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日録2007年3月


31 maart 2007(土) ※ 年度末はクビもまわらん土曜日(痩せるかな)

◇午前5時10分起床.曇り.気温6.4度.今日は下り坂の天気らしい.農林団地はこんな早朝から花見客が来ている.五分咲きといったところか.雨が降ってもまだもつだろう.

◇この期に及んでなおよそ見するワタシ —— 『POY Book』登場!:Ward Wheeler et al.『Dynamic Homology and Phylogenetic Systematics : A Unified Approach Using POY』(2006年刊行,American Museum of Natural History, New York, ISBN:0-913424-58-7→目次).アメリカ自然史博物館からpdfファイルとして入手できる.ただし,全373ページで2.5MBもある大きなファイルなのでダウンロードの際は要注意.

 本書に関しては,昨年の段階で,もうすぐ出版されるという話を耳にしていたので,関係しそうな出版社の近刊情報には気をつけていたのだが,まさか400ページもある計算系統学の新刊が,自由にダウンロードできるとは予想してしなかった(AMNHは太っ腹すぎるなあ).本書は,シーケンスとアライメントを一体化させた「動的最適化」に基づく最節約系統推定ソフト〈POY version 4.0〉のマニュアルとしてつくられているが,前半100ページは系統推定の一般論だ.

 なお,〈POY 4.0〉の最新版は,つい先日(29 March 2007)に公開されたばかりだ:Varón, A., L. S. Vinh, I. Bomash, W. C.Wheeler. 2007. POY (Phylogenetic Analysis of DNA and other Data using Dynamic Homology) version 4.0 Beta 1724. American Museum of Natural History. http://research.amnh.org/scicomp/projects/poy.php

◇さらなるよそ見 —— 今度は数理系統学:Olivier Gascuel and Mike Steel (eds.)『Reconstructing Evolution : New Mathematical and Computational Advances』(2007年8月刊行予定,Oxford University Press, ISBN:9780199208227→版元ページ).前著 Olivier Gascuel (ed.)『Mathematics of Evolution and Phylogeny』(2005年刊行,Oxford University Press,ISBN:0198566107→目次)に続く論文集.

◇正午過ぎに,注文していたライティング・テーブルが届いた.これでやっと原稿が書けるぞ.書くんだぞ.(自己暗示)

◇日中はそれでも曇りのままなんとかもっていたが,日が暮れて小雨がぽつぽつと降り出した.松代の〈エスコフィエ〉でつい大食してしまう.※ダメだー…….

◇降り続く雨,捗らぬ原稿,原稿〜.と言いつつ年度をまたぐ.

◇本日の総歩数=9524歩[うち「しっかり歩数」=1230歩/11分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=−0.3kg/−0.7%.


30 maart 2007(金) ※ 現実逃避カレーはことのほか美味で

◇午前5時半起床.小雨.気温8.3度の割には体感的に寒い.しだいに雨足が強まり,午前7時から8時にかけては一時吹き降りになったが,9時には空が明るくなり,晴れ間も.北寄りの風が涼しく,気温12.9度.めまぐるしい空模様の移り変わりだ.

◇現実逃避カレー —— 内面的モノローグは続く:「あの原稿の締切は今日やなあ/ぜーんぜん間に合わへんやん……/困ったなあ」と,ここ数日のひとりごとをリフレインして,ふと「ま,カレーでもつくろか」ということで,早朝からいきなり仕込みを始めた.現実逃避が厨房に籠るの圖.

 材料だけはすでに買ってあったので,あとは現実逃避と決断のないまぜで万事オーケー.1時間後にはもうカレー鍋がくつくつと煮えていた.今回のカレーは,「脱力系現実逃避的新玉葱カレー」と勝手に銘打って,旬の新玉葱をまるごと鍋にぶち込むという暴挙に出た(ええい,ヤケのやんぱちやあっ).1) カレー・ルーはしっかりつくる.缶詰ホールトマトとスープでのばす; 2) ローストした牛肉塊1kgを投入,さらに皮むきした新玉葱を丸ごと投入,とどめに人参の大乱切りを投入する.要するに細かいことは考えずに鍋にぽんぽん放り込めばいい.3) あとは,ときどき赤ワインを足しながら,ひたすら煮込むのみ.5時間でも10時間でも.煮込み時間がすべてを解決してくれるだろう.なんてラクちんな料理か.

◇研究所にて現実復帰(ふっ……).何としても何とかしないと何ともならんぞ,これは.おい.

◇午後のこまごま(プチ逃避) —— 年度末にまたまた降り積もり始めた「ML火山灰」の掃除をしばし.〈EVOLVE〉の管理ウェブページがしばしば「システムエラー」を起こすので,文殊の知恵を拝借に行く.

◇青空を大きな雲塊が北風に吹き流される午後2時.気温20度超.気まぐれな天気やなあ.

◇いくつか外回りして,夕焼け帰宅.早朝の暴挙カレーのおもりをさらに2時間あまり.カレーのいいところは,“事前分布”がどーであれ,“初期値”がどーであれ,煮込み時間さえかければ,それなりの“収束解”に到達してくれるところにある.逆に言えば,時間をかけずにいいカレーはできない.いま使っているカレー鍋は大学生の頃から30年近くずっと使い続けているが,当時は1週間にわたってじっくり延々と煮込み続けるということも珍しくはなかった.今日のようにせわしなくつくっていては本当はいけないのだが,そんな甘美な世界に退行してしまうと,現実逃避したまま復帰不能になりかねないので,そこはぐっと堪えよう.

—— 夕食.カレーの中で十分にスープを吸って甘く煮くずれた新玉葱は現実逃避にふさわしくことのほか美味で,丸ごとひとつをぺろっと平らげてしまった.

◇で,再び厳しい現実に強制復帰させられる夜…….原稿締切まで「マイナス1日」になってしまった…….これでもうクビがまわらんよーになったな.覚悟.

◇本日の総歩数=4217歩[うち「しっかり歩数」=1185歩/12分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.1kg/−0.5%.


29 maart 2007(木) ※ とっても暖か過ぎて原稿どころでは

◇午前4時45分起床.晴れているのだが,霞がかかっている.気温は早くも8.3度だ.

◇朝のこまごま —— Symantec Norton AntiVirus をアップデートする./ 計量生物学会の事務連絡メールを転送する./ お願いね,「一太郎」ファイルをばらまかないでね./ 進化学会からの動員.4月27日(金)午後に憲政記念館で開催される〈第1回みどりの式典〉に代理出席.

◇午前10時半には22.6度になった.扇風機を稼働させる.最初は強い南風が吹いていたが,その後からっと晴れ上がる.暑過ぎる.長袖はそろそろしまおうかね.農林団地内には季節はずれの半袖着用者が多いと外部から指摘されている.確かに,真冬であっても晴れ上がれば迷わず半袖Tシャツをという人はいる.でも,それでいいんじゃないですか.暑けりゃ脱ぐ,寒けりゃ着る.ナチュラルな研究生活.

◇昼休み.日射しのあまりの強さにくらくらしつつ,歩き読み —— 北岡明佳『だまされる視覚:錯視の楽しみ方』(2007年1月20日刊行, 化学同人[DOJIN 選書 001], ISBN:978-4-7598-1301-2→目次版元ページ著者ページ).うわ,ダメだ,こりゃ.「錯視の本」を歩きながら読んではいけません.練り上げられた視覚的錯覚なのか,歩行に伴う物理的振動なのかごっちゃになって,さらにくらくらしてしまう.200ページを読了.錯視のテキストブックを目指していると著者が言うように,錯視が生じる原因について詳しく解説している.

 本書には数多くの図が載っているが,カラーではなく,モノクロなのがちょっと残念(と思った読者は同じ著者の手になるカラー図版満載の別の本を手に取るか,あるいは〈北岡明佳の錯視のページ〉に直行すべし).しかし,白黒図版でも十分に“曲がって”“歪んで”“凸凹して”“揺れ動いた”のはさすがだ.「錯視」を純粋に楽しむ態度が涵養されているのは,日本人ではなく,外国人だそうだ.個人的には,この錯視を視覚化のツールとしてうまく使いこなせないかと考えているのだが.

—— 余談:本書の版元である「化学同人」は京都の出版社で,東京にある「東京化学同人」とは別会社であることを初めて知った.ぜんぜん知らんかったぁ.

◇暑過ぎてもう原稿どころではありまへんな —— などと言っている場合ではない.締切(其の壱)は明日だ.どうすべい?

◇午後のこまごま —— 東京農大・昆研のOB会総会は5月12日(土)の13:00〜15:00に,厚木キャンパス〈けやき〉にて開催.メールで参加申込をすませた.

◇夕方,北風が強く吹いてきた.気温低め.前線が通過したのかもしれないが,雨はぜんぜん降らなかった.夜も続く原稿仕事…….

◇牧園に天然酵母パン屋【david pain】が新規オープン! —— いつも見ているブログ〈つくばレストラン〉で教えてもらった情報.つい最近開店したとのことだが(3月8日オープン),学園都市の南部に生活する者にとってこれは朗報かもしれない.「パンの街・つくば」という宣伝文句は榎戸の南側まではなかなか浸透していなかったからね.何よりもラッキーなのは,昼休みの散歩コース範囲内にあることだ! 明日さっそく行ってみようかな.こういう食の愉しみは大切にしないと.おっと,そのためには煮詰まり原稿をなんとしても書き上げないとか! がぜんファイトが湧いてきたなあ.※単に食い意地が張っているだけかも…….パンのためのペン.

◇本日の総歩数=14118歩[うち「しっかり歩数」=8026歩/69分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.2kg/+1.2%.


28 maart 2007(水) ※ 初夏並みの陽気に花見客も魑魅魍魎も

◇午前5時起床.晴れ.夜明け前なのにもう6.8度もある.

◇魑魅魍魎本との接近遭遇 —— インターネットで本を検索していると“魑魅魍魎”のごとく正体のつかめない本に出くわすことがある.〈BookFinder〉で形態測定学者 Miriam Zelditch が『Morphometrics and Phylogenetic Systematics : Stochastic Methods, Chaos and Fractals』なる本を出版しているという情報とたまたま遭遇したのがきっかけだ.タイトル的にたいへんそそられるものがあるし,実際,そういう内容の本であるなら買うしかないだろう.しかし,現物は出回ってはいないようだ.書誌情報から「ISBN:0-12-778350-4」であることはわかった.これなら特定できるだろうと,さらに調べて見ると,「Elsevier から2004年に出版された」という記載があった.出版元まで割れたのなら(しかもモノポリーな大手だし)もう大丈夫だろうと王手をかけたところでつまずいた.Elsevier 社のオンライン・カタログは「お探しの本はありません」との冷たい返事を返してきたのだ.そんなアホなぁ.

 ISBNを手がかりにもう一度検索してみるとさらなるナゾが.このISBN番号をもつ別タイトルの本『Morphometics to Time Series Analysis』(2001年出版)が引っかかってきた.今度のタイトルはちょっと得体が知れない.しかし,著者はMiriam L. Zelditch, William L. Fink, Donald L. Swiderski の3名だから問題はなさそう.amazon.co.jpの記載を見ると,Elsevier に買収された Academic Press が版元となっている.どうやらこれが求めるブツのようだ.かなり疲弊しつつも,ブツの正体だけでも確認しようと思って Academic Press のサイト(Elsevier 直結)で検索してみたところ,またしても「お探しの本はありません」というつれない返答画面が待ち受けていた…….

—— 結局,さんざん探しまわったあげく,魅力的なタイトルの本書がはたして出版されたのかどうか,それとも未刊なのかということすらわからないまま,ジ・エンドとなったしだい.この本は,“野づち”のごときインターネット界で,そのタイトルだけがふわふわと飛び回ってはときどき人を惑わしているのだろうか.まさに正体不明.魑魅魍魎にして煙羅煙羅.

◇午前のこまごま —— 東大の〈保全生態学特論〉の日程が確定した.5月24日,31日,6月7日(いずれも木曜)の午後1時〜5時,東大農学部1号館4番講義室にて./ 備忘メモ:〈Deep Green〉.phylogenetic tree visualization のひとつとして./ 領域内会議,10:30〜11:10.

◇ぽかぽか陽気続く.10時過ぎに16.3度だったのが,昼休みには19.7度に達した.20度か.暖かいというよりは,暑いといおう.ややフライング気味の花見客を横目に,歩き読み:森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(2006年11月30日刊行, 角川書店, ISBN:4-04-873744-9)を読了.めまぐるしいストーリー展開は好みではないのだが,最後の第4章「魔風邪恋風邪」のオチはなかなかよかった.進々堂のエンディングは精緻だ.御都合主義だろうが米食原理主義だろうがぜんぶ許す.※しばらくはライト・ノベル読みはやめておこう.くらくらする.

◇午後のこまごま —— 生物地理学会大会の件で電話連絡あり.聴覚障害のある大会参加者のために,シンポジウム講演の同時手話通訳が可能かどうか./ 業績評価結果通知書.今年度は「A」.※来年度は評価システムが変わる予定./ 進化学会事務局からメールとファクス.みどりの日の〈第1回みどりの式典〉への参加要請.今月末までに返事.

◇追い立てられて原稿を書く夜.まずはあさって締切のひとつにケリをつけよう.そうしよう.原稿〜〜.原稿〜〜.原稿〜〜.

◇本日の総歩数=10389歩[うち「しっかり歩数」=7356歩/64分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.4kg/−1.3%.


27 maart 2007(火) ※ 花曇りの薮からうぐいすの地鳴き

◇午前5時半起床.曇り.気温6.4度.もう朝晩の冷え込みもないだろう.湿度が高いせいか静電気もまったく元気なし.

◇早朝のこまごま —— 東大の非常勤講義(夏学期)の日程調整と事務的なことども.5月から6月にかけての木曜午後に3回の集中講義をやります.今回の「保全生態学特論」の柱は系統樹思考・数理系統学・統計的推論です.時間数15時間./ 北大の集中講義(冬学期)に関する兼業関連の事務連絡.札幌での系統学講義は30時間分ありますので,デモンストレーションや実習もできますね(「上映会」もやりましょう)./ 生物科学学会連合の新しい事務局から委員確認のメール.4月中に会合あり./ ジョイフル本田に新しい名刺を発注する.4月2日午後に納品予定./ 領域会議開催,3月28日(水),10:30〜11:30.

◇〈日本分類学会〉に関するメモ —— 10年ほど前に,日本分類学会(Japanese Classification Society)の会報に「巻頭言:生物分類と離散数学」を書いたが,それがオンライン公開されていることを今日初めて知った(→日本分類学会会報, no. 18, 1995年7月発行).ついでに,学会サイトを見て回ると,今年からジャーナル『Advances in Data Analysis and Classification』を刊行することになったらしい(→版元ページ).日本を含む13カ国の分類学会から構成される〈国際分類学会連合(IFCS)〉はたいへん大きな組織だが,生物分類学界とは表立って協調ないし協力の態勢にないような気がする.たとえば,日本の場合だと,日本分類学会は〈日本分類学会連合〉には加入していない.何ともまぎらわしいことだが.

◇花曇りの昼休み.気温11.8度.昨日のようなぽかぽか陽気ではない.たった一日しか経っていないのに,農林団地の桜の開花度は大きくアップしている.しかし,並木・梅園から小野川にかけてはさらに開花度が高く,すでにお花見してもいいほどだ.隔離圃場のウグイスの地鳴きを聞きつつ,森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(2006年11月30日刊行, 角川書店, ISBN:4-04-873744-9)の歩き読み.下鴨納涼古本まつりの第2章を読み終えて,京大の学園祭の第3章「御都合主義者かく語りき」に入る.いつも駆け足で走り回っているような文体でせわしないのお.半妖怪みたいなのがぞろぞろと.

