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日録2005年12月


31 december 2005(土) ※ ほぼ崩壊した節約主義者

◇今朝も午前5時半起床.研究所に直行.気温0.5度.冷えはじめた居室で JST 報告書づくりと[自分は書かない]年賀状の印刷.後者は完了.前者はもうちょい.年内完了をぜひとも成就したい.

◇いま読んでいる松永俊男『ダーウィン前夜の進化論争』(2005年12月20日刊行,名古屋大学出版会,ISBN:4-8158-0529-6)の詳細目次を公開.これだけ細かく見出しが立っていると,筋書きが見えてきて全体の内容がほぼ把握できるのでたいへん便利だ.※もちろん,もう読まなくてもいいということではない.

◇何でも「崩壊」 —— この年末は,〈ザ・コア〉とか〈デイ・アフター・トゥモロー〉とか,「文明崩壊」的な天変地異映画がまとめて放映されている(もともとそういう映画が最近はたくさんつくられているからかも).恐いもの見たさと「あるかも」なリアリティーがないまぜになる.〈デイ・アフター・トゥモロー〉で,避難場所の図書館の本が暖をとるためにどんどん“焚書”されているのは,たとえ映画だとはいえ喪失感と痛みが伴う(「42行聖書」のようなインキュナブラは後回しにするように)./ 学校ドラマの年末まとめ放映も多すぎる.〈金八先生〉と〈ドラゴン桜〉と〈女王の教室〉を三連で見てはいけません(大笑).

◇午前中は別宅にて JST 編集作業をさらに続ける.馬鹿野郎な doc と ppt の出自が災いして,InDesignから pdf に出力するところでつまずく.急遽の次善策でトラブルを回避する.総括文を400字詰にして15枚ほど書き上げ,これもpdfに.午後1時過ぎまで.

その後,研究所に場所を移して,最後の詰めをする.午後5時にすべての文書pdfファイルを出力し,ヒミツのサイトにアップする.事務局・実行委員ならびに講演者にメール連絡して,今年の“残務”はとりあえずの大団円とあいなった.外はもう暗闇.

結局,最終出力された報告集は本文が約140ページ,これにJSTの前書きと参加者名簿などが挟み込まれるので,全部で160ページほどの分量になる予定.新春早々に編集打合せをして,1月上旬に印刷に入る.※これで下山はほぼ完了だ.

—— 今日は世間的には「大晦日」だが,個人的には平日と何もちがいがない.数時間後に迫っている新年に向けての準備はナッシングだ.何にもしていない.“丸腰”のまま2006年に突入するだろう.今年最後の夜は,ローストビーフの仕込みとカレールーの作成という(別の意味で)大仕事が待っている.

◇油断して年越しそばを食べ過ぎたせいか,おなかの調子がイマイチで…….しまりのない大晦日だが,熊楠を読み進みつつ,ローストビーフ用の牛肉ブロックをたこ糸で縛ったりしている.あと十数分で新年を迎える.

◇本日の総歩数=6008歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜×.前回比=+0.2kg/−1.4%.


30 december 2005(金) ※ やや崩壊しつつある拙速主義者

◇午前5時半起床.今日も晴れ上がって冷え込んだ.冬日が射しているので,今年最後のふとん干し.

◇朝から本宅で JST 報告書の編集を再開.印刷物の分量としては150ページ程度の厚さになる予想.オブジェクトの単なる貼りこみだけでは[気が]すまず,刷り上がりの見映えを改善しようといろいろと手をかけてしまう(これこそ時間が取られる元兇であるとわかっていながら).全体の80%の作業は20%の時間でこなせるが,のこり20%の詰めに80%の時間を費やさねばならないとは理不尽な.後半の過程を見ないふりしてスキップすれば絵に描いたような〈拙速主義〉の具現だが,ついそれに手を染めさせてしまうのは〈遅巧主義〉の悪しき誘惑だと思う.だからこその〈拙速主義〉.

—— そういう「自己分析」をしている余裕すら今はない[はず……].

◇〈みずほの村市場〉で正月用の食材を調達し,となりの〈蕎舎〉で鴨なんばんをば.

◇午後は研究所に“出勤”(ふん).さらに年末残務処理は続く.夕方の薄暗がりの中を別宅に移動し,さらにお籠りは続く.JST 報告書の本体部分の編集はほぼ完成した.あとは総括報告文を冒頭に付けた上で,全体をpdf出力すればいいだけなのだが,そこにいたるまでにはまだ20%ほどの作業が残っている.まあ,山場は越えたようなので,あとは下り道でうっかり転ばないこと.年内中には仕上げられるだろう.

—— 並行して,[自分では書かない]年賀状の版下も作成完了.年賀ハガキの印刷は明朝.帰宅.

夜は,また JST 報告書の編集作業を続行する.エンドレス.

◇寝る前の熊楠 —— 南方熊楠『南方熊楠英文論考 〈ネイチャー〉誌篇』(2005年12月20日刊行,集英社,ISBN:4-08-781332-0→目次)の最初の数十ページを読む.南方熊楠が1893年に初めて『Nature』誌に投稿した記事「東洋の星座」は,「星座名」に関する呼称の類似性がはたして民族間の類似性を示唆するかという匿名投稿への否定的コメントだった.カールレ・クローンらによる“民俗系統学”に先行する時期のやりとりであり,これはこれでおもしろいテーマだ.匿名質問者は星座の呼称体系の類似性は民族間の類縁関係を示唆する共有派生形質だろうと推測したのに対し,南方は東洋の星座観を概観することにより,星座の呼び方の類似性はホモプラジーであり,必ずしも民族間の類縁関係の近さの証しとはならないと反論している.

◇本日の総歩数=3250歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=+0.4kg/+0.4%.


29 december 2005(木) ※ 歳末延長戦はじまる

◇午前5時半起床.晴れ.世間的には年末の慌ただしさということになるのだろうが,それはそれ,これはこれの仕事日.とはいうものの,歳末特別雑用が増えるのはいかんともしがたい.買い出しなど.

◇読了 —— 矢部智子・今井京助『ブックカフェものがたり』(2005年12月15日刊行,幻戯書房,ISBN:4-901998-15-3).第2部〈ブックカフェを始める,ブックカフェを続ける〉は経営論.第3部〈ほかにもたくさんある,個性派ブックカフェ〉はタイトルの通り.で,結局「ブックカフェ」って何だったんだろう? “本”と“カフェ”の混ざり具合は店ごとにてんでばらばらな印象を受けた.

◇午後になってやっと別宅に籠る時間がとれた.まずは督促され続けている(汗)JST報告書づくりから.ただひたすら,版面への割り付け作業をする.あっという間に夕闇が迫ってくる.

◇夜は本宅にて編集作業の続き.あるはずのpdf素材がなかったり……(大汗).明日は研究所で missing 物件の探索と作業続行の予定.プラス[自分は書かない]年賀状の編集と印刷もしないといけない.

—— ここ数年,年賀状を出したことがない.もらってはいるので失礼なことをしているのだが,年末年始は貴重な“仕事日”なので,それ以外の雑用にまわす時間がまったくない.今年もそうなることは確実だ.

◇本日の総歩数=8534歩[うち「しっかり歩数」=4660歩/36分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=−0.1kg/−0.1%.


28 december 2005(水) ※ 御用はちっとも納まらない

◇午前5時半起床.晴れ.結局,大晦日まで乾燥晴天がずっと続くらしい.「ずっと」とはいえ,あと4日しかないのだが.

◇御用納まらず(午前の部) —— 朝遅めに研究所に来てみると,案の上,諸方面から督促電話がかかってきたようだ.すみませんすみません.いくつかの案件は来年に「押し出し」になります.事務からせっつかれている書類を書き,かかってきた電話への応対とか質問メールへの返信とかメーリングリストの管理作業をしているうちに正午が近づく.

うわわ,年明け早々に JST 報告書の締切がー.※今日中にかたちをつくりますです.

◇どんなに忙しくても近刊情報は向こうからやってくる —— ピーター・バート『武満徹の音楽』(2006年1月刊行予定,音楽之友社,ISBN:4-276-13274-6).著者は小学館の〈武満徹全集〉の解説本で,「世界の眼に映った武満」という連載記事を書いていた人だ.訳者の小野光子さんはやはり武満全集の編集部にいて,ぼくが『武満徹全集・第1巻:管弦楽曲』(2002年12月10日刊行,小学館,ISBN:4-09-613101-6)で武満作品のヨーロッパ初演でのオランダ語批評記事数編の翻訳をしたときにお世話になった方だ.

◇絡み憑かれて読了 —— 伊藤俊治『唐草抄:装飾文様生命誌』(2005年12月15日刊行,牛若丸[発行]/星雲社[発売],ISBN:4-434-07164-5→目次).全編を通じて,多くの図像と写真が印象的な本だが,とくに,最後の方に出てくる,資生堂の“唐草”主義と最後の“唐草ミーム”の話題がおもしろい.非生物系統の話のネタとして使えそうだ.最終章「四次元の唐草,新たな展開」にこんなくだりがある:

〈唐草の進化と発生〉それぞれの生命の歴史があり,それぞれは蔓でしっかりつながれているかのように相互に密接に関連しあっている.源泉(ルーツ)や基本構造は同じでもそれが多種多様な形であらわれてくる.だから重要なのはそれぞれのかたちや構造というより,それらの関係と流れを知ることなのかもしれない.唐草の歴史においてもこのことがあてはまるだろう.(p. 249)

また,著者は「唐草」模様を存続させてきたヒトの嗜好についても言及している:

唐草は最も基本的な文様であり,なぜこの文様がかくも長きに渡り,人々の心の奥に知らずに折り込まれていったのかは今一度深く考察してみる必要があるだろう.(pp. 256-257)

著者自身が前半の章で指摘しているように,汎世界的な「生命の樹」信仰のような思潮が“唐草”の存続を可能にしてきたひとつの理由だとぼくは思う.

◇御用納まらず(午後の部) —— 〈R〉の version 2.2.1(Windows版)をダウンロードする./ 首都大学東京の生物統計学講義の成績報告.※すっかり失念していた(うっかり年越しせずにすんだのは幸い)./ 信州大学から来年度の生物統計学講義のシラバスを請求される.[未了]/ 年明けから始まる進化学会幹事長の予定業務メモをつくりはじめる.あとでまとめてと考えないで,日々の活動メモをウェブに残しておくことにする.目下の懸案事項は選挙規程の改正と,学会賞に関わる木村財団との関係.あとは,近いうちに科研費がらみで論文不正行為に対応する「窓口」を学会としてつくれという動きがあるかも./「饅頭こわい」 —— コッソリと蕎麦本を横流ししてもらった見返りに,“まんじゅう”を送ろうと越中屋に2週間前に申し出たのだが,今日になって返事がきた.豪雪のために電子メールさえ凍りついてしまったようだ.年明けに饅頭の函の底に現ナマを忍ばせて送ることになった.こわいこわい.

◇もう夕闇が迫ってきた.気分的には仕事納めなのだが,まったく納まらないのが,いやはや…….

◇夕方になって,今年最後の本がオンライン書店から到着した(時間もないのに本買うなという声あり) —— 上野益三『日本博物学史』(1973年11月10日刊行,平凡社,ISBN:なし).この本は1948年に星野書店から初版が刊行された後,1973年に大改訂された版が平凡社から出された.平凡社版については,さらに1986年に「補訂版」(ISBN:458251202X)が出版されている.現在,講談社学術文庫の上野益三『日本博物学史』(1989年1月10日刊行,講談社[学術文庫859],ISBN:4-06-158859-1)として出版されているのは,平凡社版の「日本博物学通史」の抜粋だ.平凡社版の800ページのうち500ページ弱を占めている「日本博物学年表」は残念ながら復刻されなかった.

◇御用納めの午後5時を過ぎると,さすがに職員の大部分は“宴会組”か“帰宅組”のいずれかに分かれるので,まじめな研究室フロアのざわめきはしだいに静かになってくる.疎外感が濃厚に漂ってくるので,やるべき仕事の素材を机上に展開して,いったん帰ることにする.※明日からはさらに疎外されることになる.

◇なんのかんので夕食が午後10時を過ぎてしまった.乱れ不健康正月の前哨戦か.

◇本日の総歩数=8235歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.2kg/−0.2%.


27 december 2005(火) ※ 年の瀬の悪あがき

◇午前5時前に起床する.気温マイナス1.0度.昨日行かなかった研究所に未明に侵入し,いろいろな“ホコリ”が溜まっていることを確認して(……)そのまま,コッソリ帰宅する.

◇ジャレド・ダイアモンド『文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの』(上・下,2005年12月28日刊行,草思社,ISBN:4-7942-1464-2 [上] / ISBN:4-7942-1465-0 [下])がどーんと届いていた.年末年始用の本ということで.

◇午前9時前に小学校に出向き,PTA卒業イベントの手伝い.来春卒業する生徒の幼少時の写真をスキャンして,お別れ会でプレゼンする.百名弱の人数なので,スキャン自体は1時間ほどで終わる.その後,InDesign での編集作業が時間喰い.通し番号順に画像を配置し,サイズの標準化と周囲のボカシなどなどの処理をする.すべての編集作業を終え,pdfを出力し終わったのは正午前のこと.

—— 小学校のPTA行事に関わるのもこれできっと最後になるだろう.

◇新刊メモ —— ジャン=アンリ・ファーブル『大杉栄訳 ファーブル昆虫記』(2005年12月21日刊行,明石書店,ISBN:4-7503-2245-8).年も終わる頃にまたまた“ファーブル”か.奥本ファーブルに続く,大杉ファーブル本.※「大杉ダーウィン」というのもあるが./ K・F・カイブル(編)『疾患別医学史(全3巻)』(2005年12月刊行?,朝倉書店[科学史ライブラリー],ISBN:4-254-10584-3 [第I巻] / ISBN:4-254-10585-1 [第II巻] / ISBN:4-254-10586-X [第III巻]).監訳者は酒井シヅ.医史学のケーススタディーになるのでしょうかね.

◇午後,研究所にやっと顔を出す時間ができた.JST報告書は明日の御用納めに仕上げるということになるか.成績検討会の資料がまだというのが問題で,これはそのあとに開始するしかない.しかし,積み残し仕事が多すぎる.ひょっとしたら年末年始に頑張れば何とかなる[かもしれない]仕事もある.その一方で,どー考えてもムリっぽい仕事もある.

◇夕方まであがいたあげく,ほうほうのていで退散する.

◇届いた新刊 —— 南方熊楠『南方熊楠英文論考 〈ネイチャー〉誌篇』(2005年12月20日刊行,集英社,ISBN:4-08-781332-0→目次).400ページを越える大著.マンドラゴラに食人に指紋に粘菌にフォークロア.“呪”のごとく投げつけられた紙つぶてに,博覧強記の「嵐」がごうごうと吹き荒れている.ああ,快感.それとともに,いまを時めく『ネイチャー』誌の前世の“かたち”が感じられる.これまた年末年始本ね.『Nature』誌はよく知っているからいいとして,南方熊楠が頻繁に投稿したもうひとつの主要なジャーナルである『Notes and Queries』誌はオクスフォード大学から刊行されている雑誌で,1849年の創刊号以降のすべてのバックナンバーがオンライン検索できる.

