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Systematic Thinking
Diagrams in Taxonomy and Phylogeny
Nobuhiro Minaka
人生無根蒂、飄如陌上塵。
分散逐風轉、此已非常身。
落地為兄弟、何必骨肉親。
(陶淵明)
本書を書き進めるにあたっては,さまざまな著作や論文を広く捜しまわらなければなりませんでした.五年前に前著:三中信宏・杉山久仁彦『系統樹曼荼羅:チェイン・ツリー・ネットワーク』(2012年,NTT出版,東京 → コンパニオン・サイト)を出したときも,それに先立つ数年前から自称 “系統樹ハンター” として網羅的に図像ダイアグラムの蒐集に努めました.その “狩猟記録” は私のブログ〈archief voor stambomen〉でいまも公開中です.しかし,ここに上梓した本書は分類学や系統学だけではなく,統計学などまで包括する一般的なダイアグラム論を目標に据えたこともあり,新たなハンティングに励む日々が続きました.
データの視覚化や情報の可視化ということばを耳にするとき,いま流行のインフォグラフィクスの成果がまず思い浮かぶのも無理はありません.しかし,それらはダイアグラム論がたどってきた長い歴史のなかでは枝先に位置する “端点” にすぎないのです.私が本書で示そうとしたもっとも重要なことのひとつは,図形言語としてのダイアグラムの系譜には,現在ではもう忘れられたかもしれない “内点” としての試行錯誤が積み重なっているという点でした.私たちがいま当たり前のように使っているダイアグラムのひとつひとつが歴史を背負っていて,さまざまな試行錯誤の残された跡をたどることができるでしょう.
マニュエル・リマ[三中信宏訳]『The Book of Trees — 系統樹大全:知の世界を可視化するインフォグラフィックス』(2015年,ビー・エヌ・エヌ新社, 東京 → コンパニオン・サイト)の訳者あとがきで私はこう書きました.
「目は口ほどにものを言い,絵は文【ふみ】ほどにものを言う.本書『系統樹大全』を手にした読者は,われわれ人間が原初的にもっている視覚という感覚を最大限に利用して,肥大し続けるデータや情報を何とか把握し利用しようとする試行錯誤の歴史とその過程であまたのダイアグラムを生み出せた人間の想像力の豊かさに感銘を受けるだろう」(三中 2015, pp. 205-206)
本書で紹介したり言及したダイアグラムの歴史的事例はほんの一部にすぎません.数多くの先駆者たちが編み出したダイアグラムのうち,あるものは幸いにもユーザーを得て後代に継承され,またあるものはその後使われることもなく忘却の淵に沈んでいったことでしょう.
時代や地域や文化による条件や制約はさまざまであっても,ダイアグラムの有名無名の考案者たちは人間の思考を体系化するための努力を惜しみませんでした.「端点をつなぎ合わせる」・「部分から全体を推論する」・「既知から未知へと跳躍する」— 本書で繰り返し言及してきたこれらの体系化の基本は昔から今にいたるまで私たちの思考を支えています.見えないものを見えるようにするダイアグラムとそれらを生み出した先駆者たちのたどってきた足跡を振り返りつつ,私にとっての “狩猟” の旅路はまだこれからも続きます.
[三中信宏記:2017年3月31日]
得歡當作樂、鬭酒聚比鄰。
盛年不重來、一日難再晨。
及時當勉勵、歲月不待人。
(陶淵明)