images/image1.jpg

Home
oude dagboek

日録2007年8月


31 augustus 2007(金) ※ 雷鳴轟く学会初日は必死でハンコ押し

◆午前5時起床.曇り.小雨に煙る東山.早朝の2時間でトド一頭を仕留める(WS03).スライドは20枚.返す刀で『』連載原稿のゲラを読む.今日中に音羽に返さないと.

◆午前8時,タクシーで京大理学部の会場(6号館)へ.雨足がしだいに強くなり,雷も.日頃の行ないがワルイやつは誰だ!

◆4階受付で登録をすませ,E会場に向かう.午後9時半から正午までワークショップ〈WS03−哲学はなぜ進化学の問題になるのか(パート2):生物学の哲学のさらなる展開〉.昼食はワークショップ関係者とともに,大学近くの中華料理〈宏しん〉(=「しん」は「金」が三つ重なる)にて.いかにもアバウトな2階の座敷で,生物学哲学論文集の今後の予定とか,春秋社から出る予定の『性と死』と『生物学哲学』のこととか.午後1時半までクダを巻く(昼間から生ビールなんか呑むなよっ).

◆大会会場に戻り,受付うしろの実行委員会部屋にて,高校生ポスター発表の参加賞に学会印を押すという単純作業に没頭する.1時間半後,82枚の賞状に押印し終えた.午後3時からは明日の総会資料づくり.約3時間後の午後6時に終わった.夕方になって,やっと晴れ間がのぞいた.

◆やっと時間が……とほっこりする間もなく,ikushimo くん一同にトラップされ,四条大橋まで連行される.生方さん・吉田さんとともに金曜夜の河原町を徘徊するものの,どの店も満員でどうしようもない.結局,御池の〈The Hill of Tara〉にて,生バンドを聴きつつギネスとキルケニーに溺れる.最後は,有職者ふたりとともに2回目の〈柳野〉へ.今夜は,新しく開封した Bowmore 10年.味わいが全然違う.午後11時半にホテルに帰着.

—— やっばりトド撃ちできず…….

◆本日の総歩数=11365歩[うち「しっかり歩数」=3556歩/34分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=未計測/未計測.


30 augustus 2007(木) ※ 京都潜入:トドたちの海に飛び込んで

◆午前3時30分に起床.北の風.小雨が混じる.未明の農環研駐車場の植え込みからはスズムシの鳴き声が.気温は22.3度.

◆明け方のこまごま —— 本日夕方の評議員会配布物を印刷する.評議員会は午後5時から,京大理学部2号館にて./ スパムメールが evolve に流れたので元アドレスを撤去する.ウィルス感染には注意しましょう.

◆都への旅立ち —— 旅支度を整え,曇り空のもと,9:07 発の TX 快速に乗り込む.車中読書 —— 黄順姫『同窓会の社会学:学校的身体文化・信頼・ネットワーク』(2007年6月20日刊行, 世界思想社, ISBN:978-4-7907-1264-0).同窓会が学校の系譜としての同一性を構成することの社会学的考察.福岡の修猷館高校の同窓会活動に関する長期の“観察”をもとに書かれたという.

東京は小雨でやや蒸し暑い.10:33 発の「のぞみ83号」に乗り込む.車中読書:Nelson Goodman の「Seven strictures on similarity」と「A new riddle of induction」の二論文を読む.David Hull は folk taxonomy を打倒して species individuality を刷り込むべきだと考えているようだ.DNA barcoding に関する PNAS アジ論文を読んで萎える.【種】問題をバーコードで解決することなんぞできるわけがないことを知る.愚の骨頂.これで,WS04ワークショップのスライドづくりの方針は固まった.そもそも monothetic な分類をほしがる時点で終わっている.

◆ここ数日,ほしいままのふるまいをしていた大トド三頭の処理方針:進化学会 WS03は生物学と生物学哲学との育ち合いについて;進化学会WS04は DNA barcoding は難問を回避しているに過ぎないことを指摘;行動計量学会は普遍系統学のヴィジョンについて —— これで何とかなりそうだが,銛を打ち込む時間が果たしてとれるのかどうか.

◆名古屋駅を過ぎて車内放送あり.米原と京都の間で落雷による信号トラブルがあり,運行遅延とのこと.岐阜羽島駅を過ぎたあたりで一時立往生してしまった.その後も前後の列車との関係でのろのろ運転.結局,京都駅に着いたのは定刻よりも約40分遅れて13:30頃だった.

しかし,この遅延のおかげで,トド撃ちの準備を整えることができたのは幸いだった.残りは京都に入ってからの作業になる.

◆京都は曇りで蒸し暑い.タクシーで宿泊先のホテルフジタ京都にチェックインしたのは午後2時過ぎのこと.評議員会資料を再確認してから京大に向けて出発.出町柳から久しぶりに百万遍あたりを歩いた.評議員会会場でセッティングしたり何やらかにやら.開始定刻の17時をやや過ぎて開始.午後7時までいろいろと.うっかりしていた次期副会長選挙も忘れずにやった.これであとは総会に臨むだけだ.

◆評議員のみなみなさまとともに,百万遍の炭焼き〈Saezuri〉へ.名古屋コーチンがここの名物だそうだ.珍しい焼酎など少々(でもないか).その後,辻さん・宮武さんとともに梅小路の〈柳野〉へ直行.今夜は Bowmore 16年.小雨が降る中,日が変わる直前にホテルへたどり着く.

—— こりゃトド撃ちどころではないな…….

◆メディア・コンバータを忘れてしまったので,画像を取り込むことができない.写真はつくばに戻ってから.

◆本日の総歩数=12034歩[うち「しっかり歩数」=2843歩/27分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.2kg/+0.4%.


29 augustus 2007(水) ※ 舞踊るトドたちになすすべもなく……

◆午前4時半起床.丑三つ時にふと目が覚めて窓を開けたら,肌寒い北風が通り抜けた.暗くて見えないが,下界のタイヤの音から判断すると雨も降っているようだ.かくして夏は去り,秋は来ぬ.午前5時の気温21.3度.雨が降ったり止んだりする.

◆いただいた本たち(ありがとうございます) —— 木村李花子『野生馬を追う:ウマのフィールド・サイエンス』(2007年8月20日刊行, 東京大学出版会, ISBN:978-4-13-066158-4 → 版元ページ).世界の大陸をめぐって野生馬を追いかける.全編にわたって印象的な写真がたくさん./ F. John Odling-Smee, Kevin N. Laland and Marcus F. Feldman(佐倉統・山下篤子・徳永幸彦訳)『ニッチ構築:忘れられていた進化過程』(2007年9月10日刊行, 共立出版, ISBN:978-4-320-05647-3 → 版元ページ).「ニッチ構築」と言われると,ドーキンスの「延長表現型」をつい連想してしまうのだが,著者らは「ニッチ構築」が「自然淘汰」と並ぶ進化の推進力であると強調する点がユニークだ.原書は 2003 年.プリンストン大学出版局の〈Monographs in Population Biology〉叢書の第37冊目だ.

◆今日は涼しい.先日までの酷暑がウソのようだ.午前10時の気温は25度ちょうど.曇りがちなので午後になっても真夏日にはならないだろう.

◆日中のこまごま —— 進化学会関連の微小トドの群れをまずやっつける.明日の評議員会の段取りなどいろいろ連絡する./ 9月の東大 ES 特論の受講生は20名超だという.そんなに多いとは知らなんだ./ 11月の大分統計巡業に関わる事務的なこと.依頼出張願はすでに農環研に出されているそうだ./ 10月から始まる駒場の生物統計学に関する兼業申請.毎週毎週「勤務を要しない〜」届けを出す必要があるらしい.非最節約的なことで./ 北大の系統学集中講義の日程調整をする.今の案では「12月10日(月)〜13日(木)」の予定で札幌を襲撃します.よろしく.

◆昼下がりに煮詰まる.大トドをどーするか?(……) 放置トドたちの狼藉が目に余るぞ.時間あらへんやん.

◆現実逃避したいときにまた本をいただいた(感謝です).こんどは「蟲」を喰う —— 野中健一『虫食む人々の暮らし』(2007年8月30日刊行, NHK出版[NHK Books 1091], ISBN:978-4-14-091091-7).おお,また蟲を食べ歩くんですね.前著:野中健一『民族昆虫学:昆虫食の自然誌』(2005年11月16日刊行,東京大学出版会,ISBN:4-13-060185-7 → 目次書評版元ページ)に続く文化昆虫[食]学の本.カメムシ,イモムシ,スズメバチ,何でもござれです.みなさん,とってもよく食べてます.そういえば,小西正泰さんの新刊が出たそうだ:小西正泰『虫と人と本と』(2007年8月刊行,創森社, ISBN:978-4-88340-211-3 → 版元ページ).500ページを越える大きなエッセイ集.目次から推察すると昆虫文化史の本みたい.同じ出版社から出た:梅谷献二『虫を食べる文化誌』(2004年9月22日刊行, 創森社, ISBN:4883401820 → 書評・目次)の方は完全な「昆虫食」の本.

—— 本日は献本が大挙しておこしになったので,ついよそ見の現実逃避をしてしまった…….

◆夕方,早々と退散する.夜になっても北東風が吹いて涼しいことこの上なし.午後9時頃,ぱらぱらと雨が降ってきた.さらに気温が低下する.

◆闇夜のトド定め —— あとがないとなると,やるしかないでしょ.微小トドはもうええか.中トドと対面する.評議員会の配布資料と総会の掲示資料をのろのろとつくりはじめる.学会事務局の活動報告とか,学会賞選考委員会報告とか,新たに参画した委員会の資料とか.それそれと進めて,日が変わる前に退治できた.コピーは未明に行なう.

—— さて,と…….大トドたち…….

◆本日の総歩数=5515歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=0.0kg/+1.0%.


28 augustus 2007(火) ※ 皆既月蝕の日,フィデルの飛び地へ

◆午前5時起床.曇り.蒸し暑い.昨夜は熱帯夜だったのかも.

◆今日は,一日中,JICAの統計学講義を高野台の国際センターで受け持つ.キューバ特設稲作コースの受講生を相手に,午前9時半から午後4時までの5時間.春に一度講義をしたが,研修生のデータ収集がそろそろ終わる頃なので,各グループごとに進捗状況を訊き,個別対応の統計コンサルティングをする.スペイン語の統計学用語にもだいぶ慣れてきた(「bloque al azar」とか).ラテン方格(Latin square)による実験区レイアウトをしているグループがあった.〈R〉でラテン方格の分散分析をするにはどーするんだっけ.さらに蒸し暑く31.2度になった昼休みにちょこちょこ調べる.Faraway 線形モデル本にその事例が載っているようなので安心した.次回,9月半ばに来るときに説明しよう.

〈R〉は初めてという研修生が多かったので,「最新版や関連ドキュメントは帰国したらインターネットからダウンロードするように」と言ったところ,「フリーウェアであるのはありがたいが,キューバからインターネットにつなげるのは不自由かも……」とのこと.キューバの中でもネットのつながり具合は地域によってちがうらしい.日本にいるうちにできるだけ情報とリソースを収集してもらうしかないか.※カストロさん,〈R〉をよろしくね.

◆〈R〉献本感謝です —— ピーター・ダルガード著(岡田昌史監訳)『Rによる医療統計学』(2007年1月31日刊行, 丸善出版事業部, ISBN:4-621-07811-2 → 版元ページ).原書:Peter Dalgaard『Introductory Statistics with R』(2002年刊行,Springer-Verlag,ISBN:0-387-95475-9 [pbk]→目次・正誤表・演習解答).『ISwR』は〈R〉の定番教科書として以前からよく利用してきた.この翻訳が今年始めに出てからは,日本人の受講学生への紹介がラクになった.

◆【種】の〈本質主義神話〉論争のメモ —— ダーウィン以前の分類学が「本質主義(essentialism)」に毒されていたと最初に述べたのは Hull (1964-65) の BJPS 論文だった.彼は,Mayr (1942) や A. J. Cain (1954, 1958) を動員して,彼らが批判する「類型学(typology)」が本質主義に等しいと主張した.もちろん,本質主義ということばが初めて登場したのは Karl Popper の政治哲学の著作群:「歴史法則主義の貧困 I」(1944)と『開かれた社会とその敵』(1950)だったから,確かに類型学の方が古い.しかし,後に,Mayr (1968) が自らの言う類型学が Popper の本質主義に当たると公認したものだから,ここに〈本質主義神話〉が成立した − と Winsor (2003) は批判する.Hull では,類型学的な本質主義の三つの構成要素:1) Form は「実在する」という存在論的主張;2) 分類学とは種の「本質(essence)」の発見を目指すという方法論的主張;3) 本質を記述する定義と命名の要求のうち,分類学者たちは 1 と 2 は捨て去ったが,3 については今にいたるも捨てようとしないと指摘する.そして,polythetic な cluster concept(定義項目に関する conjunction ではなく disjunction を認める)を採用することにより,定義に関する本質主義は潰えるだろうと予測する.この〈本質主義神話〉に対して,Winsor は,pre-Darwin の時代は必ずしもアリストテレス的な本質主義が分類学を支配していたわけではなく,polythetic な分類群は広く見られたと指摘する.Hull はそういうクラスター的考えはダーウィン以降のものだと言うが,Winsor はそれに反対する.Winsor は pre-Darwin の分類は認知心理学でいう「プロトタイプ効果」に則った分類群構築がなされていて,当時の「type」ということばは〈本質主義神話〉が言うような typology ではなく,むしろプロトタイプ理論のいう prototype に近い性格をもっていたと指摘する.

—— 上で参照した文献については〈生物の樹・科学の樹〉サイトをどーぞ.

◆早くも第5弾! —— このシリーズで5冊目が出た例というのは今までないのでは?:『つくばスタイル No. 5』(2007年9月20日刊行,エイムック1402,ISBN:978-4-7779-0818-9).ほんの5ヶ月前に No.4 が出たばかりだというのに,このハイペースはいったい…….今回のテーマは“農”.つくばの中で新しくできた隠れ家レストランやカフェはかなり網羅的にリストアップされているようだ(要チェック).前号までの刊行履歴:『つくばスタイル』(2004年12月10日発行,エイムック948,ISBN:4-7779-0215-3)|『つくばスタイル No. 2』(2005年9月30日発行,エイムック1076,ISBN:4-7779-0388-5)|『つくばスタイル No. 3』(2006年6月10日刊行,エイムック1197,ISBN:4-7779-0540-3)|『つくばスタイル No. 4』(2007年4月20日刊行,エイムック1319,ISBN:978-4-7779-0692-5).これまではほぼ10ヶ月ごとの発行だったが,今号はその間隔が半分に短縮された.この分だと次号は…….

◆下り坂 —— 一日中曇りがちだったが,夕方からは時おりぱらぱらと降り始めた.まだ小降りだが,予報では雷雨になるかもしれないらしい.

◆明日は,上洛直前の貴重な日なので,是が非でもトドを仕留めないことにはすまされない.大トドも小トドもまとめて料理してくれる —— とつぶやきつつ,11時前に寝てしまった.あちゃー.

◆本日の総歩数=6053歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=0.0kg/+1.2%.


27 augustus 2007(月) ※ 大会直前の日々はひたすらトドを撃つ

◆午前4時20分に起床.曇りのち晴れ.気温23.7度.早朝の研究室でプリンタと格闘する.「カンコウタイヲコウカンシテクダサイ」などとふざけたことをぬかす野郎にヤキを入れつつ,YMKの3本を交換する.カラーレーザーだから,ガタイが大きくて,パーツもかさばる.梱包財ゴミが山のように積みあがった.

◆午前10時半の気温は31.2度.まだまだ暑さが続く.午前のこまごまはすべて進化学会がらみのトド撃ち —— 記念出版物の編集委員会が急遽開かれることになった.9月1日(土)の14:00〜16:00./ 表彰式の段取りを確認する.木村基金への連絡./ その他,さまざまなトドが現れては仕留められていく.

◆しかし,浜の真砂は尽きるとも世にトドはかぎりなし.思わぬ大トドがぬっと顔を出してしまって大あわて.学会終了後に仕留めることで,トドさんと合意する(ごめんなさい).

◆午後もさらなるトド撃ち漁は続く.選考委員会の最後の締めをしていなかったことに気づき,文面をそろえてお伺いする./ 高校生ポスター発表の審査に関する段取り.そして,表彰式に関する段取り.寝ても覚めても「段取り」あるのみ.だからぁ,こういう仕事は不向きなんだってば./ 気分転換に東大 ES 特論のタイトルを考えてみる./ しかしまた現実に引き戻され,評議員会の出欠と委任状を確認したり,総会の司会(まだ決まっていなかった)に再度召喚状を送ったり.

—— ここまででもう午後5時になってしまった.今日は,JTB で京都行きの JR チケットを買わないといけない.つくばセンターの JTB で確保.往路:8月30日(木)「のぞみ83号」(10:33 東京→京都 12:53).帰路:9月4日(火)「のぞみ22号」(14:09 京都→東京 16:30).京都での潜伏先はすでに決まっているので安心だ.残暑にあてられないようにしないと.

◆Alibris からの着便本 —— Marc Ereshefsky (ed.) 『The Units of Evolution : Essays on the Nature of Species』(1992年刊行, The MIT Press, Cambridge, ISBN:0-262-55020-2 [pbk] → 目次).1960年代半ばから1990年代初めまでの代表的な【種】の論文集.本論文集に所収されているほとんどの論文はすでに手元にあるのだが,新刊で出た当時はアンソロジーだからいらないかと思って買わなかった.しかし,15年後のいまになってやっと買う気になった.

◆夜になっても散発的に湧いて出るトドを撃つ.今日だけでいったい何発の弾を放ったことやら.その割には懸案の大トド3頭がなお高笑いしているのが腹立たしい.いったいいつ講演準備の時間があるのだろうか.皮肉なことに,日常的な勤務先ではなく,雑用のない出張先が実はもっとも余裕があるというのは確かに真実だ.ここ数年,学会会場でせっせと講演準備をすることが多い.かつて 35mm スライドがプレゼンに用いられていたころは,大会1週間前にはすべてのスライド素材を写真屋に持ち込まなければ間に合わなかった(まっとうな仕事ぶりだ).しかし,その後,OHP のプレゼンになってからはぎりぎり前日までつくりこむことができるようになってとても嬉しかった(堕落の始まり).それが,PC プロジェクタでプレゼンをするようになってからというもの,大会開催地に乗り込んでその会場で発表スライドという“ドロナワ化”の極致とあいなった(救いようがない).時間的にラクといえばラクなのだが,精神的にはさらに追いつめられる.わかっちゃいるけどやめられない.

