終えているので,あとは座長のコーディネーターの原稿だけか.素材は各講演の報告原稿(doc→txt)とプレゼン資料(ppt→pdf).InDesign で割りつけをする.InDesignでpdf読みこみをしたのは初めてだったが,けっこう便利な機能ですな(あとで痛い目を見るが).マスターページの設計を先にすませて,届いた原稿をセッションごとにまとめる.座長談+(講演報告+配布資料+質疑)×nという基本構成で割りつけ開始,おお快調です.でもって,とりあえず〈法学〉セッションの報告を造り終える.さて,InDesignファイル(indd)からpdf書き出しをはじめたとたんに律速段階が.pdfを読みこんだinddから再びpdfに吐き出すのはとてつもなく時間がかかりますね.ノートパソコンにやらしたのが敗因か? 20分ほどうんうんうなって,15MBもの子pdfが「出産」されました.親inddファイルは1.5MBしかないのに.1講演で刷上り10ページほどの分量になりそうなので,トータルでは150ページあまりの報告集になる予感がする.

◇夜になって,また7度台の微熱が――やっぱり寝るしかないのかな.またも夢うつつでナボコフの世界に耽溺か....

蜘蛛の糸――生物学哲学の本を読んでいて,〈演繹〉とか〈帰納〉とか〈説明〉ということばが出てくるたびにナミダうるうるになるのは,ま,生物系の読者の場合は最初のうちはしかたがないんじゃないでしょうかね.逡巡する前に【丸呑み】してしまうのがいちばんではないかと思います.※ドクかクスリかわかりませんが.

◇本日の総歩数=0歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].※ううむ,ゼロの美学なりぃ〜.


19 maart 2004(金)

◇病み上がりの朝――まだ冷気が残っているな.熱は下がったようだが,喉と鼻の具合がよろしくない.気休めにケロリン服用.※もっと寝た方がよいのだが,生体リズム的に遅寝ができないので.

◇たった一日でも居室を離れると,机の上にいろいろなものが積み上がっている――〈長谷川フォーラム〉は今日が原稿締切日.だいぶ集まってはいるが,コンプリートではない.事務局から報告集の見本が速達で届いている.なあるほどね.おおまかな体裁を頭に入れておく.今日中に刷上り見本をば.※う゛,ワタシの座長報告は…….まりまりのコーディネーター報告は…….まだ出していない人たちは…….

◇今日が締切りという原稿がもう一件あったりする....(多汗)

◇『生物科学』の太田邦昌追悼特集の2校ゲラが越中に届いたそーだ――著述目録の訂正箇所いくつか,全体の体裁の検討(記事の順番とか,組版の出来とか).ついでに,ちょっぴりペパーもかかったていたりして.※「箱崎」さん,いよいよ出番でーす.

統計噺(その壱)―― 先日紹介した芝村良『R. A. フィッシャーの統計理論:推測統計学の形成とその社会的背景』(2004年2月29日刊行,九州大学出版会,ISBN: 4-87378-816-1)が届いていた.統計学史の本.農業統計学という「場」での統計理論の発展をたどっている.奥野忠一『農業実験計画法小史』(1994年10月13日刊行,日科技連,ISBN: 4-8171-0380-9)はタイトル負けしているけど,今回の新刊はそういうことはないだろうと思う.

◇統計噺(その弐)―― 芝村本をぱらぱらしていて知ったこと.これまた上と同じ日に書いたことだが,新しいピアソン伝『Karl Pearson: The Scientific Life in a Statistical Age』を書いたTheodore M. Porter の前著(『The Rise of Statistical Thinking 1820-1900』)は翻訳されていた:T.M. Porter『統計学と社会認識:統計思想の発展 1820-1900』(1995年7月刊行,梓出版社,ISBN: 4-87262-403-3).

◇統計噺(その参)―― 〈中澤メモ〉によると,『The R Book:データ解析環境 R の活用事例集』の目次が公開されています.→「目次」.4〜5月に出版される予定だとか.第1部が「Rの導入」で,第2部が「Rの応用」という構成.

◇日当たりのよい居室がどんどん「温室化」している――午後3時,室温28度.

◇おおっ〈台北101〉! ―― まさに「出る杭」って感じですな(笑).高さ500メートルの建造物か.“臺北101”をキーワードにして繁体字サイトを検索すると,もう早くも「夢は広がってます」ってとこね.→たとえば,〈世界第一高樓『101大樓』購物中心在臺北開業〉なんて漢字の列を見ると,臺灣語が読めなくっても,おおいにそそられるものがある.

◇言語噺(その壱)―― New York Times の記事「A Biological Dig for the Roots of Language」(3月16日号:Nicholas Wade筆).昨年暮れの Nature 誌に載った,印欧語族の言語系統樹をベイズ推定した Russell Gray らの研究(27/Nov/03号)に関するもの.主として言語学者側からの反応を拾っているようだ.言語系統を生物系統的に推定するのはとくに何も問題ないわけで,むしろ結論として得られた言語間の「分岐年代」とか「伝搬経路」が論議の中心になるということか.

言語噺(その弐)―― アジェージュの新刊『絶滅していく言語を救うために』(2004年3月10日刊行,白水社,ISBN: 4-560-02443-X).版元はてっきり明石書店かと思っていた(笑).カバーしている範囲は,ダニエル・ネトル&スザンヌ・ロメインの『消えゆく言語たち:失われることば,失われる世界』とほぼ重なる.しかし,第3部「言語の再生」の部分が充実している点でちがいがあるようだ.まず第一の山場は,第2章「生物種としての言語」かな.※ほほー,自然種ねえ....

◇言語噺(その参)―― 出たばかりの『季刊・本とコンピュータ』(2004年春号)の屋名池誠インタビュー「日本語は横書きに向かうか」(pp.71-77).『横書き登場:日本語表記の近代』(2003年11月20日刊行,岩波新書[新赤版]863,ISBN: 4-00-430863-1)の著者.書字方向の可能性を見極めたいという著者の考えは,古生物学で言う「理論形態学(theoretical morphology)」のそれに通じるものがあるように思う.〈形態〉としての書字をコントロールするいくつかのパラメータ(縦/横,左/右,漢字/かな etc.)を変化させることによって生じるスタイルの集合を見ようということか.

◇夜になって,またも38度の熱がぶり返す――仕事してはいけませんよ,本をゆっくり読みなさいというお告げかも.午後9時に就寝.

◇本日の総歩数=5262歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


18 maart 2004(木)※代休(小学校卒業式)

◇朝からアヤシイ雲行き――〈陰陽師〉に出てきそうな黒雲が飛ぶ.

◇午前中は長男の卒業式のため,小学校の体育館に行く.ビデオとデジカメ担当.3時間ほど.

◇卒業式イベントは昼に終了――引き続き,卒業生が記念撮影のためグラウンドに集まっていたちょうどそのときに,横殴りの風雨が.気温急降下.よく濡れました.生徒も保護者も.

◇ゲン直しに,明日から公式オープンする〈LALAガーデンつくば〉にプレ入場する.くまざわ書店,大きいです(アヤシイ本もちらほらと).スターバックスとタリーズが同居するとは! 駐車場が広いのはいいが,これでもいっぱいになるかもね(〈つくばYOUワールド〉や〈シネプレックス〉の前例があるし).広大な駐車場との行き帰りで,また雨によく濡れる.

◇帰宅して,ほっと一心地ついたあたりから,あれ〜,なんだかからだがだるいよーな,熱っぽいよーな.まさかねー.体温を測ってみる.【37.8度】.れれれ〜.

――ということで,夜9時に早くも就寝する.風邪なんか寝れば直る.※ケダモン並み.

◇本日の総歩数=7313歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


17 maart 2004(水)

◇寒さ和らぎ,日の出も早くなった――未明派としては戸外が明るくなってしまうと,「あ,出遅れてしまった」と妙な焦燥感に囚われてしまったりする.※暗けりゃいいのかっとツッコマれても困るのだが,暗いとなんとなく安心できるでしょ.え,それってワタシだけ?

◇昨日,埼玉大学の矢野環さんからメールをいただいた――〈太田邦昌著述目録〉の洩れ落ち項目の連絡.日本分類学会の英文会報(Bulletin→pdf版)に確かに「真正分岐学(genuine cladistics)」の記事が載っていました(Vol.2, pp.8-10, 1988).目録に追加する.

――この矢野さんという方,数学者なのだが,古典籍とくに茶道と香道の古文書の文献系図学が研究テーマのひとつだそうだ(→「古典籍を“解析”しよう」).うかつだったなあ.『生物系統学』を書いていた頃から,文献系図学の研究者が日本にもいないかと探していたのだが,古典学ではなく数学にいたとはね.統計数理研究所/行動計量学会にそういう関心をもった研究者がいそうだということを初めて知った.

――矢野メールで納得したことがいくつかある.日本の古典籍研究者の中で,本文批判(textual criticism)の方法論,とくに文献系図学(manuscript stemmatics)の理論(Paul Maas や W. W. Greg の)に通暁していたのは池田亀鑑だったとのこと(「池田亀鑑」といえば高校時代に『平安朝の文学と生活』というようなタイトルの文庫本を読んだ記憶がある).しかし,池田以降,日本の国文学界では文献系図学への理論的関心は消滅してしまったらしい.※探してもいないはずだ.

――関心が薄らいだ理由のひとつは,写本の「交雑」すなわち〈混態(contamination)〉の現象.モデルとしてのツリーは必ずしも適用できないだろうという認識が広がったからだそうだ.でもそれは生物の系統学でもまったく同じことで,だからこそネットワークというさらに緩いモデルが出てきたわけですね.私が知るかぎり,文献系図学の業界で開発された系統推定ソフトウェア(たとえば BLUDGEON)は混態を最初から考慮したつくりになっていると聞く.でも,最近の Nature 誌にも載ったように,むしろ生物系統樹のための PAUP*, SplitTree あるいは MrBayes を文献系図に援用した研究が多いような印象を受ける.

――いずれにせよ,矢野さんはグッド・タイミングに登場してくれたので,さっそく進化学会東京大会の公募シンポ〈非生命体の進化理論2〉(仕掛人:佐倉統・三中信宏)の演者にノミネートしよう.実にラッキーなことだ.

◇昼休みの気温が摂氏21度を越えた.南風も強く,遠景は土遁の術のように黄色く煙っている――これは,「外を徘徊してはならぬぞ」という“やおよろずの神”のオラクルにちがいない.

……ということで,部屋を暗くして居室内でじっと逼塞しよう,シズカに休憩しようと思ったら,年度末に駆け込み注文した本たちがどかどかと到着した.おお,アレがきたか! へえ,コレも.あらま,ソレまで....もう活字の海で溺死ですぅ.ああ,シアワセなこと.※ここ半月ほどの間に,70冊ほどの本が城壁のように机の周囲に積み上がった.

