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日録2004年5月


31 mei 2004(月) ※口説く系統学者,口説かれる……

◇一晩中,強い南風が吹いていた.風が吹き抜ける割には室内の気温がとても高くて,寝苦しかった.午前5時の気温が24度.あーやだやだ.昨日は真夏日,今日もそうらしい.※梅雨でも雷雨でもいいので降ってね.お願いね.

―― 昔から「最高気温が15度を越えない場所で暮らしたい」と切に願っているのだが,日本だとやっぱり「北上する」とか「山に登る」しか手はないんでしょーか.

◇そうなんですよ,フェルメールの「絵」って至近距離で覗き込まないとディテールが見えないような小さいのが多いですね.開催中の〈栄光のオランダ・フランドル絵画展〉では,現物にどこまで接近して見られました? 警備上の配慮で“柵”なんかが設けられていると見えるものも見えないことにならないかな.美術書を眺めているかぎり,レンブラントの大作〈夜警〉[363×467cm]でもフェルメールの小品〈牛乳を注ぐ女〉[45.5×41cm]も印刷ページの中での「同一サイズ感覚」に慣らされてしまうので,何かの機会に「実物」を見たときに面食らうことになる.

―― 今回,日本にやってきた口説き相手...じゃなくって...目玉作品のフェルメール〈絵画芸術〉だって,「120×100cm」というサイズは,その知名度から膨らみまくる想像サイズよりははるかに小ぶりなのでしょうね.※いずれにせよ,ぼくも見ておかないと.

◇気温とても高く,強い南風がもうもうと土煙をたてる.窓を開けるわけにはいかず,かといって空調の入っていない居室は生存許容度が次第に悪化しつつあるし.

◇故・太田邦昌さんのご親族から昨年10月の追悼企画に関するお礼状をいただく.昆虫学会でのシンポ当日の経緯はいささかよろしくない状況だったので,ずっと気がかりだった.これで少しだけ肩の荷が軽くなった.個人の業績に関する追加情報をいただいた.後ほど〈太田邦昌著述目録〉をアップデートしておかないと.

◇『ゴランツ書店:ある出版社の物語 1928-1978』の読み始め.最近,読む本の傾向が読まれているな.

◇〈現実〉を数年ぶりに直視する勇気が必要ということか.

◇これまた別件の共同研究か思わぬ成果を生みそうだ ―― こういうプラスの意外性は楽しいね.あとはウェットの実験でどこまで「もの」を確定できるかどうか.きわめて広大な探索空間があるとき,最節約性や尤度によるドライな推論と,実際に「もの」をつくって確かめるというウェットなアプローチが両方ともできるというのは幸せな状況だ.※だからやめられないって.

◇午後4時の居室の気温は31度.もうそろそろ帰りたいっす.

◇アメリカやイギリスの(ドイツもそうか)歴史のある書店(出版社)というのは,社名が即“個人名”を連想させるというところがおもしろい.とりわけユニークな(アクの強い)創業者がいるほど社名とダブって創業者「個人」の人となりが見えるということ.『ゴランツ書店』を読んでいるとそう感じる.※スタンリー・モリスンはゴランツ社の社員だったのね.あらま.

◇夜7時頃から夕立のようにぱらぱらと降り出す.気温急降下.一晩中降り続くようだ.

◇散発的に読み進んでいたボイド『ナボコフ伝:ロシア時代(上)』をようやく読了しそうだ.これだけ厚い伝記になるとさすがにイッキ読みはできない.覚悟を決めて長丁場.来月からは下巻.そのうち,『アメリカ時代(上・下)』が続いて出版されるだろう.

◇本日の総歩数=9936歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


30 mei 2004(日) ※信じたワタシはアホかいなあ

◇おいっ,週末は雨いう予報とちごたんか! 早朝からカンカン照り,陽光ぎらぎら,気温急上昇.※最近わりによく当たっていた天気予報を信じたワタシは…….

◇腹立ちまぎれに,数ヶ月放置しておいた ――

Joseph LaPorte 2004.
Natural Kinds and Conceptual Change.
Cambridge University Press.

―― を気を取り直して読み進んでみる.うーん,やっぱりこりゃいただけませんなあ.phylogenetic taxonomyとか【種】論議とか,体系学がらみの最近の論議を著者がよくフォローしていることはわかるのだけれど,要所要所で本質主義への結びつけがムリっぽく感じられる.“本質(essence)”に対して,John Locke のいう“nominal essence”でも“real essence”でもない「歴史的(系統学的)」な意味をもたせるという主張(pp.49-50)は,単にあるクレードGの仮想共通祖先を旧有するという性質をもってクレードGの“本質的性質”とみなしましょうという再解釈に過ぎないのではないかと思う(にも書いたように).しかもそういう“本質主義”を分岐学に結びつけたりするスタンスは,1982年に John Beatty が言ったこと(Beatty, J. 1982. Classes and cladists. Systematic Zoology, 31: 25-34.)の再加熱に過ぎないように感じる.

―― くさい,くさいぞ! でも,〈くさいはうまい〉という格言[?]もあることだから,もう少し著者を信じてみましょうかね.まだ2/3も残っていることだし.ただし,第3章で生物学に関わる論議を“卒業”して,それ以降は“かなた”へと飛翔してしまう雰囲気なんだけどな.※またも投げ出しそうになっているワタシ.

◇午後になって雲がかかりはじめ,さらに不快指数は高まる.ぐわ.―― 夕刻に高崎を出発.国道50号でつくばまで帰還.日暮れてなお蒸し暑く,低い雲が早足で欠けた月の下を駆け抜けている.明日はいよいよ雨かも.

◇本日の総歩数=2657歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


29 mei 2004(土) ※信じるワタシだけ救われない?

◇朝から蒸し暑くげっそりする.活動性が低下し,のろのろする.

◇今日は中学校の文化祭だが,単に「食べに行く」のみ.※展示もしっかり見ようね>ワタシ.

◇浜崎廣『女性誌の源流』によると,明治30年代に入って商業女性誌の創刊ブームがあったらしい(そのあおりで機関誌は衰退).ということは,永嶺重敏『〈読書国民〉の誕生:明治30年代の活字メディアと読書文化』の論旨と基本的に響き合うものがあるわけか.永嶺は〈読書国民〉を創出した「社会的設備」(郵便制度とか鉄道網そして図書館)のあり方に焦点を当てたのに対し,浜崎は「印刷媒体」そのものの系譜と変遷に着目している.

◇中学の文化祭.みなさん,お疲れさんです.スリランカ・カレーを賞味した.豆のカレー.もっと辛くてもよかったかな.※喰いに行っただけかいっ!

◇昼前にすでに夏日.午後1時前に弱い地震あり.午後は真夏日の予想.明日からはぐずつくらしい.西日本は梅雨入りしたそうだ.

◇〈Smith / Quackdoodle定理〉あれこれ ―― 『過去を復元する』の第6章で証明されている〈Smith / Quackdoodle 第1定理(SQ-1)〉では,人の名字の相対的頻度から家系的近縁性をどのように推論するかという例が挙げられている(6.3節).アメリカではありふれた名字である「スミス姓」およびそれとは逆にまず出くわさないだろう珍しい名字である「コックドゥードル姓」を考える.珍しいコックドゥードル姓をもつ2名(AとB)は,ありふれたスミス姓をもつ2名(CとD)よりも家系的により近縁(つまり親族)である可能性が高いと直感的に考えられるだろう.定理〈SQ-1〉はこの直感を証明する.いま姓1と姓0の頻度をそれぞれp,qとし,2名の親等(家系的近縁度:親等が小さいほどより近縁)を R(・,・)で表わす.このとき:

SQ-1E[R(A,B)/11]<E[R(C,D)/00] が成立する必要十分条件は p<q.

すなわち

SQ-1〉姓1が姓0よりも珍しいならば(そしてそのときにかぎり),姓1を共有する2名(AとB)の親等の期待値は,姓0を共有する2名(CとD)の親等の期待値よりも小さい.

珍しい姓をもつ人間にとっては同姓の人に出会う確率は相対的に小さいし,もし出会ったとしたならば,無意識的に「ひょっとして親類縁者なのかな?」と憶測してしまう.定理〈SQ-1〉はその推測に論拠があることを示している.

―― 〈三中〉という姓はとても珍しい姓であると推測している.姓氏に関するランキング本がときどき出版されるが,相対頻度で上位1万までのランクには少なくとも入っていない.『日本の苗字ベスト10000』(2000年12月11日刊行,新人物往来社,ISBN: 4-404-02764-8)によると,第10000位の〈広上〉姓をもつ人口は約700名とのことだ.第1位の〈佐藤〉姓が191万名もいることを思えばとても少ないように感じるが,日本の姓は計30万もあるそうだから,さらに超マイナーな(共有人口が数名レベルの)姓もきっとあるだろう.〈三中〉姓もその長いランキング表の下の方に載っているのだろう.

―― 以前,インターネットで〈三中・みなか〉で検索したところ,数名の同姓者がヒットした.西の方のパティシエだったり,さる企業の管理職だったりされているようだ.もちろん同姓とはいえ面識も何もないが,〈SQ-1〉の期待値不等式がそのまま当てはまったりするのだろうか.

―― Google検索で,自分の姓名(名は不要,姓のみで十分)をキーワードに検索してみると,たいてい数百件がヒットしてくる.予想通りこの「日録」へのリンクが張られている場合がもっとも多いが,「租界〈R〉」にもたくさんつながっているようだ.アクセス解析がもともとできない環境なので間接的にしか推測できないが,いまのところとくに問題なさそうだ.

―― 津村ゆかりさんの〈技術系サラリーマンの交差点〉の記事「ネットで実名を名乗るための危機管理」(5月28日付)を見ると,いろいろと「コワイ事例」が現実にはあるようだ.もともとぼくのサイトは自分のためのサイトづくりを旨としているので,「情報掲示」と「備忘録」の役目を考えてほとんどの場合「固有名詞」はそのまま載せるようにしている.もちろん内情バクロ的ではなく,しかも informative であるように心掛けている.ぼくがあえて「某」とか「とある」というアイマイ語を使うときは,特定の「日録」読者に対してアイマイでないメッセージを送るときに限られる.

―― 津村さんの記事は「ネットで実名を名乗るのはなんとなく怖い」というイメージがあることを念頭に置いて書かれている.まあ,ぼくのように「実名を売ってなんぼ」の世界にいると,いろいろとリスクはあっても踏み越えていきましょうという開き直りしかないのかな.リスク管理の具体的な点については同意できる部分が多いが,世の中には〈物言う匿名石ころ〉がいたるところにごろごろしているので,うっかりつまずかないように心がけるくらいしかないのでしょうね.苗字の相対頻度がとても低い和製“コックドゥードル”の身の上を考えると,この業界で苗字が出た時点で「個人特定」はほぼ完了しているに等しい.「怖い」かどうか悩む以前に,そういう状況を given として生活をつくっている.

◇夕方,高崎に一直線 ―― 三郷ジャンクション以外ぜんぜん混んでなくて,2時間もかかりませんでした.でも,疲れる疲れる.

◇浜崎廣『女性誌の源流』読了 ―― 資料集っぽい章とストーリーとが“ノンホモジェナイズド”のまま混ざっているような読み心地.もちろん,将来のさらなる研究のための「素材」を記録し体系化するという意図が著者にはあるのだろう.

―― p.148に〈女性誌の進化と分類〉と銘打って“女性誌系統樹”が描かれている.収穫収穫.この「定向進化」的な再構成はとりわけ興味を引く.Bob O'Hara ならまちがいなく〈developmental thinking〉の好例とみなすだろう.それにしてもこの本,徹底的に調べまくった形跡がありあり.

◇本日の総歩数=7196歩[うち「しっかり歩数」=1034歩/10分].


28 mei 2004(金) ※信じる者は救われる?

◇5月らしいよい天気 ―― 気持ちいい朝はマーラー〈大地の歌〉ですな.

◇『The R book データ解析環境Rの活用事例集』がやっとbk1にも入ったか.※うむむ,全角英字がタイトルだから半角『The R Book』だと検索できなかっただけかな.

〈救出大作戦〉 ほぼ最終段階 ―― ソーバー本の注文は本日正午で締め切ります.ほかにもすでに“窓口”が締められているタイトルがあるので,在庫リストを更新する.

――『過去を復元する』は昨日までに330冊ほど売れた計算になる.他のタイトルも200〜300冊の単位で在庫がはけたそうだ.この10日間に集まったソーバー注文票はすでに集計しつつあります.

―― 【欹耳袋】 なお,小林四郎(1995)『生物群集の多変量解析』のように“窓口”がないタイトルでも,蒼樹書房に直接連絡することで同様の割引価格で入手できることがわかりました.※最後まで希望は捨てない方がいいですね.

―― いろいろ物語はあったが,今回の〈救出大作戦〉は今月末に終了します.お買い上げいただいた方,また宣伝していただいた方には深く感謝します.

◇いろいろと細かいことども ―― 提出した“恒例書類”の修正など.エクセル書類が文字化けしているというクレーム,decay index 計算などなど.

◇でもって正午になりました ―― この時点をもってソーバー本の注文受付は締め切らせていただきます.集約した注文票を蒼樹書房に郵送完了.これでやっと大団円かな.在庫リストを改訂.

―― しまったー,買い忘れたあ,とあわてているアナタ,一念岩をも通すと言うではないですか.ワタシまでメールを下さい.悪いようにはいたしません(初志貫徹なるかどうかは確約できませんが).ソーバー本に関しては数10冊の在庫を確保してありますので,ぼくから買うことは可能です.他の本についてもそうかどうかはわかりません.

◇論文原稿の系統樹の記述セクションを補筆し,図表とそのキャプションを書き換える.引用文献を付け加えて,これでOKかな.原稿を筆頭著者に送る.

