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oude dagboek

日録2006年12月


31 december 2006(日) ※ 穏やかな大晦日に仕事をひとつ

◇午前5時半起床.風もなく晴れる.気温1.2度.研究所にて,自分では書かない年賀状の版下づくりをする.

◇午前10時に〈アンジェブリッサ〉へ予約しておいたおせち料理を取りにいく.正月用の買い出しなど.とくに,ばたばたしたりせず,時間が過ぎていく.

◇午後いっぱい,昨日からつくり続けている〈shapes〉の解説htmlの続きの作業.夕方5時過ぎにすべての画像を貼り終わり,やっと完成:〈Rの形態測定学パッケージ〈shapes〉:「いろは」の「い」〉.夜に公開する予定.

 自分のための備忘メモだが,このパッケージを今後使うだろう潜在的ユーザーにとって参考になれば幸いだ.個人的には,来年冬学期の東大・理・人類学教室での統計学講義の資料として使う予定だ.

◇今日はとても穏やかな大晦日だった.年の終わりはこうあってほしい.

◇本日の総歩数=5653歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜×.前回比=−0.4kg/+0.3%.


30 december 2006(土) ※ 今年一年の読書快楽を総括してみると

◇5時半起床.朝焼け快晴.冷え込んで静電気がばちばち飛ぶ.研究所にてごそごそする早朝.しかし,北風が吹かない分,体感的には昨日より厳しくない.

◇午後,ふと思い立って,〈R〉の形態測定学パッケージ〈shapes〉の解説を書き始めた.信州大学で質問を受けたときに「morphometrics なら R でもできますよ」と答えたのだが,自分自身〈shapes〉パッケージについては名前以外ほとんど知らなかったし,関数についても深入りしたことはなかった.しかし,幾何学的形態測定学のツールの選択肢がいくつもあることは歓迎すべきことだろう.

 〈shapes〉の場合,自分がもっている座標データを読込ませるところが意外に高いハードルになるかもしれない.いくつか試行錯誤しながら,〈shapes〉の関数の使い方とオプション設定についてしだいに慣れてきたので,その過程での備忘メモを記しておくことにする.〈shapes〉の関数の中でも,一般化プロクラステス解析(GPA)のための「procGPA()」がもっともおもしろそうだ.プロクラステス整列だけでなく,ケンドール形状空間に関わるリーマン計量の計算,整列標識点に関する主成分分析,平均形状の算出,重心サイズの計算など,多くの出力項目がある.視覚化のためのツールも豊富にあるようだし.

◇年の瀬の献本(ありがとうございます) —— 金子之史『ネズミの分類学:生物地理学の視点』(2007年12月15日刊行,東京大学出版会[ナチュラル・ヒストリー・シリーズ], ISBN:4-13-060188-1).信州で格闘している間につくばに届いていた新刊.著者の個人史でもある第1章「ネズミ研究への出発」がなかなか魅力的.第5章「生物地理学からの視点」は,日本における生物地理学史を振り返っている.他の章は鼠につぐ鼠また鼠.今の時代に分類学者として生きるということはどういうことなのだろうか.※またも「徳田御稔」の名が…….

◇明日は大晦日.しかし,暦の日付は自分の仕事の流れとは何の関係もないので,とくに総括するようなことはないなあ.昨日のごとく,今日は流れて,明日も変わらず.斉一主義的.※要するに,いつも追いまくられているということなんですけど…….

 しかし,この1年読んだ本については総括しておいた方がいいだろうな.締切がちょい過ぎてしまったが,みすず書房の『月刊みすず』の書評原稿の5冊を考えている.今年は広義の「絵」が共通テーマになる気配だ.

◇本日の総歩数=3533歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.8kg/+0.2%.


29 december 2006(金) ※ 強い北風に切干し大根も宙を舞う冬日

◇午前5時半に目覚め,午前6時までうだうだする.松本“高密度”ライフの蓄積疲労かも.外は冬晴れで,ものすごく冷え込んでいる.ベランダに出る気もしないほど.

◇午前9時過ぎに久しぶりに研究所に向かう.気温4.6度.乾いた北風が強く吹き付ける.出張中の荷物を整理したり,机の上の“火山灰”を処理したり —— 進化学会ニュースの『石川統追悼号』(vol. 7,別冊)が届いていた(12月20日刊行).年内に会員に届けられてよかった./ 東大のパンフレット見本刷りが郵送されていた.ざっと見た感じ,さらに修正すべき点はなさそうだが,年明けに他の連携教員に回覧しよう./ うっかりつくばまで持ち帰ってきてしまった信州大の講師控室の鍵を慌てて返送する.ごめんごめん./ その他,メールをチェックしたりとか.

◇正午の気温は5.3度.猛烈な北風にゆらゆらする.帰宅したら,ベランダで干してあった切干し大根が風にあおられてそこら中にちらばっていた.なんたることか.

◇午後は引き蘢り —— 津原泰水『ブラバン』(2006年10月1日刊行,バジリコ,ISBN:4-86238-027-1)をなんとなく読了.共感しそうな部分もあるが,しだいに筋が逸れていく感じがした.

◇北風吹きすさぶ夕焼け —— 寒過ぎてもう.

◇自ら名乗り出る本 —— ロバート・N・プロクター(宮崎尊訳)『健康帝国ナチス』(2003年9月8日刊行,草思社,ISBN:4-7942-1226-7→目次)を松本駅ビル内の改造社書店でたまたま見つける.きっと載っているにちがいないと推測した通り,Karl Astel の経歴について詳しく書かれていた(初めて肖像写真も見ることができた).ただし,この本では,系図理論家としての Astel ではなく,強硬な「禁煙主義者」としての彼の活動が描かれている.ナチス時代にイェナ大学学長だった彼は,大学内にタバコ撲滅運動のための研究施設まで創ったという.タバコの害を飽くことなく説法し続けた健康主義者 Astel は,他方では精神病患者の処刑を繰り返し当局に働きかけたそうだ.

 あるテーマで調べものをしているとき,関連書を書庫や書店で探す過程でたいてい向こうの方から“自発的”に名乗り出てくる.読んでもらいたいのだろう.逆に,本棚のどこかにいるはずなのに,さんざん掘り返しても出てこない本は「今は読まれたくないのだろう」と納得することにしている.

◇今年も残すところあと二日になってしまったが,エア・ポケットのようにヒマなのはなぜだろう.※もちろん,積み残しタスクはあまたあるのだが,気分的にヒマということ.

◇本日の総歩数=4699歩[うち「しっかり歩数」=1068歩/11分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−2.1kg/−1.1%.


28 december 2006(木) ※ 寒波が襲来する直前に松本を脱出する

◇午前5時に目覚めたものの.1時間ほどごろごろしてしまう.前日の疲れか,それともそれまで“積分”されてきた累積疲労か.小雨混じりの曇り.やはり寒い.外に出ると北風がとても強い.北アルプス方面はすでに雪雲に覆われているようで,稜線が見えない.寒波がやってくる前触れだろう.

◇午前9時半から講義開始.今日は最終日.まずは多変量解析概論.続いて,午後の実習のための計算機統計学(ブーツストラップとジャックナイフ,そして経験的密度関数の構築).いつも,計算機統計学と引っ掛けてノンパラメトリック統計学の思考について噺をするのだが,無作為化とか再抽出という作業は自分で計算してみて初めて理解できることだと思う.あっという間に昼休みに.

◇今日のランチは医学部の別の建物で.白衣の医者や看護士が行き来する裏口から入り,最上階のスカイラウンジ〈ビュー270〉へ.どこの大学でも医学部にはこのような豪華なレストランがあるのか(東大もそうだし).もやがかかっているが,松本市街地のはるか遠くまで見渡せる.

◇午後1時半からはパソコン実習室にて講義再開.午前中の計算機統計学に関する実習をする.午後3時半に大団円.みなさん,たいへんお疲れさまでした.レポート課題は年明けに出します.

◇荷物をまとめ,別便で返送してもらう分を東城さんに預けて,松本駅まで送ってもらう.駅前の茶房〈炉苑〉にてチャイをすすりつつ,翻訳原稿の続き.午後4時を過ぎて,外はもう暗くなってきた.1時間ほどゲラと格闘してから駅に入る.寒いなあ.17時18分発の「あずさ32号」に乗り込み,車中はずーっと原稿と闘う(途中,記憶のない時間もあり).20時08分,新宿駅着.南口改札にて,海游舎の本間さんにできたところまで5ページを手渡して,そのまま秋葉原へ.TX でつくばにたどり着いたのは,午後9時半過ぎだった.

 あ,大学の控室の鍵をポケットに入れたままだった!(郵送にて返却します,はい)

◇車中読書 —— サイモン・ウィンチェスター『世界の果てが砕け散る:サンフランシスコ大地震と地質学の大発展』(柴田裕之訳,2006年12月15日刊行,早川書房,ISBN:4-15-208785-4).第4章まで読了.前作『クラカトア』と同様,大災害の描写はまだまだ先のことだ(第9章までおあずけ).

◇年の瀬にすっかり「灰」になりました…….

◇本日の総歩数=7640歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜○.前回比=未計測/未計測.


27 december 2006(水) ※ 昼は講義,夜はトゥーランドット宴会

◇午前5時半起床.前夜の雨はもうあがっているようだ.しかし,まだ雲は残ったまま.風呂に入ってから,今日夕方のセミナーのスライドを仕上げる.110枚ほど.

◇午後9時半から講義開始.今日は,分散分析の計算過程について説明し,その後,一般化線形モデルへの拡張を解説し,合わせて多重比較の考え方と R を用いたデモ.ここまでが午前の部.講義すべき内容がたくさんあるので,あっという間に時間が過ぎる.

◇「多重比較」についての質問 —— 処理平均の多重比較をする際に検定の危険率がなぜアップするのかという点についてほぼ同じ質問が複数出た.ある実験をしたときに,処理平均間のある比較 Ci(i = 1, 2, ……, n)の検定で第1種過誤(=α)を起こすという事象を Ei とあらわす.このとき,計n回実施される Ci のt検定のいずれかが第1種過誤を起こす確率については,ボンフェローニ不等式:Pr(∪Ei) ≤ ∑Pr(Ei) = n・α がつねに成立する.各事象が互いに排反的であれば,この確率は上限値 n・α と一致する.たとえば多重比較に関するボンフェローニ補正では,補正を施さない場合の合計危険率の上限が n・α になることに注目して,各比較の危険率をあらかじめ α/n と設定することにより,たとえn回の多重比較を行なったとしても危険率の「総量規制」ができるとする.

 ポイントは,ある実験に伴う多重比較の集合である「ファミリー」についてまず理解した上で,その合計危険率(ファミリー危険率)の上昇をどのように抑制するかという問題に取り組まないといけない.複数の検定を繰り返したからといって,それが即「〜補正」のターゲットになるわけではない.それらが同じ「ファミリー」に属していなければ,多重比較や多重検定の補正をする理由はもともとない —— ということです.>質問された学生さん.

◇昼ご飯は,隣接する医学部の地下にある食堂へ.白衣が干してあったり,ストレッチャーが待機する裏口から入り込み,地下の食堂「けやき」へ.ここには〈古ばやし〉という松本では有名な蕎麦屋が入っているそうだ.さっそくもりそばを注文する.

◇午後1時半からパソコン実習室にて講義再開.分散分析の実習を一通りする.午後3時半まで.小雨が降ったり止んだりして肌寒い.

◇午後4時から,再びピンク色の第一教室にて学科セミナー:三中信宏「進化学と系統学の現代史:研究者ネットワークと越境的学問構築」.内容は,札幌での科学哲学会トークといつもの系統学講義の一部分を合体させたようなもの.

◇セミナー後,教室のひとつを借りて懇親会会場のセッティング.アルコール類が次々に運ばれてきた.オードブルやメインの大皿も.午後6時半過ぎにパーティ開始.料理は大学近くにある〈マルク〉というテイクアウト専門の店から買ってきたそうだがとてもうまかったっす.ビールから,ワインへ,そして日本酒と焼酎へと定向的に進んでいく.

 バックでは〈トゥーランドット〉のDVDを流しつつ,『系統樹思考の世界』とのパラレル性について一席ぶつ.しかし,アルコールがまわるとともに,トゥーランドット姫の独唱よりも,カラフ王子の唄声よりも,リューの絶唱よりも,酔声の方が優位になってきた.アナザー・トゥーランドット姫が降臨されたらしい.結局,プッチーニに始まり,次いでサン・サーンス(〈バッカナーレ〉),最後はオルフ(〈カルミナ・ブラーナ〉)へと変身を続け,午後11時過ぎに解散.外は寒いなあ.よろよろと旭会館の部屋にたどりつく.またも即就寝.

◇明日は集中講義最終日だが,そろそろ気力と体力の限界か.方々に巡業高座に出かけるが,一日も欠かさず連日「迎撃パーティ」が続いたのは初めてだ.月曜夜に聞いたところでは,箱崎から来たアナザー TJ 氏はあえなく撃ち落とされたそうだが,本家 TJ 師はどうやら浮沈空母らしい.信州大学に出撃するときは今後は覚悟しよう.

◇本日の総歩数=7828歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=未計測/未計測.


26 december 2006(火) ※ 旭会館での年末サバイバル生活

◇午前5時前に起床.曇り.部屋の暖房は寝る前にあらかじめ消しておいたので,室温は5〜6度にまで下がっていた.起床してすぐに暖房を入れるのだが,部屋のウツワが大きすぎるのか(ダブルベッドが二つもある),送風口の真下しか暖かくならない.前夜,窓際に置いた食料は十分に冷えていた.ぼくが聞いた範囲では,ここ旭会館に宿泊したことのある人は次回からは“辞退”する傾向があるそうだ.ぼくは“リピーター”だけど.旭会館のサバイバル生活はなお続く.

◇明日の夕方に集中講義とは別のセミナーが予定されているので,そのスライドづくりをする.年に何回も高座を勤めていると,こういう飛び入りのお座敷がかかったときにもあわてることはない.しかし,筋書きとイメージ・トレーニングはつねに必要だ.今回は,体系学論争に焦点をしぼり,1970年代の「哲学」論議と1990年代の「統計学」論議をテーマにしよう.

◇雨が降りそうな空模様.旭会館の真向かいにある校舎へ.昨日とはちがう部屋(第1教室)が割り当てられていて,入ってみると座席がピンク色だった.セッティングをして,午前9時半から講義開始.昨日の続きで,分散分析の乱塊法と要因実験について講義した後,午後の実習のための〈R〉の導入.ここで昼休みとなった.小雨が降ってきた.

◇そういえば,前回,松本に来たのは一昨年の2004年暮れだった.今後もこの非常勤講義が続くとしたら,また2年後にくることになる.しかし,最近の国立大学法人の傾向として,非常勤ポストを減らして常勤教員がまかなうというケースが増えているので,ひょっとしたらもう来ない可能性も否定できない.

