東京農業大学(つくばアネックス)「応用昆虫学」講義として

自然人類学における幾何学的形態測定学の諸手法

三中信宏(東京農業大学客員教授・応用昆虫学)


日時:2007年10月30日(金)から毎週火曜 13:00〜15:00 に開講
場所:農業環境技術研究所・生態系計測研究領域(つくば市観音台 3-1-3)
教材:下記を教科書として用いる —

Denice E. Slice (ed.) (2005)
Modern Morphometrics in Physical Anthropology
Kluwer Academic / Plenum Publishers,xxii+383 pp., ISBN:0-306-48697-0 → 目次


シラバス

幾何学的形態測定学(geometric morphometrics)の諸手法に関する実践的利用のあり方を,自然人類学における最新の事例を学ぶことによって学習する.本書の対象生物はヒトであるが,その手法は他の生物群にも広く適用できると考えられる.輪読教材の構成は,前半8章が理論編,後半8章が応用編となっている.幾何学的形態測定学に関する一通りの理解,ならびに数理統計学と初等幾何学の知識を要する.なお,本講義(通年)は基本的に輪読形式で行なう.輪読の要約や追加情報はこのページにそのつど掲載する.[講師:三中信宏]

【追記】本講義に先行する生物統計学の講義については,旧ページを参照されたい.(24 October 2007)


第1回:2007年10月30日(火)

第2回:2007年11月7日(水)

第3回:2007年11月14日(水)

第4回:2007年11月28日(水)

第5回:2007年12月5日(水)

第6回:2007年12月25日(火)

第7回:2008年1月15日(火)

第8回:2008年1月29日(火)

第9回:2008年2月6日(水)

第10回:2008年2月20日(水)

第11回:2008年2月27日(水)

第12回:2008年3月26日(水)

第13回:2008年4月22日(火)

第14回:2008年4月30日(水)

第15回:2008年5月7日(水)

第16回:2008年5月20日(火)

第17回:2008年5月28日(水)

第18回:2008年6月24日(火)

第19回:2008年8月6日(水)

第20回:2008年9月3日(水)

第21回:2008年10月21日(火)

第22回:2008年11月19日(火)


第1回:2007年10月30日(火)

Chapter 1 : Denice E. Slice「Modern Morphometrics」(pp. 1-45)

40ページ以上もある形態測定学の概説論文.読了.大半の話題はすでに知っていることだが,ときどき新しい点が混じる.自然人類学が現代の形態測定学にとって格好の“実験場”となっていることがわかる.大部分は標識点座標に基づく幾何学的形態測定学の手法だが,後半で距離法(EDMA)やフーリエ法にも触れられている.singular warps というのがあったのか.等分散の場合の EDMA1 と不等分散の場合の EDMA2 という使い分けに注意(後者は parametric bootstrap で行列相関の検定をする).他の本では登場しないような比較的新しい方法までカバーされているが,それはこの論文週全体の特長でもある.

第2回:2007年11月7日(火)

Chapter 2 : Fred L. Bookstein「After Landmarks」(pp. 49-52)

例によって,一回読んだだけではぜんぜんわからないことが書かれているので,ひとつひとつつぶしながら這い進むことになる.標識点ベースの形態測定学はもう完成したと著者は言う.では「その次」に何が来るのかが本章のテーマとなる.ケンドール形状空間のケント接平面における変形の記述に関して,著者は従来の屈曲エネルギーの定義式に代わる新しい高次屈曲エネルギーの概念をさらりと提唱する.これまでの屈曲エネルギーは二次導関数の定積分によって定義されていたため,その値を最小化するのは凹凸ができるだけない“平ら”なスプライン曲面だった.しかし,屈曲エネルギーを三次導関数の定積分によって定義すると,これまでの論議を一つずつ高次に移行することにより,一次導関数が“平ら”になり,最適スプライン関数そのものが大きくたわむことが可能になる.trend-surface あるいは growth-gradient とこれまで呼ばれてきたたわみのある応答曲面は,このような新たな屈曲エネルギー概念のもとで再発見されると著者は言う.※とっても難しいっす…….Jim Rohlf は「Fred の話は3回聞いて初めてわかる」と言ったらしい.