◇“生物学の哲学”を志している若手 philosopher[のタマゴ]って増えてるの? 系統学講義への受講の問合せあり(三田方面から).千葉大での大学院集中講義(冬学期)までないかなあ.統計学の出講依頼は多いんだけどね.いっそのこと高座に呼んでいただければ,ほいほいといつでも出動しますです.

◇昭和堂書店から刊行が予定されている『鳥類学辞典』は進捗が遅れていたが,8月出版を目指すそうだ.分岐学と生物地理学に関する25項目の原稿を出したのが去年の3月のことだから,もうそれから1年以上経っている.辞書づくりの場合,たくさんの項目執筆者が関わっているので,どうしてもこれくらいのタイムスパンでの作業になってしまうのだろう.「辞書ゲラは忘れた頃にやってくる」あるいは「原稿は忘れた頃に急かされる」.※あ,ひとつ忘れていた...(すみません,と浜松方向に向かって謝る).

◇今日は蒸し暑く,西日が居室に射しこんで居づらくなってきたので,午後4時前に早々に退散.これからの季節はこういう生活パターンの日がきっと多くなるだろう.

◇ベランダで種籾を蒔き,ソラマメの苗を移植,カメの水換えをして,オオクワガタにゼリーをやる.飼育栽培係.

◇夜になっても蒸し暑い.あーやだやだ ―― 『女性誌の源流:女の雑誌、かく生まれ、かく競い、かく死せり』の第1章100ページあまりを読む.明治10〜40年代に立て続けに創刊された女性誌の系譜をたどる.いまなお読者を得ている『婦人画報』と『婦人の友』は明治創刊,『婦人公論』と『主婦の友』は大正創刊だそうだ(とっても長命).女性誌の場合,編集長の意向がその盛衰を決定しているとのこと.かの『青踏』が女性誌として失敗したのは,平塚らいてうから伊藤野枝に編集長が変わったからだそうな.

――〈良妻賢母〉という言葉は,女性誌としては早いスタートを切った『女鑑』の創刊号(明治24年8月)に初出があるとのこと(p.48).この言葉をつくったのは初代編集長の西澤之助という人物.明治時代の女性誌はほとんどすべて男の編集長がつくっていたそうだ.ほー.

◇本日の総歩数=6641歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


27 mei 2004(木) ※闘う系統樹,へばる系統学者

◇薄曇りの早朝.Wieland Kuijken のヴィオラ・ダ・ガンバ独奏(DENON COCO-70555).書類書きの翌日はなんとなく解放されている.気のせいではあるのだが.

◇〈Hennig XXIII〉 の講演要旨をそろそろ準備しないと.Roissy 2の Hall E が「崩落」したけど,大丈夫かな.Hall E が落ちたからといって,となりの Hall F まで影響はしないだろうけど.※「まるで地震だ」と目撃者は語っている.

◇日が高くなるにつれ,蒸し暑さが増してきた.たいへんよくない徴候だ.今日は「活性」が下がるかも.※シーズンとしては平均的な天気なのだろうが.

◇にわか共同研究で手がけている系統解析についてレポートをまとめる.投稿先ジャーナルの性格をよく考えてから文章を書かないとね.たくさんやってもそれがそのまま書けるわけではない.とくに,系統樹そのものが研究の主たるターゲットではない場合,どこに焦点をしぼって書くのかは悩むところ.とくに,系統樹ツールボックスの中身があふれかけている現状ではね.

◇「bk1ブリーダー」の登録完了.う゛使い方がまだようわからん.

◇昼休み,東京から来た知人とともに柳橋の〈蕎舎〉に行く.鴨南蕎麦をたぐる.うまい.その知人は,KEKのすぐ北にある国立公文書館分館に閲覧に来たところ,そこの館員にとても丁寧で親切な対応を受け感激のあまり壁を蹴っ飛ばしてきたそうだ.ほおほお,それはいい経験をなさいましたな.え,もういっぺん来るのですか? それはそれは.単に閲覧するためだけなのに一度の訪問ではすまないほど親身なアドバイスを受けたということですね.ほおほお,独法になってもなお長い伝統に培われた対人応対スタイルを堅持しているということですか.へえ〜.食後,ひたち野うしく駅までお送りする.

〈御用〉関連 ―― 某大手書店から進化学会大会要旨集に広告を出したいとの連絡あり.とりあえず,要旨集のサイズとマージンだけお知らせしておく.最初の問合せなので,広告トップページを確保.※そろそろと動き始めたか.

◇午後になって雲がかかってきた.さらに蒸し暑い.

◇〈Hennig XXIII〉大会事務局から連絡 ―― 講演要旨の提出締切は来月24日とのこと.フランス国内でもテロ警戒がきびしくなっていて,大会会場となる政府機関CNRSやMNHNへの参加者の出入りチェックは厳格にするそうだ.

◇本日の総歩数=5935歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


26 mei 2004(水) ※連日 誤り 謝りまくり

◇早朝4時半起き.馬の背を分けるように降ったり晴れたりしている.急を要するメールの返事.※すみませんが,今日の総会よろしく.その線でいきたいと思います.

◇まったくこういう書類づくりってエンドレス ―― 1年分の“差分ファイル”をつくってあるのだが,さらに下位カテゴリーに分割した上で,所定の様式にしたがって〈死ね死ね死んでしまえ〉な「罫線文書」に仕立て上げないといけない.年度はじめの年中行事とはいえ,気が滅入る.いったい何年こんなことをやってんだか.※早々にクリアしてしまえばいいんだけどね(ポツリ...

◇逃避行動(その1)―― 『The R Book:データ解析環境Rの活用事例集』がローカルに大ブレークしているようだ(さらに波及して相乗効果もあるらしい).つくばエリアの書店でも見かけたという目撃情報あり.ん,〈bk1〉にはまだ入ってないですねえ(ちっちっちっ).しかたがないので〈amazon〉に即決注文してしまう.でもって,罪ほろぼし?に“bk1ブリーダー”を申請してしまったりする.

◇あー,ダメダメ.書類地獄に舞い戻る.差分ファイルのアイテムをカテゴリー分けして,昨年までの該当ページに貼りこんでいく.しかも,アイテムごとに「タイトル」「媒体」「著者」などがブロック分割されているので,対応づけしつつ切り分けるという絶妙なワザが要求される.ま,慣れれば(慣れたくないけど),機械的にちぎっては投げればいいのですが.あーやだやだ.

◇逃避行動(その2)―― tree-thinking の復習:

  • Robert J. O'Hara 1997. Population thinking and tree thinking in systematics. Zoologica Scripta, 26(4): 323-329.

―― O'Hara の論文は全部手元にあるのだが,上記論文では“population thinking”と“tree-thinking”の他に,“developmental thinking”という新しい言葉が出てくる.前成説的な unfolding を指す言葉だ.要チェック.やっぱりこの「手」は効果的だな.さっそく使わせてもらおう.Zoologica Scripta は1997年以降に一挙に分岐学派の牙城になった感がある.欧米のジャーナルは慣性なくどんどん変われる身軽さがあるのかな.ジャーナルとしての歴史とか伝統とかそういう“こだわり”がなさそう.※しかし,うがって考えるまでもなく,学術出版の寡占体制の影響の発現であることもまた明らかなんだけどね.

◇わー,復帰復帰.罫線煉獄にのたうつ.まったく非能率的だのう.約40アイテムについて切り分け作業が完了し,ヨコの対応づけも終った.毎年このためだけに起動している PageMaker 6.5 だが,InDesign 適応しているといろいろと思わぬところで間違いを犯してしまう.全体のページを計算してそれをマスターページに貼りこみ,しかもpaginationするという“クソ”な書式にあきれつつ,約6時間の文書作成作業が夕刻にやっと終わる.

◇逃避行動(その3)―― 午前中に古書店から届いたシーラ・ホッジズ『ゴランツ書店:ある出版社の物語 1928-1978』(1985年10月20日刊行,晶文社アルヒーフ,ISBN: 4-7949-2415-1)を撫で撫でする.20年も前の本だが,とてもおもしろそうなイギリスの書店物語.同業者たちはもとより,伝説的タイポグラファーであるスタンリー・モリスンがちょこっと出てきたり.歴史の長い書店のお話しは二段組で延々と続く.写真もたくさん.『ブックストア』のときと同じ期待感あり.※この本,保管のせいか古書臭がとても強かったので白檀香で少し和らげる.

◇ひー,ケリケリ.みなし罫線のグラフィクスを上にかぶせて,体裁だけは条件を満たすようにしておく.この手の事務書類はこれまですべて PageMaker ですませてきた(一太郎とかワードは使ったことがない[もともと使えないし]).最終的にpdf出力してプリントアウト.A4で総計75ページほどになった.平均して毎年5ページずつ増えていく勘定なので,そろそろクリアしてしまいたいなー.ほんまに.pdfファイルをフロッピーに入れてハードコピーとともに提出.これでおしまい.※また来年とか言うなよっ.

◇浜崎廣『女性誌の源流:女の雑誌、かく生まれ、かく競い、かく死せり』(2004年4月8日刊行,出版ニュース社,ISBN: 4-7852-0111-8→bk1).明治以降の女性誌の盛衰をたどった労作だと思う.400ページを越える大冊.よくぞここまで調べ上げたものだ.珍しい雑誌のカラー写真がたくさん載っている.本よりも雑誌のバックナンバーの方がはるかに散逸しやすかっただろう.この著者は前著から一貫して「生きものとしての“雑誌”」というスタンスで論を進めている.このアナロジーがどこまで通用するのかも関心のあるところ.

―― さて読み始めましょ.文字毒は文字薬でのみ対抗できるのさ.

〈救出大作戦〉 の凡ミス ―― メールの配送“窓口”をぼくがまちがえてしまい,ちがう本が送られてきたというクレームが届く.高密度で注文メールが集中したのでこういうことになってしまったのだろう.ごめんなさいごめんなさい.まちがって届いたフツイマ本は「何かの縁だ」と思って買ってもらえません?(と無理無体なことを言う) 他にも同様のトラブルがあるかもしれないねえ.

◇明治時代の美人画を見つつ,ねむねむ.

◇本日の総歩数=4978歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


25 mei 2004(火) ※すんませんすんません

◇気持ちよく青空が広がる.朝から系統樹 ――

  • Lam, H. J. 1936. Phylogenetic symbols, past and present (Being an apology for genealogical trees). Acta Biotheoretica, 2: 153-194.
  • Jepsen, G. L. 1944. Phylogenetic trees. Transactions of the New York Academy of Sciences, Ser. II, 6: 81-92.
  • Voss, E. G. 1952. The history of keys and phylogenetic trees in systematic biology. Journal of the Scientific Laboratories, Denison University, 43: 1-25.
  • Sluys, R. 1984. The meaning and implications of genealogical tree diagrams. Zeitschrift für zoologische Systematik und Evolutionsforschung, 22: 1-8.

―― 神学的イコンとしての“生命の樹”ではなく,生物学で用いられてきた“生命の樹”にかぎっても,なお長年にわたって「定義」と「意味」が論じられ続けてきた.「早田文蔵の高貴なる精神の追憶に捧ぐ」とタイトルの下に明記された Lam の論文は確かに〈系統樹のための弁明〉になっている.Jepsen の論考の直後には Margaret Mead の「人格への文化的アプローチ」が載っているが,これは第二次世界大戦に徴兵された別の研究者の代理だったそうだ.超マイナーな[というか他では引用されているのを見たことがない]ジャーナルに載っている Voss の総説は「系統樹史」の文脈では繰り返し反芻されるメジャーな記事.Sluys のは transformed cladistics 「後」が実感される.ターゲットとなる論文の周囲にはいろいろ埋まっている.

◇今日こそはなんとしても仕上げないと.

◇ついよそ見を ―― 待たれていた『The R Book:データ解析環境Rの活用事例集』がいよいよ店頭に並ぶそうだ.7月に予定されている青葉山〈R〉巡業に間に合ってよかった.実にグッド・タイミング.※いま同所にて集中高座をしているはずの“師匠”の手にはまだ行き渡っていないだろうが.

◇何と言っていいのか ―― 査読論文以外の「著書」(単著ということ)を理系の研究者が書くという行為に対して,当の理系の研究者自身が低く評価しているというのはどういうことなのか.たとえば,「本を書くようになったら現役の研究者としてはもう終っている」とか「本を書くヒマがあったらペーパーを」というささやき声はいつも聞こえる(幻聴ではないと思う).一般書にしても専門書にしても,専門分野の単著から数々の知的恩恵を受けてきたぼくとしては,そういう本の著者を意味もなく貶めるような発言は失礼すぎるというか,カナシイというか,「あほかいな」というか.ま,言ってもしかたがないし,耳障りな虫が鳴いていると考えればいいのでしょうけどね.そういう〈鳴き声〉に対しては,ひとこと「お前ら逝っていいよ」と言おうね.マジ,ぼくの視野から消えて下さい.うっとおしいから.

〈救出大作戦〉 ―― “窓口”のない在庫本も入手できる可能性が残されていた.まさに灯台下暗しということか.

◇何と言っていいのか(続)―― 数年前,とある科学哲学系の学会(バレバレか)で講演をしたとき,座長がしょっぱなに「講師の三中さんは何冊も著書がある方で〜」と紹介され,いきなりガーン.研究テーマとか論文よりも前に「著書の有無」が重要とみなされる業界があるということにびっくりする.文系ではそれがふつうなのですかね.理系業界のように単著を不当に低く見る態度にはムカつくけど,文系業界のように単著だからといっててっぺんに置くのもどうかと思う.研究者が生産しうる〈出力〉の選択肢の中に論文や講演や単著があるというだけのことでしょう.

◇“突発的”共同研究で系統樹計算 ―― small dataset なので計算そのものはとてもラク.NJダメっぽい,MPとMLは使えそう.ただいまブーツストラップ計算中.→樹形に差があるが,慎重なMLの方は迷っているみたい.信念のMPはしっかり解答を出す(って?).レポートは明日送ります.

