【書名】恐竜の世界をもとめて:化石を取り巻く学者たちのロマンと野望
【URL 】http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?bibid=02043994
【著者】デボラ・キャドバリー
【訳者】北代晋
【刊行】2001年06月25日
【出版】無名舎,東京
【頁数】430pp.viii+418 pp.
【価格】2,600円(本体価格)
【ISBN】4-89585-951-7




【書評】※Copyright 2001 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved
19世紀恐竜学の先駆者たちの人間模様を生き生きと描く

 「恐竜」はすでに地球上には実在しない生物であるのに,いまなお強烈なイメージをわれわれに呼び起こす.恐竜は,専門科学の枠を大きく越えて,いくどとなく社会的なブームになり,現在では多くの本や記事のみならず,テレビ・映画・ゲームなどあらゆる分野に浸透している.恐竜学は古生物学の中では突出してポピュラーな分野といえる.
 19世紀のイギリスでは,さまざまな社会的階層に出自する化石ハンターたちが危険をかえりみず,より珍奇な化石をもとめて探しまわった.本書は,その時代背景の中で恐竜がかつて地球上を支配していた時代を復元しようとした研究者たちを描いた伝記である.その主役は次の4名である:イクチオサウルスの骨を発見したメアリ・アニング,聖書地質学に身を捧げたウィリアム・バックランド,イグアノドンの復元をしたギデオン・マンテル,そして希代の解剖学者,大英博物館(自然史部門)の創立者にして反進化論の権化リチャード・オーウェン.

 著者は,現在ではもはや忘れられてしまったこれらの恐竜学の先駆者たちの業績をていねいに掘り起こし,「恐竜」という生きものが当時のイギリスにおいてどのように解明されていったのかをたどる.ともすれば乾いた歴史叙述になりがちなストーリーを豊かに色付けしているのは,同時代の主役4人が密接に関り合い,そして協力し,時には互いに闘争した人間模様の詳細な描写である.とくに,マンテルとオーウェンの長年にわたる敵対関係は本書後半の山場である.すでに翻訳されているマンテルの伝記『恐竜を発見した男』を合わせ読むと,古生物学を通して学問的成功を求め続けたマンテルをつぶそうとするオーウェンの攻撃がいかに執拗かつ徹底的であったかがわかる.

 恐竜のイメージを社会に定着させた主役たちは,それぞれ不幸な生涯の終え方をした.アニングは貧困のうちに,バックランドは狂気にとらわれ,マンテルは病苦のなかでそれぞれ没した.そして権勢を誇ったオーウェンも勃興する進化論と息子の自殺という事件に打ちのめされ,世を去ることになる.
 古生物学にルーツをもつ恐竜学の黎明期のありさまを当時の社会・文化・科学の状況とともに本書はうまく伝えている.これだけ豊富な内容の本にはぜひ索引を付けてほしかった.

【目次】
謝辞 vi
第1部
 第1章 海辺の化石 3
 第2章 意志の奥に世界が見える 35
 第3章 物食う博士 63
 第4章 化石の森 87
 第5章 巨大なトカゲ 111
第2部
 第6章 若き論敵 143
 第7章 悪魔の生物 163
 第8章 爬虫類の時代 183
 第9章 荒らぶる大自然 203
 第10章 絶望するなかれ 227
第3部
 第11章 ディノサウリア 257
 第12章 最大の敵 287
 第13章 恐竜ブーム 319
 第14章 神なき世界? 345

エピローグ 369
訳者あとがき 375
注釈と出典 379
参考文献リスト 418