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日録2007年5月


31 mei 2007(木) ※ 月の終わりに本郷での高座に上がる

◇午前4時半起床.雨ときどき曇りたまに晴れ間という,形容し難い空模様だ.北寄りの風が入るものの当然のことだが湿度は高い.

◇早朝のこまごま —— Hennig XXVI 講演の共同発表者との連絡メール.「分解」ではなく「生産」だったか……(シロをクロと言ってはいけない)./ ICCシンポジウム関係者への連絡メール.講演タイトルと順番の確認./ 今日の集中講義の持参機材とスライドおよび配布物の確認.

◇系統学近刊情報 —— Barry G. Hall『Phylogenetic Trees Made Easy: A How-To Manual, Third Edition』(2007年6月刊行予定, Sinauer Associates, ISBN:978-0-87893-310-5 [pbk] → 版元サイトコンパニオン・サイト).2001年の第1版,2004年の第2版に続く第3版がもうすぐ出る.頻繁なバージョンアップは,本書が系統樹作製“マニュアル本”としての地位を確立している証しだろう.目次をざっと見ると,この第3版で紹介されているのは,MEGA / ClustalW / PHYML / PAML / MrBayes …… あれっ,PAUP* は? ※ひょっとしたら,本書の earlier versions はお蔵入りさせない方がいいのかもね.

◇午前9:07 発の TX 快速で根津に向かう,同じく東大に出勤する途中の野内さんに千代田線内で遭遇したので四方山話などしばらく.根津で鷲谷さんに偶然遭遇.地上に出ると青空から小雨がぱらぱらと降ってきた.朝日堂で昼食のパンを買い,隣りの高崎屋で〈宝壽〉(広島:藤井酒造)の純米大吟醸生原酒を一升買う.これは今週末の東京農大・昆研の新歓合宿用.

◇車中読書 —— ウェンディ・ムーア(矢野真千子訳)『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』(2007年4月30日刊行, 河出書房新社, ISBN:978-4-309-20476-5 → 目次)を読了.ジョン・ハンターの自然哲学について書かれた第15章がおもしろかった.長年にわたって彼が蒐集してきた動物の標本を展示する博物館をやっと開館したのだが,ハンターの博物館の特徴のその展示形式の「配列」にあったという.

ハンターいわく,これは当時の素人コレクターがよくやるような名品珍品のでたらめな配列ではなく,地球上の生き物の根本原則を説明するために慎重に配列した教材だということだった.(p. 309)

原書を確かめていないのだが,ここでいう「配列」が「arrangement」に対応する訳語であったとしたら,無色な語感とは裏腹にここではそうとう重要なことが述べられているはずだ.たとえば,チャールズ・ダーウィンの『Notebook C』(1838)にはこう書かれている(Dov Ospovat 1981 のダーウィン伝にこの点についての詳しい論議があったはずだ):

We now know what is the natural arrangement, it is the classification of 〈arrangement〉 relationship; latter word meaning of descent.(155:p. 286)

実際,ハンターは1790年代には早くも生物の「descent」についての考察をめぐらしていたらしい:

ハンターはさらに,その変化に段階の跡,いまで言う進化の跡を見ようとしていた.「同一種におけるすべての品種を詳しく調べて,どの品種とどれだけ似ていてどれだけ離れているか,その距離を割り出していけば元祖の動物が確かめられるはずだ」と.(p. 318)

しかし,1793年,長年の持病だった心筋梗塞の発作により,彼が急死した後,実に70年もの間,彼の論考は公にされなかったそうだ.ハンターの最後の弟子であるウィリアム・クリフトは,ハンターの手になる大量の遺稿を苦労して管理した.そして,クリフトの娘と結婚し,ハンテリアン博物館を活動の場としたリチャード・オーウェンの編集によりジョン・ハンター論文集がようやく日の目を見たのは,『種の起源』が出版されてから2年後の1861年のことだった.

ジョン・ハンターは公私ともにお騒がせな人生を送ったが,生物学史の流れからもう一度見直すと,その思想と業績はたいへん興味深い.したがって,本書の解説は場違いだったね.もうひとつ,邦訳書によくあることだが,本書もまた注と索引が削られているようなので資料的価値はない.だから,もっと知りたい読者は原書を買い求めましょう.

—— 日経サイエンスの本書の書評原稿は早めに仕上げます.

◇昼前にまたまた晴れてきたが,これで油断をしてはいけない.傘は持ち歩こう.農学部事務で出張旅費に関する押印をする.時間まで弥生キャンパスの隠れ部屋でごそごそと仕事をする.午後1時前に農学部1号館に出向き,2階の生物測定研にて岸野さんに珈琲を淹れてもらった.定時を少し過ぎて講義開始.今日は前半が系統推定法,後半が統計学概論.午後4時半過ぎまでしっかり講義した.流した紙芝居スライドは計168枚.午後5時に根津の坂を下る.またまたおかしな空模様になってきた.北千住17:28発の区間快速に乗る.途中,守谷あたりでスコールのような雨が降っていた,つくばに帰り着いたら曇り空.北寄りの風.

◇げ,げんこう…….

◇本日の総歩数=8342歩[うち「しっかり歩数」=1267歩/11分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=−0.7kg/−0.8%.


30 mei 2007(水) ※ ああ,今月もまた月末がやってきたぞ!

◇午前4時20分起床.薄曇り.気温15.9度.予報では雨になると言っているが,午前9時頃に晴れ間がのぞく.北の風が通り抜ける.

◇夜明けのPSA報告 —— 日本科学哲学会の最新号のニューズレター No.37(25 May 2007発行 → pdf)に,網谷祐一さんが「アメリカ科学哲学会2006 年大会に参加して」という報告を書かれている(pp. 1-3).国際会議はその場に参加してこそ価値があると思うが,世界各地で開催されているさまざまな国際会議に行くことはとうていできるわけがない(“三中”が“五中”になろうが“十中”になろうがダメだろう).だから,国際会議の「参加報告」を読むのは,その場に居合わせれば感じられたであろう熱気を疑似体験できるまたとない機会だ.網谷さんの PSA 報告によると,「生物学哲学」のセッションはなおも急成長を遂げているらしい.そーかそーか.でも,ローカルな「〜学哲学」はその機会さえあればいろいろと出芽してもおかしくないはずだけど.

おもしろかったのは,数理生態学者 Robert H. MacArthur の進化観についての話.ぼくは,R. H. MacArthur & E. O. Wilson『A Theory of Island Biogeography』(1967, Princeton University Press)を修士のときに読んで以来,MacArthur はナチュラル・ヒストリー的な生態学を脱却して,モデル・ベースな解析的生態学を目指したのだと思っていたのだが,今回の PSA では必ずしもそうとは言えないのではないかという発表があったそうだ.どういう見解なのか関心がある.

◇9時頃にいったん晴れた空はまた曇って,霧雨が降り出した.微妙にめまぐるしく変わる天気.

◇午前のこまごま —— 農環研の中期計画に関わる個人達成目標についての報告をしないといけない./ 東大の専攻研究会議の提出資料もあったりする……./ 研究室の図書貸出に対応.統計学の本は農水系のどこの研究機関もあまり持っていないらしく,よく外部借出依頼がくる./ ICCへシンポジウム演者に配布してもらう資料を送る./ 明日の東大での講義用ハンドアウトをつくり,原稿をプリントアウト./ 10月の京大基物研シンポジウムの registration をすませた.うっかり忘れていた.

◇『ソビエト大百科事典』での進化学関連事項 —— 調べものをしていてたまたま遭遇したサイト〈Полнотекстовая библиотека〉の中に,『БСЭ』こと『ソビエト大百科事典』が全文読めるサイトが入っていた:〈Большая советская энциклопедия〉.『БСЭ』の最も新しい第3版のサイトは別にあるのだが,どうやら有料らしい.それに対して,上のサイトはその前の第2版を公開したもののようで,オンラインでの閲覧上とくに何の制約もなく全文を読むことができる(ただし事典の全項目がオンライン公開されているかどうかは確認していない).

まずは,進化学関連の項目をいくつかチェックしてみたのだが,項目によってはいずれも記述がとても詳細にわたり,旧ソビエトの政治状況を反映したところもあったりして,おもしろい.今回ついばんでみたのは:《Charles Robert Darwin(Чарлз Роберт Дарвин)》,《evolutionary theory(Эволюционное учение)》,《phylogenesis(Филогенез)》,《systematics(Систематика)》,《taxonomy(Таксономия)》,《species(Вид)》,そして《speciation(Видообразование)》.

紙版の『ソビエト大百科事典』は,第2版(1950〜58年刊行)が「53巻」,第3版(1970〜81年刊行)が「32巻」というとてつもなく浩瀚な百科事典らしい.日本で買えば20〜30万円はするようだ.こういう事典がオンライン化されていることの恩恵は大きい.

—— いずれにせよ,キリル文字が苦にならない方はぜひどーぞ.

◇午後のこまごま —— 午後1時から線虫の分子系統推定についてのコンサルタント.来週(6月5日と8日の午後1時から),PAUP* on Windows による説明をすることになった./ 東大の集中講義用のメーリングリストを開設した./ cse.niaes.affrc.go.jp が死んでいる…….

◇〈さなぶり〉関連雑用 —— 理事長以下,農環研「VIP」たちに召還メールを書く.ついでに,生態系領域内にも“オルグ”のメールを.アルコールなしの昼休みイベントなので,どーぞお気軽にご参加ください.>農環研のみなみなさま.

◇午後2時過ぎに降り出した雨は本降りになり,そのまま夕方から夜へ.気温は20度を少し下回るくらいか.

◇夜は原稿,げんこう〜〜.※元気出せっ.

◇本日の総歩数=5461歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.6kg/+0.2%.


29 mei 2007(火) ※ いやが上にも爽やかに原稿を書きまくる……

◇午前4時20分起床.ここ数日,自発的起床のタイミングがきれいにそろっている.これが内在的バイオリズムでしょうか.晴れて北の風が吹き,気温はさらに低く10.4度とは.高原の朝の涼しさ.

◇早朝の研究所にて,突発的に発掘作業をする.気を抜くとすぐに“紙の山”ができるので,すべて捨てて(昨年の所内会議録とか研究所や組合の広報とか,ぜ〜んぶ捨てまくる),その下から必要な資料類を引きずり出した.所要時間およそ30分.

◇東大の講義資料としてまだ十分ではないのは,歴史生物地理学・分子系統地理学・系統的多様性の3分野.最終回の講義に間に合うように,スライドをつくることにしよう.今日はその時間がまったくないので,前準備のみでおしまいにする.

◇午前のこまごま —— 駒場冬学期の統計学講義の日時を確認して,他の予定とバッティングしないように早々と調整する.まずは“人間犬”となる受診日を動かす(10月29日に移動完了).次に,京大基物研の湯川シンポジウムが重なるのだが,これは優先順位からいって講義を休講にするしかないだろう(1月末に補講をする)./ 進化学会関連:1) 生科連の会費請求書が届いたので事務局に転送する.2) 進化学会ニュースのゲラが届いた.いくつかの箇所を処理してあとはもう大丈夫だろう.3) 木村財団への授賞式日時の連絡をした.

◇旧東独の分類学哲学本 —— Rolf Löther『Die Beherrschung der Mannigfaltigkeit : Philosophische Glundlagen der Taxonomie』(1972年刊行, VEB Gustav Fischer Verlag Jena, ISBNなし → 目次).ぼくが大学院にいた頃,この本をずいぶん探したのだが,国内の大学・研究機関にはまったく所蔵されていなかった.たまたま,故・太田邦昌さんに仲介で,東京経済大学の広井敏男氏の蔵書にあったこの本をお借りできたのは幸いだった.

Gerhard Fels の博士論文(1957)を引用したのは,ぼくが知っているかぎりこの本だけだ.でも,やたらめったら「マルクス-レーニン主義がぁ〜」とか「唯物論的弁証法によればぁ〜」という東独的スローガンのぶちかましに辟易させられる.しかし,この本について Systematic Zoology 誌上で詳しく紹介した G. C. D. Griffiths によれば,「そういう政治的メッセージはことごとく削りとって読めばいいのだ」そうだ(文体一括変換すればいいかも).なお,Hennig の最後の単行本である Wiili Hennig『Aufgaben und Probleme der stammesgeschichtlicher Forschung』(1984年刊行, Verlag Paul Parey, Parey, ISBN:3-489-61534-4)には Löther の著作が上記を含めて2冊引用されていた.

◇備忘メモ —— 〈CIPRES〉:Cyberinfrastructure for Phylogenetic Research.速攻で,人・金・組織が立ち上がるお国柄.

◇昨日に比べて,今日は爽快度が低い.午前10時の気温は20度ちょうど.正午に21.2度.日射しが照りつける.歩き読み —— ウェンディ・ムーア(矢野真千子訳)『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』(2007年4月30日刊行, 河出書房新社, ISBN:978-4-309-20476-5 → 目次)の第14章まで.王室の御典医にもなったこの時期が壮年期のハンターにとって人生最高のときだったのだろう.しかし,多忙な生活の合間に狭心症の発作が起こったりする.

◇少し雲が湧いてきた午後のこまごま —— 「さなぶり」実行委員会(13:15〜14:00).実行委員長になってしまった.会費とメニューについて話し合う.あとは人集めだけ./ その後,2時過ぎから1時間弱は,〈形態測定学講義〉の輪読33回目.第12章「Disparity and variation」の続き(pp. 310-314).複数の主成分が張る部分空間の差異をテストする方法について.線形代数の教科書を見ながら再構成した方が早いかもしれない./ 『生物科学』編集会議に出席の返事をする.6月4日(月)16:00〜18:00,立教大学にて(懇親会あり)./ ICCシンポジウムに関する事務連絡あり.ポスターが今月末に仕上がるそうだ.どういう会になるのか,まだアモルファス状態(個人的に)./ 『蛋白質核酸酵素』誌から書評依頼:ショーン・B・キャロル(渡辺政隆・経塚淳子訳)『シマウマの縞 チョウの模様:エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源』(2007年4月30日刊行, 光文社, ISBN:978-4-334-96197-8→版元ページ).ちょうどいい機会なので,読んでしまおう.

◇ひょっとしておもしろいかも —— 長野仁・東昇(編)『戦国時代のハラノムシ:『針聞書』のゆかいな病魔たち』(2007年4月30日刊行, 国書刊行会, ISBN:978-4-336-04846-2).戦国時代に著された鍼灸術の教科書『針聞書』に彩色図として描かれた63の“病魔たち”をカラー復刻した解説書だ.フルカラーで1,000円とはとても安い.にょろにょろした蛇のような“蟲”が多いが,ときどき“腹中蟲”のような妖しい姿のものも,あるいは『稲生物怪録』に登場してもおかしくない奇妙奇天烈な蟲もいる.

◇本日の総歩数=11982歩[うち「しっかり歩数」=5878歩/51分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.2kg/+0.8%.


28 mei 2007(月) ※ 涼しい風と強い日射しは高原にいるみたい

◇午前4時に目が覚めてしまう.晴れ.気温12.5度.北東からの風が吹き渡り,涼しいというか肌寒いほどだ.この季節にこういう朝を迎えられるのは喜ばしい.午前10時の気温は15.7度.陽光は眩しく,風は爽やか.週末のジゴク真夏日は跡形もない.

◇午前のこまごま —— 『本』の修正ゲラはスキャンしてpdfで束ねて音羽にメール返送した.これでおしまい.次回の締切は6月20日だ./ 『生物科学』編集会議は6月4日(月)16:00〜18:00,立教大学にて.行けるかな./ プリンタのシアンが払底した.感光体・トナーカートリッジ・廃トナーボックスをすべて一新する./ 東大講義用の参考文献リストをつくる.“鉄の tree-builder” となるために読むべき本あれこれ.この集中講義は隔年で開講しているが,2年経つと,入れ替えるべきアイテムが必ず数点はある.新しい本が出るたびに基本的に古いのからはずしていくようにしている.

◇先週,研究所に届いていた本 —— Gerhard Fels『Wissenschaftstheoretische Untersuchungen zur Grundlagenploblematik der Phylogenetik』(1957年刊行, Rheinische Friedrich Wilhelms-Universität Bonn, ISBNなし → 目次).本書は,生物系統学の哲学的基盤をめぐる論考で,ボン大学哲学部に提出された博士学位申請論文である.たまたま運よくドイツの古書店から入手できた1冊は,ボン大学に附設されている「教育学研究所(Institut für Erziehungswisseschaft)」の蔵書からの処分品だった(備品番号「6268」,蔵書番号「Va 241」).この本は,ドイツ語圏の理論体系学書(Rolf Löther 1972『Die Beherrschung der Mannigfaltigkeit : Philosophische Glundlagen der Taxonomie』VEB Gustav Fischer Verlag Jena)に引用されたのを見たことがあるが,それ以外ではほとんど言及されることがない.おそらく一般の商業出版物の流通ルートには乗らなかったと思われる.タイプ打ちの原稿をそのまま製本したような装丁だ.本論文の学位申請者 Gerhard Fels に対する口頭試問日は「1956年1月25日」と記されている.学位取得後の著者がどのような研究活動を続けたかはよくわからない.(同名のもっと若手の経済学者の方が名前が売れているようだ.)

