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日録2008年3月 


31 maart 2008(月) ※ 冷雨降る麹町で Marcel Deiss を味わう

◆午前3時起床.本降りの雨がざあざあと.研究所に直行する.気温プラス5.5度.約2時間ほど「棚づくり」にいそしむ.夜も明けやらぬうちから何をしてんだか…….しかし,当然終わるはずもなく,午前6時すぎに無力感とともに退散する.

◆今日は実は年休を取っているのだ.降りしきる冷たい雨の中を,午前10:41発の TX 快速にて東京に出る.雨足ますます強し.明日はもう4月だというのに,この荒れ模様の天気はどーしたことか.平日にうまいもんを喰おうなどと考えたので,天罰がくだったか.

◆しかし,天罰くらいで萎えるようなやわな食慾ではない.正午少し前に麹町で有楽町線を下車する.このあたりに来るのは何年ぶりのことだろう.地上に出て日テレ裏にある〈エメ・ヴィベール〉に向かう.もちろん予約済みだ.今日はここでランチをば.平日の昼間に実に豪勢なことですなあ.2階でシャンパンなどいただきつつ,席の支度を待つ.レストランは1階の庭が大きく眺められるフロアだ.

この店は,週末ともなればきっと多くの客が来るのだろうが,今日はなんでもないただの平日の昼下りなので,空気も雰囲気もゆったりと.ええい,どーせだったらワインもいってしまおうと,ワインリストをもってきてもらう.さすがお値段の“0”の数がぜんぜんちがうなあ……(汗).定価「42万円」というボルドーワインが載っていたけど,いったいどこの大富豪がこんなのをオーダーするんでしょ.一瞬の躊躇をはさみ,アルザスの〈Domaine Marcel Deiss〉のリースリンクを注文した.(同じ Marcel Deiss でもゲブルツトラミネールは“0”がひとつ多かったので,あっさり断念…….)

このスパークリングの具合といい,フルーツの香りの弾けるようすといい,わざわざ番町まで出てきたかいがあったというもの.もちろん,フルコースは彩りも味わいもとても満足いたしました.

—— 食後に庭を案内してもらい,午後2時過ぎに店をあとにした.雨はもう上がっていて,天気は日射しが戻り急速回復する.銀座をブラっとしてから,つくばに帰り着いたのは午後5時過ぎだった.空中の塵芥が雨ですべて洗い流されて,遠景も筑波山も輪郭がこの時期にはめずらしくくっきりしていた.

◆うーん,やや飲み過ぎ.寝不足だし…….

◆本日の総歩数=11383歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼×|夜△.前回比=−0.2kg/+0.6%.


30 maart 2008(日) ※ 弥生の終りに北条大池で北風に吹かれる

◆めずらしく午前4時に自然起床.薄曇り.気温はプラス3.4度だったが,午前6時前には2.8度までさらに低下.この時期にしては冷え込みが強い.

◆未明の研究所に潜入し,途中だった“本棚づくり”の作業を再開する.1時間半ほどの労働で,“Hennigの棚”と“Croizatの棚”が完成した.それぞれひと棚ずつ占める.その他の“生物体系学の棚”が大仕事で,またまた時間切れになってしまった.当然,“進化生物学の棚”は後回し.和書にいたっては,いったいいつになることやら.この分だと年度をまたいでしまうのは確実だ.しかし,途中で投げ出すわけにはいかない.

今回の棚づくりの大きな目的は,居室内の方々にうずたかく積み上げられた本どもを一掃することにある.一昨年,書庫代わりに使っていた向かい側の“別宅”を召し上げられて以来,文字どおり足の踏み場がなくなり,まさに故・草森紳一の『随筆 本が崩れる』(2005年10月20日刊行,文春新書472,ISBN:4-16-660472-4)そのものの状況になってしまった.茨城県南部が地震で揺れるたびに,端から数冊ずつ“崩落”していることはわかっているのだが,該当地に到達するためには,本詰め段ボール箱を踏み越えてロッククライミングしなければならないほどだ.

それだけであれば「たいへんですねえ」の一言ですませるのだが,外部からの図書貸出依頼にも「未整理につきお貸しできません」という冷淡な対応が長く続けば本務にも差し支えが出てきてしまうだろう.

—— こういう理由で,本棚づくりは地道にやっていくしかない.しかし,これまでのところ,公費購入分の図書ももちろん少なからずあるのだが,あふれている本の大部分は自分の蔵書であるというのがなんだかコワイような…….

◆農林団地の桜並木はだいぶ花が開いてきた.早朝は人気がないが,日中は方々から花見客が集まるにちがいない.この分だと,来週いっぱいが見ごろだろう.明日は雨が降るという予報だが,桜花が散る気配も心配もまったくない.

◆「時枝国語学」について —— 今月新刊の:時枝誠記『国語学原論 続編』(2008年3月14日刊行,岩波書店[岩波文庫青N-110-3],ISBN:978-4-00-381503-8)を手にする.昨年に出た正編にあたる:時枝誠記『国語学原論(上)』(2007年3月16日刊行,岩波書店[岩波文庫 青N-110-1], ISBN:978-4-00-381501-4)と時枝誠記『国語学原論(下)』(2007年4月17日刊行,岩波書店[岩波文庫 青N-110-2], ISBN:978-4-00-381502-1)では気づかなかったが,この続編では「歴史言語学」の方法論に関する章(第6章「言語史を形成するもの」)が含まれている.

この章には,斜め読みしただけだが,なかなか興味深い記述が見える.まずはじめに,時枝は,言語進化を担う「外在物」としての「言語(ラング)」の存在を頭から否定する:

歴史は,変遷を荷う当体がなければ,成立しないというものではない.それどころか,人間の作り出す歴史というものには,歴史的変遷を荷う当体というものが考えられないのが,普通である.時代史における歴史の流れにしても,平安時代が,次第に変貌して鎌倉時代になったのではなく,それらは,それぞれに個々独立した時代機構を構成して,次の世代へと入替わると考えるべきである.言語史において,史的変遷を荷う当体としてのラングを考える考え方は,人間の歴史を,自然史よりの類推において考える誤りに立っているのである.(pp. 235-236)

時枝をして,言語の歴史を担う“central subject”に関してこれほどまでの悲観主義を表明させる背景はいったい何だったのだろうか.歴史言語学における「系譜主義」は,当時の自然史における進化思想に起因するのではなく,むしろ歴史言語学の母体である比較文献学の manuscript stemma に求めるべきだろう.また,言語や道具や文化のような“構築物”の系譜関係はそれをつくったヒトの系譜関係からの extended phenotype と考えれば何も問題は生じないだろう.系譜を担う“当体”は lineage として確かにある.だからこそ,palaetiological sciences が文理にまたがる学問として成立するといえる.

—— さらに,時枝は,第5節「国語史の特質」において,国語史研究における「樹幹図式」(p. 258)と「河川図式」(p. 260)とを対置させ,比較言語学の tree-thinking とは対立する立場に立とうとする.この点についてはあとでまた.

◆昼過ぎに北条大池に桜を見に行った.曇りときどき晴れで,北風が強め.気温も10度そこそこしかないのではないか.桜の満開はほど遠いな.来週に入ってやっと開きはじめる感じか.〈アンマーカリヤ〉でとびきり辛いマトンカレーを買って帰る.

◆午後になって雲はさらに厚くなり,北寄りの風が強まる.冬型の気圧配置のせいか.夕方5時を過ぎて冷たい雨が降り出した.明日も降り続くという.で,明日は年休でーす.※よう休まはりますなあ…….

◆本日の総歩数=5096歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=+0.1kg/−0.4%.


29 maart 2008(土) ※ そこはかとなくゆるゆるするサタデー

◆午前6時にゆるゆる起床する.とてもよい天気だが,北風が吹きつけて,春というよりは冬の体感がする.

◆午前中は頼まれラベル作成業務 —— いつも年賀状を書かないワタシは複数の住所と宛先をラベルに印刷するなどというやっかいな私用にはまったく縁がなかった.しかし,頼まれればしかたがない.住所録データはすべて Excel に入っているというので,フリーソフトの〈ラベル屋さんHome〉を急遽ダウンロードして利用させてもらうことにした.頻繁にバージョンアップされているソフトのようで,たいへん使い勝手がよろしい.まったくの初心者だったが,1時間もしないうちに100名あまりの宛先ラベルをちゃちゃっと印刷出力できてしまった.たいへんありがたいことです.

◆今日は,日射しは春らしいが,涼しい風が通り,桜も五分咲きほどに開花し,たいへん心地よい週末だ.今週から来週にかけてが,この地区の桜の見ごろなのだろう.

◆「麻布学園図書館だより」がおもしろい! —— たまたま見つけた麻布学園の学校図書館のサイトで,麻布学園図書館部編の「麻布学園図書館だより」というニュースがオンライン公開されていることを知った.

その最新号(No. 50:2008年2月13日発行)は,「〈特集〉新書」と銘打たれている(→ pdf:1.64MB).50ページもある特集だ.「新書」という形態の本について,麻布の校長先生を含む先生方がそれぞれの教科ごとに寄稿し,さらに後半では十数ページにわたって,麻布中高生がどのように新書を読んでいるかのアンケート調査の結果が示されている.一読して損はない.

教師の世代と生徒の世代では「新書」に何を求めているかがちがっているのは当然だろう.「文庫以上,単行本未満」と位置づけあり,「玉石混淆,読み捨て御免」という声あり.いずれも部分的に当たっていると思う.とくに,いろいろな出版社が新規に「新書市場」に参入してきた近年の出版状況では,かつての「新書」のイメージが変わりつつあることは確かだろう.

そのアンケート結果の中で,ある生徒のつぶやきが目に留まった:「本当にどうでもいいことですが、講談社現代新書の装丁が単一色として統一されたことは残念でなりません。イラストあっての現代新書だとおもっていたのに…」(p. 35).現代新書のカバージャケットの装丁が,かつての杉浦康平デザインから変更されたのはほんの数年前のことだ.まだ高校生なのに,それに気がつくとは(しかも的確なコメントをするとは)さすがですなあ.この点については読書界での論議がいまだに続いているようだし(そのほとんどが否定的だが).

現代新書からすでに『系統樹思考の世界』を出しているワタシは,もちろん中立的な立場ではないのだが,自分の本についていえば,カバージャケットの“オモテ面”が深緑色でモノトーンになったことはあまり気にならない.というか,あのテーマの本で杉浦康平イラストが入っていたとしたら,それは“ものすごい”ことになることは十分に予想できるので,むしろいまの中島デザインのシンプルさの方がより好ましいかもしれない.

とはいえ,ぼくが自分の新書を持ち歩くときには,必ずカバージャケットを“裏返し”にして,アヤシイ絵の方を見せるようにしている.現代新書の装丁が変わってから,“ウラ面”がつまらなくなったと思いこんでいる人がまだ多いのは意外だが,実はコッソリと遊びが入っていたりする.そういうことが可能なのは,著者と編集者と装丁者の協力があってのことだ.

本の装丁を論議するときには「著者」側の立場からの発言はあまりないようだが,読み手とはまたちがう意見がきっとあると思う.では,ひとりの読み手として現代新書の「棚」に近づきたいかと言われれば,答えは「ノー」だ.だって,タイトルの“視認性”が悪過ぎる(配色にもよるが).ホワイト地に統一されたとしても,「背」文字の太いゴシック体が刺激的過ぎていただけない.ずらりと並ぶと目が痛くなる.

—— やっかいな問題ですなあ.しかし,書き手としては「中身で勝負してます」と言うしかない.それ以外は何とぞよろしく,と.

◆夜のこまごま —— 応用統計学会年会の座長を依頼された.はいはい./進化学会大会でまたまた生物学哲学の企画を出しませんかとのプロポーザル.はいはい.

◆イノダコーヒの「アラビアの真珠」を“アラビア”のカップに注ぐ.ふうっと一息.

◆本日の総歩数=4040歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−1.5kg/−1.8%.


28 maart 2008(金) ※ 本棚づくりでウハウハして雹に打たれる

◆午前5時40分によろよろと起き出す.飲み過ぎか…….曇りのち晴れのち曇りのち晴れ.北風やや強し.午前8時半の気温は10.5度.

◆本棚搬入と組立て —— 早めに研究室で支度をはじめてよかった.朝イチの午前9時過ぎに庶務から電話があり,業者がもう来ているので,本棚の搬入と組立作業をさっそくやりたいとのこと.大量の段ボール箱入りの本が1年以上も散乱する居室を何とかしようと,年度末に大きな書架を購入した.組立てまで全部やってくれるのなら大助かりだ.

担当者が居室前の廊下でスチール本棚をつくりはじめる.それにしても巨大だ.注文したときは実感がいまひとつなかったのだが,天井いっぱいの高さがあり,裏表両面棚でしかも複式だ.通常のシングルの本棚で6つ分ある.立てるスペースが限られているので気がかりではあったのだが,ちょうど空きスペースが埋まることがわかってよかった.1時間半ほどの作業で設置はすんだ.何だか図書室みたいでなかなかよろしい.

できることなら部屋いっぱいに書棚をつくりつけにして,ギッシリと本で埋めつくせばせぞや気分がよかろうと思う.でもって,自分用のキャレルをちょいと設ければ言うことなし.作業中に通りかかった斎藤さんが,「こんなに本を詰めるんじゃ,転勤できませんね」と一言.ワタシは蔵書のせいで“異動困難者”ですぅ.

◆棚つくりの愉しみ —— 午後から棚づくりにとりかかった.とりあえず,巨石のように散乱する段ボール箱を久しぶりに開封し,暫定的に棚に放り込んでいく.書棚の収容力の高さには脱帽する.快適に箱が空になり,棚がそれなりに埋まっていく.

詰めていくうちに変わるかもしれないが,いまの予定では,「辞書の棚(1)」,「ダーウィンの棚(1)」,「体系学の棚(1)」「進化学の棚(2)」,そして「アフリカの果て(1)」という棚構成を考えている.「辞書の棚」はすぐにできた.「アフリカの果て」には,妖怪学全集とか中世思想原典集成,アリストテレス全集に言語学大辞典,武満徹CD全集,大探検時代叢書などアヤシイ本たちが勢揃いし,一本がすでにほぼ満杯だ.それにしてもこんなにたくさん本をもっていていったいどーするつもりか.

「ダーウィンの棚」は全集2セットと書簡集,その他19世紀の古い本がどっさりある.ピッカリング版のダーウィン全集だけで一棚が埋まってしまった.書簡集(CCD)も既刊分15冊でほぼ棚ひとつが占拠される.ハクスリー様の全集とか,ヘッケル関連の厚い本たちも並ぼうとしている.一棚ではすまないかもしれない.中山書店の『動物系統分類学』全巻も一棚を埋めつくしてしまった.

棚には十分な余裕があるはずだが不安もないではない.進化学全般に関わるあまたの本が“タイトルが見える”ように並べられるかどうかが棚づくりのポイントだ.

◆午後3時過ぎ,いきなり空が暗くなって通り雨が降り始めた(あとで聞いたら雹も降ったらしい).

◆棚づくりはさらに続く.しかし,もともと短時間で終わる作業ではなく,何日かかかるはずだ.今日は夕方6時過ぎに作業を中断することにした.久しぶりに本を運搬したり,脚立を昇降したりしたので,やや筋肉疲労.ちょうど今ころは2階の大会議室で,年度代わりの異動者を囲んでの「全所送別会」という公式行事をやっているはずだが,今年はパスさせてもらった(というか出たことないし).連日は呑めないでしょ.雨はまだぽつぽつと降り続いている.気温は8.4度だが,風があるせいで肌寒く感じる.

◆音羽から電話あり —— ゲラは週明けに送るとのこと.もうひとつ,この連載記事を本(現代新書)にする件について.連載終了後の作業がスムーズに進めば年内の出版も可能とのこと.原稿はテキストファイルで戻されるそうなので,改訂作業は難しくはない.序章で全体の鳥瞰を示したほうがよいだろう.その他の点でも本として読むための処置が必要になる.さらにもうひとつ,コンウェイ・モリスの翻訳原稿について.ひー.

—— いまはとにもかくにも連載を大過なく着陸させることが大事だ.ナボコフ噺は次回も続く.

◆夜のこまごま —— 東京農大から世田谷への非常勤出講に関する連絡はあったかと訊かれたが,帰宅して見たら非常勤講師の辞令と諸手続の用紙がちゃんと届いていた.2週間後にはもう初回の講義がある.そろそろ心の準備をしなければならないのだが,相手の顔を見ないことにはどうしようもない.

◆本日の総歩数=5134歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.6kg/+0.8%.