第3回:2007年11月14日(水)

Chapter 2 : Fred L. Bookstein「After Landmarks」(pp. 52-53)

牛歩の読みとり作業.実に難物だなあ.仮想変形のモデルとしての薄板スプラインそのものの再検討をしている. 形態測定学でこれまで用いられてきた通常の薄板スプラインは,二次導関数に関する変分計算を行なって,汎関数としての解を離散化して求める.しかし,ここでは,新しい変分を提唱し,三次導関数に関する変分を出発点とするスプラインを考えようとする.二次導関数で定義される屈曲エネルギーを最小化する薄板スプラインは,一次導関数を平坦化するため,元の関数は平面に近い滑らかな曲面になる.従来から用いられてきたこの方法(線形 linear な「TPS」)では,全変形を大域的なアフィン成分(uniform component)でまず説明し,あとの残差を局所的な非アフィン成分(nonuniform component)に帰着させる. しかし,このやり方では,著者の言う傾向性(trend)がうまく説明できない場合がある.最初に線形なアフィン成分ではなく,もっと高次の共通要素(たとえば二次曲面)で説明するためには,最小化される関数を三次導関数とし(高次の屈曲エネルギー),定数の二次導関数,線形の一次導関数,そして二次の関数というふうにすれば,平坦ではなく“曲がり”をもった関数をあてはめることができるだろうという考えだ.ここで提唱されている二次形式の薄板スプライン(「TPSQ」)は,Grace Wahba の一般スプライン理論を踏まえている:Grace Wahba (1990), Spline Models for Observational Data. SBMS-NSF Regional Conference Series in Applied Mathematics 59, SIAM.—— たとえていえば,従来の「TPS」は一次関数による線形回帰であるのに対し,新しい「TPSQ」は二次関数を用いた非線形回帰と言えるだろう.

第4回:2007年11月28日(水)

Chapter 2 : Fred L. Bookstein「After Landmarks」(pp. 54-57)

旧来の TPS から 新しい TPSQ へ移行する意義について.形状に関するモデルからの予測と残差との関係に着目し,現象を記述するモデルとしての有用性がもっとも重要であると論じる.TPS のアフィン変形を均一成分としたのでは形状の全変動の半分程度しか説明できないが,TPSQ の二次曲面を均一成分としたときには90%を越える変動が説明できる例が挙げられている.TPS / TPSQ の関係は,やはり線形回帰 / 非線形回帰にたとえるのがもっとも理解しやすいだろう.※遅遅とした進み具合だが,この著者の場合はしかたがない.

第5回:2007年12月5日(水)

Chapter 2 : Fred L. Bookstein「After Landmarks」(pp. 57-64)

三次元的な形状変化を薄板スプラインを用いて解析するためには,新しいグラフィック・ツールが必要であると論じる.たとえば,三次元形態上の空間曲線の法平面に対して標識点を射影した上で形状変形をスプライン近似するという手順を,曲線すべてにわたってトレースし,それを動画的に動かすことによって,形状変形の動的な様相を視覚化するという提案がなされている(〈Edgewarp〉には実装されているらしい).また,形状曲線に対する法平面と接平面を組合せるというアイデアも述べられている.しかし,著者自身が指摘するように,この方面の研究はまだ端緒についたばかりだとのこと.

第6回:2007年12月25日(火)

Chapter 2 : Fred L. Bookstein「After Landmarks」(pp. 64-69)

通常の標識点(landmark)はすべての座標値が確定した「点」の情報である.一方,近年使われ始めた準標識点(semilandmark)は,形態上の曲線または曲面に沿って動くため,座標値のいくつかが確定されていない.1990年代はじめに考案された「輪郭素(edgel)」の理論は,標識点に対して微分係数の情報を付与することにより,標識点近傍の曲線・曲面の情報を考慮しようとした.準標識点と輪郭素(あるいは ridgel, archel, vessel, tubel etc.)とを組合せることによって,さらなる柔軟な手法が開発できるのではないかと提案される.