◇情報感謝! ―― The R Book(仮)』あらため『The R Book:データ解析環境 R の活用事例集』だそうです(→中澤港さんの〈メモ〉).詳細については,追って〈RjpWiki〉にアナウンスされるとのこと.※待ちます待ちます.

◇〈日記の相互関係〉――う〜む,すべて読まれている,ワタシ.脱帽でございます.※ソシオグラムの分析みたいね.

◇オンライン「進化学一次文献」サイトをしばらく見ないうちに,だいぶ充実してきたなあ――

――ダーウィン・サイトではオンラインで読めるダーウィンの著作数が増えている.ステューバー図書館のヘッケル文庫には『生命の不可思議』が新しく入った.ボタニカル・ラテンのサイトにあるリンネ文庫では『Philosophia Botanica』を電子化して公開している.

◇明日は小学校の卒業式があるので,休日にした.

◇本日の総歩数=7709歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


16 maart 2004(火)

◇ほどよく涼しい――〈長谷川フォーラム〉の原稿ファイルがぽつぽつと届き始める.パワーポイントを挽いてpdfを淹れたりとか.計量生物学会の査読結果を著者に連絡したりとか.

◇近刊予定の『The R Book(仮)』(日本語の本)――とっても期待してま〜す.※先行宣伝をちょろっと流していただけるとウレシイなー.

◇昨夜から読み始めた『東アジアに新しい「本の道」をつくる』は,メインの部分をほぼ読了.日本の「元気なし」に比べると,中国・台湾・韓国のいずこもスタミナ漲りという感じが強く伝わってくる.簡体字・繁体字・ハングルという字体に異国感を認識してしまうというのは「内なる問題」なのかもしれないが(タイポグラフィックに新鮮だとかそういう次元ではなくってね).〈読む人 1935-1958 日本〉――とてもよかったです.ただし,前にマングェルの『読書の歴史』を読んだときにも強く感じたことだが,他人が本を読んでいる姿を傍から覗くというのはとっても罪深いことではないだろうか.見てはいけないことはないのだろうが,あ,ちょっとまずいものを垣間見てしまったかな(出くわさなければすんだものを)という感覚だ.だからこそ,レンブラントのような画家あるいは木村伊兵衛のような写真家が題材にしたのだろうけれど.※ほら,本を読んでいるときって〈完全無防備状態〉になるでしょう.それが理由かな.

――とりわけ,台湾の出版社が注目株か.遠流出版公司のサイト〈遠流博識網〉はとてもおもしろそうだし,同社がつくる Scientific American 誌の台湾版サイトも気になる.繁体字酔いしたい.※ん,ダイヤルアップだと「tw」につながらないな....

――お,韓国のタイポグラフィック・デザイナーである安尚秀[アン・サンス]も登場.この人のハングル文字のデザインは単に斬新というだけではなく,魅力的.教科書体だけではないハングル書体が可能であることを痛感させられた.

――こういう隣国のパワーと比較すると,この本の日本篇だけ,クレバスの底をのぞき込むように〈どぉーんとクライ〉のはなぜ〜.※長恨歌を無限リピートされてもね.

方々で話題になっている飯田朝子『数え方の辞典』(2004年4月1日刊行,小学館,ISBN: 4-09-505201-5)が到着.なるほど,大きな鐘(カリヨン)は一口[いっこう],二口[にこう]と数えるのか,黴[かび]は一株[ひとかぶ],二株[ふたかぶ]ね.へえ〜.

――そういえば,先日,次男が「数の単位を教えろ」と言うので,ひさしぶりにかの『塵劫記』(岩波文庫33-024-1)を引っ張り出した.伝統的な和算の教科書であるこの本の冒頭には「大数の名」が列挙されている:一,十,百,千,万,億,兆,京,垓,ジョ[ノギヘンに予],穰,溝,澗,正,載,極,恒河沙,阿僧祇,那由他,不可思議,無量大数.正しく記憶していたのは「垓」までかな.宇宙の全陽子数(エディントン数)は無量大数よりもさらにゼロが10個あまり多い.大数以上に忘却されているのは「小数の名」だろう――分,厘,毫[毛]まではいいとして,その下に,糸,忽,微,繊,沙,塵,埃と続く.さらに別典拠によると,埃の下にさらに,渺,漠,模糊,逡巡,須臾,瞬息,弾指,刹那,六徳,虚空,清浄とあるのだとか.※ほーというか,へーというか.

◇昼休みは,飛地での切り株読書――ウィンチェスター本の続き.詩人コールリッジの孫が〈OED〉の基本理念を打ちたてたという話.

◇午後もまた,原稿集約奴隷として服役する.※原稿執筆奴隷に格上げされるのはいつ?

◇ほほー,そりゃおもしろいっすねえ.へへー,そういうつながりがあるんですか.ははー,こりゃ使えますよ.

◇最尤法にも手を伸ばします?――インパクトあると思いますよ.

◇そーか,惑星の名は【種】名とおんなじだったのか!――朝日新聞の新発見〈惑星〉セドナの記事を見ると,太陽のまわりを回っているだけでは「惑星」たる身分を与えられないのだそうだ.事実,冥王星はすでに惑星ランクを剥奪されているとか.うーむ,しかも,識者コメントいわく「その天体がある空間で突出した存在でない限り、惑星とは呼びがたい」.〈突出した存在〉っていったい何ですかー.惑星ってもともと定義がないんでしょ.国際的な天文学の委員会が決定するそうだけど――こーいう問題って,学問分野を問わずどこでも出てくるんだねえ.深く深く納得.

◇本日の総歩数=14016歩[うち「しっかり歩数」=8905歩/78分].


15 maart 2004(月)

◇冷え込みなし.昼間ぬくし.日射し心地よし――にもかかわらず,諸般いろいろあれこれで蟄居カンヅメ状態.JST〈長谷川フォーラム〉のとりまとめ.原稿の依頼と資料提出のお願い.演者が多いので駆け込みでばたばたするかも.ぼく自身も座長コメントをまとめないと.パワーポイント資料は演者ごとに“配布資料”形式でpdf出力してもらうことにする.邪悪pptファイルがメール添付されて押し寄せてくるという悪夢はぜひぜひ回避したいので.腐れdocファイルもいやいや.※関係者諸氏,ご協力をよろしく.あと,締切もねっ.

◇計量生物学会のレフリーが返ってくる――これはさくさく処理.※もういっちょの「変成岩」もついでにドカンと発破かけましょー(汗).

◇そーか,このコレが終っても,あのアレが残っている.そのソレも今週金曜が〆切だし.

――てな具合に,カンヅメになってるのに,〈テポドン〉は断続的に降り注ぐ.ムリ,ムリムリぃ〜.ムリー.無い袖は振れない.かんにん.

◇昼前にカンヅメから脱走し,食総研に図書を返却→筑波事務所郵便局→羽成公園にて読書という逃走コース.ウィンチェスター本の続き――英国文献学会(Philological Society)の創立(1842年)物語.〈OED〉の母体となるこの学会の趣旨は「to investigate the Structure, the Affinity and the History of Languages」にあったとか.この時代の〈affinity〉という語には要注意(進化的深読みはダメ).ただし,ライエル地質学とのアナロジーのもとに,言語の変遷をとらえようとしていたというから,含みはあるのかな(でも創造主による言語の genesis が前提だもんね).

――この学会,英語に限らず全世界のあらゆる言語をターゲットにするというとんでもない意図があったそうだ.それを,まずは英語に目を向けさせ,とりわけ〈まともな英語辞書〉の必要性が認識されるようになったのは15年後の1857年のこと.「未登録語委員会」(Unregistered Words Committee)なる委員会が組織され,英語のワード・ハンティングが本格化する.目標は〈万物の意味(the meaning of everything)〉を載せた「まったく新しい辞書」づくり.〈歴史原理〉に則って,個々の語の伝記を辞書制作の基盤に据えるという方針が示された.

◇コブシの花がところどころでもうすぐ満開になる気配――いつもは4月に入ってから咲き始めるのに,予想通り今年はだいぶ早いな.

東アジアに新しい「本の道」をつくる』(2004年3月8日刊行,トランスアート市谷分室,ISBN: 4-88752-186-3)をぱらぱらする.『季刊・本とコンピュータ』の別巻という趣き.以前から,中国・台湾・韓国など東アジアの出版業界に目を向けてきた姿勢の産物のひとつだろう.〈生気〉が伝わってくる感じがしていいですね.本をもっと買って,もっと読もう.そーだそーだ.

◇午後も調整仕事いくつか――キレがイマイチよろしくない.もっとぱきぱきやらないと.

◇備忘メモ――前から気になっていた〈源氏香〉のネットワーク/蒼樹本サバイバル計画,水面下で進む/所作ステップ行列 etc. ※うん,確かに形態形質のステップ行列による重みづけはこのケースに流用できると思います.というか,積極的にその方向に進んだ方がいいですね.いい結果を期待しています.

◇〈つながっている!〉――ほほー,なかなか,やるやん.(スルドい...)

◇〈蒼樹書房〉――確かにね,個人的には,『過去を復元する』の他にも,Elliott Sober『The Nature of Selection』は訳されるべきだと今でも思っています.あとは,教科書としての『Philosophy of Biology』(第2版)かな.生物学哲学って,もう少し後押ししてもいいでしょ.※え,ワタシの「力」と申されましても,力こぶくらいしかできまへんので――これまた水面下で,とある【電話帳】を翻訳(抄訳)するというハナシもあるので,日本の生物学哲学はひょっとしたらこれからなのかもしれない.

◇22日に開催されるイベント〈ダーウィンで科学を楽しむ〉には参加できるとの連絡が入った.※来週は「ダーウィン・ウィーク」.

◇本日の総歩数=11684歩[うち「しっかり歩数」=7435歩/63分].


14 maart 2004(日)※高崎→つくば

◇やっぱり寒い北関東の早朝――戸外は霜が降りていた.一日のうちでも寒暖の差がとても大きい.昨日は雲が多かったが,今日は大丈夫そう.

◇生物地理学会シンポ〈共進化の生物地理学〉のページに,川井浩史さんたちの講演要旨を追加する.学会の公式サイトもあわせてアップデートしてもらわないと.

◇春休みをひかえ,春の学会シーズンがそろそろ近づいてきた.以前は,年中行事のように春と秋の〈学会大会ハシゴ〉をしてきたものだが,最近はそういう機会がだいぶ少なくなってきたように感じる.もちろん,参加する回数は多いのだが,ハシゴするという感覚がなくなってきた.国内外を問わず,参加する学会が絞りこまれてきたということか.それとも,非日常日常に転化しつつあるということか.前者であれば常人;後者であれば芸人.