著者の経歴はともかく,1957年という第二次大戦後の比較的早い時期に,こういう内容の研究がなされていたことは注目されてよいだろう.全体をブラウズしてみると,Adolf Naef の観念論形態学,Walter Zimmermann の系統学,そして Adolf Remane の比較解剖学など,この時代の主要な生物学者の理論が論じられているようだ.しかし,Willi Hennig にはまったく言及されていない.このあたりがとても不思議なのだが,時期的なことを考えると Hennig (1950)『Grundzüge einer Theorie der phylogenetischen Systematik』はすでに流通していたはずで,内容的にも本書で取り上げられてしかるべきだろうに,その形跡がまったくない.同様に,Adolf Remane『Die Grundlagen des natürlichen Systems, der vergleichenden Anatomie und der Phylogenetik I』の初版(1952年)と改訂版(1956年)にも Hennig はぜんぜん登場しない.意図的に無視されたとはちょっと考えられない.

ひょっとして Hennig (1950) のサーキュレーションは,とてつもなく悪かったのではないだろうか.第二次世界大戦が終わるまでにすでに完成していた Hennig の原稿が1950年まで出版されなかった理由は,戦後の極端な紙不足に他ならなかったと本人が書いているからだ.とすると,たとえ敗戦5年後に出版が解禁されたとしても,その印刷部数は極端に少なかったという可能性がある.ドイツ国内であっても,それを読むべき人が手にできなかったかもしれない.あるいは,当時すでに東西に分割されてしまったドイツ固有の書籍流通事情でもあったのか.いずれにせよ,言及されるよりも言及されなかったことの方がよけいに関心をそそる.思いつくままに挙げると,1950年代前半の時点で,本書の著者 Gerhard Fels や Adolf Remane は「言及しなかった」グループ,一方,Sergei Kiriakoff や Kraus Günther は「言及した」グループに属している.その違いが生じた原因は何なのか.

◇晴れた正午の気温は17.6度,風が冷たく感じる.歩き読み —— ウェンディ・ムーア(矢野真千子訳)『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』(2007年4月30日刊行, 河出書房新社, ISBN:978-4-309-20476-5 → 目次)の第12章まで.王立協会の講演会の席上,ハンター兄弟はついに仲違いしてしまう.気性の激しいことで定評のあるふたりだけにその兄弟喧嘩は手のつけようがない.ハンター夫人のサロンには作曲家ハイドンも出入りしていたとのこと.ほー.

◇いただきもの —— 鳥飼久裕(解説)・上田秀雄(音声)『聴き歩きフィールドガイド・奄美』(2007年5月30日刊行, 文一総合出版, ISBN:978-4-8299-0127-4).「サウンドリーダー」(旧スキャントーク)を用いて鳥のさえずりや蛙の鳴き声が聴ける.さらに,QRコードを使って,携帯電話でも聴ける!というのがウリかな.スキャントークは一時期製造中止になっていたが,サウンドリーダーとして復活していたとは知らなかった.これで水木しげる原画集の音声がもう一度再現されるかも.

◇午後のこまごま —— さなぶりの実行委員になった.明日29日(火)の午後1時から実行委員会あり./ 進化学会ニュースに掲載予定の書評原稿をミニ訂正する./ 〈POY 4 beta〉と〈Treefinder〉の最新版をダウンロードする.でも,講義用にはちょっと使いづらいかな./ 進化学会記念事業本についての連絡.締切間近./ 東京農大・厚木キャンパスでもはしかが流行しそうな気配らしい.このパンデミック,誰かモデル化してみたら?

◇気温低し.涼しい風が通る夜のこまごま —— 駒場の冬学期に開講される「生物統計学」の時間割確認.木曜日の4限です./ 生物・環境工学専攻の英文説明文のチェック.いろいろあります.ほんとうに./ 講義スライドをつくっているうちに,最近【種】に関するトークをしていないことに気づいた.定番スライドをもう一度よみがえらそう.歴史生物地理学のスライドも比重が低過ぎる.これまた心がけてオモテに出すように.

◇もう本当にあとがないぞ,原稿! かくかく,書く書く.

◇本日の総歩数=10708歩[うち「しっかり歩数」=4396歩/38分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=−0.8kg/−1.2%.


27 mei 2007(日) ※ 今日も暑くてほぼ夏眠状態で生き延びる

◇午前4時半起床.晴れ.朝日とともに夏の日射しが照りつける.今日も暑そうだ.

◇集中講義のための系統推定ソフトウェアの準備 —— 講義中にデモをする予定のソフトウェアをそろえて,対応する説明スライドをつくる.もともと時間が限られていることもあるし,受講生側が「メイキング・オヴ・系統樹」に対してどれほど関心をもってコミットしてくれるか不確定な部分がある.だから,できるだけ“教育的”なソフトウェアを紹介しながら,将来的にもしこの研究分野に足を踏み入れる機会があったときのための「参道」への導きをしようと思う.

講義では PowerBook を使うので,Mac用のプログラムをずらりと —— MP/ML/NJの全般的なデモ用には,もちろん〈PAUP* 4.0b10〉を使う.そして,PAUP* で計算された系統樹の使いまわしには,〈MacClade 4.08〉と〈Mesquite 1.12〉を.分子進化モデル選択には〈Modeltest 3.7〉を併用する.ベイズ法は定番の〈MrBayes 3.1.2〉でしょう.系統ネットワークのデモは〈SplitTree 4〉にしました.共進化などの tangled tree の解析は,ちょっと古いけど〈TreeMap 2.0〉が今でも役に立つだろう.今回の講義では“F1レース”は予定していないので,Ratchet とか〈T. N. T.〉には言及しないつもり(Bogen / Balance は宣伝のみ).

そして,系統推定ソフトウェアへの「ポータルサイト」としては,〈PHYLIP Home Page〉の中にある〈Phylogeny Programs〉を挙げることにしよう.

—— スライドをつくりこみながら,各回の講義の時間配分やら内容を頭のなかでイメージする.

◇強烈な夏の日射しが射し込む.正午過ぎに一瞬だけ外に出る用事があったがクラクラしてしまって早々に逃げ戻る.

◇水出し珈琲とともに読書 —— ウェンディ・ムーア(矢野真千子訳)『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』(2007年4月30日刊行, 河出書房新社, ISBN:978-4-309-20476-5 → 目次)の第10章まで.やっと半分を過ぎた.ジョン・ハンターの外科医としての治療や研究は順調に進んだ.自らを人体実験の俎上に乗せたというハンターの淋病・梅毒に関する研究は,後に『性病全書』(1786)としてまとめられ,この分野を基礎づけることになった(淋病=梅毒という誤った判断をしてはいるが).small pox(天然痘)の対語「great pox」が梅毒を指していたとは知らなかった(p. 171).それだけ広く蔓延していたのだろう.ヒトに対する人工授精の成功,帝王切開の実施など,さらには歯学研究での最初の学術論文を出し,偽薬(プラシボ)を用いた初の対照試験を行っている(p. 174:その割にはサンプルサイズに無頓着).

その一方で,彼の後半生はしだいに博物学への傾斜を強めていく.王立協会会員になってからは科学者コミュニティの中心的役割を果たした.大航海時代の探検博物学にも強い関心を示し,ジェイムズ・クック船長率いる船団に乗った盟友ジョセフ・バンクスからの異国の動植物の到来を待ちこがれる.考えてみれば,ジョン・ハンターはカール・フォン・リンネと同時代の人だ.生物分類に対する彼なりの観念(pp. 197ff.)もその時代精神の中で捉える必要があるだろう.なお,かの「ドリトル先生」のキャラクターはほかならないハンターがモデルになったと書かれている(p. 193).さまざまな意味で彼が当時のロンドンでの有名人だったことは間違いない.

—— 特筆すべきは兄ウィリアムズとの微妙な関係である.著者は:「ハンター兄弟は,一部重複しながらも異なった世界に属し続けていて,当時はそこそこの友好関係を保っていた」(p. 185)と書いている.

◇夕方になって,北東風が強く吹き始めた.雲もやや多いようだ.夜になって急に気温が下がってきた.『本』連載原稿のゲラ読み完了.ちゃんと「11行」削りました.タテ書きとヨコ書きではやっぱりだいぶ感じがちがうな.確か,タテ書き用のエディタがあったはずだが,あれを使うと“にわか作家”的な書き心地に浸れるのだろうか.それとも,やはり「ぺら」に書かないとダメかな.

◇本日の総歩数=1443歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+1.4kg/+2.1%.


26 mei 2007(土) ※ 梅雨のはしりからいっぺんに真夏日へ急転

◇午前4時20分起床.夜明け前.高層階を通る風は今は涼しいが,日中は晴れて暑くなりそうだ.予報では関東は軒並み真夏日になるらしい.

◇早朝のこまごまをすませてから,筑波大方面への徘徊に出発.早くも初夏の強い日射しが照りつけ始めたが,ペデの街路樹づたいに日陰をたどりつつ北を目指す.この週末は,筑波大学の「宿舎祭」があるらしく,早朝から学生たちが会場のセッティングやら出し物の準備をしている.異形の山車が引かれていくのを目撃したが,アレが大学構内を練り歩くのだろうか.いずれにせよ,今日は天気がよいのでイベントにはもってこいだろう.また,たまたま三重大学の知人に構内道路でばったり遭遇したのだが,菌学会の大会がここで開催されているそうだ.

◇歩き読み —— ウェンディ・ムーア(矢野真千子訳)『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』(2007年4月30日刊行, 河出書房新社, ISBN:978-4-309-20476-5 → 目次)の第6章まで.読み進むにつれ,主人公ジョン・ハンターが「元祖・解剖男」のように見えてきた.夜陰に乗じて人間の屍体を館に運び込んでは腑分けをする.老若男女を問わず,身分の貴賎を問わず,ひたすら解剖しつくす態度は,確かに現代人の目から見れば,彼がある種の“マッド・サイエンティスト”のように映ってもしかたがないところはあるだろう.しかし,1700年代という時代の文脈の中に置いたときには,それとはちがう位置付けができるのではないか.この伝記の著者は,主人公につねに焦点を当てつつ叙述をするという方針で書き進めているようだが,この主人公を不可避的にとりまいていた学問的・文化的・社会的・宗教的な状況についてもっと書いた方がよかったのではないだろうか.

当時の医学の世界では,内科医>外科医というステイタスの上下があることは知っていたが,外科学と床屋とが決別した後は,さらに外科医>歯科医という新たな上下関係が生じたそうだ.ほかに,リンパ系をめぐる功績争いやら,“手仕事”のわざを盗んだ盗まれたの諍いなど.

◇昼前,〈竹園珈琲〉にてウォータードリップ珈琲を飲み,ついでに「スーパー・マンデリン」と「ラグリマ・アンティグア」の豆を買う.ジョン・ハンターを第8章まで読み進む.ハンターが行った歯の移植は,抜かれる方も植え付けられる方も想像すらしたくない“拷問”だったのだろうなあ(本書で描かれる外科的な手術や治療はいずれも麻酔なしだった).興味深いのは,ハンターが医学とともに一般的な博物学にもしだいに関心を広げていったという点だ.スコットランドの学的伝統が間接的にせよ影響を及ぼし始めたということなのだろう.「存在の連鎖」につながれたり,前成説ではなく後成説を支持する見解を表明したりしたハンターがここにいる.

◇気温はどんどん上がっていく.日の高いうちは引き蘢った方がよさそうだ.

◇午後いっぱい,東大の講義スライドの準備に追われる.2回分をまとめてやってしまおうと思ったのだが,あわせて300枚ほど揃えたところで力尽きた.これくらいあればもう十分かもしれないが,ついたくさん,あれもこれもと.今回の講義ではソフトウェアのデモにも力を入れたいのだが,そのための説明スライドをつくった方がいいだろう.

◇夕方になって東寄りの風に変わった.マジでケリをつけないといけない案件がふたつ,いやもっとあるか……(く).

◇本日の総歩数=11489歩[うち「しっかり歩数」=9354歩/81分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−1.0kg/−2.2%.


25 mei 2007(金) ※ 5月最後の金曜は内外から仕事が打ち寄せる

◇午前4時40分起床.曇って北東の風が強めに吹く.気温17.1度.午後8時過ぎにざあっと雨が降り出す.予報では一日中雨模様とのこと.

◇不在中に堆積していたことども —— カマジン本の図版キャプションのゲラが郵送されていた.30ページ!(汗)もある.「大至急で校正を」とのこと(大汗).“上空”からブラウズすると……(激汗).とにもかくにも,先を見渡さずに,足元だけ見て一歩ずつ進むことが肝要だ.くれぐれも遠くを見てはいけない./ 〈Hennig XXVI〉のプログラムがオンライン公開されている(→ pdf:2.9MB).今回は無脊椎動物の系統推定シンポジウムが大きい.あとはアラインメントとか.一般講演とポスターがいつもより多いのは,ニューオーリンズの「Bourbon Street」に惹かれたか?(ちがうか).海外出張の手続きをそろそろ始めないと./ 関西圏大学非常勤講師組合(編)の報告書『大学非常勤講師の実態と声 2007』のhtml版(日本語英語)が公開されている.pdf版はすでに公開済みだ.

◇午前のうちに雨足はさらに強まり,梅雨のはしりを思わせる.10時半の気温は16.9度.昨日までの(真)夏日にはならないようだが,湿度が高いので蒸し暑い気がする.

◇午前のこまごま —— 堆積雑用の一掃処分:住宅調査票の提出./農環研の「さなぶり」は6月19日(火)昼休みに./葉山セミナーのお礼メールを出す./東大の専攻研究会議の配布資料提出要請.去年に準じるということでいいでしょ./同じく大学院公開ガイダンスへの出席要請./ 進化学会大会関連の事務連絡メールが飛び交う.

◇昼休み.さらに強い雨が降り続いているにもかかわらず,dp へ食料調達に出かける.傘をしっかり差していたにもかかわらず濡れ鼠になる.

◇備忘メモ —— 「クマムシ・グッズ」が人気を集めているそうだ→たとえば〈Aizu工房〉とか./ 個人的には,〈目黒寄生虫館〉のミュージアム・ショップ(→こちら)にも強く惹かれるものがある.サナダムシTシャツとか,アニサキスのキーホルダーとか,「多種多様な商品を取り揃えております」という強気な姿勢がとても好ましい.

◇午後のこまごま —— 編集中の進化学会ニュースに掲載する大会案内についての連絡がさらに激しく飛び交う.でも,そろそろ落ち着いてきたかな./ 線虫の分子系統に関するコンサルティングは5月29日(火)午後1時からです./ しばらく前から,Mac OSX のアイコンが方々で“壊れ”始めた.最初のうちはギリシャの廃墟を思わせるビミョーな壊れ方を楽しんだりもしていたのだが,そのうち異形のアイコンが出没したり,アイコン擬態が生じたりし始めたので,治療法にしたがってファインダーの性根を叩き直した.要するに,ライブラリ/caches にある「com.apple.LaunchServices.UserCache.csstore」を捨てて再起動すればよい./ 「はてな」で ISBN-13 への対応が正常に作動するようになった.しかし,ハイフンを抜かないと,ブログが対応する ISBN のリストに登録されない(検証済).もう一声の改善が望まれます.

◇夕方になってもなお降り続く雨.これはもう「梅雨」というしかない.湿度高し.床がべたべたする.気温が高くても湿度が低ければ許容できるのだが.夜もずっと雨模様だったが,午後10時を過ぎてやっと止む.蛙の合唱,南風が涼しい.

◇本日の総歩数=11535歩[うち「しっかり歩数」=5966歩/53分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.5kg/+0.7%.


24 mei 2007(木) ※ 五月祭間近の東大農学部で集中講義第1回目

◇午前4時半起床.薄く雲がかかってはいるが朝から晴れている.昨日は真夏日だったが,今日も暑そう.北東からの風が入っているので体感的には涼しいが,気温はすでに15.8度もある.先が思いやられる.

◇久しぶりに研究所に顔を出し,今日の集中講義用のハンドアウトをコピーする.リッチな総研大はすべてカラーコピーにして配布したが,貧しい農環研はモノクロでございます…….何人の聴衆が来るのかわからないので,とりあえず30部のハンドアウトを作製.正規の受講生以外のオーディエンスが予想される.

◇昨夜から今朝にかけて,今日の集中講義用のスライドをパワーアップしている.枚数にして葉山セミナーよりも30枚近く増え,180枚になった.新しいスライドを挿入したり,並べかえてしおりを付け直したりする.全3回,毎回午後4時間の講義なので,これくらいの“紙芝居”がないとね.でも,実は“紙芝居”がなくても,噺はできなければならないし,高座はそうあるべきだと思う.

◇朝から日射しがとても強い.午前9時41分の TX 快速で根津に向かう.車中読書:ウェンディ・ムーア(矢野真千子訳)『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』(2007年4月30日刊行, 河出書房新社, ISBN:978-4-309-20476-5 → 目次).日経サイエンス社から送られてきた書評用の本を今朝やっと研究所で手にした.第2章まで50ページほど読む.ジャーナリストらしい文体で,読み手を引き込む力がある.以下,書評を書くための備忘メモ:主人公ジョン・ハンター(1728〜1793)は,外科医にして解剖学者.彼は「ドリトル先生」のモデルであり,その住処は「ジキルとハイド」に描かれた舞台となった.ジョンとその兄ウィリアムはスコットランドからロンドンに上京し,中心部に外科医学校を開設し,のちに解剖学博物館(後の The Hunterian Museum)となる.実際に患者や死体を“切る”という仕事に携わる外科医は,文献中心主義の他の医者(本書では「内科医」と書かれている)と比べて,その社会的地位は低く,床屋-外科医はほぼ同義語だった.

