● 10月27日(日): 30時間かけて南半球のパンパに立つ

◆アトランタを離陸したDL101便はひたすら南を目指す.機内アナウンスの“スペイン語率”がしだいに高まってきた.やがて赤道を越え,南米大陸のアマゾン流域を横断して,アンデス山脈の上空に達した.機内の時計で午前2時過ぎ,ボリビアのラパス上空で,カマジン本の第18章ゲラをチェック完了だ.その後は『What Is Biodiversity』本を読み進んだり(Gould がぼこぼこ叩かれてフクロにされている).

午前5時前に空路マップに「San Miguel de Tucumán」の文字が見えてきた.ここでちょいと降ろしていただければたいへんありがたいのだが,無情にも1,500kmも離れたブエノスアイレスを目指してさらに飛び続ける.東の空が明るくなってきた.下界は雲が広がっていて見えないが,ちょうどアルゼンチンの平野部(パンパ)の上を飛び続けているはずだ.真っ赤な朝焼けを見たのは10年前にサンパウロに来たときと同じだ.そのときは〈Hennig XVII〉に招待されていて,地球の裏側に行くのは初めてだった.午前6時に夜明け.あと1時間で目的地に着く.

◆現地時刻の午前8時にブエノスアイレス国際空港(Aeropuerto Internacional Ezeiza)に着陸.快晴で日射しは強いが,風は爽やかで涼しい.成田から20数時間も運ばれてきたスーツケースを受け取り,アルゼンチンへ入国.そして忘れずに,日本では換金できなかったアルゼンチン・ペソを手にする.タクシーで1時間弱もかかるという国内線空港(Aeroparque Jorge Newbery)がたまたま大改修で閉鎖されていたために,Ezeiza の隣りにある国内線乗り場に向かう.歩いて数分だが,その間にいったい何回のタクシー勧誘を受けたことか.帰路はブエノスアイレス市内を通るので(大改修が住んでいるので Newbery から Ezeiza への移動が必要),レミス(Remises)を確保することにしよう.

◆やっぱりねの発券トラブル —— Ezeiza の国内線ビルに入って,これから乗る予定の Aerolineas Argentinas のチェックインをしようとしたら,「発券できません」とセニョーラが冷たく言う.「そんなことはないでしょう.事前に旅行会社から予約されていると聞いている.ポル・ファボール!」と泣きついたら(抱きついてはいない),どうやら日本側のエージェンシーのミスで,リコンファームが完了していなかったようだ.しかし,ここであきらめるわけにはいかない.「ポル・ファボール」とさらに泣きついたら,「かけあってくるから待つように」と言われて,そのまま1時間ほどぽつんとカウンターの前で待たされることになった.同じ飛行機に乗るらしい Hennig XXVII に参加する顔見知りが何人かいて,「どーした?」と訊くので「そんなこんなで搭乗券がまだ出ない」と答えたら,傍にいたもう一人が「私もそうだ」と言う.ちょっとアバウトだぞ,Aerolineas Argentinas.

直前までもつれこんだが,出発の半時間前になっとようやく搭乗券をもらえることになった.いずれにせよ,出発ゲートは国際線ビルの中にあるので,小走りにゲートGに向かい出国審査を慌ただしくすませて,搭乗機 AR1492 に乗客を運ぶバスに飛び乗った.滑り込みセーフだ.Newbery が改修中であったことは実に幸運で,これがタクシー移動後のフライト前だったらきっと間に合わなかったにちがいない.一昨年,オアハカでの〈Hennig XXV〉に行ったときにも体験したが,中南米では飛行機がちゃんと飛ばなかったり,フライト予定がくるくる変わったりする危険性が大きいようだ.南米のローカル航空に乗るときは要注意だ.

◆トゥクマンを求めて三千里 —— ブエノスアイレスから最終目的地であるトゥクマン国際空港に向かう AR1492 便は小型のボーイング737で,定員は100名あまり.地元の「足」として使われているようで,機内はエスパニョールなローカル色が強くて,アナウンスもスペイン語のみでした.巨大なラプラタ川を眼下に見て,1,500km離れた北部アルゼンチンを目指す.

途中,給油で着陸するときに窓越しに外を見たら果てしない大平原(パンパ)が茫漠と広がっていた.一直線に走る道路(舗装されていないんだろうねえ)が“地上絵”のごとく規則正しい模様を描いていて,それ以外は農地か草原しかない.給油中に機外に出たらめっちゃ暑かった.ブエノスアイレスとは大違い.真夏日とまではいかないが,明らかに夏日だろう.湿度が低いので汗は出ないが,からからと暑く熱風が吹いていた.

◆中継地点から20分ほど飛んで,やっとトゥクマンにたどり着いた.乗継ぎ待ち時間も含めれば30時間の大旅行だ.時差ボケだか寝不足だか活字中毒だか知らないが,相当に疲れていると自覚できる.トゥクマンもやっぱり暑い.長袖なんぞを多めにもってきて馬鹿を見た.半袖+短パン+サンダルという海外旅行定番スタイルがここでも通用するんだった(ちくしょー).空港では Hennig XXVII 参加者が10名ほど集結したので,タクシーに分乗してとりあえずホテルにチェックインすることになった.

しかし,タクシー・ドライバーの運転がものすごく荒っぽい.助手席に乗っていて死ぬかと思った.舗装管理の悪い市街地サン・ミゲル・ド・トゥクマン(中南米によくある街並みだ)では単に上下にバウンドするだけでよかったが,問題は山道だった.〈Hennig XXVII〉の会場である〈Hotel Sol San Javier〉は市街地から離れた山の上(サン・ハビエル・ド・トゥクマン)にあると聞いていたのだが,こんなに高い山(アンデス山脈の端)を上るとは思わなかった.ドライバーはさらに張り切って,上下バウンドに加えてヘアピンカーブでの左右揺すぶられが加わる.人によってはきっと酔うにちがいない.

◆結局,空港から1時間弱ほど走って,やっと Hotel Sol San Javier にたどりついた.下界とは打って変わった涼風が吹き抜ける.市内のそこかしこには熱帯を思わせるソテツの街路樹や木生シダのたぐいが道路からもよく見える.牛や馬が市街地でも歩き回っていた.山道ではアスリート系のバイシクラーに多数遭遇した.チェックインして部屋に入る.山の上にあるホテルは眺望がよく,窓を全開するとトゥクマン市街地が一望のもとに見渡せる.エコ・リゾートを銘打つだけあってリフレッシュできそうだ.

今回は学会に来たのであって,リゾートしに来たわけではない.しかし,ここにはプールや温泉などのレジャー施設が完備されているので,長期滞在すると心身ともにほぐれるにちがいない.しかし,今のぼくにとっては,ほぐれなくてもいいからちょっとだけ寝させてねと言いたい.だが,そういう甘いことはヘニック・ソサエティには通用しないのだ.チェックインして荷物をほどいたらすぐまた暑い暑い下界に降りて,大会参加登録とオープニングパーティに出なければならないからだ.[疲労困憊「夜の部」に続く]

◆本日の総歩数=13718歩[うち「しっかり歩数」=1067歩/11分].


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