27 maart 2008(木) ※ 半ば壊れつつアルコール液浸状態になる

◆前夜からの続き.午前1時半に研究所に侵入し,居室にて原稿書きを続行する.外は曇りときどき小雨だった.気温プラス7.9度.

◆丑三つ時のワタシ —— “真夜中ハイ”な状態で原稿を書き続ける.書く書く.かくかく.…….午前5時過ぎ,空が白むかというころになって,やっとゴールが見えてきた.午前6時に書き上がる.夜半に通り雨があったようで,路面が濡れている.気温は4.6度.その後,午前8時まで全体を推敲してから,音羽宛にメールで原稿を送った.これで今月の難行苦行から解放された ——

—— 三中信宏『』連載第11回目(2008年5月号掲載予定):「ナボコフの“ブルース”」.節の構成は:善き人のための古書店 |「種」は“システム”であってほしいか |「本質主義」的方法論の終焉 |「蝶が私を選んだんだよ」.

◆午前中,しばし人事不省となる.午前中は,死人かはたまたゾンビか,という体たらく.暖かい日射しの昼下がりのこまごま —— 組合の職場委員会は4月2日(水)12:40〜13:00.分会にて.さっそくメーデー実行委員を選出しないといけないそうだ.

◆本日の着便本 —— Franco Moretti『Graphs, Maps, Trees: Abstract Models for a Literary History』(2005年5月刊行,Verso,viii+119 pp.,ISBN:1-84467-026-0 [hbk] / ISBN:978-1-84467-185-4 [pbk] → 版元ページ).比較文学史研究における「グラフ,マップ,ツリー」の意義を主張する.100ページほどのあっさりしたフシギな本で,感じとしては Edward R. Tufti の一連の著作を連想させる.

—— Verso といえば脊髄反射で「ふぁいやーあーべんと」とつぶやいてしまうのは,自分がもっているVerso刊の『Against Method』のインパクトが大きかったからかも…….

◆午後3時の気温は15.0度.農林団地の桜がいっせいに咲き始めたようだ.週末はまだ二分咲きくらいか.来週末には満開になるだろう.

◆午後5時に帰宅.今夜は領域の送別会が竹園であるので,いったん帰ってから出直すことにした.早めに家を出て,〈たがみ酒店〉の日本酒コーナーを物色する.やっぱり〈神亀〉の純米吟醸を買うしかないでしょ.ここは.〈神亀ひこ孫〉は次回まわしにして,今日はシンプルな純米酒の方を選んだ.

送別会の会場は〈大将別館〉.定刻の午後7時すこし前に店に着いたら,すでに宴席のセッティングはすんでいた.料理がいろいろと並び,フグ鍋もあり,日本酒もよりどりみどりでした.午後9時までが一次会.その後,Dayz Town の地下にある〈魚民〉にて二次会に突入.日が代わる前によろよろと帰還する.音羽から「原稿OK」との返事あり.

—— 何というか,もう生活のリズムと内容がはちゃめちゃです.不健康の極みだ.

◆明日は,居室に巨大な本棚が搬入されるので,その準備をして立ち会う必要がある.寝坊は厳禁.呑んでも起きろ.

◆本日の総歩数=8181歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝−|昼○|夜×.前回比=+1.1kg/+1.1%.


26 maart 2008(水) ※ 今月もぎりぎり夜なべ原稿書きに突入

◆午前4時半起床.薄曇りの雲間に月が.プラス8.7度.冷え込みまったくなし.

◆備忘メモ —— 年度末の物品納品の件.本棚は28日(金)に搬入予定.業者が設置工事をしてくれるらしい.ということは,それまでに大量の本と段ボール箱を移動して,設置するスペースを確保しないといけませんな./〈つくばコンサート〉で,6月1日(日)にラ・プティット・バンドが来るという.おお!と思ったが,三重の出張高座から帰ってくる日じゃないか……(きわどいぞ).

◆『』の原稿と格闘する —— とりあえず,連載は「全14回」で打ち止めにすることにして,千秋楽(大団円か)までのセクション構成を考えてみる.うん,まあ,こんなところでしょ.あとは原稿を書くだけ…….

◆午前9時半.春らしく暖かい晴天.気温はすでに15.9度もある.農林団地では早咲きの桜がほころび始めている.

◆朝のこまごま —— 組合の職場委員業務.4月2日(水)12:40〜13:00に分会集合.メーデー実行委員の選出は4月4日(金)までに通知.実行委員会は9日(水)の予定./後れ馳せの首都大学東京の出講同意書.研究所への依頼書も提出.「なぜこんなに遅いのですか?」との連絡あり.すみません,ワタシが放置していたからです.ハイ./教育研修生の誓約書など新年度の提出書類.よろしく./パートさんの契約書.これは完了.

◆アナウンス:日本生物地理学会第63回年次大会 —— きたる4月12日(土)〜13日(日),いつもの立教大学池袋キャンパスです.場所は「7号館1階7101教室」.ぜひどーぞ.

◆新刊メモ —— 橋本不美男『原典をめざして:古典文学のための書誌[新装普及版]』(2008年3月刊行,笠間書院,ISBN:978-4-305-60304-3 → 版元ページ).目次をみるかぎり,和書の textual criticism の本らしい.1974, 1983, 1995年と版を重ねている本なので,定評はあるのだろう./東京大学出版会『UP』の最新号(2008年4月号)に恒例の「アンケート 東大教師が新入生にすすめる本」(pp. 1-24)が載っている.窪川かおるさんが『系統樹思考の世界』を紹介してくださった(p. 5).どうもありがとうございます.

◆さらに暖かい午後2時半.気温は20.0度ちょうど.やっと原稿に没頭できる体勢になった…….

◆と思ったら,お茶の時間と久しぶりのSlice本を16:00〜17:00まで:『Modern Morphometrics in Physical Anthropology』の輪読セミナーの第12回.Chapter 4 : David Paul Reddy, Katerina Harvati, and Johann Kim「An Alternative Approach to Space Curve Analysis Using the Example of the Neanderthal Occipital Bun」(pp. 99-105).今日から新しい章に進む.形態上の3次元曲線を解析する方法を考察する.デジタイズされた3D曲線は,アフィン変換によって整列した上で,等間隔に semilandmarks を配置し,リサンプリングによって,直交平面を曲線上に設置していく.各平面に対する射影を考えることにより,平均曲線まわりのバラツキを把握する,というやり方をしている.

◆午後5時過ぎ,終わらない原稿資料を抱えて,とぼとぼ帰宅する.これでもう運命は決まったね.とほほ.

◆夜のこまごま —— 東大の専攻送別会は4月17日(木)午後7時からと確定した.場所は未定.

◆ということで,夜はがしがしと連載原稿を書き続けたものの,日が変わってもぜんぜん終わる気配なし.こーいうときはトツゲキするしかありません.そんなこんなで,あやかしのものが跳梁する午前1時過ぎにひとり研究所に潜入することになった…….さあ,夜なべだ,徹夜だ,不健康だー.

◆本日の総歩数=7882歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.5kg/+0.3%.


25 maart 2008(火) ※ 陽春に金色の銀杏マークがざわめく

◆午前4時半起床.久しぶりに濃霧が垂れ込めている.気温はプラス3.8度だが,湿気のせいで冷える.遅れていた返信メールなどいくつか.

◆日が昇るとともに春らしい青空と陽気に.午前10時半の気温はすでに11.8度もある.予報では20度近くなるという.暖かい日射しと涼風.午前中は研究所にて雑用など少し.引き籠り中に堆積していた“山”を切り崩そうと空しくじたばたする.しかし,さらに高く積み上がりそうなので,とっとと逃げ出す.※ごめんなさい,ごめんなさい.

◆昼過ぎにいったん帰宅し,着替えてから,12:48発の TX 区快に乗る.昨日と同じコースで,東大農学部にたどり着く.暖かさマキシマム.午後2時10分から専修の学部の学位記授与式.半時間ほどでおしまい.みなさん,それぞれの進路で頑張ってください.事務室で新しい身分証明証をつくってもらった.農学部図書館にて入館証の更新もすませ,あわせてオンライン閲覧登録の手続きをした.これでウェブ経由で e-DDS が利用できるというが,利用経費がかかりまっせ.

その後,本郷キャンバスに回り道.今日は午前から安田講堂で卒業式が文理別々に開催された.午後の遅い時間にもかかわらず,スーツやハカマ,あるいはガウン姿の卒業生がまだ三々五々集っている.保護者らしき関係者もまた多し.毎年の光景だ.桜もちょうどほころびはじめ,実によろしい卒業式日和だった.

—— 根津から乗って,つくばに直帰.午後5時前に着いた.日中は春らしい暖かさだったが,夕暮れとともに風が冷たくなってきた.

◆またまた“つくばスタイル”最新号! —— 『つくばスタイル No. 6』(2008年4月20日刊行,エイムック1499,ISBN:978-4-7779-0969-8).

うーむ,順調に第6号か.そろそろ「年2回」という刊行ペースが定着しそうだ.今回は,つくばでの“子育て”と“マンション暮らし”そして“自然派レストラン”.うーむ.

前号までの刊行履歴:『つくばスタイル』(2004年12月10日発行,エイムック948,ISBN:4-7779-0215-3)|『つくばスタイル No. 2』(2005年9月30日発行,エイムック1076,ISBN:4-7779-0388-5)|『つくばスタイル No. 3』(2006年6月10日刊行,エイムック1197,ISBN:4-7779-0540-3)|『つくばスタイル No. 4』(2007年4月20日刊行,エイムック1319,ISBN:978-4-7779-0692-5)|『つくばスタイル No. 5』(2007年9月20日刊行,エイムック1402,ISBN:978-4-7779-0818-9) —— このペースだと,「No. 7」は秋口かな.

◆本日の車中読書 —— Daniele Rosa『Ologenesi』(2001年12月刊行[復刻:初版1918年], Giunti Gruppo Editoriale [Biblioteca della Scienza Italiana 32],446 pp.,ISBN:88-09-02334-X → 全体目次Ologenesi目次)の序論続き.いくつかのキーワードの確認をする:

  1. Phyla (Phylum) : Con il termine “variazione” Rosa intende non la variazione dei darwiniani, …… Ora in seguito, Rosa distingue due tipi di variazioni, che nel 1908 definirà nel mode seguente: 1) Variazioni filogenetiche, cioè variazioni le quali accumulandosi possono dar origine a nuove stirpi, a nuovi phyla. (pp. 10-11)
  2. Filomero : Poichè per noi una nuova specie prende origine dallo sdoppiamento di una specie precedente, la specie per noi viene ad essere costituita da tutto l'internodio che sta fra due successivi sdoppiamenti o, ad ogni mode, da tutto il tratto rettilineo d'evoluzione che s'è prodotto dopo l'ultimo sdoppiamento. Possiamo chiamare “specie filetica” o “filomero” (segmento di phylum) la specie intesa in questo modo. (p. 216)
  3. Idioplasma specifico : Sarà dunque opportuno adottare il termini più preciso di: “idioplasma (o plasma) specifico” per designare il substrato, già presente nella cellula germinale, la costituzione del quale determina la specie cui deve appartenare l'individuo, …… (pp. 93-94) / idioplasma o genoma (p. 12)

—— Rosa の「全発生(hologenesis=ologenesi)」説の中でももっともやっかいそうなキーワード三つの定義だが,とくに「イディオプラズム」を「ゲノム」と同義と見なしていたとは知らなかった.

◆さあ,もうあとがありまへん.連載原稿,書きます書きます.書いてます書いてます.

◆本日の総歩数=12838歩[うち「しっかり歩数」=1081歩/10分].全コース×|×.朝△|昼−|夜○.前回比=−0.3kg/−0.5%.


24 maart 2008(月) ※ 冷たい霧雨に濡れる弥生の桜花

◆午前4時前に起床.曇りのち小雨が降り出す.気温プラス7.3度.

◆箱崎からのご教示 —— 多変量一般化線形モデル(multivariate GLM)についての参考書:Ludwig Fahrmeir and Gerhard Tutz『Multivariate Statistical Modelling Based on Generalized Linear Models, Second Edition』(2001年刊行,Springer-Verlag[Series: Springer Series in Statistics],xxvi + 517 pp.,ISBN:978-0-387-95187-4 [hbk] → 版元ページ著者ページ)という厚い本があるそうだ.情報感謝です.

◆午後は年休にしたが,午前中は通常勤務というやつ.復命書を書き,年休届を出し,触れクスタイム申請書を提出した.午前10時.霧雨が降り続く.気温7.3度で肌寒い./4月2日(水)夜に友部町へ.

◆午前11時過ぎにいったん帰宅する.昼飯もそこそこに,12:11発の TX 快速に飛び乗って,東大農学部へ.東京はいったん雨が上がって晴れ間が見えたが,またすぐ曇天に戻ってしまった.気温は低いまま推移している.

午後1時半から専攻大学院の学位記授与式に出る.修士・博士を合わせても10人そこそこなのであっという間に終わった.半時間もかかっていない.公式のフォーマル・ガウンというのを間近で初めて見た.背中の銀杏ならぬ金色の銀杏がとってもまばゆいんですけど…….その後,農学部事務室で,身分証明書の更新手続きと指導教員の引き継ぎ手続きなど.

小雨がぽつりぽつりと落ちる中を,地震研から根津神社方面に降り,〈根津のたいやき〉を買ってから,千駄木に向かう.寄り道なしのさっくり直帰だったので,つくばに着いたのは午後4時前だった.早い早い.

◆車中読書本 —— 牧野宣彦『ゲーテ『イタリア紀行』を旅する』(2008年2月20日刊行,集英社[集英社新書ヴィジュアル版007V],264 pp.,本体価格1,260円,ISBN:978-4-08-720432-2 → 版元ページ)を読了.文豪はローマ滞在がことのほか楽しかったごようすで.しかし,噴火の最中の活火山に無謀な登山を繰り返すのはいかがかと.

もう1冊オマケ:Daniele Rosa『Ologenesi』(2001年12月刊行[復刻:初版1918年], Giunti Gruppo Editoriale [Biblioteca della Scienza Italiana 32],446 pp.,ISBN:88-09-02334-X → 全体目次Ologenesi目次).まずは編者 Antonello La Vergata による詳細な序論(pp. 5-80)を読みはじめる.出だしは経歴が中心だが,Rosa が Ernst Haeckel の主要著作(『自然創造史』,『人類進化論』,『自然の芸術的形態』など)のイタリア語訳を手がけていたとは知らなかった.

◆うーん,原稿原稿.しかし,明日の午後はまた東大に出向かねばならない.

◆本日の総歩数=11975歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.9kg/−0.6%.


23 maart 2008(日) ※ 春爛漫ですな

◆午前5時前に起床.春らしく霞んだ青空.畑地に霜が白く降りているところを見ると,明け方だけは冷え込んだらしく,プラス1.0度だった.

◆ここ数日というもの,研究所にまったく顔を出していなかったので,久しぶりに早朝潜入を試みる.不在中の“堆積物”とても多し —— 福岡から送り返した,生態学会の講演要旨電話帳とか(とにかく重かったし),ノートパソコン一台とか(そんなもんゆうパックで送るなよっ),福岡のガイドブックとか(旅館にカンヅメだった割には煩悩昂進)の段ボール箱も届いていた.年度末の事務書類の類は数限りなし:福岡出張の復命書,来年度の教育研修生関連の手続き,契約職員の契約書,書籍購入費のあれやこれや,進化学会大会の企画公募,生物地理学会大会の事前宣伝,『遺伝』の執筆依頼,新年度のフレックスタイム申請,月末までの年休届,etc. …….

◆今日も春らしい暖かさになった.当然,花粉もホコリも多い.タテよりはヨコになっている方がラクだが,そーいうことではほとんど仕事にならんのですが.

◆献本ありがとうございます —— 清水和巳・河野勝(編著)『入門 政治経済学方法論』(2008年3月20日刊行,東洋経済新報社,本体価格3,200円,viii+230 pp.,ISBN:978-4-492-21172-4 → 版元ページ).あら,“マリコ先生”が大活躍.拙著も引用していただき感謝です.タイトルはとても硬いが,数理モデリング・統計分析・実験研究など,文理を問わない内容だと思います.

◆届いた情報 —— 日本地理学会に属する〈ネイチャー・アンド・ソサエティ研究グループ〉の第3回研究会が,日本地理学会大会に合わせて,会場である獨協大学で開催される:テーマ「家畜とヒトの地理学:育てて殺して食べる社会とその文化」.期日は2008年3月30日(日)13:00〜17:00,場所は獨協大学で当日アナウンスされるそうだ.講演:内澤旬子「屠畜を日本語で表現するとき」/中辻享「ラオス焼畑村落における家畜飼育と出作り集落の形成」/池谷和信「ブタと人とのかかわりの地理学:バングラデシュの事例」.いずれもおもしろそうなのだが,屠畜の内澤さんが来るとなれば聴きに行ってもいいかな.

