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分類思考の世界

なぜヒトは万物を「種」に分けるのか


三中信宏著

講談社[現代新書2014], 328 pp.
ISBN:978-4-06-288014-5
本体価格880円[第6刷以降本体価格900円]

2009年9月20日第1刷刊行
2009年10月8日第2刷刊行 → 正誤表
2009年12月3日第3刷刊行 → 正誤表
2013年7月26日電子本刊行:eBook版Kindle版
2015年5月8日第4刷刊行 → 正誤表
2018年1月19日第5刷刊行
2021年11月8日第6刷刊行

講談社・現代新書ページ
残響録




長めの前口上:物語の幕が上がる前に

1.トリヴィア,マルジナリア,あるいは記憶の痕跡
2.「種」と「分類」の世界へようこそ

【目次】


プロローグ:生まれしものは滅びゆく(二〇〇六年オアハカ,メキシコ)



 第1章 「種」に交わればキリがない

  1.日本最低の山と日本最短の川(*10, *11, *21
  2.リンネから三〇〇年−分類学はいま(*13
  3.分類するは人の常(*10, *13
  4.開かれた難問=「種」の問題(*13

 第2章 「種」よ,人の望みの喜びよ

  1.仲間はずれのカモノハシ君 (*3, *7, *8, *10
  2.あるものはある,ないものもある(*4, *8
  3.問われない分類の存在論をあえて問う
  4.そして形而上学の聖なる泥沼へ沈んでいく

 第3章 老狐幽霊非怪物,清風明月是真怪

  1.虚ろな空間が不安である理由 (*1, *4, *9, *14, *15, *17, *18, *20
  2.共時的な多様性と継時的な可変性(*2, *4, *5, *9, *12, *14, *15, *17, *18, *19, *20
  3.今日のワタシは昨日のワタシか
  4.「心は妖怪の母と申してよろしい」

 第4章 真なるものはつねに秘匿されている

  1.秋深まる京都にてレトリックにめぐり合う
  2.引導をわたす哲学者:メタファーと類似性の関係
  3.秘匿されたメトニミーは何を見ているか
  4.ヒトは心理的本質主義者である

 第5章 いたるところリヴァイアサンあり

  1.群として生きる (*1
  2.群として進化する
  3.進化するものが「種」である
  4.リヴァイアサン,あるいは超個体としての群はあるか

 第6章 プリンキピア・タクソノミカ

  1.ルーツとしての『プリンキピア・マテマティカ』
  2.「種カテゴリー」をめぐる問題
  3.「種タクソン」をめぐる問題
  4.来たる時代の『プリンキピア・タクソノミカ』


インテルメッツォ:実在是表象,表象是実在(二〇〇七年ニューオーリンズ,アメリカ)



 第7章 一度目は喜劇,二度目は茶番

  1.過ぎ去った昔のことではなく
  2.ルイセンコ論争と種概念
  3.「種は現実に存在する単位である」
  4.隠れた水脈と隠された知脈を求めて

 第8章 つながるつながるつながるなかで

  1.“見えざる手”に遠隔操作され
  2.万物流転とイデアによる救済
  3.種をめぐる「本質主義物語」
  4.「わたしはわたしを見つけ出す」

 第9章 ナボコフの“ブルース”

  1.「種」は“システム”であってほしいか
  2.「本質主義」的方法論の終焉
  3.「蝶が私を選んだんだよ」

 第10章 目覚めよ、すべての花よ

  1.上野の森のダーウィン生誕二〇〇年祭
  2.グレの入り江に『種の起源』が流れ着く
  3.「神よ,御身は道を誤れり」
  4.“古い分類学”で何が悪い

 第11章 時空ワームの断片として

  1.木を見て,森も見る
  2.系譜はかぎりなく変化する
  3.四次元空間の“時空ワーム”
  4.「生命の樹」の断片として生きる

 第12章 「種」よ,安らかに眠りたまえ

  1.ゲッティンゲンの石畳を踏みしめて
  2.パウルとフランツィスカの物語
  3.ヒトは「種問題」とともに
  4.「記載の科学」から「分類の科学」へ
  5.コーダ —— 永遠なる「種」を慕って


エピローグ:滅びしものはよみがえる(二〇〇八年トゥクマン,アルゼンチン)(*6, *16



 あとがき:「分類のための弁明」に代えて
 私的ガイド付き文献リスト(現世で迷わないために)
 索引
 初出一覧
 
  →『本』連載記事〈生物の樹・科学の樹〉のコンパニオンサイト
  →『本』2009年10月号記事「分類思考:飽くなき好奇心の果てに見る人間性の淵源
  →『週間読書人』2010年1月8日号(第二部・特集〈新書のすすめ〉)記事「分類する者と分類される物のはざまで:人間の分類思考のルーツをたどる旅
 