第7回:2008年1月15日(火)

Chapter 3 : Philipp Gunz, Philipp Mitteroecker, and Fred L. Bookstein「Semilandmarks in Three Dimensions」(pp. 73-98)

準標識点(semilandmark)をどのように設定するか.正規の標識点とは異なり,いずれかの座標値が“欠けている”準標識点の設定はこれまで恣意的に行われてきた.しかし,著者らは平均形状からの仮想変形を考えたとき,準標識点の設定が不自然だと artifact が生じてしまう例を挙げている.その上で,仮想変形の屈曲エネルギーを最小化するような準標識点の設定方法を以下で述べることになる.

第8回:2008年1月29日(火)

Chapter 3 : Philipp Gunz, Philipp Mitteroecker, and Fred L. Bookstein「Semilandmarks in Three Dimensions」(pp. 80-83)

3次元座標に対する薄板スプライン補間関数の構築を,カーネルから出発してたどる.変分法の離散化による最適化という点では2次元も3次元も変わりはない.この章では,通常の標識点(landmark)以外に,準標識点(semilandmark)をも許容する.問題は,座標のいくつかが不確定である準標識点の位置をどのように最適化するかということだ.著者らは,比較する形態の標識点セット(準標識点サブセットを含む)の間で,仮想変形を考えたとき,屈曲エネルギーが最小化されるような準標識点の位置決めを目指す.ある輪郭に沿っての準標識点の変位に伴うカーネルの値を線形結合で集計するとき,その係数ベクトルを屈曲エネルギーが最小になるように求めるという方法だ.

第9回:2008年2月6日(水)

Chapter 3 : Philipp Gunz, Philipp Mitteroecker, and Fred L. Bookstein「Semilandmarks in Three Dimensions」(pp. 83-86)

前回の拡張として,曲面上を動く準標識点の位置を最適化するアルゴリズムの解説.曲線上の場合は,曲線の接線方向ベクトルの係数を最適化するという方針だったが,曲面上の場合はその標識点の散布図の第1主成分と第2主成分が張る接平面上で準標識点の位置をiterativeに最適化する(the basic algorithm).具体的には,主成分の張る接平面の中で,屈曲エネルギーが最小となる新たな座標値を求め,さらにプロクラステス整列を行なって再び主成分分析を行ない,接平面を更新するというアルゴリズムだ.このやり方だと行列代数による線形計算のみですんでしまう.しかし,移動後の準標識点が現実の曲面から離れてしまうので,接平面から曲面への正射影による戻すという処理を施す(the extended algorithm).このアルゴリズムを繰り返して得られた収束値が,準標識点の最適な位置ということになる.

第10回:2008年2月20日(水)

Chapter 3 : Philipp Gunz, Philipp Mitteroecker, and Fred L. Bookstein「Semilandmarks in Three Dimensions」(pp. 86-89)

標識点と準標識点に関する統計モデリングを論じる.標識点の個数が増えると,形状サンプルと比較してパラメータ数が増え過ぎてしまうというパラメトリック統計学固有の問題が表面化する.これを回避するためには,何らかのノンパラメトリック統計学の手法を導入しなければならない.ここでは,[準]標識点からなる形状ベクトルの間の統計的差異を検出するという問題を考える.もし標識点のみからなるケースであれば,2形状の標識点座標データから計算された検定統計量の帰無分布を permutation test によって構築するという手が使える.しかし,標識点セットの中に準標識点が含まれていると,いくつかの座標データがもともと“欠如”しているため,座標に関する無作為化という手順は困難があるかもしれない.その場合は,座標データではなく,計算された距離尺度に関する無作為化検定を考える必要があるだろう.この点についてはまだ open である.