◇あ,もう夜になってしまった.JST報告書をちくちくとつくり続ける.まさに家内手工業みたいなもの.また夜なべ.

◇本日の総歩数=4811歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.5kg/+2.3%.


26 december 2005(月) ※ 北風に煽られつつ原稿書き

◇午前5時起き.寒い.まちがいなく氷点下だろう.12月にはいってから,雨がほとんど降っていないので,そこら中が乾いている.風が吹けば土煙が立ち,ものに触れば静電気,車はホコリにまみれ,指先はひび割れする.あまりいいことはない.

◇午前中は別宅にて原稿書きを2時間あまり.正午につくばセンターにて,その年貢(400字×10枚弱)を納める.やっと第3章のエンディングが見えてきた.年明け早々にも第4章とエピローグの原稿を渡す予定.※また年越ししてしまった.

◇次期中期計画の組織体制づくりの一環として,「居室の大部屋化」という方針が研究所側から出されている.研究員の日常的な情報交換と業務推進のため,1室に集中化しようということらしい.そんなのダメに決まってるでしょ.すべての研究員に“個室”を与えるどころか,その逆をやって効果があがる理由がぜんぜん思い浮かばない.まあ,たとえそのようになったところで,ワタシは日中は適当にキャレルなり書庫なりに退避しますので,実効はまったくないものと思えばいいです.※やるだけムダムダ,時間と気力の浪費.

◇先週,献本していただいた本をすでにヒソカに読みはじめている —— 松永俊男『ダーウィン前夜の進化論争』(2005年12月20日刊行,名古屋大学出版会,ISBN:4-8158-0529-6→版元ページ).序章「一八四四年:進化論争の勃発」と第1部〈イギリスのラマルク〉を読む.100ページ弱.ラマルクの進化思想がスコットランドでどのように受容されたか.関連資料がよく読み込まれているので,とても勉強になる.地質学からみた「ラマルク」への視線というのが目新しく感じられる.詳細目次を入力する必要がある.※この本,カバージャケットのデザインが工作舎ちっく.ちっとも大学出版会らしくないところが“unp”たるゆえんか.

◇夕刻からあっしー君と歯医者のばたばた.今日も季節風が強い1日だった.研究所に行く予定だったが,結局なんのかんので行かずじまい.※きっと用事が土ぼこりのように吹き溜まっているだろうな(諦観).

◇明日は,とある頼まれ仕事で,朝から小学校のPTA業務を少しばかり.

◇本日の総歩数=4972歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=+0.3kg/+1.1%.


25 december 2005(日) ※ 自発的幽閉クリスマス

◇午前5時起床.晴れ.サンタさんは HDDレコーダーの接続にとっても手間取ったりする(ACCSチャンネルの取得がまだできんぞ……).

◇久しぶりの暖かい冬晴れの1日だが,午前中は天の邪鬼にも不健康に引き蘢る.

◇「唐草」に絡みつかれる —— 伊藤俊治『唐草抄:装飾文様生命誌』(2005年12月15日刊行,牛若丸[発行]/星雲社[発売],ISBN:4-434-07164-5).これまた文様に関する“非生命体”の系統学の本だった.年の瀬の収穫.エジプトに源を発する「唐草模様」が発祥地から東西に分散しつつ,どのように変容していったかに著者は関心をもっている.著者は,意図せずして,Ernst Haeckel の『自然創造史』(1868年刊行,Georg Reimar,ISBN:もちろんなし)と同一の地域分岐図に到達している(とくに,pp. 84-85の〈唐草ワールドマップ〉はヘッケルの系統樹そっくり).著者は「唐草」を〈生命の樹〉と関連づけて,その変遷を論じている.むしろ,ヘッケルのツリーが逆にこの著者と同じ「唐草系統樹」のイコンとみなせるという新たな発見か.よく見れば確かにうねうねうずうずとした Stammbaum だ.

それにしても,この本の装幀は凝っている.使われている紙から造本から「別格」な手触り.牛若丸の出す本が平均的にこういうレベルの高さだとしたら,今後チェックしておく必要があるかも.

◇午後は別宅にて,JST報告書づくり.編集作業はまだまだ続くが,週明けに池之端から督促がやってくるにちがいない.

◇方々の書店店頭に平積みされはじめたジャレド・ダイアモンド『文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの』(上・下,2005年12月28日刊行,草思社,ISBN:4-7942-1464-2 [上] / ISBN:4-7942-1465-0 [下]).マンションをはじめとしていろいろな“崩壊”が取りざたされた1年の締めくくりにはまことにふさわしい超大型“崩壊”本かもしれない.原書にはないピーテル・ブリューゲルの〈バベルの塔〉が訳本のカバージャケットに使われている.これまた「崩壊」のイメード戦略か.しかし,ほぼ同時に発売されているハリー・ムリシュの電話帳本『天国の発見』(上・下,2005年12月26日刊行,バジリコ,ISBN:4-901784-83-8 [上] / ISBN:4-901784-84-6 [下])の表紙にも同じ絵が.かたや崩壊,かたや極楽.

◇来年2月の東京農大でのセミナーは「一から出直す統計学:自然界のバラツキを科学するために」と「生物の多様性を体系化する:分類学と系統学を対比しつつ」の二本立てでやることになりそう.プレゼン資料はすでにできているも同然だが,また直前になれば差し替えしたくなるにちがいない.

◇クリスマスだイヴだといっても,特段なにかイベントがあるわけではなく,単に日常に比べてたくさん飲んだり食べたりするという程度のちがいしかない.唐草にあちこち巻き付かれつつ,きょう1日が過ぎていく.※J. G. R. Forlong の本にもきっと巻き付いているにちがいない.

◇本日の総歩数=1701歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=−0.1kg/−2.7%.


24 december 2005(土) ※ 妖しいイヴの急かされ仕事

◇体内リズムにしたがって,午前5時半に起床.しかし,今朝は確信犯と化して,さらに午前8時まで寝るという大罪を犯してしまった(これでりっぱな兇状持ちだ).寝過ぎて気持ち悪い.

◇昨日,農大で仕入れた近刊情報 —— 日本昆虫学会が数年かけて計画してきた叢書〈The Insects of Japan〉がいよいよ来年から出版されはじめる.まずは次の3冊が2006年1月20日に刊行される予定:

  1. Mamoru Terayama 2006. The Insects of Japan, no. 1:『Bethylidae (Hymenoptera)』(2006年1月20日刊行予定,櫂歌書房,314 pp.,ISBN:未詳)
  2. Shuji Okajima 2006. The Insects of Japan, no. 2:『The Suborder Tubulifera (Thysanoptera)』(2006年1月20日刊行予定,櫂歌書房,720pp.,ISBN:未詳)
  3. Katsura Morimoto, Hiroaki Kojima, and Sumiaki Miyakawa 2006. The Insects of Japan, no. 3:『Curculioidea (Coleoptera), Part 1』(2006年1月20日刊行予定,櫂歌書房,406pp.,ISBN:未詳)

かつての〈Fauna Japonica〉計画が中途で頓挫して以来,日本の動物相に関する専門書は出版がますます難しくなってきたと聞く(日本だけのことではないだろうが).今回の叢書〈The Insects of Japan〉もうまく販売戦略を立てて,国内外のしかるべき機関なり個人に売れていってほしい.それが叢書を存続させる推進力になるはずなので.

◇さて,昨日の読書感想文の続きをば —— ゲリー・ケネディ,ロブ・チャーチル『ヴォイニッチ写本の謎』(2006年1月25日刊行,青土社,ISBN:4-7917-6248-7).このヴォイニッチ写本はいつ書かれたものか,著者は誰かはまったくわかっていない.ロジャー・ベイコンによる暗号本あるいは,後世の偽書という可能性も否定できない.しかし,第7章で著者らが指摘する可能性:

ヴォイニッチ写本はこれまで,精神病の所産とは考えにくいとされてきた.それは写本自体の大掛かりさと内容の膨大さのためだ.だが既に述べたアウトサイダー・アーティストの作品と比較するなら,純粋に量の問題として見た場合,ヴォイニッチ写本がこのような精神異常の産物である可能性もあり得るのではないか?(p. 281)

はとても説得力がある.ありえない書体で記された本文といい,この世のものではない生物の絵の数々はこの可能性の高さを示唆する.

全編にわたって推理小説仕立ての本書の内容を詳細に書き連ねたのでは,ネタばらしの誹りを受けることになってしまうだろう.だから,ここではあくまでも,本書に関わりをもつ周縁的なことがらを結びつけよう.ある写本のたどった道筋を推理するという本書のスタイルは,コペルニクスの天文学書の系譜を同様にさかのぼったオーウェン・ギンガリッチ『誰も読まなかったコペルニクス:科学革命をもたらした本をめぐる書誌学的冒険』(2005年9月30日刊行,早川書房,ISBN:4152086734)を想起させる.ヴォイニッチ写本はもとはイタリアの地方寺院に長年にわたって秘匿されていたという.かのアタナシウス・キルヒャーに本書を献呈すると申し出る手紙には,あのルドルフ二世の名前も見える.時代と場所については,ちょうどポーラ・フィンドレンの『自然の占有:ミュージアム,蒐集,そして初期近代イタリアの科学文化』(2005年11月15日刊行,ありな書房,ISBN:4-7566-0588-5→目次書評)に重なることがわかる.

さらに周縁的なことだが,この写本の「発見者」であるウィルフリド・ヴォイニッチもまた奇なる人物だ.1865年にリトアニアに生まれた彼の前半生はよくわからないという.社会主義政治運動のかどでワルシャワに投獄されたが,シベリア送りになる前にイギリスに逃れたという.古書業を営むことになったヴォイニッチは,持ち前の眼力と交渉力で稀覯本を次々に掘り出し,一躍この業界でのしあがった.ヴォイニッチ写本もその収穫物のひとつだったそうだ.妻エセルはヴォイニッチの政治思想に共鳴して結婚したが,彼女の父が「ブール代数」で後世に名を残した代数学者ジョージ・ブールだったというのはもっと周縁的なことがらだろう.

—— ということで,本書の感想文を公開しました.

◇クリスマス・イヴなので,つくばのいたるところが人と車であふれている.晴れてはいるものの気温は低いし風も強い.外出には不向き.早々に引き蘢る.※こればっかし.

◇夜は,Veuve Clicquot Ponsardin など.呑み過ぎ./明朝[こそ]は仕事だっ.

◇本日の総歩数=4666歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜×.前回比=+0.8kg/+1.0%.


23 december 2005(金) ※ 本厚木にはヴォイニッチ

◇休日なのを言い訳に,午前6時半過ぎまで寝ていた.お天道様に申し訳ないだらしなさ.起き抜けの日録書き.そして本厚木行きの準備.学生の話を聴いていればいいだけのようなので,とくに準備するようなことはないのだけれど,いちおう「茨城→千葉→東京→神奈川」というプチ遠出なのでね.

とりあえずは〈テクストファイル〉を読みましょう —— 昨日届いた『生物科学』の巻頭言で上田恵介編集長が「学生と読書」という一文を寄せている.学生の読書量の劇的な減少ぶりと読み書き能力の欠如について.モノとしての〈本〉は,文字情報だけではなく,字体・組版・印刷・装幀・大きさ・重さ・手触りなどなどの「総体」として成り立っている.それに触れる機会をもつかどうかは個人によって大きくちがうだろう.何よりも,いまでは〈本〉以外の文字情報に接する時間がどんどん増えているので,それを勘案すると,「何冊の本を読んだか?」という設問ではなく,むしろ「何バイトのテキストファイルを読んだか?」の方が現在では適切な問いかけになると思う.モノとしての〈本〉はもちろんこれからも残ってほしい(だから息をするように書評を書いたりしている)が,それ以外の文字情報源がも同じくらいのウェイトをもっているというのがぼく自身の感想.

◇9時41分のTX快速に乗る.北千住で千代田線へ.代々木上原で小田急に乗り換え,本厚木に着いたのは正午前.すかっと晴れている.タクシーで東京農大に到着.今日は午前10時から「第55回昆虫学研究室研究発表会」が研究棟2階の形態系実験室で開かれている.昼日中に蟲屋の結界.卒研生以外の学生・院生による中間報告ならびに今後の予定について発表を聴く.昼休みをはさんで午後も続く.学部生であってもすでに“PowerPoint慣れ”しているようですなあ(隔世の感あり).あとは,発表原稿をもたずに(壇上で読まずに)トークできればまずは及第点だ.発表会は午後4時まで延々と続く.一研究室の中間発表で,卒研生を除いて20名あまりも演者がいるというのは,ぼくがほとんど体験したことのない「大部屋」だ.

—— 実験計画とか統計処理についていくつかコメントした.まだ時間があるので,最終段階でじたばたしないように事前の実験デザインはきちんとしておいた方が結局は自分のためになるだろう.

◇いったん本厚木駅前に出て,南口の Veloce で読書三昧 —— ゲリー・ケネディ,ロブ・チャーチル『ヴォイニッチ写本の謎』(2006年1月25日刊行,青土社,ISBN:4-7917-6248-7)を読み進む.とてもおもしろい,というか.この〈ヴォイニッチ写本〉というのは人智を越えているのではないかと思いはじめたら,案の定,この写本は「実は精神病理的な産物」ではないかという章があって,膝を打って納得した.ヘルメス主義とかカバラとか暗号学とかいう以前のはなし.むしろ,ヒルデガルド・フォン・ビンゲンの〈幻視〉に近いのではという推測を著者らはしている.なるほどなるほど.

◇午後6時から,南口の〈大蔵〉にて,昆研の忘年会.現役・OBをあわせて40名近くの大宴会.岡島秀治さんの話では,ここ数年はこの「個体群サイズ」を維持しているとのこと.親子二代の農大蟲屋父子がいたりして,相当に濃い集団ではないかと思う.酩酊したり暴れたりする若者[や先生]もとくになく,およそ2時間ほどでお開き.まだ午後8時にもなっていない.当然,大半はそのまま二次会に流れる雰囲気だったが,それにつきあうとワタクシはつくばまで帰れなくなってしまうので,一次会のみで失礼させてもらった.8時2分の小田急急行に飛び乗って,つくばに帰り着いたのは午後10時半のこと.スムーズに接続できてもやっぱり2時間半はかかってしまうコースだ.

—— 来年1月に,農大で生物統計学の講義をすることに急遽決まった(日時未定).時間があれば生物系統学の講義もしたいところだが.

◇帰路,ヴォイニッチ本を読了.「本」そのものにも十分に興味をそそられるが,それ以上にこの写本をめぐる「人」の織りなす図もまたおもしろい.意外なつながりが出てきたりして,関心は尽きない.

