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日録2007年10月 


31 oktober 2007(水) ※ 街路のフウノキの葉が舞い散る明け方

◆午前4時起床.夜半に雨が降ったらしい.しかし,道路は濡れているが,もう上がっている.雲間の星空.気温13.1度.

◆明け方のこまごま —— 明日の駒場講義のためのハンドアウトづくりと出席票の印刷.そして,プレゼン用の Rcmdr の設定確認.出席人数が収束し始めているのはありがたい.無駄なコピーをしなくてすむしね.しかし,それよりも,もっとラクなのは,ハンドアウトの元pdfを公開してしまうことだ!ふと思い立ったのが災いのもと,ズルズルとhtml書き換えのドロヌマに引きずり込まれてですねえ……:

などと現実逃避トリップをしてしまったりしても,なお作業は延々とちまちまと続くのであった.

◆朝のうちに雲は消え去り“正しい秋晴れ”となる.街路のフウノキがそろそろ色づきはじめ,大きな黄葉やら紅葉が道路端に吹き寄せられるようになると,つくばももう晩秋だ.

◆ドロヌマからの生還 —— 午前いっぱいあれやこれやといじってみて,1) 租界〈R〉の大掃除をすませ,2) 古い配布資料を詰め込む倉庫を建て,3) 駒場でのハンドアウトを含め,今年度の統計研修での配布資料(pdf)を公開した.※ハンドアウトの必要な受講生は上記の租界〈R〉からダウンロードするように.その回の講義が終わりしだいアップロードします.

—— これでやっと一息ついた.何事もきっかけがないと最初の一歩が踏み出せない.

◆秋晴れ昼休みのアブダクション —— 米盛裕二『アブダクション:仮説と発見の論理』(2007年9月20日刊行,勁草書房,ISBN:978-4-326-15393-0 → 目次版元ページ)の後半章を読み終える.予想通り,最後まで「パースのアブダクション」に関する本だったが,帰納に関する箇所をクリップ:

ところで,帰納は一般化の方法です.ということは,つまり一次的帰納であれ二次的帰納であれ,あらゆる種類の帰納はある種の事象一般.あるクラスのすべての事象というような一般的事象 —— つまり一般化の対象となりうるような一般的事象 —— にのみ適用されるのであり,特定の事実の問題には適用できない,ということです.そして,帰納によって確立される立言はつねに普遍的(全称的)立言(たとえば,「すべての物体間に働く重力は……」という形の普遍的立言)でなくてはなりません.つまり,普通の帰納(一次的帰納)も仮説的方法(二次的帰納)も普遍的(全称的)立言を確立する思惟の方法なのです.(p. 168:著者強調)

ということは,いいかえると,仮説的方法は事実の問題にはかかわらない,つまり新しい事実の発見にかかわる仮説の形成には適用されないということです.新しい事実の存在を予測する立言は単称的立言であり,したがってそれは帰納(一次的および二次的帰納)によって確立された立言ではないので,それは仮説になりえない,というのです.(p. 169:著者強調)

この種の仮説 —— ニールはそれらを「歴史的仮説」(historical hypothesis)と呼びます —— は過去に起こった特定の一回的事実に関する単称的立言です.[……]歴史的仮説は物理学の仮説的方法によって確立される超越的仮説とは論理的性格がまったく違うものです.歴史的仮説が主張しているのは事実の問題(matter of fact)であり,しかし超越的仮説が主張しているのは原理の問題(matter of principle)なのです.(p. 170:著者強調)

◆雲が出てきた午後のこまごま —— ハンコのゴタゴタ.昨日やっと手にできたハンコを東大に送ろうとしたら,同封されてきた封筒の切手では郵送料不足だという.しかし,東大の封筒に農環研が切手を勝手に貼るわけにはいかないとのことで,私物の10円切手を4枚べたべたと貼り付けて出した.ううむ./ごめんなさい,ごめんなさい.勝手に早とちりして口外してしまいました.該当箇所は不可視にしましたので.かんにんやかんにんや./しかし,それ以上にやっかいな(というか気の重い)頼み事を電話でしないでね.前理事長からのツッコミ仕事ですから,できるだけ何とかしますがね.The Forbidden City of Tokyo./二号館からメールあり.「生物統計学」の試験実施について.出席点とレポートで成績評価しますので,試験は行ないません.

◆夕方,早々に退散する.日中はほどよく暖かかったが,日没とともに寒風が身に沁みるようになってきた.“ペン習字”の練習,なお続く.上達遅し.※もともとヘタ字なヒトなのでしかたがないのだが…….

◆明日からは霜月.つくばでの統計研修が2週間あって(11月5日〜18日),その間に講義が4つ.時間にして10時間分.その後,大分での湯煙り統計研修がまる3日間.こちらは独演会なので 6時間×3日=18時間ということになる.そのすき間を縫って駒場講義が4回ある.そんなこんなで,来月は21日間の労働日のうち,実に14日間が“とうけい”に費やされ,フリーなのはたった7日間.

◆本日の総歩数=9346歩[うち「しっかり歩数」=4213歩/37分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.6kg/−0.4%.


30 oktober 2007(火) ※ “犬”から“人間”に復帰して登攀

◆午前4時半起床.見上げれば星空,地表近くは立ちこめる霧.これから寒くなってくると,明け方は「霧筑波」と化すことが多くなる.気温11.6度.研究所にてメールチェック.丑三つ時に音羽から「原稿OK」とのメールが入っていた.幸先よろし.

◆こまごまが積もって山となる —— 今日中にちぎっては投げる書類の「山」あり.そのすべては年末までの出張届だったり年休届けだったり. —— 瞬時に現実逃避モードへと移行する↓

↑ということで,俗世間から神仙界へと abduct されそうになったが,再び現実世界に引き戻される.午前10時半から,勤務評定に関わる「評定者交渉」という組合の業務に参加.1時間半たっぷりと.まあね,いろいろ問題はありますよ,そりゃあ.

◆昼休みから書類書きを開始する.すべて書き終わったのは午後2時過ぎのこと:出張届(3件)+年休届(6件)+復命書(3件)+兼業届(7件)+希望調書(1件)の計20件.※いかにしても時間かかり過ぎ……./科研費の「絶壁」はまだ先だ.でも,今週中に何とかしないと,血圧が上がるにちがいない.

◆午後2時半から1時間あまり,『Modern Morphometrics in Physical Anthropology』の輪読セミナーの初回.Chapter 1 : Denice E. Slice「Modern Morphometrics」(pp. 1-45).40ページ以上もある形態測定学の概説論文.読了.大半の話題はすでに知っていることだが,ときどき新しい点が混じる.自然人類学が現代の形態測定学にとって格好の“実験場”となっていることがわかる.大部分は標識点座標に基づく幾何学的形態測定学の手法だが,後半で距離法(EDMA)やフーリエ法にも触れられている.singular warps というのがあったのか.等分散の場合の EDMA1 と不等分散の場合の EDMA2 という使い分けに注意(後者は parametric bootstrap で行列相関の検定をする).他の本では登場しないような比較的新しい方法までカバーされているが,それはこの論文週全体の特長でもある.

◆夕方のこまごま —— 来週から始まる数理統計研修の講師承諾書が今ごろ届いた./帰りにハンコを引き取って帰宅./進化学会評議員選挙管理委員の人選がピンポンのように戻ってきた(汗)./なつかしい「スピログラフ」がマックのウィジエットで登場したそうで.※でも,やっぱり紙と鉛筆でしょ.くるくる回した記憶あり.

◆帰宅後,夜の仕事は木曜の駒場講義の準備をば.

◆本日の総歩数=5227歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=+1.3kg/+1.2%.


29 oktober 2007(月) ※ “人間犬”調教されてシュンとなり

◆午前4時起床.星空と欠け始めた月.夜明け前に霧が立ちこめる.気温12.4度.“人間犬”になる今日は年休だが,いつもの習慣でつい研究所に来てしまう.

◆未明の古書探索 —— 先日届いた写本系譜学本:Walter Wilson Greg『The Calculus of Variants: An Essay on Textual Criticism』(1927年刊行,Clarendon Press, Oxford)は,Newcastle upon Tyne Polytechnic の大学図書館からの処分品だった(Class No. 801.95 / Accession No. 103547).原書は1927年の出版だが,ぼくが入手したのは1971年に Folcroft Library Editions として版元の Oxford University Press から復刻された150部限定のハードカバー版だ.これとは別に,オンデマンドのペーパーバック版だと今でも入手できるらしい.

1927年という年は,写本系譜学の古典がもう1冊出版されている:Paul Maas『Textkritik』(1927年刊行, Teubner, Tübingen).ドイツ語の原書第3版からの英訳本の方は,日本にも入っていてそのコピーはぼくも所蔵している.しかし,独語版の方は国内にほとんど所蔵がない.調べてみたところ,幸い「第2版」が古書として出品されていることがわかった.

次は Woodger 本.もともと Woodger の本はどれもレアものが多いらしく,『The Axiomatic Method in Biology』(1937年)にいたっては神戸の理研CDBにしか所蔵がない(誰が買ったのでしょう).ぼくがもっているコピーは故・太田邦昌さんからの孫コピーで,親本は故・白上謙一の蔵書だと聞いている.さすがに孫コピーともなると,活字がつぶれて判読しにくいところも出てくる.しかし,この本は古書価格だと平均して1万〜2万円台で入手できるからまだいい.問題は『Biological Principles』(1929年)で,こちらは出品されるたびに「5万〜6万円」という値が付く稀覯本と化している.しかし,調べたところ,1冊だけ「5千円台」という破格値がついている.いったいどういう現物かがちと心配だが.

あと,John R. Gregg『The Language of Taxonomy』(1954年)もほどよい価格のハードカバー版があったのは幸いだった.

—— ということで,早朝の古書ハンティングはまずまずの獲物が獲られた.

◆飲まず食わずで午前7時半に自宅を出て,徒歩でメディカルの検診センターへ.今日もいい天気だ.受付をすませた他の多くの“人間犬”のみなさんとともに,検査ベルトに乗ってあちらこちらの検査室に送り込まれる.約2時間ほど検査を終えてから,午後に個別の結果報告と指導.例年通りの「調教」を受け,ひたすら縮こまるしかない…….とりわけ,今年のわが“人間犬”はちと成績がよろしくなかったようで.

◆メディカルとの往復の歩き読み —— 最相葉月『星新一:一〇〇一話をつくった人』(2007年3月30日刊行, 新潮社, ISBN:978-4-10-459802-1)の最後の2章である第11章「カウントダウン一〇〇一編」と第12章「東京に原爆を!」を読む.どの伝記でもその真価は「晩年」の描き方にある.あれほどの名声を残した星新一はどうだっただろうか.一般読者による受容,戦後文壇との微妙な距離感,そして日本のSF作家とファンの人脈が織りなすタペストリーの中のどの一角を星新一が占めていたかが見えてくる.星新一のショートショートを少しでも読んだことがあればもっと感銘が深まるにちがいない.個人的には「要素分解共鳴結合」(p. 464)という“作家の極意”に膝をぽんと叩いたりして.

—— 歩き読むにはいささか時間がかかった本だったが,充実した歩行読書ができた.

◆夜はゆるゆると —— 明日からの平常労働日に備えましょ.

◆本日の総歩数=15083歩[うち「しっかり歩数」=11830歩/110分].全コース×|×.朝−|昼△|夜○.前回比=−0.1kg/−0.3%.


28 oktober 2007(日) ※ “人間犬”前日は台風一過の秋晴れ

◆午前3時半に目が覚めてしまう.体内時計がズレてしまったのだろうか.そのまま研究所に直行する.夜明け前の星空に lunatic になりそうな月が輝いていた.気温10.6度.お騒がせ台風20号は関東南岸を駆け抜けていった.昨日の風雨の名残が水たまりの残る道路のそこかしこに散乱している.骨折してねじれた傘の放置ゴミが目立つのは風がよほど強かったのだろう.台風なのに外出してはいけません.

◆明日の月曜は,年に一度の“人間犬”になる日なので,すでに年休を取ってある.今週は大きな「科研費書類山」に登攀しないといけないらしいので,そのための参考資料などを気休めにかばんに突っ込む(きっと手をつけないにちがいないが).午前7時過ぎ,すがすがしい朝日を浴びつつ,Brotzeitまわりで帰宅する.昨日は風雨で商売あがったりだった大清水公園のフェスティバルも今日はかけ声が元気そうだ.

◆休日のこまごま —— “人間犬”になるための問診票に記入したり,検体を確認したり,もちものをチェックしたり.今日は,夕ご飯を早くすませて,その後は暴飲暴食どころか,飲まず食わずになる.暴れないようにできるだけ自制しよう./医学書院『医学大辞典』の改訂版ゲラの提出期限が月末に迫ってきた.進化・系統学関連で14項目を執筆したのだが,いまざっと見直したかぎりでは,とくにアップデートする必要はなさそうだ.語句の加筆(英名の付加)をささっとすませたので,明日にも編集部に返送することにしよう.

◆あいまに「ペン習字」の練習をば —— ペン入力タブレットとディスプレイの場所がちがうというのがとまどいのもと.さすがに,画面タッチパネルのような自然さは望めない.とくに,細かい書き込みをするときの“精度”がなかなか向上しない.また,微妙な筆加減もまだ習熟できていないが,こればかりは慣れるしかないだろう./今回のことについて mixi でちょろっと書いたら,同調的なコメントがいくつか寄せられた.みなさん,実のところこういう“教壇わざ”を求めていたのかもしれない./さ,練習練習.

◆すっきり秋晴れになった日曜の昼間は,ほかほかと日射しが暖かい.確かに行楽日和だが,ワタシの辞書にその言葉はない.午後になってしだいに北風が通り抜けるようになった.ことのほか夕日が映える.午後7時前に食事をすませ,“人間犬”前夜の“断食”修行に入る.く…….

◆修業中の読書は当然ハードだ —— とある行きがかり上,Joseph Henry Woodger『The Axiomatic Method in Biology』(1937年刊行, Cambridge University Press)をぱらぱらめくっている.この本は,前著『Biological Principles: A Critical Study』(1929年刊行, Routledge and Kegan Paul)を著した Woodger が,A. N. Whitehead & Bertrand Russell の数理論理学の大著『Principia Mathematica』(1910-1913年刊行, Cambridge University Press)に触発されて,生物学における「公理論的体系」の構築を目指した著作に位置づけられる.本書の序文で,彼はこの本の目標は「生物学的代数学(biological calculus)」の構築にあると宣言する(Preface, p.viii).ここでいう「代数学」とは「公理的体系」と同義である(Chapter 2, p.18).だから,タイトルに偽りはない.

生物学史家 V. B. Smocovitis『Unifying Biology: The Evolutionary Synthesis and Evolutionary Biology』(1996年刊行, Princeton University Press, ISBN:0-691-03343-9)の中で,Woodger が同世代の生物学に及ぼした影響を評価している(Chapter 5, pp.100-114).もちろん,この点に関しては見解が分かれるところでもある(たとえば,Biology and Philosophy 誌における Joe Cain と Smocovitis とのやりとり:Vol. 15, pp.535-558, 2000).

しかし,Woodger からの影響の大きさとはまったく別のところで,『Principia Mathematica』の直接的な影響があったことを,つい最近届いたばかりの1冊の古書から知ることになった:Walter Wilson Greg『The Calculus of Variants: An Essay on Textual Criticism』(1927年刊行,Clarendon Press, Oxford).写本系譜学の古典でもあるこの本の存在は前から知っていたが,国内にほとんど所蔵されていなかったために,実物を手にする機会がまったくなかった.とくに,タイトルの「calculus」が何を意味しているのかが不明だったのだが,開いてみればそれは自明だった.この著者もまた『Principia Mathematica』に啓発され,本文批判の「代数学」すなわち「公理的体系」を構築しようとしていたのだ.

—— ともに『Principia Mathematica』に導かれ,同じ目標(「calculus」の構築)を目指したという点で,Woodger と Greg は“同志”だったといえるだろう.

◆本日の総歩数=2626歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=−1.3kg/+0.4%.


27 oktober 2007(土) ※ 完全に燃えつきた翌日はとても短い

◆徹夜仕事をするときは,必ず“大音響”をBGMにすることにしている.眠気覚ましと奮起効果を狙ってのことだが,今晩もマーラーとショスタコーヴィッチの揃い踏みだ.※うるさいのなんのって.

そのかいがあったのか,前夜からの原稿夜なべ仕事は進捗し,午前1時に第2節,午前2時半に第3節,そして午前4時過ぎに第4節を書き終え,午前5時過ぎに原稿を音羽にメール送信した.と思ったら,間髪入れずに受領の返事が.

最初の予定では,穏当にアレとソレを入れてまとめるつもりだったのだが,フタを開けてみれば,Nelson Goodman 御大がいきなり登場して表形学者に鉄槌を下し,澁澤龍彦系が怪しく跳梁跋扈するという荒れ模様の原稿になった(→『』).このところ毎回そうなのだが,予定していた内容と書き上がった内容とではかなりのちがいがある.本部屋の中で籠って原稿を書いていると,向こうのほうから「出番はないか」と声をかけてくるので,その都度キャスティングをいじっている.今回は御大が登場したために,予定されていた役者が何人か後回しになってしまった.

◆午前5時半によろよろと帰宅する.運転中はそうでもなかったが,歩きながら寝ているワタシがいる(夢遊病か).ふらふらと自宅にたどりつき,虫の息になる.外はなお雨が降り続いているが,今のワタクシには雨が降ろうが槍が降ろうが知ったことではない.

—— ということで,次に気がついたのは正午前だった.いやあ1日の短いことといったら…….

◆拙僧もペン・タブレットでお絵描きなど —— 前々から,講義中に「パソコン画面にダイレクトに“板書”できたらさぞラクだろうなあ」と思うことがたびたびあった.かつては,黒板や白版にチョークやマーカーで書くとか,OHPシートに“板書”するというワザを使うのがふつうだったが,そういう手はもう時代遅れとなってしまった.文字通りの“板書”が使える教室のサイズには上限があるし(後ろからは絶対見えない),OHPシートもそろそろ製造停止になるだろうから.しかし,それらの手書き板書に代わる後継ツールがなかなか見つからなかった.