最近では,「35mm スライド」はもちろん,「OHPシート」すら見たことがないという学生がいる.大学の学部(場合によっては高校)のときから ppt でのプレゼンが唯一のスタイルであったとしたら無理もない.個人的には,「噺」が最上位で,それ以外のプレゼン機材は「付録」だと思っているのだが,そういう考えは少数派かもしれない.

◆明日は,高野台で JICA の講義がある.9:45〜16:00 という一日仕事だ.まずは研修生の作業進捗を訊いてから,個別のコンサルティングと全体の講義かな.〈R〉が必要か.その段取りはしていなかったが,なんとかなるでしょ.

◆ギリシャ追憶(最終回) —— 5年前の想い出話も今日が最終回だ.ニュースでは,ペロポネソス半島はいま放火の疑いがある山火事でたいへんなことになっているらしい.パトラス在住の日本人女性のブログ(→〈地中海とカフェ物語 Diary〉)を拝見すると,この時期特有の高温と乾燥が山火事被害をさらに大きくしているらしい.海の近くなのに乾燥とは不思議といえば不思議だが,確かに湿気は少なかった記憶がある.毎日,夕方,大会会場からバスに揺られてパトラスの市街地に戻ってくるときは,まだ日が高い.しかし,ホテルのバルコニーで本を読みつつ時間が経つうちに,やがてイオニア海の水平線に夕陽と沈み,パトライコス湾の彼方から暗くなってきて,波止場のともしびが目立つようになる.午後7時を過ぎる頃のろのろとタベルナ出撃のしたくをしてお出かけだ.デューク大学の Marcy K. Uyenoyama さんとは街のいたるところで出会った.彼女もまた「歩く人」なのだろう(おじいさんが日本からアメリカへの移民だったという話をしてくれた).さんざん食べてホテルに帰りつけばもう夜も更けている.しかし,不夜城のざわめきはいつまでも途絶えることがない.

◆本日の総歩数=8779歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+1.2kg/−1.3%.


26 augustus 2007(日) ※ 蒸し暑い晩夏お祭りサンデーは消耗戦

◆午前5時50分起床.遠景に靄がかかっている.湿度が高い朝.すでに蒸し暑い.

◆朝からがまんの歩き読み —— 最相葉月『星新一:一〇〇一話をつくった人』(2007年3月30日刊行, 新潮社, ISBN:978-4-10-459802-1)の第2章と第3章.80ページ.中学から大学までのことなど.星新一は東大農学部農芸化学科では坂口謹一郎に師事した.敗戦前後の混乱の後,星製薬がしだいに衰退していく経緯も.

◆岩波文庫新刊もう1冊 —— J・B・プリーストリー(橋本槇矩訳)『イングランド紀行(上)』(2007年8月17日刊行, 岩波書店[岩波文庫 赤 32-294-2], ISBN:978-4-00-322942-2).上下二分冊とのこと.先月出た:エドウィン・ミュア(橋本槇矩訳)『スコットランド紀行』(2007年7月18日刊行, 岩波書店[岩波文庫 赤 32-296-1], ISBN:978-4-00-322961-3)と訳者も装丁も同じ.

◆日中は昨日よりも厳しい残暑となる.日射しが強くしかも湿度が高いのでどうにも逃げようがない.祭りのみなさんはたいへんだ.見る方もやはりたいへんだろうが,ここは引き蘢るにかぎる.午後は「大トド」と取っ組み合い.午後になって再び前の道路では,ねぶたのパレードが始まり喧噪度がまたも急上昇.とくに,日の入り以降は午後8時のお祭りエンディングに向けて,絶叫と乱舞の狂躁状態に突入する.「らっせらー,らっせらー」の音頭を聞きつつ,「ええじゃないか,ええじゃないか」と脳内直訳してみる.毎年のことながらお疲れさまなことで.ま,昨日も今日もお祭り日和だったのでよしとしましょ.

◆仕留めるはずの「大トド」は悠々とのたうつのみ…….

◆ギリシャ追憶(12) —— パトラスでの食生活についても書いておこう.朝食は泊まっていた Astir Hotel でバイキングだったのだが,それ以外は自分で調達しないといけない.大会会場のパトラス大学は市街地から離れていて,送迎バスで往復するしかなかった.だから,いったん会場に入ってしまうと,外には出られない.大会期間中はランチ・チケットが用意されていて,学内のレストランでとてもしっかり食べた記憶がある.夏休みだったので,大会参加者のための貸し切り状態だった.昼休みは連日2〜3時間とたっぷりあったので,よく食べてもなお時間が余った.しかし,バスでホテルに戻ったあとの夕食は即タベルナに出撃だ.パトラスに来てすぐの頃はタベルナのスタイルがよくわからず,うまそうな料理を「あれ」「それ」と次々に注文したら,“山”のように皿が運ばれてきて往生してしまった(フェリー乗り場近くのタベルナだった).しかし,運ばれてきた料理を残すのはしゃくに触るので,地元の Mythos ビールを呑みながら全部平らげたら,ウェイトレスのおばさんが目を丸くしたが,それに懲りて,以後,市内のタベルナで注文するときはぐっと抑制を効かせた.繁華街ニコラウ(Νικολαου)通りに近いタベルナ〈イオニオン(Ιονιον)〉と〈ニコララス(Νικολαρας)〉は滞在中何度も行った.他にも,通りにオープンテラスを出したタベルナが街中にたくさんあって,夜遅くまで店を開けている.野菜やひき肉を重ね焼いたムサカ,米が食べたいときのイェミステス・ラハニカ,胸焼けのもとカラマラキア,そして食パンのように巨大なフェタの乗っかったホリアティキを,上からオリーヴオイルをまわしかけ,フェタを崩しながら食べる快感…….いいところだったねえ.

◆本日の総歩数=12310歩[うち「しっかり歩数」=10625歩/86分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.6kg/−0.6%.


25 augustus 2007(土) ※ つくばセンターをねぶたが駆け抜ける

◆午前5時起床.曇りときどき晴れ.未明に吹き抜ける北の風が涼しい.

◆週末の朝の歩き読み —— 4ヶ月前に買ったまま積んであった伝記:最相葉月『星新一:一〇〇一話をつくった人』(2007年3月30日刊行, 新潮社, ISBN:978-4-10-459802-1)を開いてみる.実は,星新一の短編はいまだかつてひとつも読んだことがない.しかし,ぼくにとっては生前の星新一が何を書いたかはとくに関心がない.むしろ,彼をプライベートに取り巻いた人間関係の方がおもしろい.星製薬の創業者にして星薬科大学をも創設した実業界の大立者の父・星一.森鴎外家と縁戚関係があり後藤新平とも昵懇だったという星家の人脈が子どもに影響したか.そのあたりのことが読みたい.

第1章まで読了.60ページほど.よく調べ挙げたものだと思う.作家・星新一は「ショートショート」の短編作家として知られているが,その分量は400字詰にして「20枚前後」だったそうだ.でも,毎月「20枚」書いているぼくにしてみれば,その分量はとても微妙で,さらさらっと書くには多過ぎ,しっかり書くには少なすぎる.ただし,ぼくが毎日書いている dagboek は平均して 4〜5KB 弱/日(400字詰で4〜5枚)なので,この量が個人的にみて自然な「1執筆単位」なのだろう.そこで,これを“物差し”にして,毎回「4節」すなわち「4単位」書くように毎月心がけたところ,時間的には余裕はないが,分量的には割りにすんなりと“着地成功”できるようになった.分量の過不足もこれまでのところほとんどなく,たいてい数行削ってOKになる.

◆今日と明日は〈まつりつくば2007〉でねぶたをはじめ演し物がいろいろ予定されていて,朝早くからつくばセンター近辺のペデや公園では屋台がずらりと並び店開きの準備をしている.今年も,終日,人であふれかえるだろう.午後のパレードの時間帯は土浦学園線が通行止めになるので,車の出入りが不自由だ.

◆午後になって残暑の日射しが戻り,しだいに暑くなってきた.祭りの会場は喧噪度と人口密度が急上昇.暑い日中は引き蘢って「大トド」の攻略策を練ったり,現実逃避の台湾温泉本を読んだりする.夕刻,センター広場に行ってみたら,すれちがうのもできないほどの混みようだ.しかし,エキスポ・センター前は比較的空いていて,異国的な屋台料理屋が出ていたので,〈フィンラガン〉の黒ビールを飲んだり,モンゴル餃子やフレンチ・クレープ,そしてタイ風焼きそばまで一通りこなす.

◆夜,真下の通りをねぶた行列が通るのを横目に見つつ,「大トド」を撃つ銛を調整する.できれば明日にも3頭まとめて仕留めたいな.

◆今日は,人ごみの中を歩き回ったので,たいへん消耗した気がする.祭りは明日も続く.

◆ギリシャ追憶(11) —— パトラスの街中にたくさんあるタベルナでは,日の高いうちからビールやワインを飲んでいた.しかし,そういうときに出されるワインはごくふつうのもので(独特の匂いがあるが),パトラスの名前を有名にしている甘口のデザートワインにお目にかかることはまったくなかった.たとえば,赤ワインなのに甘口であることで名高い「マヴロダフネ・オヴ・パトラス」というワインがこの地にはあると旅行前に聞いていたが,タベルナや大会のバンケットではまったく供されなかった(アブサンのごとき「ウーゾ」はよく呑んだ).大会最終日近く,午後に空き時間があったので,パトラス市内のワイン・ショップに入って探してみた.そのとき初めて,ギリシャ・ワインには実にいろいろな種類があることを知った.探していた「マヴロダフネ」は真っ黒なボトルで,いかにも妖しげなオーラを放っていた.それ以外にも赤白さまざまなデザート・ワインが並んでいた.帰国後,甘口白ワインのコルクを抜く機会があったのだが,すっきりした甘さで好ましかった.さて,「マヴロダフネ」はその後,冷蔵庫の中でこんこんと眠り続けているのだが,この妖しいボトルを開封する日はいったいいつになるのだろうか?

◆本日の総歩数=18025歩[うち「しっかり歩数」=13184歩/117分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=−1.1kg/+1.5%.


24 augustus 2007(金) ※ 大トドは放置,小トドを追いかける日

◆午前4時半起床.北東の風が通り,涼しい.気温22.0度.晴れ.まだくらいうちにヒグラシが鳴きはじめ,続いてエンマコオロギが.明るくなってくると,ミンミンゼミの大音声ですべてがかき消されるが,未明は嘘をつかない.もう秋が来ている.

◆昨夜のうちに,山本義隆『一六世紀文化革命(1・2)』(2007年4月16日刊行, みすず書房, ISBN:9784622072867(1) / ISBN:9784622072874(2) → 目次(1)目次(2)版元ページ(1)版元ページ(2))の全体書評を leeswijzer に流した(→書評).上巻と下巻との間があいてしまったので,意外に手間取ったな.

◆今日は「小トド」撃ちに専念しないといけない.午前のこまごま —— 進化学会の高校生ポスター審査員にメールで委嘱願を出す.例年は,大会会場で一本釣りしていたそうだが,今年は発表件数が多いので,事前に囲い込みをすることになった.昼前に,白羽の矢を放つ.うまく刺さりますように./ 授賞式関連の段取り.メダルは30日に京都に届くことになった.

◆リンネ記念本の出版 —— リンネ生誕300年(→公式サイト:〈Linnaeus 2007〉)の公式記念出版物:ニルス・ウッデンベリ(文),ヘレン・シュミッツ(写真) (早川雅子訳)『体系への情熱 ー リンネと自然の体系への夢』(2007年1月刊行, Natur & Kultur, ISBN:978-91-27-02588-2)が出版されたそうだ.スウェーデン語・英語・日本語での同時出版だという(スウェーデン語版『System och passion』,ISBN:9789127113879).本書についての説明・価格・購入申込方法はこちらに載っている.とても豪華そうな本ではあるが,価格が…….大使館・法人については「7,500円」,それ以外の一般購入価格は「10,000円」だそうだ.しかも,一般の書籍流通ルートには乗っていない本らしく,送料が「2,000円」プラスされるという(スウェーデン直送かっ?).

◆午前11時の気温は27.9度.晴れときどき曇り.昼前のこまごま —— 11月の「大分統計巡業」スケジュールが確定した.三日間朝から夕方まで統計三昧.往復の航空券は安いのを探してほしいとのこと.あとは宿泊先を確定すればいいか.『るるぶ大分』チェ〜ック./ 某出版社との打合せをすませた元締めからのメール.目指すところにズレがあるようだが,せっかくの機会だから利用しましょうとのこと.

◆午後のこまごま —— 東大から非常勤講義の依頼.駒場での生物統計学講義のこと(理学部人類学科).兼業申請する./ 航空券の予約は2ヶ月前からだったのか.知らなんだ./ tree-to-tree distance の有意差についての質問.PAUP* で実行するとしたら,調べたいペアの系統樹間距離を検定統計量として計算し,次に,無作為に生成したツリーのもとで,任意のペア間の樹形間距離を計算して帰無分布を構築し,検定統計量の値がその帰無分布の棄却域に入るかどうかで,樹形間の「有意差」を知ることができるでしょう.とりあえずは PAUP* の tree distance 関数で値は出すことができますが,PAUP* の出力はテキストで行列をずらずら吐き出すので,扱いづらいかもしれません.APE(Paradis 2006)の〈R〉関数「dist.topo」を用いるともう少しラクになるかな.

◆進化学会「小トド」撃ち続く —— 海外出奔するというひとりを除いて審査員受諾の返事が次々と返ってきた.駒場の殿のご出座.事前に審査員が確定したのは初めて./ 大会日程をもっと早くアナウンスしてほしいとのリクエストあり.むべなるかな./ 評議員会と総会の資料づくり.まだ確定していない案件についても用意しないと./ 公式行事の式次第をイメージする.そして書き出す.

—— その横では,大トドは傍若無人にも.こんなに何頭もいたのでは収拾がつかない.

◆夕方の新刊 —— 坂口謹一郎『日本の酒』(2007年8月17日刊行, 岩波書店[岩波文庫 青 33-945-1], ISBN:978-4-00-339451-9).『酒学集成』(全5冊)を買い損ねたのは返す返すも残念だった.

◆ギリシャ追憶(10) —— まだアラホヴァ(Αραχωβα)にいる.パルナッソス山の中腹にあるこの坂道の街は,迷路のような横町や路地が縦横に張り巡らされている.日本で言えば,榛名山の中腹にある伊香保温泉街の入り組んだ坂道のようだ.パトラスへの帰路,短い休憩のためにここアラホヴァに立ち寄っただけなので,ゆっくり食事をしたりお茶を飲むわけにはいかなかった.それでも,幾度も階段を昇り坂道を降りるだけの時間は十分にあった.白壁と赤い屋根の家々にはさまれた横丁には,小さな宿屋やタベルナがひっそり隠れていたりする.教会の三連鐘を照らしていた昼下がりの日射しが,しだいに小路の奥にまで射し込み,表側のベランダに飾られたプランタで咲き乱れる色とりどりの花が輝きだす.またギリシャに来る機会があるとしたら,こういう街でしばらく過ごしてみるのもきっとハッピーだろう.

◆本日の総歩数=6722歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.3kg/−0.2%.


23 augustus 2007(木) ※ 雨降る明け方には本も降り積もる

◆午前3時頃,ふと目が覚めたら,外はざあざあ雨が降っていた.4時半起床.やはり雨.小止みになったかと思うと,またスコールのように降り注ぐ.気温は低めで22.4度.

◆早朝の研究室にて,本がどどっと積み上がる.水木しげるの原画集をあらためて見直したのは何年ぶりのことか.こういう本は死蔵すべきではないな.『』の図を描く準備を始めたり,資料を奥からずるずると引きずり出したり.

◆【種】にまつわる想い出話を少し —— いま進みつつある『本』の連載記事が,流砂に呑みこまれるように,【種】の結界につかまりつつある.かつて前世紀末に【種】問題について書き始めたものの,未完結のままその決着を次のミレニアムに持ち越してしまった.その決着をつけるには十分な年月が経過したと言えるだろう.『生物科学』の記事「ヒトが種をつくる」の part 1と2を書いていたのは1999年のことだ.それからもう8年が過ぎようとしている.“another radical solution”と当時は銘打ったのだが,その後数年を経ないうちに【種】の認知心理学的特性が表立って論議されるようになった.

【種】の概念的問題に関わる機会は1980年代の大学院生の頃からあって,当時の 『Panmixia』や『Networks in Evolutionary Biology』に書いたりしていた.その後,時代は少し下って,今から10年前の1996年4月の〈伊達騒動〉に始まり,翌1997年3月の〈小田原評定〉と〈加波山事件〉までの一連の“興行”では,分類学と系統学との「蜜月」は実は終わっているのだというぼくのシンプルな主張を呈示した.その年の終わりには『生物系統学』が出版されたのだが,この本の「インテルメッツォ」はその時点でのぼくなりの解答だった.もちろん,興味の中心は系統学にあったので,この本での「分類」とか【種】についての論議は比較的抑制されていた.その後,いくつかの学会などで【種】に関するアジ演説をしてきたのだが,まとまった文章としては,1999年の『生物科学』の記事2編と,同年の『現代によみがえるダーウィン』所収の「ダーウィンとナチュラル・ヒストリー」がある.

そして,21世紀がやってきて,ぼくが【種】について語る機会は目に見えて減っていった.なぜか.潜在的シンパが増えてきた気がしたからだ.その結果,「【種】はない」とか「【種】は健康に有害だ」というスローガンはかつてほどのインパクトをもたなくなったが,それは残念なことではなく,むしろいい兆候なのだろう.【種】に関する懐疑論が日本で広まっているとしたら,その理由のひとつは世紀の変わり目までの数年間に同調者が EVOLVE や学会などで持続的かつ草の根的に運動し続けたからだろう.そう,【種】なんかもともとないんですよ.目を覚ましましょうよ.

昨年の『系統樹思考の世界』でも,巻末の文献リストのなかで一カ所だけ【種】のことをちょろっと書いたのだが,めざとい音羽様がそれに目を留めたために,いま進行中の『本』の連載〈生物の樹・科学の樹〉が実現した.そういう行きがかりがある以上,【種】についてもういちど書くというのは天の声(あるいは悪魔の囁き)なのだと思う.実際,連載を始めてからというもの,居室の書庫の気配が変わり,本棚の奥から「ざわめき」が聞こえる気がする.アレもソレもそのうちオモテに出てくるのだろう.とある理由で封印した資料もあるのだが,今月に入ってから落ち着いていないようだ.あらあら.

—— 最初はためらいがあったのだが,すでに「銅鑼を3回鳴らしてしまった」ので,もう後戻りはできない.頑張れ,カラフ!

◆午前11時の気温は24.4度.暑さをほとんど感じない.昨日よりも10度は低いな.

