From: MINAKA Nobuhiro <minaka@affrc.go.jp>
To: biometry@ml.affrc.go.jp, evolve@ml.affrc.go.jp
Cc:
Subject: [biometry:2266] <Report>松本日記(その1)

BIOMETRY / EVOLVE reader 諸氏:

三中信宏(農環研← PPP from 信州大学・旭会館)です.

今年最後のお勤めということで,ここ信州大学に生物統計学の非常
勤講師としてやってきました.新宿発のスーパーあずさ9号で2時
間半の旅でしたが,さすがに信州,雪景色ですなあ.

車中では,いま評判になっている新刊『田辺元・野上弥生子往復書
簡』(岩波書店,2002年10月29日刊行)を読み進む.「君に依りて
慰めらるるわが心」(元)/「あんな歌をおよみになってはいけま
せん」(弥生子)――こりゃすごい本だ!(ともに65歳を越えてい
るとは信じられない).事前に『物語「京都学派」』(竹田篤司,
中公叢書,2001年)を読んでおいてよかった.BGMの Gary Burt
on〈Libertango〉がぴったり.哲学者と作家のラヴレターには Ast
or Piazzolla のタンゴがすごくマッチしていました.それにして
も,audio-technica のイヤフォン ATH-EM7 は直前に買っておいて
よかった.

今月は,本務地にたった7日しか顔を出さず,あとは旅から旅への
地方巡業(「八王子場所」に続く「松本場所」...)が続いていま
す.ですから,不良研究員と糾弾されても「ぐう」の音も出ない.
今年4回目の非常勤出講になります.先週,先々週と都立大学で生
物統計学の非常勤講義をしてきました.今週もその余勢で乗り切ろ
うと思っているのですが,なんせ今回もまた集中講義ですので,朝
9時から夕方4時過ぎまでひたすら統計三昧の日々がまる4日間続
きます.かの「統計研修」を独演会するようなもの.

JR松本駅には,今回のホストである信州大のA見さんが迎えに来
てくれた.まずは大学に直行.研究室を訪問したら,右も左も右巻
き左巻きのでんでん虫のお出迎え――さすがぁ.講義室とパソコン
実習室の機材をA見さんとチェック.

巡業先によってプレゼン機器の扱いが微妙にちがうので,「高座」
にもそれが少なからず影響する.「噺」の「場」が変わるというこ
とは,その「中身」も対応して変わるということ――同一の講義を
することはもともと不可能ということ.農水省の統計研修では,事
前にBGMを流したり,白檀香を薫きしめたりして,講義する会場
の【初期化】をするのですが,大学の場合はなかなかそうはいきま
せん.今回は講義室が固定されているので,【初期化】しやすいか
もしれない(きょうトライしてみよ).

チェックインした「旭会館」は大学構内にある宿泊施設ですが,さ
すがに今の時期の利用者はないみたいで(当然か),昨夜は独りだ
けの借り切り状態でした.食堂がついていないので,自炊.A見さ
んに教わって,大学近くのスーパー「アップルランド」に買い出し
に行く.県内の五一ワインをさし置いて,ボルドーの赤を買ってし
まったぼくは「非県民」(ごめん).きのこを炒めてガーリック・
ソースで和えてパスタにかけて,いっちょあがり.ミッシュブロー
トにオリーヴ・ペーストを添えて,ボルドーを少し.仕上げは持参
した Caol Ila のボトルを封切り(食前酒にすべきだったか).

夜は,書評予定本である P.W. Ewald (1994)『病原体進化論』(新
曜社,2002年11月20日)を読み進む.偶像破壊的な理詰めさが魅力
的ですね.訳文はちょっと...かな.でも,いい本だと思う.病原
体の進化を人為的(自然淘汰の観点から)に操作するのが「進化的
医療」というのは,なかなか挑戦的なスローガン.