プレゼン用スライドの主流が pdf あるいは(ぼくは使わないが) ppt になってからは,事前にコンテンツをつくりこんでそれを映すという点ではいいのだが,教壇で話をしながらちょこちょこアンダーラインを引いたりやコメントを書き込むというワザが事実上使えなくなったのはたいへん不便だった.もちろん,pdfであれば,Acrobat の注釈機能を使いまわすという手もあるのだが,ポインティング・デバイスとしてのマウスはいかにも鈍重でどうしようもない.これがちょっと前までの苦境だった.

ところが —— 京都の湯川秀樹生誕百年記念シンポジウムで,駒場の金子邦彦さんが,数式いっぱいの複雑系スライドの上から,どんどん線を引いたりコメントを記入したりしているのを目の当たりにして,タブレットPCという手があったかと思い至った.もちろん,計算環境をいきなりタブレットPCに移転させるわけにはいかない.そこで,次善の策を考えた.ポインティング・デバイスとしての最近の「ペン・タブレット」のラインナップをいろいろ調べたところ,たいへん安くてしかも高機能なものになっていたことを初めて知った.Windows / Mac OSX で共用できる機種も少なくない.

そこで,昨日帰りがけに,東新井の石丸電機に立ち寄り,〈WACOM Bamboo〉の「MTE-450/K0」という機種に決めた.溜まっていた石丸カードのポイントだけで買えてしまうくらい安かったのは幸いだった.このペン・タブレットは,Windows Vista のタブレット機能を利用するという前提に出た製品だそうだが,Vistaユーザーでなくても,ぼくのように Win XP / Mac OSX のユーザーでもまったく問題なかった.ちょこちょこインストールしてみた感じでは,たいへん使い心地がよろしい.というか,これまでペン入力を忌避してきたワタシはおばかさんだったかもしれないと反省しきり.無知はおそろしい.

こうして,書く“ペン”の方は調達できたのだが,次なる問題は“板”の方をどうするかということだ.これについては,Windowsでは手書き入力できるフリーの付箋紙ソフト〈PenMemo〉を使わせてもらうことにした.付箋紙サイズをウィンドウいっぱいに設定して,背景を真っ黒にし,白字でペン入力すると,まさに“板書”そのもの!

—— これでやっと,パソコンの上で“板書”ができる環境が整ったということだ.さっそく来週のコマバ生物統計学の講義から使ってみることにしよう.数式が板書できるというのは福音だ.まだ手書きペン入力に慣れていないので,字が超ヘタなのだが,そのうち慣れるだろう.

◆このような,教壇で役に立つ「わざ」のかずかずはきっと各教員の経験と記憶の中にはたくさんあるのだろうが,なかなか“共有知”にならないのがとてももったいないと思う.

◆昨日,トツジョとして発生した台風20号は関東地方を目指して高速接近中とのこと(「時速95km」っていったい何?).迷惑なことだ.隣の大清水公園では,つくばの農産物フェスティバルを土日に開催しているのだが,この雨では客足も遠のいてしまうだろう.積極的支援のため昼ご飯を調達しに行く.朝のうちはまだ雨だけだったが,午後になってしだいに風が強まってきた.関東に最接近するのは今日の夕方との予報だ.午後5時を過ぎて横殴りの風雨.ささっと駆け抜けていってくだせえ.

—— 風雨が強まってきた午後,フェスティバルは早々と店じまいしてしまったようだ.※あ,テントが風で横倒しに!(午後4時40分に目撃)

◆とても短い土曜日だったが,家の中でゆるりゆるりと過ごしましょう.こんな風雨では,どうせ外には出られないんだし.明日は台風一過の晴天になるだろう.夜遅くなって,やっと雨が止んだ.

◆本日の総歩数=1819歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=+0.9kg/0.0%.


26 oktober 2007(金) ※ 突然の台風発生.深夜のヒミツ仕事

◆午前3時に起床.研究所に直行する.曇り.気温15.6度.その後,小雨が降り出す.

◆朝から雑用こまごま —— 東大の専攻卒論ガイダンスの予定.11月13日(火),14:40〜16:10.各講座の紹介スライドを用意しないとか.ガイダンス後に懇親会があるとのこと.みなさん,よう呑まはりますなあ./『生物科学』編集会議の日程調整.12月1日(土)または8日(土).1日は統数研で行動計量学会シンポジウムに呼ばれているので,8日だったら大丈夫かと思っていたら,この日は葉山の総研大で HBES-J の年次大会があるらしい.ということは,両方ともダメか.

◆中間検討会 —— 午後1時からのRP中間検討会の資料をあわててつくる.ガシガシとつくって気がつけば12:55分.滑り込みとはこのことか.午後1時からRPリーダーとともに十数分のミーティングを行なう.今年は成績検討会が前倒しになって,12月の第3週あたりに成績検討会を実施し,年明け早々に報告書を出すことになるらしい.

◆着便本 —— 舟尾暢男『R Commander ハンドブック』(2007年8月13日刊行,九天社, ISBN:978-4-86167-191-3[CD-ROM付き]).これからは方々の〈R〉講義で R-Commander を使うことになるので,この本は買っておかないと.→版元ページサポートページ

◆午後になって,雨が本降りになってきた.南海上の熱帯低気圧がトツジョとして台風20号に大変身し,北東方向に向かって驀進を始めたらしい.明日土曜には関東地方に接近するという.こんな季節に迷惑なことだ.

◆連載原稿に取りかからせてくれない午後のこまごま —— 駒場の生物統計学受講者数をカウントする.昨日は74名.おそらくこのあたりの数字で確定することになるだろう./進化学会の評議員選挙に関する段取りを進める.まずは選挙管理委員の選出だ./J. C. Avise『Phylogeography』の翻訳出版は来夏予定./今日は,9月の首都大学東京での統計学講義のレポート締切日だった./雨はますます強くなる.

◆やっと原稿に取りかかれたのは午後4時過ぎのこと.ところが,台風の影響がもう現れているのか,雲行きがとても怪しい.どうせ今夜は研究所にもう一度来ないといけないので,ここでいったん切り上げて帰宅することにした.ところが,午後4時を過ぎて土砂降りになり,濡れ鼠で家にたどりつくことに.おまけに雷も鳴り始めた.とんでもない空模様だ.その後,いったん小止みになったのだが,しとしとと雨は降り続く.

◆午後9時前に再出勤.今夜中に連載原稿を仕上げるぞ.小雨がそぼ降る夜の農環研は気温16.7度だった.

◆本日の総歩数=5447歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=−0.3kg/+0.1%.


25 oktober 2007(木) ※ 窮鼠,コマバ村に雲隠れしたものの

◆午前4時半起床.もう少し早く起きるはずだったのだが…….晴れ.気温7.9度.北の風が秋の深まりを感じさせる.しかし,予報では,天気は西から下り坂で,明日は久しぶりの雨になるとのこと.しかし,朝のうちはからりと晴れて,午前9時半の気温は16.1度.

◆未明のこまごま —— コマバの生物統計学講義の受講希望者からのメールが次々と.70名くらいになるかも.今日の午後に2回目の講義があるので,それまでにまた増えるだろう./先月の首都大学東京のレポートがぱらぱらと届き始める.確か,今週金曜が締切だったような(うろ覚え).締め切ったら来月早々にも成績を出さないといけない./筆重く 朝から 原稿書き続け.まだ終わりませんわ…….

◆備忘メモ —— 先日のフランクフルトでの国際ブックフェア(Frankfurter Buchmesse)では,2009年の〈ダーウィン生誕200年〉を狙った出版企画がいくつもあったとのこと.再来年は日本でも「ダーウィン本」が何冊も出されるにちがいない.過去を振り返ると,1959年の〈『種の起源』出版100周年〉と1982年の〈ダーウィン没後100年〉のときは,多くの本が日本でも出版された.「2009年」はきっとそれを上まわるイベントが開催されるだろう.合わせて,生物科学学会連合や日本進化学会でも記念企画が組まれるし,生物オリンピックもつくばで開催されることになっている.イベントが続くということは,駆り出され動員の機会も多くなるということだけど.

◆快晴の朝もこまごま —— 科研費の本番作業はこれから.11月上旬が追い込みになる./水月昭道『高学歴ワーキングプア:「フリーター生産工場」としての大学院』(2007年10月20日刊行, 光文社[光文社新書322], ISBN:978-4-334-03423-8 → 目次書評).ぜんぜん知らないうちに,この書評に「はてな☆」が15個もまたたいていた.それにしても,この本,いったい誰がどのよう読んでいるのかが気になるところ.書評や感想が載ったウェブサイトやブログをまわると,事情を知っていそうな人たちはまっとうな読み方をしているが,当事者(またはその候補者)はけっこう深刻に受け止めているようだ.確かにすぐに解決できるような問題ではない.だからといって,この本はそのまま鵜呑みにしてはいけない.

—— 午後の駒場講義のハンドアウトをコピーしたり,スライドを調整したり,出席票代わりの記入用紙をつくったりで,あっという間に正午になった.

◆午後になって雲が多くなってきた.13:41発の TX 快速で東京へ.曇り.駒場東大前に降り立ったのは午後3時過ぎのこと.駒場下の〈河野書店〉で油を売ってから,102号館に入る.講義準備をしてから,早めに12号館の1225号室へ.前の講義は早く終わったのか,休み時間モードになっていたので,さっそくセッティングをする.定刻16:20に講義開始.2週間前の初回講義よりも心持ち空席が多いようだ.ハンドアウトの配布.今回の話の内容は,概論の続きと分散概念の導出まで.パラメトリック統計学の城門をちょこっと開けたところで,この日はおしまいにした.次回はパラメトリック統計学の牙城に突入しましょう.17:45.外はもう真っ暗になっている.コメント欄付きの出席票を回収したり,後片づけをしているうちに午後6時になってしまう.

—— 逆コースでつくばに帰り着いたのは午後8時だった.これから毎週木曜はこういう生活が続くわけだ.

◆窮鼠に逃げ場はない —— 講義直前の午後4時に音羽から再度の督促電話あり.参ったなあ.つくばに戻ってから何とかしないとマジでやばいのだが.

◆往復車中“現実逃避的”読書三昧 —— 円満字二郎『昭和を騒がせた漢字たち:当用漢字の事件簿』(2007年10月1日刊行, 吉川弘文館[歴史文化ライブラリー241], ISBN:978-4-642-05641-0 → 目次).前著:円満字二郎『人名用漢字の戦後史』(2005年7月20日刊行,岩波書店[岩波新書・新赤版957],ISBN:4-00-430957-3 → 版元ページ書評・目次)以来,この著者には注目していた.前著で提示された,漢字のもつ“かけがえのなさ(=「唯一無二性」)”という著者の主張を足場にして,近代日本のいたるところで見られた大小さまざまな「漢字事件」を掘り起こしているのがこの新刊である.当用漢字制定にともなう漢字使用をめぐる軋轢,そして旧字体から新字体への移り変わりがもたらした悲喜劇,そして何よりも水俣裁判での〈怨〉という字に象徴される漢字の「唯一無二性」と人々のこだわりが説得的に語られる.異体字に対する態度の硬化が最近の日本における漢字文化で目立ってきた点だと著者は指摘する.漢字に関心のある人にはきっとおもしろい読み物だろう.

—— 内容とはまったく関係ないが,本書の組版だと活字が低密度すぎて,サイズは大きいが文字数は新書を下まわっているかもしれない.とすると,この定価はちょっと高いかな.

◆ああ,原稿だ原稿だ.そーだそーだ.ごめんなさいごめんなさい.と,アタマをかきむしる夜…….書いてます.

◆本日の総歩数=10028歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜○.前回比=−0.2kg/−1.2%.


24 oktober 2007(水) ※ また追い詰められてあがいている私

◆午前4時半起床.晴れ.気温9.6度.明けの明星が輝く.

◆朝からいろいろと —— 組合の評定者実施日は10月30日(火)の10:30〜./追い込まれ原稿に手をつけるのだがちょっとイマイチで,ぜんぜん進まず.よくない.今日中にケリをつけないとまずいな./午前10時半の気温は18.0度.日射しも暖かく秋晴れ絶好調(天気だけはねえ……).

◆献本2冊(ありがとうございます) —— 平山廉『カメのきた道:甲羅に秘められた2億年の生命進化』(2007年10月30日刊行, NHK出版[NHK Books 1095], ISBN:978-4-14-091095-5).カメの進化といえばこの著者だ./中村桃子『〈性〉と日本語:ことばがつくる女と男』(2007年10月30日刊行, NHK出版[NHK Books 1096], ISBN:978-4-14-091096-2).

◆すっきり快晴の正午は22.0度.歩き読み —— 桂博史『中国温泉探訪記』(2007年6月15日刊行, 岩波書店, ISBN:9784000238403 → 目次)の残る章,第3章「中国温泉の美学――皇帝に愛された温泉」と第4章「中国温泉の真髄 農村温泉へ――伝統的中国温泉世界を見る」を読了.中国風の温泉リゾート地(「度仮村」)を離れ,旅路はしだいに中国の奥深く分け入る.そこには古くからの混浴温泉があり,畑の中の野湯もある.なんだかほっとしてしまう.日本や台湾の温泉の大部分は“火山性”だが,中国大陸に湧く温泉はほぼすべて“断層性”のアルカリ泉だそうだ.随所で,彼我の温泉文化のちがいを読者は知ることになる.できればもっと詳しいマップがほしいところだ.

◆午後1時半から1時間あまり,〈形態測定学講義〉の輪読43回目.最終章である Part IV: Last things の第15章「Beyond two-dimensional configurations of landmarks」をイッキ読み(pp. 385-405).本章では,まずはじめに三次元座標データに基づく幾何学的形態測定学の理論を概説する.しかし,代数的には行列計算の次数がひとつ上がるだけで,本質的なところでは何も変わらない.むしろ,三次元データをどのように取得するのかという実践的問題の方が大きい.また,三次元形状に対する仮想変形を計算する場合には,薄板スプラインのカーネルを変更しなければならないが(U=標識点からのユークリッド距離),その点を除けば本質的な差はない.

次に,標識点の拡張としての「準標識点(semilandmarks)」についての論議に移る.初期値としては,輪郭等分点・弧等分点・中心角等分点など恣意的に設定された準標識点をまず置くことになる.その後,“sliding”の操作を接線方向あるいは法線方向に施して,基準形状に対する屈曲エネルギーを最小化する最適配置を決定することになる.ただし,準標識点と正規の標識点とをどのように複合して解析を進めるかについては議論が分かれるところである.確かなことは,準標識点は自由度が低いので,パラメトリックではなくノンパラメトリックな統計手法を用いなければならないという点である.

—— 以上で本書をすべて読了した.次回からは:Denice E. Slice (ed.)『Modern Morphometrics in Physical Anthropology』(2005年,Kluwer Academic / Plenum Publishers,ISBN:0-306-48697-0 → 目次)の輪読を始める(→講義ページ).この論文集は,自然人類学分野での形態測定学の適用を論じた本だが,対象生物群には限定されない一般的な幾何学的形態測定学の諸手法についての新しい本だ.

◆原稿…….音羽から督促電話あり.冷たい北風に吹かれつつ,日没とともにすとんと暗くなった午後5時過ぎ,とぼとぼ帰宅する.原稿…….風が冷たく寒い夜になっても,原稿…….まだ書いてます.原稿…….※“汽笛”のごとし.

◆国際会議での口頭発表のティップス(研究室内外で見聞したことの備忘メモ) ——

【質問1】「壇上で原稿を読むべきか」:【私見】「絶対に読んではいけない」.一昔前なら,文字どおり「ペーパーを読む」という行為もありだったかもしれないが,いまではそれは禁じ手だろうと思う.もちろん,事前に十分な練習をしておくことは大切で,その際に(もし余裕があれば)発表原稿を準備しておくことは意義があるだろう.実際,海外の発表者はホテルでも会場でも,直前までトークの練習に余念がない.しかし,それはあくまでも“舞台袖”までのことであって,いったん“高座”にあがったならば原稿は人前で見せてはいけない.発表の言語が日本語でも英語でもそのことはいえる.目線を聴衆から離して手元を覗きこんだ時点で,そのトークは死んでいる.同様に,スライドを読むことも準禁じ手だとぼくは思う.まとめ:「とにかく読んではいけない」.

【質問2】「英語での質疑がこわい」:【私見】「アトラクタを埋めこむべし」.とくに英語(非母国語)での発表のとき,トークの後の質疑でまごつくことがある.これは想像すればすぐわかることだが,何を質問していいか困ったときほど,根源的でやっかいな質問がフロアから飛んでくる傾向が強い.だから,あらかじめトークの中で,質問されそうな“アトラクタ”を埋めこんでおけばいいと思う.つまり,あえて意図的に「質問してほしい点」をさりげなく撒いておくということだ.相手がそれに引っかかってくれればしめたもの.事前の用意しておいた“想定問答”の通りに受け答えをすれば,少なくとも心理的な“質疑恐怖症”からは解放されるだろう.まとめ:「自分の陣地にうまく誘い込め」.

—— 要するに,聴衆あっての口頭発表なのだから,トーク中は相手との「アイ・コンタクト」とか「心理的交流」をうまくこなそうということです.そして,予想通りの質問は落ち着いて,想定外の質問は愉しんで,国際会議をエンジョイしましょう.

◆本日の総歩数=11269歩[うち「しっかり歩数」=6309歩/56分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=−0.4kg/−0.2%.


23 oktober 2007(火) ※ 十三夜に迫りくる大波の予感に引く

◆午前4時半起床.晴れときどき曇り.気温11.3度.昨日ほどは冷え込まず.

