【書名】ウィトゲンシュタインのウィーン
【著者】スティーヴン・E・トゥールミン,アラン・S・ジャニク
【訳者】藤村龍雄
【刊行】2001年03月10日
【出版】平凡社,東京
【叢書】平凡社ライブラリー386
【頁数】510 pp.
【価格】1,600円(本体価格)
【ISBN】4-582-76386-3
【原書】S.E. Toulmin & A.S. Janik 1973. Wittgenstein's Vienna.
Simon & Schuster.
【備考】初版はTBSブリタニカより刊行(1978年)

【感想】※Copyright 2003 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

世紀末ウィーンに戻されたウィトゲンシュタイン

意外や意外.推理小説のようにおもしろい.確かに,主役は分析哲学の祖ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインであり,彼は主著『論理哲学論考』をつねに携えている.舞台設定はハプスブルク朝の世紀末ウィーンである.タイトルを見ただけだと,何か小難しい「テツガク」の話が500ページにわたって書かれているのではと勘繰ってしまうかもしれない.

しかし,著者(トゥールミンとジャニク)の書いた脚本はそうではない.むしろ,後にイギリスにわたり,英語圏で「馴化される」(p.30)前のウィトゲンシュタイン思想をそのルーツであるウィーンに連れ戻し,そして彼がどのようにして自らの思想を育んできたのかを再考するためにもともとの「問題設定」(p.50)を見直そうというのが本書の目標である.

多くの読者が先入観としてもっているであろうウィトゲンシュタインの「姿」は,本書ではがらがらと崩れていく.『論理哲学論考』は論理学ではなく,むしろ倫理学の論文と当時のウィーンの知的社会では理解されていたそうだ.そして,その頃のウィトゲンシュタインに深い影響を与えたカール・クラウス(p.151),後のウィトゲンシュタイン解釈に大きな影響を残したウィーン学団(p.239)など当時の思想家たちの動きが本書を通して次第にみえてくる.

20世紀初頭のウィーンの社会的・文化的背景を詳細にたどりながら,ウィトゲンシュタイン思想の再解釈を迫る本書は,たとえ彼の哲学を知らなかったとしても,一種の推理小説のように読むことができる.後年ケンブリッジで築き上げられた哲学的「偶像」は,「故国」に帰ったとたんにどこかに消えてしまったのだから.足元がぐらぐらする気がしてきた.

初版翻訳から20年あまり過ぎての復刻を大いに歓迎したい.まずは手に取ろう.


【目次】
まえがき 5
凡例 11
第1章 序論――問題と方法 19
第2章 ハプスブルク朝ウィーン――逆説の都 51
第3章 言語と社会――カール・クラウスとウィーン最後の日々 107
第4章 文化と批判――社会批評と芸術表現の限界 149
第5章 言語,倫理および表現 199
第6章 『論考』再考――倫理の証文 275
第7章 人間ウィトゲンシュタインと第二の思想 331
第8章 専門家気質と文化――現代の自殺 391
第9章 補遺――孤立の言語 429
訳者あとがき 450
平凡社ライブラリー版・訳者あとがき 456
原注 [462-479]
参考文献 [480-494]
索引 [495-510]