◆夕方,買い物がてら,歩き読みの続き —— 牧野宣彦『ゲーテ『イタリア紀行』を旅する』(2008年2月20日刊行,集英社[集英社新書ヴィジュアル版007V],264 pp.,本体価格1,260円,ISBN:978-4-08-720432-2 → 版元ページ).第7章のローマ滞在まで90ページほど.鼻ぐすぐす,目はかゆい.無謀だったかも.

◆春は曙,夜は原稿.※毎月お定まりの追込まれ.学習してないなあ…….

◆本日の総歩数=9017歩[うち「しっかり歩数」=5991歩/55分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=+0.7kg/+1.0%.


22 maart 2008(土) ※ 春めいて辛夷の花がもう開いている

◆午前6時前に起床.快晴.冷え込みまったくなし.

◆早朝の歩き読み —— 牧野宣彦『ゲーテ『イタリア紀行』を旅する』(2008年2月20日刊行,集英社[集英社新書ヴィジュアル版007V],264 pp.,本体価格1,260円,ISBN:978-4-08-720432-2 → 版元ページ).第5章のヴェネツィアまでの旅路を100ページばかり.筑波大の構内はもう辛夷の真っ白い花が咲きはじめていた.街路樹の辛夷はまだつぼみのところがほとんどなので,学園都市の中でも早い方だろう.

◆それにしても,朝から花粉がふんだんで…….春の日射しが憎たらしいほど暖かく,いやがうえにも飛散量が単調増加のようで.

◆弁証法的唯物論の生物観 —— Rolf Löther『Biologie und Weltanschauung: Eine Einführung in philosophische Probleme der Biologie vom Standpunkt des dialektischen und historischen Materialismus』(1972年刊行, Urania-Verlag[Wissenschaft und Weltbild, hrsg von Hermann Ley] , Leipzig, 130 pp.,ISBNなし [pbk] → 目次).ベルリンにあるその名も「カール・マルクス書店(Karl-Marx-Buchhandlung)」から届いた古書.初版.タイトルページに「1972年12月レニングラード」と署名されている.弁証法的唯物論に沿って,自然界のさまざまな階層における“システム”(=物質系)の挙動を「サイバネティクス」あるいは「一般システム理論」の観点からとらえようとする.【種(Art)】もまたそのような“システム”のひとつとして実在するものと位置づけられている.Willi Hennig のいう「Semaphoront」がそのような“システム”を認識する足がかりになると著者はみなしている.

—— 一般向けに書かれた概説書なのだろうが,内容的には難しいんじゃないでしょうか.

◆鼻をかんだり目をこすったりしているうちに日が暮れてしまった…….※無為徒食の日は続く.

◆今年は「ヘッケル年」か? —— たまたま遭遇した近刊予告:Sander Gliboff『H.G. Bronn, Ernst Haeckel, and the Origins of German Darwinism: A Study in Translation and Transformation』(2008年9月刊行予定,The MIT Press[Series: Transformations: Studies in the History of Science and Technology],272 pp.,ISBN:978-0-262-07293-9 [hbk] → 版元ページ).ダーウィンの『種の起源』をドイツ語に翻訳した H. G. Bronn に焦点をあて,その独訳版でダーウィン進化論を学んだ Ernst Haeckel を論じる.翻訳行為の過程である学説がどのように受容されたかを考察する本のようだ.

本書の他に,もう1冊の大部なヘッケル伝:Robert J. Richards『The Tragic Sense of Life: Ernst Haeckel and the Struggle over Evolutionary Thought』(2008年春近刊,The University ofChicago Press,ISBN:978-0-226-71214-7 [hbk] → 版元ページ)の出版が予告されている.ダーウィン年に先立つ今年はヘッケル年かもしれない.

◆いよいよ追い詰められてきたので,『』の連載原稿に取りかかろうとするものの,ティッシュ箱とお友達になってしまっているので,なかなか集中できないし,またイマイチ筋書きがまとまらない.花粉の季節が一日も早く過ぎ去ってくれるのを待つしかないだろう.まあ,“タネ”はいくつか芽吹いているので育つのを期待しよう.

今月に入ってからときどきめくっている:Vladimir Nabokov / Brian Boyd & Robert M. Pyle『Nabokov's Butterflies: Unpublished and Uncollected Writings』(2000年刊行,Beacon Press,Boston,xiv + 782 pp. with 16 color plates,ISBN:0-8070-8540-5 [hbk] → 目次)の付箋貼付作業耽ってみる.いくつかの書評でも指摘されているように,本書を手にするのはきっと“文学好き”な読者にちがいないが,書かれている内容はどうみても“蟲屋”をターゲットにしている.

アガシ,マイア,ナボコフの三人がハーバード大学の比較動物学博物館に接点をもつというのは,考えてみればフシギな縁かもしれない.とくに,アガシを除くふたりは時空的に sympatric だった.いくつかの伏線を張り巡らすには実に好都合な巡り合わせだ.しかも,この博物館の歴史を調べた科学史家がまたおもしろい文脈で介入してくる.

—— 第11回の中身はこれでもうキマリですな.とナボコフ本をもちまわしているうちに,自重に堪えかねてハードカバー製本が崩壊してしまった.あわてて瞬間接着剤で背を貼り付ける.

◆本日の総歩数=8765歩[うち「しっかり歩数」=6147歩/60分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.4kg/−1.5%.


21 maart 2008(金) ※ 今日も振替休日,町田にて謝恩会

◆午前5時20分起床.曇り.北風が強くて寒かった.

◆“サイバーサイエンス”としての生物体系学 —— 昨年の始め,TaxaCom メーリングリスト(→ トップページ)の開設20周年に言及して,次のように書いたことがある:

体系学メーリングリスト〈TaxaCom〉が開設されて今年で20周年というアナウンスがあった.ぼくは知らなかったが,この〈TaxaCom〉の投稿群を“科学社会学”的に分析した研究があるそうだ:「Taxacom and systematics: a summary」.こういう研究者[電子]コミュニティの実例は[科学]社会学者にとっての格好の素材となるのだろう.(dagboek:2007年1月14日付)

いまチェックしたところ,「Taxacom and systematics: a summary」という記事へのリンクは切れているようだが,この社会学的研究の集大成は,次の新刊として出版されることになった:Christine Hine『Systematics as Cyberscience: Computers, Change, and Continuity in Science』(2008年3月刊行,The MIT Press[Series: Inside Technology],320 pp.,ISBN:978-0-262-08371-3 [hbk] → 版元ページ).コンピュータやインターネットの利用が個別科学の実践にどのような影響をもたらしつつあるか,を生物体系学を事例研究として考察するという趣旨の本のようだ.もちろん,David Hullの『Science as a Process』と同じく,“ハエ”たちは自分たちを研究材料とみなす“ハエの帝王”に文句を言うにちがいない.

著者 Christine Hine は,今回の新刊に先立って,いくつかの関連記事を書いていて,それらはpdfで公開されている:

  1. Hine, C. (2005) The politics and practice of accessiblity in systematics (→ pdf). Paper prepared for presentation at Past, Present and Future of Research in the Information Society, 13-15 November 2005, Tunis, Tunisia.
  2. Hine, C. (2003) Systematics as cyberscience: the role of ICTs in the working practices of taxonomy (→ pdf). Paper presented at the Oxford Internet Institute "Information, Communication and Society" symposium, 17-20 September 2003, University of Oxford, UK.

ここでの「ICTs」とは「Information and Communication Technologies」のこと.

—— 本書はさっそくオンライン発注した.

◆午後になって,さらに天気回復.気温もやっと上がってきたが,北東風はなお強め.

◆15:11発の TX 快速にて出発.町田に着いたのは午後5時過ぎだった.駅北口の〈北の家族〉に先回りする.今日は東京農大(厚木キャンパス)の卒業式が午後あって,その流れで昆研の謝恩会がここで午後6時から開催される.昆研のワルいセンセイたちはもちろん大学での“零次会”ですでにほぼできあがっていて,謝恩会会場でも早々と盃を重ねていた.いきなり日本酒から始まるワタシ.そのうち,スーツやハカマの卒業生20名ほどと彼らを取り巻く在校生たちが続々と集結してきた.今日は全部で70名ほどの規模になるという.毎度感じることながら,一研究室としての規模は桁違いに大きい.渡辺泰明さんとか上野俊一さんという昆研に縁のある大御所たちも登場した.午後6時から2時間ほどで一次会は終了.その後,ごく個人的な二次会に流れていくみなさんもいたが,ワタクシはここで退散し,つくばへ直帰.午後10時半ころに帰り着いた.

◆往復車中読書 —— 上野敏彦『闘う純米酒:神亀ひこ孫物語』(2006年12月13日刊行,平凡社,270 pp.,本体価格1,500円,ISBN:4-582-82450-1 → 版元ページ目次).読了.埼玉の神亀酒造の伝記なのだが,類は友を呼ぶで,日本各地の造り酒屋とか販売店とか飲み屋がたくさん出てくる(もちろん『夏子の酒』も).何だか酒造りには東京農大・醸造科の人脈?があるようで(さすが).

◆振替休日で休みまくっているうちに,正規の週末になってしまった.そろそろ連載原稿を書き始めないと週明けがコワイぞ…….

◆本日の総歩数=3495歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=+0.2kg/+0.2%.


20 maart 2008(木) ※ 春分の日は朝から冷雨が降り続く

◆春分の日は午前6時前に目覚める.冷たい北風が吹き抜ける.もちろん本降りの雨.春雨ではなく,冬の名残の冷雨.気温も低い.今日もシズカに引き籠ろう.

◆ツリービューアー〈Phylowidget〉公開 —— NEXUS形式のツリーファイルを描画・編集・印刷するためのツール.スタンドアローンでもオンラインでもOKだ.TreeViewなど他のビューアーとちがうところは,ファイルをいちいちつくらなくても,「(a,(b,(c,d)))」という樹形の階層構造さえ与えれば,そのままツリー描画してくれるところ.ちょこっと系統樹を描画させるのにうまく使えるかもしれない.

◆休日の野暮なこまごま —— 農環研分会の職場委員を4月からの半年間引き受けることにした.その後は分会役員というやっかいな仕事が待機しているようだが,一筋縄ではいきませんよ(予告)./横浜国大のGCOE統計学道場の履歴書を送った.しかし,得体のしれないエクセル文書書式だったので,勝手に自分で書式を設定し直して返送した.あとのことはよろしくお願いいたします。/昨年6月のNTTインターコミュニケーションセンター開設10周年記念シンポジウム〈アーカイヴが紡ぐ未来:再連結する情報〉の動画公開に関する問い合わせと事前チェックの依頼.なんだかドキドキするんですけど…….

◆午後になっても雨が降り続く.寒い寒い.

◆比較文学史における「系統樹思考」 —— ここ数日,先日教わった Franco Moretti の著書・論文をあれこれ検索しては注文している.「文学」というジャンルの時代的変遷と地理的伝搬を包括的に論じようというスタンスの研究者で,Luigi Cavalli-Sforza や Jared Diamond の著書を連想させるものがある.とくに,これまでの文学にみられるスタイルの系譜をモデル化した:Franco Moretti『Graphs, Maps, Trees: Abstract Models for a Literary History』(2005年5月刊行,Verso, 124 pp.,ISBN:978-1-84467-026-0 [hbk] / ISBN:978-1-84467-185-4 [pbk] → 版元サイト)では,文学史を“系譜的”にたどる試みとして注目したい.

比較文学史の「系統樹思考」とも呼べる Moretti の考え方はすでに表明されていて,たとえば:Franco Moretti (2000), Conjectures on world literature. New Left Review, 1: 54-68, January-February 2000(→ html / pdf)の「Trees, waves and cultural history」という節では,比較解剖学や歴史言語学あるいは考古学における「比較法」 — Schleicher の系統樹説と Schmitt の波状説 — を念頭に置き,文学史への比較法の適用を論じている.この論考は文学史の世界で話題になったようで,3年後に著者はレスポンスのためのもうひとつの論考を書いている:Franco Moretti (2003), More conjectures. New Left Review, 20: 73-81, March-April 2003(→ html / pdf).2005年の本はきっとその延長線上にあるものだろう.

さらに,Moretti は各論として,世界中の小説のスタイルを収集した論集をも編んでいる:Franco Moretti ed.)『The Novel, Volume 1: History, Geography, and Culture』(2006年刊行,Princeton University Press, 928 pp., ISBN:978-0-691-04947-2 [hbk] / ISBN:978-0-691-12718-7 [pbk] → 版元サイト)|Franco Moretti ed.)『The Novel, Volume 2: Forms and Themes』(2006年刊行,Princeton University Press, 960 pp., ISBN:978-0-691-04948-9 [hbk] / ISBN:978-0-691-13473-4 [pbk] → 版元サイト).こういう大著を“ブルドーザー的”にまとめあげてしまうところがスゴイなあ.

—— ここのところドルが格段に安くなっているので,ついつい洋書のお買い上げが多くなってしまって…….

◆『』4月号が届く —— 三中信宏「つながるつながるつながるなかで」(pp. 32-39).節構成は:“見えざる手”に遠隔操作され 32|万物流転とイデアによる救済 33|種概念の「本質主義物語」 35|「わたしはわたしを見つけ出す」 37.次回の原稿を書く前に,そろそろマジで,連載のソフト・ランディングの段取りを考えないといけないのだが.

◆統計こまごま —— 「多変量一般線形モデル(Multivariate GLM)」について,福岡の生態学会大会で質問されたのだが,たしかにGLMの“多変量バージョン”というのはあまり見たことがない.しかし,調べてみるとMANOVAをGLMにした「GMANOVA(一般化多変量分散分析)」の適用例はあるようだし,「Multivariate GLM」で検索してみると,少なくとも SAS や SPSS ではソースプログラムがあるようだ.では,R ではどーするでしょう? GLMを「多変量化」したとき,誤差部分がとても複雑になると予想されるので,通常の線形モデルから段階的に「GLM化」しつつ,並行して「多変量化」するという方針しかないだろう.

◆夜も雨が降り続く.気温は10度そこそこなので,コートが必要だろう.しかし,今日はけっきょく外出なしだった.明日は,夕方,町田にお出かけ.東京農大・昆研の謝恩会だ.

◆本日の総歩数=0歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.6kg/−0.5%.


19 maart 2008(水) ※ 振替休日は春眠引籠りの無為徒食

◆平日並みに午前4時20分起床.曇りときどき晴れ間.数日ぶりに研究所に潜入する.気温プラス7.8度.暖かくなったものだ.

◆夜明け前のこまごま —— 出張書類とか振替休日の押印をして弾き返す./九州出張の後始末.航空券の半券とか領収書とかチケットレスであることを示す書類とかを束ねて事務に提出する.あ,復命書を書かないといけない……./その他,書類やらDMが積まれていたけど,全部ゴミ箱に直行ね(おい……).

◆〈種の論理〉の化粧直し —— 中沢新一『フィロソフィア・ヤポニカ』(2001年3月10日刊行,集英社,本体価格2,600円,xxiv + 376 pp.,ISBN:4-08-774513-9 → 目次).元本である:田邊元『種の論理の辯證法』(1947年11月20日刊行,秋田屋[刊行責任者:哲學季刊刊行會],大阪,ISBNなし → 目次)とほぼ同時に届いたので,パラレルに読んでみた.中沢は〈種の論理〉に新しい衣装を着せて,再デビューさせようとする.しかし,読んでもぜんぜんわかりません(きっぱり).ただひとつ,田邊元の「いま」についての彼の指摘はきっと正しいのだろう:

「それにしても,この仕事にはじめてとりかかったときに驚いたのは,田邊元とその哲学が,ほぼ全身を忘却の淵に沈めていたことだ.……ところが,田邊元をめぐるこの寒貧たる状況は,西田幾多郎の場合と著しい対照をなしている.」(p. xi)

—— この一節のみは有意義だった.

◆ある誤解と和解 —— 数年前に図書館流通センターの〈TRC新刊リスト〉が毎週送られてきた頃,めぼしい新刊をピックアップしては一言コメントを付けていた時期があった.それを検索で見かけたという著者から,1372号(2004年5月11日発行)で自著に対する「決して買わない買わない」というぼくのコメントはとても残念ですとのメールをいただいてしまった.いや,ワタクシが「決して買わない」と書いたのは,価値のない本だから買わないということではなく,逆にとてもほしいのだが五万円もする美術書をほいほい買うわけにはいかないので,あえて自制のため「買わない」との意志表示をしたわけでして.まことにもって申し訳ないことでした.わかっていただけたようでありがとうございます.