出身地がスコットランドというところがポイントだろう.ヨーロッパ大陸からの生物学・解剖学の思潮はイングランドではなく,北のスコットランドにまず根をおろしたからだ.そして,スコットランドの大陸的な「哲学的博物学」の伝統はジョン・ハンターに明らかな刻印を刻んだと予想される.死体泥棒の話は他のスコットランド出身の医者・博物学者にもあったし,ハンター兄弟が公開解剖に用いたという「観客席つき手術室」は,大陸にあった「解剖学劇場」をもちこんだものと推測される.解剖学に特化したハンテリアン博物館が後にリチャード・オーウェンの牙城となったことを本書では言及しているのだろうか.種痘接種を確立したジェンナーはハンターの一番弟子だったそうだ.

◇10時半にたどりついた東大の弥生キャンパスは,「気分はもう五月祭」の雰囲気で,今週末のための下準備が進んでいるらしい.明日からは本格的に五月祭の会場設営が始まるだろう.3号館の教務課に出向いて,いつもの調子で「出勤簿に押印を」と声をかけると,連携大学院の教員は“内輪のひと”なので,出勤簿も押印もないとのこと.自分の所属意識がくらっと揺れる一瞬.葉山でも,まりまりから「三中さんは農環研でいったい何をしているの?」と真顔で訊かれたのだが,多くの知人はそう感じているのかもしれない.ひとりでたくさんの所属をもつようになると,いちいち説明するのがいささかめんどうになる.

—— 弥生の隠れ家に潜り込んでしばし休息をば.いずれにせよ,研究室があるというのは幸いなことだ.

◇13:00から16:15まで,集中講義.受講生は生圏システムの院生が8名.ほぼ予定通りの進捗だったが,しゃべり過ぎてたいへん疲れた.次回は系統推定の方法についての講義だが,統計学の入門トークもある予定.またスライドを用意しまくらないと.時間的には「200枚」あればちょうど1回分になる計算だ.

◇帰りに根津駅で東大オケの団員らしき弦楽器を背負った一団とすれちがった.駒場から来たのか.今日は木曜だから,第二食堂で全奏なのだろう.サマコンも近いのでがんばってねー.接続がよかったせいで,午後6時前にはもうつくばに帰り着いていた.北東の風が吹いて涼しい.

◇夜のこまごま —— ICCシンポジウム演者からのメール.Christopher Alexander の「パタン・ランゲージ」と久しぶりに再会することになるのかな.せみらてぃす!/ 『本』連載原稿のゲラpdfがメール送信されてきた.月曜までに返送.「11行」削るべし.

◇本日の総歩数=10726歩[うち「しっかり歩数」=2349歩/22分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.3kg/−0.9%.


23 mei 2007(水) ※ 初夏の陽気の葉山から本郷へと転戦する

◇午前4時過ぎに起床.とてもよい天気で,気温はすでに高い.遠景に見える葉山の海が朝日にきらめく.

—— 宿泊棟を出て,総研大の周囲をしばし早朝散歩する.湘南のリゾート地として極上だと思うが,ここで日々の学究・学生生活を送るというのはどんな感じなのだろう.静かで邪魔が入らないのであれば物書きにとってはたいへん望ましい執筆環境だが,研究環境としてもプラスになるのだろうか.

◇一昨日,越中の殿から久しぶりに電話があった.5年前に論文を載せた日本ポパー哲学研究会(編)の『批判的合理主義』は,いったいどれくらいサーキュレートしたのだろうかとの問合せ.あの論文集は著者への印税もまったくなく,ソフトカバーであの価格でしたから,ひょっとしたら1,000部くらいしか刷っていないんじゃないですかと答えた.実際,最近ではリアル書店でこの論文集はほとんど目にしないし,そろそろ品切れも近いんじゃないだろうか(重版は……ムリちゃうかなあ) いずれにせよ,目次情報は〈leeswijzer〉に置いておこう:日本ポパー哲学研究会(編)『批判的合理主義・第1巻:基本的諸問題』(2001年8月30日刊行, 未來社, ISBN:4-624-01156-2 → 目次)/ 日本ポパー哲学研究会(編)『批判的合理主義・第2巻:応用的諸問題』(2002年8月30日刊行, 未來社, ISBN:4-624-01161-9 → 目次).

◇8:14 に湘南国際村センター始発のバスに乗り,逗子へ.そのまま東京に出ればいいものを,つい出来心でふらりと隣りの鎌倉駅で下車する.前にここに来たのはいったいいつのことか.夏の日射しの中,鶴岡八幡宮を昇降する.暑いなあ.そのまま駅に戻り,東京へ.Oazo の丸善で,Brian W. Ogilvie『The Science of Describing : Natural History in Renaissance Europe』(2006年6月1日刊行, The University of Chicago Press, ISBN:0226620875 → 目次)を見つける.淡路町の北谷食堂で特盛すば.朝食がなかったので,つい.東大農学部に向かう.これは真夏日かも.暑過ぎる.午後1時から専攻教員会議.しかし,議題があまりなかったのと,昨日の専攻ソフトボール大会でおつかれの皆々さまは,肉体労働とその後の大量アルコール摂取が祟って気力と体力がもう続かないようすだ.午後2時半を待たずにあっさり終了.最短記録かもしれない.

◇車中読書本 —— 港千尋『文字の母たち』(2007年3月23日刊行, インスクリプト, ISBN:978-4-900997-16-5).読了.フランス国立印刷所に保存されている歴史的な活字と活版印刷そしてそれに携わる人たちを写し撮った写真集.“松葉”のごとくばらまかれたり,しっかりと板に組まれたりする活字,五百年も前の字体や活字が保存されているという.本書に登場する人たちはいずれも「最後の〜」とか「ただひとりの〜」と形容されている.もうすぐ姿を消す印刷文化の末期の姿ということだ.とりわけ,非ヨーロッパ系の活字(アラビア文字から漢字まで含む)を専門的に扱う“オリエンタリスト”たちの技はすごい.

◇つくばに帰り着いたのは午後4時半のこと.久しぶりにメールボックスを覗いたら,スパムがおよそ2,500通ほど溢れかえっていた.それ以外は,進化学会関連の大切なメールといつものくだらないメール.せっかく葉山で浮世離れできたのに,これじゃあ元の木阿弥じゃん.あまりにあほらしいので,即決でクビを切り落とす.成仏してねということばもきっと届かないだろうけどね.間髪入れず“理学部2号館”から,ぼくの死刑判決文の「文面が非常に洒脱でイキだった」との思わぬお褒めの言葉をいただいて,いやあ照れますなあ.ほかならないこの御方にそう言われるのは嬉しいな.ども.

◇今日はとても疲れた.遠距離移動とこの暑さ.関東一円が「真夏日」になったそうだ.明日も暑いとか.暑いさなかに集中講義をするというのは“懲役刑”みたい.しかし,明日の午後1時〜5時までは,東大で「保全生態学特論」という名の系統学の集中講義をする.4番教室なので“農学部1号館”近くの方はぜひどーぞ.ハンドアウトを人数分用意しないといけないのだが,いったい何人来るのでしょ?

◇本日の総歩数=16008歩[うち「しっかり歩数」=6430歩/59分].全コース×|×.朝−|昼△|夜△.前回比=未計測/未計測.


22 mei 2007(火) ※ 今日は葉山の丘の上で出張高座を務める

◇午前4時起床.夜明け前で外はまだ暗い.雲がやや多いかったが,だんだん晴れてきた.気温は10度そこそこか.涼しい.こまごま.その後,旅支度を整える.

◇昨夜のうちに152枚のスライドからおよそ50枚あまりをピックアップしたオーディエンス配布用のハンドアウトをつくった.これで今日のセミナーの準備は万全[だろう].車中であたふたすることはない[にちがいない].葉山では他の仕事をしよう.

◇日経サイエンス誌から書評依頼あり —— 新刊で出たばかりの:ウェンディ・ムーア(矢野真千子訳)『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』(2007年4月30日刊行, 河出書房新社, ISBN:978-4-309-20476-5 → 目次)の書評をとのこと.ちょうど買おうと思っていたところだったので,渡りに舟だ.お引き受けします.John Hunter 自身についてはほとんど知らないのだが,彼が設立した博物館(Hunterian Museum)で19世紀半ばにかの Richard Owen が「The Hunterian Lectures」という比較解剖学に関する連続講義をしたことで間接的にその名を覚えている.ジョン・ハンターは解剖学者にして外科医だったわけだが,そのような“手仕事”としての経験科学が彼が生きた18世紀のイングランドでどのような位置を占めていたかが読み取れれば読む甲斐があるというものだ.

そういえば,いま読んでいる山本義隆『一六世紀文化革命(1)』(2007年4月16日刊行, みすず書房, ISBN:9784622072867 → 目次版元ページ)には,実験や観察という“手仕事”は15〜16世紀のヨーロッパ社会では低く見られていたが,その“低さ”は国によってちがいがあるようなことが書かれていた.上巻の200ページまでにかぎっては,イタリアやドイツ,フランスが主たる論議の対象で,イングランドやスコットランドについてはほとんど触れられていなかった.

◇総研大での出前講義 —— 9:07 の TX 快速に乗って東京へ.10時少し過ぎに東京駅着.時間に余裕があったので,八重洲地下街の〈Aroma〉でサイフォン・コーヒーとミックスサンドで早めのランチをすませる.隣りの〈リカー・ハセガワ〉をざっと流す(Signatory Vintage の「Clynelish」[un-chillfiltered]の15年ものがセールになっていた).古書店〈R. S. Books〉に,庄司淺水『印刷文化史』(私家特装版[180部],半革装)というとてもとても魅力的な古書があったのだが,ぐっと耐えましょう.耐えるんだ.

11:53の横須賀線逗子行きの列車に乗り込み,終点まで62分間揺られる.総研大の葉山キャンパスに行くときは必ず北鎌倉と鎌倉を通過してしまうのだが,今度は“途中下車”したいな.終点の逗子で降りて,数分の待ち時間もなく湘南国際村行きの路線バスに飛び乗る.湘南国際村センターにたどりついたのは午後1時過ぎのことだった.ぽかぽかと暖かく,瞬時に芯までまったりしてしまう.ここでもまた時間があったので,センターのロビーにある喫茶店でエスプレッソなど.スライドの最終調整をする.これでもう大丈夫.明後日の東大での講義スライドもこれで完成した.一石二鳥.

◇午後2時過ぎに,総研大の研究棟にある長谷川眞理子研究室へ.まりまりいるところ,必ず本が天井まで山をなす(敬服).今日の葉山セミナーの司会をしてもらうことになっている.

◇セミナー会場は図書館をはさんだ向こう側にある共通棟の1室だ.高原リゾート地にあるホテルのような内装と広さ,そして何よりも「大学」なのに人口密度が低い(あとで聞いたところでは研究費はとてもとても潤沢だという[うらまやしい]).午後3時からセミナー開始.30名あまりのオーディエンスあり.専門は,生物学・物理学・科学史・考古学などばらばらだという.また,この葉山セミナーは学生の必修科目のひとつにもなっていて,トークの後に履修学生は演者と質疑をすることが要求されているらしい.

1時間40分ほどで150枚のスライドを全部お話しして,学生からの質問を受け,その後一般の参加者[教員]からの質問タイム.午後5時過ぎに場所を研究棟の“飲み会コーナー”に移し,お茶とピザで午後8時前まで,さらにディスカッションは続く(総研大の学長さんも登場).その後,車で“下界”に降りて,〈夕凪亭〉でローストチキンをいただく.これは美味です.午後9時過ぎに再び総研大に戻り,本の城まりまり研にてアンティークグラスと白ワインであがり.午後11時前に宿泊棟に倒れ込む.

—— 今日は目一杯のメニューだった.

◇本日の総歩数=7651歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜×.前回比=−0.6kg/−1.1%.


21 mei 2007(月) ※ 巡業の前日になお走りまわるワタシって

◇午前4時半起床.空は真っ青.しかし夜明けの気温は7.8度まで下がった.涼しいというか肌寒い.その後,気温は急上昇.午前11時には20.2度になった.快晴で,日射しも紫外線も強い.夜から明け方にかけてと日中との落差が大き過ぎる.

◇朝のこまごま —— 進化学会の大会企画に関するメールを出す.そろそろ確定させないといけない./ 来月6月16日のICCシンポジウム(詳細下記)の講演者と関係者に自分の講演要旨をメール送信する./ 東大・生圏システムの事務に旅費に関する返事をメール返信./ 進化学会創立10周年記念事業『進化のすべて(仮)』の構成案(ver. 4)に目を通す.斎藤さんに早く返事しないと.

◇公示(其の壱) —— ICC開館10周年記念セッション・シリーズ Vol.2連続シンポジウム:メディア・テクノロジーと生成する〈知〉.第2回:「アーカイヴが紡ぐ未来:再連結する情報」.パネリスト:石田英敬・中谷礼仁・三中信宏.日時:6月16日(日),14:00〜17:00,場所:ICCギャラリーA.※〈ICC〉サイトではまだ公開されていない.

◇公示(其の弐) —— 総研大〈葉山セミナー〉「進化系統学の先端で甦る歴史研究:サイエンスとヒストリーを隔てる壁は幻だった」.というわけで,お近くの方はどーぞ.5月22日(火)午後3時〜6時.総研大(葉山)共通棟103・104セミナー室です.

◇いわゆるひとつの「ビニ本」か? —— 港千尋『文字の母たち』(2007年3月23日刊行, インスクリプト, ISBN:978-4-900997-16-5).某ジャンルの写真集と同じ扱いを受けているのか,どこの書店の店頭でもしっかり“ビニール”が巻かれている本.しかし,題材はけっして艶かしい写真集ではなく,フランスの古い印刷所とそこに保存されている歴史的な活字の写真集.ガラモン書体のギリシャ文字がとても妖しいぞ.

◇「歴史叙述科学」は過去の共通要因を目指す —— Aviezer Tucker『Our Knowledge of the Past: A Philosophy of Historiography』(2004年刊行, Cambridge University Press, ISBN:0-521-83415-5 → 目次).第2章「The History of Knowledge of History」を読了する.先行する第1章に比べてはるかにわかりやすい.本章では,著者の言う歴史叙述科学(historiographic sciences)のたどった歴史と共有される特徴について述べられている.

歴史に対する従来的な歴史叙述がもつ価値観は「権威」に対する盲従だったと著者は指摘する(p. 47).それに対して,批判的(科学的)歴史叙述はそのような「権威」に対する疑念を抱くことから始まる:

Whereas traditionalist cognitive values counsel trust in a tradition, critical cognitive values demand the examination of evidence for the causal chain that allegedly connected past events with present evidence.(p. 48)

「証拠」に対する批判的態度が歴史叙述の新しい思潮を生み出したわけだが,それを背後から推進したもう一つの力は17世紀科学革命だった.しかし,そのような懐疑論が行き過ぎると,歴史学そのものに対する否定的な見解を助長することになる.デカルトやロック,ヒュームら著名な思想家が歴史に対して冷淡な態度を取ったことを著者は指摘している(pp. 51-53).一方では歴史的権威に対する盲従があり,他方には歴史知そのものに対する否定がある.科学的歴史叙述はその中道を進むことになる(p. 52).

ここでいう科学的歴史叙述の具体例として,著者は聖書学(biblical criticism),古典文献学(classical philology),そして比較言語学(comparative linguistics)をまず挙げる.1780年に出版された J. G. Eichhorn の『Einleiting in alte testament』に始まるとされる聖書学は,聖書の異本間の比較検討のための方法を確立した.その中でもとくに現存する異本を結びつける「共通要因」としての「祖本」概念の提出は特筆されるべきである.:

The best explanation for the overwhelming similarities was in Eichhorn's opinion a lost common source that reached the author of Chronicles in a short and mutated form.(p. 56)

聖書学において確立されたこの方法は,聖書以外の古典に関する比較文献学に伝承され,さらに比較言語学にも伝えられた.歴史叙述の科学的方法の先駆にあたるこれら三つの学問分野の特徴を著者は次のように要約する:

The theoretical core of critical historiography overlaps with that of biblical criticism, classical philology, and comparative linguistics. These sciences attempt to infer information about a cause from relevant similarities among its putative present effects, the evidence, by inferring the information-causal chains that connected the cause, the alleged source of the information, with its effects, the alleged receptors of the information.(p. 74)

要するに,現在を知るために「過去の共通要因」を探るという点でこれらの科学は共通性があるということだ.

さらに,このようにして成立した科学的歴史叙述は,チャールズ・ダーウィンの進化学にも流れ込んでいったと著者は言う.ダーウィンが活動した時代は,比較文献学(Friedrich Ritschl)と比較言語学(August Schleicher)が写本や言語の系統樹を描いた時期に重なる.著者は,そのような歴史叙述の考え方がターウィンにも強い影響を与えただろうと推測している.

このような歴史叙述科学(historiographic sciences) — 聖書学,古典文献学,比較言語学,そして進化生物学 — に共有される柱は次のふたつだ:

It's obvious that all the sciences that have been discussed here share two stages of development:

  1. A theory proves that similar evidence is not coincidental, but consists of similar effects that preserved information about their common cause or causes.
  2. More evidence and theoretical background allow the probable reconstruction of intervening stages, informational causal links, between the common cause or causes and the similar effects.
(pp. 90-91)

—— 「共通要因」と「過去推定」という歴史叙述科学が共有する二つの特徴が以降の章のキーワードとなる.

◇午後いっぱい,総研大セミナー用のスライドづくり.午後7時までに約150枚を編集し終える.東大の集中講義にもそのまま使えるだろう.一石二鳥.

◇葉山にもっていく機材などを準備して帰宅.今日もいい天気だった.湿度はさらに低下しつつあるようだ.快適快適.自宅にてプチ旅支度をする.それから,またまたスライドpdfに「しおり」をつけたりしてぐずぐずする.もう日が変わりそう.