〈救出大作戦〉 ―― 研究室直販体勢もできつつあります.農産物直売みたいですが.さっきやって来たアヤシいK沼くんは,「みなかさん,これってどんな本ですかぁ」などと不逞なことを言うので,「霊験あらたかなありがたい本である.粗略に扱うとのちのちまで祟るよ」と一言.「お金,あとでもいいですよね」とさらにフラチなことを言うので,「あとでもいいけど1日につき代金1割増しねっ」と悪徳サラ金よりアコギな売り子に大変身.

◇出たばかりの『農業環境研究成果情報・第20集』(ISSN: 0911-5463)と『NIAES Annual Report 2003』(ISSN: 1342-6648)を共同研究者宛に郵送する.ついでに,ぼくらの講演要旨(昨年の〈Hennig XXII〉での発表)が掲載されている Cladistics 誌の最新号(Vol.20, No.1, February 2004)の該当ページをコピーして同封する.

◇なんのかんのと言いつつ,またも書類作成が滞ってしまう.とりあえず差分ファイルをつくって,昨年の PageMaker 文書にアペンドしないと作業がはじまらない.ああ,ぐだぐだ,うだうだ,ぐねぐね.

◇夜,ベルンハルト・シュリック『朗読者』(2000年4月25日刊行,新潮社,ISBN: 4-10-590018-8)のイッキ読み.ほー,こういうストーリーだったのですね.こりゃ,意外だった.※新潮社の CREST BOOKS シリーズは前から気になってはいたのだが,このフランス装(風?)の表紙って触り心地いいですね.

◇本日の総歩数=11560歩[うち「しっかり歩数」=6251歩/53分].


24 mei 2004(月) ※書類仕事あれこれの日……と思いきや

◇霧のかかる早朝.気温12度.今日は少しは暖かくなるらしい.

◇今日は“毎年恒例”の書類をひとつ仕上げなければならないのだが,やる前から現実逃避スタンスになりつつある.牛歩のごとくのろのろと.※何も考えなければいいのだろうけど.

◇〈EVOLVE〉の累積会員数が午前中に1700名を越えた ―― 一度も会ったことがない人が新入会員になってくれるというのはありがたいことです.今年の9月で10年目を迎える EVOLVE ですが,はたしてこれからどこまで歩んでいくのか.メーリングリストという形式そのものが生き残るのかという問題もありますが(ニューズグループのように消えていくのか,それとも基幹形式として利用され続けるのか).

―― 会員名簿の過去履歴をブラウズすると,日本の進化学関連の研究者の動きが読めるかもしれない(非公開だけど).えっ,あの人は法人化を前にして退職したのか...とか.

◇昼間はよく晴れる.気温は久しぶりに20度を越えた.歩いてみるとちょっと暑く感じる.

◇「くそったれ」な知らせを聞いてしらける.コミットする気,まったく失せてるのがよくわかる.別の道を探そう.半ば死んでいるアレも適当なところで切り捨ててしまおうかな.

◇夕方になって雷雲.遠くに稲妻が光り,雷鳴が聞こえたと思ったら,ぱらぱらと降ってきた.そのうちざーざー降り.気温が急降下.

◇論文ロッカーをごそごそしていたら,太田邦昌さんのつくばでの講演(1991年)のときの配布資料が偶然出てきた.形質状態の可逆的変化を踏まえた確率モデル化を例示したときの配布資料で,〈節約主義者の××の一つ覚え問題〉(「××」の部分はママ)と銘打たれていた.内容的には,ソーバー本の第6章に登場する「Smith-Quackdoodle定理」を踏まえた論議で,共有原始形質に基づくグルーピングが単系統的である可能性を指摘したものである.太田講演は3時間にもおよぶ長丁場だったので,ぼくは配布資料のウラ側に太田モデルのもとでの反例に相当するパラメーター領域を計算していた.基本的には,形質状態の枝遷移確率(α=Pr[0→1],β=Pr[1→0])のもとで,各樹形の平均尤度を比較するという計算になる.太田さんの結論では「α+β>1」という条件のもとで,共有原始形質が単系統性の証拠となるという.これはソーバーの結論と整合的だ.※とても印象的だったのは,太田さんがソーバーの論議との関連性を言わなかった点だ.

◇あらら,当初の予定がぜんぜん…….

◇本日の総歩数=11242歩[うち「しっかり歩数」=6369歩/58分].


23 mei 2004(日) ※低温曇天の週末は活字逃避

◇明け方4時前に目が覚める.曇りのまま陰鬱な空模様.今日も気温はとても低いだろう.貸し会議室メーリングリストの利用期限が切れそうになっていた.あわてて延長処理をする.その後また一寝入り.

◇バクスター『ある愛書狂の告白』読了 ―― いろいろな意味でドロップアウトしたブックコレクターたちのエピソードが続く.グレアム・グリーンやキングズレイ・エイミスといった作家たちの話も.本そのものよりは私小説風のエッセイという位置づけか.おもしろいけど,つまらない.罪滅ぼしに Matthew Battles の『Library: An Unquiet History』(2003, W. W. Norton, ISBN: 0-393-02029-0)を訳出してね.いかにも晶文社って感じの本になると思う.

―― 同じ晶文社から出ている『ゴランツ書店:ある出版社の物語』(1985年)が読みたくなったが,新刊ではもう入手できないようだ.すかさず〈日本の古本屋〉に直行して,オンライン注文完了.

―― ぼくがよく利用している〈Alibris書店〉について,『ある愛書狂の告白』にはこんなくだりがある.独立系古書店が消え始めた昨今の趨勢を見渡しつつ:

大きな古書店もそのままではいられなかった.アリブリス書店は,小規模書店を買い取って在庫を増やし,安いものは処分し,高価な本と蒐集対象になる選りすぐりの本はネヴァダ州の倉庫に保管し,雑誌でキャンペーンを打ち,市場の最高値で手放した.生き残った古書店も「アリブリス」の目録に在庫を載せることはできたが,売れた場合に二〇パーセントの手数料を取られた.悪意はないにせよ,心ない商売である.(p.293)

―― ジョン・ダニング『幻の特装本』(ハヤカワ・ミステリ文庫205-2)を買ったまま放り出していたことを思い出した.

◇夕暮れとともにまたまた雨.いったいどーなってんの? 梅雨のはしりとはいえ,ここのところ日射しをほとんどみない.

TRC週刊新刊案内をチェック:1374号 ―― 天候不順のせいか今週は不作.※紀行系では山田実『サンクト・ペテルブルク断章:遺伝研究者のロシア滞在記』に惹かれるものあり.ヴァヴィロフにしろ禹長春にしろ遺伝学者の“世界”は広いと思う./食いしん坊は21世紀研究会『食の世界地図』とか大場秀章『サラダ野菜の植物史』を見逃したりはしないのだ./松岡英輔『「挫折しない整理」の極意』は“分類”の本らしい./『〈美少女〉の現代史:「萌え」とキャラクター』ね,“萌え”キャラ嗜好では必ずしもありませぬが.

◇本日の総歩数=1638歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


22 mei 2004(土) ※受領義務としての「小言」の日

◇台風は抜けたはずなのに,またも曇り.霧雨まで降ってきた.なんだか肌寒いような.

〈救出大作戦〉ポコ・ア・ポコにアッチェレランド ―― 締め切り間近な本や完売本の情報が刻々と届く.駆け込み注文メールも増えてきた.『本コ』の原稿も修正してもらった.日単位ではなく,時単位で情報が届き,情勢が変わる.ソーバー本の発注数はすでには300冊を大きく越えている.あと1週間しかないので,ときどき宣伝を打つ必要あり.

◇両親が京都からつくばにやってきた.約3年ぶりのことになる.ダイレクトな会話が日頃ない分,こういう機会にいろいろな「お小言」をじっと聞くのは,実家を離れた子の務めですな.18歳で京都を出た時点で〈時間軸のひとつ〉が停止しているようなものだから,時効もへちまもなく,そらもう旧悪いろいろね.まいったな(汗).

―― 〈山水亭〉にてランチ.日も射さず,小雨がとても寒い(半袖は明らかに場違いだったか).午後,箕郷の別宅に両親を送り出す.

◇ヒミツの〈MOKA〉が近日中にヒミツ公開されるそうです.これはおもしろい! メールのやり取りをベースにした関連性分析.メーリングリストからのデータ・マイニング,あるいはヒューリスティクスか.トピックスも人脈もスキルも見える見える.

◇最高気温15度ってとこかな.気温の変動が激しくて.丸くなってしまう.

◇ジョン・バクスター『ある愛書狂の告白』(2004年5月5日刊行,晶文社,ISBN: 4-7949-2662-6)を読み進む.ブックコレクターにとってはライブラリアンは「敵」だそうな――無粋な所蔵印は押す,カバージャケットは破り捨てる,かってに製本しなおす…….いくつかの点は思い当たるフシがある.ハードカバーの公費購入本の場合,カバージャケットはすべて“脱がされて”研究室に届くことがふつう.“中身”だけありゃあいいってもんじゃないでしょ.あらかじめ見計らい本として届いている場合にはカバージャケットのみあらかじめ外して避難させておくという手がある(めんどうだけど).

―― だいたい「消耗品」であるはずの書籍に組織の所蔵印なんか押印するから窮屈なことになる.人が動いても本だけ動かせないという理不尽.だから,本当に必要な本は私費[扱い]で買う必要がある.

―― 国立大学が法人化して,図書購入費が[悲]劇的に削減されつつあるそうだ.学術刊行物の単価は高騰しているのだから,総額が削減されればその結末は明白な「マタイ効果」となって現われるだろう.メジャーな雑誌はよりメジャーになり(どこの図書館でも閲覧できる),マイナーな雑誌はよりマイナーにならざるをえない(どこの図書館でも閲覧できない).

◇両親から無事に箕郷に着いたという連絡あり.

◇本日の総歩数=8212歩[うち「しっかり歩数」=3398歩/32分].


21 mei 2004(金) ※いちおう台風ですね→駆け抜けて晴れ

◇明け方から「いちおう」台風らしくなってきたようで,「いちおう」風雨が強まっているように見える.

◇岩波書店から予告されていた〈シリーズ・進化学(全7巻)〉が来月から刊行開始とのこと.6月8日には第1回配本『発生と進化』.入門シリーズらしい.

◇ことしもまたサマコンの夏 ―― 東大オケから今年のサマー・コンサートの通知.サブはベルリオーズ〈ローマの謝肉祭〉とデュカス〈魔法使いの弟子〉,メインはブラームス〈交響曲第2番〉.シブイっすね.鎌倉→東京→福井→大阪→岩国と巡業する予定.暑いさなか,お疲れさんです.指揮は三石精一さん.

◇あっという間にやってきて,あっという間に行ってしまった台風 ―― すっきりと五月晴れに復帰.

〈救出大作戦〉追い込み ―― フツイマ『進化生物学』が完売したそうだ(すげぇ).第3版の翻訳もぜひヨロシクね>キンタ君.「蒼樹在庫本リスト」をまたまた改訂.

◇〈越中・懺悔と高座の旅〉―― 来月の日程がほぼ固まりそう.え,2回に分けろって? しぇー.法人になってからというもの,非常勤講師のワクが激減しているのは事実のようだ.そういえば「非常勤講師数を半減させる」ことを中期目標に掲げた大学もあったっけ.とっても困るんじゃないの,いろいろ方面で(内も外も).

―― ワクはともかく,ぼくらが「タダ働き」にならないようなウラ技・ヒネリ技がないものでしょうかね.※いくつか「道」はあるらしいが.

◇日頃の罪状を悔いて?髪をバッサリと切ってしまったので(剃髪したわけではない),台風一過の風がす〜す〜する.ちょっと寒いかも(体感気温は).

―― 当然,歩くしかないよねえ.昼休みは.この天気だもんね ―― 塵や埃が洗い流されてブルースカイでした.日射しとても強し.揚げ雲雀の唄いまくり,茂みからは雉子のけんけん,遠くに鴬のさえずり.道端の小手鞠にはハナムグリが.散歩には最適の雨上がり.

一昨日のコルトレーン〈Ballads〉についてのスルドイつっこみが ―― あの写真は,Impulse! Records から出た有名な方のディスク(1995年)じゃなくって,未発表テイクを含む2枚組デラックス版(2002年,UCCI-1003/4)のジャケットから取っています.

◇本日の総歩数=12433歩[うち「しっかり歩数」=6476歩/57分].


20 mei 2004(木) ※こんな夜中にアマゾンかよ

◇3時半に起床(今日は早くて満足).雨は小降りになっているようだ.台風2号はやっぱりいらっしゃるみたいね.

お,こりゃ買い忘れ!――大脳がまだ起動していないはず(メガネもかけていない)だが,起き抜け作務衣のまま,amazon.co.uk に接続して 1-Click ordering 完了:

David N. Stamos (2003)―― April (hardcover) / October (paperback)
The Species Problem: Biological Species, Ontology, and the Metaphysics of Biology
Lexington Books, 390pp., ISBN: 0-7391-0503-5(hardcover)/ 0-7391-0778-X (paperback)

―― N部くん,情報さんきゅ.※本買いに悩む時間があったら,えいやあと買った方がいいですよ.買ってしまえばこっちのもん.ペーパーパックだったら,たった27ドル!

―― ということで,夜明け前のショッピング.目が覚めました.

◇そのまま出勤して,現代新書原稿の図版を選ぶ作業に入る.世界各地の図書館やらアルヒーフを渡り歩く.いろいろ楽しいですね,こりゃあ.飽きない.たとえば,〈Textmanuscripts.com〉とか.

