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読む・打つ・書く

読書・書評・執筆をめぐる理系研究者の日々


三中信宏

2021年6月15日 第1刷刊行
2021年10月5日 第2刷刊行


東京大学出版会[東京大学出版会創立70周年記念出版],東京,xiv+349 pp.
本体価格2,800円(税込価格3,080円), ISBN:978-4-13-063376-5

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Climbing the Impossible Mountain

Reading, Reviewing, and Writing for the Bookworm-Scientist


Minaka Nobuhiro

University of Tokyo Press, Tokyo, xiv+349 pp.
ISBN:978-4-13-063376-5 [hardcover]
Published in June 2021

本書『読む・打つ・書く』を直接の祖先として,子孫本『読書とは何か —— 知を捕らえる15の技術』が派生しました.



目次

本噺前口上 —— 「読む」「打つ」「書く」が奏でる “居心地の良さ” i

プレリュード —— 本とのつきあいは利己的に 3 *1

 1. 読むこと:読書論 3
 2. 打つこと:書評論 6
 3. 書くこと:執筆論 7

第1楽章 「読む」—— 本読みのアンテナを張る 13 *1

 1-1. 読書という一期一会 14
 1-2. 読む本を探す 17
   1-2-1. 探書アンテナは方々に張る 18
   1-2-2. “ランダム探書” がもたらす幸運 20
   1-2-3. 多言語が張る読書空間の次元 26
 1-3. 本をどう読むのか?—— “本を学ぶ” と “本で学ぶ” 29
 1-4. 紙から電子への往路 —— その光と闇を見つめて 33
   1-4-1. 検索の舞台裏で 34
   1-4-2. タイプとトークン 38
   1-4-3. 薄切りされる電子本 41
   1-4-4. 知識の断片化と体系化 44
 1-5. 電子から紙への復路 —— フィジカル・アンカーの視点 48
   1-5-1. その電子本の原本は何か 49
   1-5-2. 物理的存在としての “フィジカル・アンカー” 50
   1-5-3. 電子本と原本との対応:ヘッケル『生物の一般形態学』を例に 53
 1-6. 忘却への飽くなき抵抗 —— アブダクションとしての読書のために 56
 1-7. “紙” は細部に宿る —— 目次・註・文献・索引・図版・カバー・帯 65
 1-8. けっきょく,どのデバイスでどう読むのか 78

インターリュード(1):「棲む」—— “辺境” に生きる日々の生活 83

 1. ローカルに生きる孤独な研究者の人生行路 83
 2. 限界集落アカデミアの残照に染まる時代に 91
 3. マイナーな研究分野を突き進む覚悟と諦観 96

第2楽章 「打つ」—— 息を吸えば吐くように 101

 2-1. はじめに:書評を打ち続けて幾星霜 102
 2-2. 書評ワールドの多様性とその保全:豊崎由美『ニッポンの書評』を読んで 108
 2-3. 書評のスタイルと事例 118
   2-3-1. ブックレポート的な書評:山下清美他『ウェブログの心理学』 119
   2-3-2. 長い書評と短い書評:隠岐さや香『文系と理系はなぜ分かれたのか』 125
   2-3-3. 専門書の書評(1):倉谷滋『分節幻想』 135
   2-3-4. 専門書の書評(2):ジェームズ・フランクリン『「蓋然性」の探求』 141
   2-3-5. 闘争の書評,書評の闘争(1):Alan de Queiroz『The Monkey’s Voyage』 164
   2-3-6. 闘争の書評,書評の闘争(2):金森修『サイエンス・ウォーズ』 175
 2-4. 書評頻度分布の推定とその利用 186
   2-4-1. 書評執筆実験の試み:岡西政典『新種の発見』を素材として 189
   2-4-2. 頻度分布からわかること:書評の平均と分散と外れ値 197
   2-4-3. 書評者は著者と読者にいつも評価されている 200
 2-5. 書評メディア今昔:書評はどこに載せればいいのか 201
 2-6. おわりに:自己加圧的 “ナッジ” としての書評 204