◇花見の頃の新着本たち(にしてはシブいかしら) —— 時枝誠記『国語学原論(上)』(2007年3月16日刊行,岩波書店[岩波文庫 青N110-1], ISBN:978-4-00-381501-4).初版は1941年,岩波書店刊./ 和田敦彦『書物の日米関係:リテラシー史に向けて』(2007年2月28日刊行,新曜社,ISBN:978-4-7885-1036-4→目次).「蔵書史」というテーマがとても新鮮.東大の総合図書館にある戦前の蔵書の中には,関東大震災で消失した当時の蔵書の補填として海外の大学や図書館からの寄贈ラベルが貼られた本がたくさんある.さまざまな事情で海を越えていった和書の運命について.扱われている時代は第二次世界大戦前後が主だが,アメリカの大学や機関の日本語蔵書を調べ歩くという“フィールド・ワーク”を踏まえたレポートなので,たいへん期待できる.図書分類に関する第6章もおもしろそうだし,エージェントとしての「タトル」の名前が登場する時代背景も興味深い.どうせ読むなら,こういう本が好ましい.→著者サイトJBC Project

◇夕方,東大農学部と給与をめぐるメールのやり取り.実はさまざまなタイプの「連携教員」があるのだと再認識させられる.人事的なことと金銭的なことの組み合わせがいろいろあるらしい.ぼくの場合は,東大の中にハードな組織としての研究室があり,そこに配属される「教授」であって,「客員教授」ではない(辞令に書かれている).しかし,研究と教育に関する経費のいっさいは本務地である農環研から出されることになっていて,東大からは一銭の援助も受けないというのが原則だ.もちろん,連携大学院教員の立場で東大から給与をもらうこともありえない.その意味では寄付講座に近い性格をもっているのかもしれない.

 ところが,同じ農水省の別の独法研究所から東大農学部に来ている連携教員(客員教授)の中には,兼業として東大から給与をもらっている事例もあるようだ.また,農環研から別の国立大学法人に連携教員として出ている人は,大学から運営費交付金を教育・研究費としてもらっている例もある.さらにまた,東大農学部の同じ専攻に新しくできた寄付講座の教員は,ポジション的には「客員教員」なのだが,他に本務地はなく東大の専任になっていて,給料も大学からもらっている.

 国立大学法人がスタートして以降,「客員教授」とか「特任教授」とか「連携教授」とかさまざまな名前で呼ばれる“教員”が教壇に立っているわけだが,上に挙げたような事例を見渡すと,ネーミングだけではけっして判断できず,人事的な職位や金銭的な問題そして大学運営への関わり方はケースバイケースで異なっていると考えなければならないだろう.当事者がそれを理解していればすむことがほとんどだが,場合によっては対外的に誤解を招くこともあり(実際,そう説明するまで,ぼくは東大から給料をもらっているのだから,非常勤出講は“無給”でいいだろうと誤解されていた),その都度“自らの立場”を説明しなければならない煩わしさは残る.でも,タダ働きさせられるよりはマシだろう.

◇あ,原稿が,また…….げ.

◇本日の総歩数=12723歩[うち「しっかり歩数」=6363歩/56分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.4kg/+0.1%.


26 maart 2007(月) ※ 春めいて桜花もほころぶ農林団地

◇春眠暁を覚えぬままに午前5時半まで惰眠を貪る.昨日とは打って変わって朝から春めく好天.朝方の気温は4.8度まで下がってはいるが,これからどんどん上がっていくにちがいない.午前10時の気温はすでに14.8度だ.

 農林団地の桜並木はそこかしこでちらほらと花が開き始めている.今週末はまだ五分咲き程度だろうが,来週4月になればあっという間に満開だろう.入学式にはうまくいけば絵に描いたような「桜吹雪」に出会えるかもしれない.下手をすれば葉桜か.もちろん,花見シーズンの到来とともに,農林団地は毎年恒例の“お花見渋滞”になるので,通勤の行き帰りは要注意だ.早朝から夜まで,自家用車だけでなく大型バスまで繰り出すほどの人出になる.※意外に大きな“地域貢献”かもしれない.

◇午前のこまごま —— 所内の「節約」に関するアンケートと自己評価報告.※けちけちしてますってば.よけいな予算をムダに取ったりしてないし……./ 4月14日(土)の夕方,都内某所にてコッソリ密議をしようという電話連絡が某農業生物資源研の某理事長からあった.※要するに「飲み会」でしょう?/ PAUP* / MacClade での Bremer support index 計算の頼まれ仕事.ちゃちゃっと済ます.

◇“インパクト・ファクター(IF)”をもっと知りたいアナタに! —— 岡本真さんの〈ARG-274〉(2007年3月26日発行)に,“IF”の元締めたる Thomson Scientific のセミナーが来月始めに開催されるというアナウンスが載っていた.4月5日(木)に開催される〈学術ジャーナルを計る:インパクトファクターの意義とジャーナル評価〉は,とてもおもしろそうなシンポジウムなのだが,東京・有料・事前申込といういくつかのハードルがあって二の足を踏んでいた.しかし,今日の所内連絡によると,4月3日(火)の午後,つくばの物質・材料研究機構で,まったく同じ演者による講演会〈Thomson Scientific — インパクトファクタのすべて〉が開催されるという.事前申込さえすれば誰でも聞くことができるそうだ.

◇正午の気温は18.1度.春の日射しがぽかぽかと.風もなく汗ばむ陽気だ.やっぱりこういうときは“ライト妖怪もの”でしょうな —— 森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(2006年11月30日刊行, 角川書店, ISBN:4-04-873744-9).同じ京都を舞台としていても,こちらの方はやや“陰翳”っぽい.これはこれで愉しいのでしょう.タイトルと同名の第1章を読了.続く第2章「深海魚たち」を読み進む.ここまでの読後感としては,“人間”よりはむしろ“土地”が主役のように読み取れる.それは川端康成の『古都』以来の伝統ある「京都本」の文体だ.本書の後半で「乙女」がどういうふうに変身していくのか(というか正体を現していくのか)が気になるところ.追っかけ男子学生はすでに影が薄いぞ.

 昔,伏見にあった母方の実家に出入りしていたことがある.トラッドな京都の「町家造り」で,玄関からそのままお勝手にまわると,おくどさんがまだ現役だった.高い天窓からはいまにもオニが覗き込みそうで,手水鉢のある渡り廊下の向こうには雪隠があり,庭を横切れば古い開かずの土蔵があったりして,それはそれはレトロな妖しさが漂っていたことを思い出す.もちろん,家々に憑くさまざまな“魔”や屋根ごとに睥睨する“鐘軌さん”のオーラは,子どもにとっては十分な威圧力をもっていて,「ほたえてたら神さんが来やはるで」と耳元でささやかれるたびに,“神=鬼”の存在を実感したものだ.

◇ついでに備忘メモひとつ —— 『SOKKI!:人生には役に立たない特技』(2006年4月6日刊行,講談社,ISBN:4-06-213412-8→書評)の著者・秦建日子氏が秦恒平氏のご子息であると教えられた.父・秦恒平氏の京都エッセイ本(1980年代に何冊か出ている)はかつて読んだ記憶があります.

◇ダーウィンの“珊瑚”あるいは系統樹図像論 —— Amazon.de からの着便本:Horst Bredekamp『Darwins Korallen : Die frühen Evolutionsdiagramme und die Tradition der Naturgeschichte』(2005年刊行, Verlag Klaus Wagenbach[Kleine Kulturwissenschaftliche Bibliothek 73], Berlin, ISBN:3-8031-5173-2→目次).チャールズ・ダーウィン自身が描いた「系統樹」を網羅的に調べ直し,彼がどのような系統発生(系譜)のイメージを描いていたかを考察した本.著者が推測するように,若い頃のダーウィンが研究対象とした「サンゴ」が,後に彼が理論化することになる系統発生の“モデル”となったのだろうか.

Darwin favorisierte die Koralle, weil diese mit ihren abgestorbenen Stämmen, die als Fossilien der ausgestorbenen Arten gedeutet werden konnten, sowie ihren auseinandergehenden Zweigen ein Gegenbild zu Lamarcks Transformationsvorstellung bienen konnte. [……] Mit der Koralle besaß er ein Modell der Evolution, das den zeitlichen Prozeß insofern entschiedener als das Trennung von noch lebenden und bereits ausgestorbenen Arten verdeutlichte. Die Punkte bezogen sich als ausgestorbene Arten auf die versteinerten Arme der Koralle. (S. 20)

100ページほどの薄い本だが,ダーウィン自筆の系統樹がカラー図版で掲載されていて興味が湧く.古くそして深い系譜学史の末端にダーウィンやヘッケルを位置づけようという著者の意図がうかがえる.それにしても,ヘッケル画伯と比較すると,ダーウィン肉筆の系統樹はいずれもあまり上手とはいえないなあ.

◇夕方になってもまだ気温は高いまま.初夏のような陽気の1日だった.

◇夜,のろのろと原稿を書く態勢に.うう.

◇本日の総歩数=13102歩[うち「しっかり歩数」=7160歩/62分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.3kg/+0.7%.


25 maart 2007(日) ※ 雨降る日曜は引き蘢りに最適な日

◇午前6時起床.風雨ともに強し.ベランダはすでに水浸しになっていた.当然,気温は高め.

◇午前9時44分,建物がゆらゆらと揺れた.地震波の到達.震度2程度か.※ニュースを見たら,能登で震度6強いの大きな地震があったらしい.雨足さらに強く.外に出られようはずもなく.

◇午前中,翻訳を1ページ進める.※まだまだです.

◇小雨降り続く昼下がりの乱れ読み —— 長谷川郁夫『美酒と革嚢:第一書房・長谷川巳之吉』(2006年8月30日刊行,河出書房新社,ISBN:4-309-01773-8→目次)の第2部第3章を読了.作家を見限る編集者/発行人と逆に作家から見限られる編集者/発行人の揺れ動く関わり合い.文芸雑誌『セルパン』をめぐる局所的な個人感情の空回りと,短命だった雑誌『リベルテ』をめぐる大局的な動向のゆくえ.第一書房は,ハングルの本やイタリア語の辞書まで手がけていたらしい.大胆というか,乱調というか.詳細にわたる記述が延々と続く部分だが,だからこそより大きなもの(時代背景)がその向こう側に透けて見えてくるのがおもしろい.

◇午後の買い物 —— 〈工房オリザ〉にて,栗のライティング・テーブルを買うことにした.奥行きのない「書くための机」.本棚も引き出しも何もついていない.やはり,実物に触れる機会があると,決断がしやすいな.

◇夕方になって,やっと雨は上がった.今日はずっと空気が湿っていて,久しぶりに蒸し暑さを感じた.

◇夜も続く散らし読み —— 岡田裕成・齋藤晃『南米キリスト教美術とコロニアリズム』(2007年2月25日刊行,名古屋大学出版会,ISBN:978-4-8158-0556-2→目次)の第1章第II部を読み進む.征服者スペインによる非征服者に対する「レドゥクシオン」と「ミッション」に関する説明.先住民を一カ所に集めて教育するという方策が統一的に採られたらしい.

◇あ,原稿……(汗).

◇本日の総歩数=4886歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.5kg/0.0%.


24 maart 2007(土) ※ ついに年度末カウントダウンの開始っ!

◇午前6時起床.弁解なしの朝寝坊.曇り.予報通り,雨になるのだろうか.

◇月末まで1週間しか残されていない.カウントダウンが始まってしまった.春休みに横目に原稿を書く日々が続く(はず).しかし,今日の午後は腰砕けにも,アキバに出かけることになった.13:41発の TX 快速で秋葉原へ.曇りときどき小雨.気温は高く,コートはほぼ無用の長物だ.あちらやこちらをまわって,午後5時の TX 快速でつくばに直帰.曇りときどき小雨の空模様はなお続く.

—— 今夜からはマジで原稿書きのオニにならないととうてい間に合いません.大変態&大変身しないとあかんのですが…….

◇車中読書 —— 長谷川郁夫『美酒と革嚢:第一書房・長谷川巳之吉』(2006年8月30日刊行,河出書房新社,ISBN:4-309-01773-8→目次).昨年来,寝読み用にしていたのだが,たまには外出させてやらないと.第2部の第2章をやっと読了.プルーストとジョイスの翻訳をめぐる第一書房 vs. 岩波書店の抗争.今となっては伝説化している「岩波茂雄」が一人の出版人として生きているようすを見るのは興味深い.

 出版業界の“遺恨”まことにおそるべし.何十年経とうが,昔のウラミはいつまでも残り続けるということ.とくに,第二次世界大戦の敗戦前年,第一書房はその歴史を閉じたのだが,戦後,長谷川巳之吉に連なる著者たちが岩波書店から徹底的に排除された経緯は意趣返しというべきか.たとえば,第一書房からほとんどの著作を出していたという堀口大學の作品が,有名な『月下の一群』はもとより,いまだに岩波文庫に何一つ納められていないことからもその恨みの深さがわかるだろう,と著者は指摘する(p. 243).

◇さらなるステージへ —— 本日3月24日の午前10時過ぎ,〈leeswijzer〉のアクセス・カウンタがめでたく「30万」の大台に乗りました.年明け以降は平均して600〜700回/日ほどのアクセスがあるようです.訪問者のみなさん,どーもありがとうございます.これからもよろしく.毎日,ひとつひとつ積み上げていきますです,ハイ.

◇夜になって,南風が強まってきた.

◇本日の総歩数=5134歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.4kg/−0.6%.


23 maart 2007(金) ※ 袴とガウンの安田講堂,春爛漫の卒業式

◇午前4時前にいったん目が覚めたらしいが,ぐずぐずと再寝.午前5時50分に正式起床.快晴.今日は東京出張で,ネクタイを締めなければいけない日(かなり抵抗したのだがムダだった).

◇早朝のこまごま —— 〈leeswijzer〉そろそろ「30万台」に到達しそうだ.今日か,明日か./ データを再送してもらった.

◇10:41の TX 快速で東京へ.神保町をささっとひとめぐりする.崇文荘書店に Alexander von Humboldt の著作集(全10巻)が出ていた(揃48,000円).手を伸ばしては……いけないいけない.Hans Reichenbach の確率論と科学哲学の古典もあり.

◇往路車中読書 —— 万城目学『鴨川ホルモー』(2006年4月20日刊行, 産業編集センター, ISBN:978-4-916199-82-0)を読了.後半になるとともに,内容がしだいに“陰陽師”化してくるところがおもしろい.京大青竜会の面々の中で,思わぬ伏兵ならぬ「異能者」として頭角を現してくるのはやはりこの人だったか.※凡ちゃん,えらい.

 全体として,ややフシギ系の青春小説.京都の土地勘がないと十分に楽しめない気もする.そもそも「500代」も続いている競技にしては,「なんで4大学対抗戦になるのん?」という疑問はありますが.東から京大,北から京都産大,南から龍谷大というのは,方角的にはまあいいとして,なんで西からやってくるという立命館が衣笠に移転したのは,“ホルモー”史的にはごく最近のことではないか? もっといえば,御所のすぐ北側の(清明神社に最も近いはずの)同志社がぜんぜん登場しないのはなんでやろう?

◇東大農学部に移動.本郷界隈は卒業式一色.安田講堂での卒業式が午前にあって,午後はそれぞれの学科に分かれての学位授与式となっているようだ.回想譚になってしまうが,ぼくらの世代は卒業式はもっとささやかなものだった記憶がある.30年ほど遡ってみると,当時の安田講堂はまだ“廃墟”の影を引きずっていて,公式行事に用いられることはまったくなかった.確か,オーケストラの練習だかなんだかで,たまたま安田講堂の中に入る機会があったのだが,ホールの席(だったところ)には灯油ポリタンクがずらっと並んでいた.ところが,今では東大全体のイベントに使われるほどに“復権”している.

