<Books> D.L. Medin & S. Atran (1999) "Folkbiology" (MIT Press)
EVOLVE reader 諸氏:

三中信宏(農環研← PPP from 高崎)です。

1年以上前に紹介したまま([6257])、途中放棄していた論文集が再び「消化」されはじめました:

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【書名】Folk Biology
【編者】Douglas L. Medin and Scott Atran (eds.) 1999.
【刊行】1999年
【出版】The MIT Press (A Bradford Book), Massachusetts
【頁数】x+504 pp.
【価格】US$ 32.50
【ISBN】0-262-63192-x (pbk)
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前にアナウンスしてからすぐ読みはじめたのですが、“folk”というのは、どこか遠いところに住んでいる部族のことではなく、われわれ「自身」のことだということが序章に書かれていました:

people's everyday knowledge of the biological world - folkbiology
(p.1)

つまみ食い的に読んで途中放棄してしまったので、この機会に読破しておこうと思いました。

下記の目次は再送になりますが、頁数を付けました。

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【目次】
Contributors vii
1. Introduction (Douglas L. Medin and Scott Atran) 1
2. Ethno-ornithology of the Ketengban people, Indonesian New Guinea
(Jared Diamond and K. David Bishop) 17
3. Size as limiting the recognition of biodiversity in folkbiological
classifications: one of four factors governing the cultural
recognition of biological taxa (Eugene Hunn) 47
4. How a folkbotanical system can be both natural and comprehensive:
one Maya indian's vie of the plant world (Brent Berlin) 71
5. Models of subsistence and ethnobiological knowledge: between
extraction and cultivation in Southeeast Asia (Roy Ellen) 91
6. Itzaj Maya folkbiological taxonomy: cognitive universals and cultural
particulars (Scott Atran) 119
7. Inductive reasoning in folkbiological thought (John D. Coley,
Douglas L. Medin, Julia Beth Proffitt, Elizabeth Lynch and
Scott Atran) 205
8. The dubbing ceremony revisited: object naming and categorization in
infancy and early childhood (Sandra R. Waxman) 233
9. Mechanism and explanation in the development of biological thought:
the case of disease (Frank C. Keil, Daniel T. Levin, Bethany A.
Richman, and Grant Gutheil) 285
10. A developmental perspective on informal biology (Giyoo Hatano and
Kayoko Inagaki) 321
11. Mechanical causality in children's "follbiology" (Terry Kit-fong Au
and Laura F. Romo) 355
12. How biological is essentialism? (Susan A. Gelman and Lawrence A.
Hirschfeld) 403
13. Natural kinds and supraorganismal individuals
(Micahel T. Ghiselin) 447
14. Are whales fish? (John Dupre) 461
15. Interdisciplinary dissonance (David L. Hull) 477
Index 501
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<Review> D.L. Medin & S. Atran (1999) "Folkbiology", MIT Press (1/2)
EVOLVE reader 諸氏:

三中信宏(農環研← PPP from しつこく高崎)です。

[7915]の論文集のだいたい半分くらいまで「消化」が進みました。

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【書名】Folk Biology
【編者】Douglas L. Medin and Scott Atran (eds.)
【刊行】1999年
【出版】The MIT Press (A Bradford Book), Massachusetts
【頁数】x+504 pp.
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人間の「生物界に関する日常的な知識」(p.1)のあり方を論じる民俗生物学(folkbioilogy)は、もともと認識人類学(cognitive anthropology)が対象としてきた世界各地の民族的分類(ethnoclassification)−[7908],[7909]そして[7918]−の通文化的比較を出発点として発展してきました。その後、認識人類学が認知科学への傾斜を強めるとともに、認知心理学や発達心理学の側面からの研究も増えてきました。

本論文集では、民俗生物学をめぐるさまざまなテーマ−民俗分類学(folk taxonomy)・カテゴリー化・推論・帰納など−をいくつかの視点から照らすことにより、問題点を浮かび上がらせようとします。