◇昨日届いた『The Chicago Manual of Style, 15th Edition』(2003, Univ. Chicago Pr., ISBN: 0-226-10403-6)を読む.“シカゴ・マニュアル”を好き好んで読む人はあまりいないのかもしれないが,出版物に関する「すべて」が書かれているので,とても重宝する.たとえば,本のページ数をカウントするという単純な話ひとつをとっても,どこからどこまでを「ページ」とみなすか(ウラ返せば「ページ」でない「紙」はどれか)がきちんと書かれている:「見返し(endpapers)を除くすべての葉(leaves)はページ番号が印刷されているいないに関係なくページづけにおいてはカウントされる」[1.100].ページ番号がついていないページ(blind folio)もページとしてカウントするということ(fly leafは別として).Front Matter と Text の間に blind folio がある場合が少なくないが,そういうときにも Front Matter の最終ページとみなし,ローマ数字でページが打たれていると解釈せよということか.この場合,Front Matter は必ず偶数になるはず.

―― 今回の改訂版ではオンライン電子文献に関する記述が大幅に増えたそうだ.

◇夜明けのコーヒーを飲んで,また仕事の続き.図版探しあれこれ.BGMはバッハ〈マタイ受難曲〉.

格闘分類学 ―― やっぱし,「日本最高の〜」と言われるほどガタイがでかかったり,釣りをしながら野犬を噛み殺したりできると「強い分類学者」になれるのかしら(該当者2名?).※うわっ,ヤバ.

―― ソーバー本との格闘で負かされてもめげなくっていいみたいですよ.同国人にとってさえ難物なのだそうです.

◇ほんまに台風は来るんでしょーか?―― 雨は降ったり止んだり,強い風が吹くでもなく.単にうっとうしいだけ.

〈救出大作戦〉もいよいよ大詰めか ―― 今月末の購入申込締切が迫ってきたので,〈在庫本リスト〉を更新する.各メーリングリストへのプッシュも忘れずに.ソーバー本第2弾の注文票60通ほどを蒼樹書房に郵送する.

◇現代新書第1章のプチ改訂と図表の選択.めぼしいものをスキャンしておく.※第2章の船出が見えてきた.

◇David Stamos の【種】本の新刊書評が,届いたばかりの The Quarterly Review ofBiology (Vol.79, No.1, March 2004) 誌にさっそく載っていた(pp.64-65).評者は David Baum.こらまた辛口な.ほとんど「哲学者のタワゴト」と言わんばかり.生物学者が哲学者のことを「esoteric」と評するときには相当な侮蔑のニュアンスがあると思う.

―― 数ヶ月放置したままの「LaPorte本」の二の舞だったりしたらアバレまっせー.ほんま.

◇図版探索の「旅」続く――いわゆる〈ポルピュリオスの樹〉を図像化したテキストで,何かいいものがないでしょうか? 有名なイコンの割には,なかなかインプレッシヴな「絵」に出会えないのですが.彷徨なお続く...か.

◇マルク・ブロック『[新訳]歴史のための弁明:歴史家の仕事』(2004年2月20日刊行,岩波書店,ISBN: 4-00-002530-9)をぱらぱら眺めたりする.著者のの構想通りに本書が完成していればよかったのにね.

◇本日の総歩数=4673歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


19 mei 2004(水) ※梅雨のはしりの台風来襲か

◇5時に起床.曇り.今日から数日間は前線の停滞でぐずつくらしい.湿度が苦しい.かびが生える.本にシワがよる.空気が湿っていると並べた本が吸水して膨れるのですぐわかる.

◇昆虫分類学若手懇談会から会誌『Panmixia』(ISSN: 1340-4253)の到着 ―― 第14号〈昆虫分類学と大学博物館〉(25pp.);第15号〈ボーダーレス時代の東アジアの昆虫分類学〉(22pp.)※いずれも昆虫学会大会で開催されたシンポジウムを踏まえた内容.

―― 若手懇談会は事務局持ち回りという制度を創立以来とり続けているので,毎年のシンポジウムの内容も事務局担当者の方針がよく反映されている.最近は博物館がらみの分類学をテーマにしていることが多いような気がするが,そういうポストに入っている人が増えているからだろう.※最近は昆虫学会に行かないので事情はよく知らないのだが.

―― 2号続けて出たので,太田追悼特集が掲載される号は16号ということになるのかな.

◇午前中,またまた半地下に籠り,宇宙進化論と小惑星系譜学について.こりこり書く.小惑星の単系統性を裏づける共有派生形質が軌道に関する特性値として得られるという事実.小惑星の“平山群(Hirayama family)”はクレードそのもの.小惑星のリネージが分岐するとともに,軌道特性値の共有性が生じるとすると,逆に遡行推論することにより,小惑星の高次ファミリーに関する「系統推定」も可能ということなのだろうか.Natureの関連論文をがさがさと探す.あ,これこれ――

Andrea Milani and Paolo Farinella 1994.
The age of the Veritas asteroid family deduced by chaotic chronology.
Nature, 370 (7 July 1994): 40-42.

―― この論文では,小惑星軌道の固有要素のカオス的変化をもとにして逆に分岐(母星からの分裂)年代を推定している.天体物理学でも“タイプ”ではなく,“トークン”に関する歴史研究が可能だというひとつの例になるだろう.へえ,こんな表現まで:

a positive confirmation of the genetic relationship among the family members from physical data [p.42:ボールドみなか]

―― 生物などの系統学と何の齟齬もない問題設定になっているみたい.

【欹耳袋】―― 高島真『追跡『東京パック』:下田憲一郎と風刺漫画の時代』(2001年1月,無明舎出版,ISBN: 4-89544-260-8).新刊ではないが注目.先日読了した永嶺重敏『〈読書国民〉の誕生:明治30年代の活字メディアと読書文化』の中で,この雑誌『東京パック』が印象的に描かれていた.載っていたページには和文だけでなく英文の“吹き出し”も付けられていたのだが,誰を読者として想定していたのか.

―― あ,またまたよそ見&脇道に入り込みそうなので自省自省.すんまへんすんまへん.斯く斯く書く書く.

―― ということで,第4節を書き終える.この節だけで約16KB.第1章全体でほぼ44KBになった.予定より多いかな.→〈目次〉をプチ改訂.すかさず,現代新書編集部に原稿送信.

◇訃報ふたつ ―― 個人的には金田一春彦の逝去よりも,エルヴィン・ジョーンズ死んだ方がよほどショックですね.※ジョン・コルトレーンの〈Ballads〉の1曲「All or Nothing at All」のドラムスをいったいどんなスティッキングで演奏したのかいまだにわからないまま.この機会に〈Ballads〉デラックス版を lossless encoding で iPod に入れてしまおう.

◇夕方近くになって雨が降り出した――せっかく原稿のケリは付けたのだが,イマイチ晴れっとしない.※こういうときはしっかり「読む」のがいいのだけれど,「ひるまず,ゆるまず,いざ進め」というムチが…….きー.

◇夜になってざあざあと降っている.プリントアウトした原稿を読みつつ,ふっと燃え尽きていた.【灰】だ.

◇本日の総歩数=4421歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


18 mei 2004(火) ※どこまで続く泥濘ぞ

◇やや曇りがちながら,昨日ほど湿ってはいないようす ―― 早く寝たはずなのに6時前まで起きられなかった(なんという失態).※今日の東京行きはなくなりました(ナミダ).

〈救出大作戦〉関連 ―― 蒼樹書房の仙波社長から手紙あり.会社解散の事務手続きの関係で,個別の本の注文は5月いっぱいを期限としたいとのこと.ですから,蒼樹在庫本がほしい人は今月中に“窓口”に発注して下さい.※この項,周知されたし.

―― 代金振込が遅い人がいるそうだ.本が届いた人はサクサクと払ってね.本を手にしたら,郵便局に直行すべし.

◇実にシンプルな1日 ―― 午前,地下キャレル.遅い昼食.午後,向かいの別室キャレル.ひたすら書く.

―― William Whewell については第2章にまわすことにする./type と token に関する確認(とくに因果論に関連して)./小惑星の「族」について調べる./Sober, Hull, Richards, …….

―― Olivier Rieppel の『Kladismus oder die Legende vom Stammbaum』(1983年,Birkhäuser Verlag, ISBN: 3-7643-1525-3)の読み直し.Pattern cladism の「波」の直後に書かれた本であることがよくわかる.リーペルさんの言うことのかなりの部分には同調できる.※pattern cladist 同志ということですか.

◇夜も原稿書き続け.今日は12KBほど書きましたです,ハイ.―― でも,この節はまだ終わらないですよ.※泥濘,泥濘,...

◇本日の総歩数=4821歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


17 mei 2004(月) ※空気も床もべたべたなクライマックス日

◇朝から霧吹きのような小雨が降り続く.傘はいらんか? でも濡れる.蔵書は湿気を含んでしわしわになり,床も畳も心持ちべたべたと.気色悪し.

◇Barry K. Hall本の改訂版に付いてくるCD-ROMには〈PAUP*〉の時限附きテスト版が含まれるらしい.※何でもええけど,正式版と正式マニュアルを早く出してね.出すつもりがあるのかどうか,もうアヤシイけど.

◇今日は第1章第4節を書かないといけないのだが,この湿気じゃちょっとねー.錆びるかもしれへんしぃ.※また弁解かいっ.>ぼく

―― などとゴネる前に午後は地下書庫にまたまた自己密封されようね.今日こそは〈クライマックス〉をきわめるのだぁ.でもって,Großer Hammer で叩かれるのだぁ(3発ほどね).Alban Berg とっても痛し.

〈御用〉関連 ―― お昼前に駒場城より御沙汰あり.今夜にも〈御触〉を公開するとのこと.皆の者,粛々と講演要旨を御準備してねー.

◇さてと,曇天高湿度大気の中をお散歩お散歩 ―― 蒸し暑過ぎ.へぱる.

◇午後,うう,なかなか進まん.牛歩.そのまま夕方に(汗).ハングアップ気味のところに,プッシュ電話.うう.※明日も続くクライマックス日.

〈御用〉さらに ―― 夜遅く,進化学会大会の大会参加・講演要旨の受付サイトが公開された.どうもお疲れさまでした.>駒場藩のみなさん.慰労会などごゆるりと.

◇早く寝てしまおう.

◇本日の総歩数=10730歩[うち「しっかり歩数」=5982歩/52分].


16 mei 2004(日) ※安息日(にしよう)

◇起きてみたら本降りになっていた.昨日降らなくてよかった.ここ数日,早朝に雉がよく鳴いている.※まだスペアリブやら骨付きカルビの匂いがそこはかとなく漂っているんですけど.

◇スーザン・セリグソン『パンをめぐる旅』(2004年4月20日刊行,河出書房新社,ISBN: 4-309-26735-1)読み進む.世界各地のパンをめぐるエッセイ.つい二宮の〈クーロンヌ〉に足を向けてしまう.※ソーセージのパンとかカツサンドはゴメンね.昨日の今日ではまだ時効にならない.ピーターパンでドイツパンを確保しておかないと.

◇止むかと思えばまた降って霧雨は空気をしとどに濡らす.昨日(15日)放映されたTV朝日〈ビートたけしのこんなはずでは!!〉の“アフターマン”番組(人類滅亡の1億年後の地球の王者)について.ドゥーガル・ディクソン流の「想像図」は最近また脚光を浴びているということか.CG技術の進歩でよりリアルっぽい映像になっていた.〈香辛飯屋〉での会話 ―― 次男いわく「ああいう想像ってトリヴィア?」;父いわく「トリヴィアは“どうでもいい事実”,この番組は“どうでもよくない想像”」;次男いわく「想像なんだからまちがっているということ?」;父いわく「まちがっているとはかぎらない.あたっているかもしれない」;次男いわく「当たってるのかまちがってるのか,どっちなの?」;長男いわく「あれは推測」.※長男くんにザブトン1枚っ!

TRC週刊新刊案内をチェック:1373号 ―― 今週は豊作.まずは大物から:水越允治編『古記録による16世紀の天候記録』.こういう「歴史復元」ができるとはね.対照的に:野島寿三郎『日本の紙クズ:大正・昭和の庶民派レトログラフィックス』.いいっすねえ.かつての佐野眞一のルポルタージュ『紙の中の黙示録:三行広告は語る』(1990年6月25日刊行,文藝春秋,ISBN: 4-16-344290-8)を思い出した.あとは,スプレイグさんの新刊『サルの生涯、ヒトの生涯:人生計画の生物学』とか.

―― BOOK-ACE で気になる本に遭遇:『考古学のための古人骨調査マニュアル』(学生社)と『地震社会学の冒険』(アストラ).いずれも5月の新刊.「地震社会学」本は阪神大震災を含めて地震被災地を周ったレポートのようだ.「古人骨」本はホネからのアブダクションの嵐.

◇『パンをめぐる旅』続き ―― アメリカの“ワンダーブレッド”って“脱脂粉乳”の役回りだったの? あるいは“三倍醸造”かな.確かに“ワンダー”ではある.次の章はアイルランドのソーダブレッドだ.すぐに口直しを.→夜,読了.パンとエッセイのバランスは「4:6」ってところかな.パンそのものについて知りたいという人は欲求が不満するかも.米軍が開発したという“長期間保存可能パン”なるものに惹かれる.やっぱりパリのパンですか?

【欹耳袋】(壱)豚もおだてりゃ木に登る〉―― もともとは福島県のローカル諺.1970年代前半に漫画〈ヤッターマン〉の中で使われたのがきっかけで,全国に広まったそうだ.Source: 16May2004,TV朝日〈決定・最強人気アニメキャラクター100選〉.※『日本国語大辞典・第2版』では,この諺の出典として1981年の中島梓(〈にんげん動物園〉での発言)が引用されているだけ.

【欹耳袋】(弐)―― Barry G. Hall の系統樹マニュアル本『Phylogenetic Trees Made Easy』の改訂第2版が出たという情報が個人的に寄せられているのだが,ウラがどうしてもとれない.改訂されるとしても,まだ出版されてはいない? と思って,Sinauer の近刊予告を見てみたら,ありましたありました→ここ

Barry G. Hall 2004.
Phylogenetic Trees Made Easy, Second Edition
Publication Date: June, 2004
238 (est.) pages, 155 (est.) illustrations
ISBN: 0-87893-312-3
$31.95
paper

―― 初版と同様に,コンパニオン・サイトが開設されるようですね.

