images/image1.jpg

Home
oude dagboek

日録2005年10月


31 oktober 2005(月) ※ 月末のあがき,運命の一撃

◇午前5時起き.曇り.気温12.0度.月末がやってくるたびに,積み残された“残務”の多さが気になる.だから,晦日は勤労に励むものなのだ.

—— ああ,運命の大槌が……:Claudio Abbado〈Gustav Mahler Symphony No. 6〉(Berliner Philharmoniker,2005年5月,Deutsche Grammophon 00289 477 5573).ライヴ録音.いやー,この“ハンマー”,いい音出してますなあ.こういう大槌にドカッと打ちのめされれば本望というもので…….グラモフォンのサイトにも「brutale Schicksals-Hammerschlägen」という評が載っているし.打ちのめされたいアナタ,いかがですか? ※楽章の順番ではなく,録音のクォリティではなく,ただハンマーの音しか聴いていないのかと問われてもあえて否定しないワタシ.だってハンマーだし…….

◇朝のこまごま —— 気を抜くとすぐに積もってしまうメーリングリスト関連作業(ホコリ払いみたいなもの)./ 進化学会の会報印刷に関する事務連絡メールあれこれ.

◇昼前に筑波大学に出撃し,中央図書館を攻める.しかし,うねうねした内部構造に迷ってしまい,アリアドネの糸をうっかり忘れてしまったために,“天王台の果て”をぐるぐる徘徊するはめに.書庫の間をうろうろしてやっと目的の資料を発見できた.不逞なワタクシへの罰としてのプチ運動ということで.それにしてもこんな資料をどーするつもりなんだろう?>YKNちゃん.

筑波大学のキャンパスはそろそろ葉が色づきはじめていた.つくばの「秋」の中央値を実感する.

◇届いた新刊2冊 —— Benedikt Hallgrímsson & Brian K. Hall (eds.)『Variation: A Central Concept in Biology』(2005年6月24日刊行,Academic Press, ISBN:0120887770 → 目次). 変異本(怪異本ではありません).やはり,この Leigh Van Valen 氏だったか. Evolutionary Theory 誌の休刊とともに,Van Valen の名前が一時期かすれていたけど,ごめんなさいごめんなさい./ Denice E. Slice (ed.)『Modern Morphometrics in Physical Anthropology』(2005年2月刊行,Kluwer / Plunum,ISBN:0306486989→目次).やっぱり“頭蓋骨”は形態測定学のホームグラウンドなんだろうね.

◇午後3時から,Alan Stuart and Keith Ord『Kendall's Advanced Theory of Statistics, Volume 1: Distribution Theory』(6th edition,1994年,Edward Arnold,ISBN:0-340-61430-7)の輪読第7回目.Chapter 2:「Measures of Location and Dispersion」の続き(pp. 64-68).期待値(expectation)の一般論.単変量・多変量の期待値の定義と性質の説明.さらに条件付き期待値,そして独立性など.この章,終わり.午後4時まで.

◇ヒミツ資料の郵送完了.社会史的な資料の復刻出版は地道だが,買う人がいるから(そういう需要があるから)商業出版として成り立っているのだろう.※「人」ではなく「機関」かな.

◇夜の冷え込みが厳しくなってきた.明日はもう霜月だ.

◇本日の総歩数=10203歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.1kg/−0.5%.


30 oktober 2005(日) ※ あっちこっち濫読月末

◇午前6時前に起床.外は曇りときどき小雨.今日は晴れ間は望めないらしい.ここのところ睡眠時間が比較的長い —— ということは,諸方面の“ツケ”が溜まりはじめているということでして…….とある「人集め」もなかなか日射しが届かず…….さらなるリクルートが必要かも.※もう時間切れとちゃいます?

◇井口壽乃・圀府寺司(編)『アヴァンギャルド宣言:中東欧のモダニズム』(2005年9月5日刊行,三元社,ISBN:4-88303-161-6)をちくちくと読み進んだりしている.第1部の続き.第4章「プラハ/ブルノ」に登場するチェコ・アヴァンギャルド派のカレル・タイゲの「構成主義」的タイポグラフィーはおもしろいかも.第5章「ウーチ/ワルシャワ」と続く第6章「クラクフ」ではポーランドの動き.ここまではわからないながらも,そこそこについていけた.しかし,第7章「ザグレブ/ベオグラード/リュブリャーナ」のセルビア・クロアチア語圏になると,いきなり〈ゼニート主義〉なる得体の知れない思潮が登場し,スローガンと反スローガンのぶつけ合いが延々と続く.これっていったい何なの? ひいひい言いつつ,2段に組まれた本文を200ページまで読み進む.この第1部には,まだルーマニアとブルガリアの章が残っている.“中東欧”とひとくくりにするのはなかなか難しいのではと感じはじめた.

◇平岡正明『昭和ジャズ喫茶伝説』(2005年10月7日刊行,平凡社,ISBN:4-582-83272-5)の感想の続き —— 著者の生まれた本郷から“谷根千”界隈にかけての懐古譚は,とりわけ味わいのある章だ.なじんだ店や人が周りからしだいになくなって(亡くなって)いく喪失感がにじむ.そして,それは共有できる感覚だ.このあたりは戦火に焼けていない一帯なので,町並みの変化はそれほど激しくはなかったが(バブル期は別として),それでもあった店や人がなくなった経験はひとつやふたつではない.個人的には千駄木の〈こけし〉や〈八十八〉がなくなった喪失感は大きかった.

そして,ジョン・ルイスといえば,高崎にあった〈酒房 一空〉 —— マスターの藤井さんのキャラクター,そしてあの店の雰囲気が味わえなくなったのは返す返すも残念だ.こういう喪失の追憶はきりがない.つくばにジョン・ルイスのトリオ&ミルト・ジャクソンが来たときは,ノバホールという大きな器の中で聴いた.演奏会前にノバホール下のそば屋でミルト・ジャクソンが蕎麦をたぐっていたが,そんな彼も,そして“校長先生”のようなジョン・ルイスももう亡くなってしまった.

さらに続く —— この本で“カルティエラタン”と呼ばれている飯田橋・四谷から神保町にかけてのエリアは,別の意味で“アプレゲール”なぼくらの世代の感覚から見ても,なお確かに別の“言語”が話されていた地域だった.誰かに誘われて行ったのだと思うが,法政大学の講堂で開催された映画の夜間自主上映会に行ったことがある.山谷の労働争議のルポルタージュ映画だった.冒頭で,山谷で殺された活動家の死体が路上に放置されているシーンから始まったことが記憶に残っている.まるで映画〈カフェ・ブダペスト〉の闘争場面のようだった.上映後,主催者がマジに「“私服”に尾行される危険性がありますから,お帰りは用心して」と言っていたが,もうすでに“アプレゲール”な時代だった1970年代後半には(大学の知人の何人かは“三里塚”に参加していたのだが)とても場違いな響きをもっていた.あるいは当時の“カルティエラタン”ではそういう物言いがまだ生き残っていたということなのか.単にぼくが“ノンポリ”だったというだけのことか.

—— ああ,きりがない…….

◇昼前に高みに登り,また下ってくる.すでに移転のトラックが何台も数珠つなぎになっている.まあ,まだ先のことなのだけれど.

◇新刊メモ —— ジャイルズ・ミルトン『さむらいウィリアム:三浦按針の生きた時代』(2005年10月25日刊行,原書房,ISBN:4-562-03864-0).5年ぶりにミルトンの本を手に取った.以前,蘭領東インドの香料をめぐる抗争をテーマにした前著ジャイルズ・ミルトン『スパイス戦争:大航海時代の冒険者たち』(2000年12月5日刊行,朝日出版社,ISBN:4-02-257553-0)の書評を bk1 に書いたことがあった.読みやすく「物語」度の高い伝記を書く作家だとそのとき感じたが,今回の新刊ははたしてどうだろうか.サイモン・ウィンチェスターにしろ,このジャイルズ・ミルトンにしろ,とっても“体力”があるなあ.

◇本日の総歩数=3714歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.3kg/−0.4%.


29 oktober 2005(土) ※ 東奔西走,読書の日

◇午前5時半起床.霧の朝.今日は朝から所用でお出かけ.

◇午前7時に TX に乗りこみ,西日暮里へ.曇りときどき小雨.昼まで待ち時間があったので,読了 —— 平岡正明『昭和ジャズ喫茶伝説』(2005年10月7日刊行,平凡社,ISBN:4-582-83272-5).おお,これは,1960〜70年代の学生運動とジャズとオーディオがきめ細かくミックスされたひと連なりのモノローグだ.『山口百恵は菩薩である』の著者はこんなことをしてきたのか.

ところどころに当時の東京の街並みの点景が載っていて,後期については場所的・時代的に共有できるものもないわけではない.しかし,この本の“正しい読者”は,きっとぼくよりも一世代か二世代,上のジェネレーションなのだろうと思う.個々のアイテムは共有できても,それらがつくる「全体」がぼくには体感的に理解できないから.互いにわかり合える世代の幅はきっと限られているのではないか.

それでも,探針にヒットすることはいくつもある.たとえば樺美智子が死んだ「1960年6月15日国会議事堂前」での実況ラジオ中継の生々しさ(p. 102)はそのひとつ.女の暦編集室(編)『姉妹たちよ! 女の暦2005』(2004年発行,ジョジョ企画)には,その当日まだ生きていたときの樺美智子の写真が載っている(9月のページ).そのうしろでは笑顔でスクラムを組む男子学生たち.国会議事堂前での写真だ.

もうひとつ,MJQ のジョン・ルイスについてはこう語られている:

ジョン・ルイスは,ノルマンディー上陸作戦に通信兵として参戦している.ということは,ドイツ軍の暗号やフランス地下抵抗運動のアングラ放送に聴き耳を立てている.ということは,もっぱら対独抵抗運動の放送局のために演奏されたジャンゴ・ラインハルトのジャズを,上陸作戦開始の日(Dデイ)を待機しながら軍艦の中でジョン・ルイスは聴いたのだろう.…… MJQ「ジャンゴ」という曲は,フランス地下放送からヴェルレーヌの詩が暗号として流れ,ジャンゴの演奏が流れるという,一九四五年六月六日ノルマンディー上陸をひかえた緊張と静寂の中で,海上に停泊した船舶の無線機でジョン・ルイスが聴いた,ジプシー・ジャズの九年後の再現ではなかったか.(p. 168)

ほほー,これは聴き直してみるしかないな.

◇午後1時過ぎに TX 復路でつくば着.某所にて最終打合せ.これで長らくの書類洪水はやっと引いてくれるだろう.別の長期的負荷がはじまるが.物件には立ち寄らず,そのまま直帰.曇りときどき小雨.

◇つくばローカルな新刊 —— 『2006 つくばランチ完全マニュアル』(2005年10月20日第7.01版刊行,つくばで人生を楽しむ母の会事務局,ISBN なし).ひょっとして,これまたワタクシは“正しい読者”ではないのかもしれませぬが…….少なくともつくば在住者の食生活にはきっと役立つでしょう.TX が開通してからは,さらにまた新しいニッチが拓かれ,新しい店もできつつあるし.参照:→〈つくばランチ食べ歩き〉.

◇夜,霧が少しかかっている.

◇本日の総歩数=11769歩[うち「しっかり歩数」=3026歩/23分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.4kg/−0.4%.


28 oktober 2005(金) ※ すっかり寒くなった明け方

◇午前5時半起床.霧筑波.地面が濡れていたので,夜中に雨が降ったのかもしれない.気温9.5度.最低気温が今年初めて10度を下回った.

◇午前中は,とある関係の事務書類の書きまくり.書いても書いても湧いて出てくる心地ぞする.ハンコ押したり,郵送したり,また書いたり.気がつけばもう昼休みだ.※ワタシの午前を返せ〜.

◇晴れた昼休みは気温20.5度.日射しがある分,昨日よりは暖かく感じる.こういう秋晴れのもとでは,そこはかとなく白秋を感じさせる「本の本」が歩く友にふさわしい:富士川英郎『讀書游心』(1989年6月20日刊行,小澤書店,ISBN:なし[0095-120107-0791]).著者が晩年に出した『讀書〜』シリーズの第2作.木下杢太郎の中国・欧州紀行と彼による本の装幀を論じた第I部からはじまり,詩人論,旧制高校時代の回顧,漢詩に関するエッセイと続く.第IV部まで150ページほど歩き読み.小澤書店の本はつくりが心地よく,この本も柔らかめのクロス装が持ち歩きにぴったり.

—— この本以外のシリーズ著作には,『読書好日』(1987年3月刊行,小澤書店,ISBN:なし),『読書間適』(1991年12月刊行,小澤書店,ISBN:なし),そして遺著となった『読書散策』(2003年3月刊行,研文出版,ISBN:4-87636-217-3)がある(正確には舊字體を使っているはず).これ以外の「別格本」として,100部限定本の『読書點心』(1994年,湯川書房,ISBN:不明)があるそうだが,これは古書価格で4〜5万円もする高価な本なので,ぼくには無縁.

◇おお,原稿の〈校正記号〉が変わる[かもしれない]のですね —— 日本出版学会のサイトからリンクされている日本印刷産業連合会の記事:「JIS Z 8208(印刷校正記号)改正素案公開レビューのお知らせ」(2005年10月20日付).

◇午後のこまごま —— 筑波大学から図書貸出の許可がおりる.来週にも中央図書館に出向いて借出さないといけない.※“近くて遠い”筑波大の場合,貸出しは郵送ではなく,直接行く必要があるというのが中途半端にうっとおしい./ 1週間後に迫ってきた JST 第2回研究会の追加参加者(オーディエンス)をリクルートする.夕方まで方々にメールを書いたり,事務局と連絡したり.週明けには陣容が確定するもよう.

—— ああ夕方だ,もう暗くなってしまった.

◇夜,寝読み読了 —— 富士川英郎『讀書游心』(1989年6月20日刊行,小澤書店,ISBN:なし).第V部は,著者の父である富士川游の追憶.富士川游は精神学が専門で,呉秀三らとともに活動した.著者もまた医史学とりわけ“病志”(pathography:「病跡学」という訳語を著者は排する)を専攻した.精神学者や pathographer に文才のある人が多いように感じるが,それは偶然ではない理由が何かあるのかも(単に,富士川游→富士川英郎→富士川義之,という orthologues に限定されたことではない).続く第VI部は故人の思い出話.そして,最後の第VII部は東京での生い立ちと自宅のある鎌倉での身辺雑録.

少年時代に鎌倉で関東大震災に遭った著者は,東京の家に戻ったときのエピソードを記している:

その日,西片町の家に着いて休んでいると,家の塀の外の道を,近所のひとが大聲で,「まもなく一高の時計塔が爆破されます!」と叫んで通っていった.舊制の第一高等学校の校舎がいまの東大農学部のある位置に建っていたことは言うまでもない.本郷の電車通りに臨んで,その正門があり,それを入ってゆくと正面に煉瓦造りの,二階建ての本館があって,その中央に半圓形の鐘塔をもつ時計塔が聳えたっていた.『明治・東京時計塔記』(昭和四十三年,明啓社)の著者平野光雄氏によれば,この時計塔をもった本館は明治二十二年に建てられたのだという.…… この一高の本館及び時計塔は,関東大震災によって,大きな龜裂を生じ,補修に堪えない損傷をうけたので,陸軍工兵隊によって爆破されることになった.ものの十分も待った頃に,工兵隊の吹き鳴らす喇叭の音が高らかに聞え,やがてドーンという大きな爆音とともに黒煙がたって,一高の本館がその時計台もろとも,仰向けになって,ぐらりぐらりと,ゆっくり煙のなかに崩れ落ちていったのだった.その瞬間,誰の口からともなく「ああ!」という嘆聲があがったが,人々はなおその場に立ちどまったまま,しばらく立去りかねているようだった.(pp. 212-213)

その光景が目に浮かぶようだが,現代だけでなくこんなに昔から「塔の爆破」が見せ物のように扱われていたとは意外だった.工兵隊による「喇叭」奏鳴を合図に爆破されるという儀式化された手順はイベント性を十分に高めている.おそらく全国各地(とりわけ震災被災地)でこのような“爆破イベント”が繰り返されたのかもしれない.

〈夕陽無限好〉.

—— 著者の他のエッセイ集はすでに発注済み.〈日本の古本屋〉で探したら,意外に近く,土浦の古書店で安く買うことができた.

◇本日の総歩数=11307歩[うち「しっかり歩数」=6757歩/61分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.1kg/−0.1%.


27 oktober 2005(木) ※ 迫り来る仕事の遠雷

◇午前4時半起床.小雨が降り続いている.気温13.6度.

◇朝から飛び交う情報断片いろいろ —— 府川充男『印刷史/タイポグラフィの視軸』(2005年10月25日刊行,実践社,ISBN:4-916043-82-0→紹介ページ).版元からダイレクトメールが届いたので,即注文.「目から鱗連発」とのこと./ つくばの某大学の図書館の奥深くに秘蔵されているヒミツ書類をゲットせよとの極秘指令が届く.※では,コッソリと行動を開始しましょう.

◇ここまで叩くか,ふつう —— Kjer 氏,火ダルマ:T. Heath Ogden, Michael F. Whiting and Ward C. Wheeler 2005. Poor taxon sampling, poor character sampling, and non-repeatable analyses of a contrived dataset do not provide a more credible estimate of insect phylogeny: a reply to Kjer. Cladistics, 21 (3): 295-302, June 2005. [doi:10.1111/j.1096-0031.2005.00061.x] .※連発される「poor」…….