 午後1時半から農学部7号館で,専攻の学位授与式が始まる.院生の卒業式は昨日で(これは欠席),今日は学部の卒業式だ.卒業式とはいっても,今日「巣立つ」4年生の大半はそのまま大学院に進学するらしいので,卒業生本人にとってみれば,修士課程まで含めた全コース「6年間(+α)」の“中締め式”みたいなものなのかもしれない.学位記がひとりひとり手渡され,学部賞とか紫紅会賞とかが成績優秀者に授与される.大学にずっといれば,卒業式は数ある年中行事の一つなのだろうが,個人的には久しぶりに体験するイベントだ.※独法研究所には,定年退職を祝う会はあっても,卒業式はない.

◇午後2時過ぎに卒業式が終わり,夕方の謝恩会まで3時間ほどある.ドーバー海峡を渡って,安田講堂方面に向かうと,彼方からざわめきが聞こえる.この人の波と海はすごいかもしれない.袴姿の女子学生は見慣れた光景だが,数年前に東大が指定した「正装マント」に身を包んだ男子学生の実物を初めて目撃した(注:男子学生だけの「正装」ではなく,昼に立ち寄った農学部前の朝日堂ベーカリーでは女子卒業生も方に銀杏の紋が入っているこのガウンをまとっていた).うう,このマント姿(→参照:「式典でのガウンの着用について」)はひょっとしてとても恥ずかしいかもしれない……(通りすがりの傍観者としては).卒業生とその家族が安田講堂の時計塔の前庭で記念撮影をし,そして談笑している.学位記を大きく開いた袴やガウン姿の主人公を取り囲む一団が,そこかしこで,はいチーズ.これまた恥ずかしくも微笑ましい光景だが,今日だけは海のような心で許してあげようね.

またまた回顧に耽ってしまうが,かつて卒業式がまだささやかだった時代は,親や家族が卒業式に来ることはまずなかった.大学全体の卒業式は当時はなく,農学部の卒業式も学科ごとに分かれて開催された.農業生物学科(当時)の卒業式は農学部1号館の第8講義室で開催されたのだが,卒業生代表に学位記が手渡されて,祝辞があっただけだった.ひとりひとりの卒業証書はあとで事務室で手渡されたので,とくに感慨というものはなかったなあ.

◇しかし,過ぎ去った過去を回顧しているようなヒマはいまはぜんぜんないのだ.気分も日和も春めく卒業生御一行様を尻目に,〈ルオー〉の2階独房に引き籠る.世の中の動きとはまったく無関係に翻訳作業はなお続くのだ.2時間半ほどかけて3ページ進む.これってゲラの手直しじゃなくって,イチから訳し直しなので,湯水のごとく時間が費やされる.店内の華やぎとは別世界で手元のゲラは真っ赤に埋まっていく.賽の河原に佇むか,シジフォスの苦役か.

◇午後5時過ぎに再び農学部に戻り,謝恩会に出席.1時間ほどで失礼し,そのままつくばへ.午後7時過ぎに帰り着いた.

◇帰路車中読書 —— カレル・チャペック(飯島周編訳)『チェコスロヴァキアめぐり[カレル・チャペック旅行記コレクション]』(2007年2月10日刊行,筑摩書店[ちくま文庫 ち-8-2], ISBN:978-4-480-42293-4).こういう文庫本が毎月出てくるのはうれしい.文章に添えられている“へたうま”なイラストが絶妙で.読むよりは見るという感じ.本書ではプラハの想い出話が中心だ.既刊は:カレル・チャペック(飯島周編訳)『イギリスだより[カレル・チャペック旅行記コレクション]』(2007年1月10日刊行,筑摩書店[ちくま文庫 ち-8-1], ISBN:978-4-480-42291-0)とカレル・チャペック(飯島周編訳)『スペイン旅行記[カレル・チャペック旅行記コレクション]』(2007年3月10日刊行,筑摩書店[ちくま文庫 ち-8-3], ISBN:978-4-480-42296-5).次はどこの国かな?

◇本日の総歩数=10528歩[うち「しっかり歩数」=1106歩/11分].全コース×|×.朝○|昼△|夜×.前回比=−0.2kg/0.0%.


22 maart 2007(木) ※ 菜の花は満開,お仕事も満開(汗)

◇午前5時起床.晴れ.気温4.1度.夕陽のような朝日が昇る.

◇朝のこまごま —— 明日3月23日(金)の出張届./ 10:29に弱い地震.本が3冊落下した./ 10:30から領域会議.新年度の予算のこと,設計検討会の日程について,業績評価システムの件.1時間ほど.

◇昼休みは春めく暖かさ.気温15.3度.圃場の菜の花畑はもう満開で,この分だと4月20日の一般公開日まではもたないのではないかと心配する.歩き読み:万城目学『鴨川ホルモー』(2006年4月20日刊行, 産業編集センター, ISBN:978-4-916199-82-0)の続き.何語であれ,ことばの勉強は苦しく愉しいな.※「レナウン娘」と聞いて旋律がすぐ口ずさめる世代ってどこまでだろう?

 京大青竜会会長・菅原真の発言に注目(pp. 75-79) ——

菅原 真:「あるものは,あるのである.」
楠木ふみ:「そんなにあると言うのなら,見せてください.見せられないんですか?」
菅原 真:「それは無理……なんだよね.みんなにはまだ見えないのです.僕たちも諸君と同じ頃には,見えなかった.確かに,無理をすれば,僕たちも見ることができたのかもしれない.けれど,僕たちの先輩は見せてくれなかった.まあそれは,どうしても仕方のないことで,同時に必要なことだった,と今となっては思う.つまり,ある程度の準備が必要なんです.」

わけわからないまま,会長に言いくるめられてしまう彼ら.凡ちゃん,ガンバレ.

◇午後のこまごま —— RPの設計検討会の日程調整./ 金の成る木などどこにもないというシンプルな現実に直面する.口はたいへんよく出すが,金は出さないつもりかいっ? ※とほほ……./ 銀行関係,振込の件も完了./ 振込口座変更の件も完了./ とりこぼし,いろいろあるのだが,見て見ぬフリとか.※すまぬ.

◇届かないはずの本が着便 —— ドイツのオンライン古書店から大きな箱が届いた.何か注文したかなといぶかしく思いつつ開封.あらら,てっきりキャンセルされたと思っていた本が目の前に:Curt Brandis『Stammbäume der Technik : Einführung in die Systematik und Geschichte technischer Innovationen』(2005年8月14日刊行, MontAurum Verlag,Bremen, ISBN:3-937729-09-7→版元ページ著者サイト).数件の本屋に発注したもののいずれも「在庫なし」とキャンセルされたいわくつきの本だ.科学技術史の系統樹の総覧.しかし,ツリーというよりは,いずれも[セミ]ラティスですな,これらは.

 本書の大部分は科学技術分野ごとの各論だが,冒頭の序論(Einleitung)には「なぜ系統樹か」が総論として論じられている.

Stellt man sie in logischer Ordnung dar, so erhält man den Stammbaum eines Techniksgebietes. Dabei verstehe ich unter Technikgebiet eine Disziplin, wie z. B. Luftfahrttechnik oder Wärmetechnik. Ein Technikgebiet folgt jeweils einer Grundidee. Durch den Stammbaum eines Gebietes wird varständlich, dass eine Entwicklungsstufe der vorhergehenden folgen muss. Auch Entwicklungen oder Innovationen in anderen Wissensgebieten üben erhebliche Einflüsse aus. Oft erst ermöglichen sie eine Weiterentwicklung in einem anderen technischen Bereich. Das soll die zeichnerische Darstellung der Stammbäume deutlich machen. (S. 2)

Apomorphie としての「技術革新」の系譜と伝播を系統樹を描くことで明らかにしようというのが,著者の意図するところなのだろう.

◇夕方になって,いきなり西方の空に兇悪相の黒雲が湧き上がり,春雷が轟き,そしてにわか雨がざあざあと.2時間ほどで兇雲は通り過ぎたが,昼間の春めいた空気はいっぺんに蹴散らされた.

◇うう,原稿が…….※くるしむ夜.

◇本日の総歩数=8414歩[うち「しっかり歩数」=4104歩/36分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.9kg/+1.1%.


21 maart 2007(水) ※ 春分の日はアラビア語の朝と町田の夜

◇午前5時半起床.まだら雲がかかっていたが,後に晴れ上がる.

◇朝の徘徊を1時間あまり.年度が変わりめは「NHK語学講座」スタートの花盛り.今年は試しに〈アラビア語講座〉と〈ハングル講座〉を.なぜって,文字が読めないから.往路は速記文字に近いアラビア文字(母音が三つしかないのか!),復路は人造のハングル文字(文字のアーキテクチャがとても合理的だ).事前知識ゼロから引き上げるのはとてもラクだ.筑波大学構内のそこかしこで辛夷が花開く.

◇午前のこまごま —— 万歩計を買い替える./ 買い物とかいろいろと.

◇14:41発の TX 快速にて,流山おおたかの森へ.駅前に開店したばかりのショッピングセンター〈流山おおたかの森S・C〉を回遊する.広大なフロアの紀伊国屋書店が入ったというので期待していったのだが,人,多過ぎ.それに,開店してまもないせいか,棚がまだ濁っていて,とまどう.もう少し時間が経って,棚が澄んでから再度来た方がいいかもしれない.※理由はともあれ,〈社会科学〉と銘打ったコーナーを「ハウツー実用書」で埋めるのは止めてね.

◇往路車中読書 —— Ziheng Yang『Computational Molecular Evolution』(2006年12月刊行,Oxford University Press[Oxford Series in Ecology and Evolution], ISBN:0-19-856699-9 [hbk] / ISBN:0-19-856702-2 [pbk]→目次)のベイズ系統推定の部分(Chapter 5).系統推定問題で“べいづ”したいという動機づけと長所・短所を率直に述べていると感じた.著者は,ベイズ推定された系統樹は,前提とするモデルが当てはまるかぎり「正確(correct)」な結論であると繰り返し書いている.しかし,樹形あるいはクレードのベイズ的な意味での「正確さ」が事前分布に関する仮定に依存していること,そして事前分布をどのように設定するかによって結論が(場合によっては決定的に)左右される可能性があること(〈Lindley's paradox〉: 157)という問題点に関しては,著者自身が「openである」と認めている(MCMCは免罪符ではない).

◇再び TX に乗り,代々木上原経由で町田へ.今日は,東京農大・昆研の謝恩会が予定されている.午後5時前に町田到着.時間があったので,小田急駅ビル6階の久美堂書店をひとまわり.去年から気になっていた万城目学『鴨川ホルモー』(2006年4月20日刊行, 産業編集センター, ISBN:978-4-916199-82-0)をゲット.そーか,こういう小説だったわけね.一口目の味わいとしては,ほぼ同時期に出た秦建日子『SOKKI!:人生には役に立たない特技』(2006年4月6日刊行,講談社,ISBN:4-06-213412-8→書評)にそこはかとなく似ているような.ちょっと屈折系の青春小説という点で.

◇農大昆研謝恩会と「見えない組織」について午後6時前に町田駅北口に東京農大昆研関係者が集結する.卒業生・在校生を含めて30名あまり.1研究室でこの人数とはね.駅前の〈北の家族〉に入る.午後8時過ぎまで.来年度はさらに学生数が増えるらしい.農大の学生とは日常的にあまり接する機会がないのだが,卒業後もそれぞれの世界で頑張ってください.

 宴席で耳にしたところでは,〈昆虫分類学会若手懇談会〉はインターネット上では,正体不明の団体と同列で,組織に関する情報がほとんど得られないという.この件を話してくれた院生は,科博分館で『昆虫分類学会若手懇談会ニュース』を手にして,初めてそういう会があったことを知ったそうだ.300〜400人もの会員から成る若手研究者のための組織が,昆虫分類学を専攻する若手研究者に何年も知られずにいたというのは皮肉以外のなにものでもない.

 確かにこれは盲点で,1972年に創立されて以来,事務局を持ち回りにしてきた弊害のひとつかもしれない.若手懇談会の所属会員であるかぎりはニュースや Panmixia を読み,あるいは日本昆虫学会大会に参加している人ならば毎年開かれている小集会を通じて,この会がどのような活動をしているのかをじかに知っているはずだ.しかし,そうでない一般人にとっては,まったく正体がつかめないナゾの団体とみなされてしまう(“京大青竜会”か,“薔薇十字団”か,はたまた“フリーメーソン”か).ある世代以上の昆虫学者たちにとってはなじみのある会であっても,それが後の後継世代に暗黙知として伝承されていくわけではないということだろう.しかも,いったんできた「若手懇談会つながり」というのは何年経ってもそのまま生き続けるわけだから,部外者からみれば“秘密結社”そのものだろう.

 少なくとも,今の東京農大・昆研には教員から学部学生まで含めて若手懇談会の会員は誰もいないらしい(4月から赴任される小島さんは別だろうが).何とかした方がいいでしょうね.

◇午後8時過ぎに解散.みなさんは二次会に向かっていったのだが,ワタクシはつくばに帰り着かねばならない.逆コースをたどり,帰宅したのは午後10時半のことだった.

◇謝恩会のあとで,島田さんから教えていただいた「ギリシャ神話の神々の系図」 —— たとえば,〈Greek Gods Family Tree〉とか,〈Greek Pantheon〉とか.情報ありがとうございます.

◇メモ —— よしはらさんからの情報(感謝):Mac OSX 用フリー ftp ソフトウェア 〈Cyberduck〉.とても評判がいいですね.

◇あまり呑んでいないはずだが,今日の長距離往復移動でもう使い物になりまっしぇん.しだいにへこむ“式鬼”(レーズンを与えてもダメ).寝れば復活(したい).

◇本日の総歩数=18699歩[うち「しっかり歩数」=7988歩/69分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=−0.4kg/−0.7%.


20 maart 2007(火) ※ それでも,リングサイドからは……

◇午前5時起床.夜明け前は曇りがちだったが,しだいに晴れ上がる.最低気温0.9度.

◇朝のこまごま —— ぼー然としているうちに,どんどん「こと」が進んでいきそうなので,遅れをとらないようにしないと./ ftp 用のフリーソフトウェアとして長年愛用してきた〈RBrowserLite〉がいつの間にか配布中止になっていた.その代わりに,バージョンアップされた〈RBrowser version 4〉をダウンロードする.※シェアウェアなのだが,当分は「unlicensed mode」で使わせていただきます.

◇午前のこまごま —— 東大農学部の専攻謝恩会に関する連絡メール.謝恩会は3月23日(金)の午後5時から.学部卒業証書授与式のあとに./ 東大・農・生圏システムの〈保全生態学特論〉の日程調整.今年も3週にわたって,半日ずつの集中講義になる予定(夏学期).

◇『Nature』誌も〈リンネ特集〉をする —— 出たばかりの最新号である3月15日号には,〈Linnaeus's Legacy〉という特集が組まれている.リンネ生誕300年ともなると,世界的なイベントになるわけね.再来年(2009年)はダーウィン生誕200年だが,それ以上のフィーバーになるのはまちがいないだろう.

◇青空が広がる昼休み.気温10.0度.北風もなく,土ぼこりも立たず,日射しは暖かく —— 多和田葉子『エクソフォニー:母語の外へ出る旅』(2003年8月21日刊行,岩波書店,ISBN:978-4-00-022266-2)を読了する.境界への旅の読み終わり.「翻訳」という行為に“誤訳”は宿命的についてまわるという点について:

誤訳という荷物を背負わずに旅はできない.(p. 129)

癒されるなあ.で,さらにもう一言:

訳者は絶えず決断を迫られ,一つ決断する度に少し血が流れる.翻訳者は傷口をむき出しにして走る長距離走者のようにものかもしれない.走る方はつらいが,観客にとって傷を指さすことは簡単だ.(p. 130)

痛たたたっ…….とぼとぼと歩む翻訳者のひとりとしては,ときどき挫けて「早く“タオル”が投げ込まれないかなあ」と思うのだが,“丹下段平”はけっしてそういうお情けはかけてくれないし.