―― 悪口を言われつつも,“裏マニュアル本”としてけっこう重宝されているということか.むべなるかな.

◇本日の総歩数=2025歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


15 mei 2004(土) ※快晴・草刈り・バーベキュー

◇朝からからっと晴れ上がっている.昨夜の天気の崩れはいったい何だったのでしょ.早朝に形態測定学関連特集の情報をメーリングリストに流す.

◇午前10時から,自治会の草刈り清掃.今年はじめてなので,そこら中ぼーぼーに生えているのを片っ端からなぎ倒す予定.消耗するぞー.

―― 消耗したした…….

◇しかし,休む間もなく,午後はバーベキュー食材の準備.午後3時過ぎに〈ゆかりの森〉にて火起しを開始する.今日はとても「いい火」が用意できた.予報とは裏腹に晴れのままだったので,火起しはたいへんラクだった.スペアリブ50本ほどを焼きはじめる.午後5時に人が集まりはじめ,骨付きカルビやらフランクフルトなどがどんどん消化される.ひたすら炭の管理をし,焼き続ける.この状態が夜8時まで.とっても疲れました.肉の匂いが全身に染みついてしまった.

◇小沼純一『ミニマル・ミュージック:その展開と思考』続き ―― ライヒの作品〈Proverb〉(1995)に関する記述からの抜き書き:

編成は,ソプラノ三,テノール二,ヴィブラフォン二,エレクトリック・オルガン二という小規模なもので,テクストはルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインによる.……ヴィトゲンシユタインは,言うまでもなく,ライヒがコーネル大学哲学科在学中に研究した哲学者である.引かれているのは,著作集『文化と価値から』からで,「ごく些細な考え事が一つあれば一生を満たすことができる(How small a thought it takes a whole life!)」という一文である(この段落の続きとして書かれているのは,「深いところに達するために遠くまで出掛ける必要はない(If you want to go down deep you do not travel far.)」だという).ライヒはこのユダヤ系哲学者の著作の多くは,調子と短さという点で格言,すなわち「プロヴァーブ」に近いと述べている.[pp.153-154]

―― ま,確かに歌詞そのものの染み込み度が高いことは当然だとしても,それ以上に曲の染み込み度もふつうではないと思う.ヒリヤード・アンサンブルのCDでは,ボーイ・ソプラノが冒頭で歌っていたように感じられるのだけど(でもやっぱりカウンター・テナーなのかな?).

〈御用〉関連 ―― 登録システムのいろいろな変更あり.「徹底的にテストした方がいい」とのこと.明日の仕事か.※うう,“プロヴァーブ”が....

◇疲労困憊で足腰が立ちまっしぇん.

◇本日の総歩数=5379歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


14 mei 2004(金) ※湿った空気に肩が凝る

◇雨上がりの朝の気温がすでに摂氏20度とは ―― もう仕事しなくていいよという御神託なのだらうか…….

―― 確かに午前中からこの蒸し暑さではどうしようもありませんなあ.居室の気温はもう「夏日」.とっとと地下キャレルに退却〜.

〈御用〉関連 ―― 進化学会大会の登録データの取得はうまくいきそうな気配.講演要旨の本文は,LATEX形式で出力にするとめんどくさそうなので,もしもHTMLからそのままテキストファイルに落とせるようにできれば,要旨集印刷のための文書整形がとてもラクになると思う.※“TEXな人”ではないので,こういうことは「気にしぃ」ですねん.

◇午後は,書庫の半地下室に自己幽閉.iPod 片手に(してへんて),キーボードをかしかしと鳴らせ続ける.12KBほど書いて,午後4時前に第1章第3節は仕上がり.この分だと第1章は50KBほどになるんじゃないでしょうか(400字詰で60枚ほど).

―― この節では,説明/テスト/仮説選択という本書全体の超重要キーワードが含まれているので,なかなかするするとは書き進められない.行きつ戻りつしながら内容を詰めていくと密度がどんどん濃くなっていくようだ.ややソーバー色に染まっているみたい.

◇松本直子他『認知考古学とは何か』の書評と西野嘉章『ミクロコスモグラフィア』の紹介文をメーリングリストに流す.年度末でばたばたしているうちにすっかり遅くなってしまった.

◇午後遅くなって雲がやや厚くなってきた.夕焼け? そして夕闇が降りてくるとともに冷たい風,雨がぱらぱらと.夜になっても小雨が.

◇小沼純一『ミニマル・ミュージック:その展開と思考』(1997年10月5日刊行,青土社,ISBN: 4-7917-5578-2)のスティーヴ・ライヒの節を復習する.ライヒのいくつかの作品は,反復される音型が次第に派生形質を得て変化していく変換系列の一例とみなせる.直線的な定向進化のようにも見えるが,サイクル的でもあり,ひょっとしたら分岐的かもしれない.総譜(そんなもんあるのか?)を見てみたい気がする.ライヒは大学時代にヴィトゲンシュタインの研究(『哲学的探究』に関しての)をしていたことを知る.

―― Cambridge University Press から出ている『The Nielsen Companion』には,ニールセンの交響曲に関する束論(lattice theory)による解析が載っていたことを思い出した.音楽学にはそういう分野があるということか.あるいは「概念束分析(conceptual lattice analysis)」の裾野が広がっているということなのかもしれない.

◇明日のイベントのため,スペアリブ約50本に下味をつける.基本コンセプトはガーリック辛味噌赤ワイン風パイナップル隠し味てな感じ(なんですねん,ソレ).生活クラブの微笑柑も使おうとしたが,家族の激しい抗議を受けしかたなく断念する.これからの季節はやはり〈どこでもいいから「外」で肉を焼こう

―― 明日の予定されている規模は40人だそうだ.「火奉行」はもちろんのこと,「焼き」専任の特務ソルジャーも必要だぞ.「焼きそば」班と「骨付きカルビ」班はもう組織されているというが.※「消化」専任だけはかんべんしてね.

◇本日の総歩数=4176歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


13 mei 2004(木) ※自発的エンストばっかり……

◇今朝も午前4時半に起床. 書いてます書いてます.サボってませんサボってません.

―― よそ見→〈ラブリー写字室〉.※スクリプトゥムっていいなあ.

―― あ,書いてます書いてます……,仕上げます仕上げます.午前中いっぱい,地下書庫に籠る.第1章の第1〜2節の分量が最初の2倍になった.昼の時点でこれら2節を不活性化.午後は第3〜4節を活性化セクションとする予定.

◇次第に雲が厚くなってきた.湿り気のある南風が入っている.気温は昨日並みなのだろうが,不快指数はカチッカチッと上昇する.

◇夕方までかかって,残る2節分の素材をファイルにばらまく(この時点で40KBになった).夜には仕上げたいな.

〈御用〉の波(うねりか?) ―― 進化学会大会の登録システム部分をテスト運用. いまんとこは大丈夫みたい.あとは登録データのダウンロードという,ぼくにとってはより本質的な部分が残っているのですが.お,まだ動いてませんね?

―― 〈ぎょーむ日誌〉によると,こういう大会運営で「終わりのない雑用はない」そうだ.実にオソロシイことだ.希望はないんでしょーか?(うる) 来週はじめ,実際に大会登録受付がはじまったりすれば,札幌に続いて,関東も「大波」にさらわれるのか....※まさに“The Day After Tomorrow”なんちゃって ―― 笑ってる場合かっ?(冷汗)

【欹耳袋】形態測定学関連 ―― 雑誌特集3件の情報:

  • A. Roy et al. (eds.) 2004. Proceedings of the Rome Geometric Morphometrics Workshop: Homage to Leslie F. Marcus. Italian Journal of Zoology, 71(1): 1-88. ※本日着便→目次
  • M. Corti et al. (eds.) 2000. Geometrics Morphometrics in Mammalogy. Hystrix (Italian J. of Mammalology), N.S., 11(1): 1-154. ※日本ではまったく所蔵されていない雑誌のようだが,幸いこの形態測定学特集号に関しては上記の雑誌サイトから全文をpdfとしてダウンロードできることがわかった.
  • Klingenberg, C. P. and F. L. Bookstein (eds.) 1998. Morphometrics and Evolution. Acta Zoologica Academiae Scientiarum Hungaricae, 44(1-2): 1-194. ※ブダペストの〈ICSEB-V〉での形態測定学シンポジウム(1996)をベースにした特集ではないかと思う.国内では鹿児島大学図書館のみに所蔵されているようだ(複写依頼中).

―― 単行本ではなく,ジャーナルの特集は情報の漏れ落ちがときどきある.Hysterix の特集号がオンラインでゲットできてよかった.

◇日暮れまで頑張ってみたのだが,1〜2節はなんだか最初の2倍ほどに膨れ上がったものの,肝心の3〜4節がぜんぜん進みまへんなあ.こら,参ったあ.

◇素朴分類学ならぬ〈素朴系統学〉について少し考えてみる.

◇夜10時を過ぎて雨が降り出す.ざーざーと.

◇本日の総歩数=4717歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


12 mei 2004(水) ※ケリつかず,ケリ入れる

◇午前4時半起床 ―― 明け方の最低気温は17度を越えている.亜熱帯(みなか感覚).ちりちりと別件の用事をすませておく.内容はともかく,文書整形上のバグ取りに明け暮れる.そろそろ InDesign を CS にアップデートしたい(もう届いている)のだが,Windowsとシンクロさせておきたいので,今しばらくは ver.2 のまま留め置くつもり.Win版CSを購入した時点で一挙に上げてしまおう.

◇はい,長野新幹線の「安中榛名駅」周囲はとんでもない“山の中”です.たとえ降りたところでどうにもならないし,あえて乗ろうにもアクセスに苦労する.GW中に榛名から倉渕を越える山道をたどって行ったのですが,山道の舗装がトツジョとしてよくなったと思ったら「安中榛名駅」の道路標識があり,それを過ぎたと思ったら,またトツジョとして悪路に復帰しました.

◇昨夜から不本意にもアイドリングしていた「本件」―― 坂道発進か.書棚の最上段の〈神棚〉に祭ってあった5冊の“紅色本”(好色本ではありません):

  • Whewell, W. 1847. (Orig. 1840) The Philosophy of the Inductive Sciences, Founded upon Their History. Second edition. 2 volumes. John W. Parker, London. [Reprint: F. Cass, New York, 1967.]
  • Whewell, W. 1857. (Orig. 1837) History of the Inductive Sciences, from the Earliest to the Present Time. Third edition. 3 volumes. John W. Parker, London. [Reprint: F. Cass, New York, 1967.]

を恭しくかつぎおろす.ことあるごとに〈神棚〉から降臨されているようだ.農水省もよくこんな本を買ってくれたものだ(えらいっ).

◇午後,トツジョとして蒼樹ソーバー本が6冊も直販できてしまう(思わず手揉みしてしまう).手元には30冊届いていますので,お近くの方はお越しくださいませ.

―― アラインメントのアルゴリズムについて話をする.最近ようやく日本でも出てきたバイオインフォマティクスの本にも,アラインメントのプログラミングについて書かれてあるのはまったくないらしい.Gusfieldの教科書を紹介する.そうですか,タンパク合成までうまくもっていけるのであれば,たいへん有望ですね.機能の祖先復元の可能性について議論する.

◇夜,チャールズ・ダーウィンの『読書ノート(Reading Notebooks)』をチェック.〈CCD〉の第4巻の補遺4に載っている(pp.434-573).生物学の本をリストした〈左ページ(a)〉よりも,それ以外の本(小説・紀行・伝記・歴史などなど)の読書メモである〈右ページ(b)〉の方がおもしろい.ブロンテ『ジェーン・エア』というタイトルが入っていたりする.読んだ本については最節約的な評が貼り付けられている.「おもしろい」や「すばらしい」という誉め言葉と並んで,「話にならん(miserable)」とか「時間のムダ(nothing)」という手厳しい講評も.有名なラムの『エリア随筆』は「つまらん(dull)」とバッサリ,ベックマン『西洋事物起源』にいたっては「ダメ(poor)」と一言.

―― こんなのを読みこんでいるから,なかなか坂道発進がうまくいかないんです.※ん,これって苦しい弁解?

◇本日の総歩数=4810歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


11 mei 2004(火) ※格闘なお続く

◇降り続いた雨はようやくあがったようだ.淡い霧の早朝.今朝のBGMは Orlando di Lasso〈死者のためのミサ曲〉.やっぱりヒリヤード・アンサンブル.

◇今回の本のように原稿を「一気書き」すると,難しそうなことばをどんどん排除している自分に気づく.最初に立てた目次の「見出し」のことばを次々に差し替えていく傾向からあとで気づいたこと.もちろん排除したのは“死因”になりそうな「ことば」だけで,「中身」はそのままなんですけどね.※だからこそチャレンジング.

―― と思ったら,「スイスイ読めました.では続きを…」という“天の声”が西方より聞こえ,馬車馬のごとく書き続ける(馬でも描ける系統樹なんちゃって...などと軽口を叩くヒマはどこにもない[はずな]のだ).

◇しかるに,別件業務でしばし中断 ―― 地下書庫キャレルに逃げ込んだが,なんだか外は陽光がぎらぎらしていて,とっても暑そう.

日本哲学会第63回大会(5月22日〜23日,南山大学,名古屋)で,〈進化論と哲学〉という「共同討議」が開催されるそうだ.「提題者:横山輝雄・松本俊吉,司会:神野慧一郎」と広報されている.※網谷さん,情報いただきました.

―― いつも感じることだが,自分のアンテナが常時張られているゾーンからちょっとでも外れると,そうとう重要なアイテムであってもすっぽり抜け落ちていることがある.メーリングリストなどを通じて,情報の流通はよくなっていると思っていたのだが,それでもときどきこういう漏れ落ちがある.

◇昼過ぎにやっと別件から解放される ―― 地下から居室に上がってきたら,開け放たれた窓から“熱風”が吹き込んでいる.都内では今年初めての真夏日となったらしい.遮光ガラスを通してもなお室温は28度に達している.ひさびさの過酷な研究室環境にめげる.