◇JST〈長谷川セミナー〉の関係者諸氏宛に,報告書進捗と今後のせわしない予定についてのメールを出す――実行委員会と各演者と両方に.素材をばさばさと集めましょ.がーっとね.※なんたって,年度内に印刷完了で,4月はじめに耳を揃えて提出ということらしい.(poco a poco 冷や汗)

◇え,また別の出版社から「生物学事典」ですか?――統計分野の用語選択について相談を受ける.実際に執筆を依頼するにはそれなりの人脈が必要でしょうから,ほらアノ人とかコノ人に元締めを依頼されるのがよろしいのでは,とそのまま丸投げしてしまう.

――それにしても,ここ数年〈事典・辞典〉を書く仕事が増えてきた.日本人って「辞書好き」? うーん,徹底的な辞書は少ないけど,そこそこ辞書はたくさんあるかもね.

◇つくばへの帰路は〈Bruckner 9〉を流し続ける――オイゲン・ヨッフム&ベルリン・フィルの1960年代録音.これまた典型的なブルックナー・リズムの上で金管轟き渡り,ことに第1楽章が秀逸.ブルックナーやマーラーはホールの床が揺れるもんね.舞台に乗った奏者あるいはソデにいる関係者しか体験できないこと.〈音〉よりも前に〈揺れ〉で聴く音楽.耳ではなく,からだ.

◇夜遅くなって帰宅――生物地理学会シンポの演者・五箇公一さんから要旨が届く.これで全員分がそろった.

◇疲れたー,磨り減ったー,腹へったー.

◇本日の総歩数=2211歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


13 maart 2004(土)※つくば→高崎

◇¡ Hola, buenos días ! ―― 一面の〈霧の海〉.最低気温ほぼ零度.さぶ…….

◇農環研は,この週末,全館停電してのLAN工事――早朝,ウィークエンドに必要となる[であろう]資料だけ取りに行って,たった数分間でそそくさと退出.電気止まる,LAN落ちる,となると,さすがにここにいてもしかたないもんね.

堆積岩(部分的に変成岩化)――〈JSTフォーラム〉報告書の進捗チェックと関係者への連絡;生物地理学会シンポジウム講演要旨の督促とメーリングリストへの宣伝;日本生態学会編『生態学入門』の原稿リライト;『Panmixia』太田邦昌追悼原稿;計量生物学会セミナー報告;現代新書原稿;etc.etc.etc. ※で,どれから?(……)

◇日が上がるとともに霧も晴れ,春らしい空模様になった.

TRC週刊新刊案内からのセレクション:1365号――今週は豊作.とくに,ジャック・ブーヴレス『合理性とシニシズム:現代理性批判の迷宮』(法政大学出版局,叢書ウニヴェルタシス785)と芝村良『R. A. フィッシャーの統計理論:推測統計学の形成とその社会的背景』(九州大学出版会)が必修か.大学出版会,頑張ってるね.“本コ”がらみの新刊では,いつの間にか手元にある『東アジアに新しい「本の道」をつくる:東アジア共同出版』(トランスアート市谷分室)かな.趣味的には,岩下均『虫曼荼羅:古典に見る日本人の心象』(春風社)が気になります.すでに献本していただいた本もあり,この週末はハッピーです.

◇統計学のビッグネームである R. A. Fisher の伝記出版にビックリしていたら,プリンストン大学出版局からはもう一人の巨人 K. Pearson の伝記が今月出たそうな――Theodore M. Porter『Karl Pearson: The Scientific Life in a Statistical Age』(2004年3月刊行,Princeton University Press, ISBN: 0-691-11445-5).現在では「カール・ピアソン」といっても,海鳴社から出た薄い伝記(タイトル失念.『〜けんか一代記』とかそういう題名)しか,その人となりをうかがい知るすべはない.しかし,かつては,日本でもベストセラーとなった『科学の文法(The Grammar of Science)』の著者として,ピアソンは今よりもはるかに知名度が高かった.もちろん,統計学だけでなく進化学の領域でも,メンデル遺伝学派と対立した〈生物測定学派〉側の主導者として有名だった.

◇そーですか,じゃあ,こんな新刊はいかがでしょう?――『知里幸惠のウウェペケレ(昔話)』(知里幸惠著訳, 北海道出版企画センター,ISBN: 4-8328-0402-2).紹介文によると,「知里幸惠が金田一京助に送った“ノート第一”を底本とした民話集。アイヌ語ローマ字文、アイヌ語カタカナ文、日本語訳の3行構成。」とのことです.どーです?(眠れない夜のために)

◇カール・ベーム&ウィーン・フィルの〈Bruckner 8〉を流しつつ,常磐→外環→関越と夕闇の高速を飛ばしまくる.30年も前の録音だが,第4楽章の金管の咆哮,がつんがつんと手斧のごときティンパニーの拍打がいいですねー.この終楽章を聴くたびに〈騎馬軍団の疾走〉をイメージしてしまう.やれーっ,いったれーっていう感じ.途中,三郷近辺での渋滞のため,8時半頃に高崎着.

◇夜,『Comprension y Uso de la Estadistica』にある統計学用語集〈Glosario〉とその補遺〈Glosario adicional〉を通し読み.この用語集は「西語・英語・仏語」の対応付けをしている.ごく基礎的な用語の羅列だが,なんとなく新鮮.とりわけ基盤的な言葉(「偶然」とか「標本」など)がスペイン語ネイティヴであることを除けば,すべて外から移植されてきたものなのかな.「日・英・西」の順でいくつか抜粋してみる――

  • 統計学 = statistics = estadística
  • 無作為 = random = azar または aleatorio
  • 母集団 = population = población
  • 標本 = sample = muestra
  • データ = data = datos
  • 標本サイズ = sample size = tamaño de la muestra
  • 平均1 = average = promedio
  • 平均2 = mean = medio
  • 標準偏差 = standard deviation = desviación tipica
  • 分散 = variance = varianza
  • 正規分布 = normal distribution = distribución normal
  • 帰無仮説 = null hypothesis = hipótesis nula
  • 数理モデル = mathematicla model = modelo matemáticos
  • 母数 = parameter = párametro
  • 棄却 = rejection = rechazo
  • 信頼度 = confidence level = nivel de significación
  • 統計的推論 = statistical inference = inferencia estadística

――ほほー,語族としての共有派生形質から何となく推定できる言葉もある一方で,基底語はスペイン語独自ということか.

◇こういう「学び」をちょっとでもしておけば,たとえばこんな文章を目にしても〈即死〉することはないでしょう――

Una hipótesis estadística a un enunciado respecto a una población y usualmente es un enunciado respecto a uno a mas párametros de la población.

――本日のスペイン語のお勉強はこれにて完了.

◇本日の総歩数=2868歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].※移動距離は長いものの実歩は乏しい.


12 maart 2004(金)

◇朝から曇りがち――昨日は夏日の砂嵐でさんざんだったが,今日は気温が低いらしい.ホンマかいなぁ....

◇こういうかたちでスペイン語に触れるとは思わなかった――マドリッド『El Mundo』紙の3月11日付け速報:とくに現場写真〈Masacre en Madrid〉と事件当日の時々刻々〈Minuto a Minuto〉――爆発直後の“una situacion catastrofica con posiblemente varias personas heridas o muertas”(8:00)に始まり,“numerosas victimas”(8:07)という表現が次々に現われる.現時点では「han costado la vida al menos a 192 personas y han causado heridas a mas de 1.427」ということらしい.

◇廃業が決まった蒼樹書房本をめぐる動きが水面下でいくつか始まっている――生態学とか進化学の教科書あるいは参考書を出してきた書店だったので,その資産(人脈とか在庫とか)の〈脈〉はぜひ存続してほしいと思う.※この機会にソーバー『過去を復元する』をお買い上げいただいたそこのアナタ,Muchas gracias! 今度サインしたげるしな(訳者のサインなんかいらんて?)

◇ん,雪男“yeti”の分子系統樹?――『Molecular Phylogenetics and Evolution』誌の4月1日号(Vol.31, pp.1-3)に掲載される(た?)らしい.〈EVOLVE〉からの情報.※まだ見てへん.「まじめなエイプリルフール」っていったいなんやねんな.

◇進化学会大会の「非生物系統学」公募シンポの人選を進める――“トリビアの泉”こと「53Perc」クンから返事あり.やっぱりそのラインだったのねっ.かの国語学教室の〈脈〉つながる……というか「オケ脈」強しといったところか.※“役割語”もとい“ひょっこりひょうたん島”の「50Fl」氏にも連絡しておくか.この際.>ということで「55Fl」さん,もうすぐあちらとコンタクトできますよ.

◇うう,〈JST〉フォーラム報告書……道なお遠し.

◇ぐぐ,リジェクト原稿の「リライト」も迫っている――“箱崎”さんもほぼ同じような進捗状況らしい.これを仕上げて,早くあれに取りかからないと,“越中”からテポドンが飛んできますよ.

◇今日は打って変わって気温が低い.でもどんより曇ってるし,歩く意欲がとたんに消え失せる.※こんなことではいかんのだが.

◇いくら通訳さんが付くとはいえ,〈統計用語〉だけは何とかしておかないとね――スペイン語のオンライン統計学サイトを捜しまわる.いくつかおもしろそうなのに出会う:

Bioestadistica: Metodos y Aplicaciones
http://ftp.medprev.uma.es/libro/
※生物統計学の教科書(オンライン版)

Comprension y Uso de la Estadistica
http://www.cortland.edu/flteach/stats/
※統計学の用語集(glosario)として

BioMates
http://es.geocities.com/riotorto/
※医学統計学のサイト

――必要がなけれは決して見るはずがないサイトたちだが,こういう出会いも一期一会ということか.

◇わお,「bk1」のパワフル書評者である〈中村びわ〉さんに釣り上げられてしもたっ(→「【No.112】雑記あれこれのつづき…3月9日」).【行動的なタフガイ】――ちゃいますぅ,単に徘徊しているだけですぅ(恥).※最近,bk1にオンライン書評をあんまりアップしていないので,いささか肩身が狭いのだ.

◇午後6時半から農環研LANが止まるとのことなので(週明けまで),とりあえずばたばたとここまで書いて,ffftpしてしまおう――あとはダイヤルアップかな.

◇ほらほら〜,夕闇迫る頃,狙いすましたように督促テポドン着弾〜(爆)――逃げる逃げる.

◇本日の総歩数=5148歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


11 maart 2004(木)※つくば→東京→つくば

◇朝方の最低気温が15度とはねえ――季節はウソつかない.暖房器具をぼちぼちしまいこむ準備.