◇〈The Complete Work of Charles Darwin Online〉 —— ついに「ダーウィン全著作」のオンライン版が出るようになるとは.このプロジェクトは,リーダーのひとりである John van Wyhe がいま進めている〈The Writings of Charles Darwin on the Web〉をベースにして,ダーウィンの公刊著作だけでなく,未公刊原稿類の電子化をも含むことになるらしい.ダーウィン書簡については,すでに〈Darwin Correspondence Project〉が書簡全集を出版しているので,今後はこの全書簡プロジェクトと上の全著作プロジェクトの二本柱でチャールズ・ダーウィンの資料が出版されていくことになるのだろう.他言語への著作翻訳も支援したいとのこと.

Nature 最新号(Vol. 437: 1219, 27 October 2005)の記事「Darwin's body of work evolves into online archive」(→リンクdoi: 10.1038/4371219a)を参照のこと.

◇午前10時半からグループ内会議.いろいろ,こまごま.11時10分まで.

◇来月の数理統計研修のテキストが届いた:『数理統計短期集合研修(基礎編)』(11月7日〜11日)のテキストは 241 pp. で,続く『数理統計短期集合研修(応用編)』(11月14日〜18日)のテキストは 319 pp. もある.560ページ分の内容を2週間で詰め込まれる受講生はたいへんだ.※毎年,こうなのだが.

◇午前中ずっと降り続いた小雨.しかし,昼休みにはやっとあがったので,支障なく歩き読みに出発.気温14.8度 —— キリンビール(編)『ビールと日本人:明治・大正・昭和ビール普及史』(1984年4月30日刊行,三省堂,ISBN:4-385-34911-8)の第4章「戦争とビール」,そして最後の第5章「戦後の展開」.これにて読了.戦中戦後にわたってビールの泡沫の向こうに見える世相.とりわけ,明治初年度に日本で醸造されていたビールは,炭酸がいまの1/3程度で,ホップを倍以上も使用する,とても苦い飲み物だったというのは勉強になった.しかも,消費者の手元に届くまでに酸化が相当に進んでしまった“赤いビール”として行き渡っていたそうだ.ほほー.

◇午後1時から〈系統学的考古学〉セミナー(第23回).Chapter 5 : 「Taxa, Characters, and Outgroups」の続き(pp. 146-149).形質状態に関する変換系列(transformation series)の「順序づけ(ordering)」と「方向づけ(polarizing)」に関する説明.形質状態の順序づけは,グラフ理論的には状態間の接続性(connectivity)の仮定にほかならない.また,形質状態の方向づけは,接続された形質状態集合の上で定義された半順序関係(partial order)であると規定される.事前に情報がなければ,すべての形質状態の間の遷移コストが「1」であるように仮定する — すなわち unordered(もちろん unpolarized) — のが自然だろう.

◇晴れ間がのぞく午後3時.さらなるこまごま —— 筑波大学への図書借出依頼をする./ 統計研修で使用する機材に関する事務局への返事.今年度の研修受講者は〈基礎編〉が「56名」,〈応用編〉が「22名」.いつもよりやや少ないかも./ ユニットの予算執行状況のチェック.※現時点では“身の丈サイズ”の予算規模ですなあ.

◇本日の総歩数=9421歩[うち「しっかり歩数」=5304歩/46分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=0.0kg/+0.7%.


26 oktober 2005(水) ※ おお,これが“水”打楽器か!

◇午前5時起床.曇り.気温11.2度.今日は天気が下り坂との予報.

◇朝のこまごま —— 進化学会関係の事務連絡など少々./ 来月早々に迫ってきたJST第2回研究会の参加者をもう少し増やす必要がありそう./ これまた来月上旬に始まる数理統計研修のプレゼン機材と下準備に関する連絡をば./ 今週中に“堆積岩”化している残務を一掃処分しますっ.またまた手紙やら事務書類やらを書かねば./ そんなこんなな日々が続いていたので,歯医者の予約日をカンペキに失念し,ブッチしてしまった.あとで改めて診療予約を取り直さないと.※ごめんなさい,ごめんなさい./ 今週末の,とある打ち合わせ(ブッチできない)に向けての書類はきちんとそろえておかないとまずいぞ.

そこかしこに「積み残し」やら「こぼれ落ち」が目立つようになってくるのは,もうすでに〈容量オーバー〉の赤信号が点滅している証拠だろう.

◇「Water Percussion」続報 —— 打楽器奏者を長年やっていれば,“ハンマー”だろうが“鞭”だろうがあるいは“鎖”だろうが,たいていの「変な打楽器」には驚かなくなっているのだが,作曲家 Tan Dun が考案したという,この楽器はいったいなんじゃらほい.化学実験のラボが,あるいはキッチンの“水仕事”がそのままコンサート・ホールに移動したようだ.上にリンクされている写真は,武満徹を偲んで作曲された Tan Dun の〈Water Concerto〉(NYP0109)の演奏風景.この曲に続く,彼の〈新マタイ受難曲(Water Passion)〉(S2K 89927)もきっとその延長線上に位置する作品なのだろう.※それにしても,こんな“楽器”を使ったら,舞台上が「水浸し」になるんじゃないかと他人事ながら心配してしまうけど.

◇曇り空の昼休みにまたまた歩き読み —— キリンビール(編)『ビールと日本人:明治・大正・昭和ビール普及史』(1984年4月30日刊行,三省堂,ISBN:4-385-34911-8)の第2章「文明開化の波に乗って」と第3章「二つの大戦の間」を読了.150ページほど.ビールは昔も今も日本人の嗜好に適合していたのだろう.最初はイギリス風のビールが明治の初期に日本上陸を果たしたが,次第にドイツ風のビールによって排除されていった.ビールの栓が「コルク」から「王冠」に変わったことにより,日本社会への普及に拍車がかかったとのこと.歴史的逸話のひとつとして,乃木希典将軍によるビールの“イッキ飲み儀式”はドイツ直輸入の軍隊文化だったそうだ.なかなかおもしろい本だ.

◇午後3時から,第29回生態システム研究セミナー:大東健太郎〈繁殖淘汰方程式の解析と「適応」の考察〉.差分方程式の「妙」ということ.内的自然増加率(r)を生存率(b)と死亡率(d)に分割して考えるという方向で進めるのであれば,次は環境収容力(K)に関する考察とか,決定論的モデルから確率論的モデルへの拡張という道がある.

—— 内職の1冊:Olaf R. P. Bininda-Emonds (ed.)『Phylogenetic Supertrees: Combining Information to Reveal the Tree of Life』(2004年刊行,Kluwer Academic Publishers, ISBN:1-4020-2329-4 [paperback] / ISBN:1-4020-2328-6 [hardcover]→目次).編者によるイントロダクション:Olaf R. P. Bininda-Emonds「New uses for old phylogenies: an introduction to the volume」(pp. 3-14)と続く各章のアブストラクトをブラウズ.確かに“巨大系統樹”という目標を設定したとき,supertree という方針は選択肢のひとつではある.ただし,source trees の terminal point set に関する「階層性」の仮定は制約が厳しいこともあるのじゃないかな.理想的には「非階層性」という制約なしの状況で supertree がつくれないと現実的に通用するツールにはなれないと思う.それにしても,Matrix Representation with Parsimony 法(MRP)は supertree 構築法のひな形としていろいろな変異型を生みだしているなあ.

◇夕方になって雨が降りだす.予報通りだ.

◇夜も引き続き supertree —— Charles Semple and Mike Steel『Phylogenetics』(2003年,Oxford University Press,ISBN:0198509421→目次)の第6章「Subtrees and Supertrees」.

◇雨,降り続く.

◇本日の総歩数=11072歩[うち「しっかり歩数」=6944歩/62分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.1kg/−0.3%.


25 oktober 2005(火) ※ そこはかとなく静かな平日

◇午前5時半起床.晴れて冷え込み,最低気温は10.2度.もうすぐヒトケタ台の寒い朝がやってくる.昨夜は後片付けやらなんやかんやで,寝たのが午前1時前だった.夜更かしはいけませんなあ.膝は痛いわ,眠たいわ.

◇芝畑の上に霧がかかっていた.これからさらに冷え込む朝には霧が立ちこめることが多くなる.それが筑波.しかし,朝方は冷え込むものの,日中は日射しがあってそれなりに暖かく,半袖にしようか長袖にすべきか悩む.無理して長袖を着込む必要はないので,自然が呼ぶままの服装にする.※だから非常識と言われる.

◇午前中のこまごま —— 来月始めに迫ってきた数理統計研修での〈R〉演習に関する打ち合わせ.ひさしぶりに〈租界R〉をアップデートし,関連サイトリストの更新をした.ついでに,数理統計研修のテキスト(pdf)の公開とか(自分の分だけねー)./ 昨日終わった東大の人事通知書が今頃まわってきた(事後にもらってもねえ).

◇忘れないうちに,Macintosh 版の最新〈R〉(version 2.2.0)のインストールを完了.

—— おっと失礼しました.「人→夫」の修正いたしました.>竹中〈R〉師.[14:38]

◇恐竜あれやこれや —— あ,そーでしたか,川端裕人『竜とわれらの時代』(2005年10月刊行,徳間文庫,ISBN:4-19-892313-2)は,「恐竜ノベルズ」ではなく,「恐竜ノベルズ」なんですね.あとで本屋探索してきます.最初から“虚構”な小説には食指が動かないのですが,ノンフィクションな小説だったら十分に許容範囲です.

さらに恐竜.新しい化石が発見されるたびに,進化シナリオが書き換えられていくので,古い恐竜本はあまり役立たないのかもしれませんが,いまのところ:Philip J. Currie and Kevin Padian (eds.) 『Encyclopedia of Dinosaurs』(1997年刊行,Academic Press,ISBN:0-12-226810-5)という恐竜百科辞典(マイケル・クライトンが序文を書いていたりする)と,北村雄一『恐竜と遊ぼう:博物館で恐竜を100倍楽しむ方法』(2002年07月15日,誠文堂新光社,ISBN:4-416-80224-2→目次)を参考にすることが多いです.

◇晴れ上がった昼休みの歩き読み.気温23.2度 —— ジム・ドワイヤー&ケヴィン・フリン『9.11 生死を分けた102分:崩壊する超高層ビル内部からの驚くべき証言』(2005年9月15日刊行,文藝春秋,ISBN:4-16-367430-67→目次).一言で言えば〈読む映画〉.衝突から崩壊までの2時間足らずの限られた時間に「中で起こったこと」を救助関係者からの聞き取り,電話交信記録の解読,そして生還者の証言を通じて復元していく.おびただしい数の個人が登場し(生還できたりできなかったり),画面分割的に生々しいシーンが交錯して,せっぱつまった状況を描く言葉がそのまま脳裏にダイレクトに映像化されていく印象を受けた.昨日の東京往復の車中読書と今日の歩き読みの計3時間ほどで読了.〈映画〉の長さとしては適当だと思う.四の五の言わずにまずは読みましょうね.読んで見ればわかる.もちろん必読書.森山和道さんも「とにかく読むことを強くおすすめしたい一冊である」と言っているし.ぼくはこの本を読みながら,かつてのパニック映画〈ポセイドン・アドベンチャー〉を連想していた.そして,本を閉じたあとで,それが“現実”に起こったことをあらためて思い知らされた.

◇午後1時10分から1時50分まで,〈Zar統計学本〉セミナー(第23回) —— 今日は短いChapter 15. Nested (Hierarchical) Analysis of Variance (pp. 303-311).ネスト分散分析に関する解説.たいへんわかりやすく書かれていた.単純な2要因実験計画で一方の要因がネストしている場合と,3要因実験計画でふたつはクロスしているが,3番目の要因がネストしている場合が説明されている.

◇備忘メモ —— 〈Book Town じんぼう〉.神保町古書店街の情報&検索サイト.書籍の「連想検索」ができるとのこと.

◇ころころと…… —— つい先ほどのことですが,ワタクシもあっさり「転び」ました(自己責任つうもんで).※いったん「転んで」しまえば,それはそれで何だか楽しそうかも.>ねえ,たさきさん.|あ,それから,たいとさん,お誘い(先月)どーも感謝です.遅まきながら今日になってやっと「転べ」ました.

◇夕方のこまごま —— 注文されたソーバー訳本のサイン記入と発送を完了./ メーリングリスト関連の作業を少し.

◇Tan Dun の〈新マタイ受難曲:永遠の水〉には,「ウォーター・パーカッション」なる打楽器が世界初で使用されているという.どのような“かたち”をしているのか,想像がつかん.ただし,打楽器を水に浸して音を変化させるというだけだったら,以前から吉原すみれのような打楽器奏者がやっていたことだから,新味はないと思う.何か「プラスα」があるのか.※聴いてみるしかないか.

◇夜,The Quarterly Review of Biology の最新号(Vol. 80, No. 3, September 2005→目次)を読む.こういう数少ない生物学の「書評誌」は大切にしないとね.

◇本日の総歩数=12585歩[うち「しっかり歩数」=6989歩/61分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.6kg/−0.5%.


24 oktober 2005(月) ※ 着せ替え人形,西東

◇午前3時起床.晴れ.気温11.2度.ほどよい涼しさ.

◇研究所にてこまごまと —— 依頼文書の出力.完了./ 朝の“儀式”の式次第の確認.完了./ 午後の講義用ハンドアウトとその他機材の確認.完了.

今日は午前9時から理事長室にて5級昇格辞令の公布式があり,このときだけはネクタイを締めるべしとのドレスコードがある.式が終わり次第,スーツ&ネクタイは捨てる.通常服に復帰した午後は,東大・駒場にて「システム科学特別講義I」のひとつを担当する.

◇駆け込む交付式 —— 上の予定通り,辞令交付式が9時からあるので,8時55分までに理事長室に集合せよとの指令だった.しかし,こういう日に限って通勤路が混み混みで(とくに榎戸交差点),滑り込みでセーフ.ぼくのあとを走っていた,とある部長はクラクションならしまくりの暴走で,これまた交付式にすべりこんだとのこと.何はともあれ完了.もらった辞令は「5級12号俸」(4月1日付)だが,式終了後,「5級13号俸」の昇級辞令(10月1日付)を渡された.めまぐるしいことだ.さらに併せて,「特別調整額III種指定」なる通知書が付けられた(4月1日付).ほほー,そういうしくみになっていたわけですか(疑問氷解).

◇さて,儀式コスチュームを即脱ぎ捨てて,TX に向かう.駒場に着いたのは,午後1時過ぎ.河野書店に誘引されたのちに,102号館の非常勤講義室で出勤簿とか,講義機材の借り出しとかの手続きをあたふたと.

—— 「システム科学特別講義I」の講義:三中信宏〈システマティクス:体系化・進化史・歴史推論〉(15号館104講義室,14:40〜17:50[4〜5限])の始まり.会場をセットしてくれた伊藤元巳さんの話では,10名あまりの履修登録受講生は進振りが終わった2年生とのこと.この講義は,来月の〈第3回最先端遺伝育種セミナー〉のリハーサルを兼ねているので(個人の事情ですが),時間の配分とか,スライドのつくりこみ具合のチェックをしないといけない.トークそのものはほぼ予定通りの進捗で終えることができた.かなりの部分が“科学哲学”だったと思うが,みなさん,どのように受け止めただろうか.系統推定における「アブダクション」とは目的関数をもった最適化問題だと言い切ったので,その推論様式が実行可能なサイエンスにつながることはわかってもらえたと思うのだが.

—— おお,同席された〈殿〉から進化学会ニュースに関する御下命あり./土松さんともお話したり.

◇夕闇迫る駒場を後にして,夜のネオンの巷へと消えていくワタシ…….※山形の〈朝日川〉長期熟成酒はとても日本酒とは思えない味わい.

つくばに帰り着いたのは,日が変わる前の23時30分過ぎだった.実に健康的なことだ.うんうん.

◇本日の総歩数=14097歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.1kg/−0.5%.


23 oktober 2005(日) ※ 地震と雷雨は夢の中,秋晴れ善哉

◇昨夜は早く寝てしまったので,午前2時頃,突如として雷鳴が鳴り響き,雨がざーっと降りだしたので,目が覚めてしまった.そうこうするうちにまた寝入ってしまい,午前4時に再度ごそごそしだしたのだが,気力がこもらず,またまたごろごろと.結局,正式?に起床したのは午前6時だった.このぐーたらさは他人には言えない.

—— 聞くところでは,昨夜遅くつくばは地震で揺れたそうだが,寝ていたのでぜーんぜん気づきませんでした.ハイ.

◇朝起きてみたらからっと快晴で,昨夜の変な空模様がうそのよう.前線が通過して冬型の気圧配置になっているようだ.やや冷え込んで,最低気温は10度を少し上回る程度だったかも.

◇新刊・近刊情報 —— 川端裕人『竜とわれらの時代』(2005年10月刊行,徳間文庫,ISBN:4-19-892313-2).恐竜ノベルズですか? / 稲尾節『ギリシャ裏道散歩』(2005年10月末刊行予定,現代企画室,ISBN不明).なんとなくそそられますなあ./ 熊野宗治『忍びよる闇:新居に牙を剥く公権力との闘い』(2005年9月刊行,東洋出版,ISBN:4-8096-7502-5).※タイトルを見ただけではけっしてピックアップしなかっただろうが,紹介文がむむむ:「なぜこんなことに! つくばエクスプレス開通.その華やかなセレモニーの陰に隠された闇」とのこと.なんだか〈噂の真相〉のようなコピーですが.