◆午前は文書作成で消し飛んでしまった.午後のこまごま —— 進化学会関連:高校生ポスター審査員の人選をする.明日には委嘱してみる.他にアナウンス事項がいくつか./ Olia さんからネマトーダ系統の相談.最尤法計算を別のプログラムでやりたいとのことなのだが.

◆午後は連載原稿の手直しと作図.今回の記事では,階層分類体系の構造について説明するので,John R. Gregg の記号論理学による定式化の説明を盛り込んでいる.彼の有名な著書『The Language of Taxonomy』(1954年刊行)は彼がコロンビア大学に提出した学位論文だが,この薄い本よりは,むしろ10年あまり後に刊行された「有限リンネ構造」に関する論文(1967)の方がすっきりまとまっていると思う.1960年代もこの時期になると,Gregg や Woodger のスタイルというのは廃れつつあることがはっきりしていたのだが,最後の最後にいい論文を残してくれた.

午後5時に手書きの図のスケッチを書き,スキャンして改訂原稿とともに音羽に送った.タクソンは集合だが,カテゴリーは集合の集合である.元の【種】タクソンの集合とその冪集合(power set)の二本立てで,リンネ階層のロジックを構築したのが,Gregg たちだった.精神は廃れても,その「ことば」は今でも通用する.

◆午後5時に帰還.気温26.4度.今日はひょっとして真夏日にならなかったのかもしれない.夜,音羽から電話あり.記事の原稿はこれでOKとのこと.今回はダメだしがなくてよかった.作図は音羽城お抱えの絵師が担当するそうだ.次回(第5回)のプロットをつらつら考えてみる(どーせ原形をとどめないにちがいないが).

◆前世紀末の『生物科学』の記事を見直す.未刊の part 3 もセクションの構成とか文献リストはもうつくってあった.もし文章が書けていれば21世紀を待たずに「三部作」はめでたく完結したのだろう.しかし,実際には,完結しないまま残されている.なぜ完了しなかったのか(できなかった),いま思い起こしてもあまり記憶がない.いずれにせよ,いったん止まってしまうと,再スタートするのは一苦労だ.

◆大トドは忘れた頃にやってくる —— よくよく考えてみたら(考えなくても自明だが),今回の進化学会ではトークがふたつ,直後の行動計量学会では特別講演がひとつ,同じ週には動衛研で系統学講義がある.そういう準備をなーんにもしていないんですけど,いいんだろうか?(いいわきゃないわなあ……).ということで,トドがいきなり何頭かのたうつことになった.

◆ギリシャ追憶(9) —— デルフィからの帰路,休憩を兼ねて,パルナッソス山の中腹にあるアラホヴァ(Αραχωβα)という街に停まる.ギリシャといえば海辺のマリン・リゾート地しか連想できなかったが,アラホヴァは驚くべきことにスキー・リゾート地としてたいへん有名なのだそうだ(→なんたって紹介サイトがコレだもん).ギリシャでスキーか!というびっくりはさておき,標高2,000メートル近いこの町は,文字どおり「階段の街」.地形的に急斜面なので長い階段が風景の一部になっている.ギリシャによくある赤い屋根の民家の煙突の突端には1羽ずつ真っ黒なカラスのデコイ?が据え付けられている.このカラスの置物の意味が結局最後までわからなかった.煙突のなかで鳥に巣を作らせない防衛策なのか,それともカラスにまつわるギリシャの習俗があるのか.いずれにせよ,長旅の休憩で立ち寄ったはずのアラホヴァでは,2時間近くも坂道を上り下りしたせいで,どっと疲れてしまった.町のたたずまいはいかにもギリシャかな?(何ですねん,それ)

◆本日の総歩数=5782歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.5kg/0.0%.


22 augustus 2007(水) ※ 踊るカモノハシ,暗闇から「うわん」

◆午前5時起床.朝から晴れ.気温27.2度.めちゃめちゃな暑さの日々は過ぎたようだが,それでも平年並みに厳しい熱帯夜と残暑が続く.昨日,松代辺りでクマゼミが鳴いていたとのタレコミがあった.メール添付されていた音声(wav)ファイルを聞いてみると,確かにクマゼミの「わしゃわしゃ……」という暑苦しい鳴き声が入っている.つくばも着実に“温暖化”しつつあるのだろうか.

◆朝から原稿原稿また原稿 —— カモノハシの「分類不能性」について書いている.エーコの『カントとカモノハシ(上・下)』(2003年3月28日刊行[上巻] / 2003年07月29日刊行[下巻], 岩波書店, ISBN:4-00-022430-1[上巻] / ISBN:4-00-022431-X[下巻] → 目次)とほぼ同じ題材を扱っているのが,ハリエット・リトヴォのカモノハシ本だ:Harriet Ritvo『The Platypus and the Mermaid, and Other Figments of the Classifying Imagination』(1997年刊行, Harvard University Press,Cambridge, ISBN:0-674-67357-3 → 目次).典拠にしている文献も共通しているのだが,互いに直接的な参照はないようだ.原書の出版年も割に近いのだが,偶然の一致ということだろうか.エーコのカモノハシ論は認知分類と体系分類のズレみたいなものが主題だったが,リトヴォのカモノハシ論は19世紀の分類学史の文脈のなかで classificatory system がどのように確立され,そして維持されてきたのかに力点が置かれている.

◆午前10時半の気温は早くも33.2度.日射しが強すぎて,車のハンドルが高温化.確か,前の前の室長氏はこの時期に日向に駐車しておいた車のハンドルをぎゅっと握ったらマジで火傷したと聞いた.残暑とはいえご注意を.正午には35.0度.今日も猛暑日だ./ 夕方からの遠出は相手方の都合によりキャンセルになった.

◆書く人は休みなく —— 昼休みをはさんでひたすら原稿を書きつづける.午後5時前,西日に照らされつつ,ひいひいと20枚を書き上げる.7,987字(16,183バイト).今月の“年貢”も無事に納めることができそうだ.さっそく音羽にメール送信する.※ダメだししないでね.

毎回,その月の担当分の原稿を書き上げるたびに,「来月はこれこれこういう内容で」と大まかなプランを立てては見るのだが,これまでの何ヶ月かの経験から言えば,まったく守られていない.いつもその月の締切り日が近づくたびに,あたふたと資料を積み上げ,「いざ」と身構えるたびに,本棚の後ろから「おいっ」と呼びかける古い本が何冊もある.そういう妖しいモノどもに導かれるままに当初の予定とはぜんぜんちがう内容の原稿を書き上げては音羽に送っているのだ.さて,来月はどうなるだろうか.

◆午後のこまごま —— 10月の〈湯川シンポ〉の参加者名簿と宿泊日程確認のメールが届いた.こんなに何十人もコープイン京都に隔離されればさぞかし濃いだろうなあ.

◆夜7時過ぎ,湧き上がった雷雲から近めの落雷が数発.のちに雨になる.午後8時半,音羽から電話あり.幸いダメだしはなく,図を付けてはどうかとのお達しあり.今回の連載はタテガキだし,図を付けずに文章だけでと予定していたのだが,さすがに種タクソンと種カテゴリーのところの集合論的構造の説明は文字だけではきついとの判断だ.明日中にざっと絵を描いて送ることにする.対応する本文も修正の必要あり.

◆〈生物の樹・科学の樹〉サイトをちょいと手直し.ご参考までに.夜9時を過ぎて雷雨が強まってきた.近くに落雷しているみたい.その影響のためか,自宅の光ファイバーがつながらなくなってしまった.その後,復旧したが,雨はなおもざあざあと降り続く.

◆ギリシャ追憶(8) —— アポロン神殿の円形舞台.中心部のステージを取り巻くように同心円状に客席が配置されていることがよくわかる.現代の陸上競技のルーツのルーツのルーツがこの地にはあるわけだが,このステージではかつていったい何が演じられたのか.坂道を上りきったところから見下ろして撮った1枚だが,けっこうな急斜面を削って造られていることが見てとれる.向こう側に広がるのは下界に連なる急勾配の山肌だ.神託を受けたわれわれ大会参加者は,へろへろになって下界に降り,真夜中近くにホテルに帰り着いた.ぼくが晩飯を喰いに街に出たのはそれからのことだったのだが,日も変わろうという時間帯にもかかわらず,街中のカフェやレストランは軒並み営業中なのに驚いてしまった.子どもまで混じっていたりする.パトラスは不夜城だった.そんな真夜中の喧噪のなかで,ビールを呑んで肉を喰ってしまったワタシにはきっと神罰が……(ぶるぶる).

◆本日の総歩数=6772歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.5kg/−0.5%.


21 augustus 2007(火) ※ 満を持してバッハとエーコと石燕が

◆午前4時半起床.曇りのち晴れ.気温24.8度.そこはかとなく「秋」の気配が漂う.昨日は早く寝たので,こういう時間に起き出してもすぐ活動に入れる.

◆早朝の研究所にて —— 依頼書類の訂正と印刷を完了./ 『』誌の連載記事〈生物の樹・科学の樹〉のまとめサイトをつくってみた.連載とともに成長する予定.

◆バッハとエーコと石燕のそろい踏み —— J・S・Bach - Cantata「Herz und Mund und Tat und Leben」(BWV 147)/ウンベルト・エーコ(和田忠彦監訳|柱本元彦・橋本勝雄・中山エツコ・土肥秀行訳)『カントとカモノハシ(上・下)』(2003年3月28日刊行[上巻] / 2003年7月29日刊行[下巻], 岩波書店, ISBN:4-00-022430-1[上巻] / ISBN:4-00-022431-X[下巻] → 目次)/鳥山石燕(高田衛監修|稲田篤信・田中直日編)『画図百鬼夜行』(1992年12月21日刊行, 国書刊行会, ISBN:4-336-03386-2).なかなか壮観でございます.

—— ありがたや,ありがたや.とっかかりにつまずいて長らく離陸できずにいたのだが,よもや御三方がそろって登場するとは予想していなかった.ありがとうございます.これで一気に書けるかな.

◆午前10時半の気温31.4度.そして,正午の気温は34.1度.残暑はまだまだ続く.そして,エンドレスな雑用たち —— 『科学哲学』誌の別刷が届く(→ 目次: 150KB).欲しい方はご連絡を./ 南保くんの延命処置されていたPCが本日ついに成仏してしまったようだ.新しいPCを発注することになった./ 進化学会関連:総会司会の依頼(のりピーよろしく).授賞式の写真撮影担当の依頼(天馬クンのパパに).高校生ポスター審査員の決め方について駒場に質問(速攻で返信あり).男女共同参画委員会への学会構成員性比報告の完了.※さらなるトドの大量発生は困るなあ…….

◆午後1時から,〈形態測定学講義〉の輪読39回目.第13章「The relationship between ontogeny and phylogeny」の続き(pp. 341-344).アロメトリー式を用いてのさまざまな「わざ」が開陳される.発生初期段階で変化が生じても(切片 b は変化する),アロメトリー関係は変わらない場合(傾き k は不変).あるいは,発生過程全体を通じて k に一定のちがいがあるとき.これらのケースは,MANCOVAなどを使えば仮説を容易にテストすることができる.しかし,発生の途中に k が変わったり,発生期間の長さが変化するような状況ではたいへん複雑なことになってしまう.さもありなん.次回からは幾何学的形態測定学の観点から見たアロメトリーの解析に進むことにする.

◆西日が強まる夕刻のこまごま —— 進化学会関連:授賞式の出欠確認を事務局に依頼する.高校生ポスター発表の審査委員はこちらで決めるとのこと.今年は件数が多いので増強する必要があるようだ./ 明日の夜は友部の隠れ家へアゲイン.明後日は領域内の暑気払いをするらしい./ 会計システムが今年度になってから大きく更新され,IDもぜーんぶ変わったらしい.日頃使わないので今の今までそれを知らなかった.急に代替パソコンを買うというので大慌て.結局はケリがついたが,また足が遠のくなあ.

◆夜は,バッハのコラールが鳴り響く中,ひたすら原稿書きに勤しむ.“カモノハシ”というのはやはり特異な生き物で,いろいろな目線での描かれ方をしている.エーコの本はもちろんだが,絵本になるとメッセージがさらに鮮明だ:ジェラール・ステア,ウィリー・グラサウア(河野万里子訳)『カモノハシくんはどこ?:生きものの分類学入門』(2002年4月30日刊行, 福音館書店, ISBN:4-8340-1836-9 → 目次).「分類困難生物」はその存在自体が話題性をもつということ.ネタです,タネです,【種】です.カモノハシくん,大活躍.

—— 1/4くらい書けたかなあ.※まだまだぁ.

◆ギリシャ追憶(7) —— デルフィのアポロン神殿を含む一帯は世界遺産に指定されている.しかし,そこを登る者にとっては,遺産だろうが胃散だろうが何の関係もない.麓の駐車場に停車したバスから吐き出された大会参加者たちは,そこから黙々と坂道を登りつめ,神殿へと向かわねばならない.パトラスあたりの平らなビーチに慣れた参加者にとっては,これはなかなかの難行苦行だ.お年を召した F. James Rohlf 夫妻は Neyman - Pearson 的な意思決定により早々とリタイアし,博物館近くのカフェに退避した気配.山登り組は延々と20分ほども進軍し続けただろうか.上を見上げるとそこにはアポロン神殿の柱がずらっと.おお,ここか.これが神託を受ける聖なる場所かと思ったら,まだまだ先があるのだった.坂道をさらに登り続ける.登りきれば,そこには建物あり,競技場あり,円形舞台あり.上を見上げても下を見下ろしても古代遺跡が広がる.こんな峻険な山の中腹にこれだけの規模の建造物を造るというのは驚きだ.同行した Eva Jablonka さんに写真を撮ってもらった.彼女は今年の10月に来日して京都に滞在する.

◆本日の総歩数=7042歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=0.0kg/+0.3%.


20 augustus 2007(月) ※ 残暑と原稿と雑用の一週間が始まって

◆午前5時起床.ここのところ朝の自然起床時間が遅くなっている.午前5時にのっそり目覚めているようでは話にならない.雲が多い早朝は気温25.0度.

◆早朝のこまごま —— 頼まれ書類の作成など.滑り込みセーフ.

◆〈女書〉というものありて —— 細見三英子『中国「女書」探訪』(2007年8月15日刊行, 新潮社, ISBN:978-4-10-305271-5 → 目次版元ページ).この本,わざわざハードカバーで出すほどの分量ではない.新書か選書の体裁で十分ではないか.全部で「17章」もあるのに,各章が平均して数ページ〜10ページ程度しかないというのは,構成として奇妙だ.内容はとてもおもしろそう.「女書」というのは初めて目にすることばだったが,少し調べてみたら研究サイトがいくつかあって,たとえば〈女書世界(World of Nushu)〉というサイトが挙げられる.これまで息長く調べられてきたことを知る.

◆午前10時半の気温は29.8度.今日も真夏日になるのだろうな.午前のこまごま —— 某書店から生物学哲学の論文集を出しませんかというプロポーザルが届く.悪い話ではないので,『科学哲学』誌の執筆者連にメールで連絡する.やはり“離陸”をするまでがたいへんだ./ 隣りの研究所の知人から,巨大系統樹を推定する問題について電話で相談を受ける.アラインメントに大きな問題がないようでしたら,トライしてみましょう./ PAUP* の崩壊指数計算に関する質問に答える.この件はすぐに完了した.

◆晴れ渡る昼休みをはさんで午後のこまごま —— メーリングリストの管理作業など,ちょちょいと.進化学会関連の連絡とか.大会までに決めること:総会の司会役,授賞式の写真撮影担当,ポスター審査体制(一般&高校生)etc.直前になるとわらわらと「とど」が出現するにちがいないが,大きい「とど」は早く仕留めておこう./ そういえば,夏休み前の東大の成績評価はいつまでだったかな?(ん?)

◆ほんとうは『』の連載原稿(4回目)をさくさくと書かねばならないのだが,関係しそうな資料や本が机の上に次々と積みあがるばかりで,肝心の文章書きがはかばかしくない.第3回目が掲載されている9月号が今日届き,そして今日が次の4回目原稿の締切日なのだが,どこかでイッキに“離陸”して,定速飛行したいなあ.しないとなあ. —— と思っていたら,午後4時過ぎに音羽から探針電話が.スルドすぎます,ハイ.あ,書かないと書かないと.はっ,モリスもモリスも.

◆国会図書館から文書公開とデータベース登録依頼 —— 故・太田邦昌さんの〈著述目録〉へのリンクを張らせてほしいとのこと.同図書館の〈Dnavi〉(=国立国会図書館データベース・ナビゲーション・サービス)の事業の一環だそうだ.とくに問題はなさそうなので,承諾しましょう.いくつか報告する項目があるので,さっそく返信して処理完了.※リンクはすでに張られている

◆締切の夜に原稿を書くワタシ —— 午後5時前,気温31.4度の中を自宅に帰り着いたら,案の定『本』の新刊9月号が届いていた:三中信宏「〈生物の樹・科学の樹〉第3回:種に交わればキリがない」(pp. 34-41).先月も,雑誌が届いてから,自分の書いた文章を一読し,そしておもむろに次回の原稿を書き進めた記憶がある.今回もそうかも.書きます書きます —— 三中信宏「〈生物の樹・科学の樹〉第4回:種よ,人の望みの喜びよ」(仮題).※【種】の大好きなそこのアナタ,ぜひ読んでね.あと何回かは「the species problem」と格闘することになりますので.

—— しかし,午後10時過ぎにガス欠になってあえなく沈没.すまぬ…….明日が正念場だ.※まだ“マイナス1日”もあるし…….

◆ギリシャ追憶(6) —— 学会のツアー・バスは,コリンティアコス湾沿岸に点在するリゾート地をあとにして,パルナッソス山の山肌を巻くようにしだいに高度を上げていく.険しいむき出しの山肌が遠くにまた近くに見える.妙義山あたりの地形と似ているようだが,標高はもっと高い.この季節,平地では30度を大きく上回る暑さだったが,山の上では20度台の涼しさで,途中,国立公園の中で昼食休憩したときは肌寒いほどだった(ガスがかかっていたせいかもしれない).ギリシャの山の上でカスクルート様のサンドイッチをかじるのは不思議な感じ.フランス風のバゲットとはちがうので“カスクルート”と呼ぶのは正確ではないかもしれない.ギリシャのパン屋には他国にはないパンがいくつかあった.名前を控えてこなかったのだが,ドイツで見るようなブレッツェルが巨大化したようなパンを売る屋台を船着き場や町中でよく見かけた.ずいぶん前に読んだ:藤本徹『パンの源流を旅する』(1992年12月25日刊行, 編集工房ノア, ISBNなし)には,自らもパン職人である著者がかつてめぐり歩いたギリシャで見聞したパンのことがいろいろ書かれていて参考になった(pp. 56-81).しかし,ぼくらはパンを喰いにわざわざここまで来たわけではない.目指すはアポロン神殿だ.ギリシャの神々からありがたい神託を受けるのだ.それでこそ正しい学会参加者だ.