都立大と同様に,今回の非常勤講義でも統計言語「R」を用いた演
習を試みます.プレゼンで「R」をどのように使いこなしていくか
は,ぼく自身がまだ試行錯誤の段階なので,いいアイデアがあった
ら教えてもらいたいです.とりあえず,持参したテキストは下記の
3冊:

著者 Peter Dalgaard 2002.
書名 "Introductory Statistics with R"
刊行 2002年
出版 Springer Verlag, New York
頁数 xvi+267 pp.
価格 EURO 29.95 (paperback)
ISBN 0-387-95475-9

これ↑は、今回の講義で私がテキストとして使っている本です。
「R」を横に立ち上げながら使える実習書として利用できます。
「R」の機能などひととおりのことはさらっと把握できます。

著者 W.N. Venables and B.D. Ripley
書名 Modern Applied Statistics with S (Fourth Edition)
刊行 2002年
出版 Springer Verlag, New York
頁数 xii+495 pp.
価格 EURO 74.95 (hardcover)
ISBN 0-387-95457-0

この↑本は,Sの定評ある教科書で,第3版はすでに翻訳されてい
ます(訳文に難ありとのこと).タイトルは「S」と銘打たれてい
ますが,中では「S専用」とか「Rでも可能」と付箋されているの
で,Rのテキストとして利用できます.複雑なデータ解析へのSや
Rの利用法が書かれているので,実践的に役立ちます.

著者 A. Krause and M. Olsen
書名 The Basics of S-Plus (Third Edition)
刊行 2002年
出版 Springer Verlag, New York
頁数 xx+419 pp.
価格 EURO 59.95 (paperback)
ISBN 0-387-95456-2

これ↑はSの入門書.Rについての章もあります.

---
さて,そろそろ「出勤」しないと,OHPの並べ替えとか,会場の
【初期化】とか,いろいろとやることあり.

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## 三中信宏 / MINAKA Nobuhiro ##
## minaka@affrc.go.jp ##
## Vita brevis; longa ars ##

From: MINAKA Nobuhiro <minaka@affrc.go.jp>
To: biometry@ml.affrc.go.jp, evolve@ml.affrc.go.jp
Subject: [biometry:2269] <Report>松本日記(その2)

BIOMETRY / EVOLVE reader 諸氏:

三中信宏(農環研← PPP from 信州大学・旭会館)です.

※ せっかくのイヴだというのに,なんでこーなるの?
※ (日頃の行ないがワルいねんという声も....くそー)

今日は,まる1日「高座」でした――話す・噺す・放す....

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午前の部(9:00〜11:30)
いつも通り,数式なしの「統計学概論」――科学的思考の認知的起
源からはじまり,インド哲学における「思議/不思議」の問題,
「思議」のツールとしての統計学,素朴統計学と統計的センスが誰
にも備わっていること(つまり"born statistician"であること),
分散比(F比)の心理的動機づけ,など.A見さんの話では,学部
生が70名ほど集まったらしいけど,どれくらい「染み込んだ」か,
気になる.

少し休憩をはさみ,Jean Geoffroy の新 CD〈バッハ:無伴奏チェ
ロ(マリンバ版)〉を流して,除霊を兼ね講義室を少しフォーマッ
トしなおす.般若心経ウォールペーパーが登場して,「大統計大曼
荼羅」の説明へ.現在用いられている統計学理論の多くが生物学に
ルーツをもつことを強調しつつ,今回の集中講義で説明するトピッ
クスをブラウズ.統計学が「数学ではない」ことをくり返し刷り込
む(これが初日のポイント).

いまどきの学部生の場合,数学にかぎらず,「教養」レベルはかぎ
りなくゼロに近いので,何がしかの基礎知識があると仮定して話を
進めると失敗する.最近非常勤に行った千葉大,都立大,そして信
州大のいずれもで,「概論」ではあっけにとられているようだ.科
学哲学,科学論,哲学――いずれに対しても免疫ができていないよ
うので洗脳のしがい?はあるのだけど,いつも「地べた」から積み
上げていくこと――これが教える側のモットー.もちろん,ぼくの
体験では,大学院生でも,有職研究員でもその点ではあまりちがい
はないんだけどね.

たとえば,正規分布・t分布・F分布の「関数形」をちらっと見せ
ただけで,多くの受講生が「即死」することは目に見えている.だ
からこそ指数関数やガンマ関数は「劇薬」であり,それゆえ教える
上では「取扱注意」に指定されているわけ.ただし,避けて通るわ
けにはいかないので,チラッと見せてグラフに逃げ込もうと画策し
ています.

---
午後の部(13:00〜16:30)
統計言語「R」について簡単なイントロを説明した上で,端末室に
全員で移動してパソコン実習.各自 zip ディスクにRをダウンロ
ードした上で,起動する.大学によってパソコン実習をどのように
進めるかはかなり違っている.先週の都立大学では全員にノートパ
ソコンを用意し,Rをインストールした上で講義室でデモ&実習を
行なった.今回の信州大では,端末室のデスクトップマシンの zip
にインストールするというやり方だった.後者の場合,インターネ
ットにつながっているので,Rのリソースを利用した実習が可能に
なる.

