Home


読書とは何か

知を捕らえる15の技術


三中信宏

2022年1月30日 第1刷刊行


河出書房新社[河出新書・046],東京,292 pp.
本体価格890円(税込価格979円), ISBN:978-4-309-63147-9

河出書房新社ページ一期一会の読書術[書評]


amazonhonto楽天ブックス紀伊國屋書店TSUTAYA7net
Honya Clube-hon



On Abductive Reading

15 Tips for Knowledge Hunting with Books


Minaka Nobuhiro

Kawade Shobo Shinsha [Kawade Shinsho: 046], Tokyo, 292 pp.
ISBN:978-4-309-63147-9 [paperback]
Published in January 2022

本書『読書とは何か』は,前著『読む・打つ・書く —— 読書・書評・執筆をめぐる理系研究者の日々』から派生した子孫本です.



目次

プロローグ —— 世界は本に満ち溢れている 3

第1章 知のノードとネットワーク —— 読書は探検だ 21

 1.1 手にする動機,読み通す技術 24
 1.2 文字空間とその可視化 —— インフォグラフィックスの視点から 26
 1.3 狩猟者としての読者 —— 本を読む冒険の心構えは何か? 38(*1
 1.4 読書の往路 —— 読み跡を「ノード」として刻む 44
 1.5 読書の復路 —— ノードをつなぐ「ダイアグラム」 51
 1.6 書き手と読み手を隔てるもの —— 「わからない」は罪深いか? 60(*1
 1.7 既知から未知へ —— “アブダクション” としての読書行為 63

◇コラム1〈探書三昧〉本を狩りに行く 77

第2章 読書術(基本篇) —— 大技と小技のあれこれ 83

 2.1 【完読】足元を見よ、メモを取れ、時々休め 88
 2.2 【速読】自己加圧ナッジの術 98
 2.3 【猛読】アウェイな読書のトラブルシューティング 120
 2.4 【拾読】読み尽くさない術 126
 2.5 【熟読】深読みにハマらない 133

◇コラム2〈怪書三昧〉本が呼びに来る 140

第3章 読書術(応用篇) —— 冒険と危険は紙一重 145

 3.1 【難読】先入観で分類しない 148
 3.2 【精読】読書ノートをつくりこむ 158
 3.3 【数読】言葉として数式を読む術 168
 3.4 【解読】外国語の壁を越えて 174
 3.5 【図読】パラテクストの絵を読む 180

◇コラム3〈崩書三昧〉壊れる本、壊す本 198

第4章 読書術(発展篇) —— 読み終わらない本のためのパヴァーヌ 203

 4.1 【復読】読者としてアップグレードする 206
 4.2 【休読】途中で撤退する勇気と決断 212
 4.3 【歩読】移動読書に終わりなし 223
 4.4 【積読】積み上げれば漂う香気 231
 4.5 【未読】未来の境界知に触れる 243

エピローグ —— 一期一会の読書人生 254

謝辞 266
文献リスト [282-272]
事項索引 [285-283]
人名索引 [288-286]
書名索引 [292-289]


 *1) 第1章の第3節と第6節は2023年の聖光学院中学校(帰国生入学試験問題)の国語〈問題5〉に出題された.

興行

  • 不識庵〉不識塾講義 2022年7月9日(土)10:00〜12:00@ステーションコンファレンス東京(東京駅・サピアタワー6F → マップ)10:00〜12:00@ステーションコンファレンス東京(東京駅・サピアタワー6F → マップ
  • 大学図書館研究会第53回全国大会 記念講演:三中信宏「読書による知識の体系化 —— 分類・系統・アブダクション」2022年9月17日(土)17:00〜18:00(オンライン)

一期一会の読書術 —— 前口上として

お手軽に知識を得る道はまちがいなく “地獄” に通じている —— 私たちは本を選ぶ際,無駄に時間を食う “手間のかかる本” を避けて,素早く楽に読めてすぐ役に立つ本だけを手にしたいと思ってしまう効率主義の餌食になりやすい.「なんてったって現代人は忙しいからね」などと小賢しい言い訳はいくらでもつけられる.確かに,世の中には読みやすさ第一を標榜する “流動食のような本” はあふれかえっている.しかし,必要な “栄養素” だけ効率的に摂取できる “流動食” に慣れてしまうと,気が付かないうちにものごとを考えぬくための基礎的な知力が衰えてしまうだろう.本書はそういう世にはびこる「読書効率主義」とは正反対のベクトルを志向する.

読書とはつねに「部分から全体への推論」—— すなわち「アブダクション」 —— である.本の読み手は,既読の部分を踏まえて未読である本全体に関する推理・推論をたえまなく問い続ける.その推理・推論の目的である “全体” とは,その著書から読み取れる著者の主張を解釈することだったり,ある著者が依拠する知識体系を包括的に理解することだったりするだろう.本を読みながらあれこれ考えをめぐらすことは,リラックスして読める本ならばとても楽しい読書体験となるが,根を詰めて学び進めなければならない本だとときにつらい読書修行となる.読みながらものを考えることは,はたして「ユーレカ!」のひらめきをもたらしてくれるのか.それとも「下手な考え 休むに似たり」なのか.部分から全体への推論は首尾よく進められたのか,それとも単なる “誤読” に終わってしまったのか.

一読者にとっては,今の日本で毎年7万冊の新刊本が出ようが,その何百倍もの既刊本があろうが,実際に手にして読もうとするのはその中の一冊だろう.世の中の本のほとんどすべては,読者の知らないうちに出版され,知らないうちに出回って,知らないうちに本の海の中に消え去っていく.それらのおびただしい冊数の新刊や既刊の中から,読者がある本を実際に手に取る確率はかぎりなく小さくなっていく.その確率の試練を乗り越えて私たちのもとにやってきた本は,まさに「一期一会」と言うしかない.

自分が選んだ一冊の本をどのように読むかはすべての始まりであり,次へのステップでもあり,すべての終わりでもある.一冊の本を最後まで読み終えて充実した達成感を満喫できたならアナタは幸せな読者だ.しかし,読了した後も疑問が未解決のまま残ってしまうかもしれない.そんなときでもアナタは落胆する必要はけっしてない.自分がまだ知らない世界,理解できない世界が世の中にたくさんあることは紛れもない真理だから.一読して理解しきれなかった本はおそらく次に読むべき本を連れてきてくれるだろう.友は友を呼び,本は本を呼ぶ.巨大な “本の山” からアナタの耳に “遠い呼び声” が聞こえてくるにちがいない.

[「プロローグ」2021年5月13日原稿から抜粋改訂(2022年1月16日)]


Lego, ergo sum.


Last Modified: 3 March 2023 by MINAKA Nobuhiro