◇津村ゆかりさんの〈「うるさいこと」を書く〉(3月10日付)を読む――個人ページを開設するのに二の足を踏んでいるあるいは最後の決断ができない人にとっては,津村さんの一連のコメント(というか津村さんのサイトそれ自体)が心理的ハードル(「躊躇」と「精神的負担」)を下げる上で効果が大きいと思う.津村さんは価値観に関しては他人に強制するつもりはないと書かれている.しかし,モノローグであったとしてもその効き目があることには変わりがない.ここに挙げられている「うるさいこと」の数々は人によっては確かに大きな意味をもつだろうから.

――津村さんは基本的に「小心な人」を想定読者として書いている.とすると,ぼくはその読者イメージには適格ではなかったかも.方々で高座興行をすることが仕事の重要部分を占めるわれわれのようなタイプの研究者の場合,小心であることはひょっとしたら“適応的”ではないかもしれない(短期的と長期的な損得計算の結果は異なるだろうが).ある発言をすることがどのようなプラス/マイナスの波及効果があるかをその場その場で見極めつつ,あえて〈ヒールを演じる〉ということはパフォーマンスの上ではごく日常的な大技・小技なのだろうと思う.

――たとえば,農環研には多くの〈分類学者〉と呼ばれる研究者がいます.同じ農環研にいるぼくは,いたるところで「分類学って有害ですよね(場合によっては)」とか「【種】なんかないですよね」と方々で発言し続けています.ひょっとしたら農環研のある割合の研究者にとってはマイナスの効果があるかもしれないし,少なからぬ分類学者にとっては苦々しいことかもしれないし.でも,そんなのはぼくには何の関係もないことですね.まちがっていると思えば,ぐわあっと反論したらいいだけのこと.

――もしかしたら,津村さんの一連の発言やコメントの本質的な動機づけそのものを〈小心さ〉に欠けるぼくは共有できていないのかもしれません.

◇今日は東京にプチお出かけ――計量生物学会の代表として〈SPARC/JAPAN〉の講演会「生物系学協会誌をめぐる学術情報流通体制の将来:UniBio Pressのめざすもの」に参加する.学会誌を今後どのようにしていくのかというテーマ.

◇それにしても,この南風と土埃は拷問的だ(関東ローム憎し).外の気温は20度を越えた.空が黄色い.こんなときに東京に出たくないっす…….※ぐわー,ひたち野うしく駅までの道は砂嵐が十重二十重…….

◇常磐線車中にて〈とある原稿〉を入力する.微細砂粒がキーボードでざりざりする.北千住までにほぼ完了.あとはメール送信するだけ.乗換えて千代田線・根津で下車.東京も南風が強いが,砂が横殴らないだけマシ.それにしても気温高し.半袖の人もチラホラ.

◇弥生門から構内に侵入する――おい,もういいかげんに新築工事,やめたらー.いつ来てもどこかでどっかんどっかんしていて,美的じゃないぞ.本郷通りの塀の内側に“隙間ビル”が建っていた.ま,それはこっちに置いといて,総合図書館3階の大会議室に向かう.定刻の午後1時にぎりぎりセーフ.50人くらい集まっているようだ.

――こういう動員集会はたいていつまらないものだが,今回の講演会はおもしろかった.学協会の学術出版に関心のある人なら,きわめて informative だったことがわかるはず.〈学術誌の寡占体制を打破するぞぉー,やるぞー〉というスローガンがはっきりしていて,会全体としてのメッセージがくっきり見通せたからだろう.以下は,要約めいたメモ:

  • 学術出版の現状を鑑みると,何も手を打たなければ,ここ数年のうちに商業出版社による寡占体制が確立されてしまうだろう.2003年度の寡占率は下記の通り――Elsevier=31%/Kluwer-Springer=8.5%/Blackwell=6%/Wiley=6%/Taylor&Francis=6%/その他の出版社はいずれも1%未満.この寡占の弊害は学術雑誌の価格高騰となって問題化した.
  • 世界的には1980年代から〈Serials Crisis〉として危惧されてきたこの問題は,日本の大学図書館では1990年代末になるまでその危機的状況が認識されていなかった.1990年代に入って,日本に入ってくる海外からのジャーナル数は激減している.大学図書館の購入雑誌数は半減し,国会図書館でも1/3になった(1997〜8年).しかも,雑誌購入に支払った金額はまったく減っていないところに深刻さがある.購入費は増大したのに雑誌数は減っているというパラドックスが日本の問題だ.
  • Elsevier社は1998年以降,学術出版市場でのマーケッティング戦略を前面に打ち出し,ScienceDirectにみられるように,学協会の学術雑誌を電子化することで大々的に傘下に置く方針で進んでいる.商業出版社による学会誌の買収は,近年の日本でも広まりつつある.しかし,傘下に入ったからといってラクになるわけではない.雑誌価格の一方的つり上げは学会活動に対する圧迫になりつつある.
  • 日本の場合,学協会と図書館とのつながりがこれまで希薄だったため,雑誌購入に関するすべてを代理店任せにしてきた.しかし,今後は雑誌の出版元とのダイレクトな交渉が必要になってくる.とくに,ジャーナルの電子化元年(2002年)以降,電子ジャーナルをどのように学会のビジネスと位置づけるかが問題となってきた.日本ではこの点(経営戦略)がとくに遅れているようだ.
  • 昨年,1800誌を傘下に置くElsevier社に国立大学が支払った学術雑誌購入代金の総額は35億円にのぼる.1998年に行われた当時の大蔵省および文部省との会合では,学術雑誌の出版助成金に対する再検討が将来的になされる可能性があると指摘された.とくに,税金が雑誌代金というかたちで国外に支払われている現状に対する懸念が表明され,出版助成を学協会ではなく出版社に対して行なうという代案が示されている.現在の形での出版助成は学協会のためではないということだ.
  • 大手商業出版社の寡占に抗するひとつの手段として〈PLoS〉運動(Public Library of Science)がある.サイト・ライセンスの対極としてのオープン・アクセスを主義とするこの運動は,著者が論文ごとに1500ドルを支払うことによりサーバーが運営されている.この金額的な負担は小さくなく,将来的に広まっていくとは考えにくい.ビジネス・モデルとしては成功していないということだ.
  • 〈SPARC/JAPAN〉はもうひとつの寡占対抗策と位置づけられる.現在は80%の論文が海外流出している.それを50%以下に抑えて,日本発の学術情報発進をもくろむという意図がある.今年から本格的にスタートする.ビジネスとしての生物系電子ジャーナルを〈UniBio〉という名称で出す(動物学会の Zoological Science 誌を含む).アーカイブとレポジトリーを整備することで,過去の資源を貯蔵する.また,DOIやCrossRefなど標準的な引用リンクをつけることにより,雑誌のインパクト・ファクターにも配慮する.

――学術ジャーナルが再編されれば,学協会だって再編は免れないだろう.とにかく,いろいろと知っておきたい.今回は勉強になりました.

◇午後4時過ぎに散会――歩きで,湯島→〈デリー〉→JR御徒町というコースを経て帰還.とにかく暑かった.車中読書はウィンチェスター本.サミュエル・ジョンソンの英語辞書(1755年)までの,イギリスでの辞書の揺籃期をたどる.リチャードソンの〈歴史原理〉が顔を出してきた.歴史原理に基づく新たな英語辞書へのミッションが続く.

◇うーむ,今日は最高気温が25度を越えたらしい.※なんで,夏日?

◇本日の総歩数=9425歩[うち「しっかり歩数」=3462歩/29分].


10 maart 2004(水)

◇零度すれすれの最低気温――しかし,日中はぽかぽかと日射しも暖かく.こりゃ気温が上がるぞ.

◇見計らいで届いていた本はすべて会計システムで購入し尽くしたと思っていたのに,室内の方々の古墳から未決済本が続々と掘り起こされる――おお,これはうるうるの大発見だ! ううむ,しめて「十ん万円」ほども出土してしまった〜.ごめんなさいね,もう会計が閉められてしまったので,年度が変わりしだいちゃっちゃっと処理しますからね.※年度末まで溜め込むと,こーゆうアクシデントがよく起こるのだ.

◇〈生物学史分科会〉からアナウンス――『生物学史研究』の第72号が出版されたとのこと.この号はいろいろと読むべき記事があるかもしれない.

◇日が登るにつれどんどん気温が高くなる.昼休みには15度に達した.本を連れて畜草研の飛地までお散歩.実験圃場からは雲雀のさえずりが繰り返し空の上に向かって――しばし,切り株読書:Matthew Battles『Library: An Unquiet History』(2003年,W. W. Norton, ISBN: 0-393-02029-0)の第3章「The House of Wisdom」.中世イスラム圏での本と図書館の話.アテネの学園を追われたギリシャの学者たちがたどり着いたのが東方のシリア,その地を制したイスラムの支配者たちはギリシャ語の文献を通じて,かの時代の文化と知識を吸収するための〈叡智の館〉をバグダッドに建てた.広大な地域を支配した中世イスラムでは書物は大事に扱われ,図書館は充実していたという.しかし,その後の十字軍遠征やモンゴル来襲により,それらはことごとく灰燼に帰した.イタリアにおいてアラビア語からの再度の翻訳がなされるまでは.※この本,どこかから翻訳出版したらいいのに.図書館エッセイ集としてとても上質だと思う.

◇〈進化学会東京大会〉で,昨年に引き続き「非生物の進化学」に関する公募シンポの企画案を佐倉統さんと相談する.やる方向で演者を探すということに.考古学・国語学・印刷学史にからむ話題提供者を見つけよう.※何人かは心当たりがあるのだが.ん,書字方向のアノ人って,国語学科のオケ団員ふたりにはさまれた学年でしょ.ほれ,佐倉くんも知ってるやん.

――それにしても,毎年毎年いったい何件の【興行】をしているのかな.以前だったらもっぱらをする一方だったが,ここ数年はそれと同じくらいプロデュースをする機会が多くなってきた.

◇遅くなってしまった計量生物学会の編集事務を進める.レフリーからのコメントを待つ.

◇お,K沼さん,昨年10月に農環研に来てから初めて所内で遭遇しましたね.え? ミナカさん,いつもいないみたいだしって? やだなあ,人聞きワルいなあ.いないように見えて実は真っ暗な部屋に籠っていたり.明るくして「いる」ように見せかけて実はいてあげないという小技をかけているだけっすよ.居室はできるだけ暗い方が落ち着いていいんですよ(節電にもなるし).真っ暗な部屋でローソクを立てて仕事をしたいもんですな.ナニ,それじゃ江戸川乱歩だって?

――同じ研究所の中でさえこのていたらく.ましてや…….

◇くー,あの原稿,この原稿,その原稿,きー.

◇性懲りもなくグレ続けている DynaBook を叩き直しに師匠がはるばる登場.エクソサイズの末,今度こそまっとうな道を歩めるとのこと.もう,悪の道に走っちゃいけないよ,モデム君.