◇午後1時半から,パソコン実習室に移動して,講義再開.前回来たときは,実習室のバソコンが Windows 2000 だったので,使い勝手がとても悪く閉口した記憶がある.ところが,今回来てみると,実習室の共用パソコンはすべて iMac(G5)になっていた.台数としては見た目ほとんど変わらないものの,すっきりした気がする.日常的には Mac の〈R〉を使っているので,たいへんありがたい.しかし,新しい機種のせいか,マウスは右/左クリックが分かれ,ホイールまで付いている.“Windows 遺伝子”が水平伝播したのか.よもやと思って,拡張子表示オプションを確認してみたら,デフォルトでは「拡張子を表示しない」となっている.悪しき“遺伝子”が発現しているらしい.実習前に,受講生に対して,Mac 環境の設定変更と〈R〉の設定に関するいくつかの事項を伝える.

 まずは,〈R〉でのデータ・ハンドリングについて解説し,基本的なコマンドを用いた計算例を示す.コマンド入力そのものは教材プリントに書かれているので,実習の上ではまったく問題なかったはずだが,むしろ〈R〉の周辺でいろいろとトラブルが発生する.まずは,ぼくのサイトからのデータ・ファイルのダウンロードに際して,ファイル末尾に得体の知れないキャラクターコードが挿入されているとの指摘あり(Rで読込むと末尾に余分なキャラクターが挿入される).エディタで最終行のみ入力し直せば大丈夫かと思ったのだが,今度はRの読込みそのものが弾かれるトラブルが発生.試行錯誤してみた結果,Microsoft Word で読込んで,問題のある箇所をあぶり出して削除すればいいことがわかった.※「毒」をもって「毒」を制すということだ.

 その後,確率密度関数のグラフ描画の実習に移る.確率分布のパラメータを変更することにより,グラフがどのように変わるのかを体験してもらう.まずは見てみよう,ということ.あっという間に,午後4時の終了定刻になった.

◇外は雨が降り続いている.明日の朝食食材を〈Delicia〉桐店へ買い出しに.その後,翻訳に勤しんでみる(……).

◇午後6時半に,東城さんたちとバスにて松本駅前に出る.駅前通りの馬肉料理〈新三よし〉にてまたも宴会.午後10時半まで延々と.外に出たら雨足がさらに強くなっていた.タクシーにてよろよろと帰還.即就寝.※まだ二日目なんですけど…….

◇本日の総歩数=8083歩[うち「しっかり歩数」=2577歩/24分].全コース×|×.朝○|昼△|夜×.前回比=未計測/未計測.


25 december 2006(月) ※ 年の瀬の城下町を徘徊する(松本初日)

◇午前5時前に起床.今日も晴れて冷え込む.

◇午前6時56分の TX 快速に乗る.出勤時間帯なので,守谷を越えたあたりからぎゅうぎゅうに混んできた.秋葉原で吐き出され,そのまま新宿へ.「あずさ7号」は定刻通り8時半に発車した.車内は空いている.帰省も始まっていないこんな平日のこんな時間帯に信州に向かう人はいないのだろう.車内では,サイモン・ウィンチェスター『世界の果てが砕け散る:サンフランシスコ大地震と地質学の大発展』(柴田裕之訳,2006年12月15日刊行,早川書房,ISBN:4-15-208785-4)を読んでみたり,講義のスライドをそろえてみたり.

 松本駅に着いたのは午前11時半.意外にも冷え込みはなく肩すかしを喰らってしまった(せっかくセーターをもってきたのに).駅ビルの〈いいだや〉にて蕎麦をたぐり,ロータリーに迎えにきてもらった東城幸治さんの車で信州大学へ.浅見崇比呂さんはカタツムリを採りにタイに行ってしまったとのこと(カキノタネをお供えした方がいいですか).

◇さっそく講義開始の準備 —— 今日は午後1時半から講義がある.細長い教室でセッティング.学生が集まり始めたが,この入りでは席が足りないんじゃないかな,と思う間もなく,部屋は満杯になり,立ち見まで.70人分用意されたハンドアウトが底をついてしまったので,80人近くは集まったのではないか.満員御礼でございます.

 今日の授業は,噺のみで統計学概論なのだが,いつもは90分で駆け足気味で通り過ぎるところを十分に時間をかけたので,噺手側としては,これがちょうどよいペースだったのではないかと感じた.午後4時ちょうどに終了.

◇城下町を徘徊する夕暮れ —— 講義終了後,宿泊先である旭会館に荷物を置いて,松本市街地へ出撃.冬の落日は足早で,すぐ暗くなってきた.この城下町は,微妙にずれる道筋もさることながら(これは城下町にありがちな道路配置),街灯があまりなく道ゆく人の顔が判別できないほど暗いのが特徴(これも典型的な城下町だからか).街中でも繁華街を外れるとやっぱり暗い.これで提灯でも下がっていたら江戸時代だ.すでに暗い松本城を通り過ぎ,ここだけ明るいパルコあたりまで.女鳥羽川を越えたところにある〈パントリー・マルナカ〉にて明日の朝食用のパンをいくつか買う.逆コースで暗闇の中をとぼとぼ帰還.

◇午後6時半に,院生のみなさんとともに〈嘉肴いさむ〉へ.とても美味でした.魚も日本酒も.「TJ」というコードネームが飛び交っていた気がするが…….旭会館に帰ってきたのは午後11時過ぎのことだった.ありがとうございました.

◇うーん,今日はもう寝るしかないか.※まだ初日なのにスロットル全開だー.

◇本日の総歩数=14449歩[うち「しっかり歩数」=6552歩/59分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=+1.0kg/+1.1%.


24 december 2006(日) ※ クリスマス・イヴはモンドールの封切り

◇午前6時前に起床.冬晴れ.きりっと冷える.

◇合間のよそ見 —— うっかり“猪の巣”に足を踏み込んでしまったかのように,わらわらと“魑魅魍魎”が出てきた.ヘッケルつながりの本:Heinz Brücher『Ernst Haeckels Bluts= und Geistes=Erbe : Eine Kulturbiologische Monographie』(1936年刊行,J. F. Lehmann, München,ISBNなし→目次)の背景について.この本に巻頭言を寄せたチューリンゲン人種制度局長 Karl Astel は実は「かなり中核的な人物」であることが浮かび上がってきた.この人物に比べれば,著者の Heinz Brücher などただのマリオネットみたいにさえ見えてしまう.系図学史の中でももっとも“黒い部分”が見えてくる.

Brücher は,本書全体の方法論的な基盤が,Karl Astel の提唱する血縁探究法にあることを明言する:

今日,系譜生物学的(erbbiologisch)な血縁探究(Sippenforschung)は,もっぱら Karl Astel の提唱する「血縁探究法(Sippeschaftsmethode)」の上に築かれている.Astel こそは,人種生物学的(rassenbiologisch)な家系学(Familienkunde)を構築し,彼のおかげで家系研究はより包括的なレベルに引き上げられたのである.その結果,直系先祖だけが記されていた旧来の先祖表(Ahnentafel)が修正されて,傍系先祖(Seitenverwandten)が底に付け加えられることになった.(S. 12)

Karl Astel の血縁研究は「血縁表(Sippenschaftstafel)」として表示される(S. 13).本書に添付されている,ヘッケル一族の巨大な血縁表は Astel 理論の成果にほかならないということだ.

これだけであれば,かつてのドイツに花開いた血縁研究史のエピソードのひとつに過ぎないのかもしれない.しかし,まったく同じ登場人物たちは別の劇にも顔を出す.当時のドイツの状況を知るために,Anne Harrington『Reenchanted Science : Holism i German Culture From Wilhelm II to Hitler』(1996年刊行,Princeton Univeristy Press,ISBN:0-691-02142-2 [hbk] / ISBN:0-691-05050-8 [pbk]→目次)をひもとくと,次のような記述が見える:

ナチ時代の初期から,科学者たちの中にはナチス党に関わりをもつグループが大きく二つあった.第一のグループは,あるイデオロギーを帯びた科学者集団であり,彼らは全体論的思考に同調しつつ,民族主義的な反ユダヤ主義とアーリア人種至上主義を信奉した.…[中略]… 第二のグループは,よりプラグマティックな医学者の集団であり,彼らはより厳密なメンデル遺伝学,ダーウィニズム,そして人種生物学をもってナチの社会政策や軍事戦略の基盤とすべきであると主張した.この第二のグループの活動を支えていたのは Heinrich Himmler の率いる SS[=ナチス親衛隊]だった.このグループを構成したのは,人類遺伝学者の Karl Astel ,そしてイェナで彼の助手をつとめた Lothar Stengel von Rutkowski,植物学者の Heinz Brücher,そして法学および人種学教授の Falk Ruttke だった.…[中略]… Astel は1935年に Himmler に対して,民族衛生学の大学ポストは SS 構成員が占有すべきであると進言した.1939年にイェナ大学の指導的地位に就いた Astel は,その後,イェナ大学を SS の教育と政策立案のための中心地に変えるべく精力を傾注した.(p. 195)

要するに,とても“大もの”だったわけね,Astel って.ドイツ語版ウィキペディアの「Karl Astel」の項目には詳細な情報が載っていて,Astel は第三帝国が崩壊した1945年に執務室で自殺したと書かれている.一方,「Heinz Brücher」の生涯(1915〜1991)は戦後も長く続いた.しかし,弱冠21歳のときの本書『Ernst Haeckels Bluts= und Geistes=Erbe : Eine Kulturbiologische Monographie』が,結局 Brücher にとっての唯一の著書だったようだ.

[付記]ヨーロッパのいくつかの王家の血統については,従来的な意味での Ahnentafel が描かれてきた.しかし,画家フリーダ・カーロが絵にした自らの家系図も,見直してみれば,一種の Ahnentafel であるように読み取れる.カーロのルーツはヨーロッパ(ハンガリー)なので,この点は何となく納得できる.

◇午後,研究所に出かける.明日からの集中講義の機材一式を持ち帰る.その後,JTBに行って,松本往復の「足」を確保した.つくばセンター近辺はごった返している.その原因の大半は“コートダジュール・クリスマスケーキ渋滞”と“KFC チキン渋滞”だ.

◇さてと,クリスマスの準備をば —— まずはローストビーフ.牛肉の塊にあらかじめ塩胡椒して,たこ糸で縛り上げ,1時間ほど寝かせる.240度で予熱しておいたオーブンに香味野菜とともに肉塊を放り込み,ときどきオイルをまわしかけつつ,約40分で焼き上がり.このオーブンでローストビーフをつくるのは初めてだったせいか,少し火が通り過ぎたかもしれない(次回からは30〜35分にしよう).少しさましてから切り分ける.試食のつもりがついつい…….

さて,夜が近づいてきたので,いよいよモンドールを開封しよう.室温に戻したチーズを開封するのは期待の一瞬というやつで.

一通り食事をし終わった後で,口直しのモンドール.すでに熟成が進んで,芳香とともに食べごろになっている.上の皮を切り開けると,中は濃厚なクリーム色.もちろん味も濃厚.茹でたポテトにつけたり,パン・ド・ノアに塗ったり.快楽快楽.イヴの夜は更けていく.真夜中のヘッケル.明日からは年の瀬の松本巡業が始まる.

◇本日の総歩数=3922歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=+0.3kg/−0.7%.


23 december 2006(土) ※ 本厚木にて高密度な蟲の忘年会

◇午前5時起床.曇り.気温マイナス2.2度.早朝の研究所にて翻訳作業あるのみ.ミツバチに方々刺されつつ牛歩の歩み.この章,まだ終わらず.

◇午前9時10分の TX 快速に乗り込む.北千住で千代田線に.車中もひたすら翻訳原稿と格闘する.代々木上原で小田急に乗り換え,新百合ケ丘で下車.プラットホームのベンチにて10分ほど格闘して,ようやく滑り込みでミツバチの第12章を終わらせる.午前11時,改札にて海游舎の本間さんに原稿を手渡す(7ページ分).

まったく,余裕も何もあったものではない —— ここ数ヶ月翻訳格闘している Scott Camazine et al.『Self-Organization in Biological Systems』(2001年4月1日刊行,Princeton University Press, ISBN:0691012113 [hardcover] / ISBN:0691116245 [paperback]→目次)だが,まだ第14章〜第21章が残っている.年越しの積み残しが出るのはしかたないが,松本の夜にできるだけ進めるようにしたい.

◇そのまま,小田急に乗って,今度は本厚木へ.11時半に到着.今日の本務は,東京農大・昆研の研究発表会&忘年会に出ることだ.駅ビルのミロードにある〈つづらお〉にて蕎麦を喰い,タクシーで農大・厚木キャンパスへ.研究棟2階の形態系実験室が発表会の会場だ.

◇発表会はすでに朝のうちから始まっていて,午前の最後に潜り込んだものの,すぐに昼休みになった.農大の昆虫学研究室は学生・院生の個体数と密度がとても高いので(ふだんいる農環研とは別世界で相転移しそう),研究室に戻ってあれこれ蟲の本を物色する.

◇備忘メモ —— 相原秀基 2006「カンアオイ属(Heterotropa)植物の葉の形態測定法」進化生物研究(進化生物学研究所),12 : 79-92 (30 Nov. 2006 発行).葉形の形状画像をデジタル化する手法についての論文.ざっと見た感じ,とくにフーリエ解析をしているわけでもなさそうだが(流れとしてはその方向なのだろう).〈R〉のプログラムが付いている.

◇午後1時半から発表会の再開.「ムカデ綱ゲジ目ゲジ科オオゲジ属〜」という発表があったり(鳥肌が立つ人もきっといるだろうな).野外サンプリングを計画している学生が何人かいるようだが,サンプリングの方法については出かける前によく検討しておこうね.午後3時半に発表会の予定はすべて終了した.

◇同じ部屋で忘年会のセッティングがあるとのことで,研究室にいったん戻る.岡島さんからいつものように「古代米」と「農大ジャム」をいただく(「もやし」はもらわなかった).修士論文の発表会は来年の2月2日(金)とのこと.

 もともと人口密度の高い研究室なので,たまに行っても安住できるスペースはない.本棚の間をあちこち移動しつつ,邪魔にならないように.

 午後4時半から早くも忘年会の始まり.昆研だけで30人ほどいるのだが,飲んでいるうちにOBが合流したり,誘引されてきた学生が混ざったりして,個体群の人口と人口密度はさらに増大し続ける.こっそり大学院の進学先についての雑談とか.午後7時前に研究室に場所を移す.今度はドイツ箱が方々で開陳されたり,視力検査のような極小ラベルを読んだりする.熱帯魚はもちろん,アルビノのサンショウウオもいれば,トカゲもいたり.当然のごとく,あっちを見ても蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲,こっちを向いても蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲なのはさすが.

 しかし,ここで根を生やしてしまうとつくばに帰れなくなる.午後7時半においとまして,農大を7:40に出る路線バスで本厚木駅へ.逆コースをたどり,つくばに帰り着いたのは午後10時半だった.厚木キャンパスに行くとなると,片道2時間半〜3時間はどうしてもかかってしまう.

◇南保さんの修論原稿は年越しで送ってもらうことにした.〈R〉と〈Mesquite〉の形態測定解析のスクリプトは修論にぜひ入れるようにね.

◇本日の総歩数=9381歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.1kg/+0.1%.


22 december 2006(金) ※ 冬至にあれこれ追い立てられる

◇午前6時前に目覚める.曇り.夜のうちに雨が降ったのか,地面が濡れていた.日が昇っても気温は上がらず.午前10時で8.1度.