◇復帰してまたも馬車馬と変身しなければならないのだが,しばし待て.年度末から段ボールふた箱に梱包されたままになっていたブツをいまこそ降臨させないと.ということで ――

聳え立つダーウィンの山】はいかがでしょうか.ピッカリング版ダーウィン全集(全29巻)をどどんと積み上げてみました.なんというオソレ多い所業を....※抜いたり差したりして遊んでませんので,誤解なきように.

◇夕暮れとともに蒸し暑さがさらに悪化,西日の射し込みとともに,研究室はほとんど居住不能になる(どーした,遮光ガラス).早々に退散する.ここでガマンしなければならない理由はどこにもない.

◇夜,古因学(palaetiology)に関するいくつかの論文を復習する ―― William Whewellってとんでもないやつって感じがしてきた.なんたって,科学哲学,古因学,そして帰納統合(consilience)のルーツでしょ.

◇〈Hennig XXIII〉事務局から参加登録受理のメール.あれれ,参加費の合計金額がまちがってました? あらま,ホント.訂正の連絡をしないと.

◇またも目次に手を入れながら,原稿のバイト数は増大する ―― 科学哲学の節はもっと肥大します(確実).>オニ・アクマ・ヘン……さま.

―― 「目次は書き換えるためにある」とか.

◇本日の総歩数=4784歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


10 mei 2004(月) ※突撃!嵐!激動の机上

◇Thomas Tallis〈エレミアの哀歌〉とともに迎える早朝.外は昨夜からの雨がまだ降り続いている.染み込むヒリヤード・アンサンブル.

◇机の上はすでにたいへんなことになっている ―― 今日は終日この状態のまま過ぎていくのだろう.原稿を書くときはいつもこうなるが,閾値を越えるとさっさと図書室の書庫に逃避したりする.

―― グールドの華々しい言説の数々に対しては多くの批判が寄せられている.しかし,「歴史学としての進化学」を擁護する彼の姿勢にはおおいに共感する.確かにその通りだと思う.もちろん,グールドだけではなく,ギセリンしろ,マイヤーにしろ,進化生物学を歴史学の一つとして正しく性格づけをしているのが印象的だ.

―― 体系学における historical methodology のあり方がいま書いている章の中心テーマ.ただいま進行中でーす.>関係者さま.

◇外はしとしとと雨が降り続いている.地下書庫とはいえ“半地下”なので,ちょうど目線の位置が地面だ.雨粒がぽつぽつと跳ねているのを横目に見つつ,キーボードに向かう.『だから系統樹!』の第1章.予定よりもだいぶ遅れているので頑張らないと.

――今までの原稿の書き方だと,最初に参考文献のリストをつくっておいて,その広さの「土俵」の上で書き始めていたのだが,今回は最初から別のスタイルになっている.「なっている」というのは意図的にそうしたのではなく,なんとなくそうなったという意味.土俵がないので振れはあるが,その分,窮屈さは感じない.

―― お籠りの4時間ほどで11KBのテキストファイルの分量を書く.昔の作家ならば「ペラ〜枚」という数え方をしたのだろうが,原稿用紙などもともと身近にないから「〜枚」という数え方は実感が湧かない.いまではテキストファイルのサイズ(バイト数)で書いた分量を量っている.ムリをして〈1字=2バイト〉のレートで〈400字=800バイト〉として仮想枚数をはじき出していたこともあったけど,めんどうだもんね.

◇夕方,研究所を出ると湿気と気温で蒸し蒸ししていた.こういう天気はげっそりしてしまう.※来月になれば否応なく梅雨に入ってしまうのだけれど.

◇夜,さらに3KBほど書き進む.これでこの章の2/3ほどか.仕上がりで25KBほどにまで成長すると思う.

◇本日の総歩数=4415歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].※地下書庫キャレルに自己幽閉されていた割にはウロウロしていたにちがいない.


9 mei 2004(日) ※「流れるように」とは……(続)

◇雲が厚い.天気は下り坂らしい.このところ天候が周期的に移り変っている.

◇「目次構成」をもういちど見直して ―― むむ.ぬぬ,うう.

◇速水格さんが東大を退官するときに残した回想録『珊瑚樹の道』(自費出版)に,印象に残る一節がある.速水さんは〈三つのM〉が大好きで,そのひとつが「マーラー」の音楽だそうだ(残るうちのひとつは「麻雀」).研究室ではマーラーの第3交響曲をボリュームを下げつつラウドネスをかけて聴いていたこともあるとのこと.そのサウンドスケープを想像するに,実に至福ですなあ.ぼくの場合は,早朝派なので,ウーハーが破れるほどの音量でも(実際にそうなったのだが),とくに問題はないと思う(実はあったりして...).第8交響曲(「千人の交響曲」)の第2部はゲーテの『ファウスト』が歌詞として採用されているが,合唱が終わって第1部冒頭の主題がバンダの金管で再現されるエンディング部分(第1528小節〜)の総譜には〈流れるように(Fließend)〉という標語が記されている.総譜の版面を見ると最上段のフルートから最下段のコントラバスまで全音符のポリフォニー一色に染まっている.憎い演出やなあ.宇宙が鳴り響く音楽は「流れるように」演奏せよと.

―― マーラーは「ポストモダン」だと評した渡辺裕『マーラーと世紀末ウィーン』(2004年2月17日刊行,岩波現代文庫・文芸82,ISBN: 4-00-602082-1)にこんな一節がある:

ポストモダニストを支えているのは,お気に入りのものに取り囲まれる快楽ではなくて,それらのものからの絶望的な距離感である.日本における代表的ポストモダニズム建築の一つである「つくばセンタービル」を設計した磯崎新は言う.「……様式の廃墟…….その廃墟の中にある諸断片を接合させることによって,別種のものを組み立てることだけしか,いまのこの時点で扱えるのはないんではないか.その選択の基準を僕は方法的に提示できない」.(p.186)

―― そーか,つくばセンター地区が茫漠と散らばった感じがするのはポストモダンだったからなのか! つくばの公務員宿舎の中にもとてつもなくシュールな設計のやつがあるそうだ.まったくもう.「ポストモダン」はとっても住みにくいぞ(住民の実感として).

―― さて,ワタクシめも「流れるように」仕事しないと....

◇昼前から本格的に降り始めてきた.明日まではぐずつくそうだ.

進化学会東京大会の公募シンポジウム〈非生命体の進化理論〉の演者陣がやっと確定した.最後のひとりが今日決まったので,これでメンツを公表することができる.もちろん,まだ「案」の段階なので,日時や会場については未確定ですが――

日本進化学会第6回大会公募シンポジウム[案]

非生命体の進化理論2
オーガナイザー:佐倉統(東京大学)・三中信宏(農業環境技術研究所)

日時:2004年8月6日(金)午後を予定[2時間枠]
場所:東京大学(目黒区駒場)
演者(すべて確定)と仮題――
佐倉統(東京大学情報学環)・三中信宏(農業環境技術研究所)
イントロダクション」
徳永幸彦(筑波大学)
人工生命の進化と系統をめぐって」
佐藤啓介(大阪府立工業高等専門学校)
考古学における〈型式学〉:出土遺物の系統と分類を再考する」
矢野環(埼玉大学理学部)
茶道古文書の文献系図を定量的に推定する」
屋名池誠(日本女子大学文学部)
〈横書き登場〉― 日本語書式の由来と変遷について」

―― 詳細が決まりしだい,例によっていたるところで宣伝しないと.

◇これまたとても便利 ―― 〈WWWC〉.開発者の方,ありがとうございます.使わせていただきます.※MacOSX用のものもないでしょうか?

◇ほお,こりゃ“異文化”な ―― 吉原真理『アメリカの大学院で成功する方法:留学準備から就職まで』(2004年1月25日刊行,中公新書1732,ISBN: 4-12-101732-3).経験者ならではのレポートだと思う.ほとんど読了してしまった.

◇さて,そろそろ〈羽化〉の時刻が近づいてきた.

◇本日の総歩数=1536歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].※お籠りにふさわしい歩数ですな.


8 mei 2004(土) ※「流れるように」とは……

◇今日もからっとした晴天に恵まれる ―― ついつい寝過ごして柱時計のボンボンが6つも鳴ってしまった.たまにはいいか.

TRC週刊新刊案内をチェック:1372号.※『ある愛書狂の告白』とか『レンブラントのコレクション』あたりがオタクっぽくていいですなあ.『パレオマニア』や『雑学者の夢』なんていう類友なのもある.そういう季節なんでしょうか(「そういう」って何?).

―― 『剖検率100%の町』は機会があればチラっと見てみたい気がする.

◇ランチがてら乙戸沼公園でのコンサートへ ―― “内省的”な楽器は聴衆と共有できる世界が想像以上に狭いと感じる.ホールのような会場ではもともとダメなんだろうね.かつてのクラヴィコードなんて奏者自身が聞こえればよかったわけでしょう.そういう楽器を他人にあえて聞かせるにはそれなりの「音場」が不可欠なのだろうと思う.

◇今日は〈蛹〉の状態です,ハイ.※〈羽化〉はいつ?

◇本日の総歩数=2273歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


7 mei 2004(金) ※あらま,もう週末に(やば)

◇朝から本を(サティ〈グノシェンヌ〉とともに)―― あ,ネルソン・グッドマンの『事実・虚構・予言』(1987年5月30日刊行,勁草書房,ISBN: 4-326-15194-3)は絶版じゃなかったんですか.この本はずいぶん長く探していたのですが,神保町の東京堂書店(改装前の)の哲学棚でもう1冊の『世界制作の方法』(1987年10月20日刊行,みすず書房,ISBN: 4-622-00623-5)と並んでいたのをがしっと鷲づかみにしてレジにすっ飛んでいった覚えがあります.1987年に主著が2冊も出ていたとは.

―― 人文社会科学の業界だと,新刊を出したときにいったいどれくらい売れるのでしょうね.もちろん名前の売れている著者やそのとき関心を集めているような分野だと売れ行きいいのだろうけれど,ほら,いかにも「こりゃ売れないよねえ」というタイトルの本ってあるでしょう.以前,とある出版社からウィトゲンシュタイン本を出した著者から聞いた話ですが,「出版されてからまだ4冊しか売れてませんね」とごく当たり前のように言われたことがありました.4冊! 自然科学系の場合だったら,どんなに高くても悪訳でもブーでも,100冊のオーダーには達するんじゃない? その話を聞いたときには,人文系の書籍が行き渡る世界というのは想像を絶して〈狭い〉のではないかと感じた次第.

―― ネット日記を徘徊していると,〈救出大作戦〉の蒼樹ソーバー本『過去を復元する』がそろそろ購入者の手元に届き始めているのがわかる.仙波社長には本の発送から代金徴収まで引き受けていただいて感謝している.「訳者はすごい」って? ちっちっちっ,そらちゃいまっせー.仙波社長の【原稿取り立ての厳しさ】は知る人ぞ知るところでね.入稿予定日に遅れようものなら,職場に電話ががんがんかかってきて,「あなたには社会人としての常識がないのか,すぐ原稿をもってきなさい.それが約束というものでしょう」とか例のだみ声で怒鳴られれば,そらもう訳者は震えあがりますわなあ.オニ・アクマ・ヘンシュウシャ.

―― ということで「お約束の……」は今週末に書き上げてしまいます.※うぐ,さっそく「念押し」されてしまった(オニ・アクマ・ヘン...).

◇今日はカンカン照りで絶好?の歩行日和.連休中は怠惰だったので一念発起しましょう ―― 『マラニャン布教史/マラニャン見聞実記』(2004年3月26日刊行,岩波書店,ISBN: 4-00-008844-0)を引き取る.〈17・18世紀大旅行記叢書[第II期]〉の第4巻.この叢書もいよいよ残すところ1巻のみとなった.

〈救出大作戦〉もういっちょ ―― 午前の便で蒼樹書房に頼んでおいたソーバー本30冊がドンと届く.これでいつでも注文受付オッケーです.農環研のアナタ,いつでもどーぞ.同封の手紙には,4月分のソーバー本の売り上げは【218冊】だったそうだ.ほほー200冊の大台に乗りましたか.今月も販促にこれ努めますです.※次なる大台へ.

◇“雪男”イエティの分子系統樹が載ってるとウワサされていた『Molecular Phylogenetics and Evolution』誌のエイプリルフール号(Volume 31, Issue 1, April 2004)がやっとオンラインでダウンロードできるようになった.件の論文はこれ――

Michel C. Milinkovitch, Aldagisa Caccone, and George Amatoc (2004)
Molecular phylogenetic analyses indicate extensive morphological convergence between the “yeti” and primates. [Pages 1-3 / PDF (442 KB)]

―― おお,実にしっかりとした分子系統解析ではないか.何かの教材に使えるぞ,これは.※イエティと霊長類が形態学的な収斂を起こしているとはね(笑).

―― もちろん,他の論文はしごく「まっとう」なので誤解ないように.

◇進化学会大会の〈御用〉がアタマをもたげはじめてきた ―― 講演要旨集担当なので,まずは印刷業者の選定から.研究所内で情報収集し,連絡をとって見積もりを出してもらう.版下はぼくがつくるので,印刷と製本だけ外注する予定.週明けにも稼動する大会参加登録システムのテストをこの週末にちゃんとしておかないと,どんなミスの可能性があるかが把握できない.最初に TEX が吐き出されるとすると,テキストファイルにとりあえず落としてから料理をはじめないとね.※週末といえども休めず.

◇本日の総歩数=11154歩[うち「しっかり歩数」=7179歩/62分].


6 mei 2004(木) ※日常に復帰する予定

◇低気圧は東に抜けたようで,朝日が眩しい.最低気温10度.この季節のこの時間帯は快適に過ごせる.