◇アルコール摂取量は少なかったが,移動距離が長かったのでやっぱり疲れました.日が変わる頃になってやっと就寝.

◇本日の総歩数=5365歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=−0.6kg/−0.7%.


22 december 2005(木) ※ 北風強い冬至には本の壁

◇午前5時半起床.雲がやや多いものの,いちおう晴れ.気温マイナス2.7度.

しだいに北風が強くなってきた.体感的にとても寒い.乾ききっているので土煙が舞い上がる.今日もまた歩き読みにはまったく適当ではない空模様だ.

◇早朝から月刊『みすず』の「読者アンケート」原稿を書き続ける.ラインナップは予定通り,次の5冊に確定している(この順に書評下):

  1. ウリカ・セーゲルストローレ『社会生物学論争史:誰もが真理を擁護していた』(2005年2月23日刊行,みすず書房,上巻:ISBN:4622071312 / 下巻:ISBN:46220713207 →目次書評
  2. ポーラ・フィンドレン『自然の占有:ミュージアム,蒐集,そして初期近代イタリアの科学文化』(2005年11月15日刊行,ありな書房,ISBN:4-7566-0588-5→目次書評
  3. サイモン・シャーマ『風景と記憶』(2005年2月28日刊行,河出書房新社,ISBN:4309255167 →目次書評
  4. 坂野徳隆『バリ,夢の景色:ヴァルター・シュピース伝』(2004年12月3日刊行,文遊社,ISBN:4892570435 →感想
  5. 組版工学研究会(編)『欧文書体百花事典』(2003年7月7日刊行,郎文堂,ISBN:4-947613-55-6→目次

昼前に書き上がった原稿をみすず書房にメール送信する.

◇正午,季節風がひゅうひゅうと吹く.窓越しに木枯らしに揺れる梢を眺めつつ,室内にじっと引きこもるしかない…….

◇昼に届いた本 —— 1冊はうずうず系:伊藤俊治『唐草抄:装飾文様生命誌』(2005年12月15日刊行,牛若丸[発行]/星雲社[発売],ISBN:4-434-07164-5).何だか工作舎か国書刊行会みたいな装幀でなごむ.しかもこのご時世に函入りとは.ただただ唐草模様で埋め尽くされている./ もう1冊は怪しい系:ゲリー・ケネディ,ロブ・チャーチル『ヴォイニッチ写本の謎』(2006年1月25日刊行,青土社,ISBN:4-7917-6248-7).なぞなぞな文字に奇々怪々な植物たち —— あやしいあやしい.中世写本とされるこの〈The Voynich Manuscript〉の現物はイェール大学のバイネッケ稀覯図書館(Beinecke Rare Book and Manuscript Library)にあるデジタル・ライブラリーで検索することができる(「Voynich」を検索キーワードとして).ヴォイニッチ手稿の詳細に関しては,日本語の大きなサイトもある(熱意がびしびしと伝わってくるみたい).

◇さらに新刊情報 —— Andrew Purvis, John L. Gittleman, and Thomas Brooks (eds.)『Phylogeny and Conservation』(2005年9月刊行,Cambridge University Press,ISBN:0521825024 [hbk] / ISBN:0521532000 [pbk]→版元ページ).

◇午後は,JST報告書づくりにいそしむ…….InDesign を立ち上げて,素材の張り込み.並行して,ppt ファイルの pdf への変換作業.ヒミツの部屋にとりあえず格納して,あとで関係者にコッソリ見てもらうことにしよう(準備中).

◇昼下がり,いったん天候は回復し,晴れ間が見え,北風もおさまったのだが,しばらくして再びぴゅーぴゅーと吹きだした.

◇午後のこまごま —— 出張復命書が未提出であるとのお達し.※でも,東京への出張には復命書は不要だったのでは?(“八王子”は東京ではないとでも……)/ 資産物品現物確認に関する協力依頼.各研究室に保管されている高額物品の確認.次期中期計画期間の研究所「資産」としての登録をするとのこと.あらためて購入時の“価格”を見てのけぞる.うちのような資金的に「たいしたことない」研究室であっても,軒並み「1千万円」前後(中には「2千万円」近いのもある)の高額物品がいくつかある.それらはすべて10〜20年以上も前に購入されたもので,計測機器あるいは計算環境としてはすでに“引退”しているものばかりだ.これだけの予算があれば,今ならどれほど裕福になれるか(=本が買えるか[たとえば])と思ったりする.いずれにせよ,すでに「高価すぎるゴミ」と化している物品は,元がどんなに高くてもゆくゆくは処分しなければならない.すべて現物確認した上で,処分手続きに入ろう(計4,600万円あまり).

◇『生物科学』の最新号(Vol. 57, No. 2, Jan/2006)が届く.特集は〈自然体験から生物学教育へ〉.単発書評記事として網谷祐一さんは「哲学者による種問題ガイド:D. Stamos“The Species Problem”書評」(pp. 110-112)が載っている.この本:David N. Stamos『The Species Problem: Biological Species, Ontology, and the Metaphysics of Biology』(2003年4月刊行,Lexington Books,ISBN:0-7391-0503-5 [hbk] / ISBN:0-7391-0778-X [pbk]→目次)も買ったまま放置してあるけど,そのうち一念発起しないとダメだ.「“みなか”の書評ワールド」は,上記セーゲルストローレ『社会生物学論争史』と錦三郎『飛行蜘蛛』(2005年6月25日刊行,笠間書院,ISBN:4-305-70280-0→書評)の2冊.

◇明日は東京農大・昆虫資源研究室の研究発表会と忘年会があるため,本厚木に行く予定.プチ遠出.

◇本日の総歩数=3717歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.2kg/−0.5%.


21 december 2005(水) ※ 書類上出勤不要日(初日)

◇午前5時起床.ん,ちょっと曇り気味かな.気温マイナス1.7度.BGMは Bach Collegium Japan の新盤〈J. S. Bach: Cantata Vol. 29〉(2005年12月,BIS-SACD-1461).収録されているのは,2 / 3 / 38 / 135 の4つ.※そろそろ〈クリスマス・オラトリオ〉の季節か.

◇ここ数日の博物学つながりで,5年前に書いた西村三郎『文明のなかの博物学:西欧と日本(上・下)』(1999年8月31日刊行,紀伊國屋書店,ISBN:4-314-00850-4[上] / ISBN:4-314-00851-2[下]→目次)の書評を〈leeswijzer〉送りにした.

◇〈落語家は板書をしない〉 —— さまざまな状況で“高座”をつとめる機会が増えてくると,講義プレゼンテーションについての帰納的一般化(心理的なハナシね)は十分に可能だろう.結論をいえば,聴衆の目線はつねに“噺家”に集中させるべきであって,ディスプレイや板書に対してではないということ.とくに,人間の視力は思ったほど「頼りにならない」ので,たとえ,ビデオ・プロジェクターを使ったとしても,講義室の端っこからは「見えない」という点を講師はえてして忘れてしまう.講義する部屋は空間的な広がりをもっていて,対象の視認性はディスプレイされている場所から離れると急速に低下する.だから,ブロジェクターを使っているからそれで万全という油断は禁物で,講義会場の空間的視認性を考慮して,その都度チューニングする必要がある.それはフォントの大きさだったり,プロジェクターの高さ調整だったり,いろいろだ.もちろん,事前にプレゼン資料をつくるときは1枚の画面にたくさん書き込まないというのは常識.さらにいえば,これまでの経験からいえることだが,手書きの「OHP」やましてや「板書」は,物理的に視認できないという単純な理由で,受講生にはほとんど読んでもらえないだろう(それが可能なのは10人以下のセミナー室にかぎられる).おそらく,何よりも重要なことは,「目」ではなく「耳」でわからせるという“噺家”の鉄則だろう.落語家はけっして板書をしない.

◇午前のバタバタ —— 送金したり,されたり.依頼された領収書を郵送したり./来年はじめの日本分類学会連合シンポジウム(2006年1月7日〜8日,科博分館)の出張届を出したり./ そうこうするうちに,グループ内会議が10時半からあったことをすっかり失念していたり(……)./ 某国際誌からレフリー依頼が舞い込んできたり.おもしろそうな投稿論文だが,時間が〜.

◇統計学ネタ三題 —— 〈R〉のバージョンアップ.version 2.2.1へ.実行ファイルも./ 舟尾暢男・高浪洋平『データ解析環境R:定番フリーソフトの「基本操作」から「グラフィックス」「統計解析」まで』(2005年12月16日刊行予定,工学社[I/O Books],ISBN:4-7775-1184-7).書誌情報を特定できた.サポート・ページあり./ 佐藤俊哉『宇宙怪人しまりす 医療統計を学ぶ』(2005年12月6日刊行,岩波書店[岩波科学ライブラリー114],ISBN:4-00-007454-7)に専用ページが開設されていたとは!

◇正午の気温は7度台.暖かくはけっしてないが,北風もなくなかなか良い心地で,昼休みの歩き読み —— 矢部智子・今井京助『ブックカフェものがたり』(2005年12月15日刊行,幻戯書房,ISBN:4-901998-15-3).第1部〈ブックカフェオーナー,かく語りき〉を読了.150ページほど.三鷹の〈文鳥舎〉はぜひ行ってみたいなあ.

◇午後は JST 報告書づくりの作業が続く.まだまだー.

◇しばらく使っていなかった Rotring の「Art Pen」を復活させてみようかな.ペン先をしばらく“水没”させて,乾燥してこびりついた以前のインクを溶かしだす.インクのお世話がなかなかたいへんなのだが,カリグラフィー用なので書き心地は絶品.まずは常用していた1.1ミリから復活させる.

◇夜は,月刊『みすず』の読者アンケートを書き(未了),さらに翻訳原稿と格闘(もちろん未了−ぐむ……).

◇本日の総歩数=16853歩[うち「しっかり歩数」=7950歩/67分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.2kg/+0.1%.


20 december 2005(火) ※ とことん冷え込んで

◇午前5時半起床.静電気ばりばりの乾燥状態.もちろん晴れ上がって,冷え込む.最低気温マイナス5.8度……ってアナタ,これ1〜2月の冷え込みでんがな.日射しが入る午前7時になっても,なおマイナス2度台.寒すぎ.

◇新刊メモ —— William D. Hamiltonの最後の論文集がいよいよ売り出されるとのこと:W. D. Hamilton『Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton —— Volume 3: Last Words』(2005年12月16日刊行,Oxford University Press, ISBN:0-19-856690-5→目次).500ページもあるぅ.イギリスでは11月10日にすでに販売されていたらしい.アメリカではひと月遅れの今月からのようだ.

◇午前のこまごま —— 消化されない年休があまりまくっていた.これから年末までの5勤務日をすべて年休にする(といって,遊べるわけではない.単に出勤簿に押印しないだけのこと).それでも2日間分の年休がは来年に繰り越せず捨ててしまうことになった./ JST報告書づくりの編集作業.たくさんの「紙」をスキャンしたり./ 東京大学出版会から申し出あり.昨日流した『民族昆虫学』の書評文を同出版会のメルマガに転載させてほしいとのこと.了承./ そうこうするうちに〈leeswijzer〉のカウンターが「90,000」を越えていた.訪問されたみなさん,ありがとうございます.

日本の進化学史(江戸時代) —— 昼休み,読み歩きもせずに,夜中に届いていた質問メールに返信する:「[Q]: Can you help me to locate information about evolutionary ideas in the 18th and 19th century in Japan?」という質問が,基礎生物学研究所経由でコロラド大学から丸投げされてきた.ここのところ,こういうことにアタマを使っていなかったなあ.江戸時代の日本での“進化思想”ですかあ.後知恵的に考えて「あの人の論は実は“進化的”だった」というのはいくつかあるのだけれど,そういう論法を無制限に広げていいわけがない.意外に答えにくい問題かもしれない.とりあえず,「鎖国していた日本では,限られた学問的交流しか許されていなかったので,“進化思想”に類する思潮は育たなかったのではないか」というような返事を書いて返信した.

たとえば,西村三郎の大著『文明のなかの博物学:西欧と日本(上・下)』(1999年8月31日刊行,紀伊國屋書店,ISBN:4-314-00850-4 / ISBN:4-314-00851-2→書評)とか,上野益三『日本博物学史』(1989年1月10日刊行,講談社[学術文庫859],ISBN:4-06-158859-1)など,日本の「博物学」の歴史を論じた本は何冊かある.一方,日本の「進化学」の歴史というと,やはり明治になってからという舞台設定がふつうで,江戸時代(あるいはそれ以前)にまでさかのぼってということにはなりにくい.

例外的に,ピーター・J・ボウラー『進化思想の歴史(上・下)』(1987年8月20日刊行,朝日選書335/336,ISBN:4-02-259435-7 / ISBN:4-02-259436-5)の上巻末に載っている,八杉龍一の「日本の思想史における進化論 —— ボウラー『進化思想の歴史』の訳書に寄せて」という論考(pp. I-XX),あるいはそれに先立つ彼の著書:八杉龍一『生命論と進化思想』(1984年8月10日刊行,岩波書店[科学ライブラリー],ISBN:4-00-005561-5)には,江戸時代の石門心学者・鎌田柳泓(1754〜1821)の名が“ジャパニーズ進化学先駆者”として挙っている.

◇午後1時20分から,〈Zar統計学本〉セミナー(第32回) —— Chapter 19. Simple Linear Correlation (pp. 390-398).相関係数に関する解説の続き.相関係数の差に関する多重比較の補正法について.次いで,ノンパラメトリック法に入り,Spearman のランク相関法の説明.Kendall のランク相関法と比較すると,Spearman の方が「ちょっとだけいい」と書かれている.午後2時20分まで.

◇これまで書評の公開に使ってきたページは,来年からは〈leeswijzer〉に完全移行することにした.※別々に同じ内容をつくるのは手間がかかるので.これに伴い,〈leeswijzer〉への項目追加は,その都度〈What's new〉でアナウンスすることにした.

◇午後の督促(汗) —— 合間に諸方面から“原稿年貢”の取り立てとか,“報告書査察”の予告とか…….

◇もう真っ暗な午後6時の気温は1.8度.明朝も冷えるにちがいない.

◇夜,暖かくごろごろする —— Hans Kruuk『Niko's Nature : A Life of Niko Tinbergen and His Science of Animal Behaviour』(2003年11月13日刊行,Oxford University Press,ISBN:0-19-851558-8)のつまみ読み.ティンバーゲン自身によるイラストに引き込まれて,「絵」の周辺だけ見回す.読了(たまにはこういうだらしない読み方も許してもらおう).

ドイツがオランダを占領した第二次世界大戦のときには,ティンバーゲン(むしろ“ティンベルヘン”と読まないといけないか)一家は収容所に送られたという.根っからのバードウォッチャーにしてアスリートだった彼は,収容所の中で動物行動学の教科書『Inleiding tot de diersociologie(動物社会学序論)』を書いたという.コンラート・ローレンツが同時期のソヴィエト抑留中に比較動物心理学の『The Russian Manuscript』(→書評)を書いたのと同じ状況にティンバーゲンも置かれていたのだろう.

