● 2011年7月30日(土): Hennig XXX:二度目のブラジル開催

◆三時間ほど寝て午前5時前に起床.昨夜遅くまで続いていた喧騒はすでに消え,ホテルの中は死んだように静まり返っている.しかし,このまま死んでしまっては肝心の Hennig XXX が開催できないので,そろそろ蘇らないと.外はまだ夜明けには遠く,丘を越える風がひんやりしている.まずは朝シャワー.サンパウロ州は午前6時過ぎにやっと空が明るくなってくる.今日の朝焼けはほんのりと日本風.空気はひんやり冷たくて,熱風の吹く日中の真夏日を想像することはむずかしい.

◆[欹耳袋]系統樹ウェブ曼荼羅・連載第八回:「家系図の図像学:生命の樹と唐草模様」が公開されてます.今回はかなりカラフル!

◆ホテルの朝食はまだ夜も明けない朝6時から始まっていて,地球の裏側に来てもやっぱり早起きなワタクシは真っ暗なうちから食べることになる(ほかにも朝型の大会参加者がちらほらいる).飛行機の乗務員たちとフロントですれちがった.長期滞在型のアパートメントだと思っていたが,こういうビジネスホテル的な使われ方もするのか.本場ブラジルの珈琲の淹れ方はとても濃厚であることを知った.「アメリカン」とは対極的.ミルク(leite)を入れて飲んでいる人が多いみたい.生パパイヤ食べまくり〜.

◆〈Hennig XXX〉大会の開幕 —— 空気がさわやかな早朝は窓を開け放つ.しかし,東に面した部屋なので朝日がまともに射しこんですぐに暑くなってくる.バッファーのない気温の上り下りにとまどう.今日も日中は真夏の暑さになるのだろうか.午前8時過ぎに階下の学会会場に降りた.職住近接どころか職住一致なのは楽といえば楽(逃げ場がないと言われればその通り).それにしても Hennig XXX 会場には物理的に「大きな人」がたくさんいて,なんだか蒸し暑い.

午前8時半の定刻に開会.ブラジルのしかもサンパウロでの開催はこれが二度目のことだ.前回1998年のときはサンパウロ大学での開催だった(→Hennig-XVII).Amorim大会委員長のあいさつの後,基調講演:Mário Eduardo Viaro「Similarities between linguistic and biological methods for classifying and organizing data: the case of the Portuguese prescription "até"」.ポルトガル語の前置詞「até」の系譜を言語系統学的にたどる内容.4ページのハンドアウトが会場で配布された.参照文献として:Mário Eduardo Viaro (2004), A third hypothesis for etymology of Portuguese até. Revista do Gel Campinas: GEL. 1(1): 91-100 → pdf

今回の大会会場はフリーのワイヤレスLANが張られていたので,試しに「#HennigXXX」というハッシュタグをつくることにした.基調講演に関するツイートは次の通り:

  • Opening ceremony of the 30th Willi Hennig Society now! #HennigXXX posted at 20:35:44
  • #HennigXXX Plenary talk: Mario Viaro - Similarities between linguistic and biological phylogeny reconstruction methods - Portuguese "ate" posted at 20:45:28
  • Sure! #HennigXXX QT @rmounce: Day 1: Hennig XXX - huge turnout! Systematics is very very popular here, very impressive :) posted at 20:50:38
  • #HennigXXX 4-page handout of Mario Eduardo Viaro: A case study of the Portuguses preposition "ate" in linguistic reconstruction. posted at 20:53:30
  • #HennigXXX Portuguese "ate" = Spanish "hasta". Searching for its etymological origin using linguistic phylogeny. posted at 21:00:50
  • #HennigXXX The Latin plesiomorphic "-in" as the root of linguistic tree. Transformation series reconstructed from various manuscripts. posted at 21:17:20
  • Use it, please! QT @rmounce: @leeswijzer good hashtag: #HennigXXX I'll use that now for the conference http://www.xxxwhs.com.br/en/ posted at 21:18:06
  • #HennigXXX Reference to the classical Lachmann's (cladistic) method for manuscript and linguistic tree reconstruction. M. E. Viaro posted at 21:33:19
  • #HennigXXX M. E. Viaro, Revista do Gel. Campinas, 1(1): 91-100, 2004. A third hypothesis on the origin of "ate". posted at 21:37:04
  • #HennigXXX Q on gains and losses of phonological components. Different models required? (Ward C. Wheeler) posted at 21:44:17

続いて,最初のシンポジウム〈Modern bioinformatic tools for studying epidemiology and disease〉は病原菌の系統発生パターンに関する内容.まずは Dan Janies の講演「Biogeographic analysis and visualization with modular, service-oriented, software」から.

SupraMAP や GoogleEarth を使った系統樹の時空的可視化については彼が以前から手がけていた研究テーマだ.今回はそれを発展させた内容になっている.続く講演は,病原菌のケーススタディーだ,パピローマウィルス,デング熱ウィルス,そしてHCVに関する内容だった.全体としては「生き物のかたち」が見えないから,現象は確かにおもしろいけど,現物はあんまり楽しくない.プログラムに載っている制限時間とは無関係に質疑時間がどんどん伸びるのは Hennig Society Meeting の鉄のオキテ.