◆朝から事務的こまごま —— 来週月曜の“人間犬”と化すための検査キットについて,厚生係に訊いてみたところ,自宅に届いているはずとのこと.要確認./昨日出した科研費に関する打合せ.コンテンツはこれから詰めないといけないが,まだ白紙……(汗).その他,さらにこまごまとしたこと.職員は出勤簿にハンコを押すことに対して給料が支払われていることを確認しよう./そのハンコのことだが,二号館に“供出”するハンコを新調しないと.近くの Dayz Town のハンコ屋に発注しよう.※メジャーな苗字ではないので三文判とはいえ店頭にずらっと陳列されている中にはない.発注すると割高になってしまうがしかたがない./先月と今月の主張復命書が出ていないとの指摘が./人事異動に関する「希望調書」の要旨が配られた.11月6日が提出締切.※毎年恒例のこと./別府統計研修のフライトについて通知する.

◆『』の11月号が届く:連載5回目「老狐幽霊非怪物,清風明月是真怪」(pp. 34-41).早くも5回目となり,400字詰にして100枚以上書いたことになる.次の第6回目の原稿はいまうんうんとうなっているところだが,今日中にどこまで書けるだろうか.

◆今日も快晴.昼休みの歩き読み —— 桂博史『中国温泉探訪記』(2007年6月15日刊行, 岩波書店, ISBN:9784000238403 → 目次).中国本土の最近のリゾート温泉が,いわき市の旧〈常磐ハワイアン〉をモデルとしてつくられていることを始めて知った(ただし“フラガール”は輸入されなかったようだ).第1章「中国温泉の謎――中国はいま,空前の温泉ブーム」と第2章「中国温泉の意味――知られざる温泉大国」を読んだだけだが,この行楽地感覚の温泉地は個人的には好みではない.むしろ“日式”が普及している台湾の温泉の方がなじみやすいかもしれない.

—— 午後1時の気温は22.7度.湿度も低く,実に快適な天気だ.

◆午後のこまごま —— 「幸福になれる本」に寄稿しませんかとのお誘いが…….瞬間的にかなり大振りにどん引きしてしまった…….どうしますねん.タイトルと趣旨をなんとかしません?/先週の湯川シンポジウムについて,講演スライドの公開とともに,当日の録画の公開に関する公開許可依頼のメールが基物研から来た.OKということで,よろしく.合わせて,来年出版される予定のプロシーディングズへの寄稿依頼.これは当然「了承」ということで返事する.刷り上がり12〜15ページの英文原稿を TeX で出せとの執筆要領./出張中に堆積していたメーリングリストの管理作業を少しばかり./木曜の駒場講義の配布資料づくりを始めてみたり.

◆夕方,淡い夕焼けが西空に広がり,やや欠けた月がもう空高く見える.今日は十三夜.ハンコ屋に発注をすませてから帰宅する.※納品は10月30日(火)午後になるとのこと.店頭に並んでいるメジャーな苗字だったら1,000円ですんだのに,発注したのでその2倍の値段になってしまった.マイナー苗字は物入りだ.

◆人間犬キットはぼくが雲隠れしている間に自宅に届いていた.たいへんお騒がせしました.

◆毎年のお勤め —— 来月の数理統計研修のテキスト(基礎編|応用編)が届いた.もうそんな季節なんだなあ:『数理統計短期集合研修(基礎編)』および『数理統計短期集合研修(応用編)』(2007年11月刊行,独立行政法人農業・食品産業総合研究機構).『基礎編』は249 pp.,『応用編』は307 pp.ある.かつてぼくが入省した頃までは養賢堂の『応用統計ハンドブック』が統計研修の“国定教科書”扱いだったが,今では参考書に格下げされている.時代は変わった.ぱらぱらと見た感じでは,ベイズ統計の章がだいぶ改訂されたようだ(林くん,エライ).基礎編は11月5日(月)〜11月9日(金),応用編は平成19年11月12日(月)〜11月16日(金)という日程で実施される.

◆夜,連載記事を書くための直前“泥縄”チェック —— Carlo Ginzburg (2005), Familienähnlichkeiten und Stammbäume: Zwei kognitive Metaphern. Pp. 267-288 in: Sigrid Weigel, Ohad Parnes, Ulrike Vedder, and Stefen Willer (Hrsg.)『Generation : Zur Genealogie des Konzepts — Konzepte von Genealogie』(2005年刊行,Wilhelm Fink Verlag[Trajekte : Eine Reihe des Zentrums für Literaturforschung Berlin],ISBN:3-7705-4082-4 → 目次).体系化における類似と系譜を対比させつつ,それがもたらすレトリックについて.原文は英語記事:Carlo Ginzburg (2004), Family resemblances and family trees: Two cognitive metaphors. Critical Inquiry, 30. 要チェック.

—— というわけで……,まだ終わってません.ごめんなさい.

◆本日の総歩数=8823歩[うち「しっかり歩数」=4542歩/41分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.2kg/+0.9%.


22 oktober 2007(月) ※ 冷え込む早朝から堆積岩を掘り崩す

◆午前4時半起床.きりっと冷え込む晴れた夜明け前は「6.6度」まで気温が下がっていた.この秋一番の肌寒さだ.

◆1週間ぶりに未明出勤したところ,予想通り,有象無象の書類やさまざまな郵便物などが積み上がっていた.ダイレクトメールなどなどは情け容赦なくばさばさっとゴミ箱へ直行させる.しかし,それでもなおしがみつく“トド”がいる.

◆これまた読了 —— 小宮正安『愉悦の蒐集:ヴンダーカンマーの謎』(2007年9月19日刊行, 集英社新書[ヴィジュアル版005], ISBN:978-4-08-720409-4 → 目次)の残りの章を読了.第4章「ヴンダーカンマー縦横無尽」は珍奇と怪奇に囚われた高貴なる人々の物語.ルドルフ二世とアルチンボルドはもちろん,アタナシウス・キルヒャーまで登場すれば配役としては十分過ぎる.続く第5章「バロックの部屋にて」は隠微で病的なオーラが漂ってとてもよろしい.こうでなければ(欲を言えばもっとカラー写真を載せればよかったのに).17世紀半ば,解体される美女の蝋人形づくりで名を売ったザンクト・ペテルブルクのフレデリク・ルイシュは,彼に続くフィレンツェのクレメンテ・スシーニらとともに,バロック時代の精神の系譜を体現している.最後の,第6章「ヴンダーカンマーの黄昏」は主役の退場である.バロックからロココへの時代の流れとともに,横溢する蒐集精神がしだいになりを潜め,それに代わって博物館的体系化に基づく,整理されたキャビネットからミュージアムへの道が開けてきた.

◆午前9時半.快晴.気温16.7度.朝のこまごま —— ポルトガル直送の白ワインをいただいた.ありがとうございます.Muito obrigado! /科研費関連書類は今日の正午までに出さないといけない.とりあえずは「申請理由書」なるものを一枚書けばいいそうな.とりあえず,書き上げて送信する.しかし,本体はこれから書くことになるので,まだまだ先がある.

◆秋晴れの昼休みの歩き読み —— 木村李花子『野生馬を追う:ウマのフィールド・サイエンス』(2007年8月20日刊行, 東京大学出版会, ISBN:978-4-13-066158-4 → 目次版元ページ)の後半2章を読了する.第3章はケニアのシマウマ,第4章はインドのロバ.とりわけ,著者自身が本腰を入れて取り組んでいる,インドの雑種ロバ「アドベスラ」をめぐる物語はとても印象的だ.長年にわたって在の社会や文化にとけこんできたアドベスラは,ほとんど伝説の動物のようにつかみでころがなく,なかなかその正体を現さない.しかし,染色体数が異なる野生ロバと家畜ロバとの一代雑種としてのみ存在するアドベスラは,その気性の荒さと力強さでインド亜大陸の辺境でさらなる伝説を生んでいる.

著者が本書末尾に記しているように,「フィールド・サイエンス」という学問があり,それに従事する「フィールド・サイエンティスト」という研究者の活動の場は確かにこういうところにあるのだろう.躍動的な野生馬の写真と彼らを取り巻く人間社会を撮った写真がたくさん載っている.こういう本は最近あまり出ないが,野生動物誌の本としてもまた文化人類学の本としても楽しめる内容になっている.

◆午後のこまごま —— “人間犬”と化す日が1週間後に迫ってきた.今週は禁欲あるのみだ.それにしても,メディカルから検査用品一式が届かないのだがどうしたことだろう./契約職員の賃金支払いに関する連絡.下半期について./東大からの給与支払いに関する事務書類.ハンコを新しく用意しないと.三文判でいいのだが,マイナーな苗字なのできっと発注しないといけないだろう./組合の勤評交渉日に関する連絡.今週から来週にかけて./『生物系統学』の注文を本郷に転送する.お買い上げありがとうございます./計量生物学会から先日の投稿原稿の別刷が届いた:三中信宏 2007「進化生物学と統計科学:系統樹の推定をめぐって」,計量生物学(日本計量生物学会), 28 (Special Issue 1): S25-S34(→目次).別刷がもしかしてほしい方はどーぞ.

◆献本感謝 —— 先週のうちに届いていた本:金明哲『Rによるデータサイエンス:データ解析の基礎から最新手法まで』(2007年10月25日刊行,森北出版,ISBN:978-4-627-09601-1).「第I部」の約60ページは〈R〉への導入である.本書のセールス・ポイントはむしろ230ページもある「第II部」にあるといえる.本書の基本テーマであるデータ・マイニングに必要な各種の統計解析が説明されている.最初は主成分分析やクラスター分析など広く使われているものが多いが,後半になると樹木モデルやカーネル法あるいはアソシエーション分析という他の本ではほとんど見ない手法も出てくる.→ 著者サイト版元ページ.著者サイトでは,〈R〉のソースプログラムと正誤表が公開されている.また,版元ページでは,「まえがき」とともに「詳細目次」を見ることができる.※「Rならできる。」というコピーは誰が考えたのでしょ.インパクトあるなあ.

◆夕方,音羽から督促あり.連載原稿は明日脱稿できればいいな.Conway Morris 訳の第1〜2章はさっそく返送します.

◆本日の総歩数=10255歩[うち「しっかり歩数」=4485歩/40分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+1.7kg/+1.2%.


21 oktober 2007(日) ※ 洛中その日その日(7):開始的終末

◆午前6時半起床.ついつい寝坊してしまったな.外はもう明るくなっていて,今日もすっきり快晴.気温は日中でも20度前後の涼しさらしい.早朝は10度台だ.日録を書いたり,メールを出したりする.

◆午前9時にチェックアウト.シンポジウム元締の村瀬雅俊さんに挨拶をする.年末までに基物研のプロシーディングズに原稿を寄稿しないといけない.シンポジウム自体は昨日で終わったが,新しい仕事がまた始まる.

◆烏丸御池まで荷物をがらがらと転がして,地下鉄のコインロッカーにぶち込み,そのまま東西線で終点の六地蔵に向かう.この地下鉄が醍醐から延長されて六地蔵まで到達したことにより,ぼくの実家は市内から至近となった.これまではいったん京都に出てから奈良線に乗るか,京阪で中書島乗り換えするかしかなかったのだが,洛中から30分弱の直行が可能になったのは助かる.

◆車中読書 —— 水月昭道『高学歴ワーキングプア:「フリーター生産工場」としての大学院』(2007年10月20日刊行, 光文社[光文社新書322], ISBN:978-4-334-03423-8 → 目次).読了.頭から「読んではいけない」とはいわないが,少なくとも「そのまま信じてはいけない」本.推論部分だけでなく,事実関係の詰めが甘いのがまず問題だろう.たとえば,「特認助教というのはまだない」(pp.119-120)とわざわざ付記してあるが,少なくとも一つの反例をぼくは知っている.また,かなりステレオタイプ的に描かれた大学の研究室像が繰り返し出てくるが,そのような“徒弟制度”的な研究室運営は自然科学系では少ないのではないか.さらにいえば,大学の教員の“出世スゴロク”もここに述べられているだけではないし,大学外の研究機関や企業研究者という本書ではほとんど論じられていないところまで含めれば,人事的な流れはもっと錯綜してくるだろう.

そういう細かいところでの事実認識にまちがいあるいはバイアスがあるので,それをベースにした本書の推論は,ときには仮想敵に対するアジテーションだったり,あるいは単なるペシミスティックな諦観だったりする.確かに,本書で著者がサンプリングした事例を読めば,これだけ大きな大学院生集団(さらにその延長線上のポスドク集団)がすでに形成されているのだから,ばらつきの幅は想像以上に大きいはずだ.その“平均値”がどのようであるのかはもちろん誰しも関心をもつことだろうが,本書でも示唆されているように(たとえば第1章で),その大学院生・ポスドク集団の中にさらにいくつかの“層”が形成されている可能性がある.とすると,それぞれのサブ集団ごとの事例サンプリングが必要になると思われるが,著者はそのうちの最下位サブ集団からの事例をことさらに強調している気がする.それらはジャーナリスティックには価値のある情報だが,この問題に対するバランスのとれた扱いという点では問題があると感じる.

もうひとつ付け加えるとしたら,国の教育政策としての問題(著者が強調する「高高学歴ワーキングプア問題」)と大学の経営戦略としての問題(たとえば「非常勤講師問題」)が混ざっていてすっきりしない.どちらもそれぞれ大きな問題で,しかも重なり合っていることははっきりしているのだが,分けて論じた方がいいのではないだろうか.

—— 本書を一読してみて,「“高学歴ワーキングプア”って言うな!」と言いたくなった.これでまた“新語”が変に流通してしまうじゃない.

◆六地蔵からてくてくと歩き,茶畑の間の坂道を登っていく.爽快な秋晴れ.実家で2時間ほど茶飲み話をしてくる.「最近の大学院生て就職できひんねんなあ」と母親の言(はいはい,もう読んだんかいなあ……).正午過ぎに実家をあとにする.逆コースで六地蔵→京都市役所前でいったん下車.寺町御池の〈アローン〉でひさしぶりの巨大オムライスを.その後,烏丸御池→京都駅(駅ビル2階のフロアに〈Café du Monde〉があったとは.ベニエ!).新幹線は14:26の「のぞみ90号」,東京着は16:46.TX でつくばに帰り着いたのは午後6時過ぎだった.

◆長い旅路はこれにておしまい.明日からはまた平日復帰だ.

◆本日の総歩数=8803歩[うち「しっかり歩数」=4324歩/40分].全コース×|×.朝○|昼×|夜○.前回比=未計測/未計測.


20 oktober 2007(土) ※ 洛中その日その日(6):快晴大団円

◆午前5時起床.よく寝た.まる一日降り続いた雨も夜のうちに上がり,曇り空.その後,晴れて快晴になる.早朝の周辺徘徊&イノダコーヒ.小宮正安『愉悦の蒐集:ヴンダーカンマーの謎』(2007年9月19日刊行, 集英社新書[ヴィジュアル版005], ISBN:978-4-08-720409-4 → 目次)の第2章「宇宙の調和を求めて」と第3章「術のある部屋」を読了.あやしさいっぱい.「Kunst」とは「芸術」にあらずとの著者の主張に惹かれる.

◆朝食後,シンポジウム会場へ.最終日ともなると,徐々に人が減り,あるいはチェックアウトした荷物を抱えて来る人もいる.いつもの学会大会でもそうだが,最終日特有の“疲労”と“寂寥”の合体感が漂う.まあ,みなさん,この長丁場をよくぞ乗り切ったなという感じで.午前最後のメディアアートな“日本文化シミュレータ”の講演は,“マツオカセイゴオ”がバックにいることがわかってしまった.

◆内職こまごま —— 『本』の原稿の続きを書く.でも,まだ1/4しか書けていない.先は長い.

◆大分巡業の段取り —— 来月にある大分県での統計研修の受講生が確定したとの連絡が届く.定員を越えたとのことで,正規受講生「16名」については,講義会場である県庁OAプラザのパソコンが利用できるが,選考から洩れた数名については自分でパソコンを用意すれば,聴講生待遇で受講してよろしいということしたらしい.※正規生も聴講生も実質的にはまったくちがいがないと思うのだけれど./宿泊先と航空券を手配しないといけない.まずは空路確保.「早割」だか「超割」だかは出発4週間前までに買わないといけないので,昼休みに四条通りにあるJTBに行ってさっそく買ってしまった:往路は11月18日(日)「JAL1787」で,羽田[11:35]→大分[13:20];復路は11月22日(木)「JAL1790」で,大分[14:15]→羽田[15:40].※あとは初日と最終日の宿泊先だけ.

◆午後になって雲が出てきた.日向はそれなりに暑いが,日陰は涼しい.湿度が低いせいだろう.今夜は気温が下がるそうだ./ヴンダーカンマー本の第4章「ヴンダーカンマー縦横無尽」を読了.病みつきになる人はいずこにもいらっしゃるということで.

◆こりゃまた“きゃっちー”なタイトル —— 水月昭道『高学歴ワーキングプア:「フリーター生産工場」としての大学院』(2007年10月20日刊行, 光文社[光文社新書322], ISBN:978-4-334-03423-8).全体をぱらぱらと見るかぎり,結論を出すまでの「サンプリング」が全体的に足りないのではないかと感じた.これだけ大きな「母集団」がすでにあるのだから,その中身のばらつきは予想以上に大きいだろう.だからこそ,“3σ”から外れたような少数例を,さも“平均値”に近い多数例であるかのような書き方をするのは誤解を招くと思う.また,この「黒幕」糾弾のスタイルはぼくの好みではない.もちろん,著者の問題意識は重要であり,そのような問題が現実にあることを知らせることには大きな意味があると思う.

◆1週間に及んだシンポジウムは夕刻にすべて終了したが,その前に中座.さらに,その後ちょっとした打ち上げ.疲れた疲れた.

◆明日は宇治の実家に立ち寄ってから,つくばへの長い帰路が待っている.

◆本日の総歩数=9957歩[うち「しっかり歩数」=3629歩/36分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=未計測/未計測.