伝記著者 Hans Kruuk は末尾の段落で,ティンバーゲンのもう一つの性格についてこう書いている:

There was also the humanity of his small vulnerability, the black depressions, his Dutchness, with the pleasant, slight accent, and his Calvinistic judgements.(p. 345)

ティンバーゲンの“オランダ・ルーツ”はいつまでも残っていたということだ.

◇本日の総歩数=4687歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.3kg/−0.2%.


19 december 2005(月) ※ 身にしみる氷点下

◇午前5時半完全起床.晴れ上がる.昨日の湿度は関東で10%台だったそうだ.空中水分がまったくないので,霜すら降りない.気温マイナス2.9度.冬至の週は,夜明け前の朝焼けが映える.ベランダのカメ水槽の氷は5ミリ厚.

◇昨日読了した野中健一『民族昆虫学:昆虫食の自然誌』(2005年11月16日刊行,東京大学出版会,ISBN:4-13-060185-7→目次)の書評を公開して(夜中),メーリングリストにも流す(今朝).

◇新刊メモ —— 翻訳が待たれていたジャレド・ダイアモンド『文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの』(上・下,2005年12月刊行,草思社,ISBN:4-7942-1464-2 [上] / ISBN:4-7942-1465-0 [下])がオンライン書店で販売がはじまっている.上下巻を合わせると900ページほどの分量になるらしい.即注文.

◇冬晴れの昼休みは北風がとても強く,気温6.1度.矢部智子・今井京助他『ブックカフェものがたり』(2005年12月15日刊行,幻戯書房,ISBN:4-901998-15-3)を手に歩きだしたもの,弱気にも半時間ほどで退却する.この本に,千駄木の〈ふるほん結構人ミルクホール〉が載っているとは知らなんだー.確かに「隠れ家」だ.※とんでもねえロケーションにある店だから(千駄木の裏道を知ってないと迷うって).

◇13時過ぎから,Alan Stuart and Keith Ord『Kendall's Advanced Theory of Statistics, Volume 1: Distribution Theory』(6th edition,1994年,Edward Arnold,ISBN:0-340-61430-7)の輪読第8回目.Chapter 3:「Moments and Cumulants」の続き(pp. 80-84).積率母関数(mgf)と特性関数(cf)の導入.もう少し“準備体操”をちゃんとしておかないと,ギシギシいいそう.続いて,絶対モーメントと階乗モーメントの定義.

◇夕方,石丸電機で浄水器カートリッジを買って帰宅.夜はひたすら翻訳…….ううむ.(先はものすごく長いぞ.)

◇本日の総歩数=11431歩[うち「しっかり歩数」=4818歩/41分].全コース×|×.朝△|昼○|夜×.前回比=+0.5kg/+0.6%.


18 december 2005(日) ※ 木枯らし吹き荒れる日曜日

◇午前5時起床.夜中じゅう,北風が強かった.そのせいで,朝起きて外に出ると,そこら一面,落枝・落葉の海.最低気温は0.2度.昨日が暖かめだったので,まだ下がりきっていないようだ.しかし,今日の予想最高気温は5度前後とのこと.明朝はさらに凍えるにちがいない.

◇冷たい木枯らしが吹いているだけではなく,空気がからからに乾いて,土ホコリやら砂粒やらがもうもうと舞い上がっている.これはとても外出できるような状況ではない.すべての窓をぴたぴたと締め切って,ひたすら読書に励もう.そうしよう.※ほかにする[べき]ことは多々あるのですが…….

◇というわけで,野中健一『民族昆虫学:昆虫食の自然誌』(2005年11月16日刊行,東京大学出版会,ISBN:4-13-060185-7→詳細目次)をバババっと読了.200ページほどの分量なので,“里山ハイキング”程度のあっさり感.しかし,内容的にはとてもおもしろく,「食慾好奇心トツゲキ本」ではけっしてない.認識人類学的では必ずしもないが,正しく民族生物学的な本だ.

序論で「自然と人間との関わりの広がりと深まり」(p. ii)について論じることを宣言した著者は,第1章「民族昆虫学の視点と方法」で,それぞれの地域ごとにローカルに成立する在来知識システム(indigenous knowledge system)としての「民族昆虫学」のヴィジョンを読者に示す:

さまざまな人間と昆虫との関わりは,経験的・歴史的に構築されたものであり,環境の特質を反映して築き上げられたものである.その知識と活動の様式の合わさったものが「在来の知識」「民族知識」などと称される「インディジニアス・ノレッジ(indegenous knowledge)」もしくは「インディジニアス・ノレッジ・システム」と見なされる.(p. 6)

著者は,本書の中心的テーマである民族昆虫学を足がかりにして,人間と自然との関わりに対するもうひとつの視座を提示しようとしている:

これによって,昆虫そのもの,人間-昆虫という閉鎖系から,人間-自然関係の議論へと進めていくことができる.これを民族昆虫学の目指すべき目標として掲げたい.(p. 17)

著者はこの目標を掲げつつ,自らのフィールドワークで得た知見について,続く第2章「アフリカ」,第3章「東南アジア」,そして第4章「日本」で論議を展開していく.具体的知見を積み重ねるこれらの章は,単に個別の知見を積むだけではなく,著者の言う民族昆虫学的な「柱」に沿って整列されている.地球上のまったく異なる地域のそれぞれで定着した,人間と昆虫との「馴染み(familiality)」(pp. 41, 180)のようすが語られている.“虫を食べる”という食習慣は単に栄養摂取の点からのみ考えるのは一面的であり,むしろ文化的な嗜好の点からも考察すべきだという著者の主張は説得的だ.(もちろん,たとえば,特別に臭いのきついタガメを好んで料理の香辛料に使うという東南アジアの食文化は,個人的にはすぐになじめるものではないが,それは別の問題.)

第2章「アフリカ−−民族の生活と昆虫」では,南アフリカの昆虫食を題材としている.昆虫という主食ならざる“周辺的食材”が,かの地の食文化の“豊かさ”を可能にしていると著者は言う.第3章「東南アジア−−多様性を利用する」でもまた,昆虫食がこの地域の食文化のレパートリーを増やしていると指摘する.とくに,サゴヤシに食い入るオサゾウムシの幼虫(サゴムシ)をめぐる詳論(料理方法や食味評価)が印象的だ.人間と昆虫との結びつきの諸相がこれらの章から読み取れる.

日本の民族昆虫学を論じた第4章「日本−−地域の生活との結びつき」はとりわけ関心を惹く.まずはじめに,雑誌『昆虫世界』を主宰した名和靖が民族昆虫学の先駆者として再評価されている.というのも,昆虫をめぐる民間の見聞を蒐集した彼の活動を振り返ると:

このような現場からの情報発信ができていたことは,昆虫の分類など基礎科学分野において非職業的研究家に多くを背負っている日本文化の跛行性を示しているという見方(小西,1990)にもつながる.すなわち在野の人々の関心と実践から知識がつくられることが,日本の昆虫学の伝統の礎であったといえる.(p. 135)

というこれまでも繰り返し指摘されてきた点であり,さらにうがってみると:

このような『昆虫世界』誌の視点と実践からなる特徴は,1980年代以降,生物多様性の保全と地域開発における地域住民の尊重をベースとして世界的に注目されるようになったインディジニアス・ノレッジ論のそれと同一である.(p. 135)

という文脈に位置づけられるからであると著者は結論する.この見解はとても新鮮に感じられた.

この章の後半では,信州におけるクロスズメバチとオオスズメバチの食文化に関する各論が続く.とても「怖い」が,なんだかおいしそうな気がする.

総括的な第5章「ナチュラルヒストリーとしての民族昆虫学」では,昆虫食を,単に食料エネルギーとしてとらえるのではなく,地域に根ざした食文化の中で理解することが重要だという論が改めて提起される.とりわけ重要な点は,人間と昆虫,あるいはもっと一般的に人間と自然とのあいだに成立する「関係性」にあると著者は考えている:

民族昆虫学では,人間と昆虫との関わりは,昆虫と人間という二項対立的な見方でとらえるのではなく,関わり合いを生み出す自然環境・社会環境と実際に関わり合いをもつ人々の意志や都合という状況に応じた,自然と人間活動の相互関連からなる総合的なものであることに注目することが必要である.人間と自然との関係性をとらえる視点に重点をおき,現実の「自然に」生きる人々の知識・生活の場を明らかにすることによって,日常生活における人間-昆虫関係を具体的に明らかにすることができよう.(p. 185)

ethnobiology(そして folk biology)に基礎づけられたこのような論議は,ぼくにはとてもなじみやすく感じられる.

◇所内の御用納め(28日)の会の通知がまわってきた.そろそろ今年も“ジ・エンド”に近づきつつあるのだが,残務はちーとも終わらない.原稿・翻訳・報告書・成績検討会などなど,ずらっと列挙してみても,ため息あるのみ.

◇夜になって北風は止んだようだ.関西は平地でもだいぶ雪が降ったらしい.関東はただ乾いて寒いだけ —— よそ見するティンバーゲン伝:Hans Kruuk『Niko's Nature : A Life of Niko Tinbergen and His Science of Animal Behaviour』(2003年11月13日刊行,Oxford University Press,ISBN:0-19-851558-8).前半生は“オランダ”一色(当たり前か).弟子である伝記著者も同国出身だから,そのへんのことはきっちりたどられているだろう.全編にわたって,ティンバーゲンによる鳥のイラストとか写真があしらわれている.ほのぼのとして.

◇本日の総歩数=2053歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=−0.3kg/+0.3%.※ほとんど歩行停止状態.


17 december 2005(土) ※ 今年は〈TX'mas〉か

◇午前5時半に目覚めるものの,ぬくぬくと6時過ぎまで.やはりすでに「冬眠」しつつあるのかも.

◇昨日書いたポーラ・フィンドレン『自然の占有:ミュージアム,蒐集,そして初期近代イタリアの科学文化』(2005年11月15日刊行,ありな書房,ISBN:4-7566-0588-5)の書評をメーリングリスト送りとする.

◇午後,年末カレーづくりのための香辛料などの買い出し.とても寒くて,風も冷たいので,動きがのろくなる.

◇野中健一『民族昆虫学:昆虫食の自然誌』(2005年11月16日刊行,東京大学出版会,ISBN:4-13-060185-7→目次(章のみ))を読み始める.単に「蟲を喰う本」ではなかった.“ethnoentomology”と銘打つだけの意気込みが感じられる.「人間-自然関係」を民族生物学として考察しようという本.※ナチュラル・ヒストリー・シリーズにはこの手の本が率として高い.

◇来年度の京大・霊長研での集中講義(10月予定)は系統推定論です.

◇やっぱりアクティヴィティーが下がっているのは確かだ.夜になってさらに気温が低下し,ほぼ活動が停止する.

◇明日はこの冬一番の寒波がくるとのこと.

◇本日の総歩数=5443歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.2kg/−0.6%.


16 december 2005(金) ※ うう……

◇はっと目覚める午前7時(げー).しっかりすっかり寝過ごしてしまった…….よろよろと起きてみる.完全復活には時間がかかりそうだ.

◇酔い覚ましの新刊メモ —— 南方熊楠『南方熊楠英文論考 〈ネイチャー〉誌篇』(2005年12月15日刊行,集英社,ISBN:4-08-781332-0).ほほー./ 原島広至『臓単(語源から覚える解剖学英単語集[内臓編])』(2005年11月刊行,エヌ・ティー・エス,ISBN:4-86043-095-6).『肉単』(ISBN:4-86043-060-3),『骨単』(ISBN:4-86043-050-6),『脳単』(ISBN:4-86043-075-1)に続く第4弾!

◇しだいに目が覚めてきた昼下がり.

◇書評の断り —— 某誌から書評の依頼メールが届いた.年明け早々の締切ということだ.しかし,この年末年始は,アノ翻訳やらソノ年貢やらで,原稿仕事はすでにオーバーフローしてしまっている.だもんで,初めてのことだが,書評執筆依頼を断ってしまった.申し訳ない申し訳ない.次回はきっとお引き受けいたします.>日経サイエンス社さま.

◇おお —— 舟尾暢男『データ解析環境R』(2005年12月16日刊行予定,工学社[I/O Books],ISBN:不明).いやもう何と言うか次々と.

◇午後のこまごま —— 組合関連:次期の農環研組織体制に関わる意見集約に答える.若手育成と研究単位のことについて./ JST報告書のための素材が集まりはじめた.pdf化して束ねる作業は間近./ 進化学会事務局から来年度の「日本国際賞」についての郵便物あり.学会として広報してほしいという依頼.

◇夜,京大・霊長類研究所の遠藤秀紀さんから,来年度の非常勤出講に関する打診メールが届く.15時間の枠とのこと.イエスの返事をする.講義内容に関してはこれから方向づけましょう.系統推定論/生物学哲学/形態測定学/生物統計学のいずれか,あるいはミックスということになるかな.

◇さらに夜遅く,ポーラ・フィンドレン『自然の占有:ミュージアム,蒐集,そして初期近代イタリアの科学文化』(2005年11月15日刊行,ありな書房,ISBN:4-7566-0588-5→目次)の書評を書き上げる.こういう大著はそれなりの充実感(「満腹感」)をあとに残す.まだ手にしていない人はすぐ図書館に走るべし.うまい料理は喰ってみないとわからない(グルメ記事をいくら読んでもダメ).書評は明日公開(→しました).

◇この週末は大寒波がやってくるらしい.早朝の研究所に潜入するのは危険かな.

◇本日の総歩数=3464歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼−|夜△.前回比=+0.4kg/+1.9%.


15 december 2005(木) ※ 西空に沈む明け方の満月

◇午前5時半起床.晴れ上がる.車中の気温はー7度ほど.寒いなんちゅうもんやないですなあ.

◇前夜からのあがき —— 翻訳は“苦役”です.懲役刑みたいなもんです.ましてや,締切があったりすると,そらもうワヤです.ひー.

◇午前10時から,次期中期計画に関わる組織体制に関する全所説明会が2階講堂で開催される.1時間あまり.基本線(総論)はいいとして,実際に組織が変わって,「人」や「モノ」が現実に動き始めるとなるといろいろ問題が生じる.

◇郵送いろいろ —— 統計研修テキスト一式を千葉へ./「蕎麦」本を大阪へ./ その他の郵便物など.

◇冬晴れ昼休みの歩き読み —— スティーヴン・ジェイ・グールド『マラケシュの贋化石:進化論の回廊をさまよう科学者たち』(2005年11月30日刊行,早川書房,ISBN:4-15-208685-8 [上巻] →目次/ ISBN:4-15-208686-6 [下巻] ).下巻を読了.第20〜23章.第6部〈あらゆる縮尺での進化〉は正統的な進化エッセイの集まり.とくに,第22章「見えるのに使えないという逆説」は,evolution in action のいい味のエッセイになっていると思う.個人的には,第20章「とにかく害をなさぬこと」に登場する J. B. S. ホールデンの毒ガス推奨本『カリニコス』が気になったが.