◆本日の総歩数=7593歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.6kg/0.0%.


19 augustus 2007(日) ※ 夏への揺り戻しは Corona Extra で対抗

◆午前6時起床.昨夜はたいへんよく寝られたので,今朝はついつい寝過ごしてしまった.今日は残暑の暑さが再び戻ってくる気配がする.

◆今朝も歩き読むに出かけるが,日射しも強く夏らしい暑さだ —— 山本義隆『一六世紀文化革命(2)』(2007年4月16日刊行, みすず書房, ISBN:9784622072874 → 目次版元ページ).本書全体を締めくくる総括に議論は進む.第9章「一六世紀ヨーロッパの言語革命」では,ヨーロッパにおいてそれまで社会的にも学問的にも権威を保ち続けていたラテン語が,“俗語”に取って代わられる過程を本書のテーマと絡めて論じる.ラテン語を操れる社会的階層のみが高い地位を得ていた背景には,「知識はみだりに開示させない」というモットーがあると著者は言う:

このようなヨーロッパの知識層における知の秘匿体質ともいうべきものの根っこは古代にまで遡る.古来ヨーロッパにおいては,神から与えられた真理は不心得者の手に入らぬようにみだりに公にしてはならない,という観念がひろくゆき渡っていた.(p. 571)

初期ルネサンスを代表する知識人ピコ・デラ・ミランドラは,「至高なる神性の秘義を民衆に公にすることは,聖なるものを犬に投げ与えたり,豚の集まるなかに真珠をばらまいたりする以外の何であったでしょうか」(p. 573)とまで言っていた.ところが,16世紀の職人的技能者たちの科学技術の発展は,彼らが日常的に話す“俗語”(フランス語,ドイツ語,英語,オランダ語,イタリア語などを指す)の地位を着実に上げることになった.この「言語革命」が「一六世紀文化革命」と並走していたことに著者は注目する:

地域的な話し言葉であった俗語方言のひとつが他の諸方言を上回る有力言語として規範化され,さらには文法的に整備されて標準化されて「国語」に成長し,それと同時に語彙が豊富化されて込み入った思想表現に耐えるように鋳直され,やがてラテン語使用が絶対的であった領域にまで使用されるようになる過程は,言語革命とも言うべき根底的な変化である.一六世紀文化革命にはこの言語革命が伴っていたのである.(p. 588)

印刷術の普及とともに,言語のシェアの社会的影響力はますます拡大される.16世紀はじめには,ラテン語 vs 俗語の出版比率は6:4だったが,16世紀末にはその比率は完全に逆転して「3:7」になったそうだ(p. 593,図9.3).この言語革命の後押しによって「一七世紀科学革命」が推進されたと著者は言う.

最終章の第10章「一六世紀文化革命と一七世紀科学革命」では,これまでの論議を総括し,16世紀から17世紀への,さらには現代にいたる射程を据える.一六世紀文化革命が知識の世界に与えた大きなインパクトのひとつは,知を秘匿せず,積極的に公開していこうとする姿勢にある:

俗語で執筆した芸術家や外科医や職人や技術者を突き動かしていたのは,伝承されてきた技術だけではなく,研究の成果や実験の結果は公開され社会的に共有され利用されなければならないという思いであった.(p. 661)

しかし,このような“下からの突き上げ”はやがて新しい世代の知的エリート層の出現によってしだいに変質していく.伝統的科学から実践的技術への移行は,17世紀になると再び新しい性格をもった科学への回帰につながっていった.

科学と技術との関係は,一九世紀以降には科学の成果を技術的に応用するという形が通常であるが,一七世紀にはむしろ科学が技術から学ぶ,ないし先行する技術を科学研究にもちいるという形でおこなわれたのである.それは一六世紀に職人や技術者からなされた提起を一七世紀の先進的な知識人たちが受け止めたことに始まる.(p. 686)

一六世紀の段階ではイニシアチブは職人たちの側にあり,技術が先行していた.すくなくとも職人たちにあり,技術が先行していた.すくなくとも職人たちの示した主体性はもっとはっきり認められるベきである.科学者や知識人が職人や技術者の実践を汲み上げたというよりは,職人たちが自分たちの言葉で自分たちの仕事を語ることで,経験知の優位を主張し,自分たちの方法の有効性を学者に訴えたのである.こうして職人たちは,それまで疎外されていた文字文化の世界に越境し,学問世界にかかわっていた.それは「一六世紀文化革命」と称されるに値する知の世界の地殻変動だった.(p. 718)p

しかし,16世紀から17世紀へと時代が移るとともに,知識世界の風景は変わっていった.科学的知識の主導権は再び揺り戻されたからである:

かくして先進的な芸術家や職人や商人や外科医によって推進された一六世紀文化革命は,一七世紀になって,[…中略…]総体として見ればその成果をエリート知識人に引き渡すことによって終焉を迎えることになった.高等教育を受け論証のトレーニングを積んだ知識人たちが経験科学の手法を身につけ,一六世紀に開始された知の世界の変革のヘゲモニーを奪還することによって,科学革命の勝利の進軍が華々しく開始された.(p. 720)

著者は,近代科学の成立に潜む「攻撃性」に着目し,それをどのようにすればいいのかについても議論している(「あとがき」でも述べられている):

近代科学,とりわけ物理学の成功の根拠は,ひとつには人間の感覚を飛躍的に拡大させた観測装置と精巧な測定機器を駆使した実験技術の開発であり,いまひとつはスコラ学の言う「本質」の追究を放棄し,その目的と守備範囲を数学的法則の確定に限定したことにあり,そして第三に,理論と実験を巧妙に結合したことにあった.(p. 707)

著者は,現代科学の「攻撃性」に対抗する手段として,16世紀の技術者たちがもっていた中世的な「自然への畏怖」という観念を再評価しようとする(pp. 713-714).本書の末尾ではこう書かれている:

フランシス・ベーコンのような自然にたいするその攻撃的な姿勢は現在なんらかの歯止めを必要とするレベルにまで到達しているのであって,その歯止めは基本的には自然にたいする畏れに根ざさなければならないからである.(p. 721)

著者の専門は物理学なので,論議のウェイトが物理学に置かれることは自然だろう.しかし,同じ自然科学の中でも性格のちがいは考慮されるべきだろう.無事に「本質」を捨てることができた物理学のような科学もあるが,その一方で「本質」を概念的にひきずったまま現在にいたる生物学のような科学もあるからだ.本書で扱われてきたテーマは生物学にウェイトを置いて論じるとしたら,別の文脈が見えてくるかもしれない.

著者のいう「自然にたいする畏れ」というのは,ヒトとしての現象世界(the phenomenal world)に関する認知的知識体系に関わる.自然誌の世界では,認知的分類体系の枠を越える博物学的知識が流入してきた時点で,ナイーヴな認知カテゴリー化では処理しきれず,分類の方法論に関する論議をせざるを得なくなった.リンネ以後の博物学者たちは,「自然にたいする畏れ」などと言ってはいられなくなったということだろう.増大し続ける情報量のもとで,ヒトとしての素朴な世界認識論をもちだしてもおそらく何の効力ももたないだろう.「自然にたいする畏れ」が効力を持ち得るのは現象世界が十分に狭いときにかぎられるだろうから,そういう世界に戻りましょうという究極の回帰を求めているとしたら話は別だが.

—— ということで,本書全体を通して,科学的知識のヨーロッパ社会の中での「動き」についてはとてもよく理解できるし,「一六世紀文化革命」なるものの果たしたであろう役割についても説得力がある.ただし,現代科学の抱える根本的問題の解決として,「一六世紀文化革命」当時の世界観をもちだすところはいただけない.それ以外の部分についてはとても広汎なスケールをもった議論が書き綴られているのだが,将来への著者のヴィジョンということになると,とたんに「物理学」にしか目を向けていないように感じられる.この落差はとても鋭利で,科学を論じることの難しさを逆に感じ取ってしまう.奇矯なコメントではないと思う.「自然にたいする畏れ」という観念それ自体の背後にある進化心理的な基盤を考えれば,それを安直にもちだすことは最初からできない相談だ.それは再評価されるようなものではなく,ずっと昔からビルトインされていて,その意味で中世的心性(もっと遡ってもいいだろう)は生き続けているのだから.

◆朝から気温が高かったが,午後になると雲もなく晴れ上がり,まっとうな夏の暑さになった.しかし,先日までの常軌を逸した酷暑ではないので,微笑んで天を許してあげたいところだが,暑いものは暑い.こういう日の夕暮れは,Corona Extra できっちり対抗しよう.ライムの準備完了!

◆夜は頼まれ文書作成と『本』の連載原稿書き始め.はたしてどこまで書けるのか.

◆ギリシャ追憶(5) —— 学会大会の中日に,大会の公式行事として,デルフィのアポロン神殿へのツアーが催された.大きな国際会議だったので,対岸デルフィ方面,内陸オリンピア方面,そしてナフプリオン方面などいくつかのツアー・コースが設定されていた.当日は朝からすっきり晴れ渡る遠足日和だった.長丁場の学会なのでバスを連ねての“遠足”は大会参加者にとっての息抜きだ.パトラスから北に向かい,古い砦の遺跡が残るリオからフェリーに乗り,対岸のアンティリオに渡る.当時,ちょうどリオからアンティリオへの架橋が建設中だったが,それは2004年のアテネ・オリンピックのための工事だったと聞く.連絡フェリーから見える杭のような橋脚部だけが脳裏に残っている.渡ってからは再びバスに乗り,コリンティアコス湾を右手に,オリーヴ畑を左手に見ながらしだいに山腹を上り始める.アテネからコリントスにかけての一帯は草木一本見当たらない荒涼とした景色が広がっていたが,半島の奥に入るとともに緑が多くなってくる.それは対岸にもあてはまり,標高2,500mのパルナッソス山を取り囲む地域は国立公園に指定されている自然保護地域だった.

◆本日の総歩数=13562歩[うち「しっかり歩数」=10132歩/86分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.7kg/−1.3%.


18 augustus 2007(土) ※ 一夜にして夏から秋へと急転直下

◆午前5時起床.昨日までの酷暑からは想像もできないほどの冷涼な明け方.曇り.北東の風が吹き抜ける.最低気温は20度そこそこではないか.脱熱帯夜.極楽だ,天国だ,桃源郷だ.

◆ということで,たいへん久しぶりの朝の歩き読み —— 山本義隆『一六世紀文化革命(2)』(2007年4月16日刊行, みすず書房, ISBN:9784622072874 → 目次版元ページ).上巻を6月はじめに読み終えてから,2ヶ月も時間が空いてしまった.第6章「軍事革命と機械学・力学の勃興」はタルターリアやシモン・ステヴィンらが主役だ.実用的な技術としての,機械学(静力学)と力学(運動理論)が当時の社会のどのような要請のもとで展開してきたのかを論じる.落体の実験はガリレオに先立ってステヴィンが行なっていたそうだ(p. 406).著者は言う:

天才の世紀たる一七世紀は一六世紀にその助走が始まり,土台の建設が進められていたのである.(p. 406)

本書全体がその「助走」がいかなるものだったのかの解明に当てられている.続く第7章「天文学・地理学と研究の組織化」では,チコ・ブラーエの天文学研究やメルカトールの地図製作を通して,一六世紀の数理技能者(mathematical practitioners : p. 454)の活躍を論じる.そして,かれらの卓越した技術が,軍事や航海,産業など国家の動勢に影響を及ぼすようになるとともに,サイエンスの社会的な位置付けが変わっていったと著者は指摘する:

チコ・ブラーエにフヴェーン島を授けたデンマークの国王も,占星術に囚われていたとはいえ,同時に「科学が国家に威信をもたらし,国の防備を強化することを知悉していた」のである.チコ・ブラーエを生み出してゆく過程は,新しい科学のヘゲモニーが国家ないし知的エリートに移行してゆく過程でもあった.それは職人たちによる一六世紀文化革命の成果が支配階級に属する知的エリートに簒奪されてやく過程でもあった.(p. 503)

上巻ではあまり感じなかったのだが,下巻に進むとしだいに“社会構築論”的な著者の姿勢がしだいに強まってくるようだ.そして,次の第8章「一六世紀後半のイングランド」では,職人技能者による実践的科学技術が“支配階級”に奪われていった典型的なケースとして,十六世紀の英国に目を向ける.

—— 筑波大構内を1時間半ほど徘徊したのだが,今朝は打って変わって涼しい朝で,たいへん快適な歩行読書を楽しむことができた.昨日までの天候との落差はあまりにも大きい.

◆〈leeswijzer〉アクセス「40万台」に —— 昨夜のうちに〈leeswijzer〉のアクセス・カウンタが「40万」の大台に乗った.昨日,最後に見たときはまだ「399,950」くらいだったのですが,その後,アルザスの伏兵 Gewurztraminer に不覚にもノックアウトされてしまったために,記念すべきキリ番を目撃することができなかった.今朝開いてみたら,それからもう数百も進んでいる状態で.アクセス数「30万」に到達したのが今年の3月24日のことだったから,5ヶ月弱で10万アクセスということになる.1日あたりで平均すればほぼ「650回/日」という閲覧頻度です.最近1年を振り返ると,この月平均頻度はあまり変わりない.どうもありがとうございます.今後ともよろしく.

◆日中いっぱい,晴れときどき曇り.北寄りの風がいつも吹いて,気温はおそらく10度は低い夏日あたりだろう.今日だけはエアコンともすっぱり縁が切れた.気持ちよくゆらゆらと,すべてを放り出してうつらうつらと.パラダイスな1日.

◆夕刻に“離陸準備”を始める —— 『』の連載締切(4回目)がまたまた迫ってきた.護摩壇をしつらえ,五芒星を刻みつけ,【呪】を念じる.『禁断の書』を静かにひもとき,来たるべきジハードを想い描く.

◆今日は,仕事優先ではなく,ひとえに快適さ優先の1日だった.善哉善哉.

◆ギリシャ追憶(4) —— ギリシャといえば,まずはアテネそしてエーゲ海の島々くらいしか思い浮かばないのだが,国土の広さは実際に来てみないと実感できないだろう.パトラス港はパトライコス湾の中にあり,その外はイオニア海,さらにイタリアのアドリア海へと続いている.その意味でここは外洋に面したいいロケーションにあるのだが,天気がよい日は北側の対岸メソロンイオンの山々がくっきりと望めた.ペロポネソス半島もその内陸は標高が高いが,対岸に見える「本土」にはさらに急峻な山脈がある.半島と「本土」を隔てているコリンティアコス湾はたかだか数十キロしか幅がない.気温は高くても湿度が低いこの土地では,建物の白壁にまぶしいほどの陽光が遮るものなく降り注いだ.晴れた朝には,多くの船舶が行き来する湾の向こうに,対岸の山々が高く聳え立っているのがホテルの部屋から見えた.午後の長いシエスタをホテルでごろごろしているときも,バルコニー越しに遠くまで見渡せた.パラダイスだなあ.多くの旅人にとってのパトラスは単なる「中継地点」であって,イタリアからフェリーでやってきた彼らはそそくさとアテネ方面に向かうそうだ.しかし,同じ所に一週間も居続ければたちまち“都”になったりする.

◆本日の総歩数=13434歩[うち「しっかり歩数」=11697歩/99分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.1kg/+0.9%.


17 augustus 2007(金) ※ 今日はとても涼しいぞ.33度だから

◆午前5時起床.晴れときどき曇り.気温27.2度.昨日の熱気がまだ漂っているのだろう.しかし,夜明けは着実に遅くなり,ツクツクボウシの鳴き声が増してきた.今年の「夏」ももう終盤だ.

◆早朝のこまごま —— 昨夜の続きの原稿の付記として系統推定ソフトウェア・リストをちゃちゃっとつくる.午前6時過ぎに事務局にメールで原稿を送信.ところが,直後に細かいミスが目についてしまい.こちょこちょと訂正した改訂稿を午前9時過ぎに再度送信.これで終わりかと思いきや,引用文献リストに瑕疵があることが発覚してしまう.またまた修正して1時間後に今度こその原稿送信.ページがさらに1枚多くなってしまった./ ついでに,来月上旬に予定されている動物衛生研究所主催の「獣医疫学講習」での系統学講義に伴う配布資料もつくってしまった.お隣の研究所の担当者にメール送信して,これまた一件落着だ.もう昼休みだ.

◆午前11時半の気温は32.8度.そして昼休みには32.9度になった.致死的な38度台に達した昨日に比べればずっと涼しいじゃないか.快適じゃないか.ねえ.※同意してねー.

◆午後はネマトーダ原稿の加筆.午後3時前に Olia さんが来て,ごく最節約的にミーティングする.沖縄に線虫採集に行ったときハブにやられそうになったとか.線虫採りはイノチ知らずだ.第一論文の系統推定の節についてはこれでOKにして,共著者たちにまわすとのこと.今日は,第二論文についての打合せ.大きな仮説を打ち出すには系統樹がしっかりしていないといけない.責任が増量だ.

◆昼下がりの進化学会雑用 —— 受賞者とか評議員会に関する事務メールなどなど.くるくるとメールを書いたり返事されたり.くるりくるりと.総会の司会者候補に白羽の矢を立てる.※観念しましょうね.

◆夕方5時前に撤収する.雲の多い西空に黒く赤っぽい夕焼けが広がる.あまり見ない空の色だ.しかし,今日は確かに昨日よりも気温が低く快適で,北寄りの涼風まで吹いてきた.気分がよいので,〈ボンサンテ〉で買ったアルザス・ワイン2本をぶらさげて帰還する:「Gustave Lorentz 2003 (Riesling)」と「Paul Ginglinger 2004 (Gewurztraminer)」.フランスにあるとはいえ,いかにもドイツ的なお名前で.※いかがなもんでしょ?(誰に訊いてるねん)

◆夜7時頃に雷が光った.遠雷だが,スコールでも来るのかな.今夜は Gewurztraminer でノックアウトでございました.このパンチはフェイントだあ.1本ほど呑んであえなく撃沈されるワタシ.アルザスワインにはアルザス料理とのことで,とくに豚肉料理が合うとのこと.日曜日のシュークルートに,月曜日のベッコフか.メモメモ.

