本書をまとめるにあたって,私が参照したり引用した書籍や論文は少なくない.ほとんどの新書にはない文献リストを付けたのは,「分類思考」の裾野を見渡すためにはどれくらいの射程が必要であるかを読者に実感してもらうためである.けれども,これらの文献もまた分類すべきオブジェクトである.研究者にとって自分の専門分野に関係する文献は日々の糧である.にもかかわらず,それらの文献を分類することは実はたやすいことではない.本書は曲がりなりにも「分類」の本なのだから,読者はきっと目が覚めるような「名答」を著者に期待するかもしれない.しかし,私とてごくふつうの分類者としてのヒトなのだから,分類の迷宮に悩まないことはけっしてない.
ここでは,まったく別の視点から,この文献リストは,ひとまとまりの「全体」として,ある仮想的な一冊の大きな本あるいはヴァーチャル図書館をかたちづくっているとみなしていただきたい.つまり,「分類思考」に関係する古今東西の文献を蒐集した結果としてのこの文献リストは,「ひとつのもの」であるというメレオロジー的な視点の提案である.このとき,それぞれの書籍や論文は,その仮想本(あるいはヴァーチャル図書館)を構成する「部分」とみなすことができるだろう.
以下の文献リストは,「全体」としてはアルファベット順に「部分」を配列している.私は,個々の「部分」について,以下のような「タグ」ならびに「注釈」を貼り付けることで読者の便宜をはかることにした.
「タグ」の一覧表:
これらのタグ(と注釈)は必ずしもすべての文献に網羅的に付けられているわけではないし,複数のタグをもつ文献もあることに注意されたい.前著『系統樹思考の世界』で注釈した文献もある.特定のタグを共有する文献の集まりは,分類と「種」に関するある側面もしくは過去の記憶あるいはコード(暗号)を再構成するだろう.その意味で私なりの「記憶術」(ロッシ 1984, イエイツ 1993)のひとつであるとみなしてもらってもいい.
ジョルジュ・ペレックは,その著書『考える/分類する』(2000年,法政大学出版局)の中で,「私は分類する前に考えるのか,考える前に分類するのか」(p. 119)と自省的に問いかけている.賢明なる読者は,この文献リストでの私の分類の試みを通じて,「分類の迷い」を追体験していただきたい.願わくばそれが「分類の血迷い」でないことを.
注記:本リストは現在進行形で増補改訂されている.関心のある読者は,本書のコンパニオンサイト(http://cse.naro.affrc.go.jp/minaka/files/SpeciesRIP.html)ならびに連載時のコンパニオンサイト(http://cse.naro.affrc.go.jp/minaka/files/hon.html)も参照されたい.