◇本日の総歩数=5599歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.8kg/+2.1%.


20 mei 2007(日) ※ 「Mouvement de Valse viennoise」でどうぞ

◇午前5時半起床.快晴.南風が通り,湿度も低くてしごく爽快.気温は15度ほどか.起き抜けに,筑波大方面へ歩き始める.この季節はペデストリアンや筑波大キャンパスの新緑がよく映える.昨日の雨のせいでよけいにそう感じるのかもしれない.

◇大著の歩き読み —— 山本義隆『一六世紀文化革命(1)』(2007年4月16日刊行, みすず書房, ISBN:9784622072867 → 目次版元ページ).序章から第2章まで180ページあまり読めた.序章「全体の展望」では,本書全体を貫く視点を読者に呈示する.それは,“17世紀科学革命”の前夜である“16世紀”に光を当てるということなのだが,具体的にはこの時代に特徴的な「手仕事に対する蔑視」(p. 12)を当時の画家や医者や博物学者たちがどのように乗り越えてきたのかを個別に論じるということだ.著者はそれを「文書偏重の学から経験重視の知への転換」(p. 16)とみなす.定量化や視覚化という新たな精神が育ったのもこの時期だという.使用される言語や活字印刷術の普及という点も無視できない.これらの変革を「一六世紀文化革命」という仮説のもとに総括することが本書の目標である(p. 29).

続く第1章「芸術家にはじまる」では,15世紀から16世紀にかけての画家たちに目を向ける.当時の画家や職人たちの“手仕事”は社会的には低められた地位に甘んじていたわけだが,その中から透視図法(遠近法)という新たな表現方法が生まれた.それは新しい計測のための術であり,著者はピエロ・デッラ・フランチェスカやレオナルド・ダ・ヴィンチそしてアルブレヒト・デューラーなどの著名な画家たちの仕事を通じて,このことを論証していく.彼らが実行した比率や計測に関わる手法とその図像的表現手段は現代の morphometrics の先駆ともいえるわけで,この章に挙げられている事例のひとつひとつはたいへん興味深い.

第2章「外科医の台頭と外科学の発展」は,医者の“手仕事”に議論を移す.ガレノスの“聖典”を越えて,当時の貶められた外科医たちは経験的な医術を積み重ねていった.ドイツのヒエロニムス・ブリュンシュヴィヒやパラケルスス,そしてフランスのアンブロアズ・パレがこの章では取り上げられている.彼らは,ラテン語ではなくドイツ語やフランス語という“俗語”で著作を公刊したという共通点があった.個人的にはパレの「怪物論」に関心があるのだが,言及はされていない.

こんな指摘がある:

スコラ医学が権威とあおぐ古代のガレノスは「個々の病気の本質」を知ることなく医療に従事するものを「経験主義者」と呼んだ.以来,医療の世界で「経験主義者」という言葉が,西欧のどこの国での言葉であれ,もぐりの医者とほとんど同義に使用されることになった.『オクスフォード英語辞典(OED)』の‘empiric’の項には「にせ医者」ないし「やぶ医者」を指す‘a quack doctor’とある.(p. 179)

当時は「経験的である」というスタンスは今日とは正反対の価値を担っていたということだろう.

◇日曜のこまごま —— 進化学会大会に関する連絡メール.公式行事についての詰め./ ICCシンポジウムに関する演者のリストが送られてくる.各自の講演の要旨を関係者の間で回し読みして内容を組み立てていくことになりそう.ポスターがそのうちできる.22日までに要旨を回覧しないといけない.ひー./ 東大・生圏システム事務から集中講義に関する旅費の支払いについての問合せあり./ 明後日,総研大の講義があるのだが,湘南国際村の総研大のいったいどこに出向けばいいんだろうか??? さっそく訊かないと.

◇南風が通り抜ける午前は体感的に涼しい.湿度が低いというのがとてもよろしい.蒸し暑くなると,活動力がてきめんに低下するので.こういう日中を逃さずに原稿を書こう.ぜひそうしよう.窓から見える遠くの景色がことのほかくっきりしている.※木陰の昼寝に憧れるワタシ…….

◇先日書き上げた『本』連載の初回原稿で,Maurice Ravel の作品〈La Valse〉に触れた箇所がある.自宅の本棚をごそごそしていたら,その総譜が本の隙き間から久しぶりに出てきた.見慣れた水色の Éditions Durand の本体に,渋谷の大盛堂書店の紙カバーが巻かれている.1976年の夏の終わりに道玄坂の YAMAHA で買い求めた総譜にまちがいない.「管弦楽のための舞踊詩(Poème chorégraphique pour Orchestre)」という副題が付けられているこの作品は,ぼくが東大オケでの最初の定期演奏会でスネアドラムを演奏した曲だ.当時のアマチュアのオーケストラとしては日本初演だったそうだが,今となっては確かめようがない.

たかだか十数分の曲なのに,打楽器群はティンパニを含めて総勢7名も駆り出される.しかも,全体の曲想について,「ウィンナ・ワルツのノリで」と総譜の冒頭に指定されているのだけど,これがまたとてつもない難物.このときの定期演奏会は早川正昭さんの指揮だったが,最初の何回かの全体練習では満足に通すことさえできなかった.曲の出だしは低弦部によるもわもわした霧がかかり,ファゴットがごそごそと動くのみ.木管楽器の旋律がじわりじわりと形をなして,やっと“舞踏会”らしい華やいだ部分になるまで5分ほどじっとがまんしなければならない.

さて,スネアドラムのパートはこれはこれでやっかいな問題があって,それは「いかにしてウィンナ・ワルツらしく叩くか」というシンプルな点だった.ワルツだから当然「三拍子」なのだが,ジャポネーゼな“じんた”にならないようにするというのは,とくに奏者がそれに慣れていない場合,ほとんど越え難いハードルになる.ヨハン・シュトラウスのような本場のウィンナ・ワルツのスネアドラムを聴くと,「確かにちがう」ことはよくわかったのだが,では具体的にどう奏するべきなのかが悩ましかった.「2拍目を少し飛び出せばいい」という意見と「3拍目を遅くすればいい」という意見を両端点とする線分のいずこかの“内分点”が最適解であることはアタマではわかるのだが,全体練習になると手がついていかない(そのリズム感覚をからだが覚えていなかったからだろう).結局は,本番が近づくとともに落ち着くべきところに落ち着いた感があるが,この定期演奏会の録音テープを聴く機会はその後なかった.

有名な〈Bolero〉と同じく,〈La Valse〉もエンディングに向かってひたすら音量とテンポを上げていく.最後の「4連符」で舞踏会(本番)はみごとお開きになった.しかし,その刷り込みはとても強力だったらしく,現在にいたるまで「ウィンナ・ワルツ」といえば,シュトラウスやレハールではなく,この〈La Valse〉の旋律が脳裏をBGMとして流れるようになった.もうひとつ,ぼくがマーチング・ドラム流の伝統的左右非対称のスティックの持ち方でスネアドラムを奏したのも,このときの〈La Valse〉の演奏が最後になった.次の年からは,今風に左右対称の持ち方になったから.

◇夜,講義の確認と準備をちょこちょこと:1)葉山にて —— 総合研究大学院大学講義〈先導科学考究〉,5月22日(火),15:00〜18:00,総研大・先導研2F講義室(ならびに3Fラウンジ).三中信宏:「進化系統学の先端で甦る歴史研究:サイエンスとヒストリーを隔てる壁は幻だった」.2)本郷にて —— 東京大学農学生命科学研究科〈保全生態学特論〉,5月24日(木),13:00〜17:00,農学部1号館4番教室.全3回の集中講義.

◇ううむ,原稿…….

◇本日の総歩数=11816歩[うち「しっかり歩数」=11331歩/97分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.7kg/−1.3%.


19 mei 2007(土) ※ 雨の土曜はひたすら原稿を書くしかないが

◇午前5時半起床.曇って涼しい.予報通り朝のうちに雨が降り出してきた.今週は,夜の飲み会が2回もあったので,やや疲弊気味.今日はおとなしくしていよう.でも,原稿仕事はそのまま放置されているので,しないわけにはいかない.

◇昨日の車中読書 —— Aviezer Tucker『Our Knowledge of the Past: A Philosophy of Historiography』(2004年刊行, Cambridge University Press, ISBN:0-521-83415-5 → 目次).買ってすぐに序章「Introduction : The Philosophy of Historiography」と第1章「Consensus and Historiographic Knowledge」を読み進んだものの,歯ごたえあり過ぎてそのまま放置してしまった.あるコミュニティにおける“合意”が知識であるという著者の立論はそのまま受け取っていいのか,それとももっと深い意味があるのか測りかねるところがあった.

昨日ふと思い立って,第2章「The History of Knowledge of History」の方を先に読んでみたら,意外にするするといける.そこから逆行して前の章を読み直してみた.「歴史(history)」とは過去の事象であり,「歴史叙述(historiography)」とは過去の事象に関する表現である.本書では,「科学的歴史叙述(scientific historiography)」 — 「historiography that generates probable knowledge of the past」(p. 1) — の歴史と哲学を中心テーマとしている.「科学的」とあえて形容するのは,著者が歴史叙述と証拠との関係を重視するからである(p. 8).直接的な観察ができない過去の事象を科学的に論じることは不可能であるというよくある誤解に対して著者は反論する.むしろ,眼前のデータのもとで歴史叙述がどの程度の決定性を有するか — 仮説の絞り込みがどれほどできるか — が歴史叙述の哲学が直面する問題だと言う(p. 9).

著者は,科学的歴史叙述の例として,まずはじめに聖書文献学,比較文献学,そして歴史言語学を挙げる.これらの学問に共通するのは「共通要因の遡求」である(p. 21).聖書や異本や言語に関する比較データのもとで,類似と差異を共通要因を仮定することによって説明するというスタンスが共通していると著者は言う.ここでの歴史叙述科学(historiographic sciences)は,実は「古因学(palaetiological sciences)」に重なる学問カテゴリーの分け方であるのが興味深い.

—— 第2章では,歴史叙述科学の史的成立について論じられている.

◇昼前に雨は上がり晴れ間がのぞく.蒸し暑くなってきた.しかし,昼過ぎには再び雲が厚くなって北風が吹き始める.めまぐるしい変わり方だ.

◇午後1時17分の TX 区間快速で柏に所用.さんざん歩いたあげく,どっと脱力した.帰路途中下車した流山おおたかの森SCの紀伊国屋書店で購入:ステファーヌ・マラルメ(鈴木信太郎訳)『マラルメ詩集』(1963年11月16日刊行,岩波書店[岩波文庫 32-548-1], ISBN:4-00-325481-3).う〜ん,いかにも象徴派っ.訳者による詳細な訳注(70ページ)と年譜(50ページ)が圧巻.詩集本体よりもこれらの解説部分の方が長いというのは,それだけマラルメの詩の成立が錯綜しているからだろう.※「リシャール・ワグネル」とは俺のことかとワーグナー言い.

—— つくばにとぼとぼと帰り着いたのは午後5時前だった.足が棒.東の空が黒くなって遠雷とともに雨になったが,宵のうちに止む.北東の風が吹く.

◇この〈dagboek〉にセットしたカウンタが夜9時に「10,000」を越えた.ちょうど1ヶ月でこのアクセス数というのはきりがいい.

◇来週は総研大(葉山)と東大・生圏システムでの集中講義が連続する.いずれも生物系統学なので,まとめて準備しよう.といっても,トークの内容はすでにできている.しかし,聴く方は初めてでも,話す方はつねに賞味期限を切れないようにしないとやる気が出ないので,いつもスライドを差替えたり入れ替えたりしている.

◇何のかんので原稿が書けん…….

◇本日の総歩数=11833歩[うち「しっかり歩数」=5226歩/47分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.5kg/+0.7%.


18 mei 2007(金) ※ ひたすらオルグされる駒場村の若者たち

◇午前4時半起床.気温12.1度.濃い霧が立ちこめるが国道408号を南下し,果樹研究所を過ぎて榎戸交差点を越えると青空が広がっていた.ローカルな気象の“東西境界線”が果樹研〜榎戸あたりにあることを経験的に知っている.その境界線をはさんで南北の天気がぜんぜんちがうことがあるから.

◇午前のこまごま —— 進化学会関連業務は続く:1) 昨夜送ったニュース用原稿にさらに加筆した.メールにて送信完了.2) 学会事務局の昨年度業務報告をまとめて,これまたメール送信.3) 未定だった監査役がやっと決まった.これで今年度の役員リストを完成させることができた.事務局に連絡済み.

◇気温はぐんぐん上昇し,午前10時には気温24.9度になった.夏日になるだろう.ときどき曇ったり,また晴れたり.

◇昼までのこまごま —— Lipo本の書評を EVOLVE / TAXA に投稿する./ メーリングリスト登録作業を片付ける.

◇昼過ぎにいったん帰宅.今日は夕方から駒場で専攻の公開ガイダンスがあるので出席しなければならない.もともと連携大学院の説明は別の教員が担当することになっていたのだが,急な用事が入ってしまい,ぼくがピンチヒッターで打席に立つことになった.

◇午後3時11分の TX 快速に乗り込み,渋谷に向かう.午後4時半に井の頭線・駒場東大前に降り立つ.久しぶりだ.この冬学期は駒場で生物統計学の講義があるので(木曜4限14:40〜16:20),毎週ここに通うことになる.12号館の会場に行ってみたが,まだ講義中で中に入れない.そこで,3号館の「駒場城」を表敬訪問したのだが,ここ数日“怒れる大魔神”と化している殿様は講義中で不在,Center of Enslavement のボスも会議中だった.大学のセンセイはとにかく忙し過ぎる.

◇しばし転戦して,駒場下の河野書店に立ち寄る.店頭の平台を物色する.この古書店はときどきおもしろい本が安く手に入る.Noam Chomsky の『Cartesian Linguistics』のハードカバー版,George Lakoff の生成文法の本など,言語学関係の本が多いのはいつものこと.その中に象徴派詩人 Stéphane Mallarmé の書簡集があったので 800 円で購入:Rosemary Lloyd (ed.)『Selected Letters of Stéphane Mallarmé』(1988年刊行, The University of Chicago Press, ISBN:0-226-48841-1).収穫収穫.

◇午後6時近くに,駒場村に戻り,ガイダンス会場に到着.生物・環境工学専攻のオルグ要員のみなさんはすでに集結していた.今週から来週にかけて12号館の1212号室と向かいの1213号室では,農学部の進学ガイダンスが集中的に実施されるという.ぼくらの学生時代には,進学予定先の情報などほとんど何も提供されなかったので(学部ごとの全般的ガイダンスはあったのかもしれないが),ほとんど「えいやっ」と進学先を決めていた(もちろん進振りの成績は重要な決定要因なのだが).それに比べると,最近はこのような学科ごとのガイダンスとウェブサイトを通しての情報収集は格段にラクになっているようだ.生物・環境工学専攻の場合,教員だけでなく学生・院生が積極的にガイダンスをプロデュースするという伝統があるらしく,今日も前半は教員による説明だが,後半は学生・院生のトークがプログラムに組まれていた.

◇開始定刻6時の時点で実に60名近くの学生が集まった.配布資料が足りなくなるほど.聞けば昨年は30名ほどだったというから,今年はその2倍だ.事前の宣伝と直前の客引きが効いたとのこと.いずれにせよ聴衆は多い方がやりがいがあるというものだ.専攻長の挨拶ののち,各講座代表の教員が話をする.ぼくも5分ほど連携大学院の紹介をした.その後,学生・院生によるトークが続き,1時間あまりでガイダンスを終了した.

今年から新しい進振り制度が始まるらしく(グループ分けの変更),進学予定の学生は情報収集がたいへんだ.進振りは東大ならではの制度で,昔も今も学生にとっては悩ましいことかぎりなしなのだが,何とかクリアして希望の学科に進学してね(留年しないように).

◇ガイダンス終了後,オルグ要員一同で渋谷駅前の〈魚民〉にて反省会(という名の打ち上げ).みなさん,たいへんお疲れさんでした.午後10時近くまで,ぶわっと呑んで,銀座線に飛び乗る.つくばに帰り着いたときには午後11時半を過ぎていた.

◇週末はシズカにシズカに過ごしたいな…….

◇本日の総歩数=13611歩[うち「しっかり歩数」=1073歩/10分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=−1.0kg/−0.9%.


17 mei 2007(木) ※ 雨に打たれても禊にはちっともならない

◇午前4時半に目が覚める.朝,すでに本降り.風もあって涼しい.午前10時,雨足いよいよ強くなり,気温15.5度.しかし,午後になると雨はあがるという回復の予報だ.

◇それにしても,あ,アタマがあっ(痛).昨夜の迎撃宴会の終盤戦では,アルコール度数10度以上のベルギービールを大量摂取したようだが,“アリ”なみなさんはきっと仕事にならんでしょうなあ.この二日酔いと空模様では.バウエル・クワックの台座には,「Op uw gezondheid」直訳すれば「あなたの健康のために」−−要するに「乾杯!」とフラマン語で書かれていたが,皮肉なものいいやなあ.

◇午前のこまごま —— 出張届の押印3件./ 濱ちゃんに新書を送る./ 10月の基物研シンポジウムのプログラムが確定したようだ.初日のしょっぱなですか,ひえ〜./ 明日の駒場ガイダンスについての質問メールを出す.