日本の絵巻物の「系譜」を論じた文献は他にほとんどないと思いますので,この機会に再度ピックアップしておきましょう:須賀みほ『天神縁起の系譜』(2004年刊行,中央公論美術出版,「本文研究・資料篇」572頁+「図版篇」カラー212頁,本体価格50,000円,ISBN:4-8055-0464-1 → 版元ページ).ほぼ800ページもあるぞっ.版元の紹介には「日本絵画史上、最大規模の類本群を形成する天神縁起絵巻の諸本について、その詳細な系統関係の把捉と絵巻物史における位置付けを行う」などという罪なコロシ文句まで.

—— ほしいほしい.でも買えない買えない…….

◆積み残しのこまごま —— 科博の〈ダーウィン展〉がもう始まっている.混まないうちに行かないと./東大・連携教員の身分証明書と図書館利用証の更新を月内にすませないと.放置していた e-DDS の件も確認しないとねえ./他にも未決メールがいくつかあるのだが,未処理のまま放置しています.すんません.

◆午後になってしだいに雲が厚くなってきた.夜7時を過ぎて雨が降り出し,しだいに本降りに.明日の春分の日は,終日降り続くらしい.ということは,やっぱり引籠り生活が続くにちがいない.

◆本日の総歩数=4018歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.7kg/+1.3%.


18 maart 2008(火) ※ のびのびキャナルシティーお散歩

◆前夜は午前さまだったにもかかわらず,午前5時半にはもう起床.薄曇り.気温は高め.突発的な朝の“数練”をこなす.今日も20度くらいの暖かさになるかも.厚手のコートはまったく場違いだったことを痛感する.

◆田邊元の〈種の論理〉の忘却と舞踊 —— 福岡に来る直前に届いた古書:田邊元『種の論理の辯證法』(1947年11月20日刊行,秋田屋[刊行責任者:哲學季刊刊行會],大阪,ISBNなし → 目次).田邊元が戦前から戦後にかけて提唱した〈種の論理〉については,気に留めるともなくときどき目にしていた(なんたって【種】だしぃ).かつては,西田幾多郎と並び称せられる“京都学派”の巨頭の一人として時めいていたという.ところが,その後の西田哲学の隆盛とは対照的に,現在ではよほどリキを入れて掘り返さないと,田邊元の〈種の論理〉の知脈には到達できない.ぼくが調べた範囲では,敗戦直後に出た上の本か,あるいは田邊元全集をひもとくしか手はなさそう.

プラトンからヘーゲルにいたる「弁証法」を足場にして,「個」から「類」への階層の中間に位置する「種」に独自の弁証法的地位を与えるというのが,〈種の論理〉の骨子だと理解した.もちろん,なぜことさらに「種」なのか,という彼のこだわりの背景はよくわからないが,敗戦後間もない出版事情の悪い当時,ざらざらの紙に印刷されたふかふかの本書を手にすると,戦中から数年間の沈黙の後に彼が出した意図が,これまたよくわからない「“懺悔道”としての哲学」に立脚した〈種の論理〉の新たな発展を目指していたことは,その序文を見るだけでも十分に伝わってくる:

プラトンの弁証法はキリスト教の絶対転換の教と結附くことによって,始めてその意味を完うすることができたのであるといってよかろう.無即愛,愛即無という信証,これである.私のここに展開した所は,此様な意味に於ける弁証法である.懺悔道としての哲学が,この世界歴史的思想発展の線に沿うものなることは,私をして私自身の思想の浅薄無力にも拘らず,方向として此哲学の正しきことを確信せしめずには措かない.私が此論文を単行書として更に世に問はうと決心した所以である.私は之をもって,従前書いた種の論理に関する論文の改訂集成を出す予定であるといった公約に対する,差当っての代償とすることを許されたいと希ふものである.(序 pp.5-6)

要するに“弁証法”なので「何でもあり」は当たり前なのだが,少なくとも〈種の論理〉に関しては,「個」でも「類」でもなく「種」を抑圧即推進の弁証法的存在とみなした田邊元の着眼は注意する必要がある.形而上学的にみたときの具体的普遍(konkretes Allgemeines: pp.145-146)について,「個」と「類」の間に「種」を媒介させるという試みをしている.

—— いずれにせよ,田邊元の〈種の論理〉を眺めるには他の本ではなく本書を手にするのが迷い道のない近道だろう.

◆さ,〈種の論理〉のあとは,正しい日本の朝ご飯をいただくことにしよう.お,今朝は鯵のひらきですか.ご馳走になります.これだけたっぷり食べられて「税込525円」というのはおトクと言うしかない.福岡に入ってからというもの,生態学会の大会会場よりもはるかに長い時間を旅館ですごしたのだが,充実した朝食を毎朝とることができたのはありがたかった.この期間中は山本旅館にも大会参加者とおぼしき宿泊客を見かけたが,すぐとなりの鹿島旅館本館も同様のタイプの宿のようだ.これまで福岡に出張したときはいつも天神あたりのビジネスホテルに投宿していたのだが,ここ祇園あたりの和風旅館というのも次回からは有力な選択肢になりそう.

◆午前9時過ぎにチェックアウトして,大荷物を預けて徘徊開始.中州に面した〈キャナルシティー博多〉は宿から至近だったので,川端商店街を通って向かう.平日の朝なので,ほとんど人はいないが,週末や休日ともなればさぞや混雑するのでしょう.地階から5階までざっと歩き回る.

しかし,買うでもなく,喰うでもない,ただの歩行者・昇降者にすぎないので,いくらのびのぴできるとはいえ,1時間も時間がもたない.宿に帰って,大荷物を受けとり,そのまま空港に直行する.午前11時過ぎにはもうチェックインしてしまった.気温19度.やや蒸し暑いかも.レストランで日録を書いてみたり,メールチェックしてみたり.

◆13:10定刻離陸の JAL324 便で東京に向かう.14:30に羽田着.気温15度だから,福岡よりはずいぶんと涼しく感じる.つくばに帰り着いたのは,午後5時前だった.

◆“密の味”の今週後半 —— 明日と明々後日は振替休日にしてあるので,間の春分の日と週末を含めれば,実に「五連休」になる.みなさんはきっと年度末で忙しいにちがいないが,ワタシは休みだ.ごめんなさいごめんなさい.他人が働いているときに独り休みをとるというのは“密の味”.さあだらだらしよう.ぐでぐで過ごそう.

◆本日の総歩数=8555歩[うち「しっかり歩数」=1851歩/18分].全コース×|×.朝△|昼−|夜×.前回比=未計測/未計測.


17 maart 2008(月) ※ カンヅメからの解放と完全燃焼

◆午前4時過ぎに起床.外はもちろん真っ暗だ.ごそごそと起き出して,さらなるスライドづくり懲役.

そういえば,山本旅館のこの「奥二号室」には戦前からとおぼしき部屋札が下げられている.昔の監獄の独房の雰囲気だ.ここはとてもフシギな旅館で,増改築で廊下が曲がりくねっているのはもちろんだが,さらに「奥の奥」がある雰囲気だ(確認してはいないが).狭くて暗い廊下はどこもかしこもギシギシ音がするのだが,トイレだけは最新式のウォシュレットが装備されている.和風旅館の場合,トイレで不自由することがあるが,山本旅館はこの点で「花丸」をあげよう.

◆しかし,そんな脳内現実逃避をしているヒマはない.講演会場の壇上に上がるまであと4時間足らずだ.夜明けの午後6時半にやっとすべてのスライドをつくり終えた.と同時に,話すべき台本と“セリフ”も仕上がった.30分の時間をもらっているのだが,ぼくのトークは20分そこそこで終わるだろう.

◆午前7時ちょうどに食堂にて「正しい朝食」をいただく.きょうは明太子の輪切りが並んだ(さすが).出かける支度をして7時半には旅館を出発.大博通をひたすらてくてくと博多湾方向に向かって歩き続ける.今日もいい天気だ.約20分で国際会議場に到着した.時間は8時を少しまわったところ.

◆5階の Room A(501号室)が今日のシンポジウム〈Phylogenetic Approaches to Community Ecology〉の会場に当てられている.とても大きなウツワで,聴衆200人は軽く入れるのではないか.他の演者のみなさんと挨拶する.遠路はるばるお疲れさまです.

午前8時半の定刻に開始.オーガナイザー矢原さんのイントロ「A comparative phylogenetic approach to diversified flowering phenologies in forest communities」のあとに,さっそくぼくの講演「Measuring phylogenetic diversity - some statistical and computational problems」.Dan Faith (1992) の「PD(=Phylogenetic Diversity)」の計量(metric)としての特性を再検討する.分岐図上の minimum spanning network の長さとして定義された PD は,分岐図の根(r)の位置を考慮していない.根を参照点に指定したときの任意の末端OTU対(x, y)に対して,「Gromov積(xy−rx−ry)」を定義することができる.Gromov積は,今から35年前に「距離Wagner法」の中で提唱されて依頼,根と仮想共通祖先との経路距離として解釈されている.ここでは,それを一般化して,任意の参照点に対する変換とみなすことにする.系統学的多様度としてのGromov積はOTU集合に対する「Gromov行列」を構成する.Gromov行列の構造の解析が次の課題となる.Gromov積だけがPDの計量変換式ではない.Gromov積を変更した「一般化Farris変換(xy−fr(x)−fr(y))」の適用も可能になる.

続く Dan Faith の講演「Properties of different community-level phylogenetic indices」:PD dissimilarity の利用について.二つの地域における分類群の出現パターンから計算される PD dissimilarity については,近著『Conservation Biology: Evolution in Action』(2008年近刊,Oxford University Press)に所収される論文で論じられているという.地域による生物多様性のちがいを説明するために,GDM(Generalised Dissimilarity Modelling)という解析手法が用いられている.GDMは地域による環境要因の予測値と観測値との関係を回帰し,回帰関数に乗る場合はハビタットのちがいにより,乗らない場合は競争により説明しようとする.

Cam Webb の講演「Emerging patterns in the comparative analysis of phylogenetic community structure」:系統学的群集生態学のルーツは,Elton や Simberloff だという.ボルネオの熱帯雨林に関する事例を挙げ,スーパーツリー法(Metatree, Phylomatic)を適用して分子系統樹を構築する.系統樹全体の構造の指標としての NTI(Nearest Taxon Index)を利用して分析したところ,帰無モデルでは説明できないほど,樹林群落の構成樹は系統的に近縁であることが判明した.彼は phylodiversity(Pd)ということばを頻繁に用いた.講演スライドは彼のウェブサイトで公開(→pdf)されている.

John Wiens の講演「Phylogenetic perspectives on community assembly and the competition-divergence-coexistence conundrum」:Community Assembly Analysis について.ヘビのエコモルフ(短尾性と長尾性}の進化について,生息環境との因果的関係を系統学的に解析する.短尾性は穴居性,長尾性は地表性という生態学的性質と関連しているが,系統樹上でどちらが先に進化したかによって説明仮説が異なる.短尾性/長尾性の進化が先であればそれぞれの生息環境(穴居性/地表性)に侵入したあとでの分化ということになる.一方,穴居性/地表性が先に進化したのであれば,短尾性/長尾性は“その場での進化(In Situ Evolution)”と説明できるだろう.二番目の例として,樹上性カエルの体長変異に関する解析例が挙げられた.

Michael Donoghue の講演「A biogeographic perspective on community assembly」:地球規模での tree of life の構築と,それに続く大域的な生物多様性の進化的説明について.Community assembly に関する「Phylogenetic Niche Conservatism」を柱とする説明を試み,「進化するよりも移動する方がラクだ」という一般原理を提唱する(Donoghue, PNAS 2008 in press).実例として Viburnum 属の生物地理を取り上げ,系統樹の構成種が地域によって出現したりしなかったりするちがいを,niche conservatism と環境要因の両方によって説明する.

—— 以上,午前11時半を少し過ぎてシンポジウムは終了した.今回は bioGENESIS(DIVERSITAS)との共同開催という形式だったので,生物多様性に関する国際ネットワークのイベントと位置づけることができるだろう.個人的には,大仕事をひとつ終えることができて,やっと解放された心地がする.

◆昼過ぎに会議場をあとにする.日射しが暖かくコートは不要だ.呉服町の〈柳川屋〉という鰻屋で「博多櫃まぶし」を食べた.刻み鰻が敷き詰められているのは名古屋のひつまぶしと同じだが,明太子の彩りが一列多いというのが特徴かも.最後に出し汁でさらさらとお茶漬け.とてもうまかったです.

そういえば,福岡には何度か来たことがあるのに,「鶏卵素麺」なるものを一度も味わったことがないというのは片手落ちだ.さっそく中州川端近くの〈松屋〉本店に直行し,おみやげ用に買い物をする.ちょうどそこになじみ客らしき人が来て,店員さんに「“切れっ端”はない?」と訊いていた.なるほど,こういう製法のお菓子には必ず「端っこ」ができるはず.大徳寺の〈松屋藤兵衛〉の松風にも“福耳”という名前の端っこがもらえたり買えたりすることがある.きょうの〈松屋〉でも店の奥からパック入りの“切れっ端”が出てきた.きっと美味なんだろうなあ.

◆旅館に戻って,その足で最寄りの郵便局に向かい,ゆうパックで重い荷物をすべてつくばに返送してしまった.電話帳のごとき講演要旨集はもちろん,用済みの資料やら本やらも含めてぜーんぶお払い箱だ.国内外のどこの学会に参加しても,最終日にこういう“厄落し”をするのが習慣になっている.重いものはいつまでも引きずらずに,そのつどどんどん放り出すにかぎる.抱え込んで益になることはまずない.

—— というわけで,あとは午後6時からの懇親会(福岡国際センター)を残すのみだ.全開だ,昇天だ,バクハツだ.

◆昨日と同じく,午後4時過ぎに旅館の一番風呂に入らせてもらって(これがまた点数を高くする),懇親会に出撃する支度をする.

午後5時に旅館を出て,会場である福岡国際センターに着いたのは5時半のこと.国際会議場にほど近いここは,毎年の九州場所に使われるだけあって,とても巨大な空間だ.今日の懇親会の予定参加者数は900人近いというが,呼吸困難なほどの人口密度にはきっとならないだろう.午後6時定刻に開始.場所はゆったりしていたが,さすがにこの人数ではテーブル上の料理はさくさくと短時間で消費されつくしてしまった.新たな仕事を引き受けたり,また頼まれたり.午後8時定刻に終了.

二次会はいわゆる“濃いメンバー”で,親不孝通りの〈兼平鮮魚店〉へ.ウチワエビとかクエ刺とか魚中心で仕上げ.日が変わった頃に店を出る.実行委員長殿はたいへんお疲れさまでした.タクシーで祇園に乗りつけて旅館に戻る.

—— 最終日はダッシュで一日が終わった気がする.明日は純粋につくばに帰還するだけのゆったり移動日だ.

◆本日の総歩数=11167歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=未計測/未計測.


16 maart 2008(日) ※ 学会会場に到達できないワタシ

◆午前5時前に起床.さすがに西に来ると夜明けが遅い.まずは昨日の日録をものしてアップ.しかし明日のトーク準備はアップアップ……(さぶ).いいんだいいんだ,今日はひたすら引き籠るのだ.※いったい何しに博多に来たんだか…….

◆午前7時に見当をつけて旅館の食堂に行ったら,うっかり今日の朝食は予約していなかったことが判明した.しかし,旅館の方で融通をつけてくれたので,暖かい朝食をいただくことができました.これは実に正しい「日本の朝ごはん」だなあ.うまかった.

◆さて,食後は「奥二号室」に引き籠ってワルイ噺の準備を始めようとする.しかし,その前に前日引きずりのこまごま —— すでに博多に来ている Dan Faith が今日はフリーだと昨日聞いたので,「晩飯をご一緒に」メールを出してみる.日中ご案内できればいいのだが,ワタクシ自身が火の車なので,申し訳ないけど夜だけということで.その頃には群集系統学シンポジウムの他の演者たちも顔を揃えているだろうから,場合によっては合流ということも可能か.で,水炊きか,モツ鍋か,地の魚か,はたまたラーメンか./東大総合研究博物館からメールあり.よからぬ“ワルダクミ”がヒソカに進行しているもよう.ううむ./農環研・全所送別会.3月28日(金),17:45〜,2階大会議室にて.こういう催しはかつての“公務員時代”の頃を髣髴とさせる文化的遺産かも.

◆でもって,午前9時を過ぎていよいよ講演準備の開始.“助走”の長いこと長いこと.本番まで24時間を切っているというのに…….山本旅館の「奥二号室」に自発的カンヅメとなって,うんうんと台本をひねり出す作業に勤しむ.まっとうな大会参加者はきっと今ごろまっとうに講演を聞いたりポスターを見たりしているにちがいないと思いつつ.