◇午前のこまごま —— 南保さんの体調がよくないので,午後のセミナーは急遽中止になった./ 松本行きの足回り.行きの12月25日(月)は「あずさ7号」(新宿 8:30→松本 11:28)で,帰りの12月28日(木)は「あずさ32号」(松本 17:18→新宿 20:08)ということで決定.チケットはこれから取りにいかないと.

◇午後のこまごま —— 昼下がりに電話Q(まりまりからの丸投げ).ダーウィンの自然淘汰説の成立について.「1859年」にいたるまで公表しなかった理由とその典拠の問い合わせ.2009年の生誕200年に合わせて大型企画が進みつつあるらしい./ 夕方,tree-fusing の新しい方法についての打合せ.めっちゃ速くなるか.

◇午後5時に帰る.夜は翻訳あるのみ.午前1時まで.しかし,まだミツバチの章はケリがつかない.

◇年の瀬の新刊たち —— サイモン・ウィンチェスター『世界の果てが砕け散る:サンフランシスコ大地震と地質学の大発展』(柴田裕之訳,2006年12月15日刊行,早川書房,ISBN:4-15-208785-4).ウィンチェスターといえば,前著『クラカトアの大噴火:世界の歴史を動かした火山』や『世界を変えた地図:ウィリアム・スミスと地質学の誕生』のような,著者が専門としている地質学とその科学史の分野でのノンフィクションが光る./ リジー・コリンガム『インドカレー伝』(2006年12月30日刊行,河出書房新社,ISBN:4-309-22457-1)./ 三輪一記・石黒謙吾『ベルギービール大全』(2006年12月29日刊行,アートン,ISBN:4-86193-052-9)

◇明日は,東京農大の厚木キャンパスに行く用事がある.しかし,途中,新百合ケ丘でトラップされて原稿年貢をきっちり搾り取られることになっている.

◇本日の総歩数=3679歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=−0.8kg/+0.6%.


21 december 2006(木) ※ 気がつけばあと10日でもう新年

◇午前4時50分起床.曇り.8時半の気温は6.3度しかない.寒い.

◇速攻で Ziheng Yang 本が届く —— Ziheng Yang『Computational Molecular Evolution』(2006年12月刊行,Oxford University Press[Oxford Series in Ecology and Evolution], ISBN:0-19-856699-9 [hbk] / ISBN:0-19-856702-2 [pbk]→目次).目次をチェックしてみると,Felsenstein本と比べて,テーマを絞り込んだ上で,「系統樹計算」に特化しているような印象を受ける.

◇午前のこまごま —— 今年の年休残日数の処理がまちがっていたらしい.庶務課に訂正してもらう.毎年,次年度への繰り越し年休日数の上限は「20日」なので,年末に余りそうになったら,平日をすべて年休にしてしまう(単に出勤簿に押印しなくてもよい勤務日なのだが).今年はまちがって1日多く年休を取ってしまい,繰り越しは「19日」となってしまった./ 先日メールでゲラpdfを返信したはずの『遺伝』編集部から,pdfのコメントがオープンできないとの電話連絡あり.バージョンがちがうとダメだったりするのかな.ま,コメントを“開いた”「注釈一覧付きpdf」を新たにつくり,再度返送する(今度は大丈夫だったらしい).今後もpdfにコメントを付けて返送する機会がたびたびあるので注意しよう./ 火曜の忘年会は足が出たそうだ(ワインが敗因)./ 講談社に『系統樹思考の世界』50冊を信州大学に送る手配をする.

◇午後のこまごま —— 来週から始まる信州大学集中講義の準備いろいろ:TAさんとの打合せ.パソコンの設定については,パソコン実習室の全機にすでにインストールされている〈R 2.2.1〉をそのまま使うことにする.ハンドアウト類は,すでに〈租界R〉にpdfとして置いてあるものをコピーする手はずを整える.27日には別のセミナーがあるので,参加者に配布する別刷りを松本に郵送する(完了).講義で用いるスライド類は,9月の首都大学東京と11月の統計研修で使用したものがそのまま使えるので,さらなる準備はいっさい不要だ(らくちん).持参する参考書はどれがいいだろうか.

◇午前は晴れていたのに,昼下がりになって雲が多くなってきた.午後2時の気温は10.2度.歩き読み少し:清水徹『書物について:その形而下学と形而上学』(2001年7月25日刊行,岩波書店,ISBN:4-00-023359-9)をさらに50ページほど.フランスのかつての「書痴」たちのエピソードが綴られる.

◇東大の専攻紹介パンフレットの改訂 —— 連携教員からの修正素材ファイルがそろったので,またまた InDesign でのレイアウト編集作業をちくちくと進める.2時間ほどでおしまい.関係者にレイアウトpdfと素材ファイル群をメールでどかっと送りつけて,この件は完了した.年明けに,再校ゲラが届くので,それまでは忘れていられる.

◇信州大学集中講義関連 —— 講義で使うハンドアウト類を〈租界R〉にpdfとして置いた.これらをコピーする手はずを整える./ 松本での宿泊先は信州大学構内の旭会館で確定しているからいいとして,松本に向かう「足」をそろそろ確保しないといけないな.また,〈あずさ〉だ.

◇さらなるこまごま —— 計量生物学会関連:メーリングリスト(JBS)運営について,やりとりいくつか.基本的には,学会事務局に任せてしまうというのがいいんだけど.個人で運営するメーリングリストとはちがって,学会のメーリングリストの運営を委託されると,それなりに公的な雰囲気が漂うのでやはり窮屈な気がする./ 雑誌『計量生物学』の特集号への寄稿を受諾する.※自分の首を自分で締めている気がしないでもないが…….

◇午後4時半にさらりと帰宅してしまう.明日からは形式的年休なので,今年は年末の仕事納めまでもう出勤簿にハンコを押す必要はない.

◇今年も残すところ10日となった.年内の残務整理をする間もなく,新たな堆積物やら火山灰が絶え間なく降り注いでいる.スカイフックや奇策はもとよりないので,ふだんと同じペースで着々とこなしていくしかないだろう.残るは集中講義とドロヌマ翻訳か…….いやいや,それだけではないぞ.う゛.件数をカウントするの止めておこう.上を見上げるのではなく,まずは足もとを.

◇本日の総歩数=4929歩[うち「しっかり歩数」=2963歩/26分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.7kg/+0.6%.


20 december 2006(水) ※ 師走の本郷“独房”生活アゲイン

◇午前5時半起床.曇りのち晴れ.今日は東京でたくさんの用事がある.

◇午前10時11分の TX 快速で根津に.曇り.本郷の〈ルオー〉に向かう.イチョウはほぼ散り落ちているようだ.東大の正門前交差点で,ほぼ20年ぶりくらいに平木敬さん(46Vn)とすれちがう(ヒトの顔識別能力はすごいなあ).東大オケに入団してすぐの定期演奏会のサブだったコダーイ・ゾルタンの〈ハーリヤーノシュ〉でシロフォンを担当したのが平木さん,その曲でのぼくはグロッケンシュピール.なぜ本職は「Vn」なのに「Perc」にまわってきたのか,その仔細は不明.確か物理学専攻だったはずの平木さんが,なぜいまは超並列計算アーキテクチャの研究室を運営しているのかも不明.“顔”は識別できても,“歴史”は識別できない.

◇〈ルオー〉でのゲラ格闘が小一時間続く.午前11時半に講談社『本』誌の上田編集長が到着.続いて,川治さんも到着.来年から始まる予定の『本』の連載記事についての打合せ.毎月16,000バイトのテキストを12〜15回連載とのこと.来年5月から(毎月20日締切).生物学史・体系学・古書・個人史あたりがキーワードか.正午に店を出る.

◇〈カヤシマ〉でパンを買って,そのまま弥生キャンパスの隠れ家へ直行.また1時間ほどゲラと格闘する.

◇午後1時から3時半までは,農学部7号館にて専攻教員会議.そのあと,1号館の生物測定学教室に立ち寄る.農学部の大掃除日の今日は夕方6時から生測の忘年会があるのだが,参加できるほどの体力はさすがに残っていないだろう.

◇午後4時前に,再び〈ルオー〉に戻り,今度は2階の“独房”に自主的に軟禁される.がりがりとゲラに朱をいれるのだが,ミツバチの第12章はことのほか「×」が多く,オモテの余白だけでは足りなくなって,ウラにまで書き足すはめに.これはもう頭脳労働ではなく,肉体労働だ.午後5時に海游舎の本間さんが到着したときには,まだ2ページ分しかできていなかった.さらに1時間ほど,逃げ場のない“独房”にて準監禁状態のままさらに1ページ分の訳し直しをする.午後6時前に解放される.次回の年貢は,23日(土)に小田急・新百合ケ丘駅の改札にて手渡す予定.

軟禁生活の途中,“独房”の外のテーブルに大人数の集団が入ってきた.「保全生物学が〜」とか「マグロの漁獲が〜」というキーワードが“独房”にも聞こえてきた.その中に記憶のある声が混じっているなあと思ったら,横浜国大の松田裕之くんが座っているじゃない.あらま,奇遇ですな.東大文学部の哲学で定期的に行なっている松田講義の後の流れだそうだ.鬼頭秀一さんの顔も見える.

◇足取りもおぼつかなく,根津の坂をよろよろと下りて,帰路につく.午後7時過ぎにつくばに帰還.

◇車中読書 —— 瀬名秀明・橋本敬・梅田聡『境界知のダイナミズム』(2006年12月15日刊行,岩波書店[フォーラム 共通知をひらく], ISBN:4-00-026344-7→目次).献本していただきました(感謝).3人の「共著」ではあるのだが,全270ページのうち,200ページを瀬名さんが書いている.「境界知」という耳慣れないことばが核になっている.暗黙的な“カテゴリー化”の問題が方々で登場する.

◇本日の総歩数=10387歩[うち「しっかり歩数」=2006歩/25分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+2.0kg/−0.8%.


19 december 2006(火) ※ 年は忘れても事は忘れられない

◇午前4時40分起床.曇り.気温3.3度.寝不足状態はまだ完全には解消されていない.

◇午前のこまごま —— 年休消化のため今年の残る平日をすべて年休にしてしまう.「すべて」とはいっても,21日(木)と22日(金)の二日だけだ.それ以外は出張あるのみ./ 他人が書くわが履歴書:北大の秋元さんから,「非常勤出講用の履歴書を書きましたので押印返送よろしく」とのこと.ぼくのサイトで公開している履歴情報だけでほぼ十分だったそうだ.なーるほど,これからは自分ではなく,だれかがわが履歴書を書いてくれるととてもラクだ.ついでに,業績報告書もだれかに書いてもらったりして./ 今夜の忘年会の会費をあわてて払う./農林水産研究情報センターのアンケートに答える.

◇午前10時だというのに気温は全然上がらず,4.9度.今日は寒い.

◇方向統計学と形態測定学 —— 〈Leeds Annual Statistical Research Workshops〉.イギリスの Leeds 大学で毎年開催されている統計学ワークショップ.今年(2006年)はその25回目だという.プロシーディングズはpdfでオンライン公開されている(→サイト).主宰者である Kanti V. Mardia 教授の関心分野を反映して,数理統計学の中でも,方向統計学・形態測定学・画像解析・空間統計学・統計学的バイオインフォマティクスに重点が置かれている.

 情報をもうひとつ.Kanti V. Mardia『Statistics of Directional Data』(1972年刊行,Academic Press[Probability and Mathematical Statistics], ISBN:0-12-471150-2→目次).方向統計学(directional statistics)の古典.2000年に改訂版:Kanti V. Mardia & Peter E. Jupp『Directional Statistics』(2000年1月刊行,John Wiley & Sons,ISBN:0-471-95333-4→目次)が出ている.この改訂版はどのサイトを見ても「2万円」前後の高値がついている.

◇昼休み.曇りのまま.気温は6.1度までしか上がらず.冬らしい日だ.歩き読み:清水徹『書物について:その形而下学と形而上学』(2001年7月25日刊行,岩波書店,ISBN:4-00-023359-9)を100ページほど.シュレーゲル兄弟やノヴァーリスたちが集った17世紀末「イエナ・ロマン派」についての章(〈書物〉と文学的絶対)がおもしろい.「ロマン主義的」という意味で「romantisch」という形容詞を用いたのはフリードリッヒ・シュレーゲルだそうだ(p. 140).

◇午後1時40分から1時間ほど,〈形態測定学講義〉の第27回目.続く第11章「Partial least squares analysis」(pp. 265-275).PLSの代数的計算方法についての解説から始まる.変数ベクトル Y の分割 Y1|Y2 に対応して,分散共分散行列 R が分割され,Y1 および Y2 それぞれについての分散共分散行列 R1, R2と,Y1とY2 に関する共分散行列 R12 が得られる.PLSとは,この R12 に関する特異値分解である.得られた特異値と特異軸に関しては変数分割に関する無作為化検定により,特異値の有意性を調べることができる書かれている.その後,具体例が挙げられている.PLSが威力を発揮しそうな状況は,たとえば複数の標識点から成る形態的部分(頭部とか尾部のような)がそれ以外の部分に対して,統合的な“まとまり”をもつかどうかを調べる研究がある.特異値が有意になるような形態的部分は“まとまり”があると判定されるのだろう.PLSを発見的に使えば,おもしろいかもしれない.

◇午後のこまごま —— 計量生物学会から,9月の統計連合大会での集会に基づく日本計量生物学会25周年記念特別号への寄稿を依頼される.暫定タイトルは「進化生物学と統計科学:系統樹の推定をめぐって」です./ 昨日の東大パンフ委員会の報告を連携教員に流して,改定に伴う依頼をする.今週金曜までに決着だ.

◇備忘メモ ——モーツアルトのすべての楽譜がフリーでダウンロードできるというロイター通信:「Mozart's entire musical score now free on Internet」.おお,これはすごい!と越中さまから久しぶりにメールがあり,「ダウンロード先を教えなさい」との強圧的命令(ぶつぶつ).はいはい,〈国際モーツアルテウム財団〉の〈Neue Mozart-Ausgabe Online〉でいいのかな.

◇午後6時半から,生態系領域の忘年会.場所は洞峰公園の北にあるドイツ料理の〈エーベルバッハ〉にて.ビールの後,ドイツ・ワインに突入.爽やかなモーゼルとか,ピーロートとか.貸し切りの店内の一角のみ,ワイン消費量が極度に高かったぞ.アイスバインだの,ソーセージだの,ジャーマンポテトだのを大量に摂食する(……).アイスバインの骨まで齧りそうになって止めた.余興で,利きビールもあり:Erdinger Weißbier / Weltenburger Hefe-Weißbier Hell / Weltenburger Hefe-Weißbier Dunkel / Diebels Alt / Köstritzer Schwarzbier

午後9時過ぎに一次会はおしまい.引き続き,近くのそば・うどん工房〈どんぐり〉にて,蕎麦とともに焼酎を少しばかり.午後11時をまわった頃,二次会もおしまい.日が変わる前に帰宅できたのは健康の証し(ほんまか).

◇明日は,またまた東京に出て,こってり絞られる.※ゲラが…….

◇本日の総歩数=11943歩[うち「しっかり歩数」=6491歩/58分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=−0.1kg/+0.5%.


18 december 2006(月) ※ 銀杏舞い散る本郷通りの独房ライフ

◇前夜からの夜なべ仕事はなお続く.