◇ゴーサインとギロチン —— 昨日の夕方,音羽から電話があり,連載原稿は三度の改訂を経てようやく「OK」ということになった.ということで,『本』の連載タイトルは〈生物の樹・科学の樹〉,第1回目は「トリヴィア,マルジナリア,そしてマドレーヌ」ということになった.月内にゲラが出る.そして,これからは毎月21日が原稿締切日となる.毎月追われるのだ./ 最後通告:二つの学会から「月内に原稿を出しなさい」との通告が届く.ひぃ〜(汗).示し合わせたかのごとく,締切日までおんなじとは.

◇その後も雨は強まったり弱まったりしていたが,午後2時頃からものすごい雷雨になった.遠くが見えないほどの降り方だ.しかし,すぐにまた小降りになって,明るくなる.めまぐるしい.気温も乱高下しているようだ.午後3時を過ぎてやっと小止みになり,4時過ぎには青空が戻ってきた.前線はようやく通過したらしい.

◇午後のこまごま —— ICCシンポジウムの演者紹介文などをメールで事務局に送る.事前にポスターをつくって貼るらしい.きゃ,アヤシイ写真もありっすか./ メーリングリストの作業を少しばかりすませる.

◇科学者の「肖像写真」のこと —— 自分の肖像写真を求められる機会がしだいに増えてきた.著書の出版や記事の投稿あるいは講演をするときにあらかじめ事務方から求められることが多い.ネクタイを締めた“まっとうな写真”を何かの機会に撮っておけばよさそうなものだが,そういう機会がいっこうにない.だもんで,バンダナをしたアヤシイ写真やら飲み屋で撮られたへろへろ写真しか手元に残らないことになる.ある編集者から聞いた話によると,研究者の場合「呑み姿」の写真が送られてくることが他の業種に比べて多いそうである.ぼくの場合,“まっとうな写真”といえばパスポート写真だろう.あれを画像化しておけばいざというときにまごつかないのだろう.

◇夜の急ぎのこまごま —— 進化学会ニュースに掲載する事務連絡と書評記事1本をすぐに用意しないと.事務連絡は明日研究所でこの半年の記録を見ればつくれるが,書評はどうしようか.昨年からの輪読が一段落ついた Lipo 本をレビューするのが適当かもしれない.

というわけで,いきなり大仕事が頭上から降ってきた —— Lipo 本サイト を切り貼りしつつ,書評原稿を2時間ほどで完成させる.400字詰にして30枚ほどの分量になった.日が変わらないうちに,深津編集長にメール返送する.輪読サイトをつくっておくと,こういう急な仕事のときにとても助かる.メモ書きでも走り書きでも,貯めることに意義があるということか.

—— それにしても,こういう「短距離走」は疲れる.もう寝よう寝よう./ 夜遅くやりとりされる学会メール.※不夜城かいっ.

◇明日は,夕方から駒場で専修(農学部 生物・環境工学専修)の公開ガイダンスがある.夕方に駒場東大前に関係者が集結し,ガイダンス会場である12号館の1212号室に向かう.時間は18:00〜19:30だ.おヒマな方,ぜひどーぞ.本来の「客」は進振り間近の2年生が対象ですが,新入生も歓迎だと専攻長は言ってました.ガイダンスでの連携大学院(エコロジカル・セイフティー学講座)の説明は川島茂人さんがする予定だが,急な用事が入ったとかで,間に合わないときはぼくが“代打”をする手はずになっている.とすると,プレゼンの資料を引き渡してもらわないとか.

◇本日の総歩数=4303歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼−|夜○.前回比=+1.3kg/−0.6%.※ビール呑み過ぎ……(orz)


16 mei 2007(水) ※ 原稿書いて倉庫掃除してビールを呑む日

◇午前4時半起床.北の風が涼しい.気温9.5度.10度を下回るとは.

◇午前のこまごま[其の壱] —— 情報科学芸術大学院大学(大垣市)からの出講依頼状が届く.6月15日(金),13:50〜16:55 に同大学にて〈美術情報学特論〉という名前の morphometrics の集中講義をする.大垣に行くのは初めて.その昔,東海道線の「大垣行き」夜行鈍行列車に乗った頃は,きっと大垣を“通過”したにちがいなかっただろうけど.

[其の弐] —— 京都大学基礎物理学研究所が主催する〈第22回西宮・湯川記念理論物理学国際シンポジウム〉の大会サイトが5月14日に公開されていた.今年の10月15日〜20日という長丁場のイベントだ.期間中は〈コープイン京都〉にカンヅメされる.

[其の参] —— 東大の「生物・環境工学」がらみのイベント三つ:1)生物・環境工学専修の公開進学ガイダンス(駒場)は,5月18日(金)18:00〜19:30,東大教養学部12号館(1212号室)にて開催.2)生物・環境工学専攻の大学院入試公開ガイダンスは,6月6日(水)14:00〜16:00に開催.詳細は専攻サイトを.今日,ポスターがどさっと農環研に届いた.3)専攻研究会議は,6月13日(水)16:00〜17:30.またまたプレゼン資料をつくらないといけないか.※そういえば,5月26日(土)〜27日(日)に開催される〈東大・五月祭〉でも学生の企画があるんだった.

—— 仕事なにやら大杉…….

◇昼休み.快晴.気温22.6度.やや暑い —— 酒井聡樹『これからレポート・卒論を書く若者のために』(2007年5月15日刊行,共立出版,ISBN:978-4-320-00574-7→著者サイト版元サイト)を第11章まで読み進む.第6章の「序論の書き方」から始まるこの本の本論部分だ.方法・結果・図表の書き方の章(第7〜9章)は“読み手の立場に立つ”という著者の基本スタンスがよくわかる.“書き手”の立場ではえてしてオーバーヒートしてしまうために,“読み手”が見えてこない.そうならないためのいくつものポイントがまとめられている.第10章「説得力のある主張とは」は,つくられた仮説に関して自分のデータとの整合性・他のデータとの整合性・論理的に問題ないこと・対立仮説群の中での優位性・信頼性が取り上げられている.続く,第11章「考察の進め方」もまた仮説の検討に当てられている.このふたつの章は合体させてもよかったのではないだろうか.

—— まだ先の章だが,第15章「効率の良い執筆作業」に勝手に節をひとつ増やしてみた:第7節「レポート・卒論の提出締切日は必ず守る!」(※ひょえ〜,ごめんなさいごめんなさい)

◇午後1時半から1時間ほど,領域でもっている倉庫の物品の処分と移動.古い高額備品(「金ラベル」が貼られている購入価格一千万円クラスの備品)を廃棄するための手続きをする.古い古い「PC98」とか「Mac ci」などというのがまだ積まれている(回顧的になる).その後,領域がもっている他の部屋を掃除・移動する.

◇午後2時半から,〈形態測定学講義〉の輪読32回目.第12章「Disparity and variation」の続き(pp. 308-310).複数の群の分散共分散行列の類似性に関して.行列そのものが一致するという理想的状態からどのように「外れて」いくかが論議される.用いる方法としては,「Common PCA(CPCA)」と「Confirmatory Factor Analysis(CFA)」がある.要するに,分散共分散行列を主成分に分割し,群による主成分の方向の差異が有意かどうかをリサンプリングによって検定するというやり方だ.その際,主成分軸をひとつひとつ検定するというもっとも初歩的なやり方以外に,複数の主成分が張る部分空間の法線ベクトルの差異を検定するという,より一般的な方法が提示されていて興味深い.CPCAはすでに形態測定学に応用されているらしいが,CFAはまだ使われていない.

◇午後6時過ぎ,天久保の〈三浦飲食堂〉に“蟻”な方々と集結する.今夜はここで北大からつくばに攻め込んできたでびるまん御一行様を十分に迎撃したい.つくばでビールの品揃えがよりどりみどりの店といえば,必ずここが思い浮かぶ有名店だ.しかし,それ以上に,料理がとても美味なので,そちらの方がむしろ楽しみ.迎撃の場所としてはもってこいではないか.予定の時刻よりも少し早めに自転車でたどり着いたので,店内を少し探検させていただいてと.みまわせばそこら中ビールだらけですな.

定刻の午後6時半に御一行様の到着.最初のうちはピッチャーで樽生ビールをぐいぐいしていたのだが,そのうちそれぞれの好みで,ホワイトビールだの,エールだの,ランビックだの,修道院ビールだのに突入開始.ブロンシュ・ド・ブリュッセルが爽やかでとてもうまかった.料理は,名物のビーフシチュー,豚肉の煮込み,メンチカツサンド,チーズ・ソーセージの盛り合わせなどなど.アルコールの度数もびしびしと上昇し,オルヴァルやデュベル,ウェストマール,そして真打ちパウエル・クワックがお出ましになる.最後はロシュフォール10で撃沈か.そういえば,カンティヨンのランビックを今日は呑まなかったな.次回まわしにしよう.

—— うまい料理とばくだん発言の数々で時間はどんどんワープする.気がつけばもう午後11時半だ.5時間も同じ店でビール漬けになるとは.満腹して解散.御一行様は森林総研のゲストハウスに帰る.濱ちゃん,お疲れさまでした.※明日は仕事になるんかいなあ・・・.

◇本日の総歩数=12453歩[うち「しっかり歩数」=5029歩/43分].全コース×|×.朝○|昼△|夜×.前回比=+0.1kg/+0.3%.


15 mei 2007(火) ※ 雷雲迫る昼下がりの肉体労働で消耗する

◇午前4時半起床.晴れ.南風.気温12.2度.涼しい.

◇午前のこまごま —— 連載原稿の三訂版を書き上げて音羽にメールで送る./ 駒場の冬学期「生物統計学」の講義は毎週木曜の14:40〜16:20(4限)に決まった.理学部人類学科の講義./ 5月26日(土)の計量生物学会評議員会は欠席する./ 人間ドック受診日は11月1日(木),筑波メディカルセンターにて.

◇雷雲接近中,不穏な天気.正午の気温は21.0度.昼休みの歩き読み —— 松本三郎『江戸和竿職人 歴史と技を語る:竹,節ありて強し』(2006年7月10日刊行,平凡社ライブラリー580, ISBN:4-582-76580-7)を70ページほど読み進む.釣りが趣味だったロシアのオペラ歌手シャリアピンが来日公演したおり,日本の釣り竿を見て“ストラディバリウス”だと言ったそうだ.

◇遠雷が轟き,通り雨.その後は晴れる.

◇昼下がりの「指導」 —— 毎年の所内巡検が今週の金曜に予定されている.ぼくは東大・駒場での学生ガイダンスのため不在.それに先立って,居室内に散乱する大量の本,そしていかにも不安定に屹立する本棚を何とかせよとの指令が下る.毎年の巡検で事務方に指摘され続けていったい何年が過ぎただろうか.しかし,事態は年々悪化の一途をたどり,ついに本日の「指導」とあいなった.

とりあえず,部屋の真ん中で“ゆらゆら”しているスチール本棚を壁際に移動せよとのこと.棚に詰め込まれていたダーウィン書簡集やら中世哲学原典集成やら日国やらアリストテレス全集をダンボール箱に詰めて,棚を空にする.どこからこんなに大量の本が湧いてきたのか.“詰め物”がなくなって軽くなった本棚を隣室の壁ぎわに置いて本日の作業は終了.金曜の巡検はこれでもう心配ない[だろう].

—— しかし,この移動の当然の結末として,本入りダンボール箱がさらに積み重なり,足の踏み場がますますなくなってしまった…….

◇午後のこまごま —— メーリングリストの雑用./ 某書類の集成./ 湯川シンポのタイトルを知らせる.2ヶ月も遅くなってしまった.

◇NTT回線障害 —— 午後7時〜11時にかけて,自宅のNTT回線(光ファイバー)がつながらなくなった.最初は,自宅PCのLANがつながらなくなって,ごそごそいじっていたのだが,要するに電話回線そのものの障害だったわけだ.どこかで落雷して広域障害でも起こったのか.いずれにせよここに引っ越してきてから初めてのことだ.

◇ようやく,もうひとつの原稿に取りかかれる.※ごめんなさいごめんなさい.

◇本日の総歩数=10976歩[うち「しっかり歩数」=6010歩/52分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.6kg/−0.1%.


14 mei 2007(月) ※ 紙魚の愉しみ,紙魚の慎み,紙魚のしみじみ

◇午前4時半起床.晴れ.気温11.9度.やや涼しい.しかし,日が昇るとともに,気温は急上昇.午前10時には19.7度になった.しかし,空気が乾いているせいで,不快感はない.

◇「逆引き辞書」の威力 —— 日常的にはあまり使う機会がないのだが,ここぞというときに不可欠なのが「特殊辞書」.マイナーな言語の辞書も「特殊辞書」といえるのかもしれないが,ここではメジャーな言語であっても特殊な用途のために編まれた辞書のことをいう.今日の日録のタイトルを付けるのに,「紙魚=しみ」で韻を踏みたいとふと思った.そういうときにおもむろに登場するのが,本だなの最上階に君臨している「逆引き辞書」である:岩波書店辞典編集部(編)『逆引き広辞苑』(1992年11月17日刊行, 岩波書店, ISBN:4-00-080106-6).この辞書を見れば,「〜しみ」ということばを後方一致的に網羅探索できる.ありがたや,ありがたや.やっぱり辞書(一般に reference books)は身近にないと困るな.「あ」と思い立ったときに手が届く距離に置かれているべきであって,はるか階下の図書室まで足を運ぶようでは用をなさない.

◇朝のこまごま —— 久しぶりにでびるまんがつくばにやってくる.迎撃態勢を整える.思い当たる人びとは覚悟してください.期日は16日(水)または17日(木)です.予定では,夕闇迫る天久保辺りで迎撃します.蟻酸攻撃をものともせず,ガンバロー!/ あ,連載原稿の改訂をしないと…….

◇快晴の昼休みは20.5度.風もなくぽかぽかする —— 山口昌伴『水の道具誌』(2006年8月18日刊行, 岩波書店[岩波新書・新赤版1032], ISBN:4-00-431032-6)を読了.時空を越える“水”の旅は,昭和の頃の手水鉢から,蛇口のカラン,ブリキのバケツに,手動ポンプ.中国,フランス,インドにまたがる.物干竿ひとつをとっても話題は尽きない.歩き読みには最適の本だった.

◇午後のこまごま —— 出張届(追加分)の提出.今月分はこれでおしまい./海游舎から電話あり.図表のキャプションの原稿を送るとのこと.これがまた多いんだな……./ Writer's high にならないと終わらないぞ,これは./ ML管理作業を少しばかり.

◇行脚したいしたいしたい —— フレデリック・スタール『お札行脚』(2007年3月31日刊行, 国書刊行会[知の自由人叢書・第5回配本], ISBN:978-4-336-04716-8).全704ページ! 日本全国,ひたすら「おふだ」を集める旅をし続けた紀行文.元本は『山陽行脚』(1917年刊行,金尾文淵堂)と『御札行脚』(1919年刊行,金尾文淵堂)の2冊.2段組みでびっしりと組まれた文章は腹持ちよさそう.

◇冷たい北東風の吹く夜のこまごま —— 頼まれ書類づくり.一通り完了した.手直し当然あり./ あさって5月16日(水)の午後7時から,天久保の〈三浦飲食堂〉にて札幌からの ant な御一行様を迎撃する宴席を予約しましたので,よろしく.>でびるまん氏(濱ちゃんもしっかり拉致しました).

◇学名ばくだん —— 平嶋義宏『生物学名辞典』(2007年7月刊行予定, 東京大学出版会, ISBN:978-4-13-060215-0).総頁数1,400ページ,予価「45,000円」! ひょえ〜.

この著者はやはり東大出版会から学名に関する本を出している:平嶋義宏『生物学名概論』(2002年10月07日刊行, 東京大学出版会[Natural History Series], ISBN:4-13-060181-4→目次書評|※『生物科学』55(1): 52-53 (2003.10)にも鈴木邦雄・三中信宏の連名で書評を出した).近刊の内容についてはわからないが,既刊の『概論』に続く「各論」に相当することは間違いないだろう.とても高価で,個人で買うような本ではないが(大学や研究機関,図書館が reference book として所蔵していればいい),世の中にはこれを重宝する人がどこかにいるのだろう.

◇さて,これから連載原稿の手直しだ.

◇本日の総歩数=12816歩[うち「しっかり歩数」=6609歩/57分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.3kg/+0.8%.


13 mei 2007(日) ※ 紙魚なりに齧りついて原稿を書くサンデー

◇午前5時半起床.曇り.北寄りの風が通って涼しい.昨日と今日はセンター広場で〈つくばフェスティバル2007〉が開催されている.

◇朝の読み歩きを1時間ほど —— 山口昌伴『水の道具誌』(2006年8月18日刊行, 岩波書店[岩波新書・新赤版1032], ISBN:4-00-431032-6).日常生活で「水」を使いまわすために用いられてきた伝統的な道具の数々.鹿おどしに水琴窟,ダッチ珈琲に水煙管,樋にも“鮟鱇”がいたとはね.「じょうろ」がポルトガル語(jorro)に由来することばだとは知らなかった.漢字では「如雨露」と書くそうだ.「じょうご(漏斗)」が外来ではないのに紛らわしいこと.いかにも新書向きのつくり.100ページほど読み進む.

◇歩きつつ原稿改訂のアイデアをひねり出す.今日中に何とかしよう.

◇日中は北風が入って,日射しはあるものの快適だった.気温は20度くらいか.センター広場の〈つくばフェスティバル〉会場を一回りする.グルジア・ワインのコーナーあり.その後,午後3時を過ぎてから,吉瀬の〈出月庵[みかづきあん]〉に行く.吉瀬のあたりは古い民家をうまく使ったスペースがいくつもある.