序章では、民俗生物学的な研究の動向を概観し、解かれるべき問題点を指摘します。ヒトが日常的に接してきたローカルな生物的環境がヒトの認知的性向を形成してきたのだから、ヒトによる生物学的認知の傾向がどの程度「普遍的」であるのかを知るには、民俗生物学の知見が不可欠だろうと著者は言います(pp.1-2)。認知心理学者は「普遍性」が重要だとしきりに口にするものの、実際には普遍性を単に仮定しているだけで、普遍な認知性向の存在を経験的に検証しようとする態度がこれまで乏しかった;しかし、民俗分類学からは認知的普遍性を検証する枠組みが提供されるだろうと著者は考えます(p.5)。一方、人類学者は民族生物学的研究はインフォーマントの認知心理を考慮していないことがよくある;しかし、認知心理学によってこの弱点を補強することができるだろうと著者は主張します(p.7)。

したがって、民俗生物学の認知科学(the cognitive sciecne of folkbiology)を実践することにより、従来の認知科学と人類学との相互補完ができるのではないかと期待されます(p.8)。

民俗生物学の認知科学にとって、いくつかの理論的問題が浮上してきます(pp.8ff.)。
1)民俗生物学的カテゴリーは認識されるのかそれとも構築されるのか?
 民俗分類カテゴリーの実体については実在派(intellectualist)と効用派(utilitarian)との間でこれまで議論が絶えませんでしたが、著者らはその中道的スタンスを進もうとします。
2)民俗生物学的カテゴリーに基づく推論は類似性ベースかそれとも理論ベースか?
 カテゴリーの共通性から素朴な因果推論をする場合、類似性ベースの推論がまずはじめにあると考えられます(p.10)。
3)民俗生物学は科学的生物学の素朴版なのか?
 民俗生物学への科学理論の影響がどの程度あるのかという問題は、たとえば民俗分類タクソンが科学的分類タクソンとどの程度一致するのかというケースに現われます。もし両者が等しくないならば科学的分類と民俗分類とは知識の獲得において同格に異なる役割を果たすと言えるでしょう(p.12)。

第2章は、『銃・病原菌・鉄』の著者である Jared Diamond が共著者となっている章で、彼のホームグラウンドだったニューギニア高地における民俗鳥類分類が論じられます。著者らは、民俗種が科学的分類での種と一致するのは、種が実在するからであると主張しています(pp.17, 41)が、これは、同じニューギニアの民俗鳥類分類に対する Ernst Mayr の前からの主張と同一ですね。

第3章は、民俗分類の通文化的「不」一致を文化的変動の観点から解釈しようとします。民俗分類と科学的分類とが一致するのは個々の文化を越えた「知覚的特徴」の共通性に起因し、一方、両者が一致しないのは「文化的特徴」が原因であると考えられてきました(pp.47-48)。著者はこの図式を改良し、表現型知覚的でも文化的でもないさらに二つの特徴を組み込もうとします。一つは「生態的特徴」であり、もう一つは「サイズ特徴」です。生態的特徴とは日常生活の中でヒトとどれくらい頻繁に「遭遇」するかを意味し、サイズ特徴とは、ヒトの眼に見える程度のサイズをもつかどうかを意味します。

私が関心をもったのは後者のサイズ特徴の方です。著者が言うには、人の目に「見えない」サイズの生物は民俗生物多様性の観点からは「存在していない」と同義です(p.49)。生物の平均サイズは「科学的種認識比」(SSRR = Scientific Species Recognition Ratio)と有意な正の相関をもつことを著者は示しました。ここで SSRR とは「No. of folkspecies / No. of scientific species」と定義されます。この尺度がサイズと正の相関を持つということは、「民俗レベルでは生物のサイズが分類の細かさを左右する最重要の要因である」ことを意味します(p.63)。

要するに、「目に見えないものは、もともと分類されない」ということ。

第4章で、Brent Berlin は高地マヤ族の民俗植物分類(→[7918]の書評参照)をデータとして、民俗分類の形式的体系に関する一般化を論じます。著者は、民俗分類体系の包括性(comprehensiveness)と自然性(naturalness)に焦点を当てます。マヤ Tzeltral 族のインフォーマントである Alonso Mendez Ton の現地分類を詳細にたどることにより、民俗分類の自然性はだいじょうぶだが、包括性については制約を付ける必要があると述べます(p.83)。

第5章では、東南アジアの熱帯雨林地域における農耕社会/採集狩猟社会を比較して、民俗分類に関する両者の差異は言われているほど大きくはないと指摘します(p.96)。むしろ、両者は相互移行的であり、ある地域で生存し続けるための動的なシステムを構成していたと考えるべきであると著者は言います(p.97)。また、生物の二名命名法は農耕文化の中で生じてきたとも指摘します(p.102)。