第11回:2008年2月27日(水)

Chapter 3 : Philipp Gunz, Philipp Mitteroecker, and Fred L. Bookstein「Semilandmarks in Three Dimensions」(pp. 89-96)

この章の最後の部分は,三次元画像からの標識点のサンプリングに関する実例を示す.頭骨の三次元画像ファイルがあるとき,まずはじめに等密度かつ高密度に点をサンプリングする.その後,標識点ならびに準標識点を設定し,準標識点については本章が説明した方法で最適化する.実例では,このやり方によって,性的二型と成長による形状差を判別する手順が述べられた.

第12回:2008年3月26日(水)

Chapter 4 : David Paul Reddy, Katerina Harvati, and Johann Kim「An Alternative Approach to Space Curve Analysis Using the Example of the Neanderthal Occipital Bun」(pp. 99-105)

形態上の3次元曲線を解析する方法を考察する.デジタイズされた3D曲線は,アフィン変換によって整列した上で,等間隔に semilandmarks を配置し,リサンプリングによって,直交平面を曲線上に設置していく.各平面に対する射影を考えることにより,平均曲線まわりのバラツキを把握する,というやり方をしている.

第13回:2008年4月22日(火)

Chapter 4 : David Paul Reddy, Katerina Harvati, and Johann Kim「An Alternative Approach to Space Curve Analysis Using the Example of the Neanderthal Occipital Bun」(pp. 105-114)

Sliding semilandmark 法とは異なり,著者らが提唱する新しい「nonuniform curve relaxation 法」は,空間曲線をGPAによってプロクラステス整列し,曲線上に初期設定された標識点の集合に対してリサンプリングによって推定された法線ベクトルが規定する平面に対して標識点集合を正射影するという操作を各標識点集合について繰り返す.そして,全体の屈曲エネルギーが最小化されるようにその平面内で最適化することにより,標識点の最適位置を決定する.適用例を見るかぎり,sliding semilandmark 法との明瞭なちがいは見えない.しかし,局所的な形状情報を局所的に取り扱うという理念の上ではメリットがあるのかもしれない.Sliding semilandmark 法では,曲線内での準標識点の位置が最適化の過程でグローバルにずれる可能性があるが,nonuniform curve relaxation 法だと,各標識点集合ごとにあらかじめ制約平面を設定するので,最適化の範囲がローカルに限定されることになるだろうから.

第14回:2008年4月30日(水)

Chapter 5 : Waleed Gharaibeh「Correcting for the Effect of Orientation in Geometric Morphometric Studies of Side View Images of Human Heads」(pp. 117-120)

3D画像を2D表示するとき,オブジェクトの“定位”によって取得された2Dデータに体系的誤差が生じる.その誤差をどのようにして補正するのかという内容だ.3D画像の左右の振れ(turning)と前後の傾き(tilting)による誤差をある方向への正射影を計算することにより補正するという基本的な考えが示される.実例はヒトの頭骨側面データ.

第15回:2008年5月7日(水)

Chapter 5 : Waleed Gharaibeh「Correcting for the Effect of Orientation in Geometric Morphometric Studies of Side View Images of Human Heads」(pp. 120-124)

三次元オブジェクトの回転(turning と tilting)が正射影の二次元標識点形状にどのような体系的な影響を与えるかをシミュレーションにより考察する.経験的に,三次元空間内でのオブジェクトの回転は二次元標識点の変異における第1主成分に影響すると仮定できる.そこで,実際に頭骨形状を三次元的に回転させ,その二次元射影に生じる変異を仮想変形として記述する実験を行なった.

第16回:2008年5月20日(火)

Chapter 5 : Waleed Gharaibeh「Correcting for the Effect of Orientation in Geometric Morphometric Studies of Side View Images of Human Heads」(pp. 124-129)

3D物体の角度(turning と tilting)が2D画像のばらつきに与える影響をみるために,一連のシミュレーション実験を行なう.まずはじめに,実際の形状データの標識点の座標値を一様乱数によってばらつかせる.このようなシミュレーションによって得られた多数の3D擬似サンプルと現実のデータのばらつきのパターンを主成分分析によって比較したところ,現実のデータのばらつきは擬似サンプルのばらつきよりも範囲が狭いことがわかった.次に,擬似サンプルを一定の角度区間からの一様分布によってばらつかせるというシミュレーションを行ない,現実データのばらつきの大きさと比較することにより,現実データの角度の範囲を推定した.