昨年の都立大学では UNIX での SAS を用いて実習をしたのだが,
その後,大学側のコンピュータ利用環境が変わったため,急遽Rに
変更となった.信州大学でも当初の予定では UNIX での SAS 実習
を想定していたのだが,これまた直前に SAS が利用できないこと
が判明し,Rに変更された.

個人的に思うのですが,SAS での統計学実習はすごく「不自由」で
すね.利用環境の制約が窮屈だというのがもっとも大きな理由です
が,それ以外に,「教育的」に見てもフリーソフトであるRの利用
価値は思った以上に大きい気がしてきました.スタンドアローンで
使えるという点でも身軽だし.農水省の統計研修もそろそろRを本
格的に取り入れてはどうかと考えます.

今日の実習では,Rの起動画面でのいくつかのデモンストレーショ
ンと簡単なコマンド入力,そして外部データファイルの作成と読み
こみというもっとも基本となる項目を体験してもらいました.Rに
は,S-plus のようなGUIはなく,素朴なコマンドラインでの操
作ですが,慣れれば違和感はないと思われました.

パソコンの得意な学生は自分でどんどん問題を見つけては,習熟度
を上げていきます.大人数でのパソコン実習だったのですが,アシ
スタントのみなさんのおかげでスムーズに進めることができました.

---
帰りがけに本屋によったら,明日の教材として使えそうな新書
を2冊ゲット:

入不二基義 『時間は実在するか』
(講談社現代新書1638,2002年12月20日刊行)
ヨセフ・アガシ 『科学の大発見はなぜ生まれたか』
(講談社ブルーバックスB1395,2002年12月20日刊行)

アガシ本の朝日新聞広告では「Y・アガシ」となっていたぞ!
(著者名をまちがえるなってば)

ついでに,こんな本にもついふらふらと手が:

秋庭俊 『帝都東京・隠された地下網の秘密』
(洋泉社,2002年12月10日刊行)

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イヴの独夜はこんなメニューでした(旭会館の炊事場は大活躍!):

・ ほうれん草入り生ソーセージ
・ ボルドー赤ワイン(昨日の残り)
・ アンチョビーのスパゲティ
・ シュトーレン
・ グレープフルーツ

BGM?――もちろん,J・S・バッハの〈クリスマス・オラトリ
オ〉で決まりですな.ほかに何がある?

さてと,Caol Ila が待っている.

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## 三中信宏 / MINAKA Nobuhiro ##
## minaka@affrc.go.jp ##
## Vita brevis; longa ars ##

From: MINAKA Nobuhiro <minaka@affrc.go.jp>
To: biometry@ml.affrc.go.jp, evolve@ml.affrc.go.jp
Subject: [biometry:2273] <Report>松本日記(その3)

BIOMETRY / EVOLVE reader 諸氏:

三中信宏(農環研← PPP from なお信州大学・旭会館)です.

※ イヴだろーが,クリスマスだろーが,へっ,けっ.
※ (宿舎で独り「悪態」ついてどうする...)

10分話すのも,1日噺すのも,ま,大して変わりないでしょうな,
と余裕をくれてみたりして.二日目終了で〜す.

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午前の部(9:00〜12:00)
朝早めに講義室に行き,クリスマス・オラトリオにて部屋の初期化.
なんちゅうてもクリスマスやしぃ(けっこうこだわったりする).

朝イチの講義はアタマが本調子ではない(らしい)学生さんが多そ
うだったので,ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』を題材にして,
中世哲学がいかに現代科学にとって大切か,唯名論vs実在論の「普
遍論争」が現代統計学とどのように関わっているのかをとうとうと
ブチあげる.中世思想による世界制覇を狙う某J機関の筑波細胞を
率いるワタシとしては,これくらいの宣伝は当然の責務と心得てい
る.

もちろん,民族は「ない」し,【種】も「ない」し,といつもの持
論を展開するのも当然の成り行きである.「ない」ものは「ない」.

認知的常識と科学的論理との衝突が実際にあることを指摘した上で,
心理的実念論者たる人間がいかにして,確信犯的唯名論者として生
きられるのかという論点につなげる.「心理的本質主義」と対置さ
れる「個体主義的唯名論」を統計学がサポートしている点を,ダー
ウィンやゴルトンらに言及しつつ説明.「確率論的革命」について
も,触れるべきだったか.

