東京農業大学(つくばアネックス)「応用昆虫学」講義として

幾何学的形態測定学 — 「かたち」の数学と統計学

三中信宏(東京農業大学客員教授・応用昆虫学)


日時:2006年2月28日(火)から毎週火曜 13:00〜15:00 に開講
   2007年4月13日(金)から毎週金曜 13:00〜15:00 に開講
場所:農業環境技術研究所・地球環境部・環境統計ユニット(つくば市観音台 3-1-3)
教材:下記を教科書として用いる —

M. L. Zelditch, D. L. Swiderski, H. D. Sheets, and W. L. Fink (2004)
Geometric Morphometrics for Biologists: A Primer
Elsevier Academic Press, San Diego, xii+443 pp., ISBN:0-12-778460-8→目次


シラバス

統計学の知識を踏まえて,幾何学的形態測定学(geometric morphometrics)に関する講義を行なう.生物あるいは無生物の“かたち”に関する定量的アプローチは,これまで伝統的な多変量解析の一問題とみなされてきた.しかし,“かたち”のデータは単に数値化すればすむ問題ではなく,それがもつ「幾何学的情報」をいかにうまくすくいあげられるかが重要であるという認識がここ20年の間に定着してきた.そこで,“かたち”のもつ幾何学的データの定量化に主眼を置き,幾何学的形態測定学の手法について学ぶことにする.とくに,体系学への応用を目指し,幾何学的形態測定学で得られた知見を系統推定に結びつける手順について触れる予定である.

講義(通年)は基本的に輪読形式で,適宜 R や形態測定学のコンピュータ・デモンストレーションを行なう.講義に用いたハンドアウトと参考文献はこのページにそのつど掲載する.[講師:三中信宏]

【追記】本講義に先行する生物統計学の講義については,旧ページを参照されたい.(22 February 2006)

【追記2】輪読をすべて終えたので本講義は終了する.次の生物統計学の講義については,新ページを参照されたい.(24 October 2007)


第1回:2006年2月28日(火)

第2回:2006年4月6日(木)

第3回:2006年4月11日(火)

第4回:2006年4月18日(火)

第5回:2006年4月25日(火)

第6回:2006年5月2日(火)

第7回:2006年5月12日(金)

第8回:2006年5月16日(火)

第9回:2006年5月30日(火)

第10回:2006年6月6日(火)

第11回:2006年6月13日(火)

第12回:2006年6月20日(火)

第13回:2006年6月27日(火)

第14回:2006年7月4日(火)

第15回:2006年7月11日(火)

第16回:2006年7月18日(火)

第17回:2006年7月25日(火)

第18回:2006年8月22日(火)

第19回:2006年9月5日(火)

第20回:2006年10月3日(火)

第21回:2006年10月10日(火)

第22回:2006年10月24日(火)

第23回:2006年10月31日(火)

第24回:2006年11月21日(火)

第25回:2006年11月28日(火)

第26回:2006年12月5日(火)

第27回:2006年12月19日(火)

第28回:2007年1月9日(火)

第29回:2007年4月13日(金)

第30回:2007年4月20日(金)

第31回:2007年5月8日(火)

第32回:2007年5月16日(水)

第33回:2007年5月29日(火)

第34回:2007年6月5日(火)

第35回:2007年6月12日(火)

第36回:2007年7月17日(火)

第37回:2007年7月24日(火)

第38回:2007年8月1日(水)

第39回:2007年8月21日(火)

第40回:2007年9月11日(火)

第41回:2007年9月26日(水)

第42回:2007年10月9日(火)

第43回(最終回):2007年10月24日(水)

参考図書[全般的]


第1回:2006年3月20日(月)

Chapter 1:「Introduction」(pp. 1-10)

これまでの形態測定学の通史を学ぶというよりは,むしろこの本が目指している幾何学的形態測定学の目標の全体像を大きく見渡そうとしている.生物形態のもつ“かたち”としての幾何学的情報をいかにしてすくいあげるか,それをどのような観点に立って定量化するのかという問題が提起される.幾何学と統計学が理論的なバックボーンであることは当然なのだが,“かたち”をはかるという問題を生物学の側からみることの重要性が強調されている.

なお,この教科書では,フリーの形態測定学プログラム〈IMP — Integrated Morphometrics Package〉を利用して,学習の便宜をはかっている.


第2回:2006年4月6日(木)

Chapter 1:「Introduction」(pp. 10-20)

サイズとシェイプの定義について.さらに,使えそうな統計手法の例示:重回帰分析,主成分分析,正準変量分析の三つ.この章は今日でおしまい.※まだまだ,イントロやな.