◆大会会場にて蒐書に励む —— 昨日の参加登録では講演要旨集の印刷版を手にした:Dalton de Souza Amorim and Fernando Barbosa Noll (organizers)『Hennig XXX Abstracts: 2011 Meeting of the Willi Hennig Society, July 29th - August 2nd, São José do Rio Preto, Brasil, SP, Brazil』(2011年7月刊行,Instituto de Biosciências, Letras e Ciências Exatas, São José do Rio Preto, 192 pp.).受付の外にはブラジルの自然学書出版を手がけている Holos Editora 社のブースがあったので,目ぼしいものを何冊かゲットした:

  • Dalton de Souza Amorim『Fundamentos de Sistemática Filogenética』(2002年刊行,Holos Editora, Ribeirão Preto, São Paulo, 153 pp., ISBN:978-85-86699-36-8 [pbk] → 版元ページ).分岐学の入門テキストだが,形態情報の事例のいくつかはうまく利用できる.著者は今回の Hennig XXX 事務局の運営を取り仕切っている.前著:Dalton de Souza Amorim『Elementos Básicos de Sistemática Filogenética, 2a. Edição』(1997年刊行,Holos Editora, Ribeirão Preto, São Paulo, xviii+276 pp., ISBN:85-86699-01-2 [pbk])はポルトガル語で書かれた分岐学の標準的テキストで,前回(1998年)の Hennig Society サンパウロ大会で購入した.

  • Horacio Schneider『Métodos de Análise Filogenética: Um Guia Prático 3a. Edição』(2007年刊行,Holos Editora, Ribeirão Preto, São Paulo, 200 pp., ISBN:85-86699-59-7 [pbk] → 版元ページ).分子配列データからの系統推定マニュアル.ClustalW / PAUP* / PHYLIP / PhyML / MrBayes など,使用頻度の高い系統推定ツールについてスクリプトを例示しながら解説している.こういう本があると独学ユーザーにとっては便利だろう.

—— ナチュラリスト向けの自然ガイド本を多く出している出版社で,時間があったらもう少し展示本を眺めたい.ほかに Hennig XXX のロゴをプリントしたTシャツも売られていた.

◆ランチはシュハスコのバイキング —— 今回の Hennig XXX では,会場ホテルの近くにあるシュハスカリア〈Cupim de Sol〉がランチの場所として指定されていて,この店のランチ料金が大会参加費にもともと含まれている.シュハスコはブラジルの名物料理.今日初めて行ったのだが,午前のセッションが終わってから大会参加者はそろってぞろぞろと歩いて移動した(道路の横断がかなりキケン).坂の上にあるとても巨大な店で,厨房の壁一面にオーブンがあり,巨大なお兄さんたちが,焼いたばかりの串刺し肉塊を枝をなぎ払うナタのような包丁でどんどん切りさばいていた.店名の 「Cupim de Sol」とは「太陽のクピン」の意味.「クピン」というのはブラジルでしか食べられないウシの「コブ」の肉のこと.日本とブラジルではウシの品種がもともとちがうし,肉の切り分け方もちがうらしい.クピンのほかにもピカーニャとかフィレ・ミニョンとか(→ 浜松〈Choupana〉「牛肉の部位紹介」).

このレストランでは客の注文に応じていろいろな部位の肉を出してくれるが,せっかくなのでそのクピンを切り分けてもらった.歯ごたえのある牛肉は和牛の柔らかさとは対極的.肉が主食の国であることを痛感する.ブラジル料理では「豆」もたくさん食べる.モヤシもあれば豆カレーもあった.日本を出て以来ひさしぶりにコメ(arroz)を口にした.焼きバナナうまし.学会会期中は毎日シュハスコ・ランチだ.

—— ランチ後はホテルに戻って部屋へ.午後になると睡魔が降臨してくるのは,ないと思っていた時差ボケが実はそのまま温存されているということだろうか.

◆そんなこんなで,午後のシンポジウム〈Phylogenetics as a tool for conservation〉は行くのが遅れてしまった.系統学的多様度に関してはこれまで関心をもって調べてきたし,自分でも仕事をしてきた.今回のシンポジウムでも系統樹を保全生物学にどのように応用していけばいいのかという点について議論があった.Dan Faith の講演「A range of phylogenetic tools and methods based on PD measure」では,phylogenetic diversity(PD)という多様度尺度に関するその後の展開がレビューされた.それについては下記の総説論文に掲載されている:Daniel P. Faith , Catherine A. Lozupone, David Nipperess and Rob Knight (2009), The Cladistic Basis for the Phylogenetic Diversity (PD) Measure Links Evolutionary Features to Environmental Gradients and Supports Broad Applications of Microbial Ecology’s “Phylogenetic Beta Diversity” Framework. International Journal of Molecular Sciences, 10: 4723-4741, doi:10.3390/ijms10114723→ pdf(open access)

◆夕方もうつらうつらしてしまった.どうも睡眠のコントロールがうまくできていないようだ.昼にあれほど食べてしまうと,夜は何も食べなくても問題なし.学会中はそういう食生活にしよう.夜遅く起きてごそごそしている.

◆本日の総歩数=1269歩[うち「しっかり歩数」0歩/0分].



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