 *1) 第3章第1節と第5章第1節は2011年の和光大学(一般入試・前期)の国語〈問題1〉に出題された.
 *2) 第3章第1節〜第2節は2011年の弘学館高等学校(佐賀市) 入学試験の国語〈問題1〉に出題された.
 *3) 第2章第1節〜第2節は2012年の桃山学院大学(泉佐野市)入学試験の国語〈問題1〉に出題された.
 *4) 第3章第1節〜第2節は河合塾・2012年度東北大学入試オープン(第2回)の国語〈問題1〉に出題された.
 *5) 第3章第2節は2013年の名古屋学院大学の国語〈問題1〉に出題された.
 *6) エピローグは2014年の東京電機大学(A日程入試)の国語〈問題1〉に出題された.
 *7) 第2章第1節は2014年の天理大学(天理市)入学試験の国語〈問題2〉に出題された.
 *8) 第2章第1節〜第2節は2015年の目白大学(東京)文系・医療系別統一入学試験の国語〈問題2〉に出題された.
 *9) 第3章第1節〜第2節は河合塾・2015年度直前講習高3・高卒東北大学国語〈第一講〉に出題された.
 *10) 第1章第1節と第3節および第2章第1節は2017年の女子学院中学校入学試験問題(国語)第2問に出題された.
 *11) 第1章第1節は2017年の富山大学芸術文化学部芸術文化学科の小論文入試問題(推薦入試・帰国生徒入試・社会人入試)に出題された.
 *12) 第3章第2節は2018年の法学館/伊藤塾の公務員対策試験講座教材に出題された.
 *13) 第1章第2節〜第4節は2018年の追手門学院大学入学試験問題(国語)に出題された.
 *14) 第3章第1節〜第2節は2018年の京都女子大学の国語〈問題1〉に出題された.
 *15) 第3章第1節〜第2節は河合塾・2017年度直前講習高3・高卒東北大学現代文テスト〈第三講1〜4[No. 491]〉に出題された.
 *16) エピローグは2019年の北里大学獣医学部の国語〈問題 I 〉に出題された.
 *17) 第3章第1節〜第2節は河合塾・2019年度直前講習高3・高卒東北大学現代文テスト〈第三講1〜4[No. 484]〉に出題された.
 *18) 第3章第1節〜第2節は英進館・2021年度新中三TZ春期講習テキストに出題された.
 *19) 第3章第2節は2020年度国家公務員試験(文章理解)に出題された.
 *20) 第3章第1節〜第2節は河合塾・2021年度直前講習高3・高卒東北大学現代文テスト〈21T00733・第3講1〜4[No. 2203]〉に出題された.
 *21) 第1章第1節は2024年度九州産業大学付属九州産業高等学校入学試験(専願)の国語〈問題1〉に出題された.

【口上】

私は分類する前に考えるのか、考える前に分類するのか
(ジョルジュ・ペレック『考える/分類する』)

歴史と時間に注目する「系統樹思考」とは,時空的に変化し続けるオブジェクトを私たちが理解するための「タテ」の思考とみなすことができるだろう.この「タテ思考」は,ひとつひとつのオブジェクトを変遷系譜に沿って互いに「つなぐ」ことによって全体を体系化するという考え方である.本書では,体系化のもうひとつの側面である「分類学」に目を向け,その基本理念(「分類思考」と呼ぼう)がどのように発現してきたかをくわしく考察する.「系統樹思考」が「タテ思考」ならば,「分類思考」は「ヨコ思考」である.分類思考は,オブジェクトの時空的な変遷に目を向けるのではなく,ある時空平面で切り取られた「断面図」のパターンを論じる.私の基本的な理解は,「タテ思考(系統樹思考)」と「ヨコ思考(分類思考)」はともに重要な車の両輪であるという点にある.多様なオブジェクトがかたちづくるタペストリーとしての世界を理解するためには,そのタテ糸とヨコ糸を解きほぐしてみる必要があるだろう.系統樹思考と分類思考では問題設定がそもそもちがっている.どちらかひとつで事足れりというのは短絡的な考えといわなければならない.系統樹思考はオブジェクトどうしを「つなぐ」ことによって体系化を目指す.一方,分類思考はオブジェクトのパターンを「わける」ことによって体系化しようとする.「つなぐ」ためには「樹(tree)」が必要となる.そして,「わける」ためには分割された集合すなわち「群(group)」が必要となる.本書の中核的キーワードである【種(species)】の概念はこの文脈で登場する.「種とは何か?」−研究者たちが長年にわたって問い続けてきたこの問題を,あるときは周縁からはるか遠くに臨み,またあるときは山麓から間近に見上げることにより,その“山容”を見極めるのが本書の目的である.

物事を分類し,分類することだけが科学だと心得ている科学的な人は
一般に,分類できることが無限にあり,
したがって分類しきれないということを知らない
(フェルナンド・ペソア『不安の書』)


Last Modified: 1 March 2024 by MINAKA Nobuhiro