第3回:2006年4月11日(火)

Chapter 2:「Landmarks」(pp. 23-26)

標識点をどのように選ぶかについて含蓄?のある記述がある.従来の形態測定学は変量を事前に選ぶのに対し,幾何学的形態測定学では分析の結果として事後的に変量を選んでいるというちがいがある.しかし,標識点そのものは必然的に事前に設定しなければならない.本章では,そのための具体的指針について論じられているので期待したい.標識点を選ぶための一般的基準として,著者は下記の5つの基準を挙げる:1) 相同な解剖学的位置にあること;2) 他の標識点との位相的な位置関係が変わらないこと;3) 形態全体を十分に覆っていること;4) 反復性と信頼性をもつこと;5) 同一の平面にあること.


第4回:2006年4月18日(火)

Chapter 2:「Landmarks」(pp. 26-31)

標識点をどのように設定するかについて具体的な説明があり,とても役に立つ.landmark-based morphometrics では,もちろん「点」が与える情報がデータのすべてなのだが,生物学者の目から見たとき,標識点“そのもの”に関心があるわけではなく,その標識点が乗っている構造が関心の対象である.したがって,数学的な意味での相同標識点の間の(あるいはそれによって補間される他のすべての点の間の)関数対応は確かに「相同性」を示唆するのだが,それは生物学的な相同性とは直接的な関係がない−−と著者は言う.

要は,ふたつの形状を比較するために,対応する点があればいいのであって,たとえば発生学的に相同ではないような点であっても,形状比較の上からはそれらを標識点とみなしても問題ないとさえいう.この見解は,標識点の設定にあたっては,形状全体を(あるいは関心のある形態部分を)カヴァーしているべきだという主張ではさらに一歩踏み込む.著者らは,標識点としては生物学的な意味で相同であるとみなせる点を使うことを第一に考えているが,それだけでは不足する場合もあるだろう.そのようなときには,相同性の縛りを少し緩めてでも,形態をカヴァーできるだけの十分な数の標識点を揃えるべきだと言う.ただし,過度に作為的な(どう考えても相同ではない)点を用いることには否定的である.


第5回:2006年4月25日(火)

Chapter 2:「Landmarks」(pp. 26-31)

標識点のタイプ分け(Type I 〜Type III)について.著者らは,Fred Bookstein による標識点分類に関して,「その標識点がどれくらい“局所的”に確定できるか」ならびに「その標識点に対してどれほどの生物学的意義づけ」ができるかという観点から,再検討をしている.局所性からいえば,Type I の標識点はある特定の解剖学的位置としてピンポイントで確定できるので,もっとも限定的な局所性をもつ.Type II 標識点はある近傍領域での最大曲率点のような,やや緩い局所性をもつ.最大幅の両端点のような Type III 標識点は,形状全体に及ぶ大域的な判定基準に従わなければならないので,局所性とは対極にある標識点だ.


第6回:2006年5月2日(火)

Chapter 2:「Landmarks」(pp. 37-50)

マウスとラットを例にとって,標識点の具体的な設定についての説明.比較可能な標識点のペアをどのようにつくるかという問題.次いで,形態の写真撮影に関する実践的な説明.被写体を置く位置,レンズの焦点距離や深さの問題,照明をどうするかなどなど.さらに,画像ファイルの様式とデジタイズのしかたを tpsDig を用いて説明する.


第7回:2006年5月12日(金)

第3章「Simple size and shape variables : Bookstein shape coordinates」(pp. 51-60)

3標識点がつくる三角形についての size と shape の議論.ある2標識点を両端とする線分を基準線(baseline)として変位・回転・拡縮の変換をした後に,残る1標識点がもつ座標を Bookstein 形状座標と呼ぶ.Bookstein 形状座標は三角形の shape を表わす.一方,それと独立な唯一の size 変数は重心サイズである(両者に相関があるならばアロメトリーの存在を考えなければならない).基準線の変更の影響(複素平面での等角写像により互いに関係づけられるので相似以上の影響はない),および Bookstein 形状座標の差異に関する多変量分散分析の適用について説明される.


第8回:2006年5月16日(火)

第3章「Simple size and shape variables : Bookstein shape coordinates」(pp. 61-65)

2次元の三角形に関するアフィン変形の歪みテンソルの「主軸(principal axis)」の求め方について.代数的な解法と幾何学的な解法の二つが考えられるが,本書では後者のアプローチを採用している.三角形どうしのアフィン変形が確定した時点で,変形の前後で一組の主軸の直交性は保たれる.逆にその主軸に対して三角形の辺や角がどのような方向に配置されるかによって,アフィン変形を表現する変数が決まってくるという(p. 63 の Figure 3.9). いまいち論旨が不明瞭な議論だ.