 次なる“とど”はパンフレットの組版.連携大学院の各教員から素材(文章と画像)はすでにいただいているので,それをもとにしてA4版1枚にレイアウトする.InDesign を立ち上げて,あれやこれやと素材ファイルをいじってみる.スペースが決まっているので,とりあえずコンテンツを格納できることを確認しないといけない.午前5時過ぎにやっと納得できるレイアウトを完成した.pdfに出力し,素材ファイルとともに,印刷会社にメールでどかっと送信する.もちろん,実際の編集やレイアウトはすべて業者にまかせるので,その前段階までやっておけばよい.

 これでやっと今日午後のパンフレット作成委員会の準備が終わった.

◇午前5時半にいったん帰宅.気温1.4度.冷え込みが戻ってきたようだ.朝焼けの東空高くに糸のような三日月が残る.

◇午前7時前から9時頃まで仮眠.目覚めれば快晴.東京に行く準備をする.10時48分の TX 区間快速で根津に向かい.本郷通りの〈ルオー〉へ.2階の“独房”が空いていたので,ここでしばらく翻訳原稿のチェックを続けることにする.昔からいわれのある“独房”だが,誰からも何からもインターラプトされないという条件を満たす数少ない場所のひとつだ.午後1時過ぎまでチェックしたところで,海游舎の本間さんが登場.さらに「準カンヅメ」状態での作業が1時間ほど続く.午後2時前に「(たった)4枚」を手渡して,コメツキバッタになりながら弥生方面に逃走する.北風にイチョウが舞い散り,銀杏がなお路上に転がる.本郷通りも東大構内も銀杏の季節はもうおしまいだ.

 次に原稿を手渡すのは明後日の20日(水)の夕方.※しだいに間隔が狭くなってきたのでは?(汗)

◇午後2時から,東大農学部で専攻紹介のパンフレット作成委員会.来年から「農学部第6類」という呼称がなくなり,代わりに「生物・環境工学専修」という名前に変わる.それにともなう文面のさまざまな変更をチェックする.ぼくが未明につくったエコロジカル・セイフティー学講座のページについてもチェックされる.いくつかの修正が必要で,つくばに帰ってから確認しないといけない.午後3時半に終了.※今週中に修正点を業者に連絡する.次回の委員会は2007年1月15日(月),18:00〜.

◇農学部前の高崎屋で,千曲錦〈大吟醸 吉田屋治助〉の今年の新酒が出ていたので一升瓶で買う.土曜の東京農大の忘年会に持参する予定.そういえば,今日は煽られまくりで昼飯をぜんぜん食っていなかった.食慾に負けて,午後4時過ぎというはんぱな時間帯に,湯島の〈デリー〉でコルマカレーを食べてしまった…….その後,JR東京駅に向かい,Oazoの丸善で,filofax のバーティカル・イヤープランナー(2007年用)をやっと手に入れる.ついでに,Rhodia のメモ用紙と,Moleskineの無罫手帳をば(ややミーハー的だ).秋葉原にもどり,17時17分発の TX 区間快速で帰宅.

◇丸善洋書コーナーでの発見 —— Desmond King-Halle (ed.)『The Collected Letters of Erasmus Darwin』(2007年刊行,Cambridge University Press,ISBN:0-521-82156-8 [hbk]).エラスマス・ダーウィンの伝記作家でもあるキング-ハレによる書簡集の出版.700ページもあってずっしりと重い.価格も丸善価格で25,000円ほどもして苦しい.

◇今日は未明から夕方までとても長い1日だった.夜は部分的に「灰」と化す.

◇本日の総歩数=10608歩[うち「しっかり歩数」=1622歩/14分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=+0.3kg/−0.3%.


17 december 2006(日) ※ あおりあおられサンデー夜勤

◇午前5時起床.曇り.ううむ,諸般の進捗がないままもうウィークエンドも過ぎようとしているではないか.あがきと笑われようが,ドロナワと言われようが,今日中には前に進まないといけない.

◇〈境界知〉の新刊 —— 瀬名秀明・橋本敬・梅田聡『境界知のダイナミズム』(2006年12月15日刊行,岩波書店[フォーラム 共通知をひらく], ISBN:4-00-026344-7→目次).まだ現物は手にしていないが,すでに岩波書店のページからは,「編集部メッセージ/著者紹介/詳細目次」へのリンクが張られている.また,著者のひとりである瀬名秀明さんのブログ〈瀬名NEWS〉でも宣伝されている.ぼくの『系統樹思考の世界』への言及があるのは,瀬名さんが書かれた第3章「〈境界知〉の現場を探る」の最後の節だ.

◇午前中は雲が多かったが,午後になって晴れて日射しが暖かくなってきた.

◇大きめの“とど”数頭 —— 明日手渡す翻訳原稿(大汗)/ 東大のパンフレット原稿.仮に組版したものをつくらないといけない./ 分類学会連合の記事(まだでんがな……)./ 『遺伝』のゲラチェックと返送.

 明日の朝までに何頭しとめられるかな(やや不安).

◇届いた本 —— Peter Lipton『Inference to the Best Explanation, Second Edition』(2004年刊行,Routledge[International Library of Philosophy], ISBN:0-415-24202-9 [hbk] / ISBN:0-415-24203-7 [pbk]→目次).初版は1990年刊行.15年の経過は,「ベイズ的アブダクション」の章や Wesley Salmon らとの論争の経緯に反映されているそうだ.最近になって第2版が出ていることを知ってさっそく注文したのだが,関係がありそうなのでよかった.“ジャケ買い”ならぬ“タイトル買い”ははずしたときの損害が大きい.

◇そういえば“蛙”ネタ —— 津原泰水『ブラバン』(2006年10月1日刊行,バジリコ,ISBN:4-86238-027-1)に関連して,私信で教えていただいたこと.広島大学での「蛙研究」は〈両生類研究施設〉を中核としてたいへん盛んだとのこと.どうもありがとうございました.

◇まずは“巨大とど”から —— 翻訳の「ミツバチ」の章を進めようとするのだが,こりゃあちょっとねー.訳文をちくちくと置き換えていく.1ページ1時間ですよ,これってば…….2時間ほど格闘したが,燃え尽きる.

◇夕方まで“とど撃ち”に奮闘したものの成果はイマイチで —— 午後9時半に研究所に出勤.曇り.気温8.4度.

◇気を取り直して『遺伝』のゲラをチェックし,いくつかの修正点をpdfに記入して編集部に返信完了.23時30分.まずは1頭をしとめる.ここで睡魔が降臨してしまったので,バッハのロ短調ミサをBGMに午前零時半まで床で仮眠(難民並みだ).1時間後にクリスマス・オラトリオで目覚め.先は長い…….

◇夜を徹しても能率は上がらないでしょうとよく言われる.確かに,睡魔と闘いつつ仕事というのは健康にもよろしくないのは重々承知している.しかし,大切なことは,「邪魔されない数時間の確保」という点にある.誰からも何からもインターラプトされない時間帯がぼくの場合は必要なのだが(「長い滑走路」が必要ということか),誰からも何からもインターラプトされないという条件が満たされることは日中ではまずありえない(地下キャレルに逃げ込むとか,所外を徘徊すれば可能だ).だから,えてして夜中しかその時間帯が取れないことになる.

◇本日の総歩数=8307歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.3kg/0.0%.


16 december 2006(土) ※ このまま年末になだれ込むだろうな

◇午前5時半起床.久しぶりにまわりを歩いてみる.夜中に雨でも降ったのか地面が濡れている.夜明け前は曇っていたがしだいに晴れてきた.弱い北の風.さほど寒くはないが,関東の冬のたたずまいではある.

◇今年も年賀状は書きません —— 気の早い人はもう年賀状を投函する時期なのだろう.しかし,ここ数年は年末に集中講義が入っていないことが多いので,年内に年賀状を書く時間的余裕はまったくない.かといって,たいていの場合,年明けに締切が設定されている原稿がある場合も少なくないので,正月になっても年賀状を書くヒマはまったくない.そんなこんなで,最近は年賀状をぜんぜん書かない年が続いている.それでも,年賀ハガキだけは勢いで買っていたこともあったのだが,何も書かないうちに正月が過ぎてしまう年が連続してしまうと,年賀ハガキすら買うのがあほらしくなる.年明けにメールで“デジタルご挨拶”だけ私的に送信してハイおしまいというのが恒例になってしまった.紙の年賀状をお送りいただくであろうみなみなさま,ごめんなさいね.

◇緊急フラッグに煽られつつ,休日仕事…….

◇新刊・近刊メモ —— Samir Okasha『Evolution and the Levels of Selection』(2006年12月近刊,Oxford University Press,ISBN:0-19-926797-9 [hbk]).→版元ページ.自然淘汰の単位をめぐる生物学哲学の論議.1990年代前半まではこのテーマで何冊も本や論文集が出ていたが,新刊では珍しい気がする.総括的な展望が述べられているのだろうか.個人的には「selection=force」への近年の反論がどのようになっていくのかが気になる.※アマゾンでは「近刊予約」になっていた./ 筒井功『サンカの真実 三角寛の虚構』(2006年10月20日刊行,文藝春秋[文春新書533], ISBN:4-16-660533-X).“サンカ”の研究者として有名な三角寛を“ミナオシ”の研究者である著者が糾弾する本.少し前に出た同じ著者の前著『漂白の民サンカを追って』(2005年7月刊行,現代書館,ISBN:4-76-846902-7)が,三角寛の全集を含め彼の“サンカ”本を一手に引き受けてきた現代書館から出版されたというのも考えようによってはすごいことだ./ 澁澤龍彦『快楽図書館』(2006年12月20日刊行,学習研究社,ISBN:4-05-403233-8).待ってましたのシブサワ書評集.

◇新しい国際標準図書番号〈ISBN-13〉の施行間近 —— そろそろ「2007年」の刊行年が記された新刊が届くようになってきた.それとともに,従来の〈ISBN-10〉の10桁番号との併記のかたちで,新しい〈ISBN-13〉の13桁番号を記すというスタイルが定着しつつある.規約上は「2007年1月1日以降」は〈ISBN-13〉が標準になる.→「「ISBN」改訂(10桁→13桁)」.

◇午前は晴れて北寄りの風だったが,午後は雲が多くなり南風に変わる.穏やかな日だ.

◇アマゾン没 —— Emmanuel Paradis『Analysis of Phylogenetics and Evolution with R』(2006年9月刊行,Springer[Use R], ISBN:0-387-32914-5→版元ページ).出版されてすぐにアマゾンに発注したにもかかわらず,たび重なる発送延期通告メールが繰り返され,年の瀬になってしまった.今日,他のオンライン書店をいろいろ見てみたら,いずれも「在庫あり」とか「即発送可」じゃないか! だもんで,まずアマゾンをキャンセルして,より安い Alibris に再発注する.まったくもう…….

◇ちょっとよそ見 —— Heinz Brücher『Ernst Haeckels Bluts= und Geistes=Erbe : Eine Kulturbiologische Monographie』(1936年刊行,J. F. Lehmann, München,ISBNなし→目次).周縁的な事柄がなかなか興味深い.まず,この本はイェナにあった「家系研究ならびに人種政策研究所(Institut für menschliche Erbforschung und Rassenpolitik)」なる機関の出版物として公刊されたものだ.この機関は,ワイマールのチューリンゲン内務省の「チューリンゲン人種制度局(Thüringisches Landesamt für Rassewesen)」に属していたらしい.著者がどこに所属しどのような経歴の人だったかは定かではない.しかし,この人種制度局の局長が巻頭言(Geleitwort)を寄せていることからして,著者の来歴と背景はなんとなく見えてくる.

 当時のドイツ国内の情勢を考えれば,この人種制度局長の手になる巻頭言に「アドルフ・ヒトラー総統」とか「アーリア的」とか「国家社会主義」という言葉がぽんぽん出てきても不思議ではない.著者の短い序言(Vorwort)は以下の通り ——

エルンスト・ヘッケルの精神的遺産は,生命の科学と熱烈な信念がもたらした人種(Rasse)と民族(Volk)が従うべき命の法則を確固として守りそして闘うすべての人にとって今なお価値がある.エルンスト・ヘッケルの人種的ならびに精神的系譜を本書が高く崇敬するのは,この意味で,北方民族の精神史がもつ不滅の価値に対して後の世代が抱く信仰心の発現とみなされるべきである.(S. 7)

わ,すごいなあ,って感じで.

◇う゛,明日こそはきっちり仕事しないと週明けに粛正されるかもしれない…….

◇本日の総歩数=4460歩[うち「しっかり歩数」=1365歩/12分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.7kg/+0.1%.


15 december 2006(金) ※ 緊急フラッグが何本も立つフライデー

◇午前4時50分起床.前夜からの雨はまだしとしと降り続いている.気温8.3度.しかし,夜が明けて間もなく小止みになり,曇りから,しだいに晴れ間が見えてきた.日中は天気が回復するとの予報.

◇たくさんの“緊急フラッグ”がはためいているのだが……

◇昨日ドイツから届いたヘッケル本 —— Heinz Brücher『Ernst Haeckels Bluts= und Geistes=Erbe : Eine Kulturbiologische Monographie』(1936年刊行,J. F. Lehmann, München,ISBNなし→目次).エルンスト・ヘッケルとその姻戚の家系を網羅的にたどった単行本.おお,これはみごとなフラクトゥール書体ですこと.何よりもこういう本が書かれた背景がとてもおもしろい.もちろん本人はとうに亡くなっているのだが,たとえ超有名人であったとしてもある一族の“家系”をたどるためだけにおよそ200ページもの紙数が費やされ,さらには長さ2メートルに達する“家系図”が2葉も添付されているというのはただごとではない.この本を手に取って読み進んだのはいったい誰だったのか.

 1888年に自家出版されたチャールズ・ダーウィン一族の家系図の本が手元にある:R.B. Freeman(ed.)『Darwin Pedigrees』(1984年復刻刊行,非売品)しかし,こちらの原本はダーウィン家の身内の中でのみ回覧するためにたった60部だけ印刷されたという大判の薄い本だ.そしてそこに載っている家系図と言っても,紋章や署名だけが図示されているだけなので,あまり生身の人間をそこに感じることはほとんどなく,16世紀以降の“記号”が連綿と連なっていると言った方がきっと当たっているだろう.

 しかし,ヘッケル一族の家系図はちがう.添付された2葉の家系図のうち写真入りの1枚は単なる系譜のつながりを示しているだけだが,問題はもう一方の巨大な家系図の方だ.こちらには,個人ごとの生年月日・没年・身体的特徴(体躯・眼色・髪色など)・職業・病歴・性格・宗教が細かく書き込まれている.この生々しさ.ここにいたって,本書の意図するところが見えてくる.明らかに当時のドイツでの「優生学的」な思潮が背景にあるのではないかと感じる.

 そういう社会的背景や動機づけはさておき,判明した範囲のすべてのヘッケル家の一族が顔写真入りで載っているというのは本書をおいて他にはないだろう(初めて目にする写真も少なくない).今のところ,まだ真っ黒なフラクトゥールを方々舐めまわしているだけなので,中身に入り込んだわけではない.本当に「優生学的な」本なのかどうかもまだ定かではない.とてもフシギな,そしてヤバそうな本だ.

