● 4月8日(金):IOSEB Council Meeting 初日

◇午前6時起床.本当なら「時差ボケ」というものがあるはずなのだろうが,いつものように“早起き”してしまう.昨日寝たのが午前1時半だったので,夢かうつつか状態.

6時を過ぎているというのに,外はまだ真っ暗で夜明けの明るさはまるでない.ホテルのすぐ下を太い幹線道路が通っているが,平日の未明のこんな時間帯にもうたいへんな交通量と喧噪だ.いったいどういうことなのだろうか.

◇昨日の読書メモ ―― 成田からアトランタへの機中で大屋幸世『蒐書日誌 四』(2003年11月25日刊行,皓星社,ISBN:4-7744-0356-3)を100頁ほど読み進む.2段組の細かい活字なので(もちろん図なんかあるはずがない),自然に先に進むというよりは立ち止まりつつ味わうという読書スタイルになる.ときに「蒐書と散書の繰り返しだ」という自戒的(自虐的)なモノローグが漏れ聞こえる.古書市に行っては平台から「中身を確認しないまま」“黒い本”をつかんでくるという荒技が『蒐書日誌』ではよく登場する.そういう本の買い方をしたことがないので,ぼくには何ともコメントのしようがない.

ふと思うのだが,このような『蒐書日誌』こそ〈データベース型ウェブログ〉にしてしまうといいのではないだろうか.何月何日にどこでどのような本を入手したかの記録はウェブログに合うように思う.もちろん,著者は“date”を明記しないという方針なので,いまのままでは根本的な形式の上でウェブログとは相容れないものがあるが.“date”を記さない理由はぼくにはわからない.著者は「凡例」の中で:

五〇年後,一〇〇年後に,一読書人の記録として,本になればと期していたので,年単位で読んでもらおうとして,すべて某月某日とした.(p. 2)

と著者なりの理由づけを述べている.しかし,どのようなタイムスパンで読み取るかは読者が決めればいいことであって,著者は単に「クロニクル」として,蒐書記録を書き残せばすむ話ではないだろうか.“某月某日”とあえて隠すことにより,本書の記述の具体性は大きく損なわれていると感じる.記録としての信頼性が損なわれているということだ.

◇午前7時過ぎに1階フロアにある,レストランにて朝食バイキング.ここのロビーは最上階までの吹き抜けになっているので気持ちがよい.コロニアルな雰囲気を出そうとしている造り.部屋のある居住域(habitación)はとても静かなのだが,ロビーは賑やか.IOSEBの面々はもう来ているはずだが,どこにいるのだろー.※あとで確認したら,同じレストランの一角(テラス)を借り切っていたそうだ.

◇トルティーリャを揚げてトマトソースで煮込んだ chilaqurles やオープンサンドにした tostades をはじめとして,いろいろなメキシコ(風)料理が並んでいる.うん,なかなか.ソーセージ,チーズはもちろんだが,果物がうまかった.よく食べた.

◇午前8時半から,ホテルの会議室〈Bosque〉にて IOSEB Council Meeting が始まる.第7回国際系統進化生物学会(ICSEB-VII)は,2008年夏に,ここメキシコシティでの開催を予定している.Local Committee のメンバー以外は,前回2002年夏のギリシャ大会(→報告)での顔見知りがほとんどだ.

IOSEB会長の Werner Greuter さんの議事進行で,開催期日や期間,大会の全体構成,そしてサーキュラー配布など,主要な議事がこなされていく.前回のPatras大会では参加者が比較的少なかったが(300名あまり),Local Committee 事務局長の Jorge Llorente さんの話では,UNAMを中心にラテンアメリカからの参加者を1500名ほど見込んでいるとのこと.ポピュレーションの大きさを実感する.

大会ロゴはマヤ・アステカ文字をあしらった図柄で,中心の十文字は「変化」をあらわす字だとか.microorganism の図がないではないかという指摘に対しては,「胞子」を意味するちょうど適当なマヤ文字があるそうなので,この部分は加筆になるだろう.

今日の夕方に,会場になる UNAM の施設を見学に行く予定だが,施設の間の距離が離れていて(それだけキャンパスが大きいということか),会場移動の間にスコールに降られるかもしれないとか,午後のシェスタがないとたいへんよろしくないという Local Committee からのコメントが相次ぐ.なるほどねー.国際会議を開催する場合は,本部だけではわからない,Local な「事情」がものをいうということ.