第9回:2006年5月30日(火)

第3章「Simple size and shape variables : Bookstein shape coordinates」(pp. 65-72)

複数の標識点三角形に関する分析.ベースラインが決まっていれば,基本的な手順は単一の三角形の場合と変わりがない.しかし,Bookstein 形状座標の差異に関する検定をする場合は,多重比較に関わる補正措置(たとえば Bonferroni 補正のような)を施す必要がある.最後に,ソフトウェアの紹介文.


第10回:2006年6月6日(火)

第4章「Theory of shape」(pp. 73-80)

David Kendall の形状空間理論の解説.標識点の「配置空間」(configuration space)を出発点として,重心へのセンタリングによる「前形態空間」(pre-form space)への変換,さらに重心サイズによるスケーリング変換による「前形状空間」(pre-shape space)への変換を考える.重心へのセンタリングによって標識点ベクトルは原点を通る超平面の上に乗る.そして,重心サイズによるスケーリングは標識点ベクトルのノルムを1に標準化し,超球の上に乗ることになる.したがって,前形状空間は両方の条件を満たす超円となる.


第11回:2006年6月13日(火)

第4章「Theory of shape」(pp. 81-87)

前形状空間(pre-shape space)からケンドール形状空間(Kendall's shape space)を導出する.センタリングとリスケーリングはすでに施されているので,回転移動に関する同値類(fiber)を前形状空間の上で定義する.異なる fiber に属する前形状の間のプロクラステス距離(ρ)を球面上の測地線距離として求める.その上で,基準前形状に対する対象前形状のサイズを cosρによって再びリスケールする.このとき,基準前形状とリスケールした対象前形状との最小距離は sinρで与えられるが,その値を完全プロクラステス距離と定義する.前形状空間に対して cosρでリスケールされた回転同値類をケンドール形状空間と呼ぶ.三角形がなすケンドール形状空間について解説される.


第12回:2006年6月20日(火)

第4章「Theory of shape」(pp. 89-99)

標識点三角形の数値例の計算を通して,configuration space から始まって,pre-shape spaceを経て,Kendall's shape space にいたる幾何学的変換のプロセスをたどる.ふたつの三角形の間で標識点間の平方ユークリッド距離を求め,回転角θに関する最小値が部分プロクラステス距離(Dp)になる.pre-shape space 上でのプロクラステス距離(ρ)に対して,sin(ρ/2)=(1/2)×Dpという関係があるので,ρを求めることができる.pre-shape space から shape space への変換に際しては,サイズcosρへのリスケーリングが必要になる.ここで,sinρは完全プロクラステス距離(DF)となる.最後に,pre-shape space あるいは Kendall's shape space から接空間への射影について説明されている.


第13回:2006年6月27日(火)

第5章「Superimposition methods」(pp. 105-113)

形状比較の前にすませておくべき「整序(alignment)」の技法について解説されている.すでに論じられた Bookstein 形状座標の問題点は「基準線(baseline)」の設定そのものにある.とりわけ,基準線の2端点は座標自体が固定されるため,その2端点が有していたはずの分散が「行方不明」になってしまう.つまり,それらの標識点がもっていたバラツキは変換後の他の標識点のバラツキの一部としてばらまかれてしまう.その結果,もともと変異の大きな基準線の選ぶと,形状座標の分散のノイズが大きくなったり,形状座標間の今日分散が現れるという不具合が危惧される.したがって,こういう問題を解決できるような代替法が求められている.Sliding baseline registration という改良法が提案された.これは,baseline の2端点を固定しないで,baseline 軸に沿ってスライドさせながら最適位置を決めるという方法だ.しかし,この方法は Bookstein 形状座標法のもつ難点を根本的に解決する策とは言えない.


第14回:2006年7月4日(火)

第5章「Superimposition methods」(pp. 113-121)

GLS-Procrustes superimposition 法とResistant-fit superimposition 法との比較.GLS はある任意に決められた基準形態との部分プロクラステス距離が最小になるように対象形態の位置決めをする.具体的には,重心へのセンタリングと重心サイズによるスケーリングをした上で,部分プロクラステス距離を最小にする回転角を計算する.この時点で基準形態と対象形態との“平均形態”を再計算し,それを新しい基準形態として別の対象形態との比較に移る.この作業をすべての形態について行なうことで,最終的に“平均形状”が求まる.得られた到達値がグローバルな最適解なのかどうかわからないが,いずれにせよ逐次的に計算を積み重ねることで解に到達できることは確実だ.一方,resistant-fit 法は,はずれ値(outlier)の効果を軽減するのに役立つと著者は考えている.平均ではなくメディアンを用いて平均形状を計算し,線形計画法(動的計画法?)を用いて数値的に最適配置を計算する.それぞれ一長一短がある.