—— ときどき味わえるグールド本も残すところ数冊か…….『I Have Landed : The End of a Beginning in Natural History』(2002年刊行,Harmony Books,ISBN:0-609-60143-1)も渡辺さんが訳すことになるらしい(もちろん『SET』も).

◇午後1時40分から,〈系統学的考古学〉セミナー(第27回).Chapter 6. Trees and Clades(pp. 168-180)の続き.鏃のテストデータを使いながら,タクソンの削除が樹形にどのような影響を及ぼすかの評価をする(delete-one jackknifeみたいなもの).先週と同じく,PAUP* / MacClade を用いたデモ.さらに,合意樹の計算についての解説も.2時半まで.

◇今日は夕方からグループ内の忘年会.場所は,土浦学園線沿いの〈天龍本店〉.※たまには忘年会もいいっしょ.

—— と,自ら“免罪符”を早々と発行してしまったので,めっちゃ呑みました…….〈天龍本店〉から〈どやどや〉に流れ,気がついたらもう11時過ぎ.暗い裏道をへろへろと歩いて帰り,そのまま沈没.※けっきょく,赤ワインを1本半と冷酒を2合ほど(呑み過ぎっ).

◇本日の総歩数=10379歩[うち「しっかり歩数」=5451歩/47分].全コース×|×.朝○|昼−|夜×.前回比=−0.1kg/−1.4%.


14 december 2005(水) ※ カメも凍る水曜日

◇午前5時起床.昨夜は日が変わらないうちに寝たので,寝起きとてもよし.それにしても寒い.ベランダのカメが5年ほど住んでいる水槽も今朝は凍りついた.前夜,車にセットした温度計は「氷点下9度」を指している.

◇早朝のこまごま —— ソーバー訳本の発送(完了)./ 中尾佐助・月報の発送(完了).“旭会館サバイバル”を読まれて,仲町の〈謝藍〉を紹介していただいた(>F越さん,感謝).これで,厳冬の松本生活も大丈夫か.でも,御供物の「柿の種」は必需品でしょ,やっぱし./ またまた,メーリングリストの手入れ.

〈Tree-Thinking Quizzes〉 —— 系統樹思考法の普及と教育を進めている〈Tree Thinking Group〉から,つい最近「Tree Thinking Quizzes」というオンライン資料が公開された(→ここ).これは同グループが先月の Science 誌(11 Novemver 2005)に掲載した記事:

David A. Baum, Stacey DeWitt Smith, Samuel S. S. Donovan 2005.
EVOLUTION: The Tree-Thinking Challenge.
Science, 310(5750) : 979-980 (11 November 2005).

に添付されたオンライン資料「Tree-Thinking Quizzes I and II」だ.pdfで5.6MBもあるが,一読するとけっこうおもしろくて,系統学の講義資料あるいはテストの素材として活用できるように思う.

—— こういう教材がいろいろと出回るようになると,系統樹思考法の,というか系統樹という図的言語の「識字率」が目に見えてアップすると思う.系統樹はいくらたくさん推定されるようになっても,それだけではダメで,ちゃんと「木が読める人」が増えていかないと土台が心もとない.

◇これからつくり始める JST 報告書の全体像をイメージする.基本的には,これまでの2年間に手がけたフォーラム報告書とワークショップ報告書に準じてつくればいい.今回は2回の研究会でのプレゼン資料を中心にまとめるので,あとは“のりしろ”となる総括文を挟んでいけばいいということなのだが……(汗).

◇冬晴れ昼休み.気温8度.歩き読むグールド(続) —— スティーヴン・ジェイ・グールド『マラケシュの贋化石:進化論の回廊をさまよう科学者たち』(2005年11月30日刊行,早川書房,ISBN:4-15-208685-8 [上巻] →目次/ ISBN:4-15-208686-6 [下巻] ).第10〜19章まで.120ページほど.第4部〈すばらしさの意味とそのありかをめぐる六つの掌編〉は,物故した人物小伝.カール・セーガンはグールドのとっての“同志”みたいな存在だったのだろう.第5部〈科学と社会〉は一転して,闘士が戻ってくる.第19章で取り上げられているフランク・サロウェイの本『Born to Rebel』(『反逆児に生まれる』)に対する「二律背反的」な評価スタイルはグールドにしては珍しいのではないか.人間の家族内での“出生順序”が決定的意味をもつと主張するサロウェイの本について,グールドは,その内容を全体として肯定的に評価しているが,いかんせん出版する時期が遅すぎたと言う.

◇備忘メモ —— 矢部智子・今井京助他『ブックカフェものがたり』(2005年12月15日刊行,幻戯書房,ISBN:4-901998-15-3)に「公式ブログ」があることを今日知った.※〈[書評]のメルマガ〉からの情報(vol. 241,9/Dec/05).

◇夕刻,別宅にて4時間ほど引き蘢り —— ポーラ・フィンドレン『自然の占有:ミュージアム,蒐集,そして初期近代イタリアの科学文化』(2005年11月15日刊行,ありな書房,ISBN:4-7566-0588-5→目次)を読む.第3部〈交換の経済学〉の残る第8章「学芸庇護者,宮廷仲介者,そして戦略」とエピローグ「古いものと新しいもの」を読了.90ページほど.これにて本文6ページあまりの登攀を終える.

第8章は,本書が主たる舞台として設定している16〜17世紀のイタリアにおけるミュージアム主宰者(“クライアント”)がどのようにして当時の宮廷文化人(“パトロン”)の関心を惹き,さらにそこに介在した仲介者(“ブローカー”)との間で錯綜した社会的関係を形成するにいたったかを詳細に論じている.本書の中でもとりわけ興味深い章だ.蒐集家や博物学者が当時の社会の中での自らのアイデンティティを確立するための努力は実に涙ぐましいものがあった:

博物学者たちは,著作を刊行し,ミュージアムを寄贈することによって,時のもたらす破壊から身を守ろうと企てたのである.蒐集家も学芸庇護者【パトロン】も,社会の最前線に立とうと努力しているにもかかわらず,やがては忘却の淵に沈み,そして最終的には,この社会の,才能にも地位にも恵まれなかった者たちと同じ運命を分かちあうことになるのではないかという恐怖を抱いていた.蒐集家たちは,政治的制度としての宮廷が徐々にその権力を増大させることによって育んできた,競合する文化交換システムに身を投じつつ,自らの社会的地位を上昇させるための手段として,ミュージアムと博物学という学問分野の価値を高めたのである.(p. 534)

しかし,彼らの努力も,その後に続く18世紀の啓蒙主義思想の擡頭とともに無に帰したと著者はエピローグで指摘する:

一六八〇年にキルヒャーが没して一世紀も経たないうちに,新しい世代の学者たちが,自然の百科全書という人文主義的な前提もろとも,この知識を包摂していたミュージアムを無効にしたのである.(p. 607)

さらに重要なことは,この歴史の転換点において,博物学史の「歴史認識」が変わったことだという主張に注目しよう:

啓蒙主義の哲学者たちは,先行者たちに好意的ではなかった.自然を理解しようとする先の世代の努力を,自己正当化した優越感からくる謙遜の感覚で回顧しながら,一八世紀の博物学者たちは,その学問の正史を書き換えてしまったのである.彼らにとって博物学という科学は,一八世紀になるまで存在しておらず,そのときかつての珍品奇物のキャビネットは,高度にベーコン主義的目的をもち,分類法と分類学についての議論に基づいて組織された博物学のミュージアムにとってかわられたのである.(pp. 609-609)

単に“事物を蒐集する”というだけではなく,“体系学的方法論”への関心の高まりが,同じ「ミュージアム」という言葉によって指されているものの内実(外装か?)をすっかり別物にしてしまったという点は,ミュージアム史の歴史がけっして一筋縄ではくくれないという本書全体のテーマにもつながる総括的メッセージだ.

—— 本書全体を通じて,主役を演じるのはウリッセ・アルドロヴァンディやアタナシウス・キルヒャーという“怪人”たちである.おびただしい数の怪しげな図版が載っていて,ぼくにはとても楽しい本だったが,準備体操をしていない読者にはつらいものがあるかもしれない(もちろん,それなりの覚悟がなければ本書を手にすることはもともとないだろうが).

本書の末尾には,原註と引用文献が120ページも続くが,この薮こぎは相当つらいかもしれない.訳者による「解説:『自然の占有』の位置づけ」は,科学史叙述の立場の違い(internalist / externalist)と絡めつつ,本書の意義を論じていて鳥瞰するのに役に立つ(わざわざ“strong programme”に言及する必要はなかったと思うけど).

◇本日の総歩数=14686歩[うち「しっかり歩数」=6723歩/56分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.3kg/+1.0%.


13 december 2005(火) ※ ますます冷え込む

◇午前5時起床.フロントガラスには霜のマーブル模様.氷点下.東の空は見事な朝焼け.研究室にて昨日の残務処理数件.「石川統先生を偲ぶ会」は12月26日とのこと(神田・学士会館).ただ,この日は別件の用事が入っているので,ぼくはダメだけど.

◇朝のこまごま —— 滋賀県から先月の統計研修の所内報告内容に関する質問あり.「“曼荼羅”を掲げるべし」と指令を下す.(がんばってください)/ 東大OBへの依頼:学生の就職活動のための情報提供に対応./ 石川さんを偲ぶ会に欠席の返事を出す.

◇北大出版会から〈中尾佐助著作集5:分類の発想〉の「月報」だけが束になって送られてくる.月報配りの日々がはじまるか.※欲しい方はご連絡ください.

◇北風の中の歩き読み —— スティーヴン・ジェイ・グールド『マラケシュの贋化石:進化論の回廊をさまよう科学者たち』(2005年11月30日刊行,早川書房,ISBN:4-15-208685-8 [上巻] →目次/ ISBN:4-15-208686-6 [下巻] )の下巻に進む.風が冷たいのでページがよくめくれない.それでも,第3部〈ダーウィンの世紀と現代:ヴィクトリア朝英国の四大ナチュラリストに学ぶ教訓(承前)〉の第8〜9章を読む.ダーウィンとオーウェン.50ページほど.

◇午後1時過ぎから,〈Zar統計学本〉セミナー(第31回) —— Chapter 19. Simple Linear Correlation (pp. 377-389).相関係数に関する解説.2変量正規分布のもとでの Fisher z 変換の導出は当然スキップされている.きちんと追うのはつらいのだろうなあ(Kendall & Stuart の“聖書”を横目に).相関係数に関する信頼区間,検定,標本数の設定など.午後2時過ぎまで.

◇昼下がりの組織体制(案) —— 次期中期計画のための新しい「組織づくり」がすでに始まっている.15日には全所説明会も開催される.自分の居場所,居場所〜(どことも同じです).

◇極悪「越中屋」からヨコ流ししてもらった御禁制品が入荷したと思ったら,さっそく公費で購入したいとの依頼あり.

◇午後のこまごま —— 本日〈BIOMETRY〉の通算登録者数が900名に達した.会員への報告,ならびに関連するメーリングリスト事務作業をば./ 信州大学の来年度の集中講義(生物統計学)を15時間→30時間に増やしてほしいとの依頼あり.旭会館での厳冬サバイバル生活が長くなるぞー.

◇Systematic Biology 誌の最新号(vol. 54, no. 5, October 2005)が届いた.このジャーナルのように専属の表紙デザイナーがいると,媒体としてのアピール度が高まるなあ.こわいのは表紙だけではなく,中身も極度にアピール度が高いということ.今号のコレ:

Matthew H. Haber 2005. On probability and systematics: Possibility, probability, and phylogenetic inference. Systematic Biology, 54(5): 831-841.

系統推定における確率概念の再検討.いわゆる「確率概念の哲学」の立場から,系統樹における“確率”とは何かを論じたもの.頻度概念ではもうやっていけないとしても,主観的確率をもちこんだときのさまざまな「帰結」をどう処理するつもりなのか,という問題がなお残る.

◇夕方からさらに寒さが厳しくなり,体調よろしからず.喰うもん喰って寝るにかぎる.※どうぶつ並み.

◇本日の総歩数=11366歩[うち「しっかり歩数」=4493歩/37分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.1kg/−1.1%.


12 december 2005(月) ※ またまた東京出奔日

◇午前5時起床.うう,さぶ…….研究室に行く.ここ数日は全般的に“真冬”な空模様だ.静電気飛びまくる.今日は東京へまたしても出奔する.

◇午後10時前に TX に乗り,11時すこし過ぎに本郷にたどり着く.東大構内の銀杏もそろそろ終わり時か.久しぶりの正門前〈ルオー〉にて,2時間ほど原稿を書きまくる.よくよく考えてみると,この何ヶ月かというもの,新書の原稿は喫茶店でしか書いていない気がする.方々の〈スターバックス〉はもちろん,〈イノダコーヒー〉,〈進々堂〉,〈ルオー〉,〈さぼうる〉,〈しっぽな〉,〈なかやま〉などなど,それだけでも十分に「原稿がよく書ける全国喫茶店ガイド」がつくれそうだ.

—— 正午過ぎに“お代官さま”がやってきたので,さらに1時間あまり勤労し,今日の“原稿年貢”を恭しく納める.系統樹の最適化基準(最節約,最尤,ベイズなど)を比較する1節をこなせば,これでやっと最終章に移れそう.年内には全部のケリをつけたいなあ.※新書で年越しはイヤやー.

◇「草履は草履屋」 —— 少し時間があったので,神田へ直行.先日,目を付けておいた小川町の「草履問屋・山内商店」を訪ね,来年用の草履を選ぶ.さすが神田祭の地元の店らしく,下駄や草履の品揃えがとても豊富だ.藁編みの手頃なのを選んだところ,店主がしきりに“試着”を勧める.言われるまま履いてみたところ,LLではダメで,ひとまわり小さい L を勧められた.草履はかかとが1センチほどはみ出すのが適切なサイズだそうな.年配の店主の「だから,雨のは外は歩けないねえ」と正しい神田ことばを聞いて感激してしまった.ぺったんぺったん歩くのは粋じゃないそうで,すりっすりっというのが極意だとか.「関取の歩き方をマネするといい」って,わたしゃ力士じゃないってば!(ぷんぷん)

◇その後,東京堂書店と書肆アクセスをさらっと巡回する.ジャレド・ダイヤモンド『文明崩壊』がそろそろ店頭に並ぶかとここのところリアル書店の新刊コーナーを気をつけて見ているのだが,まだのようだ.代償的お買い上げ —— 和田哲哉『文房具を楽しく使う[筆記具編]』(2005年11月15日刊行,早川書房,ISBN:4-15-208622-X).前編の[ノート・手帳編]はイマイチ食指が動かなかったのだが,[筆記具編]となると話は別.ぱらぱら見たかぎり,シャープペンシルの「芯の太さ」談義がおもしろい.ぼくは小学生の頃から速記をしていたので,「0.9ミリ芯」がデフォルトで,「0.7ミリ芯」はかろうじて許容範囲.それより細いのは物理的に使えない.今よくなじんで使っているのは Faber Castell の「1.4ミリ芯」だ.書きなぐり用?の「6ミリ芯」のシャープペンシルというのもあるが,日常的にはあまり出番はない.とまあ,文房具話はとかくキリがないものだ./ 矢部智子・今井京助他『ブックカフェものがたり』(2005年12月15日刊行,幻戯書房,ISBN:4-901998-15-3).“幻戯書房”といえば“森鴎外”,じゃなくって,こんな本も出してたんだ.個人的には「ブックカフェ」じゃなくって「執筆カフェ」がほしいところ.

