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Statistical Mandala
An Introduction to Data Analysis and Abductive Inference
Nobuhiro Minaka
読者のみなさんがいま手にしている本書は,ワタクシのこれまで約30年間にわたる統計学高座をふまえた “講義録” です.大学はもちろん国や都道府県の農林水産試験研究機関そして民間企業など全国各地のお座敷に呼ばれるたびに,さまざまなお客さんを前にして統計噺をする経験を積んできました.その内容については,講義資料を受講者に配布したり,YouTubeで動画公開したことはありますが,一冊の本としてまとめて公開するのは本書が初めてです.
高座の幕が上がるまでにはまだ時間があるようなので,少しばかりお付き合いください.ワタクシが統計学の本を書いたのは本書『統計思考の世界:曼荼羅で読み解くデータ解析の基礎』が2冊目です(1冊目は2015年に羊土社から出した『みなか先生といっしょに 統計学の王国を歩いてみよう:情報の海と推論の山を越える翼をアナタに!』です).統計データ解析を本務とするワタクシにとっては,こういう統計学本を書くことは “オモテ” の仕事の一環として何となく期待されているのかもしれません.しかし,「オモテの人生」だけがすべてではけっしてないでしょう.誰しも多かれ少なかれ「ウラの人生」をひそかに生きるときもあるにちがいありません.少なくとも私は “オモテ” と “ウラ” の両面の研究者人生を長く続けてきました.
本書のような生物統計学の本は,ワタクシが想定する読者層である国や都道府県などの農林水産研究機関研究員のみなさんにもおおいに “役立つ” と自負しているのですが,農林水産省が求める “社会実装” なる曖昧模糊とした基準に照らせば個人業績としてはおそらく高くは評価されないでしょう.ワタクシの周りを見回しても,英語で原著論文を書くことには執着しても,本書のような日本語の単著を書くような研究者はほとんどいなくなっているのが実情です.自分の専門分野のアウトリーチのためにも,さらには科学研究のいまを周知するためにも,一般(の日本人)に向けて「本を書く」ことは「論文を書く」のと同等あるいはそれ以上の意義があると私は確信しているのですが,残念ながらそれはワタクシの周囲では共通認識ではないようです.
そういう世知辛い研究者の世の中にもかかわらず,ワタクシがほぼ毎年のように,役に立つ立たないに関係なく,日本語の本を出し続けてきたのは,“空気” をまったく読まない “天動説” の気質が昔からあったからだろうと思います.
あ,出囃子が聞こえてきました.みなさんとはきっと何かの縁があったにちがいありません.ぜひこの機会に統計学の世界を存分に堪能していただければ噺家冥利に尽きます.それでは,失礼して高座に上がらせていただきます.
[「まえがき — 高座の出囃子が聞こえてくる前に」と「いささか長めの謝辞 — あとがきに代えて」から抜粋加筆: 2018年4月6日]