第17回:2008年5月28日(水)

Chapter 5 : Waleed Gharaibeh「Correcting for the Effect of Orientation in Geometric Morphometric Studies of Side View Images of Human Heads」(pp. 129-137)

3Dオブジェクトの“置き方”のズレがどのような影響をもたらすかを実験的に解明しようとする.3D標識点セットを実際にある角度範囲で動かした結果を標識点の散布図あるいは主成分分析により相互比較した.その結果,「−40度〜+40度」の範囲であれば,回転ズレの“実害”はほとんどないことがわかった(第一主成分のみで95%程度は説明できる).しかし,それを越える大きなズレがあると,下位の主成分の貢献度がしだいに高くなるので,形状変動の説明に影響が出てくるという.しかし,実際問題として「−40度〜+40度」もの許容範囲で問題なければ現実的には3D回転ズレの影響は無視できるということだろう.

第18回:2008年6月24日(火)

Chapter 5 : Waleed Gharaibeh「Correcting for the Effect of Orientation in Geometric Morphometric Studies of Side View Images of Human Heads」(pp. 138-141)

3D物体の“ズレ”が2D画像においてどのような体系的誤差をもたらすのか,推定や検定に対する影響の大きさをシミュレーション研究で示す.まずはじめに,検定の方法によってその影響をもろに受けるときとそうでないときがあると著者は指摘する.ケンドール形状空間上における形状差を検定する Goodall test では,プロクラステス計量が複素ワトソン分布(null model)のもとで近似的にカイ二乗分布をすることから,F検定による形状差のテストを構築する.この Goodall test は“ズレ”の影響の直撃を受けるので使えないそうだ.一方,座標に関する多変量分散分析は“ズレ”の方向性と集団間差異の方向性が直交していれば射影補正によっていい結果が得られるが,並行しているとよくない.実際,ヒト顔面の画像を用いた例では,“ズレ”の方向と集団間差異の方向が並行するとき,主成分が縮退してしまうことがある.

第19回:2008年8月6日(水)

Chapter 6 : Michel Baylac and Martin Frieß「Fourier Descriptors, Procrustes Superimposition, and Data Dimensionality: An Example of Cranial Shape Analysis in Modern Human Populations」(pp. 145-165)

標識点ベースの手法と輪郭ベースの手法はこれまで形態測定学の中で積極的な連携がうまくいかなかった.本章では,輪郭上の相同標識点に関する GPA(generalized Procrustes analysis)により,輪郭曲線を整列し,その上で楕円フーリエ解析を実行するという手法を提唱している.総論の部分では(pp. 145-153),フーリエ級数による輪郭曲線の記述に伴う「多パラメーター問題」をどのように回避するかが論じられている.三角関数項そのものを減らすと精度が悪くなるので,むしろ主成分分析のような次元減少による削減が望ましいと言う.後半の実例では,ヒトの頭骨の事例を用いて,集団間の多変量的判別の効率の善し悪しを論じる.

第20回:2008年9月3日(水)

Chapter 6 : Michel Baylac and Martin Frieß「Fourier Descriptors, Procrustes Superimposition, and Data Dimensionality: An Example of Cranial Shape Analysis in Modern Human Populations」(pp. 153-162)

判別という個別の目的のもとで,輪郭ベースと標識点ベースの形態測定学の長短を比較している.ヒトの頭骨という同じオブジェクトであっても,凹凸のある側面形態では両者の間には大きな違いはないが,上から見下ろした滑らかな形状の画像では輪郭ベースの楕円フーリエ解析の方が誤判別の率が低くなっているようだ.また,判別分析の手法としては,線形判別分析よりも「K最近隣判別法(K-nearest neighbor method)」の方が勝れているという.