◇湿度低く晴れ上がり,北からの風が心地よい.※常人ならば「寒い」と言うかも.

◇午後,髪を切り,給油する.その間に読了してしまった:草森紳一『随筆 本が崩れる』(2005年10月20日刊行,文春新書472,ISBN:4-16-660472-4).物理現象としての“本の山の崩壊”はひとりの人生のすべてを背負っているということか.著者も言うように(pp. 33 ff.),「資料もの」をやりだすととめどなく本が増えてしまうというのは確かだと思う.ただし,第1章「本が崩れる」だけを読めばもう十分で,後半の150ページあまりは読むまでもないかなって感じ.※この著者,大著『荷風の永代橋』(2004年12月刊行,青土社,ISBN:4791761618)を書いた人だったんだ.

勢いでもう一杯:キリンビール(編)『ビールと日本人:明治・大正・昭和ビール普及史』(1984年4月30日刊行,三省堂,ISBN:4-385-34911-8)の第1章「日本人のビール初体験」を読了.50ページあまり.なかなか興味深い歴史的エピソードがいっぱい.日本語の“ビール”という言葉はオランダ語由来だそうだ.

夜は頼まれ書類づくりにいそしむ.

◇明日は,フォーマルな儀式が朝イチであり,午後からは一応フォーマルな講義が駒場である.だから,体調を整えて早く寝てしまおう.講義の準備とハンドアウトはすでに用意できているのが幸いだ.※それよりも,年貢の原稿を進めないと.土曜はドタキャンしてしまったので.

◇本日の総歩数=2510歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.3kg/+1.2%.


22 oktober 2005(土) ※ 再び新宿高層ビルへ

◇午前4時起床.曇り.気温14.6度.肌寒さは感じられない.研究所にて,本日の講義用ハンドアウトの印刷とpdfの点検&追加.午前5時半に完了.

—— 今日は,朝日カルチャーセンターの高座(2回目)なので,朝から新宿に出かける.その他,いろいろな追加的用事もあり.

◇小雨が混じるようになった.週末ごとにこんな天気では困りますなあ.前回と同じく,8時28分つくば駅発の TX 快速で新御徒町まで.大江戸線に乗り換え,都庁前に着いたのは9時半.たった1時間そこそこで新宿に出られるというのは TX の恩恵のひとつ.

住友ビル48階の「朝日カルチャーセンター」に登頂する.今日の講義室は43階の語学コーナーの1室.20人ほどの小部屋で,前回の100人入る大部屋よりは好ましく感じる.パソコンなどの準備.

◇10時半定刻に高座の開始 —— 今回は「恐竜」を主役とする筋立てにした.恐竜の分岐図をベースにして,ジュラ紀〜白亜紀(50〜200Myr)の地質時代に関する生物地理について話をして,その後は恐竜の多様化と系統関係について.たまたま手元にあった,ネパールのアンモナイト化石,日本の珪化木,そしてユタ産の恐竜化石(破片)の実物を回覧しつつ,化石情報からどのようにして過去の生物の由来をたどるのかを説明した.最後に,恐竜から現生鳥類へのミッシング・リンクとなる重要な化石群(鳥竜)が中国の遼寧省から多数見つかっていることを挙げながら,「恐竜ははたして絶滅したか?」という問題に言及した.前回は総論的だったが,今回は各論として,まあいい線をいったのではないかと自画自賛してみる.正午定刻に終了.

今回の高座準備で,恐竜類の主要クレード(鳥盤類と竜盤類,竜盤類の下位クレードである竜脚類と獣脚類)についていろいろ知ることができた.受講者の感想では,“孔子鳥”(Confuciusornis)がとても印象的だったそうだ.恐竜の場合(他の古生物でもそうなのだろうが),「復元像」によって受けるイメージがずいぶんと変わるものだ.とりわけ,現生鳥類につながる系譜(始祖鳥,孔子鳥,中華竜鳥など)では,「鳥みたいな恐竜」あるいは「恐竜みたいな鳥」などの“認知的に分類不能”な生物に揺さぶられる.

◇住友ビル1階のくまざわ書店にて入手 —— 草森紳一『随筆 本が崩れる』(2005年10月20日刊行,文春新書472,ISBN:4-16-660472-4).厚めの新書だが,全体は3部構成:「本が崩れる」(pp. 11-152),「素手もグローブ:戦後の野球少年時代」(pp. 153-222),「喫煙夜話〈この世に思残すこと無からしめむ〉」(pp. 223-309),最後に池内紀による「【跋】やわらかい本」(pp. 311-318).“随筆”という枕詞がミソでしたなあ.この“路上観察”的な写真の数々は,それだけでも十分に見物だ.ちょっとばかしタイムスリップしたみたいなレトロで露悪的な雰囲気を感じる.

◇雨はまだぽつぽつと降っている.新大久保に私用なれど,目的を成就できず.落胆して,古書・畸人堂(百人町店)にはまり込む.プラハなC先生に煽られて,ビール本を1冊:キリンビール(編)『ビールと日本人:明治・大正・昭和ビール普及史』(1984年4月30日刊行,三省堂,ISBN:4-385-34911-8).歴史的に貴重な写真やラベルがいろいろ載っているようだ.元々は麒麟麦酒株式会社が創業75周年を記念して出した非売品の本だったが,リクエストに押されて商業出版したとか.800円./ ついでに1冊:石橋総合印刷(編)『街の記憶:1989 KANDA JIMBOCHO』(1989年11月9日刊行,石橋総合印刷,ISBN:なし[非売品]).こちらは完全な非売品で,石橋総合印刷株式会社が創業40周年を記念してつくった,神保町の記録本.ソフトカバーながら函入りで,神保町の街角のスナップ写真や絵がたくさん載っている,なかなかいい仕上がりの本.800円.※1989年といえば,ぼくがつくばに流された年だ.再開発前の街角風景に見覚えがある.

さらに転戦して,丸の内0AZOの丸善にて,Filofax の来年度イヤープランナーをやっと入手した./ 洋書コーナーにて新刊発見:Benedikt Hallgrímsson & Brian K. Hall (eds.)『Variation: A Central Concept in Biology』(2005年6月24日刊行,Academic Press,ISBN:0120887770→目次).遺伝的変異に関する最新の論文集.Evo-devo や形態測定学,あるいは相同性に関する論説が多いが,驚倒したのは Leigh Van Valen の論文が載っていたこと.Van Valen て,今まで生きていたんですね(勝手に殺してごめんなさい).

◇湯島の〈デリー〉を経由して,秋葉原から TX へ.研究学園駅に着いたのは午後4時過ぎのこと.結局,一日中雨が降ったり止んだりの空模様だった.湿度が高く,この季節にしては不快指数やや高め.

◇往復の車中読書 —— 千野栄一『ビールと古本のプラハ』(1997年8月20日刊行,白水uブックス1040,ISBN:4-560-07340-6).内容的には「1989」年以降のプラハの話.著者自身が書いているように,前著である千野栄一『プラハの古本屋』(1987年3月20日刊行,大修館書店,ISBN:4-469-21096-X)の続編ともいえる.旧共産主義政権のもとで流通しなかった“禁書”が,1989年以降,一気に市場に出回った話とか,20世紀初頭のチェコ・アヴァンギャルド系の古書の話題など,表題通りの内容がもちろん主なのだが,時おり,不可避的な時代の移ろいとか人間としての老いについての独白が印象的だった.この著者の手になる複数の本に,プラハの酒房〈黄金の虎〉が登場する.よほどお気に入りの場所だったのだろう.遺著となった千野栄一『言語学フォーエバー』(2002年7月1日刊行,大修館書店,ISBN:4-469-21274-1)の口絵写真がそれだ.

◇曇り and / or 小雨の肌寒い中,〈Mont Saint Michel〉に立ち寄ったら,シュークリーム目当ての客で混みまくっていた.いつからこの店は「シュークリーム屋」として有名になったのだろう? もちろん,ロールケーキを買って帰る.

◇都内をあちこち徘徊して消耗したみたい.11時過ぎに早々と寝てしまった.

◇本日の総歩数=13715歩[うち「しっかり歩数」=3420歩/29分].全コース×|×.朝○|昼△|夜×.前回比=−0.5kg/−0.2%.


21 oktober 2005(金) ※ 朝は系統,昼は恐竜,夜は原稿

◇午前5時起床.晴れ.気温13.7度.—— 早朝から系統樹あれこれ:〈TreeIllustrator〉/ 〈TreeDyn〉※以上,ふたつとも系統樹の描画プログラム.(←PhyComから)

◇「恐竜本」というのはかぎりなく出版されていることを知る.20年も前の大判の『アフターマン』以来,久しぶりのドゥーガル・ディクソン『新恐竜:進化し続けた恐竜たちの世界』(2005年7月28日刊行,ダイヤモンド社,ISBN:4-478-86050-5)など.ううむ,ひたすらヴィジュアル,とことんCG,ちょっとだけ進化学…….

それってば,いわゆるひとつの“転向”というべきかと……. その当時,4分33秒ほど「ごめんなさい,すみません,もうしません」と[心中]ひたすら謝り続けたワタクシの立場と心情はいったい…….

◇雲が少し多いが,それでも晴天.気温21度台の昼休み —— 郡司勇『秘湯,珍湯,怪湯を行く! 温泉チャンピオン6000湯の軌跡』(2005年9月10日刊行,角川ONEテーマ21[C-98],ISBN:4-04-710012-9)を読了.かつて津軽碇ヶ関温泉で死にそうになりましたが(「秋元」で窒息し,「なりや」で茹で上がり,「湯の沢」でマグネシウム酔いした),あの程度ではない超絶温泉がまだまだあることを知った.日本にはとんでもない温泉がたくさんあることを実感.

◇あ,もうばればれでんがな —— ハイ,そういうことでございます.

◇午前のこまごま —— 毎年恒例の異動に関わる「希望調書」の記入./ 恐竜のスキャン続行.やっぱり現生の鳥類にいたる化石群(いずれも中国産)がとても刺激的で,いかにも「古生物学っ」て感じです.化石からの復元の“わざ”に感銘.アーティストの腕というのはとても重要だと思う.分岐図とか解剖図とか,いろいろ見ていると楽しいな.恐竜って,ええなあ.

◇そんなこんなで,夜まで“恐竜”が居座ったせいで,原稿はちーとも書けず(_| ̄|○).日が変わって,大量のpdfを吐き出し,やっと噺の準備が終わった.

◇本日の総歩数=14394歩[うち「しっかり歩数」=7259歩/63分].全コース×|×.朝△|昼△|夜△.前回比=+0.3kg/0.0%.


20 oktober 2005(木) ※ グラッと崩れたか……

◇午前5時起床.晴れ.気温12.0度.さすがに長袖に“衣替え”しないとダメでしょーか.日中は割りに暖かいので,ふんぎりがつかないのだが.

—— 早朝,小島電機の南側にあるセブンイレブンが警察によって封鎖され,取調中だった.夜中に強盗でも押し入ったのだろうか.つくばは夜になるととたんに「無法化」する傾向があるみたいだ. ※ ラジオ報道によると,その事件は犯罪ではなく,店舗2階の自宅部分の火事だったそうな.

◇昨夜の“震度4”で「本が崩れた」か? —— 今朝研究室でチェックした範囲では,机の真上にある Auratone スピーカーの周辺で,T. H. Huxley 全集と澁澤敬三著作集が傾いた程度の“プチ崩落”が数カ所で見られたものの,幸い書棚が倒れるような“大崩落”はなかった.はっぴー.※震度4くらいではとくに心配はいらない.

◇〈アブダクション〉という言葉は,C. S. パースの提唱する「推論様式」としてではなく,一般にはむしろ「宇宙人に拉致されること」という意味で用いられている.ぼくの場合,いろいろなところで〈アブダクション〉という言葉を多用するので,“UFOな人”と解されるのは本意ではない.念のため,Douglas Walton の新刊『Abductive Reasoning』(2005年2月刊行,The University of Alabama Press,ISBN:0-8173-1441-5→目次)を買い物かごに入れておく.まちがっても,『Abduction 〜』とか『Abducted 〜』を買ってはいけない(Mozartは別ね).

◇雲ひとつなく晴れわたる.快適な歩き読み —— 郡司勇『秘湯,珍湯,怪湯を行く! 温泉チャンピオン6000湯の軌跡』(2005年9月10日刊行,角川ONEテーマ21[C-98],ISBN:4-04-710012-9).こういう日にはこういう本です.温泉のカラー写真がたくさん載っていてグッド.まずは最初の2章“足元湧出温泉”と“野湯”の章を読む.100ページほど.足元湧出といえば蔦温泉旅館〈久安の湯〉を思い出す.風呂の底からぼこっぼこっと「玉」が湧き上がる.

この本にも書いてあったが,数年前までは「温泉系メーリングリスト」が活発に活動していて,[ぼくは参加したことはなかったが]その筋では有名な温泉でのオフ会も頻繁に開催されていた.それらのメーリングリストは温泉に関する最新情報の交換の場として重宝していたのだが,いつの間にか活動が沈滞し,いずれも消えていった.以前,宿舎が近かった赤塚“湯”師にそのあたりのウラ事情をうかがったことがあるが,要するに温泉マニアの嗜好がそれぞれ細分化してしまって,コミュニティとして成り立たなくなったというような理由があったらしい.

—— ぐるっと歩き読みし,郵便局をまわってから帰還.午後1時の気温は21.2度.

◇午後1時から〈系統学的考古学〉セミナー(第22回).Chapter 5 : 「Taxa, Characters, and Outgroups」の続き(pp. 143-146).考古学における形質と形質状態について.何を形質と見なすかどうかは“試行錯誤”によって決めるしかないと著者らは考える(妥当な判断だろう).また,やっかいな形質コーディングに関しては,multistate character の帰無コーディングとして,すべての形質状態を「独立」とみなすことを推奨している,形質状態間の関連性は分析の過程で徐々に明らかになることであって,最初から仮定すべきことではないという考えだ.午後2時まで.

—— 形質コーディングの技法と比較に関しては,Robert Scotland and R. Toby Pennigton (eds.), 『Homology and Systematics: Coding Characters for Phylogenetic Analysis』(2000年刊行,Taylor and Francis,London,ISBN:0-748-40920-3→書評・目次)がとても役に立つ.

◇いわき短大の方から,考古学における幾何学的形態測定学の適用に関する電話質問を受ける.内容に関しては,来月早々に横浜で開催される第59回日本人類学会大会ポスター発表(P-1)されるそうなので,大磯(JST第2回研究会)が散開した足で,横浜にまわることにしよう.

◇日が暮れると急に気温が低下する.夜,来年の生態学会新潟大会のあとに企画されている〈生物統計学・春の学校〉の“校長先生”からメール依頼が届く.いろいろ返信.

◇明後日のトーク準備.恐竜の画像と復元図をあれこれ選ぶ.化石の「現物」をもっていった方がいいかもしれない.

◇本日の総歩数=14540歩[うち「しっかり歩数」=8063歩/71分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.1kg/0.0%.


19 oktober 2005(水) ※ 本が崩れる……

◇午前5時起床.曇りときどき小雨.気温16.7度.前夜からの雨は上がった.南海上を進んでいるはずの台風20号の影響はいまのところない.

◇昨夜つくったプレゼン資料や配布物の印刷と発送 —— 「第3回最先端遺伝育種セミナー」(2005年11月17日(木)〜19日(土),セント・キャサリンズ・カレッジ・神戸インスティテュート)の配布資料(3件)は CD-ROM に焼いたものを事務局に郵送完了./ 来週月曜(24日)の駒場トークには,ハンドアウトをつくって持参することにした.とりあえず“大物”はこれでおしまい./ あとは,今週土曜(22日)の朝カルの準備だけか.画像などの素材はすでにいくつか用意してあるので,それをベースにしてトークを組み立てるつもり(だけど).

◇〈本が崩れる〉 —— 昨日の午後,庶務係による居室点検があり,整理整頓状況がチェックされた.先日ももっと大規模な所内安全点検があった.いずれも,評定点は低く,「本棚が危険な状況にある」との結論だった.大きな揺れが来た場合には,書棚が倒壊する危険性あり,と.そういわれてもねえ,天井がやわなボードなので,倒壊防止用のポールをかませることもできないし,かといって,大量の書籍類を床に敷き詰めるわけにもいかないし.

ここのところ,茨城県南部は大きめの地震が続いているのだが,確かに,居室の本棚の上層部では,ちょうど氷河の末端部が崩落して海中に落ちるの圖と同じく,棚の両端からばさっばさっと本が崩落しつつある.ときどき,思い出したように1冊また1冊と“崩落”していくのを見ると,エントロピー増大は自然の理であることを痛感する.※鑑賞している場合か.

以前,震度5強の揺れがあった翌朝は,いつもすわっている机の上からダーウィン全集や日本国語大辞典[の箱]がどかどか落ちていた.もしその場にいたら,いったいどーなっていたか?:草森紳一『随筆・本が崩れる』(2005年10月20日刊行予定,文春新書472,ISBN:4-16-660472-4 →版元ページ)をさっそく読んで予防策(そんなもん,あるんか)を考える必要があるな.紹介文いわく ——

「マンションの部屋を埋める数万冊の蔵書が崩れてきた。本に監禁された瞬間からはじまる抱腹、超絶、悪夢の格闘技。写真多数収録」

他人事ではない.「写真多数収録」というのがとくによろしい.