◇午後3時前に湯島に舞い戻る.湯島天神の上にある〈メディ・イシュ〉社の会議室にて,生物科学学会連合(生科連)の第15回連絡会議.病に伏している「はず」の進化学会幹事長の代理ということで初めての出席.いろいろな経緯があっていまに至っている学会連合なわけね.加藤憲二さんや大隅典子さんにご挨拶.遅れてきた浅島誠さんの話では,日本学術会議の新体制に対応すべく基礎生物学分野の学会も「声」を結集していく必要があるだろうとのこと.来期の運営体制のことなど,いろいろと.午後5時過ぎまで.

◇上野御徒町から新御徒町へ.TXに乗り換え,つくばに着いたのは午後6時半のこと.寒い寒い.

◇往復車中読書 —— 野口英司(編)『インターネット図書館 青空文庫』(2005年11月15日刊行,はる書房,ISBN:4-89984-072-1).読了.最終章の著作権保護期間延長に対する反論は考えさせられる.それ以前に,〈青空文庫〉の活動をめぐっては,商業出版の側からのさまざまな応答があったようなことがこの本には書かれている.そういう対外的な「顔」はもちろんだが,実際に著作権が切れた作品の入力や校正に携わった“工作員”たちの声(第2章)がおもしろい.いろいろな考えや期待するものがあって〈青空文庫〉に関わってきた人たちが多いことを知った.電子読書ソフトとしてのエキスパンドブックの登場と退場は,〈青空文庫〉もまた年齢を重ねてきた証しを象徴するできごとだと思う.T-Time や azur など電子読書を支援する新しいツールが次の世代を担っていくのだろう.

◇本日の総歩数=14112歩[うち「しっかり歩数」=3600歩/33分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=+0.1kg/+0.7%.


11 december 2005(日) ※ 終日,別宅に引き蘢る

◇午前5時起床.まだ寝足りない感じが残る.外は晴れてやや寒い.少しだけ霜.朝のあっしー君になる.午前9時前には別宅に到着.本とパソコンを持ち込み,そのまま引き蘢る.

途中,ふらふらと竹園やつくばセンターあたりをつい徘徊してしまったが,反省して再び引き蘢る.

◇日中,雲が多く,日射しなし.気温も低め.もちろん10度に達してはいないだろう.

◇注目新刊メモ —— 松永俊男『ダーウィン前夜の進化論争』(2005年12月刊行,名古屋大学出版会,ISBN:4-8158-0529-6→版元ページ).匿名本『創造の自然誌の痕跡』(1844)で知識社会の話題をさらった Robert Chambers の“進化論”をめぐる当時のイングランドおよびスコットランドでの論争.先日も朝日新聞で報道されていたが,文系理系を問わず,名古屋大学出版会からは「これは!」というおもしろい本が次々と出ている.たいしたものだと思う.なお,Chambers の復刻は10年前にシカゴ大学出版局から出されている:Robert Chambers『Vestiges of the natural history of creation and othe evolutionary wrightings』(1994年刊行,University of Chicago Press).『痕跡』を含む著書ならびに関連著作を含む700ページもある大部な本./ 佐藤俊哉『宇宙怪人しまりす 医療統計を学ぶ』(2005年12月6日刊行,岩波書店[岩波科学ライブラリー114],ISBN:4-00-007454-7).あの“私家版”『宇宙怪人しまりす 生物統計を学ぶ』(豪華愛蔵版,2003年)がついに岩波から出されることになったわけですね./ 松本直子『縄文のムラと社会』(2005年11月29日刊行,岩波書店,ISBN:4-00-006788-5).シリーズ〈先史日本を復元する〉の第2巻(最終配本)だそうだ.今回の新刊ではどれくらい“認知考古学”されてます?

◇早い夕暮れの中を,ピーターパン→友朋堂吾妻店とうろうろする.その後,別宅に引き蘢る.十日もすればもう冬至だ.

◇実物を手にする —— 野口英司(編)『インターネット図書館 青空文庫』(2005年11月15日刊行,はる書房,ISBN:4-89984-072-1).〈青空文庫〉の本.付属DVD-ROMには9月までに登録された4843作品が入っている.久しぶりに〈azur〉で読んでみようかな.ここのところ,電子本よりは“紙”本を読む時間の方がはるかにはるかに長いので.

◇夜,とある頼まれ書類の作成.自宅のプリンターが“凍死”していた.合掌.

◇明日は,湯島で会議のため,朝から東京にプチ外出(兼:出家原稿書き).※農環研に「実在」している時間はときどき極小になる.空を飛んでいるわけではないが,地上で行方知れずになっていることはよくある.

◇本日の総歩数=8110歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.9kg/−1.1%.


10 december 2005(土) ※ 連続登攀終了,広尾で一服

◇前夜からそのままアタッカで夜中の作業は続く.生体リズム的には,午前1〜3時が「試練の時」で,この時間帯さえクリアできれば何とかなる.当然のごとく,研究室は大音量でのショスタコーヴィッチ交響曲連続BGMタイムと化す.地獄のレニングラード攻防戦とか,疑似マーラー節とか,すっとぼけなウィリアム・テル主題とか.結局,一晩で交響曲 1, 4, 7, 8, 10, 15 番と聴き続けたことになる.※クラくて長〜いショスタコーヴィチが聴きたければ,本当は交響曲11〜14番に限ると個人的には思うのだが,夜中にふさわしい曲ではない(気が滅入るから).

—— ということで,明け方ようやく,朝日カルチャーセンター最終回高座のプレゼン用pdfを出力し,ハンドアウトも人数分を印刷した.午前6時にいったん帰宅.1時間ほど寝て,朝風呂をすませてから,午前8時28分のいつもの TX 快速に乗車.遅延なく,午前9時半過ぎに都庁前プラットホームに降り立つ.アートコーヒーで朝食をすませてから,住友ビルに登頂.今日は快晴で,摩天楼という古い言葉がふさわしい.

◇午前10時半の定刻に講座の開始.今日が朝カルの最終回で,微生物を中心に,地球の初期進化,extremophiles の話題,いま人気の“ハテナ”のこと,そして病原菌と宿主との共進化,ウィルスの分子進化など.質疑を含めて正午定刻にぴったり完了.受講生のみなさん,おつかれさまでした.集計されたアンケートをあとで見せてもらったのだが,幸い評判もよかったようで,責任は果たせたと感じた.最高齢75歳の方がいたとは驚きだ.いくつになっても勉強しにここに登頂する人はいるものだ.

◇往路車中読書 —— 川口マーン惠美『ドレスデン逍遥:華麗な文化都市の破壊と再生の物語』(2005年12月6日刊行,草思社,ISBN:4-7942-1466-9).かのレニングラードに負けず劣らず,第二次世界大戦末期の「ドレスデン空爆」もまた聞きしにまさる大被害だったことがわかる.歴史的建造物が軒並み“石壁”だけ残してがれきの山になっている光景は,“木と紙の家”が燃え尽きた日本の戦災地とはまた別の廃墟感が漂う.金色のアウグスト強王はぜひともお近づきにはなりたくないな.本書全体を通して,カラー写真の印刷がイマイチなのは残念だ.

◇広尾に直行 —— 第1回〈Rユーザー会〉が統計数理研究所で開かれている.昨日は海外からの演者もいたそうだが,本日は朝から〈Rミサ〉しているとか.部屋の割には人数がいるようだったが,中澤港さんとか久保拓弥さんとかにご挨拶.東工大の間瀬茂さんとも名刺交換.

K保センセいわく:「“正調”理論生物学者はデータなんぞに拘泥してはいけない」らしい(ほほー).そして,「前R時代」の生態学者とその後の「“洗礼”を受けた世代」では何が変わったか.キラー・コンテンツとしての「glm / stepAIC / plot」./ 続く中澤さんは「いかにして学生を“R洗脳”するか」という話.統計学教育に当てられている時間がとても乏しいというのは分野を問わない問題のようだ.その他,R を使った地図製作など,いろいろ参考になるトークがあったのだが,そろそろ体力的に限界だったようで,マダラに意識のない時間が混じっていた.最後に,伊庭幸人さんに挨拶して撤退.

—— 会の最後に,次回の第2回〈Rユーザー会〉をどのようにしていくかについて,意見交換された.さまざまなレベルのユーザーがいるのは確かなので,層化された会の構成が必要になるだろう.

◇夕闇迫る有栖川公園横を下界に降りる.麻布マーケットとかに寄り道もせず,銀座を経由して秋葉原からTXへ.つくばにたどり着いたのは午後7時半のこと.センター広場では毎年この時期に恒例の“100本のクリスマスツリー”が点灯されていた.

◇復路車中読書 —— 『京都読書空間』(2005年10月23日刊行,光村推古書院[act books 4],ISBN:4-8381-0359-X).ささっと読了.市中に“本が読める隠れ家”がたくさんある街はフトコロが深いと思う.“隠れ家”探しに日夜苦労するつくばはまだまだやな.

◇さあ,一生懸命寝ることにしよう.

◇本日の総歩数=14982歩[うち「しっかり歩数」=2119歩/21分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=−0.2kg/+2.6%.


9 december 2005(金) ※ 本津波,業務津波が十重二十重

◇午前5時起床.気温はほぼ氷点か.いたるところ霜が凍りついている.研究所に直行する.明日の朝日カルチャーセンター講座の準備をしないといけない.素材集めと台本づくりだー —— のはずが現実逃避してしまう.

◇時ならぬ〈Rユーザー会〉 —— ちょうどタイミングよく,明日は統計数理研究所で〈Rユーザー会〉(名目は別として実質的に)が開催されるという.これは挨拶に行くしかないかな.午前は朝カルとぶつかってしまうが,13:30からの午後の部ならば大丈夫そう(お,K保せんせのトークからか).かつて〈SASユーザー会〉というゴージャスな会議に行ったことがあるが,〈R〉では初めてのことだ.この“新興業界”のビッグネームたちが一同に集結するらしい.

◇極悪非道の「越中屋」からソーバー訳本20冊がコッソリ届く.悪い店主いわく:「1册5万円として,100万円じゃな」.ふふふ,越中屋,そちもワルよのお…….ということで,しばらくは在庫がありますので,みなさんご心配なく(頒布価格はこれまで同様3,000円/冊です).※神保町の明倫館書店では旧蒼樹書房本が「定価」のまま並んでいたそーな(フツイマ).

—— などとうだうだ書いていたら,さっそく1冊注文が届いた.そればかりか,かの“伊達騒動”にも関心があるなどとメッセージがつけられている.ほほー,さらには,ダーウィン電子化プロジェクトの中核になりつつある「John van Wyhe」博士の氏名の“読み”は?というこれまたツボな質問も(最後のQにつきましては,〈VictorianWeb〉の該当ページにより「van vy-uh」すなわち「ヴァン・ヴュー」と日本語表記するのが妥当なようだ).

◇昼間のこまごま —— 農環研の英文年報に書いた原稿(進化学会教育啓蒙賞のこと)の査読結果が返ってきた.レフリーに従って書き換え,返信する./ それとは別件で,きのう査読を引き受けていただいたレフリー氏に原稿2件をメールで送る.※この勢いで“残務”もばしばしと消化したいものだ.

◇午後の本津波 —— Paula Findlen『Possessing Nature : Museums, Collections, and Scientific Culture in Early Modern Italy』(1994年刊行,University of California Press,ISBN:0-520-20508-1).『自然の占有』の原書.カリフォルニア大学出版局の本はたいてい価格が安いので助かる(だからよけいに訳書定価との乖離が甚だしい)./ Hans Kruuk『Niko's Nature : A Life of Niko Tinbergen and His Science of Animal Behaviour』(2003年刊行,Oxford University Press,ISBN:0-19-851558-8).現代動物行動学のファウンダーであるニコ・ティンバーゲンの伝記.オランダからイギリスに移るあたりの事情がおもしろそう.それにしても,ティンバーゲンは根っからのバードウォッチャー.コンラート・ローレンツと通じるものがあるのも当然か.

◇一昨日届いていた大場秀章(編)『標本は語る:Systema Naturae』(2005年7月25日刊行,東京大学出版会[東京大学コレクションXIX],ISBN:4-13-020219-7)をぱらぱら見つつ思い出したのだが,スティーヴン・ジェイ・グールドの“ミュージアム本”三部作は邦訳される予定はないのだろうか.写真集(あるいは画文集)としてなかなかいいできばえだと思うのだが —— R. W. Purcell and S. J. Gould『Illuminations : A Bestiary』(1986年刊行,W. W. Norton,ISBN:0-393-30436-1) / R. W. Purcell and S. J. Gould『Finders, Keepers : Eight Collectors』(1992年刊行,W. W. Norton,ISBN:0-393-03054-7) / S. J. Gould and R. W. Purcell『Crossing Over : Where Art and Science Meet』(2000年刊行,ThreeRivers Press,ISBN:0-609-80586-X) .

◇夕方の献本(ありがとうございます) —— 野中健一『民族昆虫学:昆虫食の自然誌』(2005年11月16日刊行,東京大学出版会,ISBN:4-13-060185-7→目次(章のみ)).中身をぱらぱらしてみる.前に読んだ梅谷献二『虫を食べる文化誌』(2004年9月22日刊行,創森社,ISBN:4883401820→書評・目次)とはまたひと味ちがうみたいで,読書慾がそそられる(食慾はまたしてもそそられない).

◇夕闇迫る中,Q't のスターバックスでポーラ・フィンドレン『自然の占有:ミュージアム,蒐集,そして初期近代イタリアの科学文化』(2005年11月15日刊行,ありな書房,ISBN:4-7566-0588-5→目次)を読む.第3部〈交換の経済学〉の第7章「蒐集家の発明/創出」.コレクターたちが当時のイタリア上流社会の中でのどれほどアイデンティティ確立に腐心したかが説かれている.モノを集めることそれ自体が彼らのアイデンティティの根幹だったということらしい.

◇夜11時に再び出勤.明日の朝日カルチャーセンターの準備がぜんぜん進んでいないので,夜中仕事になる.プラスアルファの仕事が増えたからといって,1日の総時間数が増えるわけではない.ということは,どこかにしわ寄せが来るわけで,睡眠時間が真っ先にその犠牲になる.今回の朝カルは計5回の講座だったが,毎回欠かさず前夜は徹夜になった.まあ,これで向こう15年間はこの手の仕事を引き受けないつもりなので,いい経験をしたという記憶だけはきっちり残しておこう.