第15回:2006年7月11日(火)

第6章「The thin-plate spline : visualizing shape change as a deformation」(pp. 129-134)

薄板スプラインによる形態変形の記述の詳細に入る以前に,ものの考え方をことばで説明する.アフィン的な均一変形(uniform component)と非アフィン的な非均一変形(non-uniform component)の“和”として全変形を記述するというのが,本章の目的である.非均一変形のみによって全変形を説明することは不可能ではないが,それは最節約的ではない説明に陥ると著者は言う(p. 134).すなわち,形態の仮想変形においては,ある「共通要因」としての均一変形と「個別要因」としての非均一変形という性格付けが可能になる.


第16回:2006年7月18日(火)

第6章「The thin-plate spline : visualizing shape change as a deformation」(pp. 134-142)

仮想形態変形におけるアフィン成分(均一成分)の導出に関する解説.形状空間の線形接空間における正規直交基底の導出する.変位・回転・等率拡縮の変換は形状を変えないアフィン変換である.形状が変わるのは,ずれ(shear)と不等拡縮(compression / dilatation)の変換を施したときである.いま,ずれと不等拡縮を互いに独立なアフィン変換として定式化すると,それぞれの微小変換から一組の正規直交基底(uniform components)を導出することができる.基本方針は,Fred L. Bookstein (1996)「Standard formula for the uniform shape component in landmark data」, pp. 153-168 in: L. F. Marcus et al. (eds.)『Advances in Morphometrics』(1996年刊行,Plenum Press,ISBN:0-306-45301-0)に準拠している.ただし,複素幾何学の説明がはしょられているので,数式が“でかい”わりには,導出をフォローするのがつらい.


第17回:2006年7月25日(火)

第6章「The thin-plate spline : visualizing shape change as a deformation」(pp. 143-152)

非アフィン変形の薄板スプライン補間と,仮想屈曲エネルギー行列の固有値分解について.仮想薄板の屈曲エネルギー最小化問題という変分問題(双調和方程式)の解は,薄板スプラインの基底関数U(R)によって与えられる.標識点の対応付けから行列演算によって計算されるアフィン部分と非アフィン部分の係数がスプライン関数の形を決定する.


第18回:2006年8月22日(火)

第7章「Ordination Methods」(pp. 155-164)

今日から Part II「Analyzing Shape variables」に進む.ここではいくつかの多変量解析の手法が解説される.本章では,主成分分析(PCA)と正準変量分析(CVA)がふたつの柱になっている.前半は PCA について.多変量の分散共分散行列の固有値と固有ベクトルが導出される.最初に直感的な理解を促し,そのあとで代数的操作の詳細に進むという“生物学者にやさしい”配慮がなされている(もちろん,ヨロイは透けて見えている).


第19回:2006年9月5日(火)

第7章「Ordination Methods」(pp. 164-170)

主成分分析の主成分が分散を最大化するリクツの説明.Anderson による主成分の分散(固有値)の差に関する検定の解説.こういう検定があるとは知らなかったな.あまり使われていないような気もするが.詳しくは,Donald F. Morrison 『Multivariate Statistical Methods, Third Edition』(1990年刊行,McGraw-Hill,ISBN:0-07-100815-2)の pp. 336-338 を参照のこと.


第20回:2006年10月3日(火)

第7章「Ordination Methods」(pp. 170-180)

正準変量分析(CVA)の説明.群内分散/群間分散を最大化するという目的関数のもとで,元の変量の線形結合として新しい軸をつくる.質的変数のもとでカテゴリー(群)がつくれる場合に利用できる.変量ごとの分散の大きさによってリスケールするので,軸の直交性は保たれない.CVAは群間差の識別(同定)に利用できる.群間差の有意性はウィルクスΛ統計量=det(W)/det(W+B) に関するχ2検定(バートレット検定)をすればよい.構築された正準変量軸に沿っての変形を薄板スプラインで図示化すれば,群間差をもっともよく表わす局所変形を抽出することができる.


第21回:2006年10月10日(火)

第8章「Computer-based Statistical Methods」(pp. 189-202)

コンピュータ集約的な計算統計学についての一般論.最初の節は統計学概論なので飛ばす.その後,ブーツストラップ,並べ変え,ジャックナイフ,そしてモンテ・カルロ法についての具体的な説明がなされる.データからの無作為リサンプリングによるブーツストラップは,検定統計量の信頼区間の構築に使えるが,並べ変え法はその目的には使えない.ジャックナイフは現在ではブーツストラップに置き換わりつつあり,そのままで使われることは少なくなっている.最後に,モデルを前提とするモンテカルロ・シミュレーションについての説明があった.


