● 4月9日(土):IOSEB Council Meeting 二日目

◇午前6時起床.ホテルから見る空には雲が多い.

◇朝食ではトロントの Daniel Brooks さんと同席した.メキシコには寄生虫のサンプリングで何度も来たことがあるとのことで,スペイン語が流暢だった.日本にはまだ行ったことがないが,なんちゃら博物館に見たい標本があるので,機会を見つけて訪問したいとのこと.Ed Wiley さんとは日本でお会いしたことがあるがと言ったら,「彼とぼくとは長い歴史を共有しているからね」との答え.そーか,ふたりは単系統群だったんだ!

◇昨日と同じく午前8時半から会議が始まるので(最初はコーヒー片手の雑談時間なのだが),これから下の meeting room に向かいます.[8:43]

◇昨日の会議が開催された〈Bosque〉の隣の〈Volcan〉が今日の会議室.ここで正午までの3時間あまりをかけて,ICSEB-VII の全体タイトルと分野カテゴリー分けとそれぞれの担当分担を決めた.

まずはじめに,大会の看板となるタイトルは:

Biodiversity in A Changing World:
Building on 150 years of Systematics and Evolutionary Thought

に決定.さらに,前回のパトラス大会での領域分割を叩き台にして,ひとつずつ論議した結果,次のようなカテゴリーを設定することになった――

  1. Phylogenetic Reconstruction and the Web of Life
  2. Molecular and Cellular Evolution: From Molecules to Morphology
  3. Evolution of Form and Function
  4. Evolution: Time and Geography
  5. Evolutionary Thought: History, Philosophy, and Society
  6. Global Change and the Biodiversity Crisis
  7. Biological Informatics: From Gene to Ecosystem
  8. Microevolution: Patterns and Processes below the Species Level
  9. Inventory of Nature

その後,各役員の希望により担当分担を決め,今回欠席した役員の割り振りをした.この時点で正午を過ぎたので,午後3時までのシエスタに入る.昨日はかなり厳格にタイムテーブルに沿った議事運営(ドイツ的か)をしていた Greuter 議長だったが,今日になって「じゃ,3時までお昼寝しましょうか」などという劇的にラテンな変貌を遂げていた.

◇ぼくが担当するのは5番目.同じ担当になった Dan Faith,Mario de Pinna,そして Alfredo Bueno さんとの打合せで,ぼくは Philosophy of Systematics に関するシンポジウムのアイデアを提出することになった.

UNAM の Bueno さんは今回初めて顔を合わせるのだが,panbiogeography に基づく生物地理学について研究していると言っていた.

◇〈会議力〉のちがい ―― これだけ大きな国際会議をやろうというのだから,さぞかし時間がかかるのではと予想していたのだが,こちらに来て実際に Council Meeting の会議に加わってみると,大きな議題が次々に小気味よく決着していくことが実感される.やり方によっては紛糾したり,停滞したりしそうな論点があるにもかかわらず,解決のための積極的な提案や代案が出席者から次々に提出されるので,一見めんどうそうなことになっても,不思議と答えが出ていることがよくあった.

たとえば,大会ロゴマークを選定する際に,マヤ・アステカの象形文字を公的に掲げることは,メキシコ国内の先住民族に関わる微妙な政治的問題に触れることになるのではという指摘が Local Committee から出され,しばし意見が交わされ,「これは国際会議ですからね,問題ないでしょう」という議長の一言で決着.あらら.

それにしても intensive な会議日程で,体力的にはきついかも.シエスタはたっぷり取られているのだが,朝から夕方まで休憩をはさみつつ,2時間×3=6時間というのが,机の前に拘束される会議時間.それ以外に,朝食,昼食[人による],そしてディナー席上でのディスカッションがあるので,結局,寝ている時間以外はすべて会議に絡めとられているようなものだ.

出席者がとにかくよく意見を言うのだが,後ろ向きではなく,前向きに議事を進めようという共通理解があるので,どんどん消化されていくのだろう.こういう会議だったら出る意義は確かにある.

