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過去を復元する

最節約原理,進化論,推論


エリオット・ソーバー著[三中信宏訳]


勁草書房, A5判上製・336 pp.
ISBN:978-4-326-10194-8
本体価格5,000円(税込価格5,250円)
2010年4月20日第一刷刊行
版元ページ

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【目次】

 復刊によせて[エリオット・ソーバー] 1
 日本語版への序文[エリオット・ソーバー] 3
 序言 9
 謝辞 15

第1章:生物学からみた系統推定問題 17

  1.1 過去について知るためには 17
  1.2 パターンとプロセス 23
  1.3 対象と属性 31
  1.4 形質不整合とホモプラシーの問題 48

第2章:哲学的からみた単純性問題 59

  2.1 局所的最節約性と大域的最節約性 59
  2.2 2種類の非演繹的推論 63
  2.3 存在論としての凋落 74
  2.4 方法論としての批判 78
  2.5 ワタリガラスのパラドックス 82
  2.6 Humeは半分だけ正しかった 92

第3章:共通原因の原理 97

  3.1 表形学の2つの陥穽 98
  3.2 相関・共通原因・濾過 104
  3.3 存在論からの1問題 111
  3.4 認識論からの諸問題 117
  3.5 尤度と撹乱変数の問題 131
  3.6 結論 140

第4章:分岐学:仮説演繹主義の限界 143

  4.1 生まれ出る問題 144
  4.2 反証可能性 151
  4.3 説明能力 162
  4.4 最小化仮定と最小性仮定 167
  4.5 安定性 174
  4.6 観察と仮説の区別 176

第5章:最節約性・尤度・一致性 181

  5.1 攪乱変数による攪乱 182
  5.2 最良事例にもとづく2つの便法 190
  5.3 統計学的一致性 200
  5.4 なぜ一致性なのか? 207
  5.5 悪魔と信頼性 220
  5.6 必要性と十分性 225
  5.7 終わりに 236

第6章:系統分岐プロセスのモデル 239

  6.1 進化モデルへの要望 239
  6.2 一致は近縁の証拠である 246
  6.3 スミス/コックドゥードル問題 254
  6.4 歴史への回帰 258
  6.5 形質進化の方向性 263
  6.6 頑健性 272
  6.7 モデルと現実 281
  6.8 付録:3分類群に対するスミス/コックドゥードル問題 284

 訳者あとがき —— 「かみそり」を系統学的に鍛えること[三中信宏] 298
 訳者解説 —— 余波:「かみそり」をさらに鍛えること[三中信宏] 305
 参考文献 319
 索引 327

   → 旧・蒼樹書房版コンパニオンサイト


【口上】

本書は,原著者による寄稿「復刊によせて」(2ページ)と訳者解説「余波:〈かみそり〉をさらに鍛えること」(13ページ)を前後に補筆しましたが,それ以外の本文はいくつかの細かい修正箇所を除いては1996年に刊行された旧・蒼樹書房版と同一の内容です.生物系統学の科学哲学的ならびに統計学的な側面を詳細に論じたモノグラフである本書は,原書の出版(1988年)からすでに20年以上の年月が経過し,旧版の翻訳が出てからも15年が経過しています.しかし,現在でも本書は系統推定論の論文では繰り返し引用・言及されており,この研究分野の基本文献のひとつであることはまちがいありません.

今なお本書が読まれるべき価値のある本であることは,今回の復刊に際して新たに書き下ろした訳者解説の中で述べました.その結論部分を下記に記しておきます:

系統推定のための方法論をめぐる論議はまだまだ尽きません.私たちは確立された系統推定法をすでに手にしているわけではなく,改良途中のツールを暫定的に用いているに過ぎないのです.系統推定における最節約法・最尤法・ベイズ法の取捨選択は,個別の状況ごとに計算シミュレーションに基づいてそのバフォーマンスを比較検討すると同時に,各方法の背後にひそむ一般的な仮定が何かを探り出すという両方向からのアプローチが今でも必要なのだろうと結論せざるを得ません.このような現状を考えるときソーバー教授が20年も前に書いた本書はその後の論争の進展を予期させる内容を含んでおり,生物学哲学・生物系統学・統計科学にまたがって今なお参照される基本文献であることに異論はないと考えます.

精度の高い系統樹の推定は,現在,基礎から応用にわたる生物学のさまざまな問題を考察したり解決するときに不可欠となっています.そして,系統推定の理論と手法は,進化学・統計学・数学・コンピューター科学の境界領域においてさらに大きく発展しています.2004年3月に蒼樹書房が廃業して以来,この訳本を入手することはきわめて困難でしたが,系統推定論の理論的基盤とそれをめぐる科学哲学的な論議に関心をもつ多くの読者が,今回の復刊を契機に本書を手にされることを著者と訳者は願っています.


Last Modified: 15 December 2017 MINAKA Nobuhiro