第22回:2006年10月24日(火)

第8章「Computer-based Statistical Methods」(pp. 202-207)

本章を読了.回帰分析を例にとった,並べ替えとブーツストラップによる推定量の信頼区間の推定.並べ替えは帰無モデルによるテストだが,ブーツストラップは観察データによるテストであると著者は言う.また,N回のブーツストラップ試行により,「1/N」の精度が得られると書いてあるが,本当か?


第23回:2006年10月31日(火)

第9章「Multivariate Analysis of Variance」(pp. 209-228)

読了.ANOVAとMANOVAの話.“生物学者向け”の説明をしようとするあまり,かえってわかりにくくなっている箇所がある.尻を叩いて“数学”を勉強させるというムチもありじゃないか.本章の内容はすでにすんでいるのであっという間に読了できた.


第24回:2006年11月21日(火)

第10章「Regression」(pp. 229-242)

回帰分析の前半部分は基本事項だけなので飛ばす.続いて,重心サイズに対する形状変数の回帰の例が説明される.tpsRegr で実行できるタイプの回帰分析だ.回帰の線形モデルで処理群カテゴリーに対する「ダミー変数」を設定すると,通常の分散分析と同じになるという説明がある.これは,次回に登場する予定の共分散分析の導入のためだろう.


第25回:2006年11月28日(火)

第10章「Regression」(pp. 242-255)

サイズとシェイプとの関係をサイズを共変量(covariate)とする共分散分析によって調べる(tpsRegrのような分析).共変量としてはサイズだけではなく,他の要因(たとえば生態学的形質)でもOK.続いて,サイズを除去したシェイプの変動についての正準変量分析(これは定石).その後のベクトル間の内積による“角度”の分析は使い道がいろいろあるかもしれない.文中では個体発生ベクトルの種間差を“角度”によって定量化し,その有意差はブーツストラップによって調べるという事例が挙げられていた.


第26回:2006年12月5日(火)

第11章「Partial least squares analysis」(pp. 261-265)

たいへん勉強になる章.(重)回帰分析の例を取ると,説明変数(x)と目的変数(y)という「変量ブロック」を事前に設定したとき,回帰分析は「xによってyを説明する」という方針の分析をする.一方,PLS分析では,「説明変数 vs. 従属変数」という対置をアプリオリに置かず,変量ブロック全体から導いた“潜在変数”(特異軸 SA)によって各ブロックを説明しようとする.また,主成分分析(PCA)とPLS分析は分散共分散行列を直交分解するという点ではよく似ている.しかし,PCAが説明変数x(n変量から成るとする)に関する(ブロック内)分散共分散行列 x'x(n×n型)の固有値分解を行なうのに対し,PLSは説明変数x(n変量)と従属変数y(m変量)のブロック間での分散共分散行列x'y(n×m型)に関する「特異値分解(singular value decomposition)」を行なうというちがいがある.さらに,正準相関分析(CCA)とPLSとは,変量ブロック間の関連性を見るという点では似ている.しかし,CCAが群間/群内が最大になるように正準軸を設定するのに対し,PLSは変量ブロック間の共分散を最大化する.したがって,両者は目的関数が異なっている.


第27回:2006年12月19日(火)

第11章「Partial least squares analysis」(pp. 265-275)

PLSの代数的計算方法についての解説から始まる.変数ベクトル Y の分割 Y1|Y2 に対応して,分散共分散行列 R が分割され,Y1 および Y2 それぞれについての分散共分散行列 R1, R2と,Y1とY2 に関する共分散行列 R12 が得られる.PLSとは,この R12 に関する特異値分解である.得られた特異値と特異軸に関しては変数分割に関する無作為化検定により,特異値の有意性を調べることができる書かれている.その後,具体例が挙げられている.PLSが威力を発揮しそうな状況は,たとえば複数の標識点から成る形態的部分(頭部とか尾部のような)がそれ以外の部分に対して,統合的な“まとまり”をもつかどうかを調べる研究がある.特異値が有意になるような形態的部分は“まとまり”があると判定されるのだろう.PLSを発見的に使えば,おもしろいかもしれない.