◇〈ISHPSSB 2007〉のプログラムをざっと見る.巨大な大会なのだが,セッション・タイトルをピックアップする:

  • MultiLevel Selection and Major Transitions: Groups, Individuals, and the Units of Evolution(Samir Okasha,Peter GodfreySmithなどの講演)
  • What Happened to Evolution After the Synthesis?(Massimo Pugliucciトークあり)
  • The Statistical Roots of Biology(フィッシャーとロザムステッド農試 etc.)
  • Rebels of Life: Iconoclastic Biologists of the 20th Century(“偶像破壊的”だったのはHans Driesch, O. Avery, Leon Croizat [by David Hull],Daniel Simberloff,William D. Hamiltonなどなど)
  • History of Evolutionary Biology(John van Wyheトークなど)
  • Theory in Biology(「Popper's dance with Darwin」とか)
  • Anagenetic Optimisation Versus Cladogenetic Differentiation(構成形態学史)
  • Darwinism in the 21 st century: Beyond the Modern Synthesis(こちらは Eva Jablonca 主導)
  • The Importance of Homology for Biology and Philosophy(Paul Griffiths, Marc Ereshefskyら)
  • Specimens and Nomenclature(DNA bar-codingなど)
  • Palaeobiology and Phylogenetics
  • Evolution of social behaviour
  • New Issues in Levels of Individuality and Units of Selection
  • Species
  • Essentialism and Classification(「Biology without species」とか「good species」とか)

目に留まったタイトルを拾っただけだが,進化学や体系学に関わるものが大半であることがわかる.こういう大会が日本で開催されれば迷わず参加するのだが.

◇おお,もう夜ではないか.暗い室内で紙魚になりきって紙に齧りつくはずが,その生態に反して日なたをうろうろしてしまった…….

◇本日の総歩数=13911歩[うち「しっかり歩数」=7871歩/68分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=+0.5kg/+0.2%.


12 mei 2007(土) ※ 厚木にて昼日中に飲酒に耽る不健康な週末

◇午前5時半起床.快晴.涼しい.ここのところ,日中は夏日になったりするが,朝晩がしのぎやすいので許せる.しかし,しだいにしのぎやすい時間帯は短くなっていくにちがいない.

◇午前10:11の TX 快速に乗って,本厚木へ.昼過ぎに東京農大・厚木キャンパスに着.午後1時から,構内のレストラン〈けやき〉にて,農大・昆研の「OB総会」が開催される.4年ぶりのことらしい.ぼくはOBではないのだけれど,昆研に関わる者は出自を問わずすべて“OB”とみなすという Prof. 岡島の強権発動により,召還された.総会と銘打ってはいるが,実質的には昨年度末に定年退職された昆研の立川周二さんの記念パーティだった.

レストラン内のとても広いスペースが当てられていたので,受付の学生に「今日はいったい何人の参加者があるの?」と訊いたところ,「120人ほどです」とのこと.内訳は約50名が卒業生OB/OGで,残る70名が在籍している学生・院生.この大きさはただごとではない.今年はさらに学生数が増えたそうで,これでは他大学の「学科」に相当する規模じゃないか.しかも“天然”な蟲屋が多いのがここの特長かもしれない.新しく着任された小島さんに挨拶する.岡島夫人はオーラがちがうな.

午後3時までの2時間はいちおうフォーマルな一次会ということで,大量の食べ物と飲み物が供された.その後,研究棟のいつもの実験室に場所を移して二次会の始まり.延々と呑み続けて,気がついたらもう午後6時だ.真っ昼間の日もまだ高いうちから暗くなるまで淫酒するとは.みなさんはまだエンドレスに続きそうだったが,ぼくはここでおいとまする.18:20発の路線バスで本厚木に出て(同じバスだった立川さんに厚木の名物〈とん漬〉をいただいた),18:46の特急「あさぎり18号」で新宿へ.つくばに帰り着いたのは午後9時前だった.

◇パーティで立川さんからもらった —— 吉谷昭憲(立川周二監修)『くさいむし かめむし』(2007年6月1日刊行, 福音館書店[月刊かがくのとも・通巻459号], ISBN:なし).エサキモンキツノカメムシの本.折り込み付録に載っている略歴によると,著者もまた農大・昆研の出身だそうだ.規模の大きな研究室ならではの人脈の広さがよくわかる.

—— 二次会では実にさまざまな話題が出た:日本の昆虫学者の「世代間ギャップ」が顕在化しつつあることとか(若手の中でもさらに分極化しているそうな),なぜ最近のメーリングリストは盛んではないのかとか(その理由は中核メンバーが年取りつつも変化していないから),「安住の地」を早々に見つけたがる研究者の性向とか(もう一歩先へがないこと),これからの分類学者の生きる道についてとか(biodiversity informatics は楽しいですか?),etc.しかし,それ以上のディープな話題はここには書けない書けない…….

◇車中読書 —— Kilian Heck und Bernhard Jahn (Hrsg.)『Genealogie als Denkform in Mittelalter und Früher Neuzeit』(2000年刊行, Max Niemeyer Verlag[Studien und Texte zur Sozialgeschichte der Literatur: Band 80], ISBN:3-484-35080-6 →目次版元ページ).編者たちによる序論を読む.系譜学的思考について,こう述べている:

Genealogische Denken erklärt Bestehendes durch den Verweis auf Vorhergehendes. Das Vorhergehende muß einen qualitativen Unterschied zum Bestehenden aufweisen, ein Unterschied, der das Bestehende begründen kann und die Frage nach den Gründen des Vorhergehenden verstummen läßt.[……] Vorhergehendes impliziert für das neuzeitliche Dimension, doch ist diese Implikation möglicherweise eine Folgerung, die genealogischem Denken als als mythischem Denken fremd ist. [……] Die Genea-Logik der Frage nach dem Vorhergehenden muß einen anderen Ursprung konstruiren.(pp. 3-4)

◇昨日も呑み,今日も呑みで,もうへろへろに.明日はシズカに過ごそう.

◇本日の総歩数=5972歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼△|夜△.前回比=−0.5kg/−0.1%.


11 mei 2007(金) ※ 雷雨一過の晴天,紙魚は本郷に出向いた

◇午前4時半起床.昨夜の雨はすっかり上がっていた.曇りのち晴れ.南風が強く,涼しい.きっと10度そこそこだろう.

◇ダーウィン進化学と「図像」との関わり —— Julia Voss『Darwins Bilder : Ansichten der Evolutionstheorie 1837-1874』(2007年6月刊行予定, Fischer Taschenbuch Verlag, ISBN:978-3596176274 → 版元ページ).〈ダーウィン図像論〉の近刊.Amazon.de からのダイレクトメール.紹介文によると,「die Rolle der Bilder bei der Entstehung der Evolutionstheorie」すなわち「wie Darwin "mit dem Auge denkt"」が中心テーマだそうだ.Amazon.de からのダイレクト・メール.一昨年に出た,Horst Bredekamp『Darwins Korallen : Die frühen Evolutionsdiagramme und die Tradition der Naturgeschichte』(2005年刊行, Verlag Klaus Wagenbach[Kleine Kulturwissenschaftliche Bibliothek 73], Berlin, ISBN:3-8031-5173-2 → 目次)に通じる内容なのかもしれないが,この『Korallen』が100ページそこそこであるのに対して,『Bilder』は400ページ近くあるという.

◇備忘メモ —— 巨大プロジェクト〈Encyclopedia of Life〉. / 〈ISHPSSB 2007〉.The International Society for History, Philosophy, and Social Studies of Biology (ISHPSSB)の大会は,イギリスの University of Exeter で開催されるとのこと(25〜29 July 2007).大会サイトでは詳細プログラム(pdf)が公開されている.

◇研究室の堆積した本の隙き間から大きな“紙魚”がちょろりと顔を出した.来世はかくありたし.午前は,大学出講関係のメールのやりとりの続き.こまごま.

◇昼,晴れ上がって,南風が爽快.12:11の TX 快速で東京に出る.神保町から淡路町にかけて用事をすませてから,午後4時過ぎに東大理学部へ.2号館の人類学教室に向かう.今回のホストをしていただいた近藤修さんに挨拶してから,4階の講義室へ.2号館の他の部分とは隔離されているこの講義室は出入り口が一つしかない.締め切って籠城するにはもってこいの構造だ.

午後4時半からセミナー開始.すでに20名以上の聴衆が集まっていた.見知った顔もちらほらと.形態測定学の概論をざっと話したのだが,通常は集中講義で10時間分の内容を駆け抜けたので,しゃべる方も聴く方も体力がいったのではないか.冬学期に駒場で人類学科進学生向けの統計学の講義を毎週やるので,そのときにはもう少し落ち着いてこの分野の話ができるだろうと思う.

質問で,リーマン多様体としてのケンドール形状空間の正確な扱いと,線形接空間に射影したときの近似的な扱いとのちがいを問われた.線形空間の中では数学的にも統計学的にも利用可能なツールがたくさんあるのでラクはラクだ.しかし,接点の「参照形状(平均形状)」からのプロクラステス距離が大きくなるほど,近似の程度がしだいに悪くなっていくので(形状空間と接空間との隙き間が大きくなる),あまり大きな形状差がある場合に接空間での論議を続けると結論にバイアスがかかる危険性がある.だから,大きな形状差については,ケンドール形状空間の上での(近似的ではない)考察を進めることが安全だろう.球面統計学での複素ビンガム分布がパラメトリックな形状統計学の基礎になる.もっと勉強しないといけない.

◇セミナー後,本郷三丁目近くのビル地下にある〈とり鉄〉にて懇親会.どうもありがとうございました.夜9時過ぎに解散.

◇セミナー最中に音羽からホットラインがあったので,湯島への道すがら話をする.連載原稿の改訂版については,冒頭の“ツカミ”を再考してほしいとのこと.途中の自伝的部分を短縮して,スペースをひねり出すことにする.週末の仕事になる.湯島から千代田線に乗り,北千住で TX に.つくばに帰り着いたのは午後10時半.風が冷たかった.

◇車中読書 —— Horst Bredekamp『Darwins Korallen : Die frühen Evolutionsdiagramme und die Tradition der Naturgeschichte』(2005年刊行, Verlag Klaus Wagenbach[Kleine Kulturwissenschaftliche Bibliothek 73], Berlin, ISBN:3-8031-5173-2 → 目次).Julia Voss への謝辞が特別に述べられている.内容的に類似する本というだけではなく,もっと密接に関わっている気配あり:

Vor allem aber bin ich Julia Voss zu Dank verpflichtet. Während ich mich in Darwins Ikonologie der Koralle vertiefte, hat sie ihr umfassendes Opus über den bildlichen Character von Darwins Denken und Darstellen vorangetrieben, das die erste kunst- und wissenschaftsgeschichtliche Gesamtanalyse von Darwins Bildwelten bieten wird?(pp. 7-8)

上の箇所で引用されているのは学位論文:Julia Voss『One Long Argument. Die Darwinismus-Debatte im Bild』(2005年印刷中,Ph. D. Thesis, Humboldt-Universität zu Berlin)だ.タイトルから推測して,Voss の近刊『Darwins Bilder : Ansichten der Evolutionstheorie 1837-1874』はこの学位論文を踏まえて書かれたものなのだろう.

◇メモ —— セミナー終了後に出席されていた中村雄祐さんからいただいたシンポの案内:〈Les outils de la penseé : Étude comparative de « textes » et de leurs fonctions sociales〉(2007年5月29日,Fondation Maison des sciences de l'homme,Paris).民博と FMSH との共同開催シンポジウムらしい.いただいたプログラムを見ると,道具(outils)としての「テクスト」(書籍,雑誌,図表,ダイアグラムなどなど)のもつ認知的な働きから社会的な機能までカバーしている.コレージュ・ド・フランスの Roger Chartier が総括討論をリードするそうだ.

◇明日は,東京農大・厚木キャンパスで,昆研のOB会総会がある.午後からだが場所が遠いので,午前中に出発しなければならないな.連日の外出.

10 mei 2007(木) ※ 今日も原稿書きと講演準備で日が暮れて

◇午前4時半起床.薄曇り(地表は淡い霧)のち晴れ上がる.気温16.6度.明け方は涼しいのだが,日が射すととたんに暑くなってくる.今日は午後から天候急変との予報だ.

◇明日の講演準備の続き —— スライドの用意はほぼ終わった(〈LunchMenu〉に登録した).形態測定学のデモについては,tps系ソフトウェア(tpsSplin と tpsTree)と Mesquite の Rhetenor パッケージ,そして R の shapes パッケージを予定している.shapes は新しいバージョンを確認してダウンロードしよう.tps用に Virtual PC を起動したらどういうわけだか Win XP の「ライセンス認証」を要求されてしまい,朝の8時前にあわててマイクロソフトの認証専用電話窓口で処理する.備忘メモ:Virtual PC の「全画面表示」への移行と Mac への復帰は「Command+Return」で操作すること.

—— 早朝から何ともあわただしいことだ.しかし,エンディングが向こうに見えているので安心できる.

◇きのう着便した本 —— Kilian Heck und Bernhard Jahn (Hrsg.)『Genealogie als Denkform in Mittelalter und Früher Neuzeit』(2000年刊行, Max Niemeyer Verlag[Studien und Texte zur Sozialgeschichte der Literatur: Band 80], ISBN:3-484-35080-6 →目次版元ページ).中世から近世にかけての「系図」を当時の社会的・文化的・宗教的な文脈の中で発現したひとつの思考形態(Denkform)であるという観点から編まれた論集.系図言語(Baumsprache)なることばに遭遇したりして,ついわくわくしてしまう.

◇晴れた昼休み.気温24.0度.南風がやや強め —— 栃折久美子『森有正先生のこと』(2003年9月25日刊行,筑摩書房,ISBN:4-480-81455-8).読了.1960年代半ばからの約10年間のことなので,過ぎた昔のことといってしまえばそれまでなのだが,あたかも二つの“星”が付かず離れず連動しているような雰囲気を醸し出している.ときには相対する二連星のように,またあるときは離れた彗星が長い周期で回帰するように.描かれている森有正センセイが,フランスから帰国したときに,決まって山の上ホテルを定宿としていたところなど,かつてこの日本にあったであろう文化を忍ばせる.センセイは世事に疎く(しかもよく喰う),クミコさんは世話焼きすぎか.

◇午後のこまごま —— 明日の講演準備は完了.段取りを確認し持参する機材を揃える./ 進化学会関連のメールいくつか./ 音羽から原稿に関する注文あり.前半部分を圧縮して,連載全体の鳥瞰図を書いてはどうかとのアドバイス./ 出講先の大学からいろいろ事務連絡メール.返事を書いたりもらったり.こまごまと出かけると,事務量も整数倍で増えていく.

◇午後4時過ぎ,いきなり雷鳴が鳴り響いてきたので,あわてて帰り支度をしていたら,すぐに雷雨が降り出した.濡れまくり.帰宅したときにいったん小止みになったが,すぐに今度は雹とともに横殴りの豪雨になった.1時間ほどで低気圧は抜けて,北寄りの風が吹く.気温は急降下.真夏のような空模様だ.

◇夜は連載原稿の手直しをしてみる.冒頭に新しいセクションを付けて,連載全体のビジョンらしきものを提示し,その次の2,000字ほどを差し替え.これで全体の1/3を書き換えたことになる.書いている本人が全体ビジョンを確定させていないので,なかなか難しい変更ではあったのだが,最初の原稿よりはマシになったのではないだろうか(と自画自賛中).午後9時過ぎに改訂版原稿を音羽にメール送信する.

◇外は再び雷雨.しかし,すぐに小降りになってしとしと降り続く.明日までには止んでほしいなあ.

◇本日の総歩数=10094歩[うち「しっかり歩数」=6282歩/54分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.3kg/−0.3%.


9 mei 2007(水) ※ 今日が暑いのはもちろん夏日のせい

◇午前4時半起床.晴れ.気温14.2度.気温はぐんぐん上昇し,午前10時には24.9度に.夏日になるのは確実だ.

◇早朝のメモ —— 〈Adobe CS3〉日本語版がもうすぐ出るらしい.アップデートしないと.〈CS2〉は買ったもののぜんぜん使わなかったので,アップデートのための足場にしかならないな.

◇午前のこまごま —— 進化学会の学術会議への登録移行申請書を六本木に返信した./ 『本』の原稿を音羽にメール送信する./ 金曜の東大でのセミナー準備をやっと始める気になった.

◇で,その東大セミナー — 正式には「人類学談話会(人類学演習III)」 — は下記の通り:

【日時】2007年5月11日(金),16:30〜18:00
【場所】東京大学理学部2号館4階講義室(人類学教室)
【演題】「かたち」を数値化する:幾何学的形態測定学のスピリット
【演者】三中信宏(農業環境技術研究所/東大・院・農学生命科学研究科)

生物の「かたち」を定量的に解析する手法として,幾何学的形態測定学(geometric morphometrics)というツールが最近10年余りの間に確立されてきた.この幾何学的形態測定学はもともとは自然人類学における骨格計測の手法として開発されてきたが,現在では進化生物学や生態学そして発生生物学の分野に幅広く適用されつつある.「かたち」の幾何学的情報は,たとえ視覚的には単純に見えても,数値的には複雑な多変量データとして記述される必要がある.「かたち」から抽出された多変量データに対して, 従来的な線形統計学的手法をそのまま適用しようとした1960〜70年代の多変量形態測定学は批判されることになった.「かたち」のもつ幾何学的情報(サイズとシェイプ)をすくいあげるためには,形態測定学の方法論そのものが幾何学的であるべきだとの認識が広まってきた.「かたち」をめぐる統計学と幾何学との共同作業が1980年代にわたって続けられ,その結果,後に「形態測定学の革命」と呼ばれるようになる 形態測定学の変革期を1990年代に迎えることになる.今回の講演では,まずはじめに幾何学的形態測定学が目指す「かたちの定量化」とは何かを論じる.そして,この分野が,生物学の知見を踏まえた上で,数学(とくに幾何学と多様体論)と統計学(とくに多変量解析と非線形統計学)の境界領域に位置することを示す.最後に,形態測定学と系統推定論との関わりに触れ,かたちの系統発生を復元するという問題に言及する.