◇本日の総歩数=11508歩[うち「しっかり歩数」=1693歩/16分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.6kg/−2.3%.


8 december 2005(木) ※ やってますやってます

◇午前5時起き.晴れ.気温は2〜3度ってところかな.研究室に直行する.BGM はマーラーの〈復活〉.

◇早朝のこまごま —— まずは昨日届いていた本の開封をば:谷沢永一『紙つぶて:自作自注最終版』(2005年12月5日刊行,文藝春秋,ISBN:4-16-367760-7).1969年〜1983年の長期にわたる書評記事の総集編.索引と併せてほぼ1,000ページに達する煉瓦のような本.相変わらず口が悪い./ 大場秀章(編)『標本は語る:Systema Naturae』(2005年7月25日刊行,東京大学出版会[東京大学コレクションXIX],ISBN:4-13-020219-7).うっかり買い損ねていたミュージアム本./ 川口マーン惠美『ドレスデン逍遥:華麗な文化都市の破壊と再生の物語』(2005年12月6日刊行,草思社,ISBN:4-7942-1466-9).草思社らしからぬカバージャケット.「あとがき」で著者は戦時中のドレスデンにいたユダヤ人言語学者 Viktor Klemperer の『日記』に言及している.この日記:Viktor Klemperer『Ich will Zeugnis ablegen bis zum letzten: Tagebücher 1933-1945』(1995年刊行,Aufbau Verlag,ISBN:3-351-02340-5)は“歴史の証言”として注目./ 『京都読書空間』(2005年10月23日刊行,光村推古書院[act books 4],ISBN:4-8381-0359-X).つい…….

◇来年度,信州大学の「生物統計学」集中講義を引き受ける.また旭会館での自炊生活か(たはは……).

非公務員型になる次年度の“兼業”がいったいどういう形態になるのか,不透明なところはあるのだが,少なくとも現在のように「無給の依頼出張として行け」という理不尽なことがないようにしてもらいたい.いまの農環研では,まちがいなくぼくがもっとも頻繁に(担当時間の上で)大学に出ているはず.

◇午前の大仕事 —— JST領域探索研究会の報告書づくりを始めている.すでに2回の研究会を開催し(葉山と大磯),話題提供者からのプレゼン用スライドのファイルは手元にある.ただし,報告書の体裁にするには追加の掲載資料と総括文が必要なので,実行委員と話題提供者にその旨依頼メールを出す.組版はどうせぼくがやるので,素材だけきちんと集まればあとは時間が解決してくれるはず.とはいえ,年内に印刷までもっていきたいとの JST / JAREC の意向なので,どこまで時間的余裕があるかは大いに不安…….

◇晴れた昼休みの歩き読みは昨日の続き:スティーヴン・ジェイ・グールド『マラケシュの贋化石:進化論の回廊をさまよう科学者たち』(2005年11月30日刊行,早川書房,ISBN:4-15-208685-8 [上巻] →目次/ ISBN:4-15-208686-6 [下巻] ).上巻の残り110ページをあっさり読了.第5章(ラヴォアジェ)と第6章(ラマルク)は長大なエッセイで,グールドの思い入れがありありと.いずれも見過ごされてきた科学史の「隅」に光を当てている.地質図に関するラヴォアジェの時空的推論をグールドは「フラットランド」からの超越にたとえている(pp. 150-151).ここで典拠になっている Edwin A. Abbottの本『Flatland : A Romance of Many Dimensions』(1884年刊行)は,Edward R. Tufte の図像言語テキスト『Envisioning Information』(1990年刊行,Graphics Press,ISBN:0-9613921-1-8)の冒頭にも登場する古典だ.一方,ラマルクは「体系構築の精神」とからめて論じられている.当時の“system”という言葉は現在とはずいぶん意味合いがちがっていたのだろう.

—— 訳本には参考文献表が載っていなかったので,どーしたことかと思ったのだが(まさか削るわけがない),原本(『The Lying Stones of Marrakech: Penultimate Reflections in Natural History』2000年刊行,Harmony Books,ISBN:0-609-60142-3)を確認したら,やっぱりなかった.原書にあって訳本にないのは索引だけ.

◇午後1時過ぎから,〈系統学的考古学〉セミナー(第26回).今日から新しい章に入る:Chapter 6. Trees and Clades(p. 167).鏃のテストデータとして 17 OTUs / 8 characters から成る nexus ファイル(→OBrien.txt)を用意する.PAUP* / MacClade を用いて,最節約系統樹の探索に関するデモンストレーションをした.実際の data / tree manipulation は次回まわし.

◇レフリー候補者から承諾の返事あり.これでやっと懸案事項が解決に動き出した.よかった.新年明けの返却を依頼する.原稿ファイルの送信は明日.

◇夕方,別宅にて翻訳原稿のチェック続行.進まん…….

◇夜,イマイチ体調よろしからず.早めに寝る.

◇本日の総歩数=14079歩[うち「しっかり歩数」=6554歩/57分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=+0.3kg/+1.5%.


7 december 2005(水) ※ 氷点の明け方から万点冬晴れ

◇午前5時前に起床.雲はやや多いが晴れ.夜明け直前,気温0.2度.霜つきまくり.寒くてとてもよろしい.

◇こんなところに「プログラミング言語系統樹」があるっ! —— 広島よりタレコミ情報が届く.〈The History of Programming Languages〉というサイトで,コンピュータのプログラミング言語系統樹がpdf公開されている.まともに印刷すると幅1メートルにもなろうかという巨大な系統樹だ.ぼく自身はプログラミングの経験がほとんどないので,Pascal とか C とか有名どころの言語名しかわからないが,1950年代の FORTRAN や LISP を「共通祖先」とするこの多系統的系統樹をじっくり見ていくと,いっばんの言語進化と同様のはなばなしい水平伝播やハイブリッド形成がわずか半世紀あまりの間にいたるところで生じていたらしい.なーるほどー.※情報感謝です.>石原さん.

◇午前10時半からグループ内会議.来年1月13日の成績検討会に向けての資料作成要領とか,次期中期計画での組織案提示(12月15日に全所説明会)とか,いろいろと.11時過ぎまで.※これはこれで波風立つかもね.

◇[内輪向け]アノ場でのアノ人への対処 —— いつでも“宣告”は発動できるようにしてはあるのですがね(予期されていたことではあるし).そうする前に,「神」は要らないから,「紙」で拭き取れという尾籠な[内輪の]やり取りもあったりして.※汚物かいっ.(まったく……)

「生物科学。」をプロデュース —— 先週土曜日の『生物科学』編集会議の席上,「生物科学」をキーワードにしてグーグル検索すると,農文協のサイトが筆頭でヒットしてしまい,立教大学にある編集部ページになかなかたどりつけないという報告があった.確かに「生物科学」という特徴のない検索語ではヒット率が悪いのももっともだろうと思ったので,「じゃあ,トップページを〈生物科学〉から〈生物科学。〉に変更したらどーですか?」と提案してみた.ヒソカに受けるんじゃないかと思ったのだが,みごとに何も受けなかった.上田編集長は「それ,何なんやろ……」と絶句し,年配(ごめん)の編集委員は誰もわからなかったよーだ.あわてて,「ほら,『モーニング娘。』とか『野ブタ。をプロデュース』とかあるじゃないですかっ.〈縮小専用。〉っていう画像処理ソフトだってあるじゃないですかーっ」と畳み掛けてみたものの,まったく反応なし(ナミダ).みなさん,識別子としての句点「。」の存在とその効き目を知らないのかしらねー.せっかくの迷案もまったく出る幕がなく終わった.

◇冬晴れ昼休みは気温10.0度ぴったし.歩き読むグールド —— スティーヴン・ジェイ・グールド『マラケシュの贋化石:進化論の回廊をさまよう科学者たち』(2005年11月30日刊行,早川書房,ISBN:4-15-208685-8 [上巻] / ISBN:4-15-208686-6 [下巻] ).まずは上巻から.第1部〈古生物学誕生にまつわる逸話:化石の正体と地球の歴史〉の全3章と続く第2部〈創造の現在:三人の偉大なフランス人科学者は革命の時代にいかにして自然史学を確立したか〉の第4章を読む.計140ページほど.第2章の山猫アカデミーことアカデミア・デイ・リンチェイと,第4章のビュフォンの話がおもしろい.もちろん,それぞれポーラ・フィンドレンのいま並行読書中の本とジャック・ロジェのビュフォン伝を参照している.たまに読むグールド本は歩き読みするには分量的にもサイズ的にも最適かもしれないと思った.

◇午後,翻訳文チェックの続き.第3章進行中.のろのろする.

◇夜,別宅にて現実逃避読書 —— 組版工学研究会(編)『欧文書体百花事典』(2003年7月7日刊行,郎文堂,ISBN:4-947613-55-6→目次)の続き.イギリスのフォント史.オールド・ローマンの末裔たる〈Caslon〉の栄枯盛衰と,トランジショナル・ローマンの〈Baskerville〉の登場.ついでに,スクリプト体の変遷の章.大判のこの本にめいっぱい印刷された,昔の印刷所の「活字書体見本帳」はとても迫力がある.60ページあまり.

ついでに,ポーラ・フィンドレン『自然の占有:ミュージアム,蒐集,そして初期近代イタリアの科学文化』(2005年11月15日刊行,ありな書房,ISBN:4-7566-0588-5→目次)の第6章「医学のミュージアム」を読了.博物学が当時の医学教育にとって必須の薬物(materia medica)に関する“知識基盤”であるとみなされたことにより,博物学者たちは「社会制度的」に認知されるようになったという:

マテリア・メディカが制度的な認可を受けたことで,博物学者たちは蒐集活動の範囲を,非公式の個人的な博物室や薬草園から学問としての公式な空間へと拡張する機会を得たのである.制度的な承認は,やがて医学のカリキュラムにおける博物学の成功を示す中心的な存在となる植物園のための資金を拠出することによって,ルネサンス期の博物学者たちがすでに実践していた活動にさらなる推進力を与えることになったのである.(pp. 391-392)

では,このような社会的認知は博物学者にとってハッピーなことだったのかという疑問に対して,著者は興味深い指摘をする:

[……]博物学者たちは成功の両義的な意味と折り合いをつけなければならなかった.新たな学問の制度的認定は体制への恭順を意味した.そして医学のカリキュラムの規範は,経験的な学問を,学術的ヒエラルキーの中でも最下層に位置させたのである.(p. 400)

博物学者が,“自然哲学”というさらなる上着を求めた背景には,このようなジレンマがあったからだと指摘されている.とても意味深な指摘かもしれない.

—— ここまでで第2部が終わり,やっと450ページまで到達.続いて第3部がまだ200ページもある.

◇本日の総歩数=15277歩[うち「しっかり歩数」=6754歩/59分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=−0.7kg/+0.3%.


6 december 2005(火) ※ 氷雨の冬空に残務一掃

◇午前5時半起床.ここ数日,暗くて寒いせいか,起床時間がじりじりと遅くなっている.絵に描いたような冬空.気温5.1度で.それほどの冷え込みはないが.芯から寒い体感温度.今日の最高気温の予報は10度を下回るそうだ.

—— 師走に入って,堆積岩(あるいは変成岩)と化しつつある残務を一掃処分する気になっている.※こんなところにメモってしまったら,もうあとには引けない.今週は“残務処理ウィーク”と勝手に命名しよう.

◇午前中に,曇り空から冷たい雨が降りだした.「うはうは外出してはなりませぬ」という御沙汰かも. —— と思ったら,瞬く間に晴れ間が広がってきた.空模様でさえせわしない年の瀬だ.

◇昼までのこまごま —— 来年1月7日(土)〜8日(日)に科博で開催される〈第5回分類学会連合公開シンポジウム〉に関連する事務連絡メール.講演要旨〜./ 東大出版会『UP』の購読予約継続.出版社のPR誌は「タダ」でもらえるからと油断していると,意外に読み落としや漏れ落ちが少なくない.できれば定期購読するにかぎる./ 某学会の査読原稿が届く.レフリー候補者に白羽の矢を立て,依頼状を書く./ まだまだー.

◇昼休み返上で,翻訳文の検討.時間がかかって,もう〜.第2章がもうすぐ終わる.

◇午後1時,緊急の系統樹コンサルティング.その後,1時半から〈Zar統計学本〉セミナー(第30回) —— Chapter 18. Comparing Simple Linear Regression Equations の続き(pp. 369-375).複数の回帰直線の間での回帰係数と切片の同一性に関する仮説検定と多重比較の手順について.Tukey, Dunnett, そしてScheffé の補正が実行されている.2時過ぎまで.

◇午後のこまごま —— 居室の「西日対策」についてのアンケートに答える.温暖化対策の一環としてらしい.ぼくが今いる部屋は西向きの最上階という極悪な環境で,とりわけ夏場はどーしようもない.理想的には居室の“環境劣悪度”に応じた個別空調が望ましいのだが,経費その他の事情で当面実現しそうにない.では,どーするか,という回答は実にシンプルで,「集中空調の切れる午後6時以降は居室に滞在しない」という手しかいまのところない.劣悪な環境に長居をする理由はどこにもないから.

【祝・ソーバー訳本完売御礼!】 —— 蒼樹書房がなくなってー以来,エリオット・ソーバー『過去を復元する:最節約原理・進化論・推論』(1996年7月15日刊行,蒼樹書房,ISBN:4-7891-3055-X[絶版]→目次)の細々と在庫を売り続けてきたが,手元にあった数十冊の在庫が本日すべて売り切れた.平均すると月1〜2冊の割合で売れたことになる.お買い上げいただいたみなさん,どーもありがとうございました.なお,越中の某倉庫にはまだ数十冊の隠匿在庫がありますので,ソーバー本の注文にはまだしばらくは対応できるものと思います.しかし,それもなくなってしまうと,本書を新刊で手にすることはほとんど不可能になります.旧・蒼樹書房の出版物は,本書に限らず,すべて断裁処分されていますので,古書業界に流れることは今後もありえません.※そーいえば,本書のコンテンツをまだ〈leeswijzer〉にアップしていなかったことにいま気がついた.→アップ完了

◇すっかり天気が回復した夕方,第2章の訳文チェック完了.郵送準備完了.

◇本日の総歩数=5989歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.5kg/−0.8%.


5 december 2005(月) ※ 氷滴の夜明け前

◇午前5時半起床.晴れ.昨日からの弱い雨はあがったもの,車のフロントガラスに氷滴が貼りついていた.気温は1.2度.さすがに12月ともなれば夜明けは遅い.

—— 今日は分類学会連合の会議が午後あるので,東京に出奔します.その前に「年貢」を納入する予定(神保町にて).