第28回:2007年1月9日(火)

第11章「Partial least squares analysis」(pp. 276-285)

PLS についてはこれまで断片的なことしか知らなかったが,うまく使えば有効なツールになるかもしれない.とくに,形態測定学に関連していえば,形態上の標識点の「グループ」を設定する際に使えるだろう.いまN標識点のk分割(標識点セット)を Gi ,それぞれの標識点数を ni とする(i = 1,2, ..., k.ただし,Σ[i]ni = N).標識点セット Gi と Gj の対の PLS に基づく相関係数を rij と書くとき,「2対の標識点セットの相関係数には差がない」という帰無仮説 H0:「d=rij −rkl=0」の検定を考える.検定統計量 d の帰無分布はブーツストラップによって構築する.この検定によって,PLS相関係数が有意に異なる標識点セット対が検出できれぱよいという考え方だ.場合によっては,多重比較の補正が必要になるかもしれない.


第29回:2007年4月13日(金)

第12章「Disparity and variation」(pp. 293-296)

形態的多様性を,分類群内の「variation」と分類群間の「disparity」というふたつの尺度によって形態測定学的に分析するための手法が解説される.S. J. Gould が1989年に「disparity」を Bauplan 間の差異を表す概念として提唱して以来,この概念に対する批判が多く見られた.著者は,それに対して,Mike Foote による再定式化を踏まえて,「disparity / variation」を再登場させようとしているようだ.

参考文献:Mike Foote 1997. The evolution of morphological diversity. Annual Review of Ecology, Evolution, and Systematics, 28 : 129-152. [DOI:10.1146/annurev.ecolsys.28.1.129]


第30回:2007年4月20日(金)

第12章「Disparity and variation」(pp. 296-302)

「Disparity」を“無色化”した上で,operationalize しようとする試み.形態サンプル集団(species 群で構成される)があるとき,全体の平均形状から各 speceis の平均形状へのプロクラステス距離(あるいは部分歪みスコア)をもって「disparity」と再定義する.一方,各 species の群内でその平均形状から各サンプルへの距離は「variation」とみなされる.これでおしまい.こんなに“脱色”するくらいだったら,主義主張のうずまく「disparity」などということばを最初からなくしてしまった方がはるかに健康的だと思う.群間変動 vs. 群内変動で十分だ.


第31回:2007年5月8日(火)

第12章「Disparity and variation」(pp. 302-308)

形態空間(morphospace)の中で,観察された形状がどのように“分布”しているかをテストするという問題を論じる.帰無モデルとして Gaussian と uniformity(over-dispersion)を想定し,データから得られたパラメータ推定値(平均と分散推定値)を用いた parametric bootstrap により,観察された形状集団内の形状間距離(プロクラステス距離)の分布をテストする.Gaussian と uniformity が棄却されれば,形態空間内でクラスターを形成している(すなわち集中分布している)ことになる.


第32回:2007年5月16日(水)

第12章「Disparity and variation」(pp. 308-310)

複数の群の分散共分散行列の類似性に関して.行列そのものが一致するという理想的状態からどのように「外れて」いくかが論議される.用いる方法としては,「Common PCA(CPCA)」と「Confirmatory Factor Analysis(CFA)」がある.要するに,分散共分散行列を主成分に分割し,群による主成分の方向の差異が有意かどうかをリサンプリングによって検定するというやり方だ.その際,主成分軸をひとつひとつ検定するというもっとも初歩的なやり方以外に,複数の主成分が張る部分空間の法線ベクトルの差異を検定するという,より一般的な方法が提示されていて興味深い.CPCAはすでに形態測定学に応用されているらしいが,CFAはまだ使われていない.


第33回:2007年5月29日(火)

第12章「Disparity and variation」(pp. 310-314)

複数の主成分が張る部分空間の差異をテストする方法について.線形代数の教科書を見ながら再構成した方が早いかもしれない.


第34回:2007年6月5日(火)

第13章「The relationship between ontogeny and phylogeny」(pp. 321-325)

最初のイントロは,グールドの『個体発生と系統発生』を引きつつ,異時性(heterochrony)をめぐるさまざまな論争を紹介し,個体発生と系統発生のパターンとプロセスの研究の進展について概観する.異時性の生活史戦略に関するグールド的な anti-atomism の系譜は,ランデらの量的遺伝アプローチに連なっていると著者は言うのだがほんとうか?


第35回:2007年6月12日(火)

第13章「The relationship between ontogeny and phylogeny」(pp. 325-330)

伝統的なアロメトリーの技法について.第1主成分を“size-factor”として,他の距離変量との対数線形モデルを当てはめる説明がずっと続く.もっと最節約的に.