—— いずれにせよ,居室の蔵書体制は抜本的に考え直す必要がある.今年度中に壁際につくりつけの書棚を据え付けようか.エントロピー増大に対抗するむなしい努力かもしれないが.

◇〈崩れ〉つながり —— 系統樹の「崩壊指数」を Windows で計算するすべは,たとえば〈PRAP〉(JAVA上),〈TreeRot〉(ん,これって Mac 用じゃん),〈T.N.T.〉(ただし,スクリプトを書く必要あり)を使うということか.

◇遅めの昼食とともに —— 千野栄一『プラハの古本屋』(1987年3月20日刊行,大修館書店,ISBN:4-469-21096-X)の第3部「カルパチアの月」を読了.東欧を中心とする紀行文.鉄道旅行が多いのは著者の嗜好ゆえか.これで完読.このようなゆったりした文章が書けるのはうらやましいかぎりだ.あとがきにいわく:

今の私の願いは,この本が数多くの読者に愛され,捨てられることなく古本屋に売られ,そこで徳永先生の『ブダペストの古本屋』と並んで飾られることである.もしこのようなお店が発見できたら,弟子としてこの上ない光栄であろう.(p. 283)

すでにふたりとも鬼籍に入ってしまったが,ぼくの本棚ではちゃんと並べておくことにしよう.

◇午後のこまごま —— 出張届1件と年休届2件.

◇夕方になってようやく晴れ間.

◇夜,自宅で恐竜関連の資料をあさっていたら,20時44分にぐらりと震度4の揺れ.またまた茨城県南部が震源だったらしい.まったくグッド・タイミング(というかバッド・タイミング)なことで.明日,研究所でどの程度の「蔵書崩落」があったか,被害調査が楽しみだなあ.

◇本日の総歩数=8602歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.1kg/−0.2%.


18 oktober 2005(火) ※ まとめてたたんで

◇午前5時起床.はい,今日も雨ですねー.気温16.6度.BGM は Atlantic Jazz の〈7 81823-2〉ね.

◇昨夜の寝読み —— 千野栄一『プラハの古本屋』(1987年3月20日刊行,大修館書店,ISBN:4-469-21096-X).第2部「プラハの古本屋」を読了.100ページほど.“ブダペストの徳永”と“プラハの千野”はやはりペアで読むべき本だと思う.呼応し合うところが多い.いずれも「1989年」以前の東欧の古書店風景について,いろいろと書かれている.稀覯書を前にしたとき,日本にいようがプラハにいようが,蒐書家の心理状態はあまり変わらないのか.

この本にカレル・チャペックの話題が多いのは当然のことだろう.そういえば,1995年2月25日〜27日に金沢大学理学部で〈系統分析に関する闇の講習会:第2幕〉を開催したとき,近江町市場に隣接していたホテルのすぐ近くに〈チャペック〉という喫茶店があった(もちろん今もある).たまたま見つけた店だったが(その筋では超有名な珈琲店であるとは露知らず),講習中は毎朝ここでコーヒーとトーストを食べていた.この店の名もカレル・チャペック由来だ.

こんなくだりがある ——

チェコの有名な作家カレル・チャペックは自分の作品の中で収集哲学を展開しているが,それによると蝶でも,切手でも,サボテンでも,きれいな気に入ったものだけを集めるのが女で,見ばえがせず,きたないものであってもぜんぶを徹底して集めるのは男だそうである.(p. 197)

◇フクザツなる人事的事務 —— 人事担当から連絡があり,「10月1日付で5級13号俸に昇格するので,同日発令した4級18号の昇級辞令は取り消します」とのこと.ほー,発令した辞令が取り消されることがあるのか.昇格人事に関わる組合との折衝が長引いたため,ぼくの定期昇級日である「10月1日」をまたいでしまったことが原因なのだろう.さらにフクザツなことに,書面上は「2005年4月1日発令,同10月21日施行」の5級昇格ということになるらしい.なんだかよくわかりません.

◇献本感謝(>まりまり) —— 長谷川眞理子『クジャクの雄はなぜ美しい?[増補改訂版]』(2005年9月25日刊行,紀伊国屋書店,ISBN:4-314-00994-2).初版は1992年1月31日刊行(ISBN:4314005742).40ページほど厚いこの改訂版をすでに読んでいる細馬さんは,「ほぼ別の本と言ってよいのてはないか」と評している(〈The Beach〉の10月9日付).

◇午後1時から,〈Zar統計学本〉セミナー(第23回) —— Chapter 14. Multiway Factorial Analysis of Variance (pp. 282-300) .3要因以上の多要因実験に関する分散分析の解説.完全無作為化法とラテン方画法の説明はまあいいとして,それに続く“repeated-measures”の分散分析が例によってとてもアヤシイ.前の章でもこのテーマになるとアヤシイ度が増す.勉めて詳細に書かれているので,よけいにアヤシク感じる.早々に立ち去った方がよかろう.次章は「Nested ANOVA」 —— こちらは役に立つだろう.

◇午後はトーク準備に費やす —— まずはじめに,10月24日(月)午後の東大・駒場での講義と11月17日(木)〜19日(土)の第3回最先端育種セミナーの準備.このふたつは“姉妹トーク”なので,派生的スライドがたくさん共有されている.夕方までかかって150枚ほどのスライド群をpdfにする.ファイルの大きさがそれぞれ126.5MB / 164.2MBもある(画像が多いからだろう).プレゼン用とハンドアウト用のpdfを出力する.

◇今日は[も]一日中,雨が降ったり止んだりしている.夜は,出力したpdfをふまえて,内容と台本のチェックをする.オブジェクトのズレを補正したりしながら,日が変わる頃,ようやく CD-ROM に焼き付けることができた.これで山場は越えた[はず].

◇本日の総歩数=7330歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.3kg/+0.3%.


17 oktober 2005(月) ※ 秋雨が降り続き,台風がまたも

◇午前5時起床.また雨か.気温16.6度.南海上の台風20号が北上しつつある.

早朝のこまごま —— 先日投稿した原稿の英文のパーツをつくってほしいとの依頼./ 落ちた新規課題に関する所内関係者への連絡./ 方々で話題になっている“ヘンな藻類”「ハテナ」のネーミングに関する問い合わせ./ decay index に関する質問を受ける.これは MacClade & PAUP* でなんとかなるでしょ.

◇「ハテナ(Hatena)」は,Science 誌の最新号に載っている:

Noriko Okamoto and Isao Inouye 2005. A Secondary Symbiosis in Progress? Science, 310 (5746) : 287. (14 October 2005)
※→Supporting Online Material.

細胞内共生の「教材」としてとても魅力的な生き物だ.もちろん,講義するときの「素材」としてもいろいろ使えそうだし.

◇午前中,断続的にざあざあと降っている.台風20号,来るぞ来るぞ.

◇昼までは,週末に質問を受けた崩壊指数(decay index)に関するコンサルタント業務.PAUP* / MacClade の連携で,計算をほぼ自動化することは可能ですね.前に書いた説明ファイル〈PAUP*/MacCladeを用いた崩壊指数の同時計算〉を更新した.

◇昼休み.雨はなおも降り続いている.傘をさして歩き読みに出発 —— 千野栄一『プラハの古本屋』(1987年3月20日刊行,大修館書店,ISBN:4-469-21096-X).この本は,著者の心情を考えると,徳永康元『ブダペストの古本屋』(1982年4月30日刊行,恒文社,ISBN:4-7704-0486-7→書評)のに読むべき本なので,買ってからだいぶ時間が経ってしまった.第1部「沈黙の翻訳」を読了.100ページほど.エッセイストとしてもとても有能だったのですね.そろそろ著作が絶版品切れになりつつあるので,心して集めておかないと.※著者が編集している三省堂の『言語学大辞典』(→参照)はすでに研究室にあるので,これは心配なし.

◇午後1時から,Alan Stuart and Keith Ord『Kendall's Advanced Theory of Statistics, Volume 1: Distribution Theory』(6th edition,1994年,Edward Arnold,ISBN:0-340-61430-7)の輪読第6回目.Chapter 2:「Measures of Location and Dispersion」の続き(pp. 57-64).無単位の変動係数(coefficient of variation),Giniの集中度係数(coefficient of concentration),変量の差の期待値(mean difference)の性質について詳細な説明.分散は定義できない場合でも,差の期待値は定義できる.はずれ値を除去する“トリミング”の技法について.午後2時過ぎまで.

◇午後のこまごま —— 進化学会経由で〈第21回国際生物学賞〉授賞式への参加依頼(12月5日,日本学士院にて).幹部の都合がつきそうにないので,今回は不参加の予定.今年の受賞者は植物生理学分野から(→読売新聞記事)./ メーリングリスト関連の管理作業を少し./ またまたクレームが(どおせい言うねん).講義のレベルに有意差はないと自己診断しているが,聴く側には有意差ありか? 最初から外していた場合はどーしようもありませんなあ(達観)./ 5級への昇格が決定したという通知.10月24日に辞令公布式がある(またドレスコードかっ?).※ とにもかくにもこれで長い間毎年の恒例行事だった文句垂れ垂れの昇格書類を書かずにすむようになったかと思うと…….しばし解放感に浸る./ 依頼されていた英文アブストラクトを送る./ 越中へブツを郵送する.

◇夕刻になっても,雨また雨.夜,ことのほか雨脚強し.

◇崩壊指数に関する電話対応.タイミングよく,PAUPhelp メーリングリストにも decay index 計算に関する質問が流れる.Macintosh 環境であれば MacClade の連携でスムーズに作業できるが,Windows 環境だとどうするのでしょう?

◇To do —— 1) 10月22日(土)の朝日カルチャーセンター(2回目)トーク準備; 2) 10月24日(月)午後の東大・駒場でのシステム科学特別講義I「システマティクス:体系化・進化史・歴史推論」トーク準備; 3) 11月17日(木)〜19日(土)の第3回最先端育種セミナー(神戸)のハンドアウト.

◇本日の総歩数=12385歩[うち「しっかり歩数」=5364歩/45分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.2kg/−0.7%.


16 oktober 2005(日) ※ 雨降り外出は自発的強制執行

◇午前5時に起床するも,つい二度寝してしまう.6時前に再度の起床.外は前夜からの雨が降り続いている.今日は東京に出ることになっているのだが,うっとおしいかぎりで.

—— 夜中のうちに連絡メールが入っていて,例の予算申請の件はみごとに落ちたとのこと.※まあ,今回のはしかたないでしょうね.

◇昨日,JICAのキューバ国別コースの研修生たちから,研修終了を知らせるはがきが届いた.研修報告会も無事に終わったことでしょう.みなさん,お疲れさんでした.はがきの写真(→右上)はJICA筑波国際センターでの〈R〉の実習風景です.

◇8時半にTXつくば駅に着く.所用で西日暮里まで.正午前にバスで浅草に出て,〈今半〉にて昼食.そのままTX浅草駅からつくばに直帰する.午後3時にはつくばセンターにいた.日中はずっと雨が降ったり止んだりで濡れる濡れる.※浅草の街が予想以上にTX開通を歓迎していることを知った.

◇TX車中読書 —— 井口壽乃・圀府寺司(編)『アヴァンギャルド宣言:中東欧のモダニズム』(2005年9月5日刊行,三元社,ISBN:4-88303-161-6).かつての左翼系のスローガンがいっぱい.ふたつの世界大戦に挟まれた時代の〈バウハウス〉や〈MA〉などに代表される“芸術運動”の足跡をたどる.当時の“モダニズム”とか“アヴァンギャルド”については何も知らないに等しいので,こういう本を読むと即座に〈スポンジ化〉する自分がいる.ひとつひとつの翻訳資料に編者の解説が付けられているので背景を知る上でとても助かる.第1章「ベルリン」,第2章「ワイマール」,そして第3章「ウィーン」を読了.

◇午後4時5分頃に地震あり.体感的には震度3〜4程度か.

◇夕方,オーウェン・ギンガリッチ『誰も読まなかったコペルニクス:科学革命をもたらした本をめぐる書誌学的冒険』(2005年9月30日刊行,早川書房,ISBN:4-15-208673-4)の書評を公開した.

◇〈Mike on Joe〉あるいは〈系統学のニューウェイヴ〉について —— Joseph Felsenstein の統計学的系統学書『Inferring Phylogenies』(2003年8月刊行,Sinauer Associates,ISBN:0-87893-177-5)の書評が Evolution 誌の最新号(Vol. 59, no. 9, September 2005)に載っている:

Michael J. Sanderson 2005. Where have all the clades gone? — A systematist's take on Inferring Phylogenies. Evolution, 59 (9) : 2056-2058.

先週,この号が届いたときに,「クレードたちはみんなどこに行ったの? —『Inferring Phylogenies』に挑んだある体系学者の弁」というこのナイスな表題の書評に惹かれて一気読み.数分後には知り合いに「すぐ読むべし!」メールを送っていた.

評者 Sanderson は,ここ10年ほどの間に,数学者やコンピュータ学者が系統学のさまざまな理論的・計算的問題の解決に重要な貢献を果たすようになってきたが,この〈ニューウェイヴ〉はさらに強大になってきたと判断する:

If you think Inferring Phylogenies is mathematically daunting, pick up a copy of Semple and Steel's Phylogenetics (2003), or the recently published edited volume by Olivier Gascuel on Mathematics of Evolution and Phylogeny (2005). Felsenstein's book builds a bridge between biologists and this New Wave. (p. 2056)

迫り来る〈ニューウェイヴ〉に比べれば,Felsenstein本はまだ「まし」なのだ.確かにつらいけれども,サバイバルできそうな気配は感じ取れる.しかし,他の2冊はどー考えても…….

系統樹構築に関わる統計学的アプローチに関しては本書の評価はきわめて高い(「それなしには生きていけない」ほどに).しかし,評者はそれ以外の「体系学的話題」がまったく論じられていないことを奇異に感じているようだ.たとえば,表題にもなっている“クレード”はその筆頭だ.系統推定の諸手法が体系学の問題解決のために開発されているという基本認識がしだいに薄れつつあることに対する警戒心だろう.

Sanderson の言う〈ニューウェイヴ〉のルーツはもっと古いと思う.Transformed cladistics が1970年代に分岐図の“離散数学”を目指したことやそれと時期を同じくして系統 Steiner 問題が定式化されたことなど,少なくともかつての体系学論争の焦点が「分類」から「系統」に軸足を移しはじめた時点で,今日の趨勢は運命づけられていたように感じられる.系統学の理論や方法をめぐるさまざまな論争やいざこざはまだしばらく続くだろうが,どう転んでも「最終的な勝者は系統学だ」というセーゲルストローレ的結論はすでに用意されていると思う.

—— いずれにせよ,離散数学と統計学と科学哲学を知らないと,これからの体系学者はもう生きてはいけないのです.Sanderson 書評をまだ読んでいない人(とくに若い体系学者)は,すぐ走り回って Evolution 最新号を探し出すべし.そして,“洗礼”を受けてね.

◇本日の総歩数=11427歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝△|昼△|夜○.前回比=+0.3kg/0.0%.


15 oktober 2005(土) ※ 蒸し暑い週末勤労奉仕日

◇なんともだらしなく午前5時50分まで寝てしまう.あまりに恥ずかしくてWeb日記に書くことさえはばかられる(書いてるやん).

—— 罪滅ぼしに朝のウォーキング —— 昨夜からの雨は上がっているものの,湿度が高く,季節外れに蒸し暑い朝.決着の歩き読み:オーウェン・ギンガリッチ『誰も読まなかったコペルニクス:科学革命をもたらした本をめぐる書誌学的冒険』(2005年9月30日刊行,早川書房,ISBN:4-15-208673-4→目次)最後まで読了.150ページほど.

この本は天文学史に関心のある読者だけではなく,一般の本好き(あるいは“理系的書痴”)にとってもきっと楽しめる読み物だと思う.

この本の主たる目的は,コペルニクスの『天球の回転について』が,アーサー・ケストラーがかつて指摘したような「誰にも読まれなかった本」などではけっしてなく,むしろヨーロッパ世界の中で所有者から所有者に刊本が受け継がれる過程で,さまざまな読まれ方と受容のされ方を経験してきたことを示す点にあった.『回転について』に書き込まれたマルジナリアを通じての天文学的知識の伝搬の可能性に関して,著者は言う:

これは,「見えない大学」,すなわち公の大学教育の枠外にあった16世紀の天文学研究の情報交換網の存在を示す,驚くべき確証と言える.「見えない大学」は,通常の制度や組織の境界線を超越した師弟関係から成り立っていた.そうした絆が存在した事実は,学究的な追跡調査により現在ではもちろん明らかにされているが,このような社会組織的構造は,正式に体系化されたものでも,大学に根ざしたものでもなかった.(p. 232)

本書のタネ本である:Owen Gingerich『An Annotated Census of Copernicus' De Revolutionibus (Nürenberg 1543 and Basel 1566)』(2002年刊行,E. J. Brill,ISBN:9004114661)は,世界中に現存している600冊に及ぶ『回転について』を網羅的にリストアップしたものだという.このような書誌情報のデータベースがあってはじめて本書を書くことができたのだろう.

コペルニクス的に打倒されてしまったプトレマイオス天文学は,惑星の軌道を説明するにあたって,「周転円(epicycle)」というアドホック仮説の積み重ねをしていたという通説が一般に流布しているが,それはまったくのでたらめであるという iconoclastic な指摘に目が覚める(第4章).そーかそーか,epicycle はマボロシだったのか.しかし,そういう天文学史プロパーの話題だけではなく,本書のいたるところに,このコペルニクス本をめぐる盗難・競売・散逸などの“図書ネタ”が散りばめられていて,それを拾い読むのも一興だ.

