Home


進化思考の世界

ヒトは森羅万象をどう体系化するか


三中信宏著

2010年9月25日第一刷刊行
日本放送出版協会[NHK Books: No. 1164], 東京
265 pp., 本体価格1,100円(税込価格1,155円)
ISBN:978-4-14-091164-8
版元ページ
余響録
正誤表
販売中 → amazonbk1BookWebe-hon7net





【目次】

まえがき —— 呼び出される祖先 3

序章:進化学の「源流」をたどる旅への出発 13

 1.インターネットに生きるチャールズ・ダーウィン 13
充実するダーウィン産業/厖大な書簡に残された科学的対話
 2.図像世界を広げたエルンスト・ヘッケル 17
ヘッケルの血縁譜とナチス
 3.進化思考の起源:ダーウィンとヘッケルの背後にあるもの 21
ダーウィンとヘッケルの背後にあるもの/本書の構成

第1章:チャールズ・ダーウィンを取り巻く英国博物学の空気 29

 1.チャールズ・ダーウィンはいかに生きたか 29
博物学者ダーウィン
 2.旅するナチュラリストたちは何を見たのか 31
冒険のタペストリー/一九世紀イギリスの探検博物学
 3.イギリスの伝統的自然観とナチュラル・ヒストリー運動36
文化現象としてのナチュラル・ヒストリー運動/蒐集慾はどこから来るか/ナチュラル・ヒストリーの両義性

第2章:エルンスト・ヘッケルとドイツ体系学の系譜 47

 1.「万能酸」としての進化思想が及ぼした影響 47 (*1
ダーウィン進化論の破壊力/自然神学と自然科学,蜜月の終わり/生き残る博物学的伝統
 2.エルンスト・ヘッケル,あるいは審美的自然観の伝統継承者 55
ヘッケルの生涯/進化学説の日本への輸入
 3.「Systema naturae」の栄枯盛衰:大陸的な体系学精神のゆくえ 69
分類はヒトの普遍的認知行為である/自然誌から自然史へ/「存在の連鎖」の時間化と非ダーウィン革命
 4.体系のシンボル:分類と系統の図像学に向けて 76
どのようなイメージで自然を理解するか/ヴァールブルク〈ムネモシュネ〉と無限の記憶/世界を支配する理法としての記憶術/分類マップ的図像の登場

第3章:描かれる進化の図像:分類,系統,マップ,ネットワーク 89

 1.バルトークの民謡分類とその博物学的精神 89
パンデミックの系統樹/バルトークとコダーイの分類的精神
 2.系図の起源と広がり:生命の樹,エッサイの樹,神聖系譜,写本ステマ,言語系統 93
家系図としての「樹」/系統樹をいかに構築するか/過去を復元する方法の確立へ
 3.二つの思考:世界観・レトリック・方法論 102
メタファーとメトニミー/分類科学と古因科学
 4.系統樹思考の系譜をたどる 109
系統樹への執念/イスラーム家系図の精緻な記法/血縁表から血縁樹へ

第4章:生物多様性を体系化する:時間軸と空間軸の可視化の試み 119

 1.去る者日々に疎し:マクリーと五員環分類体系の時代 119
「ダーウィンの番犬」ハクスリー,オーストラリアへ/マクリーの五員環分類/直線的分類から平面的分類へ/生物分類学の歩み/自然の規則性探求への情熱と観念論/「配列」の意味
 2.生物分類学から生物地理学へ:スウェインソンの挑戦 134
生物地理学の二つの問い/生物地理を分類する試行錯誤
 3.起源地を求めて:フォーブズと歴史生物地理学の黎明 139
イギリスの知的伝統と統計学/フォーブズの陸橋仮説/「体系家に災い多く,分類家に幸多かれ」/それでも「観念論」は不可避である
 4.対蹠地からの第二幕:生物多様性の時空的パターン分析 148
最果ての地にたどりつく科学的思潮/汎生物地理学の誕生と発展/パターンとプロセスの結びつき

第5章:体系思考と進化思考:存在と過程を探究する方法論 161

 1.進化する科学の痕跡をとらえること 161
体系学の来歴を探る意味
 2.ヒトを取り巻く「環世界」と体系化の精神 164
図像としてあらわれる「体系化の精神」/民俗分類の基本フォーマット/階層分類への進化的解釈の導入
 3.パターンからプロセスへ:存在の探究,過程の探究 173
前提としての「祖先」/仮定としての「祖先」/「姉妹群関係」で由来をつかむ/系統樹と分岐図の関係/パターンとプロセスの複雑な関係
 4.進化史の総体と進化子の動態 183
「生命の樹」の根の意味とは/分岐図からあり得る系統樹を導く/進化思考の二面性

第6章:21世紀の進化学と体系学:温故知新か偶像破壊か 193

体系学と進化学の未来
 1.系統情報学:系統樹思考に基づく生物情報学 194
生命を情報として解析する/ゲノム情報から系統発生を探る
 2.サイバー分類学:インターネット時代の生物多様性情報学 203
情報通信技術がもたらした発展/コンピュータの登場と「数量表形学派」「数量分岐学派」/情報技術による科学者コミュニティの変容
 3.パラメトリック系統学:統計科学としての系統推定論 210
系統学と統計学/推定値としての系統樹/アブダクションという推論様式/観察データの「尤度」から探る
 4.科学哲学:進化的思考からみた科学方法論と科学論 219
自然科学にとっての哲学/武器としての哲学/規範的科学像は成り立つか/「科学」に本質はない/進化する思考ツールとしての科学

終章:系統樹なくしては何ものも意味をもたない 231

ふたたび進化論へ
 1.中心から周縁へ:進化生物学の歴史と系譜 232
ダーウィニズムの変容/「現代的総合」の登場
 2.表層から深層へ:進化的思考の起源と波及 237
進化思考とは何か/進化思考そのものの由来を考える/進化思考はヒトにとって自然な思考か
 3.分類,系統,進化:三位一体の想念 244
フリーダ・カーロとレオナール・フジタの出自への思い/時代を超える系統樹という営み

あとがき —— かき消せない進化 249

引用文献 252
索引 [265-261]

  • *1) 第2章第1節は2016年の二松学舎大学の「国語」入学試験に出題された.

【口上】

「ダーウィンやヘッケル以降の一世紀の間に進化生物学がたどってきた歴史を振り返るとき,私たちはある一つの学問領域を支えてきた思想的基盤が,もっと現実的な人脈ネットワークや組織体制,さらには時代背景や社会・文化までせおっていることをいることを痛感する.自然科学には国家や民族を超える普遍性が期待されるが,実際にはさまざまな制約条件をせおった存在としての「科学」なる個物として存続してきたのである.そして,その学問系譜を背後からしっかり支えてきたのは進化思考という太い背骨だった.生物の系統樹と同様に,学問もまた伸び続ける一本の「樹」とみなすならば,ある時空的断面で切ったときの「切り口」はそのつどちがって見えるはずだ.本書では,現代の進化生物学を支える「進化思考」が時代も国も異なるさまざまな条件のもとで,どのように形をなして発現してきたかを見渡しながら,その裾野がどこまで広がりを見せるのかをたどってきた.進化思考という大きな「樹」の全体を見渡すことは大仕事である.偉大な功績を遺したダーウィンやヘッケルでさえ,この学問の「樹」の全体から見れば一本の「枝」にすぎないのかもしれない.」(終章,p. 248)


わたしはいつも現在に生きている.
未来は知らない.
過去はもう持っていない.
(フェルナンド・ペソア『不安の書』)


Last Modified: 26 April 2016 MINAKA Nobuhiro