19 oktober 2007(金) ※ 洛中その日その日(5):一転本降り

◆寝坊して午前5時半に目覚める.外はぽつぽつと雨が降り出していた.予報通りだが,昨日までの好天とはえらいちがいだ.あ,傘もってきてへん!

◆近くのコンビニで傘を買ってから,開店直後の〈イノダコーヒ本店〉旧館で本読みの続き:小宮正安『愉悦の蒐集:ヴンダーカンマーの謎』(2007年9月19日刊行, 集英社新書[ヴィジュアル版005], ISBN:978-4-08-720409-4 → 目次)の第1章「遊べ!ヴンダーカンマー」を読了.怪しい蒐集物を溜めこむ妖しい部屋.カラー写真がうまく使われている.

ホテルに帰って朝食ののちシンポジウム会場へ.外の雨はしだいに強まってきたようだ.昼過ぎには京都に来て初めての本降りになっていた.

◆新店舗に集う“みーはー” —— こんな雨の中にもかかわらず,今日オープンしたばかりの〈コトクロス阪急河原町〉に向かう昼休み.錦市場から四条河原町まではアーケードをたどっていけば濡れる心配はない.上層階の〈ブックファースト〉をざっと見歩いたかぎりでは,棚スペースが狭過ぎるのではないかな?(阪急を降りてすぐという地の利はあるけど) コトクロス自体がそれほど広くないので,書店もそれにフィットしてこじんまりしてしまったみたい.

用がなくなったので,さっさと退散し,ホテルに帰還するも,帰り道ではやはり足元が濡れてしまった.今日は外出にはまったく不向きな空模様なので,そのまま部屋に引きこもる.『本』連載原稿をさらに少し.

◆昼下りの曼荼羅講話 —— 今回の湯川シンポジウムは,さまざまな演題が朝食バイキングの“おばんざい”のように並んでいるのだが,その中でも楽しみにしていたひとつが,午後イチの曼荼羅講話だった:Musashi Tachikawa「The Mandalas: Its Structure and Functions」.要旨集には種智院大学の Motohiro Yoritomi が演者となっていたが,直前に変更されたのだろう.ハンドアウトを参照しながら,曼荼羅の世界観についての話を聞いた.世界が時空的に生成する過程での「断面」が曼荼羅だという点が注目される.直線的な時空軸を設定すれば,生成から消滅までの宇宙の歴史はちょうど“スウィートポテト”のようにイメージされる.その“芋の断面”が曼荼羅ということだ.しかし,もう一ひねりあって,この時空軸は直線的に伸びているのではなく,円形に曲がるため,死と生とが輪廻してつながるとのこと.胎蔵界曼荼羅と金剛界曼荼羅の特徴についても説明された.

その後,引き続いて,京大生態研センターの高林純示さんによる生態系ネットワークの話とか,人間の意識の問題とか.目くるめく講演テーマの“曼荼羅”だ.

午後6時から1階レストランで2度目の懇親会.今回の方がよりフォーマルだった.明日が最終日なので,そろそろ大団円を予期しつつ,京大“ナイル”ビールとか,お造りや鰊蕎麦とか.ぼくは午後8時頃に退散したが,終わる気配はまったくなし.

—— 一日中降り続いた雨も夜になってようやく小降りになったようだ.

◆参加者の一人である高木由臣さんからいただいた別刷:高木由臣 2007.「『種の起源』出版148年目の進化論」,日本史の方法(日本史の方法研究会), 6: 120-138.※この号では「生命における進化と人における歴史」という特集が組まれている.特集に含まれている他の記事は:麻生武「由来を考える精神:ナラティヴからロゴスへ」と小路田泰直「人における歴史の意味」のふたつ.

◆またまた早寝させてもらいますです,ハイ.

◆本日の総歩数=7568歩[うち「しっかり歩数」=2172歩/20分].全コース×|×.朝○|昼−|夜×.前回比=未計測/未計測.


18 oktober 2007(木) ※ 洛中その日その日(4):東山昼下り

◆予想通り,午前2時半に目が覚めてしまう.そのまま起きて,夜中に洗濯してみたり,日録やメールを書いてみたり,ごそごそする.

◆丑三つ時のこまごま —— 科研費がらみのことども:1) 農環研内の提出締切は「10月22日(月)」ですと!(ううむ).21日(日)につくばに帰ってからの作業ですかいっ.|もう1件,別口の科研費に加担しませんかというお誘いあり.今までの蓄積プラスαで何とかなるようでしたら,加わらせていただきます,という返事を書こう./東大農学部の専攻忘年会の日程調整(もうそんな季節? なんぼなんでも早過ぎません?).期日は12月5日(水)に設定したいとのこと.とくに問題なしです.今年はどこのお店でしょ.

◆備忘メモ —— 〈コトクロス阪急河原町〉が明日10月19日(金)にオープンする.四条河原町の「北東角」というロケーションは,相対する「南西角」の現・高島屋よりは有利かもしれない.そして,コトクロスの3〜6階には,2年前に六角から撤退した〈ブックファースト〉が戻ってくるという.これでまたまた大型新刊書店の洛中勢力分布に変化が生じるのだろう.

—— 見たがりはオープン早々押し寄せるにちがいない.※それはワタシ…….

◆今日の早朝徘徊 —— 東山方面へ出発.四条から祇園を経て,八坂さんへ.円山公園から左に折れて知恩院.そして青蓮院.東山三条へ抜けて帰る.開店したばかりの〈イノダコーヒ本店〉の旧館で読書をば:小宮正安『愉悦の蒐集:ヴンダーカンマーの謎』(2007年9月19日刊行, 集英社新書[ヴィジュアル版005], ISBN:978-4-08-720409-4 → 目次).装丁の基本が,同じ日に買った:佐藤明『バロック・アナトミア』(2005年5月31日刊行,トレヴィル/河出書房新社, ISBN:4-309-90637-0)と共通しているような.たとえば,黒字に白抜きのブラック・レターを配置したりとか.しかし,そういう外見的なことだけではなく,『バロック・アナトミア』が撮ったフィレンツェの「ラ・スペコラ」は,『愉悦の蒐集』には載っていないもうひとつの“Wunderkammer”であることは確かだ.特に,本書の第5章で2冊の本が重なってくる.

◆ホテルに帰ってから朝食.朝のこまごま —— 10月21日(日)は宇治へ./「タブレットPC」を使うと,講演中にプレゼン用スライドの上から字や線を“板書”できる.金子邦彦さんからの情報.実際,彼の講演ではとても効果的に用いられていた.スライド映写の場合“その場で書き込む”ことは基本的にできないので,話をしている途中で強調したい箇所とか補足説明を付記したいときにもどかしく思うことがよくあった.もちろん,たとえばpdfプレゼンであれば,線を引いたり囲んだりというような小技は使えるが,フリーハンドでどんどん記入するということはできない.その問題が解決できる道があるのはよかった./駒場の生物統計学受講生たちからのメールは断続的に届いている.

◆午前のシンポジウムの始まり.今日からやっと後半戦だ.これだけ日数も時間数も長い会議になると,蓄積疲労がしだいに効いてくる.参加者を見渡しても,フルにその場にいる人もいれば,選択的にのみ実在する人もいる.もちろん,最初から「部分参加」もありだ.参加者リストの上では約100名いるはずだが,シンポジウム会場に実在する人数は,絶え間ない入れ代わりはあるものの,定常的に50名くらいかな.

—— ちょい“内職”して Conway Morris のゲラ第2章を終える.まだまだ先は長いぞ.

◆午後は夕方まで公認の「フリータイム」.今日は天気がとてもよいので,単なる一観光客と化すことにしよう.御池から地下鉄東西線に乗って蹴上へ.疎水インクラインをくぐって南禅寺方面に向かう.季節柄,修学旅行生や観光客がとても多い.永観堂を一回りする.ここは紅葉狩りで有名だが,今年はまだ早い.日射しが強くて暑いほど.これは10月の天候ではない.天気予報では夏日になると言っていた.それにしても,これだけの人々がぞろぞろ連なるようでは,「哲学できない道」でしかない.疎水沿いを延々と歩いて,銀閣寺道から白川通りに抜ける.さらに下って百万遍方向へ.暑過ぎ.人多過ぎ.

途中,理学部5号館を急襲したところ,身のキケンを察知したらしい3階の某センセはいずこかへとんずらしてしまった.もうすぐ六本松にめでたく引っ越すことになった某君と話をしながら(よかったですね),1時間ほど待ち伏せしたのだが,敵もさる者,なかなか部屋に戻ってこない.別室の某氏に白羽の矢を打ち込んだのち,作戦変更ということで,進々堂にて『本』の連載原稿(第6回目)を書き始める(まだちょっとだけなのですが).その後,午後4時過ぎに再度攻め上がったところ,今度は成就.よろしくです.

◆夕刻,ホテルのまわりが高校生でいっぱいになる.隣の「松井本館」と向かいの「綿善旅館」はどちらも修学旅行生向けのホテルらしく,連日,生徒たちが出入りしている.今の京都は観光シーズンだから.

◆19日〜21日は動物行動学会大会が京大で開かれるので,知人たちが大挙して入洛するはずだ.ひょっとして日没後にどこかで顔を合わせるようなことがあるかもしれない.今回は昼間の行動圏がずれているので,遭遇するとしたら暗くなってからだろう.

◆日中の暑さと歩き疲れで今日はもうダメかもしれない.午後11時過ぎに沈没です.明日は雨になるとの予報.

◆本日の総歩数=21872歩[うち「しっかり歩数」=13564歩/127分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=未計測/未計測.


17 oktober 2007(水) ※ 洛中その日その日(3):有頂天徘徊

◆昨夜は遅めの寝入りだったのだが,午前4時にはもう起床してしまった.

◆未明のこまごま —— 進化学会関連の事務メールおよびニュース原稿についてのコメントとか.意外にめんどうな問題があるかもしれない./『生物科学』誌の「生物学哲学」特集をどーするかについての連絡メールとか.※長期間放置してすみませんでした.

◆“世界遺産”への散歩 —— まだ仄暗い午前6時過ぎに四条烏丸まで歩き,地下鉄に飛び乗る.北大路まで.府立植物園を左手遠景に見ながら,下鴨神社に向かう.境内を通って糺ノ森で霊気を得たのち(狸は見なかったが),出町柳から京阪に乗って三条へ.ホテルに戻ったのは朝日が射し込む午前8時だった.今日もすっきり秋晴れだろう.夜から明け方にかけてはきっと10度台にちがいないが,日中の暖かさは20度超.街中は長袖な人たちがほとんどだが(コートを着たはる娘さんも),昼間はどう考えても半袖でっせ.夜まで半袖なワタシは別格としても.

◆読み始め —— 森見登美彦『有頂天家族』(2007年9月25日刊行,幻冬舎, ISBN:978-4-344-01384-1).空を飛んだり,地を這ったり,化けてみたり,忙しいことですな.

◆朝食ののちシンポジウム会場へ.朝イチの金子邦彦さんの講演.彼の“複雑系生物学”の英訳が昨年出ていたことを初めて知った:Kunihiko Kaneko『Life: An Introduction to Complex Systems Biology』(2006年刊行, Springer Verlag[Understanding Complex Systems], ISBN:978-3-540-32666-3 [hbk] → 版元ページ).ついでに,もう1冊も:Kunihiko Kaneko and Ichiro Tsuda『Complex Systems: Chaos and Beyond — A Constructive Approach with Applications in Life Sciences』(2001年刊行, Springer Verlag, ISBN:978-3-540-67202-9 [hbk] → 版元ページ).こちらは,1996年に朝倉書店から出た本の英訳.

今日の午前の講演は,数理生物学・発生生物学・進化遺伝学という生物系だった.弁当をもらってから,翻訳ゲラのチェックを再開.

◆昼下がりの紙魚の行動 —— 御幸町の〈アスタルテ書房〉にもぐりこむ.澁澤龍彦やらサドやら人形やら解体図やら,そらもういろいろと.特に目を惹いたのが,金子國義の銅版画集:Kuniyoshi Kaneko『Métonymie』(1992年).本体は何十万もする絵画作品だが,せめて大判のパンフレットだけでも:Kuniyoshi Kaneko『Métonymie』(1993年刊行, アスタルテ書房, ISBN:なし).「換喩(メトニミー)」とは「部分-全体」のつながりによる関連性を表す修辞表現.そういう作品.他には:寿岳文章『本の正座 — 独語と対談』(1986年2月1日刊行,芸艸堂, ISBN:4-7538-0024-5).本の本.対談者の一人は栃折久美子.

寺町通りを北上する.途中に〈芸艸堂〉を横目に見て,〈三月書房〉に吸い込まれる.今日は「アヤしい系」の本に呼ばれる日のようだ:佐藤明『バロック・アナトミア』(2005年5月31日刊行,トレヴィル/河出書房新社, ISBN:4-309-90637-0).蝋人形かと思いきや,実は……(うわ)./ 小宮正安『愉悦の蒐集:ヴンダーカンマーの謎』(2007年9月19日刊行, 集英社新書[ヴィジュアル版005], ISBN:978-4-08-720409-4).洛中の「ヴンダーカンマー古書店」はもうまわってきたのですけどね.こういうテーマの本がここ数年新刊でときどき出ていることは知っていたが,新書になるとは.こわごわ覗きこむようなものか.また,解体された“リアル人形”だっ.

—— 結果的に,類書は友を呼ぶことになってしまった.

◆アヤしい系の収穫物を小脇に抱えて〈進々堂〉寺町店へ.百万遍の本店よりは雰囲気が健康的すぎるな.もっとアヤしくなってください.とても明るい店内で,Conway Morris の第1章ゲラをやっとチェック完了.一通りのことを終えてシンポジウム会場に戻る夕方.午後6時すぎ,その後,夕食があり,さらに夜の部のシンポジウム.午後9時過ぎにお開きとなり,ほどなく寝てしまった.

—— 京都に来てからというもの「超早寝,超早起き」が徹底している.

◆本日の総歩数=13034歩[うち「しっかり歩数」=6699歩/65分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=未計測/未計測.


16 oktober 2007(火) ※ 洛中その日その日(2):鍾馗の睥睨

◆昨夜の早寝のせいで午前2時に目が覚める.もう一寝入りしてから午前3時に起床.丑三つ時は心休まる.明け方までの静かで怪しい時間帯は大切にしないといけない.しかし,洛中に残っている方々の古い家々では玄関屋根の上で「鍾馗さん」が睨みをきかしているのでワルイことはできません.

◆未明のこまごま —— 昨夜のうちに駒場から履修メールがさらに何通か来た.連日ぽつぽつと届くので,ぽつぽつと返事を書く.「モグります」という正直な院生も含めて,これまでで20名あまりからメールをもらった./東京農大の突発的統計学講義の件.農大の先生からメールが届いた.厚木キャンパスではなく,世田谷キャンパスで開講とのこと(科目名「実験データ解析概論」).化学科(旧:農芸化学科)の学部学生が対象.開講時間については「夏学期の月曜日4限(14:40〜16:10)」という希望を出した.農環研は東京農大の農学科とはMOU契約をしているが,化学科とは結んでいないはず.とすると,依頼出張になるのか,それとも技会殿上人の御威光御意向による別の道があるのか,はてさて./進化学会出版事業に関わるメーリングリストの始動./あと,日録を書いたりとか.

◆夜が明けてすぐに,市中徘徊に出発.気温がだいぶ下がってきたようだが,歩き回るにはちょうどいい.柳馬場通りを北上し,東に折れて御幸町通りへ,三条通りを越えたところで〈アスタルテ書房〉の場所を確認して(ジュエリー・ハイツ2階:これじゃあ誰にも到達できないって……),御池通りを横断し,御所に向かう.砂利道を踏みしめて今出川通りまで到達,そしてぐるりと一回りしてから,寺町通りを南下し(新しい店が多過ぎるな),ホテルに戻った.こういう機会でもなければ,洛中をぐねぐね歩き回る機会はないしね.朝食後,今度は錦よりも南側のエリアを探索.四条通りの北側はだいたいわかるのだが,反対の南側は土地勘ゼロの terra incognita.高倉通りを南下してみる

◆午前のシンポジウム講演はすべて「脳」がらみ.大脳やや腫れてます.セレンディピティ能力の低下か.休憩時間に,東大理学部生物学科の事務室とメールのやりとり.駒場の出講に際しての給与支給に関する提出書類と押印について.そして,東京農大との講義打合せメール.いちど世田谷に出向いて話をする必要がある.シンポジウム会場では,カマジン本(「2008年初頭に出版予定」と手書きしてしまいましたが)のビラをばらまく.首尾よく出たら買ってください.買ってください.

◆本日の昼休みは,和室の休憩室でゆったりお弁当.その後またまた河原町方面をぐるりと徘徊する.この繁華街エリアの「書店存在マップ」がここ数年の間に大きく変わったことを実感する.駸々堂書店や丸善など古くからあった大書店が次々になくなって,その空きニッチに進出したのが,たとえば河原町BALに入っているジュンク堂書店だったり,河原町通りをはさんで反対側にあるMOVIX京都内の紀伊國屋書店だったりする.古書店分布は漸減ではあったとしてもあまり大きく変わってはいないと思うが,新刊書店分布は確かに大きく変わった.

洛中の新刊書店分布にこだわるのは理由があって,『系統樹思考の世界』を「3冊」入手する必要に急に迫られたからである.新刊ならぬ新書というのは基本的に各店舗に並んでいる“現物”のみであって,余分な在庫はまずないと思った方がいい.だから「3冊」欲しければ,「3店舗」をまわる必要がある.最初にジュンク堂BAL店に行ったところやはり「1冊」しかなかった.レジ担当の女性店員が「四条烏丸店にもあるかもしれませんので確認します」と親切にも電話してくれたところ,幸い「1冊」あったので取り置きしてもらった.四条烏丸に向かう途中に紀伊國屋MOVIX店に立ち寄ったら,またまた幸い「1冊」並んでいた.これでやっと必要部数を手にできた.※自分が書いた本を足を棒にして捜し回るというのは何たることか.