けっきょく,午後5時まで引き籠りは続いた.それでも進捗ははかばかしくない.

◆今日は一歩も外に出ていなかったので,夕食がてら祇園周辺を散歩してみる.日中はコートいらずの暖かさのようだったが,日が陰るとともに涼しくなってきた.しかし,歩き回ってみても,目にとまるのは〈かろのうろん〉とか〈博多べい〉とか食いもん屋ばっかりでして.きょうはカンヅメのあおりで昼飯を逃してしまったせいだろうと思い,ラーメン〈うま馬〉冷泉店に飛びこむ.チャーシューメンとともに特製餃子を注文したら,超小型なのに美味でつい生ビールを追加注文してしまったりとか(おいっ).暗さがやや増してきた頃に旅館に直帰.それでもまだ午後7時にもならない.

◆夜もカンヅメは続く —— どーしていつも講演準備にこんなに時間がかかるのかといえば,スライドを一枚つくるたびに“セリフ”を埋めこんでいるからだということに気がついた.むしろ,“セリフ”が先にあってそれの補助としてスライドをつくっていると言うべきかもしれない.いずれにせよ,言うべき筋書きと個々の場面での“セリフ”は先に決まっていて,それの「現実スタンプ」を押すためだけにスライドをつくっているということ.

—— 午後11時をまわったので寝ることにしよう.最後の1〜2枚は明け方のタスクだ.

◆行く方知れずの Dan Faith —— 朝,お誘いメールを出したのに Dan からは返事がなかった.ところが夜8時を過ぎてから返事が返ってきて,「たった今ホテルに帰ってきた」とのこと.朝8時から12時間もいったいどこに行っていたのだろー.

◆いやいや他人のことは言えないぞ.せっかく出張先に来たのに,学会会場での実在時間よりも旅館での実在時間がはるかに長いというのは,出張という職務遂行上いささか問題があったりしないだろうか(職務に専念していないとか詰問されたらぐうとも言えない).あるいは,招待講演の準備に勤しんでいたと強弁すれば許してもらえるか.農環研からも多くの参加者がいるはずだが,実はまだ一人として会場で遭遇していないな…….

◆いやいやいやいや,そーいう雑念はきれいに祓い清めて,明日のために今日は寝るのだ.寝れば何でも解決するのだ.そーだそーだ.

◆本日の総歩数=2678歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝△|昼−|夜△.前回比=未計測/未計測.


15 maart 2008(土) ※ 丸腰のまま福岡に飛んでいく…

◆午前5時起床.雨はあがっていたが,地面はまだ濡れている.そのうち急速に天気は回復し,青空が広がる.

◆出発当日のじたばた —— 旅支度の最終点検.着替えなどは大丈夫.念のためノートパソコンは2台持参することにした.本やら資料やら福岡ガイドブックやらを詰め込んで準備万端整った.整っていないのは講演準備だけ…….

◆外は快晴で暖かい.9:41発の TX 快速に乗る.羽田空港第1ターミナルにたどり着いたのは午前11時過ぎ.チェックインをすませ荷物を預けて身軽になった.フライトは12:20発の JAL323 便.定刻より早く,午後2時過ぎには福岡空港に着陸した.

◆空港を出てそのまま地下鉄で祇園に向かい,投宿先の冷泉町〈山本旅館〉にチェックイン.確かにここは純粋に和風の旅館で,年期が入ったつくりはわかっていたが,蛇行して延々と続くアリの巣のような廊下は増改築のためだろうか.玄関はとても狭いのに奥行きは深い.その深みの先にある「奥二号室」といういかにも奥まった一室に通された.ここで三泊四日の潜伏活動をすることになる.地図を見て確認したら,ここは櫛田神社の門前にあたる.“祇園山笠”とか“清道なんとか”の世界ですね.

◆日録をものしたのち,生態学会大会会場となっている福岡国際会議場に向かう.地下鉄で祇園から中州川端まで行って,貝塚行きに乗り換えて最寄りの呉服町へ.いずれも一駅ずつなのでめんどうだな.しかも呉服町から国際会議場までは10分ほど歩かないといけない.

—— あとで地図を確認したら何のことはない.山本旅館前の博大通をそのまま一直線に数分歩けば呉服町駅じゃないか.大会会場にたどり着くのに地下鉄はもはや不要との結論に達した.※それ以前に月曜までに再び会場に行くのかどうかが問題だが…….

◆そんなこんなで午後4時過ぎに博多湾に面した国際会議場にたどり着いた.とにかくウツワが大きすぎます.1階ロビーの大会受付で参加登録をする.非会員であるワタクシは招待講演者扱いということで大会参加費は不要だったことは初めて知った.先日,参加費は振り込んだのですがと申し出たところ,「では懇親会費に横流しして差額をキャッシュバックさせていただきます」とのワルい提案が出された.懇親会は会議場に隣接する福岡国際センター(大相撲九州場所が開かれる)で月曜に開催される.

◆会場では多くの知人に高頻度で遭遇する.書籍展示フロアは5階に設けられていたが,博多湾が一望できるとてもいいロケーションだ.ここでもまた書店関係の方々にあいさつして,と.

◆聞くところでは,本大会の参加者は2,000人超.朝8時半から夜8時半までぎっしりとセッションが組まれていて,しかもパラレルに配置されている.ポスターも目まぐるしく貼り替えられていて,くらくらしてしまう.大会サイズとしてはリミットに達している気がするのだが,国内には分子生物学会のようなさらにさらに巨大な大会を開催する学会もある.そうなると,手弁当で大会をやりくりできる限界はもう越えてしまうだろう.

◆1時間あまりで会場をあとにした.中州川端の〈古式生そば・ひさや〉で天ぷら蕎麦をいただいて,旅館に戻る.中州の賑わいは後回しですなあ…….

◆夜は,「奥二号室」でごそごそと作業をするものの,イマイチはかばかしくない.よろしくないぞ,これは.明日こそガンバローと寝てしまった.長旅,疲れました.

◆本日の総歩数=11598歩[うち「しっかり歩数」=1303歩/12分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=−0.4kg/+0.2%.


14 maart 2008(金) ※ 春雨の本郷にて巨大鶏に遭遇

◆午前5時起床.早朝までは曇りだったが,のちに雨がぽつぽつと降り始める.

◆今日は出張日なのだが,明日からの福岡ロードに向けての支度がぜんぜん間に合わない.研究所に籠ってはみたものの,けっきょくダメでして…….現地に乗り込んでからの「直前じたばた劇」が今回もまた繰り返されることになった.ポスター発表であれば厳然たるタイムリミットがあるので否も応もないのだが,口頭発表の場合はえてしてこういう直前短期決戦バンザイ突撃モードになってしまう.

—— ええいと散髪してしまって,昼過ぎに必要な機材・資料を取りそろえて後ろ髪引かれつつ帰宅.小雨が降ったり止んだりしている.午前11時の気温は11.0度だった.もう寒さとは無縁な季節かな.湿度は当然高い.

◆撤収間際のこまごま —— 東京農大昆研の卒業生謝恩会の招待状が届く.3月21日(金)の午後6時前に町田駅前北口に集合のこと./東大農学部の来年度シラバスのゲラが届く.瞬時にして「校了OK」の返信を返す.

—— これ以降の「こまごま」の処理は基本的に18日(火)以降,つくばに帰還してからの仕事となる.

◆傘をさすかどうか迷いつつ 14:18 発の TX 区間快速に乗りこむ.本郷三丁目で地上に出たら,生暖かい雨がぼとぼとと落ちてきた.決断を悔やみつつコンビニで折り畳み傘を買う羽目になる.東大の総合研究博物館のエントランスに巨大なケバ目の「ニワトリ」が2羽まるでスフィンクスのように鎮座していた.内覧会のとき今回のプロデュースをした西野嘉章さんから聞いた話では,とある総裁のたっての希望によりタイから直輸入したオブジェで,高さは4メートル近くもある「世界最大のニワトリ」とのことだ.

ほんとうはとても忙しいはずの今日わざわざ本郷まで来たのは,明日から一般公開が始まる:東京大学総合研究博物館・東京大学創立130周年記念特別展示〈鳥のビオソフィア —— 山階コレクションへの誘い〉(展示期間:2008年3月15日〜5月18日)の内覧会とレセプションに出席するためだった.山階鳥類研究所の鳥類コレクションを中心にして,東京農大・進化生物学研究所のニワトリ・コレクションや東大博物館の資料が,大規模に展示されている.

関係者が関係者なので宮内庁の館内警備はもちろん厳しかったのだが,一般公開後はきっと来館者でたいへん混雑することが明白なので,こういうインフォーマルな機会にじっくり見学できるのはありがたい.レセプションまで1時間ほどフロアをまわった.山階鳥類研究所の展示用コレクションは美術品としても価値がありそうだ.10年あまり前に,同研究所の標本庫に入らせてもらったことがあるが,今回展示されている以外の“仮剥製”の鳥類標本が山ほどあるのに驚いた記憶がある.

この2月に霊研から東大博物館に異動してきたばかりの遠藤秀紀さんに久しぶりに会う.他にも,いまや“アドミニフェッサー”となったという長谷川寿一さんなどなど,知り合いがちらほらと.今日の参加者は100名を越えるそうだ.午後5時から剥製とホネに囲まれてのレセプションが始まった.

◆西野嘉章・秋篠宮文仁(編)/原研哉(アートディレクション)『上田義彦写真集:鳥のビオソフィア』(2008年3月15日刊行,東京大学総合研究博物館)だけが展示図録だとぼくは思っていたのだが,それは浅はかだった.今回の展示に関していえばはるかに大部の図録が同時に刊行された:秋篠宮文仁・西野嘉章(編)『鳥学大全』(2008年3月15日刊行,東京大学総合研究博物館,637 pp. with 64 color plates, ISBNなし).およそ30名の執筆陣による論集で,本文と図版を合わせると「701ページ」という巨大な出版物だ.しかも透明フィルムカバーでくるまれている(石川英輔『大江戸神仙伝』を思い出す).『鳥学大全』は,来月,東大出版会を通じて一般に購入できるようになるらしい(予価9,500円!).

博物館の一角,これらの出版物の展示コーナーも設けられていたのだが,上田義彦写真集についてはアクリルケース入りの“特装版”が限定販売されることを知った.これは悩ましい、実に悩ましい.なぜ悩ましいか.ブツを手にとれば,当然のことながら,アクアリウムの水槽のごとき“特装版”がいいに決まっているのだが,本体価格以上のお金をアクリルケースのために支払う覚悟があるかどうかという決心が問われているということだ.東大出版会は「罪」なことをしてくれた.いつから“書物展望社”に変身してしまったのだろう.なんたってアクリルケースでっせ.そんな本,どこにありますねん.

買う買わないは別にして,上田義彦写真集の書誌情報をここに記しておこう:西野嘉章(編)/原研哉(アートディレクション)『上田義彦写真集:One Hundres Stonewares』(2008年3月15日刊行,東京大学出版会,180 pp.,本体価格18,900円[透明アクリルボックス特装版:同39,000円],ISBN:978-4-13-083151-2).もう1冊は:秋篠宮文仁・西野嘉章(編)/原研哉(アートディレクション)『Biosophia of Birds』(2008年3月15日刊行,東京大学出版会,168 pp.,本体価格15,000円[透明アクリルボックス特装限定版:同36,000円],ISBN:978-4-13-083152-9).あと,2006年の刊行と聞くが:西野嘉章(編)『上田義彦写真集:Chamber of Curiosities』(2006年刊行,東京大学総合研究博物館,本体価格12,000円)にも同様のアクリルケース特装限定版がある.

—— この3冊すべてを“特装版”で揃えるとかるく「10万円」ほどふっ飛んでしまいますぅ.※お慈悲を…….

◆レセプションがお開きになったのは午後5時半のこと.外に出てみたら雨足はいよいよ強く,あわてて大江戸線の本郷三丁目駅に吸い込まれる.直帰でつくばに帰り着いたのは午後7時前.こちらも雨が本降りだ.その後あれやこれやの旅支度をして日が変わる前に就寝.講演準備は福岡で堂々とやるしかない…….

◆本日の総歩数=8670歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=0.0kg/−0.4%.


13 maart 2008(木) ※ ぎりぎりと締め上げられつつ

◆午前4時半起床.曇りのち晴れ.気温プラス3.8度.そろそろ甘くはない日々が始まる.

◆午前のこまごまはすべて生態学会がらみ —— 生態学会大会の講演以外の旅支度を始める.まずは機材の準備をば.着替えなどなどはいつものことなので,瞬時にすむだろう./ぼくが会場に出没するのは15日(土)夕方からなので,“受付暴動”に巻き込まれる心配はないだろうが,未曽有の規模となる今大会の初日朝イチの受付は短時間決戦型高密度大会参加者集団による“相転移”が危惧されているという.その戦列に加わろうという猛者連は,ぜひ大会参加費を事前に払いこむか,釣り銭不要のキレイなからだで会場に乗り込もう.とエラそうに言うワタクシはすでに郵便局から振り込んであるのだった./午前10時過ぎから1時間ほど,共同発表者たちと講演内容の詰めをする.系統学的多様度計算プログラムのプロトタイプを動かしてみたが,今回のトークはこれで何とかなりそうな感触だ.スライドはすでに15枚あまりアタマの中にできあがっているぞ.よしよし.

◆午前10時半の気温は10度ちょうど.日射しあたたか,花粉もたっぷり…….

◆午後のこまごま —— 当領域からの異動者送別会は3月27日(木)の夕方./計算センターの利用報告書をオンラインで提出完了./すっかり忘れて提出締切を過ぎてしまった,和文雑誌購読申込書をあわてて用度係に出しに行く.ごめんなさいごめんなさい./メーリングリストの雑用などなど./3月31日(月)は年休に./東大農学部の大学院と学部の卒業式はそれぞれ24日(月)と25日(火)だ.短時間だけ本郷に実在することになるか.

—— 年度末にかけてのばたばた.月末はひたすら人を送り出しては呑み続ける.

◆文学史研究の“系統樹思考”について —— 〈Turn into Literature〉の3月12日付のブログ記事で,ぼくの『系統樹思考の世界』を書評していただいた.その中で,文学史研究でも,まったく同様の“系統樹思考”に沿った研究をしている Franco Moretti という人がいることを初めて知った.著書と論文について自分でも調べてみようと思う.文学と進化学との関係については,Michael Ghiselin が1980年に The Michigan Quarterly Review に書いた,文学における個物説の論考をすぐに思い出す.互いに関連があることは確かなのだが,その線でどこまで深められるか.

◆Maria Sibylla Merian 伝 —— 17世紀に活躍した女性昆虫研究者メーリアンの新しい伝記が刊行された:Katharina Schmidt-Loske『Die Tierwelt der Maria Sibylla Merian: Arten, Beschreibungen und Illustrationen』(2007年刊行,Basilisken-Presse, Marburg, 240 pp. with 78 color plates, EUR 96.00, ISBN:978-3-925347-79-5 → 版元ページ).カラー図版がたくさん入った大判の本のようだ.そういえば,数年前に,メーリアンの伝記が刊行されたことがある:中野京子『情熱の女流「昆虫画家」:メーリアン波乱万丈の生涯』(2002年01月25日刊行,講談社,4 pl.+237 pp.,本体価格1,900円,ISBN:4-06-211116-0 → 目次書評).ナボコフも感銘を受けたという『スリナム産昆虫の変態』は一度は手にしたいものだ.

◆講演スライドに貼りこむ図の編集をしないといけないな.うかうかすると,「現地作業」になだれこんでしまうぞ.

◆明日から来週いっぱいは,生態学会やらこまごま出張やら振替休日やらそんなこんなで,出勤簿にハンコを押さなくてすむ日々が十日も続く.「つくば不在度」がまたまた急上昇だ.しかも,帰ってきた週以降は,卒業式・謝恩会・送別会と,月末まで不健康な日々が続く.

◆本日の総歩数=6136歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.1kg/+0.8%.


12 maart 2008(水) ※ 現実逃避行は職務質問の標的

◆午前5時45分起床.曇りのち晴れ.北風が吹き抜けるが,寒くない.今日は東京出奔日なので,ゆるゆるする.

◆朝のこまごま —— そろそろ生態学会大会関連の“大波”の余波がつくばにも到達するようになった.何人かのクローンがすでにいるにちがいない矢原さんから,シンポジウム招待講演者の接待の件でメール.ワタクシはずーっと非-生態学会会員なので,自由度高いです.いつでもどこでもなんとでも.