現存する刊本をことごとく調べ挙げるという著者のやり方は,有名なグーテンベルク聖書に関する同様の研究を思い出させる.たとえば,富田修二『グーテンベルク聖書の行方』(1992年3月20日刊行,図書出版社[ビブリオフィル叢書],ISBN:4-8099-0504-7)は,現存する「48部」のグーテンベルク聖書を逐一枚挙している.それに比べると十倍以上の現存数のある『回転について』(初版と第2版)を対象として同様の調査をするのに30年もの年月を要したというのは納得できる.ダーウィンの『種の起源』の初版は1000部あまり出版されたわけだが,あるオークションに臨席した著者はその古書価格の高騰はリーズナブルではないと言う:

かつて,ダーウィンの『種の起源』の初版1000部は発売初日に完売したが,その版はとくに珍しくはなかったので,サザビーズがつけた予想最高入札価格3万5000ドルはきわめて妥当と言える.それなのに,例の二人の電話入札者による競り合いで,15万ドルというまったく馬鹿げた値段になった.ベテランの収集家ならこの古典をすでに所有しているだろうし,こんなに無茶な金額をはたいて手に入れようとする研究機関などどこにもないだろう.この二人の入札者が初心者なのは明らかだった.(p. 280)

グーテンベルク聖書やコペルニクス本のような数十〜数百部しか現存していない超稀覯書と比較すれば,千部あまり「も」刷られている『種の起源』初版などはけっして稀覯書とは呼べないのかもしれない.この本には,たった15部しか印刷されていない図書カタログとか,これまで世界でたった2部しか発見されていないパンフレットなどの超々稀覯書も登場する.

本書の巻末に付けられた『回転について』の所在リストをひとつひとつ見ていくと,ある書物の刊本がそれぞれたどった系譜と伝搬の“物語”がいくつも聞こえてきそうだ.

◇午前10時から自治会の草刈り清掃奉仕.枝切りまくり.膝がさらに痛くなる.1時間ほどの勤労.とても蒸し暑かった.10月とは思えない.昼前に雨がざーっと降り,また止んで,午後は晴れたり曇ったり.なんという空模様か.研究所に2時間ほど籠ってみる.午後4時の気温は23.4度.

◇夕暮れとともに再び雨が降り出した.しだいに本降りに.

◇10年ぶりくらいに開いた本 —— Wolfgang F. Gutmann and Klaus Bonik『Kritische Evolutionstheorie: Ein Beitrag zur Überwindung altdarwinistischer Dogmen』(1981年刊行,Gerstenberg Verlag,ISBN:3-8067-0874-6).筆頭著者の Gutmann が亡くなっていたことを知って久しぶりに.機能形態学に関連する外部選択と内部選択の章がとても長いなあ.

ドイツ語圏と英語圏では,進化学でも,体系学でも,あるいは生物学哲学でも“隔たり”が拭いがたくある.相互交流がないわけではないのだろうが.それ以上に,“非英語圏”の文献が一般的に縁遠くなりつつあるという方が問題なのかもしれない.機関での外国語雑誌の購入を継続するかどうかで問題が起きるとき,最初に切られるのは“非英語”なジャーナルだし.ロシア語の自然科学系の雑誌なんか購読・所蔵機関がどんどん減っているのではないか?

◇夜11時を過ぎて外では雨がざあざあ降っている.

◇本日の総歩数=17718歩[うち「しっかり歩数」=11915歩/98分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=−0.6kg/−0.2%.


14 oktober 2005(金) ※ みごとな“うろこ雲”が

◇午前6時前に目が覚める.研究所に行く途中,いわし雲が(あるいはうろこ雲というのか)とてもきれいだったので,車を停めてパチリと.気温14.4度.予報では「雨」のはずだが,そのような気配は微塵もなし.

—— その“うろこ”もみるみる取れてしまい,すっきりとした秋晴れ快晴に.研究所にてメーリングリスト関連の作業など少し./ ソーバー本の注文が1冊届いていたので発送準備完了./ JST第2回研究会のタイムテーブル試案をつくってみる./ 進化学会の来年度大会(代々木オリンピックセンター)に関する意見交換.まずは科研費申請(研究公開)からか.箱崎からはたまた駒場からメールがやってくる(三島からはまだ).

◇進化学研究機関〈MORPHISTO: Evolutionsforschung und Anwendung GmbH〉について —— 会社組織として進化学を「売り込んでいく」ということか.個人的には,そういう“営業”まわりのことよりも,ドイツの進化学研究についての情報が得られることの方がありがたいのだが.内部選択説を標榜していた Wolfgang Friedrich Gutmann が数年前に亡くなっていたとはまったく知らなかった.

◇新刊メモ —— Ulrich Krohs and Georg Toepfer『Philosophie der Biologie — Eine Einführung』(2005年8月24日刊行,Suhrkamp,ISBN:3518293451).ドイツ語圏で,翻訳書でない「生物学哲学」の新刊を久しぶりに見た.もっと出ているとは思うが,まったくアンテナに引っかかってこないというのが問題か.

◇もうひとつ新刊メモ —— 日本育種学会(編)『植物育種学辞典』(2005年9月8日刊行,培風館,ISBN:4-563-07788-7).※いちおう項目分担執筆した“著者”の一人ではあるのだが(どこにも掲載されていないけど),現物を著者割引で注文したのが遅かったので,今日になってやっと届いた.ここ数年,辞書を書く仕事がとても多かったが,これで一区切りがついたことになる.

—— あ,でも,実はもう一つ辞書仕事がある(はずな)のだが,ここんとこぜんぜん連絡がないので“そっ”とそのままにしてあります(汗).※きっとまだ「生きている企画」だと思う(多汗).まずいなあ. — こんなふうに書いてしまったりするとさらによろしくないなあ(激汗).

◇気温24.8度の昼休みに,つくばセンター某[高]所にて,ブツをこっそり手渡す.これでこの件はとりあえずの完了だ.あとはゲラが出てくる年末から年明けの作業になる.これにて一件落着ぅ〜,と思わせないところが「敵」もさるもの.来週末,神保町にてさらなる“年貢”の取り立てが決められてしまった.

—— 日射しがまぶしい…….〈Q't〉の〈LoFT〉にて,Schneider の「BASE UP」を見つけてしまった.あ,これはとても書きやすいです.替えインクもついでに.Rotring になじんで以来,基本的にドイツ製の文房具には全幅の信頼を置いているのですが,裏切られたことはこれまでほとんどないですね.※文房具に関してはガマンをちっとも知らないワタシ.

◇故・岡田豊日の“失われた記事” —— 岡田豊日「分岐学(Cladistics)の日本への紹介」(実践生物教育研究,no. 12, pp. 6-9, 1991年8月刊行).“失われた記事”といっても,未発表原稿が“発見”されたわけではなく,単に『岡田豊日博士論文選集(1936-1988)』(1988年9月20日刊行,岡田豊日博士論文選集刊行会,ISBN:なし)のに出版されたというだけのことですが,越中の殿が「一番弟子であるワシが知らぬ論文があったとは」と絶句していたので,あとでコピーを送ることにする.※S藤さん,コピー感謝いたします.

◇絶滅言語の「話者」としてのオウムは‘都市伝説’か? —— Simon Conway Morris の『Life's Solution: Inevitable Humans in a Lonely Universe』(2003年,Cambridge University Press,ISBN:0521827043 [hardcover] / ISBN:0521603250 [paperback]→目次)の膨大な脚註(第8章の注170)の一つに引っかかる.チャールズ・ダーウィン『人間の進化と性淘汰I』(1995年9月15日刊行,文一総合出版,ISBN:4-8299-0121-7)の「人種の絶滅について」の1節:

「フンボルトは南アメリカで,絶滅した部族の言語を話すことができるのは1羽のオウムだけだったのを見た.」(p. 201:長谷川眞理子訳)

に関して,

Or is this an ‘urban myth’, like the last Cornish monoglot, Dolly Pentreath (d. 1777) and her apocryphal posthumous parrot? (p. 412)

と記している.絶滅言語の「話者」としてのオウムっていうのは,Conway Morris が言うように単なる‘都市伝説’のたぐいなのかどうか,ぼくには判断できない.

ダーウィンの引用元はアレクサンダー・フォン・フンボルトの『新大陸赤道地方紀行(上・中・下)』(2001年12月20日/ 2002年12月19日/ 2003年9月26日刊行,岩波書店,ISBN:4-00-008849-1 / ISBN:4-00-008850-5 / ISBN:4-00-008851-3)にまちがいないだろうし,イングランド南西部でのコーンウォール語の最後の話者が1777年に102歳で死んだドリー・ペントリースであることも確かな事実だろう(→ダニエル・ネトル&スザンヌ・ロメイン『消えゆく言語たち:失われることば,失われる世界』2001年05月29日刊行,新曜社,ISBN:4788507633).

しかし,それぞれの絶滅言語の最後の話者が「オウム」だったかどうかは怪しいといえば怪しい.ただし「ペントリースのオウム」の出典について Conway Morris は明らかにしていない.このこと自体がすでに‘都市伝説’なのかもしれない.※Cornwall だから parrot だ,なんていうオチじゃないでしょーね?(うたぐるワタシ)

—— Conway Morris さんは一筋縄ではいかないぞ.

◇暗くなってから雨が降り出した.ここのところ天気予報が外れまくっている気がする.明日も朝から雨のはずだが…….

◇以前の“ゼンケンベルク学派”の進化学の本など久しぶりに引きずり出したり,コペルニクス本を読み進んだりしているうちに,日が変わってしまった.

◇本日の総歩数=7139歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.3kg/+0.2%.


13 oktober 2005(木) ※ 明け方の〈薔薇の名前〉

◇午前4時半に起床.晴れ上がった夜明け,最低気温12.3度.さすがに肌寒さを感じる.

彼は誰れ時の〈薔薇の名前〉 —— DVDをちょこっと鑑賞.どー考えても,この映画の「主人公」は,けっしてショーン・コネリー演ずるバスカヴィルのウィリアムではなく,聳え立つ“図書館”そのものだと思う(図書館長ホルヘはその「化身」にすぎない).また昼間ではなく夜中や早朝のシーンが多いので,鑑賞するのもその設定に合わせた方がいい.そこはかとない雰囲気が醸し出される.※ああいう図書館の中で「迷子」になってみたいなあ〜.ああいう閲覧室のキャレルに籠りたいなあ〜.

◇早朝のあれこれ —— JST第2回研究会の演者と演題が確定した.関係者に連絡.タイムテーブルを早く確定しないといけない./ 首都大学東京のレポートがそろそろ集まり始めている.締切は10月21日(金)なので,まだこれからか.

◇晴れ上がった昼休みの読み歩き —— オーウェン・ギンガリッチ『誰も読まなかったコペルニクス:科学革命をもたらした本をめぐる書誌学的冒険』(2005年9月30日刊行,早川書房,ISBN:4-15-208673-4→目次)を第7章まで読了.80ページほど.「書誌探偵」による推理小説みたいな本だ.コペルニクス本『天球の回転について』刊本の“本文”ではなく,所有者による本文周囲への“書き込み”(すなわち“マルジナリア”)から,その由来(伝承)について推理を重ねている.その伝承系譜の「ノード」にあたる重要人物が,著者の30年に及ぶ探求の過程での多くの偶然と幸運によって次々に視野の中に浮上し,その結果ジグゾーパズルの“絵”がしだいに見えてくるという絶妙な筋書きが,あまりにも「できすぎ」のようで,しかも魅力的だと感じた.

◇午後1時から1時間ほど,〈系統学的考古学〉セミナー(第21回).Chapter 5 : 「Taxa, Characters, and Outgroups」の続き(pp. 139-143).範型分類(paradigmatic classification)の解説.多変量形質空間での形質状態の組み合わせによって「範型(paradigm)」を定義していくという作業.古生物学(Alan Shaw)と考古学(Robert Dunnell)が1960年代末に別々に提唱したらしい.階層分類かそれともネットワーク分類かという論議がここでも繰り返されるたわけだが,著者らは基本的に階層分類でなんとかやっていけるだろうと考えている.

◇bk1から大挙して届いた旧・博品社〈博物学ドキュメント・第1期〉の本たち —— ジェイムズ・E・ハーティング『シェイクスピアの鳥類学』(1993年10月5日刊行,博品社,ISBN: 4-938706-09-1)./ ウィルマ・ジョージ『動物と地図』(1993年1月27日刊行,博品社,ISBN: 4-938706-05-9)./ ベルトルト・ラウファー『サイと一角獣』(1992年8月15日刊行,博品社,ISBN: 4-938706-03-02)./ P・アンセル・ロビン『中世動物譚』(1993年7月25日刊行,博品社,ISBN: 4-938706-08-3).※思うに,1980年代後半から1990年代前半の約10年間は“博物学書出版ラッシュ”だったのですね.

◇連日,睡眠時間が5時間弱だったので,夜になって意識朦朧になる(“オニ”抜きの“罔兩”状態).でも,ずるずると夜更かしして,寝たのは午前1時前のこと.

◇本日の総歩数=10268歩[うち「しっかり歩数」=4805歩/42分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.7kg/−0.4%.


12 oktober 2005(水) ※ 買いたいと思ったときに本屋なし

◇午前4時半起床.晴れ.6時の気温は15.8度.湿度が低く爽快な朝(こうでないと).

◇早朝のあれやこれや —— まりまりからメールあり.JST第2回研究会の演者がこれですべて確定した.関係者に連絡メールなど./ 順序データの統計分析に関する質問.とりあえずアラン・アグレスティ『カテゴリカルデータ解析入門』(2003年2月20日刊行,サイエンティスト社,ISBN:4-914903-92-X)を紹介する./ 来月の統計研修テキストに関する問い合わせ.すぐ返信する./ EVOLVE に Richard W. Burckhardt, Jr.『Patterns of Behavior: Konrad Lorenz, Niko Tinbergen, and the Founding of Ethology』(2005年3月15日刊行,The University of Chicago Press,ISBN:0226080897 [hardcover] / ISBN:0226080900 [paperback] )の目次を流す.

◇雲がやや多めだが,清々しく晴れ上がる —— 第21回〈京都賞〉のポスターが稲盛財団から届いたので,農環研ロビーに掲示.「オモテの仕事」的には〈サイモン・レヴィン関連行事〉に関心を持たないとどやされるのだろうが,私的には〈ニコラウス・アーノンクール in Kyoto〉の方がはるかに魅力的ではある.パネリストもなかなかのものだし.

◇昼休みに土浦で所用をすまし,〈大かわ〉にてオムライス.いい風が霞ヶ浦方向から吹いてとても快適だ.

◇午後は「速攻1万字」 —— 先日依頼された原稿を昨日いったんは断ったのだが,諸方面からの“無言の圧力”に屈して,速攻で11,000字ほど書き上げる.もちろん,すでにオンライン公開されていない原稿をベースにしたリライトなのだが.午後5時に相手方に原稿ファイルを送る.※よろしくお願いいたします.

◇「買いたいと思ったときに本屋なし」 —— bk1で博品社の〈博物学ドキュメント〉叢書の在庫を半額バーゲン販売しているので,いくつか注文する.R. H. ファン・フーリク『中国のテナガザル』(1992年9月25日刊行,博品社,ISBN: 4-938706-04-0)とオットー・ゼール『フィシオログス』(1994年6月10日刊行,博品社,ISBN: 4-938706-13-X)はすでにもっているのだが,まだまだ先は長い.この叢書にはとてもおもしろい本が入っているのだが,蒐書射程に入ったときにはもうすでに出版社は跡形もなかった.もちろん,こういうシリーズが出ていることは知っていたのだが,別の本に目が行っていておろそかになった次第でして.図書出版社の〈ビブリオフィル叢書〉もそう.買いたいと思ったときに本屋なし.※わかっちゃいるけど.

—— フーリクに関して leeswijzer にてウソを書いてしまった…….「博品社の解説には著者に関しての情報は得られなかったと書かれてあったが」などとええかげんなことを記してしまったが,上記の訳書解説にはフーリクの経歴などについてちゃんと詳しく書かれていました.確認を怠ったワタクシの間違い.ごめんなさい,ごめんなさい.

◇夜,翻訳原稿の残りの原注(計450項目ほど)をチェック.これですべて完了です.※あさって,つくばセンターにて手渡し予定.

◇明け方の冷え込みがきつくなってきたので,毛布をずるずると引きずり出す.これで安眠保証.

—— 日が変わって就寝.

◇本日の総歩数=8203歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.4kg/0.0%.


11 oktober 2005(火) ※ 雨上がりのコペルニクス

◇午前5時起床.昨夜も降り続いた雨だったが,明け方にはようやくあがっていた.気温16.8度.姦しいアオマツムシも気にならなくなってきた.

◇昨夜,オーウェン・ギンガリッチ『誰も読まなかったコペルニクス:科学革命をもたらした本をめぐる書誌学的冒険』(2005年9月30日刊行,早川書房,ISBN:4-15-208673-4→目次)を3章まで読んだが,やはり“当たり”だった.巻末に「所在地リスト」が載っている.コペルニクスの『天球の回転について』の写本は日本にも所蔵されている.たとえば,金沢工業大学の〈工学の曙〉文庫というデジタルライブラリーでは,同大学が所蔵している写本(1543年,初版)のページをオンライン公開している(→該当ページ).他にも,広島商科大学に紹介記事がある.