◇午前のこまごま —— 出張届を提出.12月18日(月)の東大行き./ 講談社からメールあり.12月20日(金)の昼に〈ルオー〉にて密議./ 先日来室された檀一平太さんから書評依頼:『失敗しない大学院進学ガイド』(2006年11月20日刊行,日本評論社,ISBN:4-535-78414-0→書評目次版元ページ|サポートページ)の短縮版書評を『実験医学』誌に掲載してほしいとのこと.上限「400字」ぴったりの原稿を昼前に送る.

◇風もなく日射しが暖かい昼の歩き読み.気温11.8度 —— 津原泰水『ブラバン』(2006年10月1日刊行,バジリコ,ISBN:4-86238-027-1)の第3章まで,約100ページほど.確かにこういう“雰囲気”だったねえ(>思い当たる方々).場所の設定は広島県のとあるランク2の県立高校.こんな一節がある:

「……ほいじゃが,こっちが蛙の本場いうわけでもないでしょうに,いったい何しに —— 」
「わからん」
 のちに桜井さん自身の口から聞かされた.本場だったのである.この地の国立大の生物学科では伝統的に蛙の研究が盛んで,世界中の学者が研修に訪れるほどだという.桜井さんは環境省の外郭団体に在籍しており,蛙救済を標榜する各NGOの活動が先端の研究とリンクしているかどうかを監査するのがその仕事だった.(p. 87)

「この地の国立大」はそーなんですか?(確認)

◇午後1時40分から1時間は,〈文化系統学〉セミナーの第29回目:Chapter 13「Reconstructing the flow of information across time and space: A phylogenetic analysis of ceramic traditions from prehispanic Western and Northern Mexico and the American Southwest」(Marcel J. Harmon, Todd L. VanPool, Robert D. Leonard, Christine S. VanPool, and Laura A. Salter)の後半を読了(pp. 217-229).出土した陶器の模様を形質として,MP / ML で系統推定する.MP での重みづけの使い方がやや不明.P. O. Lewis (2001) のモデルでは不十分ということで,文化系統樹を最尤推定するための新しいソフトウェアを新しく開発したと書かれている(そんなの聞いたことないぞ).※その後,南保くんと修論の打合せを少しばかり.年内に“かたち”をある程度つくろう.

◇午後のこまごま —— 留守していた間にうんと溜まっていたメーリングリスト関連の作業をまとめてすませる.これこそ微粒子火山灰だ.

◇午後4時半に帰宅.気温は高め.

◇夜のこまごま —— 計量生物学会からメール.JBSの運営を今後しばらく引き続き担当してほしいとのこと.今後の運営については広報委員会を立ち上げて検討するとのこと(ぼくも入る)./ 来年9月6日(木)〜9日(日)の統計関連学会連合大会(神戸大学)の暫定サイトが開設されていた./ 来年早々,またまたコッソリ北の都に行くかも,という密談あり./ 夜9時過ぎに『遺伝』のゲラがpdfで送られてきた.速攻でチェックして編集部に戻さないといけない.分量が少ないので(刷上がり2ページ)すぐにすむはず.

◇肝心の「緊急フラッグ」がまだはためいたままなんですけど……(冷汗).

◇本日の総歩数=11464歩[うち「しっかり歩数」=6616歩/57分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.2kg/+0.1%.


14 december 2006(木) ※ 日常復帰するも終日“火山灰”の掃除

◇午前5時半起床.雨上がりの曇り空.気温4.4度.

◇たった三日,職場にいなかっただけで,大小さまざまな“用事”が降り積もっていた.大半は(すぐさま即決対応できる)“火山灰”のごとき雑用だが,ときどき(時間をごっそり盗られてしまう)“火山弾”サイズの仕事が混じっている.いずれにせよ,さっさと掃除しないことにはどうしようもない.

◇ということで,午前のこまごま(主として“火山灰”サイズ) —— 今日の計量生物学会理事会に欠席する通知を返信.委任状を出し,JBSメーリングリストに関する報告レポートと先月までの会員名簿を提出する./ 文藝春秋社へのレポートの補足をメールで送る.電話でもさらに問い合わせあり./ 講談社『本』への連載依頼.委細は来週の打合せで./ 『InterCommunication』誌からの原稿依頼.〈サイエンス|デザイン〉という特集テーマとのこと.おもしろそう.締切は2007年1月9日(火)./ 毎年恒例,みすず書房の『月刊みすず』から年頭の書評特集への寄稿依頼.今年はどの5冊をとりあげましょーか? 締切は2007年1月はじめ./ 筑波大学から集中講義に関するプチ質問.URLを教える./ 科学哲学会事務局からメール.学会誌『科学哲学』40巻1号(2007年7月発行予定)で特集〈生物学の哲学の現状と展望〉が組まれることが決定.10月の札幌大会でのトークを踏まえての投稿を依頼される.上限は「14,000字」だそーで.締切は2007年4月2日(月).

◇分子系統学の新刊 —— Ziheng Yang『Computational Molecular Evolution』(2006年12月刊行,Oxford University Press[Oxford Series in Ecology and Evolution], ISBN:0-19-856699-9 [hbk] / ISBN:0-19-856702-2 [pbk]).最尤法とベイズ法に基づく系統推定の教科書(“最終兵器”ですか?).Joe Felsenstein『Inferring Phylogenies』のお供にいかが? 次は,長らく予告されている John Huelsenbeckの『Statistical Phylogenetics』かな.→詳細目次(著者サイト).

◇午後のこまごま(ほとんどが“火山弾”サイズ) —— 東京農大の人事関連書類.農環研から「農大の“助”を消しなさい」との指令が下る.ほぼ同時に,農大側からも「では“助”を消しましょう」との申し出が独立にやってくる.となると,またまた人事関係の書類を書き直したり,論文を提出したりという“落石”な山津波が来るにちがいない.しかし,客員助教授になったときの提出書類の手直しですむような気配もあるので(そうではないという危険予知メールもあるが),とりあえずはラクをしてしまおう.肖像写真を画像で厚木に送ったりとか./ 東大の専攻パンフレットの原稿集め連絡メールをあたふたと送る.来週月曜に第2回のパンフレット作成委員会があるので,それまでにエコロジカルセイフティー学講座の各研究室の紹介原稿を取りまとめないといけない.レイアウト見本をつくらないといけないのだが,時間がかかるかもしれない./ 分類学会連合の進化学会紹介記事.すみません.まだ“火山弾”の落下を傍観するのみです.早くやりますやります…….

◇ほっこり新刊 —— 津原泰水『ブラバン』(2006年10月1日刊行,バジリコ,ISBN:4-86238-027-1).はい,高校のブラスバンド部を舞台にした“青春小説”です.時代設定は1980年前後.ぼくらの頃とは少しずれてはいるけど,なお「同じ時代」が共有されているように感じられる.

◇午後4時過ぎにばたばたと帰宅.途中,榎戸のヤマト運輸の事務所で文藝春秋社宛の荷物を送る.

 で,書評の公開 —— Peter D. Ward『Out of Thin Air : Dinosaurs, Birds, and Earth's Ancient Atmosphere』(2006年10月30日刊行,National Academics Press,ISBN:0-309-10061-5[hbk]).→書評目次前半要約後半要約.翻訳が早く出版されることを期待しましょう.

◇夕方になって,またまた雨が降り出す.ここ三日間,こういう空模様が続いている.師走らしからぬ天気だ.気温は低め.夜になって本降りに.

◇本日の総歩数=6556歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.1kg/+0.4%.


13 december 2006(水) ※ 筑波大千秋楽:欺かれてまた降られる

◇午前4時40分起床.晴れ.3.6度.研究所にて,集中講義のレポート課題を準備する.青空が広がる.

◇集中講義の最終日.今日は午前10時の開講だが,9時過ぎには自転車で大学にたどり着き,非常勤講師の控室にてしばし準備を進める.10時開始.最初にアブダクションのツールとしての統計学的思考について1時間ほど話をする.その後,tpsRegr を用いてのサイズ変数を独立変数とする形状変数の回帰についてデモと講義.通常は形態をいったんケンドール形状空間まで変換した上で,あらためて途中で捨象したサイズ変数との関係を「回帰」というかたちで関連づけようとする.しかし,理想的に言えば,サイズを捨象する前の前形状空間(preshape space)での不変量「サイズ-シェイプ」を考察するというスタンスが必要なのだろう.

◇午後は,tpsRelw を用いた「相対歪み」の解析による形状集団の変形の特徴抽出.主成分分析と同等の操作をするので,直感的にはわかりやすい.それにしても,tpsRelw のアニメーション機能はたいへん教育的に有効だと思う.続いて,線形近似ではなく,ケンドール形状空間そのものについての形状の確率分布の問題に移る.線形統計学でのパラメトリック理論の基盤が正規分布にあるように,また方向データの球面統計学での同様の理論的基礎が von Mises-Fisher 分布にあるように,標識点が2次元座標(複素数データ)をもつときの前形状空間上での形状分布の基礎は複素Bingham分布である.tpsTri のランダム三角形生成機能を用いて複素正規分布をする2次元ランダム三角形の重心サイズに関するスケーリングを施して複素Bingham分布をする前形状を導くデモをする.2次元標識点の分布は複素確率分布を用いればうまくいきそうだが,3次元になると話はまったく別になるとのこと.

 今回の講義は以上で終わったのだが,最後に文献紹介とソフトウェア紹介,そして形態測定学の適用範囲と今後の問題点を指摘して,午後3時半に終了した.レポートは来年早々に集めますので,よろしく.>受講生諸氏.

◇外に出てみたら,雨が降り出していた.昼まではとてもよい天気で,雨が降るとはとうてい信じられなかったのだが,天気予報通りの展開になってしまった.朝の晴天にだまくらかされたよーなのだ.昨日に引き続き,またまた自転車に乗る濡れ鼠になって,自宅に帰り着く午後4時.西の空には夕陽が映える.

◇やや燃え尽き気味で夜を迎える.メールをチェックしてみたら,数百通のスパムメールに埋まって,数十通の至急返信を要する案件がいくつもあった.しかし,とても今日中には対応しきれない.大半は明日まわしになってしまうな,これは.

◇気がつけば,もう日が変わっていた.これから年の瀬に向けて,“のりしろ日”は1日もないと覚悟しましょ.>ぼく.

◇本日の総歩数=7779歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=−0.1kg/−0.7%.


12 december 2006(火) ※ 筑波大中日:雨に降られて忘年会

◇午前5時過ぎに起床.曇り.

◇昨日と同じく午前9時頃に筑波大学に自転車出勤.午前9時半から講義開始.今日は,アフィン変形に伴う歪みテンソルの計算をする.久しぶりにチョークで板書をした.変形のうち,大域的なアフィン変形の特性は,テンソル主軸(双直交的)が示す最大伸縮方向により特徴づけられる.tpsSplin によるデモを含む.ここまでが午前の講義.

◇いつの間にか雨が降りだしていた.気温低め.ランチは第二学群の学生食堂にて.

◇午後1時から講義再開.午前に引き続き,非アフィン変形の薄板スプラインによる記述について.局所的な非アフィン変形にともなう屈曲エネルギー行列の固有値分解による固有ベクトル(主歪み)とそのベクトル積(部分歪み)についてざっと説明した上で,tpsSplin を用いたデモをする.形状空間の接部分空間を考えるとき,アフィン変形については主軸ベクトルが,非アフィン変形は部分歪みがそれぞれ正規直交基底を構成する.

 スプラインによる補間の「ノルム」が二次導関数の平方の積分によって定義されているとき,ノルムを最小にするのは“滑らかな曲面”と言ってきたのだが,正確には“平らな曲面”と言うのだそうだ.

 しかし,線形空間はあくまでも形状空間の射影に過ぎないので,形状の近似的な扱いをしていることになる.リーマン多様体としてのケンドール形状空間の上での正確な形状の理論については明日まわし.今日は午後3時前に講義終了.

◇雨の中を濡れ鼠になって,自転車で帰宅.着替えて,午後4時19分の区間快速にて東京に向かう.西の空は夕焼けなのに,雨はしとしと降り続く.今日は午後6時から東大の専攻忘年会が予定されている.千駄木にて下車.雨はもう上がっていた.千駄木から根津への暗い裏道をひたひたとたどり,午後6時前に会場であるレストラン〈RISAKI〉に到着.今夜は貸し切り.一番乗りだった.今までぜんぜん知らないレストランだったが,今年の7月にオープンしたばかりの新しい店のようだ.かの〈はん亭〉のすぐウラにある.

そのうち専攻の面々が集結し,定刻通り忘年会は始まった.しかしフレンチで忘年会とはねと訊いたら,年によって(=幹事によって)店の雰囲気は大きく変わるそうだ.フルコースのディナーをいただき,午後9時前にお開き.まだ余力のあるメンツは隣りのショットバー〈ピアノ〉になだれ込んでいったが,ぼくはすんなりと退散する(ここでトラップされたら明日の集中講義はお流れになってしまうにちがいない).

◇つくばに帰り着いたのは午後10時半.休みなく走りまわった割には,早い帰宅だった.明日は集中講義の最終日.

◇本日の総歩数=12677歩[うち「しっかり歩数」=2459歩/18分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.5kg/−0.1%.


11 december 2006(月) ※ 筑波大初日:昼は仕事,夜は宴会

◇午前6時にゆっくり起床.晴れ.気温2.8度.夜明け前の研究所にて,集中講義に必要な機材と資料をもって即帰宅.荷物をまとめる.

◇午前8時半,自転車で北の天王台を目指して出発.筑波大に通うには自転車が結果的にもっとも便利だ.朝の空気が冷たいので,手袋を持つべきだったかも.

 ここは北京か上海か —— ずいぶん久しぶりに筑波大の「自転車軍団」に巻き込まれた.9時過ぎに自然科学系棟に到着.D棟8階の講義室に入る.田崎さんの話では履修登録をしている学生は20名ほどいるそうだ.しかし,講義開始の9時半になってもまだ集まりがよろしくない.

◇定刻を少し過ぎてやっと講義の開始(→シラバス).形態測定学の概論を1時間ほどして,その後,形状空間論に入る.形状の変換幾何学とそれぞれの変換に伴う不変量,とくに“サイズ”と“シェイプ”の定義について.tpsTri を用いての形状空間構築のデモ.ここで昼休み.大学会館の食堂でランチ.

 午後は1時過ぎから再開.多変量解析概論と絡めて,多変量的な形態データの扱い方について1時間ほど話す.とにかく「視覚化」することが重要であることを強調する.その後,形態変形に進み,まずはアフィン変形と非アフィン変形の足し合わせによって,全変形を構築するという方針を述べる.ここで午後4時の終了時刻.初日はこれにておしまい.

◇いったん帰宅し,午後5時過ぎに歩きで天久保に向かう.今夜は歓迎会を開いてもらえるとのことで,会場の〈あじ彩〉に午後6時少し前に到着.初めての店だったが,とてもうまかったです(「獺祭」とか「芋」とか).午後8時過ぎに散会し,近くの〈きりん〉で焼酎をもう少し.それでも,9時過ぎには終わって,帰宅したのは午前10時.何という健康的な飲み方か!

 まあ,初日だし,明日も明後日もあることだから,ちょうどいいのかもしれないが.