続いて,素朴統計学に関わる推論認知の問題に触れつつ,統計学に
おけるタイプ1過誤とタイプ2過誤の形而上学的意味を論じる.統
計学的な「仮説検定」は,心理的実念論の暴走を遮る「制御棒」と
して機能しているとぼくは思う.検定のロジックについてはさまざ
まな「教育的道筋」があるかと思うが,検定の「憑き物落とし」の
側面はもっと強調されていいと思う...というか,強調したんです
けど.

休憩後,実験計画における分散分析のテーマに入る.素朴統計学的
センスは誰もが生得的に持ち合わせているわけだが,分散比(F
値)の直感的理解を受講生に確認させた上で,データの「バラツ
キ」の定量化を「地べたから」積み上げる.偏差・平方和・平均平
方(分散)の連なりを述べた上で,完全無作為化法にもとづくレイ
アウトの分散分析のアウトラインを提示した.処理分散/誤差分散
の「数値F比」が,われわれが直感的に把握している「認知F比」
と等価であることを示し,F検定のもつ直感性をアピール.

ここで,ランチ・ブレーク.

---
午後の部(13:30〜16:30)
分散分析に関わるデータの「構造模型」の話題.今回の集中講義で
初めて「数式らしい数式」を出してしまった(わ,だいぶ死んだみ
たい――合唱,ちゃう,合掌).正規分布をはじめt,χ^2,F分
布の密度関数を見せてしもたもんやから,瞬間的に凍りついたらし
い.あわてて,Rでそれぞれの密度関数や確率分布関数などのグラ
フを見せて,心臓マッサージを施す.

救命措置に午後2時半過ぎまでかけた後,パソコン室に移動.前日
のR演習の続きとして,確率分布の性質(関数のグラフ,パラメー
ターの影響,分布関数とその逆関数など)について受講生に実習し
てもらう.ぼくはその間を縫って,受講生のメールアドレスのリス
トをもとにして,農水省の計算センターに臨時のMLを開設.同様
のMLは都立大学での講義の際にも立ち上げたが,データファイル
の配布,ソースプログラムの共有,受講生からの質問への回答,課
題レポートの窓口,その他追加情報の配布などにとっても役立つ.
ML立ち上げと同時に,明日のR演習で利用するデータファイルを
全受講生にメール配信.

ML立ち上げにけっこう時間を喰ってしまった.演習室に戻ったら,
人また人ですごい人口密度――「相転移」してしまいそう(さあ,
みんなで羽ばたきましょうって?).データファイルをメール送信
したことを受講生に周知し,ダウンロードを指示.ああ時間がもう
ありまへん.ふえ〜,あとは明日やー.

---
宿舎に帰ってきてから,Rを用いた計算統計学の「教育的プログラ
ム」が作れないかと考えた.もちろん,Rのライブラリーにある
「boot」を用いれば,たとえば:

> boot(data, function(x, i)mean(x[i]), R=1000)

のように一発でリサンプリングできてしまうわけやけど,関数機能
が〈缶詰〉だと受講生にはイマイチ「染み込み度」が不足しますよ
ね.,ここんとこを何とかしようと考えている.

こんなふうな〈ビン詰め〉にすればいいのかな:

> m <- 100 # ブーツストラップ反復を m=100 として実行
> replicate100 <- numeric(m)
> for (i in 1:m) replicate100[i] <- mean(sample(data, m, replace=T))
> sd(replicate100)

最終日あたりに試してみよう.

実際の計算の上で「効率的」なコマンドであっても,それが必ずし
も「教育的」であるとはかぎらないと思うのです.

山口のN澤さんからの新着情報によると,CRANサイトの「R news」
(http://cran.r-project.org/doc/Rnews/)の最新号には「boot」
のいい解説記事が載っているとか.情報とっても感謝>N澤さん.
ただし,前の日記で紹介した『ISwR』の翻訳者はぼくではないんで
すよ.(訳されつつあることは大歓迎!)

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## 三中信宏 / MINAKA Nobuhiro ##
## minaka@affrc.go.jp ##
## Vita brevis; longa ars ##

From: MINAKA Nobuhiro <minaka@affrc.go.jp>
To: biometry@ml.affrc.go.jp, evolve@ml.affrc.go.jp
Subject: [biometry:2275] <Report>松本日記(その4)

BIOMETRY / EVOLVE reader 諸氏:

三中信宏(農環研← PPP from まだ信州大学・旭会館)です.

※ 今日...いや昨日はハードな1日であった(詠嘆調)

さて,集中講義三日目はひたすらしゃべっていたような気がする.