◇午後のこまごま —— 領域会議は3月22日(木),10:30〜11:30.セミナー室にて開催.

◇夕方のこまごま —— 急に取手まで召還されたものの,往復50kmを単に純粋ピストン往復しただけだった.貴重な2時間がパー./ 急に万歩計が壊れてしまったので,捨てた.歩数データがパー.※明日,買い替えないと./ 先日,蕎麦教授本を納入した書店から,「“1”で始まる郵便振替口座ではダメです」とのファクス.せっかく送った請求書がパー.

◇やさぐれて,夜…….なんだかなあ.

◇本日の総歩数=推定10000歩[うち「しっかり歩数」=推定6500歩/推定50分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=0.0kg/−0.4%.


19 maart 2007(月) ※ 諸方面からのプレッシャーに挟まれて凪ぐ

◇午前4時40分起床.晴れ.気温マイナス0.5度.

◇諸方面から仕事で追いつめられると,その圧力ベクトルが釣り合って,“凪”のような静けさが……(汗).昨夜,中野のこれまた超多忙な御方よりメールあり.訳業,お互いに頑張りましょう.

◇さっそく脇見 —— ジュリアン・バッデン著(大平光雄訳) 『ジャコモ・プッチーニ:生涯と作品』(2007年3月刊行,春秋社,ISBN:4-393-93178-5).770ページもある大きな伝記らしい.原書は:Julian Budden『Puccini: His Life and Works』(2003年1月刊行,Oxford University Press, ISBN:0198164688 [hbk] / ISBN:0195179749 [pbk]).彼我の価格比(6,825円/£7.91)はいかんともしがたし.

◇午前11時の気温は9.5度.快晴だが空気は冷たい.こまごま続く —— 年度末までの東大への出張日の届け出./ 大学暦の確認と周知./ 農環研の全所送別会は3月29日(木)17:30〜.旧公務員時代からの慣習がそのまま続いているのか,異動2週間前の“内定”段階にならないと,誰がどこへ異動するのかがぜんぜんわからん.

◇晴れる昼休みは北風に土ぼこりが舞う.それでも歩き読む:多和田葉子『エクソフォニー:母語の外へ出る旅』(2003年8月21日刊行,岩波書店,ISBN:978-4-00-022266-2).50ページほど読み進む.さらなる境界への旅.

◇午後のこまごま —— 堆積していたメーリングリスト作業をすませる./ 統計コンサルティング1件./ 次年度の研究室購入和雑誌の届出.完了.農環研には“研究室”とか“ユニット”というものがハード(制度)的にすでに存在していないので,公費購入する雑誌はすべて申請者「個人」に対して納入されることになる.前にも書いたが,「個人」が雑誌購入の単位になると,継続性とか保存性の点で問題があることは確かで,ある雑誌をコンプリートに揃えるということが今後は場合によっては難しくなるかもしれない.

◇年度末の分子系統学シンポジウム —— 〈Symposium on Molecular Phylogenetics and Evolution〉.日時:2007年3月26日(月)〜27日(火),統数研.Ziheng Yang on Bayseian phylogenetics と David Penny on MP / ML phylogenetics が27日にある.計量生物学会の対面理事会がこの日の午後に予定されているので,そのついでに広尾にも顔を出そうかな.

◇翻訳されていた「Mein verwundetes Herz」 —— ぜんぜん気がつかなかったなあ.検知アンテナを素通りされたみたい.去年の今頃に新刊で出ていた本:M・デリー著(山下公子・泉晶子訳)『リリ・ヤーンの手紙』(2006年2月8日刊行,シュプリンガー・フェアラーク東京,ISBN:4-431-71026-4).
独語原書は:Martin Doerry『» Mein verwundetes Herz « : Das Leben der Lilli Jahn 1900-1944』(2002年8月12日刊行, Deutsche Verlags-Anstalt, Stuttgart, ISBN:3-421-05634-X).この原書を手に取ったのは,2002年の夏にヘルシンキでの Hennig XXI の帰路,成田への乗り換えのため数時間を過ごしたフランクフルト国際空港の書店だった.レニ・リーフェンシュタールの部厚い伝記の近くに新刊平積みしてあった.見るからに「ホロコースト」な本だったが,その著者や内容についてはまったく事前知識がなかった.日本に帰ってからも,ぱらりぱらりと見た程度で,当然その内容は重いし,何となく敬遠しつつ本棚の上の方に並べたままになっていた.

訳本の解説を読むと,独語原書は出版後大きな反響を呼び,英訳された後に BBC のラジオ番組にもなったらしい:Martin Doerry(John Brownjohn訳)『My Wounded Heart: The Life of Lilli Jahn, 1900-1944』(2004年2月17日刊行, Bloomsbury Publishing PLC, ISBN:0747570469).終戦の前年にアウシュビッツで命を落とした本書の主人公であるユダヤ人女医 Lilli Jahn の息子の一人ゲルハルト・ヤーンは戦後,法務大臣を務めた.そして,著者は Lilli Jahn の孫にほかならない.ぜんぜん知らなかったなあ.

◇夕方,北風が身に染みる.春は遠のくばかり.

◇ところで,原稿はどーしたっ? —— げ…….

◇本日の総歩数=9030歩[うち「しっかり歩数」=4418歩/38分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.1kg/−0.4%.


18 maart 2007(日) ※ Árboles de la vida あるいは南米つながり

◇だらだらと午前6時半まで.雲一つない快晴だが,空気は冷たい.凍る.

◇生物地理学会大会関連 —— 学会公式サイトでのシンポジウム・ページ公開./ すでに公開している非公式サイトに参考文献を追加した.このばらつき方は「系統樹美術史」あるいは「系統樹文化史」の文献表だな.

◇盗難自転車の帰還 —— 今年始めに自宅から盗まれた自転車がつくば市内の下広岡で発見されたと警察から連絡あり.以前からつくばエリアでは自転車泥棒がとても多く,うちも何度かその被害に遭ったことがある.戻ってくることはあまりないのだが(戻ってきたときはたいてい「満身創痍」だ),今回は後輪のパンク修理だけで再利用できそうなのは不幸中の幸い.警察に自宅まで運んでもらい,修理のため即ジャスコの自転車屋にもちこむ.

◇「本」を書く動機づけ —— 農環研の業績評価システムWGにいると,個人の研究評価に関する「評価する側」と「評価される側」の声が同時に聞けるメリットがある.最近の“数値評価”の傾向の強まりは,原著論文に重きを置く評価システムを指向している.そうすると,その反動としてそれ以外の活動が相対的に低く評価されることになり,動機づけが弱まることになる.たとえば,自然科学系の研究者の場合,日本語での単行本を執筆しようとする動機づけは明らかに弱いように見える.以前は(20年くらい前の話),若手研究者が単行本を書くということは割にふつうにあった気がするが,最近はそういうことはあまりない.その理由はいろいろあるのだろうが,そういう執筆活動をしてもアウトプットとして評価されないという現行の業績評価システムの問題点は指摘しておくべきだろう.

 10年ほど前に,組合でやはり研究員の業績評価に関する委員会に入っていたとき,諸外国での動向に関する情報集約に立ち会う機会があった.国によっても研究機関によっても差異があるのは当然なのだが,少なくとも「本を1冊書いた」ことに対するそれなりに妥当な評価はなされているという印象をもった.たとえば,オーストラリア国立大学(ANU)の場合,「単行本1冊」は「原著論文10報」と等価に評価されていた.たとえば,400字詰にして500枚程度の原稿を何年かかけて書きあげて出版する(ぼくの現代新書の場合)ことに費やされる時間とエネルギーを考えれば,それくらいの評価は当然だろうと思う.今のシステムだと300ページの本1冊を書くのと,5ページの短報記事を書くのとがまったく同一に扱われている(どちらも「1件」とカウント).これでは「本を書こう」などという気にはとうていなれないでしょう(ふつう).

 もちろん,海外の場合,メジャーな出版社では単行本についても「査読制度」があるので,日本とは状況がちがうこともあるだろう(最近は日本でも辞書項目執筆の場合は査読されることがある).そういうちがいを踏まえた上で,なおまっとうな評価がされてほしいものだ.もうひとつ,学問分野での“文化”のちがいも無視できない.単行本を執筆することが原著論文の first author であることよりも高く評価される分野は確かにあるからだ.

—— その一方で,まわりを見回すと,さまざまな心理的・実利的ハードルを乗り越えて,なお「本を書き続けている」研究者が現実にいる.とすると,「本を書く人」と「本を書かない人」の差はこれからますます広がることになるだろう.書く人はさらに書き続け,書かない人はますます書かない.これが望ましいことであるとは思えない.

◇午後になって北風が強くなってきた.でも,歩き読み —— 多和田葉子『エクソフォニー:母語の外へ出る旅』(2003年8月21日刊行,岩波書店,ISBN:978-4-00-022266-2).エッセイ7「バーゼル:国境の越え方」.スイスのドイツ語は,ドイツのドイツ語と比較して,東京語と沖縄語ほどもちがいがあるとのこと.その一方,スイスのフランス語はフランスのフランス語と“有意差”がないそうだ.ここで,一言:

母語の外に出ることは,異質の音楽に身を任せることかもしれない.エクソフォニーとは,新しいシンフォニーに耳を傾けることだ.(p. 77)

さらにもう一言:

あらゆる境界線は越えられるためにある.(p. 83)

◇では,“境界”を越えてさらなるよそ見へ参ろうか —— 岡田裕成・齋藤晃『南米キリスト教美術とコロニアリズム』(2007年2月25日刊行,名古屋大学出版会,ISBN:978-4-8158-0556-2→目次)の第1章第I部「南米植民地美術の成り立ち」を読む.60ページほど.征服者/被征服者の“境界”に成立した「植民地美術」が本書全体のターゲットだが,第1章ではこの「植民地美術」なる見方そのものを再検討する.確かに,16世紀以降,南米のスペイン植民地に持ち込まれたキリスト教芸術は本土から輸出されたものであることは確かだが,単にそれだけではなく,南米に移住した(あるいはそこに育った)スペイン人画家や,以下の論議の中心を占めるはずの先住民画家による積極的な貢献があった.

 南米植民地にキリスト教絵画を輸出した本国側の重要人物に,17世紀のセヴィーリャで活躍した画家フランシスコ・デ・スルバランの名前が挙がるのは意外だった(p. 33).〈神の子羊〉の作者として知られるこの画家は,別名「植民地絵画の父」と呼ばれ,彼のセヴィーリャの工房では南米向けの大量の宗教絵画が製作されたそうだ.

◇本日の総歩数=6050歩[うち「しっかり歩数」=2035歩/18分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.5kg/+1.1%.


17 maart 2007(土) ※ 春めくつくばは辛夷が桜を追い越した

◇午前5時50分起床.曇り.夜明けが早くなってしまって,もうすっかり明るい.不覚だ.

◇久しぶりの朝の読み歩き.筑波大方面へ —— 多和田葉子『エクソフォニー:母語の外へ出る旅』(2003年8月21日刊行,岩波書店,ISBN:978-4-00-022266-2)を50ページあまり.「母語の外」に泳ぎ出て,帰川することなく,回遊し続ける“魚”である著者のエッセイ集.まずは聞き慣れないタイトルの由来から:

それにしても,エクソフォニーという言葉は新鮮で,シンフォニーの一種のようにも思えるので気に入った.この世界にはいろいろな音楽が鳴っているが,自分を包んでいる母語の響きから,ちょっと外に出てみると,どんな音楽が聞こえはじめるのか.それは冒険である.(p. 6)

今でこそ“Exophonie”というタイトルの本が出るほどになったが,著者自身,「母語の外に出た状態一般を指す」(p. 3)この言葉を初めて耳にしたのは最近のことだという.日本語とドイツ語での文筆活動を続けている著者のスタンスにはとても興味がある:

わたしはたくさんの言語を学習するということそれ自体にはそれほど興味がない.言葉そのものよりも二ヶ国語間の狭間そのものが大切であるような気がする.わたしはA語でもB語でも書く作家になりたいのではなく,むしろA語とB語の間に,詩的な峡谷を見つけて落ちて行きたいのかもしれない.(pp. 31-32)

つまり:

わたしは境界を越えたいのではなくて,境界の住人になりたいのだ,とも思った.(p. 35)

多言語の「境界」をめぐる話は続く.横道だが,あたかも家系図のように分岐する複雑なドイツ語を書いたというハインリッヒ・フォン・クライストというロマン派作家がいたそうだ(エッセイ2「ベルリン:移民地の呪縛」).

◇筑波大学の中を歩いていて気がついたのだが,キャンパス内では辛夷の蕾がもうふくらみはじめている.例年なら4月になって,桜が散る頃にようやく辛夷が花開くのに,今年は1ヶ月近くも早まっているようだ.桜の開花もきっと早いだろうし,この分なら今年の入学式まではもたないかもしれない.

◇昼前から柏であれこれ,もう午後3時だ.今日の所用はこれにておしまい.

◇生物学哲学関連(1) —— MITのシリーズ〈Life and Mind: Philosophical Issues in Biology and Psychology〉をチェック.この叢書を編んでいる Series Editors は,Kim Sterelny と Robert A. Wilson のふたり.最新刊2冊:Sahotra Sarkar『Molecular Models of Life: Philosophical Papers on Molecular Biology 』(2007年3月30日刊行予定,The MIT Press[Life and Mind: Philosophical Issues in Biology and Psychology], ISBN:978-0-262-69350-9 [pbk]→版元ページ).ハードカバー版は2005年1月にすでに出ている./ Eva Jablonka and Marion J. Lamb『Evolution in Four Dimensions: Genetic, Epigenetic, Behavioral, and Symbolic Variation in the History of Life』(2006年10月1日刊行,The MIT Press[Life and Mind: Philosophical Issues in Biology and Psychology], ISBN:978-0-262-60069-9→版元ページ).ハードカバー版は2005年5月にすでに出ている.

◇生物学哲学関連(2) —— M. Matthen et al. (eds.)『Philosophy of Biology』(2007年3月19日刊行,North-Holland[Handbook of the Philosophy of Sciences], ISBN:9780444515438→版元ページ).本書は,昨年から刊行が始まった叢書〈Handbook of the Philosophy of Sciences〉の1冊だ.650ページ近くある.

◇本日の総歩数=13402歩[うち「しっかり歩数」=7560歩/66分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.2kg/−0.5%.


16 maart 2007(金) ※ 芸術樹(Kunststammbaum)はバクハツだ!

◇午前4時40分起床.曇り.北風あり.気温4.5度.

◇午前のこまごま —— 緊急の電話機購入を用度係に申請完了./ 湯川シンポの件で追加連絡あり.演題をしらせる必要あり.どーしましょ./ メーリングリスト火山灰が積もり始めている.しかし,いま掃いている時間はどこにもない./ 立ちながら,20分ほど翻訳作業をする.