◇今日は北風がことのほか強く,寒いことは十分に寒いのだが,それだけ空中の塵が吹き飛ばされたようで,TX から富士山がきれいに見えた.11時前にお茶の水に到着.駿河台下の Tully's にてドロナワ原稿を書いているところ.毎度,こういうていたらくで申し訳ないのだが,無い袖は振れないので,日々のしがらみのない出張先が,逆説的なことに,自由時間は最大となる.日々“出張”していられる身分ならば,さぞ諸般の「堆積仕事」は大幅に消化されるにちがいない(仮定法未来形).

◇往路の車中読書 —— Douglas Walton『Abductive Reasoning』(2004年刊行,The University of Alabama Press,ISBN:0-8173-1441-5)の第2章「A Dialogue Model of Explanation」の続き.説明とは「simulative practical reasoning」であるという著者の立場が明らかになる.シミュレーション(すなわち“共感”= empathy)とともに,theory-theory に基づく実践的論理が説明のコアを形成しているということ.相当におもしろい“説明”の説明であるように感じられた.次節は,「説明の対話モデル」の定式化へと進む.

◇結局,午後1時過ぎまで Tully's で原稿を書き続け,400字詰にして10枚ほどの分量になる.abductive phylogeny inference の精神について.神保町の〈さぼうる〉に場所を移し,いつも通り御代官様に原稿年貢を奉納する.※また来週も〜(T_T).

◇駿河台下で草履&下駄屋を発見.さすが神田祭の地元だ.

◇転戦 —— 午後2時半に水道橋から乗って大久保で下車.百人町の国立科学博物館分館で分類学会連合の会議.次年度の業務引継と来年はじめに開催されるシンポジウムの打合せ.初日(1月7日)の進化関連のシンポジウムはまあいいとして,2日目のシンポジウムはよほどきちんと客集めしないとダメだと思う.午後4時過ぎに散会.

◇再び神田に舞い戻り,夕闇迫る駿河台下の崇文荘書店にて,店先の平棚を物色する.古代ギリシャ語の部厚い語源辞典が転がっていたので800円でゲット —— Π. Χ. Δορμπαρακη『Επιτομον Λεξικν της Αρχαιας Ελληννικης Γλωσσης』(1989年7月刊行,ISBN:960-05-0132-7).1000ページ近くもあるー.

◇秋葉原まで歩き,石丸電機 Classic 館を覗いて,TX へ.つくばにたどり着いたのは午後7時過ぎ.電飾がとても寒そうに輝いていた.

◇帰路の車中読書 —— Douglas Walton『Abductive Reasoning』(2004年刊行,The University of Alabama Press,ISBN:0-8173-1441-5)の第2章のその先へ.ほぼ読了.法学的な事例がいくつも登場する.なじみがないだけにかえって新鮮かも.とくに,証拠に基づく物語の構成に関する分析は関係しそうかも.事実に直結する叙述(“anchored narrative”)を,そのコミュニティで常識となっている背景知識(“script”)ならびに事実にはアンカーされていないが矛盾を引き起こすわけではない推論(“implicature”)によって糊付けすることで,ストーリー全体を構成しているという考えはおそらく系統推定の推論様式を別の観点から考えるときに有効だろう.

◇本日の総歩数=15097歩[うち「しっかり歩数」=1411歩/12分].全コース×|×.朝○|昼−|夜×.前回比=−0.4kg/+0.4%.


4 december 2005(日) ※ 冷たい雨が降る日曜日

◇午前5時半に起床.曇って底冷えする.しんしんと.季節的には“冬眠”しても誰にも文句言われないと思うのだが,それは熊さんのはなし.

◇翻訳原稿の第2章分をチェックする.終わらず.「1日1章」を目標にしないとダメかも.

◇午後,別宅にてポーラ・フィンドレン『自然の占有:ミュージアム,蒐集,そして初期近代イタリアの科学文化』(2005年11月15日刊行,ありな書房,ISBN:4-7566-0588-5→目次)を読み進む.第2部の第5章「経験/実験の遂行」を読了.実験科学としてのデッラ・ポルタの“自然魔術”が登場する.魔術師(マグス)とか錬金術師(アルケミスト)たちの話.山本義隆の3巻本を思い出した.アカデミア・デイ・リンチェイのチェージは,「実験志向」という点で共感を覚えていたデッラ・ポルタとの交際をしだいにひかえるようになったという(p. 351).それは,博物学がしだいに自然科学的な思考法を確立するようになり,それとともに自然魔術が帯びていた人文科学的色合いに違和感を感じるようになったからだという.イタリアだけでなく,イングランドの王立協会でも同じで,事務局長オルデンバーグはアタナシウス・キルヒャーの主張がついに追試できなかったと報告した(p. 366).ほかにも,アルドロヴァンディの石綿実験とか,化石をめぐるニコラウス・ステノの業績など,さまざまなエピソードが登場する章だ.

◇昼下がり,冷たい雨が降り始めた.日中の気温はもちろん10度にも達していないだろう.なお,別宅にて,翻訳原稿のチェックをのろのろと続ける.しかし,明日東京で渡す分の“年貢”原稿もそろそろひねり出さないといけない.

◇すでに読んでいた「ミュージアム論」の本2冊の書評を〈leeswijzer〉にアップした —— 松宮秀治『ミュージアムの思想』(2003年12月24日刊行,白水社,ISBN:4-560-03898-8→書評) / 西野嘉章『ミクロコスモグラフィア:マーク・ダイオンの〔驚異の部屋〕講義録』(2004年4月27日刊行,平凡社,ISBN:4-582-28444-2→書評).いずれもとても辛くなってしまった.

◇明日はまた東京行きだ.

◇本日の総歩数=2872歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.6kg/−1.4%.


3 december 2005(土) ※ いずこもイルミネーション

◇何となく午前6時半まで寝床にいた.外は冬晴れで,とても寒い.

◇午前中は本読み —— Douglas Walton『Abductive Reasoning』(2004年刊行,The University of Alabama Press,ISBN:0-8173-1441-5)の第1章「Abductive, Presumptive, and Plausible Arguments」を読了し,続く第2章「A Dialogue Model of Explanation」へ.Carl G. Hempel の古典的な deductive - nomological model を出発点とする「科学的説明」の再検討.inductive - statistical model をはじめ,数々の「説明モデル」を経て,本書では agent 間の“相互理解”に基づく説明の「対話モデル(dialogue model)」を提唱する.※Weseley Salmon の「説明“曼荼羅”」はぜひ見てみたいものだ.

◇午後,池袋に向かう.1時間ほど早く着いてしまったので,Veloce で日録とメールを書く.午後3時から立教大学にて『生物科学』誌の編集会議.今回は出席者が少ない.現在の編集進捗状況の報告と来年度の特集企画について.そーですか,“愛玩動物”系は売れ筋なんですね(世の中は「いぬばか」ばっかしとか?).う゛,年末原稿の念押しとか,フェイントな執筆企画の再浮上とか(鬼……).いつもの職員用レストランにて,瓶ギネスを少しばかり(いちおう忘年会ということでして).

帰りしな,セントポールズのキャンパス内にある大きなモミの木がイルミネーションされて巨大クリスマスツリーと化していた.国立大学法人とか独立行政法人とかではこういうしゃれたことは期待すべくもない.さすがセントポールズ!

さらに転戦 —— 池袋 TOBU にて,鈴木邦雄&浅見崇比呂&みなかという珍しいトリオで食事をば(三元豚など).いろいろと「むかしばなし」(“昼なお昏き原生林〜”とか,嘉昭センセの大立回りとか).午後8時前に帰路につく.つくばに到達したのは午後9時半.

◇つくばセンターのそこら中の街路樹もまた十万個のLEDで電飾されていた.まったくどこもかしこも…….

◇つらつらと考えてみるに —— この年末までに“ケリ”が期待されている(あるいは当然視されている)仕事たちはいったい何件あることか.JST領域探索研究会の超巨大 ppt ファイルがそろい踏みしていた.この報告書づくりも年度末年貢のひとつ.いきなり急坂の翻訳原稿チェックという緊急課税とか,来週はじめに納税する新書原稿とか.※脳裏に思い浮かばないだけでほかにもあるはず…….

◇本日の総歩数=9542歩[うち「しっかり歩数」=2668歩/21分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=0.0kg/+2.2%.


2 december 2005(金) ※ 枯れ葉のごとく書類が舞う

◇午前5時半起床.晴れて冷え込み,0.5度.乾いて寒い.

—— 研究所にて,翻訳原稿のチェック,第1章も完了.返信封筒に詰める./ 師走のプチ出張届,2件.東京に会議で2往復する予定.さすがに今月は大出張はない.

◇しだいに雲が厚くなってきた —— 名古屋大学の非常勤人事書類を今週中にとのことだったので,あわてて xls と rtf を開こうとしたら,DynaBook SS のご容態がまたまた悪化している,何度か再起動させてやっと蘇生させた(民間療法ではなく,そろそろ根幹治療しないと).こちらの雲行きも相当にアヤしい.

さて,と送られてきた xls をおもむろに開いたら,セルに文字を入力させて書類を文書整形させるという“極悪非道度4”の事務書式になっている…….ううむ,これでは限りなく「自由度」が低いではないか.しばし,固まっていたら,ハードディスクがカタカタと異常音をたてはじめた.これはきっと何かの呪いにちがいない.エビふりゃーの祟りか.即座に,DynaBook をオフし,エクソシスト部屋にしばし安置することにした.※ということで,書類作成は午後まわしに.

◇ゲン直しに,ポーラ・フィンドレン『自然の占有:ミュージアム,蒐集,そして初期近代イタリアの科学文化』(2005年11月15日刊行,ありな書房,ISBN:4-7566-0588-5→目次)の第2部〈自然の実験室〉を読み進む.「自然」という“本”をテキストとして読むにとどまらず,採集旅行によって蒐集された多くの事物を踏まえて,“実験”という行為を通して検証するという,17世紀のイタリアに現われた態度がどのようにミュージアムの中で育まれていったのかを考察する.〈リンチェイ〉あるいは〈チメント〉という当時有名な科学者集団の動向が詳しく触れられている.読了してから書評を書く予定なので,方々にメモ書きを記入している.大部な本ほどメモしないとどんどん忘れてしまうから.

—— 100ページほど読んで,まとわりついた毒気を抜く.

◇夕方,雲行きさらに妖しく,霧雨まで降り出す.逢魔が時というべきか —— 再び DynaBook を起動し(苦労した),くだんの xls を開き,念仏を唱えつつ,内容を記入.完了.続いて,業績リスト(rtf)も何とか完成させる.祟りがふたたびやってこないうちに,ささっとメールに添付して名古屋に返信.※よろしくお願いいたします.遅くなってすみませんでした,I勢田さん.

—— 「査読論文」ではなく,「著書」が業績リストの筆頭項目にくるというスタイルを見るたびに,“学的文化(あるいは制度)”は均一ではないことを痛感します.

◇夜,再び訳稿のチェック.第2章に入った.※先はまだまだ長い……./ 21:55頃に弱い地震あり.

◇明日の午後は,『生物科学』編集会議のため,池袋にちょこっと出かけます.

◇本日の総歩数=8026歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.6kg/−0.5%.


1 december 2005(木) ※ いきなり師走の主題提示……

◇午前5時起床.雲がやや多く,冷え込んで 0.1度.風はない.氷点下の明け方も間近いだろう.

◇朝のこまごま —— メーリングリストへの月例アナウンス配信をいくつか.

◇大英図書館ならぬ居室の蔵書の整理をそろそろしないと,外部からの借出し依頼に支障が出るかもしれない.いまのところは依頼のあったブツの“ありか”(どの部屋のどの書架のどの棚にあるか)をぼくが覚えているので対応できているけど,「余人をもって代えがたし」状態になっているので,このままではいけない.まずは地震に倒れないような書棚をいくつか買わないといけないが,その前にスペースを占拠している本どもをなんとかしないと…….※ん,これって実は悩ましいことかも.

◇しんしんと仕事堆積中 —— 執筆原稿/翻訳原稿/報告原稿…….優先順位としては,翻訳原稿を左手でチェックして,執筆原稿を右手でものして,右足で報告原稿を編み,左足で生活する…….そんなエルヴィン・ジョーンズのような器用なことはできません.

◇午後1時20分から,〈系統学的考古学〉セミナー(第25回).Chapter 5 : 「Taxa, Characters, and Outgroups」の続き(pp. 159-166).遺物の外群(outgroup)を決定する技法.著者らは:

Michael J. O'Brien, R. Lee Lyman, Y. Saab, E. Saab, John Darwent and D. Glover 2002. Two issues in archaeological phylogenetics: Taxon construction and outgroup selection. Journal of theoretical Biology, 215: 133-150.

で提唱する「occurrence seriation」という方法を用いて,外群を決定しようとする.この方法は形質状態の並べ変え(permutation)によって,形質状態の変化総数を最小化する,一種の parsimony ordering の方法で(したがって NP 完全問題),結果として得られた整列形質状態行列を“直訳”すれば,外群が決定されると同時に,最節約分岐図が導出される.しかし,この方法って,よくよく考えてみれば,外群を事前に指定しない「大域的最節約法」(Maddison et al. 1984)と同一ではないかという気がするのだが.午後2時半まで.

—— 次回からは PAUP* を用いる最節約文化系統樹の手順に進む.鏃のテストデータの nexus ファイルをつくっておく.

◇午後のこまごま.お座敷のお呼びがかかって —— 来年度の非常勤出講に関する問い合わせがすでにふたつ届いている.信州大学理学部から生物統計学の出講打診(15時間).首都大学東京の生物統計学講義(30時間)はここ数年のレギュラー出演になりつつあるし.新たに,名古屋大学情報文化学部からも生物学哲学で30時間の出講依頼が届いている(いま書類書いてます,ハイ).

◇登攀記録 —— ポーラ・フィンドレン『自然の占有:ミュージアム,蒐集,そして初期近代イタリアの科学文化』(2005年11月15日刊行,ありな書房,ISBN:4-7566-0588-5→目次)のプロローグ(pp. 11-25)と第1部〈ミュージアムの位置づけ〉(pp. 27-213)を読了.予想通り,とても刺激的で考えさせる論考だ.分量から見て,200ページの単行本ちょうど3冊分に相当するので区切りがよい.

内容的には,とりわけ,イタリアで発生した“ミュージアム”なるものが,きわめて内密な私的空間から次第に外部に開放された展示空間へと行きつ戻りつしながら変貌していく経緯が印象的だ.現代的な意味での「ミュージアム論」は多々あるのだが,本書のように史的な発生と当時のイタリア社会での文化的環境との細密な関わりを明らかにした本に出会ったことはこれまでほとんどなかった.

—— 本書は,ぜひとも原書を横に置く必要があると思う.※訳本にはない事項索引が要るので.

◇夜,翻訳原稿をチェックする.まずは序文と第1章.これだけでもう日が変わりそうになる.

◇本日の総歩数=7230歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=−0.4kg/−0.5%.


--- het eind van dagboek ---