集中講義は明らかに【独演会】なので,高座を勤める身としては
「場づくり」にけっこうな気を使う.とりわけ,今回のように天上
の高い大きな部屋では,始まる前の「初期化」を欠かすことができ
ない.農水省の統計研修ならば,お香を焚いたり,曼荼羅を上映し
たり,BGMを流すといった事前フォーマットのための「大技」が
いろいろ使えるのだが,今回のような非常勤講義では,行ってみな
いとわからないことが多い.幸い今回の講義室はCDがかけられる
ので,毎朝の初期化はラクだ.

---
午前の部(9:00〜12:00)
Jean Geoffroy のマリンバ版バッハ無伴奏チェロ組曲で部屋をフォ
ーマット.

講義では,昨日に引き続き,実験計画の乱塊法の説明に入る.デー
タの構造模型を出しつつ,偏差および平方和の処理効果・ブロック
効果・誤差効果への分割について説明する.とくに,誤差に関する
仮定(N(0,σ^2)に iid であること)に関する等分散性の検定
(バートレット検定)を説明する.等分散性が満たされないときに
タイプI過誤が増幅することを直感的に理解させるための図を描く.

実際の分散分析の手順は,Rの「aov」コマンドを用いて説明した.
1要因乱塊法の構造模型がそのまま aov の中に明記されているこ
とを指摘し,分散分析表の結果を説明する.

休憩をはさんで,引き続き処理平均間の多重比較に話を進める.正
規分布変量の線形結合がやはり正規分布をするという性質を説明し
た後,標本平均の分布,平均の差の分布の正規性を示したのちに,
t分布を導入.母分散の代わりに誤差平均平方を代入した検定統計
量がt分布をすることから,処理平均のペアの差のt検定が可能で
あることを説明.

さらに,ペアの比較を繰り返すことで過誤の危険性が増幅する「多
重比較」の問題点を指摘し,危険率の事前コントロールのための1
つの方法として「Bonferroni補正」があることを説明する.ここで,
Rを用いた多重比較の手順と結果の解釈に進む.

---
午後の部(13:00〜16:00)
昼休みに,明日の演習に用いるブーツストラップ資料を受講生全員
にメール配信する.最後の課題レポートもMLを通じて答案を集め
ることに決定.

午前に続き,2要因の乱塊法に進む.因子間の「交互作用」が主効
果では説明できない非線形効果であること,心理的に緊張状態をも
たらす非線形要素を「交互作用」と命名することにより,はじめて
安心できると指摘.再びRを用いて,分散分析の手順を説明.その
後,全員でパソコン室に移動し,実習.TAから,ダウンロードし
たデータファイルの拡張子を隠す設定にしてあったため(Windows
環境),データがRに読みこめずトラブった受講生が多かったと聞
く.「門前」にたどり着く以前に「足払い」を喰わされたようなも
の.腐れわーどとか呪われゑくせるだけでなく,クソゐんどうも負
けず劣らず罪深いですよ>K保さん.

---
セミナー(16:30〜18:30)
統計学ではなく,系統学のセミナー.A見さんには「1時間くらい
で」と言われていたのに,2時間もしゃべった.例によって,めく
るめくOHPの嵐.寿司の系統樹に寿司職人の系図まで登場したも
んなあ.推論形式としてのアブダクションを説明し,当然のごとく
『薔薇の名前』を掲げ,バスカヴィルのウィリアムもといオッカム
のウィリアムを登場させ,最節約原理の中世哲学起源に触れた上で,
なぜ「単純」な説明をわれわれが求めるのかを感じ取らせる.やっ
ぱり中世哲学なのさ.続いて,最節約原理の現代的問題状況のひと
つとして,モデル選択問題に進む.最尤法の拡張として,パラメー
ター数と予測確度とのトレードオフを赤池情報量基準によって数値
化することを「涙なし(成功したかな?)」に説明し,「オッカム
の剃刀」の現代版としてAICが位置づけられ,最節約法と最尤法
はAICにおいて収束するだろうという結論に.

セミナー後に,あらまあのサイン会に突入.あれだけサインしたの
は初めてですなー.

午後7時頃から別室で懇親会が――人が目まぐるしく入れ替わって
いたぞお.さすが,あるものすべて喰い尽くされましたなあ.なん
ともワイルドな....ぼくの高座のウケがよかったとのことでホッ
とする.「どうして三中さんは話が途切れずに続けられるのか?」
――そりゃあね,予備校で5年間いろんな若者を教えてきたからよ.
客のツカミは最初が肝心なのさ.ぼくの似顔絵を描いてくれた某君
に感謝(授業聴いてたかい?).