◇晴れときどき曇り,気温8.7度の昼休みに歩き読む —— ブルーノ・ムナーリ(萱野有美訳)『デザインとヴィジュアル・コミュニケーション』(2006年11月24日刊行,みすず書房,ISBN:4-622-07210-6→目次)の第2部〈ヴィジュアル・コミュニケーション〉を読了.ほぼ300ページ.著者は言う:

意図的なヴィジュアル・コミュニケーションの場合は,2つの側面下で考察されうる.それは美的情報と実質的情報である.[……]美感とは万人にとって同じものではなく民族の数だけ,あるいは世界の人間の数だけ存在するものだ.だから1枚の製図,あるいは一葉の報道写真に,それぞれが個別の美を見出しうる.しかしこの場合ヴィジュアル・オペレーターは,美を客観的に理解できるようなデータによって明らかにする術を心得る必要がある.(pp. 93-94)

視覚的コミュニケーター(=オペレーター)としての「視覚言語ユーザー」の使命みたいなものが必要とされるのだろう.この〈第2部〉はさまざまなデザインを集成した「図版集」のような体裁で編まれている(テキストよりは図版の方が多い).全体を通じて翻訳文はイマイチ練れていない気もするが,そこは読者ひとりひとりがしっかりとヴィジュアル・コミュニケーションに努めることで,本書の目的は達成されるにちがいない.“かたち”に関心のある読者にとって,本書はきっとおもしろいだろう.もちろん,系統樹ユーザーにとっても得るものはあるはずだ.

◇午後のこまごま —— 午前中に発注した電話機のことで,業者から連絡あり.発注した機種がたまたま人気機種らしく,在庫がないらしい.10日ほど待ってほしいとのこと.年度内に決済できるのであればOKと返事する.

◇午後は原稿書きをふたつ並行して進める —— とは言っても,まだ「文字」を書き綴る段階には到達していない.「土俵」の輪郭を描いているようなものか.まだまだ.しかし,いずれも口頭発表はしているのだから,書くべき内容の筋書きはとうの昔にできている[はず].いくつか“凝固核”を撒いてやれば自然に“かたち”をなしてくるにちがいない[と思いたい].うだうだ言いつつも,レファレンスを揃えつつある.

◇ついよそ見の〈Carl Nielsen Selskabet〉 —— 手元にある Carl Nielsen の本はいずれも英訳だ:『Living Music』(1953年刊行,Hutchinson)/『My Childhood』(刊行年不明,Wilhelm Hansen).『Living Music』の方は書誌情報が確認できているので問題ないのだが,自伝であるはずの『My Childhood』はとてもアヤシイ(本来あるはずの図版がなかったりするから).いずれにせよ,近いうちにデンマーク語の原書:『Levende musik』(1925年刊行,Martins Forlag,København)と『Min fynske barndom』(1927年刊行,Martins Forlag,København)は手にしたいな.

◇今月の残りの日々はひたすら原稿仕事あるのみですな.他にやることはなし.

◇本日の総歩数=12375歩[うち「しっかり歩数」=7145歩/62分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.2kg/+0.2%.


15 maart 2007(木) ※ 疲労と消耗,仕事はしんしんと降り積む……

◇午前4時40分起床.晴れ.気温0.9度.東の空に広がる放射雲,真っ赤に映える朝焼け.

◇朝のこまごま —— 消耗すること1件./ 研究室の電話がトツジョとしてつながらなくなった.電話雑用が強制的に切断されるのでいい面もあるのだが,そーも言っていられない.年度末ぎりぎりの余剰金でさっそく買い替えよう./ 業績評価に関する管理職面談.提出書類の修正が必要とのこと./ 意外に予算の残額があることが発覚してしまった.※どーしましょ.

◇情報備忘メモ —— ハンス・ドリーシュ著(米本昌平訳・解説)『生気論の歴史と理論』(2007年1月30日刊行,書籍工房早山,ISBN:4-88611-504-7)に関連して,〈leeswijzer〉で,「なぜいまドリーシュ?」と書いたら,訳者の意図に関していくつかコメントをいただいた.ひとつは,訳者の前著『独学の時代:新しい知の地平を求めて』(2002年8月刊行, NTT出版, ISBN:4-7571-4043-6→版元ページ)の中で,すでにドリーシュへの再評価がなされているというご指摘.もうひとつは,訳者と茂木健一郎氏との対談録画(〈クオリア日記〉2007年3月10日付の記事からリンクされている77分に及ぶ MP3 ファイル)が参考になるとの情報提供だ.どうもありがとうございます.

◇午後のこまごま —— JICA筑波国際センターでの,次年度キューバ稲作コースの統計学講義の日程擦合せ.4月26日(木)の午前&午後の5時間が最初で,あとは9月以降に予定しているそうだ.このコースは今年度が最後とのことだが,その後はどーなるのでしょう?(御役御免かな)/ 北大農学部からの「生物系統学」集中講義の依頼が農環研に届いたとの連絡あり(兼業申請する)./ 東京農大の連携大学院人事の連絡も.※農環研だけで10人も連携教員がいるのか./ 10月の京大・基物研での湯川秀樹記念国際シンポジウムのスケジュールが届いた.1時間のトークとはねえ./ 指示された業績リストの改訂をちょいちょいとすませて,送信完了./ 緊急購入すべき電話機の機種選定とか./ 年度の変わり目にかけての予定のリストアップとか.※浜の真砂は尽きるとも……(ワルいことしてないけど).

◇しかし,何よりも優先すべき喫緊の仕事 —— それは原稿書き.カマジン訳本は一歩一歩進めないといけないが,並行して,計量生物学会特集号の原稿と『科学哲学』誌の原稿.いずれも今月末が締切だ.←※ときどきこうやって書いて“自己ツッツキ”しないと.

◇緊急の電話機機種選定 —— 綿密な比較検討をまったくせずに,ほとんど気分的に,Panasonic 「おたっくす」の 〈KX-PW606DW〉(ファクス&子機2台付き)に瞬時決定した.実売価格は3万円前後だ.明朝,用度係に申請しよう.

◇本日の総歩数=5582歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=−0.1kg/−1.4%.


14 maart 2007(水) ※ 終わりの始まり,あるいは北風とあんみつ

◇午前5時起床.晴れ.

◇朝のこまごま —— 確定すること1件.終わりの始まり.

◇今日は東京出張日.11:41 の TX 快速に乗り,根津へ.北風が強く,とても寒い.時間が少しあったので,〈いも甚〉のあんみつを買い,東大へ向かう.午後1時から専攻教員会議.部厚い“無削除版資料”を前にして,延々と午後4時まで.年度末の学位授与式だの,来月の進学生ガイダンスだの,駒場での専攻ガイダンスだの.

◇会議後,〈ルオー〉にて翻訳原稿のチェック.地べたから訳し直す箇所が多くてなかなかはかどらず.午後5時に海游舎の本間さんが来たときにやっと5ページ,さらに1ページを手渡して,あとは次回ということに.※生態学会・松山大会のあとということ.

◇夕暮れの東大構内を横切って,根津へ下りる.不忍通り近くの〈オヨヨ書林〉に立ち寄る.(ずっと前から〈古書桃李〉という古本屋だと思っていたのだが,変わっていた.およよ.→「不忍ブックストリートMAP」を再確認する).芸術関係の古書多し.

 これまでずいぶん探して見つからなかった本を発見:ジル・ドゥルーズ,フェリックス・ガタリ(豊崎光一訳)『リゾーム…序』(1977年10月10日刊行, 朝日出版社[エピステーメー臨時増刊号], ISBN4-255-87019-5).こういう装幀はかつて一世を風靡したなあ.10年前の『生物系統学』で彼らの「リゾーム」論を根絶やしにしたときは(あ,もともと根がないからダメか),この訳本が手に入らなかったので,同じ著者による『千のプラトー』を参照したことを思い出した(中身はおんなじだからどちらでも別にいいんだけど).

◇〈List-MJ:日本産蛾類総目録〉の更新と公開 —— 神保宇嗣さんが本日公開した.もともとは,井上寛・杉繁郎・黒子浩・森内茂・川辺湛・大和田守『日本産蛾類大図鑑(I, II)』(1982年9月20日刊行, 講談社, ISBN:4069938222 [Set] / ISBN:4061240374 [Vol. I] / ISBN:4061240366 [Vol. II])への補遺(Post-MJ)としてまとめられていたものを母体として,さらなる追加を含めて,新たに電子化した目録.

◇夜7時過ぎにつくばに帰り着く.北風が強く吹いて,季節は逆転.それでもエレベータ内で蚊に刺されたところをみると,春はやっぱり近いぞ.

◇本日の総歩数=11399歩[うち「しっかり歩数」=5960歩/52分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.1kg/+1.5%.


13 maart 2007(火) ※ 冬に逆戻り,北寄り寒風に鼻もぐすぐす

◇午前5時起床.晴れ.

◇午前いっぱいは年休を取り,卒業式へ.今日は冬に逆戻りしたかのような寒さで,春霞の晴天ではなく,きりきりした冬晴れだ.北風が吹き,花粉が舞う.つらいなあ.昼過ぎに御役御免.その後,研究所へ.

◇台湾昆虫学史の大著 —— 朱輝沂『台灣昆蟲學史話(1684−1945)』(2005年1月刊行,玉山社[典蔵・台湾2], ISBN:986-7375-21-1→目次)信州の船越さんに送っていただいた本(ありがとうございます.後ほどメールします).10年前に出た呉永華『被遺忘的日籍臺灣動物學者』(1995年刊行,晨星出版,ISBN:9575835018→目次)は広く台湾動物学史に関わる日本人学者を扱っていた.今回の本は,昆虫学史だけに焦点を当てた著作だが,総頁数は614ページに達する.やはり多くの日本人学者が登場する.→版元サイト目次

◇昼下がりのこまごま —— 東京農大の客員教員に関する事務からの確認事項.農環研からは現在8名の客員教員がいるらしい./ 計算センターから年度末の利用報告(オンライン)の記入要請.完了./ IOSEBから連絡.メキシコで開催予定の IOSEB-VII の開催地はメキシコ湾に面した Veracruz となることがほぼ確定した.また,Darwin生誕200周年に合わせて,2009年開催という方針も示された./ 今日は所内の業績評価検討WGの会議が午後3時から予定さ…… あ,もう4時過ぎてるやん.スルーです.ごめんなさい(汗).

◇〈これポ〉近刊! —— 酒井さんのウェブ日記(「進行状況」3月13日付)によると,〈これ論〉こと酒井聡樹著『これから論文を書く若者のために(大改訂増補版)』(2006年4月10日刊行,共立出版,ISBN:4-320-00571-6→著者サイト版元サイト)の姉妹本〈これポ〉がこの5月に出版されるそうだ:酒井聡樹『これからレポート・卒論を書く若者のために』(2007年5月刊行予定,共立出版,ISBN:978-4-320-00574-7)

 潜在的読者たる“若者”の成長段階を考えると,まずは〈これポ〉を読んで感動してから,〈これ論〉でしっかり修行するという順番になるのだろう.そして,研究者の卵としてのコンテンツの蓄積がしだいにできてくれば,すかさず〈これホ〉こと岡本真著『これからホームページをつくる研究者のために:ウェブから学術情報を発信する実践ガイド』(2006年8月10日刊行,築地書館,ISBN:4-8067-1335-X→目次著者サイト版元サイト)を片手に,自分のためのウェブサイトを手がければよい.

 本書〈これポ〉の目次など詳しい情報については→著者サイト版元サイト

—— 〈これポ〉+〈これ論〉+〈これホ〉の「“これから”三点セット」で鬼に金棒だ!

◇4月以降に予定されている所内輪読会の本 —— James S. Clark and Alan E. Gelfand (eds.)『Hierarchical Modelling for the Environmental Scientists : Statistical Methods and Applications』(2006年5月4日刊行, Oxford University Press, ISBN:0-19-856966-1 [hbk] / ISBN:0-19-856967-X [pbk]→目次).試しに“べいづ”してみます.

◇午後4時の気温が12.0度だったのに,帰宅した午後7時過ぎには5.8度まで低下.この分だと明朝は氷点下だろう.夜になっても北風なお強し.※3月になって,鬱屈していた“冬”ががぜん張り切りだした気配あり.

◇明日はまた東京出張&“納税日”だ.

◇本日の総歩数=1602歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=0.0kg/−0.7%.


12 maart 2007(月) ※ 週明け早々,辞書項目をイッキ書きする

◇午前4時50分起床.半月輝く星空.寒い.

◇朝のこまごま —— 翻訳を進める朝.なかなか進まず……./ 生物地理学会評議員会の出欠.すぐ返送./ Cladistics 誌 23(1) January 2007着便./ 『生物科学』誌(58巻2号,2007年2月)着便.北村雄一さんによる『系統樹思考の世界』の書評1ページあり.

◇いきなりプレッシャー —— 東京化学同人から『生物学大辞典』の原稿督促の手紙が届いていた.何回目の督促だろうか(汗).手元にある“督促状”を並べてみた.原稿執筆の依頼があったのは「2005年11月21日」のこと.翌年の3月末には原稿を出しますとの返事をしたはず.ところが,何やらかんやらでずるずると遅れ,第1回目の督促がやってきたのが,「2006年8月7日」のこと.しかし,現代新書を出版した直後で真っ白に燃え尽きていた頃だったので,当然スルーしてしまう.そのまま年を越して,第2回目の督促が届いたのはつい先日の「2007年3月7日」のこと.《ご脱稿のお願い》も度重なるとプレッシャーになる.ごめんなさいごめんなさい.書きます書きます.午後書きますから.

◇またまた〈R〉関連 —— 金明哲『R、R言語、R環境……』(html / pdfファイル).月刊『Estrela』誌に2003年から連載されている〈R〉連載記事(なお連載は続いている).最近の号を見ると,2007年1〜2月号には「Rと系統樹」(ape パッケージなど)が,今月3月号には「Rとブートストラップ」(pvclust パッケージなど)が掲載されている.

◇昼休み.晴れ上がって,北風がとても強い.久しぶりの冬型.気温10.6度.花粉まみれ(涙).風に吹かれて歩き読み —— ブルーノ・ムナーリ(萱野有美訳)『デザインとヴィジュアル・コミュニケーション』(2006年11月24日刊行,みすず書房,ISBN:4-622-07210-6→目次)の第1部〈ハーヴァードからの手紙〉を読了.90ページほど.

◇いきなりイッキ書き —— “圧力”が臨界点に達したので,辞書項目のイッキ書きの開始.担当しているのは統計学関連項目なので,まごつくことはあまりない.全部で10項目あるが,いずれも200字程度の「小項目」,あるいは400字程度の「中項目」なので,全部合わせても400字詰にして8〜9枚といったところか.午後2時過ぎにがしがしと書き始め,なんとか書き上げたのは午後5時過ぎ.辞典編集部にメールで送信して,2年がかりの「大仕事」にケリをつけた.時間かかったなあ.

※こんなことならもっと早くやっておけば,という責め言葉は無用だぞ.そんなことはわかっていても,なおできないんだからしかたないじゃない.脱肛と脱稿はつらいんだ(なんて尾籠な駄洒落か).ああ,ごめんなさいごめんなさい.ちゃんと書きましたから許してねー.

◇夕方になっても風はやまず.今日は身に染みる寒さだった.

◇夜,ミクシィでちょいやりとり —— 知人のご子息が志望校に合格されたとのこと.おめでとうございます.2年後には進振りがあるのでまだ油断はできませんが,まずは駒場ライフを満喫してほしいと思います(ただし第1限の講義には遅れないこと).ぼくは,いまは亡き駒場寮に入って,もっぱら本郷でのオーケストラ活動に没頭していたのですが,気がつけば進学先の学部・学科を決めるべき時期になっていました.今ならばもっと情報の流れがよかったのでしょうが,30年近く前はそういう意味での学部や学科の公開性は乏しく,えいやっと進学先を決めたような気もします(もちろん進振りの成績も重要ではあるのだけれど).