◆ギリシャ追憶(3) —— パトラス(→案内サイト)はペロポネソス半島最大の港町としての顔とともに,半島をまわる鉄道路線の拠点でもある.アテネを始発駅として,コリントス運河を越え,パトラスまで内湾の海沿いを走る鉄道は,パトラスのさらに南から半島内部のオリンピアにいたる.アテネからパトラスまでの道路に沿って鉄路が走っていたが,ずっと単線だったような記憶がある.列車だと4時間の旅になるそうだ.Astir Hotel の部屋からはそのパトラス駅の構内がよく見えた.鉄道の便数こそ少ないものの(日本に比べればだが),長い列車が長い警笛を鳴らしながら駅に出入りする情景は何処も同じだ.フェリーの汽笛と列車の警笛がたまに交わることもあったかもしれない.テレビ朝日(編)『世界の車窓から:あこがれの鉄道旅行 Vol. 3 —— 歴史街道を走る』(2006年6月2日刊行, テレビ朝日, ISBN:4-88131-296-0[DVD付き] → 版元ページ番組サイト)には,このペロポネソス鉄道の映像が載っている.なつかしいな.昨年(2006年),パトラスは〈ヨーロッパ文化都市〉に選ばれたという(→〈Πατρα2006〉).

◆本日の総歩数=6897歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=+0.3kg/+0.4%.


16 augustus 2007(木) ※ 最高気温38.0度にじっと耐えるべし

◆午前5時半起床.晴れ.相変わらず朝日がぎらぎらしている.気温27.4度.もう何も言うまい…….

◆早朝のこまごま —— 進化学会関連.鶴の一声で最後の授賞予定者が正式に確定した.さっそく関係者に連絡し,作文し,段取りをつける必要あり.ぼくには不向きな仕事なんだってば./ 9月の振替休日は,20日(木)と27日(木)に取る予定.来月のカレンダーをめくってみると,つくばの居室に実在するのはたった「7日」しかない.労働日が18日間だから,実在率はなんと「7/18=0.39」だ.鉄砲玉のように出撃しては帰ってこないワタシ.

◆暑い日の厚い新刊 —— 今月の〈赤表紙〉本は:須藤調任(責任編集)『哲学の歴史・第9巻:反哲学と世紀末 マルクス・ニーチェ・フロイト【19〜20世紀】』(2007年8月10日刊行, 中央公論新社, ISBN:978-4-12-403526-1 → 版元ページ).中央公論新社の創業120周年記念出版であるシリーズ〈哲学の歴史〉の第5回配本だ.

◆午前中はひたすら原稿を書き続ける.午前10時過ぎにコンテンツを書き終える.昨日と今日で結局 400×12枚ほど書き足したことになる.原稿全部で50枚弱.わーど変形は午後の作業にしよう.外は昨日並みに暑そうで外出するには覚悟が必要だ.

◆さあ,今日も元気よく暑くなろう —— ということで,午後の気温変化をトレース.午後1時「37.3度」→午後2時「38.0度」→午後3時「37.2度」…….書いているうちに汗が出てきた.ニュースを見ると,多治見や熊谷では実に「40.9度」にも達し,74年ぶりに国内の最高気温記録が塗り替えられたと報じられている.

—— あまりに暑いと,思考力が如実に低下して,何でもええやん,どーでもええやん,ええやんええやんとつぶやいてしまう.こういうときに事務書類を書いたりするとえらいことになる.

◆しかし,どーでもよくはない午後のこまごま —— 進化学会の教育啓蒙賞受賞者がやっと決まったので,本人にメールで事前連絡し,9月1日の授賞式への参加意志を確認する.お盆休みで応答が遅いかも./ それと並行して,遅くなってしまった評議員会への選考結果報告書の文案ならびに受賞者への正式通知書の文案をひねり出す.すべての連絡がすんだのは午後4時のことだった./ 進化学会総会の司会者に目星をつけて召還するも,今回は京都に行かないとの返事が返ってきたので,別人を呼び出さないといけないな.

◆西日がぎらぎらする夕刻の別件こまごま —— 進化学会出張中の9月1日(土)と翌2日(日)の振替は,9月20日(木)と27日(木)に決定した.9月のワタシはつくばでは捕捉されにくいぞ./ 大分巡業の事務連絡.高座前後の移動日は向こうもちになった.ありがたいことだ.これで余裕をもって行動できる.航空券の手配はこちらで行なうが,宿泊の先の件ではなお詰める必要あり.

◆午後5時過ぎに早々に撤収する.気温はなお34.7度.真っ赤に焼けた備長炭のような夕焼け雲が西空に散らばって広がる(暑苦しい比喩はよせ).今日は夕立の「ゆ」もなさそうだ.地表から上空まで熱気のみが詰め込まれているのだろう.今夜も熱帯夜は不可避だろう.

◆夜,講演原稿の「わーど変形」作業を進める.おせっかいな自動編集処理はよせ.勝手にハイパーリンクを張るのはよせ.行の字詰めにノーと言うのはよせ.しだいに疲労感がにじみだし,ええやんええやんどーでもええやん(心の声).しかし,いったん離陸して水平飛行になると,定速でそれなりに書き進められてしまう.文章を書くときはうまく“離陸”できるかどうかがポイントで,それだけの助走の余裕があれば問題はない.しかし,たいていの場合,諸般の雑用に追いまくられて,長い“滑走路”が確保できないために,いつまでたっても“離陸”できないことがある.“離陸”するまでにどれだけの長さの“滑走路”が必要かは個人差が大きいと思うが,ぼくの場合はそれがかなり長いようだ.わが“滑走路”の必要条件はもうわかっていて,「分断されない数時間」がないと離陸できない.途中で一瞬でも「中断」が入るとリセットされてしまう.

早朝や夜は比較的「中断」が起こりにくいので“離陸”しやすい.今夜もすんなりと“離陸”できたので,日が変わる直前にほぼ完成することができた.あとは明日の早朝に系統推定ソフトウェア・リストを添付すればおしまいだ.400字詰にして約50枚.

—— さて,深夜の“着陸”体勢に入ろう.

◆ギリシャ追憶(2) —— ぼくが学会期間中に滞在した Astir Hotel は港に面して聳え立っていたので,部屋からはパトラス港がとてもよく見えた.朝夕はテラスで船の出入りを眺める時間が多かった.パトラス港はギリシャ国内だけでなくイオニア海を横断してくる国際航路の要衝であり,とくに海路的にもっとも近いイタリアとの間では頻繁にフェリーや貨物船が行き来している.ここはきっと天然の良港なのだろう.大型の貨客船が桟橋に付くたびに旅行者の大群が吐き出されていた.バックパッカーも多く,港の観光案内所にはイタリア語とドイツ語の観光パンフレットはずらっと並んでいたが,英語の案内は見当たらなかった.この港町をよく利用する客層の国籍がうかがえる.

◆本日の総歩数=5650歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.3kg/−0.5%.


15 augustus 2007(水) ※ 極限環境に挑む農環研バイオスフィア

◆午前5時起床.朝日が照りつける.気温26.8度.尋常ではないぞ.午前10時半には33.2度ですか.はいはい.お好きにどーぞ.

◆猛暑予想日に届く雑誌 —— 『科学哲学 40巻1号』(2007年7月30日発行, 日本科学哲学会, ISBN:978-4-411-90172-9 / ISSN:0289-3428).2006年秋に北海道大学で開催された日本科学哲学会大会での生物学哲学ワークショップに基づく特集〈生物学の哲学の現状と展望〉が掲載されている.ワタクシの原稿が遅くなってしまって申し訳ありませんでした.最新号の目次は学会サイトから公開されている(→ pdf: 150KB).特集部分の目次をば:〈特集 生物学の哲学の現状と展望〉−松本俊吉:「ワークショップ報告者諸氏の議論への〈補遺〉」 pp. 1-13 / 森元良太:「進化論の還元不可能性」 pp. 15-27 / 大塚淳:「結局, 機能とは何だったのか」 pp. 29-41 / 三中信宏:「科学哲学は役に立ったか:現代生物体系学における科学と科学哲学の相利共生」 pp. 43-54.

◆原稿を書き続けて午前が終わった.アタッカで昼休みに突入.居室の空調は全開にしてある.いつもなら「22度台」にまで冷却されるのに,今日にかぎってはいつまでたっても「28度台」までしか下がらない.午後1時過ぎ,農環研の温度計は「36.1度」を指した.昨日よりもいちだんと暑いぞ.極限状況だ.これはもうバイオスフィアに引き蘢るしかない.

◆しかたなく原稿を書く午後 —— 植物細菌病談話会の講演原稿をちくちくと書き進める.チュートリアル的な講演を求められているので,それなりに教育的に書かないと.この原稿をそのまま来月の動物衛生研究所での系統学講義の配布資料にしてしまおうという算段もある.最初はぜんぜん積極的ではなかったのだが,出だしの「アジびら」を書いているうちに,ふいにエンジンがかかってしまって一気に5枚ほど.スロースターターなワタシ.しかし,動き出すと慣性が大きいせいかなかなか止まらない.アジる文章には自己触媒的な効果があるのかもしれない.本文の中心部分はこれまで用いたコンテンツを借用しつつ.最後のガイダンスの節をこれから書かないといけない.参考文献をそろえる.

◆夕方のこまごま —— 進化学会関連の事務連絡メールを何通か.総会の段取りを連絡する./懸案だった学会賞の最後のひとりが決まりそうだ.滑り込みセーフだろう.どこぞに隠遁している(はずの)音信無し選考委員1名を捜索する極秘指令を特務工作員に送る.※確実に探しだして標的を捕捉せよ,キクマル.

◆午後5時前,あまりに居室が暑いので退却することにした.外気温35.2度.この夏一番の暑さではないか.ほどなく北東方向から雷雲が沸き起こり,稲妻と雷鳴とスコールが.久しぶりの降雨だ.それにしても気温高過ぎ.湿った熱風が渦巻いている.

◆帰宅後に,再び原稿書きの続き.系統推定論をこれから勉強するため人のためにガイドを書く.参考書とインターネット資源について.午後10時までに6枚ほど書き進め,結局,全体で400字詰にして45枚ほどの分量になった.ひょっとしたら多すぎるかな.あとはわーどに移して指定された書式通りに文書整形するというやっかいな仕事が待っている.

◆雷雨はすぐに止み,高温と湿気だけがあとに残った.窓を開けていられないほどの不快さだ.ニュースによると,館林では40.2度の最高気温だったとか.尋常ではない.

◆夜遅くなって,秘密工作犬キクマルの八面六臂の大活躍により,ヒメを捕捉できた.返事は「OK」.これで無事に受賞候補者全員が確定とあいなった.よかったよかった.授賞タイトルと授賞理由をこれからひねりましょう.

◆ギリシャ追憶(1) —— dagboek に画像を載せ始めたのは2003年になってからのことだ.それ以前については文字だけで書き綴っていたのだが,毎年,夏になると2002年に訪れたギリシャの港町を思い出す(→ ICSEB VI パトラス大会).そのときはデジカメではなかったのだが,昨日ふと思い立って,いくつかめぼしい写真を jpeg 画像にしてみた.ぼくが言ったのは2002年の9月はじめだったが,地中海の夏の気候風土の記憶がふたたび形をなしてくる気がする.9月とはいえ,ひたすら暑く,そしてシー・リゾートと食の街でもあった.おそらく二度と行く機会がない場所だろうから,よけいに記憶に深く刻まれているのかもしれない.

せっかくなので,1日1枚ずつ語ることにしよう.ぼくが1週間に渡って滞在したのは,ギリシャのペロポネソス半島の北東に位置する港町パトラスだった.第5回国際系統進化生物学会(ICSEB-V)がこの町にあるパトラス大学で開催された.上の写真は日本から片道三日をかけてパリとアテネ経由でパトラスに着いた日に,市街地を見下ろす高台にある古代ギリシャの砦からパトラスの全景を撮った1枚だ.この日は青空が広がる絶好の日和で,港町の向こうに広がるイオニア海と対岸の山まできれいに撮れた.

◆本日の総歩数=7468歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=+0.3kg/+0.7%.


14 augustus 2007(火) ※ 拷問的猛暑の労働日でふらふらになる

◆午前5時起床.まだ起床時間が平常化していないな.朝から晴れときどき曇りで,とても蒸し暑い.気温26.1度.当然のごとく熱帯夜だ.予報では今週1週間が暑さの絶好調だという.堪忍してね.

◆久しぶりに研究所に顔を出したら,郵便物や用事がいろいろと積みあがっていた.朝のこまごま —— 進化学会京都大会の公開講演会〈進化研究の最前線に貢献する生き物たち〉のポスターが届いていた.さっそく農環研ロビーに貼り出す許可をもらう./ いくつかの画像ファイルの焼き増しを依頼する.夕方4時以降に引き取り.

◆午前11時過ぎの気温は早くも「34.3度」.先が思いやられる.研究所はお盆休みを取っている職員が多いらしく,人口密度がいつになく低い.確かにこういう労働に不向きなシーズンはすぱっと休んでしまうので精神的にも体調の上でも望ましいのかもしれない.

◆この8月7日に実験的に公開された〈なかのひと〉の新機能:「年齢・性別解析」 —— 組織・機関の“動向”にもとづく集計によりアクセスしてきた年齢と性別を割り出すシステムとのこと.こういう楽しい機能があると遊べていいなあ.ただし,累積アクセス数が少なすぎると算出に時間がかかるそうだが,いったいどういう推定計算をしているのだろう(“ベイジアン”であることは当然だろうが).ぼくの場合,この dagboekleeswijzer にそれぞれ〈なかのひと〉が付いている.いずれも最低ラインをクリアしているので,問題ないだろう.

ということで,試しにやってみました.上図(↑)は dagboek の年齢グラフで,性比は「♀:♂=53:47」だった.一方,右図(→)は leeswijzer の年齢グラフだ.性比は「♀:♂=45:55」となった.いずれも「20 歳前後」の高い山と「40歳代」のなだらかな山の“二峰型”分布になっている.他のサイトの傾向はよく知らないが,これだけ明瞭に「ふた山」に分離している例は珍しいのではないだろうか.共通するのは「30歳」前後の10年ほどの世代のアクセスがきわめて少ないということだ(dagboek だと「ゼロ」にまで落ち込んでいる).

「40歳代の山」は同年代の読者ということで納得できるのだが,「20歳前後の山」はどうにも解せない.artifact じゃないかなあ.ぼくのサイトへの組織からのアクセスの大半は大学と研究機関だが,大学からのアクセスに関しては「年齢に関する事前情報」が学生ベースで決まるだろうから,実際以上に“低年齢化”しているのではないだろうか.学生からのアクセスと教員からのアクセスでは平均年齢は大きく異なるだろう.

—— 研究者ブログの他の解析事例がもっと蓄積されればその理由が解明できるかもしれない.

◆午後1時半の気温は「34.9度」.猛暑日目前の昼下がりもこまごまと —— 共済組合員証検印に伴う書類提出を完了.今年は早いぞ.よしよし./ 男女共同参画委員会からの要請作業を進化学会事務局に丸投げする.よろしく./ 久しぶりのメーリングリストのお世話.お盆中なので堆積埃はほんのわずか./ 督促メールとか.

◆西日が射し込みはじめる午後3時,『蛋白質核酸酵素』誌掲載の書評ゲラを読む:ショーン・B・キャロル(渡辺政隆・経塚淳子訳)『シマウマの縞 蝶の模様:エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源』(2007年4月30日刊行, 光文社, ISBN:9784334961978 → 書評目次版元ページ著者サイト).ざっと見てとくに問題なし.ちょこちょこと加筆修正して,速達で返送完了.掲載は2007年12月号の予定(第52巻12号).

◆新たな原稿仕事の予感 —— 次の締め上げは20日(月)の『本』連載原稿(4回目)かと思っていたら,その前の17日(金)に第24回植物細菌病談話会の原稿の締切が迫っていたことが発覚した.しかもわーどで書けとのお達しだ.苦しいな.

◆西日が強過ぎて早々に撤収する.午後5時.気温はまだ32度もある.よろよろと帰宅したら,音羽から“石責め”用の大きな封筒が届いていた.真夏の Conway Morris は苦行です,ハイ.夕焼けの西空を見れば,はるか彼方から雲霞のごとき椋鳥集団が空に黒胡麻を撒いたように飛び交っている.おお,このみごとな飛行体形は自己組織化的グルーピングか.しかし,こっちのカマジン自己組織化本は京都には間に合わなさそうとの初台からの伝言だ.ううむ.

◆今夜も熱帯夜だそうだ.引き蘢りつつ,植物細菌病談話会の講演原稿をひねり出す.

◆本日の総歩数=7834歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.5kg/−1.8%.


13 augustus 2007(月) ※ お盆休みの月曜日はつくばでお休みを

◆午前5時半起床.朝日を仰いだだけで灰になりそうだ.行った先々も暑かったが,ホームグラウンドがこれでは逃げようがない.あっさりと引きこもりモードに移行する.炎天下をうろうろする気力はもうない.

◆形式的にはお休み中でも,仕事はメール伝いに遠慮なく押し寄せる —— 進化学会の決算と予算の修正文書が届く.プリントアウトしてチェック.監査も終わったし,会計関連の作業はこれでおしまいだ.しかし,大会関連での急ぎの残務がまだ残っている.大小とりまぜてトドたちがのたうつ.大会まであと2週間あまり.段取りよくことを進めないといけない.もともとこういう仕事は向いていないと自認しているのだが,否応なく尻を叩かれる.

◆豊後国巡業次第 —— 大分県から送られてきた jtd ファイルを一太郎ビューワー(Win)で印刷して,やっと依頼された〈数理統計基礎研修〉の全体日程を確認できた.実施期間は2007年11月19日(月),13:00〜21日(水),16:00まで.講義時間は全部で4+7+6=17時間で,大学での集中講義並みだ.場所は大分市の大分県庁OAプラザ.受講者は大分県農林水産研究センターの研究員を対象として定員20名弱とする.〈R〉を用いた実習も含まれていて,この点でも大学での講義形態に似せてある.いずれにせよ,朝の9時から夕方5時過ぎまでというハード・スケジュールだ.話す方も聴く方も消耗するぞ.これは何としても日程の前後に“温泉休養日”を設ける必要があるぞ.前日泊は明礬温泉で,終了日泊は別府温泉で探してみることにしよう.

◆あれやこれやの事務連絡メールを方々に出しまくる夕刻.せっかく自宅に潜んでいるのにこんなことをしていたのでは,いつもの平常営業日と何にも変わりがないではないか —— 進化学会の高校生ポスター発表の件数は,確認したところけっきょく「13件」に増えた.過去最高の応募件数だ.審査する側はたいへんだが,やりがいがあるというものだ.

◆もう「フタ」が開いてしまったので —— 有無を言わさずに相手が自らを開陳してくる.探してもいないのに,見えるところに出てくる相手を無視するわけにはいかない.Philip Kitcher の本となるはずだった『Species』の草稿コピーを故・太田邦昌さんからもらったのは,1980年代なかばのことだったと記憶している.ちょうどその頃,Philosophy of Science 誌に彼が出した,【種】の多元論に関する論文:Philip Kitcher (1984), Species. Philosophy of Science, 51 : 308-333 が出たので,その元原稿かとも思ったのだが,太田さんは「Kitcher が【種】の本を書いているそうだ」と言っていた.ちがう原稿だったのだ.しかし,いくら待ってもそれらしき本は出版されなかった.