◇これはすごいなあ ―― かの大学書林から『フリジア語辞典』が新刊.オランダ北方の島嶼域フリースラントに限定される話者40万人の言語辞書が日本で出版されるとはね.定価44,100円.高くない.※工作舎と並び,大学書林は「驚異の出版社」だと思う(よくもってるなあ……).

◇朝は天気がとてもよかったのに,しだいしだいに雲が厚くなって.ゴールデンウィーク後半から天気悪いねえ.雨は降るし,気温は低いし.

◇〈Nelson Goodman〉つながり ―― かの論文「Seven strictures on similarity」は Douglas and Hull 編の論文集『How Classification Works』に再録されているのを参照するのがもっとも手っ取り早いと思います.勁草書房やみすず書房から出ていた(る?)グッドマン訳本はいまではほとんど入手不能でしょうし(『記号主義』は別として),だいいち上の論文はもともと翻訳されてもいないから.

―― ひさしぶりに上の論文集を眺めてみて,西洋音楽の「楽譜記譜法の進化」をグッドマン哲学(美学)の観点から論じた Ruth Katz の論考が所収されていたことに気づいた(すっかり忘却の彼方だった).音楽学にもこういう分野があるわけね.“世界制作の方法”として楽譜記譜法を見直そうということらしい.15世紀に確立された記譜法は,著者によれば,「形式や様式とは独立に音楽作品の“同一性”を確保する」(p.125)ように発展してきたということだ.

―― 作曲者によって譜面の「字面」がかなりちがって見えるのは,単に旋律やリズムの個人差だけではない.マーラーの交響曲の総譜を見ると,明らかに【饒舌】で,標準的なイタリア語の表記の他に,方々にドイツ語で細かい指示を書きつけている.金管・木管の区別なしのベルアップ奏法とか,打楽器パートへの神経質そうな打法指定があるかと思えば,第7交響曲の最終楽章冒頭のように(はい,例の「スットコドッコイ〜」の箇所です),ただ一言“mit Bravour”と独奏ティンパニスト(出だし2小節だけの)への「檄文」が置かれることもある.“ブラヴォー!”と声がかかって,「やったるでー」と奮い立たないティンパニストはどこにもいないのです.その結果,交響曲としては珍しいハ長調の終楽章があのような「躁状態」で始まることになる.うがって解釈すれば“うまく叩けよな”という教育的指導標語なのかもしれない.この場合,ティンパニストはきっと震えあがるだろう.気まぐれな転調ごとにちくちくとチューニングさせられる身にもなってねー.

◇サンノゼの蜂須賀正子さんから昨年の生物地理学会大会の折りの写真が届いた.近いうちにまた来日するとのこと.

◇こんなことでは「日常」に復帰できないではないか ―― 東北大学での非常勤講義のシラバスを送ったり,生物科学大辞典の見出し項目を考えてみたり,とあれこれしているのだが:

「お約束の……」―― ひーーっ(大汗).などという「大物」が待っていたりとか.

北海道大学図書刊行会から新刊広告が届く:『植物生活史図鑑』は第1期全10巻という陣容だったのですね.生態写真とイラストがたくさん含まれていて,魅力的かもしれない.「春の植物」IとIIが同時刊行された.

―― たまたま同出版会サイトの新刊として見かけた『現代イギリスの政治算術:統計は社会を変えるか』(2003年7月25日刊行,ISBN: 4-8329-6411-9).ラディカル統計学グループという一派があるそうだ.目次をブラウズするかぎり,社会構築主義の側からの統計学論のように見えるのですが.

◇あっという間に夕方だ ―― 日常復帰への道はとてもきびしいぞ.おお,またも新たな“辞書づくり”のプランですか? ほんとうにみなさん辞書が好きなんですね.たまたまというには出くわす頻度が高過ぎる気がするのだが.ま,四の五の言わず,即返信いたします(→完了).

◇本日の総歩数=3536歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


5 mei 2004(水) ※連休最後は引き籠りたいが

◇ううむ,日が変わったというのに,まだ硫黄臭が身体の周囲にたちこめている.手の甲を舐めると酸っぱい味がする.数年前に万座温泉〈豊国館〉に立てこもって以来のことだ.

◇昨日の夕方から降り始めた雨は本降りになっていた ―― GW最後の今日はやることがいろいろある.まずはつくばに帰還しないことには話にならないのだが,この雨の中を渋滞の高速道でと考えただけで気が滅入る.

◇〈私設圖書館〉※森山日記の5月3日付から ―― 確かに,たとえ有料であっても「キャレル」を手にしたいという慾望は[人によっては]抑えきれないものなのかもしれない.ペトロスキー『本棚の歴史』に書かれていたように,人一人がちょうど入り込めるスペースが自然発生的に生じ,それがキャレル化した経緯はその慾望の発現だろう.

―― 永嶺重敏『〈読書国民〉の誕生:明治30年代の活字メディアと読書文化』を読了する.第6章では,明治時代の図書館がどのような人たちによって利用されていたのかが論じられていて,当時の図書館利用者の8〜9割が「学生」だったことに驚かされる.明治期の閲覧室の写真が掲載されているのがとりわけ興味深い.ぼくは大部屋は読書空間ではないと思っているが,「閲覧室」という大部屋で大勢がいっせいに読書するというこの光景は,ごく個人的な「キャレル」とは対極にあるもののように感じる.

―― 日本にはもともとキャレルが育つ素地はなかったのかとも思う.著者は次のように書いている:

西洋からの輸入制度である明治期の図書館の読書空間は,明治社会のただ中に人為的に創出された「近代読書」のモデル空間であった.(p.236)

伝統的な読書習慣との衝突が当然あったわけで――

図書館は「黙読」の支配する空間であった.明治社会は漢文素読的伝統の根強さのために依然として音読的読書慣行が支配的であり,個人で読書する際にも声を出して音読する傾向が強かった.これに対し,図書館の空間は音読が厳しく禁止された完全な黙読が支配する空間であり,その中で読者は朗唱的で美文的な読書ではなく,自己と対話しながら内面的な読書を行なうように促されていった.(p.238)

「車中読書」の章でも,駅待合室や車中という新たな公共空間の中で「音読」してしまう人たちのひき起こす「迷惑」が取り上げられている.実際に方々でトラブルがあったらしい.著者はさらに言う:

黙読の貫徹の結果として,図書館は「孤独」の空間となった.明治前期の社会においては読書は現在のように個人で読むよりも,むしろ家族や友人間あるいは地域の「共同体」を通じて読まれる傾向が強かった.例えば新聞もひとりで読むよりも家庭内において読み聞かせを通じて共同体的に享受されることが多かった.これに対し,図書館内では読者は相互に全く無関係の個人であり,孤独の中でひとりで読書していた.... 図書館は共同体から離れてひとりで孤独の中で黙読する空間であった.(p.238)

―― 明治期に輸入された図書館の建築にはきっと「御雇外国人」が関わっていたはずだから,キャレル的要素もきっと「輸入」されていたと思う.「孤独な黙読空間」としてのキャレルが日本の中でもはたしてあり得たのかどうか興味が湧く.東大総合図書館の大部屋ではないある一角,あるいは改装前の神田・学士会館にあった〈読書室(Reading Room)〉などはキャレルに近い雰囲気があると感じるが.

◇でもって,もそもそと荷物をまとめ,ごそごそと車に詰め込み,出発.せっかく覚悟してあげたのに肩すかしをくらわせやがって,関越道も外環も常磐道もスイスイで,あっけなく帰れてしまいました.※もちろんその方がいいに決まっているのだけれどね.

◇伊香保グリーン牧場で獰猛な虻ちゃんに好かれてしまったようで,足首に点々と“キス”の跡が.痒い.※今頃気づくとは…….

◇何だかとっても疲れている.今日も早々とご就寝かしら ―― とメール・チェックしたら,おお,これはひょっとして〈救出大作戦〉のダメ押しとなるかな.『本とコンピュータ』の次号(6月上旬刊)に蒼樹書房在庫本についてのミニ記事を書いていただけることになりました.ありがたやありがたや.>まり様,ホトケ様.

◇さて,ハッピーに寝ましょ.

◇本日の総歩数=3725歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


4 mei 2004(火) ※草津温泉にて(その弐):湯疲れの明け方

◇屋根を叩く雨音で目が覚める ―― 午前5時前.外湯の共同浴場まわりに出かける.小雨がぱらついているが気温は高い.温泉街の中心にある湯畑あたりは,この時間にもう人だかりがしている.〈白旗の湯〉は午前6時のオープンとともにすぐ満員になってしまうだろう.湯畑近くの〈千代の湯〉もすでに浴槽に入りきらないほどの客の入り.まったくダメダメ.湯畑付近にある共同浴場はよほど運がよくないと入ることすらできない.連休の混雑が輪をかけている.退散.

―― 地蔵通りに転じて,奥まった〈地蔵の湯〉にやっと入れる.先客はふたり.まずは一浴び.気持ちいいですな.気を良くしてそのまま地蔵通りを下りきって,〈煮川の湯〉に到着.夜中の間にいったん湯が払われたようで,浴槽には一番湯がいままさに注がれている.寝湯状態から始まって,じわじわと水位が増して,溜まりきった頃にはほとんどのぼせる.先客はひとりだけ.草津の場合は源泉かけ流しが当たり前だが,それでも新鮮な湯にはとりわけ特別なパワーを感じる.酸性高音泉の硫黄臭が強い.

―― さらに湯畑から離れたところにまで遠征.中央通りから入ったところにある〈千歳の湯〉.ここも先客ひとり.ことさらに刺激的ではなく,いいお湯でした.続いて,近くにある〈喜美の湯〉.こちらは先客なし.広い浴槽に湯畑から引いた温泉が注がれている.静かに味わう.いずれの共同浴場とも,無料で24時間開放されているのはありがたいことだ.

◇四湯も回ったのにまだ6時過ぎ.バスターミナル近くで休憩しつつ,GW読書(その3):永嶺重敏『〈読書国民〉の誕生:明治30年代の活字メディアと読書文化』(2004年3月30日刊行,日本エディタースクール出版部,ISBN: 4-88888-340-8)を読み進む.新聞・雑誌の全国的均質化と同時化,旅客輸送の全国展開とともに生じた「車中読書文化」,そして縦覧所・書籍館・図書館の整備によって生じた「読書国民」の成立を三本柱として論議を展開する.とてもおもしろい.とりわけ,車中読書という新しい文化が,それまで当たり前だった“音読”を封じ込め,“黙読”を社会的に強要するようになったという第二部の論旨は,オングの〈声の文化 vs 言葉の文化〉の図式を連想させる.

◇あれれ,ちょっと湯当たりしてしまいましたかしら.ぼおっとして,浮いている感じ.

◇雨は一時止んで曇り空に.草津を出発し,途中少しだけ渋滞にハマりつつも高崎にたどりつく.

◇まだ,フワフワしている.おそるべし万能酸.

◇本日の総歩数=3305歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


3 mei 2004(月) ※草津温泉にて(その壱):万能酸に溶ける

◇天気よし.温泉旅行には最適だ.

◇朝のうちに,西野嘉章『ミクロコスモグラフィア:マーク・ダイオンの〔驚異の部屋〕講義録』(2004年4月27日刊行,平凡社,ISBN: 4-582-28444-2)を読了.納得できるところとできないところが混ざり合う.たとえば,サイエンスとアートを“融合”しようという基本路線について――

  • 昨今の展覧会は見ることの喜びそのものに訴えかける力が弱まっている,と感じてならないからです.なにか,見る者をはっとさせるような,おどろきの感覚が失われてしまった.見る者の方もまた,本当に新しいものや見たことのないものを,自分の努力でもって発見する喜びの,その感じ方を忘れてしまった.(p.9)
  • 「ミクロコスモグラフィア」というタイトルを示されたとき,そういったいくつかのことがらに思いを致しつつ,なるほど含蓄に富むことばだなあとうなずき,マークにこれでいきましょうと言ったのです.わたしはさきほど,現代のわれわれが頭で考えることを優先するようになった結果,モノを素朴な眼で眺めることを忘れてしまったのではないか,無垢な子供の眼を通して世界を見ること,そして,喜びやおどろきを感じることを忘れてしまったのではないか,現代の教育研究環境における主知主義的な側面,知性優先主義的な側面が,ある種の弊害を招いているのではないかと問題提起しました.(pp.56-57)

―― 悪くない問題提起だと思う.超芸術“トマソン”の新鮮な驚きを想起しさえすればよい.

