【書名】ウェブログの心理学
【著者】山下清美・川浦康至・川上善郎・三浦麻子
【刊行】2005年3月25日
【出版】NTT出版,東京
【頁数】viii+210 pp.
【定価】2,200円(本体価格)
【ISBN】4-7571-0149-X
【備考】『ウェブログの心理学』刊行記念・特別記事
Academic Resource Guide [ARG-211] 2005年03月13日発行


【書評】※Copyright 2005 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

「書き続ける」ことに意義がある

前評判が高い本だったこともあり,200ページあまりをするすると一気に読了した.ぼく自身がウェブログを始めてまだ2ヶ月あまりという初心者なので,この形式の表現手段がどのような経緯で歴史的に成立してきたのか,そしてこれほど広く普及するようになったのかという点に興味をもった.本書の第2章に概観されているウェブサイト,ウェブログ,そしてソーシャル・ネットワーキングのたどってきた道のり,そして付録の年表はたいへん参考になる.

本書は全体を通じて「社会心理学」の観点に立って,ウェブサイトやウェブログにまつわるさまざまな現象を分析していこうとする.類書にはないこの切り口が本書の大きな魅力だ.

第1章では,個人がどのような動機づけでホームページをもとうとするのかについて論じる.著者は,情報呈示・自己表現・コミュニケーション動機という三つの属性をそこに見いだす.国際的な比較をしたとき,日本のウェブサイトの多くが「情報よりは自己重視が多い」(p. 18)という特性が際立って強いことが指摘される.ウェブ日記をもつサイトの割合が日本では24%もあるのに対し,アメリカや中国ではそれぞれ8%,4%という低率であることに驚かされる.日本のウェブサイト所有者の多くは「自分を語る」ことに重きを置いているということなのだろう.

第3章と第4章は本書の核心部分である.第3章では,「なぜウェブログを書くのか」という問いに対して,ウェブ日記の心理学的な分析を通して答えようとする.著者はウェブ日記のもつ属性の正準判別分析を通して,「自己表出(自己効用)」の軸と「他者関係(他者効用)」の軸を発見した(pp. 85-86).そして,この二つの正準軸の張る空間の中で,ウェブ日記の4類型カテゴリー(p. 83)−−“事実”を述べる「備忘録」と「日誌」そして“心情”を語る「(狭義の)日記」と「公開日記」−−がうまく分かれることを示す.さらにこの章では,重回帰分析を用いて,ウェブログを書き続ける心理学的要因に関するモデルのテストを行なっている(pp. 88-92).この部分については,続く第4章において,共分散構造分析を用いた因果モデルの構築とテストという方向に発展させられる.

この章で特筆すべきことは,「日記」のもともともっていた「自己表現のためのメディア」である特性が,ウェブログという新しい環境のもとで,あらためて開花しつつあるのではないかという指摘だ.日記は明治中期に成立した読書文化としての「黙読」習慣の成立を前提とするという記述(p. 95)は確かに納得できる.ウェブ日記からウェブログへの変遷は「日記」が個人の中でもつ重みを増す方向に働きかけたということなのだろう.“心情”を語る日記についてのこのような分析は,他方で“事実”を述べる日記についても可能なのだろうか.そのような疑問は次の第4章の主題である.

第4章では,個人がウェブログを「書き続ける」(単に「書き始める」だけではなく)心理的動機を,第3章が分析した〈人間的側面〉に加えて,〈情報的側面〉にも注目して,共分散構造分析に基づく心理的潜在要因の因果モデルを構築し,それをテストしている(pp. 113-120).その結果,たいへんおもしろいことがわかった.“事実”に関する情報開示を主眼とする〈データベース型ウェブログ〉と個人的な“心情”を語る〈日記型ウェブログ〉とでは,「書き続ける」心理的動機づけが異なっていると著者は結論する.すなわち,両者のタイプは「欲求→効用→満足」という基本的な心理プロセスに関しては差がないが,〈日記型ウェブログ〉は,情報の提供や獲得が動機づけにつながっていないのに対し,〈データベース型ウェブログ〉では自己表現の満足度が動機づけに結びつかないという大きなちがいが見られる(pp. 117-118の図4-3と4-4).今年の1月9日に立ち上げたばかりの,ぼくの〈leeswijzer〉は,本書の因果構造モデルで言うと,明らかに“日記型ウェブログ”ではなく,“データベース型ウェブログ”ということになるだろう.なるほどね.

最後の終章では,ウェブログのこれからを述べる.ウェブログのタイプ別を問わず「重要なポイントは,それらが継続して蓄積されていくこと」(p. 159),要するに「ただ書き続けること」(p. 136)という本書の中心的メッセージは確かに受け取りましたよ.ウェブログをやっているそこのアナタもぜひ本書を読みましょうね.

三中信宏(17/March/2005)


【目次】

はじめに i

第1章 インターネット時代のコミュニケーション 1
 コミュニケーションの公開化と個人化
 インターネットのコミュニケーション的特質
 ホームページをもつということ
 ホームページの読み手であること

第2章 コミュニティに見るウェブログの歴史 27
 ウェブログ草創期はいつをさすのか
 登録型リンク集コミュニティに見るウェブログ草創期とその発展
 アンテナ系コミュニティに見るブログ・ツール文化の原型
 レンタル・サービス系コミュニティの挑戦
 日本発ブログ・ツール系系コミュニティが目指すもの
 ウェブログ・コミュニティの融合と発展に向けて

第3章 ウェブログの社会心理学 69
 ウェブ日記の動機と効用
 ウェブ日記スパイラル
 自己表現とコミュニケーション

第4章 ウェブログの現在と未来 101
 ウェブログの現在−−拡大するウェブログ・コミュニティ
 ウェブログに関する心理学的研究
 ウェブログがインターネット社会にもたらしたもの
 コミュニケーション・ツールからソーシャル・ネットワーキングへ
 ウェブログ・ブームはどこへ行くのか

終章 ウェブログ・個人・社会 139

附録
 ウェブログの歩き方−ウェブログを楽しく『読む』『書く』『つながる』ためのアドバイス 164
 インターネット・ウェブログ関連年表 178
 ウェブログに関する論文・記事リスト [209-202]

著者紹介 210