第21回:2008年10月21日(火)

Chapter 7 : Hermann Prossinger「Problems with Landmark-Based Morphometrics for Fractal Outlines: The Case of Frontal Sinus Ontogeny」 (pp. 167-169)

形状のノイズが大きすぎると,標識点(準標識点)を設定することもできないし,輪郭曲線を用いることもできない.本章では,そのような場合でも「フラクタル次元」を用いたシミュレーションを利用できる可能性を探る.まだイントロの部分しか読んでいないが,ざっと以下のような手順になるらしい:1) ノイズを含む輪郭画像から等角分割による極座標データを取得する(ここまではフーリエ解析の手順と同じ); 2) 個体発生の過程での形状変形をシグモイド関数で近似し,そのパラメーター(成長率r,飽和値K,初期時刻t0)をデータから推定する; 3) パラメーターrに関する形状輪郭のフラクタル次元を求める; 4) そのフラクタル次元に関するシミュレーションを実行し,実際のデータとのフィットを調べる.

第22回:2008年11月19日(火)

Chapter 7 : Hermann Prossinger「Problems with Landmark-Based Morphometrics for Fractal Outlines: The Case of Frontal Sinus Ontogeny」 (pp. 169-183)

形状の輪郭曲線の画像から極座標データを取得し,輪郭に関するフラクタル次元を推定するためアルゴリズムが解説される.極座標の半径(r)に関する標準偏差が角度(φ)のラグに関する指数関数として近似される場合,その次数が整数であれば滑らかな曲線だが,非整数の場合はフラクタル曲線となる.しかし,本章でむしろ興味深いのは,輪郭曲線を等角度に分割して得られるデータ行列を特異値分解(singular value decomposition)したときに,輪郭上に“不動点”が複数個現われるという現象だ.どこまで一般化されるかはわからないが,著者はこの“不動点”を代用標識点(surrogate landmarks)とみなすことにより,曲線上の sliding landmarks の可動範囲に対する制約条件として利用できるのではないかと示唆している.フラクタル性よりもむしろこちらの方が役に立つように思われた.


参考図書[全般的]

  • Adams, D. C., F. J. Rohlf, and D. E. Slice 2004. Geometric morphometrics: Ten years of progress following the 'revolution'. Italian Journal of Zoology, 71: 5-16.
  • Bookstein, F. L. 1991. Morphometric Tools for Landmark Data: Geometry and Biology. Cambridge University Press, Cambridge.
  • Dryden, I. and K. V. Mardia 1998. Statistical Shape Analysis. John Wiley & Sons, Chichester.
  • Kendall, D.G., D. Bardon, T.K. Carne and H. Le 1999. Shape and Shape Theory. John Wiley & Sons, Chichester.
  • MacLeod, N. and P. L. Forey (eds.) 2002. Morphology, Shape and Phylogeny. Taylor & Francis, London.
  • Marcus, L. F., M. Corti, A. Loy, G. J. P. Naylor, and D. E. Slice (eds.) 1996. Advances in Morphometrics. Plenum Press, New York.
  • Mardia, K. V. and P. E. Jupp 2000. Directional Statistics. John Wiley & Sons, Chichester.
  • 三中信宏 1999. 形態測定学. Pp. 60-99: 棚部一成・森啓(編)『古生物の形態と解析』(朝倉書店, 東京).
  • 三中信宏 2003. 生物形態とその変形をどのように定量化するか:幾何学的形態測定学への道. Pp.313-328. 所収:関村利朗・野地澄晴・森田利仁(編)『生物の形の多様性と進化:遺伝子から生態系まで』(裳華房, 東京).
  • Rohlf, F. J. and L. F. Marcus 1993. A revolution in morphometrics. Trends in Ecology and Evolution, 8: 129-132.
  • Zelditch, M. L., Swiderski, D. L., Sheets, H. D. and Fink, W. L. 2004. Geometric Morphometrics for Biologists: A Primer. Elsevier Academic Press, San Diego, xii+443 pp., ISBN:0-12-778460-8→目次講義ページ
  • [参照サイト]Morphometrics at SUNY Stony Brook (http://life.bio.sunysb.edu/morph/)

Last Modified: 19 November 2008 by MINAKA Nobuhiro