◇朝のこまごま —— 事務への提出書類1件(完了)./ 郵送書類2件(完了)./ もっと具体的な話をしてほしいとの要望あり.ううむ,あと10日ほどあるので,少し再考してみますね./ 昆研OB会から東京農大の〈収穫祭〉(10月29日〜30日)の通知が来た.飲み会やるんですね?/ 著者割引での購入依頼2件を出版社に出す(完了)./ 収納に悩む者とても多し(→救済されたい)./ Supertree software〈Clann〉の新バージョン公開./ 『生物科学』編集会議の日程打ち合わせ.11月のいつかの土曜日.日程未定./ 依頼原稿1件を断ってしまう.ああ,申しわけない./ 依頼された論文査読2件も断ってしまう.うう,ごめんなさい./ “人探し”の依頼メールに返事を書く.この件は公開ではなく,こっそり探した方がいいですね.何人かにそれとなく引導を渡そう(白羽の矢を立てよう)とする.1名ゲット.

◇あ,もう昼休みだー —— と思ったら,多変量分散分析に関する飛び込みの質問あり.速攻で返事を書いていたらもう昼休みの時間がなくなってしもたあ.読まず歩かず飯喰って(とほほ)./ さらに,さっき弾いたはずの査読依頼が粘り腰の反撃を喰って舞い戻ってきた(とほほほ).

◇確かにそうですねえ.Prestel Verlag はエルンスト・ヘッケルの“画集”をこれまでも復刻してきた経緯がありますので,Ernst Haeckel『Kunstformen aus dem Meer : Die Radiolarien』(2005年3月1日刊行,Prestel Verlag,ISBN:3-7913-3329-1)が新刊リプリントで出たというのも納得です.6年前に Göttingen の Hennig Society Meeting で,同社から出たばかりの Ernst Haeckel『Kunstformen der Natur』(1998年7月1日刊行,Prestel Verlag,ISBN:3-7913-1978-7)を買ったことがあります.

◇午後1時から1時間弱の〈Zar統計学本〉セミナー(第22回) —— Chapter 13. Data Transformations (pp. 273-281) .正規性,等分散性,あるいは相加性のいずれかを達成することを目的に実行されるデータの変換方法に関する解説.この章では,対数変換・平方根変換・アークサイン変換について紹介されている.処理平均に比例して分散が規則的に変化する場合の対処が問題視されている.さっさとこの章を終え,次なる要因実験の章へ進む.

◇午後3時から理事長室にて理事長懇談会に参加.1時間ほどで退散.

◇夜,翻訳原稿の膨大な「註」に取り組む.1章につき300あまりの註がつくというとんでもねえ本だ.Chapter 7〜8完了.脚註総数しめて500個!

◇日が変わったので,とっとと寝ましょ.

◇本日の総歩数=6983歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.3kg/−0.2%.


10 oktober 2005(月) ※ 「体育の日」も雨模様

◇午前5時に目が覚めたものの,ざあざあ雨が降っているので,また寝る.午前6時まで寝入ってしまう.気温はとても低い(15度くらいか).

◇新刊メモ —— オーウェン・ギンガリッチ『誰も読まなかったコペルニクス:科学革命をもたらした本をめぐる書誌学的冒険』(2005年9月30日刊行,早川書房,ISBN:4-15-208673-4→目次).※メイン・タイトルを見ただけではイマイチ魅力が感じられなかったが,サブタイトルに惹かれて即購入.科学史の上で文字通りの“コペルニクス的展開”のきっかけとなった著書『天球の回転について』の刊本に書き込まれたこれまた文字通りの“マルジナリア”を手がかりにして,コペルニクスを中心とする当時の科学者のネットワークをたどろうとする.著者の眼のつけどころのユニークさもさることながら,広範囲におよぶ書誌学的フィールドワークが読みどころだろう.十分に期待できる内容だ.

◇午後2時過ぎに研究所にてこまごま.1日の最高気温が出る時刻だが,きょうは気温17.4度までしか上がっていない.一日中,雨が降ったりやんだりで,この三連休は「静かに本を読みましょう」という天のお告げにちがいない.確かによく読んだ.

休日なのに書類を書いたり,ハンコを押したりする.※こんなことをしていてはいけないのだ.

◇おお,こういう論文が出たのですね:

Herve Philippe , Yan Zhou , Henner Brinkmann , Nicolas Rodrigue and Frederic Delsuc 2005. Heterotachy and long-branch attraction in phylogenetics. BMC Evolutionary Biology, 5: 50 (6 October 2005), doi:10.1186/1471-2148-5-50.

Bryan Kolaczkowski & Joseph W. Thornton の Nature 論文 (doi:10.1038/nature02917)が出て以来,それに対する反論がいくつか出されている.たとえば,Matthew Spencer et al. の MBE コメント (doi:10.1093/molbev/msi123)もそう.しばらくは続くみたいね.

◇〈2nd Meeting of the International Society for Phylogenetic Nomenclature〉が来年開催.昨年,Paris で Hennig Society Meeting の直前に開催された会議に続く.→ First Circular(pdf).

◇読書の夜 —— 先月末すでに届いていた本たちをざっとブラウズ:Stéphane Schmitt『Histoire d'une question anatomique: la répétition des parties』(2004年11月10日刊行,Publications scientifiques du Muséum nationale d'Histoire naturelle,Paris,ISBN:2-85653-556-9).昨年の Paris の Hennig Society Meeting のおり,近刊としてアナウンスされていたパリ自然史博物館の出版物.体節形態の研究史.700ページもあって,快感なほど重い本.ゲーテの時代から evo-devo までぜ〜んぶ総ざらい./ Richard W. Burckhardt, Jr.『Patterns of Behavior: Konrad Lorenz, Niko Tinbergen, and the Founding of Ethology』(2005年3月15日刊行,The University of Chicago Press,ISBN:0226080897 [hardcover] / ISBN:0226080900 [paperback] →目次).小見出しまでチェック.コンラート・ローレンツとニコ・ティンバーゲンとの関係が主か.カール・フォン・フリッシュは従ですね./ Sandra Herbert『Charles Darwin, Geologist』(2005年刊行,Cornell University Press,ISBN:0-8014-4348-2).なんだか手堅いって感じで.

◇夜がふけても秋雨はエンドレスに降り続く.

◇本日の総歩数=3004歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝△|昼○|夜△.前回比=+0.6kg/+0.1%.


9 oktober 2005(日) ※ 秋雨の完全オフ日は転がる

◇午前6時起床.雨また雨.気温低し.朝から怠けてだらしなく本たちを読んだりする.

—— そういえば,“アラマタ大図鑑”はまだちゃんと読んでいなかったなと思い立って,自宅に持ち帰っている荒俣宏『世界大博物図鑑1:蟲類』(1991年8月23日刊行,平凡社,ISBN:4-582-51821-4)を最初からめくりはじめたり.ハマる.序論に書かれてあるように,「蟲」カテゴリーは,狭義の「虫」にとどまらず,広義の節足動物を含み,さらには広範囲の無脊椎動物まで中に取りこんでいる.前半130ページを過ぎてやっと insects が登場する.図版がとてもきれいなのは,原典が折り紙付きの美麗な原色図譜だから.いったいこれらの古書の蒐集にどれだけの時間と資金がつぎ込まれたのかと思うと…….

◇徳永康元『ブダペストの古本屋』(1982年4月30日刊行,恒文社,ISBN:4-7704-0486-7)の書評(まとめ)を忘れないうちに書く.→公開しました.

◇休日のこまごま —— JST 第2回研究会(11月4〜5日,大磯プリンスホテル)の案内・事務・勧誘などを週明けに一括完了させないと./ とある書類の記入と返信./ 別のとある書類を作成しないと./ 著者割引での注文を2件(やりますやります).

◇曇りときどき雨.昼になっても気温は20度程度までしか上がらず.

【欹耳袋】 〓之林[「〓」=“革”+“斤”]『中国の生命の樹』(1998年12月刊行,言叢社,ISBN:4905913632).※新刊ではないが,今日初めてその存在を知った.中国的「生命の樹」の図版がたくさん(千数百葉も!)載っているそうだ.機会を見てゲットしましょう.目次内容から見て,アジア全土に及ぶ「生命の樹」イコンを追った杉浦康平の本『生命の樹・花宇宙』(2000年7月30日刊行,NHK出版,ISBN:4-14-080488-2※→書評)と関連し合う部分がきっと多いだろう

◇つい読了 —— 吾妻ひでお『失踪日記』(2005年3月8日刊行,イースト・プレス,ISBN:4-87257-533-4).※著者いわく,「全部実話です(笑)」……そーですか.例のタッチの“漫画”になっているので,つられて苦笑したりしてしまったが,これが“活字”で縷々つづられていた日にはど〜んと重くクラくなっていたにちがいない.絵のウラをどこまで読み込めるか,吹き出しの背後をちゃんと見通せるかと挑まれている感じ.「続編」があるようなことがほのめかされているが,その前にまたまた失踪しないでね.

◇夜,しとしと雨の中,アラマタ図鑑1はほぼ読み通す(というか眺め通す).

◇本日の総歩数=3593歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=−0.7kg/+0.6%.


8 oktober 2005(土) ※ 朝カル初回の新宿へ

◇午前4時起床.昨夜からの雨が降り続く.気温21.2度で,暖かい.

—— 研究室にて,今日の講義用のハンドアウトを印刷したり,スライドpdfの最終調整をしたり,はたまたBGM用のCDミュージックを選んだりする.午前6時に作業はすべて完了.あとは行くだけだ.

◇必要な機材を詰めて,つくば駅 8:28 発の快速TXに乗り込む.新御徒町駅で大江戸線に乗り換え,都庁前に到着したのが10時前.雨がぱらついて,湿度が高い.このA6出口を出て,住友ビルのてっぺんエリアの48階にある〈朝日カルチャーセンター〉に“初登頂”する.見晴らし良すぎて,足もと不安.

◇講義室は100人はらくに入れそうな大きい部屋だ(午後には〈シェイクスピア講座〉という人気教室があって,満員になるらしい).機材のセッティングと接続の確認.CDプレーヤーを用意してもらう.とくに問題なし.あとは受講生を迎えるだけ.

—— カルチャースクール系の講義というのは初体験だったので,来る顔ぶれに少し興味があった.今回の受講者総数は15名.見渡したかぎり性比は♂:♀=11:4 だった.女性の平均年齢は男性に比べて顕著に低かった.男性受講者のほとんどはリタイアされた[らしき]層のようだった(70歳台[とお見受けする方]もちらほら).この年代の方々は概して“礼儀正しい”ので,たとえ広い教室であっても,方々に散らばって座るというような“勝手な振る舞い”はされず,教壇のすぐ近くに集中分布するという傾向がある.今回もそうだった.

聴衆の年齢が高い場合のプレゼンの鉄則は,「ゆっくり話す」「大きく書く」「厭わず繰り返す」の三つだ.視力と聴力がともに下がりつつある年代を相手にするかぎり,体力ありまくりの学会大会や研究集会のような“筋肉番付”的な爆走トークは禁物で,聴衆との余裕のあるインタラクションがとりわけ求められる.さらに,受講者がけっして安くない講座参加費を払ってこの場にいることを考えれば,「顧客満足度」をどのように上げればいいのかは最重要課題だ.予備校の夏期講習や冬期講習の状況を想定すればいい.

◇10:30定刻に高座〈進化する生物(第1回)〉の始まり.ハンドアウトを配り,pdfでプレゼン.全5回の講座内容について説明する.今回は,各回ごとに「スター生物」に登場してもらい,それをネタにして進化学・系統学についての話をするという趣向にした.初回の主役は「蟲」だ.

生物多様性の〈species-scape〉を〈生類曼荼羅〉に見立てた序奏から始まり,主役である「蟲」のライトモティーフを提示する.その他の脇役たちを紹介しつつ(次回以降の主役を含む),体系学オペラの第1幕「分類学」から第2幕「系統学」へと進んでいく.講義している間に,荒俣宏『世界大博物図鑑1:蟲類』(1991年8月23日刊行,平凡社,ISBN:4-582-51821-4)を受講生の間で回覧する.全5巻を毎回1冊ずつ回覧する予定にしている.空前絶後のこの大図鑑が出版されてからもう15年が経ったのか.

いつもより遅めのスピードを維持したせいか,スライドの枚数にしては時間をかけたトークになった.終了前の5分をもらって,武満徹〈系図:若い人たちのための音楽詩〉のCD(PHILIPS PHCP-1493,小沢征爾指揮,サイトウ・キネン・オーケストラ,語り:遠野凪子)から第1話「むかしむかし」を聴く.高座の締めは「遺伝子ミュージック」ならぬ「系統樹ミュージック」で.次回はアルヴォ・ペルトの〈アルボス(樹)〉をもっていきます(その次はスティーヴ・ライヒね).

—— 正午定刻に終わった.

◇曇りときどき雨の蒸し暑い昼下がり.神保町で地下鉄から地上に出たところ,ざーっと雨が降ってきた.〈じねんじょ〉にて薬膳カレーを食べ,すずらん通りの書肆アクセスから東京堂書店という定番コース(簡略版)をこなして,お茶の水駅に向かう,秋葉原乗り換えで TX に.午後3時過ぎにはもうつくばに戻っていた.東京と同じく,雨がぱらぱら降っては止む.生暖かく,不快指数高し.文房具店を見つけては Filofax の来年度イヤープランナーを探しているのだが,手帳リフィルのコーナーになかなか見つからない.やっぱり,銀座の伊東屋に行くしかないか(確実にあるので).

◇往復の車中読書 —— 徳永康元『ブダペストの古本屋』(1982年4月30日刊行,恒文社,ISBN:4-7704-0486-7).読了.著者がさまざまな機会に書いているように,第二次世界大戦中のブダペスト留学から日本に帰還するまでのさまざまなエピソードが興味深い.バルトークがアメリカに亡命する直前,最後にハンガリーで開いたピアノ・コンサートに行った話とか,コダーイを彼の〈ハンガリー詩篇〉の演奏会で見た話とか,さまざまな音楽談義が読める.ほかにも,ヨーロッパ各地を訪れた紀行文(とくに古書店めぐり)や旧知の想い出などなど.

著者はてっきりハンガリー語の専門家だとばかり思っていたのだが,本務校だっだ東京外大では,言語学だけでなく民族学も教えていたそうな.留学直前に助手として勤めていた東大図書館の直属上司だった関敬吾は後に日本の民族学の重鎮となったそうだ.そういえばカールレ・クローンの“系統学的”民俗学の本である『民俗学方法論』(1940年刊行,岩波文庫 34-223-1)の訳者はほかならない関敬吾だった.この訳書を出版した時期は,訳者が著者・徳永康元と同じ職場にいた時期と重なる.

徳永本に,時代をともにした知人の言語学者たち(千野栄一,田中克彦,工藤幸雄ら)が登場するのは当然予期されることだが,作家の田宮虎彦が著者の旧友だったり,串田孫一が東京外大での同僚だったり,いまリバイバル中の植草甚一とも知り合いだったりというのはまったく予期しない驚きだ.こういうエッセイ集を読む愉しみのひとつは,予期しなかった「点」が現われては,ぽつぽつとつながっていくのが見えることだ.あるテーマに沿って「線」が伸びていく書き下ろし単行本とのちがいはここにある.

—— 時間はかかったが,とにもかくにも〈ブダペスト三部作〉を読了できてよかった.

◇夜になっても,雨が降ったり止んだりしている.気温はやや低め.

◇本日の総歩数=16543歩[うち「しっかり歩数」=4580歩/39分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=0.0kg/0.0%.


7 oktober 2005(金) ※ 大波小波の振替休日

◇午前5時起床.雲は多めだが,いちおう晴れている.今日は振替休日で「ゆっくり休んでいい日」なのだが,そういう取り決めとはまったく関係なく仕事があるので,単に「出勤簿に押印しなくていい日」というだけのこと.

◇ソフトウェアのアップデートいろいろ —— まずはじめに最新版〈R 2.2.0〉のソースコードが公開された.実行ファイルもすぐに配布されるだろう./〈SplitTree 4〉.系統ネットワーク用に./ 系統樹ユーティリティとして〈TreeStat 1.0〉.Tree-balance や tree-shape に関する統計量を計算してくれるという.

◇さまざまな自然現象や社会現象の説明としての「自己組織化」に関する論議が“至近因(proximate cause)”をめぐる機構を論じているのだとすれば,「収斂」に関する論議はその背後にある“究極因(ultimate cause)”が何かという点に目を向けているのだろう.実例として挙げられている事例が両者(両書か)で驚くほど「一致」しているというのはけっして偶然ではない.※両方の本に関わりをもつことになったのは偶然だが.

◇関連する新刊メモ —— 三村昌泰(監修)〈非線形・非平衡現象の数理〉(全4巻,東京大学出版会)が刊行開始.今月出るのは第1巻・蔵本由紀(編)『リズム現象のダイナミクス』(2005年10月刊行予定,東京大学出版会,ISBN:4-13-064091-7).以下続刊:第2巻・松下貢(編)『生物に見られるパターンとその期限』,第3巻・柳田英二(編)『爆発と凝集』,第4巻・三村昌泰(編)『パターン形成とダイナミクス』.

◇やっと届いた徳永康元『ブダペストの古本屋』(1982年4月30日刊行,恒文社,ISBN:4-7704-0486-7).1950年代後半からのエッセイが集められている.昼休みに少し読んでみたが,最初はモルナールの劇の話,それからヨーロッパの古書店巡りのエピソードに続いていく.そのうち,バルトークやコダーイの音楽ネタも出てくるようだ.