◆久しぶりの職務質問 —— 午前10時41分発の TX 快速で東京に向かう.とりたててアヤシイ風体をしていたわけではないと思うのだが,乗換えの北千住駅構内にて警備中の制服警察官2名に職務質問を受け,リュックサックの中身すべてを検査されるとともに,身体検査まで事細かにやられる.「最近,刃物を地下鉄内にもちこむ事件がありまして……」のなんのと相手は弁解していたが,要するに“何となくアヤシい度”が警視庁の内部閾値基準を越えたのでしょう.任意取調べについては拒否することもできたのだが(われわれ以上の世代は対警察ディフェンスの仕方を知っているはず),ま,ここはおとなしく言われるままに.ナイフとかバクダンとかエキタイとか式鬼とかを所持していれば,即しょっぴかれたにちがいない.

—— 10分ほどで解放され,そのまま東大に向かう.正午前に到着.北風はあるが日射しはとても暖か.今日は,農環研の米村正一郎さんが連携講座の新しい教授になったので,専攻内での歓迎昼食会だ.

◆20年前の Croizat 特集号 —— 縁は切れず.Croizat のハンニバル戦記がやっと入手できたので,久しぶりに Tuatara の Croizat 特集号を開いてみた:R. C. Craw and G. W. Gibbs (eds.)『Croizat's Panbiogeography and Principia Botanica: Search for a Novel Biological Synthesis』,Tuatara, volume 27, issue 1, pp. 1-75 → 全文オンライン公開 (html / eBook).(1984年8月発行, The Biological Society of Victoria University of Wellington, ISSN:0041-3860 → 目次).

このジャーナルは,発行された当時(今でもそのようだが),日本では所蔵館がまったくなく,編者のひとりであるニュージーランドの Robin Craw さんから1冊いただいた.今回,全文がオンラインで公開されたので,紙版を手にする機会はますます減るかもしれない.しかし,“token”としての本がもっている意味は失われることはない.

◆午後1時から専攻教員会議.今年度最後の会議なのでいろいろとこまごまと.卒業式の次第とか来月はじめの進学ガイダンスの段取りとか.午後3時半に解散.直帰.帰りは職質を受けることなくスムーズにつくばに着く.午後5時前.

◆往復車中読書 —— 800ページもあるとても重い電話帳だったのだが:Vladimir Nabokov / Brian Boyd & Robert M. Pyle『Nabokov's Butterflies: Unpublished and Uncollected Writings』(2000年刊行,Beacon Press,Boston,xiv + 782 pp. with 16 color plates,ISBN:0-8070-8540-5 [hbk] → 目次)をつまみ読みする.買ったときはまさに“積ん読”状態だったのだが,あらためてぱらりぱらりとしてみると,昆虫学者としてのウラジーミル・ナボコフの底力が感じられる.もちろん,【種】に関わる部分を中心にチェックしているのだが,関連する記述がなかなかおもしろい.ナボコフはマイアの生物学的種概念は「鳥には役に立っても蝶には役立たない」とはっきり言っている.自伝である『記憶よ,語れ』にも当時の昆虫学のありように関する痛烈な批判が書かれていたりするが,『賜物』の未発表の原稿には分類理論や種概念に関する考察が述べられている.

—— 本書の詳細な書評は〈The Complete Review〉にオンライン掲載されている.

◆さて,いよいよあとがないので,講演準備に取りかかるしかない.追い込まれないと何もできないというのでは話にならんのですが…….

◆本日の総歩数=7550歩[うち「しっかり歩数」=1578歩/15分].全コース×|×.朝△|昼○|夜△.前回比=+0.4kg/−0.5%.


11 maart 2008(火) ※ ぽかぽかと春めくイチゴ

◆午前4時半起床.湿り気のある朝靄が.気温マイナス1.0度.意外に寒いぞ.日中は20度近くまで上がるとの予報.春めく春めく.この季節はやっぱり旬のイチゴがうまいですなあ.生苺でも生菓子でもよろし.

◆今日もまた講演の構想(筋書き)を考えている.なかなか行動に移らないのはいつものことだが,ゆらゆらさせているとそのうちおのずと“凝固”してくるものがあるのはフシギだ.アトラクタみたいな収束点かも.一両日中にコンテンツはすべてそろうだろう.その時点で,おもむろにスライドをつくりはじめよう.国内外の学会に参加するときは参加者の顔ぶれを見ながらトークの内容をつむぎ出すようにしている.今回の生態学会大会は過去にない規模の参加者が福岡に押し寄せるという.いったいどれくらいのオーディエンスが参集するのだろう.

◆フィレンツェからの着便本 —— León Croizat-Chaley『Aníbal y Roma: 218 - 202 a.d.C.』(1975年刊行,Oficina Tecnica del Ministerio de la Defensa, Caracas, 267 pp.,ISBNなし → 目次).『ハンニバル対ローマ戦記:紀元前218〜202年』.ベネズエラの国防省技術部から出版された.実にストレートな歴史書(軍学書?)なのだが,著者は汎生物地理学(panbiogeography)の創始者として知られている León Croizat-Chaley だ.本書のテーマは一連の「ポエニ戦争」,とくにカルタゴの武将ハンニバルの戦跡だ.具体的には,ハンニバルによる象軍を率いてのアルプス越え(218BC),ローマ近くのカンネーでの戦い(216BC),そしてカルタゴのザマでの戦い(202BC)を詳細にたどっている.

「なぜ生物地理学者が歴史書を」という疑問は当然出てくるのだが,「Ensayo Histórico y Lingüístico: con particular referencia al Cruce de los Alpes, la Batalla de Cannas, y la Marcha de Aníbal contra Roma」というサブタイトルが付けられていることからも類推できるように,広義の地理学(地政学)の文脈の中でローマ対カルタゴの抗争を考えようということなのだろうか.地名研究に力点があるらしく,傍注に地名の語源や由来についての詳細な記述が散見される.

また,本書には,大判の折り込み地図を含む地図が数葉,そして図表がとじ込まれている.Croizat の他の生物地理学の著作のすべてに見られるなじみのあるスタイルの手書き図版だ.

◆午前11時の気温は13.6度.陽光が暖かいというよりは,暑いほど.講演トークのイメージづくりをする.

◆Croizat の「ハンニバル戦記」は彼の著作の中では群を抜いて入手困難な1冊だと思う.他の汎生物地理学の大部な本はカラカスでの自費出版の割には,古書店経由で入手できる機会が少なくない.しかし,この戦記はこれまでまったく出会わなかった.Croizat の全著作リストはすでにオンライン公開されている(→ Robin C. Craw, Michael Heads 1984. Bibliography of the Scientific Work of Leon Croizat, 1932-1982. Tuatara, Volume 27, Issue 1, August 1984).

本書の“トークン”としての特徴をメモしておく.届いた本の前所蔵者はイタリアの植物学者 R.E.G. Pichi Sermolli (1912〜2005) だ.この本自体はスペイン語で書かれているが,中表紙に Sermilli 宛の Croizat のイタリア語の献本サイン「Omàggio di Croizat a Pichi Sermolli, 22-viii-1976」(「Croizat から敬意をこめて Pichi Sermolli へ,1976年8月22日」)が記されている.

シダ植物の分類学者として知られていた Sermolli の蔵書とシダのコレクションは,彼の死後,フィレンツェの大学(Museo di Storia Naturale, Università degli Studi di Firenze)に一括して納められたと Nove da Firenze 紙の記事は報じている(2006年10月27日付).手元にある本書には「Biblioteca Botanica, R. Pichi Sermolli / No. 1091」との蔵書番号が記されているところをみると,おそらくはその蔵書から何らかの理由で放出された1冊なのだろうと思われる.

[追記]上記の「Croizat文献リスト」には,本書の書誌情報が「1975a: Relacion de las Guerras entre Anibal y Roma, 218-202. B.C. Published by Ministry of Defence, Caracas.」と記されているが,このタイトルは間違っている.

◆午後4時にはやばやと撤収する.気温17.7度.確かに春めいた暖かな一日だった.

◆春は曙,夜はナボコフ.※講演準備はどーしたっ.

◆本日の総歩数=6411歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.5kg/−0.6%.


10 maart 2008(月) ※ 出されて苦しい某入試問題

◆午前4時半起床.曇りのち一時雨.気温1.9度.

◆今週は,博多でのびのびはねを伸ばすための支度に十分な時間をかける予定だが,砂漠の砂のごとく時間がさらさらと流れ落ちていく.午前10時半.雨.気温は4.7度.昨日よりもぐっと寒い.

◆午前のこまごま —— 10時半からヒミツの領域会議.内定している人事異動のことなど.あ,ワタクシは“みなし移動困難者”なので,動く気配は微塵もなし.10分でささっと解散.その後,メーリングリスト作業を少しばかり.系統学的多様度についてのダメ押し論文をひとつコピーする./個人業績報告についてのさらなる修正点あり.まだまだ続く./新年度のフレックスタイム伺いの出せ出せ攻撃.

◆入試問題になること —— 帝京大学の今年の「国語」の入試問題で,ぼくの『』連載記事のひとつが出題された.帝京大学の業務委託を受けた丸善と出題に絡む著作権業務を担当する著作権処理センターから,今回の出題に関する過去問配布ならびにウェブ公開を許可していただきたいとの連絡が今日あった.

同封されてきた実際の問題用紙を見る.「国語」は全4問中3問を解くことになっている.その第4問が,『』2007年9月号の連載記事「種に交わればキリがない」に基づいて作問されている.論説文のひとつとして出題されたのだろうか(直前の第3問は塩野七生の文章だ).自分の書いた文章が入試問題に採用されたのは初めての経験なので,しげしげと眺めてしまった.穴埋め問題・漢字問題・文章解釈などかつてよく見た設問が並んでいる.

で,自分が受験生だったとして,この問題に答えられるかと訊かれると,実は心もとないところなきにしもあらずだったりする.「問一」は漢字の問題.これはまあいい.「問二」は文章をつなぐ接続詞の選択問題.あ,一小問まちがえたっ(……).「問三」はなぜ「行政的“低山”概念」が必要であるのかの理由説明.うう,選択肢迷いますっ(迷うなよっ).最後の「問四」は「分類とはそもそも〜」の説明問題.うん,これがちゃんと答えられれば,受験生諸君もりっぱな“ミナカ”になれるぞ.

—— ということで,しばし愉しんでしまった.作題者さんはたいへんですねえ.

◆とくに「国語」の入試問題に関しては,出題された文章の著作権をめぐって出題大学と著作権者との間で係争がいまでも続いている.そういう背景があって,その業務に特化した著作権処理センター(Copyright Compliance Center)という中間法人の活動が成立しているのだろう.音羽と連絡をとって,「OK」の返事をさっそく返した.

◆昼前にいったん空は明るくなったが,午後になってまた雨模様となる.

◆午後1時過ぎから,「裁量労働制委員会」のミーティング.産総研では早くから裁量労働制を採用している.しかし,農林団地内ではちょうど一年前から農研機構が採用に踏み切ったばかりだ.そこで,農環研としても近い将来この裁量労働制を導入するかどうかを検討するための労使勉強会を始めるという趣旨の会合だ.今日は初顔合わせ.いいところばかりが喧伝されているようだが,プラスがあれば当然マイナスもあるはず.午後2時半まで.

◆午後3時から,ヒミツのスライドの検討会.ヒミツです.3月13日(木)午前にもう一回ミーティングをする.これで発表のコンテンツは大丈夫だろう.時間がないことはないのだが,今週は他に追われている仕事がないので,気分的にはラク.とてもラク.

◆夕方,一瞬晴れ間が見えたと思ったのだが,ときどき小雨がぱらついたりする.へんな天気.

◆文学者ウラジミール・ナボコフが昆虫学者だった頃のエピソードを探す.まずは:ウラジミール・ナボコフ[大津栄一郎訳]『ナボコフ自伝:記憶よ,語れ』(1979年5月30日刊行,晶文社,264 pp.,ISBNなし)から.20世紀前半のドイツの昆虫学界の雰囲気を伝える箇所あり(第6章,pp. 96-98).

◆明日も続く発表準備.先は長いぞ.

◆本日の総歩数=7489歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.4kg/+0.9%.


9 maart 2008(日) ※ 花見又平うらやましきかぎり

◆午前6時起床.晴れて春霞.6:14頃に地震あり.

◆早朝の歩き読み —— 磯辺勝『江戸俳画紀行:蕪村の花見,一茶の正月』(2008年1月25日刊行,中央公論新社[中公新書1929], ISBN:978-4-12-101929-5 → 目次版元ページ).与謝蕪村から最後まで読了.やはり蕪村は俳句でも俳画でも他とは別格の突き抜けた俳人だったか.小林一茶はまあおいといて,釣瓶取られた千代尼と大江戸のアイドル山東京伝が人物としておもしろいかもしれない.

◆午前10時に車検に出す.その後,農環研へ.午前11時の気温は10.2度.春の日差しに花粉も最高潮.しばし,仕事を.しかし,昼過ぎにあえなく退却する.午後は花粉症で廃人同然.タテになったり,ヨコになったり.夜になってもぜんぜん何もできず.

◆終日,無為に過ごしたので何も書くことがない…….

◆本日の総歩数=12120歩[うち「しっかり歩数」=7328歩/63分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.2kg/−0.6%.


8 maart 2008(土) ※ イッキに春めく週末の始まり

◆ゆるりと午前6時前に起床.春霞の晴天.冷え込みなし.花粉日和.

◆久しぶりの早朝歩き読みを小一時間ばかり筑波大方面へ.同伴書は:磯辺勝『江戸俳画紀行:蕪村の花見,一茶の正月』(2008年1月25日刊行,中央公論新社[中公新書1929], ISBN:978-4-12-101929-5).与謝蕪村の前まで100ページほど読む.「俳味」とはいったい何なんでしょ.そのあたりの感覚はようわかりませんな.松尾芭蕉の俳画がとても堅苦しいぞ.一方,松岡青蘿が描く〈のらねこ〉の構図はふっと力が抜けてよろし.

◆『サボテンの花ひらく』の続き —— 作者のイェンス・ペーター・ヤコブセン(Jens Peter Jacobsen: 1847-1885)について.ヤコプセンの自然主義派文学者としての側面は,日本語の紹介記事(→たとえば Wikipedia)から知ることができる.彼は38歳という若さで結核のために夭逝してしまうのだが,遺された文学作品はデンマーク王立図書館(Det Kongelige Bibliotek)のサイトからリンクされている.また,〈Project Gutenberg〉には,英訳された『Mogens and Other Stories』が載っている.さらに,彼は多くの歌詞も遺していて,同国の世界的作曲家 Carl Nielsen が音楽をつけているものもある(→サイト).

しかし,もう一つの顔である,植物学者にしてダーウィン主義者としてのヤコブセンについては,少し掘り進む必要がある.16歳(1863年頃)でコペンハーゲン大学に入学し,植物学を専攻した.とくに,淡水性藻類が専門で,大学に提出した論文は金賞を受賞したという.そのような自然科学のバックグラウンドがあればこそ,ヤコブセンの自然主義派(かつ無心論者)としての文学活動が成り立ったのだろうとデンマーク語版のWikipediaには書かれている.

ヤコブセンが,デンマークでのダーウィン進化論の普及に貢献することになるのだが,その契機の一つはヴィルヘルム・メラー(Vilhelm Møller)が1870年に創刊した月刊誌『Nyt dansk Maanedsskrift(New Danish Monthly)』に,ダーウィン進化論に関する論考を数多く寄稿したことだった.ヤコブセンの手になるそれらの記事は〈Darwin Online〉に引用されている.そして,ヤコブセンの没後,メラーが編者となって『Darwin hans liv og hans lære(ダーウィン:その生涯と学問)』(1893年)という論文集が刊行された.

ダーウィニズムに関する執筆活動と並行して,ヤコブセンはチャールズ・ダーウィンの著作のデンマーク語訳をも手がけた.Aarhus Universitetのサイト〈Darwin i Denmark〉を見ると,彼は1872年に『種の起源』を翻訳出版し(『Om Arternes Oprindelse』),さらに1874-5年には『人間の進化と性淘汰』の訳業(『Menneskets Afstamning og Parringsvalget』)を完成させたという.ダーウィンのふたつの主著を翻訳したということだけでも十分な貢献と言えるだろう.

ヤコブセンの文学作品のうち主要なものはかつて日本語にも翻訳されたらしいが,現在ではそのほとんどは入手困難だ.しかし,シェーンベルクの〈グレの歌〉の原作となった『サボテンの花ひらく(En Cactus springer ud)』は,その全訳が〈プロジェクト杉田玄白〉の正式参加作品としてオンライン公開されている(鷺澤伸介訳,最終改訂2008年2月9日).実にありがたいことだ.

