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THE BOOK OF CIRCLES — 円環大全

知の輪郭を体系化するインフォグラフィックス

マニュエル・リマ[三中信宏監訳|手嶋由美子訳]

2018年2月26日第1刷刊行

ビー・エヌ・エヌ新社, 東京, 278 pp.
本体価格3,800円 [B5版変型・ハードカバー]
ISBN:978-4-8025-1070-7

版元ページ書評等

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The Book of Circles: Visualizing Spheres of Knowledge
Manuel Lima (2017)
Princeton Architectural Press, New York, 272 pp.
ISBN:978-1-61689-528-0 [hbk]
版元ページ






目次

口絵 1
序文 11
謝辞 13

序章 15
円環の分類 57

 Family 1:輪と螺旋 67
 Family 2:車輪図とパイチャート 93
 Family 3:グリッドと経緯線網 121
 Family 4:環状増減図 149
 Family 5:形状と輪郭 177
 Family 6:地図と計画図 203
 Family 7:ノードとリンク 231

参考文献 259
図版クレジット 262
監訳者解説:円環の花園 —— 洋の東西をまたぐある図像世界の多様な展開[三中信宏] 266
索引 272
著者紹介 278



口上

私が翻訳を手がけた前書:マニュエル・リマ『The Book of Trees — 系統樹大全:知の世界を可視化するインフォグラフィックス』(2015年3月,ビー・エヌ・エヌ新社)で,著者リマは古今東西にわたる「樹木」の図像をあまねく渉猟し,その豊穣なイメージ世界の現代にまでつながる歴史の厚みを多くのカラー図版を通してわれわれに見せてくれた.紀元3世紀のギリシャの哲人ポルピュリオスによる「ポルピュリオスの木」は存在物の階層を可視化する樹形ダイアグラムの先駆となった.その後,12世紀の思想家ライムンドゥス・ルルスの有名な「知識の樹」を含め,樹形図と系統樹の図像的伝統は現代のインフォマティクスにまで連綿と受け継がれてきたことをリマは示した.

樹木の形状を模した分岐的ダイアグラムを用いることにより,われわれは多様な事物に関する複雑なデータを効率的に体系化し,その理解を深めることができる.インフォグラフィック・ツールとしての樹形図が長きにわたって使われ続けた背景にはユーザーであるわれわれ人間にとってこの形式のダイアグラムが確かに役に立ったからである.分類構造と系統関係の可視化ツールとしての樹形ダイアグラムに関する一般論は三中信宏『思考の体系学:分類と系統から見たダイアグラム論』(2017年4月,春秋社)で論じた.そして,生物体系学の現代史においてさまざまな樹形ダイアグラムが果たした役割については三中信宏『系統体系学の世界:生物学の哲学とたどった道のり』(2018年4月刊行予定,勁草書房)でくわしく考察した.

リマによる系統樹ダイアグラムの分類体系をあらためて見直してみると,現実世界の樹木によく似たタイプもあれば,放射状あるいは平面分割型の樹形マップもある.それらの系統樹カテゴリーの中でもとりわけ目に留まるのは,円環状の樹形図 —— 放射樹・双曲樹・円環樹マップ・多層同心円マップ —— である.リマは円環が普遍的である理由を次のように説明している.

「円は地球上でもっとも広く用いられてきたシンボルのひとつであり,人類が出現して以来さまざまな変容を遂げてきた.統一・完全・無限という意味を帯びた円は重要な視覚的比喩として,地図製作術から天文学,物理学,幾何学にいたるまでいろいろな分野での思考体系に影響を及ぼしてきた.したがって,この円が階層構造の表示のために用いられるようになったのは必然だった」(リマ 2015, p. 123)

リマの関心が,系統樹のみにとどまらず,円環そのものがかたちづくる時間と空間を超越するもっと広範な図像世界に向いていたことは,今回私が監訳を手がけた本書『The Book of Circles — 円環大全:知の輪郭を体系化するインフォグラフィックス』の序文にも書かれている.本書はグラフィック・デザインあるいはコンピューター・グラフィクスの図案集という読まれ方をするかもしれないが,けっしてそれだけにはとどまらない.たとえば,統計グラフィクスの先駆者であるフローレンス・ナイチンゲールが19世紀クリミア戦争の戦死者データを円グラフ(パイチャート)として図示した例が本書に挙げられている.統計データ解析におけるグラフィック・ツールの適切な利用が重視されていることは,三中信宏『統計思考の世界:曼荼羅で読み解くデータ解析の基礎』(2018年4月刊行予定,技術評論社)でも論じた.円環ダイアグラムのもつ図形言語としての可視化能力は,現代科学が直面している複雑かつ膨大なデータをいかにして理解するかという難問への有効なアプローチを示唆している.

本書を手にした読者は,数々の円環型ダイアグラムがつくりだすもうひとつの図像世界を旅することが約束されている.その意味で,本書はまちがいなく稀有の読書体験となるだろう.

[三中信宏「監訳者解説」から抜粋加筆:2018年2月22日]


Last Modified: 23 February 2018 MINAKA Nobuhiro