—— お近くの方はぜひどーぞ.

◇東京農大の昆研では,学部生の輪読用に,David Grimaldi and Michael S. Engel『Evolution of the Insects』(2005年6月刊行,Cambridge University Press,ISBN:0521821495)を使うとのこと.とくに,昆虫形態学のセクションが主になるそうだ.Richard E. Snodgrass (1935)『Principles of Insect Morphology』 のコピーを南保くんに預けておいた.ずっと昔にとったコピーが何十年後かに利用されることになるとは.

◇炎天下の歩き読み.気温27.8度 —— 栃折久美子『森有正先生のこと』(2003年9月25日刊行,筑摩書房,ISBN:4-480-81455-8).『センセイの鞄』よりもずっといいですなあ.こういう味わいのある本をわしわしと歩き読もうというのは,何か根本的にまちがっていたかも…….すみません.60ページほど読んでダウンする.暑過ぎ.

◇午後のこまごま —— 13:30〜14:10は領域内会議./ 5月分の出張届7件をまとめて出そうとしたが,出講先に確認のメールをあれこれ出す.いったん出した出張届をあとで引っ込めたり訂正したりするのはめんどうなので./ 全職員に配布された〈メタボ対策キット〉.教訓冊子はまあいい.なんで“腹囲”を計測する巻き尺まで全員に配るねん.こういうずどんとしたストレートなところがいかにも農水省的./ メーリングリストの掃除をしようとして,転送メール設定にまたまたつまずく.ML配信メールをhotmailに転送するんだったら,転送先が溢れかえらないようにしてねー.お願いねー.怒./ 初台のNTT-ICCから6月16日(土)の開設10周年シンポジウム〈アーカイヴ〉で話をしませんかとのお誘いあり.何だかよくわからないのがおもしろそうで,OKしてしまう./ 昨夜,執筆依頼のあった新書編集部にも事情を伝える返事を書く./ 音羽から天の声あり.及第点のようだが,手直しが必要.

◇夜は,金曜のトークのスライドづくりとともに別件の原稿(たち)に向かう.

◇本日の総歩数=14252歩[うち「しっかり歩数」=6210歩/55分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=0.0kg/0.0%.


8 mei 2007(火) ※ とてもあついのは尻に火がついているから……

◇午前4時半起床.晴れ.気温14.1度.北の風.

◇午前のこまごま(すべて進化学会関連) —— 日本学術会議の登録移行手続きをする.旧制度のもとでの学協会登録はすでに終わっていることが確認されたので,やるべきことは新制度への移行のみですむことになった.紙一枚を用意して,項目記入する.学術会議なので,男女数比率にはことのほか細かい./ 進化学会ニュースの書評を書くのだった…….ふかつ編集長より「締め切り過ぎました」メール届く.こんなん,もらい慣れてまっせー.すぐ書きますです.

◇昼休みは青空が広がり,気温は22.1度.この分だと今日は夏日にはならないようだ.歩き読み —— 酒井聡樹『これからレポート・卒論を書く若者のために』(2007年5月15日刊行,共立出版,ISBN:978-4-320-00574-7→著者サイト版元サイト)を第5章まで読む.60ページあまり.方々の大学でレボートを採点していると,ここに挙げられているような「悪しき例」は確かに多々ある.かなり根本的な意味で「リテラシー」に難のある学生は少なくない.「誰が読むのか」を考えていない(と思しき)文章がいちばん困る.それにしても,酒井師の文章は読みやすい.読者は,かくのごとき「文体」で自ら書けるようになれば,本書の目的は達せられたことになる.“ベガルタ”とか“牛タン”の猛攻に負けてはいけない.

◇午後1時半から1時間ほど,〈形態測定学講義〉の輪読31回目.第12章「Disparity and variation」の続き(pp. 302-308).形態空間(morphospace)の中で,観察された形状がどのように“分布”しているかをテストするという問題を論じる.帰無モデルとして Gaussian と uniformity(over-dispersion)を想定し,データから得られたパラメータ推定値(平均と分散推定値)を用いた parametric bootstrap により,観察された形状集団内の形状間距離(プロクラステス距離)の分布をテストする.Gaussian と uniformity が棄却されれば,形態空間内でクラスターを形成している(すなわち集中分布している)ことになる.こういう検定方法がすでに実用化されていたとは知らなかった.

◇午後のこまごま —— 学術会議の手続きはほぼ完成.明日,六本木に郵送しよう./ 会計監査の人選をうっかり忘れていた./ 学生の受け入れに関する所内手続き(完了)./ 計量生物学会から原稿督促メール.やばいやばい./ 音羽から探針電話あり.こちらはやや余裕か.今晩しあげます.

—— ぼうぼうと燃え盛ってきたぞー.ぼうぼうと.

◇本の山を切り崩すこと —— いまの研究室にはすでに公私入り交じった本の山や丘ができている.地震があるたびに端の方から少しずつ崩落しつつあるのだが,山津波はまだ発生していない.しかし,所内にはここのような“本の館”は他にないらしく,毎年この時期に行われる「所内巡視」のたびに警告を受けている(ようするに整理整頓がなってないとのことだ).これまでは「はいはい」と軽く受け流していたのだが,今年から厳しくなって,巡視で指摘された点に関する改善が見られない場合は,「再指導」になるらしい.これはまずいかもしれない.昨年のプチ引っ越しで,段ボール箱入りの本の山が新たに積み上がって新山を形成している.はっきり言って足の踏み場もない.今年の巡視は今月18日だそうだ.心配したやってきた領域長と善後策を相談する.アレをこちらへ,ソレをあちらへ,ということでこの場は切り抜けましょう.※切り抜けてどーするというツッコミはなしね.

◇21:01に地震あり.緩く大きな揺れだった.震源地は茨城県南部.

◇その後,またまた連載原稿に取り組む.日が変わる直前に脱稿.題して:「トリヴィア,マルジナリア,そしてマドレーヌ」.400字×20枚の制約はほぼ守れたかな.

◇本日の総歩数=10762歩[うち「しっかり歩数」=6339歩/56分].全コース×|×.朝○|昼○|夜 .前回比=+0.2kg/+0.4%.


7 mei 2007(月) ※ 初夏の陽気の平日復帰は西夏文字とともに

◇午前4時半起床.小雨のち曇り.気温15.1度.日が昇るとともに晴れてきた.10時の気温は18.9度に.

◇午前のこまごま —— 進化学会賞と木村賞の公告を配信する./ 〈R 2.5.0〉の Mac 用実行ファイルのダウンロード./ 進化学会関連の事務連絡メールを出す.

◇昼休みの歩き読み —— 青山潤『アフリカにょろり旅』(2007年2月10日刊行,講談社,ISBN:978-4-06-213868-0)を読了.ターゲットがやっと獲得できてよかったねえ.著者らがこれだけ必死になってアフリカの極限大地を探しまわった“ウナギ(=ラビアータ)”が,現代の「ウナギ学」の中でどういう位置付けの生き物なのかがもう少し詳しく触れられていればなおよかっただろう.

—— 午後1時の気温は22.2度.湿度が低いので,とても爽やかな陽気だ.

◇午後のこまごま —— JICAへの返信を出す./ 西夏文字は,〈インターネット西夏学会〉で検索できます.さらに網羅的に調べるには,〈今昔文字鏡〉を参照するのが最善かも.漢字に近縁な文字群はたいへんおもしろいと前々から思っていたが,深入りしてはならぬぞ.>ワタシ.

◇夜は,原稿書きの続き.初回の落としどころを探しているところ.どこに着陸しても,それなりの道は開けていくにちがいないが.

◇飛び入りの申し入れ —— 某新書からの執筆依頼メールあり.たいへん惹かれるテーマなのですが,いまは身動きがちーとも取れないのですよ,と悩むワタシ.

◇備忘メモ —— 関西圏大学非常勤講師組合から,最新の報告書『大学非常勤講師の実態と声 2007(PDF版)』が公開されている.「大学非常勤講師実態調査アンケート報告書 (2005-2006調査)」と銘打たれている.これまで「2001年」と「2003年」の報告書が公開されてきたが,それに続く第三弾だ.若手の専業非常勤から定年後の非常勤まで,さまざまな年代の「声」が詰まっている.ぼく自身が大学非常勤講師を年に何回も勤めているので,ここに書かれていることは他人事ではない.

もちろん,本報告書の自由記入欄で繰り返し表明される,「本務地をもつ非常勤講師は禁止してもらいたい」という専業非常勤講師の意見は,かぎられた“パイ”(しかも年々縮小しつつある)をめぐる競争という視点からみれば確かに一理ある.しかし,非常勤講義を依頼する側はおそらく個人的なツテを通して依頼するしか手がないのが実情だろうから,この問題に対処するには第三者機関としての「非常勤講師斡旋センター」みたいなものをつくるしかないのかもしれない.

なお,本務地をもつ非常勤講師が「アルバイト稼ぎ(=二重取り?)」をしているという指摘は必ずしもあてはまらない(そう見られているふしがあるようだが).ぼくの場合は,大学に出講する際は「兼業」として扱われているので,確かに出講先から俸給はもらっているのだが,その出講時間数だけ本務地の給料は削減されている.ある時点における給料の支払先はつねにたった一カ所であって,複数の事業者からもらっているわけではない.

専任教員と非常勤教員との“溝”(金銭上の,待遇上の,そして感情的な)はますます広がっているような気がするが,これって分野によってずいぶん差異があることではないだろうか.

◇本日の総歩数=9534歩[うち「しっかり歩数」=4971歩/43分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.7kg/−0.7%.


6 mei 2007(日) ※ ゴールデンウィーク最終日は曇りのち雨に

◇午前5時半起床.曇りときどき小雨.気温は低め.予報通りの下り坂.ほどなく本降りになる.気温はなお低く推移している.

◇連休最後のこまごま —— 進化学会編集の辞典『進化のすべて(仮)』(共立出版)の項目リストをチェックして意見をつける.21世紀に入ってからというもの,さまざまな専門辞典が日本で刊行されてきた.ぼく自身も数冊の辞典の項目執筆に関わってきた.今回も『生態学辞典』と同じく学会主導の辞典編纂だ(出版社も同じ).午前10時前にレポートをまとめて,三島にメール返信する.この件はとりあえずおしまい./ 昨日の原稿の続きを少し書く.今日中に書き上げるべし.bibliophilia につけるクスリはない.

◇朝の食卓のトルティージャ —— 久しぶりに大きなトルティージャ・エスパニョーラ(スペイン風オムレツ)を焼いた.メキシコの主食も“トルティージャ”ですが,ぜんぜんちがうのにどうして名前が同じなんでしょ(収斂か?) 大人数が集まるときにはぴったりの一品ですな.鉄のフライパンを振り回すのに,ぐぐっと腕力がいる.昔からつくり慣れたメニューなのだが,今回は割にできがよかったので,レシピをメモしておこう:

  1. 材料.ジャガイモ大2個,新タマネギ大1個,トマト大1個,卵10個,オリーヴオイル.
  2. 下ごしらえ.ジャガイモは軟らかく茹でて,皮を剥き,1cm厚に切る.新タマネギは薄切り.トマトは5ミリ厚にスライスして,種を抜く(このとき水気を切る).卵はボールに割り入れて,よく溶いておく.
  3. 厚手のフライパンを十分に熱して,オリーヴオイルをこれでもかっと注ぐ(ケチってはいけない).まずはタマネギをきつね色になるまで炒める.うっかり焦がすと苦味が出てしまうので,甘みが出るぎりぎりのところまで炒める.いったん皿に取り出す.続いてジャガイモを焦げ目がつくように炒めて,塩胡椒する.これも皿に取り出す.
  4. トルティージャの片面を焼く.強火にした同じフライパンにオリーヴオイルを足して,卵の半量を流し込み焦げないように揺すりながら,ジャガイモとタマネギを投入する.フタをして揺すりつつ数分.外周部分が固まったら,そのまま大皿に出す.これで半面の完成.
  5. トルティージャのもう片面を焼く.フライパンに残りの卵をすべて流し込み,少し固まったら薄切りトマトを並べる.
  6. 両面合体.4でつくった半面を大皿2枚を重ねて裏返しにし,そのまま5のフライパンの中にかぶせる.半焼けの状態で両面がうまく貼り合わさるように整形し,火を弱めて10〜15分焼く.両面に焼き色がついたらできあがり.そのまま食卓へ.

片面ずつ2回に分けて焼くというのが上のレシピのポイント.最初の頃はいっぺんに卵や具を流し込んでいたのだが,くるっと反転させるときによく失敗していた.そこで「鯛焼き」の手順にヒントを得て,片面ずつ別々に用意して半焼けの状態で貼り合わせるというふうにして以来,大きく失敗することはなくなった.今回の仕上がりは厚さ4センチほどだが,この「片面合体方式」だと厚さ10センチくらいまでは厚手のフライパンで大丈夫.ただし,貼り合わせ面をしっかり接合させるには,最適な“半焼け度”があるようだ.あまり固く焼けてしまうとくっつかなくなるし,かと言ってアモルファスな生々状態でも返しのときに失敗の危険性が高まる.貼り合わせ直前に追加の溶き卵を流しこむという奥の手もある.いずれにせよ最適な手順はまだ見つかっていない.

◇午後,雨足はいよいよ強まり,北東からの風も吹き出した.連載原稿をさくさくと(ぼちぼちと)書き進める昼下がり.夜になってようやく小降りになった.隣接する公演からは蛙の合唱.北寄りの風がやや冷たく感じられる.

◇連載原稿の続き.「連載」とはいえ,まだ初回の分を書いている段階なので,どう展開していくのかは不確定だ.たいていの場合,書き始めるとしだいに“成形”されてくるものなので(自己組織化),とりあえずは進むことが先決だ.週明けには音羽に送って,お伺いを立てたいと思う.初回は,やや懐古的かな.しかし,現在に続くスレッドをいくつか伏線として張って,後の連載につなげようと試みる.

—— 日本の若手生成文法学者として“天才”の名をほしいままにした故・原田信一は,高校生の頃からタバコ屋に二階に下宿しつつ,世界中の著名な言語学者たちに別刷請求の手紙を出し続けたという.請求された相手はてっきり日本の新進気鋭の若手教授から届いた論文リクエストだとそろって勘違いしていたそうだ.このエピソードをぼくが読んだのは,彼が1978年に30歳で自殺し,翌年,雑誌『言語』で編まれた彼の追悼特集に載った記事だったと記憶している.大学3年のことだ.もう30年近くも前のことなのに,不思議と記憶から揮発せずに残り続けている話だ.これもまたぼくにとっての“マドレーヌ”の一つであることはまちがいない.没後出版された論文集:原田信一(福井直樹編)『シンタクスと意味:原田信一言語学論文選集』(2000年11月10日刊行,大修館書店, ISBN:4-469-21261-X).

◇明日からは平常営業に復帰する.すぐにしなければならない用件がいくつか待機しているので,それを片付けることから今週は始まる.

◇本日の総歩数=1248歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼○|夜○.前回比=+0.5kg/+0.7%.


5 mei 2007(土) ※ こどもの日にはおとなもお休みしたいなあ

◇午前4時半起床.晴れ.気温18.0度.南風がやや強い.午前7時には早くも20度を超えた.今日も暑くなる気配あり.

◇〈これポ〉着弾! —— 久しぶりに研究所に早朝潜入したら,酒井聡樹『これからレポート・卒論を書く若者のために』(2007年5月15日刊行,共立出版,ISBN:978-4-320-00574-7)の献本が早々と届いていた.酒井さん,どうもありがとうございます.→著者サイト版元サイト

しかし,最近の学生さんは,論文はもちろん,レポートや卒論の前に,「日本語を書く」という点でつまずくこともあるという.とすると,酒井さんは,大学院生のための〈これ論〉,学部学生のための〈これポ〉に続いて,新入生のための『これから日本語を書く若者のために』(略称〈これ日〉)を書いて,「三部作」をみごと完結させる必要があるのかもね.

◇ついでに研究室でこまごま —— GW明けにすぐ処理しないといけない進化学会関連案件がいくつか:学会賞公告は案のままで会員に配信する.木村賞公告とともに/ 学会として進めている『進化学辞典』の項目検討は明日6日が締切だ.項目担当者はお忘れなく三島に返信するように./ 今月のその他の予定を確認する.今月は,東大“2号館”セミナー,総研大講義,東大農学部集中講義と高座やお座敷の予定がいろいろ入っている.

◇昨夜のよそ見の続き —— 笹原宏之『国字の位相と展開』(2007年3月31日刊行, 三省堂, ISBN:978-4-385-36263-2→概略目次|詳細目次(1 / 2 / 3)|版元ページ).形質置換(character displacement)という生物進化プロセスがあるが,それに相当すると推測される形質の分化的変化が国字の「暗合/衝突」でも観察されている:

「王」と字体が酷似した「ギョク」「たま」を表す字には,区別のために「ヽ」を加えて「玉」となった例のように,類形ないし同形の二つの字がともに使用頻度数が高い場合,衝突を回避するために字体の差別化,示差特徴の強調を行うことがあり,字体変化の一因としても重視すべき現象である.(p. 120)

◇そろりそろりと原稿を書き始める.“スターター”はこれで大丈夫だろう.

