【書名】読書の歴史:あるいは読者の歴史
【著者】アルベルト・マングェル
【訳者】原田範行
【刊行】1999年09月30日
【出版】柏書房,東京
【叢書】叢書Laurus
【頁数】354+38 pp.
【価格】3,800円(本体価格)
【ISBN】4-7601-1806-3
【原書】Alberto Manguel 1996. A History of Reading. Harper Collins, London.




【感想】※Copyright 2001 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

ちょっとあぶない雰囲気がただよう読書と読者の姿を垣間見る

「読書」と「読者」のあり方を,古今東西の幅広い資料を踏まえて描き出した重量級の本である.おびただしい数の写真や図版に映し出された「読書」と「読者」の生の姿を次々に見せつけられると,しだいに苦しくなってくる.覗いてはいけないことだったのではないか,という気持ちにさえなる.

著者による徹底的な資料収集は,貴重な写真の数々を読者に提供してくれる.窓際で点字をなぞるヘレン・ケラーの写真(p.97)はまるで絵のようだ.レンブラントには,自らの母親をモデルにしたとされる「読書する老婦人」の絵がある.当時の大版の本を老眼を近づけながら一心に読み耽るその姿は,本書のどこかに貼り付けられていてもまったく違和感がなかっただろう.独り読書する読者の姿は傍目には近寄りがたい雰囲気を帯びる.

本書の対象は,単に「読」そのものにとどまらない.「読書/読者」がもつ社会や文化との正または負の意味での関わりについても,多くの歴史的エピソードを挙げて示している.古くは秦の始皇帝による焚書坑儒の図(p.306)やラシュディの『悪魔の詩』を燃やすイスラム原理主義者(p.247)は,もっとも攻撃的でしかも開放的な関係である.しかし,私にとって衝撃だったのは,本書最後の図――第2次世界大戦の空襲で焼け落ちたロンドンのある図書館の中を本を求めて瓦礫を踏み越えている「読者」の図(pp.330-331)――である.これは見てはいけなかった.本書には,そういう図版がいたるところに見つかり,読者はそのつどはっとさせられる.

それにしても――時や場所を越えて読書にのめり込んできた無数の読者に関する本書に今またのめり込んで読書してしまう読者はいったい? 「最後のページ」からはじまり「見返しのページ」に終わる本書は,読書は生きることそのものだ――そして死んでからもなお縁が切れない「業」だ――ということを実感させてくれる.濃密な本は濃密な読後感を残した.

三中信宏(19/December/2001)

【目次】
献辞 3
読書の意味――訳者はしがきに代えて 5

最後のページ 13

〈読書すること〉
1. 陰影を読む 41
2. 黙読する人々 55
3. 記憶の書 70
4. 文字を読む術 82
5. 失われた第一ページ 101
6. 絵を読む 112
7. 読み聞かせ 127
8. 書物の形態 144
9. 一人で本を読むこと 171
10. 読者の隠喩 186

〈読者の力〉
1. 起源 201
2. 宇宙を創る人々 210
3. 未来を読む 224
4. 象徴的な読者 236
5. 壁に囲まれた読者 249
6. 書物泥棒 262
7. 朗読者としての作者 271
8. 読者としての翻訳者 285
9. 禁じられた読書 303
10. 書物馬鹿 316

見返しのページ 333

訳者あとがき 349
原注 [15-38]
図版一覧 [13-14]
索引 [1-12]