日が変わる直前に解散(したけど,受講生のみなさん,ちゃんと帰
ったんでしょうなあ?).

早く寝りゃいいものを,こうしてメール書いてる私に明日は(いや
今日は)もはやないって? たはは.ちゃんと起きられるやろか?
朝9時に姿見せへんかったら,休講やでえ(自習してや).

「松本日記」をMLに流し始めてから気づいたのだった.EVOLVE /
BIOMETRY には信州大学理学部にも会員がいたことを(きゃー,読
まないでぇ).と言いつつ,好き放題書いている私はただの確信犯.
おほほほ.

今日は集中講義の最終日なのであった.

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## 三中信宏 / MINAKA Nobuhiro ##
## minaka@affrc.go.jp ##
## Vita brevis; longa ars ##

From: MINAKA Nobuhiro <minaka@affrc.go.jp>
To: biometry@ml.affrc.go.jp, evolve@ml.affrc.go.jp
Subject: [biometry:2276] <Report>松本日記(その5/最終回)

BIOMETRY / EVOLVE reader 諸氏:

三中信宏(農環研← PPP from やっと自宅)です.

※ すでに「回想モード」に入っています.

最終日は午前中のみの講義.前夜の「酒池肉林」がたたって,
朝の目覚めがずれ込んだ.荷物をまとめて旭会館を引き払う.

---
午前の部(9:00〜12:00)
はじめに,実験計画の応用編として「分割区法(split-plot)」と
「細分区法(strip-plot)」の解説をした.いずれも多因子の実験
なのだが,研究の目的によって,実験区の無作為化配置のやり方を
操作し,因子の解析精度をコントロールできる例として,これら二
つのレイアウトを説明する.データの構造模型が複雑になるため,
解析的な数式展開の詳細には触れず,Rによる解析手順を示すこと
により,これまでの実験計画法ならびに分散分析の手順との類似性
と差異性を示した.

分散分析を「線形モデル」の一例として述べることにより,「一般
化線形モデル」への橋渡しをしようとつねづね思っている.そう思
いつつ,たいてい時間がなくなってしまうのだが.

---
短い休憩をはさんで,最後にノンパラメトリック統計学の「野望」
の一端を知ってもらうために,ブーツストラップによる誤差評価と
経験的密度関数の構築をRによるデモを中心にして説明する.それ
までの講義ではパラメトリック統計学の「正規分布帝国」の中だけ
で息をしてきたのだが,ノンパラメトリック統計学の空気も肌で感
じる必要があるだろう.

数列や正規乱数をデータとして,標本平均の誤差をブーツストラッ
プによる元データからの再抽出を実際にRの sample コマンドを用
いて行ない,得られたブーツストラップ反復からの推定値のバラツ
キが経験的に評価できることを受講生に知ってもらうことが最大の
目的.

ブーツストラップやジャックナイフによって,たとえパラメトリッ
クな確率分布がわからなくても,コンピューターの中で統計量のバ
ラツキを示すヒストグラムが描けることを強調し,続いて density
コマンドを用いてヒストグラムから経験的密度関数の形状の推定も
可能であることを説明.これをもって,ちょうど時間となりました.

もう少し時間があったらパラメトリック・ブーツストラップやモン
テカルロについても付け足したかったのですがね.なんせ時間がね.

---
...というわけで,松本での「年の瀬興行」は,へろへろになりつ
つもなんとか終了.みなさんのご愛読感謝いたします.

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## 三中信宏 / MINAKA Nobuhiro ##
## minaka@affrc.go.jp ##
## Vita brevis; longa ars ##

From: MINAKA Nobuhiro <minaka@affrc.go.jp>
To: evolve@ml.affrc.go.jp, biometry@ml.affrc.go.jp
Cc:
Subject: [biometry:2278] <Report>松本日記(番外編)

BIOMETRY / EVOLVE reader 諸氏:

三中信宏(農環研← PPP from 自宅)です.

※ 年の瀬というのにいろいろ「追われて」います(涙).

先日の信州大学での集中講義の最後に,受講生にアンケート調査を
しました.非常勤講義についてはこのような調査はしないらしいの
ですが,幸い同大学の「自己点検・評価委員会」が作成したアンケ
ート用紙を利用して,下記の調査をすることができました.