◇よく晴れ上がった春休みの歩き読み:ヘルベルト・プルチョウ『江戸の旅日記:「徳川啓蒙期」の博物学者たち』(2005年8月22日刊行,集英社新書0304F,ISBN:4-08-720304-2※→目次)を読了.第9章に登場する渡辺華山は,そのむかし岩波文庫の『華山・長英論集』(1978年8月16日刊行,岩波文庫[青025-1],ISBN:4-08-330251-6)を読んで以来,ひとりの“画家”として気になっていた人だ.著者は,日本における「啓蒙思想」の起源は明治維新に始まるという通説に反対し,本書に挙げられたような江戸時代の旅する博物学者たちの言動をふまえて:

私のようなヨーロッパ人から見ると,明治初期の日本の思想にヨーロッパの啓蒙思想に似ているところが,もちろんところどころにあるにもかかわらず,本書で見てきたような江戸時代の思想のほうが,ヨーロッパ啓蒙主義の諸条件に類似している点が多いように思えるのだ.(p. 228)

と主張する.いまだ“点”の枚挙の段階かもしれないが,納得できる見解だ.

◇午後4時に〈leeswijzer〉のアクセスカウンターが「70,000」を越えた.

◇明日は,朝日カルチャーセンターでの最初の「高座」なのでその準備をしているのだが,まずは“エンターテイナー”にならんとあかんのでしょうね.※まちがっても「死なせて」はいけない.

ということは,スライドの説明度をさらにアップさせる必要があるな.すべてのプレゼンテーションは聴衆に合致させた「認知スタイル」が必要で,それをはずす(あるいは読み違えると)と目的達成はおぼつかない.大学の非常勤講義よりはもっと「語り性」をアップさせないとか.

—— 結局,60枚ほどつくりこんだところで日が変わった.

◇夜遅くなって,いきなりざあざあ降り出す.

◇本日の総歩数=14174歩[うち「しっかり歩数」=7031歩/62分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.2kg/0.0%.


6 oktober 2005(木) ※ 明け方ほっこり

◇午前4時起き.強めの雨が降り続く.気温16.9度.BGMはライヴ録音の〈A Tribute to Pierre Boulez〉(2005年:CSO CD05-2)など.

ここのところ,めっちゃ早起きモードになっている.やるべき仕事があるので不都合はないのだが,夜はもっと早めに寝ないとあきまへんな.※生活リズム的にはすでに社会不適応者かも.

◇早朝のこまごま —— 文化の日に農環研で開催されるシンポジウム〈モンスーン・アジアの農業とフード・セキュリティー〉のアナウンスを方々にばらまく.Earth Policy Institute のレスター・ブラウン所長による基調講演「フード・セキュリティー」がある./ 某書類の最終出力.これにて完了./ その他,メーリングリスト作業を少しばかり./ 鷲津浩子『時の娘たち』(2005年4月1日刊行,南雲堂,ISBN:4-523-29297-3)の書評文をMLに流す.

◇朝のうちに雨はやみ,天気は回復に向かいつつある.予約しておいた歯医者に寄ってから研究所へ.首都大学東京「生物統計学」のレポート課題をメールで受講生に配信した.今回はちょっとした〈R〉プログラミングの課題です.あとは授業の感想ね.※よろしく,みなさん.

◇メモ —— TXみどり野駅から農林団地中央を循環する路線バスが走っていた(「80番」).牛久からのバスよりは時間がかからないようにも思うが,はたして便利なのだろうか,ちと不安.

◇晴れ間ものぞく昼休みの歩き読み —— ヘルベルト・プルチョウ『江戸の旅日記:「徳川啓蒙期」の博物学者たち』(2005年8月22日刊行,集英社新書0304F,ISBN:4-08-720304-2※→目次)の第8章まで.110ページほど.旅芸人の紀行文は確かにおもしろい.しかし,それ以上に,紀行文体の変遷 — すなわち「何」を見ているかではなく「どのように」見ているか — が旅行者ごとに少しずつ変異をともなって現れてくるところが興味深い.

◇午後1時から1時間ほど,〈系統学的考古学〉セミナー(第20回).Chapter 5 : 「Taxa, Characters, and Outgroups」の続き(pp. 137-139).考古学の系統推定においては,生物での【種】に相当する【単位】を設定する必要がある.伝統的な【型式(type)】がそれに相当するわけだが,考古学特有の事情が型式学(typology)のあるべき姿を歪め,分岐学の適用を難しくしている.ひとつは記載の「冗長性(redundancy)」の問題.もう一つは,属性を記述する内包的(intensional)な定義ではなく,個例を列挙する外延的(extensional)な定義がまかり通ってきたことにある.このような障害は,「paradigmatic classification」の適用により解決できるとされるが,その詳細は次回の話.

◇打てば響く〈マーラー〉ネタ —— ほんの昨日記したばかりなのに,方々から反響が聞こえる.そのひとつ,あらきけいすけさん「〈悲劇的〉な指揮台の末路」のご質問:「チェレスタやカウベルとかどうしたんだろう?」 チェレスタは当然のことながら“レンタル”でございます.オケ専門のレンタル楽器店というのがありまして.あまり使わないのだが,ないと困る楽器はやっぱりレンタルですね.ただし,それでも間に合わないことがある.別の機会に〈幻想交響曲〉をやったのですが,第5楽章の例の「鐘」の調達にとても苦労しまして.レンタルで借りようとしたら,オクターヴ高い音程のペアしかなくってボツ.最終的に,読響からコッソリ借り受けたという経緯があります(もう時効だからいいですよね).

「カウベル」! よくぞ訊いてくださった.これも苦労したのですよ.よく楽器店などに置いてある「洗練されたオシャレなカウベル」(銀色でぴかぴかしてるやつ)は“マーラー牧場”にはふさわしくない.できるだけリアルな,それこそ牛さんが首にぶら下げてもふしぎではない天国的生活臭のあるカウベルにすべきだという目標を勝手に立てて,田原町の Japan Percussion Center や各所の YAMAHA を漁ったり,民族楽器の置いてある雑貨屋をまわったりと,それはそれは苦労して必要な数のカウベルを集めたのです(交響詩〈アルプス交響曲〉だってできるぞ).でもって,本番では打楽器奏者が首にカウベルをぶら下げて,舞台ソデからおもむろにゆ〜らゆらと登場してはどうかという“奇策”も提案されたのですが,残念ながら却下され,まっとうかつ真剣に“牛の鐘”を演奏させていただきました.

「全音のミニスコアの出版」:当時は今みたいに日本で出版された総譜がまったくなかったので,マラ6は Eulenburg の小さいのをみんなもっていました.そうそう,マーラーの総譜には音楽業界共通語のイタリア語では足りなくて,ドイツ語のコメントがそこら中に入っているのです.だもんで,オケ合宿(夏:今は亡き北軽井沢ミュージックホール)に間に合うように「マーラー楽想独語辞書」を急遽つくって配ったことがありました.指揮者に相当手直しされてしまいましたが,あれでだいぶ慣れたことは確かです.ものすごく頻繁に出てきたのが独奏楽器に対する“Hervortretend”(目立て)とか,管楽器なら木管・金管を問わず“Schalltrichter auf!”(ベルアップ!)という指示標語.ああいう音楽が生まれるには,それなりにパワーのある母国語の楽想標語が必要なわけですね.

—— うーむ,叩けばいろいろホコリが音が出るハナシだ.

◇午後2時半に“まっちゃん”から研究室に電話あり.予定より早く着いたとのこと.TXつくば駅にて落ち合い,Creo 前の〈なかやま〉にてしばし打ち合わせ.こりゃあ,タイトルとは裏腹に,パーフェクトに社会性昆虫の本じゃないですかー.時間がないなあと思いつつ,ブツを手渡される.哲学の部分はまだしも,シミュレーションの部分は手強い気がする.

◇いま,エポカルで動物学会大会が開催されているようで(非会員なのでよう知らん),車であの近くを通ると見知った顔がいたりして.あ,あれ,松井正文さんやんか……(とか).

◇夜,昨日書いた鷲津浩子『時の娘たち』(2005年4月1日刊行,南雲堂,ISBN:4-523-29297-3)の書評を〈leeswijzer〉にアップした.

◇夜,前件の翻訳原稿は本文に関してはすべて終わりました.あとは“膨大すぎる”脚注に取りかかるだけ(汗).

◇本日の総歩数=14939歩[うち「しっかり歩数」=6911歩/61分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.1kg/+0.1%.


5 oktober 2005(水) ※ 秋雨なお降り続く

◇午前2時半起床.雨がざあざあ降っている.気温17.9度.即,研究所行き.

◇まずは,リチャード・フラナガン『グールド魚類画帖:十二の魚をめぐる小説』(2005年7月10日刊行,白水社,ISBN:4560027234)の書評を〈leeswijzer〉に.先月中には読み終えていたのだが,ことのほかせわしなく東奔西走していたので,書評を書いているヒマがまったくなかった.※息を吸い込んで,そのまま半月ほど吐かなかった心地ぞする.

◇昨夜からの某書類は午前4時頃に完了.InDesign で段落スタイル設定をきちんとしておくと,編集効率がとてもいい.

◇情報ありがとうございます(>I原さん) ——

Elchanan Mossel and Eric Vigoda 2005. Phylogenetic MCMC Algorithms are misleading on mixtures of trees. Science, 309: 2207-2209. (30 September 2005)  ※DOI:10.1126/science.1115493Supplement.

要するに,ベイジアンMCMC(BMCMC)による系統推定のパフォーマンスを調べるにあたって,シミュレーション(端点5)をするときのモデル系統樹をふたつ“混ぜて”塩基配列を生成してみたら,収束するまでさんざんのろのろしたあげく,高い事後確率で「変な系統樹」にたどりつくということですね.

◇グスタフ・マーラー〈交響曲第6番「悲劇的」〉について —— 今朝たまたま遭遇したページ「アメリカ東海岸音楽便り」(2004年1月13日付)にこんなくだりがあった:

「たいていの演奏会のことは忘れてしまいましたが、一つだけ忘れられない演奏があります。それがマーラーの「悲劇的」です。今から考えると、大学のオケでこの曲をやるなんて、とても無茶だなとは思うのですが、当時私はマーラーの交響曲は第1番と、第5番しか知らず、その音楽の巨大さ、激しさ、そして美しさに圧倒され、興奮して聴き終えたのでした。」

明記されてはいないのですが,前後の文脈から考えて,1990年代はじめにどこかの大学オケが演奏したときのことなのでしょう.ぼくがマーラー6番の第2ティンパニ(etc.)を担当したのは,(さらにさかのぼった)1978年1月16日のこと.東京文化会館大ホールで行なわれた東大オケの第63回定期演奏会でした.アマチュア・オケでは日本初演だと聞いたのですが,定かではありません.この演奏会にはいろいろな逸話があってね ——

何よりもまず,例の“ハンマー”の件.当時は日本での「マーラー・ブーム」が到来する前で〈交響曲6番〉のレコードはほとんどなかったので,総譜に「大きなハンマー(großer Hammer)」が必要と記されていてもまったく想像のしようがない(ハンマーって楽器だったのね).しかも,総譜には「金属的でない斧のような」という細かい音質指定まで書き込まれていて,打族はそろって頭を抱えてしまった.たまたま京都に帰ったとき,三条の「十字屋」で探してもらって,やっとジョン・バルビローリ指揮の2枚組LPを見つけてもらったのだが,そのとき店員さんに「音大関係の方ですか」と訊かれたことを今でも記憶している(それくらい超マイナーな曲だった).そんなこんなで,やっとのこと「ハンマーの音」なるものを耳にできたものの,さてこの“ドスン”(“ドカン”か)という音をホールでどのように再現するかが次なる難問.「何」で「何」を叩けばいいのかというシンプルな疑問だ.

たまたま,千葉の岩井でオケ合宿(5月の新歓合宿だったと思う)をしたとき,浜辺に廃棄されていた漁船の中に,木でできた,元は“橈”だかなんだか知らないけど,「大きなハンマー」としてちょうど手頃な部品が転がっていたので,それを拾ってきて使うことになった.ところどころ焼け焦げがあったりして“運命の一撃”を振り下ろすのにふさわしい「凄み」がありそうということで高い評価を得たのだろう(笑).次は,この焦げ焦げハンマーで何を叩くかだ.舞台の床をダイレクトに叩いたのでは次回からホール使用を断られるに決まっているので,何かの“台”を叩けば文句は言われないだろう.ということで,全奏練習で指揮者(早川正昭さん)がいつも使っていた,「帝大音楽部・大正十四年」と裏面に墨書きされている,いかにも由緒ありげな指揮台を叩くことになった(とても重かったので樫でできていたのかも).凄みのあるハンマーと伝統のある叩き台で,もうバッチリだ.

で,本番当日.第4楽章になり,この日に備えてハンマー練習を積み重ねた能美伸一郎さんの渾身の第1打目で,ステージ最前列横に据えられた伝統ある叩き台はど真ん中で叩き割られ,ハデに木っ端が飛び散った(客席まで).その光景を真っ正面で見ていたコントラバス軍団は次の小節のフォルテを入り損ねた.さらに,これまたこの日のためにトレーニングしていた広瀬諭さんの続く第2打目で,叩き台の平らな部分はすべて消し飛んだ.さて,残る第3打目をどーしようかとステージ上でひそひそと相談し,「ワク叩いたれ〜」ということで,最後はかろうじて残っていた叩き台“枠”まで動員することになった.実に緊張感あふれる本番だった.

いずれにせよ,こうして由緒ある帝大音楽部の指揮台は〈悲劇的〉とともに「成仏」し,岩井の浜で拾われた焦げ焦げハンマーは,その後の定期演奏会のアルバン・ベルク〈3つの管弦楽曲〉に再度使われたりして,とても充実した余生を送ったのだった.※アマチュア・オケ在学中に二度も“ハンマー”のある曲を演奏できたというのは,あまり例がないのではないか.

—— こういうことは,ステージにあがった演奏者にしか体験できないことなのだ.ひとたび演奏した曲は終生忘れられず,その後も聴くたびに過去の演奏体験を想い起こしつつ(そういう記憶はたいてい本番でヘマをしたときのもの),無意識のジェスチャーが始まってしまうのだ.以上,備忘のためのメモ.

◇午前中はずっと翻訳原稿のチェック作業(G会議,パス! ごめん).正午前につくばセンターに出向き,TXでやってきた編集者に3章分を手渡す.残る2章(最終章はとても短いので実質的には1章分)と脚注は1週間後というお達し(ふぇ).※峠はすでに越えているので,できれば今日中に全部終わらせたいな.(あしたは“まっちゃん”が原稿をもって来るし…….)

◇昼下がりもしとしとと降り続く秋雨.久しぶりに〈ピーターパン吾妻店〉に行ったら,ちょうどナッツのドイツパンが焼きたてだったので,1本購入.

◇[感謝]日付のリンク先を正しく「10月分」に設定しました.>H地さん.

◇鷲津浩子『時の娘たち』(2005年4月1日刊行,南雲堂,ISBN:4-523-29297-3 ※→目次)の書評文を書き上げる.これまた EVOLVE / TAXA 送りかな.この本もまた先月読了していたのだが,吸った息を吐かないまま月が変わってしまった.明日,〈leeswijzer〉にも送っておこう.

◇夜は,またまた(まだまだ)翻訳原稿チェック.

◇本日の総歩数=7245歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.2kg/−0.5%.


4 oktober 2005(火) ※ 秋雨ワルデマール(トーヴェは?)

◇午前3時半起床.小雨が降っている.キンモクセイの香りが.もうしっかりと秋の気配.気温17.4度.

—— 前夜から持ち越しの書類書きが続く明け方.この件は午前5時半に完了./続いて,進化学会のニュース発行に関わる書類の整理.総会・評議員会の資料をまとめる./ IFCS-96(神戸)の該当ページは送信しました.>T辺さん.

◇朝のうちに一時的にざーっと降ったものの,雨はその後あがって曇り空.

◇ヴァーチャル徘徊取得物 —— ときどきおもしろい“拾い物”に遭遇することがある.今朝の収穫は:Hiroshi HIRAI, Kazuo MUROTA,. and Masaki RIKITOKU「SVM Kernel by Electric Network」(METR 2004-41,2004年8月).東大の情報数理学科のサイトに置かれているテクニカル・レポートだ.support vector machine(SVM)を用いて電子回路を離散最適化するという話(だと思う).興味深いのは,ツリー上のSVM最適化に関して,最節約系統推定との関わりが論じられている点だ(4.3: 「Relationship to MPR problem in phylogeny」).結論としては,SVM最適化は Hanazawa-Narushima-Minaka (1995) の最節約復元解(MPR-set)と一致するという点にある(Proposition 4.5).このレポートでは,ツリーだけでなく,さらにハイパーキューブへの拡張が論じられている.ということは,ネットワーク系統推定への「逆応用」もまた可能であるということだろうか.なお,筆頭著者の平井広志さんは昨年の進化学会東京大会での数理系統学シンポジウムに演者として来られている.

このレポートは,つい最近,Pacific Journal of Optimization という雑誌の最新号(Vol. 1, No 3, September 2005)に掲載されたとのことだ(該当ページは pp. 509-526:アブストラクト).この号は離散最適化の研究者として知られている茨木俊秀さんの「65歳記念号」と銘打たれている.10年以上も前のことだが,1992年に京大会館で開催された〈第5回日仏組合せ理論・最適化理論コロキウム〉に参加したおり,会議の事務局を担当されていたのが茨木さんだった.系統推定における最節約復元問題に関して,数理工学の会議で発表したのはこのときが初めてだったのではなかっただろうか.遠いつながりがまた浮き出てきたようなフシギ感覚だ.