ヤコブセンが弱冠21歳のときに手がけた小説『サボテンの花ひらく』は未完に終わった習作だが,その作中劇のひとつとして「グレの歌」が含まれている.ヴァルデマール王とトーヴェ姫をめぐるデンマーク中世の実話をベースにして,ヤコブセン自身の自然主義的思想をもそこに付け加わって成立したという.たとえば〈グレの歌〉の第3部に登場する語り手(Sprecher)による歌い語り(Sprechgesang)は,ヤコブセンの nature writing のような歌詞と,すでに現代音楽に足を踏み入れつつあったシェーンベルクの音楽という時を越えた協力のたまものなのだろう.

—— ヴァルデマールとトーヴェの物語は,そのうち『』の連載記事に登場することになる.

◆きのうから久しぶりにデンマーク語の辞書をめくっているのだが,デンマーク語のテキストはインターネット経由でいくらでもアクセスできる.しかし,基本図書であるデンマーク語の辞書はなかなかいいものがない.数年前に日本語のデンマーク語辞典を買ったことがあるのだが,語彙集を越えない内容だった.学部学生の頃に,神保町の北沢書店でとても古いデンマーク語辞書を古書で買った:Johs. Magnusse, Otto Madsen og Hermann Vinterberg『Dansk-Engelsk Ordbog, anden omarbejdede udgave』(1919年刊行,Gyldendalske Boghandel - Norkdisk Forlag, Kjøbenhavn).出版後90年近くになる今でもなお現役の辞書として重宝している.

マイナーな言語から日本語への辞書となると,たいてい「大学書林」から刊行されていることが多い.ただし,価格がとんでもなく高いのが難点だ.日本語という条件をはずせば,選択肢はかなり増えることもある.しかし,そういう弱小言語辞書は日本での入手が困難だったり,取次店経由で結局高くついてしまったりする場合がある.その国に行く機会があるときに買って送るというのが今でもベストだと思う.

◆そろそろ生態学会大会の講演準備をしなければならないな —— と心づもりだけはできているのだが,行動がまったく伴っていない…….

◆それにしても,花粉だらけの週末だ.明日はもっと暖かくなるそうだ.

◆本日の総歩数=11350歩[うち「しっかり歩数」=7624歩/67分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.3kg/+0.5%.


7 maart 2008(金) ※ 年度末雑用後半戦&突発的書評

◆いつも通り午前4時半に起床.曇り.気温プラス0.8度.冷え込みなし.

◆ここ数日,明け方の研究室ではシェーンベルクの〈グレの歌〉が響き渡っている.ヴァルデマール王のように神をもおそれぬ呪いのことばを吐きまくっている,というわけではないのだが,救済されない王と家来の亡者たちがやり場のない怨念とともにグレの岸辺をあてどもなく行軍するというストーリーはいまの気分に響きあうものがある.

この行軍シーンでは木琴が実に効果的に使われている.こういう管弦楽での木琴の役回りは基本的に“死の舞踏(Totentanz)”を演じていて,亡者の骸骨がかたかた鳴る音を模しているという.サン=サーンスのその名も〈死の舞踏〉という作品での木琴のパッセージは昔から有名だが,他にもこの〈グレの歌〉やプッチーニの歌劇〈トゥーランドット〉での木琴は明らかに“死”のイメージがつきまとう.

西欧音楽での木琴の歴史をさかのぼったサイトをのぞいてみると,上の連想は16世紀の中世からすでにあったことをうかがわせる:

Im bekannten “Totentanz” von Hans Holbein dem Jüngeren aus dem Jahre 1523 ist das Xylophon als Instrument mit Todessymbolik zu sehen. Auf dem Gemälde spielt ein Totenskelett während eines Umzuges auf einem tragbaren Xylophon. Der Xylophonklang symbolisiert somit das Klappern der Knochen. Dies ist die erste bekannte Darstellung eines Xylophons auf europäischem Boden.
「ハンス・ホルバイン(ジュニア)が1523年に描いた有名な〈死の舞踏〉の絵を見ると,木琴という楽器が死のシンボル(Todessymbolik)であることがわかる.この絵では,骸骨が木琴を携えて練り歩いている.ここでの木琴の響きは骨がカタカタ鳴る音をシンボライズしているのだ.これが木琴という楽器がヨーロッパに登場したことを最初に示した絵である.」

なるほどね.こういう図像学の影響は永く永く持続する.

◆朝から春らしくないもくもくした雲が空に浮かんでいたが,午後になってしだいに晴れてきた.

◆さて骨がカタカタいう前に,奥歯をガタガタいわされるのはかないまへんので,現実に戻ることにしよう.きのう提出した個人業績報告にさっそく“修正意見”が付けられた.のろのろと訂正するとともに,講習会などの報告も出せとのことなのでさらに7件分,紙にして100ページほど増えることになった.ものすごい紙資源の有効利用だなあ.すでに午後2時だ.

しかし,まだ終わりはしない.今度は「表彰・国際貢献・技術指導・学会活動」に関する報告をエクセルのファイルで出せとの御下命だ.へいへいとちくちくつくり始めたが,統計コンサルタント業務が何十件もあり,転記するだけで疲れてしまう.けっきょく,午後4時過ぎまでかかって書類をつくり終え,即座にメールで送ってしまう.

—— こういう年度末の苦渋は早くケリをつけてしまいたい.そーしたい.しかし,まだ続きがある.いったん登録した個人業績内容を再び別の書式で書き出して,最終的な書式にそろえなければならないという.このそびえ立つ非効率性には壮大なものがある.

◆突発的書評顛末 —— 午後3時過ぎ,池袋方面から「1ページ空白ができたので,瞬発的に書評原稿を送れ」との編集長指令がトツジョ下される.即座に:野中健一『虫食む人々の暮らし』(2007年8月30日刊行, NHK出版[NHK Books 1091], ISBN:978-4-14-091091-7 → 目次書評)の書評文を打ち返す.間髪入れずに,編集長から「おお!」という簡単の声が.ほどなく,雑誌の版元から「書評の校正ゲラをファクスしますので,すぐチェックしてください」との電話がかかってきた.午後4時前にファクスを手にする.ざっと見て問題なし.息つくヒマもなく池袋当てに,修整1ヶ所を連絡して,これにて校了とする.午後4時半,すべて終わった.電光石火だ.

◆『サボテンの花ひらく』 —— 〈グレの歌〉の出典は,デンマーク自然主義派の作家イェンス・ペーター・ヤコブセン(Jens Peter Jacobsen)の小説『サボテンの花ひらく(En Cactus springer ud)』(1868)だ.シェーンベルクは,ヤコブセンのドイツ語訳全集に所収されたこの小説のストーリーに基づいて,〈グレの歌〉という拡大五管編成の大曲を10年がかりで1911年に完成させた.手元にある総譜をめくると,40段を越えるパート譜がまるでパイ生地かミルフィーユのように上から下までぎっしりと積み重なっている.しかし,ぼくの関心はシェーンベルクではなく,むしろ原作者のヤコプセンに向かっている.ヤコブセンは,作家にして進化論者というふたつの顔をもっている.彼の経歴はなかなかおもしろいな.

◆夕方から夜にかけて,小雨がぱらついたが,すぐ止んだ.この週末はさらに暖かく春めくらしい.

◆本日の総歩数=6808歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.2kg/−0.9%.


6 maart 2008(木) ※ 「おお,小さな赤いバラよ……」

◆午前4時半起床.気温マイナス2.7度.冷たく乾いた大気の中の朝焼けは原光(Urlicht)のごとし:

O Röschen rot!
Der Mensch liegt in größter Not!
Der Mensch liegt in größter Pein!
Je lieber möchte ich im Himmel sein!

日々,極楽浄土ならぬ憂き世のしがらみに絡めとられる運命なのだ…….

◆朝から快晴.午前11時の気温は9.0度.風もなく暖かな日和.昨日格闘した会計関連書類を“紙”で用度係に出さないといけないのだが,今日はそれどころではない.

◆魑魅魍魎の巣窟か —— 今日のタスクは改訂された「研究成果登録フォーム」にしたがって,今年度の個人業績を報告することだ.締切は今月18日なのだが,タイミング悪く14〜18日は福岡に出奔している.だからその前にケリを付けておかないといけない.しかし,ワードとエクセルのオンパレードでしかもファイルと“紙”の二本立てで出すというやっかいなことになっている.このシステムを構築した側でないと正体がわからないようになっている.というか,今回の業績評価システムの全貌はまだ完成していないということだ.次に何が闇から出てくるかは定かではない.にもかかわらず,入力だけは急っつかれている.

まず,論文や発表に関する“紙”報告から手をつける.各アイテムごとにエクセル罫線書式の表紙をつけて提出ということなのだが,いちいちエクセルに入力するのは非効率の極みだ.したがって,氏名など最低限の共通事項のみ記入したシートを一枚印刷し,それを数十枚コピーしてから,すべて“手書き”で記入して提出することに決めた.こういうことは決めた者の勝ちだ.しかし,アイテムごとにいちいちコピーしたりする手間は省くことができない.午後はずっとその作業にかかりきりになる.午後4時半にやっと終了.論文の別刷やらコピーやら要旨の出力やらを計200枚近く並べて,アイテムごとに束ねる.壮大な時間と紙のムダにちがいない.

—— うん,まあ,とにかく出してしまおう.それで解放されてしまおう.今日提出した総数は31件.厚さにして3cmほどになった.次は,「その他のアイテム」に関して,エクセルファイルでの申請というタスクが待ち構えている.それは明日明日.

◆地獄にホトケ.献本ならびにお供え本,ありがたくいただきます(Vielen Dank!) —— マイケル・ルース著[佐倉統・土明文・矢島壮平訳]『ダーウィンとデザイン:進化に目的はあるのか?』(2008年3月10日刊行,共立出版,本体価格3,800円,viii+370 pp.,ISBN:978-4-320-05664-0 → 版元ページ).Frans de Waal の“読み方”以外はまったく貢献できませんでした.ごめんなさい.原書は:Michael Ruse『Darwin and Design: Does Evolution Have a Purpose?』(2003年5月刊行,Harvard University Press,ISBN:0-674-01023-X [hbk] / ISBN:0-674-01631-9 [pbk] → 版元ページ).

もう1冊は,荒川清彦『京都駅物語:駅と鉄道130年のあゆみ』(2008年2月14日刊行,淡交社,本体価格1,800円,191 pp.,ISBN:978-4-473-03440-3 → 版元ページ).いまの近未来的高層駅ビルでもなく,“毒キノコ”が目印だった頃でもなく,もっと前の時代からの京都駅についての本.版元ページによると「在庫切れ」とのことですが,新刊早々,予想以上に売れまくってる?(誰が買うたはるん?)

ものごころついたときには,もっと平べったい京都駅の記憶があるのだが,そういう写真も載っているのだろう.この本,写真たくさんで楽しめます.平らな盆地には旧国鉄ではなく路面を走る市電が似合っていた.蹴上を越えて山科に行く京阪の路面電車も懐かしいが,勧進橋近くを走っていた市電が稲荷行きと中書島行きに分岐するあたりに元の実家はあった.伊勢湾台風で床上浸水の被害があった場所だ.

◆夕方のこまごま —— 福岡出張に伴う振替休日の申請.3月19日(水)と21日(金)に設定した.これで,福岡から帰還した週はぜーんぶお休みだ.

◆午後5時半にとぼとぼと帰路につく.

◆本日の総歩数=6412歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝△|昼○|夜△.前回比=+0.3kg/+1.4%.


5 maart 2008(水) ※ 年度末会計残務処理啓蟄大決戦絵巻

◆午前4時半起床.曇り.気温プラス2.3度.温度が高いわりにはしんしんと冷える.

◆あわただしい午前のこまごま —— 車検の日程調整,さくさく完了.3月9日(日)朝イチで入れて,翌10日(月)の夕方に引取りに行くことになった./午前10時,曇り.気温5.7度.やや肌寒いか./午前10時半から1時間弱,久しぶりの領域会議出席.改訂された個人業績評価システムへの入力についての説明を受ける.引くわぁ.コミットメント度さいてー.毎年変わる評価システム.そしてそのうち組織統合の大波がやってきて,また“ふりだし”に戻ることになる……./いずれにしても,オンラインで個人業績を入力していくという作業は手間ヒマだけはかかりそう.しかも,生態学会大会の直後が入力締切ということは,またまた前倒されることになるのでしょーか.日ごろから着実にやっておけばいいのだが,それができないから,いつも年度末にこーいう境遇になる./裁量労働制検討委員会の初顔合わせを早々にするための日程調整./交流センターとの共催企画は農環研役員会を通ったそうだ.

◆しかし,今日の“本務”はそーいうことではない.まずは,『』のゲラをチェックして,訂正箇所を連絡しないといけない.昼まではその作業に勤しむ.ちゃんと書いたつもりでも,ボロがボロボロと…….10ヶ所ほどの訂正点をメールで通知してこれで校了.

◆午後の大捕物 —— さて,本日仕留めるべきのたうつ大トドは年度末の会計残務.1年の間というまったく会計システムに手を触れずに放置して,年度の終わりになってばたばたとまとめて残務処理してしまうというワルイ習性がずっと染みついている.残高の確認も怠っていたし,どーしようもない.ただ,購入すべき物品はもう決まっているので,あとは型番だけ確定させればいいはずなのにそれがずっとできないでいる.午後はずっとその作業をしなければ間に合わない.

ということで,物品カタログと首っ引きで購入物品を選定し,毎年この時期になると“初心者”に戻ってしまう所内の会計入力システムにかじりつく.毎年操作しているはずなのに,毎年すべて忘れている.しかし,能率を下げるためにあらゆる努力を傾注しているシステムであることに変わりはない.たとえば,物品購入の「単位」(個・枚・箱・式 etc.)をひとつひとつ記入させる仕様になっている.しかし,鉛筆のように「本」と「箱」ではちがいますというような例外的なケース以外は不要な記入項目だろう.ぼくの場合,“本”だけは「〜冊」と指定しているが,それ以外の“非-本”はすべて「〜個」と書くことに決めている.パソコンだろうが机だろうがスティック糊だろうがぜーんぶ「〜個」でおっけー.

◆昼下りの中断的こまごま —— 某所にてプレゼンするためのヒミツ書類をつくれとのひそひそ話.簡略化された英文スライドが必要とのこと./音羽から電話あり.修正点は了承とのこと.『』連載の“大団円”をそろそろ考えないといけない時期になった.あと5回以内でケリをつけることにしよう./第1回裁量労働制検討会は,3月10日(月)13:15〜14:00,場所は3階第1会議室にて開催されることになった.それまでに,農研機構で採用されている裁量労働制についての勉強をしないと.

◆結局,会計残務処理は午後5時半までかかり,いただいた交付金をすべて有効利用させてもらうことになった.あふれかえっている本を収納するための,まずは本棚をたくさん買って集密的に整理することにした.これが年度はじめの大仕事だ.本棚と本でごく短時間で約50万円ほどの高額お買い物をしてしまった.残額はたった「3,072円」.めずらしくきれいに使い切ったな.

◆“買い物疲れ”で午後5時半にとぼとぼと帰る.昼間は感じないが,夕闇に包まれるとやはり寒い.

◆夜のブリューゲル本 —— ひさびさに新刊で森洋子のブリューゲル本:森洋子『ブリューゲル探訪:民衆文化のエネルギー』(2008年2月20日刊行,未來社,本体価格4,800円,8 color plates + 328 + iv pp.,ISBN:978-4-624-71086-6 → 版元ページ).著者は,これまで20年の間に,ブリューゲルの2枚の絵〈子供の遊戯〉と〈ネーデルラントの諺〉について,それぞれとても高くて厚い本を書いてきた:森洋子『ブリューゲルの「子供の遊戯」:遊びの図像学』(1989年2月25日刊行,未來社,本体価格7,500円,1 color plate + 478 pp.,ISBN:4-624-71052-5 → 版元ページ);森洋子『ブリューゲルの諺の世界:民衆文化を語る』(1992年1月20日刊行,白凰社[明治大学人文科学研究所叢書],本体価格8,500円,1 color plate + 670 + xxvii pp.,ISBN:4826200706).これらの研究書に比べると,今回出た本はもう少し気軽に読めるかもしれない.『ブリューゲルの「子供の遊戯」』を読んだときは,まさに“寓意酔い”してしまった.だから,より厚くて重い『ブリューゲルの諺の世界』は書棚に入ったままいまだに手が出せずにいる.

◆本日の総歩数=5831歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=−0.6kg/−1.0%.


