【書名】悪魔に魅入られた本の城
【著者】オリヴィエーロ・ディリベルト
【訳者】望月紀子
【刊行】2004年11月10日
【出版】晶文社,東京
【叢書】シリーズ 愛書・探書・蔵書
【頁数】149 pp.
【定価】1,900円(本体価格)
【ISBN】4-7949-2663-4
【原書】Oliviero Diliberto 1999. La Biblioteca Stregata: Nuove Tessere di un Mosaico Infinito. Robin Edizioni.

【書評】※Copyright 2004 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

蔵書の系譜と運命の偶然

ディテールにこだわりまくるところがいいです.本文そのものははわずか70ページ足らず.にもかかわらず,注が35ページにもわたる.ドイツの歴史家にしてノーベル文学賞受賞者テオドール・モムゼンの私蔵書がたどった運命はひとつのリネージをつくる.それにしても×××が犯人だったとは!(知りたい人は読むべし).ボルヘスのことばを引用しつつ,結びの節で著者は言う:

これはあくまでも仮説だが,これまで述べてきたさまざまなミクロな物語が,私としては実際にそうであったと考えるのが楽しいのだが,複雑にからみあってひとつの大きな物語になっていると考えてもいいのではないだろうか.確かに,私たちの手元にある資料はどれも,そのように関連づけることを補償してくれるわけではないが,私の脳裏にはどうしても忘れられないことばがよぎるのである:「あなたは,事実はおもしろくある義務はこれっぽっちもないとおっしゃるかもしれませんが,わたしは,事実はその義務からは逃れられるけれども,仮説はそれから逃れられない,と答えましょう」[p.70]

断片的な資料や個人的なつながりそして幸運をジグゾーパズルのようにつなぎ合わせることにより,著者はある個人蔵書のたどった運命を推論しようとする.しかも,散逸しつつある蔵書の各“部分”はそれぞれが別個の系譜をもつかのようだ.それらのピースをかき集めるという作業は文字通りの“mosaico infinito”なのだろう.パンフレットのような小さな本は探書の底知れなさを感じさせる.

解説としての「蔵書という自己疎外」(池田浩史)は書物エッセイとしておもしろい.また,訳者のあとがきは,偶然にもマシュー・バトルズの新刊『図書館の興亡』(→翻訳)の内容をまるでそのまま要約したようである.実際,バトルズ本を蔵書に関する“総論”とするならば,このディリベルト本は“各論”にあたるのかもしれない.そういう読み方が愉しみをいっそう増す.

これまた偶然にも未來社のPR誌『未来』の最新号(2004年11月発行,通巻458号)に,マックス・ヴェーバー研究家のヴォルフガング・J・モムゼンの追悼記事が載っている(pp.1-4).テオドール・モムゼンの曽孫だそうだ.

三中信宏(7/November/2004)


【目次】
序 10
>燃えた蔵書 15
失われた蔵書 24
見つかった本 28
消えた書店 34
怠慢な図書館員 46
恩知らずの相続人 55
エピローグ 65

謝辞 71
原註 73
訳註 93

蔵書という自己疎外(池田浩史) 109
本,もしくはジグゾーパズルのピースたち――訳者あとがきにかえて 135