◇JICAから講義依頼――例年より依頼が遅かったので,どうしたのかと思ったら,どうやら履修コースなどに変更があったらしい.今年は稲作研修コースの統計学講義を頼まれた.付帯条件ひとつ:〈講義はスペイン語でお願いします〉.全員キューバからの研修生とのことで,「英語はぜんぜんダメです」と.ふむ,こりゃ困った…….いちおう通訳は付くらしいが.ま,引き受けてしまったことだし,何とかしましょーかね.※どーすんねんな(汗).むきーっ[のだめ風に]

◇明日の午後は,東京にプチ外出する予定さ.

◇本日の総歩数=14005歩[うち「しっかり歩数」=7797歩/67分].


9 maart 2004(火)

◇少し凍るくらいの明け方だった――砂ぼこりのように降り積もる「雑務」を空しくぬぐおうとしてみる.まずは年明けてから管理下メーリングリストに入会した新入会員およそ60名あまりに,案内メールなどを一挙送信.※2ヶ月ほど待った会員もいたりして……(ごめん).

◇筑波山で性根を叩き直されたはずの DynaBook は,内蔵モデムまわりがまだグレているようだ.ドライバの問題ではないのかな(うむー).ったくもう.また,閉じ込めてリンチしないとダメかも.※どて,ぽき,ぐしゃ...

◇実にまずいときに越中ホットラインに捕捉される――「例の原稿はまだか」/「え,あ,ちょっと...」/「なにをぐずぐずしておるのか」/「諸般の事情で...」/「400字×20枚くらい えいやぁ とひり出せばよいではないか」/「そのような尾篭な物言いは...」/「とにかく早く書くように.箱崎にもさよう申し伝えよ」/「へへ〜っ」.※ということで,よろしくぅ >箱崎の京極堂さま.

◇〈言霊〉に取り憑かれる――きのう,ロバのパン屋なんて口にしたものだから,「蒸しパン」の味とともに,一日中〈あのメロディと歌詞〉が耳に憑いて離れない.グローフェ〈大峡谷〉を聴いても,ロバのパンがぽっかぽっか歩いてるし.

――そうそう,これこれ.※それにしても「ロバのパン屋」サイトがどーしてこんなにたくさんあるの? 刷り込まれたジェネレーションがそこかしこで記憶を刻んでいるという気がする.単行本まで出てるとは!(→南浦邦仁『ロバのパン物語』かもがわ出版,1993年)

◇昼休みのちょい散歩――ウィンチェスター本,はかどる.古英語から中世英語への歩み,そしてウィリアム・カクストンに始まる現代英語の出現まで.言語のルーツが雑多(もともとがpolyphyly)だからこそ,すべての語を跡づけようという衝動が強かったか.

◇第3のダーウィン講演会は下記の通り開催されます――

講演者 ジェイムズ・ムーア(英,オープン大学上級講師)
演題 「メイキング・オブ・『人間の進化』(ダーウィン)
日時 3月25日(木)午後6時半から
場所 東京大学駒場キャンパス3号館1階113室(生命・認知科学科講義室)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/jpn/kyoyo/map.html#a
参加費 無料
主催 人間行動進化学研究会/COE「心とことば:進化認知科学的展開」

――この週は相前後していくつかのダーウィン関連シンポが開催されるので,期日と場所をまちがえないでね.※日本科学未来館での科学講演会〈ダーウィンで科学を楽しむ〉の申込締切は明日10日なので,お忘れなく.

◇出版人としての〈矜恃〉と〈美学〉を痛感した日.

◇先月の〈長谷川フォーラム〉の報告書まとめが次第に重くなってきた――どこぞの〈大峡谷(グランド・キャニオン)〉をふわっと飛びたいものだなぁ〜.うう,仕事します.※泣く子と Center Of Enslavement には勝てないもんね.

◇本日の総歩数=11575歩[うち「しっかり歩数」=5509歩/47分].


8 maart 2004(月)

◇ますます早まる夜明け――氷点下2.2度.西の空に満月が沈んでいく.今日はエリック・サティね:〈夢みる魚〉(1901).

チェッカーのぞみ氏から早朝クエスチョン:「埋め草ならぬ詰め草とはこれいかに?」――だってー,埋め草っていかにも“死に損”じゃないですか.かわいそう過ぎますよ.でも詰め草だったら,ほら,荷物の隙間に詰められながらもオランダから長い航海の果てにやってきた白詰草や赤詰草を連想させる“ほのぼのさ”があるでしょ? それに,埋め草って出自がイマイチで,直喩から隠喩に変身してからも,将来への明るい希望を感じさせる用法が皆無です.その点,詰め草はまだ直喩のままの若々しさが残っているでしょ.それがまたよろしいですな.

◇生物地理学会の〈シンポジウム〉関連――安倍弘さんから講演要旨が届いたので,該当ページをアップデートした.

献本1冊(感謝です)――東京大学生物測定学研究室編『実践生物統計学:分子から生態まで』(2004年3月1日刊行,朝倉書店,ISBN: 4-254-42027-7).Biometrics に関心のある方,どーぞ!(損はさせまへんで) 全体は12章から成り,生物測定学研究室でいま進められているテーマに沿った内容が盛り込まれている.範囲は広く,形態測定学,計量景観学から分子育種学,ゲノム科学,そして分子進化・分子系統までおよぶ.付録30ページでは本書で必要となる統計学の基礎理論についてまとめられている.手に取るまで知らなかったが,この本は〈R〉を用いることを前提に書かれていて(巻末付録に〈R〉導入のためのイントロが置かれている),〈R〉の参考書としても使うことができるかもしれない.※〈R〉導師のみなさん,ご注目.

◇天気もよさそうだったので,少し歩く――公園にて読書:Simon Wincester『The Meaning of Everything』の続き.〈OED〉の初版が刊行された1928年のオクスフォードでの出版記念パーティには,〈The Lord of the Rings〉の原作者 J. R. Tolkien も出席したとか.こういうディテールをきちんと書くのはウィンチェスターのいいところ.先が楽しみ.

――そーだったのか! ウィンチェスター本の序文に『The Surgeon of Crowthorne』なんていう初めて見るタイトルがあったので,いったいどの本のこと?と思っていた.いま,〈OED〉ホームページの新刊紹介文を見て納得.アメリカ版『博士と狂人(The Professor and the Madman)』のイギリス版タイトルだったのね.来週来日するランドル・ケインズのダーウィン伝もそうだけど,英と米で本のタイトルを変えるのはやめにしてほしいなあ.ダストジャケットのデザインまで別々なので,うっかり同じ本を重複して買ってしまうミスをしやしないかとびくびくする.

――ウィンチェスター本はオックスフォードのいろんな地名が出てきそうなので,マップを入手する.すでに読み終えた小川百合『英国オックスフォードで学ぶということ』の表紙ウラにも手書きの地図が載っているが,詳細がよくわからないので.→〈Oxford Maps〉によりどりみどり.いくつかプリントアウトして,はさみこむ.

――ぼくの手元にある〈OED〉初版は,10年くらい前に神田の崇文荘書店で買ったもの.最初見かけたときは,全12巻+補巻1巻で 36,000 円という値段が付けられていた.これはおそらく「端本価格」だったのだと思う.その後出た4巻からなる「新補巻」付きの完全版だと20万円近い古書価格だったので.1年ほど経った頃,同じ崇文荘書店で「新補巻4巻」のみが 45,000 円で出ていたので即ゲット.これでやっとコンプリートになった.店員さんに「よく待ちましたね」と労われた.当時,「紙」バージョンの〈OED〉第2版全20巻は,新刊揃価格で70万円を越えていたと記憶している(各巻が36,000円もした!).※いま〈OED〉サイトで確認したら「£2,000」となっていた.本日の為替レートがほぼ「£1=¥207」なので,新品〈OED2〉をずらっと並べるのに41万円あまりかかることになる.CD-ROM版だったら実売価格でその1/5程度か.

◇James Moore 博士によるもうひとつのセミナーは,3月25日(木),18:30〜,東大・駒場キャンパスにて――会場など詳細はまたあとで(メーリングリストにも流さないとね).講演内容は「ダーウィン家における優生学の起源」について.※来週〜再来週とダーウィン漬けになる様相.

〈完全に失敗です〉さらに続けて〈読者にわくわくする驚きを与えることが全くできない内容です〉――要するに,リジェクトっつうことですね.こりゃ,たいへん.とんでもねえ査読意見をもらってしまった(ナミダ).イチから書き直しますです,ハイ.参ったなー.全否定だもんね.うわ,困ったぁ,闘志が湧いてきてしまったー.※わ,どーして〈これ論〉がヨコにあるのかなあ???

◇ん,もうひとつの原稿もやっぱり書かないわけにはいかないか――でもその前にアレ,次にコレ,と氷山の一角が融けるように,堆積していたアレコレが動き出す.

◇本日の総歩数=11960歩[うち「しっかり歩数」=6432歩/54分].


7 maart 2004(日)

◇朝から,風もなく,春めいた日射し.でも,気温はとても低く,外出するにはちと寒い.

◇今日の朝日新聞広告を見て,有岡利幸の続刊『里山2』も『里山1』と同時に刊行されたことを知った.法政大学出版局の〈ものと人間の文化史〉ページをチェックする――がまだ載っていない(アップデートしてね).ああ,2004年2月の刊行だったんですね.ん,ぼくの誕生日と同じ発売日か,〈縁〉かも.※【日本の原風景をなす里山】と紹介文に書かれている.心象風景ですよ,これって.

◇お昼前にプチ外出――北風強い〜.さぶぅー.

◇東嶋和子『メロンパンの真実』を寝転び読了――ほとんど「ウェブ日記」のような文体ですな.骨なしのぐにゃぐにゃって感じ.内容的にも,文体的にも,すでに読み終えた野瀬泰申『全日本「食の方言」地図』と酷似している.結論めいたものが何もないという点でも同じ.ひたすら調べ歩く,訊き歩く,尋ね歩くというプロセスそれ自体をエンジョイする〈ログ〉とみなせば納得できる.で,メロンパンのルーツっていったい何だったの??? タイトルがいささか不適切だったかも――『メロンパンの真実はやっぱりわかんな〜い』の方がよっぽどベター.

◇日本のパン業界は浮沈が激しかったそうで,過去に関する情報が掻き消されてしまっているというのも無理はないかな.「パン系統学」にとっては不幸なことか.だいぶ前に,藤本徹『パンの源流を旅する』(1992年12月25日刊行,編集工房ノア,0026-9231-7641)というパン紀行&エッセイ集を読んだことがある.深入りするつもりはさらさらないのだが,食べ物の場合「元祖」を確証するのはやっかいなのかもね.祖先であることは営業面での付加価値だから.