インターリュード(2):「買う」—— 本を買い続ける背徳の人生 211

 1. 自分だけの “内なる図書館” をつくる 211
 2. 専門知の体系への近くて遠い道のり 221
 3. ひとりで育てる “隠し田” ライブラリー 224

第3楽章 「書く」—— 本を書くのは自分だ 229

 3-1. はじめに:“本書き” のロールモデルを探して —— 逆風に立つ研究者=書き手 230
 3-2. 「読む」「打つ」「書く」は三位一体 236
   3-2-1. 知識の断片から体系へ —— 本の存在意義 237
   3-2-2. 学術書と一般書は区別できるのか 241
   3-2-3. ライフスタイルとしての理系執筆生活 246
 3-3. 千字の文も一字から —— 超実践的執筆私論 250
   3-3-1. 言わぬが花,知らぬは恥 ……『過去を復元する』『生物系統学』 252
   3-3-2. 前を見るな,足元だけ見よ ……『系統樹思考の世界』『分類思考の世界』 256
   3-3-3. “シルヴィア前” と “シルヴィア後” 259
   3-3-4. いかなる進捗もすべて晒せ ……『系統樹大全』 264
   3-3-5. 「整数倍の威力」:塵も積もれば山となる
        ……『統計思考の世界』『思考の体系学』『系統体系学の世界』 267
 3-4. まとめよ,さらば救われん —— 悪魔のように細心に,天使のように大胆に 276
   3-4-1. チャートとしての目次 277
   3-4-2. 土俵としての文献リスト 281
   3-4-3. “初期値” からの山登り:書いた文章を作品にするには 284
   3-4-4. 註をどうするか 287
   3-4-5. 本文テクストと図版パラテクストの関係 289
   3-4-6. その他のパラテクストたち:索引・カバー・帯 291
 3-5. おわりに:一冊は一日にしてならず ……『読む・打つ・書く』ができるまで 292

ポストリュード —— 本が築く “サード・プレイス” を求めて 297

 1. 翻訳は誰のため?:いばらの道をあえて選ぶ 298
 2. 英語の本への寄稿:David. M. Williams et al.『The Future of Phylogenetic Systematics』 302
 3. “本の系統樹” : “旧三部作” から “新三部作” を経てさらに伸びる枝葉 306

本噺納め口上 —— 「山のあなたの空遠く 『幸』住むと人のいふ」 311


謝辞 318
文献リスト [337-321]
書名索引 [340-338]
人名索引 [343-341]
事項索引 [349-344]

*1) 「プレリュード」(pp. 3-11)と「第1楽章」の一部(pp. 13-20)は東京大学出版会サイトから pdf として公開されています.


興行


勧進帳

本をめぐる出版事情はあいかわらず出口の見えないきびしい状況が続いている.もちろん出版社や編集者サイドでは魅力的な本づくりを目指して日々努力を重ねているだろう.しかし,肝心の “本を書く人” がいなければ売ることも宣伝することもできないだろう.問題は本の執筆にとどまらない.そもそも,学術書であれ一般書であれ,本を手に取って読むというごく当たり前の行為が揺らいでいるのではないだろうか.さらに,書評文化が必ずしも根づいてはいない日本では,読んだ本の書評を書くスタイルもまた根が浅いと言わざるを得ない.書評は単にその本を紹介したり読者に宣伝したりするだけのものではない.

本書『読む・打つ・書く』は,ひとりの “理系” 研究者がこれまでどのように本を読み,書評を打ち,著書を書いてきたかを,一般論ではなく,できるだけ具体的な自分自身の経験に基づく考察としてまとめた本である. “文系” の学問分野では「読む・打つ・書く」をめぐる論議が聞こえてくることもあるが,私が知るかぎり,いわゆる “理系” の研究分野で,読書論・書評論・執筆論をまとめて論じた本はほかにはない.

第一部「読む」では読書論を展開する.原著論文を通して “断片化” された知識を得ることと,一冊の本を読むことにより知識の “体系化” を図ることの対比を中核に据える. “理系” の研究者としてキャリアを積む上で,読むべき本をどのように探し出していくのか,いわゆる「電子本」はどこまで信用していいのか,さらに読書の実践的技法などについて考察する.読者ひとりひとりの “探書アンテナ” を鍛えていくことは読書人としてのリテラシー養成にもつながるだろう.

第二部「打つ」は書評論である.日本の多くの新聞・雑誌の書評欄では長い書評記事が出ることはあまりない.一方,インターネット上の書評サイトではもっと長文の書評が公開されることもある.私は2019年から2020年にかけて読売新聞の読書委員として書評を担当してきた.その経験も踏まえた上で,目的に応じた書評スタイルについて,実例を挙げながら解説する.さらに,実名あるいは匿名で書かれた書評をどのように読み解けばいいのかについても考察した.書評の書き方についてはこれまでいろいろ論じられたことはあったが,書評の読み方についてのまとまった議論は本書が初めてではないだろうか.

第三部「書く」は私の経験に基づく執筆論である.とりわけ “理系” の分野では,原著論文は書いても単著の本を書いてみようという動機付けがなかなか湧いてこないのが,昨今の日本の研究環境の実情だ.しかし,私は自分を “実験台” にして,ちょっとした努力の積み重ねで本を書く手立てがあること示した.本の執筆の入り口でまだためらっている彼ら書き手の背中を押すことが本章の大きな目的である.

以上,本書は本をめぐる三つの側面 —— 読書・書評・執筆 —— の現状と問題点を示し,その打破を目指すには何から始めればいいのかについて読者にとっての考える足がかりを提示する.サブタイトルが示すように,本書は “理系” の分野での「本」に関する日々の営み全般を再考してもらおうという意図で自然科学・科学史・科学哲学分野の本を題材として取り上げている.しかし,内容的には “文系” 読者にとってもきっと参考になる部分が多いだろう.

[2020年9月11日付・出版企画趣意書【一部修正】]


Über den Bergen von Bücher weit zu wandern
Sagen die Leute, wohnt das Glück.


Last Modified: 24 January 2022 by MINAKA Nobuhiro