◇進化学会関連のニュース資料を送信して,霧雨の昼休み —— ぬかるみで足を取られる.おっとっと.でも,歩き読み:ヘルベルト・プルチョウ『江戸の旅日記:「徳川啓蒙期」の博物学者たち』(2005年8月22日刊行,集英社新書0304F,ISBN:4-08-720304-2※→目次)の第3章まで.70ページほど.なかなかおもしろい.貝原益軒や本居宣長が“博物学者”として登場しているので,ちょっとびっくり.序論の部分で朱子学における分類の「政治的意義」について述べられている:

朱子は自らの理論に基づき,博物学的分類と自己修養が大切であることを強調した.つまり,博物の分類を彼は自己修養の手段,ひいては国家秩序をつくり上げていくための一つの手段であると考えていたのだ.…… このように万物を分類することによって,天下すなわち万物を支配できるという思想は,中国では早くから生まれていたのだ.(p. 10)

本草学・博物学における,中国由来の「個物重視」の姿勢の出自が見えてくるような気がする.

◇午後1時から1時間ほど〈Zar統計学本〉セミナー(第21回) —— Chapter 12 : Two-Factor Analysis of Variance の最後の部分(pp. 261-271) .乱塊法のノンパラ版である「Friedman検定」(〈R〉だと Friedman.test)と,nominal data に対する Cochran's Q-test の解説.午後2時前にさっくり終わる.

◇昼下がりのこまごま —— 光芳書房へ『ブダペストの古本屋』代金支払い済みのメールを送る./ 首都大学東京の受講生からメール.レポート課題を早く出さないと./ 東大(駒場)へ旅費振込口座の連絡./ 培風館宛に『植物育種学辞典』の著者割引購入の申込通知./ おわ,督促のお電話(……).く.

◇リチャード・フラナガン『グールド魚類画帖:十二の魚をめぐる小説』(2005年7月10日刊行,白水社,ISBN:4560027234)の書評を EVOLVE / TAXA に流す.leeswijzer には明日未明に公開する予定.

◇夜,翻訳原稿にとりくむ.雨が本降りになってきた.明日は一日中雨との予報.

◇本日の総歩数=12821歩[うち「しっかり歩数」=5643歩/49分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.4kg/−0.1%.


3 oktober 2005(月) ※ 下山後の愉しみいろいろ

◇午前4時半起床.明け方にヒグラシが鳴く(夏に逆戻りか?).午前6時の気温は21.8度.昨日の暑さがまだ残っているせいだろう.

◇だいたい「探し物」」なんていうのはこういうものでして —— とても長く探していた絶版本:徳永康元『ブダペストの古本屋』(1982年4月刊行,恒文社,ISBN:4-7704-0486-7→半年前の愚痴メモ)がやっとオンライン古書店で見つかった.間髪入れずに発注する.こういうときはけっして躊躇してはいけない.価格の高低に関係なくまずは発注すること.悩むのはあとでゆっくりできる.

すでに手元にある『ブダペスト日記』(2004年8月10日刊行,新宿書房,ISBN:4-88008-314-3)と『ブダペスト回想』(1989年12月20日刊行,恒文社,ISBN:4-7704-0710-6)とともに徳永康元〈ブダペスト三部作〉がこれでやっとすべて揃うことになった.とても喜ばしいことだ.

◇系統学的歴史言語学の新刊など —— 読み終えた Quentin D. Atkinson and Russell D. Gray(→DOI:10.1080/10635150590950317)で引用されていた印刷中の論文集:

J. Crackson, P. Forster, and C. Renfrew (eds.) [in press] Phylogenetic Methods and the Prehistory of Languages, The McDonald Institute for Archaeological Research, Cambridge.

ほかにも Transactions of the Philological Society 誌(→参照)に歴史言語学に関する系統推定の論文がよく掲載されているようだ.

歴史言語学では,レッドパージによって追放された Maurice Swadesh の言語統計学(lexicostatistics)あるいは言語年代学(glottochronology)への批判があまりに強すぎて,半世紀経ってもなお(生物系統学ほどは)定量的系統推定法への情熱が燃え上がらなかったと上の総説には書かれていた.今では,少なくとも系統推定の方法論に関するかぎり,“生物”も“言語”もまったく差がないように見えるが.

◇おいっ,「人違いでした」ですませるつもりかー(やや怒).※まーね.ひょっとして予算がつくんだったら,“結果オーライ”で許してあげてもいいけどね.※教訓:「管理職は職員の名前をよく記憶するよーに」.(まったくもう……)

◇午前中のこまごま —— すっかり遅れてしまったメーリングリストへの月例アナウンスを流す./ 何となく1号俸あがってしまった.

◇晴れた昼休みの歩き読み —— 気温23.8度.やや暑いが先週末の真夏日に比べたら許容範囲内.ドミニック・ルクール『科学哲学』(2005年8月30日刊行,白水社[文庫クセジュ891],ISBN:4-560-50891-7)を読了する.うー.細かく分割された“章”ごとにしっかり参考文献が付けられているので,関心のある方向に読者各自がそれぞれ勉強を進めていくといった感じの本.フランスの科学哲学はバシュラールにカンギレムなんですね.生物学哲学に関しては〈小部屋〉のドアをノックしただけに終わってると思う.訳者は本書を科学哲学の「ラフスケッチ」(p. 161)と呼ぶが,こりゃあどちらかといえば「紙版ポータルサイト」みたいな本じゃないでしょうか.便利ではあるけど,なんだか味ないなあ.

◇午後1時から,Alan Stuart and Keith Ord『Kendall's Advanced Theory of Statistics, Volume 1: Distribution Theory』(6th edition,1994年,Edward Arnold,ISBN:0-340-61430-7)の輪読第6回目.Chapter 2:「Measures of Location and Dispersion」の続き(pp. 52-57).分布のばらつき(dispersion)の尺度についての解説.偏差・分散などなど.午後2時過ぎまで.

◇新刊メモ —— 伊庭幸人他『計算統計II:マルコフ連鎖モンテカルロ法とその周辺』(2005年10月27日刊行予定,岩波書店,ISBN:4-00-006852-0).叢書〈統計科学のフロンティア〉シリーズの第12巻.※→版元ページ

◇午後の増殖雑用 —— ひさびさの進化学会関連指令が飛んでくる(←駒場)./ JST 第2回研究会の追加人選をすること.

◇夜遅く,科振調新規課題の申請書類を無事に出し終えたとの連絡がアメリカに着いたばかりの代表者からメールで届く.とりあえず,突発的雑用嵐はこれにて収束.

◇10時過ぎに寝てしまう.

◇本日の総歩数=14666歩[うち「しっかり歩数」=6834歩/61分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−1.1kg/−0.1%.


2 oktober 2005(日) ※ 捏ねて造って捻り出す

◇午前5時起床.気温17.0度.即出勤.メーリングリスト関連の作業が遅れているが,予算書のデッドラインが明朝午前とのことなので,背に腹は代えられない.貸し会議室メーリングリストの延長処理だとりあえずすませて,またまたワードとエクセルの苦界に沈む.※大した能力もないくせに,よけいなメッセージばかりしたり顔で出してくるソフトウェアっていったい何様のつもりかと[いつものことながら]腹が立つ.

—— やっぱり,予算の「積算内訳」のところでつまずく.書きようがない.畑違いの分野(今回は実験系も含まれる)の予算アイテムは想像することすらできない.今回の話が持ち上がったのが先週水曜で,参画研究室を募ったのが木曜,金・土とぼくが不在して,明日が予算書の提出締切日というのは,どー考えてもムリがあるよなあ.いったん帰宅.

午前10時に再出勤.まったくはかどらず.ところが,たまたま向かいの部屋の化学環境部S部長(楽年は「46Cl.」ね)が休日出勤してくれたおかげで,事態は大きく進展することに.転がり込むように,「これこれこういうことで途方に暮れています」と泣きついたところ,「じゃあざっくりとつくってみましょうか」と実に頼もしい返事が返ってきた.今回は化学環境部のいくつかのユニットに参画してもらったので,渡りに船だ.

◇午後,季節はずれの熱風真夏日の中,新しくできた高いところに登ったりして,下界に戻ってきたら,S部長から「こんなところでどうでしょう」メール連絡と添付書類がもう戻ってきていた.すんばらしい! さすが餅は餅屋だ.なるほど,こういう方針で予算を組むわけですね.と感銘を受けつつ,予算申請の書類の最後の詰めをした上で,課題代表者に最終返信したのが,午後7時過ぎのこと.明日,予算申請書を提出して,午後にはアメリカに出張するという代表者から間髪入れずに「おおむねOK」との返事が届く.あれだけ手間取った作業だったが,知恵袋氏のおかげで,なんとか期限内に向こう3年間総額5000万円分(課題総額は2億2000万円)の予算書を出すことができた.※審査に通るかどうかはまったく別問題だが.

◇今日は職場とピストン往復しつつ消耗的作業をしたので,BGM はサイモン・ラトルの2枚でした:バーミンガム市交響楽団〈マーラー・交響曲第8番〉(EMI:7243 5 47945 2 9)とベルリン・フィルのライヴ録音〈グレの歌〉(EMI:TOCE-13503-04).オケ編成マキシマムのこの2曲を聴き通す体力と視力検査紙のごとき総譜を横目でちらちら眺める気力が残っていたのは幸運なことだった.

◇かなり磨り減りつつ夜を迎えたが(羽蟻が飛びはじめた),ベイズ系統推定に関わるふたつの総説論文を読み進む:

  • Elliott Sober 2005. Parsimony and its presuppositions. Pp. 43-53 in: V. A. Albert (ed.), Parsimony, Phylogeny, and Genomics. Oxford University Press, Oxford.
  • Pablo A. Goloboff and Diego Pol 2005. Parsimony and Bayesian phylogenetics. Pp. 148-159 in: V. A. Albert (ed.), Parsimony, Phylogeny, and Genomics. Oxford University Press, Oxford.

Sober 論文は筋書きがだいたい読めていたからいいのだが,Goloboff & Pol 論文はおもしろい.Hennig Society の年会での話を聞いているとわかるが,声の大きな philosophical cladists ばかりでは必ずしもないのだ.Goloboff はもともと(たとえば)ボパーの哲学を持ち出して最節約法を擁護するというやり方には賛同していないようで,むしろ“経験的”な論拠からみて最節約法の方が他の手法よりもすぐれているという立場だ.この論文でも,ベイズ推定によって積極的に支持されるクレードが実はまちがっているという事例が挙げられている.

◇日が変わってから就寝.

◇本日の総歩数=8138歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=+0.6kg/−1.0%.


1 oktober 2005(土) ※ 析出する月のはじまり

◇やっぱり早い目覚め.午前4時半起床.今日は集中講義(後半戦)の2日目にして最終日.

—— ううむ,しかたがないので,昨日のうちに締め切られているはずの予算書にとりかかる.履歴・業績のところはまだいいとしても,本年度予算要求(実は今年度から向こう3年間の課題だったりする)の積算内訳を書くというのは,ここ八王子ではほとんど不可能ですなあ.サブリーダーの下にぶら下がる予定の参画研究者との調整とかぜんぜんできませんもん.とにかく,書けるだけ書いてしまおう.

◇その後,性懲りもなく,形態測定学スライドの直前ドロナワ追加にはまりこむ.ケンドール形状空間のヴィジュアル説明の説明.まったくキリのない泥沼でござい.今日の午後はひたすら“かたち”を論じる予定.「講義をつくる」過程では,たいていの場合,さまざまな勉強をさせてもらっている.今回もそう.pre-shape space から Kendall's shape space への多様体間写像(「Riemannian submersion」)では,shape 間の“full Procrustes metric”を最小化するように,サイズ1の pre-shape を cosρ(ρは pre-shape 間の Procrustes metric)に縮小しているというシンプルな事実に気づかされた.これで,説明と図示がずいぶんラクになる.そして,スライドの枚数がさらに増大する.

◇朝7時からの朝食にレッツゴー.午前9時過ぎにチェックアウト.南大沢で降りて,昨日の講義室にたどり着いたのは10時過ぎのこと.

◇10時半から講義開始,今日は「多変量解析」をキーワードにして,多次元的データをどのようにして“見る”かを論じる.午前中は多変量解析概論ということで,〈「かたち」は多変量データである〉というほとんど自明のことから出発して,最終的に〈多変量データは「かたち」である〉という倒立テーゼにいたる.これで,午後への露払いは完了.ここで正午.

◇長めの昼休みの間に,溜まっていた日録をちょこちょこ書いて,講義室から送信する.

◇午後1時半からの講義再開.午後は形態測定学の講義と演習.すでに何度もトークしているので,さすがに滑らかに進む.これまでのトークでは単に噺をしただけだが,今回は講義なので,実習も兼ねて形態測定学ソフトウェアを利用することにした.今回,講義に用いたのは,ニューヨーク州立大学(Stony Brook校)の〈Morphometrics〉サイトからフリーで配布されている薄板スプライン計算(tpsSplin),相対歪み分析(tpsRelw),そして形状空間表示(tpsTri)の三つのソフトウェアだ.

これまで,いろいろな機会に tpsSplin と tpsRelw をプレゼンで使うことは多々あったが,tpsTri を講義で用いたことはほとんどなかった.今回,実際にこのソフトウェアを使ってみてはじめてわかったことだが,数学的には相当に手強い Kendall's shape space を「見てわからせる」ための教育用ツールとして tpsTri はとても効果的だ.ちょうど,MacClade が系統樹思考法の格好の教育用ツールであるのと同じ役割を tpsTri は形態測定学で果たしているように思われる.単に,標識点のつくる三角形がどのように pre-shape / shape の空間に写像されるのかということだけではなく,もとの空間での標識点の確率分布(ここでは複素正規分布)が pre-shape shapeでは複素 Bingham 分布に移ることが,tpsTri ではみごとに図示できる.もちろん,pre-shape space での Procrustes fitting の実演も可能だ.実によくできたソフトウェアだと思う.Riemannian submersion にともなう cosρ リスケーリングまでちゃんと組み込まれていることを今回の講義準備で初めて知った.

—— たくさんのスライドとできのいいフリーソフトのおかげで午後いっぱいの形態測定学講義はとても充実していたと自分では思う.定刻の午後4時ちょうどに講義終了.※あとでレポート課題を出しますので,よろしくねー.>受講生のみなさん.

◇先月来,“形態測定学アタマ”になっているので,通常では忌避してしまうような論文や本の敷居が有意に低くなっていると感じる.コピーだけはずいぶん前に取ったのだが,そのまま長年にわたって放置していたこの論文:

Huiling Le and David G. Kendall 1993. The Riemannian structure of Euclidean shape spaces: A novel environment for statistics. The Annals of Statistics, 21(3): 1225-1271.

も,平常時ならばそっとそのまま封筒に入れて安置しておいたにちがいない.形状(shape)のなす空間がプロクラステス距離をリーマン計量とするリーマン多様体であることを証明したもので,その形状多様体の“曲率”が延々と計算されているおそるべき長大な論文だ.本論のところはやっぱりようわからへんのですが,ところどころ拾うべき石がある.まずは“かたち”が安住する「空間」の性質についての描写から:

All these people are asking questions about shape. It is not appropriate, however, to think of shapes as points in a Euclidean space. They are odd creatures, and live in peculiar and quite particular spaces most of which occur in no other context. Thus what is required is a revised version of multidimensional statistics that takes the nature of the shape space fully into account. (p. 1225)

「かたちとは奇妙な生き物だ」というくだりが印象的だ.そして,標識点の次元が増したときの形状リーマン多様体の「挙動」に関して,著者はこう言う:

After reading an earlier draft of this paper a referee suggested that it might help the reader if each new increase in ambient dimension were explicated by reference to the lower dimensions, but that is not in fact a helpful procedure. As so often in geometry, a rise in dimension may (and here in many ways does) lead to totally new types of behaviour. (p. 1228)

先月の筑波大学でのセミナーの折に,「2次元と3次元ではぜんぜん話がちがいますから」というコメントがあったが,それは上のようなことだったのかと納得する.たとえば,1次元と2次元については形状多様体は特異点をもたない“滑らかな”多様体だが,それ以上の高次元の場合は必ず特異点があるという.

◇つくばへの帰路の読書 —— Systematic Biology 誌の最新号(Vol. 54, no. 4, August 2005)の巻頭論文を読了:

Quentin D. Atkinson and Russell D. Gray 2005. Curious parallels and curious connections — Phylogenetic thinking in biology and historical linguistics. Systematic Biology, 54(4): 513-526.

では,進化生物学と歴史言語学における「系統推定」の考え方の共通点と学史的な相違点についてのレヴューだ.内容・文献ともにたいへん参考になる.生物体系学のジャーナルが巻頭にこういう“invited historical essay”を置くとは実に心憎いではないか.

◇帰宅してうだうだ,ごろごろする.それでも,例の「予算書」づくりを放置できないので(課題代表者から督促メールありまくり),ワードやエクセルの文書をいやいや開けてみたりする.深夜1時頃に就寝.

◇本日の総歩数=11144歩[うち「しっかり歩数」=2950歩/26分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=未計測/未計測.


--- het eind van dagboek ---