後に,Elliott Sober『Reconstructing the Past』(1988)を訳しているとき,参考文献に「Kitcher, P. [ms] : Species. unpublished」という項目を見つけた.出版時期を考えれば,もし Phil. Sci. 誌の論文だったらそう引用しているはずだろう.これは Kitcher の近著のことなのかと Sober さんにメールで質問したら,折り返し「Kitcher (1984) を指していることにしてほしい」と言われた(訳本ではそのように付記した).Kitcher の『Species』が“幻の本”となってしまったことをそのときに実感した.そして,草稿の写しだけがぼくの手元に残り,もう20年も経ってしまった.

活字として公表された原稿は確かに幸せである.その一方で,他から言及されているのに実体のない(あるいは公表されないまま埋もれた)原稿もまた数多くあっただろう.公表をもくろんだのに実現しなかったというのは perish したくない publisher の観点からは挫折かもしれない.しかし,それは必ずしも不幸せとはいえない.関係者のみからなる人脈ネットワークの間でそれは流通したにちがいないからである.そして,決定的な力をもつのはそういう人脈だから.

◆本日の総歩数=89歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜○.前回比=+0.6kg/+0.6%.


12 augustus 2007(日) ※ ゆるゆると起き,ゆらゆらと帰還する

◆まだ高崎にいる.午前6時過ぎにゆるゆると起床.今日は久しぶりに曇りか.しかし,またまた晴れてきた.昨日は館林で38度を越えたそうだ.茹だるような暑さであっという間に茹であがりだ.

◆今日も暑い日中は,外に出もせずだらだらと【種】の本を読んだりする(暑苦しいな).Stamos 本を中和するために持ち歩いている:Marc Ereshefsky『The Poverty of the Linnaean Hierarchy: A Philosophical Study of Biological Taxonomy』(2001年刊行,Cambridge University Press[Cambridge Studies in Philosophy and Biology], ISBN:0-521-78170-1 → 書評・目次)の「書評」は Part 1 の部分書評のみで,Part 2 と 3 はまだ書いていなかった.全部読み終えたまま書評せずに何年も放置するというのはどうにも気色悪いが,この際,書いてしまうか.

◆夜7時を回ってから,荷物を詰め込んで高崎を出発する.関越道では上り方向の帰省ノロノロ渋滞に断続的に巻き込まれる.外環道から常磐道に入り,つくばに帰り着いたのは午後11時過ぎだった.

—— 今回の遠距離逃避行の総距離数は1,200キロに達した.どこに行っても暑かったなあ(一地点を除いては).

◆本日の総歩数=1641歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=未計測/未計測.


11 augustus 2007(土) ※ ただシンプルに暑い一日を引きこもり

◆高崎の朝.午前5時起床.朝からかーっと照りつける.言うべき言葉を失う.

◆ほんの数日,メール・ボックスを見なかっただけだが,案の定,数千通のメールが溢れかえっていた.定型フィルターでふるい落としたスパムメールが全体の95%超.手動で捨てたメールが1%.残り50通ほどが意味のあるメールだ

◆空白日に堆積していたこまごま —— 進化学会関連:大会関連で要返信メールがいくつかあったので,ちょこちょこと返信する.お盆休みが挟まって,進捗が滞るのは困ったことだ./ 統計研修関連:つくばでの数理統計研修は予定通りの開催になる.場所は基礎篇・応用篇ともにリサーチ・ギャラリーにて.もうひとつ,大分県から依頼されている統計研修だが,文書が jtd ファイルなので中身がぜんぜん読めない.だから,向こう数日間このまま放置しよう.返事を急かされているようだが,仕方ありませんな.※一太郎ファイルを送ってくるということは「急ぎの仕事ではありません」ということです.

◆何かをなすこともなく,酷暑の日中は過ぎていった.夕刻,片岡の〈キッチン真美〉でご飯をば.いま読んでいる:吉田健一『私の食物誌』(2007年7月25日刊行,中央公論新社[中公文庫 BIBLIO B-18-26], ISBN:978-4-12-204891-1)には,上州がいくつか取り上げられている:「群馬県の豚」(p. 63),「群馬県の鶏」(p. 123),「高崎のベーコン」(p. 166),そして「高崎のハム」(p. 172).何のことはない.群馬は“肉の国”だったのか.

〈キッチン真美〉ではメンチカツ定食を食べたが,この地域は本当はソースカツ丼がベスト・チョイスなのだと思う.ただし,よほど“腹力”に余裕がないかぎり,“喰い負け”するので注意しなければならない.「群馬の豚」の中で吉田健一はこう書いている:

又或る店で豚カツを頼んだら丼に飯を盛り,戸棚の引き出しに既に出来上がった豚カツが沢山入っているのから幾切れか取って載せてくれた.それでも冷たくはなかったのは汁が熱くしてあったからだろうと思う.その上に豚カツの量を惜まずに幾切れでも載せてくれて,そのやり方ではやはり旨かったのだから群馬県に豚が多くて肉が旨いことは確かである.(pp. 64-65)

高崎あたりのソースカツ丼のスタイルを知っているなら,上の描写により瞬時にして「パブロフの犬」と化すだろう.しかし,かつてのように〈キッチン真美〉の「上ソースカツ丼」や〈栄寿亭〉の「C丼」を躊躇なく食べきるだけの“腹力”はそろそろ失せてきた気がする.残念なことだが.

※高崎中心部に古くからあった豚かつの〈きらく〉が先ごろ閉店してしまったのはとても惜しい.この店にはメニューには載っていない「海老重」という逸品があった.背で開いて揚げた海老フライをソースに浸してご飯に載せるというお重だった.

◆夜は【種】のお勉強.教材:David N. Stamos『Darwin and the Nature of Species』(2007年刊行,State University of New York Press[SUNY Series in Philosophy and Biology],ISBN:0-7914-6937-9 [hbk] / ISBN:0-7914-6938-7 [pbk] → 目次)をぼちぼちと読み進む.Michael T. Ghiselin(1969)や John Beatty(1985)の“定説” — Darwin は「species taxon realist」だったが,同時に「species category nominalist」でもあった — を覆そうとする本.ダーウィンが自然淘汰という natural law の作用する対象として【種】カテゴリーをみなしていたという証拠を挙げることにより,彼が実は「species category realist」だったという方向に論議を進めていくらしい.

個人的には「phenomenal landscape realist」という考えがあれば十分だろうと思う(【種】は健康に有害です).Ghiselin や Beatty はその線で立論しているわけだし,Darwin や Wiggins だってこの“地形”アナロジーに言及しているのはそこに何かしらの解決の鍵を見ているからだろう.Stamos は論議対象の取捨選択にバイアスのある著者なので,この点についてどのような見解をもっているのかが見物だ.

—— 【種】に交わればキリがない(確かに).

◆長旅の疲れか,午後11時にもならないのに睡魔が降臨してきた.寝不足だったり寝過ぎたりして,体内リズムが不調なのかもしれない.自然のままに睡眠態勢に入る.

◆本日の総歩数=88歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=未計測/未計測.


10 augustus 2007(金) ※ 白川郷から飛騨高山,穂高から上州へ

◆昨夜はとても早く寝てしまったので,丑三つ時から未明にかけて何度も目覚めてしまった.山間で朝日の射し込む時刻が遅いせいか,ひぐらしの鳴き始めはつくばよりも遅く,午前5時近かった.昨夜は幸いにして怪事も惨劇もいっさい起こらず,“ひぐらしのなく頃”になってもとても静かで平穏この上ない夜を送れた.空が明るくなってきて,庄川の流れる音が近くに聞こえる.明け方の気温は20度くらいか.今日もよく晴れて,日中は厳しい暑さになるのだろうが,朝だけはそれを忘れることができる.

午前5時を過ぎて,朝風呂に起き出し,やや傾き加減の廊下をぎしぎしと踏んで,階下に降りる.ここ〈白山館〉の温泉は,その泉源を14キロ離れた地獄谷にもっている.源泉の温度は98.5度.泉質は「含硫黄−ナトリウム−塩化物高温泉」だ.前夜は客が少なかったせいか,夜中に入湯した客がいなかったらしく,明け方に湯屋の扉を開けると,硫黄の臭いがむっとこもっていた.湯船のへりからは溢れた湯が絶え間なく床にこぼれ落ちている.古びた旅館本体からはうかがい知れないことだが,湯屋と温泉はたいへんグレードが高いぞと採点してみる.

源泉から距離がかなり離れているので,引湯の間に温度がそうとう下がっているはずだが,それでも湯船に張られたままでは熱過ぎてとても入れない(引湯した時点でなお65度もあるそうだ).水でうめてもよしとの掲示が壁に貼られているので,ホースでざばざばと水をかけさせてもらう.木造りの湯屋にもうもうと湯気がこもり,寝船に浸かると,射し込む朝日が散乱する.朝風呂ならではの快感だ.午前6時半に温泉街にラジオ体操の町内放送が響き渡り山びこが返ってきた.

◆午前10時前にチェックアウト.今日も晴れて日射しがとても強そうだ.避暑に来たはずなのに,ぜんぜん涼しくないぞ.ここはもう開き直ってしまおう.昨晩はよく寝たので気力・体力は問題ないはずだ.大白川橋を渡って,大規模ロックフィルな御母衣ダムを横に見つつ飛騨高山に向かう.“下界”ではお盆の帰省ラッシュが始まっているにちがいないが,さすがに飛騨の奥まではその余波は伝わってこない.

昼前に,飛騨高山の市街地に入る.もちろん真夏日で,あまりの暑さにくらくらする.景観保全されている旧市街地をめぐってみる.しかし,強烈な陽光だ.たくさんの観光客が行き来するが,風情あるそぞろ歩きというよりは,息も絶え絶えのがまん大会というべきだろう.

◆昼食で飛騨牛をいただいた後,今度こそは涼しくなってやるぞという不退転の決意のもと,さらなる高みへと出発する.目指すは奥穂高だ.飛騨高山から平湯温泉を通り抜け新穂高温泉へ.そして,その行き止まりにある奥穂高ロープウェイが目的地だ.2本のロープウェイを乗り継いで,標高2,100メートルまで登る.気温18度.

どーだこれなら文句はなかろうと,しばし涼んでから再び暑い地上に戻る.今回の避暑行は,最後の最後で当初の旅行目的をむりやり達成させたようなものだった.

◆帰路,安房峠を越え,上高地からの梓川沿いに松本市街地近くまで到達し,長野道に入る.更埴ジャンクションから上信越道をひたすら下り,高崎に入ったのは午後8時前だった.今回の自動車旅の走行距離数は約1,000キロに達した.※あとで新聞を読んだら,今日は関東から北陸にかけての広い地域で今年いちばんの猛暑だったらしい(上州は最高気温が37度台だった).

◆いやはや疲れました.この季節に涼しさを求める旅路はあまりに遠かった.

◆本日の総歩数=9014歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜○.前回比=未計測/未計測.


9 augustus 2007(木) ※ ひぐらしのなく頃に,熱い湯につかる

◆深夜の長野道をひた走る.日中ならば高速道路周りの景色を楽しむこともできただろうが,夜中の運転はただひたすら目的地を目指し,爆走する長距離トラックとの競り合いに負け続けなければならない.関越道や常磐道とはちがって,長野道から北陸道に入ると,夜中走っているのはほとんどトラックだ.SAやPAでも休憩・仮眠中のトラックがずらりと並んでいる.

富山県に入る.午前4時半,北陸道の朝日PAあたりで空が明るくなり始める.午前5時すぎの呉羽PAで夜明け.一休みして,砺波インターで下に降りる.午前6時前のこんな時間帯は街中はがら空きだ,夏の青空のもと,国道156号をひたすら南下し,五箇山への道を登る.今日の日中は「世界遺産」である富山の五箇山から岐阜の白川郷にかけての「合掌造り」をめぐる.白川郷に直接行くのであれば,北陸道の小矢部砺波ジャンクションから左に折れ,まだ南北がつながっていない東海北陸道を南下すれば,現在の北側の終点が白川郷だ.しかし,それでは五箇山を通り過ぎてしまう.

◆いくつかのダム湖を横目に,くねくねした山道をたどる.数々のトンネルをくぐり抜け,五箇山の「相倉合掌集落」に到着したのは午前7時前だった.合掌造りの実物を見たのは初めてのことだが,萱の屋根葺きといい,木造でこれだけ大きな建物を積雪の多いこの地域で維持するのはたいへんなことだろう.合掌造りの建物が民宿や店に転用されている.さらに南に少し下がると「萱沼合掌集落」がある.五箇山に到着した時刻が早過ぎたせいで,案内所も店もまだ開いていない.

◆国道156号をさらに南下する.富山と岐阜の県境を何度も往復し,白川郷に入ったのは午前8時だった.時間的にはまだ早いのだが,朝から開いている〈白川郷の湯〉に立ち寄りで飛び込む.「ナトリウム−塩化物冷鉱泉」というが,鉄分が多いせいで湯の色が赤っぽい.庄川沿いに露天風呂もある広い浴室だったが,誰もいないので独り占め.

◆その後は,白川郷を徘徊したのだが,この真夏日はいったい何なんだ.せっかく避暑に来たはずが,このかんかん照りでは意味がないではないか.それにしてもこの炎天下をよくこれほど多くの観光客が歩き回っているものだ.大した忍耐力ではないか.前夜からの寝不足と長時間運転というハンデを背負っている身としては,できれば涼しいところで永眠したいな.いつまでも.

◆集落の間を縫うように歩き,また高台から見下ろし,さらに周辺の地域にまで足を伸ばしと十分すぎる時間を過ごした.同じ合掌造りの集落であっても,五箇山と白川郷では「観光地度」が大きく異なる.午後3時過ぎ,長時間に渡る旅路の末に,白川郷の南にある平瀬温泉〈白山館〉にたどりつく.白川郷にはもちろん合掌造りの民宿はたくさんあるのだが,温泉宿は少ない.付近で探したところ,たまたま平瀬温泉というのがあったので,宿泊はここになった.古いといえばものすごく古い和風旅館で,床がギシギシいい,2階への階段は急で転げ落ちそうだ.趣きがあってなかなかよろしい.チェックインして,荷物を部屋におろし,しばし爆睡する.前夜からの寝不足と日中の走りまわり&歩きまわりでもう限界だ.

◆夕食の始まる前にまず温泉に入る.旅館のまわりの林ではひぐらしが鳴いている.〈白山館〉の湯屋は本館につながる別棟として造られている.木造の建物で,湯船は広くないが,熱い湯が石壁の上からこんこんと溢れ出て,湯船に流れ込んでいる.湯元の湯気の立ち方が尋常ではなく,触ろうとしたらとても高温だった.湯船に入るときには水でうめないやけどしそう.隣接する男女の浴室は,現在はほぼ完全に分離されているが,以前は「半混浴」だったらしく,湯船の間仕切りの石壁は半分までで,残りは継ぎ足されている.ただし,湯元は共有なので,ワルイ子が身を乗り出して覗き見をすることはできないとはいえないな.

◆あたりが暗くなってきた午後6時過ぎに,階下のいろり端で夕食.手作り豆腐に始まり,山菜料理,飛騨牛,朴葉味噌などなどとても美味かった.この地方の特産である〈どぶろく〉もいただいた.甘味と酸味に籠絡されて呑み過ぎてはいけません.しかし,香ばしい匂いの立つ朴葉味噌を舐めつつ麹の甘味の残るどぶろくを呑むというのは,この地方ならではの愉しみだろう.炭火の上に朴葉を二枚敷き,地元の味噌と刻み葱を乗せて焼くだけというシンプルさにもかかわらず,盃が進み,ご飯の友としてもぴったり.源泉かけ流しの温泉と内容のある夕食でこの宿泊料だったらぼくは納得だ.次回もし来るとしたら雪深い季節かな.

◆読了 —— 小野里公成『日本の花火』(2007年7月10日刊行, 筑摩書房[ちくま新書670〈カラー新書〉], ISBN:978-4-480-06374-8).花火大会といえば,たどりつくまでの交通渋滞と会場内の大混雑を思い浮かべてしまい,「遠くから見ればいい」と早々にあきらめモードになってしまうのだが,本書の著者は「花火は近くで見るべきだ」と読者を説得する.確かに,花火の愉しみは,光と音だけではないのかもしれない.ナイヤガラとかスターマインの迫力は会場にいて見上げた方がきっと全身体感できるだろう.全国の有名どころの花火大会を実地にめぐった著者は,大会ごとの「近くで見る」ためのノウハウ(場所の取り方,アクセス,有料席などなど)を伝授してくれる.茨城からも,土浦と水海道の花火大会が取り上げられている(いずれも「近く」で見たことはまだない).ここまで煽られると一度は「接近」して見たくなる読者は少なくないだろう.花火の熱と風を体験したいな.数々の大輪花火のみごとなカラー写真とともに,著者の目的は十分に達成されたと思う.

◆そろそろ限界だ.午後8時過ぎに早くも就寝してしまう.寝ている間に怪異が起きませんよーに.

◆本日の総歩数=8284歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=未計測/未計測.


8 augustus 2007(水) ※ 立秋,あるいは労働と無労働のあいだ

◆午前4時半起床.晴れ.気温25.3度.また熱帯夜に逆戻りだ.早朝の研究所に顔を出して,進化学会関連の連絡メールをちょこちょこ出す.

◆この夏,ポルトガルの国際会議に参加するという知り合いがいる.場所はヨーロッパでも最古級の大学都市 Coimbra だそうだ.うらやましいな.残念なことにポルトガルはまだ一度も行く機会がない.Lisboa とか Coimbra というのは地理的にも心理的にも遠隔の地であるだけに興味が湧く.つい,差し出がましくも,杉田敦の2冊:『白い街へ:リスボン,路の果てるところ』(2002年2月28日刊行,彩流社,ISBN:4882027348)と『アソーレス,孤独の群島:ポルトガルの最果てへの旅』(2005年1月5日刊行,彩流社,ISBN:4882029251)と,フェルナンド・ペソア『ペソアと歩くリスボン』(1999年7月10日刊行,彩流社,ISBN:4882025833)を紹介してしまった.もう1冊のペソア本:フェルナンド・ペソア著(高橋都彦訳)『不安の書』(2007年1月31日刊行,新思索社,ISBN:4783511969)は,機内持ち込みにはあまりに部厚すぎるのでパスということで.

「Coimbra」という都市名を最初に知ったのは,Leon Croizat の論文を通してだった.農環研の暗い地下書庫で長年にわたって誰にも触れられず?にひっそりと並んでいる Memorias da Sociedade Broteriana(Instituto Botanico da Universidade de Coimbra)というジャーナルに,アフリカの汎生物地理学に関する400ページにも及ぶ論文を出している(しかもボルトガル語ではなくフランス語で).