◇本日の総歩数=11413歩[うち「しっかり歩数」=2976歩/26分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=+1.1kg/+0.9%.


10 december 2006(日) ※ 雨上がりの投票と前日のばたばた

◇午前5時半起床.雨上がりの曇り空.気温4.9度で,しんしんと寒い.日が昇るとともに,秋空がしだいに広がってきた.今日はいい天気になりそうだ.早朝,投票所が開いてすぐに,選挙投票をすます.

◇朝からフロマージュを —— 昨日,広尾で買ってきた〈Isigny〉のカマンベールを少しだけ試食.食べごろに近いが,もうしばらくおいてからでもいいかもしれない.中心部分が熟成してくると,塩気と舌触りと芳香がちょうどよくなるだろう.

 それにしても,1回の“試食”で全体の1/4が消え去るようでは,もうあと何回も“試食”できないな.山羊乳のクロタンなんぞは1回の“試食”で全部なくなってしまうし.モンドールはいったん“試食”し始めると歯止めが利かなくなるので,きっとぶっつけ本番だろう.

◇今日は,風もなく小春日和.明日からの筑波大学集中講義の準備はさらに続く.受講生は数学専攻の学部3〜4年とのことなので,生物学や農学の学生よりはきっと“数式耐性”があるだろう.しかし,念のため「救命胴衣」スライドや「酸素マスク」スライドはきちんと残しておく.“死亡率”を下げる努力は惜しんではいけない.

 講義全体の台本はできているので,あとは講義とデモンストレーションのバランスと数学・統計学・生物学の組み合わせだけが問題だ.

 集中講義は長丁場なので,噺手側の緩急のリズムと気力・体力の確保,そして客席のようすを見ながらふり方やあおりを調節しないといけない.こればっかりはアタマでいくら考えてもどうしようもない.ひたすら場数を踏んで,あらゆる度胸をつけるしかない.

◇本日の総歩数=6732歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.3kg/−1.1%.


9 december 2006(土) ※ 雨の南部坂を昇降し,夜はミサを聴く

◇午前4時40分起床.曇りのち,小雨が降り出した.寒い.

◇午前8時11分発の YX 区間快速で広尾に向かう.9時40分に日比谷線の広尾で下車.都内は本降りになっていた.雨の南部坂をひたひたと這い上がる.

◇昨日と今日は統数研で「Rの整備と利用」研究会が開催されている.昨日は,泣く子も黙る?かの「プロフェッサーR」が二度目の来日を果たしたとのことだったが,そのトークには出られなかった.今日は日本人による日本人のための〈R〉後援会,じゃなかった講演会.

 統数研の講堂に入ったときには,すでに舟尾暢男さんの最初の“高座”が始まっていた.これはもうなんというか“上方落語”のノリでんなあ.〈R〉での「データ・ハンドリング」の話.そーか,他のソフトウェアからのデータのインポートがこんなにラクだったとは知らなかった.エクセルのデータファイル(*.xls)はこれまではいったん「*.csv」に変換してから,read.csv() で〈R〉に読込ませていたのだが(ぼくもそうしていた),ライブラリー「RODBC」を使えば,〈R〉からダイレクトに「*.xls」が読めるそうだ.また,SAS や SPSS のデータファイルについても,別のライブラリー「foreign」を使えば,read.spss() コマンド(SPSSの場合)や read.xport() コマンド(SASの場合)を用いて,ラクラクで〈R〉にインポートできるらしい.そーかそーか.あと,〈R〉の中でのデータ・ハンドリングには「transform / subset / apply」という三つの“神器”を使いまわせば,たいていの用は足りてしまうとも.なるほどなるほど.長年にわたって SAS が覇権を握ってきた医薬業界でも,しだいに〈R〉使いが増えてきているよーで.

 続く,久保拓弥師は「誰もがべいづに手を染めよ」という犯罪教唆な一席.LM→GLM→GLMMというまっとうに見える道は,実はすでにべいづが敷き詰められたジゴクへの道.あとはもう一歩先に進んで階層べいづに手を染めれば大魔神に変身だ.超事前分布が一様分布であると仮定したときの経験べいづは GLMM にほかならないという指摘がなされる(となると,未必の故意でべいづしてしまった人もきっと少なくないだろう).トーク後半は,MCMCまわりのドロヌマ格闘の報告だ.〈R〉でMCMCするためには,2004年に開発停止になった〈WinBUGS〉(ライブラリー「R2WinBUGS」経由で)をなお使い続けるのが現時点ではベストの選択だという.後継の〈OpenBUGS〉(ライブラリー「BRugs」経由)や〈JAGS〉(ライブラリー「rjags」経由)にはまだまだ使えない部分が残されているとのこと.

—— 今回の〈R〉研究会のスライドは,統数研の研究会ウェブサイトから後日公開されるとのこと.関心はあるものの諸般の事情で当日欠席されたみなさんは,統数研サイトをチェックしましょう.

◇久保師のアジ演説を聴き終え,統数研をあとにする.南部坂を下りたところにあるナショナル麻布マーケットについトラップされ,食料品売り場を徘徊する.アルザスワインの新入荷にも惹かれつつ,チーズコーナーへ直行する.やはりありましたか.この季節の旬は〈ヴァシュラン・モンドール〉.この芳香はあらがうことを許さず.〈ショーム〉や〈シャウルス〉などの脇役を振り切って,食べごろの〈モンドール〉500gの木箱を抱えてレジへ.ついでに値段が下がっていた〈イズニー・カマンベール・ド・ノルマンディー〉もついでに.チーズたちをリュックサックに詰めたら,すでに芳香がそこはかとなく漂いはじめていた(前に〈リバロ〉を持ち帰ったときは周囲に強烈な芳香がたちこめた).

◇雨の中,お茶の水に向かう.駿河台下の〈Tully's〉に根を生やし,3時間ほど翻訳原稿と格闘する.こういうふうに時間をむしり取らないことにはぜんぜん作業が進まない.ゲラにして10ページあまりを“真っ赤にして”とりあえず作業を終了する.

 午後3時少し前に,JRお茶の水駅の聖橋改札にて海游舎の本間さんにできたところまでのゲラを手渡す.次はまた1週間後の18日(月)の午後1時に本郷の〈ルオー〉にて年貢を納めることになる.年内に何とか全部を渡さないといけない.気は焦るものの,訳文が訳文なので,ぬかるみを全力疾走しているようなものだ.

◇お茶の水から千代田線に乗り,北千住で TX 快速に乗り継ぎ,午後4時過ぎにつくばに帰り着く.

◇つくば古典音楽合唱団第20回定期演奏会 —— 午後5時前にノバホールに入る.まだ雨が降っている.午後5時からつくば古典音楽合唱団の定期演奏会.曲目は,J. S. Bach の〈ロ短調ミサ〉の全曲.こういう渋目のコンサートにしては客の入りがよく,2階席はほぼ埋まっていた(2階とサイドは半分くらいか).

 バッハの〈ロ短調ミサ〉は今までちゃんと聴いたことがなかったので,今夜はいい機会だ.通しで2時間という長大な作品だが,聴く側としては〈マタイ受難曲〉と同じふうでいいのだろう.昨年とはちがって,オーケストラは古楽器をそろえている.バルブやピストンのないナチュラル・トランペットやナチュラル・ホルンの音を生演奏で初めて聞いた.太い木製のバロックフルートは肺活量とても要りそう.ティンパニーは文字どおりの手締めケトルドラムね.

 ん,それにしても,3人で奏される長大な管のナチュラル・トランペットのかたちはどこかで見た覚えがあるぞ.1st Trp 奏者の風貌にも記憶がある.パンフレットでオケのメンバーを確認 — 島田俊雄さんじゃないか! バッハ・コレギウム・ジャパンの主席Trp奏者の音をつくばで生で聴けるとは予想外だった.今夜使用されている Trp は間違いなく島田氏が自作した楽器だろう.来た甲斐があったというものだ(来なかった人は地団駄をたくさん踏みましょう).合唱もオケもすばらしいできばえだったと思う.たいへんお疲れさまでした.

—— ノバホールを後にしたのは午後7時半のことだった.今日は朝から夜まで盛りだくさんの予定が入っていた.いささかもつまずきなくすべて消化できたのは幸い.

◇お茶の水〈丸善〉でゲット —— 須賀敦子『須賀敦子全集・第2巻』(2006年12月20日刊行,河出書房新社[河出文庫す4-3],ISBN:4-309-42052-4→版元ページ).第2巻の構成は,「ヴェネツィアの宿|トリエステの坂道|エッセイ(1957〜1992)」.続刊(第3〜8巻)も来年以降に隔月で刊行されるのだろう./ 清水安雄(写真)・産業編集センター(編)『中国の小さな古鎮めぐり』(2006年3月20日刊行,産業編集センター[〈私のとっておき〉シリーズ], ISBN:4-916199-79-0).しばらく前に読んだ中国古鎮遊編集部(編)『中国・江南:日本人の知らない秘密の街 幻影の村34』(2006年5月5日刊行,ダイヤモンド社[地球の歩き方Books],ISBN:4-478-07953-6)と訪問した地域が重なっている部分もある.写真は魅力的だが,ページも内容も薄い.中国でも日本でも「古鎮観光ブーム」らしい.

◇本日の総歩数=9732歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.3kg/+0.5%.


8 december 2006(金) ※ とりあえずは目前の片付けをば

◇午前5時前起床する.曇り.気温5.1度.今日から週末にかけて天気は下り坂だそうだ.

◇前夜からの続きの原稿格闘 —— 文藝春秋へのレポート加筆.4000字ほど.午前中はこれにかかりきりで,昼過ぎにメールで送信した.※“受理”されたもよう.

◇その他の午前のこまごま —— 月曜から水曜までの兼業に伴う隙間時間(7:00〜10:00)を年休とする届け出.ひたすらこまごまと./ 分類学会連合のシンポジウムは来年1月7日(土)〜8日(日)に科博分館にて.7日午前の総会に出ないとあきまへん.

◇午前11時の気温は12.5度.今日も日射しがないせいか,暖かくならない.

◇PowerBookG4へのインストールいくつか(月曜からの集中講義用に) —— 〈LaTeXiT〉version 1.11.0 (7 Dec 06).数式簡単入力用にバージョンアップ./〈Virtual PC〉version 7.これは形態測定学のウィンドウズ用プログラムをデモするために.

◇新刊メモ —— イアン・ハッキング『何が社会的に構成されるのか』(2006年12月刊行,岩波書店,ISBN:4-00-024159-1).個人的には「何がハッキングを構成したのか」に関心があるのですが……./ チャールズ・ライエル『ライエル地質学原理(上)』(2006年12月刊行,朝倉書店[科学史ライブラリー],ISBN:4-254-10587-8).このシリーズはときどき「えっ」という原典の訳を出してくれる.今回訳出されたライエルの『原理』は抄訳らしい./ 萩原光徳『複雑さの階層』(2006年12月刊行,共立出版[アルゴリズム・サイエンス・シリーズ6【数理技法編】],ISBN:4-320-12172-4).先日,書店店頭でブツを見た.いわゆる「計算複雑性理論」の本.しばらく迷って棚に戻したが…….

◇昼休みは曇りときどき小雨がぱらっと.気温は11.2度.プチ歩き読み —— 清水徹『書物について:その形而下学と形而上学』(2001年7月25日刊行,岩波書店,ISBN:4-00-023359-9).さらりと50ページほど読む.“もの”としての本の話.

◇午後2時から1時間弱,〈文化系統学〉セミナーの第28回目:Chapter 13「Reconstructing the flow of information across time and space: A phylogenetic analysis of ceramic traditions from prehispanic Western and Northern Mexico and the American Southwest」(Marcel J. Harmon, Todd L. VanPool, Robert D. Leonard, Christine S. VanPool, and Laura A. Salter)を読み進む(pp. 214-217).文化系統樹の推定には最節約法(MP)と最尤法(ML)を使うという.もちろん,ここでの最尤法は Paul O. Lewis (2001) の形態形質確率モデルを仮定しての話.

◇質問への返事をいくつかいただく.「遠くの常盤台より,近くの天王台」という感触を得た.観音台の某君にはそう伝えておこう.

◇集中講義の準備(夜) —— 〈Virtual PC〉の仮想ウィンドウズ機の上に tps 系の形態測定学ソフトウェアをいくつかインストールしてみた.多少遅い気がするが,デモにはちょうどいいと思う./ すでに公開したシラバスを眺めつつ,講義イメージをつくってみる.“かたち”そのものの定量化の話は変換幾何学(形状空間論)ですむのだが,形状集団の“かたち”の変異となると,やはり統計学の講義時間をとる必要がある./ プレゼン用スライドからハンドアウトをつくる準備をする.いざとなったら,pdfそのまま配布する予定./ 教科書としての「Orange Book」と「Dark Blue Book 1」を持参しよう.

◇明日は,都内を東奔西走し,夕方にはつくばに戻っていないといけない.忙しい日になりそう.しかも,天気は下り坂.

◇本日の総歩数=9787歩[うち「しっかり歩数」=3488歩/30分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.3kg/−0.3%.


7 december 2006(木) ※ 陰鬱に曇る日はクラく書き進む

◇午前4時50分起床.曇り.気温0.4度.氷点下ではないが,湿度があるせいか,やや冷え込む.

◇昨夜からの原稿はまだ終わらず.午前いっぱい,さらに書き進める.今日中にはケリをつけないと,別件仕事への影響が出る.

◇朝の堆積 —— 10月の科学哲学会シンポを踏まえた雑誌『科学哲学』での生物学哲学特集への寄稿が決まった.8000字だそうで.来春./ 勁草書房からそれとなく“刺激”がやってくる.暗に目次素案を出せということかしら./ 『InterCommunication』誌から寄稿依頼メール.来年の特集〈デザイン/サイエンス〉へ,「図形言語」に関する内容でとのこと.6000〜8000字.魅力的だなあ,どうしようかなあ./ しかし,地層を新たに堆積させているうちに,最下層は変成岩化しつつあるぞ.記憶の表層から薄れつつあることがコワイのだが…….アレとか,ソレとか.

◇曇りの昼休みは気温8.6度.日射しがない分,昨日より寒い.歩き読み —— ポール・コリンズ『古書の聖地』(2005年2月5日刊行,晶文社,ISBN: 4-7949-2665-0→目次原書関連情報)の残りを読了.150ページほど.偽書が Alibris に流れたとか,ダン[ドゥンス]・スコトゥスの古書が(文字どおりの)尻拭いに使われたとか,エジンバラのチェンバース・ジャーナルとか,随所に探針が反応する.それにしても,こういう結末になるとは意外だ.午後1時半の気温はさらに低下して7.8度になった.

◇新着論文チェック —— Kirk Fitzhugh (2006), The ‘requirement of total evidence’ and its role in phylogenetic systematics. Biology and Philosophy, 21(3): 309-351. DOI:10.1007/s10539-005-7325-2

◇昼の圧力 —— 駒場の殿から進化学会の共立出版『進化学辞典』とは別の朝倉書店『進化学辞典』についての打診.辞典に次ぐ辞典の嵐.辞典好きな国民性か./ RP二次配分についての見積もりを早急に出さないといけないみたい.