学部3年生を主として2〜4年にまたがる受講生の学年分布だと,
ぼくの噺に対してどのような反応をしてくれるのか気になっていた
ので,アンケートを取れたのは幸いでした.

下記は先ほど信州大学の受講生にメールで報告したものの転載です.

原票はまだ分析できていませんので,まずは集計結果のみお知らせ
します.生物統計学分野の講義はさまざまな大学で開講されている
ようですが,受講生への「浸透度」を自分でチェックさせてみて,
教師側への注文に耳を傾けるというのは,なかなかおもしろい.

「R」実習はやっぱり評判いいみたい.ただし,どのような実習の
仕方をするかについては再考の余地あり.ぼくの繰り出すアヤシイ
話題の連射にもみなさんよく耐えてくれました(もっとブーイング
が出るかと思ったら,意外に少なかった...).字のヘタさだけは
ねえ,いかんともし難いですなあ.

--- fwd msg ---
Date: Sun, 29 Dec 2002 22:24:36 +0900
From: MINAKA Nobuhiro <minaka@affrc.go.jp>
To: room40@ml.affrc.go.jp
Subject: [room40:16] <All> アンケート集計結果

信州大学理学部・生物統計学受講生のみなさん:

三中信宏です.年の瀬を感じさせる日々ですねえ.

先日の集中講義最終日に書いていただいたアンケート結果を下記に
集計いたしました.みなさんのご協力を感謝するとともに,結果を
ご報告いたします.

三中信宏:「生物統計学」

「学生による授業評価」アンケート[信州大学自己点検・評価委員会]

※2002年12月27日実施:アンケート集計総数48枚(無記名形式)

Q0: アンケートを出した受講生の理学部在籍学年
2年:12名
3年:23名
4年: 7名
院・他:6名

【質問項目】
Q1: この授業を受講した理由について,最も該当するものを一つ選んで下さい:
1. 必修課目であるため
2. シラバスから,授業内容に関心や興味をもったため
3. 先輩や友人から興味のある授業だと勧められたため
4. 容易に単位を修得できると思ったため
5. 何となく
6. 無記入
●結果:1/25/14/1/3/4

【注】この集計では各選択肢ごとの票数を順に「1/2/3/4/5/6」で表示した.

ここからの設問には,次の番号で回答用紙にマークしてください
1. 強くそう思う
2. そう思う
2. どちらともいえない
4. そう思わない
5. 全くそう思わない
6. 該当しない または わからない