◇〈食の方言〉がらみ――ぼくの場合,当然のことながら,メロンパンではなく,由緒正しくサンライズと言うてほしいな.〈ロバのパン屋〉にはサンライズ.

◇「確定申告」関連作業は無事に完了しそうだ.>さんきゅ.

◇回想モードのまま,一日が過ぎていく.

◇本日の総歩数=1152歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].※仙人掌のごとく動かず歩かず働かず.


6 maart 2004(土)

◇明け方に通り雨.朝のうちにあがる.晴れたり曇ったり.季節風が強くて,体感温度は低い.土埃が舞い上がり,花粉また花粉.

◇〈進化学会東京大会サイト〉がオープン――大学行事のため日程をずらし,会期は〈8月4日(水)〜7日(土)〉と決定.とりあえず掲示ページのみで,参加登録ページはまだです(やらなあきまへんな>ぼく).

◇「電話帳」こと『ダーウィン』の著者 James Moore 博士によるセミナー(転載)――

講演者 ジェイムズ・ムーア博士
演題 「ダーウィンとウォーレス――自然淘汰説の誕生――
日時 3月26日(金)午後6時半から
場所 文京学院大学本郷キャンパス、スカイホール
http://www.u-bunkyo.ac.jp/campus/map02.html
通訳 渡辺政隆(『ダーウィン』の翻訳者)
参加費 無料
主催 文京学院大学鵜浦裕ゼミ
後援 市民科学研究室
ジェイムズ・ムーア James Moore 1947年生まれ。マンチェスター大学大学院修了。英国オープン(公開)大学リーダー(上級講師)。科学史家。19世紀における進化論受容過程に関する研究の権威。著書『ダーウィン』(共著、工作舎、1997)。現在、アルフレッド・ウォレスの評伝を執筆中。

――前日25日(木)には東京大学・駒場キャンパスで,同博士による別のセミナー企画が現在進行中.

TRC週刊新刊案内の今週分をチェ〜ック:1364号――有岡利幸『里山1』が要チェック.法政大学出版局の叢書〈ものと人間の文化史〉の最新刊.

◇『生物科学』55巻4号の太田追悼特集が予想よりも分量が増えたあおりで,ゲラ校正をすませた〈“みなか”書評ワールド[4]〉は次号回しということに.のりしろ詰め草のような役回り.要するにバッファー.

◇日本生物地理学会の公式サイトがもうすぐオープンになる.週明けには年次大会アナウンスとともに公開される予定.※一般的な話として,学会サイトってどういう人が管理運営しているんでしょうねえ.

◇本日の総歩数=3564歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


5 maart 2004(金)

◇今週は「冬」に戻ったね――午前5時でマイナス3.1度.霜が降りてる.たまにはバッハの〈トッカータとフーガ〉でも.パイプオルガンががんがん鳴り響く.※これまた「組織に迷惑」をかける行為かな?(爆) わたしゃ,いっこうに「頓着」しませんよ.だって,〈Individualist〉なんだしぃ.

◇〈これから出る本(3月下期号)〉から近刊情報――『丸山真男書簡集3』(みすず書房),旧約聖書『ヨブ記箴言』(岩波書店:これで全集完結),『塵袋1』(平凡社・東洋文庫723).※『塵袋』はいったい何巻になるのかな.鎌倉時代の「言語エッセイ」だそうなので気になる.〈東洋文庫〉の検索システムはイマイチ使い勝手が悪いと思う.

◇今日は,年度末の出張届とか会計システムへの入力作業にいそしまないといけない(らしい).

◇〈Molecular Phylogenetics and Evolution〉誌の査読システムが電子化された――論文投稿から査読完了まで跡づけができるというシステム.方々のジャーナルで同様のシステムが採用され始めていると聞く.こうなると,論文を投稿する側だけではなく,査読する側もノルマが厳しくなりますね.レフリーが匿名ということ以外,進捗状況が相手に見えてしまうわけでしょ.

◇ヒルミの『物理生態学』を太田さんはロシア語原書から訳したようだ――1970年代はじめまでは,まだロシア語が堪能な世代が生物学の世界にも生き残っていたのだろう.そういえば,米子にある〈たたら書房〉がソビエト圏の進化学関連の翻訳本を活発に出していたのも,この時期までではなかったか.1950〜60年代のルイセンコ/ミチューリン・ジェネレーションが現役から退くとともに,ロシアの[進化]生物学がどんどん遠ざかっていったような気がする.当時の築地書館からもロシア語圏の生物学書が何冊か出ていましたね.

◇おそらく,ことはロシアだけではなく,【非英語圏】の生物学に関する知見が日本に入りにくくなってきた状況があるのだろう.フランスやドイツ,あるいはイタリアでもスペインでもいいが,そういうエリアで〈いま〉どんな生物学が行われているのか(あるいは議論されているのか)という基本的な情報さえほとんど入ってきてはいないように思える.たまたま何かの機会に,そういう【非英語圏】エリアに行く機会をもった研究者だけが,ナマの情報を知り得るチャンスに恵まれるのだろう(そのチャンスを活かすかどうかは別問題だが).

◇進化学教育のための教師向けサイトがオープンした――〈Understanding Evolution〉.カール・ジンマーも開設に一枚噛んでいるそうだ.

◇天気が良さそうだったので,昼下がりのプチ・ウォーキング――ところが南風が吹き荒れて,砂ぼこりがもうもうと.3kmほど歩いたところで,そそくさと切り上げ.

◇ぐふー,まだ絶命していなかったかぁ――主要成果ブキミ書類の続き.今度はフォントの訂正とインデントの調整をしろとのお達し.小塚明朝の太字にしたはずなのに,「正しいゴチックに」との教育的指導.さらに,インデントの縦のラインをきちんと合わせろと.はいはい.ちょこちょこと小塚ゴチックに変換し,全角スペースを詰めこんで(禁じ手)ラインをそろえる.これで完成版だー(宣言).

◇来週に来日する予定のダーウィン進化学史研究者たちのセミナーが方々で予定されている.公式のもあれば,インフォーマルなのもいくつか準備されているようだ.18日は京都で,22日は東京で,そしてその前後にいろいろと小さい会があるようです(文京学院大学とか駒場とか).

◇年度末恒例の【難行苦行】――けだるさ漂う3時過ぎ,契約係のお姉様から電話:「みなかさん,今日までだからね」(声が笑ってないんですけど...).1年間溜めまくった会計関連の入力を今日中にすませないと生きて農環研を出られないのだ.で,1年ぶりに会計システムを起動し,1年ぶりにマニュアルを読み,1年ぶりに項目入力をする.すでに山になった購入予定本,コンピュータまわりの消耗品などなどを逐一ちくちくと入力する.好きでやっていることではないので,当然マチガイを方々でやらかす.そしてイチからやり直す.ぐ,日本語のローマ字入力ができない....[ワタシ,実は,すでに絶滅が深刻に危惧されているカナ入力派だったりする] 定時終業時刻までに終わるはずが,どんどん時間がズレ込む.予算上限額をオーバーさせては,項目の入れ換えなど調整をして,やっと終ったのが夜の7時過ぎ.※ああ,いやだーいやだー.これでむこう1年間,ゼッタイに会計システムには触れないぞー.ホンマやでー.(でもって,また来年この時期に泣くはめになる.)

◇帰宅したら,蒼樹書房からの封書が届いていた――この3月末をもって同社を閉じるとの仙波喜三社長のことば.年齢や健康状態のことを考えての決心だそうだ.長年にわたって,日本の進化学・体系学・生態学の著作や翻訳の出版で大きく貢献してきた同社だけに,閉鎖ということになると,在庫の行く末が案じられる.仙波さんが第一線を退いてから今までの数年間は,代行業者が在庫の販売を引き受けており,一般の書店(リアルでもオンラインでも)で蒼樹書房の本を入手することは可能だった.しかし,来月以降はもう望めない.

◇しかも,この6月末には,蒼樹書房のすべての在庫本が断裁処分されることになっているらしい.在庫のうちいくらかは著者・訳者が引きとることも可能だろう.しかし,フツイマ『進化生物学』をはじめ,クレブス&デイビスの行動生態学の教科書やファルコナーの量的遺伝学の本,そしてぼくが訳したソーバー『過去を復元する』など,今後も需要があるかもしれないことを考えれば,何かもっと積極的な策を考える必要がある.著作ならばPODとか電子出版みたいな手もあるのかもしれない.しかし,翻訳書の場合は著作権のことがあってそうもいかないだろう.ベストなのは肩代わりしてくれる別の出版社を探すことかな.>関係者のみなさん,時間はあまりありませんが努力しましょうね.

◇慣れない事務仕事でごしごしと磨り減る.やや軽くなる.

◇本日の総歩数=13688歩[うち「しっかり歩数」=4756歩/40分].


4 maart 2004(木)

◇明け方,雨滴が少々――『鳥類学辞典』のゲラを読み,ブレンド具合を調整.さすがに二人の原稿をそのまま直列併記するわけにはいかないしね.

◇やっと〈ヴァルキューレの騎行〉にたどり着く(ここまで長い道程であった).それにしても,こりゃ絶叫モードだよねえ.※この音量のシンバルは20インチ以上ないとダメか.連打するには上腕と胸の筋トレが必要か――ひたすら駆け抜けようとする指揮者を「走らないでー」と念じつつヒナ壇後方で悶絶騒音メーカー八分音符叩きまくりの圖と化すチャイ4終楽章のシンバル奏者よりははるかにシアワセかもしれない.

【怒】――ここにきて,すでに手を離れたはずの「主要成果」書類がまたも差し戻し.「図をもっときれいに印刷してほしい」だと.あほー,何考えてんねん,しばいたろか,こら〜,と典雅この上ない京都弁で心中罵りつつ,「でも,ワードだとこれが限界かと」と弱気に抵抗するも,「図表のカスレが気になるという意見があってねえ」とのこと.「ワードじゃなくってpdfでよければ」と切り返すと,「それでいいよ」との拍子抜けOK.ちょっと待ったらんかいっ! ワタシの涙ぐましい努力はいったい何だったのー(涙).それぐらいやったら,最初っから腐れワード地獄でのたうつことなかったやんかー.

――ということで,再び故郷 InDesign に戻るハメに.最後の文章改訂はワードでやってしまったので,文面のチェックもしないと.「失われた時を返して」! 「一太郎で〜」とか「ワードで〜」という事務文書提出のリクエストがあっても,たいていの場合,それがどうしても不可欠であることはまずない.申請書類・業績報告・昇格書類などなどほとんどの提出書類を InDesign(その前は PageMaker)でつくって提出してきたが,本質的な障害は何もなかった.主要成果の報告もこのラインに加わったということを今回悟った.※TeXで書いている人だって現にいるんだし.それにしても,いつになったらテキストファイルあるいはpdfがスタンダードになるんだか.