第36回:2007年7月17日(火)

第13章「The relationship between ontogeny and phylogeny」(pp. 330-333)

アロメトリー式における,傾き「k」と切片「b」の解釈について.傾き「k」は,ある変量(通常はサイズ変数)と特定の標的距離との相対的な成長の比率を表すという単純な解釈が可能である.k=1 ならば isometry と呼ばれ,k>1 または k<1 ならばそれぞれ正または負の allometry を示すと呼ばれる.問題は,切片「b」をどのように生物学的に解釈するかである.無次元量である k とは異なり,b は次元をもつ.ひとつの解釈は,k を一定値に固定したとき,b は成長系列における「差異」とみなすというやり方である.個体発生の過程での k と b の解釈はもう少し込みいっているが,いくつかのモデルが提唱されている.


第37回:2007年7月24日(火)

第13章「The relationship between ontogeny and phylogeny」(pp. 333-337)

個体発生上のアロメトリーに関する検定問題.チャネリング(平行進化)すなわち paedomorphosis と peramorphosis をアロメトリーの観点から分析する.両対数プロットでアロメトリー関係を図示したとき,傾き k に関するチャネリング帰無仮説「すべての集団について k は等しい」の検定方法を与える.ベクトル(ki)の2集団間の角度を検定統計量とする.ベクトルの成分に関する permutation test を実施し,帰無分布を生成.検定統計量に基づくテストを行なう.この節は,伝統的なアロメトリー理論の枠組みの中での解析なので,標識点間の距離変量での議論に終始する.


第38回:2007年8月1日(水)

第13章「The relationship between ontogeny and phylogeny」(pp. 337-340)

個体発生の過程でのサイズとシェイプの変化のモデル化について.グールドの「時計モデル(clock model)」は『個体発生と系統発生』(1977)の第2部で提唱されて以来たいへん有名になったが,この本ではむしろその後に出た Alberch et al.(1979) の「3次元モデル」の方が有用であると述べている.この場合の「3次元」とは,時間軸・サイズ・シェイプで,四つのパラメータによってモデル化されている.


第39回:2007年8月21日(火)

第13章「The relationship between ontogeny and phylogeny」(pp. 341-344)

アロメトリー式を用いてのさまざまな「わざ」が開陳される.発生初期段階で変化が生じても(b変化),アロメトリー関係は変わらない場合(a不変).あるいは,発生過程全体を通じてaに一定のちがいがあるとき.これらのケースは,MANCOVAなどを使えば仮説を容易にテストすることができる.しかし,発生の途中にaが変わったり,発生期間の長さが変化するような状況ではたいへん複雑なことになってしまう.さもありなん.


第40回:2007年9月11日(火)

第14章「Morphometrics and systematics」(pp. 363-367)

形態測定学が体系学ともち得る接点としては,分類学と系統学そして進化学の三つがあると指摘される.最初の部分では,分類学的な同定(identification)に焦点を当てる.正準変量分析(CVA)を用いた解析例が提示され,種間の判別ができたとしても,必ずしも検索表(key)が自動的に得られるわけではないことが示される.それぞれの正準変量軸が生物学的に単純な解釈を許す場合はともかく,一般にはもっと複雑になってしまうので当然のことではある.


第41回:2007年9月26日(水)

第14章「Morphometrics and systematics」(pp. 367-372)

形態測定学的変量から「形質」を構築することができるかという論議.著者らはかつて肯定的な立場をとっていたにもかかわらず,本書では一転して全面否定のスタンスに変わっている.形態測定学に基づく系統推定をめぐっては,1) 形質状態のコード化;2) 形質としての信頼性,のふたつが主たる論点だった.伝統的な形態測定学では,形質変形のローカライズができないという根本問題があった.これに対して,幾何学的形態測定学は,局所変形の部分歪み(partial warps)による分割を実行できるという利点がある.しかし,著者らは部分歪みを形質として用いることはできないと断言する.その論拠は次の二つだ.

第一に,部分歪みは局所化のスケールに依存しているため,他の部分歪みとの関連性を見ることができないという.また,部分歪みのスコアが大きいからといって,必ずしも形態変形が大きいわけではないともいう.後半については確かにそのとおりなのだが(代数的な直交分割が必ずしも生物学にそのまま解釈できるわけではない),前半については言い過ぎだろう.彼らが挙げた実例(Figs. 14.2-3)は説得的ではない.それぞれの局所化のスケールについてある変形要素が共有されているかいないかは系統学的情報を十分にもっていると考えられる.

第二に,幾何学的な形状分析の前提である「変数選択からの独立性」に抵触するという点で,部分歪みスコアをもって形質とみなすことはできないと著者らは主張する.しかし,これまた反論が可能である.彼らは,部分歪みスコアというスカラー軸に形状空間を射影することには問題があると述べている.しかし,スコアではなく,部分歪みそのものを「形質」とみなすならば,ここで論じられているような問題点は回避できるだろう.部分歪み解析によって直交分割されたひとつひとつの軸を形質とみなし,その共有性を系統解析のための情報源として利用するというアプローチの可能性は本書では探索されていない.

