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【書名】生命の樹・花宇宙
【著者】杉浦康平
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/39cbd180e3e060100417?aid=&bibid=01913300&volno=0000
【刊行】2000年07月30日
【出版】NHK出版,東京
【頁数】269pp.
【価格】2,800円(本体価格)
【ISBN】4-14-080488-2

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生命の樹・花宇宙
杉浦康平

三中信宏(農林水産省農業環境技術研究所)

「生命の樹」:曼荼羅を支える宇宙軸として

 不思議な味わいのある本である。西アジアのイスラム文化圏からはじまり、中国から極東の日本にいたるまで、アジア地域に広く見られるさまざまな「生命の樹」の意匠を数多くのカラーやモノクロの図版を通してじっと見詰めていると、精神がしだいに痺れてくる気さえする。ケルト様式の細密な装飾模様(鶴岡真弓『ケルト/装飾的思考[http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/39cbd180e3e060100417?aid=&bibid=00961815&volno=0000]』)を見たときとまったく同じだ。
 生命の樹の四相−直立・うねり・渦巻き・絡み合い−がもたらすイメージが、アジア各地でさまざまな文化的・宗教的意味を背負ってきたことを読者は知る。とりわけ私の印象に残ったのは、インド仏教で宇宙を表現する須弥山は「生命の樹」の形をしており、その須弥山の山頂に現われる「曼荼羅」は生命の樹によって支えられているとの指摘である(第4章)。
 アイコンとしての「生命の樹」はきわめて多産であり、生物学・言語学・文献学に関連した「生命の樹」のイコノロジーとメタファーについては、私自身、数年前に西洋の科学史をたどってかなり詳しく調べたことがある(三中信宏『生物系統学』[http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/39cbd180e3e060100417?aid=&bibid=01478633&volno=0000]1997)。一方、本書はアジア圏における生命の樹のメタファーの働きを別の観点から切り込んでいる点で新鮮に感じられた。
 京都・祇園祭りの山鉾が実は「生命の樹」にほかならないという本書終盤の主張には目が覚めた。実に想像力をかき立てる本である。

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まえがき 4
はじめに:「生命の樹」「豊壌の樹」「宇宙樹」 14
第1章: 「生命の樹」の四つの樹相 22
 「立樹文様」。ゆらめきうねる「生命の樹」 24
 「カラムカリ」、直立する樹と聖獣たち 42
 渦巻く「ペイズリー文様」と、イスラムの「生命の樹」 60
 「扶桑」と「連理」、絡みあう「宇宙の樹」 70
 四つの樹相が林立する 78
第2章: 「生命の樹」と聖獣たち 82
 聖獣たちが意味するもの 84
 鵞鳥・蛇・猿・牛…、大地・陸上・天空の三世界を結びつける 94
 精靈のざわめき、樹液の流れ。「話す樹」の不思議 106
 絡みあう「生命の樹」、蛇の交尾に感応する 118
第3章: 「生命の樹」と鳥と蛇 130
 鳥と蛇、光明と暗黒、天の火と地の水を象徴する 132
 龍と鳳凰、渦巻き反転しあう対原理 148
 蛇と鳥をあしらう、聖なる造形 158
第4章: 「生命の樹」。豊壌と再生の宇宙軸 170
 神籬、心の御柱。中心を貫く宇宙軸 172
 ストゥーパ。壷と樹木、宇宙山と宇宙軸の造形 180
 玉虫厨子。宇宙樹が宇宙山「須弥山」となる 190
 アジアの蓮華。聖なる宇宙を象徴する 194
 グヌンガン。世界の中心の力を呼び醒ます 204
 祭礼の山車。宇宙山と生命樹の結びつき 210
 山の靈威。天上の花の賑わい 222
第5章: おわりに 236
 人が樹となり、花となる 238
あとがき 254
参考文献 260
図版出典 264
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