2001年7月のレポート(三中信宏)

今日までの3日間,津軽の温泉をいくつかまわってきましたので,ご報告をば.

●7月27日(金)
 午前4時30分につくばの自宅を出発.[桜土浦]常磐道→磐越道→[郡山]東北道と乗り継いで,青森の黒石インターをおりたのが,ほぼ正午.途中3ヶ所計1時間半の休憩を除けば,約6時間の走向で青森にたどり着いたことになる.黒石インターまでの走行距離はおよそ650km.ご近所の赤塚師の話では「8時間くらいはかかるのでは」とのことだったが,意外にスムーズに走れた.天候は曇りときどき小雨で,台風の遠い影響ど北東気流が流れ込んでいたせいか,気温も低く,東北道にところどころ掲示されている温度計はおしなべて21〜23度を示していた.

・新屋温泉(平賀町,300円,午前6時〜)
 黒石インターをおりて,十和田道を黒石市街地方向に進み,最初の信号を鋭角に左折して吹上金屋黒石線に入る.リンゴ畑を縫うやや細い道をそのまま2kmほど直進,新屋の集落のくねくね道をさらに進むと,郵便局(平賀新屋局)の近くに新屋温泉は見つかる.
 新屋温泉については,すでにたびたび絶賛されているので,重複は避けよう.長時間にわたる運転でいささか凝ってしまったからだは,緑色に透き通った湯と独特の硫黄臭に即座にほぐれていった.ぬるぬる感と泡のつき方も以前来訪したときとまったく同じ.先客のお年寄り4人が掛け流しの中で常連トドとなっていたが,私もちょっと失敬して新米トドと化した.極楽.インターから数分以内の距離にこんな温泉があるのは,言うことなし.

・酸ヶ湯温泉(八甲田,500円)
 十和田道を戻り,温湯温泉を左折して国道394号に入り,城ヶ倉大橋を経由して酸ヶ湯温泉に向かう.気温はさらに低下し,半袖短パンという私のいでたちはほとんど「不適切」となってしまった.くだんの千人風呂は意外に空いていた.昼食に食べた蕎麦ととろろ飯がうまかった.東北大学の八甲田植物実験施設が酸ヶ湯のすぐ近くにあることを初めて知った.

・猿倉温泉(八甲田,500円)
 酸ヶ湯から十和田湖への下り道の途中を右に折れる坂道をたどる.私にとっては12年ぶりの再訪となる.初めてここに路線バスで来たときは新館もなく,建物も湯屋ももっと古びていた記憶がある(木の看板はそのままだが).内湯だけで露天風呂はもちろんなかった.昔話ばかりでもうしわけないが,以前はパイプからもっとどばどばと湯が注がれていた気がする.しかし,細かい湯の花が大量に漂う内湯は,小さい湯船ながらもたいへんなつかしかった.

・蔦温泉(十和田湖町,旧館[別館]に宿泊,10000円/二食付)
 本館の重厚な門をくぐったとき,横の温度計は16度を指していた.涼しいというよりも肌寒い.和風の旧館はたびたび紹介されているので,ここで説明するまでもないだろう.われわれの部屋は玄関から長〜い階段を登ってようやくたどり着く別館の54号室だった.木の彫り物が方々にしつらえてあり,長い歴史を感じさせる.布団を敷いてくれたおじいさんの話では,外国人の宿泊客は一様に,ベッドのある新館ではなく,この旧館を希望するそうだ.トイレのつくりがとても立派.使用するのが申し訳ないほど(笑).とくに,正面玄関の奥の突き当たりにあるトイレは見物.
 玄関横の「久安の湯」では,時間の経つのを忘れてしまった.ごく透明の湯が深い湯船の底板の隙間から湧き出ているのだが(浸かってみると足でわかる),ときおりぽこっぽこっと大小の気泡が底からゆらゆらと湧き上がってくるようすは印象的.気持ちが安らぐ.他に誰もいなかったので,洗面器を枕にトドになりながら,しばし水面に見とれる.湯そのものはかなり熱いのだが,掛け流しの中でトドとなるには最適か.
 新しい「泉響の湯」の方は,湯船のつくりは「久安の湯」と同じだが,木組みの天上がより高く,ここでもついついトド寝してしまった...(誰もいなかったので).
 蔦七沼散策路も夕方にまわってみた.紅葉の頃は木々はさぞかし燃え立つのだろう.野ネズミをあちこちで見かけたが,人間をまったく恐れることなく,私の足元に絡みついてきた(驚き).

●7月28日(土)
 明け方は10度近くまで気温が下がったようだ.チェックアウト後,蔦温泉を出発.奥入瀬・十和田湖まわりで黒石に抜けようとしたが,落石で子の口からの道が通行止となったので,奥入瀬に入る手前からバイパスで山越えする(国道102号).

・温川山荘(平賀町温川温泉,500円)
 国道沿いの温川山荘に立ち寄る.外気温が低かったせいか,混浴露天風呂はちょっとぬるかった(パイプから出る湯はたいへん熱いのだが).木の浴槽の内湯は,清掃後に注がれたばかりの新しい湯で,たいへん居心地がよかった.私は初めてここに来たのだが,印象点はかなり高い.