◇連休中だから許されるさらなるよそ見 —— マルセル・プルースト(鈴木道彦訳)『失われた時を求めて1 — 第一篇:スワン家の方へ I 』(2006年3月22日刊行, 集英社[集英社文庫へリテージシリーズ], ISBN:4-08-761020-9).“ママン”のことはこっちに置いといて,過去をさかのぼる悩みが綴られている.こんなぐあいに:

私たちの過去についても同様だ.過去を思い出そうとつとめるのは無駄骨であり,知性のいっさいの努力は空しい.過去は知性の領域外の,知性の手の届かないところで,たとえば予想もしなかった品物のなかに(この品物の与える感覚のなかに)潜んでいる.私たちが生きているうちにこの品物に出会うか出会わないか,それは偶然によるのである.(pp. 107-108)

このあと,口にした“紅茶に浸したプチット・マドレーヌ”が「私」の過去の記憶を紡ぎだすという有名な場面へとつながっていく.

◇午後から夕方にかけて10枚ほど書く.『本』毎回の連載は「20枚」なので,この調子で書ければいいか.連載タイトルもいちおう考えてみたのだが,ややシブ過ぎるか.各回の題名でそれらしくすればいいか.いったん書き始めてみれば,それこそ“マドレーヌ”はいたるところにあるので,立ち往生することはないだろう.進化学の過去から現在へ,そして現在から過去を往復するというのは,個人的には悪くないと思う.

—— 明日,残りの10枚を書いてしまおう.それから,別件のベタ遅れ原稿も.

◇夜は,金田の〈藤右エ門〉にて会食.

◇このGWはこれまで天気がとてもよかったが,明日の関東地方は雨になるという.

◇本日の総歩数=3426歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].全コース×|×.朝○|昼−|夜×.前回比=+1.1kg/−0.7%.


4 mei 2007(金) ※ シェヘラザードとアラジンとシンドバッド

◇午前5時起床.朝から晴天が広がる.暖かく南風.初夏の陽気は続く.今日も夏日になるだろう.

◇日本進化学会第9回京都大会の大会サイトが公開された.大会期間は「8月29日〜9月2日」.奮ってご参加ください.

◇朝の読み歩きは大学会館で折り返す —— 西尾哲夫『アラビアンナイト —— 文明のはざまに生まれた物語』(2007年4月20日刊行, 岩波書店[新赤版1071], ISBN:978-4-00-431071-6).読了.第4章「アラブ世界のアラビアンナイト」では,物語のお膝元に目を向ける.もともと,アラブ世界では,アラビアンナイトは文学作品としてそれほど重視されてはこなかったらしい.しかし,ヨーロッパでの評判の高さに呼応して,“逆輸入”されるかたちでの再評価がなされつつあるという.第5章「日本人の中東幻想」では,アラビアンナイトが日本でどのように翻訳されてきたのかを論じる.青少年向けの読み物として,また一般読者向けのファンタジー作品として,この物語は日本で受容されてきた.

第6章「世界をつなぐアラビアンナイト」は,アラビアンナイト物語に触発されてつくられた,後世のさまざまな作品あるいは現代に連なる文化現象を概観する.管弦楽曲やバレーをはじめとして,数多くの映画作品,〈ドラゴンクエスト〉のような電子ゲーム,〈マジック・ザ・ギャザリング〉などのカードゲームのように,アラビアンナイトの波及効果はまさに果てしない.その「果てしない物語」として長年にわたって変容して(されて)きたアラビアンナイトのもつ性格を“オリエンタリズム”というキーワードのもとに再び考察しているのが,最終章「『オリエンタリズム』を超えて」だ.

300年前の1704年に,パリでアントワーヌ・ガランの手になる初めてのアラビアンナイト物語抄訳版『千一夜』が出版された.そして,ヨーロッパに紹介されてから300年目にあたる2004年は「アラビアンナイト記念年」に指定され,方々で記念行事が開催されたらしい.

最終章の結びで,著者は日本人にとっての「アラビアンナイト」の中東世界は,今もなおファンタジーの中にとどまっていると指摘する.平均的な日本人のメンタル世界マップでは,中東地域はマージナルにとどまっているということなのだろう.まことに恥ずかしながら,〈月の砂漠〉に歌われたのはアラビア半島だかエジプトの沙漠だと勝手に思い込んでいたのだが,実は千葉の御宿海岸を歌ったものであることを最近知った.マージナルとコアとが微妙に混ざり合うとは実にええかげんな認知地図だ.

—— この本を歩き読んでいるときは,いつもリムスキー=コルサコフの交響組曲〈シェヘラザード〉が頭のなかを鳴り響いていたのだが,ときどきニールセンの舞踊音楽〈アラジン〉も聞こえたりして,それはそれはオリエンタルな匂いが漂う.

◇国字の“homoplasy” —— 笹原宏之『国字の位相と展開』(2007年3月31日刊行, 三省堂, ISBN:978-4-385-36263-2→概略目次|詳細目次(1 / 2 / 3)|版元ページ).字形がたまたま一致する現象としての「暗合」と「衝突」についての論議(第1章第3節第2項).いずれも,系統学に置き換えれば,漢字字形の系統関係のコンテクストを踏まえたときに生じる homoplasy とみなせる.

著者の定義によると(p. 116):

「暗合」=個別的な字体変化,造字による同一字間の字体の一致
「衝突」=個別的な字体変化,造字による別字間の字体の一致

となる.「暗合」と「衝突」は,いずれも共有派生形質(synapomorphy)として説明できる一致性(仮想共通祖先漢字に帰せられる相同性)としてではなく,個別の漢字系譜において生じた homoplasy(非相同性)として説明されるという共通点がある.

「暗合」と「衝突」とを厳密に分けるのが難しいことを承知の上で言えば,同一字間のパラレルな homoplasy である暗合は「parallelism(並行進化)」に,そして別字間に生じる homoplasy である衝突は「convergence(収斂)」に相当する概念だろう.暗合の例としては「閠」が,衝突の例としては「暃」が挙げられている.さらに,暗合と衝突が併存する場合もあるという.

◇本日の総歩数=10071歩[うち「しっかり歩数」=8685歩/75分].全コース○|×.朝○|昼○|夜△.前回比=+0.4kg/+0.7%.


3 mei 2007(木) ※ 益子ではしご,プチ遠出する連休後半初日

◇午前5時起床.晴れ.気温はすでに高い.

◇久しぶりの早朝の歩き読みは天久保方面へ —— 西尾哲夫『アラビアンナイト —— 文明のはざまに生まれた物語』(2007年4月20日刊行, 岩波書店[新赤版1071], ISBN:978-4-00-431071-6)の第3章まで100ページ.偽写本と“超訳”が跋扈するアヤシイ本の世界が広がる.ノイズが多過ぎるわ,翻訳者が嘘をつくわ,当時のオリエンタリズムによる歪曲はあるわで,古写本の元をたどるのは容易ではない.第1章「アラビアンナイトの発見」では,最初の翻訳者であるフランス人アントワーヌ・ガランの事績をたどる.第2章「まぼろしの千一夜物語」では,『アラビアンナイト』のさまざまな写本をとりあげ,その真贋も含めて論じる.第3章では,イギリスでのいくつかの英訳版出版に目を移し,児童文学として生まれ変わった『アラビアンナイト』の登場に着目する.東方へのさまざまな思いがオリエンタリズムというかたちをとって,『アラビアンナイト』を徐々に大きく変容させていく.

◇〈R 2.5.0〉が先月公開されていたので,まずは自宅用にWindows版をダウンロードする.Mac用は後回し.

◇「名字ランキング」に関する備忘メモ —— ときどきまとめてメモしておかないと,すぐに散逸してしまう.日本人の「姓(名字,苗字)」の順位をオンラインで検索できるサイトは以前はいくつかあったのだが,閉鎖されたりして数が減ってしまったようだ.まず,上位「30,000位」までであれば,〈村山ランキング〉に基づく〈苗字舘:全国と都道府県の苗字ランキングと分布〉で調べられる.ちなみに「三中」は「19,079位」,全国で「60件」だ.

さらにマイナーな名字を調べるためには,〈須崎ランキング〉に基づく〈全国の苗字(名字)10万種掲載〉がある.この〈須崎ランキング〉には,2007年4月29日時点で,なんと「102,703種」もの名字が登録されているとのことだ.この検索システムによると,「三中」は「18,255位」,国内での世帯数は「68件」とのこと.電子電話帳〈写録宝夢巣〉に基づく同規模のサイトもある:〈日本の姓の全国順位データベース〉.ただし[いま見た限りでは]検索窓がうまく機能していないようだ.

もうひとつおもしろいサイトがあって,そこでは「苗字の読み方」を教えてくれる:〈苗字(名字)の分布と読み方〉.このサイトで「三中(みなか)」を調べてみると,登録件数は「55件」で,その地理的分布は「兵庫(14)石川(6)大阪(6)鳥取(5)」とのこと,実際,ワタクシのルーツは石川県輪島市にある(さらにさかのぼると富山県氷見市)というので,あながち外れているわけではなさそうだ.

—— 名字で遊んでりゃ世話ないって? せっかくの連休やしものすご安上がりやし許してくれはらしまへんか?

◇昼前につくばを出発して,益子の陶器市に行く.日射しは初夏のようで,風もなく暖かい.早々と衣替えの季節かもしれない.1時間あまりで益子に到着.とんでもない人出の多さだ.益子でも笠間でも,店頭にたくさん並んでいると,つい手を伸ばしたり,ついサイフのひもが緩んだりするのだが,服飾品とはちがって,重いしかさばるので,油断してはいけない —— がやっぱり買ってしまった…….

この連休中はずっと陶器市が開催されているようだ.明日からは徐々に天気が下り坂になるそうなので,今日行ったのがベストの選択だろう.

◇夜の読書 —— 笹原宏之『国字の位相と展開』(2007年3月31日刊行, 三省堂, ISBN:978-4-385-36263-2→概略目次|詳細目次(1 / 2 / 3)|版元ページ).「佚存文字」に関する議論(第1章第3節第1項).たとえば,ある地域に生物Aが分布し,他の地域にはいないときであっても,その生物は「その場所で」進化したと言い切るのは相当に勇気のいることだろう.姉妹群を含む系統的な近縁群のなかでの生物Aの位置づけがあってはじめて,歴史生物地理学的なシナリオ(vicariance / dispersal あるいは ancestral area)がテストできるからだ.しかし,伝統的な国字論では,日本にしか存在しない字体Aは即「国字」であると判断してしまう事例が少なくないと著者は指摘する.しかし,mother land たる中国の古い漢籍を調べてみると,実は字体Aは“made in China”であって,伝播によって日本に到達したものの,母国では死字となってしまって伝承されなかったと推測される場合があるという.著者はそのような字体を「佚存文字」と呼ぶ.たとえば,「匁」や「塀」は佚存文字の例だそうだ.

◇原稿書き —— 心の準備と前傾姿勢.

◇本日の総歩数=12454歩[うち「しっかり歩数」=6638歩/57分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−1.4kg/+0.4%.


2 mei 2007(水) ※ 藤も躑躅もほころぶ八十八夜は東京にて

◇午前4時半起床.雨.気温16.3度.午前6時過ぎにいったん晴れ間が覗いたのに,8時頃には再び雨に逆戻りするが,9時過ぎにはまたまた晴れる.めまぐるしく変わる空模様.

◇午前いっぱいは進化学会関連のこまごま —— 学会賞の公告の文面を調整し,連休明けに木村賞の公告とともに掲示する予定.昨年よりも締切が少し早まった.その他,事務連絡など.

◇晴れ上がるとともに蒸し暑くなってきた.昼にいったん帰宅し,13:11発の TX 快速にて東大へ.人出でごったがえす根津神社〈つつじ祭〉を横目にS字坂を上がり,山上会館へ.東大構内は初夏のようだ.今日の用務は生物科学学会連合(生科連)の会議.今回から事務担当が京都の中西印刷に代わり,取締役の中西秀彦さんに初めてあった.本の印刷と出版に関する数々の本の著者でもある(晶文社から).

午後3時から5時過ぎまで会議.生科連として日本学術会議への団体登録をするので各学会にはその準備が必要になる.進化学会は学協会の登録を再度しないといけないそうだ(用事が増えるな).以前の学術会議のときに登録作業をぼくが進めたが,新体制になってから再度の登録が必要とのこと.前のように学協会の代表として会員を選出するということが,新制度のもとではなくなったために再登録を忘れていたらしい.

今日の会議の議題のひとつは秋のシンポジウムのテーマと演者に関する詰めだったが,もうひとつの主要な議題は国際生物オリンピック(IBO)への対応.2009年に筑波大学を会場として〈IBO2009〉が開かれることが,この3月に急遽決まったので,開催準備やら資金集めがたいへんそうだ.億単位の資金が必要になる.

もうひとつ,2009年のダーウィン生誕200年を記念する行事を生科連として開催したいとのことで,進化学会との協力で企画をすすめることになりそうだ.来年の進化学会横浜大会は学会創立10周年で大きめの企画を立てるわけだが,それはダーウィン生誕200年の“プレ企画”にも位置づけられる.その翌年につながるイベントが計画できれば進化学会としても歓迎すべきだろう.あとで評議員に相談する必要あり.

—— 会議終了後,郷さんと学会に関する用務相談をいくつかすませる.

◇つくばに帰り着いたのは午後7時前のことだった.地面が濡れているところをみると,午後に雨が降ったようだ.今日は降ったり晴れたりで蒸し暑い1日だった.

◇車中読書 —— 田村義也『ゆの字ものがたり』(2007年3月10日刊行,新宿書房, ISBN:978-4-88008-365-0→版元ページ).前著『のの字』を読み終えたので,ようやく新刊の『ゆの字』をひもとくことができた.本文に入る前に,「別冊附録」を読む.故人が装丁した本の著者たち(安岡章太郎,金達寿,本多勝一ら)によるエッセイ集だ.

◇明日からは連休後半だが,すでに根雪と化した原稿書きを融かさないことにはどーしようもない.というわけで,ひたすら籠るか,プチ外出にとどまるだろう.

◇本日の総歩数=13832歩[うち「しっかり歩数」=3563歩/51分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.2kg/−1.4%.


1 mei 2007(火) ※ 連休の谷間にはまってさあたいへん

◇午前4時半起床.曇り.気温12.8度.

◇大型連休の谷間にも雑用の「花」は今を盛りと咲き乱れる —— 月初めのメーリングリスト広報.今月は遅滞なし.ついでに,“死に体アドレス”の大掃除をする.evolve / biometry / taxa を合計して150アドレスほどを「一時休止」にした.これだけでもエラー返送の数は激減するだろう./ 東大・連携大学院の紹介記事を専攻同窓会〈紫工会〉会報に出すこと.連絡先と紹介文の手配.この件は完了./ 昼前にかけて進化学会評議員へのメールを出す.長く書きすぎて昼休みにずれこんでしまった.

◇献本感謝 —— ショーン・B・キャロル(渡辺政隆・経塚淳子訳)『シマウマの縞 チョウの模様:エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源』(2007年4月30日刊行, 光文社, ISBN:978-4-334-96197-8→版元ページ).今回の訳業は比翼連理の賜物ですか.どうもありがとうございました.原書は:Sean B. Carroll『Endless Forms Most Beautiful : The New Science of Evo Devo and the Making of the Animal Kingdom』(2005年4月11日刊行, W. W. Norton, ISBN:0393060160 [hbk] / ISBN:0393327795 [pbk]→著者サイト).

◇今日はメーデーで,つくばでの大会は大清水公園で開催された.“上空”からの撮影だけでごめんねー.昨年はメーデー実行委員だったので,早朝からの場所取りだのいろいろと仕事があったのだが,今年はまったくなし.動員もなし.したがって,高見の見物のみ.陣太鼓?とともに開始か.雲がしだいに厚くなってきて,今にも雨が降り出しそう.

◇小雨の昼休み.気温は17.1度.傘さして雨中を読み歩くオロカ者 —— エリック・ジッリ(本多力訳)『洞窟探検入門』(2003年3月10日刊行, 白水社[文庫クセジュ 860], ISBN:4-560-05860-1).出てすぐに買っておいたのだが,何年も放置されていた.100ページ,第7章まで読む.縦穴,横穴,水没穴,熱帯穴に凍結穴,穴があったら入りたいゆうことですか.イノチがけやな(実際,致命的事故も多い).アクアラングの発明者がクストーだとは知らなかった.この本は,洞窟に入るためのさまざまな装備について事細かに書かれている.洞窟探検が無謀な冒険家の勇気だけで何とかなる時代はもう終わって,最先端の器具や設備をともなって暗闇を進む“任務[軍務]”のようなものか.日本だと数十キロの長さでも最大級と形容されるが,世界を見渡すと何百キロもの洞窟(文字どおりの「マンモス洞窟」)があるそうだ.

—— 歩いているうちにしだいに本降りになってきた.

◇午後のこまごまはすべて進化学会関連.午後3時を過ぎて,空が明るくなり日が射してきた.天気予報はみごとにハズレたかも.しかし,夕方になって,またぱらりと降ってみたり.しかし,夜には再び本降りに逆戻り.

◇夜は,次の原稿仕事のための“心の準備”をば.

◇本日の総歩数=13338歩[うち「しっかり歩数」=6459歩/55分].全コース×|×.朝○|昼○|夜△.前回比=−0.3kg/+0.5%.


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