本書でもっとも長い第6章で、Scott Atran は、グァテマラの熱帯雨林に住んでいるマヤ Itzaj 族の民俗分類のデータを踏まえて、認知的普遍性と文化的個別性について論じます。特に、帰納的推論のパターンについて詳細に調査しています。民俗分類のカテゴリーレベル(Life-form→Folkgenera→Folkspecies→Folkvarfiety)の間での帰納的推論−あるカテゴリーで成立する性質が別ランクのカテゴリーでも成立するかどうかの推論−を Itzaj とミシガン大学学生について実験したところ、Folkgenera のランクを境にして、帰納的推論の性質が有意に異なることを見いだしました(p.147)。

さらに、Itzaj の哺乳類・蛇類・鳥類の民俗分類と進化分類とを比較したところ、蛇類の分類体系のみ、両分類の相関が有意ではないことがわかりました(p.161)。著者は、蛇については生死に関わる「有毒/無毒」という分類規準が Itzaj では優先したために差が生じたと解釈します。

Itzaj の民俗分類には認知的普遍性と文化的個別性がともに具現しています。そして、民俗分類は科学分類と同じく一般的な体系(general-purpose system)であり、また認知に伴うコスト(c)とベネフィット(b)という拮抗する目的(p.183)の妥協の産物であるという点でも共通しています(pp.186-187)。このb−cを著者は“human relevance”と呼び、個々の環境における relevance-based な推論モデルがより現実的であると主張します(p.187)。

第7章は、前章でも取り上げられた帰納的推論について、さらに議論します。民俗分類学はカテゴリーの構造についてはこれまで詳しく調べてきたのですが、認知されたカテゴリーの機能については深く調べられてはいません。そこで、既知から未知への帰納的推論(一般化)が民俗カテゴリーの間でどのように行なわれているかを調べようというのが動機です。前章と同様に、Itzaj 族とミシガンの学生とを対象にして実験をしました。その結果、folk-genera が帰納的推論の上でもっとも重要な役割を果たしていることが示されました(p.211)。

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【前半の目次】
1. Introduction (Douglas L. Medin and Scott Atran) 1
2. Ethno-ornithology of the Ketengban people, Indonesian New Guinea
(Jared Diamond and K. David Bishop) 17
3. Size as limiting the recognition of biodiversity in folkbiological
classifications: one of four factors governing the cultural
recognition of biological taxa (Eugene Hunn) 47
4. How a folkbotanical system can be both natural and comprehensive:
one Maya indian's vie of the plant world (Brent Berlin) 71
5. Models of subsistence and ethnobiological knowledge: between
extraction and cultivation in Southeeast Asia (Roy Ellen) 91
6. Itzaj Maya folkbiological taxonomy: cognitive universals and cultural
particulars (Scott Atran) 119
7. Inductive reasoning in folkbiological thought (John D. Coley,
Douglas L. Medin, Julia Beth Proffitt, Elizabeth Lynch and
Scott Atran) 205
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<Review> D.L. Medin & S. Atran (1999) "Folkbiology", MIT Press (2/2)
EVOLVE reader 諸氏:

三中信宏(農環研)です。

やっと後半部分も咀嚼&消化されました。

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【書名】Folk Biology
【編者】Douglas L. Medin and Scott Atran (eds.)
【刊行】1999年
【出版】The MIT Press (A Bradford Book), Massachusetts
【頁数】x+504 pp.
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【後半の目次】
8. The dubbing ceremony revisited: object naming and categorization in
infancy and early childhood (Sandra R. Waxman) 233
9. Mechanism and explanation in the development of biological thought:
the case of disease (Frank C. Keil, Daniel T. Levin, Bethany A.
Richman, and Grant Gutheil) 285
10. A developmental perspective on informal biology (Giyoo Hatano and
Kayoko Inagaki) 321
11. Mechanical causality in children's "follbiology" (Terry Kit-fong Au
and Laura F. Romo) 355
12. How biological is essentialism? (Susan A. Gelman and Lawrence A.
Hirschfeld) 403
13. Natural kinds and supraorganismal individuals
(Micahel T. Ghiselin) 447
14. Are whales fish? (John Dupre) 461
15. Interdisciplinary dissonance (David L. Hull) 477
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