◆午後はポスター発表がある.全部で15件のポスターが貼られ,中にはインドから来た研究者による「J. B. S. Haldane's Indian Period」という興味深いものもあった.晩年をインドで過ごした遺伝学者 Haldane がインド科学界に与えた影響はとても大きかったそうだ.当時の遺伝学を“Beanbag genetics”だと批判した Ernst Mayr に対する Haldane の反論がおもしろい.※そういえば,Haldane の分厚い伝記が訳されたことがあったが,あれはもう入手できないんだろうねえ.

◆1階レストランで夕食をすました後,午後8時からシンポジウムの再開.この長丁場にもちこたえるには体力と精神力と“遊び”が必要だ./いくつか返事しなければならないメールが届いているのだが,すぐに返事を書きますからね.ごめんなさい.

◆本日の総歩数=21046歩[うち「しっかり歩数」=11680歩/115分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=未計測/未計測.


15 oktober 2007(月) ※ 洛中その日その日(1):宿で井戸水

◆午前2時半起床.前夜の早寝が効いて,またまた丑三つ時にむっくりと.日録を書いて,さらに今日の講演スライドをがしがしとつくる.

◆日本語スライドではもうできあがっているのだが,その“英語化”でじたばたする未明.もとがpdfなので,最初はそのままInDesignに読み込んで,上から英語の“シール”をぺたぺた貼っていけばいいかと考えたのだが,Windows版のInDesignだと画像の入ったpdfを読み込むときに,画像部分だけが抜け落ちることがわかった.PowerBookだったらこういうことはないのだが,先月,南大沢で宙を飛んで昇天してしまった影響が京都に来て現れるとは思わなかった.しかし,講演6時間前にそんなことを言っていてもしかたがないので,奥の手としてAcrobatの「高度な編集」メニューにある「テキストフィールド」機能を用いて,pdfの上に新規に文字を貼りこむことで何とかすることにした.これなら,InDesignではなく元のpdfファイルの編集ですむ.

—— そんなこんなで午前7時にやっと46枚の“英語スライド”を完成させ,これでもう安心だ.講演原稿などというものはこれまでつくったことがないので,あとはやることがない.

◆講演準備がなんとか完結したので,ホテル1階のレストランで朝食バイキング.ほほー,朝から“おばんざい”がずらりと(と言っても,こちらではいつも食べているものなので,実家に帰ってきたようなものか).このおかずだと,パンではなく,米の飯しかないだろうな.今回のシンポジウムを切り盛りしているオーガナイザーの村瀬さんに挨拶する.招待していただいてありがとうございます.参加予定者およそ100名のうち2/3はすでに来ているとのこと.海外を含めて遠方からの参加者は全員がここコープイン京都に滞在する(究極の職住一致).シンポジウム会場は2階の大会議室が当てられている.「湯川秀樹」の生誕百年を記念する今回の企画は,主催する京都大学基礎物理学研究所の大きな公式行事なので,期間中の何日目かには所長や副学長が視察に来るそうだ.

◆京都の市内はもともと地下水が豊富なのだが,このホテルでは全館の使用水を地下水でまかなっているらしい.だから塩素やらカルキの臭いがまったくしない.ロビーには地下水の「試飲コーナー」まである.温泉場の「飲泉所」と同じ趣向か.朝食後にホテル周辺を徘徊する.錦市場はまだ静かだった.

◆午前9時の定刻にシンポジウムは始まった,最初に村瀬さんからの開会挨拶が20分ほど,そしてぼくの講演:MINAKA Nobuhiro「Historical reasoning and abductive inference in phylogenetic reconstruction」.一般化された系統学における推論様式について,C. S. Peirce の“アブダクション”をキーワードとして論じた.とくに,仮説の真偽それ自体ではなく,その時点での「最良の仮説」を他の対立仮説との競争のもとに選択するという「intellectual guess」の連続がアブダクションの根幹であること.Peirceの場合は,データが与えられたときにそれを説明する仮説への跳躍(leap)が必要だと考えたのだが,系統学の場合はOTU数が確定した時点で「系統樹探索空間」が自動的に決まる.したがって,最適解への跳躍ではなく,発見的に最適解が探索できるかどうかがむしろ問題となる.しかし,OTU数の増大とともに探索空間が組合せ論的に爆発するのが実践的には障害となっている.いずれにせよ生命界の mandala としての The Tree of Life はその理解にとって不可欠であり,2005年に新発見された J. S. Bach のカンタータ(BWV 1127)の題名をそのまま借用するならば「Alles mit Stammbaum und nicht' ohn ihn」である —— というようなトークを約30分弱話した.

質疑はおよそ20分(長かったなあ).物理学者が多いこのシンポジウムでは,予想されていたことではあるが,「アブダクションというのは推論としては“弱過ぎる”のではないか」と訊かれた.確かに,そのとおりなのだが,それが歴史推論の根幹であることもまた事実.系統推定における因果性についても問われたが,いまの系統学が用いているイコンとしての系統樹には,基本的に「時間軸」とか「因果性」は含まれていない.だからこそ,樹形が推定されたあとでそういう要素を付加しているわけだ.パターン分岐学の「分岐図」はもともとそれを意図して,Hennig 的な系統樹概念からの余分な要素の削ぎ落としをしてきた.その遺産はしっかりと継承されている.むしろ,最良の系統樹が得られた時点で,その系統樹と整合的な因果仮説の部分集合が決まると考えれば,歴史的因果性は系統樹のあとからやってくると見なすべきだろう.

—— とまあ,こんな感じでぼくの出番は10時過ぎに終わった.村瀬さんに講演スライドを手渡す.基物研のプロシーディングズへの寄稿は年末までとのこと.

◆一人1時間という長丁場の講演が続く.通常の学会で言えば,朝から晩まで「特別講演」を聴き続けるようなものだ.昼休み,参加登録デスクで名札をもらう.ランチは別室にてお弁当が支給される.外は快晴だ.午後の開始は午後3時前からなので,再び周辺徘徊に出発し,隣筋の〈イノダコーヒ本店〉にて Conway Morris ゲラのチェックを進める.ホテルに戻って午後のシンポジウム.細胞分裂やら生物情報論やら鳥のさえずりやら,この演題の多様性には目くるめくものがあるな.午後6時半に初日の講演がやっと終わる.ほどなく,1階レストランにて歓迎立食パーティが始まる.百人近くも参加者がいるのに,ぼくの知人はほとんどいない.神戸から来た郡司ペギオ幸夫さんとか,駒場から来た金子邦彦さんとか,ごく限られた(バイアスのある)方々とお話しをしたりして.午後8時過ぎに早々に退散し,部屋に戻る.ここ数日は密なスケジュールだったので,そろそろ自己解放しないとよろしくない.

—— ということで,風呂に入って早々に寝ることにした.まだ午後9時だけど,寝るぞ寝るぞ.

◆本日の総歩数=5844歩[うち「しっかり歩数」=2963歩/29分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=未計測/未計測.


14 oktober 2007(日) ※ 久しぶりに丑三つ時の研究室で護摩壇

◆午前2時過ぎに起床.昨夜は午後10時半に寝たので3時間ほど寝たことになる.深夜の研究所に直行.星が見えないので曇り空なのだろう.午前3時前の気温は14.7度だった.それから明け方まで,がしがしと講演スライドの編集と新規作成を進める.さらに,魔除けの御札や勤行の品々を準備して,午前10時前にえいやっと切り上げて帰宅する.曇り空と北の風,気温は18.6度.旅立ちの日としてはまずまずの空模様だ.雨は降らないとの予報.

◆深夜からの8時間におよぶ夜勤労働はなかなかつらいものがある.学生の頃はけっして徹夜はしなかったが,就職してからの方がそういう苦行の機会が増えた.最近は,そういう事態に追い込まれたときは,夜遅くにいったん短時間仮眠してから丑三つ時に起きるというやり方でなんとか乗り切っている.朝型人間としては,ずるずると“夜”を長引かせるのではなく,むしろ“朝”をより早める方が望ましい.

◆届いていた本 —— Ron Amundson『The Changing Role of the Embryo in Evolutionary Thought: Roots of Evo-Devo』(2007年刊行[ハードカバー版は2005年],Cambridge University Press[Cambridge Studies in Phiosophy and Biology], ISBN:978-0-521-80699-2 [hbk] / ISBN:978-0-521-70397-0 [pbk] → 版元ページ hbk / pbk).ぱらぱらする.「Part I. Darwin's Century: Beyond the Essentialism Story」は,生物学史研究の上では“偶像破壊的”なんでしょうね.本質主義神話(ES: The Essentialism Story)を切り崩すことが前半の核になっている.J. Hist. Biol. 誌でこのテーマの特集が組まれているようだが,あとで要チェック.

—— 些細なことだが,p. 23 脚注で「ISHPSSB」は《ishkabibble》と発音するのだと書かれている.この学会の略称は読めないなあと前から悩んでいたのだが,これで疑問は解消された.《イシュカビブル》と言えばいいのだ(その綴りからは想像もできないけど……).

◆帰ってからは,しばし喰ったり寝たりという不健康な午前中を過ごす.午後つくばを出れば十分に間に合うので,それまではゆるゆるだらだら過ごす.しかし,講演スライドが完成しているわけではないので,弛緩しきるわけにはいかない.

◆先日立ち上げたばかりの講義用ブログ〈Inleiding tot de R-statistiek〉は,どういうわけかアクセス数が伸びていて,6日目にしてすでに1,100アクセスを越えている.150〜200回/日というページビュー頻度の高さは予想していなかった.もちろん,本来の想定読者である駒場の学生さんも読んでくれているらしく,すでに15名を越える履修希望メールが届いている.あと10日の間にどこまで履修者が増えるだろうか.

◆14:11発のTX快速で東京駅へ.15:33発の「のぞみ93号」で京都に向かう.京都着は17:53.もう真っ暗だった.タクシーで,通行規制されている四条通りを通り,柳馬場を北に上がって,向こう1週間の“監禁場所”となる〈コープイン京都〉にチェックイン.このあたりは京都に来たときは幾度となく徘徊したエリアなのだが,泊まったことはなかったな.

—— 最初の予定では,三田の慶應義塾大学で今日開催されている「生物学基礎論研究会」第1回シンポジウムに顔を出す予定だったのだが,その時間がありまっしぇん(すまん).

◆車中読書 —— Douglas Walton『Abductive Reasoning』(2005年2月刊行,The University of Alabama Press,ISBN:0-8173-1441-5 → 目次)を再読する.アブダクション論については,やはり「パース以後」の研究の展開がおもしろいと思う.著者によれば,法学分野では,同時代の人工知能研究とは別に,証拠に基づくベストの説明への推論方法としてアブダクションに相当する論証様式の研究がされていたと言う.統計学の立場からも同様の指摘があり,M. L. Taper and S. R. Lele (eds.)『The Nature of Scientific Evidence: Statistical, Philosophical, and Empirical Considerations』(2004年刊行,The University of Chicago Press, ISBN:0-226-78957-8 → 目次)の冒頭で,C. R. Rao がいう「法学的アプローチ(forensic approach)」がそれに相当するのだろう.

◆ホテルの部屋でメール・チェック.駒場からの履修メールがさらに数通.初回の講義で登場してもらったインド哲学者・中村元の縁戚にあたるという学生さんがいたりしてびっくり.遺著『論理の構造(上・下)』(1996年刊行,青土社)は味わいのある本だと思います(最後の部分が未完成のまま終わってしまったのは残念だが).

◆昨夜からの長時間労働で,そろそろおねむの時間でございますぅ —— 午後10時過ぎには安らかに安眠モード.※アレ,残りのスライドはどーしたんでしょ?(そんなヤボなことを言ってはいけません)

—— 明日からは,ここ〈コープイン京都〉でカンヅメになる.ぼくのトークは朝イチです.いったい何人が集まるのか.

◆本日の総歩数=8202歩[うち「しっかり歩数」=1453歩/14分].全コース×|×.朝−|昼△|夜△.前回比=−0.2kg/−1.2%.


13 oktober 2007(土) ※ 落ち葉が舞い散る遠征前日のじたばた

◆ここ数日はなんやかんやで寝不足だったので,今朝は午前6時半まで自発的に寝過ごした.曇り.研究所にちょっとだけ顔を出す.気温16.8度.予報では,今日は気温が低いそうだ.

もともと季節感のない人間なので,世間的な「衣更え」とはまったく無関係な服装をしているのだが,そろそろ半袖はしまった方がいいのだろうか.と言いつつ,例年いつまでも決断ができない.晴れたり曇ったりの繰り返し.北寄りの強めの風に農林団地の桜並木の枯れ葉が舞い散る.今年はしつこい残暑から秋本番までの期間がとても短かった.しかし,国道沿いのフウノキが色づいて,紅葉が歩道に敷き詰められるようになるまでにはまだしばらく時間がかかるだろう.

◆雑誌での「統計学特集」ふたつ —— 1) 『数学セミナー 2007年11月号』(2007年11月1日発行,日本評論社,ISSN:0386-4960).今月の数学セミナーでは,特集〈統計科学のすすめ[その2]〉が編まれている(→目次).2007年2月号の特集〈統計科学のすすめ[その1]〉(→目次)に続く第二段だ.べいづにMCMCにAIC …… 書くべき人が書いている.統計科学の最前線の匂いを嗅ぐことができるだろう.※伊庭さん,献本感謝です.

2) 『総研大ジャーナル No.12 2007年秋号』(2007年9月30日発行,総合研究大学院大学,ISSN:なし).「モデル選択論」のベースになっているのは「情報量統計学」だが,本誌最新号では〈赤池統計学の世界〉という特集が組まれている.統計数理研究所の前の所長,現在は総合研究大学院大学名誉教授である赤池弘次さんに始まるこの「情報量統計学」のルーツについて,そしてこれからのことなどいくつかの記事が載っている.『総研大ジャーナル』のサイトでは,この号の目次はまだ公開されていない.本特集についていえば,「Part 1: 赤池統計学の源流」,「Part 2: 赤池統計学の展開」,そして「Part 3: 赤池弘次博士に聞く」という3部構成だ.総合研究大学院大学のPR誌である本誌は,市販されているジャーナルではないようなので,一般書店で見ることはまずないが,未公開のメモも載っているので一読の価値はある.

◆休日の朝の研究所では,明後日のトーク準備を少し進める.30分のトークなので,スライドは20枚くらいか.とりあえず日本語でつくったスライドをばさばさと貼り合わせて筋立てをしてしまう.あとはこれをもとに英語で噺をすればよし,と.スライドの翻訳は今日中にまた研究所に来ないことには進捗しないだろう.午前8時過ぎにいったん帰宅する.旅支度と切符の手配をしないと.※旅立ちの前日は毎度毎度こういう慌ただしさが続く.

◆年末までの予定をつらつらと眺めているうちに,うっかりなダブル・ブッキングが発覚してしまう:12月9日(日)〜14日(金)までは北大農学部「生物系統学」集中講義のため札幌に滞在するのだが,13日(木)の駒場での講義は休講にしないとダメですね.関係諸方面への通知をすっかり忘れていた.

◆あっという間に時間が千切れ飛び,気がつけばもう夜だ.旅支度はとくに問題なく完了したのだが,肝心のトーク準備がぜんぜんはかどっていない…….

—— というわけで,今夜は研究所泊まりの徹夜仕事になります(とほほ).

◆本日の総歩数=4013歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=+0.3kg/+0.4%.


12 oktober 2007(金) ※ つくばに実在して大劇場の準備をする

◆午前4時半過ぎに起床する.曇りのち晴れ.気温17.1度.明け方の温度のばらつきが日によって大きい.

◆朝のこまごま —— 夜のうちにまた数件の「履修メール」が届いていた.朝イチで本郷の二号館から連絡があり,給与振込に関わる書類を依頼された.また,「生物統計学」はこれまでは別の先生が担当していたのだが,昨年の登録履修者数は58名だったそうだ.けっこう多いじゃん.今年の受講生人口も,それくらいにきっとなるんだろう.となると,イメージとしては,小規模なセミナーではなく,いつもの統計研修並みのクラスか.教室の“うつわ”の物理的スケールとそこに収容されている“個体数”はけっして些細な問題ではなく,ちゃんと頭に入れた上で高座を勤める必要がある.

大きい部屋で多人数を相手に講義をするときの極意は,たとえ端っこに座っていても,自分に対して直に話しかけられていると受講生に思わせることだと,かつて勤めていた予備校の学院長が言っていた.素人教師はつい目の前の最前列に座っている学生に話しかけてしまう.しかしプロ教師は(必ずしも熱意がないかもしれない)最後列に対して語りかける(と思わせる).たとえマスプロ的に何百人を相手にしていても,教師側にそれだけの力量があればクラスは成立するし,なければそれまでのことだ.独法研究所にいるだけでは,そういう教壇経験を積むことはふつうは考えられないのだが,ぼくの場合はふつうではないのが幸いだった.

◆湯川シンポが目前に迫ってきたので,そのトークのための[心の]準備をやっとし始めた.話のコンテンツはもうできあがっている.というか,招待してくれた主宰者は,ぼくに「その話」をさせるために京都に呼んだのだから,最初から既定路線なのだ.あとはすでに脳内に組み上がっているスライド構成をポリッシュアップするだけなんですけどねえ…….素材をごそごそと掘り起こしたり,pdfスライドを並べ替えたりとか.スライドの順列組合せによって筋立てが微妙に大きく変わるのが愉しいな.

—— 一枚一枚のスライドがたとえ同じであっても,その順列ごとにちがうストーリーを語れるのではないかと思う.

◆暖かく晴れた午後のこまごま —— 医学書院から数年前に出した『医学大辞典』の改訂版をつくるというので,ゲラが届けられた.月末までに改訂稿を返送しないといけない(らしい)./来月の統計研修の段取りなどについての事務連絡./メーリングリストの管理作業./計量生物学会がらみの国際シンポジウムのアナウンス:〈EAR-BC 2007: East Asia Regional Biometric Conference 2007〉.2007年12月9日〜11日,東大農学部・弥生講堂(文京区弥生).参加・講演申込みはこちらまで.