まあ,進路の不確定性はいつまでもついてまわるわけで,その意味では行く末についてあまり深く悩んでもしかたないでしょう.いったん進学してしまえば,あとの道は自然に拓けるというくらいの開き直りが精神衛生上は好ましいかもしれません.そんなのほほんとしたことが言えるのも,大学入試前の時点でぼくの進路は「農学部の昆虫学教室」であると決めていたから,入学後に進路に悩むという経験がほとんどなかったわけですね.浪人したら,箱崎に行きたいと両親にも宣言していたほど.そのような“既定路線”が敷かれていたにもかかわらず,本郷(弥生)に進んでから,○虫学教室に誘引されずに忌避してしまったのはややローカルな人的問題だったわけですね(言わんとするところを汲んでいただきたい).

—— そんなこんなで,生物測定学(biometrics)の世界にたまたま足を突っ込んで四半世紀,そのまま現在にいたる,というわけ.できれば,これからも方々で“二次胚”をつくれる“オルガナイザー”であり続けたいなあ.

◇あ,夜の翻訳タイムがなくなってしまった.明日またがんばらないと,水曜の“納税日”に間に合わない.

◇本日の総歩数=10864歩[うち「しっかり歩数」=5555歩/48分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.4kg/+0.2%.


11 maart 2007(日) ※ 雨の日曜の朝もつい早起きしてしまう

◇午前6時前に起床.予報通りの雨.冷え込まず.

◇早朝のこまごま —— 5年前の八王子大学セミナーハウスでの合宿セミナー〈科学論は科学の敵なのか?〉を契機に開いたメーリングリスト〈SS〉を閉設した:

送信者 MINAKA Nobuhiro
宛先 SS@ml.affrc.go.jp
送信日付 2007/03/11 07:05
件名 [SS:224] SS閉設のお知らせ

SSのみなさん:

三中信宏(SS list-owner)です.

2002年の1月19〜20日に,八王子大学セミナーハウスで開催した第187回大学共同セミナー〈科学論は科学の敵なのか?〉を契機に,このメーリングリストは開設されました.当時のセミナー参加者の多くを占めていた学生のみなさんは,すでに大学を卒業されたり,あるいは大学院に進学されていることと思います.

個人的には,その後も「八王子な方々」とつながりができたり,思わぬところで再開したこともあります.改めて思い起こしてみると,大学共同セミナーの最終回となった私たちのセミナーは持続的なインパクトをもった企画だったことは明らかです.オーガナイザーとしてはこれ以上の喜びはありません.

しかし,メーリングリストの使命を考えたとき,開設して5年が経過し,日常的なやりとりがなくなった状態のまま放置しておくことは,あまり誉められたことではありません.登録アドレスの多くはすでにデッドになっているものと推測されます.

そこで,本日をもって SS は閉鎖させていただくことにします.

このメールがどれくらいの範囲に届くかはもうわかりませんが,みなさんそれぞれの今後のご活躍を祈りつつ.

三中信宏

—— メーリングリスト自体はここ何年かはほとんど投稿がない休業状態のままだったが,「八王子な人脈」は個人ベースではきっとこれからもつながっていくと思う.

◇Emma Darwin の日記オンライン公開 —— ダーウィンの全著作・資料の電子化を進めている〈The Complete Work of Charles Darwin Online〉から,妻エンマ・ダーウィンの日記が新たに公開された:〈Emma Darwin's Diaries 1824-1896〉.Janet Browne による序論が付けられている.夫チャールズの逝去の前日(1882年4月18日)の日記には「fatal attack」と記されている.ざっと見た感じ,書き綴った日記というよりは,備忘メモのような単語の羅列がほとんどのようだが,これをきちんと解読できるのがダーウィン学者というものなのだろう.

◇午前中は本降りの雨だったが,正午過ぎには急速に天候回復.青空がどんどん広がってきた.空気中のホコリが一掃されて,遠景がくっきりと.ただし,北風が強くて寒い.

◇午後は翻訳をちょい手がけるものの,すぐに挫折して,昨年来ベッドサイドに放置してあった長谷川郁夫『美酒と革嚢:第一書房・長谷川巳之吉』(2006年8月30日刊行,河出書房新社,ISBN:4-309-01773-8→目次)の第2部をだらだら寝読みしてみたり,古川ロッパ(滝大作監修)『古川ロッパ昭和日記・戦前篇:昭和9年−昭和15年[新装版] 』(2007年2月10日刊行,晶文社,ISBN:978-4-7949-3016-3→版元ページ)をよそ見してみたり(※うかうかしていたら,もう第2巻『戦中篇』が出てしまった……).また,翻訳に戻ってみたりする.

◇やはり売れているのでしょうなあ —— 『つくばスタイル No. 4』(2007年4月20日刊行, エイムック1319, ISBN:978-4-7779-0692-5).ついに第四弾まで出たか.バックナンバーを確認すると:『つくばスタイル』(2004年12月10日発行, エイムック948, ISBN:4-7779-0215-3);『つくばスタイル No. 2』(2005年9月30日発行, エイムック1076, ISBN:4-7779-0388-5);『つくばスタイル No. 3』(2006年6月10日刊行, エイムック1197, ISBN:4-7779-0540-3)なので,ほぼ10ヶ月に1冊の割合で,『つくばスタイル』は刊行されていることになる.他の地域では見かけたことがないが,これまた商業ベースの地域雑誌ということなのだろう.TX開通後は「暮らす場所」としてのつくばがクローズアップされているようだ.なお,収録されている店のレベルが号を追うごとに徐々に下がりつつある(らしい)のはしかたがないことなのかもしれない.増えつつあるとはいえ,同一地域のかぎりある店をピックアップし続けているのだから.

◇翻訳作業の夜は長いな…….※またも真っ赤だし…….

◇本日の総歩数=5114歩[うち「しっかり歩数」=3724歩/33分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=0.0kg/−0.1%.


10 maart 2007(土) ※ かぎりなき春眠は日の出を知らず

◇午前5時にいったんは目が覚めて,ごそごそと置きだしてはみたものの,また二度寝してしまう.午前6時過ぎ,日の出の陽光が差し込む頃にようやく起床.今年の冬眠グマは眠りがとても浅いそうだが…….

◇朝から春めいた晴天.風もなく,いいお日和で.午前中に〈leeswijzer〉のカウンタが「29万台」に達した. ※もうすぐ次なる大台かも.

◇地域雑誌『谷根千』終刊のこと —— 〈谷根千ネット〉2月28日付の記事によると,地域雑誌『谷中・根津・千駄木』は,再来年2009年の春に刊行される予定の第93号をもって終刊されるそうだ.1984年の創刊から四半世紀を経てのエンディングということになる.近年の販売部数の低落が原因と書かれていたが,考えてみればこのような地域ミニコミ誌が,25年にわたってこれほど長期に安定して発行され続けてきたこと自体が驚きだろう.

 思い起こせば,1984年の冬から1985年の春にかけて,ぼくの学位論文の清書を手伝っていただいた山崎範子さんが,後の谷根千工房に関わっていたというのがそもそものつながりだ.『谷根千』創刊号は,山吹色の表紙で,判型は今の『谷根千』に比べて縦横数ミリずつ大きかった.10ページそこそこの薄さで,それこそ昔のガリ版刷り同好会誌のような趣きだった.1980年代は千駄木にずっと住んでいたので,新しい号が出るたびに買い求め,つくばに移住した1989年まではほぼコンプリートに揃っている.その後も,東京に出たときに,書店で見つけるたびに欠かさず買うようにしていた.

 文京区内ならば小さい書店にも配本されている(東大生協書籍部にもある).しかし他のエリアであっても,大きな書店には並んでいるのを見たことがあるので,関心のある方はぜひ自ら手に取られんことを.

—— あと2年ですが,頑張ってください.>谷根千工房のみなさん.

◇穏やかに晴れた昼.空気はやや冷たいが,花粉も少なく,快適な日中だ.自宅の食器洗浄機が強力過ぎて,割れたり欠けたり剥がれたりする被害がとみに目立ってきた.新居なのでまだ使い慣れていないこともあるのだが,とくに塗り箸の劣化がひどいので,新しいのを揃えた.でも,食洗機では箸はもう洗えないな.

◇「樹」は「樹」を呼ぶ.“鉱脈”に当たったみたいな心地 —— Astrit Schmidt-Burkhardt『Stammbäume der Kunst : Zur Genealogie der Avantgarde』(2005年刊行,Akademie Verlag,Berlin, ISBN:3-05-004066-1→目次).Amazon.de から届いた.芸術(家)の系譜が16世紀にはすでに描かれていたとは知らなかった.本書全体では200あまりもの[いかにも“アート”な]芸術系統樹(Kunststammbäume)が掲載されていて,それらを眺めるだけでも十分に愉しい.しかし,そのような「系譜化(Genealogisierung)」をもたらした要因について考えることはもっと楽しいだろう.類書のない本だ./ Sigrid Weigel (Hrsg.)『Genealogie und Genetik : Schnittstellen zwischen Biologie und Kulturgeschichte』(2002年4月刊行,Akademie Verlag [Einstein Bücher],Berlin, ISBN:3-05-003572-2→目次).これも同時に着便.前半(第I部)の諸章に系図学史に関わる記述と図版がたくさん載っている./ Hans Gercke (Hrsg.)『Der Baum in Mythologie, Kunstgeschichte und Gegenwartskunst』(1985年刊行,Heidelberger Kunstverein Edition Braus,Heidelberg, ISBN:3921524628).未見だが,これもまた参考文献として価値があるかも.

—— 年明けから,ドイツ語圏の系譜学史の本が立て続けに手元に届き,それとともに視野がどんどん広がっている.やや広がりすぎているかもしれないが,へたに自己規制するのではなく,しばらくこのまま好奇心を放任しておいた方がいいだろう.

◇系統地理学(phylogeography)の「最終目標」とは —— 昨日,駒場で開催された〈第9回駒場進化セミナー〉では,発表後の討論で「分子系統地理学の最終ゴールは何か?」という趣旨の論議があったそうだ.

ぼくの理解の範囲では,John C. Avise が1980年代末に最初に提唱した系統地理学(phylogeography)は,1970年代の分断生物地理学(vicariance biogeography)の直系の子孫にあたる学問分野だ.だから,分子系統地理学は地域生物相の間の系統関係の推論を最終ゴールとするという点はまちがいないだろう.もっといえば,分子系統地理学という方法論がツールとして使えるようになったおかげで,さまざまな生物群での系統関係と地理的分布との対応づけが,分断生物地理学が実践に移せるようになったということだ.

分断生物地理学は分布域を共有する複数の生物群の系統関係から,地域生物相間の系統関係を推論するという方針を掲げたのだが,分子系統学というツールがなかった当時は,そのような研究プログラムを実践することはきわめて厳しかった.魚類学者 Don E. Rosen によるカリブ海沿岸域での淡水魚の事例とか,昆虫学者 Lars Brundin の Chironomidae の事例など数少ないケーススタディーが繰り返し引用されていたという事実は,裏を返せばそれ以外に使えるデータがなかったということにほかならない.分子系統地理学はその空白を埋める手段を与えたということになる.

しかし,その「最終ゴール」を目指す上でハードルになるのは,分布域を共有する複数の生物群を調べなければならないという要求だ.この点については,最近の系統地理学研究では必ずしも表立って論議されていないように思えるのだが,単一の対象生物群の系統関係と地理的分布を追っただけでは不十分で,そういうリサーチを複数の生物群で実行しなければ最終ゴールには到達できないだろう.では,最終ゴールに向かう long-term な研究の途中段階として,単一生物群に関する研究のshort-term な意義はどこにあるのかという疑問が当然生じてくるだろう.たとえ単一生物群を調べるだけでも,たとえばクレードごとの進化的特性(進化速度,種分化率など)は解明できるだろうし,それを地理的な次元で考察することもきっと可能だろう.でも,そういう意義はあくまでも short-term な話であって,long-term な最終ゴールはなお先にあるという自覚はきっと必要だろうと思う.

—— 1970年代の歴史生物地理学での論争の経緯を知っていれば,現在の分子系統地理学の“出自”とそれが目指すところは明白だとぼくは思うのだが,いままさに系統地理学的研究を遂行している若手の研究者はその点についてどう考えているのだろう? ※昨日,駒場に行けばよかったのだろうけど.

 ※そういえば,その John C. Avise の『Phylogeography』の翻訳(東京大学出版会)はその後どのように進捗しているのだろう? 原書はすでに改訂されたが,訳本もそれに対応するのだろうか.[←原書改訂の件,嘘八百でしたっ(堪忍)] 今だったら,まだ潜在的購読者の層は厚いだろうから,タイミングとしてはいいはずなのだが.

◇また,夜更かしをしてしまった.いま午前1時を過ぎたところ.

◇本日の総歩数=6045歩[うち「しっかり歩数」=980歩/10分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.8kg/+0.6%.


9 maart 2007(金) ※ 連日のつくば不在,徘徊する九段下

◇午前5時前に一度起きたのだが,連日の寝不足でやってらんないので二度寝する.午前6時前にぐうたら起床.晴れのち曇り.午前10時過ぎまでは,ひたすら翻訳苦役に没頭する.5ページ仕上げて,今日納税する“年貢”のひねり出しはおしまいにする.

◇本日の仕事(1) —— 11時11分の TX 快速に乗り秋葉原へ.そして,新大久保へ.駅横に〈蟲師〉なる新作映画の宣伝看板があった(3月24日全国ロードショー:大友克洋監督!久しぶり).駅改札で海游舎の本間さんに原稿をゲラを手渡す.次回は来週水曜(14日)の午後5時に本郷〈ルオー〉にて.※近刊の『トンボ博物学』は首尾よく現物を松山に運び込むことができるそうだ.

◇新大久保から高田馬場へ.東西線に乗り換えて九段下へ.曇り空から時おり“水滴”が落ちてきたが雨のつもりか? 時間が少しあったので,喫茶店を探したのだが,このあたり,意外に適当な店がないなあ(神保町とは大違い).うろうろと徘徊して,とある店へ.昨日分の日録を書いたのに,bluetooth の D-Link をつくばに忘れてきてしまったので,送信できず.

◇本日の仕事(2) —— 東京理科大の「九段下キャンパス」なる場所に向かう.靖国通り沿いで靖国神社の隣り,武道館の真向かいという絶好の立地条件のビルがそれだった.理科大といえば神楽坂とつい連想してしまうのだが,いつから九段下にも進出したのか.この辺りの大学はいずれもビルに入っているので,探すのがたいへん.

統計な6階の1室で計量生物学会の広報委員会という名の打合せ.富山から来られた委員長の折笠秀樹さんは,弥生の大雪のせいで飛行機ではなく自動車にせざるを得なかったとのこと(昨日,池袋にて拝顔した越中の殿も車だった).今日の打合せでは,学会メーリングリスト(JBS)の今後の運営について話し合う.MLの管理作業は,困ったちゃんさえいなければたいした手間ではないのだが,学会の公式MLとなると,いちおう学会としてサポートしていますということにしておかないといけない(でも,誰かが手を染めることになるので実質的には変わりがない).というわけで,実質的に半時間ほどでミーティングはおしまいになった.あとは,27日(火)の対面理事会で決めることになる.

—— 会議室を用意してもらった浜田知久馬さんから聞いたところでは,この「九段下校舎」は1年ほど前に理科大が買い取った建物だそうだ.※とても太っ腹な理科大.

