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私は分類する前に考えるのか、考える前に分類するのか
(ジョルジュ・ペレック『考える/分類する』)
歴史と時間に注目する「系統樹思考」とは,時空的に変化し続けるオブジェクトを私たちが理解するための「タテ」の思考とみなすことができるだろう.この「タテ思考」は,ひとつひとつのオブジェクトを変遷系譜に沿って互いに「つなぐ」ことによって全体を体系化するという考え方である.本書では,体系化のもうひとつの側面である「分類学」に目を向け,その基本理念(「分類思考」と呼ぼう)がどのように発現してきたかをくわしく考察する.「系統樹思考」が「タテ思考」ならば,「分類思考」は「ヨコ思考」である.分類思考は,オブジェクトの時空的な変遷に目を向けるのではなく,ある時空平面で切り取られた「断面図」のパターンを論じる.私の基本的な理解は,「タテ思考(系統樹思考)」と「ヨコ思考(分類思考)」はともに重要な車の両輪であるという点にある.多様なオブジェクトがかたちづくるタペストリーとしての世界を理解するためには,そのタテ糸とヨコ糸を解きほぐしてみる必要があるだろう.系統樹思考と分類思考では問題設定がそもそもちがっている.どちらかひとつで事足れりというのは短絡的な考えといわなければならない.系統樹思考はオブジェクトどうしを「つなぐ」ことによって体系化を目指す.一方,分類思考はオブジェクトのパターンを「わける」ことによって体系化しようとする.「つなぐ」ためには「樹(tree)」が必要となる.そして,「わける」ためには分割された集合すなわち「群(group)」が必要となる.本書の中核的キーワードである【種(species)】の概念はこの文脈で登場する.「種とは何か?」−研究者たちが長年にわたって問い続けてきたこの問題を,あるときは周縁からはるか遠くに臨み,またあるときは山麓から間近に見上げることにより,その“山容”を見極めるのが本書の目的である.
物事を分類し,分類することだけが科学だと心得ている科学的な人は
一般に,分類できることが無限にあり,
したがって分類しきれないということを知らない
(フェルナンド・ペソア『不安の書』)