◇しかし,体系学(システマティクス)に対する著者の見解を見てみると――

  • 学問の世界がこまかな分科に枝分かれする.そういう流れがもし,打ち消しがたい時代の主潮だとするなら,現代のわれわれは,いまもって神学博士トマス=アクィナスのうち立てた中世スコラ学の体系から,一歩も踏みだしていないと言わざるをえません.(p.57)
  • 中世スコラ学以来の「知」の細分化傾向に決定的な力を与えたのは,十八世紀の植物学者リンネです.知られる通り,リンネは世界を体系的に分類し,記述するシステムを確立しました.... 一定のシステムにそくして命名し,位置づける,というリンネの二名式分類法は,自然界をどのように把握すべきか,という問題に決定的な影響を与えただけでなく,われわれを取り巻く経験的世界をどのように把握すべきか,という認識論的問題にまで波及します.(pp.58-59)
  • なるほど,リンネの分類法は万能かもしれない.しかし,どこにも分類しようのないモノ,整合的に位置づけられないモノというのは,ほんとうに存在しないのか.そんなものは概念として成り立ちえない,そう考えて,名状しがたいものを,アプリオリに排除してしまったはいないでしょうか.げんに,すべてのものは,なんらかのかたちで方法的に位置づけることができる,という思い込みが蔓延することになっています.われわれは,それら整合的な分類体系に収まりきれないモノを,ゴミの範疇に押し込んでしまうか,そうでなくとも「落ちこぼれ」として,否定的に見るように習慣づけられていますからね.分類不能なものを,無意味なものと短絡させ,かえりみなくなるような状況が生じているのです.深刻なのは,そもそもがモノの備蓄庫としてあるべきミュージアムまで,そうした傾向に染まりきっていることです.(p.60)

―― おそらく体系学史をひもとけば,著者の主張はいたるところで反駁されるだろう.自然界の体系学的理解の源をトマスやベーコンあるいはリンネに求めるのは無理があるのではということだ.そもそも著者は体系化(systematization)に関するある歴史観をもっているように見える:

  • 人間が獲得した学術的な知識や職人的な技術をフランシス・ベーコン譲りの分類システムに則って徹底的に記述しつくす.その目的に寄与すべく掲げられた膨大な図版は,全体から部分へ,自ずと読者の眼差しを領導するよう仕組まれている.こうしたシステマティックな世界把握法が,近代社会の到来とともに広く定着し,自然の驚異と文化の事象とのあいだには分明な隔てが設けられるようになった.この分断は現時に至るまで学術研究の世界で失効せずに生き続けている.サイエンスを絶対視した近代人は,その有効性を過信するあまり,かけがえのないものを失った.すなわち,世界の全体をミクロコスモスとして象徴的に,統合的に,寓意的に仮象する表現方法を喪失したのである.もし,この欠落を補い得る者がいるとすれば,それは美術家ではないだろうか.サイエンスは論理的であること,実証的であることを義務づけられており,人間の知的活動としていかにも不自由である.その点でアートの世界は自由である.サイエンスとちがい,アートには真理を探求するという義務もなければ,真実を語らねばならぬという強制もないからである.(p.276)

―― しかし,象徴的・統合的・寓意的な理解の前に「分類する」という原初的なシステマティクスが基盤としてある.「無垢な子供の眼」にすらすでにあるシステマティクスが備わっているというところから立論した方がより自然だろうと思う.著者はアートの「自由さ」に惹かれているようだが,言葉を変えればアートは無視されても何も実害がないというだけのことである.サイエンスはそうではない.ミュージアムがサイエンスとしての体系学の揺籃となってきたことは意味のあることだったのだとぼくは思う.

―― ということで,この本の書評はとても辛口になるだろう.装丁や体裁は誉めても.

◇草津温泉に向けて出発 ―― 当然のごとくGW渋滞に巻き込まれる.吾妻渓谷から長野原そして草津方面の道路は数珠繋ぎ.午後2時近くにやっとチェックインできる.まずは〈中澤ヴィレッジ〉で一風呂.うう,酸味とても強し.pH=2.0の破壊力.細かい傷も見逃さない.うう.

―― 夜,〈民宿・美津木〉の内湯に入りに行く.一人用の貸切り風呂は秀逸.泉源からダイレクトに引いているせいか,他では経験したことのない析出物の量に驚く.もちろん,湯温・酸味ともに申し分なし.とっても熱いねー.幸せだねえ.ああ,溶ける溶ける…….

◇溶けて「量」が減ってしまったので,今晩はよく寝られるだろう.

◇本日の総歩数=7623歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


2 mei 2004(日) ※5月なのに ephemeral とは

◇朝は雲が多かったが,徐々に晴れ間が広がる.きょうもいい行楽日和になりそう.昨日よりは気温が低いかな.でも湿度が低いのですべて許してしまう.

◇GW読書(その2):須藤功『写真でつづる宮本常一』(2004年3月31日刊行,未來社,ISBN: 4-624-20078-0)を読了.基本的には記録写真集ではあるのだが,文章部分も多く読みでがある.宮本の壮年期から晩年期にあたる武蔵野美術大学〜日本観光文化研究所の時代の足跡がたどれて参考になる.未來社とのつながりは「民話の会」を仲立ちとしてのことか.松谷みよ子とともに写っている写真あり.アチック以来,敗戦後のしばらくの期間は澁澤ラインの色合いが強いが,その後は独自の路線を打ち出していったように見える.

―― 方々で講演会・勉強会など,人前で話をする機会が多かったという宮本だが,本書にもそういうスナップ写真が多く含まれている.敗戦直後の1947年2月に横浜で開催された「農閑期大学」の講習写真は〈勉強会〉の祖型を見るような心地がする.宮本は1日9時間にもおよぶ講義を何日も受け持ったそうだ.

「先生手がかじかんで書けませんから,ちょっと待って下さい」講義の途中でそういう声がかかる.すると一〇分の間,手をこすったり身体をうごかしたりして暖をとる.そのあとまた話をつづける.延長した二日は持って来たコメがなくなったので,近所の農家から買って来たイモですました.まる二日イモばかりで,最後の夜イモの懇親会をした.それでもみんな元気だった.みんな希望を持っていた.(宮本常一『日本の離島』第1集)

―― 今となってはこういう“非日常”な「勉強会」の機会はなかなか得られないだろう.というか,日常的な大学や職場での「勉強会」とは別に〈外〉で集って勉強会をする機会は多いのかな? 自分にそういう機会がなくなってきただけのことかもしれないが.学生や院生の頃は方々の「勉強会」とか「合宿」に行ったことがある.行きがかり上,生態学関係の会が多かったようだ.そういう“非日常”がのちのちまで記憶に残るのは当然のことだ.昔だったら生態学勉強会合宿,最近だったら「進化生物学・春の学校」.

―― 個人の書簡集と並んで記録写真集は〈読み甲斐〉があると思う.1枚の写真を前にして背後をどこまで見抜けるかということ(受け売り).

◇Alex Rosenberg 講演追加情報 ―― 網谷祐一サイトからまたいただきました.広報サイトによると,5月13日(木)午後3時から関西学院大学文学部新館大会議室にて「Implications of Biology for Human Sciences」という演題で講演があるそうです.すでに書いたように,5月14日(金)午後3時からは京大での第14回PaSTA研究会),5月18日(火)午後5時からは東大での講演会です.

◇Panmixiaの原稿のちょっとした改訂と太田邦昌著述目録の書式チェック ―― 即返送./予定されている生物学大辞典の項目選定は,ちょっと時間かかるかなあ.

◇武満徹の新曲が発見されたという朝日新聞記事 ――〈故武満徹さん、17歳の自筆譜見つかる:ピアノ作品 〉.今月末に刊行が予定されている武満徹全集の第5巻(最終巻)におさめられるとのこと.

◇質問が届く:〈Stephen J. Gould の業績っていったい何?〉―― グールドの仕事を思いつくままに箇条書きしてみると比較形態学/断続平衡理論/階層的進化理論/創造説反撃/反社会生物学/科学エッセイが挙げられます.グールドの場合,科学史・科学哲学的に興味のある指摘をするところまでは正しいが,進化理論としてみると勇み足になってしまうというケースが少なくないようです.たとえば,断続平衡理論の場合も,N.R.Hanson や P.K.Feyerabendに依拠しつつ,化石記録の理論依存性を明らかにするという点までは妥当だっただろうと思います.また,Mayr流の異所的種分化理論が古生物学の化石データの説明に適用できるというところまでは問題なかっただろうと思います.しかしそれが大進化理論(1980年代初頭の論争に代表される)に結びつくところでまちがっていたわけですね.個体発生と系統発生に関しても,科学史的な掘り起こしの部分はたいへんおもしろいし,納得できます.しかし,それが進化生態学の理論(r/K淘汰説)と結びつけるところがこれまた怪しい.おそらく他のテーマ(IQや社会生物学論争)についても,科学史的あるいは思想史的な検討の部分は的外れではないし,グールドのもっとも良いところが発揮されていると思います.しかし,生物学的・進化学的な論点に関わったとたんにバイアスがかかってくるというのが彼の特徴と言えるのではないでしょうか.グールドは,伝統的な比較形態学のスピリットをごく最近まで濃厚に残していた稀有の例であるような気がします.決してアメリカ的ではなく,むしろヨーロッパ大陸的ということかな.この点はそのうち生物学史の研究者が明らかにしてくれることでしょう.

◇うっかり忘れそうになって,あわてて新刊チェック ―― TRC週刊新刊案内から:1371号.※とくに,浜崎廣『女性誌の源流 女の雑誌、かく生まれ、かく競い、かく死せり』に注目.数年前に前著『雑誌の死に方:“生き物”としての雑誌、その生態学』(1998年)を読んで,着眼のおもしろさに感心した.今回は女性誌にターゲットをしぼっての非生物系統学が展開されるのだろう.価格から見てそうとうボリュームがあるものと予想する.

◇本日の総歩数=188歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].※なんたることか.


1 mei 2004(土) ※ゴールデンウィーク初日のお籠り

◇とても爽やかなGW初日.早朝に各MLへの月例アナウンスを流す.今日を逃すと連休明けになってしまうので.先月は会員異動や大学法人化によるアドレス変更が相次いだ.もともと4月はエラーメッセージが頻発するのでまあそんなもんなのだろうが,今年はシステマティックにエラーが多発するのが特徴.あるドメインが変更になったとか,そういう原因で.

進化学会東京大会の〈〉シンポの最後の一人のアノ人の連絡先が判明する.さあ,これで満を持して【横書き登場】となればいいのだが.仲介者氏の話によると進化学会からの問合せということでビックリされたそうだ.昨年の岩波新書が出たあと,印刷業界関係者からの問合せはとても多かったそうだ.さもありなん.あとで電話させていただきます.

―― このオルグがうまくいけば,〈〉の演者はやっと確定となるはずだ.連休明けにはシンポ企画を申請できるだろう.

◇高速道路はどうせ混んでいるだろうから,“下の道”で出発する.高崎までの最節約ルート(120km)をたどる国道354号がいつになく混んでいる.“上の道”がやはり渋滞しているためだろう.3時間の予定がオーバーして4時間かかってしまう.昼過ぎに高崎着.

―― そのまま,市内の元祖・某キャレルに引籠り.20年近く通い詰めてきたので,1年くらいブランクがあっても問題なし.どーもご無沙汰しています.え,京都に帰ってしまったんじゃないかって? たはは,まさかぁ〜.定番のカレーパン(どんなものか想像すべし)とクールコーヒーを注文.

〈救出大作戦〉そろそろ山場 ―― 蒼樹在庫本のうち,6月末の断裁前に入手できる本がほぼ出そろったようだ.「窓口」を引き受けてくれる著者・訳者(&関係者)が名乗り出てくれたからだ.ウェブに個々の「窓口」連絡先を載せるわけにはいかないが,どのタイトルが入手可能かを【蒼樹書房・入手可能本リスト】として公開することにした.問合せ先は三中(minaka@affrc.go.jp)まで.届いた注文メールはそれぞれの「窓口」宛にそのまま転送します.

―― 現時点でのリストは下記の通り:

【蒼樹書房・入手可能本リスト】

2004年3月末に廃業した蒼樹書房の在庫本のうち,著者・訳者が個人的に販売できるタイトルは下記の通りです.ただし,在庫の断裁処理が6月末に予定されていますので,購入を希望される方はお早めにご連絡下さい.

「窓口」が開設されていて入手可能なもの
  • 日浦勇(1973) 『海をわたる蝶』 ★定価1600円→960円
  • 日浦勇(1978) 『蝶のきた道』 ★定価1800円→1080円
  • 菊沢喜八郎(1986) 『北の国の雑木林』 ★定価2300円→1380円
  • リドレー(1988) 『新しい動物行動学』 ★定価3800円→2280円
  • フツイマ(1991) 『進化生物学』 ★定価15000円→9000円
  • ファルコナー(1993) 『量的遺伝学』 ★定価7500円→4500円
  • クレブス&デービス(1994) 『進化からみた行動生態学』 ★定価8500円→5100円
  • 菊沢喜八郎(1995) 『植物の繁殖生態学』 ★定価4500円→2700円
  • ソーバー(1996) 『過去を復元する』 ★定価5000円→3000円
  • ハーストン(1996) 『野外実験生態学入門』 ★定価6500円→3900円
  • ウィルマー(1998) 『無脊椎動物の進化』 ★定価7500円→4500円
「窓口」がなく現時点では入手不可能なもの
  • 町田洋(1979) 『火山灰は語る』 ★定価2800円→1680円
  • ケストラー(1982) 『偶然の本質』 ★定価1800円→1080円
  • 小林四郎(1995) 『生物群集の多変量解析』 ★定価3200円→1920円
他の出版社から再販予定のもの
  • 上田恵介(1987) 『一夫一妻の神話』 → HSKから販売予定
  • 伊藤嘉昭他(1992) 『動物生態学』 →  海游舎から販売予定
上記リストのうち入手可能なものについて,購入を希望される方は:
   注文者氏名/メールアドレス/郵送先住所/冊数
を三中信宏(minaka@affrc.go.jp)までお送り下さい.届いた注文メールはそれぞれの「窓口」宛にそのまま転送します.なお,購入代金は定価の4割引,消費税はゼロ,送料無料です.本とともに郵便振込用紙が同封されてきますので,代金をお支払い下さい.
[文責・三中信宏 1 May 2004]

◇そのまま某キャレルに居座り,ようやく活字に沈潜することができた.すぐ近くのJR高崎駅から蒸気機関車の汽笛が響く ―― GW読書(その1):西野嘉章『ミクロコスモグラフィア:マーク・ダイオンの〔驚異の部屋〕講義録』(2004年4月27日刊行,平凡社,ISBN: 4-582-28444-2)を半分ほど読む.東京大学総合研究博物館の展示を踏まえた講義録.コレクションのもつ意味をさまざまに解読していく.サイエンティスト=キュレーターに対する批判的な意見がちらほら見つかる.Purcell and Gould の写真エッセイ集『Finders, Keepers』に雰囲気が似ているような気がする.

―― この装丁,この紙質,この組版は,かの『裝釘考』と瓜二つだ.西野さん,なかなかやるじゃない.後半の読み進みが愉しみです.

◇夜,いまいちど〈目次構成〉を睨みつつ,決意を新たにす.※ハイ,新たにしています.

◇本日の総歩数=7329歩[うち「しっかり歩数」=3844歩/32分].


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