◇ふたつの用事があった割りには,拘束時間は短かったな.午後3時前にはもう神保町すずらん通りに実在するワタシ —— 〈書肆アクセス〉にて:『谷中・根津・千駄木(其の八十六)』(2007年2月28日発行,谷根千工房).今号の特集は谷中霊園.→版元サイト./ 続いて〈東京堂書店〉にて,須賀敦子『須賀敦子全集・第7巻』(2007年3月20日刊行,河出書房新社[河出文庫す4-8],ISBN:978-4-309-42057-8).内容は「どんぐりのたわごと/日記」.→版元ページ./ 銭存訓・鄭如斯(編)(久米康生訳)『中国の紙と印刷の文化史』(2007年3月2日刊行,法政大学出版局,ISBN:9784588371134)の現物はなかったが,鈴木俊幸『江戸の読書熱:自学する読者と書籍流通』(2007年2月刊行,平凡社[平凡社選書227], ISBN:9784582842272)と和田敦彦『書物の日米関係:リテラシー史に向けて』(2007年2月28日刊行,新曜社,ISBN:9784788510364)はブツを手にした.個人的には,『書物の日米関係』の方が好み.しかし,それよりも何よりも驚倒したのはこの新刊だ↓

◇南米キリスト教芸術をめぐる旅 —— 岡田裕成・齋藤晃著『南米キリスト教美術とコロニアリズム』(2007年2月25日刊行,名古屋大学出版会,ISBN:978-4-8158-0556-2→目次).まず,冒頭のカラー図版に釘付けになる.南米のこの自然環境に立つこのキリスト教会.つくる側とつくらせる側の緊張感とそこに存続するもののしぶとさ.文字どおり抗いがたし.500ページの大著のそこかしこに,他では見られない写真が満載.脱帽だ.※また名大出版会かよっ(満点).→版元ページ撮影者のコメント(2月25日付).

◇神保町から秋葉原に抜けて,TXでつくばに帰る.午後5時前にはもう着いていた.連日のプチ外出で疲労が溜まりつつある気配.

◇本を読んだり,日録を書いたり,ボリビアの識字に関する論文を付け加えたり.

◇本日の総歩数=12026歩[うち「しっかり歩数」=3991歩/34分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.1kg/−0.2%.


8 maart 2007(木) ※ うろうろしたあげく,東京へ出奔する

◇午前4時45分起床.晴れ.気温マイナス1.6度.未明はまだまだ寒い.

◇“Book bloggers”の影響力? —— オンライン書店〈AbeBooks〉の社員がつくっているブログ〈Reading Copy〉に,「Book Review Sections in Decline」という記事が投稿された(7 March 2007).ロサンゼルス・タイムズ紙の書評欄がなくなることを憂える記事だ.その中で,〈AbeBooks〉が一昨年行なった本の購入に関するアンケート調査が引用されている.それによると,読者が本を選ぶ基準としては,第1位が「前に読んだことのある著者の本であること」(58%),続いて「家族や知人が勧めること」(26%),そして「書評に取り上げられていること」(25%)と続く.記事の投稿者は,いまこのアンケート調査を実施したとしたら,「ブック・ブロガー」の影響力がどの程度の順位に入るのかが気になると書いている.

◇昨日の午後の対談の後に —— やはり数年前に比べると,(自分だけでなく他者の目からも)客観的に見て「多忙度」が増大していることは明らかなようだ.これからは,どんどん「切る」ことを学びましょう(>ぼく).

◇午前のこまごま —— 来年度のフレックスタイム申告./ 生物地理学会シンポジウムを方々に宣伝する.

◇午前11時.快晴,気温9度.榎戸の〈つくばキーセンター〉にて,マイナーな鍵のコピーをする.つくばエリアにあるいくつかのホームセンターやスーパーには,合鍵をつくってくれるブースが併設されていることがある.しかし,メジャーな鍵ならいいのだが,ちょっとマイナーだったりすると取り扱いしてもらえないことが少なくない.今回は,メジャーであるはずがない電動車庫の鍵だったので,迷わず〈つくばキーセンター〉に直行.その場でコピーしてもらった.

◇午後1時11分の TX 快速にて秋葉原へ.池袋で下車し,立教大学へ.もう春休みに入っているのか,キャンパスには学生の人影まばら.辛夷の花がすでに開き始めているのには驚いた.1ヶ月程度早過ぎるのでは.

◇午後3時から,理学部13号館会議室で,『生物科学』編集会議.ずいぶん久しぶりに出席した気がする.特集関連で新たにふたつの仕事が転がり込んだりして…….午後6時,セントポールズ会館に場所を移して,ちょっとした懇親会を.午後7時半まで.二次会になだれこむことなく,健康的につくばへの帰路.午後9時過ぎに帰り着く.

—— 『生物科学』の最新号(58巻2号)には,北村雄一さんによる『系統樹思考の世界』の書評が載っている.(ありがとうございます) ※ウェブサイトにはまだ載っていないけど.

◇明日もまた,東京に出てこまごましないといけないのだが,その前に翻訳作業を何とかしないことにはどうしようもない.しかし,明日の朝の勝負だな,これは.

◇本日の総歩数=9756歩[うち「しっかり歩数」=2586歩/27分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=+1.0kg/−0.6%.


7 maart 2007(水) ※ 私的解放と公的束縛の Keith Jarrett 日

◇午前3時過ぎに目覚める.雲間に欠けた月が輝き,気温は2.0度にまで下がっている.昨日の未明とは大違いだ.寒い寒い.朝のうちに年明けから長期にわたった私用期間がやっと終わり,年度末の公用だけがあとに残ることになった.というわけで,今日は「Keith Jarrett をBGMで聴く日」にしよう.

◇Hennig Meeting が急に動きだした —— 昨日見たときは,〈Hennig XXVI〉大会サイトはほとんど開店休業状態だったのだが,その後,大会参加申込・オンライン要旨登録・ホテル予約など必要最小限のコンテンツが一挙に公開された.締切日が明記されていないが,例年の慣例から推論すれば,開催1ヶ月前までは大丈夫なはずだ.でも,油断していると,締切直前にあたふたするにちがいないので気をつけようね(と書いた時点でもう油断している自分がいる).

—— ついでに:来年(2008年)の〈Hennig XXVII〉開催地は,Pablo Goloboff 会長の“TNT要塞”がある,南米の San Miguel de Tucumán だ.アルヘンティーナ!

◇午前のこまごま —— 午前10時半から1時間弱の領域会議.年度末に襲来する“会議津波”の数々.管理職はこういう大波小波を泳ぎきらないといけないらしい(ご苦労さんです).それとともに,非管理職な「下々」にも何やらかんやらの「締切」が降ってくるのだ.※火山灰とか,火山弾とか,火砕流とか……(汗).

◇生物地理学会大会〈進化と系譜〉シンポジウムも動いている —— 昨夜の細馬さんの要旨到着に続き,朝には中村さんから,そして晴天の昼休みには田中さんからも要旨が次々に届く.まだ書いてない人,それはワタシ…….シンポジウム・サイトをつくりつつ,自分の文面もアタマの中では書いてはいるのだが…….

◇午後2時頃に,南部くんご来室.どーもです.夕方まで3時間あまり懇談した.遠くまでありがとうございました.4月から新たに頑張ってください.

◇夜のこまごま —— ひたすら生物地理学会シンポの要旨書きとサイトづくり.まず要旨を書き上げて,午後10時過ぎにサイトも完成したので公開する:

日本生物地理学会第62回年次大会シンポジウム
〈進化と系譜:ツリー,ネットワーク,視覚言語リテラシー〉
【日時】2006年4月8日(日)13:00〜15:30
【場所】立教大学 池袋キャンパス
【演者・演題】
  • 13:00 - 13:30:三中信宏(農環研/東大・院・農生)
     「ツリーとネットワーク:系図言語とそのリテラシー」
  • 13:30 - 14:00:中村雄祐(東大・院・人文社会・言語動態)
     「現代世界における「リテラシー」と生存」
  • 14:00 - 14:30:細馬宏通(滋賀県立大・人間文化)
     「絵の宛先の革命 — 郵便改革と絵はがきの登場 — 」
  • 14:30 - 15:00:田中 純(東大・院・総合文化・超域文化科学)
     「イメージの/イメージによる系譜学:人文学の図像的転回をめぐって」
  • 15:00 - 15:30:総合討論
 ※このシンポジウムは非学会員でも参加できます

—— 上記サイトを学会ならびにシンポ関係者に通知した.メーリングリストなどへの広報も完了.

◇ここまで徹底的にやるとは!の系譜図像史本 —— Hermann Schadt『Die Darstellungen der Arbores Consanguinitatis und der Arbores Affinitates : Bildschemata in juristischen Handschriften』 (1982年刊行,Verlag Ernst Wasmuth, Tübingen, ISBN:3-8030-4006-X→目次).本文410pp.+図版88ページ(計171葉).この500ページ近い分量の本はすべて歴史的家系図の解読に当てられている.中世から近世にいたるおよそ千年に及ぶ期間にわたって描き続けられてきた,家系図の“Schema”あるいは“Stemma”の図像としての特徴を古写本から蒐集されたおびただしい家系図の実例をタイプ分けした上で,系譜関係の描写方法の変遷をたどる.この仕事,ただごとではない.著者自身,「Die Schwierigkeiten der Arbeit waren sehr groß.」(S. 11)と序文で言っているほどだ.

◇明日の午後は東京へプチ外出だ.それまでに翻訳作業を進めておかないと.

◇本日の総歩数=2556歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.8kg/+0.9%.


6 maart 2007(火) ※ 雨があがって大量花粉がまた戻ってきた

◇午前4時10分起床.昨夜の荒れた天気の余波がまだ残っているのか,曇りときどき小雨がぱらぱらと.気温10.8度のぬるい暖かさ.

◇朝の雑用一掃こまごま —— 今月末までの細かな出張と年休の届けをひっくるめて出した./ 来年度のフレックスタイムの届け出を出せとの依頼./ その他,年度末をはさむ時期に設定されているさまざまな“締切日”をカレンダーにずらっと書き出してみる.※うわ……(引く).

◇今年の Hennig は —— うっかり忘れていた Hennig Society の今年の membership の更新をすませ,ニューオーリンズで開催される今年の年次大会〈Hennig XXVI〉の情報を確認する.大会サイトはまだ開かれていないが,early registration だけは締切日がしっかり設定されているので,事前登録を忘れないようにしないと.

〈Linné 2007:リンネと自然の体系への夢〉 —— カール・フォン・リンネ生誕300年記念講演会として,4月14日(土)に国立科学博物館(上野)で開催される(10:00〜16:20).スウェーデン大使館の後援によるこのイベントには,リンネの祖国からも数人の講演者が来日するそうだ.そのひとり「ビルギッタ・ブレーメル」博士は,Bremer support index を提唱した Kare Bremer 博士の奥さんじゃなかったかな.

 この講演会では,ドキュメンタリー映画〈リンネの足跡〉が上映されるとのこと.どんな映画なんだろう?  もう少したどってみると,スウェーデンでは,この映画製作も含め,今年になってリンネ生誕300年記念企画〈Linnéjubileet 2007〉が大きく展開されているらしい.

◇雲間から太陽がのぞき始めた昼休み.気温13.8度.昨日よりは格段に涼しい.花粉浴の歩き読み —— レヴ・グロスマン(三川基好訳)『コーデックス』(2006年3月29日刊行,ソニー・マガジンズ,ISBN:4-7897-2833-1)読了.エンディングまでは読むまでもなかったな.途中の bibliomania な部分だけで十分だった.

◇午後のこまごま —— 東京農大の謝恩会への出席返事./ 来年度の非常勤職員の雇用届けを出す.年度末にはこういう仕事がたくさん湧いて出てくる./ 業績評価WGの第6回ミーティングは3月13日(火)15:30〜,第一会議室にて.

◇夕焼けとともに,気温低下中.夜になって寒くなってきた.所用でふらふらと付近徘徊.夜歩く.

◇耳寄り情報 —— bk1の〈ジャンル別新刊一覧〉:先月以降,新刊のリストが週ごとにまとめられて公開されている.過去ログも閲覧可能.かつての〈TRC週刊新刊リスト〉に相当するもので,これからの和書新刊の探索に役立つにちがいない.

 〈TRCリスト〉が配信されなくなってからというもの,和書の探索は力技で方々の情報源からとってくるしかなかった.網羅性という点で欠陥があることはあきらかだった.今回,このようなサービスを利用できるようになって,一言「bk1えらい!」と言いたい(拍手).

◇夜遅く,細馬さんから講演要旨が届いた.シンポジウム関係者に通知.明日には自分の要旨も書かないといけないぞ.

◇本日の総歩数=10388歩[うち「しっかり歩数」=7758歩/68分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.1kg/−0.3%.


5 maart 2007(月) ※ 兇暴な南風に向こうまで吹き流される

◇午前4時40分起床.朧月夜.気温10.4度.しだいに雲が厚くなってきた.

◇朝イチのこまごま —— 夜中に届いていた南保修論の英文要旨を添削と加筆を始める./ 海游舎へ翻訳原稿を郵送完了./ メーリングリスト管理作業を少し.

◇リリース情報と備忘メモ —— 形態測定ソフトウェア 〈Morphologika2〉 が昨年9月に公開されていた(version 2.3.1).それと合わせて:P. O'Higgins and N. Jones『Tools for Statistical Shape Analysis』(2006年刊行,Hull York Medical School,ISBN不明)という出版物が出ているらしいが,ブツを手にしていないので,正体は不明だ.

◇午前のこまごま —— 南保修論の英文アブストラクトの手直しは昼前に完了した./ 東京農大・昆研の卒業生謝恩会は,春分の日の3月21日(水)夕方から,厚木にて.参加予定.

◇昼休み.曇って,強い南風が吹いてきた.気温は18.7度.高過ぎる.風にはためくページたち —— レヴ・グロスマン(三川基好訳)『コーデックス』(2006年3月29日刊行,ソニー・マガジンズ,ISBN:4-7897-2833-1)の第20章まで.60ページほど.

◇視覚伝達論の本 —— ブルーノ・ムナーリ(萱野有美訳)『デザインとヴィジュアル・コミュニケーション』(2006年11月24日刊行,みすず書房,ISBN:4-622-07210-6→目次).原書の出版は「1968年」なので,書かれてからもう40年にもなるのだが,タイトルに惹かれてつい…….きっとどこかで関係してくるにちがいない(と思う).

◇16時を過ぎて,南からの強風とともに雨が本格的に降り始めた.気温18.1度.いよいよ低気圧の本体が接近してきたようだ.

◇昼下がりのこまごま —— 南保くんの修論は大詰め.コンテンツのチェックがほぼ終わったので,あと残る作業は製本にまわすプリントアウトだけか./ 今年度の業績報告と成果ファイルを早々と作ってしまい,メールで提出した(17時)./ 急襲される日時は3月7日(水)の午後になる予定.『中世思想原典集成』で防壁を築かないとだめでしょうか? 『ダーウィン全集』の防波堤の方がいいですか? マイア兇器本を次々に投げつけるというやけくそもあり? ※ご来室,歓迎いたします.

◇夕方,帰宅途中からすでに風の吹き方と雨の降り方が不穏だったが,夜8時頃からは猛烈な南風と横殴りの雨になった.びょーびょーという風の音.2時間ほど吹き荒れて,やっとおさまった.明日は回復に向かうだろう.

◇今月は遠出はないものの,近場への細かい外出がいくつかある.出張届と年休届をまとめて出しておくことにしよう.

◇本日の総歩数=8546歩[うち「しっかり歩数」=4524歩/40分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.1kg/−0.3%.


4 maart 2007(日) ※ 春めく日曜は“花粉苦界”に沈みゆく

◇午前3時半にふと目覚め,「まだいいか」と二度寝したのが運の尽き,午前7時前まで大寝過ごししてしまった.何たることか.1日が短くなってしまった.

 薄曇り.朝から気温がとても高い.日中,この調子でさらに暖かくなれば,外はまちがいなく“花粉苦界”と化すにちがいない.「鼻探知機」はすでに警戒域をはいったことを報知している.

◇朝の苦役,それは翻訳 —— シロアリ塚の自己組織化的建設のモデリングを論じた第18章はあと1ページ強でケリがつく.登攀スケジュール(→目次)でいえば,8合目まではどうにかこうにか到達したことになるだろう(原書で全500ページ中,400ページまで完了).どこかでしばし“ビバーク”したいところだが,いま立ち止まると永遠にビバークし続けそうな気がするので,休むことなくとぼとぼと登っていくしかない.