Q2: 講義時間内は授業に集中し,熱心に取り組みましたか
●結果:14/24/4/5/1/0

Q3: 授業時間以外に,予習・復習や授業に関連する取り組みを十分に行いましたか
●結果:2/9/15/13/9/0

Q4: この講義に対する自分の取り組みから考えて,自分はこの講義の方法や内容に
ついて評価する資格があると思いますか
●結果:8/26/10/2/2/0

Q5: この授業の内容を振り返って,シラバスは的確にその内容を表現していましたか
●結果:9/17/10/0/0/12

Q6: 授業は何を目的としているのか(達成目標)を,授業の中で明確に理解できま
したか
●結果:21/20/6/1/0/0

Q7: 授業の目的を達成するために,実際の授業は十分なものでしたか
●結果:19/22/4/2/0/1

Q8: 授業をわかりやすくするための教官の工夫は感じられましたか
●結果:31/16/0/0/0/1

Q9: 教官による板書の文字や資料などの呈示は,わかりやすいものでしたか
●結果:17/25/4/1/0/1

Q10: 教官の話は,明瞭で学生を引きつけるものだと感じましたか
●結果:27/16/3/1/0/1

Q11: 教官の授業に対する熱意を感じましたか
●結果:30/17/1/0/0/0

Q12: セメスター(半期)を通して,熱心な教育指導が行われましたか
●結果:19/8/15/0/0/16

Q13: 授業内容は一方的な伝達ではなく,自分自身で考えさせられることが多く
ありましたか
●結果:10/16/14/5/1/2

Q14: 教官は,学生の参加(質問,発言など)を促しましたか
●結果:2/14/16/11/4/1

Q15: この授業では他の参加者の意見や考えを知る機会がありましたか
●結果:5/10/18/10/4/1

Q16: この授業は大学の講義にふさわしい雰囲気で行われましたか
●結果:14/27/6/1/0/0

Q17: 全体として授業内容を理解することができましたか
●結果:10/19/14/3/2/0

Q18: 新たな知的世界に対する興味を触発されましたか
●結果:15/26/4/3/0/0

Q19: これからの学業生活または日常生活に役立つ知識や技能が身についたと思い
ますか
●結果:15/23/5/4/1/0

Q20: 自分の専門に役立つ知識や技能が身についたと思いますか
●結果:16/24/6/1/0/1

Q21: 学問や研究の世界を深く知り,知的関心を広げることができましたか
●結果:16/20/8/3/0/1

Q22: 大学生として学ぶべき知識や技能が身についたと思いますか
●結果:14/21/9/3/0/1

Q23: 知的な教養が身についたと思いますか
●結果:10/28/7/2/0/1

Q24: このセメスターを振り返って,授業の目的は達成されたと思いますか
●結果:11/19/9/2/1/6

Q25: この授業を振り返り総合的に考えて,この授業を他の人に勧めたいと思いま
すか
●結果:21/19/5/1/0/2

Q26: この授業で改善すべき点があれば,具体的にどのように改善してほしいか,
自由に書いてください[順不同で列挙]

・演習では実際に何か自分のデータを持ち込んでもらって,それを
Rで処理してもらう事を一度でもやってもらった方が,実際的演
習としてはよかったのではないでしょうか.元データの実験形式
は問題ですが,すべて完全無作為化法を使ったと「仮定して」,
とにかく自分のデータをプロットさせるとか....
・パソコン実習室での演習はつらい.講義をやった大会議室で先生
のPC画面をプロジェクターで映しながら,自分たちのPCで演
習を行なうというシステムにはできないものか.
・少々板書が見にくかった.
・スクリーンに映したものが暗くて見えづらかった.
・手書きの資料のペンが太く,少々読みにくかった.
・OHPを書き取る時間が短かったので説明が十分に聞き取れなか
った.
・速い.ノートがうつせない.あと,パソコンの方がわからなかっ
た.
・話のネタがかたよりすぎていて,ついていきたくないです.
・無駄な話の時間が多かったと思う.大事なことだけを凝縮して伝
えてほしかった.
・関係ない話は短くして,統計に関する話をもっとゆっくり長くし
てほしい.
・もっとたくさんのことを教えてほしい.
・12月下旬ではなく,もう少し早い時期に行ってほしい.できれば
前期.


Q27: この授業でよかったことがあれば,簡潔に書いてください.[順不同で列挙]

・数理統計学を「学問」ではなく「Tool」として利用するスタンス
は実際的でとてもよいです.あとは,自分でToolとして使う試み
を各人がするかどうかということで....
・なんか今まで難しそうでとっつきにくそうな統計が身近に感じた.
詳しい内容はさっぱりだったけど,大まかな原理がわかってよか
った.もう少し大変な時期になったら,また信大に来て僕らを助
けてほしい...なんて.
・できるだけかみくだき,簡潔に説明してくださったこと.
・わかりやすく,先生の熱意を感じた.
・教官のこの分野に対しての理解度が非常に高く,わかりやすい説
明をしていたこと.
・たくさんの本を紹介してもらえてよかった.統計以外のことにも
興味が湧いた.
・先生がおもしろかった.
・統計の話をしてるときは素敵でした.
・話が非常に分かりやすく,楽しく聞くことができました.
・とにかく楽しかった.Rの演習は統計の理解に貢献し,自分で応
用もできるので非常によかった.来年もぜひ来てほしい.
・実用に耐え得る統計言語「R」を用いた演習がよかった.来年か
らの研究に使えるかもしれないので.


アンケートの原票の入力も現在進めているところです.年明けにも,
元データをみなさんに公開するとともに,「R」による統計解析の
手順をお知らせしたいと思います.

この種のアンケート調査は統計分析の事例研究としてたいへん身近
で貴重なものですので,せっかくの機会を利用したいと思っていま
す.アンケート項目間の相関関係とか学年年次と回答傾向との関係
など,統計学的な関心は尽きません.

ご指摘のあった点については,今後の講義上の改善点として気を付
けたいと思います.

取り急ぎ,ご報告まで.みなさん,良いお年をお迎えください.
--- end of msg ---

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## 三中信宏 / MINAKA Nobuhiro ##
## minaka@affrc.go.jp ##
## Vita brevis; longa ars ##

追記)今回の松本での全講義はビデオに録画されている.関心(あるいはコワイもの見たさ)のある方は浅見崇比呂さん(<asami99@gipac.shinshu-u.ac.jp>)までお問い合わせを.