――ぶーぶー言いつつ,InDesign で提出文書をもう一度つくり直し,図表の調整をして,pdf出力.メール添付で送信完了.※いろいろ遠まわりとごたごたがあったものの,ま,これにて一件コンプリートということで,しゃんしゃん.

◇イライラしたときには大太鼓をイッパツ「どかん!」と叩くとすっきりします.でかい音なら銅鑼でもいいのではないかという意見も打族の間にはあるのですが,klingen lassen で延々と残響が残るところがイマイチですな.「ドカっ!(ハイ,おしまいっ)」っていう潔さがいまは好ましいと思う.一打入魂派なら,メシアン〈トウーランガリラ交響曲〉のぱっきらした第7曲「トゥーランガリラ2」あるいはとっても悩ましい(もちろんオンド・マルトゥノのせいなんだけど)第8曲「愛の深まり」エンディングのイッパツ.連打ファンのアナタには,当然ヴェルディ〈レクイエム〉の「怒りの日(Dies irae)」に出てくる全オケ versus 大太鼓の掛け合いかな.※ああ,すっきりしたい…….くそー.

――かつて,東大オケで〈マーラー6番〉をやったときは,練習時に「イッパツ叩かせてくれー」と例のハンマー←お,桑形和宏くん,ジュネス以来,実に20年ぶりですな)を手にする団員が何人もいたなあ.※東大生はストレス溜まってましたって? いまも? 打族はストレス知らずだったが.

ムカムカしている間にたくさん本が届いたので,少しだけきげんを直してみる――和書では,永崎研宣『文科系のための情報発信リテラシー』(2004年2月20日刊行,東京電機大学出版局,ISBN: 4-501-53690-X),若林忠宏『もっと知りたい・世界の民族音楽』(2003年10月1日刊行,東京堂出版,ISBN: 4-490-20504-X),渡辺裕『マーラーと世紀末ウィーン』(2004年2月17日刊行,岩波現代文庫[文芸82],ISBN: 4-00-602082-1),東嶋和子『メロンパンの真実』(2004年2月20日刊行,講談社,ISBN: 4-06-212278-2).※個人的には『メロンパンの真実』をダントツ優先したく思うのだ.こういう本が好みです.第2位は『世界の民族音楽』ですな.うん,順当なランキングだと思う.

◇朝日新聞報道:〈NASA「火星は生物生存に適した」 かつて大量の水〉――いよいよ universal Darwinism (文字通り)の登場か.

◇ウォレス降臨――前報した『Alfred Russel Wallace: Writings on Evolution, 1843-1912』(ISBN: 1-84371-049-8)が早くも到着.計1,500ページを越える全3巻の構成は――

  • Volume 1: Periodical Articles, Essays and Reviews: 1843-1912
  • Volume 2: Darwiniana: An Exposition of the Theory of Natural Selection with Some of Its Applications (1912)
  • Volume 3: Natural Selection and Tropical Nature: Essays on Descriptive and Theoretical Biology (1891)

――となっている.単行本は今でも比較的入手しやすいかもしれないが,雑誌記事の集成(第1巻)は重宝するだろう.もちろん,全3巻で【約9万円(税込)】という価格には卒倒してしまうけどね.

“I agree to disagree”ということでいいですか?――徳保隆夫さんの返信:〈専門家の情報発信:現実的な提案(の補足事項)〉と〈雑感〉(3月4日付)について.徳保さんの一連の発言を見ていると,職場文化というか業界文化がかくもちがうことを痛感する.ウェブ・デザイン業界について多少なりとも知ることができたのはぼくにとっては収穫だったと思います.そういう違いが鮮明になればなるほど,徳保さんの言われるような「均一的な規範」の適用はよけいに不自然に見えてきます.昨日記したように,ウェブ公開の責任分担者として組織や上司をかつぎ出すのは,大学や研究機関ではムリ(やるだけムダ)だとぼくは考えます.ぼくのような立場の研究者の置かれている現状を「組織公認」とみるかどうかは事実上タテマエだけの問題で,なにひとつ実質的な中身がない話ですね.ぼく個人の価値基準には何の影響ももたらさないという意味で空虚です.おそらく,この点については平行線をたどるのではないかという気がしてきました.

◇津村さんの〈「専門家は個人の責任で情報発信するな」について〉(3月4日付)を読む――「世間体」は「危機管理の一種」であると書かれている.世間様がどのように考えているかをどれくらい重要視するかを〈リスク・センス〉の点からとらえるのはおもしろいかもしれない.しかし,その場合でさえ,リスク心理とかリスク意識は結局は「個人の心」の問題なので,個人差が大きくものをいうことにはちがいがないだろう.ぼくにしてみれば,「世間」みたいなそんなあいまいなものは「ないのだ」と言いたい! が,それはきっと人によって相異なる重みをもっているのでしょうね.でも,ぼくが何を言ったって対決的に解釈される可能性はいつもあるわけです.平均値としての「世間」には意味がありませんね.むしろ,想定される「世間」のバラツキを見て,自分にとってもっとも逆境的あるいはもっとも順風的な【頻度分布の端っこ】部分を見ながら,発言なり行動なりパフォーマンスのスタイルを決めているのがぼくのいつものやり方です.【平均値】はどーだっていいんですよ.こういう考えをいつもしているから,「世間体」のしがらみみたいなのは「ないのだ」と言ってしまうのかもしれませんね.

◇太田邦昌情報なお「出土」続く――最近,方々でつるみがちな鈴木邦雄さんからの問合わせ.『生物科学』の太田特集ゲラがそろったので,故人の〈著述目録〉の最終チェックをする.とくに翻訳書に関して.ヒルミ『物理生態学』やフロルカン『生態学への分子的アプローチ』など,いずれも築地書館から1970年代に出た翻訳書の原書に関する情報が欠落している(食総研でフロルカンの訳書を借り出したときにメモしておくべきだった).ばくぜんと Webcat で調べりゃわかるだろうと高をくくっていたのが敗因.翻訳書の情報は得られても原書の情報になかなかたどりつけない.それは訳書に記された[内表紙ウラにふつう載っている]原書情報を見ても同じこと.原書の出版地が書かれてあることはほとんどない,ISBNなんか見たことがない.Webcatで原著者の綴りを確認した上で,アメリカ議会図書館(LOC)の検索システムを利用.フロルカンはここで解決した.残るはヒルミ(G. F. Khilmi)か.彼はロシア人(Г.Ф. Хильми)なので,LOC の巨大データベースにも原著情報がない.最終的に,ロシア科学アカデミー(РАН)極東ブランチ(ДВО)にある図書検索システムに入って,キリル文字の海をじたばたする.サンクト・ペテルブルク(Санкт-Петербург)のある出版社からヒルミの原書が上梓されたことを確認し,今回の本探しの旅は終った.※ロシアのウェブサイトは徹底的にロシア語ですね.英語ページはどこもかしこもほぼ確実に「ないのだ」.第一,ブラウザ環境によっては,使用言語をキリル文字にしないと表示すらしてくれない.

◇夜,進化学会大会実行委員会の連絡――大会サイトは間もなくオープンになります.その前にいくつか予定の調整の必要がある.参加登録システムの稼動には駒場に行かないとか.でも,殿はテキーラとソンブレロの日々が始まってしまうし…….

◇なんだか今日はいろんなとこをあちこちつついて回ったので疲れました.

◇本日の総歩数=5769歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


3 maart 2004(水)

◇お雛祭りの朝はちょっとだけ氷点下でした――では,景気づけに〈ヴァルキューレ〉でもかけて,と.いくつかのメーリングリストに月例挨拶を流したり,新入会員にアナウンスを送ったり.年度末の予算残金で公費購入すべきものを選んだり.※もともとが実験/フィールド系の研究室ではないので,コンピュータまわりが多少とも裕福になるか,本棚が狭くなるか,いずれかの結末を迎える.

◇新刊――個人的に知っている根本彰さんの新刊『情報基盤としての図書館・続』(2004年2月刊行,勁草書房,ISBN: 4-326-09829-5).以前『本とコンピュータ』の座談会で言われていた〈本脈図〉というキーワードはすでにメモられていたりする.

昭和堂からの近刊『鳥類学辞典』の要修正項目の原稿が届く.ふたりの執筆者の文を合体させるとのこと.アレンジが必要だな.※電話をかけてきた担当編集者氏はネイティヴな京都弁話者.こっちもつい釣られて「京都弁スイッチ」がオンになってしまった.

◇また年度末のバタバタに巻き込まれる――あっちこっち,ほっちぽっち,えんやこーら.

天気が穏やかなので(風が吹いてへんいうことや),昼休みにゲラもってお散歩.羽成公園にて『生物科学』ゲラのチェック完了.午後投函しよう.途中,筑波事務所の書店でたまたま遭遇――徳永幸彦『絵でわかる進化論』(2001年6月20日刊行,講談社,ISBN: 4-06-153429-7).のぞみさんに指摘されて,「確かに,徳永本の主役は〈Caminalcules〉だったー」と今になって思い出した.ウッカリしてたねー.練達イラストレーター徳永氏による「新種」の〈Caminalcules〉もたくさん載っていた.でも,この徳永本でも,やっぱり和名では呼ばれてなくて,「カミナルキュルス」とカタカナ名のまま.やっぱり,〈TAXA〉と〈EVOLVE〉で募集した名前のどれかにしようかな――カミブクロカミンノクグツカミンノコビトカミノオトシゴ,etc...

◇そういえば,『Oikos』に掲載された〈ユニコーン(一角獣)〉の地理的分布に関する有名な論文があるという情報が浜松から入ってきました.誰か知ってます?(記載と学名が付いているという話だが)

◇午後もまた引き続きこまごまと書類を書いたり,提出したり,部屋に戻ると別の仕事が積もっていたり――という「シジフォス」な状態が続く.※お,〈シーシュポス(Σισυφος)〉と綴るのね.お役立ち高津春繁『ギリシャ・ローマ神話辞典』(岩波書店),えらい!

◇ううむ,さらに火勢は衰えない――徳保隆夫さんのレスポンス〈専門家の情報発信:現実的な提案〉では,個人のサイトでの情報発信は「個人の責任」においてではなく,所属組織との「連帯責任」のもとになされるべきだというのが現実的提案として提示されている.それが可能な職場環境では,そういう選択肢もあり得るだろうなと言うしかない.一方,他の多くの研究機関や大学では,そういう「連帯責任」はもともと取りようがないというのが現実だろう.たとえば,ぼくのサイトは農水省のサーバーに置かれているので,検索すればすぐにURLはわかるし,上司にあたる人にも伝えてある.だからといって,彼に「連帯責任」どうこうと言っても現実的にはどうしようもない.書かれてある内容はどうせぼくにしかわからないことだから.だって,自分のためのサイトだもん

――ということで,それはまったく「現実的な提案」などではないのです.少なくとも,ぼくにはね.むしろ,その提案をムリに実現しようとしたときのことを考えると暗澹たる気持ちになりますね.組織が乗っかってきたとたんに,もはや〈個人サイト〉と呼べるシロモノではなくなるでしょ.それだけのコストを支払う気はないですね.ぼくはその時点でそういう「個人もどきサイト」は未練なく店じまいすると思う.だって,自分の利益にならないもん.何よりも,楽しくないもん

◇「しがらみはないのだ」と公言する〈individualist〉は,意図的に「しがらみ」を増殖させるような状況を本能的に忌避するのだ.