—— 今日は“花粉苦界”と“翻訳苦界”のダブルパンチだ.※それでも,平日の“雑用苦界”がないだけマシかも.

◇生物地理学会関連のこまごま —— シンポジウム講演予定者に要旨執筆の依頼.3月8日(木)が締切です.>講演者諸氏./ シンポジウム・サイトのhtml書きが続く.せめて,演題と要旨が集まらないことには公開できないよねえ.

◇昼前にちょっとだけ外出したが,いけませんね.このぽかぽか陽気は.風もなく,明るい日射しがさんさんと.遠景は春霞にぼやける筑波山.どうしようもない天気ですね.“症状”が悪化しないうちに,さっさと家に舞い戻り,引き蘢りはなお続く.昼飯は,ありあわせの納豆炒飯.

◇午後は再び“翻訳苦界”に沈み込む.夕方4時,やっと第18章が終わった(最後のページの「オーヴァーハング」で滑落しそうになった).※できた分は明日郵送します.

—— 続く第19章はカリバチ類の巣作り.21ページもある…….

◇ちょいと横道 —— Christiane Klapisch-Zuber 『L'arbre des familles』(2003年刊行,Éditions de la Martinière,ISBN:2-7324-2825-6→目次)の続き.8世紀頃は,系譜関係の図的表現形式がまだ流動的で,「人型」だったり「唐草」だったりした.しかし,12世紀も末期になると,家系図といえば「樹」を指すまでになった:

Presque aussi rares, vers la fin du XIIe siècle les premières transcriptions d'une généalogie réelle par un arbre plus ou moins stylisé, mais doté d'un tronc et de racines et planté en terre, ce qui en faisait indéniablement un arbre. [……] L'image frappe par la cohérence du dessein et l'équilibre de la structure. Elle tire un bon parti de la méaphore latente de l'arbre.(p. 64)

図形言語としての「樹」がようやく定着するようになったということだ.しかし,「樹」の広まりとともに,現実世界(あるいは宗教世界)の系譜関係の表現手段にとどまらず,より象徴的な意味づけが与えられるようになったとも指摘する:

Le XIIe siècle a enfanté une forêt d'arbres symboliques. Arbres des vices et des vertus, arbres bon et mauvais, arbre fécond et arbre sec, arbres permettant de classer et de hiérarchiser des concepts et des connaissances, ou de représenter un développement historique ou spirituel, una communauté de chair ou d'esprit; l'arbre est partout, et il est peu de champs de la réflexion ou de la foi qui échappent à son emprise. À cette époque, la métaphore de l'arbre s'est enrichie de significations multiples qui à leur tour ont envahi les domaines les plus divers de la pensée. (p. 68)

当時流行したそのような象徴的系図の一例として,著者はフィオーレのヨアヒムの歴史系図を挙げている(p. 72).

◇明日は低気圧と前線の通過で天気は荒れ含みらしい.

◇本日の総歩数=4857歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.4kg/−1.2%.


3 maart 2007(土) ※ おひな祭りの週末はほっと一息つく

◇午前5時起床.曇り.冷え込みあまりなし.

◇今日は“魔王”のように背後から追いかけてくる仕事がないので(やや遠くから追いかけてくる仕事はいくつもあるが),ややゆったりしてみる.外は晴れときどき曇りのぼやけた天気.

◇演者・演題が集まったところで,生物地理学会大会シンポのページづくりを進める.でも,まだコンテンツ(要旨)が乏しいので公開できず.とりあえず,自分でできるところだけをちくちくと縫い進める.

◇しかし,早々にくじけて,つい寄り道に耽ってしまう —— Christiane Klapisch-Zuber 『L'arbre des familles』(2003年刊行,Éditions de la Martinière,ISBN:2-7324-2825-6→目次)の続き.系譜表現の“tableau”から“arbre”への移行について.10世紀前後の「過渡期」のヨーロッパ中世には,「樹」と「表」が微妙に入り混じったハイブリッド的表現形式があったらしい.当時すでに広まっていた「唐草模様(rinceau)」を改変して,系譜を書き込むのに最初に用いたのは,イタリア・ルネサンス黎明期の Florentin Boccace であると著者は言う:

Sans encore représenter un arbre entir, Boccace inscrivit du moins les noms d'une généalogie dans forme végétale lorsque, pour ses Généalogie des dieux des païens (après 1350), il traça de sa main les « arbres » des descendences divines. [……] Les rameaux secondaires, où s'intercalent des médaillons hérités de la généalogie traditionelle, s'enroulent sur eux-mêmes jusqu'aux feuilles terminales dont chacune porte le nom d'un dieu particulier.(p. 58)

先行する「tableau」の構成要素を「arbre」パーツにそれぞれ割り当てていったということだ.

しかし,唐草模様のヴァリアントとしての家系樹よりも古いのは,stemmata 直系の子孫に見られる.「arbre de consanguinité」と称される9世紀以降に出現した形式は,祖先に当たる「tableau de consanguinité」がそのまま「樹化」したものとみなせる:

Le rinceau appelle le tronc et le tronc la racine. [……] Au VIIe siècle encore, Isidore de Séville, dans ses Étymologies, evoque par l'expression « petits rameaux » (ramusculi) les lignes (stemmata) tracées par les hommes de loi, à partir des tableaux de consanguinité, pour clarifier les liens entre gens apparentés. [……] À l'époque carolingienne seulement, les premiers schémas de consanguinité se déguisent en arbres, à peu près au moment où d'autres dessinateurs inventent la figure humaines de présentation.(p. 60)

「表が樹の格好をする(Le tableau déguisé en arbre)」(p. 60)と著者は表現しているが,現代にも伝わる家系図のスタイルの起源はここにあるのかもしれない.

◇曇った夕方,ちょっとだけ歩いて,また引き蘢り.ひな祭りは鮨喰いねえ(喰い過ぎ……).その後,大会シンポサイトづくりと並行して,翻訳作業に入る.日が変わる頃にやっと3ページ進む.

◇本日の総歩数=4622歩[うち「しっかり歩数」=3419歩/31分].全コース×|×.朝△|昼○|夜△.前回比=−0.3kg/+1.2%.


2 maart 2007(金) ※ 急転直下,生物地理学会大会シンポの確定

◇午前4時半起床.晴れときどき曇り.気温マイナス1.9度.鼻具合はきょうもよろしくない.朝イチで歯科定期検診に行ってぎゅっと絞られてから出勤.

◇Wikipedia 系譜の可視化ツール〈History Flow〉について —— 昨晩,InterCommunication の特集を読んでいたら,IBMが数年前に〈Wikipedia〉の項目文字シーケンスの系譜(編集史)を可視化する〈History Flow〉というソフトウェアを開発していたことを知った.これって,分子配列データの系譜にもほとんどそのまま使えるよね.※公開されているソフトウェアではないみたいだが.

◇昼前のこまごま —— アジビラを講演予定者にばばっと撒く./ PAUP* に関する質問メール.しかし,添付された NEXUS データファイルがきちんと編集されていないらしく,読み込めず.再度,問い合わせる必要あり./ 業績報告書やら業績リストやらの締切が1週間後に迫ってきた.

◇昼休み.気温10.3度.曇りからしだいに晴れてきた.花粉の海を歩き読み —— レヴ・グロスマン(三川基好訳)『コーデックス』(2006年3月29日刊行,ソニー・マガジンズ,ISBN:4-7897-2833-1)の第17章まで.80ページあまり.

◇午後のこまごま —— 南保くんの修論指導.追い込みだっ./ 生物地理学会役員に大会シンポジウム演者が確定したことを連絡する.

◇今年の生物地理学会大会のシンポジウム —— ウェブサイトをつくりはじめた.まだコンテンツがそろっていないのだが,演者はすでに確定しており,演題についても夜までに少なくとも仮題だけはすべてそろった:

日本生物地理学会第62回大会シンポジウム
進化と系譜:ツリー,ネットワーク,視覚言語リテラシー
(オーガナイザー・司会:三中信宏)
【日時・場所】2007年4月8日(日),13:00〜15:30,立教大学(池袋)

  1. 三中信宏(農環研/東大・院・農生) 13:00 - 13:30
     「ツリーとネットワーク:系図言語とそのリテラシー」
  2. 中村雄祐(東大・院・人文社会・言語動態) 13:30 - 14:00
     「〈リテラシー〉と生存:途上国の貧困対策の事例から[仮]」
  3. 細馬宏通(滋賀県立大・人間文化) 14:00 - 14:30
     「漏らされる絵:絵はがきと宛先の系譜[仮]」
  4. 田中 純(東大・院・総合文化・超域文化科学) 14:30 - 15:00
     「進化と系譜のイメージ論:人文科学における形態学的方法をめぐって[仮]」
  5. 総合討論 15:00 - 15:30

あとは,早急に演題を確定してもらって,その後で講演要旨をいただくという段取りだ.これらのコンテンツがある程度そろった時点で,シンポ・サイトを公開しよう.

◇夜のこまごま —— 生物地理学会役員に大会シンポジウムの演題がそろったことを連絡し,あわせてシンポジウム講演者にもその旨連絡をした.

—— 今日のお仕事はこれにておしまい.

◇またも現実逃避 —— 「フィオーレのヨアヒム」の図像世界に関する論文集:Alexander Patschovsky (Hrsg.)『Die Bildwelt der Diagramme Joachims von Fiore : Zur Medialität religiös-politischer Programme im Mittelalter』(2003年12月刊行,Thorbecke Verlag,ISBN:3799501304 = ISBN:9783799501309→版元ページ編者サイト).どーしてこんな論文集が出ていたりするんだろう.彩色図版が180枚も載っているそうだ(うずうず).寄稿者については詳細不明だが,おそらく2000年に Konstanz で開催された同名の国際会議を踏まえて編まれた論文集なのだろう.→プログラム(pdf).

—— さんざん探してもお隠れになってなかなか見つからない本もあるかと思えば,頼んでもいないのに(?)あちらさんから「読みなさい」と目の前に転がり出てくる本もある.これもきっと縁なので,素直に従った方がいい.

◇本日の総歩数=10051歩[うち「しっかり歩数」=4764歩/42分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.2kg/−0.1%.


1 maart 2007(木) ※ 弥生の始まりはくしゃみが止まらず

◇午前4時45分起床.晴れ.気温マイナス3.3度.ここ数日,日中と明け方の温度差が大き過ぎる.

◇公開しました —— 農環研広報誌『農業と環境,No. 83』(2007年3月1日オンライン公開).系統学的多様性(PD)に関するぼくの解説記事「論文の紹介: 生物多様性を進化系統学的な尺度で測る」も掲載されています.「紙」版もほどなく刊行されるでしょう.

◇着便しました —— 『季刊 InterCommunication, No. 60:Spring 2007号』(2007年2月27日刊行,NTT出版→目次)がタイミングよく届いた.特集〈デザイン/サイエンス:芸術と科学のインターフェイス〉をざっとブラウズ.こういう系の雑誌(『現代思想』とか『ユリイカ』とか)は,フォントがとても小さいので目が鍛えられるが,クレームがついたりはしないのだろうか.もうひとつ,『InterCommunication』は号によって本の造りの変異が大きいのだが,意図的にそうしているのだろうか.以上,疑問ふたつ.

◇午前いっぱいは翻訳あるのみ.正午までにさらに7ページ仕上げた.12時40分に TX つくば駅改札にて海游舎の本間さんにできた分12ページを手渡す.この第18章はあと5ページだ.原書であと百ページあるかないかなので,さくさく進めたい.「百ページも」と思われる向きもあろうが,この本は本文だけで500ページもある.全体の8割までなんとか登攀できたので,個人的には達成感をシズカに噛みしめつつある.

こういう大きな本を翻訳する場合,上の「頂」を見上げるとメゲるので,「足元」だけをしっかり見て訳し進むにかぎる.遠くにある目標地点ではなく,いま歩いているこの地点をいかに進むかだけを考えるべし.心得として.

—— 次回の納税日は,来週金曜日(3月9日)の12時半に JR 新大久保駅改札にて.九段下(理科大)での計量生物学会広報委員会(9:30〜12:00)を終え,百人町(科博分館)での分類連合役員会(13:00〜15:00)への移動途中のブツの受け渡しだ.

◇もらいました(パンフレットだけ) —— Philip S. Corbet著(椿宜高・生方秀紀・上田哲行・東和敬監訳)『トンボ博物学:行動と生態の多様性』(2007年3月刊行予定,海游舎,ISBN:978-4-905930-34-1→版元ページ|紹介ページ).850ページ超で,価格は27,300円(税込)とのこと.今月下旬の松山ではブースにどーんと並ぶそうだ.

◇ぽかぽか日射しの昼下がりはくしゃみが止まらず,鼻はぐすぐす.午後3時の気温は13.0度.もう春だ.

◇窮熊,演者に取り憑く —— 午後5時が過ぎて,夕闇が迫る逢魔が時,“呪文”とともに“式鬼”を各地にコッソリ飛ばした:

○○さま:きたる4月8日(日)の午後1〜3時に立教大学(池袋)にて開催される日本生物地理学会年次大会で,〈進化と系譜:ツリー,ネットワーク,視覚言語リテラシー〉というシンポジウムを企画しています.もしご都合がよろしければ,○○さんにトークをお願いしたいのですが,いかがでしょうか?

シンポジウムのタイトルは“生物っぽく”設定しましたが,私の趣旨としては,個別科学の分野で用いられているさまざまな図形言語(文字,記号,絵画,などの視覚化ツール)を分野横断的に議論する場を設けたいというのがオーガナイザーとしての動機です.たとえば,進化学者が(あるいは他の個別科学の研究者が)日常的に使っているさまざまな図形言語はどのようなコミュニケーションに使われ,読み手はどのようにそれを受容しているのか,今後,そのような図形言語をさらによく使いこなすためには何を考えればいいのか,などの論点が立ち上がってくるでしょう.論議の切り口そのものもいくつかあり得るはずです.私自身は進化学におけるツリーやネットワークの現代的用法の背後で,それらの図形言語が抱えるいくつかの話題を提供しようと思います.他の演者は一両日中に確定する予定ですが,講演時間は質疑を含めて30分の予定です.

突然の依頼で驚かれたかもしれませんが,もしご都合がつくようでしたら,前向きにご一考いただければと思います.ご返事をお待ちしています.

とりいそぎ,用件のみにて失礼いたします.

この“式鬼”を放ってからわずか2時間のうちに,全員から「講演受諾」の返信メールが返ってきた.みなさん,急な依頼にもかかわらず,どうもありがとうございます.そして,“式鬼”くん,よく働いてくれました.

—— というわけで,今年度の日本生物地理学会の第62回年次大会のシンポジウムはばたばたと確定したのだった.4月のシンポを3月に決めていてどーするという声もあるのだけれど,実は昨年の生物学哲学シンポも3月になってからどたばたと演者を決めていたりした.ごめんなさいごめんなさい.※まっとうなオーガナイザーはこんなことをしてはいけません.

◇大役を果たしたので気をよくして,MLの月例アナウンスも遅滞なくさっさとすませてから帰宅.夜,自宅で花粉で鼻がぐすぐすしているところに,生物地理学会会長から電話があり,心配そうに「ところで,シンポの件ですが……」と問い合わせ.実にグッド・タイミングで力強く良い返事ができたことは言うまでもない.※これに味をしめてはいけない.>ぼく.

—— いずれにせよ,明日中にはシンポジウム・サイトをつくって,演題と要旨,その他の資料を公開できるようにしよう.

◇本日の総歩数=5477歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=0.0kg/+0.8%.


--- het eind van dagboek ---