◆午前8時47分の TX 区間快速で東京へ.飯田橋のクバプロに付いたのは午前10時だった.会長と会計監査を交えて,進化学会の決算案と予算案の打合せ.そして,いくつかの懸案事項の話し合いをする.1時間あまりで終了.小さめの「トド」が数頭出現してしまった.そのまま,大江戸線で新御徒町を経由し,つくばに帰り着いたのは午後1時前のことだった.今日は極度に暑く,また湿度も高い.さ,逃亡準備だ.

◆〈生物と無生物のあいだ〉 —— 東大出版会PR誌『UP』の最新号2007年8月号(2007年8月5日発行)が研究所に届いていた.福岡伸一「生命とは何か?」(pp. 22-27).“前任者”の本があのようなベストセラーになってしまうと,“後任者”はプレッシャーがとっても大きいんですよぉ(いや,ほんま).

生命の本質に「動的な平衡状態」を見ようとする著者はこう書いている:

彼[ルドルフ・シェーンハイマー]は,生命が「動的な平衡状態」にあることを最初に示した科学者だった.私たちが食べた分子は,瞬く間に全身に散らばり,一時,緩くそこにとどまり,次の瞬間には身体から抜け出ていくことを証明した.つまり私たちの生命体の身体はプラモデルのような静的なパーツから成り立っている分子機械ではなく,パーツ自体のダイナミックな流れの中に成り立っている.私はシェーンハイマーの発見を手がかりに,生物を無生物から区別するものは何かを,もういちど考え直してみたいと思った.それが『生物と無生物のあいだ』である.(p. 27)

〈テセウスの船〉のみごとな描写がここにはある.著者もまた「生物」の identity を求める試みを長年にわたって続けてきたのだろうか.『生物と無生物のあいだ』がそれに対する答えということか.

なぜ私たちが,海辺で,貝殻を見てそれが生命の営みの結果だと知り,石ころを見てそれが無生物だと感じうるのか.(p. 27)

この疑問に対するアプローチはひとつではない.

◆午後6時過ぎ,荷物をまとめて車に乗り込む.こんな暑いところはオサラバだ. —— お盆前ではあっても平日の夕方に常磐道やら関越道の渋滞に巻き込まれるのはごめん被りたいので,下の国道354号を走る.古河を通って茨城を抜け,久しぶりの三国橋から群馬に入る.太田で夕食をすませて,そのまま利根川を渡り,本庄児玉インターから関越道に入り,すぐの藤岡ジャンクションを左に曲がって上信越道へ.軽井沢あたりで日が変わった.今宵は夜中をひた走る.目指せ,世界遺産!

◆本日の総歩数=10730歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=0.0kg/+0.8%.


7 augustus 2007(火) ※ お盆を前にして逃亡する段取りをば

◆午前4時半起床.晴れ.気温22.4度.湿度高め.南風.

◆早朝の進化学会関連いろいろ —— 高校生ポスター発表が一挙に5件も増えた.これは慶事だ.急いで賞状の追加手配などをする.ポスター審査体制の確認./ 国立遺伝学研究所(進化遺伝部門)の教員公募.関係しそうな方はアプライを./ 教育啓蒙賞に関する意見のやりとり.近日中(お盆前)に選考を終えて,当人に通知したい./ 昨日,事前通知を出した受賞者から授賞式参加の返事がぱらぱらとやってくる./ 今日中に,受賞者の業績紹介文をひとつ仕上げよう.他の受賞者の分もあわせた上で,会長名の授賞通知を出す必要がある.

◆ここ数日というもの,あまりに暑いので(予報では向こう一週間は変わらないという),つくばを逃げ出す作戦を急遽ひねり出すことにした.いたくないところからは静かに立去るしかない.

◆午前10時半.夏空のもと,気温は早くも31.9度に達する.

◆朝の進化学会雑用 —— 学会賞受賞者の全員から授賞式への参加意志が表明された.これで主役はそろった./ 2007〜2008年度の予算案叩き台が事務局から送られてきた.要チェック./ 京都大会サイトで,口頭発表とポスター発表の講演要旨がpdf公開されている.コンテンツはこれでほぼ揃ったことになるか.シンポジウムとワークショップの要旨が公開されればパーフェクトだ.

◆進化学会以外のこまごま —— 8〜9月の出張伺と休暇届をまとめてどさっと出す.8月9日(木)〜13日(月):夏季休暇(雲隠れ),8月28日(火):JICA講義,8月30日(木)〜9月2日(日):進化学会大会(京都大学),9月2日(日)〜4日(火):行動計量学会大会(同志社大学),9月13日(木):JICA講義,9月14日(金):東京大学エコロジカル・セイフティ学特論II,9月19日(水):東大・教員会議.書類を書くだけで昼休みが消し飛んだ.

日本行動計量学会大会サイトでブログラムが公開されている.行動計量学の業界でもすでに〈R〉が覇権を握りつつあるのだろうか.今回の大会では,2日に〈R〉のチュートリアルがパラレルにふたつ開催される:石田基広「初めてのR」と「i) Rによるデータ処理:要約と視覚化、ii) Rによる多変量データ解析」,そして金明哲「i) Rによる多変量データ解析、ii) Rによるモデリングと機械学習」.シュプリンガー〈R〉本の訳者と Estrela 〈R〉連載の著者によるチュートリアルとなれば,聞いてみたいと思う人はきっと少なくないだろう.チュートリアルだけでなく,大会シンポジウムでも「Rによる教育・研究・ビジネス」というのがある.お,舟尾さん,ここにも登場か.

ぼくの特別講演は9月3日(月)の午後だ:三中信宏「系統推定論と形質コード化問題:データから何を読み取るか」(13:30〜14:30).なお,翌4日の特別講演は:岡田節人「最後の洋行者」,そして最終日5日は:狩野博幸「洛中洛外図屏風研究の現況と問題点」が演者となっている.一見したかぎりではこの脈絡のなさはいったい何なのだろう.そこに脈絡をつけるのが行動計量学の極意か.

◆昼下がりになっても,季節はずれの五月雨な進化学会雑用メールがなお降り注ぐ.今年は,高校生ポスター発表応募が,当初の予想を上回って,実に10件にものぼり,賞状作成の段取りが大幅に狂ってしまった(参加賞だけでも50枚を越える).当初のペースだと大会開催日までに間に合わないかもという連絡が事務局から入ったので,次善の策で進めることにする.学会賞受賞者の賞状とメダルの作成の時間的余裕もあまりないので,関係者たちにさらにハッパをかける.ひたすら追い立て,たたみかけ,煽る煽る.

◆ちょっとよそ見 —— 吉田健一『私の食物誌』(2007年7月25日刊行,中央公論新社[中公文庫 BIBLIO B-18-26], ISBN:978-4-12-204891-1).元本は1972年出版.日本各地の美味が勢揃い.逃亡したいなあ.隠遁したいなあ.

◆夕刻の自己煽り —— 進化学会賞を授賞した某博士の業績紹介文をものし,選考委員に配信する.今日の仕事はこれでおしまいだ.いったい何十通のメールを書けばいいのか.居室入り口の〈三中信宏・実在ボード〉の表示を「在室」から「休暇中」に換えて帰宅.外に出ると,まだ真夏日のまま,夕陽がぎらぎらしてまぶしく暑い.早く涼しいところで隠棲したいなあ.引き蘢りたいなあ.

◆明日は東京で進化学会の会計関連の作業を一挙にかたづける“労働日”,そしてその日の夜からは,パーフェクトな“無労働日”が数日続く.しかし,労働と無労働のあいだには長距離遁走が待ち受けている.

◆本日の総歩数=7059歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.2kg/−1.2%.


6 augustus 2007(月) ※ 朝日に映えるオオミズアオ,その心は

◆午前5時起床.よく晴れてはいるのだが,南風が涼しく感じるのは湿度がやや低いせいか.羽化したばかりらしい新鮮なオオミズアオがじっとり.気温23.8度.

◆早朝の書評公開 —— 小林章夫『チャップ・ブックの世界:近代イギリス庶民と廉価本』(2007年7月10日刊行, 講談社学術文庫[1828], ISBN:978-4-06-159828-7 → 書評目次版元ページ).

◆しのぎやすかったのは朝のうちだけで,その後はぐんぐん気温が上昇.午前9時半には早くも30.3度の真夏日になった.

◆さて,今日は「進化学会雑用消化日」と決めている.残務分をどんどんこなす端から,新たな雑用が堆積して何が何やら —— 生物学哲学ワークショップの趣意文を忘れていた.ちゃちゃっと作文しておしまい./ 明後日の会計監査のための2006年度決算案の検討.予算案(2年分)はまたあとで./ 評議員会の招集.大会前日の評議員会の出欠確認文.あわせて評議員会の議案をざっと並べる.事務局に依頼してメール送信してもらったあとで,わらわらと更なる議題があったことに気づく.上乗せだ./ 学会賞関連のこまごま.まずは,受賞者のみなさんへ事前通知を出す.正式には学会長から授賞理由をつけて送るのだが,その前に,京都大会での授賞式と受賞講演の依頼をしておかないといけない.当事者を確保しないことには話にならない./ その上で,授賞理由の作文を選考委員で分担する.よろしくお願いします./ ペンディングになっていた教育啓蒙賞候補者については,近日中にメールでの意見交換をして決定しないといけない.これまた時間との勝負だ.

◆ふと気がつくと,昼休み返上でそのまま午後に突入していた.

◆昼下がりは,「非」進化学会なこまごまをば —— Olia さんからネマトーダの第二論文の原稿がやってきた.パラグラフをいくつか加筆しないといけないのだが,今日はダメ./ 先週から溜まっていた質問メールやら問合せを一括処理する./ 8月22日にまた友部に行く予定が入る./ 距離変量に関する問合せが西方から./ 計量生物学会メーリングリストを含めていくつかの管理下MLの作業をすませる. —— これでやっと「受診箱」がほんの一時的に vacant になった.でも,もう夕方だ.今日はいったい何だったんだー.

◆午後5時をまわったというのに,気温はまだ30.5度もある.とにかく暑過ぎる.どこかに避暑したいな.ここから避難したいな.

◆思わぬ文庫落ち —— ポール・K・ファイヤアーベント(村上陽一郎訳)『知についての三つの対話』(2007年7月10日刊行, 筑摩書房[ちくま学芸文庫], ISBN:978-4-480-09082-9).元本は,『知とは何か : 三つの対話』(1993年7月刊行, 新曜社, ISBN:4788504561).そーか,ファイヤアーベントの「最後の訳書」が出てからもう15年近く経っているのか.かつて新曜社から続けて出た「ファイヤアーベントもの」はもちろん買っていたが,この『三つの対話』だけは逃していた.『方法への挑戦』と『自由人のための知』の2冊で,「もういいかぁ」って感じで.それにしても,前二書ではなく,どうして三冊目なのだろうか? 対話調だから,受け入れられやすいと予想したのかもしれない.

ぼくが最初に“ファイヤアーベント”に遭遇したのは,修士1年のときに読んだ Eldredge and Gould の断続平衡論の初出論文(1972)だった.単行本『Against Method』(1975)が出る前だから,Gould はこの点では先見の明があったのだろう(のちに Popperian となる Eldredge が“それ”をもちだすはずがない).データの理論負荷性と共役不可能性をわざわざ古生物学の論文で出してきた新鮮さは確かに光っていた.その一方で,“ポパー”が Systematic Zoology 誌の体系学の諸論文に登場するのもちょうどこの頃だから,科学哲学の「武器としてのできのよさ」を比較して測るにはもってこいの時代だったのかもしれない.もちろん,“ファイヤアーベント”はその後は何の役にも立たなかった.

翻っていま見渡すと,“ファイヤアーベント”や彼の盟友“ラカトシュ”はもちろん,宿敵“ポパー”の著作も含めて,訳本がほとんど入手できないのではないか.今回の文庫化に際して付けられた訳者あとがきをみると,ある意味で「諦観の境地」に達したかと思わざるを得ない.それでいいんですか?

◆本日の総歩数=6860歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.7kg/+0.1%.


5 augustus 2007(日) ※ 蒸し暑い明け方は夏眠するしかない

◆いつも通り,午前5時前に目覚めたのだが,あまりの蒸し暑さにノックダウン.再び夏眠に耽る.午前6時半に怠惰な二度目の起床.外は朝早くから連日のかんかん照りでどうしようもない.昨日の東京は35度の猛暑日に迫る最高気温だったという.ここ数日は同じような暑さが続くそうだ.

◆花火だ,花火だ —— 小野里公成『日本の花火』(2007年7月10日刊行, 筑摩書房[ちくま新書670〈カラー新書〉], ISBN:978-4-480-06374-8).前半をなす第1章は,全国の有名な花火大会の紹介.後半は花火の分類体系と花火大会を楽しむノウハウいろいろ.何よりも惹かれるのはページをめくるごとにある花火写真のみごとなことだ.繊細な花火の末端までとらえたカラー写真がため息が出るほど美しい.花火のきれいな撮り方についても書いてほしかったなあ.

—— こういうカラー版の新書や文庫を手にするたびに,かつての保育社の〈カラーブックス〉シリーズを思い出す.

◆“不発弾試薬”顛末 —— 昨日の日録で,研究室から予期せぬ“不発弾”が発見され,てんやわんやだったと書いたところ,さっそく二代前の室長さんからメールが届き,あの酢酸カーミンはかつて組換体トマトの実験に用いた染色液の残りだとの情報を得た.てっきりぼくはさらに一代さかのぼった室長の所業だろうとあらぬ嫌疑をかけてしまったのだが,たいへん申し訳ないことだった(松戸に向かって謝罪).情報をいただき,ありがとうございました(土浦に向かって一礼).

—— 「場所」のもつ系譜(事物連鎖)については,中谷礼仁『セヴェラルネス:事物連鎖と人間』(2005年1月25日刊行, 鹿島出版会, ISBN:4-306-04460-2 → 目次著者サイト)を読むべし.6月のICCシンポジウムで中谷さんが挙げた興味深いひとつの例がある.今は住宅地となっているある地域の“かたち”(道路の切り方からわかる)がとてもユニークなので,その土地の過去を覗いてみたら昔は前方後円墳がそこにあることがわかったという事例だ.もとあった前方後円墳が削られてなくなり,そこに住宅地がつくられた後もなお,前方後円墳の「遺産」はずっと残っていたということだ.

ある土地が伝えてきたさまざまな「形質」の上に新しい「形質」が積み上がっていくのだが,その際,過去の遺産(正または負の)が完全に払拭されるわけではない.中谷さんが,「都市系譜」とか「事物連鎖」と呼ぶ現象は,生物系統学的には個々の形質の変換系列(transformation series),あるいは形質集合におけるヘテロバスミー(heterobathmy)に相当するものだろう.土地にも研究室にもそういう歴史性がいつもついてまわる.

◆午後3時頃,遠雷が轟く.明日からは,集中的に進化学会関連の仕事を消化していくつもりなので,今日は許してねー.ごめんねー.

◆アブラゼミやらミンミンゼミの合唱をガラス越しに聞きつつ読了 —— 小林章夫『チャップ・ブックの世界:近代イギリス庶民と廉価本』(2007年7月10日刊行, 講談社学術文庫[1828], ISBN:978-4-06-159828-7 → 目次版元ページ).第5章では『ロビン・フッド』物語に焦点を当て,韻文のチャップ・ブックがかつて流行したことを振り返る.『ロビンソン・クルーソー』は散文だが,『ロビン・フッド』が歌詞として書かれていたとは知らなかった.古代にルーツをもつらしい伝説が,チャップ・ブックという印刷媒体を通して広がっていくようすが描かれている.

続く第6章はいつの時代にも人気がある「犯罪もの」チャップ・ブックについてだ.とくに,当時のイギリスで制度化されていた「公開処刑」(「タイバーン・フェア」)を描いたルポルタージュがことのほか一般読者には好まれたという.第8章にもこの点について論じられているが,処刑される犯罪者の行状だけでなく,公開処刑当日のようす,処刑後の遺体をめぐる争奪のどたばたまでチャップ・ブックには記されていたという.時代がくだれば解剖学者もきっとそこに混じっていたはずだ.

第7章では,読み捨てに近かったというこれらの大量のチャップ・ブックの匿名の書き手と出版社(パブリッシャー)に目を向ける.挿話の一つとしておもしろいのはアレグザンダー・ウィルソンというスコットランド人の生涯だ.18世紀に生を受けたウィルソンは売れない詩人としてエディンバラでチャップ・ブックを売り歩いていたのだが,にっちもさっちも行かなくなって,アメリカに渡ることになる.ところが,渡米後のウィルソンは生まれ変わったようにナチュラリストの道を邁進し,後に『アメリカの鳥類学』(1808年)を出版し,鳥類学者として後世に名を残すことになった.こういう人生もあるのか.

最後の第8章では,チャップ・ブックをイギリス全土に売り歩いた「チャップマン」が登場する.津々浦々をまわった彼らは,単に本を売っただけではなく,さまざまな情報の運び手として歓迎されたそうだ.しかし,そのように広く受け入れられた「チャップマン」たちも,貸本制度の整備や印刷コストの低減などなどの理由により,19世紀に入るとともに急速に衰退していった.

—— 文庫化された本書の元本は:小林章夫『チャップ・ブック : 近代イギリスの大衆文化』(1988年4月刊行, 駸々堂出版, ISBN:4397502552)だ.元本は400ページもある大著だが,本文の1/4だけ短縮し,参考文献などを省いて文庫化したとあとがきには書かれている.「本の世界」がぐっと広がる好著だ.

◆夕方,南風が一段と強まり,北から雲が広がってきた.雷雨があるとの予報.Book-Ace にて入手:ジョン・ダニング(横山啓明訳)『災いの古書』(2007年7月25日刊行, 早川書房[ハヤカワ・ミステリ文庫 HM 205-9], ISBN:978-4-15-170409-3).『死の蔵書』,『幻の特装本』,『失われし書庫』に続く古書ミステリー第4作目.特別に注目している著者というわけではないのだが,シリーズ新刊が出るたびに,書店の平棚で向こうから呼びかけてくる.はいはい.今回は「サイン本」がテーマらしい.

◆寒気が入ってきたせいか,夜は気温が下がっているようだ.熱帯夜から解放されるかな.明日からは進化学会“雑用”三昧.たくさんあります.マジ,たくさん.

◆本日の総歩数=6205歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.5kg/+0.2%.


4 augustus 2007(土) ※ 風鈴がちりちり,熱波でちりちり

◆午前5時前にいったん起きたものの,また寝てしまう.次に目が覚めたのは午前7時だった.ただの寝過ぎ.朝日がまぶしい.南からの熱風止まず.すでに高温の兆し.