◇夕方,ピーターパン吾妻店にて,午前中に予約しておいた〈Flocken Sesami〉3本を引き取る.1本1kgでしめて3kg.ずっしりと重いドイツパン.これで向こう数日間は昼の食いはぐれなし.※うち2本は切り分けられ方々に譲られていくのだが.

◇本日の総歩数=12103歩[うち「しっかり歩数」=6566歩/58分].


2 maart 2004(火)

◇氷点下2度の朝――それにしても夜明けが早くなってきた.

◇前に『生物系統学』を書いていたときもそうだったが,「樹の本」を書き始めると,いろんなところでわらわらと〈樹〉が憑いてくる.探さなくても「向こうからやってくる」という感覚.マルセル・デュシャンがシュールな樹を描き,ウラジミール・ナボコフがシジミチョウの系統樹を語る.ほれ,あそこから呼んでるでー.こっちも見てみいな,とゆー感じ.はいはい,ただいま参上いたしますです.

――と,本棚をごそごそしていたら,〈蔵書エベレスト〉頂上に堆積していた「巨大氷河」の一角が崩落し,いまだかつて誰も探検していないという居室最奥部のクレバスに落ち込んでいった.彼らの亡骸が発見されるのはいったいいつのことなんだろう…….

◇〈専門家は個人の責任で情報発信するな〉に書かれた主張――こういう連帯責任が生じるのは,たとえば緊密なチームプレーで仕事をするような業界を想定すればいいのかな.少なくともぼくがいるような独法の研究所にはあてはまらないと思う.Aという研究員の発言はBという研究の仕事には何の関係もないわけだし,Aがアホなことをたとえウェブで書いたとしてもBの評判には何一つ影響しない.だって,仕事の依頼は基本的に「個人」に対してやってくるのであって,「組織」に対してやってくるわけではないから.研究所という組織そのものの実体性が,そこにいる研究員ごとに異なっていると思う.ある人にとっては「ある」んだけど,別の人にとっては「ない」ということ.だから,ぼくの場合は,もともと「ない」職場とは無関係に,「利己的」な立場でウェブ公開していけばいいという結論になる.企業の場合はそうはいかない?――それはそうでしょう.職場によって「環境」はまったく異なるだろうしね.一般論は意味がないです..

◇うー,またも書類を書いたり,業者に連絡したり,会議に出たりしているうちに,砂時計のごとくさらさらと時間が掌からこぼれ落ちていく.いろいろやらなあかんねんなあ.これは,それはっ,あれはぁっ! ※諸方面のみなさん,いろいろ滞って申し訳ない.かんにん.

◇ほんの情報――『Milestones in Systematics』は今月新刊とのこと(ISBN: 0-415-28032-X).Alfred Russel Wallace の論文集が出版された:『Alfred Russel Wallace: Writings on Evolution, 1843-1912』(全3巻,2003年12月刊行,Thoemmes Press, ISBN: 1-84371-049-8).うー,またも Thoemmes Press かぁ(ここの本,高いねんもん.).このウォレス論文集の編者である Charles Smith 氏はウォレスのサイト〈The Alfred Russel Wallace Page〉を開設している.

◇「個人サイト開設」ネタ,さらに広がる輪.わわっ,ついに!かの〈リリカの仮綴じ〆〉にまで登場してしまったぁ〜(汗)――2月29日付【ネットの世間体】以降のいくつかの項目とコメント.確かに,真の意味で個人サイトを運営している人にとっては,ぼくのような「農水省の学者さん」は「例外中の例外」かもしれないけど,例外かどうかなんてはなっから知ったこっちゃないわけでね(individualist だしぃ).津村ゆかりさんが言うように,「世間体」なり「しがらみ」がある環境にいる人は実際にいるわけで,じゃあそこでそういう個人(研究者)が実名でサイトを開設するにはどうすればいいのかっていうのが,津村さんの問題意識であり,一連の発言の動機なのでしょう.

◇ぼくの置かれている職場環境とは明らかにちがう「場」に津村さんがいることはすでにはっきりしているので,あとは個人個人がそれぞれの「場」でどのように決断するかにかかっているということかな.ウェブサイトに何かを書けば,それを読んだ人が何かを感じたり応えたりするのは当然予期されることですね.ただ,そういう予想されるレスポンスに対しても,individualist は自らを自制したりしないでしょう.というか,そんなことうだうだ考えてたら,本やら論文やら書けないって.発表やら講演やらできないって.※〈ゆずたん〉,カワイイですねぇ > kagamiさん.

◇〈あらきけいすけの研究日誌〉いわく――「でも読者がいて、参照されて、意見が波及していくプロセスをみるのは快感」(3月2日付).確かにそーですね.暗闇に向かってモノローグしているのではないという「証し」ですかね.本職の系統学の立場からいうと,そのような「意見断片」がどのように変容しつつ伝播していくのかというのはおもしろい問題です(「伝言ゲーム」あるいは「不幸の手紙」の系統樹みたいな非生物系譜).※インターネット発言のインパクト・ファクターはそのうちきっと定量化できるような気がする.

◇いまやベストセラー作家なのかな,リチャード・フォーティの新刊『The Earth: An Intimate History』(2004年2月23日刊行,HarperCollins, ISBN: 0-00-257011-4)が出た(Amazon.co.uk からの新刊メール).ということは,そのうち日本語訳も出るのだろうね,早々と.生命史を越える地球史か.

◇所内選考の結果,7月末の〈Hennig XXIII: Phylogenetics and Evolutionary Biology〉には何とか参加できそうなことが判明.パリのガイドブックを買って,と.※メキシコの IOSEB 会議はどーなるのかな? NSF から委員の旅費を調達するようなことを考えているらしいが.

◇そういえば――ぼくのサイトには「アクセス・カウンター」のたぐいはまったく置いていません.計算センターの仕様の問題で,cgiプログラムをユーザーのサイトに置かせてくれないというだけのこと.したがって,「アクセス解析」も当然できません.もしカウンターが使える環境であったとしたらどーするか,と訊かれたら,それでもやっぱり「使わない」と答えるだろーね.それよりもダイレクトな文言の伝播経路を見てみたい気がする.頻度ではなく,系譜のこと.

◇『生物科学』原稿のゲラ読みをしつつ,Joseph Cornell の〈日記〉をぱらぱらとめくってみる.この日記といい,コラージュといい,街歩きのスタイルといい,植草甚一とそっくりじゃないか! ニューヨークを舞台とするマルセル・デュシャンとジョゼフ・コーネルの交流.デュシャンのシュールリアリズム系統樹〈コーネルの箱〉――また憑いたか…….

◇本日の総歩数=4266歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


1 maart 2004(月)

◇未明は曇り,夜明けとともに小雨が降り出す.日中は気温が上がらないという予想.

津村ゆかりさんの別館〈技術系サラリーマンの交差点〉に続々報――「続々「世間体」を気にかけながら書く」(3月1日).束縛されることによる自由というのは,瞬間的には染み込んでこない.芸の道のような「定式美」を目指しているような印象を受けますが,誤解してます?

◇リンクされていた〈専門家は個人の責任で情報発信するな〉は気になる発言――研究者の場合は,「形式的」な情報発信は査読論文なり学会発表なりを通じてやればいいので,ウェブによる情報発信はおのずと別の目的があってのことだろうと思う.ぼくの場合は,専門分野に関わる系統学と統計学に関する資料の公開はすべて自分のためにしています.講義資料などをウェブに置いておくことで,いつでもどこでも必要な素材をダウンロードできるので,これはほんとうに便利だ.場合によってはウェブサイトのhtml文書そのものを用いて,プレゼンテーションできたりする.書評類も公開しているが,これまた読了した本のメモとして作成したものであり,やはり自分用の記録文だ.さらにいえば,いま書いている日録だって結局はぼく個人のための備忘録なのだから,ぼくがこのサイトで公開しているのは,どれをとってもすべて利己的な動機づけがあってのことだといえる.利他的な要素はどこにもないのです.※科学者コミュニティでの複数レベル淘汰の過程はとりあえず触れないでおきましょうね.

◇〈あらきけいすけの研究日誌〉の名言「カンサイ人はカンサイ弁でモノを考えてます」(2月28日付)――確かに,「独り言」(口にするしないにかかわらず)を語ることばがどの方言かを考えればすぐに納得.真の方言バイリンガルになるにはどーすればいいのかな?

◇献本ありがとうございます――桐谷圭治『「ただの虫」を無視しない農業』(2004年3月31日刊行,築地書館,ISBN: 4-8067-1283-3).

◇農環研〈奥の院キャレル〉に籠る――ひたすら原稿書き.昼飯抜き.くぃーっ.※兵糧責めの巻.

◇おそるべきことに,朝からの小雨は,昼前には「みぞれ」となり,午後の始業チャイムとともに本格的な〈雪〉に一括変換されてしまった.しばらく暖かい日々が続いていたので,この寒の戻りは堪えるぞー.夕方近くになって晴れ間がちょっとだけ覗くようになった.

◇午後3時近くになって,ようやく「プロローグ」を脱稿.400字詰にして20枚あまり.実所要時間は10時間くらいかな.だいたい予定通りの分量.とりあえずhtmlにしておく.テキストファイルは現代新書編集部宛に送信.※あとで担当編集者氏からOKの返事をもらって,少しばかりほっとする.まだ先は長いのよ.

◇今回のの場合,書くべきコンテンツはとっくに確定していたので,あとはそれを「字」にする時間さえあればよかったはず.にもかかわらず,スタートまでにずいぶん時間がかかり過ぎてしまった.その心境はと訊かれても答えづらい.カンヅメされて机に向かったはずの作家が窓から逃げ出す気持ちに似ている? あるいは,上演直前の舞台の袖でカミさんに張り飛ばされるマリオ・デル・モナコの心根とも共通する? ※でも,いくら筋金入りの〈punctuationalist〉とはいえ,ちょっとねー.次の章からはさくさくと書こう.ぜひそうしよう.さくさく.

◇本日の総歩数=6048歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].※彷徨うだけではダメですなー.


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