◇午後のこまごま —— 生態モデリングで学位がとれる指導教官&大学について,諸方面に問い合わせる.「つくばから比較的近いロケーションにある大学」&「社会人大学院生として学位を取りたい」&「生態統計モデリングを研究したい」という条件を満たす研究室はありますかしら?

◇夕方の決着 —— 文藝春秋へのリーディング報告をまとめてメール送信する.とりあえず,これでケリがついたかな.

◇夜の解放 —— 東大エコロジカルセイフティー学講座.ぼくのところには来年度は学部卒研生は来ないことになった.※それとは別に,学部生勧誘のパンフレット素材のとりまとめをしないといけないな./ 計量生物学会の丹後俊郎会長からメール.来年度の理事からは外れるとの連絡.約10年ほど理事会に入っていたが,これでラクになったかも.メーリングリスト JBS の今後のことについては新理事会で話し合っていただくよう返信する.

◇さらに夜の差し戻し —— 文藝春秋から返事あり.章ごとのサマリーを増補してほしいとのこと.なるほど,了解.ということで,石抱きの刑ははてしなく続く…….

◇そろそろ来週の形態測定学集中講義に向けて,プレゼン用スライドとデモ用ソフトウェアそしてハンドアウトの準備をしないといけない.※いよいよ〈Virtual PC〉を使う出番がやってきたか.

◇本日の総歩数=14754歩[うち「しっかり歩数」=10427歩/92分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.1kg/−0.5%.


6 december 2006(水) ※ 突発雑用とアヴァンギャルドと原稿書き

◇午前5時半起床.晴れ.気温マイナス1.2度.今日もフルムーン朝焼け.

◇早朝の確認事項 —— 『進化学会ニュース』vol. 7, no. 2 がきのう着便.※学会費未納の人はすぐに払い込みましょうね./ 同日に『計量生物学』vol. 27, no. 2 も届いた./ 『失敗しない大学院進学ガイド』(2006年11月20日刊行,日本評論社,ISBN:4-535-78414-0→目次版元ページ|サポートページ)の書評をいくつかのメーリングリストに流した.間髪入れずに私信やら転載依頼がやってくる.

◇また,よそ見 —— 国書刊行会の『ドイツ・ロマン派全集』(全22巻)がどれくらいの古書価格なのかをちらって探ってみたりする.※新刊のほぼ半額で全部そろうみたいね.※買うつもりかいっ.

◇午前の横入り —— 今日は,何が何でもいくつかの原稿を仕上げないことにはすまない.ところが,本厚木方面から「トツジョ,人事書類の更新が必要になったから,ヨロシク」とのお達しがあった.差し込みで .doc をいじったり,InDesign を立ち上げたりして,10枚ほどの書類をつくり,昼前にメールにて返信完了.押印ハードコピーはあとで南保伝書鳩くんの力を借りることにする./ 筑波大学から来週の形態測定学集中講義の成績評価に関する問い合わせ.出席とレポートでさらっとすませよう.

◇久しぶりに「クラーク先生の学校」に誘引される —— 秋元信一さんから,来年度冬学期の集中講義(系統学)の依頼あり.前回(1998年)は『生物系統学』を出した翌年にサッポロに攻め込んだことがあったが,今回は『系統樹思考の世界』を振りかざして行きますか.いずれにせよOKということで返事をする.講義時間は30時間とのこと.

 毎年,師走といえば,次の年の「お座敷」のお声がかかる季節.来年度は,すでに首都大学東京(生物統計学)と東大・理・人類(生物統計学)への出講が確定しているので,北大で三つ目だ.連携大学院の集中講義も予定されているので,そろそろ飽和かな.できてもあと一つかな.

 本務地をもつ研究者が大学などへ非常勤出講するのは「専任非常勤講師」への圧迫となるのでやめた方がいいという声がある.たとえば,系統推定論や生物統計学を教える可能性のある「専任非常勤講師」がはたしてどれくらいいるのか,ぼくにはまったくわからない.確かに,機会の公平さという点からいえば,ハローワークのような組織に講師候補者を事前に登録して,そこを通して非常勤講師を募集するというようなシステムが理想的なのだろう.あるいは,公的な研究者データベースがすでにあるのだから,それをちょいと拡張して講師データベースをつくるのはそれほど手間ではないはず.しかし,現状では,教務担当の教員が知り合いを通じて内々に話を進めるというインフォーマルなやり方で非常勤講師が決まっているようだ(というか,そういうふうにしてぼくは大学の教壇に立ってきた).

 なお,「兼業」とは「二つ以上の勤務先で仕事をかけもち」し,「二つ以上の勤務先から給料をもらう」ということだ.この意味での兼業が,給料の「二重取り」とか「三重取り」であるかのように誤解されることがある.しかし,兼業をする期間は,本務先では働いていない期間なので,本務先からの給料はその分だけ差し引かれることになる(少なくとも農環研の兼業規程ではそうなっている).だから,数カ所の兼業をしていたとしても,任意の日に関する給料はどこかの勤務先一カ所のみからもらっているのであり,同時に複数の勤務先から給料を重複して取っているわけではない.

 多くの場合,兼業しても給料収入が差し引きで損にならないように事務的シミュレーションがされているが,勤務時間の関係で合計収入としては赤字になることもままある.それでも非常勤出講を引き受けているのは,金銭では測れない他の「利己的」(けっして「利他的」ではない)な動機づけがあるからだ.何よりも,お座敷の声がかかるうちが華なのよ.

◇晴れた昼休み.気温は昨日よりは高くて,9.9度.ふと思い立って:井口壽乃『ハンガリー・アヴァンギャルド:MAとモホイ=ナジ』(2000年12月5日刊行,彩流社,ISBN:4-88202-684-8)の本編270ページをイッキに歩き読む.1919年のハンガリー革命前後の泡立つ感じが伝わってくる.主人公はモホイ=ナジ・ラースローとカシャーク・ラヨシュ.第一次世界大戦をはさんで,モホイ=ナジはベルリンへ,そしてカシャークはウィーンへと離れていったが,彼らの精神的ルーツはハンガリーにあると著者は言う.確かに,1921〜22年の二人の共闘関係の最高潮期をはさむ数年間の国境を越えた活動ぶりがめざましい.その後のベルリンでの「バウハウス」でのモホイ=ナジについても知りたくなった.やっぱり,この本を読んだあとで,井口壽乃・圀府寺司(編)『アヴァンギャルド宣言:中東欧のモダニズム』(2005年9月5日刊行,三元社,ISBN:4-88303-161-6)を読むべきだったことを再確認する.

◇午後5時に帰宅.その後は原稿書きあるのみ.よそ見なし.

◇本日の総歩数=14189歩[うち「しっかり歩数」=9897歩/87分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.4kg/+0.4%.


5 december 2006(火) ※ 冬晴れの昼休みは速読タイム

◇午前4時半起床.寒過ぎ.研究所に着いたときはマイナス2.0度.ところが,日の出直前の6時前はマイナス3.0度にまで低下.西空に満月,東空は曙.

 いたるところ真っ白に霜が降りている.午前9時半になっても,まだ5.7度にしかならない.曇り空.寒さの底にいる.

◇午前のこまごま —— 東大の集中講義の救済策を提示する./ 10月の旅費が半額出なくなった.出張期間の前日に移動してしまったのが敗因で,往路の航空運賃は自己負担となる.教訓:次回からは変に気を回さずに出張期間めいっぱいとって,さらに前後の移動日もばんばん取りましょう(>ぼく)./ 東大農学部に事務連絡.先月の出張報告./ 生態系領域の忘年会は12月19日(火),18:30〜,洞峰公園北の〈エーベルバッハ〉にて.

◇新刊見計らい品 —— Dale Jacquette (ed.)『Philosophy of Logic』(2007年12月刊行,Elsevier[Handbook of the Philosophy of Science: Volume 5],ISBN:0-444-51541-0).エルゼヴィアからの新叢書の現物が届き始めた.頁数も重量も価格も,すべてにわたって重厚長大.全1200ページ余.→目次

 この本を含む叢書:Dov M. Gabby, Paul Thegard, and Joh Woods (eds.)『Handbook of the Philosophy of Science (16 Volume Series)』(2007〜2008年刊行予定,Elsevier).叢書全体の構成はすでに公開されている.これを見ると,物理学や数学の哲学といった古参から,比較的新しい生物学の哲学,さらには,生態学哲学なんていう巻もあったりする.個人的には,来年にも出る予定の生物学哲学(Vol. 3),そして統計学哲学(Vol. 7),生態学哲学(Vol. 11),人類学・社会学哲学(Vol. 15)といった巻が気になるなあ.

しかし,公費購入価格で「約40,000円/冊」という費用をいったいどこからひねり出すのか.年度末一括購入か,はたまたウラ金か(そんなものはどこにもないぞ).

◇ダーウィン関連情報 —— Mario A. Di Gregorio and N.W. Gill (eds.)『Charles Darwin's Marginalia. Volume 1』(1990年刊行,Garland[Garland Reference Library of the Humanities, Volume 7],ISBN:0824066391).これは Alibris で半額にてゲット./『Charles Darwin's Marginalia. Volume 2』(forthcoming, Garland).既刊の第1巻は単行本のマルジナリア,近刊の第2巻は雑誌のマルジナリア,そして最終巻である第3巻(未刊)はその他の刊行物のマルジナリアだそうだ.

◇曇りの昼休みは肌寒い.たった5.8度!(朝からほとんど気温が変わっていない) —— 歩き読み:Peter G. Ward『Out of Thin Air: Dinosaurs, Birds, And Earth's Ancient Atmosphere』(2006年10月30日刊行,National Academics Press,ISBN:0-309-10061-5[hbk]→目次)の後半章(第5〜11章)をイッキに読了.130ページあまり.かつて恐竜が繁栄したのは低酸素大気への適応に成功したからなのよ,恒温性や胎生も低酸素への対応として進化したのよ,etc. というストーリー.今年の春に出たニック・レーン(西田睦監・遠藤圭子訳)『生と死の自然史:進化を統べる酸素』(2006年3月20日刊行,東海大学出版会,ISBN:4-486-01657-2→目次)と重なる内容があるが,語り口はこっちの方が一般受けするかも.

◇午後1時45分から2時半まで,〈形態測定学講義〉の第26回目.続く第11章「Partial least squares analysis」に進む(pp. 261-265).たいへん勉強になる章.(重)回帰分析の例を取ると,説明変数(x)と目的変数(y)という「変量ブロック」を事前に設定したとき,回帰分析は「xによってyを説明する」という方針の分析をする.一方,PLS分析では,「説明変数 vs. 従属変数」という対置をアプリオリに置かず,変量ブロック全体から導いた“潜在変数”(特異軸 SA)によって各ブロックを説明しようとする.また,主成分分析(PCA)とPLS分析は分散共分散行列を直交分解するという点ではよく似ている.しかし,PCAが説明変数x(n変量から成るとする)に関する(ブロック内)分散共分散行列 x'x(n×n型)の固有値分解を行なうのに対し,PLSは説明変数x(n変量)と従属変数y(m変量)のブロック間での分散共分散行列x'y(n×m型)に関する「特異値分解(singular value decomposition)」を行なうというちがいがある.さらに,正準相関分析(CCA)とPLSとは,変量ブロック間の関連性を見るという点では似ている.しかし,CCAが群間/群内が最大になるように正準軸を設定するのに対し,PLSは変量ブロック間の共分散を最大化する.したがって,両者は目的関数が異なっている.

◇東大出版会からの近刊 —— 金子之史『ネズミの分類学:生物地理学の視点』(2007年12月中旬刊行予定,東京大学出版会[ナチュラル・ヒストリー・シリーズ], ISBN:4-13-060188-1).かつて生物地理学会大会で金子さんに初めてお会いしたとき,「私は徳田御稔の最後の弟子です」と言われたことを今でも記憶している(一瞬,引きました……).

◇午後のこまごま —— 南保くんの修論についての打合せ.すでに書く準備はできているので,まずは全体の目次構成を出してもらうことにした./ チタン印鑑を本格的に使うことにして,事務に印鑑変更の届け出をすませる./ さらに別件の原稿督促あり.書きます書きます.

◇夕方5時前に帰宅し,ここのところせっつかれているプレッシャー原稿たちと格闘する夜.

◇夜の隙き間読書 —— 昨日いただいたNPO法人サイエンス・コミュニケーション+日本評論社編集部(編著)『理工系&バイオ系 失敗しない大学院進学ガイド:偏差値にだまされない大学院選び』(2006年11月20日刊行,日本評論社,ISBN:4-535-78414-0→目次版元ページ)をするすると読了.この手の本は“高速読書”に向いている.ぼくらが大学院にいた頃とは様変わりしている情勢を知ることができたのは幸いだった.おそらく,これからの大学院生の「キャリア」のつくり方も,その前に「キャリア」観そのものもさらに変わっていくのだろう.

本書には,大学院に進学した後のさまざまな人生の「分岐」(“ツリーモデル”という表現を知った)の実例がいくつも挙げられている.しかし,身近に見聞きしたかぎられた経験だけでは,全体を見失う危険がいつもある.ひょっとしたらもっとたくさんの事例(というか可能性)が他にもあるのかもしれない(本書のサポートページ:http://scicom.jp/grad-book/ が補ってくれるだろう).

 われわれの世代が20年前に実際に体験した1980年代の「オーバードクター問題」は,当事者にしてみればいつまでも続く「暗闇」のように感じられたのではないだろうか.しかし,今にして思えば,その「暗黒の時代」は意外に短かく10年あまりで終焉した(当時の好況な景気という追い風もあったのだろう).振り返ってみれば,ほんの短期間のできごとだったようにも思える.

 そう考えると,本書の“賞味期限”は予想以上に短いかもしれない.紙として世に出た時点ですでに情報は古くなり始めているから.それでも,これからの大学院生にとってさまざまな可能性と道が開けているのだ(あるいは積極的に拓いていくのだ)という自覚を促した点で,さらにいえば今から20年後にきっと帯びるはずの記録性という点で,本書の出版は意義があっただろうとぼくは考える.

 いまの大学院生やこれからの大学院生はもちろん本書を手に取るだろう.しかし,その上の世代,あるいははるかに上の世代であっても,さまざまな思いをもって本書を手にしたいと思う潜在的読者は少なくないにちがいない.

—— などとよそ見していて,懸案のプレッシャー原稿たちはいっこうにはかどらず…….

◇本日の総歩数=14055歩[うち「しっかり歩数」=8551歩/74分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=+0.3kg/+1.2%.


4 december 2006(月) ※ 氷点下の冬空に満月がくっきりと

◇午前1時に自然起床.夜中の研究所に直行する.星空に満月が白々と輝く.気温はすでに氷点下0.3度.この冬初めてのマイナスだ.明け方にはもっと下がっているだろう.

◇真夜中のいろいろ —— まずは『遺伝』の原稿を.「1600字程度」という中途半端な分量ではある.生物学哲学の展望について書くべし.まずは文献リストをつくって土俵づくり./ 文一総合出版に新住所の連絡./ 東大の集中講義の“救済策”について連携教員の間で相談しないといけない.