プロシーディングズについては,もし予定通りの参加者が集まったとすると,1,000ページ以上の分量になるので,たとえば基調講演や招待講演などは紙に印刷するが,それ以外は電子出版してはどうかとの方針が提示され,論議された.また,発表の形式について,Local Committee から,ラテンアメリカの若手研究者や学生のことを考えて,ポスター発表を基本にして,教育的効果が上がるようにしてほしいとの注文がついた.

大会のテーマ設定とか,講演分野の分け方,NSFをはじめとする funding への対応,そして関係諸方面への宣伝(サーキュラー配布時期やその方法)について多岐にわたる発言が続いた.

◇正午を越えて,午後2次近くまで延々と会議は続き.ここでシェスタに午後4時まで入る.午後4時からは Local Committee を中心とする実務者会議のため,われわれ Council Member はお休み.午後6時からのUNAM施設見学まで,ごろんと寝たり,書いたり,読んだりする.

ホテルの窓ガラスを触ってみると熱い.今日は外はとても暑くなっているのだろう.朝のうちはとても晴れていたが,午後になって急に雲が出てきた.

―― ところが,その午後6時前からロビーで一同がずっと待っていたのに,送迎のミニバスがいっこうにやってこない.ほとんど1時間近くがやがやと雑談して,そのあげくホストのひとりである UNAM の Jorge Soberon さんが,「ごめんなさい,今日は来ないみたいなので,代わりに夕食に行きましょう」との“提案”で,ホテルの送迎車に乗り込み,出発.予約したはずのバスが来なかったり,視察が夕食にトツジョとして変身するラテン?な融通無碍ぶりに感心してしまう.

◇どこもかしこも混みまくりの道を20分あまり乗って一同が着いたのは,メキシコシティの中心部(Centro)の歴史的町並みが遺されているZócalo地区.小雨が降り出してきた.16世紀の頃からの教会や城跡,そして町並みが保存されているという.そういえば,UNAM の開学も1550年代だと Council の Chris Cameron さんに教えられたことを思い出した.ソカロ地区の樹木はどれも大木で,並木と呼ぶにはふさわしくない.さすがに熱帯地域ということか.樹間を飛ぶ鳥のさえずりに,サンパウロ大学の構内の樹木園を想い出した.

メキシコ料理店(居酒屋 meson と書かれている)〈Antigua Sta Catarina〉の古い倉みたいな建物に深く入り込み,階上のテラスの一角に陣取る.最初に,葡萄ジュースのような色の甘い飲み物が陶器のピッチャーに入って出てきた.Llorente Bousquet さんの説明では,「これは“ハマイカ”という飲み物で,とある草の色と甘みです」.ほー,ハマイカというからには,“Jamaica”と何か関わりのあるものなのか.

雷鳴と稲妻というこの季節には「ありえない」(Soberon 氏談)空模様になってきた.ときおりざーっと雨が降る.日本でいう夕立そのものだ.

オープンサンド風の tostades,なんちゃらいうキノコのスープ,ウチワサボテンと鶏肉の炒め物,挽いたマメとアボカドのディップ,珈琲とケーキ(どっちも甘い)という「コース」を十分に堪能させていただきました.午後10時前に送迎車でホテルに帰還.そういえば,けっきょく“jamaica”ばっかり飲んで,アルコール抜きだったなあ.CONABIO の Executive Secretary をしているという(とても威厳のある)女性にごちそうになりました(Gracias!).

隣席の Llorente さんと彼の著書『Principia Taxonomica: Una Introduccion a los Fundamentos Logicos, Filosoficos y Metodologicos de las Escuelas de Taxonomia Biologica』の続刊予定について少しばかり.彼の話では,全10巻の最後の2冊 Vols. 9-10 は今年末には合本して出版したいとのことだった.1993年に第1巻(Nelson Papavero and Jorge Llorente-Bousquets『Conseptos Basicos de la Taxonomia: Una Formalizacion』1993年刊行,UNAM,ISBN:968-36-2927-X)が出てから10年あまりの後に全巻完結するということだ.「大事業でしたね」とのコメントに,「これでやっと肩の荷が」との答え.彼が言うには,同僚の分類学者たちはこの『分類学原理』叢書の内容について,ほとんど理解してくれなかったという.たいへんな仕事だと思う.

◇明日は会議2日目.大会プログラムに関する詳細な論議に移る予定.UNAMの施設見学は明日に延期されるそうだ.※本当に見学できるのかいなあ?

◇本日の総歩数=13119歩[うち「しっかり歩数」=1253歩/11分].


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