◆さる〈姫君〉のこと —— ここ数日,昨年9月の新宿区民オペラ〈トゥーランドット〉公演のDVDを繰り返し再生している.市販のDVDに比べれば録画フォーカスに(というかカメラ位置に)やや難があるようだ.アップのときは気にならないが,広角になると粗さ(荒さではない)が目立つ.

録音については,チャイニーズ・ゴングがしっかり捉えられているのが意外だった.当時入手可能だった〈トゥーランドット〉のCDとDVDをいろいろ聴き込んだが,古い1枚を除くすべての録音では,とくに弱奏時のチャイニーズ・ゴングの音がほとんど聞こえない.しかし,今回のDVDではライヴ録音なのにとてもよく集音されている.〈トゥーランドット〉のゴングをじっくり味わいたい人(そんな変人がいるんかという疑問はさておき)は,わがDVDをぜひどーぞ.

この DVD では,オペラ全幕にわたって,打楽器パートの音が十分に(過度に)入っていてとても楽しいな.シロフォンの出来は9月2日ではなく9月3日の方が成績よさそう.誰も寝てはならない第3幕にはシロフォンの出番が実はほとんどないので,第1幕と第2幕のバフォーマンスが全体のできを左右する.散在するソロ箇所を落とさなかったのは幸いとして,ウラでちょこちょこやる部分の「ヒット率」は明らかに3日が上回っていた.初日の教訓から学んだということだろうか.

◆日中は強い日射しが照りつけ,目眩がするほど暑かった.ちょっと買い物に出ただけでくらくらした.

◆研究室から“不発弾”が —— “不発弾”はどこからでも顔をのぞかせる.先週の金曜に研究室の掃除をしていたパートさんが,「こんなのが冷蔵庫のウラから……」と袋に入った小さな薬品ビンをもってきた.おお,これはヤバい.管理責任が…….先日も農環研から“麻薬(扱いになった薬物)”が出てきてしまって(広報済み),上を下への大騒ぎになった.そのあおりで各部屋の管理責任者は「隅々まで確実に調べるように」との上からのお達しを受け,引き出しからロッカーから本棚まで調べたはずなのだ.アヤシイ本は多々あってもヤバい“ヤク”はいっさいありませんと報告したばかりなのに.

いま,研究室の管理者がもっとも恐れているのは,昔々の前任者が残していった“得体の知れないクスリ”が何十年もの潜伏の後にひょっこり“出土”してしまうことだ.たとえ現在は“非実験系”の部屋であっても安心してはいけない.研究組織の変遷が問題ではない.むしろ,その部屋に誰がいたか,そしてどういう研究をしていたかという経歴が問題だ.ぼくのいる部屋は三代ほど前の室長が“実験系”だった.だから,大型のデシケータだの精密天秤だのという「遺産」が伝えられている.しかし,そのような四半世紀も前の薬品類はすべて処分されたものと思っていたのが敗因だった.

この冷蔵庫は数十年前から同じ位置にあり(とても長持ちしている),先日の捜索の際も奥まで調べなかった.その死角からこのような“不発弾”が出てくるとは思いもしなかった.発掘されたのは茶色の試薬ビンで,6ビンすべてのラベルに「アセトカルミン」と書かれている.知らんぞ,そんな薬品は.劇毒物だったらえらいこと,と大東くんが調べたところ,何のことはない,「あ,酢酸カーミンですね.細胞を染色するアレです」とのこと.一時は領域長まで出動する事態になったが,結果的な「無害な薬物」だったので,事務に追加報告して一件落着.長年,研究室の“風景”になりきっているからといって油断してはいけない.

【教訓】歴史のある事物のカゲには“不発弾”あり.

◆読み進み —— 小林章夫『チャップ・ブックの世界:近代イギリス庶民と廉価本』(2007年7月10日刊行, 講談社学術文庫[1828], ISBN:978-4-06-159828-7 → 目次版元ページ)の第4章まで読了.第3章では『ロビンソン・クルーソー』を取り上げ,この大作をチャップ・ブックがどのように“ダイジェスト”化したかを論じている.360ページもある元の版を実に「8ページ」にまで圧縮したチャップ・ブックがあるというから驚きだ.続く第4章では,当時はじめて形をなし始めた「児童文学」というジャンルがチャップ・ブックとともに形成されてきたことが示される.誰でも読めるチャップ・ブックの想定読者層に「子ども」を含むという仮定はけっして最初からあったわけではないという指摘が興味深い.チャップ・ブックの読み手である子ども向けに,元来はおとなのための物語だった『ロビンソン・クルーソー』や『ガリヴァー旅行記』が児童文学として書き換えられていったという.

◆夜になっても気温は下がらず.今日も熱帯夜か.

◆本日の総歩数=3961歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=0.0kg/+1.2%.


3 augustus 2007(金) ※ 真夏日と熱帯夜の連打でコーナーへ逃避

◆午前4時起床.もわっとする熱気と湿り気.久しぶりの熱帯夜だ.気温25.0度.たまりませんな.

◆明け方のこまごま —— 研究所にこもって作業に励む./8月に入ると,公式行事はほとんどないが,今月末からは「秋の学会シーズン」で方々を巡業しなければならない.その予定はもちろんだが,準備の段取りを確認しないとまた追いまくられることになる./ とりあえずは,来週8日の進化学会予算・決算・監査などなどの会計作業を迎える準備にとりかかる./ 10月1日(月)〜10月2日(火)の第24回植物細菌病談話会(エポカル)の講演要旨は8月17日(金)までに,そして自己紹介文は9月10日(月)までに提出とのこと.

◆午前10時半の気温30.9度.真夏の青空.南からの熱風が強く吹きつけるのは,日本海を北上している台風5号の影響だろう.

◆Jim Carpenter セミナー —— James M. Carpenter「Simultaneous analysis and the origin of eusociality in the Vespidae」.日時:2007年8月10日(金),15:30〜17:00(18:30から懇親会あり).場所:森林総合研究所・中央棟5階・第一会議室(→地図).参加申込は牧野俊一さんまで.今回は,POY 4 を使った direct optimization によるカリバチの社会性進化に関するセミナー.Carpenter さんはこの夏,茨城大にビバークして,日本でのサンプリングをしているという.

◆進化学会関連のこまごま —— 京都大会での出店ブースの件.部屋を借りると使用料がバカにならないので,実行委員会でいい案を出してもらった.関係しそうな出版社への連絡./ 評議員会への報告事項がいくつかある:学会賞関連のこと(受賞者・関係者);男女共同参画学協会連絡会の正式加盟とメーリングリスト登録;評議委員会ならびに総会議案.

◆午後も夏空が広がり,真夏日が続く.

◆昼下がりのゲラ読み —— 『本』の連載原稿(3回目).いちどダメだしが出ての急遽書き直しだったので,訂正箇所がこれまでよりも多い.急いで書くと,同じような“常用表現”が繰り返されたり,筋書きがよろめいたりする.今後のための“伏線”と“地雷”をいくつか埋める.うっかり踏んだらサヨウナラ.

結局,時間がかかってしまい,方々に「朱」を入れて(ついでに「呪」をこめて),改訂ゲラをpdfで音羽に返送したのは午後5時近くだった.夕方になっても熱い南風が吹き抜ける.

◆若書きと大家 —— ぼくがもっている『Ontogeny and Phylogeny』には,Systematic Zoology 誌に出版当時にやりとりされた Søren Løvtrup と Gould との論争のコピーが挟まっていた.以前,東大出版会のPR誌『ほん』にも書いたことがあったが(→ 三中信宏 2003「グールドのデビューは2回あった」東大生協書籍部書評誌『ほん』2004年1月号(通巻317号: 2003年12月22日発行),『Ontogeny and Phylogeny』は Gould にとってはもっとも初期の著作だ.

『Epigenetics : A Treatise on Theoretical Biology』(1974)や『The Phylogeny of Vertebrata』(1977)などの著書がある Løvtrup は反ダーウィニズムの観点から,発生生物学を構想し,分岐学の“公理化”を行なった.そういう「大家」である Løvtrup は「若書き」の Gould をどこの馬の骨だかわからない若いのが迷い込んできたくらいに受け取っていたようで,反復説はすでに決着がついているとの Gould の所論に反論している.そして次の号では Gould 自身が反撃の一文をものしている.なお,Gould 本の詳細な書評を本誌に書いたのは E. O. Wiley だった.

「Søren Løvtrup」という人については,いくつかの文脈で解くべき「謎」がある.いまでは macromutationist にして anti-Darwinian という主張だけが残響している Løvtrup だが(彼の最後の著書『Darwinism: The Refutation of a Myth』1987 を見ればしかたないかも),彼は頻繁に Leon Croizat への好意的な言及をしている.また,逆に Croizat も彼の分岐学史の論文: L. Croizat (1978) 「Hennig (1966) entre Rosa (1918) y Lovtrup (1977) : medio siglo de sistematica filogenetica」 Bol. Acad. Cienc. Fis. Mat. Nat., Caracas, 37 : 59-147 では,かなりのページを割いて Løvtrup の体系学理論を論じている.両者が互いに相通じるものを抱くようになった理由と経緯について知りたいという点がひとつ.これは研究上のことだ.

もうひとつは個人的なことかもしれない.George G. Simpsonの訳書『動物分類学の基礎』(1974)の訳者・白上謙一が「訳者あとがき」の中で,個人的につきあいのあった Løvtrup について触れていて(動物発生学者どうしなので納得できる),彼のことを「日本名・葉山巌」と書いている点だ.ぼくは大学院の頃,当時スウェーデンの Umeå 大学にいた Løvtrup さんから別刷をもらったことはあるが,ご本人には直接会ったことがない.だから,「日本名〜」という点についてはいまだにまったく情報がない.

◆夕食は〈炙りや秀苑〉にて肉を焼く.つくばにはたくさんの焼肉屋があるのだが,その中でも〈秀苑〉はとくに人気があって,予約をしないと入れないことが多い.冷麺がさっばりとうまい.

—— 夜になっても気温はまったく下がらない.この南風が吹いているかぎり,熱帯夜を覚悟しないと.

◆本日の総歩数=8841歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜×.前回比=+0.1kg/−0.4%.


2 augustus 2007(木) ※ いきなり全開の夏空がやってきてへばる

◆午前5時過ぎ起床.晴れて南風.朝日が射し込んで気温は急上昇.しかも湿度が高くて申し分のない不快さだ.積雲が空いっぱいに湧き上がる.

◆早朝のこまごま —— 『本』連載原稿(3回目)のpdfゲラが音羽から届いていた:三中信宏「生物の樹・科学の樹[3]:種に交わればキリがない」.これで,“地雷”を踏んだらさようなら,の「if」はもうなくなってしまった.実際に踏んだのよ.あとはヨロシクね.しかし,その“地雷”にじかに触りたい,あるいは“電柱”の影から見ていたいという実に 無謀な 勇敢な方々が意外に多かったりする.3日(金)までに返送せよとのお達し./ 「Conway Morris の翻訳は……」と突っつかれる.あわわ./ とあるものを,ちくちくとプリントアウトしたりして.作戦完了です.次の指令をお待ちします.

◆午前10時の気温は早くも「30.1度」.今日はこれから午後にかけて,もっと暑くなるのだろうか.炎天下,車検のため車をもちこんだ後に代車で研究所に向かう.軽自動車でも新車だと乗り心地がとてもよろしい.Systematic Biology 誌の最新号(56巻3号,June 2007)が届いていた.系統樹「視覚化」の論文が多く載るようになってきたな.large-tree,supertree,median network — 系統樹グラフィクスと応用ベイズ統計学の雑誌へとさらなる変身か.『本』連載記事で,いつかはこのジャーナルの「歴史」を取り上げる必要があると思っている.1988年までだったら,Hull 本で十分なのだが,それ以降の20年間のことはまだ誰もまとめていないはず.

◆アナザー〈つくる会〉ブログ —— 11月17日に閉店が確定した神保町の〈書肆アクセス〉の本をつくる会がブログを開設したそうだ:〈『書肆アクセスの本』をつくる会〉.

◆午後1時の気温は「32.9度」.エンジン全開の暑さだ.台風5号は四国と九州を暴風域に巻き込んで北上しているという./ ミネアボリスでハイウェイの橋梁が崩落して,渋滞中の数十台の自動車が30メートル下の川に落下したという.アメリカ映画の地震パニックシーンのような映像が流れているが,こちらはホンモノ.

◆午後のこまごま —— 遅れていたメーリングリストの管理作業と月例アナウンスの配信をすませる./ 以前,項目執筆した医学書院の『医学大事典』編集部からメールあり.改訂版を出すのでよろしくとのこと./ 進化学会事務局から決算案の叩き台が.来週には決算案と予算案を立てないといけない./ 男女共同参画学協会連絡会の事務局から連絡があり,正式に進化学会の加入が認められたとのこと./ 木村資生財団からの問合せがあったので返信する.

◆蒸し暑さの残る夕刻に車検のすんだ自動車を引き取りにいく.水蒸気が多いせいで白っぽい空にほうきで掃いたようなすじ雲がかかっていた.

◆夜は『本』のゲラ読み.いわゆる「三角点」に関する調べもの.地図測量の基本となる国家基準点体系の中での三角点には「一等〜四等」までの等級がある.「一等三角点」は,隣接する三点が45km間隔でほぼ正三角形をなすように設定される.これにより日本全体を覆う三角網が定まり,地図測量の骨格ができる.次に,一等三角点を含めて8km間隔に置かれた三角点が「二等三角点」と呼ばれ,より詳細な測量を可能にする.さらに4km間隔で「三等三角点」を,最後に2km間隔で「四等三角点」を設置する.

だいぶ前に,地図測量史の厚い本:ジョン・ノーブル・ウィルフォード(鈴木主悦訳)『地図を作った人びと:古代から観測衛星最前線にいたる地図製作の歴史』(2001年1月30日刊行, 河出書房新社, ISBN:4-309-22366-4 → 目次書評)を読んで書評したことを思い出した.地図の本というのはよく出版されているし,またファンも多いのだろう.

◆本日の総歩数=6490歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=0.0kg/+1.1%.


1 augustus 2007(水) ※ 月初めに尻を叩かれやっと梅雨が明ける

◆午前5時半起床.晴れ.北東風が涼しい.20.2度.しだいに夏の日射しが強くなり,10時過ぎにはほぼ真夏日に.暑い.

◆生物学哲学コンパニオン(近刊予告) —— David L. Hull & Michael Ruse (eds.)『The Cambridge Companion to the Philosophy of Biology』(2007年8月刊行予定, Cambridge University Press[Cambridge Companions to Philosophy], ISBN:9780521851282 [hbk] / ISBN:9780521616713 [pbk] → 版元ページ:hbk / pbk).予告されている目次をざっと見ると,書くべきテーマを書くべき人がものしているという感じ.個人的には,Maureen Kearney「Philosophy and phylogenetics: historical and current connections」の“current”なところをちらっと読んでみたいな.【種】問題の章がないみたいだけど.

◆朝のこまごま —— 午前10時半から領域内会議.個人と組織の業績評価システムの改訂案という,とても大事なのだけれどコミットしてらんない議題が延々と続く.農水省系独法の研究員は誰でも,このことに対する“つきあい方”を何年もかけて体得するようになる.たとえ組織が変わらなかったとしても,個人のアウトプットに対する評価方法は難問だ.ましてや,中期計画ごとにくるくる組織が変わるようでは,“理想”の業績評価システムなどないことは誰もが知っている.だから,意見は言うが,コミットはしない.それくらいだったら,評価システムに多少の変動があろうとも,それに左右されないくらい「頑健」なアウトプットを出そうとする方がはるかに前向きな姿勢だろう —— などと考えつつ,正午前まで拘束されてしまった.

◆会議室にとっつかまっている間に,関東地方の梅雨明け宣言が出されたようだ.雨雲も赤城も吹き飛ばされてしまったのは,南海上からは台風5号が北上しているからか.しかし,関東には台風の直接の影響はなさそうだ.

◆「進化学会トド」の指数的増殖 —— 昨日の選考委員会を受けて:1) 関係者に通知を出す(受賞者本人|木村財団|評議員);2) 賞状とメダルの発注;3) 授賞理由書の分担./ ワークショップの文章訂正の件で実行委員会に連絡する.※ほぼ解決しているのだが./ 学会費長期滞納者の退会措置について.とりわけ滞納率が高い「学生会員」については指導教官に事情聴取する予定.

◆今日はメーリングリストの月例アナウンスを配信する予定だったのだが,複数の「進化学会トド」の大暴れでそれどころではなくなってしまった.これから京都大会までの期間は,絶え間なく「トド撃ち」が続く.矢でも銛でも鉄砲でもOKですか? あるいはイケズ責めにする?

◆午後3時半から1時間弱,〈形態測定学講義〉の輪読38回目.第13章「The relationship between ontogeny and phylogeny」の続き(pp. 337-340).個体発生の過程でのサイズとシェイプの変化のモデル化について.グールドの「時計モデル(clock model)」は『個体発生と系統発生』(1977)の第2部で提唱されて以来たいへん有名になったが,この本ではむしろその後に出た Alberch et al.(1979) の「3次元モデル」の方が有用であると述べている.この場合の「3次元」とは,時間軸・サイズ・シェイプで,四つのパラメータによってモデル化されている.

◆グールドの『個体発生と系統発生』は,ぼくがまだ大学院にいた1980年代のはじめに原書輪読を渡辺政隆さんたちとやったことがあり(ひょっとして生態学勉強会だったかも),後に工作舎から出ることになった翻訳書の祖型はそこで生まれた.当初はぼくも関わっていて,原書第1部(歴史篇)の1章分くらいは訳したことがある.その後,ずいぶんと紆余曲折があったようで,実際に翻訳出版されたのは後年のことだった(1987年).当時はすでにエッセイ集『ニワトリの歯』を訳している最中だったので,その勢いで『個体発生と系統発生』にも手を伸ばしたのだろう.個人的には,ヘテロクロニーの時計モデルを論じた第2部よりは,発生生物学史を論じた第1部の方がはるかにおもしろかった記憶がある.この第2部では,グールドは,当時の「r-K淘汰理論」に依拠してヘテロクロニーの進化を論じたのだが,その点ではすでに学説としての賞味期限を越えている.

◆午後5時過ぎ,〈davidpain〉のセレアル・バゲットとライ麦バゲットを小脇に帰宅.この季節には不似合いな鱗雲が浮かぶ.南風が生暖かく湿っているのは台風5号の遠い影響だろう.夜になっても蒸し暑さがしぶとく残る.

◆本日の総歩数=6927歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.1kg/0.0%.


--- het eind van dagboek ---

Map フリーアクセスカウンター自転車 通販人気 シューズ
[sinds 19 april 2007] 無料アクセスログホームページ 素材集