 ついよそ見して,オンライン古書店をあれこれ物色してしまう.夜中に何やってんだか.英語圏の古書は〈Alibris〉でたいてい見つかるのだが,非英語圏はあまりカバーしてくれない.ドイツ語・オランダ語・フランス語などの古書は,むしろ〈AbeBooks〉の方がヒット率が高いようだ.それにしても,ヘッケル没後の1920年代に山ほど出た「ヘッケル評論本」のほとんどすべては今では忘れ去られているなあ.げ,『Franziska von Altenhausen』への Agnes Haeckel のコメント本(1930)ですかあ? 「主」亡き後,すでに逝った愛人に対して残された本妻がいったい何を言うのか……(こわ).あ,先妻 Anna Sette との往復書簡集も出てるぞ(へっける御大は罪だ).※『死と乙女』というのはそこはかとない世紀末的爛熟さが香るのですが,Di Gregorio 本の章立ては『死と変容』になっているので勝手に変えるわけにはいきませぬ.

—— あれやこれやで明け方になった.原稿は午前中にはカタがつくだろう.午前5時の気温はマイナス1.3度,5時半にはマイナス1.8度.これが底だろう.自宅への帰路,露地に白く霜が降りていた.雲一つなくすっきり冬晴れ.寒い.

◇やっと現物を手にすることができました.献本感謝! —— NPO法人サイエンス・コミュニケーション+日本評論社編集部(編著)『理工系&バイオ系 失敗しない大学院進学ガイド:偏差値にだまされない大学院選び』(2006年11月20日刊行,日本評論社,ISBN:4-535-78414-0→目次版元ページ).午前11時に食総研の檀一平太さんが来室.初対面でぜんぜん知らなかったのだが,実はサイコムの理事にして,この本の編著者のひとりだ.オモテの研究面でも,食総研で「脳科学」とは!(しかもイヤリングにスケボーとは!) 上には上がいるなあ.バンダナくらいでは負けてるなあ.

◇件の原稿は午前中に仕上がり,午後1時半に『遺伝』編集部にメール送信した.遅れてごめんねごめんねごめんね.※「1600字程度」がフタを開けてみれば「2831字」になってしまったのだけれど…….

◇睡魔が降臨する昼下がり —— 結婚式の招待状を手渡しされる.おお,これはこれは.もちろん出席させていただきます,と返事を速攻で書いて手渡す.年明けて如月./ 計量生物学会の新旧理事会は12月14日(木)に東京理科大(九段)6F会議室にて.時間帯は,旧理事会16時〜17時/新理事会17時〜19時.出席予定.※この週は集中講義あり,忘年会あり(2件),会議ありでとってもめまぐるしい.

◇午後5時前に帰宅.さて,次なる原稿に取りかからないといけないのだが,うーむ,ちょっと眠気が…….

◇本日の総歩数=4399歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=0.0kg/−0.7%.


3 december 2006(日) ※ 外は冷えて内に引き蘢る暖かさ

◇午前5時に起きる.晴れて,とても寒い.この冬いちばんの冷え込みだろう.しかし,昼間は南風が入り,そこそこに暖かかった.しかし,夕方には北風に変わり,気温低下.センター広場のイルミネーションが寒風の中を輝く.

 外は寒いが,日が差し込む室内はとても暖かい.ずっと籠って締切を過ぎた原稿2件と「にらめっこ」をしているうちに時間が飛び去っていく.

◇こりゃ,明日の未明に持ち越しだ —— とあきらめて,午後9時前にさっさと寝てしまう.

◇本日の総歩数=3224歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=0.0kg/+0.2%.


2 december 2006(土) ※ ヘッケルがヘッケルを召還する週末

◇午前4時半起床.早朝の研究所は最低気温1.1度.今月に入ってからというものまっとうな寒さになりつつある.週明けはさらに冷え込むというから,氷点下の霜の朝はもうすぐだ.

◇早朝のこまごま —— メーリングリストの月例アナウンスを送る.今月は滞ることなくさくっと出せた./ 献本予告は食総研から:サイエンス・コミュニケーション『理工系&バイオ系 失敗しない大学院進学ガイド:偏差値にだまされない大学院選び』(2006年11月上旬刊行,日本評論社,ISBN:4-535-78414-0→目次).食総研にサイコムジャパンの関係者がいるとは意外だった.4日(月)に来所予定の伺い./ 東大の教員会議の今後の予定日の連絡あり./ 今月末の信州大学集中講義に関する連絡が松本から.え,サイン会?(ほー).高座も?(へー).了解です.「進化学と系統学の現代史:研究者ネットワークと越境的学問構築」という演題で話題提供することにした.先月の札幌での科学哲学会トークをベースにして噺をする.

 そろそろ来年の予定が入りはじめている.Filofax のイヤープランナーを早急に買わないと記録できない.

◇気温はなかなか上がらない.午前8時になってもまだ2度台の気温だ.しかし,日中は晴れ上がって,いい陽気になった.弱い南風が入ってきたせいか気温もちょうどよく,小春日和.

◇“ヘッケル”が“ヘッケル”を呼ぶ —— Mario A. Di Gregorio『From Here to Eternity : Ernst Haeckel and Scientific Faith』(2005年6月刊行,Vandenhoeck & Ruprecht[Religion, Theologie und Naturwissenschaft : Band 3], ISBN:3-525-56972-6→目次).先日,この伝記の存在に気づいて,すぐに調べてみたら,たまたま amazon.co.jp に1冊だけ在庫があることがわかった.即注文して,たった2日でもう手元に.さすがに早い速い.

 本書は全640ページもある「電話帳」だ.序論冒頭はカフカの〈変身〉に始まる.続く各パートはゲーテにちなんで,〈ファウスト〉,〈グレートヒェン〉,そして〈メフィストフェレス〉と題されている.エンディングは〈死と変容〉だって.いいなあ,こういうノリ.著者は1984年に T. H. Huxley 様の伝記を出している.ダーウィンの“マルジナリア”に関する編著もある.ハクスリーに続いてダーウィン,その次にヘッケルというのは大物ハシゴだな.

◇つくばセンター広場周囲のイルミネーション点灯式 —— 今夜からセンター広場の周囲の街路樹にイルミネーションが灯る.昼間から事務局テントが張られたり,人工雪が持ち込まれて子どもが群れたり,その他いろいろイベントが催されたりしていたが,夕焼けの夕暮れとともに点灯式があり,いっせいに点灯された.年末まで(年明けまで?)毎晩ツリーは輝き続ける.人通りの絶えた夜中近くに木々が青白色に浮かび上がるのは,ちと寒々しいかなといえないことはないのだが,毎年この季節の風物詩ということであっさり許してしまおう.もう少しすると,今度はセンター広場の内側に,〈つくば100本のクリスマスツリー〉がずらりと並ぶことになる.

◇この週末は,切羽詰まりの原稿が2件もある.明日には何としても書き上げないとイノチがない.

◇しかし,切羽詰まるとつい現実逃避の「よそ見」に —— ヘッケル“電話帳”をぱらぱらと.序論(pp. 17-25)では,まず本書全体の「射程」について述べられている.著者は,Robert Richards とはちがって(ということは Peter J. Bowler に近い立場で),ヘッケルはその知的出自から考えてダーウィンと異なる世界にいただろうという立場を取る:

Strictly speaking, Haeckel was trying to follow Lorenz Oken in his attempt to understand science philosophically and hand it down to an educated public. ...[中略]... Oken's view of science was highly Romantic. Along these lines, Haeckel has been seen by some scholars, e. g. Robert Richards, as the last Romantic scientist of the nineteenth century (Richards 2002). However, Oken, as well as Karl Vogt, Robert Chambers and others ...[中略]... had failed because they had unable to link their arguments with a view of science that was not only attractive to the public but was also shared by their fellow scientists. In other words, they had not popularized science but instead producef popular science, science's ugly sister. (p. 18)

著者は,ヘッケルについて知るには,後に彼がたくさん出した一般向けの普及書ではなく,最初の著作である『生物の一般形態学(Generelle Morphologie der Organismen)』(1866)こそきちんと読まないとダメだと主張している(p. 18).第4章では,ヘッケルにとっての magnum opus であるこの本について詳細に論じている.

その上で,当時のドイツの「ロマン主義」がヘッケルとダーウィンとを分ける壁だと著者は指摘する:

Thus, the position brought formard here is a slightly modified version of Bowler's argument that Haeckel was not a true Darwinian. ...[中略]... Romanticism, after all, was a major element in Haeckel's cultural make-up. The differences between Darwin's and Haeckel's ways of thinking are deployed where necessary. (p. 19)

本書では,ヘッケルに大きな影響を直接的に与えた3人が挙げられている.ひとりはヘッケルをイェナに招聘した解剖学者 Carl Gegenbaur,もうひとりはヘッケルに“Stammbaum”概念を吹き込んだ比較言語学者 August Schleicher,そして最初の妻である Anna Sette だ.Gegenbaur と Schleicher の影響は知っていたが,夭逝した Anna Sette がその死後も“永遠なる女性(ewig-weibliche)”(p. 547)として,現世のヘッケルに影響を与え続けていたことを著者は本書で示そうとしているらしい.

とすると,本書全体の構成がゲーテの〈Faust〉にちなんで分けられているのも理由のあることだ.第1部は知を希求する主人公ファウスト=ヘッケルの生い立ちと知的遍歴が述べられ,第2部では永遠のグレートヒェン= Anna Sette が師亡き後のヘッケルを導き,最後の第3部ではメフィストフェレス=時代のうねりに翻弄される晩年のヘッケルが“das ewig Weibliche”の手で天に昇るという台本が予想される.この「劇」の中で,二番目の妻 Agnes と愛人の Frida von Usler-Gleichen は悲劇的な役回りを演じることになる.その結末は,Agnes とその娘 Emma は精神を病み,Frida はアヘンで服毒自殺したと書かれている(p. 523).

—— BGM はもちろんグスタフ・マーラーの第8交響曲〈千人の交響曲〉第2部,最後の締めはリヒアルト・シュトラウスの〈死と変容〉か.

※※少し気になるのは,ドイツで出された本にしては,明らかな「校正ミス」が目につく点だ.

◇本日の総歩数=4771歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=−0.3kg/−0.6%.


1 december 2006(金) ※ 背中の銀杏が呼んでいる初冬の本郷

◇午前4時45分起床.晴れ.3.8度.きりきりと冷え込む朝.もう12月だし.

◇朝のプレッシャーとドロナワ —— 『遺伝』編集部から朝イチの電話あり.週明けが「デッドライン」だそうな(ひょえー).書きます書きます.週末に書きます./ と言いつつも,まずは目前に迫っている年貢納めに精を出すしかなく,脇目も振らず翻訳ゲラと格闘する.今回の翻訳泥沼に陥ってからというもの,すべての空白場所に朱を入れるワザが身に付いてしまった.隙間なくゲラのすべての「空きニッチ」に朱文字を書き込む(ワタシは空白を嫌う).ぴったり最密パッキングできたときの快感(?)といったら,もう……(○| ̄|_).

◇午前11時半からほんの30分ほど,〈文化系統学〉セミナーの第27回目:Chapter 13「Reconstructing the flow of information across time and space: A phylogenetic analysis of ceramic traditions from prehispanic Western and Northern Mexico and the American Southwest」(Marcel J. Harmon, Todd L. VanPool, Robert D. Leonard, Christine S. VanPool, and Laura A. Salter)を読み始める(pp. 209-214).文化系統を情報伝達の経路復元ととらえ,最節約法と最尤法での文化系統樹の推定を試みる.序論のところで,「中国の“マーシャル・アーツ”」の系統樹なるものに言及されていたのだが,いったい何なのだろう,これって.一瞬,『北斗の拳』の伝承系譜を連想してしまったのだが.

◇正午過ぎにばたばたと研究所を飛び出して(今日はほんとうは出張日なので研究所に来る必要はなかった),12時41分の TX 快速に走り込み,本郷へ.午前2時前に〈ルオー〉にたどりつき,海游舎の本間さんに翻訳原稿を手渡し,またまた1時間ほど「準カンヅメ」になってゲラ修正に励む.午後3時前に解放される.まだまだ先は長いぞ.ここでアリやミツバチに噛まれたり刺されたりするわけにはいかない.シロアリやアシナガバチが先で待ち構えているもんな.

 東大構内のイチョウは今が見頃.〈カヤシマ〉ベーカリーで巨大なチキンカツパンとピロシキを買い,東大農学部へ.午後3時から来年度の専攻紹介パンフレット作成委員会.最近の大学は学生を集めるためにとんでもなくエネルギーを使っていることがわかる.2時間ほどの会議で今後の段取りを決める.午後5時前に解放される.次回は12月18日(月),午後2時から打ち合わせ.

◇復路の車中読書 —— Peter G. Ward『Out of Thin Air: Dinosaurs, Birds, And Earth's Ancient Atmosphere』(2006年10月30日刊行,National Academics Press,ISBN:0-309-10061-5[hbk]→目次)を半分までささっと.論点がはっきりした本だ.全生物の進化史を「酸素の獲得」という点から見直そうとする.ところどころムリっぽい論の展開もあるのだが.仮説とテストの繰り返し.

◇寄り道したりせず根津から北千住経由でつくばへ.午後6時過ぎに帰り着く.オンラインで注文していたハンコが届いていた.ミラー仕上げにしたチタン印鑑は意外にもずっしりと重かった.これでもうひびが入ったりする心配はなくなったな.

◇「定速走行読書」と「坂道発信読書」 —— 速読にしろ斜め読みにしろ,いったん読み始めた本をほぼ定速で読み切れるというのは幸せなことだ.ぼくはほとんど読まないが,小説だったらそういう「定速走行読書」は比較的やりやすいだろう.しかし,多少とも専門的な本になると,定速走行がいつの間にか低速走行になり,気がついたら止まっていたということもよくある.

 ヘッケルやオーケンの本が新たに手元に集まってきたので,この機会に18〜19世紀の進化学史・形態学史の本を並べ直したのだが,私蔵しているこの分野の単行本を最後まで読み通していないことに気がついた.基本的に科学史の本なので,必要な箇所とか章だけ参照して放り出したという確信犯であればまだしも,明らかに通読する意志をもって読み始めたものの,途中で力尽きて放棄してしまったことがわかってしまうケースがあった(それも1冊や2冊ではない).

 ここ数日の日録に書影だけ載せている何冊かの本がそれなのだが,こういう「力尽きた本」を再読するのは,初めて読むよりもはるかに多大な決意と気力が必要になると思う.仮に「坂道発進読書」とでも呼んでおくが,力尽きたのはそれなりの理由があるからで,そこを乗り越えてさらに先に進むならまだしも,もう忘れてしまった既読部分を思い出そうとずるずると後戻りし始める危惧がある.途中から先を読み進めるのがいいのか,それとも観念して最初から読み直すべきなのか,悩ましい.ただ,ぼくの場合は,徹底的にマルジナリアを書き記す癖があるので,それだけ読めば速攻復習にはなるのだが.

 それにしても,500ページの本を200ページまで読んで挫折したとか,400ページのうち300ページまで頑張ったもののあえなく斃れてしまったという,ナミダなくしては語れない?本たちがうずたかく積み上がるというのは無念だ.

◇本日の総歩数=14523歩[うち「しっかり歩数」=6736歩/60分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=+0.1kg/+0.5%.


--- het eind van dagboek ---