◆東京農大がらみ2件 —— 農大恒例の〈収穫祭〉は文化の日をはさむ期間に開催される.昆研でも収穫祭にあわせて,厚木キャンパスで「OB会」という名の兇悪呑み会を毎年行なっている.今年は11月4日(日)の午後5時からあるそうだ.当然,ぼくも行くことになるのだが,やっかいなことに翌日からつくばでの数理統計研修が始まるので,統計学概論が午前に組まれている.本厚木で前夜に噴火してしまうと,翌日はヌケ殻でつくばの教壇に立つことになる.まずいねえ./それよりももっとまずい頼まれごとが,夜陰に乗じて農環研VIPのひとりから直メールで届く.農大で生物統計学の講義を担当してほしいとのこと.何はともあれ,自発的にイエスと言えとさりげなく強制される(何のこっちゃ).本件は農水省農林水産技術会議のさる殿上人からの御下命であって,下々の者は四の五の言ってはいられないらしい.へへえ〜.しかも,集中講義ではなく毎週の講義だそうだ.講義開始は来年度の春からで,期間は夏学期の半年間.となると,開講場所が世田谷キャンパスか厚木キャンパスかで往復の“疲労度”はだいぶちがう(世田谷キャンパスであれば経堂でいいが,厚木キャンパスだと本厚木まで運ばれなければならない).しかし,その点を確認するには件の殿上人に詳細を訊かないといけないのだが,睿たろうちゃん,無理難題を末端に丸投げしないよーにね.

◆夕方,北寄りの風に吹かれて帰宅する.トークの準備はあわてず急がないといけない.明日と明後日でケリをつける.準備だ準備だ.

◆本日の総歩数=4705歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.3kg/−0.0%.


11 oktober 2007(木) ※ コマバ「統計」小劇場の初日を終えて

◆午前4時に起床する.もちろん真っ暗.研究所に直行する.気温は13.1度.冷え込む.東の空が白んでくるとともに,曇り空であることがわかる.しかし,雲はしだいにばらけてきた.

◆未明のこまごま —— 今日の駒場講義のためのハンドアウトをつくったり,出欠表フォーマットをつくったり,スライドの最終調整をしたりというエンドレス作業.適度なところで切り上げないと,いつまでもケリがつかないので,「これにてジ・エンド」とひとりごちる.

今回の駒場講義は,理学部生物学科の2年生が対象で、人類学科進学予定者(定員4名)が必修,同動物学科と植物学科への進学予定者(各定員7名)が選択必修なので,「4+7+7=18名」が印刷するハンドアウトの最低必要部数.余裕をみて30部を用意した. —— これが¢蛹算であったことを講義会場で思い知らされることになる.

◆午前8時を過ぎる頃には青空が.9時半の気温は20.7度.湿度が低いので,爽快な秋晴れになってきた.午前10時に,分会の部屋で〈ろうきん〉さんと打ち合わせをば.またまた用意すべき資料が負荷されることになったが,耳を揃えて提出できるのは再来週になります.よろしく./今度こそ忘れずに,Bach の〈Goldberg Variationen〉を./来週のトーク素材を運搬しまくり…….※そろそろ恒例の<hロナワ状態かも.

◆昼休み.からっと秋晴れ,気温24.7度.じりじりと暑い日射しで,名残のツクツクボウシがまだ鳴いている.いったん帰宅してから,出かける準備をする.13:11発の TX 快速に乗る.南流山駅を発車してしばらくした 13:36 分頃に車内が急に暗くなり,緊急停車.秋葉原-守谷間で停電事故との車内アナウンスあり.約8分の立ち往生の後に,再発車する.秋葉原から東京へ.

—— 丸の内OAZOの丸善にて,新刊で出たばかりの本を手にする:米盛裕二『アブダクション:仮説と発見の論理』(2007年9月20日刊行,勁草書房,ISBN:978-4-326-15393-0 → 目次版元ページ).同じ著者によるパース本:米盛裕二『パースの記号学』(1981年5月刊行,勁草書房,ISBN:4-326-15124-2)をぼくが手にしたのは修士に在籍していた頃だった.その後も著者は定年までパース研究を続け,本書を出したとのことだ.ちょうどいま“アブダクション”にぼくの関心が向いているので適時適書だ.ばらばらとブラウズしたところ,パース自身は“アブダクション”と並行して“リトロダクション”という言葉も用いていたらしい.ただし,“リトロダクション”の訳語「遡行推論」が示すように,結果から原因への推論は,“アブダクション”に比べれば狭義かもしれない.※一ノ瀬正樹本(『原因と結果の迷宮』2001年9月20日刊行,勁草書房,ISBN:4-326-15357-1)が脳裏に浮かぶ.

◆山の手線でぐるりとまわって渋谷から駒場東大前へ.教養学部正門は日射しが暖か.駒場寮がなくなり,筍のように次々と新館が出現するキャンパスだが,敷地の狭さを考えればそろそろ閾値に達している気がする.900番教室だけは変わりがない.午後3時半に非常勤控室(102号館)に入る.この控室に入ったのは何年ぶりのことだろうか.講義室を確認する:1225番教室(定員180名).「180名」! そんなバカな.生物学科の定員はたった「4+7+7=18名」でしょう.ぼくは16:20から始まる第5限の授業で,直前の第4限は池上俊一さんの講義が割り振られている.初回だったせいか,池上さんが早く戻ってきたので,マルチメディアボックスの鍵とマイクを入れ代わりに借出す.

◆準備のため早めに12号館の1225号室に入る.この部屋は確か以前に講義した記憶があるぞ.数年前の認知行動科学の単発講義したのはこの部屋だった.確かに広い.こんな広大な空間なのに,たった「4+7+7=18名」を相手に片隅で細々と講義するのは寒々しいなあ.と思っていたら,前の授業を終えた学生たちが≠ヌやどやと入室してきた.どうして≠ヌやどやと大勢が入ってくるんだろう.部屋を間違えたか,と学生に確認したら,確かに「生物統計学」を受講しに来たという.だって「18名」のラインはとうに突破しているじゃない.結局,講義開始時刻には見たところ100名ほどの学生を前にすることになった.予想は大外れだ.ハンドアウトは数がぜんぜん足りないし,出欠表だって全員が記入できるわけがない.しかし,あわてても仕方がない.まずは高座のおつとめが大事だ.自己紹介と講義計画,そして成績評価についてざっと話をした上で,講義ブログ〈Inleiding tot de R-statistiek〉をちゃんと見るようにと念押しした.連絡方法としては電子メールが主なので,履修希望者はぼく宛にメールするようにとも.その後,統計学概論を数十分話し,少し早めの17:40に講義終了とした.

◆一枚だけもってきた出欠表やら講義室に散らばっていたビラの裏側に記入してもらった受講生リストをざっとみて初めて事態を理解した.今回の「生物統計学」は理学部生物学科「4+7+7=18名」のためだけの講義ではなかったのだ.理学部の他学科の大所帯 —— 生物化学科(定員25名)+化学科(定員40名)+地球惑星環境学科(定員25名) —— もまた,選択科目として履修することができる(理科二類だけではなく,理科一類の学生も多いということ).名簿に記入してくれたのは80名弱だったが,これだけの大人数が集まった理由がようやく納得できた.正式履修登録する学生数がどれくらいかはこれから確定するわけだが,予想よりも多いことは確かだ.講義の体勢を再考する必要がある.

◆へろへろと控室に戻り,鍵とマイクを返却する.駒場での冬学期講義一覧なる400ページ近くもある分厚い冊子を片手に駒場東大前駅の階段を上る.ぼくがいた「30年前」と比較して,開設されている科目が大きくちがっている.時代の流れにくらくらするなあ.

◆帰路車中読書 —— 米盛裕二『アブダクション:仮説と発見の論理』の続き.ざっと半分ほど読み終える(第5章まで).本書の前書きで,著者は近年の「人工知能研究」における“アブダクション”への関心を不思議そうに振り返っている.個人的な希望を言えば,一般的な「推論規則」としての“アブダクション”について論じてほしかったのだが,著者の関心はむしろパース自身の“アブダクション”の意義を強調することにあるようだ.したがって,データから仮説への創造的な“跳躍”がとりわけ強調されるのは無理もない.しかし,推論規則として系統学が用いているような“アブダクション”は,組合せ論的に決まる(つまり創造する必要がもともとない)数ある対立仮説の中から「ベストな仮説」を選び出す手続きにむしろ重きを置いている.論理学が公式に認める“演繹的推論”の範疇に属さない“非演繹的推論”の内容が注目されているということだ.人工知能研究でもまた同様の関心のもとに“アブダクション”と向き合っていると思う.本書には,そういう近接分野での論議の広まりについての言及が乏しいのは残念だ.その意味で,本書は『パースのアブダクション:仮説と発見の論理』と銘打つのが妥当だろう.

◆午後8時前につくばに帰り着く.北寄りの風.予想外の大人数を前にしての高座は疲れる.夜,連絡したとおり,受講希望者からメールがぽつぽつと届く.すぐ返事を書いた.全部で何名くらい正式履修することになるのだろうか.

◆本日の総歩数=11855歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.5kg/−0.2%.


10 oktober 2007(水) ※ 逃げ回る本を追い,モパニムシを落手

◆午前4時半起床.曇りのち晴れ.気温15.6度.北寄りの風が涼しい.

◆早朝のこまごま —— ブログ“部屋”の模様替えはエンドレス.開設したばかりの〈R-statistiek〉のデザインをこちょこちょといじっているうちに,〈leeswijzer〉の方もインテリアを変えたくなってしまい,“抹茶色”から“スカイブルー”へと大変身.これから寒くなるというのにいささか季節はずれかとも思うが./明日から始まる駒場の講義に関する事務連絡メールを受ける.出勤簿は本郷だという.わたしゃ,ワープするんですかい? その他,プロジェクタの借出し場所とか,いくつかの件.

◆竹村彰通本が「〈R〉化」して再登場 —— 竹村彰通『統計[第2版]』(2007年9月25日刊行, 共立出版[共立講座・21世紀の数学:第14巻], ISBN:978-4-320-01851-8).10年前の1997年に出た初版の改訂版.基礎的な統計理論に関する教科書だが,〈R〉を用いた計算事例が載っていて,参考になるだろう.本書のコンパニオン・サイトが開設されている.〈R〉のソース・プログラムなどはここからダウンロードできる.なお,同じ著者による(もう少し硬めの)数理統計学本が2冊出ている.出版されてからすでに15年ほど経っているので,新刊書店ではなかなか見つからないかもしれない:

  1. 竹村彰通『現代数理統計学』(1991年11月30日刊行,創文社[Library of Contemporary Economics 8],ISBN:4423895080 →目次
  2. 竹村彰通『多変量推測統計の基礎』(1991年10月1日刊行,共立出版[現代応用統計数学シリーズ], ISBN:4320014480 →目次

◆竹村本が届いたので,姉妹書である『現代数理統計学』と『多変量推測統計の基礎』を手に取ろうと思ったのが災いのもと,お隠れになってどこにも見当たらない.先日,Mac Pro のために居室のスペースを“整地”して,“残土”をどこかに盛り上げたのが敗因だ.いくら掘っても出てこないどころか,どこを掘ればいいのかがわからないという重度の苦しみを午前いっぱい味わった.安い本ならばさっさとあきらめてもう一度買うのだが(資源探索に関わるトレードオフとしては合理的な判断だと思う),竹村本は計1万円近くもするので簡単にあきらめるわけにはいかない.さんざん探しまわて,呪を飛ばしつつ,「これで出てこなかったら末代まで祟ってやるぞ」とつぶやいた途端,堆積した段ボール箱のかなたから2冊そろって“白旗”を揚げて投降してきた.よしよし.こういう探索消耗戦を闘い抜くには,念を飛ばして相手を降参させることが肝要だ.

◆快晴の広がる午前10時半.気温は20.4度まで上がり,久しぶりに暖かくなった.そして,午前の便で,厳重に箱詰めされた状態で「モパニムシ」が到着した.たいへんありがとうございます.今度は“無傷”でつくばまで届きました.《モパニムシ・ストラップ》だけでなく,著者(→野中健一『虫食む人々の暮らし』)のご厚意により《モパニムシ押しピン》まで同封されている.ありがたき幸せに存じますです.黒褐色のマダラ模様といい,微妙にトゲトゲした肌ざわりといい,なかなかの心地よさです.それにしても樹脂加工してあるとはいえ,先日のように「砕けたカリントウ」みたいになる危険性があるので,ぶらさげて持ち歩くよりは,部屋に飾っておく方が安心かも.

—— 〈leeswijzer〉への本日付のコメントによると,《モパニムシ・ストラップ》は「10月6日」の時点で都内某書店でまだ配られていたとのこと.新たに著者が一家総出で%熕Eされたのだろうか.それとも,ブームに便乗して?どこぞでヒソカに製造されたのだろうか.いずれにせよ,ぜひとも入手したい向きはすぐ都内某書店に直行せよ.

◆その他,〈R〉関連の統計新刊・近刊 —— Maria L. Rizzo『Statistical Computing with R』(2007年10月15日刊行予定,Chapman & Hall,ISBN:978-1584885450).版元ページを見ると,12月刊行予定となっている.紹介文によると,「Monte Carlo methods, bootstrap, MCMC, and the visualization of multivariate data」も含まれるそうだ./荒木孝治『RとRコマンダーではじめる多変量解析』(2007年10月5日刊行,日科技連出版社,ISBN:978-4817192417 → 版元ページ)/熊谷悦生・舟尾暢男『Rで学ぶデータマイニング 2: シミュレーションの視点から』(2007年10月18日刊行,九天社,ISBN:978-4861671982 → 版元ページ).今年4月に出た:熊谷悦生・舟尾暢男『Rで学ぶデータマイニング 1: データ解析の視点から』(2007年5月7日刊行、九天社、ISBN:978-4861671760 → 版元ページ)の続刊./舟尾暢男『R Commanderハンドブック: A Basic-Statistics GUI for R』(2007年8月13日刊行,九天社,ISBN:978-4861671913 → 版元ページ) —— 買うべき本が多過ぎる…….

◆午後のこまごま —— 進化学会関連.評議員選挙の段取りを確認する.そろそろ動き始めないとか./早々と,首都大学東京の課題レポートがひとつ送られてきた.速攻ですなあ./来週のトークの心の準備を.※スライドの準備はまだ…….

◆夕方5時すぎ,するすると暗くなってきたので,するすると帰宅する.この季節は日の落ちるのが速いので,気がつけば真っ暗だ.北寄りの風が吹きつける.明朝はまた気温が低いにちがいない.

◆夜は,明日の駒場高座のスライドの準備をする.コンテンツは十分にあるのだが,それとは別にイントロのスライドは毎回新しくつくらないといけない.午後11時過ぎに10枚ほどつくりあげる.講義予定表も書き出した.これで,明日のお勤めは何とか大丈夫だろう.出欠表と配布ハンドアウトづくりは明日まわしでいいか.

◆本日の総歩数=6168歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.7kg/−0.6%.


9 oktober 2007(火) ※ 今日もしとしと,方々着火してまわる

◆午前4時半起床.曇りのち小雨.気温18.4度.北寄りの湿った風が通る.

◆こうも連休が続くと,平日に押し寄せる℃G用波がますます強くなる.早朝のこまごま —— 所内の「RP中間検討会」なるものがあるそうだ.今月中でOKとのことなので,月末にちょこっとすませてしまおうね./北大の非常勤出講に関わる事務書類を返送する./同じく,先日の動物衛生研究所講義の「運賃」に関する書類.たった数百円の額のために,一太郎ファイルをビューアーでpdfファイルに出力した上で,ノート機能で必要事項を“注釈”するという,まことに迂遠な無駄仕事をしてしまった.ほとんど意地になっているな.それにしても,エクセルで罫線付き文章をちくちく書かせたり,一太郎で時間を削り取る荒技は,「仕事は非効率的をもってよしとする」という伝統的な#学に裏打ちされているにちがいない(と思うことにしよう).異次元世界は身近に口を開けているのだ./今月の東大・駒場に出講するための「勤務を要しない届け」を出す.駒場に行くたびに毎回出す必要がある.兼業とはいえじゃまくさいな./JICAの事務書類を出し忘れていたのを残務処理.

◆午前10時.雨.気温17.1度.明け方よりも低くなってきた.

◆昼休み返上のさらなるこまごま —— 来週から京都でカンヅメになる〈湯川秀樹国際シンポジウム〉関連.まずは,依頼出張届を農環研に提出する.ということは,基礎物理学研究所から依頼状が来なければならないのだが,まだ届いていない./当のトークについては,これから集中度を上げていかないといけない.ガッツだ./進化学会京都大会の参加費を請求する書類を出す./そういえば,シンポジウム・サイトには,プログラムだけではなく,講演要旨集もアップされていることに今日になって気づいた.長丁場でしかも濃密な会議になることだろう.

◆しとしとと雨が降り続く午後2時から1時間ほど,〈形態測定学講義〉の輪読42回目.第14章「Morphometrics and systematics」の最後まで(pp. 372-379).部分歪み(partial warps)のスコアが形質とはなりえないという前節の論議を受けて,主成分分析における主成分(principal components)が形質となるかに議論は進む.著者らの見解は「No」である.変量の線形結合としての主成分は単に分散を最大化するという基準で構築された軸であるから,それ自体が形質となるわけではないという理由だ.最後に登場するのが,形態間変形ベクトルである.形態ペアの間での仮想変形(部分歪みの直和)をベクトルとして捉えたとき,仮想変形のベクトル演算は形質となりえると著者らは肯定的に述べている.基準形態Aに対して比較すべき形態B,Cがあるとき,A→BとA→Cというふたつの仮想変形ベクトルdeform(A→B),deform(A→C)を考える.このとき,ベクトル差deform(A→B)−deform(A→C)は,CからBへの変形にともなう差異を表すので,形質とみなせるだろうという立論だ.本章では,いささかもってまわった議論が長引いたが,変形に伴う「何」を形質とみなすかという問題に決着がついても,さらにその後にはその形質をどのように「コード化」するかという次なる問題が待ち構えている.先は長い.