4 maart 2008(火) ※ 花粉と黄砂であちこちホコリだらけ

◆午前4時40分起床.雨上がりの曇天.気温はプラス0.1度.昨夜の雨で,空中の花粉や黄砂がべたべたとへばりついている.定時的に霧吹きのようなシャワーが毎日あるといいのだが.気温は低め.かすんだような空模様.

◆午前のこまごま —— 『生物科学』ゲラは朝イチで返送しました./と思ったら,今度は『』第10回原稿のゲラが届いていた.明日昼までとの御下命だ.へへーっ./某質問への対応.やっぱりすべて公開されていた.関連URLとファイルの所在を連絡する./年度末の予算執行締切が近づいてきた.明日「5日」が最終日ということで,あれもこれもとじたばたする.といっても,自分の分はもうほとんどないので,鵜の目鷹の目をしてしまう…….

◆午後も曇りときどき晴れ.ゲラ読み続く.proofreading は最初にざっと読んだときにほとんどの“アラ”や“ミス”は見えてしまうものだ.じっくり読むと見えなくなってしまったり.

◆午後のこまごま —— 文藝春秋からまたまた進化本の“リーディング”をしてもらえないかとの依頼.目ざとくいい新刊をすばやく押さえようとしますねえ.ただし,この本の内容だと,ぼくよりはもっと目利きが都の西北におられます.即座に丸投げしてしまう.亮ちゃん,よろしく./福岡行を含む今月の出張伺数件と契約職員更新願だけは提出できた.しかし,所内会計関連の年度末大トドは暴れ放題だー.しかし,とにもかくにも明日中にケリをつけないと,会計システムが閉扉されてしまう.

◆近刊情報 —— サミール・オカーシャ[廣瀬覚訳]『科学哲学』(2008年3月25日近刊,岩波書店,税込価格1,575円,208 pp.,ISBN:978-4-00-026896-7 → 版元ページ).原書は:Samir Okasha『Philosophy of Science: A Very Short Introduction』(2002年7月15日刊行,Oxford University Press,£6.90,160 pp.,ISBN:0192802836 → 著者サイト版元ページ).原書の目次を見ると,科学哲学の適用例のひとつとして,生物学哲学が挙げられていて,「The problem of biological classification」というセクションが設けられている./テオプラストス[小川洋子訳]『植物誌1』(2008年3月近刊,京都大学学術出版会[西洋古典叢書・第IV期],税込価格5,145円,707 pp.,ISBN:978-4-87698-174-8 → 版元ページ).全3冊の第一分冊.

◆備忘メモ —— 大バッハの“復顔”.どー見ても,ただの“おっさん”やんか……:毎日新聞「「本物」のバッハの顔再現 独で公開 法医学技術を駆使」(2008年2月29日付).ほーほー;Berliner Morgenpost紙「So sah Johann Sebastian Bach aus」(2008年2月29日付).なるほど,スコットランドの女性法医学者が大バッハの頭蓋骨から復顔したと.;Die Welt紙「Erstmals Antlitz von Bach rekonstruiert」(2008年2月28日付).この記事がもっともヴィジュアルか.“おっさん顔”への復顔過程がとてもよくわかる.

◆本日の総歩数=9244歩[うち「しっかり歩数」=1671歩/16分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=−0.3kg/−0.3%.


3 maart 2008(月) ※ 桃の節句は予期せぬ春雷と“ホネ”

◆午前3時過ぎに起床.週明け早々の追い立てられ仕事があるので,研究所に直行する.東空低く禍々しき赤茶色の三日月が上りはじめる.気温マイナス1.2度.真っ暗な研究所内で,〈グレの歌〉をクラく流しつつ,呪いの言葉を吐き続けつつ,今日の朝イチで届けなければならない書類をちくちくと作る.午前5時前に文面をいちおう仕上げたので,えいやっと投げつけて帰宅する.よろしくよろしく.

◆こんな朝早くから“花粉”の野郎どもがもう飛び始めているようだ.午前8時前に修正したWordファイルをもう一度放り投げる.よろしくよろしく.これで,朝の一仕事はオシマイだ.午前10時半,日射し暖かく,晴れときどき曇り.風無く,気温は9.6度もある.

◆午前のこまごま —— 『生物科学』のゲラがもう届いた.しかし,返送〆切は明日の4日だ.余裕なく,さっそくチェック開始./生物地理学会評議員会の出席の返事を返す./とある塩基配列データを入手してほしいとの依頼を受ける.すべて登録されあるはずなので,問題ないとは思うのだが,確認します.

◆午後になってさんさんと日射しが.午後3時の気温は14.0度だ.“花粉浴”にはきっと適してるだろう.

◆午後のこまごま —— 遅れてしまったが,メーリングリストの雑用をすませ,月例アナウンスを流す.年度の変わり目は“死に体アドレス”が大量発生するシーズンだ.シズカに息絶えているアドレスはこまめに“モルグ”に送り込んでいます./予算消化をしろしろメールが飛び交う.今日の夕方5時が〆切だったりするが,ちょっとね…….

◆『生物科学』のゲラ修正と加筆を完了した.文章内容を勘案して,タイトルを少し変更し,要旨とキーワードを付記する.メールで池袋に送信完了:

【題名】「種」概念の光と闇:概念の分類ではなく,その出自をたどろう
【要旨】種タクソンの形而上学的地位と種カテゴリーの認識論については生物学と生物学哲学の領域をまたぐ論議が今なお続いている.われわれがヒトとして普遍的に有している認知心理的性向,とくに自然種(natural kinds)に関わる心理的本質主義を踏まえるとき,種問題の実りある論議のためには,そもそもそのような概念化が発生してきた起源,ならびに種と高次分類群の概念化をめぐる体系学史の文脈をつねに念頭に置く必要があるだろう.種問題を解決することはもともと不可能である.いかにそれとともに生き続けるかという選択肢しか残されていないだろう.
【鍵語】種,種概念,種問題,本質主義,分類思考,系統樹思考

—— 折り返し編集部から受領の返事があったので,これにてめでたく校了となった.『生物科学』59巻4号は今月中には発行されるだろう.実にめずらしく年度内にすべての号を発行することができそうだ.

◆ついに来ましたホネの本 —— ジャン=バティスト・ド・パナフィユー(著)・パトリック・グリ(写真)・グザヴィエ・バラル(監修)[小畠郁生監訳|吉田春美訳]『EVOLUTION 骨から見る生物の進化』(2008年2月21日刊行,河出書房新社,288 pp.,税込価格9,240円,ISBN:978-4-309-25217-9 → 版元ページ).おお,これはまた重量級だ.この大判正方形の“ゲシュタルト”は,かの Edward O. Wilson『Sociobiology』あるいは B. Hölldobler & E. O. Wilson『The Ant』を髣髴とさせるものがある.しかも,全編にわたって目にも鮮やかなモノクロームの“ホネ”だらけ.骸骨が生者のごとくポーズをとったりしているのは,まさに前々世紀の博物図鑑そのものだ.メメント・モリ.

◆午後5時前に研究所を撤収する.それまでの春の陽気から一転して,兇相の黒雲が北から押し寄せ,冷たい北風が吹き始め,雨もぽつりぽつりと.真っ暗になった西の空からは春雷が轟き,のち本格的に雨が降り始めた.

◆夜は頼まれ雑用が渦を巻く…….

◆本日の総歩数=6217歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.1kg/+0.4%.


2 maart 2008(日) ※ 満を持しての花粉大襲来で全面撤退

◆午前6時起床.春らしい晴天.明け方は寒かったが,日射しとともに急速に暖かくなり,今年初めて鼻がぐすぐすした.そろそろやばい季節になってきたぞ.

◆休日のこまごま —— 首都大学東京から次年度の非常勤出講に関する書類が「また」届いた.多過ぎるっ./週明け月曜の「午前8時55分」までに提出する起案書を思い巡らす(が,まだ手をつけていない.)./それよりも,3月5日〆切の予算残額の決済の方がたいへんかもしれない.

◆前日の続きで“崩壊本”ネタ —— 『Handbuch der biologischen Arbeitsmethoden』の国内所蔵状況を Webcat でちらっと見たところ,国内の大学図書館のいくつかにはあるらしいだが,コンプリートにもっているのは東北大学医学部図書館のみのようだ.少なくとも1938年までは刊行され続けていて,通巻で450号近い冊数に達している.執筆陣も1931年の「700名」から1938年には「900名」へと肥大化している.比類なく巨大な叢書だったことがわかる.なお,各分冊の販売価格は一律に「3ライヒスマルク(RM)」と記されている.現在でいうとどれくらいの価格なのだろうか.戦争やら恐慌が重なっていた時期なので,単純な換算は難しいのかもしれないが,仮に「1 RM」=「1,000円」と考えると,総冊数450分冊としてすべてを買い揃えるには,「450×3×1,000=1,350,000円」もかかることになる.個人購入よりは,大学などでの公費購入することを前提としていたものと思われる.

—— いずれにせよ,ワタクシが手にしている分冊は,巨大な“個物”のごくかぎられた“一部分”だったということだ.

◆昼過ぎに所用でちょっと外出しただけで,花粉症が一気に“開花”してしまった.困ったあ.

◆“熱血系”お酒の本 —— 上野敏彦『闘う純米酒:神亀ひこ孫物語』(2006年12月13日刊行,平凡社,270 pp.,本体価格1,500円,ISBN:4-582-82450-1 → 目次版元ページ).この本は新刊で出たという情報は得ていて,リアル書店で手にも取ったのに縁がなかった.はい,もちろん,埼玉の「神亀」の本です./山同敦子『愛と情熱の日本酒:魂をゆさぶる造り酒屋たち』(2005年11月10日刊行,ダイヤモンド社,302 pp.,本体価格1,800円,ISBN:4-478-96097-6 → 目次版元ページ).この本は知らなかったな.「十四代」,「奥播磨」,「磯自慢」,「王祿」などなどの有名どころががずらっと並んでます.

—— 読むより呑む方がいいに決まっているのですが,ま,なかなかそーもいかず,ささやかな代償行為ということで…….

◆週明けからは本格的な春の陽気となるそうで,花粉攻撃はさらに激化するもよう.

◆Hilary Kornblith 買い忘れ本 —— Hilary Kornblith『Knowledge and Its Place in Nature』(2002年8月1日刊行,Oxford University Press,ISBN:978-0-19-924631-1 [hbk] / ISBN:978-0-19-924632-8 [pbk] → 著者サイト 1 / 2).すっかり忘れてました.前著:Hilary Kornblith『Inductive Inference and Its Natural Ground: An Essay in Naturalistic Philosophy』(1993年4月刊行,The MIT Press, ISBN:0-262-11175-6 [hbk] / ISBN:0-262-61116-3 [pbk])は,たまたま手にして,その内容(とくに心理的本質主義と自然種に関する記述)に感動したあまり,『生物系統学』では詳しく引用したこともある.

—— アンテナの感度はいつも調整を怠らないこと.

◆本日の総歩数=4838歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.4kg/0.0%.


1 maart 2008(土) ※ 弥生の幕開けは「崩壊本」とともに

◆前夜の“深夜労働”の牛乳殺菌作業で牛に祟られたせいか,午前6時前まで寝過ごしてしまう.明るくなった外はよく晴れている.やや冷え込む.氷点下かな?

◆月初めのこまごま —— まずは当面の予定を書き出しという定例作業.“トド撃ち”リストを毎月更新している.弱小トドのみが仕留められ,巨大トドはさらにさらに大きくなっている.困った…….今月の大仕事のひとつは生態学会での発表準備.年度末の事務処理などなど微小トドたちがわらわらと早くも出現している./続いて,差し迫った交流センターの起案書を書き始めようとして,いきなりハングアップするワタシ…….しかし,昨夜,「月曜朝には簡単な起案書でOK」と農環研が一皮剥けたオトナの対応を示してくれたので,何とかなるかな.

◆ほぼ“崩壊”しつつある着便本 —— 今年はじめに注文してあったもう1冊の古書が Darmstadt の Antiquariat Dr. Götzhaber から届いた:

Emil Abderhalden (Hrsg.)『Handbuch der biologischen Arbeitsmethoden, Abteilung IX: Methoden zur Erforschung der Leistungen des tierischen Organismus, Teil 3: Methoden der Vererbungsforschung, Heft 6 (Lieferung 356)』(1931年刊行,Urban & Schwarzenberg,ISBNなし).タイトルをそれらしく訳すと,『生物学研究法ハンドブック・第9分野:動物研究の方法,第3部:遺伝研究の方法,第6分冊(通号第356号)』ということになるだろう.本書は,いまの日本にもよくある“講座本”的な性格の叢書の1冊らしいので,巻号を羅列するだけだとまったく味気なく見えてしまう.しかも,80年近く前の本なので,表紙と本体はもちろん剥離し,紙はすでに黄変してぼろぼろ,綴じもなかば壊れていて,かがり糸一本だけでつながっているところもある.“本”というよりは,むしろ“紙束”に近い.用紙も製本も崩壊寸前だ.落丁もなくドイツから届いたのがフシギなほど.こういう“崩壊本”は,パーツが“散逸”しないように,これからも封筒に入れて保管するしかないかもしれない.

しかし,ぼくにとってとくにこの号が関係するのは,本号前半100ページあまりを占めている植物系統学者 Walter Zimmermann の有名な論文「Arbeitsweise der botanischen Phylogenetik und anderer Gruppierungswissenschaften」(pp. 941-1053)が載っているからだ.Willi Hennig 以前の“分岐学的方法”の先駆とされるこの論文のコピーは,『生物系統学』を書きつつあった10年以上前にすで入手していたのだが,国内にほとんど所蔵されていないこともあって,「原本」がどういうものかはこれまで確認する機会がまったくなかった.だから今回初めて手にすることができたのは幸いだった.

Zimmermann の系統学方法論については,『生物系統学』の第3.3節(pp. 99-106)で論じているが,そこでは言及しなかったもうひとつの興味深い論点は,彼のいう「分類諸科学(Gruppierungswissenschaften)」についてだ.系統学と併置するかたちで,彼は「分類」を目的とする科学分野が複数あることに言及している.生物学に限定すれば,人為分類や類型分類がそれに含まれるのだろうが,冒頭に述べられている体系化(Ordnung)の一般論としてはもう少し広い射程を有していたようだ.植物学者である Zimmermann が動物学の分冊に執筆している理由もきっとそのあたりにあるのだろう.

◆もうひとつ気になったのは,この「Handbuch」はいったいどれほどの規模の叢書だったのかという点だ.Zimmermann が寄稿しているこの分冊(Lieferung 356)の後半は,動物遺伝学の章:Walther Schultz「Methoden zur Darstellung versteckter mendelnder Erbanlagen durch ihre Aktivierung ohne Kreuzung」(pp. 1055-1113)だ.この二つの章を合わせると170ページあまりの分量になる.で,この分冊は「第3部(Teil 3)」の6冊目なので,第3部全体では千ページを越える(実際ページはTeilごとに通し番号になっているのでこの点はまちがいない).さらに,この「第3部」が属する「第9領域(Abteilung IX)」は「第1〜8部」から構成されているので,単純計算で計八千ページとなる.さらにさらに,Handbuch全体は「第I〜XII領域」に分割されている.領域によって「部」の数は異なっているが,巻末の全体構成表から集計すると「部」の総数は70超だ.

以上から,この Handbuch 全体は(既刊分のみでも)七万ページを越える膨大な叢書ということになる.手元にある200ページほどの厚さの分冊が350冊以上ずらっと並ぶイメージだ.規模はぐっと小さいが,1970年代に出た共立出版の「生態学講座(黄緑本)」みたいなものを想像するとよいのだろう.表紙には「執筆者700名超の〜」と書かれているから,他の分冊も2名の執筆者がそれぞれ100ページほどの分量を書いているのだろう.

◆この Handbuch を統括した「Emil Abderhalden」なる人物はぜんぜん知らなかったのだが,戦前のドイツではかなり有名で有力な生化学者だったそうだ.しかし,一般的にはあまりいい意味で“有名・有力”だったわけではなく,今風にいえば実験データの“捏造疑惑”をもたれたり,第2次世界大戦中はユダヤ系研究者をパージしたりという前歴があったという.彼の伝記記事を見ると,この「Handbuch」については,「Volume 1-107(1929-1930)」と記されている.この「Volume」が「Lieferung」のことなのか,それとも「Teil」の総数なのかは判然としない.

—— そんなこんなの“崩壊本”はとりあえず頑丈な封筒に入れてしまっておくことにしよう.

◆昼ごろから曇り始めたが,また日が射してきた.北風こそまだ吹いているものの,季節はもう春ですな.砂ぼこりもぐっと春めいて(ごほごほ……).

◆本日の総歩数=4258歩[うち「しっかり歩数」=1600歩/16分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.1kg/−0.5%.


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