・青荷温泉(黒石市青荷沢,500円)
 10年あまり前に,青荷の山下館(いまは幻渓館と改名)に2泊したことがある.それ以来の再訪である.玄関前に新しい「健六の湯」の建物ができていることにまず驚く.今年の元旦にオープンしたとか.龍神の湯はそのままだし,川の中の露天風呂も変わりないようだが,いかにせよ来客の多さにびっくりする.マイカー,バスを連ねての団体客を見ていると,ここが「賑やかな秘湯」であることを痛感する.龍神の湯の石垣に生えているツチスグリの赤い実が酸っぱかった.

・秋元温泉(碇ヶ関村湯の沢,300円)
 弘前市街で道草を食っていたので,津軽湯の沢温泉に到着したのは午後4時をまわっていた.もっとも奥にある秋元温泉の混浴風呂は楕円形で,真中に仕切り板がはめられている(いちおう男女別ってこと?).白濁したお湯は熱くてしかも苦い.湯治のおばあさんから「からだにいいから飲みなさい」と勧められて「うげっ」となった.浸かるとしだいにひりひりしてくる.酸性硫黄泉だからか.

・湯の沢山荘(碇ヶ関村湯の沢,300円)
 何といっても浴室床の沈着堆積物の量がすごい.もともとは木の床なのに,茶褐色の沈着物が湯船から床まで岩のようにごつごつと厚く付いていて,その波模様は鍾乳洞の石灰堆積地形を思わせる.浴室には誰もいなかったのだが,湯面には湯の花?が膜のように浮いていた.浴室内外のムードはなかなかいい.湯は苦いだけでなくとてつもなく塩辛い.ここの湯船に長い時間浸かるのは私にはきついな.

・なりや温泉(碇ヶ関村湯の沢,宿泊8500円/二食付)
 数日前に事前に電話予約した際に,おかみさんから「宿泊手付金2000円/人をこれこれの口座に振り込んで〜」と言われました.「もう日にちがないのですが」と答えたところ,「あら,そうね.じゃ,信用しましょう!」とのご返事で無事に(笑)泊まれることになりました.二食つきの料金には6500/7500/8500円の3段階があり,料理がちがうとのこと.
 第2浴場がちょうど清掃時間だったので,第1浴場に向かう.天上の高い浴室は明るくて,湯船も大きい(銭湯みたい).少し黄色っぽい透明な湯(食塩泉)はやはり熱かった.
 いささか開放的な第1浴場に比べると,第2浴場はいわば「密室」.窓が開いているのに,特有のガス臭さが充満し,白濁した高温の湯(硫化水素泉)は第1浴場とはまったくの別物.湯船に浸かるときりきりと染み込んでくる感じがする.下北・大間からきたという湯治のおじいさんは,「秋元の湯は皮膚の弱い自分には強過ぎるが,ここの湯はちょうどいい」と言っていました.(もうつぶれてしまったが,ここの近くにあった相乗温泉がよかったなぁとも/古遠部温泉は何度か行こうとしたのだが,どうしても道がわからなかったとか)
 浴室が小さいので,おじいさん(混浴なのだがおばあさんには会わなかった)の話がいろいろと聞けるのが楽しい.それにしてもストロングな湯で,出たり入ったりしているうちにカミさんともどもぐったりしてしまった(快眠快眠).

●7月29日(日)
・なりや温泉[続き]
 朝4時に第2浴場の朝風呂.湯はやっぱり熱いのだが,昨日よりは慣れたかもしれない(膜のように白い湯の花が湯船に浮いていた).換気がよかったせいか,あるいは事前のガス抜きが効いているせいか,幸いこの浴場特有のガスに酔うこともなく(赤塚師からは「第2浴場ではガス酔いしないように気を付けること」と忠告されていたのだが),ゆっくりできた.長い時間,浸かったり上がったりを繰り返しているうちに,皮膚が「ぱりばり」してくる感覚がある.
 平賀町から湯治に来て10日目というおじいさんと湯船で話をする.自宅にも温泉を引いている(うらやましいこと)が,いつも同じ温泉に入っていても効き目がないとか.なりやに湯治に来て10年ほどになるが,自分にとってはなりやがもっともからだに合っているそうな.ガス抜きする前は浴室で気分が悪くなる人がよくいたとか.(ついでに,秋元温泉と湯の沢山荘は経営者が同じという話をうかがいました.また,岩木山の嶽温泉はとりわけ「お薦め」とも.渓流釣りで虻などに刺されても,そこに浸かれば一発だそうです.)

 湯の沢温泉の3軒の温泉にはそれぞれ湯治の固定客が付いているようで,行く先々で「ここが一番いい」という声を聞きました.試行錯誤の中できっと肌に合う温泉が決まってくるのでしょう.

 朝食をすませてすぐにチェックアウト.入れ違いにふとんや生活道具を脇に抱えたお年寄りが入ってくる.なりや温泉が「湯治の宿」であることをあらためて実感した.おかみさんと仲居さんに見送られて出発.その足で午前8時50分に碇ヶ関インターから東北道に入り,つくばの谷田部インターを出たのが午後3時50分.途中の休憩や昼食時間を除くと,実走時間は約6時間弱.

 津軽は意外に近いぞ.

どうもありがとうございました.