◆まだまだ終わらないこまごま —— とある手続きのための情報収集をば./木曜から始まる駒場の講義の質問を二号館にメールする.だいたいわかってはいるのですが,念のため,出勤簿のありかとか,プロジェクタの借り方,そして休講の知らせなどなど./某出版社から依頼された進化本の企画は正式になくなることになった./基物研の会計担当からやっとメールが来て,依頼出張の宛て先とか,旅費の払い込みなどなどいろいろな事務書類を書きまくる./先月の首都大学東京の生物統計学レポート課題をひねり出す.今年も〈R〉のライブラリ〈datasets〉に入っている実データを題材にして,一連の統計分析を実行する〈R〉ソースを書かせることにした.受講生のみなさん,頑張ってください.と言いつつ,自分でも念のため検算してみる.大丈夫そうだ.

◆時間が飛ぶように過ぎ,気がつけばもう午後5時をまわって,夕闇が降りてきていた.今日はひたすら事務書類を書き散らし,メールに返事を書き,残務処理をしただけで終わってしまった.講義準備とか高座支度とか本質的にもっと重要な案件は職場ではまったく進捗しないものだ.大事なことは時間外にしかやれないというのは経験的に正しい.

—— というわけで,こういう職場に長居は無用.雨がようやく上がった5時半に帰宅する.気温は17度台のまま.講義と高座の“着火マン”を何冊か抱えて家に帰る.夜に本領を発揮するしかないな.とりあえず,初回の駒場講義のためのハンドアウトを少し用意した方がいいかもしれない.※駒場の受講生から履修に関する問い合わせが来た.本番開始も近い.

◆本日の総歩数=5977歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.2kg/+1.6%.


8 oktober 2007(月) ※ 雨降る体育の日は次なる高座の支度を

◆午前6時起床.朝日は拝めたがしだいに薄曇りに.気温は昨日ほど低くはないようだが,ひんやりする.弱い南風.

◆祭りの合間の筑波大方面へ早朝出撃 —— 最相葉月『星新一:一〇〇一話をつくった人』(2007年3月30日刊行, 新潮社, ISBN:978-4-10-459802-1)の第9章「あの頃の未来」と第10章「頭の大きなロボット」.100ページほど.星新一の著作は文庫化されるとともにベストセラー常連となり,“青少年向け人気作家”としての評判が確立する.筒井康隆らSF同人たちとの破天荒な交流ぶりが描かれているが,ここに登場する推理小説やSF作家たちの本を何一つ満足に読んだことがないので,単に名前をたどるだけ(事情通はきっと楽しめるのだろう).ひとつだけ目に留まったのは,星新一による祖父の大作伝記:星新一『祖父・小金井良精の記』(1974年刊行,河出書房新社)だ.ぜんぜん知らなかったが,この伝記は20万部を越えるベストセラーになったという.当時の人類学界を揺るがせたという「明石原人論争」のことも言及されているらしい.

◆朝のうちからぽつぽつと小雨が降り始めたが,午前9時には断続的に本降りになる.予報通り.朝のうちに徘徊しておいてよかった.〈Brotzeit〉のトーストをこんがり焼いていただく.その後も南風とともに雨が降り続く.

◆備忘メモ —— Aviezer Tucker『Our Knowledge of the Past: A Philosophy of Historiography』(2004年刊行,Cambridge University Press,ISBN:0521834155 → 詳細目次版元ページ)の第3章で,科学における探究対象としての「共通原因タイプ」と「共通原因トークン」とのちがいが強調されている(pp. 100-102).彼の言う歴史記述科学の共通的特性は「共通原因」の追求にある.しかし,「共通原因」には,物理学や化学での重力とかクーロン力のような普遍的法則として定式化される「共通原因タイプ」と,ある特定の事象をもたらす(単系統群gの共通祖先aのような)個別の「共通原因トークン」がある.歴史記述科学が求めているのは,前者の共通原因タイプではなく,後者の共通原因トークンであると著者は主張する.

◆冬学期の高座の支度をば —— 今週の木曜から駒場での生物統計学の講義が始まる.集中講義は何度も経験したことがあるが,毎週の講義というのは,かつて予備校の教壇に立っていたとき,そしてつくばに来る直前まで熊谷の立正大学教養部で非常勤講師をしていたとき以来のことだ.毎週90分の割り振りはその都度考えればいいのだが(DynaBook の Ninja ランチャーはすでに準備完了),長丁場になるので,そのための対応策を考え,専用の講義用ブログを開設することにした.講義に関する連絡や休講の案内に使うのはもちろんだが,付加的な情報の提供,レポート課題などの提示,場合によっては質問の受付もできるかもしれないというもくろみがある.

というわけで,いつも使っている〈はてな〉のサブアカウントをひとつ新しく登録し,いろいろな環境設定をすませた上で,夕方に〈Inleiding tot de R-statistiek〉というブログを公開した.また「挨拶文」や「新刊情報」しか掲示していないが,最初の講義のときに周知して,閲覧してもらうようにするつもりだ.※すでにつくっている〈租界R〉とはまたちがう使い道が拓ければさらにハッピーだ.

◆朝から断続的に降っていた雨は午後になって止み,前線通過後の夕暮れ以降は北寄りの風が吹きこんできた.

◆本日の総歩数=12008歩[うち「しっかり歩数」=9650歩/83分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−1.0kg/−1.8%.


7 oktober 2007(日) ※ 冷え込む明け方に金木犀の花の匂いが

◆午前4時半起床.晴れ上がった夜明け前の東空には下弦の三日月,それに寄り添う明けの明星.この秋一番の冷え込みとなり,研究所の温度計は午前5時に「12.1度」,午前6時前には「11.2度」まで下がった.金木犀の香りが漂う.静電気が飛ぶ.

◆未明の研究所にてこまごま —— 金曜の男女共同参画シンポジウム関連の資料をとりまとめて,事務局に送付する準備.来年以降は進化学会の中に小委員会を立ち上げて,本格的に活動拠点をつくらないといけないだろう./北海道大学からの非常勤講師辞令が届いていた.いくつもの国立大学法人などでの非常勤講義を引き受けてきたが,大学によって人事待遇や委嘱内容に微妙なちがいがあるのがおもしろい./計量生物学会編集部からメール連絡.先日返送したゲラの中で1ヶ所確認点があるとのこと.メールにて返信完了.ならびに,学会費請求書(汗)./駒場での生物統計学の初回高座の筋立てを練ってみる.半年間の総講義時間数を考えれば,話すべきコンテンツはすでに十分過ぎるほどそろっている.あとは毎回のストーリー展開とオチをどうするかということだけ.ぼくが担当する理学部生物学科「生物統計学」(木曜5限目)とは別に,「生物統計学演習」(木曜4限目)という講義があり,そちらでは〈C〉プログラミングによる統計演習をするとシラバスには書かれている.あちらが〈C〉なら,こちらは〈R〉だ(張り合ってどーする?).ま,最初のうちは噺だけだが,じわじわと〈R〉化していきます./来春の生態学会福岡大会(3月14日〜17日,福岡国際会議場)での関係シンポジウムは大物が来るなあ.

◆朝日とともに,南風が入ってきたが,湿度が低いので爽快だ.午前6時過ぎに朝日を浴びつつ帰宅.今日は絶好の″s楽日和だそうだが,今のワタシの辞書にそのような言葉はないのだ.

◆“そうだ,京都へ行こう” —— 10月15日(月)からの1週間は京都にたてこもるが,京都大学で開催される動物行動学会大会の日程(19〜21日,京都大学芝蘭会館)とかぶっていることを知る.洛中から北白川への‘出撃プラン’を練ってみよう.しかし,その前に,月曜初っぱなのトークの準備をしないことにはどうしようもない…….※秋の京都はぜんぜんほっこりできないな./京都籠城の前日10月14日(日)に,慶應義塾大学三田キャンパスで「生物学基礎論研究会」という新しい会の第1回シンポジウムが開催されるという連絡あり.生物学哲学のための研究集会です(大学院棟311号室,10:00〜16:00+懇親会).ぼくは14日のうちに京都にたどり着いていないと,翌日朝イチのトークに間に合わないので,途中で退席することになるだろう.※よろしく.

◆午後3時を過ぎて,〈雙峰祭〉真っ最中の筑波大方面に向かって歩き始める.最相葉月『星新一:一〇〇一話をつくった人』(2007年3月30日刊行, 新潮社, ISBN:978-4-10-459802-1)の第8章「思索販売業」を読む.50ページほど.戦後の日本にやっと定着し始めたSF文壇内での対立と抗争.星新一はそのような絡まりあいの中で,“顔”として知名度が上がると同時に,その人間模様の中で“別格”の detached な位置を占めるようになる.江戸川乱歩の逝去とともに,新たな段階を迎える.

◆お祭りな大学の中は多くの人で賑わっていたようだが,衝突確率が高まるので歩き読みにはやや不向きだ.このコースならばやはり早朝がいいと思う./筑波大ネタもうひとつ.〈筑波大学出版会〉が新たに発足した.いい本を出してください.

◆夕方から北寄りの風が通り,気温が次第に下がり始める.明日は,前線が通る影響で昼過ぎからは強い雨が降るらしい.引きこもりにはちょうどいい空模様だろう.22:36に地震あり.

◆本日の総歩数=11704歩[うち「しっかり歩数」=7726歩/67分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=+0.7kg/+1.7%.


6 oktober 2007(土) ※ 蓄積疲労な週末はあちらこちらを徘徊

◆午前6時前にやっと起床する.やはり前日の遠距離日帰り旅行が効いたにちがいない.早朝から快晴.気温はだいぶ下がっているようだ.

◆写本系譜学の基本文献のこと —— 写本系譜推定に関する W. W. Greg の主著『The Calculus of Variants: An Essay on Textual Criticism』(1927年刊行, Clarendon Press, Oxford)は日本の公的機関にはほとんど所蔵されていない.こういう機会にと思ってオンライン古書店をいくつかあたってみたら,ペーパーパック版ならば今でもオンデマンド出版で入手できることがわかった.それなのに,1971年に出た原典ファクスミリ復刻の150部限定出版のハードカバー版を買ってしまうワタシっていったい…….たった70ページそこそこの薄い本に執着し過ぎかもしれないが./同じく写本系譜推定の方法論を論じた Paul Maas の『Textual Criticism』(1958)もかつて国内をいろいろ捜し回ったことがあったが,結局,関西大学(だったか?)の図書館にしか所蔵されていなかった(独語原書にいたっては皆無だった).

—— 10年以上前に,『生物系統学』を書いているときは,写本系譜学の大方の文献は集中的に集めようとしていたが,論文は外部複写依頼で何とかなっても,書物だけはどうしようもなかった.もともと“畑違い”の分野だったこともあり,関連情報がぜんぜん入手できなかったという理由が大きい.オンラインでいろいろ調べられるようになってからは,ずいぶんと改善されたが,それでも実際の資料を手にできるまでの手間はあまり変わらない.所在が判明することとそれを手にすることとは別問題だ.

◆写本系統の確率モデルについては,1970〜80年代にかけて,イギリスの王立統計学会(The Royal Statistical Society)の紀要に数編載ったことがあるが(コピーは手元にある),その後の進展も気になるところ.多くの場合,比較言語学と写本系統学とはタイアップしていることが多いので(Henry M. Hoenigswaldの著作のように),歴史言語学関係のジャーナルに埋もれていることも考えられる.Tucker本にあった:Christopher Hitchcock (1998), The common cause principle in historical linguistics. Philosophy of Science, 65: 425-427 は完全に見落としていた.

◆午前中はゆるゆるしてしまった.ランチは牛久の〈蓮根屋〉にて.その後,取手に所要.日射しが強く,からっと暑い昼下がりだった.小野崎の〈Shingoster〉経由でつくばに帰還したのは午後5時過ぎのこと.

◆「。」オチてました・・・ —— 小学館辞典編集部(編)『句読点、記号・符号活用辞典。』(2007年9月17日刊行, 小学館, ISBN:978-4-09-504176-6→目次).いやあ、見落としてました。うっかり『句読点、記号・符号活用辞典』と記してしまったが、正確には『モーニング娘。』と同じく句点付きの『句読点、記号・符号活用辞典』だったとは!

この辞書のスゴイところは,文章中の句読点や括弧などの“約物”の実例文がたくさん載っていて,この点は他の類書にはない特長だ.その用例が規範的に固定されている単語や熟語とはちがって,約物の使用法の変異は幅広いようだ.だからこそ例文が豊富なほど役に立つ.たとえば,ぼくが地の文で頻用する隅付き括弧【 】については,「【 】が一般の文章中で〈 〉や〔 〕のように引用符・挿入符として使用されることは少ない」(p.104)と書かれている.だからこそ,その使用が表現上の効果として目を惹くことを初めて知った.ダブル・ミニュート( )のような,ぼくがこれまで使ったことがない記号類もある.さらに,「白点」や「二重パーレン」のように,実際に使用されている(た)ものの,パソコンの日本語変換システムに実装されていない記号類がいくつもあることがわかる.

◆夜は,自宅ベランダから土浦花火大会を遠く鑑賞する.土浦方面の道路は午後早くから混み始めていたようだったが,花火大会の会場近辺はさぞかし大混雑していることだろう.北寄りの風が吹きこみ,気温低下中.明朝は今年の最低気温が更新されるかも.

◆今日は,昨日の疲労感を引きずりつつ,ついゆるゆるしてしまったが,迫りくるトドたちが視界に入っている.巨大なのも細かいのも取り混ぜて.この連休中に撃ち取る段取りをしないといけない.来週からは駒場の生物統計学講義が始まる.次の週は,京都での1週間におよぶカンヅメの湯川秀樹シンポジウム.その合間に,Conway Morris の翻訳原稿とか,&卵Dバクダンとか…….

◆本日の総歩数=7443歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=−0.8kg/−0.3%.


5 oktober 2007(金) ※ 名古屋大学への日帰り旅行は体力勝負

◆午前4時半起床.夜中に雨が降ったらしく地面が濡れている.すでに雲は切れていて天候回復途上.温度も湿度も高く,やや蒸し暑い.

◆未明のこまごま —— CRAN から〈R 2.6.0〉が公開されたので(10月3日付),さっそくダウンロードする.今後の講義ではこれを使うことになる.受講者にも周知しないといけないだろう./Michael Ruse『Darwin and Design』の翻訳原稿一式が風船爆弾のように大量に飛来した.逃げようがありませんな,これは……(冷汗).

◆夜明け前の出発 —— 薄暗がりでごそごそと旅支度をして,ポスター入りの“筒”を忘れずにもって,つくばセンターに急ぐ.5:42発の TX 区間快速で東京へ.車窓から見るかぎり小雨が混じっている気配.秋葉原に着いて,あまり時間の余裕もなく,東京駅へ.名古屋行きの新幹線「のぞみ103号」にとりあえずすわる.東京は曇りで蒸し暑い.

◆TX車中仕事 —— 『』の第5回ゲラのチェックを完了した.修正箇所の一覧リストをつくって,名古屋から音羽にメールすることになるだろう.井上円了の著作は明治・大正期の文章なので,つい変換ミスをしたり,言い回しをまちがえてしまったりする.何ヶ所かあやふやなところがあるのだが,これはつくばに帰って『妖怪学全集』の元本を確認しないと答えられない.

◆1時間半ほど乗って,8:43に名古屋着.さらに不快指数が高く,関頭に比べて“半袖率”は有意に高い.地下鉄の東山線から名城線へと乗り継いで,名古屋大学に着いたのは午前9時過ぎのこと.日射しが暑い.キャンパス内の丘にある「野依記念学術交流館」という建物が,今日の〈男女共同参画学協会連絡会第5回シンポジウム〉の会場だ.しかし,途中のキャンパス内の大がかりな工事のために,目的地になかなかたどりつけない.迂回に迂回を重ね駐車場を横切り獣道のごときわき道を踏み越えやっと到着.受付とポスター掲示をすませたので,これでとりあえず朝イチですませるべき仕事はおしまいだ.

◆新幹線車中読書 —— Aviezer Tucker『Our Knowledge of the Past: A Philosophy of Historiography』(2004年刊行,Cambridge University Press,ISBN:0521834155 → 詳細目次版元ページ)の第3章の続きを読み進む.著者は,彼の言う分野横断的な「歴史記述科学(historiographic sciences)」(写本系譜学,歴史言語学,そして進化生物学を含み,W. Whewell の palaetiological sciences とほぼ重なる)がもつ共通の性格は「共通原因の究明」にあると考えている.その上で,Hans Reichenbach (1956) の提唱する「共通要因の原理(The principle of common cause)」に照らして,その内容を明らかにしようとする.W. Salmon やら E. Sober やらが入れ代わり立ち代わり登場する.確率論的因果性における「Screening-off」−久しぶりにこの言葉と再開した.

◆今回,日本進化学会の代表として名古屋まで来たのだが,ほんとうはね“通子ママ”が参加するのが筋なのだが,彼女は何せ多忙過ぎて,代理として派遣されたということ.会場をざっと見回すかぎり女性率が高いのは予想通り.そして,ボードに次々と貼られていく参加学協会のポスターを見歩くと,それぞれの学会での取り組みが垣間見える.進化学会は今年の7月末に正式加入したばかりの newcomer なので,男女共同参画シンポに参加するのも初めて,もちろん男女共同参画に向けての体制づくりもこれからのことだ.今回は,学会のお披露目かたがた,京都大会での高校生ポスター発表を中心に進化学会の紹介ポスターを用意した.