本節ではとても重要な論点を論じているのだが,主張のバイアスはどうしようもない.


第42回:2007年10月9日(火)

第14章「Morphometrics and systematics」(pp. 372-379)

部分歪み(partial warps)のスコアが形質とはなりえないという前節の論議を受けて,主成分分析における主成分(principal components)が形質となるかに議論は進む.著者らの見解は「No」である.変量の線形結合としての主成分は単に分散を最大化するという基準で構築された軸であるから,それ自体が形質となるわけではないという理由だ.最後に登場するのが,形態間変形ベクトルである.形態ペアの間での仮想変形(部分歪みの直和)をベクトルとして捉えたとき,仮想変形のベクトル演算は形質となりえると著者らは肯定的に述べている.基準形態Aに対して比較すべき形態B,Cがあるとき,A→BとA→Cというふたつの仮想変形ベクトルdeform(A→B),deform(A→C)を考える.このとき,ベクトル差deform(A→B)−deform(A→C)は,CからBへの変形にともなう差異を表すので,形質とみなせるだろうという立論だ.本章では,いささかもってまわった議論が長引いたが,変形に伴う「何」を形質とみなすかという問題に決着がついても,さらにその後にはその形質をどのように「コード化」するかという次なる問題が待ち構えている.先は長い.


第43回:2007年10月24日(水)

第15章「Beyond two-dimensional configurations of landmarks」(pp. 385-405)

本章では,まずはじめに三次元座標データに基づく幾何学的形態測定学の理論を概説する.しかし,代数的には行列計算の次数がひとつ上がるだけで,本質的なところでは何も変わらない.むしろ,三次元データをどのように取得するのかという実践的問題の方が大きい.また,三次元形状に対する仮想変形を計算する場合には,薄板スプラインのカーネルを変更しなければならないが(U=標識点からのユークリッド距離),その点を除けば本質的な差はない.次に,標識点の拡張としての「準標識点(semilandmarks)」についての論議に移る.初期値としては,輪郭等分点・弧等分点・中心角等分点など恣意的に設定された準標識点をまず置くことになる.その後,“sliding”の操作を接線方向あるいは法線方向に施して,基準形状に対する屈曲エネルギーを最小化する最適配置を決定することになる.ただし,準標識点と正規の標識点とをどのように複合して解析を進めるかについては議論が分かれるところである.確かなことは,準標識点は自由度が低いので,パラメトリックではなくノンパラメトリックな統計手法を用いなければならないという点である.


参考図書[全般的]

  • Adams, D. C., F. J. Rohlf, and D. E. Slice 2004. Geometric morphometrics: Ten years of progress following the 'revolution'. Italian Journal of Zoology, 71: 5-16.
  • Bookstein, F. L. 1991. Morphometric Tools for Landmark Data: Geometry and Biology. Cambridge University Press, Cambridge.
  • Dryden, I. and K. V. Mardia 1998. Statistical Shape Analysis. John Wiley & Sons, Chichester.
  • Kendall, D.G., D. Bardon, T.K. Carne and H. Le 1999. Shape and Shape Theory. John Wiley & Sons, Chichester.
  • MacLeod, N. and P. L. Forey (eds.) 2002. Morphology, Shape and Phylogeny. Taylor & Francis, London.
  • Marcus, L. F., M. Corti, A. Loy, G. J. P. Naylor, and D. E. Slice (eds.) 1996. Advances in Morphometrics. Plenum Press, New York.
  • Mardia, K. V. and P. E. Jupp 2000. Directional Statistics. John Wiley & Sons, Chichester.
  • 三中信宏 1999. 形態測定学. Pp. 60-99: 棚部一成・森啓(編)『古生物の形態と解析』(朝倉書店, 東京).
  • 三中信宏 2003. 生物形態とその変形をどのように定量化するか:幾何学的形態測定学への道. Pp.313-328. 所収:関村利朗・野地澄晴・森田利仁(編)『生物の形の多様性と進化:遺伝子から生態系まで』(裳華房, 東京).
  • Rohlf, F. J. and L. F. Marcus 1993. A revolution in morphometrics. Trends in Ecology and Evolution, 8: 129-132.
  • Slice, D. E. (ed.) 2005. Modern Morphometrics in Physical Anthropology. Kluwer Academic / Plenum Publishers, New York.
  • [参照サイト]Morphometrics at SUNY Stony Brook (http://life.bio.sunysb.edu/morph/)

Last Modified: 24 October 2007 by MINAKA Nobuhiro