◇部屋に戻る.曇り空だが,またまたガラス窓が熱くなっている.気温高そう.道行く人たちはみんな半袖だもんねえ.長袖とかジャケットとか場違いやなあ.[13:22]

◇午後3時から会議の再開 ―― 国際学会を運営するには〈人脈力〉がとにかく必要であることを痛感した.ICSEB-VII の宣伝と勧誘のために,どのような学術団体に宣伝を流すかという論点をめぐって,各委員ごとの人脈と担当が割り振られた.ぼくの場合は日本の関連学協会すべてが守備範囲に入り,あと周辺の中国・韓国・台湾にどれくらい広く情報が撒けるかが重要だろうと答えた.欲を言えば,東南アジアにも呼びかけをしたいのだが,いかんせんぼくにはそれだけの人脈力はないので,誰かにヘルプしてもらわないと.

その他,参加者へのファンド支給のこととか,大会ウェブサイトをどのように運営するかとか,国際学会大会運営に関わるさまざまな論点は尽きず,予定時刻よりも大幅に超過した午後6時半にやっとすべての議事を終了することができた.時間の関係で UNAM 見学はキャンセルになった.あらら.

◇メキシコシティの〈次〉は「中国」での開催を狙っているという議長の発言が最後にちらりと.その ICSEB-VIII は6年後の「2014年」開催が予定されている.

◇Council Meeting のすべての仕事を終えたこれからは sponsered dinner が待ってま〜す.さあ着替え着替え.今日はどこに行くのかなー.わくわく.[17:32]

◇6時前にロビーに集結した面々は,ホテルの送迎車に詰め込まれ,いつものように混みまくっている(のだろう)道路をきわどい割り込みでぐいぐい進み,通りに面した外壁に蔦がからまるメキシコ料理店〈La Cava〉に連れ込まれた.文字通りワイン・カーヴが売り物[だと思う]のレストランで,調度や内装がとても凝っている.店のど真ん中に噴水があり,その天井はステンドグラスだったり,店の奥は薄暗いワイン・カーヴだったり.市内でも相当な高級レストランなのだろうと直感した.

もちろん,IOSEB役員20名ご一行さまは,まず呑まずには何も始まらないとばかりに,アルコール摂取量は急速に増していく.Corona ビールからはじまって,Negro Modela 黒ビールに移り,その後はテキーラへの自然遷移.昨夜,旧市街区で Soberon さんが,親指と人差し指のマタに塩を乗せて,ぺろっと舐めてはあおるというスタイルだったのを不思議に思ったのだが,ストレートでテキーラを飲むときは,まず上のやり方で塩を舐め,くいっとあおって,ライムをかじるという“作法”があるらしい.こりゃ効きますなあ.※コースの最後に出てきたプリン(Flan mexicana) はその食感が糖蜜のかかったわらび餅そっくりでした.

まる二日間,少人数で顔を突き合わせていたので,懇親会にありがちな挨拶もスピーチもなんにもなく,ただ呑みただ食べるという究極的にピュアな飲み会となった.向かいにすわった Tod Stuessy さんは,昨年,国際生物学賞のシンポジウムで来日したり,その前に都立大首都大学東京の牧野標本館を訪問したりしたことを話してくれた:「Dr. フジイはどうしてる?」とのことでした>藤井さん.

ひたすら呑んでしゃべりまくっていたのは Brooks さん.ちょうどいい1枚が撮れたので掲載してしまおう(→右).ど真ん中で「熊でも撃ちに行ってきたんか」という風情の人が Brooks さん,後ろで赤いシャツを着ているのが Dan Faith さん,でもって,右端でにやっとしているのが Stuessy さん.手前でアタマが光っているのが GBIF の Jim Edwards さん.他にも何枚かあるのだけれど,なんだか焦点がブレてるのが多くって.シンプルに呑み過ぎかも.

―― 「ではそろそろ」と店を後にして,ホテルにたどり着いたら,もう午後11時半でした.今頃,日本ではワタクシがオーガナイザーをしているはずの生物地理学会シンポジウム〈種内動物系統地理学の新展開 — 分子データを用いてわかること/わからないこと〉がちょうど始まったばかりのはずだなあ.敵前逃亡でもうしわけありまっしぇん.>演者ならびに関係者のみなみなさま.

◇任務はすべて完了.あとは帰るだけ.明日午前中にメキシコを出国し,3日間かけて日本にたどり着く予定.

◇本日の総歩数=6054歩[うち「しっかり歩数」=0歩/0分].


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