◆午前中は分科会に別れての討議,そして午後は全体会議とポスター・セッション,そして各種報告が予定されている.ぼくの「公務」は,午後のポスター発表と総会での新規加盟学会挨拶のふたつだ.工学部のロビーのテーブルに陣取って,『本』修正箇所リストの作成とともに,いくつかのメールへの返事書きをする.名古屋に来てまで日常業務をするのはメリハリがないのだが,ま,しかたないでしょ.

午後1時から全体シンポジウム.特別講演で「Old Boys Network」という言葉を聞いた.その後,パネル・ディスカッションがあり,午後4時半からのポスター発表の後に,分科会報告,進化参加学会紹介などを経て,午後6時過ぎに解散となった.そのまま,名古屋駅に直行し,午後7:25発の「のぞみ40号」に乗る.車中で音羽から電話があり「OK」とのこと.

◆帰路車中読書 —— Tucker本の続き.W. W. Greg の異本論『The Calculus of Variants』(1927)における「variational group(変異群)」を一般化して,共通要因の探求を形式化する.共通要因仮説Hcと個別要因仮説Hsのもとで変異群Gが観察されるベイズ事後確率比 P(G|Hc)P(Hc)/P(G|Hs)P(Hs) を考える.Sober はこの比率の尤度比 P(G|Hc)/P(G|Hs) のみに基づく議論を展開した.これに対して,著者は事前確率比 P(Hc)/P(Hs) も評価できるのではないかと言う.

◆小田原あたりで雨が降りだし,神奈川県内は本降りだったが,東京に着いたら何も降っていなかった.つくばにたどり着いたときには午後10時半を過ぎていた.北風が涼しい.

◆本日の総歩数=11375歩[うち「しっかり歩数」=1485歩/15分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.4kg/+1.2%.


4 oktober 2007(木) ※ 秋空に駆ける野馬と悲運のモパニムシ

◆午前5時に起床.雲は多いが晴れ.朝焼け.気温16.9度.

◆今日は珍しく農環研に“実在”する予定だ.しかし,早朝から押し寄せるこまごま津波に溺死寸前 —— 『』連載5回目のゲラが昨日のうちに届いていた.明日までに返送するようにとの御下命ではあるが,明日は名古屋に逃れるので今日中に「9行」削って返送しないといけない.[連絡]:丸田祥三『棄景:廃墟への旅』の初版は1993年に宝島社から出版されましたが(1993年7月刊行,宝島社,ISBN:4-7966-0651-3),のち1997年に洋泉社から再刊されたという事情です(1997年6月刊行,洋泉社,ISBN:4-89691-269-1).文中訂正しました./先日の動物衛生研究所セミナーの「旅費」が出るそうで,その書類が「.jtd」で送られてきた.固まる.そしてそのまま放置する.ごめん./某学会からの査読原稿2件は速達で宮崎に返送完了.

◆夏空のような雲がもくもくと湧き上がる.午前10時半の気温は22.4度.昼前にさらなるこまごまが降る —— 進化学会の出版事業に関わるメーリングリストの立ち上げについて.そして,旅立っていたハンコが戻ってきた./モパニムシがやっと送られてきたかと思ったら,郵送途中に哀れ“かりんとう”がくだけ散るように破片化していた.合掌.目次案を早々に送った.※折り返し,今度は厳重包装で再送するとの返事が.かさねがさねありがとうございます./人類学者 Frans de Waal のオランダ語読みは?との問い合わせ.そりゃあ,「フランス・ドゥ・ヴァール」ではなく,指揮者の Edo de Waalt と同じ読みが妥当でしょうと返信した.行動学者ニコ・ティンバーゲンだって,最初の訳書では「ニコラス・ティンベルヘン」と日高敏隆さんは訳していた.進化学者 Geerat Vermij だって“読みにくい”代表だしね(「ヘーラット・ヴァメイ」が最も近い表記になるのではないか).

◆献本どうもありがとうございます —— 昨年出た前著:河本健(編)『ライフサイエンス英語・類語使い分け辞典』(2006年6月20日刊行,羊土社,ISBN:4758108013 → 版元ページ)はここleeswijzer で紹介したのだが,その続編である:河本健・大武博(編)『ライフサイエンス・英語表現使い分け辞典』(2007年10月10日刊行,羊土社,ISBN:978-4-7581-0835-5 → 版元ページ)が版元から寄贈されてきた.1,100ページもある大きな辞典で,前著の2倍くらい厚さがある.どちらの本も,ライフサイエンス分野の膨大な論文データベースからつくられた「コーパス」に基づいて編まれた本だという.ぼくはこの「紙版」で十分だが,ユーザーによってはオンラインあるいはCD-ROMになっていた方がありがたいということもあるのではないだろうか.

◆晴れ上がった昼休みは,24.2度でやや暑いかも —— 歩き読む:木村李花子『野生馬を追う:ウマのフィールド・サイエンス』(2007年8月20日刊行, 東京大学出版会, ISBN:978-4-13-066158-4 → 目次)の第1章と第2章.第1章では北海道の根室沖の無人島を,第2章ではカナダのノバスコシア沖にあるこれまた無人島をフィールドにして,野生馬の生態と行動を観察した記録.馬も驢馬もたくましいな.もちろん,それを観察する著者も.

◆午後のこまごま —— 農環研の今年の収穫祭は11月6日(火)の午後5時半〜7時,別棟にて./別の放置トドたちが大きくなり始めた.何とかしないと./明日,名古屋で掲示するポスターを“筒”に丸めて収納した.とりあえず本務はこれだけなのだが,今回の〈男女共同参画学協会連絡会第5回シンポジウム〉のプログラムをよくよく見てみると,「ポスター発表」がなんちゃらとか「最優秀ポスター賞」などという文言が見える.ということは,通常の学会大会のように「ポスター発表」して,審査を受けるっちゅうことですかいっ? 何かしらたいへん大がかりなことになってきたな.

◆夕方,つくばセンターの JTB で,明朝の名古屋行き新幹線キップを買う.朝5時起きで TX に飛び乗り,つくばに帰り着くのは夜の10時半の予定.たいへん消耗する旅路になるにちがいない.ユウウツ…….しかし,その前に『』の第5回原稿ゲラをチェックして返送しておかないといけない.夜は北風が通って気温がしだいに低下してきた.

◆本日の総歩数=14129歩[うち「しっかり歩数」=6295歩/55分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.4kg/−1.9%.


3 oktober 2007(水) ※ 本郷に出没するもモパニムシは逃げる

◆午前5時起床.朝日がまぶしい.北東からの微風が涼しい.

◆出撃 —— 午前8:47発のTX区間快速で東京に出る.OAZO丸善で“筒”を買い,本郷三丁目へ.午前11時前に〈ルオー〉に入る.しばらくは,某レフリー原稿をひたすらチェックする.二つのうち大きい方のひとつは完了しました.けっこう「朱」が入ってます.賞味期限がある記事なので,最新の情報を盛り込んでから出版した方がいいですね.むしろ出版された後の方が問題かもしれないです.活字になってしまった記事をアップデートすることは難しいですから.出版社側でコンパニオン・サイトを開設するなどのケアが望まれます.

—— 今回購入した“筒”は,ニューオーリンズで行方知れずとなった前任“筒”よりも細身で,ストラップ付きで(前のは別売だった),それでいてより安価だったのがうれしいな:「アジャスタブルケース[c60×1000]」(販売元:コンサイス社→カタログ).

◆往路車中読書 —— Aviezer Tucker『Our Knowledge of the Past: A Philosophy of Historiography』(2004年刊行,Cambridge University Press,ISBN:0521834155 → 詳細目次版元ページ).本書の中心をなす第3章「The Theory of Scientific Historiography」を読み進む.なかなかおもしろいな(再来週の湯川シンポのネタになりそう).「ベイズ主義と歴史記述的確証」という節では,historical narrative の証拠に基づく検証をベイズの定理に基づかせようとする.要するに,データさえあれば仮説の善し悪しが判定できるという(著者のいう)論理実証主義の立場を離れたとき,残された道はベイジアンになるしかないという立場だ.

◆〈ルオー〉にて,もう一つの原稿に取り掛かろうとしたところで,待ち合わせ相手が来店.お初にお目にかかったので交互挨拶とか名刺交換リチュアルとか.しかし,まだ姿を見せぬモパニムシ・ストラップ……(T_T).進化とか系統とか分類についての意見交換の後,とりあえずは NHK Books のための目次案をつくりましょーか,というところで中締め.※はてさて,時間がねえ…….

◆転戦 —— 店を出たところで,もうお昼の時間だ.曇りがちで小雨が降ったりしたのかな.正門前奥月当たりのベーカリー〈カヤシマ〉に立ち寄って,巨大なチキンカツサンドと「桃くりぃむパン」なるあやしいパンを買ってから,東大農学部へ.隠れ部屋で二つめの原稿チェックに着手する.しかしほどなくタイムアップ.今日の本務は午後1時からの専攻修論中間発表会だ.午後3時前までが前半戦.

その後の休憩時間に,またまた隠れ部屋にて原稿チェックを仕上げる.これで夏以来長らく放置してしまったトド2頭を仕留めたことになる(明日にも宮崎宛に返送いたします).

—— 後半戦の修論中間発表会は午後5時前に終了した.院生のみなさん,お疲れさまでした.いったん隠れ部屋に退散し,1時間後に始まる“肉弾戦”に備えて気力と体力を養う.

◆夕闇迫る隠れ部屋にて Tucker 本の続きをば少々 —— 続く節「Comparison of likelihoods: concise Bayesianism」では,“簡略版ベイジアン”としての“尤度主義者”のスタンスが明らかにされる:

A frequent criticism of the usefulness of Bayesian logic for understanding science argues that it is difficult to quantify and compare the expectancy of the evidence. Another criticism of the classical Bayesian model emerged from the historiography of science: Scientists rarely consider the merits of a hypothesis in isolation. Usually scientists compare the relative probabilities of competing hypotheses.(p. 99)

要するに,対立仮説間の相対的サポートに科学者の関心が向けられるとき,ベイズ主義は“簡略化”されると著者は言う.

In response, some Bayesian philosopher of science suggest to concentrate on the ratio between the likelihoods of evidence, given competing hypotheses and shared background information.[……] This interpretation of Bayesianism is in the tradition of Peirce (1957) who proposed that scientists do not evaluate explanations according to ideal independent criteria but compare them to each other in what he called “abduction.”(p. 99)

たとえば,A. W. F. Edwards の『Likelihood』(1972年刊行, Cambridge University Press)でも,データによる仮説の相対的サポートの論議は,まずベイズの定理から始まり(Chapter 2),その後に対立仮説間の尤度比へと移行していった(Chapter 3).Tucker にとってこの「移行」はベイズ主義の“簡略化”にほかならないと解釈されている.もちろん,この文脈で Tucker が引用する Elliott Sober は自分が“簡略版ベイズ主義者”と呼ばれることにきっと反論するだろうけどね.

◆玉砕 —— 午後6時から専攻交流会の始まり.一昨日ビン詰めされたばかりの〈会津娘〉に〈名倉山〉,〈英勲〉の大吟醸生酒,茨城の〈秀禄〉をはじめ.おそるべき本数の日本酒・焼酎・ビールなどアルコール類が地対空ミサイルのように林立し,炊き出し部隊も多数配置されている.たかだか三十人ほどの布陣で,これだけ呑むんですかい? 生物・環境工学専攻の交流会がイノチ懸けであることは,これまでの短い経験からもわかっていたことではあるが,今日はいちだんとパワーアップされているようで,全員が玉砕を覚悟しているかのようだ.今の学生が酒嫌いというのはウソで,この専攻のみなさんは教員はもちろん院生・学部学生までめっちゃ呑まはる(ソフトドリンクなんかほとんど並ばない).

—— 午後8時に一次会は散会となった.もちろん,“なかのひと”たちはそれぞれの研究室へと散って,さらなる深夜ゲリラ戦へと突入する気配が濃厚だが,ぼくはここで戦線離脱し,へろへろと後方に撤収した.

◆涅槃 —— 根津の坂を転がり落ち,つくばにたどりついたのは午後9時半のこと.今晩は成仏させていただきます,ハイ.

◆本日の総歩数=10024歩[うち「しっかり歩数」=1118歩/10分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=+0.3kg/+0.1%.


2 oktober 2007(火) ※ エポカル高座が終わってからりと秋空

◆午前5時起床.秋雨がしとしと降っている.気温は引き続き低い.雲が垂れ込めているので朝日は拝めず.

◆明け方のインストール —— Windows環境だと画面キャプチャーの作業がとても不自由なので,フリーウェアの〈WinShot 1.53〉と〈Kioku 2.0.1〉を利用させてもらうことにした.〈縮小専用。〉と合わせて使うことになる.だいぶラクになった.

◆午前8時過ぎに自宅を出発.エポカルの1階会議室が会場だ.外は霧雨が降り続いて肌寒いが,ちょっと歩けばたどりつけるのがいい.今回の談話会の参加者は全国から100名ほど集まったとのこと.ぼくの持ち時間は9:25〜10:05の40分だ.結局,スライドの枚数がちっとも減量できなかったどころか,逆に数枚増えてしまった.70枚ほどを30分そこそこで話すというのはなかなか厳しいな.だもんで,いつもより速いペースで話し続ける.なんとか質疑の時間を残すことができたのは幸いだった.その後,正午過ぎまで研究発表があって解散となった.

◆「土+丶」という漢字 —— 「土」ではなく「土+丶」(「丶」は上の横棒の右上に打たれる)という漢字があることは以前から知っていたが,今日初めてその漢字が講演者の名字に使われているケースに遭遇した.聞けば,ご出身は東京とのこと.JISの第二水準までには入っていないが,第三・第四水準の漢字表には登録されていると:笹原宏之『国字の位相と展開』(2007年3月31日刊行, 三省堂, ISBN:978-4-385-36263-2→概略目次|詳細目次(1 / 2 / 3)|版元ページ)には記されている(p. 832).当然,コンピュータによる漢字入力はふつうはできないわけで,実際,今回のご講演のスライドでは,「土+丶」は「外字」としてつくったそうだ.字体変化での突然変異でしょうとご本人は言っていたが,autapomorphic ではなく,homoplastic な派生的形質状態なのかもしれない.「丶」による区別化のようなプロセスが働いた可能性があるということだ.

◆午後1時過ぎには天気は回復し,青空と日射しが戻ってきたので気温も上昇.午後3時半には22.3度になる.

◆研究所にて午後のこまごま —— 分類学会連合ニュースの進化学会紹介ゲラをチェックして,内容をバージョンアップする.ほぼ1年前に書いた原稿だったので,会長は交代しているは,学会ニュースや年次大会の情報は古いはで,かなりの訂正箇所がある.pdfの方々に注釈を書き込んでやっと完成.午後4時に事務局に返送するとともに,学会VIPにも報告をすませる./京都大会の実行委員会メモが送られてきた.次回の大会関係者に転送を完了./放置トドたちがじわじわと成長しつつある.ごめんなさいごめんなさい.

◆夕方,北寄りの風が吹き,気温は下がってきた.毛布をずるずると引きずってみたりする.

◆明日は,東大農学部で専攻の修論中間発表会がある.その前後にも用事あり.要するに,朝から夜まで本郷で過ごすことになる.

◆本日の総歩数=3673歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.3kg/0.0%.


1 oktober 2007(月) ※ 転石は転々と転戦し苔も足もつかない

◆午前4時半起床.小雨のち晴れたり曇ったり.この季節になると,出勤は暗闇の中で始まる.研究所の温度計は「16.0度」だった.風もなく冷気が漂うのみ.当然,空気は湿っている.

◆早朝のごたごた —— DynaBookくんの InDesign が「フォントがあらへん」と騒ぎ始めた.フォントCD-ROMをごそごそと発掘する.和文フォントはこれで大丈夫,と.あらら,今度は欧文フォントがありまへんて? あれあれ./明日のトークの準備をしないといけないのだが,記憶を補うはずのファイルたちが,故PowerBookくんとともに冥界入りしてしまったので,G4に入っている関連資料ファイルをごっそり DynaBook くんに移植する作業とかいろいろと./計量生物学会ゲラ返送完了.

◆小雨が降り続き,肌寒い午前のこまごま —— メーリングリストの月例アナウンスをそれぞれ送る./金曜の名古屋でのスピーチについて茗荷谷からメールあり.「筒」の手配は水曜に東京に出たときになんとかしよう.

◆午後になって,やっと明日のスライドづくりを始める気になった.2時間ほどで,60枚あまりのスライドを調達したり,あるいは新作したり.30分のトークなので,分量的にはちょっと多いかもしれないが,あとで何枚か削ればいいだろう.噺の筋はどうせ最初から決まっているので,あわてることはない.

◆ばたばたと帰宅する午後4時.気温18.6度で,霧雨が降り続く.いったん帰った後,午後6時前にエポカルに向かう.明日トークする第24回植物細菌病談話会の懇親会が,エポカル内のレストラン〈エスポワール〉で開かれたのに招かれた.どうもありがとうございます.懇親会参加者は50名ほどか.2時間ほど懇談してから帰宅.他のみなさんは二次会,三次会,……,n次会と突撃するそうだ.それに巻き込まれては明朝のトークに支障があるにちがいないので,一次会だけで失礼させてもらった.

事務局から聞いたところでは,植物細菌病談話会は隔年で開催されていて,“母屋”である日本植物病理学会とは別に開催される.この学会には他にもいくつかの「談話会」があるそうで,巨大学会ならではの分派的活動母体となっているのだろう.

—— 大会受付も何もせずに懇親会だけ出るというのはなんだかなあだが,明日はきちんとお座敷をつとめますので,よろしく.ぼくの講演要旨は:三中信宏「過去をさかのぼるために:分子系統樹推定の最前線」,日本植物病理学会植物細菌病談話会論文集, (24):58-72 (2007).

◆夜遅くなって,また雨が降り出した.北風が涼しい夜は早々にお休みだ.

◆本日の総歩数=7653歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.2kg/+1.5%.


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